以下、本発明を実施するための形態(以下、単に「本実施形態」という。)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本実施形態のハードコート塗膜は、ハードコート層を含み、微小硬度試験から測定される弾性回復率WERが0.55以上であり、かつ最大押込み変形量hmaxが0.20〜0.50μmである。このように構成されているため、本実施形態に係るハードコート塗膜は、単層でも優れた擦過性と柔軟性を両立でき、透明性にも優れる。
[微小硬度試験]
本実施形態における微小硬度試験とは、フィッシャー・インストルメンツ製フィッシャースコープ(型番:H−100CS)を用いた押込み試験(試験条件;圧子:ビッカース四角錐ダイヤモンド圧子、荷重条件:1mN/20sec、クリープ:5sec、除荷条件:−1mN/20sec、測定荷重範囲0.4mN〜1mN、荷重時および除荷時にそれぞれ200点ずつ等間隔に測定、クリープ時に10点等間隔に測定)をいう。この微小硬度試験は、一定荷重を加えてできる圧痕(くぼみ)の面積又は深さから変形のしにくさ(硬さ)を評価するものであり、図1のようなF(荷重)−h(押込み変形量)曲線が得られる。ここで図1において、塗膜に圧子で連続的に0(ゼロ)からFまで荷重をかけたときの塗膜の押込み変形量を本実施形態でいう最大押込み変形量hmaxとすると、塗膜がhmax変形するために使用されたエネルギー(初期塑性変形エネルギー:Ep,initial)は下記式(1)で与えられる。
その後、除荷(荷重ゼロ)したときに変形量がhminまで戻るとすると、hmaxからhminまで変形量が戻る際に使用されたエネルギー(弾性回復エネルギー:Ee)は下記式(2)で与えられる。
したがって、最終的にこの微小硬度試験で塑性変形に使用されたエネルギーEpは、下記式(3)で与えられる。
Ep=Ep,initial−Ee (3)
本実施形態における弾性回復率WERは、微小硬度試験で消費された全エネルギーのうち弾性回復性に使用されたエネルギーの割合を示したものをいい、下記式(4)で与えられる。
WER=Ee/(Ee+Ep) (4)
ここで、同様の押込み試験により得られうる従来の材料硬さの指標であるマルテンス硬さやビッカース硬さと、本実施形態における弾性回復率及び最大押込み変形量との違いについて説明する。マルテンス硬さは、図1の荷重Fと最大押込み変形量hmaxの乗で表される材料硬さであり、押込み試験より簡便に材料の硬さを計算するといった特長があるが、材料の弾性・塑性が考慮されないため、同じ荷重を与えたときの変形量が同じでも、その後、ゴムのように変形が回復する材料と柔らかいゼリーのように変形が回復しない材料の差を判別することができない。
ビッカース硬さは、押込み試験後に塗膜表面に形成された圧痕の大きさを試験機に付随している顕微鏡で観察し、圧痕の対角線長さから求めた硬度で、マルテンス硬さと比較して弾性を考慮した物性値となっているものの、F2(h)が線形関数で無い場合を考慮すると、塗膜の塑弾性が必ずしも結果に反映されるとはいえず、正確さからは改良の余地があるといえる。
一方、本実施形態における弾性回復率及び最大押込み変形量により硬度を評価した場合、例えば、弾性回復率が同様に高い材料であっても最大押込み量が大きい場合は、ゴムのような材料であることがあることが判別できたり、最大押込み量が小さい場合は、鋼金属のような硬い材料であることが分かる。
ここで、本実施形態における弾性回復率WERのとりうる値は0≦WER≦1であり、ハードコート塗膜が衝撃を受けた時に傷がつかない(つまり耐擦過性の)観点から、当該弾性回復率WERが0.55以上であり、この範囲であれば値が大きいほど好ましい。より具体的には、弾性回復率WERが0.60以上であると好ましく、より好ましくは0.65以上である。また本実施形態のハードコート塗膜は、衝撃を受けた時の衝撃吸収能の観点から、最大押込み変形量hmaxが0.20〜0.50であり、好ましくは最大押込み変形量hmaxが0.20〜0.40、より好ましくは最大押込み変形量hmaxが0.25〜0.40である。
ハードコート塗膜の弾性回復性は及び最大押込み変形量は、具体的には、後述する実施例に記載の方法により測定される。なお、弾性回復率及び最大押込み変形量は、例えば、架橋密度、架橋剤の種類、塗膜乾燥及び熱処理の温度・時間、架橋剤の添加量、無機酸化物(A)/加水分解性珪素化合物(B)/重合体粒子(C)の存在比、各成分の粒子径、塗膜厚、加水分解性珪素化合物の官能基数やアルキル基の長さ等によって適宜調整できる。より具体的には、例えば、後述する無機酸化物(A)及び加水分解性珪素化合物(B)に対する重合体粒子(C)の組成比を増加させること、多官能の加水分解性珪素化合物(B)を使用すること(後述する加水分解性珪素化合物(b3)よりも加水分解性珪素化合物(b2)が好ましい)、後述する式(6)で表される加水分解性珪素化合物(b2)におけるR2の炭素数を1〜6に調整すること等により、弾性回復率の値が増加する傾向にある。また、無機酸化物(A)及び重合体粒子(C)の粒径を小さくすること、無機酸化物(A)の含有量を増加させること、ハードコート塗膜の膜厚を増加させること、ハードコート塗膜製造の際に熱処理の温度及び時間を増加させること等により、「最大押込み変形量」の値が減少する傾向にある。
本実施形態のハードコート塗膜は、擦過性の観点から、下記で示されるヘイズ変化量が5.0以下であることが好ましく、より好ましくは3.0以下であり、さらに好ましくは1.5以下である。
<ヘイズ変化量>
JIS K7136に規定される方法により、下記スチールウール試験前のハードコート塗膜のヘイズ値(H0)を測定する。更に、スチールウール試験として、ハードコート塗膜をスチールウール(#0)を用いて圧力は130〜150gf/cm2、速度は約1cm/秒にて往復5回擦る。前記スチールウール試験により表面に生じたスチールウールの粉を除去した後、再度ヘイズ値を測定する(H1)。スチールウール試験前後のヘイズの差(H1−H0)をヘイズ変化量と定義する。
[ハードコート塗膜の厚み]
本実施形態のハードコート塗膜は、その膜厚が0.1μm〜200μmであると好ましく、1μm〜150μmであるとより好ましく、5μm〜100μmであると更に好ましく、5μm〜50μmであると特に好ましい。膜厚が0.1μm〜200μmの範囲にあることにより、光学特性を低下させずに、より良好な擦過性を発現できる傾向にある。ここで、ハードコート塗膜の膜厚は、その膜を50%RHの恒温恒湿の室内で十分に静置した後、公知の膜厚計(例えば、株)スペクトラスコープ製、品番:MHAA−100W)を用いて測定される値をいう。
ハードコート塗膜の膜厚は、例えば、塗工溶液の固形分量、塗工WET膜厚、塗工速度、塗膜成分のモルフォロジ制御等によって、その数値を上記範囲に調整することができる。
[ハードコート塗膜の層構成]
本実施形態に係るハードコート塗膜は、ハードコート層の少なくとも1面に形成された粘着剤層をさらに有してもよい。粘着剤層としては、一般的に使用される粘着剤を用いることができ、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴム・エラストマーなどが挙げられるが、アクリル系樹脂、アクリルウレタン系樹脂、ウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂等が好ましい。また、上記粘着剤は、必要に応じて、任意の適切な添加剤を含んでもよい。添加剤としては、以下に限定されないが、例えば、架橋剤、粘着付与剤、可塑剤、顔料、染料、充填剤、老化防止剤、導電材、紫外線吸収剤、光安定剤、剥離調整剤、軟化剤、界面活性剤、難燃剤、酸化防止剤等が挙げられる。架橋剤としては、イソシアネート系架橋剤、エポキシ系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、オキサゾリン系架橋剤、アジリジン系架橋剤、アミン系架橋剤過酸化物系架橋剤、メラミン系架橋剤、尿素系架橋剤、金属アルコキシド系架橋剤、金属キレート系架橋剤、金属塩系架橋剤等が挙げられる。
上記粘着剤層の厚みは、好ましくは0.1μm〜100μmあり、より好ましくは0.5μm〜50μmである。
また本実施形態に係るハードコート塗膜は、ハードコート層の少なくとも1面に機能層をさらに有してもよい。機能層としては、以下に限定されないが、例えば、反射防止層、防汚層、偏光層、衝撃吸収層等が挙げられる。
[無機酸化物(A)]
本実施形態におけるハードコート層は、無機酸化物(A)を含むことが好ましい。無機酸化物(A)を含む場合、塗膜強度の発現に寄与する他、粒子表面の水酸基の親水性により、基材との接着性を発現したり、ハードコート塗膜の耐汚染性が向上する傾向にある。
