<第1実施形態>
以下、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第1実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図1に、この実施形態における燃料電池システムを概略構成図により示す。この燃料電池システムは、電気自動車に搭載され、その駆動用モータ(図示略)に電力を供給するために使用される。燃料電池システムは、燃料としての水素ガスと酸化剤としての空気(エア)の供給を受けて発電を行う燃料電池(FC)1を備える。燃料電池1で発電した電力は、インバータ(図示略)を介して駆動用モータ(図示略)に供給されるようになっている。
燃料電池1のアノード側には、燃料電池1に水素ガスを供給するための水素供給システム2が設けられる。水素供給システム2は、複数の水素ボンベ6を備える。複数の水素ボンベ6には、水素充填口7から分流管8、水素充填通路9及び流路切替器10を介して水素ガスが充填されるようになっている。この水素供給システム2は、複数の水素ボンベ6から燃料電池1へ水素ガスを供給するための水素供給通路11と、燃料電池1から排出される水素オフガスを水素供給通路11へ還流するための水素排出通路12とを備える。
流路切替器10より下流の水素供給通路11には、その上流側から順に、合流管13、高圧レギュレータ14、中圧リリーフ弁15、水素流量調節装置16及び低圧リリーフ弁17等が設けられる。燃料電池1には、各水素ボンベ6から、これら機器10〜17等を介して水素ガスが供給される。
水素排出通路12には、気液分離器18と水素ポンプ19が設けられる。燃料電池1から排出される水素オフガスは、これら機器18,19を介して水素供給通路11へ戻される。気液分離器18は、水素排出通路12を流れる水素オフガスから生成水を分離するようになっている。気液分離器18の排水側には、排気排水弁20が設けられる。この排気排水弁20の出口は、貯水タンク21に接続される。排気排水弁20は、電動弁より構成され、開弁されることにより気液分離器18で分離された生成水を貯水タンク21へ流すようになっている。この生成水は、燃料電池1にて発電に伴って生成される水である。水素ポンプ19は、モータにより駆動され、水素オフガスを水素供給通路11へ圧送するようになっている。
一方、燃料電池1のカソード側には、燃料電池1にエアを供給するためのエア供給システム3が設けられる。エア供給システム3は、燃料電池1にエアを供給するためのエア供給通路22と、燃料電池1から排出されるエアオフガスが流れるエア排出通路23と、エア供給通路22とエア排出通路23との間をバイパスするエアバイパス通路24とを備える。エア供給通路22には、その上流側から順に、エアクリーナ25、エアコンプレッサ26、インタークーラ27及びエア入口弁28が設けられる。外部のエアは、これら機器22〜28を介して燃料電池1に供給される。エア入口弁28は、電磁弁より構成され、燃料電池1へ供給されるエアの流量を調節するようになっている。
エア排出通路23には、その上流側から順に、エア出口弁29及び貯水タンク21等が設けられる。燃料電池1からエア排出通路23へ流れるエアオフガスは、これら機器29及び21を介して外部へ排出されるようになっている。エア出口弁29は、電磁弁より構成され、燃料電池1から排出されるエアオフガスの流量を調節するようになっている。貯水タンク21は、燃料電池1で生成された生成水を貯めると共に、溢流した生成水をエア排出通路23へ流すようになっている。エアバイパス通路24には、エアバイパス弁30が設けられる。エアバイパス弁30は電磁弁より構成され、エアバイパス通路24を流れるエアの流量を調節するようになっている。
上記構成において、水素ボンベ6から水素供給通路11へ流れ出た水素ガスは、高圧レギュレータ14で減圧され、水素流量調節装置16で流量と圧力が調節されてから燃料電池1に供給される。燃料電池1に供給された水素ガスは、同電池1にて発電に使用された後、同電池1から水素オフガスとして水素排出通路12へ導出され、気液分離器18及び水素ポンプ19を介して水素供給通路11へ戻される。
また、上記構成において、エアコンプレッサ26が動作することにより、エアクリーナ25からエア供給通路22へ吸入されたエアは、インタークーラ27で冷やされた後、エア入口弁28を介して燃料電池1に供給される。燃料電池1に供給されたエアは、同電池1にて発電に使用された後、同電池1からエアオフガスとしてエア排出通路23へ流れ、貯水タンク21等を介して外部へ排出される。このとき、貯水タンク21から溢流した生成水は、エアオフガスと共にエア排出通路23へ流れる。
次に、上記した燃料電池システムにおいて、エア出口弁29の構成について詳しく説明する。この実施形態で、エア出口弁29は、開度可変な電動弁により構成される。このエア出口弁29として、大流量、高応答及び高分解能の特性を有することが望ましい。そこで、この実施形態では、エア出口弁29の構造として、例えば、特許第5759646号公報に記載される「二重偏心弁」を基本構成として採用することができる。この二重偏心弁は、大流量制御に対応して構成される。
図2に、エア出口弁29を斜視図により示す。図2に示すように、エア出口弁29は、二重偏心弁より構成される弁部31と、モータ42(図6参照)を内蔵したモータ部32と、減速機構43(図6参照)を内蔵した減速機構部33とを備える。弁部31は、ガスや水などが流れる流路36を有する管部37を含み、流路36には弁座38、弁体39及び回転軸40の先端部が配置される。回転軸40には、モータ42(図6参照)の回転力が減速機構43(図6参照)を介して伝達されるようになっている。
図3に、エア出口弁29の弁部31等を断面図により示す。図3は、弁体39が全閉位置に配置された全閉状態を示す。図3に示すように、エア出口弁29は、燃料電池1から延びるエア排出通路23に対し、図2に示す上下が反対になる状態で固定される。図3に示すように、流路36には段部36aが形成され、その段部36aに弁座38が組み込まれる。弁座38は、円環状をなし、中央に弁孔38aを有する。弁体39は、円板状をなし、環状のシール面39aが外周に形成され、弁孔38aを開閉するために弁座38に対応して設けられる。弁体39は回転軸40の先端に設けられたピン40aに固定され、回転軸40と一体的に回動するようになっている。図3において、流路36は、弁座38を境として上流側流路36Aと下流側流路36Bに分かれる。図3においては、弁座38より上の流路36がエア等の流れの上流側流路36Aを示し、弁座38より下の流路36がエア等の流れの下流側流路36Bを示す。そして、弁体39は、下流側流路36Bに配置される。従って、上流側流路36Aは、エア排出通路23を介して燃料電池1に通じ、下流側流路36Bは、貯水タンク21に通じる。
