以下、添付図面を参照しながら各実施例について詳細に説明する。
以下の説明において、特に言及しない限り、各種の要素間の“接続”という用語は、“電気的な接続”を意味する。
図1は、電動車両用モータ駆動システム1の全体構成の一例を示す図である。モータ駆動システム1は、高圧バッテリ10を用いて走行用モータ40を駆動することにより車両を駆動させるシステムである。尚、電動車両は、電力を用いて走行用モータ40を駆動して走行するものであれば、その方式や構成の詳細は任意である。電動車両は、動力源がエンジンと走行用モータ40であるハイブリッド自動車や、動力源が走行用モータ40のみである電気自動車を含む概念である。
モータ駆動システム1は、図1に示すように、高圧バッテリ10、電動車両用インバータ装置12、走行用モータ40、及び、インバータ制御装置50を備える。
高圧バッテリ10は、蓄電して直流電圧を出力する任意の蓄電装置であり、ニッケル水素バッテリ、リチウムイオンバッテリや電気2重層キャパシタ等の容量性素子を含んでよい。高圧バッテリ10は、典型的には、定格電圧が100Vを超えるバッテリであり、定格電圧が例えば288Vである。但し、高圧バッテリ10は、いわゆるマイルドハイブリッド自動車で用いられる、より定格電圧の低いバッテリ(例えば36V)であってもよい。
電動車両用インバータ装置12は、平滑コンデンサCと、インバータ30とを含む。
平滑コンデンサCは、インバータ30に並列に接続される。平滑コンデンサCは、スイッチング素子Q1のコレクタと負極ラインとの間に接続される。
インバータ30は、正極ラインと負極ラインとの間に互いに並列に配置されるU相、V相、W相の各アームを含む。U相アームは、直列接続されたスイッチング素子(本例ではIGBT:Insulated Gate Bipolar Transistor)Q1、Q2を含み、V相アームは、直列接続されたスイッチング素子(本例ではIGBT)Q3、Q4を含み、W相アームは、直列接続されたスイッチング素子(本例ではIGBT)Q5、Q6を含む。また、各スイッチング素子Q1〜Q6のコレクタ−エミッタ間には、それぞれ、エミッタ側からコレクタ側に電流を流すようにダイオードD11〜D16が配置される。尚、スイッチング素子Q1〜Q6は、MOSFET(metal oxide semiconductor field-effect transistor)のような、IGBT以外の他のスイッチング素子であってもよい。尚、インバータ30の高電位側とは、図1のポイントNを低電位側として、図1のポイントP側を指す。
走行用モータ40は、3相の交流モータであり、U、V、W相の3つのコイルの一端が中点で共通接続されている。U相コイルの他端は、スイッチング素子Q1、Q2の中点M1に接続され、V相コイルの他端は、スイッチング素子Q3、Q4の中点M2に接続され、W相コイルの他端は、スイッチング素子Q5、Q6の中点M3に接続される。尚、以下の説明において、「上段」とは、中点M1、M2、M3よりも高電位側を指し、「下段」とは、中点M1、M2、M3よりも低電位側を指す。
尚、図1に示す例では、モータ駆動システム1は、単一の走行用モータ40を備えているが、追加のモータ(発電機を含む)を備えてもよい。この場合、追加のモータ(複数も可)は、対応するインバータと共に、走行用モータ40及びインバータ30と並列な関係で、高圧バッテリ10に接続されてもよい。また、図1に示す例では、モータ駆動システム1は、DC/DCコンバータを備えていないが、高圧バッテリ10とインバータ30の間にDC/DCコンバータを備えてもよい。
高圧バッテリ10と平滑コンデンサCとの間には、図1に示すように、高圧バッテリ10から電力供給を遮断するための遮断用スイッチSW1が設けられる。遮断用スイッチSW1は、半導体スイッチやリレー等で構成されてもよい。遮断用スイッチSW1は、常態でオン状態であり、例えば後述の車両ECU60によって高圧系電源の過電圧の検出時等にオフされる。
次に、図1に示すようなモータ駆動システム1において適用可能なインバータ制御装置50の実施例について説明する。
[実施例1]
図2は、実施例1によるインバータ制御装置50の構成の一例を示す図である。図2には、インバータ制御装置50と共に、制御対象であるインバータ30が示されると共に、高圧バッテリ10、電流センサ42、レゾルバ44、及び車両ECU(Electronic Control Unit)60が示されている。図2において、ラインLは、低圧系と高圧系とを区切るラインであり、ラインLよりも高圧バッテリ10側は“高圧系(高圧)”であり、その逆側が“低圧系(低圧)”である。
電流センサ42は、走行用モータ40の各相に流れる電流を検出する。レゾルバ44は、走行用モータ40の回転角度を検出する。車両ECU60は、例えば要求駆動力に応じた制御目標値をインバータ制御装置50に与える。インバータ制御装置50は、制御目標値が実現されるように、電流センサ42及びレゾルバ44からの情報に基づいて、インバータ30を制御する。インバータ30の制御方法は、任意である。例えば、通常時、インバータ制御装置50は、基本的には、U相に係る2つのスイッチング素子Q1、Q2を互いに逆相にオン/オフさせ、V相に係る2つのスイッチング素子Q3、Q4を互いに逆相にオン/オフさせ、W相に係る2つのスイッチング素子Q5、Q6を互いに逆相にオン/オフさせる。
インバータ制御装置50は、図2に示すように、通信回路501と、マイクロコンピューター(マイコン)502とを含む。
インバータ制御装置50は、図2に示すように、更に、絶縁電源510〜515と、IGBT駆動IC(Integrated Circuit)520〜525とを含む。尚、絶縁電源510〜515は、例えばトランスを介して高圧側と低圧側とが絶縁され、IGBT駆動IC520〜525は、例えばフォットカップラを介して高圧側と低圧側とが絶縁されている。
インバータ制御装置50は、図2に示すように、更に、U相上段駆動回路530、U相下段駆動回路531、V相上段駆動回路532、V相下段駆動回路533、W相上段駆動回路534、及びW相下段駆動回路535(以下、これら全体や一部の複数を指すときは、「駆動回路530〜535」等と称する)を含む。また、インバータ制御装置50は、図2に示すように、更に、電源起動回路540と、バックアップ電源回路550とを含む。