本実施形態における無機酸化物(A)の具体例としては、以下に限定されないが、ケイ素、アルミニウム、チタン、ジルコニウム、亜鉛、スズ、インジウム、ガリウム、ゲルマニウム、アンチモン、モリブデン等の酸化物が挙げられる。これらは単体であっても混合物でもよいが、後述する加水分解性珪素化合物(B)の加水分解反応及び又は縮合反応が穏やかで、ハードコート塗膜の原料組成物が取扱いやすいという観点から、シリカが好ましく、酸性のコロイダルシリカがより好ましい。無機酸化物(A)としてコロイダルシリカを用いる場合、水性分散液の状態であることが好ましく、酸性、塩基性のいずれであっても用いることができ、混合する重合体粒子(C)及び/又は加水分解性珪素化合物(B)の安定領域に応じて、適宜選択することができる。
本実施形態における無機酸化物(A)の粒子径は、1〜400nmであることが好ましく、より好ましくは、1〜100nm、更に好ましくは5〜50nm、より更に好ましくは8〜20nmである。粒子径が1nm以上の場合、ハードコート塗膜の原料組成物の貯蔵安定性が良好となり、400nm以下の場合、透明性が良好となる傾向にある。
本実施形態で好適に用いられる水を分散溶媒とする酸性のコロイダルシリカとしては、特に限定されないが、例えば、市販品として日産化学工業(株)製スノーテックス(商標)−O、スノーテックス−OS、旭電化工業(株)製アデライト(商標)AT−20Q、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール(商標)20H12、クレボゾール30CAL25などが挙げられる。
また、塩基性のコロイダルシリカとしては、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、アミンの添加で安定化したシリカがあり、特に限定されないが、例えば、日産化学工業(株)製スノーテックス−20、スノーテックス−30、スノーテックス−C、スノーテックス−C30、スノーテックス−CM40、スノーテックス−N、スノーテックス−N30、スノーテックス−K、スノーテックス−XL、スノーテックス−YL、スノーテックス−ZL、スノーテックスPS−M、スノーテックスPS−Lなど、旭電化工業(株)製アデライトAT−20、アデライトAT−30、アデライトAT−20N、アデライトAT−30N、アデライトAT−20A、アデライトAT−30A、アデライトAT−40、アデライトAT−50など、クラリアントジャパン(株)製クレボゾール30R9、クレボゾール30R50、クレボゾール50R50など、デュポン社製ルドックス(商標)HS−40、ルドックスHS−30、ルドックスLS及びルドックスSM−30などが挙げられる。
また、水溶性溶媒を分散媒体とするコロイダルシリカとしては、特に限定されないが、例えば、日産化学工業(株)製MA−ST−M(粒子径が20〜25nmのメタノール分散タイプ)、IPA−ST(粒子径が10〜15nmのイソプロピルアルコール分散タイプ)、EG−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコール分散タイプ)、EG−ST−ZL(粒子径が70〜100nmのエチレングリコール分散タイプ)、NPC−ST(粒子径が10〜15nmのエチレングリコールモノプロピルエーテール分散タイプ)などが挙げられる。
また、これらコロイダルシリカは安定剤として無機塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなど)や有機塩基(テトラメチルアンモニウムなど)を含んでいてもよい。
さらに、本実施形態における無機酸化物(A)の形態は、ハードコート塗膜の透明性及び硬度の観点から、球形であることが好ましい。
[加水分解性珪素化合物(B)]
本実施形態におけるハードコート層は、加水分解性珪素化合物(B)を含むことが好ましい。加水分解性珪素化合物(B)を含む場合、ハードコート塗膜により良好な弾性回復性が付与されるとともにより良好な擦過性が発現する他、ハードコート塗膜の耐薬品性、耐候性、耐バリア性が向上する傾向にある。
加水分解性珪素化合物(B)としては、特に限定されないが、例えば、下記式(5)で表される加水分解性珪素化合物(b1)、下記式(6)で表される加水分解性珪素化合物(b2)、下記式(7)で表される加水分解性珪素化合物(b3)からなる群より選ばれる1種以上を用いることができる。
R1 nSiX4-n 式(5)
X3Si−R2 n−SiX3 式(6)
R3−(O−Si(OR3)2)n−OR3 式(7)
上記式(5)中、R1は水素原子、あるいは、ハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有していてもよい、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基もしくはアリール基を表す。Xは、加水分解性基を表し、nは0〜3の整数である。加水分解性基は加水分解により水酸基が生じる基であれば特に限定されず、例えば、ハロゲン原子、アルコキシ基、アシルオキシ基、アミノ基、フェノキシ基、オキシム基等が挙げられる。
上記式(6)中、Xは加水分解性基を表し、R2は炭素数1〜6のアルキレン基又はフェニレン基を表し、nは0又は1である。
上記式(7)中、R3は炭素数1〜6のアルキル基を表し、nは2〜8の整数である。
加水分解性珪素化合物(b1)及び(b2)の具体例としては、以下に限定されないが、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ(n−プロポキシ)シラン、テトラ(i−プロポキシ)シラン、テトラ(n−ブトキシ)シラン、テトラ(i−ブトキシ)シラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−tert−ブトキシシラン、トリメトキシシラン、トリエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、プロピルトリメトキシシラン、プロピルトリエトキシシラン、イソブチルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメトキシシラン、ジエトキシシラン、メチルジメトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ビス(トリメトキシシリル)メタン、ビス(トリエトキシシリル)メタン、ビス(トリフェノキシシリル)エタン、1,3−ビス(トリフェノキシシリル)プロパン、1,4−ビス(トリメトキシシリル)ベンゼン、1,4−ビス(トリエトキシシリル)ベンゼン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、テトラアセトキシシラン、テトラキス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラキス(トリフルオロアセトキシ)シラン、トリアセトキシシラン、トリス(トリクロロアセトキシ)シラン、トリス(トリフルオロアセトキシ)シラン、メチルトリアセトキシシラン、メチルトリス(トリクロロアセトキシ)シラン、テトラクロロシラン、テトラブロモシラン、テトラフルオロシラン、トリクロロシラン、トリブロモシラン、メチルトリフルオロシラン、テトラキス(メチルエチルケトキシム)シラン、トリス(メチルエチルケトキシム)シラン、フェニルトリス(メチルエチルケトキシム)シラン、ビス(メチルエチルケトキシム)シラン、メチルビス(メチルエチルケトキシム)シラン、ヘキサメチルジシラン、ヘキサメチルシクロトリシラザン、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン、ビス(ジメチルアミノ)メチルシラン、ビス(ジエチルアミノ)メチルシラン等が挙げられる。
前記式(7)で表される加水分解性珪素化合物(b3)の具体例としては、以下に限定されないが、テトラメトキシシランの部分加水分解縮合物(例えば多摩化学工業社製の商品名「Mシリケート51」、コルコート社製の商品名「MSI51」、三菱化学社製の商品名「MS51」、同「MS56」)、テトラエトキシシランの部分加水分解縮合物(多摩化学工業社製の商品名「シリケート35」、同「シリケート45」、コルコート社製の商品名「ES140」、同「ES148」)、テトラメトキシシランとテトラエトキシシランとの共部分加水分解縮合物(多摩化学工業社製の商品名「FR−3」、コルコート社製の商品名「EMSi48」)等が挙げられる。
本実施形態において、弾性回復率WERの向上の観点から、加水分解性珪素化合物(B)は、下記式(b1)で表される原子団を1分子中に3〜20個有する多官能シランであることが好ましい。
R1 nSiX3-nA− (b1)
