JP6723001B2 - 腐食センサおよび腐食センサの製造方法 - Google Patents

腐食センサおよび腐食センサの製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、鋼材の腐食環境を検出する技術に関する。
コンクリート構造物中の鋼材は、コンクリートがアルカリ性環境を保持していることで鋼材表面に不動態皮膜を形成し、腐食から保護されている。しかしながら、例えば、空気中の二酸化炭素、下水道施設における硫酸、あるいは塩化物イオンなどの腐食因子がコンクリート中に侵入すると、この不動態皮膜が破壊され、コンクリート中にある水と酸素によって鋼材の腐食が開始する。また、鉄橋やプラントなどの鋼材を用いた構造物では、鋼材に錆が生じないように保護塗料が用いられている。
コンクリート構造物の鋼材が腐食すると、鋼材の体積膨張が生じ、その膨張圧でコンクリートにひび割れが生じ、ひび割れを通じてさらに腐食因子の侵入と外部からの水と酸素の供給によって鋼材の腐食は加速的に進行し、ついにはコンクリート構造物としての機能が保持できなくなる。また、鋼橋において鋼材が腐食すると、鋼材の体積膨張により保護塗料に浮きや剥離が生じ、防錆効果が失われる。
したがって、鋼材の腐食が開始する前に腐食因子の侵入や鋼材の腐食開始を検知し、例えば、表面被覆などの対策で腐食因子や水と酸素のさらなる侵入を阻止して鋼材を腐食から守り、構造物の予防的な保全を図ることが重要となる。この問題に対し、従来から種々の腐食診断方法が提案されている。例えば、コア抜きを行なって腐食因子を分析する方法や、非破壊的に鋼材の自然電位や分極抵抗を測定する手法、化学センサやガスセンサにより腐食因子を検出する方法、鉄製の細線を模擬腐食部材としてコンクリートに埋設し、細線が断線した時に腐食を検出する手法などが知られている。
これらの腐食診断手法のうち、細線の断線によって腐食を検知する方法は、(a)予めセンサを埋設することでコア抜きなどコンクリートを傷めることがない、(b)コンクリート表面と鋼材との間に細線を深さに応じて数本設置することで表面からの腐食因子の侵入の時間依存性をモニタリングでき維持管理計画の立案を容易とする、(c)直接的に鉄の腐食を捉えるので、腐食因子だけでなく水や酸素の供給状態をも含めた腐食の可能性を検知できる、(d)電気抵抗の変化を捉えるので、きわめて低消費電力での検出が可能で長期モニタリングに適する、というメリットがあり、細線切断を検出することによる腐食診断方法が、種々提案されている(例えば、特許文献1〜3)。また、感度が高く、設計自由度を大きくするために、鉄箔材を用いた腐食センサも提案されている(特許文献4)。
特開平8−094557号公報 特開平8−233896号公報 特許第3205291号 特開2012−145330号公報
このような腐食センサにおいて、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材で形成された検知部を有する腐食センサがある(図15)。鉄箔は、センサとしての安定性を保つために純鉄を使用している。純鉄は、品質としては安定しているが、細長い形状を延伸して大きな形状を形成することが難しく、曲げ、熱収縮の長さ変化で切れてしまうこともあり、鉄箔のエッチングの精度が限定される。また、エッチング残渣で検知が腐食する場合もある。このように、従来の鉄箔センサは、鉄箔材を連続的に細長く、かつつづら折り状に形成するため、製造が難しく、複雑な形状を形成することが難しかった。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、腐食環境を把握することができ、高精度で、低コストかつ安定した製造を可能とする腐食センサおよび腐食センサの製造方法を提供することを目的とする。
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、導電性を有しない材料で板状に成形された基材と、前記基材上に離散的に設けられ、任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部と、いずれか複数の前記鉄箔部を電気的に接続するに導線部と、を備え、前記鉄箔部が腐食することによって、電気的特性が変化することを特徴とする。
このように、導電性を有しない材料で板状に成形された基材と、基材上に離散的に設けられ、任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部と、いずれか複数の鉄箔部を電気的に接続する導線部と、を備えるので、鉄箔部および導線部の形状を自由に設計することができ、複雑な形状や大きな形状の腐食センサを作製することが可能となる。その結果、腐食センサの設計自由度が向上し、計測したい箇所に柔軟に腐食センサを取り付けることができ、さらにセンサ自体の多様化、高度化を図ることができる。