尚、図2に示す例では、絶縁電源510〜515、IGBT駆動IC520〜525、駆動回路530〜535、電源起動回路540、及びバックアップ電源回路550が、「インバータ制御回路」の一例を形成する。また、IGBT駆動IC520〜525は、「駆動回路部」の一例を形成する。
通信回路501は、車両ECU60と通信する。例えば、通信回路501は、CAN(Controller Area Network)を介して車両ECU60と通信する。
マイコン502は、低圧バッテリ8に接続される。尚、低圧バッテリ8は、高圧バッテリ10よりも定格電圧が低いバッテリであり、例えば定格電圧が12Vである。マイコン502には、低圧バッテリ8に起因した低圧系電源(例えばいわゆる+B)に基づいてマイコン電源(例えば電源電圧が5V)を生成するマイコン電源回路503が接続される。マイコン502は、マイコン電源に基づいて動作する。マイコン502は、インバータ30の各スイッチング素子Q1〜Q6に対するオン/オフ指令を、各IGBT駆動IC520〜525に与える。
絶縁電源510〜515は、IGBT駆動IC520〜525に対してそれぞれ設けられる。絶縁電源510〜515は、低圧バッテリ8に起因した低圧系電源が接続される。尚、図2に示す例では、絶縁電源510〜515は、低圧バッテリ8に直接的に接続されているが、電源生成回路(図示せず)を介して接続されてもよい。絶縁電源510〜515は、それぞれ、低圧系電源に基づいて、IGBT駆動電源を生成する。IGBT駆動電源は、電源電圧が例えば15Vである。
IGBT駆動IC520〜525は、スイッチング素子Q1〜Q6に対してそれぞれ設けられる。IGBT駆動IC520〜525は、それぞれ、対応する絶縁電源510〜515に接続され、対応する絶縁電源510〜515からのIGBT駆動電源に基づいて動作する。IGBT駆動IC520〜525は、それぞれ、マイコン502から与えられるオン/オフ指令に基づいて、対応する駆動回路530〜535に駆動信号(Hi/Lo)を与える。
駆動回路530〜535は、スイッチング素子Q1〜Q6に対してそれぞれ設けられる。駆動回路530〜535は、それぞれ、対応する絶縁電源510〜515に接続され、対応する絶縁電源510〜515からのIGBT駆動電源に基づいて動作する。駆動回路530〜535は、それぞれ、対応するスイッチング素子Q1〜Q6のゲートに接続される駆動ライン(図3参照)を含む。W相下段駆動回路535の例は後述する。
電源起動回路540は、図2に示すように、W相下段に係る絶縁電源515に接続される。電源起動回路540は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源に基づいて動作する。電源起動回路540は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が所定閾値(予め規定された閾値)よりも低くなった場合に、バックアップ電源回路550を起動させる。所定閾値は、後述の低圧保護電圧範囲(低電圧保護機能が働く電圧範囲)に応じて予め設定される。ここでは、一例として、後述の低圧保護電圧範囲は、4V〜11Vであり、所定閾値は、3V程度に設定される。この場合、電源起動回路540は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が3V程度になった場合に、バックアップ電源回路550を起動させる。電源起動回路540の詳細は後述する。
バックアップ電源回路550は、図2に示すように、高圧バッテリ10に接続される。また、バックアップ電源回路550は、図2に示すように、各相の下段の駆動回路(即ちU相下段駆動回路531、V相下段駆動回路533、及びW相下段駆動回路535)に接続される。バックアップ電源回路550は、電源起動回路540により起動され、バックアップ電源を生成する。バックアップ電源の電源電圧は、例えば、IGBT駆動電源電圧と同程度であってよい。バックアップ電源回路550は、動作時、高圧バッテリ10に基づいて、U相下段駆動回路531、V相下段駆動回路533、及びW相下段駆動回路535を介して、下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6をオンさせる。バックアップ電源回路550の詳細は後述する。
図3は、IGBT駆動IC525及びW相下段駆動回路535の一例を示す図である。図3において、「5V」、「15V」、及び「Vback」は、それぞれ、マイコン電源、IGBT駆動電源、及びバックアップ電源に対応する。これは、図3以降においても同様である。
W相下段駆動回路535は、図3に示すように、スイッチング素子Q6のゲートに対する駆動ラインに、バックアップ電源回路550からのバックアップ電源電圧Vbackの接続点5353が設けられる。バックアップ電源回路550は、抵抗Rb及びダイオードDbを介してW相下段駆動回路535に接続される。尚、図示しないが、下段に係る他の駆動回路531及び533も同様である。例えば、V相下段駆動回路533においては、バックアップ電源回路550からのバックアップ電源電圧Vbackがスイッチング素子Q4のゲートに、同様の抵抗Rb及びダイオードDbを介して印加される。他方、各相上段に係る駆動回路530、532、534は、かかるバックアップ電源回路550との接続はなく、この点が各相下段に係る駆動回路531、533、535に対して異なる。
W相下段駆動回路535は、図3に示すように、遮断回路5351を含む。遮断回路5351は、図3に示すように、IGBT駆動IC525の各端子(後述の端子OUTH等)と、バックアップ電源回路550からの接続点5353との間に設けられる。遮断回路5351は、バックアップ電源回路550によりバックアップ電源が生成される際に、バックアップ電源の生成に起因したIGBT駆動IC525への電流の逆流(バックアップ電源からIGBT駆動IC525への電流の流れ)を防止する機能を持つ。尚、図示しないが、下段に係る他の駆動回路531及び533も同様である。他方、各相上段に係る駆動回路530、532、534は、かかる遮断回路を有さず、この点が各相上段に係る駆動回路531、533、535に対して異なる。