(式(b1)中、R1は水素、炭素数1〜10のアルキル基、アルケニル基又はアルキニル基、アリール基を表し、これらの置換基上にさらにハロゲン基、ヒドロキシ基、メルカプト基、アミノ基、(メタ)アクリロイル基又はエポキシ基を有していてもよく、Xは加水分解基を表し、nは0〜2の整数であり、Aはメチレン基を2〜20個含む部位であり、置換基を有してもよい。)
本実施形態において、成膜性および最大押込み変形量の制御の観点から、ハードコート層中、無機酸化物(A)100質量部に対して、加水分解性珪素化合物(B)が5質量部以上含まれることが好ましく、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは35質量部以上である。
[重合体粒子(C)]
本実施形態におけるハードコート層は、重合体粒子(C)を含むことが好ましい。重合体粒子(C)を含む場合、ハードコート塗膜により良好な柔軟性が付与され、特に樹脂基材に塗布する場合に生じうる塗膜のヒビ・欠陥が抑制される傾向にある他、重合体粒子(C)は、無機酸化物(A)との相互作用(例えば水素結合)をコントロールすることでハードコート塗膜の塑性変形性を調整したり、基材との接着性を発現する役割を担う。
本実施形態における重合体粒子(C)と無機酸化物(A)との相互作用としては、特に限定されないが、例えば、水素結合や化学結合、イオン結合等が挙げられる。具体的には、無機酸化物(A)が有する水酸基由来のアニオン性官能基と、重合体粒子(C)が有するアミノ基由来のカチオン性官能基とのイオン結合や、重合体粒子(C)が有するアミド基、エーテル基との水素結合や、無機酸化物(A)が有する水酸基と、重合体粒子(C)を構成する加水分解性金属化合物の重合生成物との縮合(化学結合)等が挙げられる。
本実施形態において、弾性回復性の観点から、ハードコート層中、重合体粒子(C)100質量部に対して、加水分解性珪素化合物(B)が5質量部以上含まれることが好ましく、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは35質量部以上である。
本実施形態における重合体粒子(C)は、以下に示す特定の重合体により構成されているものをいう。当該重合体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリ(メタ)アクリレート系、ポリ(メタ)アクリレート−シリコーン系共重合体、ポリビニルアセテート系、ポリブタジエン系、ポリ塩化ビニル系、塩素化ポリプロピレン系、ポリエチレン系、ポリスチレン系、ポリスチレン−(メタ)アクリレート系共重合体、ロジン系誘導体、スチレン−無水マレイン酸共重合体のアルコール付加物等から構成される重合体等が挙げられる。
前記重合体粒子(C)は、塗膜強度及び基材との接着性の観点から、以下のビニル単量体(c2)を重合単量体して含むことが好ましい。
ビニル単量体(c2)には、後述する2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)や、アミノ基を有するビニル単量体、これらと共重合可能なその他のビニル単量体(c3)が含まれ得る。
また、当該ビニル単量体(c2)の質量比率は、均一な塗膜を形成する観点から、重合体粒子(C)中において20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。
前記重合体粒子(C)は、塗膜強度の観点から、加水分解性珪素化合物(c1)を含むことが好ましく、さらに好ましくは、前記ビニル単量体(c2)として特に2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)を、重合単量体として含むことが好ましい。具体的には、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物(c1)と、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)とを重合して得られる、重合体エマルジョン粒子であることがより好ましい。
重合体粒子(C)は、前記(c1)と(c2−2)とが重合したもの、(c1)、(c2−2)がそれぞれ重合したものの混合物、複合物のいずれであってもよく、これらの併用であってもよい。
前記重合体粒子(C)は、塗膜強度及び基材との接着性の観点から、前記ビニル単量体(c2)としてアミノ基を有するビニル単量体(c2−3)を、重合単量体として含むことが好ましい。
前記のように、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物(c1)と、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)とを重合して重合体粒子(C)を製造する場合に用いる加水分解性珪素化合物(c1)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、下記式(8)で表される化合物やその縮合生成物、シランカップリング剤等が挙げられる。
SiWxRy ・・・(8)
(式(8)中、Wは炭素数1〜20のアルコキシ基、水酸基、炭素数1〜20のアセトキシ基、ハロゲン原子、水素原子、炭素数1〜20のオキシム基、エノキシ基、アミノキシ基、アミド基からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表す。Rは、直鎖状又は分岐状の炭素数が1〜30個のアルキル基、炭素数5〜20のシクロアルキル基、及び置換されていないか又は炭素数1〜20のアルキル基若しくは炭素数1〜20のアルコキシ基若しくはハロゲン原子で置換されている炭素数6〜20のアリール基からなる群より選ばれる少なくとも1種の炭化水素基を表す。xは1以上4以下の整数であり、yは0以上3以下の整数である。また、x+y=4である。)
前記加水分解性珪素化合物(c1)の一例である前記シランカップリング剤とは、ビニル重合性基、エポキシ基、アミノ基、メタクリル基、メルカプト基、イソシアネート基等の有機物と反応性を有する官能基が分子内に存在する、加水分解性珪素化合物である。
前記加水分解性珪素化合物(c1)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ−n−プロピルジメトキシシラン、ジ−n−プロピルジエトキシシラン、ジイソプロピルジメトキシシラン、ジイソプロピルジエトキシシラン、ジ−n−ブチルジメトキシシラン、ジ−n−ブチルジエトキシシラン、ジ−n−ペンチルジメトキシシラン、ジ−n−ペンチルジエトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−ヘキシルジエトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジメトキシシラン、ジ−n−ヘプチルジエトキシシラン、ジ−n−オクチルジメトキシシラン、ジ−n−オクチルジエトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ−n−シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等のジアルコキシシラン類;トリメチルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン等のモノアルコキシシラン類等が挙げられる。また、これらの加水分解性珪素化合物(c1)は、単体の使用であっても、2種以上の混合物を使用してもよい。
加水分解性珪素化合物(c1)は、縮合生成物として使用してもよく、かかる場合、縮合生成物のGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)測定によるポリスチレン換算重量平均分子量は、好ましくは200〜5000、より好ましくは300〜1000である。
上述の加水分解性珪素化合物(c1)の中で、フェニル基を有する珪素アルコキシド、例えばフェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン等は、水及び乳化剤の存在下における重合安定性に優れるため好ましい。
また、上述の加水分解性珪素化合物(c1)の中で、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、2−トリメトキシシリルエチルビニルエーテル等のビニル重合性基を有するシランカップリング剤や、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン等のチオール基を有するシランカップリング剤は、上述した2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)と共重合又は連鎖移動反応して化学結合を生成することが可能である。