(2)また、本発明の腐食センサにおいて、前記基材は、誘電体であり、前記鉄箔部が設けられている面とは逆の面に耐腐食性を有する金属で形成された対向電極を備えることを特徴とする。
このように、誘電体と対向電極を有するので、静電容量等の電気特性の測定が可能となり、腐食環境の進行状況も把握できるようになる。
(3)また、本発明の腐食センサにおいて、前記導線部は、前記鉄箔部を直列に接続することを特徴とする。
このように、導線部は、鉄箔部を直列に接続するので、腐食を検知する箇所に応じた複雑な形状にすることが可能となり、高精度な計測を行なうことができる。
(4)また、本発明の腐食センサにおいて、前記導線部は、前記鉄箔部を並列に接続することを特徴とする。
このように、導線部は、鉄箔部を並列に接続するので、腐食を検知する箇所に応じた複雑な形状にすることが可能となり、高精度な計測を行なうことができる。特に、静電容量や誘電正接を検出するのに都合が良い。また、直列に接続した鉄箔部と、並列に接続した鉄箔部とを組み合わせて使うことにより、さらに計測の精度を向上させることができる。
(5)また、本発明の腐食センサは、いずれかの前記鉄箔部の腐食に伴って、前記導線部が断線することで、電気抵抗値が変化することを特徴とする。
このように、いずれかの鉄箔部の腐食に伴って、導線部が断線することで、電気抵抗値が変化するので、腐食因子に関する検知感度の向上を図ることができる。
(6)また、本発明の腐食センサは、いずれかの前記鉄箔部が腐食することで面積が減少し、またはいずれかの前記鉄箔部の腐食に伴って、前記導線部が断線することによって、静電容量値または誘電正接値が変化することを特徴とする。
このように、いずれかの鉄箔部が腐食することで面積が減少し、またはいずれかの鉄箔部の腐食に伴って、導線部が断線することによって、静電容量値または誘電正接値が変化するので、腐食因子に関する検知感度の向上を図ることができる。さらに、静電容量値および誘電正接値は、鉄箔部の面積に比例するため、通電状態が維持される限り、長期間測定できる。
(7)また、本発明の腐食センサは、前記導線部が、鉄よりも貴な金属であることを特徴とする。
このように、導線部が鉄よりも貴な金属であるので、鉄箔部の周辺にカソード用部材が配置されることになり、鉄箔部の腐食を進行させることができ、鋼材などを劣化させる塩素イオンなどの劣化因子の浸透状況をより早く把握することが可能となる。
(8)また、本発明の腐食センサにおいて、前記各鉄箔部は、前記基材上に規則的に配列され、前記各鉄箔部は隣接する複数の鉄箔部と前記導線部で接続されることを特徴とする。
このように、各鉄箔部は、基材上に規則的に配列され、導線部は、隣接する各鉄箔部を接続するので、製造が容易で、大量生産が可能となり、さらに品質確保、コスト削減を図ることができる。
(9)また、本発明の腐食センサの製造方法は、鋼材の腐食環境を検出する腐食センサの製造方法であって、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材と導電性を有しない材料で板状に成形された基材とを一体化させる工程と、前記鉄箔材に対してエッチングを行なって、前記基材上に任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部を作製する工程と、いずれか複数の前記鉄箔部上に、導線の配線パターンのレジスト膜を形成する工程と、前記レジスト膜が形成された各鉄箔部に鉄あるいは鉄よりも貴な金属で乾式めっきを施して、導線部を作製する工程と、前記乾式めっき後のレジスト膜を剥離する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする。
このように、鉄を圧延することにより作製した鉄箔材と導電性を有しない材料で板状に成形された基材とを一体化させ、鉄箔材に対してエッチングを行なって、基材上に任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部を作製し、いずれか複数の鉄箔部上に、導線の配線パターンのレジスト膜を形成し、レジスト膜が形成された各鉄箔部に鉄あるいは鉄よりも貴な金属で乾式めっきを施して、導線部を作製し、乾式めっき後のレジスト膜を剥離するので、鉄箔部およびカソード金属部の形状を自由に設計することができ、複雑な形状や大きな形状の腐食センサを作製することが可能となる。その結果、腐食センサの設計自由度が向上し、計測したい箇所に柔軟に腐食センサを取り付けることができ、さらにセンサ自体の多様化、高度化を図ることができる。
