JP6720504B2 - 高強度鋼板及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、例えば、自動車の足回り部品を始めとする機械構造部品等に使用する高強度鋼板及びその製造方法に関する。具体的には、本発明は、優れた延性と穴広げ性を有する高強度鋼板及びその製造方法に関する。
自動車を始めとする輸送用機械や各種産業機械の構造用部材等の素材に供される鋼板には、強度、加工性、靱性などに優れた機械的特性が求められる。近年、自動車の軽量化の観点から高強度鋼板の適用が拡大しているが、自動車用部品の多くはプレス成形により製造されるため、高い強度と同時に優れた成形性が要求される。特に、自動車の足回り部材であるロアアームやホイールに適用される高強度鋼板には、良好な延性のみならず、優れた穴広げ性が求められる。
しかし、一般に、引張強度と伸びフランジ性はトレードオフの関係にあり、引張強度の上昇に伴って、伸びと穴広げ性は著しく低下する。このため、高い引張強度と優れた伸びと穴広げ性の全てを両立させることは容易ではない。このため、高強度鋼板においては、伸びと穴広げ性を向上させるために種々の対策が構じられている。
高い引張強度と優れた伸びと穴広げ性の全てを実現させることができないという問題に対し、特許文献1には、MnとBの含有率を(Mn+1300×B)≧2と適正化し、鋼組織を体積率95.0〜99.5%のフェライト相と、体積率0.5〜5.0%の低温生成相を有する複相とすることにより、加工性に優れた340〜440MPa級複合組織型高張力冷延鋼板を容易に製造できることが開示されている。このような組織制御は伸びと穴広げ性を両立させる方法である。
しかし、近年に至っては、更なる強度、TS(引張強度)で590MPa以上の高強度の鋼板が求められるようになってきており、特許文献1に代表される従来技術では、成形性確保の観点からフェライト相を95%以上含有する必要があるが、上記強度を確保することが難しく、かかる要求に応えることができないという問題が生じている。
そのため、マルテンサイトのような低温生成相を体積率で8%以上含有させ、TSで590MPa以上の強度を確保したうえで、鋼板の延性と穴広げ性の両立を検討しなければならない。このような低温生成相を安定的に得るためには、1.0%以上の高いMnを含有する必要があるが、このような高いMnを含む鋼材を工業的に製造する際の溶製工程においてMnが偏析し、熱延工程及び冷延工程において、元素偏析領域が圧延方向に引き伸ばされるため、マルテンサイトがバンド状に分布する組織(以下「バンド状組織」ということがある。)となる。
変形時において、上記のバンド状の硬質第二相は応力集中箇所となるので、ボイドの生成が助長されるうえ、さらに、ボイドの生成箇所が密に存在するようになり、ボイドの連結も促進され、早期の破断を招くことになるし、また、特に、穴広げ性が著しく低下する。
このような本質的な問題を解決するために、特許文献2には、実施例に示すように、マルテンサイト分率が20%以上含まれる鋼板を用いて、冷延、酸洗後の鋼板を、一旦、750℃以上の温度域に加熱し、バンド状組織に濃化しているMnを分散させ、バンド状組織の厚みを薄く、細かく分散させた、成形性に優れる鋼板が開示されている。
また、特許文献3には、焼鈍を二回とする、具体的には、一回目の焼鈍の際、加熱温度Ar3〜1000℃に3600秒保持した後、50℃/秒で冷却し、鋼組織を均質なマルテンサイト組織とし、さらに、二回目の焼鈍で、フェライト粒の長軸方向を等方的に分散させた伸びフランジ性に優れる鋼板が開示されている。
しかし、これらの方法は、いずれも、穴広げ性を向上させる効果があるが、長時間の加熱工程、又は、複数回の熱処理工程を必要とするので、熱延板の製造工程に適用することは困難である。
さらに、特許文献2に記載の技術のように、バンド状組織の厚さを薄くするだけでは、ボイドの生成を抑えることはできず、さらに、ボイド発生箇所は、むしろ、偏在するので、求められている成形性を確保することはできない。また、特許文献3に記載の技術のように、フェライトの形態を制御するだけでは不十分であり、マルテンサイトの分布自体を制御できないので、求められている穴広げ性を確保することはできない。
即ち、これらの技術は、生産性の課題はさることながら、バンド状組織の生成そのものを抑制できず、十分な穴広げ性を実現できないという問題を抱えている。
一方、特許文献4には、熱延工程の前に1200℃以上1300℃以下の温度域で0.5h以上5h以下保持して、Mnを拡散させて、鋼板の板厚方向断面におけるMn濃度の上限値C1と下限値C2の比C1/C2を2.0以下とする伸び及び伸びフランジ性に優れる鋼板が開示されている。
特開2009−13488号公報 特開2002−88447号公報 特開2008−97411号公報 特開2010−65307号公報
特許文献4に記載のように、バンド状組織を制御するためには、1000℃以上の熱処理による最適化が必要不可欠である。一方、本発明者らは、この最適化だけではなく、高温の変形時に格子欠陥を導入する再結晶を活用することによって、Mnの拡散を最大限促進し、さらに、Mn分布を網目状とし、残ったMn偏析の影響を最小にする組織制御が重要であることを見いだした。