加水分解性珪素化合物(c1)の使用量は、得られる重合体粒子(C)に対する質量比(c1)/(C)として0.005以上0.5以下の範囲となることが好ましい。
なお、重合体粒子(C)の質量は、上述した2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)や、アミノ基を有するビニル重合体(c2−3)、これらと共重合可能なその他のビニル単量体(c3)、さらには加水分解性珪素化合物(c1)が全て重合した場合に得られる重合生成物の質量であるものとする。
前記加水分解性珪素化合物(c1)としては、ビニル重合性基を有するシランカップリング剤を用いることが、本実施形態のハードコート塗膜の耐候性の観点からより好ましい。
前記加水分解性珪素化合物(c1)の含有量は、重合安定性の観点から、重合体粒子(C)100質量%に対して、0.01質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上30質量%以下がより好ましい。
重合体粒子(C)を製造するために用いる、前記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)としては、例えば、N−メチルアクリルアミド、N−メチルメタアクリルアミド、N−エチルアクリルアミド、N,N−ジメチルアクリルアミド、N,N−ジメチルメタアクリルアミド、N,N−ジエチルアクリルアミド、N−エチルメタアクリルアミド、N−メチル−N−エチルアクリルアミド、N−メチル−N−エチルメタアクリルアミド、N−イソプロピルアクリルアミド、N−n−プロピルアクリルアミド、N−イソプロピルメタアクリルアミド、N−n−プロピルメタアクリルアミド、N−メチル−N−n−プロピルアクリルアミド、N−メチル−N−イソプロピルアクリルアミド、N−アクリロイルピロリジン、N−メタクリロイルピロリジン、N−アクリロイルピペリジン、N−メタクリロイルピペリジン、N−アクリロイルヘキサヒドロアゼピン、N−アクリロイルモルホリン、N−メタクリロイルモルホリン、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、N,N’−メチレンビスアクリルアミド、N,N’−メチレンビスメタクリルアミド、N−ビニルアセトアミド、ダイアセトンアクリルアミド、ダイアセトンメタアクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタアクリルアミド等が挙げられる。
重合体粒子(C)を製造するために用い得る、ビニル単量体(c2−2)のアミド基は、2級及び/又は3級アミド基であるが、3級アミド基を有するビニル単量体を用いると、得られる重合体粒子(C)の、無機酸化物(A)との間の水素結合性が強まる傾向にあり好ましい。その中でも、特に、N,N−ジエチルアクリルアミドは、水及び乳化剤の存在下における重合安定性に非常に優れるとともに、上述した加水分解性珪素化合物(c1)の重合生成物の水酸基や無機酸化物(A)の水酸基と強固な水素結合を形成することが可能であるため、さらに好ましい。
重合体粒子(C)を製造するために用いる、前記アミノ基を有するビニル単量体(c2−3)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート 四級化物などが挙げられる。
なお、上述した加水分解性珪素化合物(c1)としては、上述した各種化合物の他、ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤を、単独で又は上述した珪素アルコキシド、その他のシランカップリング剤、及びそれらの縮合生成物と混合若しくは複合化させたものも用いることができる。
また、重合体粒子(C)が、加水分解性珪素化合物(c1)の重合生成物と2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)の重合生成物とにより構成される場合、これらは、水素結合や化学結合により複合化していてもよい。
なお、前記(c1)や(c2−2)等は、水素結合や化学結合等の各種結合によって複合化されていることが好ましいが、その結合の形態や状態等について何らかの限定を行うものではない。さらに、重合体粒子(C)中の一部分のみにおいて上記したような複合化が行われていてもよい。
重合体粒子(C)として、ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤である加水分解性珪素化合物(c1)と、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)とを重合して得られたものを用いると、耐候性、耐薬品性、光学特性、強度等がさらに優れるハードコート塗膜を形成できるため、より好ましい。
ビニル重合性基やチオール基を有するシランカップリング剤である加水分解性珪素化合物(c1)の配合量は、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)100質量部に対して0.1質量部以上100質量部以下であることが重合安定性の観点から好ましく、0.5質量部以上50質量部以下がより好ましく、0.5質量部以上5質量部以下がさらに好ましい。
本実施形態のハードコート塗膜において、重合体粒子(C)を得るために用い得る2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)は、これと共重合可能なその他のビニル単量体(c3)と共重合することができる。これにより、生成する重合生成物の特性(ガラス転移温度、分子量、水素結合力、極性、分散安定性、耐候性、加水分解性珪素化合物(c1)の重合生成物との相溶性等)をより効果的に制御することが可能となり好ましい。
前記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)と共重合可能なその他のビニル単量体(c3)としては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物の他、カルボキシル基含有ビニル単量体、水酸基含有ビニル単量体、エポキシ基含有ビニル単量体、カルボニル基含有ビニル単量体のような官能基を含有する単量体等が挙げられる。
前記(メタ)アクリル酸エステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステル、エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
アルキル部の炭素数が1〜50の(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ドデシル等が挙げられる。
前記エチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンジ(メタ)アクリレートとしては、以下に限定されるものではないが、例えば、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、メトキシ(メタ)アクリル酸ジエチレングリコール、ジ(メタ)アクリル酸テトラエチレングリコール等が挙げられる。
なお、本明細書中で、(メタ)アクリルとはメタアクリル又はアクリルを簡便に表記したものである。
前記ビニル単量体(c3)としての(メタ)アクリル酸エステルの使用量(複数の(メタ)アクリル酸エステルを使用する場合には、その合計量)は、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体中において好ましくは0〜99.9質量%、より好ましくは5〜80質量%、さらに好ましくは20〜50質量%である。
前記ビニル単量体(c3)としての芳香族ビニル化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、スチレン、ビニルトルエン等が挙げられる。
当該芳香族ビニル化合物は、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体中において好ましくは0〜99.9質量%、より好ましくは5〜80質量%である。
前記ビニル単量体(c3)としてのシアン化ビニル化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。
当該シアン化ビニル化合物は、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体中において好ましくは0〜99.9質量%、より好ましくは5〜80質量%である。
