本発明は、結晶性樹脂を含む結着樹脂、離型剤、およびカーボンブラックを少なくとも有するトナー母体粒子を含む静電荷像現像用トナーであって、前記トナー母体粒子における前記カーボンブラックの含有量が6〜15質量%であり、前記トナー母体粒子の体積基準の粒度分布における変動係数(CV値)が16〜19%であり、温度20℃相対湿度50%RHの環境下において、1kHzから100kHzまでの周波数の範囲で測定して得られる誘電正接tanδの最大値をtanδmaxとし、最小値をtanδminとしたとき、下記式(1)を満たす、静電荷像現像用トナーである。このような構成を有する本発明の静電荷像現像用トナーは、低温定着性およびクリーニング性を確保しつつ、さらなる高画質化を実現することができる。
本発明においては、トナー母体粒子中、カーボンブラックの含有量を6〜15質量%と比較的高充填にする。トナー付着量削減によるCO2排出量削減、低温定着化、ベタ部の画像濃度向上等を目的として、トナー中の着色剤(カーボンブラック)を高充填にする技術が検討されている。特に、トナー中の着色剤を高充填にすると、着色剤が低充填であるトナーと同一の質量で画像形成した場合と比較して、画像濃度を高くすることができる。ゆえに、コピー1枚あたりのトナーコスト、画像のレリーフ性(画像の凹凸)を低減できる等の観点から、トナーへの着色剤の高充填が望まれている。
しかしながら、カーボンブラックを高充填にした場合、カーボンブラックは導電性を有することから、カーボンブラックの凝集体が電気的なリークポイントとなり、帯電性、現像性、転写性等が低下し、画質が低下するという問題があった。また、低温定着性の確保を目的として、結着樹脂に結晶性樹脂を用いると、結晶性樹脂は分子配向がそろっているため電気的なリークポイントになりやすく、これによっても帯電性が低下するという問題があった。また、カーボンブラックの凝集体が形成されることで、画像中の着色剤(カーボンブラック)の存在が不均一になることから画像濃度が低下するという問題もあった。そのため、カーボンブラックを高充填したトナーにおいて、低温定着性を確保しながら高画質化(粒状性や画像濃度の向上)を実現できる技術が求められていた。
このような課題に対して、本発明の静電荷像現像用トナーは、温度20℃相対湿度50%RHの環境下において、1kHzから100kHzまでの周波数の範囲で測定して得られる誘電正接tanδの最大値をtanδmaxとし、最小値をtanδminとしたとき、上記式(1)を満たす。
トナーの電気特性としての理想状態は、いかなる周波数の電界を印加した場合でも電荷を保持できることである。誘電正接tanδは、ε”/ε’で算出され、ε’は電気的エネルギーの貯蔵能力を意味し、ε”は電気的エネルギーの損失を意味しており、これらの比率であるtanδの値が小さいほど、電荷を保持しやすいと言える。また、tanδの周波数依存性が小さいほど、現像工程や転写工程などの様々な工程において、トナーが印加された電界に忠実に応答して電荷を保持しやすくなり、潜像再現性を向上することができる。
上記式(1)を満たす本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー母体粒子中のカーボンブラックや結晶性樹脂の分散性が良好であり、トナー内部の導電性が抑制され、周波数に依らずtanδがほぼ一定の値をとる(周波数依存性が小さい)。したがって、多様な周波数の電界が印加された場合でも安定して電荷を保持することができ、現像工程や転写工程において忠実に応答し、低温定着性を確保しつつ高画質化を実現することができる。
また、本発明の静電荷像現像用トナーは、トナー母体粒子の体積基準の粒度分布における変動係数(CV値)が16〜19%である。かようなCV値を有する本発明の静電荷像現像用トナーは、クリーニング性を確保できる。また、比較的均一な粒度分布を有することから、静電潜像を忠実に再現することができ、より高画質な画像を得ることができる。
なお、上記のメカニズムは推測によるものであり、本発明は上記メカニズムに何ら制限されるものではない。
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20〜25℃)/相対湿度40〜50%RHの条件で測定する。本明細書中、本発明の静電荷像現像用トナーを、単に「本発明のトナー」または「トナー」とも称する場合がある。
本発明のトナーの構成要素について説明する。
[トナー母体粒子]
トナー母体粒子とは、結晶性樹脂を含む結着樹脂、離型剤、およびカーボンブラックを少なくとも有する粒子であって、必要に応じて、その他の添加剤(内添剤)を含有する粒子である。トナー母体粒子に外添剤が添加されることによって、トナーが完成される。
<結着樹脂>
本発明に係る結着樹脂は、結晶性樹脂を含む。カーボンブラックと親和性のよい結晶性樹脂を、結着樹脂中において所定の割合で存在させることによって、トナー母体粒子中のカーボンブラックが凝集せずに分散を維持し、誘電正接tanδを所定の範囲に収める。
〔結晶性樹脂〕
本発明において、結晶性樹脂とは、上記の示差走査熱量計「ダイヤモンドDSC」(パーキンエルマー社製)を用いて測定されるDSC曲線において、明確な吸熱ピークを有するものをいう。結晶性樹脂としては、結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリウレタン樹脂、結晶性ポリウレア樹脂、結晶性ポリアミド樹脂、結晶性ポリエーテル樹脂などが挙げられるが、帯電性や低温定着性の観点から、特に、結晶性ポリエステル樹脂を用いることが好ましい。よって、本発明の好ましい形態によれば、前記結晶性樹脂が、結晶性ポリエステル樹脂である。以下、結晶性ポリエステル樹脂について説明する。
〔結晶性ポリエステル樹脂〕
結晶性ポリエステル樹脂は、2価以上のカルボン酸(多価カルボン酸成分)と、2価以上のアルコール(多価アルコール成分)との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂であって、結晶性を有する樹脂をいう。
結晶性ポリエステル樹脂の融点は55℃以上90℃以下であることが好ましく、より好ましくは70℃以上85℃以下である。結晶性ポリエステル樹脂の融点が上記範囲であることにより、十分な低温定着性が得られる。なお、結晶性ポリエステル樹脂の融点は、樹脂組成によって制御することができる。
また、結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜100,000であると好ましく、10,000〜80,000であるとより好ましく、15,000〜50,000であると特に好ましい。数平均分子量(Mn)は、2,000〜20,000であると好ましく、3,000〜15,000であるとより好ましい。
多価カルボン酸成分および多価アルコール成分の価数としては、好ましくはそれぞれ2〜3であり、特に好ましくはそれぞれ2であるため、特に好ましい形態として価数がそれぞれ2である場合(すなわち、ジカルボン酸成分、ジオール成分)について説明する。
ジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸を用いることが好ましく、芳香族ジカルボン酸を併用してもよい。脂肪族ジカルボン酸としては、直鎖型のものを用いることが好ましい。直鎖型のものを用いることによって、結晶性が向上するという利点がある。ジカルボン酸成分は、一種類のものに限定されるものではなく、二種類以上を混合して用いてもよい。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、1,9−ノナンジカルボン酸、1,10−デカンジカルボン酸(ドデカン二酸)、1,11−ウンデカンジカルボン酸、1,12−ドデカンジカルボン酸、1,13−トリデカンジカルボン酸、1,14−テトラデカンジカルボン酸、1,16−ヘキサデカンジカルボン酸、1,18−オクタデカンジカルボン酸などが挙げられる。
上記の脂肪族ジカルボン酸の中でも、上述のとおり本発明の効果が得られやすいことから、炭素数6〜14の脂肪族ジカルボン酸であることが好ましい。脂肪族ジカルボン酸と共に用いることのできる芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、t−ブチルイソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。これらの中でも、入手容易性および乳化容易性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、t−ブチルイソフタル酸を用いることが好ましい。その他、トリメリット酸、ピロメリット酸などの3価以上の多価カルボン酸、および上記のカルボン酸化合物の無水物、あるいは炭素数1〜3のアルキルエステルなども用いうる。
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジカルボン酸成分としては、脂肪族ジカルボン酸の含有量が50構成モル%以上とされることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。ジカルボン酸成分における脂肪族ジカルボン酸の含有量が50構成モル%以上とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を十分に確保することができる。
また、ジオール成分としては、脂肪族ジオールを用いることが好ましく、必要に応じて脂肪族ジオール以外のジオールを含有させてもよい。脂肪族ジオールとしては、直鎖型のものを用いることが好ましい。直鎖型のものを用いることによって、結晶性が向上するという利点がある。ジオール成分は、一種単独で用いてもよいし、二種以上用いてもよい。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,20−エイコサンジオール、ネオペンチルグリコール、などが挙げられる。
結晶性ポリエステル樹脂を形成するためのジオール成分としては、脂肪族ジオールの含有量が50構成モル%以上とされることが好ましく、より好ましくは70構成モル%以上であり、さらに好ましくは80構成モル%以上であり、特に好ましくは100構成モル%である。ジオール成分における脂肪族ジオールの含有量が50構成モル%以上とされることにより、結晶性ポリエステル樹脂の結晶性を確保することができて製造されるトナーに優れた低温定着性が得られると共に最終的に形成される画像に光沢性が得られる。
上記のジオール成分とジカルボン酸成分との使用比率は、ジオール成分のヒドロキシル基[OH]とジカルボン酸成分のカルボキシル基[COOH]との当量比[OH]/[COOH]が、2.0/1.0〜1.0/2.0であると好ましい。