本発明によれば、鉄箔部および導線部の形状を自由に設計することができ、複雑な形状や大きな形状の腐食センサを作製することが可能となる。その結果、腐食センサの設計自由度が向上し、計測したい箇所に柔軟に腐食センサを取り付けることができ、さらにセンサ自体の多様化、高度化を図ることができる。
第1の実施形態に係る腐食センサの概要図である。 第1の実施形態における導線部が断線した状態を示した図である。 本発明である腐食センサの製造方法を示すフローチャートである。 エッチング後の鉄箔シートの一例を示した図である。 鉄箔シートにレジスト膜が付された状態を示した図である。 第2の実施形態に係る腐食センサの概要図である。 第2の実施形態における導線部が断線した状態を示した図である。 本性能評価で使用した静電容量型腐食センサの概略構成を示す平面図である。 静電容量型腐食センサの断面図である。 本性能評価で使用した静電容量型腐食センサを塩水浸漬した際の測定周波数による各サイクルにおける静電容量値の違いを示す図である。 試験体の概要を示す図である。 モルタル試験体に埋設するセンサの概要を示す図である。 各サイクルで計測した誘電正接の結果を示す図である。 各サイクルで計測した静電容量の結果を示す図である。 従来の腐食センサの概要図である。
本発明者らは、鉄を圧延して作製した鉄箔材を有する腐食センサにおいて、鉄箔材を複雑な形状に加工することが容易でないことにより、センサの形状や計測箇所が限られてしまうことに着目し、圧延した鉄から複数の鉄箔部を作製し、各鉄箔部を鉄又は鉄より貴な金属で接続することにより、複雑な形状の腐食センサを作製することができ、かつ、腐食生成物によって腐食環境を検知することができることを見出し、本発明をするに至った。
すなわち、本発明は、鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、導電性を有しない材料で板状に成形された基材と、前記基材上に離散的に設けられ、任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部と、いずれか複数の前記鉄箔部を電気的に接続する導線部と、を備え、前記鉄箔部が腐食することによって、電気的特性が変化することを特徴とする。
これにより、本発明者らは、鉄箔部および導線部の形状を自由に設計することを可能とし、複雑な形状や大きな形状の腐食センサを作製することを可能とした。その結果、腐食センサの設計自由度を向上させ、計測したい箇所に柔軟に腐食センサを取り付けることを可能とし、さらにセンサ自体の多様化、高度化を図ることを可能とした。以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。
[第1の実施形態]
[腐食センサの構成]
図1は、第1の実施形態に係る腐食センサの概要図である。本実施形態に係る腐食センサ1は、鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、導電性を有しない材料で板状に成形された基材11と、基材上に任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部13と、いずれか複数の鉄箔部を電気的に接続する導線部15を備える。なお、図1では、各鉄箔部の平面形状が矩形(正方形)である場合を示す。ただし、本発明はこれに限定されない。
次に、第1の実施形態の腐食センサの腐食検知方法について説明する。本実施形態の腐食センサは、鉄箔部が腐食することによって導線部の電気的特性が変化することを利用した抵抗式検知原理を用いるのが効果的である。本実施形態の腐食センサ1は、導電性を有しない材料(例えば、PET、ポリイミド材等の樹脂フィルム等)で板状に成形された基材11上に、圧延された鉄を、エッチングによりドット状に形状した複数の鉄箔部13が設けられている。そして、隣接する鉄箔部13は、鉄又は鉄より貴な金属(例えば、金、白金、パラジウム等)によって、直列に接続されている。導線部15は、すべてが1枚の金属で繋がっている必要はなく、各鉄箔部13間が個々に金属で繋げられていても良い。つまり、計測したい鉄箔部13間が導線部15で導通された状態となっていれば良い。図1では、導線部15は、上段部、中段部、下段部の3段階に波型状のパターンが配置されている。このように、導線部の形状や配置する位置を自由に決めることができるため、異なる場所の腐食環境に適用することができる。また、測定点17(以下、測定端子ともいう)を任意の位置に設け、断線箇所を特定することもできる。さらに、腐食センサ自体を任意の形状に裁断し、単体のセンサとしても使用することができる。