前記ビニル単量体(c3)としてのカルボキシル基含有ビニル単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、無水マレイン酸、又はイタコン酸、マレイン酸などの2塩基酸のハーフエステル等が挙げられる。これらのカルボキシル酸基含有のビニル単量体を用いることによって、重合体粒子(C)にカルボキシル基を導入することができ、当該重合体エマルジョン粒子間に静電的反発力をもたせることができ、エマルジョンとしての安定性が向上する傾向にある。その結果、例えば攪拌時の凝集といった、外部からの分散破壊作用に対しての抵抗力が向上する傾向にある。この際、導入したカルボキシル基は、静電的反発力をさらに向上させるために、一部又は全部を、アンモニアやトリエチルアミン、ジメチルエタノールアミン等のアミン類やNaOH、KOH等の塩基で中和してもよい。
前記カルボキシル基含有ビニル単量体の使用量(複数のカルボキシル基含有ビニル単量体を使用する場合には、その合計量)は、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体((c2)+(c3))中において0〜50質量%であることが耐水性の観点から好ましい。より好ましくは0.1〜10質量%、さらに好ましくは0.1〜5質量%である。
前記ビニル単量体(c3)としての水酸基含有ビニル単量体としては、特に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピ(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸のヒドロキシアルキルエステル;ジ−2−ヒドロキシエチルフマレート、モノ−2−ヒドロキシエチルモノブチルフマレート等のフマル酸のヒドロキシアルキルエステル;アリルアルコールやエチレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシエチレンモノ(メタ)アクリレート;プロピレンオキシド基の数が1〜100個の(ポリ)オキシプロピレンモノ(メタ)アクリレート;さらには、「プラクセルFM、FAモノマー」(ダイセル化学(株)製の、カプロラクトン付加モノマーの商品名)や、その他のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸のヒドロキシアルキルエステル類等が挙げられる。
前記ビニル単量体(c3)として、水酸基含有ビニル単量体を用いると、無機酸化物(A)と2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)との水素結合力を制御することが容易となるとともに、重合体粒子(C)の水分散安定性が向上する傾向にある。
前記水酸基含有ビニル単量体の使用量は、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体中において、好ましくは0〜80質量%、より好ましくは0.1〜50質量%、さらに好ましくは0.1〜10質量%である。
前記ビニル単量体(c3)としてのエポキシ基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、グリシジル基含有ビニル単量体等が挙げられる。当該グリシジル基含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、アリルグリシジルエーテル、アリルジメチルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
前記ビニル単量体(c3)としてのカルボニル含有ビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、ダイアセトンアクリルアミド等が挙げられる。
前記ビニル単量体(c3)として、前記グリシジル基含有ビニル単量体や、前記カルボニル基含有ビニル単量体を使用すると、重合体粒子(C)がより反応性を有するものとなり、ヒドラジン誘導体、カルボン酸誘導体及びイソシアネート誘導体等により架橋させることによって耐溶剤性等に優れたハードコート塗膜が得られる傾向にある。グリシジル基含有ビニル単量体やカルボニル基含有ビニル単量体の使用量は、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体中において好ましくは0〜50質量%である。
重合体粒子(C)の合成の際には、乳化剤を使用してもよい。乳化剤としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤;酸性乳化剤のアルカリ金属(Li、Na、K等)塩、酸性乳化剤のアンモニウム塩、脂肪酸石鹸等のアニオン性界面活性剤;アルキルトリメチルアンモニウムブロミド、アルキルピリジニウムブロミド、イミダゾリニウムラウレート等の四級アンモニウム塩、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩型のカチオン性界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルアリールエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンオキシプロピレンブロックコポリマー、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテル等のノニオン型界面活性剤やラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤等が挙げられる。
これらの乳化剤の中で、ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤を選択すると、重合体粒子(C)の水分散安定性がより一層良好になるとともに、耐水性、耐薬品性、光学特性、強度等に優れた塗膜を形成することができるため、さらに好ましい。
前記ラジカル重合性の二重結合を有する反応性乳化剤としては、以下に限定されるのではないが、例えば、スルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体、硫酸エステル基を有するビニル単量体、それらのアルカリ金属塩又はアンモニウム塩;ポリオキシエチレン等のノニオン基を有するビニル単量体;4級アンモニウム塩を有するビニル単量体等が挙げられる。
前記反応性乳化剤としてのスルホン酸基又はスルホネート基を有するビニル単量体の塩は、以下に限定されるものではないが、例えば、ラジカル重合性の二重結合を有し、かつスルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜4のアルキルエーテル基、炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基、炭素数6又は10のアリール基及びコハク酸基からなる群から選ばれる置換基を有する化合物;スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基が結合しているビニル基を有するビニルスルホネート化合物等が挙げられる。
前記スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換されたコハク酸基を有する化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アリルスルホコハク酸塩等が挙げられる。これらは市販品を用いることもでき、特に限定されず、例えば、エレミノールJS−2(商品名)(三洋化成(株)製)、ラテムルS−120、S−180A又はS−180(商品名)(花王(株)製)等が挙げられる。
スルホン酸基のアンモニウム塩、ナトリウム塩又はカリウム塩である基により一部が置換された、炭素数2〜4のアルキルエーテル基又は炭素数2〜4のポリアルキルエーテル基を有する化合物としては、以下に限定されるものではないが、例えば、アクアロンHS−10又はKH−1025(商品名)(第一工業製薬(株)製)、アデカリアソープSE−1025N又はSR−1025(商品名)(旭電化工業(株)製)等が挙げられる。
前記反応性乳化剤としてのノニオン基を有するビニル単量体としては、以下に限定されるものではないが、例えば、α−〔1−〔(アリルオキシ)メチル〕−2−(ノニルフェノキシ)エチル〕−ω−ヒドロキシポリオキシエチレン(商品名:アデカリアソープNE−20、NE−30、NE−40等、旭電化工業(株)製)、ポリオキシエチレンアルキルプロペニルフェニルエーテル(商品名:アクアロンRN−10、RN−20、RN−30、RN−50等、第一製薬工業(株)製)等が挙げられる。
重合体粒子(C)の合成の際の乳化剤の使用量としては、得られる重合体粒子(C)100質量部に対して、10質量部以下となる範囲内が好ましく、0.001〜5質量部となる範囲内がより好ましい。
重合体粒子(C)の合成の際、加水分解性珪素化合物(c1)及び2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)や必要に応じてその他のビニル単量体(c3)の重合は、重合触媒存在下で実施することが好ましい。