図3に示すように、弁座38には、弁体39との間にリップシール62が固定される。リップシール62は、全閉状態の弁座38と弁体39との間に介在されて、弁座38と弁体39との間をシールするために、弾性材料により円環状に形成される。図4に、リップシール62を平面図により示す。図5に、リップシール62を図4のA−A線断面図により示す。図4、図5に示すように、リップシール62は、弁座38に固定される円環状のベース部62aと、ベース部62aの内周縁から外側へ向けて断面円弧状に傾斜する円環状のシール部62bとを含む。リップシール62は、例えば、全体がゴムにより形成される。そして、リップシール62は、弁体39が閉弁方向へ回動付勢されることにより、弁体39との間で面圧が高められる。図3に示すように、弁体39のシール面39aがリップシール62のシール部62bに接触する全閉状態から、回転軸40が図3の反時計方向へ回転することにより、弁体39が開弁方向へ回動して開弁するようになっている。
図6に、全閉状態のエア出口弁29を平断面図により示す。図6に示すように、このエア出口弁29は、主要な構成要素として、弁座38、弁体39及び回転軸40の他に、ハウジング41、モータ42、減速機構43及び戻し機構44を備える。ハウジング41は、流路36と管部37を含むアルミ製の弁ハウジング45と、同弁ハウジング45の開口端を閉鎖する合成樹脂製のエンドフレーム46とを含む。回転軸40及び弁体39は、弁ハウジング45に設けられる。すなわち、回転軸40には、その先端に弁体39を取り付けるためのピン40aが設けられる。回転軸40は、ピン40aを含む先端部を自由端とし、先端部が弁体39と共に下流側流路36Bに配置される。この実施形態では、下流側流路36Bにて、弁体39と回転軸40の先端部が配置されると共に、弁体39が弁座38に固定されたリップシール62に着座可能に設けられる。また、回転軸40は、ピン40aの反対側を基端部40bとし、その基端部40bにて弁ハウジング45に片持ち支持される。また、回転軸40の基端部40bは、互いに離れて配置された2つの軸受、すなわち第1軸受47と第2軸受48を介して弁ハウジング45に回転可能に支持される。第2軸受48に隣接して回転軸40と弁ハウジング45との間には、ゴムシール61が設けられる。弁体39は、その軸線L2(図7参照)上にて上方(下流側流路36B)へ突出する突部39bを含み、この突部39bにピン孔39cが形成される。弁体39は、このピン孔39cにピン40aを圧入し溶接することにより回転軸40に固定される。この実施形態で、回転軸40が弁ハウジング45に対し軸受47,48を介して片持ち支持されることにより、弁体39と弁座38と間に、構造上不可避なミクロン単位の軸受ガタが許容されるようになっている。
図6において、エンドフレーム46は、弁ハウジング45に対し複数のクリップ(図示略)により固定される。エンドフレーム46の内側には、回転軸40の基端に対応して配置され、弁体39の開度(弁開度)を検出するための開度センサ49が設けられる。また、回転軸40の基端部40bには、メインギヤ51が固定される。メインギヤ51と弁ハウジング45との間には、弁体39を閉弁方向へ回動付勢するためのリターンスプリング50が設けられる。このリターンスプリング50の付勢力として、全閉状態の弁体39を開弁させようとする前後差圧に対抗できる程度の力を想定することができる。このリターンスプリング50は、本発明の回動付勢手段の一例に相当する。メインギヤ51の裏側には、凹部51aが形成され、その凹部51aに磁石56が収容される。この磁石56は、その上から押さえ板57により押さえ付けられて固定される。従って、メインギヤ51が、弁体39及び回転軸40と一体的に回転することにより、磁石56の磁界が変化し、その磁界の変化を開度センサ49が弁開度として検出するようになっている。
図6に示すように、モータ42は、弁ハウジング45に形成された収容凹部45aに収容される。モータ42は、収容凹部45aにて、留め板58と板ばね59を介して弁ハウジング45に固定される。モータ42は、弁体39を開閉するために減速機構43を介して回転軸40に駆動連結される。すなわち、モータ42の出力軸(図示略)上に固定されたモータギヤ53が、中間ギヤ52を介し、メインギヤ51に駆動連結される。中間ギヤ52は、大径ギヤ52aと小径ギヤ52bを含む二段ギヤにより構成される。中間ギヤ52は、ピンシャフト54を介して弁ハウジング45に回転可能に支持される。大径ギヤ52aには、モータギヤ53が連結され、小径ギヤ52bには、メインギヤ51が連結される。この実施形態では、各ギヤ51〜53により減速機構43が構成される。メインギヤ51と中間ギヤ52は、軽量化のために樹脂材料により形成される。弁ハウジング45とエンドフレーム46との接合部分には、ゴム製のガスケット60が設けられる。このガスケット60により、モータ部32と減速機構部33の内部が大気に対して密閉される。
従って、図3に示す全閉状態から、モータ42が作動し、モータギヤ53が回転することにより、その回転が中間ギヤ52により減速されてメインギヤ51に伝達される。これにより、回転軸40及び弁体39が、リターンスプリング50の付勢力に抗して回動され、流路36が開かれる。すなわち、弁体39が開弁される。弁体39を閉弁させる場合は、モータ42がモータギヤ53を逆転させることになる。また、弁体39をある開度に保持するためには、モータ42に回転力を発生させ、その回転力を保持力としてモータギヤ53、中間ギヤ52及びメインギヤ51を介して回転軸40に伝達する。この保持力がリターンスプリング50の付勢力に均衡することにより、弁体39がある開度に保持される。
ここで、図3に示す全閉状態において、燃料電池1から上流側流路36Aに高圧エアが作用することがある。この場合、弁体39がそのエア圧力に押されてリップシール62から下方へ離れ(以下、「弁体39のリップシール62からの浮き上り」という。)、エアが下流側流路36Bへ漏れるおそれがある。このエア漏れに対処するために、リップシール62の弁体39に対する面圧を増大させることが考えられるが、背反としてリップシール62の耐摩耗性が悪化するおそれがある。一方、極低温時には、燃料電池1から流下してきた生成水がエア出口弁29の上流側流路36Aにて凍結することがある。そして、その凍結状態でエア出口弁29を開弁する必要があるが、開弁するとリップシール62が破損するおそれがある。この実施形態で、弁体39のリップシール62からの浮き上りは、回転軸40が軸受47,48を介し弁ハウジング45に支持される構造上の、ミクロン単位の軸受ガタに起因して起こり得るものである。そこで、このエア出口弁29には、全閉時に高圧エアの作用による弁体39の浮き上がり等を防止するために、次のような構成が設けられる。