また、図1に示すような配置とした場合、上段の線の集合、中断の線の集合、下段の線の集合を形成することで、複数の箇所の腐食環境を計測できる。計測用の端子のベースとなる金属を線の集合の境界付近に配置して計測端子を接続し、各々の集合領域の線間抵抗を計測することで、それぞれの集合の抵抗を計測して腐食領域を特定できる。
腐食センサの製造方法の詳細については後述するが、本実施形態に係る腐食センサは、鉄箔のドット(本実施形態では、正方形のドット)をエッチングにより形成し、腐食センサの表面に任意の貴金属のレジストパターンを施工し、施工されたレジストパターンに鉄又は鉄より貴な金属を乾式めっきすることにより作製される。
このように、鉄箔部を定型化することにより、エッチングしやすく、エッチング後に、任意の寸法に切断して個別のセンサとして使用することも可能となる。また、定型化した鉄箔部上に一定形状の配線パターンを施工することができるため、製造が容易で、大量生産が可能となり、さらに品質確保、コスト削減を図ることができる。個々の鉄箔部は小さいので、曲げ、熱収縮の長さ変化で切れてしまうことがない。レジストパターンを変更するだけで、様々な配線形状を施工することができる他、乾式めっきによって、金属でパターン形成ができるため、今まで困難であった複雑な形状の腐食センサの作製が実現できるなど、センサの設計自由度の向上を図ることができる。さらに、複雑な形状の腐食センサの作製が実現できるため、センサ自体の多様化、高度化にもつながり、大きな効果が期待できる。
鋼材の腐食環境を検出するセンサとして、より好適な鉄箔の厚さは、3μm以上、0.1mm未満である。鉄箔の厚さが0.1mm以上である場合には、エッチングに時間を要し、エッチングの間に鉄が酸化されることで膨張が生じてレジスト膜を損傷させ、一様な線幅が確保できない場合がある。一方、鉄箔の厚さは3μm以上であることが好ましい。3μmより薄いとコンクリート打設時に物理的な強度が不足して断線してしまう場合がある。物理的強度と腐食検知の感度を考慮すると、5μm以上25μm以下とすることがより好ましい。また、鉄箔のドットの寸法に関しては、0.1mm四方未満の場合には、エッチング中に溶解して寸法制御が難しい場合もあり、一方で、下地材との付着力が弱く、製造またはコンクリートの打設で損傷を受けやすくなる。エッチングやコンクリート打設、フィルムによる保護の観点からは0.1mm以上が望ましく、さらに寸法が大きい場合には導線部の腐食断線による感度が低下する場合があるため、寸法として5.0mm四方以下であることが好ましい。
ここで、導線部は、鉄又は鉄より貴な金属(貴金属)を用いる。貴金属は、自然電位が貴であり、鉄との電位差が大きく、鉄の腐食環境で安定であれば、特に限定されるものではない。本実施形態では、例えば、金、白金、またはパラジウムに代表される貴金属、あるいはその合金が好ましい。また、導線部は、金または白金であれば、厚さは10nm〜10μmの範囲とする。厚さが10nmより薄い場合は、ピンホールなどが生じる可能性があり、均一に被膜することが難しく、好ましくない。厚さが10μmよりも厚い場合は、屈曲性が低下するとともに、曲げ剥離が生じる可能性があり、コストも高くなるため、好ましくない。
ここで、鉄箔の陽極部と陰極部が明確に区別できるような電池が形成されたものをマクロセルといい、両極間を流れる電流を腐食電流(マクロセル電流)という。健全なコンクリートは、強アルカリ性(pH=12〜13)を示し、内部の鋼材表面には厚さ2〜6nmの緻密な不動態被膜が形成され、鋼材は腐食から保護されている。また、鉄橋やプラントなどの鋼材を用いた構造物では、保護塗料により腐食から保護されている。しかし、この保護層が破壊されると、鋼材がイオン化する反応(酸化反応:アノード反応)が進行し、健全な鋼材表面では酸素が還元される反応(還元反応:カソード反応)が進行する。これらの反応は同時に進行し、アノード部は卑な電位、カソード部は貴な電位となる電位差が生じ、同時にアノード部からカソード部へと電流(腐食電流)が流れ鋼材の腐食が進行する。このような原理を利用し、金属で形成された導線部を好ましくは貴金属とし、カソード用部材を兼ねてもよい。その結果、鉄箔部の周辺にカソード用部材が必ず配置されるので、鉄箔部の腐食を進行させることができ、鋼材などを劣化させる塩素イオンなどの劣化因子の浸透状況をより早く把握することが可能となる。また、貴金属は屈曲性や延性が大きいので、曲げによる剥離や断線が生じにくい。