また、本発明においては、結晶性ポリエステル樹脂の酸価は、好ましくは4.0mgKOH/g以上、より好ましくは6.0mgKOH/g以上、さらに好ましくは、15mgKOH/g以上、また好ましくは33mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下である。つまり、本発明の好ましい形態では、前記結晶性ポリエステル樹脂の酸価が、15〜30mgKOH/gである。かような範囲であると、結晶性樹脂とカーボンブラックとの親和性が確保され、必要な濃度を出力し、かつ、連続印字時に、長期に亘り安定した画像濃度を実現できる。
なお、酸価は、ジオール成分やジカルボン酸成分の種類や組成比、重縮合反応の際に用いる触媒量や重合開始剤の調整、反応温度や時間等、反応条件によって制御することができる。なお、反応時間が長いほど、分子量が高くなる傾向があり、それによって酸価が低くなる傾向にある。
結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は特に制限されず、公知のエステル化触媒を利用して、上記多価カルボン酸成分および多価アルコール成分を重縮合する(エステル化する)ことによりを製造することができる。
結晶性ポリエステル樹脂の製造の際に使用可能な触媒としては、ナトリウム、リチウム等のアルカリ金属化合物;マグネシウム、カルシウム等の第2族元素を含む化合物;アルミニウム、亜鉛、マンガン、アンチモン、チタン、スズ、ジルコニウム、ゲルマニウム等の金属の化合物;亜リン酸化合物;リン酸化合物;およびアミン化合物等が挙げられる。具体的には、スズ化合物としては、酸化ジブチルスズ(ジブチル錫オキサイド)、オクチル酸スズ、ジオクチル酸スズ、これらの塩等などを挙げることができる。チタン化合物としては、テトラノルマルブチルチタネート(Ti(O−n−Bu)4)、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラステアリルチタネートなどのチタンアルコキシド;ポリヒドロキシチタンステアレートなどのチタンアシレート;チタンテトラアセチルアセトナート、チタンラクテート、チタントリエタノールアミネートなどなどのチタンキレートなどを挙げることができる。ゲルマニウム化合物としては、二酸化ゲルマニウムなどを挙げることができる。さらにアルミニウム化合物としては、ポリ水酸化アルミニウムなどの酸化物、アルミニウムアルコキシドなどが挙げられ、トリブチルアルミネートなどを挙げることができる。これらは1種単独でまたは2種以上を組み合わせて用いてもよい。
重合温度は特に限定されるものではなく、目的物を得るために適宜調整可能であり、70〜250℃であることが好ましい。また、重合時間は特に限定されるものではないが、0.5〜10時間とすると好ましい。重合中には、必要に応じて反応系内を減圧にしてもよい。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂)
本発明においては、トナー母体粒子中、カーボンブラックの含有量を6〜15質量%と比較的高充填にする。本発明においては、かようなカーボンブラックと親和性のよい結晶性樹脂を、結着樹脂中において所定の割合で存在させることによって、トナー母体粒子中のカーボンブラックが凝集せずに分散を維持することができる。
特に、本発明においては、非晶性樹脂の構造を一部含有するハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を使用することが好ましい。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、カーボンブラックとの親和性が特に高く、隣接しても安定して存在できる。そのため、トナー母体粒子作製時に、各構成成分がドメイン、凝集体になりづらいと考えられる。つまり、本発明によれば、結晶性ポリエステル樹脂が、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂であることがより好ましい。
本発明の好ましい形態においては、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合した樹脂である。よって、本発明の好ましい形態によれば、前記結晶性樹脂が、結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとが化学的に結合している構造を有する。かような形態とすることにより、トナー内で非晶性樹脂(メインバインダー)との親和性が向上し、結晶性ポリエステル樹脂の偏在化が抑制される。また、結晶性が制御できることにより、環境安定性が向上する技術的効果を有すると推測される。
化学的に結合している構造についても特に制限はないが、結晶性ポリエステル重合セグメントが、非晶性重合セグメントを主鎖として、グラフト化されていると好ましい。すなわち、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、主鎖として前記非晶性重合セグメントを有し、側鎖として前記結晶性ポリエステル重合セグメントを有するグラフト共重合体であると好ましい。かような形態とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向をより高めることができ、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の結晶性をより向上させることができ、また、カーボンブラックの分散性を向上させることができる。
より具体的には、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂としては、非晶性重合セグメントであるスチレンアクリル重合セグメントの主鎖に、側鎖である結晶性ポリエステル重合セグメントが結合したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が好ましい。
〈結晶性ポリエステル重合セグメント〉
結晶性ポリエステル重合セグメントとは、結晶性ポリエステル樹脂に由来する部分を指す。すなわち、結晶性ポリエステル樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の重量平均分子量(Mw)は、5,000〜100,000であると好ましく、7,000〜50,000であるとより好ましく、8,000〜40,000であるとさらに好ましい。数平均分子量(Mn)は、100〜50,000であると好ましく、1,000〜10,000であるとより好ましい。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の融点は、55℃以上90℃以下であることが好ましく、より好ましくは65℃以上85℃以下である。
結晶性ポリエステル重合セグメントは、上記した結晶性ポリエステル樹脂と同様であり、同様の多価カルボン酸成分と、多価アルコール成分との重縮合反応によって得られる公知のポリエステル樹脂に由来する部分である。結晶性ポリエステル重合セグメントを構成する多価カルボン酸成分および多価アルコール成分については、上記の結晶性ポリエステル樹脂と同様であるため、説明を省略する。
結晶性ポリエステル重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の全量に対して80質量%以上98質量%以下であると好ましく、90質量%以上95質量%以下であるとより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。なお、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中の各セグメントの構成成分および含有割合は、例えば、NMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定により特定することができる。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントの他に、非晶性重合セグメントを含む。グラフト共重合体とすることにより、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向を制御しやすくなり、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
〈非晶性重合セグメント〉
非晶性重合セグメントとは、非晶性樹脂に由来する部分を指す。すなわち、非晶性樹脂を構成するものと同じ化学構造の分子鎖を指す。非晶性重合セグメントは、本発明における結着樹脂に含まれる非晶性樹脂と、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂との親和性に寄与し得る。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が非晶性重合セグメントを含有することは、例えば、NMR測定、メチル化反応P−GC/MS測定を用いて化学構造を特定することによって確認することができる。
また、非晶性重合セグメントは、当該セグメントと同じ化学構造および分子量を有する樹脂について示差走査熱量測定(DSC)を行った時に、融点を有さず、比較的高いガラス転移温度(Tg)を有する重合セグメントである。
非晶性重合セグメントの含有量は、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂中2質量%以上20質量%以下であることが好ましく、5質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。上記範囲とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂に十分な結晶性を付与することができる。
非晶性重合セグメントは、本発明における結着樹脂に非晶性樹脂が含まれる場合に、その非晶性樹脂と同種の樹脂で構成されると好ましい。このような形態とすることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂とマトリックスとなる結着樹脂との親和性がより向上する。
ここで、「同種の樹脂」とは、繰り返し単位中に特徴的な化学結合が共通に含まれていることを意味する。ここで、「特徴的な化学結合」とは、物質・材料研究機構(NIMS)物質・材料データベース(http://polymer.nims.go.jp/PoLyInfo/guide/jp/term_polymer.html)に記載の「ポリマー分類」に従う。すなわち、ポリアクリル、ポリアミド、ポリ酸無水物、ポリカーボネート、ポリジエン、ポリエステル、ポリハロオレフィン、ポリイミド、ポリイミン、ポリケトン、ポリオレフィン、ポリエーテル、ポリフェニレン、ポリホスファゼン、ポリシロキサン、ポリスチレン、ポリスルフィド、ポリスルホン、ポリウレタン、ポリウレア、ポリビニルおよびその他のポリマーの計22種によって分類されたポリマーを構成する化学結合を「特徴的な化学結合」という。