加水分解性珪素化合物(c1)の重合触媒としては、重合に用いる単量体の成分等に応じて適宜選択でき、以下に限定されるものではないが、例えば、塩酸、フッ酸等のハロゲン化水素類、酢酸、トリクロル酢酸、トリフルオロ酢酸、乳酸等のカルボン酸類;硫酸、p−トルエンスルホン酸等のスルホン酸類;アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルスルホン酸、アルキルスルホコハク酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸、ポリオキシエチレンアルキルアリール硫酸、ポリオキシエチレンジスチリルフェニルエーテルスルホン酸等の酸性乳化剤類;酸性又は弱酸性の無機塩、フタル酸、リン酸、硝酸のような酸性化合物類;水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメチラート、酢酸ナトリウム、テトラメチルアンモニウムクロリド、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、トリブチルアミン、ジアザビシクロウンデセン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、エタノールアミン類、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−(2−アミノエチル)−アミノプロピルトリメトキシシランのような塩基性化合物類;ジブチル錫オクチレート、ジブチル錫ジラウレートのような錫化合物等が挙げられる。これらの中で、重合触媒のみならず乳化剤としての作用を有する観点から、酸性乳化剤類が好ましく、炭素数が5〜30のアルキルベンゼンスルホン酸がより好ましい。
2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)の重合触媒としては、熱又は還元性物質等によってラジカル分解してビニル単量体の付加重合を起こさせるラジカル重合触媒が好ましく、以下に限定されるものではないが、例えば、水溶性又は油溶性の過硫酸塩、過酸化物、アゾビス化合物等が挙げられ、当該重合触媒の具体例としては、以下に限定されるものではないが、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、t−ブチルヒドロパーオキシド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、2,2−アゾビスイソブチロニトリル、2,2−アゾビス(2−ジアミノプロパン)ヒドロクロリド、2,2−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)等が挙げられる。
前記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体の重合触媒の配合量としては、重合体粒子(C)を構成する全ビニル単量体100質量部に対して、0.001〜5質量部が好ましい。なお、重合速度の促進の観点、及び70℃以下での低温の重合を行う観点からは、例えば、重亜硫酸ナトリウム、塩化第一鉄、アスコルビン酸塩、ロンガリット等の還元剤をラジカル重合触媒と組み合わせて用いることが好ましい。
上述したように、重合体粒子(C)は、水及び乳化剤の存在下で、加水分解性珪素化合物(c1)と、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2)、さらには、必要に応じて前記ビニル単量体(c2−2)と共重合可能な他のビニル単量体(a3)を用いて、好ましくは重合触媒存在下で、重合することにより得ることができる。
加水分解性珪素化合物(c1)と、2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)との重合は、別々に実施することも可能であるが、同時に実施することにより、両者の間で水素結合等によるミクロな有機・無機複合化が達成できるので好ましい。
重合体粒子(C)の数平均粒子径(一次粒子径;重合体粒子(C)の一次粒子の数平均粒子径)は、3〜800nmであることが好ましい。重合体粒子(C)の数平均粒子径を上記範囲に調整することにより、耐候性、耐薬品性、光学特性、防汚性、防曇性、帯電防止性等がより一層優れた塗膜を形成することができる。また、得られる塗膜の透明性が向上する観点から、重合体粒子(C)の数平均粒子径は5〜100nmであることがより好ましい。さらに好ましくは15〜80nmである。なお、重合体粒子(C)の数平均粒子径は、後述の実施例に記載する方法により測定することができる。
このような数平均粒子径の重合体粒子(C)を得る方法としては、例えば、乳化剤がミセルを形成するのに十分な量の水の存在下で、加水分解性珪素化合物(c1)及び2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)、必要に応じてその他のビニル重合体(c3)を重合する、いわゆる乳化重合によって、重合体粒子(C)を合成する方法が挙げられる。
前記重合体粒子(C)の乳化重合方法としては、特に限定されないが、例えば、加水分解性珪素化合物(c1)及び2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)、必要に応じて当該2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)と共重合可能な他のビニル単量体(c3)を、そのまま、又は乳化した状態で、一括、分割、又は連続的に反応容器中に滴下し、前記重合触媒の存在下、好ましくは大気圧から必要により10MPaの圧力下で、約30〜150℃の反応温度で重合させる方法が挙げられる。必要に応じて、圧力や反応温度を変更してもよい。加水分解性珪素化合物(a1)及び全ビニル単量体量の総量と、水との比率については、特に限定されないが、最終固形分量(添加する単量体が全て重合した場合に得られる重合体(ビニル(共)重合体及び加水分解性珪素化合物(c1)の重合生成物)の質量の合計(計算値)を元に計算される値)が、0.1〜70質量%、好ましくは1〜55質量%の範囲になるように設定することが好ましい。
前記重合体粒子(C)の乳化重合を行うにあたり、重合体粒子(C)の粒子径を成長又は制御するために、予め水相中にエマルジョン粒子を存在させて重合させるシード重合法を行ってもよい。これにより粒子径がより均一な重合体エマルジョン粒子を得ることができる。
前記シード(核)となる物質は、特に限定されず、公知のものを用いることもでき、反応条件等に応じて適宜選択することができる。
重合反応は、系中のpHが好ましくは1.0〜10.0、より好ましくは1.0〜6.0の範囲で進行させればよい。pHは、燐酸二ナトリウムやボラックス、又は、炭酸水素ナトリウム、アンモニア等のpH緩衝剤を用いて調節することが可能である。
上記の他、重合体粒子(C)を得る方法としては、重合に必要な水、乳化剤、及び必要に応じて溶剤の存在下で、加水分解性珪素化合物(c1)及び2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)を重合した後、重合生成物がエマルジョンとなるまで水を添加する方法も採用してもよい。
重合体粒子(C)は、コア/シェル層構造を有していることが好ましい。さらには、重合体粒子(C)は、コア層とシェル層とにおいて、柔軟性が異なるものであることが好ましく、ハードコート塗膜の弾性の観点からシェル層がコア層よりも硬度が高いことがより好ましい。つまりコア層がシェル層よりも柔軟であることが好ましい。
ハードコート塗膜の硬度は、例えば、シェル層に加水分解性珪素化合物(c1)を含有させることでも制御できる。すなわち、ハードコート塗膜の硬度は、前記加水分解性珪素化合物(c1)として、加水分解性官能基を3個以上含む加水分解性珪素化合物(c1−3)を用い、当該加水分解性官能基を3個以上含む加水分解性珪素化合物(c1−3)の、前記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)と全加水分解性珪素化合物(c1)の合計量に対する質量比率を規定することにより制御することができる。
さらに、シェル層中における、加水分解性官能基を3個以上含む加水分解性珪素化合物(c1−3)成分の割合が、全加水分解性珪素化合物(c1)と、前記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)との合計量に対する質量比率で、0.01<(c1−3)/((c1)+(c2−2))<0.20が好ましく、0.1<(c1−3)/((c1)+(c2−2))<0.3がより好ましい。これによりハードコート塗膜の強度がより向上する傾向にある。