図2は、第1の実施形態における導線部15が断線した状態を示した図である。導線部15は、各鉄箔部13の一部を被覆し一部を露出させるように、基材11および各鉄箔部13上に形成されている。鉄箔部13の鉄は、腐食すると約2から4倍の体積膨張が起こり、腐食生成物を形成する。鉄箔部13と基材11との境界部では腐食が生じやすく、鉄箔部13が腐食すると、腐食生成物の膨張応力により、鉄箔部13の表面の導線部15に亀裂が生じて断線が起こる。その結果、導通が消失し、抵抗が増大するため、電気信号に明確な変化が表われ、腐食を検知することができる。
[腐食センサの製造方法]
図3は、本発明である腐食センサの製造方法を示すフローチャートである。まず、鉄箔シートを作製する。
鉄を圧延し、鉄箔材を作製する(ステップS1)。次に、作製した鉄箔材と基材とを貼り合わせる。後述する静電容量・誘電正接式で腐食検知を行なう場合には、鉄箔材を貼り合わせた面とは逆の基材の面に対向電極も貼り合わせる(ステップS2)。
次に、基材に貼り合わせた鉄箔材に、形成したい鉄箔部パターンのレジスト膜を形成する。すなわち、鉄箔上に形成したい鉄箔部パターンのレジスト膜を、フォトレジスト印刷やスクリーン印刷等によって、形成する(ステップS3)。
次にエッチングを行なう(ステップS4)。ここでは、レジスト印刷した鉄箔シートを、エッチング槽にてエッチングする。これにより、レジスト膜が施されていない露出した鉄箔は、エッチング液(例えば、塩化第2鉄溶液)によって溶解する。エッチング終了後、鉄箔シートをエッチング槽から取り出して、付着液を洗浄する。
次に、レジスト膜を溶剤等によって除去し、複数の鉄箔部を有する鉄箔シートが完成する(ステップS5)。ここで、エッチングによって形成される複数の鉄箔部の形状、大きさ、配列は、前述の通り、自由に決めることができる。図4は、エッチング後の鉄箔シートの一例を示した図である。図4に示すような鉄箔シート2は、同一の大きさを有する正方形の鉄箔部13が規則的に配置され、定型であるため、エッチングしやすく、また、エッチング後に所望の寸法に切断して使用することができる。
次に、任意の配線パターンを作製する(ステップS6)。作製した配線パターンを、鉄箔シート2上に設定し、図5に示すように、形成したいパターン以外の箇所をレジスト膜21で被覆する(ステップS7)。レジストは、フォトレジスト印刷やスクリーン印刷など、手法は問わない。また、任意の配線パターンをフォトレジスト印刷する際に、各鉄箔部の端部を覆うように、レジスト膜を形成する。
次に、貴金属による配線パターン形成を行なう。レジスト膜が付された鉄箔シートに、配線を形成する(ステップS8)。配線を形成する方法は、金属を鉄箔シートに密着させることにより形成できる。密着させる方法として、例えば、スパッタリングや蒸着などの乾式めっき法が好ましい。乾式めっきを行なった後、レジスト膜21を剥離する(ステップS9)。レジスト膜21を剥離すると、鉄箔シート2上に金属の配線が形成された腐食センサができる(ステップS10)。配線を形成する金属を貴金属にした場合は、これまでのカソード施工の工程を省略することができる。
以上説明したように、本実施形態によれば、鉄箔部および導線部の形状を自由に設計することができ、複雑な形状や大きな形状の腐食センサを作製することが可能となる。その結果、高精度な計測を行なうことができる。
[第2の実施形態]
[腐食センサの構成]
第2の実施形態の腐食センサの腐食検知方法について説明する。第2の実施形態では、静電容量または誘電正接を検出する方式を採用する。まず、検知部の静電容量Cは、各鉄箔部の総面積S、基材の厚さdとの間に、以下の関係がある。
C=Q/V=εS/d[F] ・・・(1)
ここで、εは、誘電率である。
本実施形態では、静電容量を用いた場合、検知部である鉄箔部が断線したり、あるいは腐食因子によって腐食していくと、鉄箔部の総面積が減少し、それに伴って静電容量が減少する。静電容量の減少具合を捉えることによって、鉄箔部の面積の減り具合、ひいては腐食環境を把握することが可能となる。本実施形態では、静電容量以外にも鉄箔部が腐食することで面積が減少し、または鉄箔部の腐食に伴って導線部が断線することによって変化する電気特性を(例えば、リアクタンス、等価並列抵抗)を用いることができる。