図3に示す例では、遮断回路5351は、MOSFET5352を含む。MOSFET5352のゲートには、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が印加される。MOSFET5352は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が後述の低圧保護電圧範囲よりも低くなったときに、オフする。即ち、MOSFET5352の閾値電圧は、バックアップ電源回路550によりバックアップ電源が生成される際にオフするように設定される。例えば、MOSFET5352の閾値電圧は、後述の電源起動回路540のMOSFET542の閾値電圧と同様であってよい。この場合、MOSFET5352は、MOSFET542のオフ動作(起動指令生成)と略同時にオフすることができる。或いは、MOSFET5352の閾値電圧は、IGBT駆動電源電圧の低下時に、MOSFET542のオフ動作よりも早くオフするように設定されてもよい。MOSFET5352がオフすると、バックアップ電源回路550からIGBT駆動IC525への電流の逆流が遮断される。
IGBT駆動IC525(他のIGBT駆動IC520〜524についても同様)は、駆動信号(Hi)を発生する端子OUTHと、駆動信号(Lo)を発生する端子OUTLと、端子SOFTと、端子CLAMPとを含む。端子SOFTは、短絡発生時に、スイッチング素子Q6を通常よりも低速でオフさせるための端子である。また、端子CLAMPは、その正常動作時、スイッチング素子Q6のゲートに印加される電圧を特定の値(例えば3V以下)に固定するための端子である。
IGBT駆動IC525は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が正常値(15V)よりも有意に低い低圧保護電圧範囲であって、予め規定された低圧保護電圧範囲内になったときに、スイッチング素子Q6をオフさせる低電圧保護機能を備える。これは、他のIGBT駆動IC520〜524についても同様である。例えば、IGBT駆動IC524は、V相下段に係る絶縁電源513からのIGBT駆動電源電圧が正常値(15V)よりも有意に低い低圧保護電圧範囲内になったときに、スイッチング素子Q4をオフさせる低電圧保護機能を備える。
図4は、IGBT駆動IC525の動作の説明図であり、IGBT駆動電源電圧の各範囲に応じた動作の表図である。尚、図4に示す動作は、他のIGBT駆動IC520〜524についても、対応する絶縁電源が異なるだけで、実質的に同様である。
図4に示すように、IGBT駆動電源電圧が正常範囲11V〜20Vのとき、IGBT駆動IC525は、正常動作となる。IGBT駆動電源電圧が正常範囲よりも低い低圧保護電圧範囲4V〜11Vのとき、IGBT駆動IC525は、低電圧保護機能を働かせる。具体的には、図4に示す各端子の出力となる。尚、図4において、「Z」は、ハイインピーダンスを意味し、「L出力」は、駆動信号(Lo)を発生する状態と同じ状態を意味する。IGBT駆動電源電圧が低圧保護電圧範囲よりも低いとき、即ち4Vよりも低いとき、IGBT駆動IC525は、図4に示すように、動作停止となる。
図5は、電源起動回路540の一例を示す構成図である。図5には、電源起動回路540に加えて、バックアップ電源回路550が模式的に示されている。図5において、「15V」は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源に対応し、「P」は、高圧バッテリ10に起因した電源(高圧系電源)に対応する。
電源起動回路540は、上述のように、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が所定閾値よりも低くなった場合に、バックアップ電源回路550を起動させる。図5に示す例では、電源起動回路540は、MOSFET542を含む。MOSFET542のゲートには、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が印加される。バックアップ電源回路550を起動させる閾値である上述の所定閾値は、MOSFET542の閾値電圧に応じて定まる。換言すると、所定閾値が低圧保護電圧範囲よりも低くなるようなMOSFET542が用いられる。MOSFET542の閾値電圧は、例えば1.4〜3.0Vの範囲内で設定されてよい。
MOSFET542は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が閾値電圧よりも低くなった場合、オフする。MOSFET542がオフすると、それが起動指令となり、バックアップ電源回路550が起動される。即ち、バックアップ電源回路550は、MOSFET542がオフすると、起動してバックアップ電源を生成する。バックアップ電源が生成されると(即ちバックアップ電源の電源電圧が立ち上がると)、U相下段駆動回路531、V相下段駆動回路533、及びW相下段駆動回路535を介して、下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6がオンされる。
図6は、バックアップ電源回路550の一例を示す構成図である。図6には、バックアップ電源回路550に加えて、電源起動回路540が模式的に示されている。
図6に示す例では、バックアップ電源回路550は、MOSFETであるスイッチング素子MOS1と、MOSFETであるスイッチング素子MOS2と、コンデンサC2と、ツェナーダイオードDZ1と、抵抗R3、R4とを含む。スイッチング素子MOS1、スイッチング素子MOS2、及びコンデンサC2は直列接続される。スイッチング素子MOS1のドレインDr1は、高圧バッテリ10に起因した電源に接続され、スイッチング素子MOS1のソースS1は、スイッチング素子MOS2のドレインDr2に接続される。スイッチング素子MOS2のソースS2は、コンデンサC2を介してグランドに接続される。このようにして、直列接続されたスイッチング素子MOS1、スイッチング素子MOS2、及びコンデンサC2は、高圧バッテリ10に対して並列接続される。
抵抗R3、R4及びツェナーダイオードDZ1は直列接続される。直列接続された抵抗R3、R4、及びツェナーダイオードDZ1は、同じく直列接続されたスイッチング素子MOS1、スイッチング素子MOS2、及びコンデンサC2とは別に、高圧バッテリ10に対して並列接続される。抵抗R3及び抵抗R4の間には、スイッチング素子MOS1のゲートG1が接続される。抵抗R4及びツェナーダイオードDZ1の間には、スイッチング素子MOS2のゲートG2が接続される。ツェナーダイオードDZ1は、陰極がスイッチング素子MOS2のゲートG2に接続される向きで、スイッチング素子MOS2のゲートG2とグランドの間に接続される。