また、樹脂が共重合体である場合における「同種の樹脂」とは、共重合体を構成する複数の単量体種の化学構造において、上記化学結合を有する単量体種を構成単位としている場合、特徴的な化学結合を共通に有する樹脂同士を指す。したがって、樹脂自体の示す特性が互いに異なる場合や、共重合体中を構成する単量体種のモル成分比が互いに異なる場合であっても、特徴的な化学結合を共通に有していれば同種の樹脂とみなす。
例えば、スチレン、ブチルアクリレートおよびアクリル酸によって形成される樹脂(または重合セグメント)と、スチレン、ブチルアクリレートおよびメタクリル酸によって形成される樹脂(または重合セグメント)とは、少なくともポリアクリルを構成する化学結合を有しているため、これらは同種の樹脂である。
非晶性重合セグメントを構成する樹脂成分は特に制限されないが、例えば、ビニル重合セグメント、ウレタン重合セグメント、ウレア重合セグメントなどが挙げられる。なかでも、熱可塑性を制御しやすいという理由から、ビニル重合セグメントが好ましい。
ビニル重合セグメントとしては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、アクリル酸エステル重合セグメント、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント、エチレン−酢酸ビニル重合セグメントなどが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
上記のビニル重合セグメントのなかでも、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレン−アクリル酸エステル重合セグメント(スチレンアクリル重合セグメント)が好ましい。したがって、以下では、非晶性重合セグメントとしてのスチレンアクリル重合セグメントについて説明する。
スチレンアクリル重合セグメントは、少なくとも、スチレン単量体と、(メタ)アクリル酸エステル単量体とを付加重合させて形成されるものである。ここでいうスチレン単量体は、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他に、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものを含むものである。また、ここでいう(メタ)アクリル酸エステル単量体は、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル化合物や、メタクリル酸エステル化合物の他に、アクリル酸エステル誘導体やメタクリル酸エステル誘導体等の構造中に公知の側鎖や官能基を有するエステル化合物を含むものである。
以下に、スチレンアクリル重合セグメントの形成が可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例を示すが、本発明で使用されるスチレンアクリル重合セグメントの形成に使用可能なものは以下に限定されない。
先ず、スチレン単量体の具体例としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等が挙げられる。これらスチレン単量体は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレート等のアクリル酸エステル単量体;メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等のメタクリル酸エステル等が挙げられる。これらのうち、長鎖アクリル酸エステル単量体を使用することが好ましい。具体的には、メチルアクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートが好ましい。
なお、本明細書中、「(メタ)アクリル酸エステル単量体」とは、「アクリル酸エステル単量体」と「メタクリル酸エステル単量体」とを総称したもので、例えば、「(メタ)アクリル酸メチル」は「アクリル酸メチル」と「メタクリル酸メチル」とを総称したものである。
これらのアクリル酸エステル単量体またはメタクリル酸エステル単量体は、単独でもまたは2種以上を組み合わせても使用することができる。すなわち、スチレン単量体と2種以上のアクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、スチレン単量体と2種以上のメタクリル酸エステル単量体とを用いて共重合体を形成すること、あるいは、スチレン単量体とアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体とを併用して共重合体を形成することのいずれも可能である。
非晶性重合セグメント中のスチレン単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、40〜90質量%であると好ましい。また、非晶性重合セグメント中の(メタ)アクリル酸エステル単量体に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、10〜60質量%であると好ましい。
さらに、非晶性重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の他、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに化学的に結合するための化合物が付加重合されてなると好ましい。具体的には、上記結晶性ポリエステル重合セグメントに含まれる、多価アルコール成分由来のヒドロキシル基[−OH]または多価カルボン酸成分由来のカルボキシル基[−COOH]とエステル結合する化合物を用いると好ましい。したがって、非晶性重合セグメントは、上記スチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に対して付加重合可能であり、かつ、カルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]を有する化合物をさらに重合してなると好ましい。
かような化合物としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等のカルボキシル基を有する化合物;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基を有する化合物が挙げられる。
非晶性重合セグメント中の上記化合物に由来する構成単位の含有率は、非晶性重合セグメントの全量に対し、0.5〜20質量%であると好ましい。
スチレンアクリル重合セグメントの形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤としては、具体的には、以下に示すアゾ系またはジアゾ系重合開始剤や過酸化物系重合開始剤がある。
アゾ系またはジアゾ系重合開始剤としては、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス−4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソブチロニトリル等が挙げられる。
過酸化物系重合開始剤としては、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジイソプロピルパーオキシカーボネート、クメンヒドロパーオキサイド、t−ブチルヒドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、2,2−ビス−(4,4−t−ブチルパーオキシシクロヘキシル)プロパン、トリス−(t−ブチルパーオキシ)トリアジン等が挙げられる。
また、乳化重合法で樹脂粒子を形成する場合は水溶性ラジカル重合開始剤が使用可能である。水溶性ラジカル重合開始剤としては、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩、アゾビスアミノジプロパン酢酸塩、アゾビスシアノ吉草酸およびその塩、過酸化水素等が挙げられる。
(ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明に係る結着樹脂に含まれるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の製造方法は、上記結晶性ポリエステル重合セグメントと、非晶性重合セグメントとを化学結合させた構造の重合体を形成することが可能な方法であれば、特に制限されるものではない。ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の具体的な製造方法としては、例えば、以下に示す方法が挙げられる。
(a)非晶性重合セグメントを予め重合しておき、当該非晶性重合セグメントの存在下で結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法
この方法では、先ず、上述した非晶性重合セグメントを構成する単量体(好ましくは、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体といったビニル単量体)を付加反応させて非晶性重合セグメントを形成する。次に、非晶性重合セグメントの存在下で、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを重合反応させて結晶性ポリエステル重合セグメントを形成する。このとき、多価カルボン酸成分と多価アルコール成分とを縮合反応させると共に、非晶性重合セグメントに対し、多価カルボン酸成分または多価アルコール成分を付加反応させることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂が形成される。
上記方法において、結晶性ポリエステル重合セグメントまたは非晶性重合セグメント中に、これらセグメントが互いに反応可能な部位を組み込んでおくと好ましい。具体的には、非晶性重合セグメントの形成時、非晶性重合セグメントを構成する単量体の他に、結晶性ポリエステル重合セグメントに残存するカルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]と反応可能な部位および非晶性重合セグメントと反応可能な部位を有する化合物も使用する。すなわち、この化合物が結晶性ポリエステル重合セグメント中のカルボキシル基[−COOH]またはヒドロキシル基[−OH]と反応することにより、結晶性ポリエステル重合セグメントは非晶性重合セグメントと化学的に結合することができる。