具体的には、通常、590MPa以上の引張強度を有する成分組成のスラブには用いていなかったサイジングミル等などの、多軸変形可能な設備を積極的に活用して、連続鋳造したスラブに、板厚方向と垂直な方向から圧縮変形し、続いて、板厚方向から圧延する多軸圧縮変形を1回以上行う均質化処理を施し、オーステナイト単相域における熱間圧延工程の温度を適切に制御して、オーステナイト粒が球状になるよう再結晶させ、熱延板組織を制御することが、バンド状組織を最大限解消する方法である。
しかし、特許文献4においては、高温保持による均質化熱処理によってのみ組織を制御している。その場合、Mn濃化は多少抑制されるが、残ったMn偏析が焼鈍時の組織形成時に影響し、鋼板のバンド状組織を解消することができず、成形性、特に、実用上問題となる変形速度の大きな場合の穴広げ性が劣化する。このように、引張強度が590MPa以上の延性と衝撃特性に優れた熱延鋼板が得られていないのが現状である。
また、穴広げ性は、JIS T1 001又はJIS Z 2256、又は、JFS T 1001に規定される方法により評価するが、近年、製造技術の進歩による生産性の向上に伴い、製品の品質調査のための試験速度を、現在、一般に用いられている0.2mm/秒よりも高速化し、規定の上限値の1mm/秒に近い速度で試験することが求められている。
しかし、穴広げ試験時の試験速度は、ひずみ速度の増加を引き起こすので、従来方法の試験速度と異なると考えられる。一方、ひずみ速度の増加を引き起こすような試験速度で試験した例はない。本発明者らは、鋭意検討の結果、試験速度によって試験値が異なり、試験速度が速い場合の試験値が重要であることを見いだした。
そこで、本発明は、高強度鋼板において、従来技術にはない、加工速度が速い場合での穴広げ性を高めることを課題とし、該課題を解決する高強度鋼板及びその製造方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行い、その結果、鋼板の成分組成において、C、Si、及び、Mnを限られた範囲に制御し、超高温の多軸圧縮変形を適用することで、スラブを著しく均質化し、均質化したスラブに、最適な熱間圧延条件を適用することによって、従来技術では製造が困難であった、均質な組織であり、590MPa以上の引張強度を有しながら、優れた延性及び穴広げ性を有する鋼板を得ることができるという新知見を得るに至った。
本発明は、上記新知見に基づいてなされたものであり、その要旨は、以下のとおりである。
(1)質量%で、C:0.05%以上0.30%以下、Si:0.05%以上2.00%以下、Mn:1.00%以上10.00%以下、P:0.10%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.01〜1.00%、及び、N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライトの面積率が10%以上92%以下で、マルテンサイトの面積率が8%以上90%以下であり、かつ、鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)における板厚方向の各位置で、板厚方向に垂直に引いた線上のマルテンサイトの線分率の標準偏差が0.050以下である鋼組織を有する
ことを特徴とする高強度鋼板。
(2)前記成分組成が、質量%で、Feの一部に代えて、Ti:0.20%以下、Nb:0.20%以下、及び、V:0.20%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする前記(1)に記載の高強度鋼板。
(3)前記成分組成が、質量%で、Feの一部に代えて、Cr:1.00%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.00%以下、及び、Ni:1.00%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする前記(1)又は(2)に記載の高強度鋼板。
(4)前記成分組成が、質量%で、Feの一部に代えて、Ca0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下、及び、Zr:0.01%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の高強度鋼板。
(5)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の高強度鋼板を製造する製造方法であって、下記(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
(A)前記(1)〜(4)のいずれかに記載の成分組成の鋼スラブに、1000℃以上1250℃以下の温度域で、製品時の板幅方向から3%以上50%以下の圧縮変形、及び、製品時の板幅方向に垂直な方向から3%以上50%以下の圧縮変形からなる多軸圧縮変形を1回以上5回以下施す均質化工程
(B)均質化工程を終了した鋼スラブを、1200℃以上の温度域に加熱し、1000℃以上1150℃以下の温度域で仕上げ圧延を開始し、最終スタンドで、圧下率3%以上50%以下の圧延を、Ar3点以上950℃以下の温度域で終了する熱間圧延工程
(C)熱間圧延工程を終了した鋼板を、1秒以上3秒以下保持した後、25℃/秒以上の冷却速度で600℃以上800℃以下の温度まで強制冷却し、2秒以上10秒以下の自然放冷の後、10℃/秒以上の冷却速度で200℃以下の温度域まで冷却して巻き取る冷却巻取工程
なお、本発明において、強制冷却とは「積極的にガス又は液体、又は、その混合物で冷却を行うこと」、自然放冷とは「積極的な冷却は行わない、一般に空冷で使われる現象」を意味する。