バックアップ電源回路550には、起動指令が入力される。起動指令は、上述のように、電源起動回路540を介してバックアップ電源回路550に入力される。起動指令が入力されると、スイッチング素子MOS2のゲートG2には、ツェナーダイオードDZ1により一定の電圧が印加され、スイッチング素子MOS1のゲートG1には、抵抗R3、R4により分圧された一定の電圧が印加される。このとき、スイッチング素子MOS1及びスイッチング素子MOS2は、リニアレギュレータとして動作する。これにより、定電圧のバックアップ電源(Vback参照)が生成される。このバックアップ電源は、上述したように、U相下段駆動回路531、V相下段駆動回路533、及びW相下段駆動回路535に供給される。
図7は、インバータ制御装置50における動作例を示す図である。図7には、上から順に、低圧系電源(+B)の電源電圧の変化態様、マイコン電源(正常時5V)の電源電圧の変化態様、IGBT駆動電源(正常時15V)の電源電圧の変化態様、バックアップ電源の電源電圧の変化態様、各相上段のIGBTであるスイッチング素子Q1、Q3、Q5のゲート電圧の変化態様、及び各相下段のIGBTであるスイッチング素子Q2、Q4、Q6のゲート電圧の変化態様のそれぞれの時系列が示される。尚、図7では、スイッチング素子Q1、Q3、Q5の各ゲート電圧の変化態様は、纏めて示されており、実際にはそれぞれ同一ではなく、互いに対して位相ずれがある。これは、スイッチング素子Q2、Q4、Q6のゲート電圧についても同様である。
図7に示す例では、時刻t0までは低圧系電源が正常であり、それに伴って、低圧系電源に基づくマイコン電源及びIGBT駆動電源もそれぞれの電源電圧が正常値を示している。図7に示す例では、時刻t0にて低圧系電源に異常が発生した場合が想定される。尚、低圧系電源の異常は、低圧系電源の電源電圧が0V又はそれに近い電圧になる異常であり、例えば、オープン故障や断線等により生じる。尚、オープン故障は、低圧バッテリ8の内部がオープン故障したり、低圧バッテリ8の端子(ハーネス端子)が外れたりすることにより生じうる。低圧バッテリ8の内部のオープン故障は、内部の機械的破損(極柱折れ等)等によって生じうる。
時刻t0にて低圧系電源に異常が発生すると、それに伴って、図7に示すように、低圧系電源に基づくマイコン電源及びIGBT駆動電源もそれぞれの電源電圧が正常値から下降し始める。
時刻t11にて、IGBT駆動電源が、低圧保護電圧範囲の上限値V1(11V)を下回ると、IGBT駆動IC520〜525の低電圧保護機能が機能し始める。尚、IGBT駆動IC520〜525の低電圧保護機能が働き始めるタイミングは厳密に同時でない場合もあり得る(IGBT駆動IC520〜525の消費電力の相違等に起因する)。これに伴い、各スイッチング素子Q1〜Q6が全てオフされる。時刻t12にて、IGBT駆動電源が、低圧保護電圧範囲の下限値V2(4V)を下回ると、低電圧保護機能が停止し、IGBT駆動電源に基づくIGBT駆動IC520〜525が停止状態となる(図4参照)。
そして、時刻t21にて、IGBT駆動電源が、低圧保護電圧範囲よりも低い所定閾値V3(3V程度)よりも低くなり、電源起動回路540のMOSFET542がオフする(即ち起動指令が生成される)。これに伴い、時刻t21にて、バックアップ電源回路550が起動し、バックアップ電源の電源電圧が上昇する。時刻t22にて、バックアップ電源の電源電圧が正常値(例えば15V)に達する。これに伴い、各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6がオンされる。これにより、各相上段のIGBTであるスイッチング素子Q1、Q3、Q5が全てオフし、且つ、各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6が全てオンする状態が形成される。以下では、かかる状態を、「アクティブショート回路状態」と称する。アクティブショート回路状態が形成されると、走行用モータ40と基準電位(グランド電位)の間に、走行用モータ40の回生時の電流を還流させることができ、その結果、インバータ30の高電位側の電位が過剰に高くなる過電圧(以下、単に「過電圧」と称する)を低減できる。
このように、本実施例1によれば、低圧系電源の異常の発生時に、それに伴うIGBT駆動電源の電源電圧の低下を利用して、電源起動回路540によりバックアップ電源回路550を起動させることができる。これにより、専用のマイコンを追加せずに、低圧系電源の異常の発生時にバックアップ電源回路550を起動させることができる。そして、低圧系電源の異常の発生時に、バックアップ電源回路550が生成するバックアップ電源を利用して、アクティブショート回路状態を形成できる。この結果、低圧系電源の異常の発生時に過電圧を低減できる。
また、本実施例1によれば、上述のように、低圧系電源の異常の発生時に、電源起動回路540は、IGBT駆動電源が低圧保護電圧範囲よりも低い所定閾値V3よりも低くなった場合に、バックアップ電源回路550を起動させることができる。これにより、IGBT駆動電源が低圧保護電圧範囲内にあるときにバックアップ電源回路550を起動させることを、防止できる。
ここで、IGBT駆動電源が低圧保護電圧範囲内にあるとき、図4に示したように、低電圧保護機能を働かせるために、IGBT駆動IC525の端子SOFTは「L出力」となり、且つ、端子CLAMPは正常動作となる。仮に、このような状態で、バックアップ電源の電源電圧が15Vに上昇すると、図3にて矢印P1で模式的に示すように、バックアップ電源回路550からIGBT駆動IC525の端子SOFT及び端子CLAMPへの電流の逆流が生じる。かかる逆流は、IGBT駆動IC525の耐久性に影響する。これは、バックアップ電源回路550に接続される他の下段に係るIGBT駆動IC521、523についても同様である。
この点、本実施例1によれば、上述のように、IGBT駆動電源が低圧保護電圧範囲内にあるときにバックアップ電源回路550を起動させることを、防止できるので、上述のような逆流を防止できる。これは、他の下段に係るIGBT駆動IC521、523についても同様である。
図8及び図9は、比較例の説明図であり、図8は、比較例による電源起動回路540’の構成を示す図であり、図9は、比較例によるW相下段駆動回路535’の構成を示す図である。