さらにまた、ハードコート塗膜の強度を向上する目的で、コア層中における、加水分解性官能基を3個以上含む加水分解性珪素化合物(c1−3)成分の割合が、全加水分解性珪素化合物(c1)と、前記2級及び/又は3級アミド基を有するビニル単量体(c2−2)との合計量に対する質量比率で、(c1−3)/((c1)+(c2−2))≧0.20とすることが好ましく、より好ましくは0.35以上である。
なお、ハードコート塗膜の強度及び光学性能の観点から、前記重合体粒子(C)に含まれる、ビニル単量体(c2)の質量比率は、20質量%以上であることが好ましく、より好ましくは40%質量%以上、さらに好ましくは50質量%以上である。コア層中のビニル単量体(c2)に限れば70質量%以上が好ましく、より好ましくは80質量%以上、さらには好ましくは90質量%以上である。
前記加水分解性官能基を3個以上含む加水分解性珪素化合物(c1−3)としては、以下に限定されないが、例えば、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトライソプロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、イソプロピルトリメトキシシラン、イソプロピルトリエトキシシラン、n−ブチルトリメトキシシラン、n−ブチルトリエトキシシラン、n−ペンチルトリメトキシシラン、n−ヘキシルトリメトキシシラン、n−ヘプチルトリメトキシシラン、n−オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、アリルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフロロプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3−ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、3−(メタ)アタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリn−プロポキシシラン、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリイソプロポキシシラン、3−ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類が挙げられる。
重合体粒子(C)には、その用途及び使用方法等に応じて、通常、塗料や成型用樹脂に添加配合される成分、例えば、増粘剤、レベリング剤、チクソ化剤、消泡剤、凍結安定剤、艶消し剤、架橋反応触媒、顔料、硬化触媒、架橋剤、充填剤、皮張り防止剤、分散剤、湿潤剤、光安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、レオロジーコントロール剤、消泡剤、成膜助剤、防錆剤、染料、可塑剤、潤滑剤、還元剤、防腐剤、防黴剤、消臭剤、黄変防止剤、静電防止剤又は帯電調整剤等を配合することができる。
本実施形態の塗膜において、無機酸化物(A)、加水分解性珪素化合物(B)及び重合体粒子(C)が含まれる場合、これらの存在は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)観察等により確認することができる。すなわち、本実施形態の塗膜が上記(A)〜(C)成分を含む場合、これをSEM観察すると、典型的には、いわゆる海島構造が観察されうる。ここで観察される海部には、無機酸化物(A)及び加水分解性珪素化合物(B)が含まれ得る。また、島部には、加水分解性珪素化合物(B)及び重合体粒子(C)が含まれ得る。なお、本実施形態の塗膜に含まれうる無機酸化物(A)、加水分解性珪素化合物(B)及び重合体粒子(C)が上述した好ましい量的関係を満たすことは、上記海部と島部との面積比が100:0〜30:70であることから確認することができる。
[基材]
本実施形態のハードコート塗膜が塗布される基材としては、特に限定されないが、ハードコート性の付与の観点から、樹脂であることが好ましい。すなわち、樹脂を含む基材と、本実施形態のハードコート塗膜と、を有する構造体は、優れた擦過性、柔軟性及び透明性を有する。基材として用いられる樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂が挙げられる。基材として用いられる熱可塑性樹脂としては、以下に限定されないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ABS樹脂、塩化ビニル樹脂、メタクリル酸メチル樹脂、ナイロン、フッ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエステル樹脂等が挙げられる。また基材として用いられる熱硬化性樹脂としては、以下に限定されないが、フェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ケイ素樹脂等が挙げられる。
[製法]
本実施形態のハードコート塗膜の製法は、特に限定されるものではないが、例えば水等の溶媒等に溶解または分散させた組成物を、前記基材に塗工し、熱乾燥等することにより得ることができる。本実施形態において、上述した(A)〜(C)成分を用いて水系の組成物とする場合、環境負荷の観点から好ましいだけでなく、従来の溶剤系のコーティング組成物と比べても十分な成膜性及び成形性が確保できる傾向にある。ここで、水分散体の固形分濃度としては、好ましくは0.01〜60質量%、より好ましくは1〜40質量%である。また、水分散体の粘度としては、好ましくは20℃において0.1〜100000mPa・s、好ましくは1〜10000mPa・sである。さらに、前記塗工方法としては、以下に限定されないが、例えばスプレー吹付法、フローコート法、刷毛塗法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、スクリーン印刷法、キャスティング法、グラビア印刷法、フレキソ印刷法等が挙げられる。なお、前記塗工された分散組成物は、好ましくは室温〜500℃、より好ましくは40℃〜250℃での熱処理や紫外線照射等により乾燥することができる。
[用途]
本実施形態のハードコート塗膜は単層で優れた光学特性及び擦過性を有する。したがって、ハードコート塗膜の用途としては、特に限定されないが、例えば、建材、自動車部材や電子機器や電機製品などが挙げられる。建材用途としては、例えば、壁紙表皮材、看板、ガラス代替、外壁材トップコートが挙げられる。自動車部材では、例えば、バンパー、ドアミラーなどの外装部材、センターパネル、ドアパネルなどの内装部材、ヘッドランプ、リアランプ部材、さらにはガラス代替部材が挙げられる。電機製品では、例えば、携帯電話、パソコン、携帯ゲーム機などに好ましく用いられる。さらには信号機部材や機械・装置のトップコート材等としても用いることができる。
以下、本実施形態について、具体的な実施例及び比較例を挙げて説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
後述する合成例、実施例及び比較例における、各種の物性は下記の方法で測定した。
(1)平均粒子径[nm]
無機酸化物(A)について、50,000〜100,000倍に拡大し、球状の無機酸化物(A)の粒子が100個〜200個写るように調整して透過型顕微鏡写真を撮影した。次いで、撮影された各無機酸化物(A)の粒子径(長径と短径)を測定し、それらの平均値((長径+短径)/2)を求め、平均粒子径とした。
(2)膜厚[μm]
基材上に塗布されたハードコート塗膜の原料組成物(以下、「コーティング組成物」と称する)をハードコート塗膜としたのち、当該ハードコート塗膜の膜厚を光学式膜厚計((株)スペクトラスコープ製、品番:MHAA−100W)を用いて測定した。
(3)ヘイズ[%]
後述する実施例及び比較例で製造した試験板(基材及びハードコート塗膜)について、日本国日本電色工業株式会社製濁度計NDH2000を用いて、JIS K7136に規定される方法により、ヘイズ(曇り度)を測定した。
(4)微小硬度試験
フィッシャー・インストルメンツ製フィッシャースコープ(型番:H−100CS)を用いた押込み試験(試験条件;圧子:ビッカース四角錐ダイヤモンド圧子、荷重条件:1mN/20sec、クリープ:5sec、除荷条件:−1mN/20sec、測定荷重範囲0.4mN〜1mN、荷重時および除荷時にそれぞれ等間隔に200点ずつ測定、クリープ時に等間隔に10点測定)により微小硬度を測定し、下記式(1)〜(4)を荷重0.4mN〜1mNの範囲で計算することにより、最大押込み変形量hmax及び弾性回復率WERを算出した。