本発明によれば、590MPa以上の引張強度を有しながら、優れた延性と穴広げ性を有する高強度鋼板を提供することができる。本発明の高強度鋼板は、自動車の足回り部材のようにプレス成形が必要な用途、なかでも、従来適用が困難であった延性及び伸びフランジ成形が必要不可欠の用途に好適である。
鋼組織におけるマルテンサイトの線分率の求め方を示す図である。
本発明の高強度鋼板(以下「本発明鋼板」ということがある。)は、
質量%で、C:0.05%以上0.30%以下、Si:0.05%以上2.00%以下、Mn:1.00%以上10.00%以下、P:0.10%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.01〜1.00%、及び、N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
フェライトの面積率が10%以上92%以下、マルテンサイトの面積率が8%以上90%以下であり、かつ、鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)における板厚方向の各位置で、板厚方向に垂直に引いた線上のマルテンサイトの線分率の標準偏差が0.050以下である鋼組織を有する
ことを特徴とする。
本発明の高強度鋼板の製造方法(以下「本発明製造方法」ということがある。)は、本発明鋼板を製造する製造方法であって、下記(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする。
(A)本発明鋼板の成分組成の鋼スラブに、1000℃以上1250℃以下の温度域で、製品時の板幅方向から3%以上50%以下の圧縮変形、及び、製品時の板幅方向に垂直な方向から3%以上50%以下の圧縮変形からなる多軸圧縮変形を1回以上5回以下施す均質化工程
(B)均質化工程を終了した鋼スラブを、1200℃以上の温度域に加熱し、1000℃以上1150℃以下の温度域で仕上げ圧延を開始し、最終スタンドで、圧下率3%以上50%以下の圧延を、Ar3点以上950℃以下の温度域で終了する熱間圧延工程
(C)熱間圧延工程を終了した鋼板を、1秒以上3秒以下保持した後、25℃/秒以上の冷却速度で600℃以上800℃以下の温度まで強制冷却し、2秒以上10秒以下の自然放冷の後、10℃/秒以上の冷却速度で200℃以下の温度域まで冷却して巻き取る冷却巻取工程
以下、本発明鋼板及び本発明製造方法について説明する。
最初に、本発明鋼板について説明する。
成分組成
まず、本発明鋼板の成分組成の限定理由について説明する。以下、成分組成に係る「%」は「質量%」を意味する。
C:0.05%以上0.30%以下
Cは、焼入れ性を高め、鋼板強度を確保するうえで重要な元素である。Cが0.05%未満であると、安定的に所要のマルテンサイト分率を得ることができず、590MPa以上の引張強度を確保することが困難となるので、Cは0.05%以上とする。好ましくは0.10%以上である。一方、Cが0.30%を超えると、マルテンサイトが硬質となり、溶接性の劣化が顕著となるので、Cは0.30%以下とする。好ましくは0.20%以下である。
Si:0.05%以上2.00%以下
Siは、固溶強化により、穴広げ性を劣化させずに、引張強度の向上に寄与する元素であり、また、延性の向上に寄与するとともに、フェライト相の生成を促進して、マルテンサイトのバンド状分布を抑制する作用をなす元素である。
Siが0.05%未満であると、添加効果が十分に発現しないので、Siは0.05%以上とする。延性向上効果、及び、バンド状分布抑制効果を確保する点で、Siは0.50%以上が好ましい。より好ましくは1.00%以上である。一方、Siが2.00%を超えると、添加効果が飽和して経済的に不利となる他、表面性状が劣化するので、Siは2.00%以下とする。好ましくは1.70%以下である。
Mn:1.00%以上10.00%以下
Mnは、鋼の焼入れ性を高め、強度の向上に寄与する元素である。Mnが1.00%未満であると、590MPa以上の引張強度を確保することが困難になるので、Mnは1.00%以上とする。高価な合金元素を添加せずに、強度を高め得る点で、Mnは1.50%以上が好ましく、2.0%以上がより好ましい。
一方、Mnが10.00%を超えると、MnSの析出量が増加し、低温靭性が低下するので、Mnは10.00%以下とする。熱間圧延及び冷間圧延時の生産性の点で、Mnは8.00%以下が好ましい。より好ましくは4.00%以下である。
P:0.10%以下
Pは、通常、不純物元素であるが、引張強度を高める作用をなす元素でもある。Pが0.10%を超えると、溶接性の劣化が著しくなるので、Pは0.10%以下とする。好ましくは0.03%以下である。下限は0%を含むが、Pを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。Pの強度向上効果を確実に得る点で、Pは0.01%以上が好ましい。
S:0.01%以下
Sは、不純物元素であり、溶接性の観点から少ないほど好ましい元素である。Sが0.01%を超えると、溶接性の低下が著しくなるとともに、MnSの析出量が増加し、低温靭性が低下するので、Sは0.01%以下とする。好ましくは0.003%以下、より好ましくは0.0015%以下である。下限は0%を含むが、Sを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。製造コストの点で、Sは、0.001%以上が好ましい。