比較例では、電源起動回路540’は、図8に示すように、低圧系電源の異常の発生時に、それに伴う低圧系電源自体の電圧低下を利用して、バックアップ電源回路550を起動させる。また、比較例では、W相下段駆動回路535’は、回路部Y1を備え、回路部Y1は、図9に示すように、低圧系電源の異常の発生時に、それに伴うIGBT駆動電源の電源電圧の低下を利用して、IGBT駆動IC525の端子SOFT及び端子CLAMPへの電流の逆流を防止する。
このような比較例によれば、上述した実施例1と同様の効果が得られるものの、W相下段駆動回路535’において回路部Y1が追加部品として必要となる。換言すると、本実施例1によれば、回路部Y1のような追加部品がW相下段駆動回路535(IGBT駆動IC521、523についても同様)において必要とならず、比較例に比べて低コストで同様の効果を得ることができる。
ここで、上述した実施例1では、電源起動回路540は、低圧系電源の異常の発生時に、それに伴うW相下段に係る絶縁電源515のIGBT駆動電源電圧の低下を利用して、バックアップ電源回路550を起動させるが、これに限られない。例えば、電源起動回路540は、W相下段に係る絶縁電源515に代えて、他の相の下段に係る絶縁電源513又は514に接続されてもよい。この点、電源起動回路540は、好ましくは、各相下段に係る絶縁電源511、513、515のうちの、消費電力が最小であるIGBT駆動ICに係る絶縁電源である。尚、各相下段に係る絶縁電源511、513、515のうちの、消費電力が最小であるIGBT駆動ICが2つであるときは、任意のいずれか一方に係る絶縁電源である。これにより、低圧系電源の異常の発生時に、電源起動回路540によりバックアップ電源回路550が起動されるタイミングが、各相下段に係るIGBT駆動IC521、523、525の全てにおいて低電圧保護機能の動作が終了した後となる可能性を、高めることができる。即ち、各相下段に係るIGBT駆動IC521、523、525の低電圧保護機能の作動終了タイミングのうちの、最も遅いタイミングの後に、バックアップ電源回路550を起動できる可能性が高まる。これは、消費電力が小さいほど低圧系電源の異常の発生に伴うIGBT駆動電源電圧の低下速度が遅くなるためである。例えば、各相下段に係るIGBT駆動IC521、523、525のうちの、IGBT駆動IC525の消費電力が最も低いとき、電源起動回路540は、好ましくは、上述した実施例1のように、IGBT駆動IC525に係る絶縁電源515に接続される。IGBT駆動IC521、523、525の消費電力の相違は、例えば、特定の検出回路(例えば高圧バッテリ10の電圧等の検出回路)を備えているか否かに応じて生じる。即ち、IGBT駆動IC521、523、525のうち、例えば、IGBT駆動IC523が特定の検出回路を備える場合は、IGBT駆動IC523は、他のIGBT駆動IC521、525よりも消費電力が大きくなる。
[実施例2]
図10は、実施例2によるインバータ制御装置50Aの構成の一例を示す図である。図10には、上述した実施例1で参照した図2と同様、インバータ制御装置50等の他の要素も併せて示されている。
実施例2によるインバータ制御装置50Aは、導通制御回路560が追加された点が、上述した実施例1によるインバータ制御装置50と異なる。実施例2によるインバータ制御装置50Aにおいて、上述した実施例1によるインバータ制御装置50の構成要素と同一であってよい構成要素については、図10において同一の参照符号を付して説明を省略する。
導通制御回路560は、図10に示すように、バックアップ電源回路550と各相下段の駆動回路531、533、535との間に設けられる。導通制御回路560は、インバータ30の両端電圧(図1の端子P及び端子N間の電圧)、即ちインバータ30の高電位側の電圧が、予め規定された所定電圧Vth以上になった場合に、バックアップ電源回路550と下段の各スイッチング素子Q2、Q4及びQ6の間を導通させる。所定電圧Vthは、過電圧を検出するための閾値であり、高圧バッテリ10の定格電圧よりも高い電圧である。所定電圧Vthは、例えば、各スイッチング素子Q1〜Q6等の素子耐圧等に応じて事前に決定される。これにより、低圧系電源の異常の発生時において、常時ではなく、インバータ30の高電位側の電圧が所定電圧Vth以上になった場合だけ、アクティブショート回路状態を形成できる。即ち、低圧系電源の異常の発生時においてアクティブショート回路状態を形成する状況を、インバータ30の高電位側の電圧が所定電圧Vth以上になったときに限定できる。これにより、低圧系電源の異常の発生時において、必要時のみアクティブショート回路状態を形成できる。
尚、図10に示す例では、絶縁電源510〜515、IGBT駆動IC520〜525、駆動回路530〜535、電源起動回路540、バックアップ電源回路550、及び導通制御回路560が、「インバータ制御回路」の一例を形成する。
図11は、導通制御回路560の一例を示す図である。図11には、導通制御回路560に加えて、電源起動回路540及びバックアップ電源回路550が併せて図示されている。
図11に示す例では、導通制御回路560は、高圧バッテリ10に起因した電源に接続される。導通制御回路560は、過電圧信号入力回路562と、MOSFET564とを含む。過電圧信号入力回路562では、インバータ30の高電位側の電圧値と所定電圧Vthとが比較され、インバータ30の高電位側の電圧値が所定電圧Vth以上になった場合に、過電圧信号(ここでは、Lo出力)が出力される。即ち、過電圧信号入力回路562は、インバータ30の高電位側の電圧値が所定電圧Vth以上になった場合に、MOSFET564をオンさせる駆動信号(ここでは、Lo出力)を生成する。これにより、MOSFET564がオンし、バックアップ電源回路550により各相下段の駆動回路531、533、535にバックアップ電源が供給される。各相下段の駆動回路531、533、535(図3参照)は、バックアップ電源に基づいて、下段の各スイッチング素子Q2、Q4及びQ6をオンさせる。
[実施例3]
実施例3は、上述した実施例1及び実施例2による電源起動回路540に対して代替可能な電源起動回路540Aに関する。以下、実施例3において、上述した実施例1によるインバータ制御装置50の構成要素と同一であってよい構成要素については、図12において同一の参照符号を付して説明を省略する。