図7には、全閉状態における弁座38、弁体39、リップシール62及び回転軸40の関係を断面図により示す。図7において、回転軸40の軸線(主軸線)L1は、弁体39のシール面39aから離れて配置されると共に、弁体39の軸線L2から離れて配置される。ここで、回転軸40のピン40aの軸線(副軸線L3)は、主軸線L1に対し平行に伸びると共に、主軸線L1から回転軸40の半径方向へ偏って配置される。弁体39は、主軸線L1から弁体39の軸線L2が伸びる方向と平行に伸びる仮想面V1を境とする第1の側部39A(図7において網掛け(紗)を付して示す部分)と第2の側部39B(図7において網掛け(紗)を付さない部分)を含む。そして、弁体39が全閉状態から、回転軸40の主軸線L1を中心にして、開弁方向(図7の時計方向)F1へ回動するとき、第1の側部39Aは上流側流路36Aへ向けて回動し、第2の側部39Bは下流側流路36Bへ向けて回動するようになっている。開弁状態から弁体39を全閉状態へ閉弁するときは、開弁方向F1とは逆向きの閉弁方向(図7の反時計方向)へ回動するようになっている。
上記した弁座38、弁体39、リップシール62及び回転軸40の配置関係を前提として、図3、図7に示すように、弁座38には、全閉状態の弁体39に対し、開弁方向F1とは逆向きの閉弁方向へ向かう回動を規制するための閉弁ストッパ65が設けられる。閉弁ストッパ65は、弁体39の第1の側部39Aの上面(図3、図7においては下面。以下において同じ。)に係合可能に設けられる。閉弁ストッパ65は、L形状をなし、その長辺部65aが弁座38に固定され、短辺部65bが第1の側部39Aの上面に係合可能に配置される。ここで、閉弁ストッパ65は、例えば、溶接により弁座38に固定することができる。この実施形態では、弁体39が全閉状態にあるとき、リターンスプリング50が弁体39を閉弁方向へ回動付勢することにより、第1の側部39Aの上面が閉弁ストッパ65の短辺部65bに係合するようになっている。
次に、この燃料電池システムにおける燃料電池1へのエア供給制御について説明する。図8に、このエア供給制御等に関する電気的構成をブロック図により示す。この燃料電池システムは、その制御を司るコントローラ70を備える。図8に示すように、コントローラ70の入力側には、温度センサ71、回転数センサ72、圧力センサ73、アクセルセンサ74、エア出口弁29の開度センサ49(図6参照)、バッテリ4及び補機類5(エアコンやライト等)が接続される。また、コントローラ70の出力側には、エア入口弁28、エア出口弁29及びエアバイパス弁30(それぞれ図1参照)が接続される。温度センサ71は、燃料電池1の温度(電池温度)Tfcを検出し、その検出信号を出力するようになっている。回転数センサ72は、エアコンプレッサ26の回転数(コンプレッサ回転数)Ncpを検出し、その検出値を出力するようになっている。圧力センサ73は、エアコンプレッサ26の吐出圧力(コンプレッサ圧力)Pinを検出し、その検出値を出力するようになっている。アクセルセンサ74は、周知のセンサであり、電気自動車の運転者に操作されるアクセルペダルの操作及びその操作量を検出するようになっている。バッテリ4は、その充電状態(電圧、充電容量等)をコントローラ70へ出力するようになっている。補機類5は、その使用状態をコントローラ70へ出力するようになっている。コントローラ70は、これらの検出値に基づいてエア供給制御を実行するために、エア入口弁28、エア出口弁29及びエアバイパス弁30を制御するようになっている。
図9に、このエア供給制御の内容をフローチャートにより示す。処理がこのルーチンへ移行すると、ステップ100で、コントローラ70は、電気自動車が加速運転又は定常運転の状態から減速運転へ移ったか否かを判断する。コントローラ70は、アクセルセンサ74の検出値に基づき、この運転の移行を判断することができる。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ110へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ300へ移行する。
ステップ110では、コントローラ70は、エア入口弁28を全開に維持する。また、ステップ120で、コントローラ70は、エア出口弁29を開弁から全閉に制御する。更に、ステップ130で、コントローラ70は、エアバイパス弁30を全閉から開弁に制御する。
その後、ステップ140で、コントローラ70は、バッテリ充電不可か否かを判断する。コントローラ70は、バッテリ4の電圧等からこの判断を行うことができる。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ150へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ250へ移行する。
ステップ150では、コントローラ70は、エア出口弁29が全閉になるのを待って処理をステップ160へ移行する。コントローラ70は、エア出口弁29の開度センサ49の検出値に基づきこの判断を行うことができる。
ステップ160では、コントローラ70は、エア出口弁29を全閉電流印加制御する。すなわち、全閉になったエア出口弁29につき、さらに閉弁方向へ回動付勢するために、エア出口弁29のモータ42へ所定電流を印加する。これにより、エア出口弁29の弁体39は、リターンスプリング50による閉弁方向への回動付勢力に加え、更にモータ42等により閉弁方向へ回動付勢されることになる。ここで、バッテリ4が充電不可のときは、燃料電池1の発電分を放電しなければならず、放電制御が実行される。このとき、燃料電池1からエア排出通路23へ高圧エアが排出され、その高圧が全閉状態のエア出口弁29に作用することになる。従って、全閉電流印加制御は、このときのエア出口弁29で、エア漏れに対処するために実行される制御である。
次に、ステップ170で、コントローラ70は、エアバイパス弁30を全開から閉弁に制御する。