もしくは、結晶性ポリエステル重合セグメントの形成時、多価アルコール成分または多価カルボン酸成分と反応可能であり、かつ、非晶性重合セグメントと反応可能な部位を有する化合物を使用してもよい。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
(a)の方法は、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントをグラフト化させた構造のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成し易いことや、生産工程を簡素化できるため好ましい。また、(a)の方法は、非晶性重合セグメントを予め形成してから結晶性ポリエステル重合セグメントを結合させるため、結晶性ポリエステル重合セグメントの配向が均一になりやすい。したがって、本発明で規定するトナーに適したハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を確実に形成することができるので好ましい。
その他、(b)結晶性ポリエステル重合セグメントと非晶性重合セグメントとをそれぞれ形成しておき、これらを結合させてハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法であってもよいし、(c)結晶性ポリエステル重合セグメントを予め形成しておき、当該結晶性ポリエステル重合セグメントの存在下で非晶性重合セグメントを形成する重合反応を行ってハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を製造する方法であってもよい。
上記の方法を用いることにより、非晶性重合セグメントに結晶性ポリエステル重合セグメントが化学結合した構造(グラフト構造)のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂を形成することができる。
前記トナー母体粒子における前記結晶性ポリエステル樹脂の含有量は、5〜15質量%であることが好ましく、7〜12質量%であることがより好ましい。この範囲であれば、低温定着性が良好となり、トナーの帯電性も向上する。
〔非晶性樹脂〕
本発明に係るトナー母体粒子は、非晶性樹脂を含むことが好ましい。非晶性樹脂は、上記の好ましい結晶性樹脂であるハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の非晶性重合セグメントと同種の樹脂または非晶性ポリエステル樹脂で構成されると好ましい。ここで、「同種の樹脂で構成される」とは、同種の樹脂のみからなる形態であってもよいし、または、同種の樹脂のみならず、他の非晶性樹脂を含む形態であってもよい。ただし、同種の樹脂と他の非晶性樹脂とを含む形態の場合、当該同種の樹脂の含有量は、非晶性樹脂全量に対して15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であるとより好ましい。
非晶性樹脂としては、中でも、ビニル樹脂またはスチレンアクリル変性ポリエステル樹脂であると好ましく、ビニル樹脂であるとより好ましい。よって、本発明の好ましい形態によれば、前記結着樹脂が、ビニル樹脂を含む。ビニル樹脂を含むことにより、結着樹脂と離型剤との親和性が向上し、定着性が向上する。
非晶性樹脂または非晶性ポリエステル樹脂は、その可塑性を制御しやすいという観点から、重量平均分子量(Mw)が、5,000〜150,000であると好ましく、10,000〜90,000であるとより好ましい。
また、非晶性樹脂または非晶性ポリエステル樹脂は、数平均分子量(Mn)が、3,000〜30,000であると好ましく、5,000〜25,000であるとより好ましい。非晶性樹脂は、ガラス転移温度(Tg)が25〜70℃であることが好ましく、35〜65℃であることが好ましい。また、軟化点温度は75〜130℃であることが好ましく、85〜115℃であることがより好ましい。
〔ビニル樹脂〕
ビニル樹脂としては、ビニル化合物を重合したものであれば特に制限されないが、例えば、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレンアクリル共重合体、エチレン・酢酸ビニル樹脂などが挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。上記のビニル樹脂のなかでも、乳化凝集法における製造性(つまり、均一な凝集性を持つラテックスが作られることで、所望の粒度分布を有するトナーが得られる)や、熱定着時の可塑性を考慮すると、スチレンアクリル共重合体が好ましい。
(スチレンアクリル共重合体)
本発明でいうスチレンアクリル共重合体とは、少なくとも、スチレン単量体と(メタ)アクリル酸エステル単量体とを用いて、重合を行うことにより形成されるものである。ここで、スチレン単量体とは、CH2=CH−C6H5の構造式で表されるスチレンの他、スチレン構造中に公知の側鎖や官能基を有する構造のものも含まれる。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体とは、エステル結合を有する官能基を側鎖に有するものである。具体的には、CH2=CHCOOR(Rはアルキル基)で表されるアクリル酸エステル単量体の他、CH2=C(CH3)COOR(Rはアルキル基)で表されるメタクリル酸エステル単量体等のビニル系エステル化合物が含まれる。
以下に、スチレンアクリル共重合体を形成することが可能なスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体の具体例を示すが、以下に示すものに限定されるものではない。
スチレン単量体としては、例えば、スチレン、o−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−メチルスチレン、α−メチルスチレン、p−フェニルスチレン、p−エチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−n−ヘキシルスチレン、p−n−オクチルスチレン、p−n−ノニルスチレン、p−n−デシルスチレン、p−n−ドデシルスチレン等が挙げられる。
また、(メタ)アクリル酸エステル単量体は、以下に示すアクリル酸エステル単量体およびメタクリル酸エステル単量体が代表的なもので、アクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n−プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t−ブチルアクリレート、n−オクチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ステアリルアクリレート、ラウリルアクリレート、フェニルアクリレートフェニル等が挙げられる。メタクリル酸エステル単量体としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n−プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、n−オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート等が挙げられる。
これらのスチレン単量体、アクリル酸エステル単量体、またはメタクリル酸エステル単量体は、1種類単独でもまたは2種以上を組み合わせて使用することも可能である。
また、スチレンアクリル共重合体には、上述したスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体のみで形成された共重合体の他に、これらスチレン単量体および(メタ)アクリル酸エステル単量体に加えて、一般のビニル単量体を併用して形成されるものもある。以下に、本発明でいうスチレンアクリル共重合体を形成する際に併用可能なビニル単量体を例示するが、併用可能なビニル単量体は以下に示すものに限定されるものではない。
(1)オレフィン類
エチレン、プロピレン、イソブチレン等
(2)ビニルエステル類
プロピオン酸ビニル、酢酸ビニル、ベンゾエ酸ビニル等
(3)ビニルエーテル類
ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等
(4)ビニルケトン類
ビニルメチルケトン、ビニルエチルケトン、ビニルヘキシルケトン等
(5)N−ビニル化合物類
N−ビニルカルバゾール、N−ビニルインドール、N−ビニルピロリドン等
(6)その他
ビニルナフタレン、ビニルピリジン等のビニル化合物類、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド等のアクリル酸あるいはメタクリル酸誘導体等。
また、多官能性ビニル単量体を使用して、架橋構造の樹脂を作製することも可能である。さらに、側鎖にイオン性解離基を有するビニル単量体を使用することも可能である。イオン性解離基の具体例としては、例えば、カルボキシル基、スルホン酸基、リン酸基等が挙げられる。以下に、これらイオン性解離基を有するビニル単量体の具体例を示す。
カルボキシル基を有するビニル単量体の具体例としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、イタコン酸、ケイ皮酸、フマル酸、マレイン酸モノアルキルエステル、イタコン酸モノアルキルエステル等が挙げられる。
スチレンアクリル共重合体の形成方法は、特に制限されず、公知の油溶性あるいは水溶性の重合開始剤を使用して単量体を重合する方法が挙げられる。油溶性の重合開始剤または水溶性の重合開始剤の具体的な例は、上記で説明した内容と同様であるので、ここでは説明を省略する。必要に応じて例えばn−オクチル−3−メルカプトプロピオネートなどの公知の連鎖移動剤を使用してもよい。
本発明に使用されるスチレンアクリル共重合体を形成する場合、スチレン単量体およびアクリル酸エステル単量体の含有量は特に限定されるものではなく、結着樹脂の軟化点温度やガラス転移温度を調整する観点から適宜調整することが可能である。具体的には、スチレン単量体の含有量は、単量体全体に対し40〜95質量%が好ましく、50〜80質量%がより好ましい。また、アクリル酸エステル単量体の含有量は、単量体全体に対し5〜60質量%が好ましく、10〜50質量%がより好ましい。
スチレンアクリル共重合体の分子量は、重量平均分子量(Mw)で2,000〜1,000,000が好ましい。また、数平均分子量(Mn)は1,000〜100,000が好ましい。また、分子量分布(Mw/Mn)は1.5〜100が好ましく、1.8〜70がより好ましい。スチレンアクリル共重合体の重量平均分子量(Mw)、数平均分子量(Mn)および分子量分布(Mw/Mn)を上記範囲にすることにより、作製したトナーを用いてプリント作製を行ったときに定着工程でオフセット現象の発生の抑止に効果がある。また、スチレンアクリル共重合体のガラス転移温度は30〜70℃が好ましく、また、軟化点温度は80〜170℃が好ましい。ガラス転移温度および軟化点温度が上記の範囲であることによって、良好な定着性が得られる。