図12は、電源起動回路540Aの一例を示す構成図である。図12には、電源起動回路540Aに加えて、バックアップ電源回路550が模式的に示されている。図12において、「15V(UL)」は、U相下段に係る絶縁電源511からのIGBT駆動電源に対応し、「15V(VL)」は、V相下段に係る絶縁電源513からのIGBT駆動電源に対応し、「15V(WL)」は、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源に対応する。
電源起動回路540Aは、U相下段に係る絶縁電源511と、V相下段に係る絶縁電源513と、W相下段に係る絶縁電源515とに接続される。電源起動回路540Aは、U相下段に係る絶縁電源511と、V相下段に係る絶縁電源513と、W相下段に係る絶縁電源515とに基づいて動作する。電源起動回路540Aは、U相下段に係る絶縁電源511からのIGBT駆動電源電圧、V相下段に係る絶縁電源513からのIGBT駆動電源電圧、及び、W相下段に係る絶縁電源515からのIGBT駆動電源電圧が、いずれも、所定閾値よりも低くなった場合に、バックアップ電源回路550を起動させる。所定閾値は、上述した実施例1で説明した通りである。
図12に示す例では、電源起動回路540Aは、MOSFET542、543、544を含む。MOSFET542、543、544は、バックアップ電源回路550への入力ライン548とグランドとの間に並列に設けられる。MOSFET543、544は、上述したMOSFET542と同様の特性(閾値電圧等の特性)を有してよい。MOSFET543のゲートには、V相下段に係る絶縁電源513からのIGBT駆動電源電圧が印加される。MOSFET544のゲートには、U相下段に係る絶縁電源511からのIGBT駆動電源電圧が印加される。
MOSFET543は、V相下段に係る絶縁電源513からのIGBT駆動電源電圧が閾値電圧よりも低くなった場合、オフする。MOSFET544は、U相下段に係る絶縁電源511からのIGBT駆動電源電圧が閾値電圧よりも低くなった場合、オフする。MOSFET542、543、544の全てがオフすると、それが起動指令となり、バックアップ電源回路550が起動される。即ち、バックアップ電源回路550は、MOSFET542、543、544の全てがオフすると、起動してバックアップ電源を生成する。バックアップ電源が生成されると、上述のように、U相下段駆動回路531、V相下段駆動回路533、及びW相下段駆動回路535を介して、下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6がオンされる。
次に、図13及び図14を参照して、実施例3による電源起動回路540Aの効果について説明する。
図13は、上述した実施例1によるインバータ制御装置50における動作例を示す図であり、図14は、実施例3による電源起動回路540Aを備えるインバータ制御装置(図示せず)における動作例を示す図である。
図13及び図14には、それぞれ、上から順に、絶縁電源511、513、515のうちの、異常相に係るIGBT駆動電源(正常時15V)の電源電圧の変化態様、絶縁電源511、513、515のうちの、正常相に係るIGBT駆動電源(正常時15V)の電源電圧の変化態様、バックアップ電源の電源電圧の変化態様、バックアップ電源からの電流(バックアップ電源電流)の変化態様、スイッチング素子Q2、Q4、Q6のうちの、異常相に係るスイッチング素子のゲート電圧の変化態様、スイッチング素子Q2、Q4、Q6のうちの、正常相に係るスイッチング素子のゲート電圧の変化態様、及び、SDN(シャットダウン)信号の変化態様のそれぞれの時系列が示される。図14において、Hi−Zは、ハイインピーダンス状態を表す。
図13及び図14では、時刻t30にて、絶縁電源511、513、515のうちの、1つが異常となり、その異常相に係るIGBT駆動電源の電源電圧が所定閾値V3(3V程度)よりも低くなる場合が想定される。絶縁電源511、513、515のうちの、1つが異常となる場合は、例えば負荷短絡(例えば、コンデンサのショート等)に起因して生じうる。図13及び図14では、一例として、絶縁電源511、513、515のうちの、絶縁電源515だけが異常となった場合が想定される。
図13に示す例の場合、時刻t30にて、電源起動回路540AのMOSFET542がオフする(即ち起動指令が生成される)。これに伴い、時刻t30にて、バックアップ電源回路550が起動し、バックアップ電源の電源電圧が上昇する。また、時刻t30にて、SDN信号がオン状態となり、各スイッチング素子Q1〜Q6がオフされる。そして、時刻t32にて、バックアップ電源の電源電圧が正常値(例えば15V)に達する。この際、正常相に係るIGBT駆動電源(正常時15V)の電源電圧は、図13に示すように、15V(正常)のままである。従って、正常相においては、IGBT駆動IC525のIGBT誤ON防止用のCALMP機能が正常に動作することになる(図4参照)。具体的には、端子CLAMPは、正常相に係るスイッチング素子のゲートに印加される電圧を特定の値に固定する動作となる。このため、バックアップ電源回路550から正常相に係るIGBT駆動IC525IGBT駆動IC525の端子CLAMPへの電流の逆流(引き込み)が継続的に生じる。かかる逆流は、IGBT駆動IC525の耐久性に影響する。また、バックアップ電源回路550からのバックアップ電源電流が過大となり、バックアップ電源回路550の発熱も増大する。
これに対して、実施例3によれば、図13に示す例で生じる上述の不都合を低減できる。具体的には、実施例3によれば、時刻t30にて、電源起動回路540AのMOSFET542がオフしても、MOSFET543、544はオフしない。従って、起動指令が生成されない。この結果、図14に示すように、バックアップ電源回路550が起動されず、バックアップ電源の電源電圧も上昇しない。このため、バックアップ電源回路550から正常相に係るIGBT駆動IC525の端子CLAMPへの電流の逆流が防止される。また、バックアップ電源回路550からのバックアップ電源電流が過大となることや、バックアップ電源回路550の発熱が増大することも防止される。
以上は、絶縁電源511、513、515のうちの1つが異常となった場合に関するものであるが、絶縁電源511、513、515のうちの2つだけが異常となった場合にも同様の効果が得られる。