次に、ステップ180で、コントローラ70は、コンプレッサ圧力Pin及びコンプレッサ回転数Ncpを取り込む。コントローラ70は、これらの検出値を、回転数センサ72及び圧力センサ73から取り込む。
次に、ステップ190で、コントローラ70は、コンプレッサ圧力Pinが所定の放電目標圧力P1よりも低いか否かを判断する。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ210へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ200へ移行する。
ステップ200では、コントローラ70は、エアバイパス弁30を開弁制御した後、処理をステップ190へ戻す。一方、ステップ210では、コントローラ70は、エアバイパス弁30を閉弁制御する。
次に、ステップ220では、コントローラ70は、コンプレッサ回転数Ncpが所定の放電目標回転数N1よりも低いか否かを判断する。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ240へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ230へ移行する。
ステップ230では、コントローラ70は、エアコンプレッサ26を回転減少制御、すなわち、エアコンプレッサ26の回転数を減少させた後、処理をステップ220へ戻す。一方、ステップ240では、コントローラ70は、エアコンプレッサ26を回転増加制御、すなわち、エアコンプレッサ26の回転数を増加させた後、処理をステップ100へ戻す。
一方、ステップ140からステップ250へ移行する場合、すなわち、バッテリ4が充電可能である場合は、ステップ250で、コントローラ70は、回生ブレーキ(モータ逆転によるブレーキ制御)を実行すると共に、バッテリ4への充電を制御する。すなわち、減速時にモータで発電される電気をバッテリ4に充電させるのである。
次に、ステップ260で、コントローラ70は、補機類発電要求が無いか否か、すなわち、補機類5の使用による低発電要求が無いか否かを判断する。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ270へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ280へ移行する。
ステップ270では、コントローラ70は、回生ブレーキ要求に応じた回転数にエアコンプレッサ26を制御し、処理をステップ100へ戻す。
一方、ステップ280では、コントローラ70は、補機類発電要求に応じた開度にエア出口弁29及びエアバイパス弁30を制御する。ここで、コントローラ70は、補機類5が要求する発電量を補機類発電要求として求めることができる。
次に、ステップ290で、コントローラ70は、補機類発電要求に応じた回転数にエアコンプレッサ26を制御し、処理をステップ100へ戻す。
一方、ステップ100から移行してステップ300では、電気自動車が加速運転又定常運転であることから、コントローラ70は、エア入口弁28を全開に制御する。
次に、ステップ310で、コントローラ70は、出力要求に応じた開度にエア出口弁29及びエアバイパス弁30を制御する。ここで、コントローラ70は、アクセルセンサの検出値に基づいて出力要求の程度を求めることができる。
次に、ステップ320で、コントローラ70は、出力要求に応じた回転数にエアコンプレッサ26を制御し、処理をステップ100へ戻す。
上記制御によれば、電気自動車が加速運転又は定常運転である場合は、コントローラ70は、燃料電池1で必要な発電を行わせるために、エア入口弁28を全開に制御し、そのときの出力要求に応じて開度でエア出口弁29とエアバイパス弁30を制御すると共に、そのときの出力要求に応じた回転数にエアコンプレッサ26を制御するようになっている。一方、電気自動車が加速運転又は定常運転からの減速運転である場合は、コントローラ70は、燃料電池1での発電を中断するために、エア入口弁28を全開に維持し、エア出口弁29を全閉に制御し、エアバイパス弁30を開弁に制御するようになっている。そして、バッテリ4への充電が不可能である場合は、エア出口弁29が全閉になるのを待って、エア出口弁29の弁体39を更に閉弁方向へ回動付勢するためにエア出口弁29を全閉電流印加制御すると共に、エアバイパス弁30を閉弁に制御する。そして、コンプレッサ圧力Pinに応じてエアバイパス弁30を開弁又は閉弁に制御すると共に、コンプレッサ回転数Ncpに応じてエアコンプレッサ26の回転数を増加又は減少に制御するようになっている。一方、減速運転移行時に、バッテリ4への充電が可能である場合は、回生ブレーキ制御とバッテリ充電制御を実行すると共に、補機類5の発電要求の有無に応じてエア出口弁29、エアバイパス弁30及びエアコンプレッサ26を制御するようになっている。
ここで、この実施形態では、弁体39が全閉状態となるときに、リターンスプリング50による閉弁方向への回動付勢に加え、所定の条件下で弁体39を更に閉弁方向へ回動付勢するための別の回動付勢手段が設けられる。すなわち、この実施形態では、電気自動車が定常運転又は加速運転から減速運転へ移行するとき、コントローラ70は、エア出口弁29に対し全閉電流印加制御を実行するようになっている。ここで、一例として、コントローラ70、エア出口弁29のモータ42及び減速機構43等により本発明の別の回動付勢手段が構成される。
次に、この燃料電池システムにおける燃料電池1へのエア供給起動制御について説明する。図10に、このエア供給起動制御の内容をフローチャートにより示す。処理がこのルーチンへ移行すると、ステップ400で、コントローラ70は、電気自動車の起動、すなわち燃料電池1の起動が要求されたか否かを判断する。コントローラ70は、この判断結果が肯定の場合は処理をステップ410へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ540へ移行する。
ステップ410では、コントローラ70は、温度センサ71の検出値に基づいて電池温度Tfcを取り込む。
次に、ステップ420で、コントローラ70は、その電池温度Tfcが所定値T1より低いか否か、すなわち冷間時であるか否かを判断する。コントローラ70は、例えば、所定値T1として「5℃」を当てはめることができる。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ430へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ500へ移行する。