sol.Al:0.01〜1.00%
Alは、鋼を脱酸して、鋼板を健全化する作用をなす元素である。sol.Alが0.01%未満であると、添加効果が十分に発現しないので、sol.Alは0.01%以上とする。好ましくは0.015%以上である。一方、sol.Alが1.00%を超えると、溶接性の低下が著しくなるとともに、酸化物系介在物が増加して、表面性状の劣化が著しくなるので、sol.Alは1.00%以下とする。好ましくは0.50%以下である。なお、sol.Alとは、Al23等の酸化物になっておらず、酸に可溶する酸可溶Alを意味する。
N:0.01%以下
Nは、通常、不純物元素であり、溶接性の観点から少ないほど好ましい元素である。Nが0.01%を超えると、溶接性の低下が著しくなるので、Nは0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。下限は0%を含むが、Nを0.0001%未満に低減すると、製造コストが大幅に上昇するので、実用鋼板上、0.0001%が実質的な下限である。
不可避的不純物
不可避的不純物は、原材料から不可避的に混入する元素、及び/又は、製造過程で不可避的に混入する元素であり、本発明鋼板の特性を阻害しない範囲で許容できる元素である。
本発明鋼板の成分組成は、上記元素の他、(a)Ti:0.20%以下、Nb:0.20%以下、及び、V:0.20%以下の1種又は2種以上、(b)Cr:1.00%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.00%以下、及び、Ni:1.00%以下の1種又は2種以上、及び、(c)Ca0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下、及び、Zr:0.01%以下の1種又は2種以上の元素群の1つ又は2つ以上を含んでもよい。
(a)群元素
Ti:0.20%以下
Nb:0.20%以下
V:0.20%以下
これらの元素は、いずれも、強度の安定的確保に寄与する元素である。いずれの元素も0.20%を超えると、強度が上昇しすぎて圧延が困難になるので、いずれの元素も0.20%以下が好ましい。より好ましくは0.15%以下である。添加効果を確実に得る点で、いずれの元素も0.003%以上が好ましい。
(b)群元素
Cr:1.00%以下
Mo:1.00%以下
Cu:1.00%以下
Ni:1.00%以下
これらの元素は、いずれも、強度の安定的確保に寄与する元素である。いずれの元素も1.00%を超えると、添加効果が飽和し、経済的に不利となる場合があるので、いずれの元素も1.00%以下が好ましい。より好ましくは0.50%以下である。添加効果を確実に得る点で、いずれの元素も0.005%以上が好ましい。
(c)群元素
Ca:0.01%以下
Mg:0.01%以下
REM:0.01%以下
Zr:0.01%以下
これらの元素は、いずれも、介在物を制御し、特に、介在物を微細分散化し、靭性の向上に寄与する元素である。いずれの元素も0.01%を超えると、表面性状の劣化が顕在化する場合があるので、いずれの元素も0.01%以下が好ましい。より好ましくは0.005%以下である。添加効果を確実に得る点で、いずれの元素も0.0003%以上が好ましい。ここで、REMは、Sc、Y、及び、ランタノイドの合計17元素を指し、その少なくとも1種である。REMの量は、これらの元素の少なくとも1種の合計量を意味する。ランタノイドの場合、工業的にはミッシュメタルの形で添加する。
鋼組織
次に、本発明鋼板の鋼組織について説明する。
本発明鋼板は、フェライトの面積率が10%以上92%以下で、マルテンサイトの面積率が8%以上90%以下であり、かつ、鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)における板厚方向の各位置で、板厚方向に垂直に引いた線上のマルテンサイトの線分率の標準偏差が0.050以下である鋼組織を有する。
本発明鋼板においては、鋼板幅の1/4の位置において、圧延方向に平行な方向及び垂直な方向の板厚断面を、レペラーエッチングにより腐食し、光学顕微鏡を用いて200倍で撮影した画像に測定したフェライト面積率と、マルテンサイトの面積率を規定する。
マルテンサイトは、レペラーエッチングで白色に着色されている領域であり、フェライトは、黒色に着色されている領域である。黒色領域において、特に濃くエッチングされた領域は、パーライト又は炭化物の領域である。
フェライトの面積率:10%以上92%以下
フェライトの面積率が10%未満であると、10%以上の全伸びを確保することが難しくなるので、フェライトの面積率は10%以上とする。好ましくは20%以上である。一方、フェライトの面積率が92%を超えると、590MPa以上の引張強度の確保が難しくなるので、フェライトの面積率は92%以下とする。好ましくは82%以下である。なお、フェライトは、全て、再結晶粒であることが好ましい。
マルテンサイトの面積率:8%以上90%以下
マルテンサイトの面積率が8%未満であると、590MPa以上の引張強度の確保が難しくなるので、マルテンサイトの面積率は8%以上とする。好ましくは10%以上である。一方、マルテンサイトの面積率が90%を超えると、延性が低下するので、マルテンサイトの面積率は90%以下とする。好ましくは80%以下である。
鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)における板厚方向の各位置で、板厚方向に垂直に引いた線上のマルテンサイトの線分率の標準偏差:0.050以下