図6は、第2の実施形態に係る腐食センサの概要図である。本実施形態の腐食センサ10は、導電性を有しない材料として誘電体(例えば、PET、ポリイミド材等の樹脂フィルム等)で板状に成形された基材11上に、圧延された鉄をエッチングによりドット状に形状した複数の鉄箔部13が、設けられている。図6に示すように、ドットの形状は円形である。そして、基材11上に設けられた複数の鉄箔部13は、鉄又は鉄より貴な金属(例えば、金、白金、パラジウム等)である金属(導線部15)によって、並列に接続されている。また、図示しないが、鉄箔部13が設けられている面とは基材11を挟んで逆の面には、対向電極が設置されており、鉄箔部13に電気的に接続された第1の通電部と、対向電極に電気的に接続された第2の通電部とを構成するリード線が設けられている。腐食センサを鉄筋や鋼材そのものに直接設置する場合、すなわち基材11の鉄箔部を有しない方の面を鉄筋や鋼材に貼り付ける場合は、鉄筋や鋼材自身を対向電極としても良い。
本実施形態に係る腐食センサは、第1の実施形態と同様、鉄箔のドットをエッチングにより形成し、腐食センサの表面に任意の貴金属のレジストパターンを施工し、施工されたレジストパターンに鉄または鉄より貴な貴金属をスパッタリングすることにより作製される。スパッタリングによって形成された鉄または鉄より貴な金属の配線のいずれか一箇所にリード線を接続する。鉄箔が腐食し、断面欠損するか、あるいはドット単位の4方向の配線が断線すれば、通電しない鉄箔部13が発生し、通電可能な鉄箔部の総面積が減少することにより静電容量が変化し、腐食因子の到達と腐食の進行度を検知することができる。リード線の断線防止のため、リード線周りは、防錆処理を施しておくと良い。
このように、鉄箔部を定型化することにより、エッチングしやすく、エッチング後に、任意の寸法に切断して個別のセンサとして使用することも可能となる。また、定型化した鉄箔部上に一定形状の配線パターンを施工することができるため、製造が容易で、大量生産が可能となり、さらに品質確保、コスト削減を図ることができる。レジストパターンを変更するだけで、様々な配線形状を施工することができる他、貴金属を導線とした場合は、乾式めっきによってパターン形成ができるため、今まで困難であった複雑な形状の腐食センサの作製が実現できるなど、センサの設計自由度の向上を図ることができる。さらに、複雑な形状の腐食センサの作製が実現できるため、センサ自体の多様化、高度化にもつながり、大きな効果が期待できる。
誘電体は、誘電率が3以上の誘電体であることが望ましく、その厚さは0.05mm〜2mmが望ましい。また、温度による変化が少ない誘電体が望ましい。これにより、センサの測定感度を向上させることが可能となる。
鉄箔部の腐食による減少を静電容量や誘電正接等で捉えるためには、対向電極の面積が変化しないことが前提であり、耐腐食性が高い性能を有した金属が望ましい。金または白金、パラジウム等に代表される貴金属をはじめ、対象とする金属よりイオン化傾向の小さく導電性を有した金属とし、測定対象が鉄であればチタン、ニッケル等を用いることができる。また、対向電極は、板状、箔状または膜状に形成することができる。また、圧延されたそれらの金属箔以外にもスパッタリングや蒸着、めっき等で成膜して形成する方法もある。
図7は、第2の実施形態における導線部が断線した状態を示した図である。導線部15は、各鉄箔部13の一部を被覆し一部を露出させるように、基材および各鉄箔部13上に形成されている。鉄箔部が腐食因子によって腐食していくと、鉄箔部の総面積が減少し、それに伴って静電容量が減少する。また、鉄箔部の鉄は、腐食すると約2から4倍の体積膨張が起こり、腐食生成物を形成する。鉄箔部と基材との境界部では腐食が生じやすく、鉄箔部が腐食すると、腐食生成物の膨張応力により、鉄箔部の表面の導線部に亀裂が生じて断線が起こる。図7に示すように、ある1つの鉄箔部13の4方向で導線部15が断線すると、通電可能な鉄箔部13の総面積が減少し、それに伴って静電容量がさらに減少する。このように、静電容量が変化することにより、腐食を検知することができる。
[腐食センサの性能評価]
ここで、本発明者らは、本実施形態の原理で腐食を検知することが可能であるかを確認した。図8は、本性能評価で使用した静電容量型腐食センサの概略構成を示す平面図である。図9は、図8に示した腐食センサ31をA−Aで切断した場合の断面図である。この腐食センサ31は、鉄を圧延することにより作製され、10μmの厚さを有する検知部としての鉄箔部33と、鉄箔部33にメッシュ状に設けられた複数の貫通孔35と、誘電体37(ポリイミド厚さ0.1mm)と、リード線39と、対向電極40(金)とを備える。また、鉄箔部33の面積は、誘電正接が初期の軽微な腐食開始を捉えることができるので面積は小さくても良いが、静電容量で腐食進行状況を段階的に捉える場合は、大きい方が望ましい。本性能評価では3cmであるとして説明する。