ステップ430では、コントローラ70は、全閉電流印加制御の実行フラグXCDYが「0」であるか否かを判断する。後述するように、コントローラ70は、この実行フラグXCDYを、全閉電流印加制御が実行された場合に「1」に、その制御が未実行の場合に「0」に設定するようになっている。コントローラ70は、この判断結果が肯定となる場合は処理をステップ440へ移行し、この判断結果が否定となる場合は処理をステップ500へ移行する。全閉電流印加制御の内容は、図9のステップ160で説明した内容と同じである。
ステップ440では、コントローラ70は、エア入口弁28の全閉電流印加制御を実行する。また、ステップ450で、コントローラ70は、エア出口弁29の全閉電流印加制御を実行する。
次に、ステップ460では、コントローラ70は、ステップ440及び450の処理を実行しながら所定時間が経過するのを待って処理をステップ470へ移行する。
ステップ470では、コントローラ70は、エア入口弁28の全閉電流印加制御を中止する。また、ステップ480で、コントローラ70は、エア出口弁29の全閉電流印加制御を中止する。
そして、ステップ490で、コントローラ70は、実行フラグXCDYを「1」に設定した後、処理をステップ400へ戻す。つまり、コントローラ70は、冷間時で全閉電流印加制御が未実行時である場合に、エア入口弁28及びエア出口弁29につき、所定時間だけ全閉電流印加制御を実行するのである。
一方、ステップ420又はステップ430から移行してステップ500〜530では、コントローラ70は、非冷間時又は全閉電流印加制御の実行後であることから、燃料電池1につき通常起動制御を実行する。
すなわち、ステップ500で、コントローラ70は、エア入口弁28を全開に制御する。また、ステップ510で、コントローラ70は、エア出口弁29を目標開度に制御する。次に、ステップ520で、コントローラ70は、エアバイパス弁30を、全閉に制御する。更に、ステップ530で、コントローラ70は、エアコンプレッサ26を目標回転数に制御した後、処理をステップ400へ戻す。
一方、ステップ400から移行してステップ540では、コントローラ70は、実行フラグXCDYを「0」に設定し、処理をステップ400へ戻す。
上記制御によれば、コントローラ70は、冷間時に燃料電池1を起動する場合は、エア入口弁28及びエア出口弁29の弁体39を、リターンスプリング50による閉弁方向への回動付勢に加え、モータ42により更に閉弁方向へ回動付勢するために、全閉電流印加制御を実行する。ここで、コントローラ70は、全閉電流印加制御の実行時間を、エア入口弁28とエア出口弁29で同じか、エア出口弁29の方をエア入口弁28より長くすることができる。また、コントローラ70は、全閉電流印加制御の印加電流値(デューティ値)を、エア入口弁28とエア出口弁29で同じか、エア出口弁29の方をエア入口弁28より大きくすることができる。また、コントローラ70は、電池温度Tfcが低いほど印加電流値を大きくしたり、全閉電流印加制御の実行時間を長くしたりすることができる。
以上説明したこの実施形態の二重偏心弁を含むエア出口弁29によれば、燃料電池システムでのエア供給制御において、全閉状態の弁体39に対し、開弁方向F1とは逆向きの閉弁方向へ向かう回動を規制するために、閉弁ストッパ65が、弁体39の第1の側部39Aに係合可能に設けられる。従って、例えば、電気自動車の回生ブレーキ時に、図3に示すように、燃料電池1からエア排出通路23へ高圧の排気圧力が作用して、全閉状態の弁体39がリップシール62から浮き上がろうとしても、弁体39の第1の側部39Aが閉弁ストッパ65に接触して弁体39のリップシール62からの浮き上がりが規制される。また、全閉状態の弁体39は、リターンスプリング50により、閉弁方向へ回動付勢される。従って、弁体39は、その第1の側部39Aの閉弁ストッパ65との接触部を支点として、閉弁方向へ回動付勢され、弁体39が微動してそのシール面39aがリップシール62に圧接し、弁体39との間でリップシール62の面圧が高められる。このため、全閉時に弁体39をリップシール62から浮き上がらせる圧力が弁体39に作用しても、その浮き上がりを抑えることができ、弁体39とリップシール62との間を封止することができ、弁体39とリップシール62との間からのエア漏れを防止することができる。すなわち、リップシール62によるシール性を向上させることができる。
また、この実施形態の構成によれば、エア供給制御及びエア供給起動制御において、弁体39が全閉状態となるときに、全閉電流印加制御が行われることにより、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢される。従って、例えば、弁体39が、更に強い排気圧力を受けてリップシール62から浮き上がろうとしても、弁体39が、その第1の側部39Aの閉弁ストッパ65との接触部を支点として、更に閉弁方向へ回動付勢され、弁体39との間でリップシール62の面圧が更に高められる。このため、全閉時に弁体39をリップシール62から浮き上がらせる圧力が更に大きくなっても、その浮き上がりを抑えることができ、リップシール62によるシール性を更に向上させることができる。
<第2実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第2実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下の説明において、第1実施形態と同等の構成要素については、同一の符号を付して説明を省略し、異なった点を中心に説明する。
第1実施形態におけるエア供給制御では、加速運転又は定常運転からの減速運転への移行時に、全閉電流印加制御を実行することにより、エア出口弁29の弁体39をモータ42により更に閉弁方向へ回動付勢するようにした。これにより、リップシール62の面圧が増大し、燃料電池1から高圧のエアがエア出口弁29の上流側流路36Aに作用しても、そのエアの漏れを抑えるようにしている。ところで、この回動付勢の際には、図3に2点鎖線で示すように、弁体39が閉弁方向はわずかに回動して、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲でリップシール62が変形するが、このリップシール62の変形が許容量を超えると、弁体39とリップシール62との間に隙間が生じるおそれがある。また、リップシール62を構成するゴム材は、温度で硬度が変化し、高温ほど柔らかくなり、変形し易くなる傾向がある。そのため、モータ42等による弁体39の回動付勢力は、リップシール62の硬度の変化に合わせて調整する必要がある。そこで、この実施形態では、コントローラ70が次のようなエア供給制御を実行するようになっている。