穴広げ試験のように、局所的な大変形を行う試験では、鋼板のネッキング、及び、材料組織内でのボイドの発生・連結を経て破断に至る。鋼板がくびれる引張変形では、鋼板の中心部が応力集中箇所となり、ボイドは、通常、鋼板表面から1/2tの位置(t:鋼板の板厚)を中心に発生する。
材料が破断に至るまでにボイドの連結が起きるが、1/8t以上の大きさまでボイドが粗大化すると、粗大化したボイドを起点として破壊が起きる。このように、1/2tの位置で発生したボイドと連結し、破壊の起点となるボイドの発生位置は、1/2t〜3/8tの位置に存在するマルテンサイトであるので、この範囲を、鋼板表面からの深さ3/8t〜1/2tの位置(t:鋼板の板厚)と規定した。
マルテンサイトの線分率の標準偏差が高くなるにつれ、鋼組織は顕著なバンド状組織となり、応力集中箇所の密度が局所的に高くなって、穴広げ性が低下する。優れた穴広げ性を確保するため、マルテンサイトの線分率の標準偏差は0.050以下とする。好ましくは0.040以下である。
鋼組織における各相の面積率、及び、マルテンサイトの線分率は、実施例で説明する方法で測定することができる。
機械特性
本発明鋼板は、自動車の軽量化に寄与する十分な強度として、590MPa以上の引張強度(TS)を有することが好ましい。
穴拡げ性は、JIS T 1001に規定の方法において、穴広げ試験速度を1mm/秒として測定した鋼板の穴広げ率(HER)が50%以上であることが好ましい。
延性は、鋼板から、引張方向が圧延方向と直交するようにJIS5号引張試験片を採取して、JIS Z 2241に規定の方法で測定した破断伸びElが17%以上であることが好ましい。
次に、本発明製造方法について説明する。
本発明鋼板は、590MPa以上の引張強度を確保しつつ、優れた穴広げ性を得るためには、鋼組織を、フェライトの面積率:10%以上92%以下、マルテンサイトの面積率:8%以上90%以上であり、かつ、鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)における板厚方向の各位置で、板厚方向に垂直に引いた線分上のマルテンサイトの線分率の標準偏差が0.050以下である鋼組織を有することが必要である。
上記鋼組織を有する本発明鋼板を製造する本発明製造方法は、下記の(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする。
(A)本発明鋼板の成分組成の鋼スラブに、1000℃以上1250℃以下の温度域で、製品時の板幅方向から3%以上50%以下の圧縮変形、及び、製品時の板幅方向に垂直な垂直方向から3%以上50%以下の圧縮変形からなる多軸圧縮変形を1回以上5回以下施す均質化工程
(B)均質化工程を終了した鋼スラブを、1200℃以上の温度域に加熱し、1000℃以上1150℃以下の温度域で仕上げ圧延を開始し、最終スタンドで、圧下率3%以上50%以下の圧延を、Ar3点以上950℃以下の温度域で終了する熱間圧延工程
(C)熱間圧延工程を終了した鋼板を、1秒以上3秒以下保持した後、25℃/秒以上の冷却速度で600℃以上800℃以下の温度まで強制冷却し、2秒以上10秒以下の自然放冷の後、10℃/秒以上の冷却速度で200℃以下まで冷却して巻き取る冷却巻取工程
以下、各工程を規定する条件について説明する。
(A)均質化工程
多軸圧縮変形:(A1)1000℃以上1250℃以下の温度域で、製品時の板幅方向か
ら3%以上50%以下の圧縮変形、及び、製品時の板幅方向の垂直方向
から3%以上50%以下の圧縮変形
(A2)1回以上5回以下
本発明鋼板の成分組成の溶鋼を鋳造して鋼スラブとする。鋳造法は、連続鋳造法が好ましいが、造塊法又は薄スラブ鋳造法でもよい。鋼スラブは、1000℃以上1250℃以下の温度域に加熱して多軸圧縮変形に供する。加熱後の保持時間は、特に規定しないが、穴広げ性を向上させるためには、30分間以上が好ましい。過度のスケールロスを抑制するため、10時間以下が好ましく、5時間以下がより好ましい。なお、直送圧延又は直接圧延を行い、加熱と保持を行わず、そのまま多軸圧縮変形に供してもよい。
鋼スラブに、製品時の板幅方向及び板幅方向と垂直な方向から、1回以上、多軸圧縮変形を施すことにより、鋼スラブ中の合金元素濃化部を細分化し、合金元素の均質分散を可能とするとともに、後の工程で、合金元素の拡散を促してバンド状組織の形成を抑制し、より均質な鋼組織を得ることが可能となる。
特に、板幅方向からの圧縮変形は効果的である。この圧縮変形により、板幅方向に連結して存在する合金元素濃化部を微細に分断して、合金元素を均一に分散させることができるので、従来手法の長時間加熱による合金元素の拡散で達成できない組織の均質化を、短時間で達成することが可能になる。
多軸圧縮変形の温度域が1000℃未満であると、鋼スラブ中の合金元素濃化部の細分化が十分に進行せず、合金元素の均質分散が困難になり、合金元素の拡散が遅延して、バンド状組織の形成を抑制できないので、多軸圧縮変形の温度域は1000℃以上とする。好ましくは1050℃以上である。
一方、多軸圧縮変形の温度域が1250℃を超えると、製造コストが増加するとともに、スケールロス増加によって歩留りが低下するので、多軸圧縮変形の温度域は1250℃以下とする。好ましくは1200℃以下である。