〔非晶性ポリエステル樹脂〕
非晶性ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸成分(またはその誘導体)および多価アルコール成分(またはその誘導体)を原料として重縮合反応によって得られたものであって、明瞭な融点を有さないものをいう。
多価カルボン酸成分の誘導体としては、多価カルボン酸成分のアルキルエステル、酸無水物および酸塩化物を用いることができ、多価アルコール成分の誘導体としては、多価アルコール成分のエステル化合物およびヒドロキシカルボン酸を用いることができる。
多価カルボン酸成分としては、例えばシュウ酸、コハク酸、マレイン酸、メサコン酸、アジピン酸、β−メチルアジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ノナンジカルボン酸、デカンジカルボン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、フマル酸、シトラコン酸、ジグリコール酸、シクロヘキサン−3,5−ジエン−1,2−ジカルボン酸、リンゴ酸、クエン酸、ヘキサヒドロテレフタール酸、マロン酸、ピメリン酸、酒石酸、粘液酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、テトラクロロフタル酸、クロロフタル酸、ニトロフタル酸、p−カルボキシフェニル酢酸、p−フェニレン二酢酸、m−フェニレンジグリコール酸、p−フェニレンジグリコール酸、o−フェニレンジグリコール酸、ジフェニル酢酸、ジフェニル−p,p’−ジカルボン酸、ナフタレン−1,4−ジカルボン酸、ナフタレン−1,5−ジカルボン酸、ナフタレン−2,6−ジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、ドデセニルコハク酸などの2価のカルボン酸;トリメリット酸、ピロメリット酸、ナフタレントリカルボン酸、ナフタレンテトラカルボン酸、ピレントリカルボン酸、ピレンテトラカルボン酸などの2価以上のカルボン酸などを挙げることができる。
多価アルコール成分としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ヘキサンジオール、シクロヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物などの2価のアルコール;グリセリン、ペンタエリスリトール、ヘキサメチロールメラミン、ヘキサエチロールメラミン、テトラメチロールベンゾグアナミン、テトラエチロールベンゾグアナミンなどの3価以上のポリオールなどを挙げることができる。
非晶性ポリエステル樹脂を合成するための触媒としては、従来公知の種々の触媒を使用することができる。
なお、トナーを構成する結着樹脂の数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)は分子量測定方法により算出することができる。以下に、分子量測定方法の代表例の1つであるテトラヒドロフラン(THF)をカラム溶媒として用いるゲルパーミエーションクロマトグラフ法(GPC)による分子量測定手順を説明する。
具体的には、測定試料を1mgに対してTHF(脱気処理したものを使用)を1ml添加し、室温下にてマグネチックスターラーを用いて攪拌処理して充分に溶解させる。次に、ポアサイズ0.45〜0.50μmのメンブランフィルターで処理した後、GPC装置に注入する。
GPCの測定条件は、40℃にてカラムを安定化させ、THFを毎分1mlの流速で流し、1mg/mlの濃度の試料を約100μl注入して測定する。カラムとしては、市販のポリスチレンジェルカラムを組み合わせて使用することが好ましい。例えば、昭和電工株式会社製のShodex GPC KF−801、802、803、804、805、806、807の組み合せや、東ソー株式会社製のTSKgelG1000H、G2000H、G3000H、G4000H、G5000H、G6000H、G7000H、GMHXL、TSK guard columnの組み合せ等がある。
検出器としては、屈折率検出器(RI検出器)、あるいはUV検出器が好ましく用いられる。試料の分子量測定では、試料の有する分子量分布を単分散のポリスチレン標準粒子を用いて作成した検量線を用いて算出する。検量線作成用のポリスチレンとしては10点程度用いることが好ましい。
分子量測定は、例えば、下記の測定条件の下で行うことができる。
(測定条件)
装置:HLC−8020(東ソー株式会社製)
カラム:GMHXL×2、G2000HXL×1
検出器:RIおよびUVの少なくとも一方
溶出液流速:1.0ml/分
試料濃度:0.01g/20ml
試料量:100μl
検量線:標準ポリスチレンにて作製。
なお、本発明に係るトナー母体粒子は、単層構造であってもよいしコアシェル構造であってもよいが、コアシェル構造が好ましい。コアシェル構造であれば、低温定着性を維持しつつ耐熱性が向上する。また、同様に、低温定着性を維持しつつ耐熱性が向上するという観点から、コアシェル構造のシェル部は、非晶性ポリエステル樹脂で構成されることが好ましい。コアシェル構造を有するトナー母体粒子の製造方法は、従来公知の知見が適宜採用される。
本発明の好ましい形態において、トナー母体粒子中における結晶性樹脂の含有量は、低温定着性および帯電性の観点から、5〜15質量%であることが好ましく、6〜13質量%であることがより好ましく、7〜10質量%であることがさらに好ましい。また、本発明の好ましい形態において、トナー母体粒子中における非晶性樹脂の含有量は、帯電性と定着性との観点から、40〜90質量%であることが好ましく、48〜87質量%であることがより好ましく、53〜85質量%であることがさらに好ましい。
[離型剤]
本発明のトナー母体粒子は、離型剤(ワックス)を含有する。離型剤としては、炭化水素系ワックス類、エステル系ワックス類、天然物系ワックス類、アミド系ワックス類等が挙げられる。本発明のトナーでは、離型剤が、エステル系ワックスまたは炭化水素系ワックスを含有することが好ましい。これらの離型剤は本発明のトナーに好適であり、これらを使用することにより、トナーの定着分離性を向上させ得る。
炭化水素系ワックス類としては、低分子量のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックスの他、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュワックス、パラフィンワックス等が挙げられる。
エステル系ワックス類としては、ベヘン酸ベヘニル、エチレングリコールステアリン酸エステル、エチレングリコールベヘン酸エステル、ネオペンチルグリコールステアリン酸エステル、ネオペンチルグリコールベヘン酸エステル、1,6−ヘキサンジオールステアリン酸エステル、1,6−ヘキサンジオールベヘン酸エステル、グリセリンステアリン酸エステル、グリセリンベヘン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラステアリン酸エステル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、クエン酸ステアリル、クエン酸ベヘニル、リング酸ステアリル、リング酸ベヘニル等の高級脂肪酸と高級アルコール類とのエステル等を挙げることができる。中でも、帯電性や定着性の観点から、ベヘン酸ベヘニル、ペンタエリスリトールテトラベヘン酸エステル、脂肪酸ポリグリセリンエステル、グリセリンベヘン酸エステル、ベヘン酸ステアリルなどが好ましい。これら離型剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
離型剤の融点は、好ましくは40〜160℃であり、より好ましくは60〜100℃である。融点を上記範囲内にすることにより、トナーの耐熱保存性が確保されるとともに、低温で定着を行う場合でもコールドオフセット等を起こさずに安定したトナー画像形成が行える。また、トナー母体粒子中の離型剤の含有量は、1〜30質量%が好ましく、3〜20質量%がより好ましい。
なお、トナー母体粒子への離型剤の含有のさせ方にも特に制限はなく、離型剤粒子分散溶液を別途作製し、その他のトナー母体粒子の構成成分の分散液と混合することによって含有させてもよいし、結着樹脂の原料成分を重合する際に、一緒に含有させてもよい。前者の方法であると低温定着性向上への技術的効果があり、後者であると帯電性向上への技術的効果がある。
[カーボンブラック(着色剤)]
本発明においては、静電荷像現像用トナーを製造するために、着色剤(黒色)を使用する。黒色の着色剤としては、着色性、色調の観点から、カーボンブラックを使用する。
カーボンブラックとしては、特に制限されないが、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック、サーマルブラック、ランプブラックなどが好適である。
本発明によれば、前記トナー母体粒子における前記カーボンブラックの含有量は、6〜15質量%である。6質量%未満であると、画像中の着色剤(カーボンブラック)の含有量が過少であり画像濃度が低下する。一方で、15質量%超であると、粒状性(GI値)が低下する。該カーボンブラックの含有量は、好ましくは7〜12質量%である。
[荷電制御剤]
本発明のトナー母体粒子は、荷電制御剤を含有してもよい。
荷電制御剤としては、ニグロシン系染料、ナフテン酸または高級脂肪酸の金属塩、アルコキシル化アミン、第4級アンモニウム塩化合物、アゾ系金属錯体、サリチル酸金属塩など、公知の種々の化合物を用いることができる。
荷電制御剤の添加量は、最終的に得られるトナー粒子中における結着樹脂100質量%に対して通常0.1〜10質量%、好ましくは0.5〜5質量%となる量とされる。
荷電制御剤粒子の大きさとしては、数平均一次粒子径で10〜1000nm、50〜500nmが好ましく、さらには80〜300nmが特に好ましい。
その他の添加剤としては、他に、ローダミン系染料、トリフェニルメタン系染料、アルキルアミンなどが挙げられる。
<トナー母体粒子の粒径>
本発明のトナー母体粒子の粒径は、メジアン径(D50)で3〜8μmであることが好ましい。この粒径は、後述する製造方法において、凝集剤の濃度や融着時間、さらには重合体自体の組成等によって制御することができる。体積基準のメジアン径(D50)が3〜8μmであることにより、細線の再現性や、写真画像の高画質化が達成できると共に、トナーの消費量を、大粒径トナーを用いた場合に比して削減することができる。なお、体積基準のメジアン径(D50)は、例えば、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)により測定できる。