図11に、この実施形態のエア供給制御の内容をフローチャートにより示す。図11のフローチャートは、図9のフローチャートにおけるステップ160に替えて、ステップ600、610及び620が設けられる点で図9のフローチャートと構成が異なる。
処理がこのルーチンへ移行すると、コントローラ70は、ステップ100〜150の処理を実行した後、ステップ600で、燃料電池1の出口温度(電池出口温度)Tfcoを取り込む。コントローラ70は、温度センサ71の検出値に基づき、この電池出口温度Tfcoを求めることができる。
次に、ステップ610で、コントローラ70は、電池出口温度Tfcoに応じた全閉印加電流CDYを求める。コントローラ70は、例えば、図12に示すような全閉印加電流マップを参照することにより、この電池出口温度Tfcoに応じた全閉印加電流CDYを求めることができる。図12に示すように、このマップは、電池出口温度Tfcoが高くなるに連れて全閉印加電流CDYが曲線的に小さくなるように設定されている。
次に、ステップ620で、コントローラ70は、全閉に制御されているエア出口弁29を全閉印加電流CDYに制御する。すなわち、全閉状態においてリターンスプリング50により閉弁方向へ回動付勢されている弁体39を、モータ42を全閉印加電流CDYにより通電制御することで、更に閉弁方向へ回動付勢するのである。その後、コントローラ70は、ステップ170〜240の処理を実行する。
上記制御によれば、図9に示す制御に加え、コントローラ70は、エア出口弁29につき、加速運転等から減速運転へ移行したときであって、バッテリ4への充電が不可となる場合に、弁体39が全閉状態となるときに、流路36を流れるエアの温度に応じた力で弁体39を更に閉弁方向へ回動付勢するようにモータ42を制御するようになっている。詳しくは、コントローラ70は、電池出口温度Tfco(燃料電池1から排出されるエアの温度)が高くなるほど閉弁方向への回動付勢力が小さくなるようにモータ42を制御するように設定される。すなわち、コントローラ70は、電池出口温度Tfcoが高くなるほど、すなわち、リップシール62が流路36を流れる高温エアにより変形し易くなるほど、モータ42への全閉印加電流CDYを小さくし、モータ42等による弁体39の閉弁方向への回動付勢力を小さくするようになっている。図11において、ステップ600〜620で構成される制御は、図9におけるステップ160の全閉電流印加制御の一つの変形例である。
以上説明したこの実施形態の燃料電池システムの構成によれば、第1実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、弁ハウジング45の流路36を流れるエアの温度が高くなるほど、モータ42等による弁体39の閉弁方向への回動付勢力が小さくなる。従って、流路36を流れるエアの温度が高くなってリップシール62が柔らかくなり、変形し易くなっても、モータ42等による弁体39の閉弁方向への回動付勢力が小さくなる。このため、弁体39が、モータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、弁体39との接触によりリップシール62がその許容変形量を超えて変形し損傷することを防止することができる。この結果、弁体39とリップシール62との間からのエアの漏れを抑えることができる。
<第3実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第3実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図13に、この実施形態のエア出口弁29の主要部を、図3に準ずる断面図により示す。前記第1実施形態では、全閉電流印加制御により、弁体39が更に閉弁方向へ回動付勢されるときに、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲のリップシール62の変形が大きくなり、その変形許容量を超えるおそれがある。そこで、この実施形態では、前記第1実施形態の構成に加え、リップシール62における、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲に、シール部62bの一定以上の変形を規制するための変形規制手段が設けられる。この実施形態では、図13に示すように、リップシール62における、第2の側部39Bが接触する範囲に、ベース部62aとシール部62bとの間に介在するスペーサ63が固定される。このスペーサ63は、本発明の変形規制手段の一例に相当し、シール部62bの一定未満の変形は許容し、一定以上の変形を規制するようになっている。ここで、「一定以上」の「一定」とは、リップシール62の許容変形量に相当する。
この実施形態の構成によれば、前記各実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、エア出口弁29につき、リップシール62における、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲の一定以上の変形が変形規制手段としてのスペーサ63により規制される。従って、リップシール62の、スペーサ63が設けられる範囲の剛性が高くなり、エア出口弁29の全閉時に、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、リップシール62(シール部62b)の上記範囲が必要以上に変形することがない。このため、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、弁体39との接触によりリップシール62がその許容変形量を超えて変形し損傷することを防止することができる。この結果、弁体39とリップシール62との間からのエアの漏れを抑えることができる。