多軸圧縮変形1回当たり、製品時の板幅方向からの圧縮変形量を3%以上50%以下とする。製品時の板幅方向からの圧縮変形量が3%未満であると、高温時の塑性変形により導入される欠陥が不十分となり、合金元素の拡散を促進できず、バンド状組織の形成を抑制することができないので、製品時の板幅方向からの圧縮変形量は3%以上とする。好ましくは13%以上である。
一方、製品時の板幅方向からの圧縮変形量が50%を超えると、スラブ割れが生じたり、スラブ形状が不均一となり、後の熱間圧延での寸法精度が低下するので、製品時の板幅方向からの圧縮変形量は50%以下とする。好ましくは40%以下である。
多軸圧縮変形1回当たり、製品時の板幅方向に垂直な方向からの圧縮変形量は3%以上50%以下とする。製品時の板幅方向に垂直な方向からの圧縮変形量が3%未満であると、合金元素の拡散を促進できず、また、形状不良により後の熱間圧延工程において圧延ロールでの噛みこみ不良が生じるので、製品時の板幅方向に垂直な方向からの圧縮変形量は3%以上とする。好ましくは13%以上である。
一方、製品時の板幅方向に垂直な方向からの圧縮変形量が50%を超えると、鋼スラブの表面に割れが発生するので、製品時の板幅方向に垂直な方向からの圧縮変形量は50%以下とする。好ましくは40%以下である。
多軸圧縮変形を、上記温度域、及び、上記圧縮変形量で行えば、バンド状組織の形成を抑制することができるが、多軸圧縮変形を繰り返すことによって、バンド状組織の形成抑制効果は顕著になるので、2回行うことが好ましい。このとき、多軸圧縮変形の途中で、鋼スラブを加熱炉に装入して再加熱してもよい。
多軸圧縮変形を6回以上行うと、製造コストが増加するとともに、スケールロスの増加によって、歩留りが低下し、また、さらには、熱間圧延工程に供する鋼スラブの厚さが不均一となり、熱間圧延が困難になるので、多軸圧縮変形は5回以下とする。
(B)熱間圧延工程
均質化工程を終了した鋼スラブを熱間圧延工程に供する。熱間圧延工程では、最終スタンドでの圧下量と圧延温度を適切に制御する。そして、その後の冷却制御と相俟って、より均質な鋼組織を得ることができる。
加熱温度域:1200℃以上
均質化工程を終了して熱間圧延に供する鋼スラブを1200℃以上の温度域に加熱する。加熱温度域が1200℃未満であると、仕上げ圧延に至るまでの間に温度が低下し、仕上げ圧延開始温度:1000℃以上を確保できない場合が生じるので、均質化工程を終了して熱間圧延に供する鋼スラブは1200℃以上の温度域に加熱する。なお、均質化工程を終了した鋼スラブの温度が1200℃以上であれば、そのまま熱間圧延に供してもよい。
仕上げ圧延開始温度:1000℃以上1150℃以下
鋼組織の細粒化及びバンド状組織の解消を達成するためには、仕上げ圧延の前段で繰り返し再結晶を行う必要がある。仕上げ圧延開始温度が1000℃未満であると、再結晶が不十分となり、最終的に生成するマルテンサイトが粗大化するとともに、未再結晶オーステナイトがマルテンサイトに変態してバンド状組織が生成するので、仕上げ圧延開始温度は1000℃以上とする。好ましくは1050℃以上である。
一方、仕上げ圧延開始温度が1150℃を超えると、ロールが損傷して、生産性が低下する場合があるので、仕上げ圧延開始温度は1150℃以下とする。好ましくは110℃以下である。
最終スタンドでの圧下率:3%以上50%以下
最終スタンドでの圧延終了温度域:Ar3点以上950℃以下
最終スタンドでの圧下率が3%未満では、鋼組織の均質化を十分に達成できず、所要の穴広げ性と伸びを確保できないので、最終スタンドでの圧下率は3%以上とする。好ましくは10%以上である。
一方、最終スタンドでの圧下率が50%を超えると、オーステナイトが延伸して、バンド状組織が形成され、穴広げ性と伸びが低下するので、最終スタンドでの圧下率は50%以下とする。好ましくは30%以下である。
最終スタンドでの圧延終了温度域がAr3点未満であると、バンド状組織が形成されるとともに、再結晶フェライトが残って、穴広げ性が低下するので、最終スタンドでの圧延終了温度域はAr3点以上とする。好ましくはAr3点+20℃以上である。
一方、最終スタンドでの圧延終了温度域が950℃を超えると、フェライトとマルテンサイトが粗大化して、低温靭性が低下するので、最終スタンドでの圧延終了温度域は950℃以下とする。好ましくは930℃以下である。
なお、Ar3点は、成分組成から、下記式で算出することができる温度である。
Ar3(℃)=870−390・C+24・Si−70・Mn−50・Ni
−5・Cr−20・Cu+80・Mo
元素は、元素の含有量を意味する。
(C)冷却巻取工程
熱間圧延工程を終了した鋼板の冷却を適切に制御して、より均質な鋼組織を形成して巻き取る。
熱間圧延終了後、強制冷却までの保持時間:1秒以上3秒以下
熱間圧延工程を終了した鋼板を強制冷却するが、強制冷却を開始するまでの間に、最終スタンドで圧下したオーステナイトが再結晶する。熱間圧延終了後、強制冷却までの保持時間が1秒未満であると、偏平なオーステナイトからフェライトが生成し、バンド状組織が形成されるので、熱間圧延終了後、強制冷却までの保持時間は1秒以上とする。
一方、保持時間が3秒を超えると、フェライトとマルテンサイトが粗大化し低温靭性が低下するので、保持時間は1秒以上3秒以下とする。
保持後の冷却速度:25℃/秒以上
保持後の冷却温度域:600℃以上800℃以下
上記保持の後、鋼板を、25℃/秒以上の冷却速度で600℃以上800℃以下の温度域まで強制冷却する。冷却速度が25℃/秒未満であると、フェライトが過剰に生成し、マルテンサイトへのCの濃化が顕著になって、鋼組織が硬化し、穴広げ性が低下するので、強制冷却する冷却速度は25℃/秒以上とする。好ましくは35℃/秒以上である。冷却速度は、冷却設備の冷却能の範囲内で適宜設定すればよいので、冷却速度の上限は特に限定しない。