以上のように、実施例3によれば、上述のように、電源起動回路540Aは、絶縁電源511、513、515の全てのIGBT駆動電源電圧が所定閾値よりも低くなった場合に、バックアップ電源回路550が起動されるので、絶縁電源511、513、515のうちの、1つ又は2つだけが異常となった場合にバックアップ電源回路550を起動させることを、防止できる。この結果、絶縁電源511、513、515のうちの1つ又は2つだけが異常となった場合にバックアップ電源回路550を起動させる構成における不都合、即ちIGBT駆動IC525への電流の逆流や、バックアップ電源電流の増大、バックアップ電源回路550の発熱の増大を、防止できる。
以上、各実施例について詳述したが、特定の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。また、前述した実施例の構成要素を全部又は複数を組み合わせることも可能である。
例えば、上述した実施例1乃至実施例3では、各相上段のIGBTであるスイッチング素子Q1、Q3、Q5を全てオフさせ、且つ、各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6を全てオンさせることで、過電圧を低減しているが、これに限られない。即ち、各相上段のIGBTであるスイッチング素子Q1、Q3、Q5を全てオンさせ、且つ、各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6を全てオフさせることで、過電圧を低減してもよい。但し、各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6を全てオンさせる方が、各相上段のIGBTであるスイッチング素子Q1、Q3、Q5を全てオンさせるよりも、基準電位が一定となるので、回路規模を小さくできる点で有利である。即ち、各相上段のスイッチング素子Q1、Q3、Q5を全てオンさせ且つ各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6を全てオフさせる場合は、各相の基準電位(図1のポイントM1、M2、M3の電位)が異なり得るので、それに伴いバックアップ電源回路を各相に対してそれぞれ設ける必要が生じうる。この点、各相上段のIGBTであるスイッチング素子Q1、Q3、Q5を全てオフさせ且つ各相下段のスイッチング素子Q2、Q4、Q6を全てオンさせる場合(即ち上述した実施例1乃至実施例3の場合)、バックアップ電源回路550が1つで済む点で有利である。
また、上述した実施例1乃至実施例3では、好ましい例として、バックアップ電源回路550を起動させる閾値である所定閾値は、低圧保護電圧範囲の下限値よりも低くされている。これは、かかる構成によれば、所定閾値が低圧保護電圧範囲の上限値よりも低いが下限値よりも高い構成に比べて、低電圧保護機能が機能している間にバックアップ電源回路550が起動されることを、より確実に防止できるためである。但し、所定閾値が低圧保護電圧範囲の上限値よりも低いが下限値よりも高い構成であれば、所定閾値が低圧保護電圧範囲の上限値以上である構成に比べて、低電圧保護機能が機能している間にバックアップ電源回路550が起動される可能性を低減できる。例えば、低電圧保護機能が機能している間にバックアップ電源回路550が起動された場合は、上述のようにIGBT駆動IC525の端子SOFT及び端子CLAMPへの電流の逆流が生じるが、かかる期間が非常に短い場合は、IGBT駆動IC525の耐久性への影響を低減できる可能性がある。
なお、以上の実施例に関し、さらに以下を開示する。尚、以下で記載する効果のうち、少なくとも1つを奏することができればよい。
[態様1]
複数相の上段及び下段のスイッチング素子(Q1〜Q6)を含むインバータ(30)を制御するためのインバータ制御回路であって、
低圧系電源(8)から生成される第1電源(510〜515)と、
第1電源(510〜515)に電気的に接続され、第1電源(510〜515)に基づいて複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)を駆動し、第1電源(510〜515)の電圧が正常値よりも低い低圧保護電圧範囲内になったときに、複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)をオフさせる低電圧保護機能を備える駆動回路部(520〜525)と、
低圧系電源(8)よりも電源電圧の高い高圧系電源(10)に電気的に接続され、高圧系電源(10)に基づいて、複数相のそれぞれにおける上段又は下段の全てのスイッチング素子である特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)をオンさせるバックアップ電源回路(550)と、
第1電源(510〜515)に電気的に接続され、第1電源(510〜515)の電圧が、低圧保護電圧範囲の上限値よりも低い場合に、バックアップ電源回路(550)を起動させる電源起動回路(540)とを含む、インバータ制御回路。
態様1によれば、電源起動回路(540)は、低圧系電源(8)の異常に伴う第1電源(510〜515)の低下を利用して、バックアップ電源回路(550)を起動させることができる。バックアップ電源回路(550)は、起動されると、特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)をオンさせる。このようにして、態様1によれば、専用のマイコンを追加せずに、低圧系電源(8)の異常時にも特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)をオンさせることができる。これにより、低圧系電源(8)の異常時に高圧系に発生しうる過電圧を低減できる。
また、態様1では、電源起動回路(540)は、第1電源(510〜515)の電圧が、低圧保護電圧範囲の上限値よりも低い場合に、バックアップ電源回路(550)を起動させる。これにより、第1電源(510〜515)の電圧が低圧保護電圧範囲内にある間にバックアップ電源回路(550)が電源起動回路(540)によって起動される可能性を低減できる。尚、低電圧保護機能の動作中にバックアップ電源回路(550)が電源起動回路(540)によって起動されると、バックアップ電源回路(550)から駆動回路部(520〜525)に電流が流れうる。態様1によれば、低電圧保護機能の動作中のバックアップ電源回路(550)に起動に起因した不都合、即ち、バックアップ電源回路(550)から駆動回路部(520〜525)に電流が流れる可能性を低減できる。