<第4実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第4実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図14に、この実施形態のエア出口弁29の主要部を、図3に準ずる断面図により示す。図15に、リップシール62の半分を平面図により示す。この実施形態でも、前記第1実施形態の構成に加え、リップシール62における、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲に、シール部62bの一定以上の変形を規制するための変形規制手段が設けられる。この実施形態では、図14、図15に示すように、リップシール62の、第2の側部39Bが接触する範囲(図15において紗を付した範囲)の厚み(ベース部62a及びシール部62bの肉厚)が、第1の側部39Aが接触する範囲(図15において紗を付さない範囲)の厚み(ベース部62a及びシール部62bの肉厚)よりも大きく設定される。この実施形態では、上記厚みの構成が、本発明の変形規制手段の一例に相当する。
この実施形態の構成によれば、第1実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、リップシール62における、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲の厚みが、第1の側部39Aが接触する範囲の厚みよりも大きく設定される。従って、リップシール62の、厚みが大きい範囲の剛性が高くなり、エア出口弁29の全閉時に、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、リップシール62(シール部62b)の上記範囲が必要以上に変形することがない。このため、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、弁体39との接触によりリップシール62がその許容変形量を超えて変形し損傷することを防止することができる。この結果、弁体39とリップシール62との間からのエアの漏れを抑えることができる。
<第5実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第5実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
図16に、リップシール62の半分を図15に準ずる平面図により示す。この実施形態でも、前記第1実施形態の構成に加え、リップシール62における、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲に、シール部62bの一定以上の変形を規制するための変形規制手段が設けられる。この実施形態では、図16に示すように、このリップシール62は、ベース部62aとシール部62bとの間に複数のリブ62cが間隔をおいて配置される。そして、リップシール62の、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲(図16の左側の範囲)におけるリブ62cの間隔D1が、第1の側部39Aが接触する範囲(図16の右側の範囲)におけるリブ62cの間隔D2よりも狭く設定される。この実施形態では、上記リブ62cの構成が、本発明の変形規制手段の一例に相当する。
この実施形態の構成によれば、第1実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、リップシール62における、弁体39の第2の側部39Bが接触する範囲におけるリブ62cの間隔D1が、第1の側部39Aが接触する範囲におけるリブ62cの間隔D2よりも狭く設定される。従って、リップシール62の、間隔D1が狭い範囲の剛性が高くなり、エア出口弁29の全閉時に、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、リップシール62(シール部62b)の上記範囲が必要以上に変形することがない。このため、弁体39がモータ42等により更に閉弁方向へ回動付勢されても、弁体39との接触によりリップシール62がその許容変形量を超えて変形し損傷することを防止することができる。この結果、弁体39とリップシール62との間からのエアの漏れを抑えることができる。
<第6実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第6実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
前記各実施形態では、図3に示すように、エア排出通路23が垂直に配置され、その途中にエア出口弁29が、流路36を垂直に配置して設けられる。従って、燃料電池システムの停止中(エア出口弁29の全閉時でもある。)には、その上流側流路36Aに燃料電池1で発生した生成水が溜まり、その生成水が氷点下で凍結することがある。このとき、弁座38、弁体39及びリップシール62が生成水と一緒に凍結することがある。この場合に、エア出口弁29を全閉状態から開弁するには、弁体39を凍結に打ち勝って開弁方向へ回動させる必要があり、開弁に必要な駆動トルクが大きくなってしまう。そこで、この実施形態では、前記第1及び第2の実施形態の構成に加え、エア出口弁29につき、次のような構成を採用している。
図17及び図18に、エア出口弁29(弁部31)とエア排出通路23の配置状態を断面図により示す。図17は、エア出口弁29の全閉状態を示し、図18は、エア出口弁29が開弁し始めた状態を示す。図17、図18は、エア出口弁29の上流側に燃料電池1からの生成水が溜まり、その生成水が氷結した状態を示す。この実施形態では、図17に示すように、エア排出通路23を左下がりに斜めに配置すると共に、エア出口弁29の弁部31につき、上流側流路36Aが傾斜の上側に、下流側流路36Bが傾斜の下側に配置される。また、全閉状態からの弁体39の開弁方向F1が、生成水の氷塊HKと接する第2の側部39Bが、氷塊HKから離れる方向に設定される。すなわち、エア出口弁29の上流側流路36Aが下流側流路36Bより高くなるように流路36が傾斜して設けられる。また、上流側流路36Aに隣接して上流側流路36Aより上流のエア排出通路23の下側に水溜まり部64を設けられる。そして、弁体39の第2の側部39Bが水溜まり部64に隣接して配置される。そして、全閉状態からの弁体39の開弁方向F1が、第2の側部39Bが水溜まり部64から離れる方向に設定される。