<トナー母体粒子の平均円形度>
本発明のトナー母体粒子は、乳化凝集法によって作製される。よって、作製されるトナー母体粒子(トナー)の形状は、真球に近くなる。本発明のトナー母体粒子の下記式(4)で示される平均円形度(単に、円形度とも称する)は、通常、0.91以上である。よって、本発明の好ましい形態によれば、平均円形度が、0.91以上である。転写効率の向上や帯電安定性の観点から、0.920〜0.995であることが好ましく、0.930〜0.975であることがより好ましい。
なお、平均円形度は、例えば、平均円形度の測定装置「FPIA−2100」(シスメックス株式会社製)を用いて測定することができる。
[外添剤]
本発明に係るトナーは、外添剤粒子を含んでもよい。外添剤としては特に制限されないが、数平均一次粒径が2〜800nm程度の無機粒子が好ましい。外添剤の種類は特に限定されるものではなく、例えば、以下に例示する公知の無機粒子、および、滑剤等が挙げられる。これら外添剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても使用することができる。
無機粒子としては、従来公知のものを使用することが可能で、例えば、シリカ、チタニア(二酸化チタン)、アルミナ、チタン酸ストロンチウム粒子、ハイドロタルサイト等が好ましい。また、必要に応じてこれらの無機粒子を疎水化処理したものも使用することができる。
シリカ粒子の具体例としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の市販品R−805、R−976、R−974、R−972、R−812、R−809、ヘキスト社製のHVK−2150、H−200、キャボット社製の市販品TS−720、TS−530、TS−610、H−5、MS−5等が挙げられる。
チタニア粒子としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の市販品T−805、T−604、テイカ株式会社製の市販品MT−100S、MT−100B、MT−500BS、MT−600、MT−600SS、JA−1、富士チタン工業株式会社製の市販品TA−300SI、TA−500、TAF−130、TAF−510、TAF−510T、出光興産株式会社製の市販品IT−S、IT−OA、IT−OB、IT−OC等が挙げられる。
アルミナ粒子としては、例えば、日本アエロジル株式会社製の市販品RFY−C、C−604、石原産業株式会社製の市販品TTO−55等がある。
また、クリーニング性や転写性をさらに向上させるために滑剤を使用することも可能である。例えば、以下の様な高級脂肪酸の金属塩がある。すなわち、ステアリン酸の亜鉛、アルミニウム、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、オレイン酸の亜鉛、マンガン、鉄、銅、マグネシウム等の塩、パルミチン酸の亜鉛、銅、マグネシウム、カルシウム等の塩、リノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩、リシノール酸の亜鉛、カルシウム等の塩が挙げられる。
外添剤の添加量(2種以上使用する場合は、その合計量)は、トナー母体粒子に対して0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
[トナーの誘電正接tanδ]
本発明の静電荷像現像用トナーは、温度20℃相対湿度50%RHの環境下において、1kHzから100kHzまでの周波数の範囲で測定して得られる誘電正接tanδの最大値をtanδmaxとし、最小値をtanδminとしたとき、下記式(1)を満たす。なお、誘電正接tanδは、実施例に記載の方法により測定することができる。
上記式(1)を満足する本発明のトナーは、tanδの周波数依存性が小さい。したがって、多様な周波数の電界が印加された場合であっても、本発明のトナーは、安定して電荷を保持することができ、現像工程や転写工程において忠実に応答し、低温定着性を確保しつつ高画質化を実現することができる。
tanδmax−tanδminが0.0035を超える場合、tanδの周波数依存性が大きくなり、画質(粒状性)が悪化する。tanδmax−tanδminは、好ましくは0.0025以下であり、より好ましくは0.0010以下である。なお、tanδmax−tanδminの下限値は、通常0である。
本発明の好ましい形態によれば、トナーの周波数100kHzで測定される誘電正接tanδ100kHzが、下記式(2)を満たす。このような範囲であれば、電荷がリークしにくく、トナーの帯電性が向上する。
誘電正接tanδ100kHzは、より好ましくは0.027以下であり、さらに好ましくは0.020以下である。なお、tanδ100kHzの下限値は、通常0である。
本発明のさらに好ましい形態によれば、前記tanδmaxを示す周波数と、前記tanδminを示す周波数とが、下記式(3)を満たす。かような式(3)を満たすトナーは、帯電性の立ち上がりに優れ、帯電均一性が良好になり、画質(粒状性)が向上する。このような効果が得られる詳細な理由は不明であるが、より高い周波数領域でのtanδが低くなることで、電荷がよりリークしにくくなり、帯電性が向上するためと推測している。
上記の式(1)や式(2)を満足する本発明のトナーは、例えばカーボンブラックの添加量、結着樹脂を構成する単量体の種類や添加量等を、適宜調節することにより得ることができる。例えば、結着樹脂を構成する単量体として、メタクリル酸等のカルボキシル基を有する単量体を用いることにより、トナー母体粒子中の主にカーボンブラックの分散状態を制御することが容易になり、上記式(1)や式(2)を満足するトナーを得ることがより容易になる。
カーボンブラックや結晶性樹脂の量が増えれば、tanδが上昇してしまうため、カーボンブラックや結晶性樹脂の分散性を制御することが望ましい。これら成分の分散性が良好で、分散径が小さければ、トナー内部での導電性が抑制され、帯電性が向上する。トナーの導電性は、イオン電導と電子伝導とが主であると考えられ、カーボンブラックは自由電子が存在するため電子伝導により高周波数領域(〜100kHz程度)でのε”と関連すると推測している。また、結着樹脂がカルボキシル基を含む場合、カルボキシル基由来の水素イオンはイオン伝導により低周波数領域(1000Hz程度)のε”と関連すると推測している。これらのバランスで、tanδの周波数依存性が変化すると考えられ、カルボキシル基を有する単量体を結着樹脂に用いることで、本発明のトナーが得られやすくなると考えられる。
一例として、非晶性樹脂の構成成分であるビニル樹脂を構成する単量体として、カルボキシル基を有する単量体を用いる場合、ビニル樹脂中のカルボキシル基を有する単量体の使用量は、7〜14質量%が好ましい。カーボンブラックの分散性と、帯電安定性と、誘電正接tanδとは相関があると考えられ、このような使用量であれば、カーボンブラックの分散性を向上させることができ、誘電正接tanδの値が低く抑えられ、より帯電安定性が高く、耐久性にも優れたトナーとなる。
さらに、上記式(3)を満たすトナーは、例えば乳化凝集法によるトナーの製造時に用いられる凝集停止剤の量を調節することにより得ることができる。
[CV値]
本発明において、トナー母体粒子の体積基準の粒度分布における変動係数(CV値、以下単に「CV値」とも称する)は16〜19%である。CV値は、トナー母体粒子の粒度分布における分散度を体積基準で表したものであり、下記式(5)で表される。CV値が小さいほど、粒度分布がシャープであることを表し、トナー母体粒子の大きさがそろっていることを示す。
CV値が16%未満の場合、トナー母体粒子の大きさがそろい過ぎて、却ってクリーニング性が低下する。一方、CV値が19%を超えると、粒状性(GI値)が低下する。該CV値は、好ましくは17〜18%である。
このCV値は、例えばトナーの製造時に用いられる凝集停止剤の量を調節することにより制御することができる。また、トナー母体粒子の体積基準のメジアン径およびCV値は、「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)によって測定することができる。
(静電荷像現像用トナーの製造方法)
次に、本発明のトナーの製造方法について説明する。本発明のトナー母体粒子の製造方法は、特に制限されず、混練粉砕法、懸濁重合法、乳化凝集法、溶解懸濁法、ポリエステル伸長法、分散重合法など公知の方法が挙げられる。
これらの中でも、乳化凝集法であることが好ましい。乳化凝集法を採用することによって、トナー母体粒子の小粒径化が図れ、微粉成分の発生を抑制できることで粒度分布がシャープなトナー粒子を得られる利点がある。また、製造時の所要エネルギーが少ないという利点もある。
乳化凝集法によるトナー製造では、粒子表面性すなわち凝集安定性の異なる複数種の粒子(着色剤、結着樹脂、離型剤等)を用いて粒径成長させる。
乳化凝集法は、乳化重合などによって製造された結着樹脂を含む結着樹脂粒子の分散液(結晶性樹脂粒子分散液および非晶性樹脂粒子分散液)と、着色剤(カーボンブラック)粒子などのトナー母体粒子を構成する成分の分散液とを、水系の環境下にて混合し、凝集剤の添加によってこれらを凝集させ、必要に応じて凝集停止剤を添加して粒径制御を行い、さらに結着樹脂粒子間の融着によって形状制御を行ない、トナー母体粒子を製造する方法である。
乳化凝集法では、上記のように、まず従来公知の乳化重合などにより結着樹脂の粒子を形成し、この樹脂粒子を凝集、融着させてトナー母体粒子を形成する。より具体的には、結着樹脂を構成する単量体を水系媒体中へ投入、分散させ、重合開始剤によりこれら重合性単量体を重合させることにより、結着樹脂粒子の分散液を作製する。
結晶性樹脂粒子分散液を得る方法として、上記の水系媒体中で重合開始剤により重合性単量体を重合させる方法の他に、例えば、溶剤を用いることなく、水性媒体中において分散処理を行う方法、あるいは結晶性樹脂を酢酸エチルなどの溶剤に溶解させて溶液とし、分散機を用いて当該溶液を水性媒体中に乳化分散させた後、脱溶剤処理を行う方法などが挙げられる。
この際、必要に応じ、結着樹脂(結晶性樹脂または非晶性樹脂)には離型剤を予め含有させておいてもよい。また、分散のために、適宜公知の界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム、ドデシル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤)の存在下で重合させることも好ましい。