本発明者らは、3%のNaCl水溶液に図8の腐食センサを浸漬させ、7日を1サイクルとして、1サイクル毎に腐食状態の目視観察を行なった。静電容量の計測は、浸漬液から腐食センサを一旦取り出し、表面に付着した水分を取り除いた後、ピンセット状のプローブにて鉄箔部33の端部と貴金属(対向電極40)との間の静電容量を計測した。計測条件は、LCRメーターを用いて、100Hz〜100kHzまでの1Vの交流電界下にて実施した。実験で使用した装置は、以下の表の通りである。なお、目視による各サイクルの腐食面積は、1サイクル目は0%、2サイクル目は20%、3サイクル目は60%、4サイクル目は80%であった。
Figure 0006723001
図10は、図8に示す腐食センサ31を塩水浸漬した際の測定周波数による各サイクルにおける静電容量値の違いを示す図である。図10において、いずれの周波数においても、試験実施前から1サイクル目で静電容量が上昇し、その後、腐食面積が増加するに従って静電容量が低下していくことが分かる。また、測定周波数が高くなるほど、各サイクルの差は若干小さくなる傾向があった。したがって、静電容量に影響を受ける誘電正接についても塩分に代表される電解質の腐食因子による変動要因を排除できるため、測定周波数は50kHz以上、好ましくは100kHz以上、より好ましくは1MHz以上として測定するのが好ましい。
[モルタル試験体を用いた促進試験による腐食センサの性能評価]
モルタル中における静電容量・誘電正接式を用いた腐食センサの性能を確認することを目的に、塩分を練り込んだ試験体を用いて促進試験で評価した。
[試験体の概要]
モルタル試験体は、水セメント比65%でセメント砂比が1:3のモルタルとし、塩化物イオン量で4.8kg/mとなるようにNaClを添加した。図11は、試験体の概要を示す図である。ここでは、試験体を100mm×100mm×100mmのサイズとした。かぶり15mmの位置に腐食センサを埋設した水準(図11(b))と、腐食面積計測用にφ20mm×130mmの磨き棒鋼を埋設した水準(図11(a))を用意した。なお、試験体の表面は塩水浸透を行なう1面だけ残し、他の面をエポキシ樹脂で被覆した。
[モルタル試験体に埋設するセンサ]
図12は、モルタル試験体に埋設するセンサの概要を示す図である。図12に示すように、腐食センサ31は、Oリング45でアクリルケース43との間隔が設けられ、エポキシ樹脂47でアクリルケース43に接着されている。この腐食センサ31は、試験体外部より誘電正接及び静電容量の計測を行なうため、リード線39を半田付けし、リード線39の接続部が腐食しないよう、鉄箔部33のみが表面に露出するように、アクリルケース43で外装され、ケース内部が樹脂51で充填されている。このように構成したのは、リード線の錆防止を図るためと、周りに充填されるコンクリート自体が誘電体で含水状態により誘電率が変動することから、その影響を回避するためである。また、センサをコンクリート充填時の衝撃から保護する意味もある。本実施形態では、アクリルケース43を用いたが、必ずしもこれを必要とするわけではなく、上記の目的を達成することができるのであれば、アクリルケース43を使用せずに、例えば、樹脂だけでも構わない。
[モルタル試験体の促進試験条件]
促進試験の条件は、40℃で10%NaCl水溶液に2日間浸漬−60%RH環境下で5日間乾燥させる条件を1サイクルとし、合計10サイクルの促進試験を行なった。1サイクル終了毎にLCRメーターを用いて腐食センサの静電容量、誘電正接を測定した。計測条件は交流電圧1Vで、測定周波数は塩水浸漬実験の測定結果を参考に100kHz固定とした。図13は、M−1、M−2及びM−3の3個の同一のセンサについて各サイクルで計測した誘電正接の結果を示す図である。図14は、M−1、M−2及びM−3の3個の同一のセンサについて各サイクルで計測した静電容量の結果を示す図である。初期値は、試験体を脱型後、塩水に浸漬する前に計測した結果とした。
誘電正接は、M−2及びM−3が3サイクルから段階的な上昇が見られ、M−1が6サイクルから除々に上昇した。一方、静電容量は、M−2及びM−3が6サイクルから、M−1は7サイクルからの低下が見られ、M−1、M−2は段階的に低下していることがわかる。実験によるグラフでは初期の腐食により上昇する誘電正接と、その後の誘電正接の低下と静電容量の低下のタイミングがほぼ等しい。誘電正接の上昇後に静電容量が低下するので、静電容量の減少度合いも継続して測定することで腐食の進展状況も捉えることができ、より高い精度の腐食状態の把握が可能となる。