ここで、塗膜に圧子で連続的に0(ゼロ)からFまで荷重をかけたときの塗膜の押込み変形量hmaxとすると、塗膜がhmax変形するために使用されたエネルギー(初期塑性変形エネルギー:Ep,initial)は下記式(1)で与えられる。
その後、除荷(荷重ゼロ)したときに変形量がhminまで戻るとすると、hmax⇒hminまで変形が戻るのに使用されたエネルギー(弾性回復エネルギー:Ee)は下記式(2)で与えられる。
したがって、最終的にこの微小硬度試験で塑性変形に使用されたエネルギーEpは、下記式(3)で与えられる。
Ep=Ep,initial−Ee (3)
本実施形態の弾性回復率WERは、微小硬度試験で消費された全エネルギーのうち弾性回復性に使用されたエネルギーの割合を示したものをいい、下記式(4)で与えられる。
WER=Ee/(Ee+Ep) (4)
(5)重合体エマルジョン粒子の数平均粒子径
後述する合成例により製造した重合体粒子(C)の数平均粒子径は、動的光散乱式粒度分布測定装置(日機装社製、商品名マイクロトラックUPA)により測定した。
(6)擦過性
ハードコート塗膜表面をスチールウール(#0)にて手で往復5回こすり、その後ティッシュペーパーやドライエアーにて表面についたスチールウールの粉を除去した後、上記「(3)ヘイズ[%]」に記載の方法で試験後の試験板のヘイズを測定し、スチールウール試験前後のヘイズ変化量から塗膜の擦過性を以下のように評価した。スチールウールで擦ったときの圧力は、130〜150gf/cm2、速度は約1cm/秒であった。
ヘイズ変化量≦5.0・・・擦過性評価「○」
ヘイズ変化量>5.0・・・擦過性評価「×」
[重合体エマルジョン(C)の調製〕
以下、後述する実施例及び比較例において用いた重合体粒子(C)の合成例を記載する。
<重合体エマルジョン粒子(C−1)水分散体の合成>
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水410g、及びドデシルベンゼンスルホン酸10%水溶液22gを投入した後、撹拌しながら80℃に加温して混合液(1)を得た。
得られた混合液(1)に、コア層としてジメチルジメトキシシラン65g及びフェニルトリメトキシシラン(c1−3)37gの混合液(2)を、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下して混合液(3)を得た。
その後、反応容器中の温度が80℃の状態で混合液(3)を約1時間撹拌した。
次に、得られた混合液(3)に、シェル層としてアクリル酸ブチル50g、ジエチルアクリルアミド90g、テトラエトキシシラン(c1−3)120g、フェニルトリメトキシシラン(c1−3)50g、及び3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(c1−3)1.3gの混合液(4)と、アクリル酸3g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)8g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液33g、及びイオン交換水1000gの混合液(5)とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下して混合物(6)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(6)を約2時間撹拌した。
その後、混合物(6)を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過し、製水で濃度を調整して数平均粒子径60nmの重合体エマルジョン粒子(C−1)の水分散体(固形分14質量%、pH3.2)を得た。
<重合体エマルジョン粒子(C−2)水分散体の合成>
還流冷却器、滴下槽、温度計及び撹拌装置を有する反応器に、イオン交換水1040g、及びドデシルベンゼンスルホン酸の10%水溶液(ライポンLH−200、花王(株)製)60gを投入した後、撹拌しながら80℃に加温して混合液(1)を得た。
得られた混合液(1)に、メチルトリメトキシシラン0.4g、ジメチルジメトキシシラン17g及びフェニルトリメトキシシラン(C1−3)11gの混合液(2)を反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて滴下して混合液(3)を得た。
その後、反応容器中の温度が80℃の状態で混合液(3)を約1時間撹拌した。
次に、得られた混合液(3)に、シェル層としてアクリル酸ブチル11g、ジエチルアクリルアミド59g、アクリル酸4g、反応性乳化剤(商品名「アデカリアソープSR−1025」、旭電化(株)製、固形分25質量%水溶液)3.0g、過硫酸アンモニウムの2質量%水溶液30g、及びイオン交換水900gの混合液(4)とを、反応容器中の温度を80℃に保った状態で約2時間かけて同時に滴下して混合物(5)を得た。
さらに熱養生として、反応容器中の温度が80℃の状態で混合物(5)を約2時間撹拌した。
その後、混合物(5)を室温まで冷却し、100メッシュの金網で濾過し、精製水で濃度を調整して数平均粒子径19nmの重合体エマルジョン粒子(c−2)の水分散体(固形分6.2質量%、pH3.2)を得た。
〔実施例1〕
重合体エマルジョン(C)として上記で調整した「C−1」、 無機酸化物(A)として水分散コロイダルシリカ「A−1」(商品名「スノーテックスOXS」(ST−OXS)、日産化学工業(株)製、固形分10質量%、平均粒子径5nm)、及び加水分解珪素化合物(B)としてトリス−(トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート(商品名「KBM9659」、信越化学工業(株)製)を表1に記載の固形分質量比(A:B:C質量比率)で混合した。
上記のようにして得られたコーティング組成物を、バーコーターを用いて膜厚が6.0μmとなるように基材(タキロン(株)製ポリカーボネートプレート(品番:1600、厚み:2μm)へ塗布した後、130℃で30分間乾燥し、ハードコート塗膜を得た。
このとき、前記塗膜中の組成比(コーティング組成物の固形分換算で計算した各成分の質量比率と同様)は、(A)/(B)/(C)=100/100/100となった。評価結果を表1に示す。また、微小硬度試験に供した結果得られたF−h曲線を図2に示す。
[実施例2]
無機酸化物(A)として水分散コロイダルシリカ「A−2」(商品名「スノーテックスOS」(ST−OS)、日産化学工業(株)製、固形分20質量%、平均粒子径8〜11nm)に変更した以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
〔参考例3〕
加水分解性珪素化合物(B)として1,6―ビス(トリメトキシシリル)ヘキサン(商品名「KBM−3066」、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
〔参考例4〕
重合体粒子(C)を用いなかった以外は、実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1へ示す。
〔実施例5〕
重合体エマルション粒子(C)を上記で調整した「C−2」に変更した以外は、実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1へ示す。
〔参考例6〕
加水分解性珪素化合物(B)としてメチルトリメトキシシラン(商品名「KBM−13」、信越化学工業(株)製)に変更し、さらに(B)の組成比を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
〔参考例7〕
加水分解性珪素化合物(B)としてテトラエトキシシラン(商品名「KBE−04」、信越化学工業(株)製)に変更し、さらに(B)の組成比を表1に示すように変更した以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
[実施例8]
実施例1と同様の基材の片側の表面に粘着剤層として、AD−1(東日本塗料性スーパーエクセルプライマー)をスプレーにて塗布し、25℃、50%RH雰囲気下で24時間乾燥させた。その後、基材を上記粘着剤層付きとした以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1に示す。
[比較例1]
加水分解性珪素化合物(B)として3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(商品名「KBM−403」、信越化学工業(株)製)に変更した以外は実施例1と同様にしてハードコート塗膜を得た。評価結果を表1に示す。また、微小硬度試験に供した結果得られたF−h曲線を図3に示す。