この実施形態の構成によれば、前記各実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、図17、図18に示すように、水溜まり部64が、位置的に低い上流側流路36Aの一部分に隣接することになり、弁体39の第2の側部39Bの一部分が水溜まり部64に隣接することになる。また、全閉状態からの弁体39の開弁方向F1が、第2の側部39Bが水溜まり部から離れる方向に設定されるので、開弁時には、第2の側部39Bの一部分が水溜まり部64から離れることになる。従って、水溜まり部64に溜まった生成水が氷結しているときは、弁体39の開弁初期に第2の側部39Bの一部分を氷塊HKから切り離すための開弁トルクが増加するだけとなる。これが、仮に、図3において、上流側流路36Aの全体に生成水が溜まり、その生成水が氷結した場合には、弁体39を開弁方向へ回動させるためには、氷塊を破壊しながら弁体39を開弁させなければならず、大きな開弁トルクが必要になる。これに対し、この実施形態では、生成水の氷結時に、弁体39を全閉状態から開弁させるのに必要な開弁トルクを低減することができ、エア出口弁29に必要な駆動エネルギーを低減することができる。
<第7実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第7実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
この実施形態では、エア排出通路23におけるエア出口弁29の配置の点で第6実施形態と構成が異なる。図19及び図20に、エア出口弁29(弁部31)とエア排出通路23の配置状態を断面図により示す。図19は、エア出口弁29の全閉状態を示し、図20は、エア出口弁29が開弁し始めた状態を示す。この実施形態では、前記第1及び第2の実施形態の構成に加え、次のような構成を有する、すなわち、図19、図20に示すように、エア出口弁29の弁部31において、弁座38を境とする上流側流路36Aと下流側流路36Bの配置が、図17、図18のそれとは逆になっている。そして、上流側流路36Aに弁体39が配置される。また、エア排出通路23が右下がりに斜めに配置される。更に、全閉状態からの弁体39の開弁方向F1が、水溜まり部64に隣接して配置された第1の側部39A(閉弁ストッパ65と接触する側)が、水溜まり部64から離れる方向に設定される。
この実施形態の構成によれば、前記第1及び第2の実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、図19、図20に示すように、水溜まり部64が、位置的に低い上流側流路36Aの一部分に隣接することになり、弁体39の第1の側部39Aの一部分が水溜まり部64に隣接することになる。また、全閉状態からの弁体39の開弁方向F1が、第1の側部39Aが水溜まり部から離れる方向に設定されるので、開弁時には第1の側部39Aの一部分が水溜まり部64から離れることになる。従って、水溜まり部64に溜まった生成水が氷結しているときは、弁体39の開弁初期に第1の側部39Aの一部分を氷塊HKから切り離すための開弁トルクが増加するだけとなる。このため、生成水の氷結時に、弁体39を全閉状態から開弁させるのに必要な開弁トルクを低減することができ、エア出口弁29に必要な駆動エネルギーを低減することができる。
<第8実施形態>
次に、この発明の二重偏心弁を燃料電池システムに使用されるエア出口弁に具体化した第8実施形態につき図面を参照して詳細に説明する。
この実施形態では、エア排出通路23の構成の点で第6実施形態と異なる。図21に、エア出口弁29(弁部31)とエア排出通路23の配置状態を、図17、図18に準ずる断面図により示す。第6実施形態では、図18に示すように、弁体39の開弁方向F1が、その第2の側部39Bが水溜まり部64から離れる方向に設定される。しかしながら、図21に示すように、開弁状態の弁体39が、全閉へ向けて閉弁するとき、すなわち閉弁方向F2へ回動するときに、溶けた氷塊HKの一部が、弁体39とリップシール62との間に挟まれるおそれがある。この場合、挟まれた氷塊HKが小さければ、その氷塊HKを、弁体39の閉弁トルクにより、弁体39とリップシール62との間で破壊することができる。しかし、氷塊HKが大きくなると、弁体39の閉弁トルクによって氷塊HKを破壊することが難しくなり、リップシール62を損傷させるおそれがある。そこで、この実施形態では、前記第1及び第2の実施形態の構成に加え、エア出口弁29につき、次のような構成を採用している。
図22及び図23に、エア出口弁29(弁部31)とエア排出通路23の配置状態を断面図により示す。図22は、図18に準じ、エア出口弁29が開弁し始めた状態を示す。図23は、エア出口弁29が開弁状態から全閉へ向けて閉弁する状態を示す。図22、図23に示すように、この実施形態では、エア出口弁29の上流側流路36Aに隣接するエア排出通路23の水溜まり部64の中に、水溜まり部64に溜まった生成水の氷塊HKを係止するために、配管の内側へ突出する複数の凸部66が設けられる。この実施形態で、これら凸部66は、平行に並ぶ板状リブにより構成され、エア排出通路23の内壁に固定される。
この実施形態の構成によれば、第6実施形態の作用及び効果に加え、次のような作用及び効果を有する。すなわち、エア出口弁29の上流側流路36Aに隣接したエア排出通路23の水溜まり部64に複数の凸部66が設けられるので、水溜まり部64に溜まった生成水による氷塊HKが溶け始めても、図23に示すように、その氷塊HKが凸部66に係止され、保持される。このため、氷塊HKから溶けた水分のみが弁体39とリップシール62との間へ流れ、両者39,62の間へ流れる氷塊HKが少なくなり、両者39,62の間での氷塊HKの挟み込みを低減することができる。
なお、この発明は前記各実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱することのない範囲で構成の一部を適宜変更して実施することもできる。
(1)前記第8実施形態では、エア出口弁29の上流側流路36Aに隣接したエア排出通路23の水溜まり部64の中に複数の凸部66を設けた。これに対し、図24に、エア排出通路23の一部を断面図で示すように、凸部66の先端部を鈎状に形成することもできる。すなわち、凸部66の先端部に下流側へ向けた折り曲げ部66aを設ける。この折り曲げ部を上流側へ向けることもできる。これらの場合、凸部66から抜けようとする氷塊が、鈎状の先端部(折り曲げ部66a)に引き掛かる。そのため、凸部66からの氷塊HKの抜け落ちをより確実に防止することができる。
(2)前記各実施形態では、本発明の二重偏心弁を、燃料電池システムのエア排出通路23に設けられるエア出口弁29に具体化した。これに対し、本発明の二重偏心弁を、排気還流(EGR)装置のEGR通路に設けられるEGR弁に具体化することもできる。
(3)前記第6〜第8の実施形態では、傾斜したエア排出通路23の内周の一部を水溜まり部64としたが、傾斜したエア排出通路の一部に凹部を設けることにより、水溜まり部の容積を拡大することもできる。