[態様2]
駆動回路部(520〜525)は、第1電源(510〜515)の電圧が低圧保護電圧範囲内になったときに、複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)の全てをオフさせ、
特定のスイッチング素子(Q2、Q4、Q6)は、複数相のそれぞれにおける下段の全てのスイッチング素子(Q2、Q4、Q6)である、態様1に記載のインバータ制御回路。
態様2によれば、低圧系電源(8)の異常時に、上段の全てのスイッチング素子(Q1、Q3、Q5)がオフし、且つ、下段の全てのスイッチング素子(Q2、Q4、Q6)がオンする状態が形成される。この状態では、基準電位がグランド電位となって一定となるので、バックアップ電源回路(550)の全体としての回路規模を小さくできる。
[態様3]
第1電源(510〜515)及び駆動回路部(520〜525)は、複複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)のそれぞれに対して対で設けられ、駆動回路部(520〜525)は、それぞれ、対応する第1電源(510〜515)に基づき動作し、
電源起動回路(540)は、複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)に対して設けられる複数の第1電源(510〜515)のうちの、1つの第1電源(510〜515)に電気的に接続され、
電源起動回路(540)が電気的に接続される第1電源(510〜515)は、特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)に係る複数の駆動回路部(520、522、524又は521、523、525)のうちの、消費電力が他の駆動回路部の消費電力以下である駆動回路部に係る第1電源(510〜515)であって、予め規定された1つの駆動回路部に係る第1電源(510〜515)である、態様2に記載のインバータ制御回路。
態様3によれば、低圧系電源の異常の発生時に、電源起動回路(540)によりバックアップ電源回路(550)が起動されるタイミングが、駆動回路部(520、522、524又は521、523、525)の全てにおいて低電圧保護機能の動作が終了した後となる可能性を、高めることができる。
[態様4]
第1電源(510〜515)及び駆動回路部(520〜525)は、複複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)のそれぞれに対して対で設けられ、駆動回路部(520〜525)は、それぞれ、対応する第1電源(510〜515)に基づき動作し、
電源起動回路(540A)は、複数相のスイッチング素子(Q1〜Q6)に対して設けられる複数の第1電源(510〜515)のうちの、特定のスイッチング素子(Q2、Q4、Q6)に係る第1電源(511、513、515)に電気的に接続され、
電源起動回路(540A)は、特定のスイッチング素子(Q2、Q4、Q6)の全てに係る前記第1電源(511、513、515)の電圧が、低圧保護電圧範囲の上限値よりも低い場合に、前記バックアップ電源回路を起動させる、態様4に記載のインバータ制御回路。
態様4によれば、第1電源(511、513、515)の一部だけに係る低圧系電源の異常の発生時にバックアップ電源回路(550)が起動されることを、防止できる。これにより、第1電源(511、513、515)の一部だけに係る低圧系電源の異常の発生時にバックアップ電源回路(550)が起動されることによる不都合、即ち正常相に係る駆動回路部(520〜525)にバックアップ電源回路(550)から電流が流れることや、バックアップ電源回路(550)からの電流が過大となること、バックアップ電源回路(550)の発熱が増大すること、を防止できる。
[態様5]
電源起動回路(540)は、第1電源(510〜515)の電圧が、低圧保護電圧範囲の下限値よりも低い場合に、バックアップ電源回路(550)を起動させる、態様1〜4のうちのいずれかに記載のインバータ制御回路。
態様5によれば、第1電源(510〜515)の電圧が低圧保護電圧範囲内にある間にバックアップ電源回路(550)が電源起動回路(540)によって起動される可能性を更に低減できる。
[態様6]
電源起動回路(540)は、第1電源(510〜515)にゲートが電気的に接続されるトランジスタ(542)であって、低圧保護電圧範囲の下限値よりも低い閾値電圧を持つトランジスタ(542)を含む、態様5に記載のインバータ制御回路。
態様6によれば、トランジスタ(542)を用いた簡易な構成で、バックアップ電源回路(550)を適切なタイミングで起動させることができる。
[態様7]
バックアップ電源回路(550)と特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)の間に設けられ、インバータの高電位側の電圧が閾値以上になった場合に、バックアップ電源回路(550)と特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)の間を導通させる導通制御回路(560)を更に含む、態様1〜6のうちのいずれか1項に記載のインバータ制御回路。
態様6によれば、低圧系電源の異常の発生時に、インバータの高電位側の電圧が閾値以上になる場合に、バックアップ電源回路(550)を起動させることができる。
[態様8]
バックアップ電源回路(550)は、駆動回路部(520〜525)と特定のスイッチング素子(Q1、Q3、Q5又はQ2、Q4、Q6)の間に電気的に接続され、
バックアップ電源回路(550)と駆動回路部(520〜525)との間に設けられ、バックアップ電源回路(550)の起動に伴いバックアップ電源回路(550)と駆動回路部(520〜525)との間の導通を遮断する遮断回路(5351)を更に含む、態様1〜7のうちのいずれか1項に記載のインバータ制御回路。
態様7によれば、バックアップ電源回路(550)の起動後においても、バックアップ電源回路(550)から駆動回路部(520〜525)に電流が流れる可能性を低減できる。