結着樹脂粒子の粒径(体積基準のメジアン径)は、100〜300nmであることが好ましい。なお、単量体の重合は、複数段階に分けて行うことで、例えば、非晶性樹脂を、組成の異なる樹脂(あるいは組成の同じ樹脂)よりなる2層以上の構成とする複数層の形態とすることも好ましい。このように複数層の形態にすることによって、乳化凝集法でトナーを製造する際に、粒度分布がよりシャープなトナーを得ることができる。
また、別途、水系媒体中に着色剤(カーボンブラック)粒子を分散させ、着色剤粒子分散液を作製する。分散液中の着色剤粒子の粒径(体積基準のメジアン径)は、80〜200nmが好ましい。
次いで、水系媒体中で前述の結着樹脂粒子と、着色剤粒子とを凝集させ、これら粒子を融着させてトナー母体粒子を作製する。すなわち、上記の結着樹脂粒子分散液と、着色剤粒子分散液とを混合した水系媒体中に、アルカリ金属塩やアルカリ土類(第2族)金属塩の等を凝集剤として添加した後、結着樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度で加熱して凝集を進行させ、樹脂粒子同士を融着させる。そして、トナー母体粒子の大きさが目標の大きさになった時に、塩を添加して凝集を停止させる。その後、反応系を加熱処理することにより、トナー母体粒子の形状を所望の形状にするまで熟成を行い、トナー母体粒子を完成させる。
さらに、凝集用分散液がガラス転移温度以上の温度に到達した後、分散液の温度を一定時間保持することにより、融着を継続させる。これにより、トナー母体粒子の成長(結着樹脂粒子および着色剤粒子の凝集)と、融着(粒子間の界面の消失)とを効果的に進行させることができる。
凝集剤の使用量は、結着樹脂粒子および着色剤粒子の固形分全量に対して、5〜20質量%が好ましい。その後、1〜6分放置し、30〜90分かけて70〜95℃まで昇温し、凝集した結着樹脂粒子および着色剤粒子を融着させることができる。このとき、融着したトナー母体粒子の体積基準のメジアン径を測定し4.5〜10μmになったときに、凝集停止剤の水溶液等を添加して粒子の成長を停止させる。
さらに、熟成処理として液温を70〜90℃にして、0.5〜6時間、加熱攪拌を行い、平均円形度を通常0.91以上、好ましくは0.920〜0.995になるまで粒子の融着を進行させるとよい。
メジアン径は、例えば、ベックマン・コールター株式会社製、コールターマルチサイザー3によって測定できる。平均円形度は、後述する実施例で使用した方法により測定できる。なお、熟成工程では熱および攪拌によるせん断をトナー粒子に加えることにより、凝集粒子中の樹脂粒子同士を融着させるとともに粒子の平均円形度および表面性を制御することができる。
<水系媒体>
本発明において、「水系媒体」とは、少なくとも水が50質量%以上含有されたものをいい、水以外の成分としては、水に溶解する有機溶剤を挙げることができ、例えばメタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、アセトン、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、メチルセルソルブ、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
<凝集剤>
凝集粒子形成工程において使用する凝集剤としては、特に限定されるものではないが、電荷中和反応と架橋作用とにより粒子を成長させるものとして金属塩から選択されるものが好適である。金属塩としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウムなどのアルカリ金属の塩などの一価の金属塩;カルシウム、マグネシウム、マンガン、銅などの二価の金属塩;鉄、アルミニウムなどの三価の金属塩などが挙げられる。具体的な金属塩としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化リチウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、硫酸銅、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、酢酸亜鉛などを挙げることができ、これらの中で、より少量で凝集を進めることができることから、二価の金属塩を用いることが特に好ましい。これらは1種単独で、または2種以上を組み合わせて用いることができる。
<凝集停止剤>
凝集粒子の成長を停止させる凝集停止剤としては凝集作用を緩和させる化合物や塩が用いられる。例えば塩化カリウム、多価有機酸もしくはその塩、またはアミノ酸、ポリホスホン酸もしくはこれらの塩を使用することができる。また系内のpHを変化させることによって凝集作用を緩和させる方法も用いることができる。pHを調整するためにはフマル酸ナトリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液、塩酸などを用いることができる。さらには、pHを調整するとともにキレート剤を併用し、金属イオンによる架橋作用を緩和させることも有効である。キレート剤としてはHIDA(ヒドロキシエチルイミノ二酢酸)、HEDTA(ヒドロキシエチルエチレンジアミン三酢酸)、HEDP(ヒドロキシエチリデンジホスホン酸)、HIDS(3−ヒドロキシ−2,2’−イミノジコハク酸)等が挙げられる。
上述したように、本発明のトナーのCV値は、凝集停止剤の添加量によって制御することができる。一般的に、凝集停止剤の添加量を多くするとCV値は小さくなり、凝集停止剤の量を少なくするとCV値は大きくなる。例えば、凝集停止剤として塩化カリウムを用いた場合、その添加量は、トナー母体粒子の固形分全量に対して、5〜50質量%であることが好ましく、10〜40質量%であることがより好ましい。
以上より、静電荷像現像用トナーの製造方法の一形態によれば、以下の工程を含む。
(1)水系媒体中に着色剤(カーボンブラック)粒子が分散されてなる分散液を調製する着色剤粒子分散液調製工程
(2)水系媒体中に、必要に応じて離型剤、荷電制御剤などの内添剤を含有した、結着樹脂粒子(結晶性樹脂粒子、非晶性樹脂粒子)が分散されてなる分散液を調製する、結着樹脂粒子分散液調製工程
(3)結着樹脂粒子および着色剤粒子、ならびに必要に応じてその他のトナー構成成分の粒子を、水系媒体中において、凝集、融着させて凝集粒子を成長させる凝集、融着工程
(4)水系媒体中に特定の凝集停止剤を添加して凝集を停止させて凝集粒子の成長を停止させる凝集停止剤添加工程
(5)凝集粒子を熱エネルギーにより熟成させて形状を制御し、トナー母体粒子を得る熟成工程
を含む。
また、静電荷像現像用トナーの製造方法の好ましい一形態によれば、さらに以下の工程を含む。
(6)水系媒体からトナー母体粒子を濾別し、当該トナー母体粒子から凝集剤、凝集停止剤、界面活性剤などを除去する濾過、洗浄工程
(7)洗浄処理されたトナー母体粒子を乾燥する乾燥工程
続いて、
(8)乾燥処理されたトナー母体粒子に外添剤を添加する外添剤添加工程
を経て、静電荷像現像用トナーを作製することができる。
[現像剤]
本発明のトナーは、例えば磁性体を含有させて一成分磁性トナーとして使用する場合、いわゆるキャリアと混合して二成分現像剤として使用する場合、非磁性トナーを単独で使用する場合などが考えられ、いずれも好適に使用することができる。
二成分現像剤を構成するキャリアとしては、鉄、フェライト、マグネタイトなどの金属、それらの金属とアルミニウム、鉛などの金属との合金などの従来公知の材料からなる磁性粒子を用いることができ、特にフェライト粒子を用いることが好ましい。
キャリアとしては、その体積平均粒径としては15〜100μmのものが好ましく、25〜60μmのものがより好ましい。
キャリアとしては、さらに樹脂により被覆されているもの、または樹脂中に磁性粒子を分散させたいわゆる樹脂分散型キャリアを用いることが好ましい。被覆用の樹脂組成としては、特に限定はないが、例えば、オレフィン樹脂、シクロヘキシルメタクリレート−メチルメタクリレート共重合体、スチレン樹脂、スチレンアクリル樹脂、シリコーン樹脂、エステル樹脂またはフッ素樹脂などが用いられる。また、樹脂分散型キャリアを構成するための樹脂としては、特に限定されず公知のものを使用することができ、例えば、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、ポリエステル樹脂、フッ素樹脂、フェノール樹脂など使用することができる。
以下、本発明の代表的な実施形態を示し、本発明につきさらに説明するが、無論、本発明がこれらの実施形態に限定されるものではない。なお、実施例中において特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を表す。
[トナーの作製]
<実施例1>
〔離型剤を含有する非晶性樹脂(ビニル樹脂)粒子〔M1〕の分散液〔MD1〕の調製〕
(第1段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ドデシル硫酸ナトリウム8gをイオン交換水3Lに溶解させた溶液を仕込み、窒素気流下230rpmの攪拌速度で攪拌しながら、内温を80℃に昇温させた後、過硫酸カリウム10gをイオン交換水200gに溶解させた溶液を添加し、再度液温を80℃とし、
スチレン 480g
n−ブチルアクリレート 250g
メタクリル酸 68g
からなる単量体混合液を1時間かけて滴下後、80℃で2時間加熱、攪拌することにより重合を行い、樹脂粒子〔a1〕が分散されてなる樹脂粒子分散液〔A1〕を調製した。
(第2段重合)
攪拌装置、温度センサー、冷却管、窒素導入装置を取り付けた5Lの反応容器に、ポリオキシエチレン(2)ドデシルエーテル硫酸ナトリウム6gをイオン交換水1850mlに溶解させた溶液を仕込み、80℃に加熱後、上記の樹脂粒子分散液〔A1〕260gを加えた。
さらに
スチレン 175g
n−ブチルアクリレート 80g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 3.8g
離型剤:ベヘン酸ベヘニル(融点73℃) 86.5g
を80℃で溶解、混合させた単量体溶液を、循環経路を有する機械式分散機「クレアミックス(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)により15分間混合分散させて、乳化粒子(油滴)を含む分散液を調製した。
次いで、反応容器に、過硫酸カリウム5gをイオン交換水100mlに溶解させた開始剤溶液を添加し、この系を82℃で1時間にわたって加熱撹拌することにより重合を行い、樹脂粒子〔a2〕が分散されてなる樹脂粒子分散液〔A2〕を調製した。
(第3段重合)
上記の樹脂粒子分散液〔A2〕に、過硫酸カリウム5gをイオン交換水100mlに溶解させた溶液を添加し、82℃の温度条件下に、
スチレン 303.5g
n−ブチルアクリレート 118.5g