冷却温度域が600℃未満であると、フェライトが過剰に生成し、マルテンサイトへのCの濃化が顕著になって、鋼組織が硬化し、穴広げ性が低下するので、冷却温度域は600℃以上とする。好ましくは630℃以上である。一方、冷却温度域が800℃を超えると、フェライト変態の駆動力が低くなり、フェライト分率を十分に確保することができないので、冷却温度域は800℃以下とする。好ましくは770℃以下である。
強制冷却後の自然放冷:2秒以上10秒以下
25℃/秒の冷却速度で600℃以上800℃以下の温度域まで強制冷却した後、自然放冷を2秒以上10秒以下行う。自然放冷時間が2秒未満であると、フェライト変態の駆動力が低くなり、フェライト分率を十分に確保することができないので、自然放冷時間は2秒以上とする。好ましくは4秒以上である。
一方、自然放冷時間が10秒を超えると、フェライトが過剰に生成し、マルテンサイトへのCの濃化が顕著になって、鋼組織が硬化し、穴広げ性が低下するので、自然放冷時間は10秒以下とする。好ましくは8秒以下である。
自然放冷後の冷却速度:10℃/秒以上
自然放冷後の冷却温度域:200℃以下
オーステナイトをマルテンサイト変態させるために、自然放冷後、10℃/秒以上の冷却速度で200℃以下の温度域まで強制冷却して、鋼板を巻き取る。
自然放冷後の冷却速度が10℃/秒未満であると、フェライトが過剰に生成し、マルテンサイトへのCの濃化が顕著になって、鋼組織が硬化し、穴広げ性が低下するので、自然放冷後の冷却速度は10℃/秒以上とする。好ましくは30℃/秒以上である。冷却速度は、冷却設備の冷却能の範囲内で適宜設定すればよいので、冷却速度の上限は特に限定しない。
自然放冷後の冷却温度域は200℃以下とする。自然放冷後の冷却温度域、即ち、巻取温度が200℃を超えると、ベイナイトの生成、又は、マルテンサイトの自己焼戻により鋼組織が軟化して、強度が低下するので、自然放冷後の冷却温度域、即ち、巻取温度は200℃以下とする。
次に、本発明の実施例について説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性及び効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明は、この一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得るものである。
(実施例1)
表1に示す成分組成の鋼スラブを鋳造し、該鋼スラブに、表2に示す条件で均質化処理を施し、その後、表2に示す条件で熱間圧延を施し、冷却して巻き取った。表1において、下線は、本発明の範囲外であることを意味している。このことは、後出の表2及び表3においても同様である。
即ち、均質化工程では、鋼スラブを、1250℃で1時間加熱した後、鋼スラブに、「多軸圧縮変形下限温度」に示す温度以上、「多軸圧縮変形上限温度」に示す温度以下の温度域において、板幅方向から、「板幅方向からの圧縮変形率」に示す圧縮変形率で圧縮変形し、その後、同温度域において、板厚方向から、「板厚方向からの圧縮変形率」に示す圧縮変形率で圧縮変形を施す多軸圧縮変形を、「圧縮変形繰り返し回数」に示す回数施した後、熱間圧延に供した。
熱間圧延工程では、多軸圧縮変形後の鋼スラブ(粗バー)を、「溶体化温度」に示す温度まで再加熱し、次いで「仕上げ圧延開始温度」に示す温度で仕上げ圧延した。
仕上げ圧延では、計7回の圧延の内、最終段の圧延において、「最終スタンド圧延温度」に示す温度、「最終スタンド圧下量」に示す圧下率で圧延し、その後、「最終スタンド圧延後保持時間」に示す時間保持し、次いで「最終スタンド圧延後冷却速度」に示す冷却速度で、「自然放冷開始温度」に示す温度まで冷却し、「自然放冷時間」に示す時間保持し、その後、「自然放冷後冷却温度」に示す冷却速度で、「巻取温度」に示す温度まで冷却し、60分保持後に室温まで空冷した。
こうして製造した鋼板について、以下の試験を行い、鋼組織を観察し、機械特性を測定した。
(1)鋼組織観察
鋼板の板幅の1/4の位置において、圧延方向に平行な方向及び垂直な方向の板厚断面を、レペラーエッチングにより腐食し、光学顕微鏡を用いて200倍で撮像した画像を画像解析し、フェライトの面積率、マルテンサイトの面積率、及び、未再結晶フェライトの有無を測定した。
鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)におけるマルテンサイトの線分率は、下記の手順で算出した。図1に、鋼組織におけるマルテンサイトの線分率の求め方を示す。
鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置の観察画像を、画像処理により二値化し、フェライトとマルテンサイトの2つの領域に分け、さらに、該領域を、板厚方向にr/30の間隔で15t/4r点に分割し、分割した板厚方向に幅r/30と、板厚方向と垂直な方向に、長さ50rを有する線分領域におけるマルテンサイト線分率を15t/4r点について求め、その標準偏差を算出した。
(2)引張試験
鋼板から、圧延方向に直角な方向を長手方向とするJIS5号引張試験片を採取し、引張特性(降伏強度YS、引張強度TS、全伸びEl)を、JIS Z 2241に準拠して測定した。
(3)穴広げ試験