図1および図6では、説明をわかりやすくするため、鉄箔部が一定の形状を有し、基板上に一定の大きさで規則的に配列されているが、本発明はこれに限らない。例えば、鉄箔部の形状は、円形、ひし形、矩形、三角形、線状、スリット状、その他の形状等、形状は自由である。また、鉄箔部の配列は、規則性を有している必要はなく、不規則で離散的に基材上に配置されていても良い。本発明において、鉄箔部の形状、大きさおよび配列、ならびにカソード金属の配線パターンは、フォトレジスト印刷やスクリーン印刷等によって形成することが可能であるため、自由に設計し製造することが可能である。
以上説明したように、本実施形態によれば、鋼材の腐食環境を把握することができ、高精度で、低コストかつ安定した製造を可能とする腐食センサおよび腐食センサの製造方法を提供することができる。
1、10、31、100 腐食センサ
2 鉄箔シート
11 基材
13、33 鉄箔部
15 導線部
17 測定点、計測端子
21 レジスト膜
35 貫通孔
37 誘電体
39 リード線
40 対向電極
43 アクリルケース
45 Oリング
47 エポキシ樹脂
51 樹脂
101 導体パターン部
102 基板
103 薄膜部

Claims (8)

  1. 鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、
    導電性を有しない材料で板状に成形された基材と、
    前記基材上に離散的に設けられ、任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部と、
    いずれか複数の前記鉄箔部を電気的に接続する導線部と、を備え、
    前記基材は、誘電体であり、前記鉄箔部が設けられている面とは逆の面に耐腐食性を有する金属で形成された対向電極と、
    前記鉄箔部が腐食することによって、電気的特性が変化することを特徴とする腐食センサ。
  2. 前記導線部は、前記鉄箔部を直列に接続することを特徴とする請求項1記載の腐食センサ。
  3. 鋼材の腐食環境を検出する腐食センサであって、
    導電性を有しない材料で板状に成形された基材と、
    前記基材上に離散的に設けられ、任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部と、
    いずれか複数の前記鉄箔部を電気的に接続する導線部と、を備え、
    前記鉄箔部が腐食することによって、電気的特性が変化し、
    前記導線部は、前記鉄箔部を直列に接続することを特徴とする腐食センサ。
  4. 前記導線部は、前記鉄箔部を並列に接続することを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の腐食センサ。
  5. 前記導線部が、鉄よりも貴な金属であり、
    いずれかの前記鉄箔部の腐食に伴って、前記導線部が断線することで、電気抵抗値が変化することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の腐食センサ。
  6. いずれかの前記鉄箔部が腐食することで面積が減少し、またはいずれかの前記鉄箔部の腐食に伴って、前記導線部が断線することによって、静電容量値または誘電正接値が変化することを特徴とする請求項または請求項4記載の腐食センサ。
  7. 前記各鉄箔部は、前記基材上に規則的に配列され、
    前記各鉄箔部は隣接する複数の鉄箔部と前記導線部で接続されることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の腐食センサ。
  8. 鋼材の腐食環境を検出する腐食センサの製造方法であって、
    鉄を圧延することにより作製した鉄箔材と導電性を有しない材料で板状に成形された基材とを一体化させる工程と、
    前記鉄箔材に対してエッチングを行なって、前記基材上に規則的に配置され、任意の大きさまたは形状を有する複数の鉄箔部を作製する工程と、
    任意の配線パターンを作製する工程と、
    いずれか複数の前記鉄箔部上に、前記作製した配線パターンを設定し、前記設定した配線パターン以外の箇所をレジスト膜で被覆し、鉄箔シートを作製する工程と、
    前記鉄箔シートに鉄あるいは鉄よりも貴な金属で乾式めっきを施して、導線部を作製する工程と、
    前記乾式めっき後のレジスト膜を剥離する工程と、を少なくとも含むことを特徴とする腐食センサの製造方法。
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