鋼板から、90mm角の試験片を採取し、JIS Z 2256(又は、JIS T 1001)の規定に準拠し、穴広げ試験の試験速度を1mm/秒として、穴広げ率λを測定した。測定結果を表3に示す。
表3中、供試材No.1、No.12、No.15、No.16、No.18、No.19、No.21、No.22、No.23、No.26、No.28、及び、No.29は、本発明の条件をすべて満足する発明例である。発明例では、鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置における、板厚方向に沿ったマルテンサイト線分率の標準偏差が0.050以下であり、1mm/秒の速いひずみ速度の穴広げ試験での穴広げ性に優れている。
供試材No.9及びNo.10は、鋼板の成分組成が本発明の成分組成の範囲から外れており、590MPa以上の引張強度が得られていない。供試材No.11は、鋼板の成分組成が本発明の成分組成の範囲から外れており、フェライトの面積率が本発明の範囲より高く、マルテンサイトの面積率が本発明の範囲より低く、590MPa以上の引張強度が得られていない。
供試材No.13、No.14、No.17、No.20、及び、No.27は、製造条件が本発明の製造条件の範囲から外れているため、マルテンサイト線分率の標準偏差が本発明の範囲を超えて、穴広げ性が劣位である。供試材No.24及びNo.25は、製造条件が本発明の製造条件の範囲を外れているため、パーライトが生成し、マルテンサイトの面積率が本発明の範囲を外れて、引張強度が低く、穴広げ性が劣位である。
供試材No.3は、均質化工程における板厚方向からの圧縮変形率が低く、形状不良のため熱間圧延が不可能であった。
前述したように、本発明によれば、590MPa以上の引張強度を有しながら、優れた延性と穴広げ性を有する高強度鋼板を提供することができる。本発明の高強度鋼板は、自動車の足回り部材のようにプレス成形が必要な用途、なかでも、従来適用が困難であった延性及び伸びフランジ成形が必要不可欠の用途に好適である。よって、本発明は、鋼板製造産業及び自動車産業において利用可能性が高いものである。

Claims (5)

  1. 質量%で、C:0.05%以上0.30%以下、Si:0.05%以上2.00%以下、Mn:1.00%以上10.00%以下、P:0.10%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.01〜1.00%、及び、N:0.01%以下を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなる成分組成を有し、
    フェライトの面積率が10%以上92%以下で、マルテンサイトの面積率が8%以上90%以下であり、かつ、鋼板表面からの深さ3/8tから1/2tの位置(t:鋼板の板厚)における板厚方向の各位置で、板厚方向に垂直に引いた線上のマルテンサイトの線分率の標準偏差が0.050以下である鋼組織を有し、590MPa以上の引張強度を有し、JIS Z 2256に規定の方法において、穴広げ試験速度を1mm/秒として測定した穴広げ率が50%以上である
    ことを特徴とする高強度鋼板。
  2. 前記成分組成が、質量%で、Feの一部に代えて、Ti:0.20%以下、Nb:0.20%以下、及び、V:0.20%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の高強度鋼板。
  3. 前記成分組成が、質量%で、Feの一部に代えて、Cr:1.00%以下、Mo:1.00%以下、Cu:1.00%以下、及び、Ni:1.00%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1又は2に記載の高強度鋼板。
  4. 前記成分組成が、質量%で、Feの一部に代えて、Ca0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下、及び、Zr:0.01%以下の1種又は2種以上を含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の高強度鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の高強度鋼板を製造する製造方法であって、下記(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする高強度鋼板の製造方法。
    (A)請求項1〜4のいずれか1項に記載の成分組成の鋼スラブに、1000℃以上1250℃以下の温度域で、製品時の板幅方向から3%以上50%以下の圧縮変形、及び、製品時の板幅方向に垂直な方向から3%以上50%以下の圧縮変形からなる多軸圧縮変形を1回以上5回以下施す均質化工程
    (B)均質化工程を終了した鋼スラブを、1200℃以上の温度域に加熱し、1000℃以上1150℃以下の温度域で仕上げ圧延を開始し、最終スタンドで、圧下率3%以上50%以下の圧延を、Ar3点以上950℃以下の温度域で終了する熱間圧延工程
    (C)熱間圧延工程を終了した鋼板を、1秒以上3秒以下保持した後、25℃/秒以上の冷却速度で600℃以上800℃以下の温度まで強制冷却し、2秒以上10秒以下の自然放冷の後、30℃/秒以上の冷却速度で200℃以下の温度域まで冷却して巻き取る冷却巻取工程
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