メタクリル酸 70g
n−オクチル−3−メルカプトプロピオネート 8g
からなる単量体混合液を90分かけて滴下した。滴下終了後、2時間にわたって加熱攪拌することにより重合を行った後、28℃まで冷却し、これにより、ビニル単量体を主成分とし、離型剤を含有する非晶性樹脂粒子〔M1〕の分散液〔MD1〕を調製した。
この分散液〔MD1〕について、非晶性樹脂粒子〔M1〕の体積基準のメジアン径を測定したところ、230nmであった。また、当該非晶性樹脂粒子〔M1〕を構成する非晶性樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量が30,200であった。
〔ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液[C1]の調製〕
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)の合成
下記の付加重合系樹脂の原料モノマー(単量体)、両反応性モノマー(単量体)およびラジカル重合開始剤を滴下ロートに入れた。
スチレン 35質量部
n−ブチルアクリレート 9質量部
アクリル酸 4質量部
重合開始剤(ジーt−ブチルパーオキサイド) 7質量部
さらに、下記の重縮合系の原料モノマーを、窒素導入管、脱水管、攪拌器および熱電対を装備した四つ口フラスコに入れ、170℃に加熱し溶解させた。
ドデカン二酸 318質量部
1,6−ヘキサンジオール 196質量部
次いで、攪拌下で付加重合系樹脂の原料モノマーを90分かけて滴下し、60分間熟成を行った後、減圧下(8kPa)にて未反応の付加重合モノマーを除去した。その後、エステル化触媒としてTi(O−n−Bu)4を0.8質量部投入し、235℃まで昇温、常圧下(101.3kPa)にて5時間、さらに減圧下(8kPa)にて1時間反応を行った。次に200℃まで冷却した後、減圧下(20kPa)にて1時間反応させることにより、ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)を得た。得られたハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)の重量平均分子量(Mw)は8,100であり、融点は79℃であった。
ハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)30質量部を溶融状態のまま、乳化分散機「キャビトロンCD1010」(株式会社ユーロテック製)に対して毎分100質量部の移送速度で移送した。また、この溶融状態のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂(c1)の移送と同時に、当該乳化分散機に対して、水性溶媒タンクにおいて試薬アンモニア水70質量部をイオン交換水で希釈した、濃度0.37質量%の希アンモニア水を、熱交換器で100℃に加熱しながら毎分0.1リットルの移送速度で移送した。そして、この乳化分散機を、回転子の回転速度60Hz、圧力5kg/cm2の条件で運転することにより、体積基準のメジアン径が200nm、固形分量が30質量%のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂粒子の水系分散液[C1](結晶性樹脂粒子分散液[C1])を調製した。
〔着色剤(カーボンブラック)粒子分散液〔Bk〕の調製〕
ドデシル硫酸ナトリウム90gをイオン交換水1600gに攪拌溶解し、この溶液を攪拌しながら、カーボンブラック(ファーネスブラック)「リーガル(登録商標)330R」(キャボット社製)420gを徐々に添加し、次いで、攪拌装置「クレアミックス(登録商標)」(エム・テクニック株式会社製)を用いて分散処理することにより、着色剤粒子〔Bk〕が分散されてなる着色剤粒子分散液〔Bk〕を調製した。着色剤粒子分散液〔Bk〕における着色剤粒子〔Bk〕の体積基準のメジアン径を電気泳動光散乱光度計「ELS−800」(大塚電子株式会社製)を用いて測定したところ、120nmであった。
〔トナーの製造例1〕
攪拌装置、温度センサー、冷却管および窒素導入装置を取り付けたフラスコに、
・イオン交換水400質量部と、
・離型剤を含有する非晶性樹脂粒子〔M1〕の分散液〔MD1〕504質量部(固形分換算)と、
・着色剤(カーボンブラック)粒子分散液〔Bk〕54質量部(固形分換算)と、
・結晶性樹脂粒子分散液[C1]42質量部(固形分換算)と、
を仕込み、液温を25℃に調整した後、濃度25質量%の水酸化ナトリウム水溶液を加えてpHを10.5に調整した。
次いで、塩化マグネシウム・6水和物 50質量部をイオン交換水50質量部に溶解させた水溶液を添加し、系の温度を80℃まで昇温することによって、各樹脂粒子と着色剤粒子との凝集反応を開始した。なお、本発明では、分散液〔MD1〕と、着色剤粒子分散液〔Bk〕と、結晶性樹脂粒子分散液[C1]と、塩化マグネシウムと、の添加順序は特には制限されない。以下、同様である。
この凝集反応の開始後、定期的にサンプリングを行い、粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて粒子の体積基準のメジアン径を測定し、体積基準のメジアン径が6.0μmになるまで攪拌を継続しながら凝集させた。
その後、塩化カリウム120質量部をイオン交換水600質量部に溶解させた水溶液を添加し、系の温度を82℃として4時間攪拌を継続し、フロー式粒子像解析装置「FPIA−2100」(Sysmex社製)による測定で平均円形度が0.960に達した時点で、6℃/分の冷却速度で30℃まで冷却して反応を停止させることにより、トナー母体粒子の分散液を得た。粒度分布測定装置「コールターマルチサイザー3」(ベックマン・コールター株式会社製)を用いて測定した結果、冷却後のトナー母体粒子の粒径(体積基準のメジアン径)は6.1μm、CV値は17%であった。また、平均円形度は0.960であった。なお、他の実施例、比較例において、粒径および平均円形度は、いずれも実施例1と同じであった。
このようにして得られたトナー母体粒子の分散液をバスケット型遠心分離機「MARK III 型式番号60×40」(松本機械販売株式会社製)を用いて固液分離し、ウェットケーキを形成した。このウェットケーキを、前記バスケット型遠心分離機で濾液の電気伝導度が15μS/cmになるまで洗浄と固液分離とを繰り返し、その後、「フラッシュジェットドライヤー」(株式会社セイシン企業製)を用い、温度40℃および相対湿度20%RHの気流を吹き付けることによって水分量が0.5質量%となるまで乾燥処理し、24℃に冷却することにより、トナー母体粒子〔1X〕を得た。
得られたトナー母体粒子〔1X〕に対して、疎水性シリカ粒子(数平均二次粒径:30μm、数平均一次粒径:50〜200nm)1質量%と疎水性酸化チタン粒子(数平均二次粒径:20μm、数平均一次粒径:50〜200nm)1.2質量%とを添加し、ヘンシェルミキサーを用い、回転翼の周速24m/sの条件で20分間かけて混合し、さらに400メッシュの篩を通過させることによって外添剤を添加し、トナー〔1〕を得た。
<実施例2>
〔離型剤を含有する非晶性樹脂粒子〔M1〕の分散液〔MD1〕の調製〕の(第3段重合)において、モノマー量を下記のように変更して非晶性樹脂微粒子〔M2〕の分散液〔MD2〕を得たこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔2〕を作製した。分散液〔MD2〕について、非晶性樹脂粒子〔M2〕の体積基準のメジアン径を測定したところ、222nmであった。また、当該非晶性樹脂粒子〔M2〕を構成する非晶性樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)が31,200であった。
スチレン 318g
n−ブチルアクリレート 114g
メタクリル酸 60g
<実施例3>
〔離型剤を含有する非晶性樹脂粒子〔M1〕の分散液〔MD1〕の調製〕の(第3段重合)において、モノマー量を下記のように変更して非晶性樹脂粒子〔M3〕の分散液〔MD3〕を得たこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔3〕を作製した。分散液〔MD3〕について、非晶性樹脂粒子〔M3〕の体積基準のメジアン径を測定したところ、234nmであった。また、当該非晶性樹脂粒子〔M3〕を構成する非晶性樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)が30,800であった。
スチレン 351.75g
n−ブチルアクリレート 105.25g
メタクリル酸 35g
<実施例4>
〔トナーの製造例1〕において、分散液〔MD1〕の量を468質量部(固形分換算)とし、分散液〔Bk〕の量を90質量部(固形分換算)としたこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔4〕を作製した。
<実施例5>
〔トナーの製造例1〕において、分散液〔MD1〕の量を522質量部(固形分換算)とし、分散液〔Bk〕の量を36質量部(固形分換算)としたこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔5〕を作製した。
<実施例6>
凝集反応停止時に用いる塩化カリウム240質量部をイオン交換水1200質量部に溶解させて使用したこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔6〕を作製した。
<実施例7>
凝集反応停止時に用いる塩化カリウム60質量部をイオン交換水300質量部に溶解させて使用したこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔7〕を作製した。
<比較例1>
〔離型剤を含有する非晶性樹脂粒子〔M1〕の分散液〔MD1〕の調製〕の(第3段重合)において、モノマー量を下記のように変更して非晶性樹脂粒子〔M4〕の分散液〔MD4〕を得たこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔8〕を作製した。分散液〔MD4〕について、非晶性樹脂粒子〔M4〕の体積基準のメジアン径を測定したところ、230nmであった。また、当該非晶性樹脂粒子〔M4〕を構成する非晶性樹脂の分子量を測定したところ、重量平均分子量(Mw)が31,000であった。
スチレン 359g
n−ブチルアクリレート 103g
メタクリル酸 30g
<比較例2>
〔トナーの製造例1〕において、分散液〔MD1〕の量を462質量部(固形分換算)とし、分散液〔Bk〕の量を96質量部(固形分換算)としたこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔9〕を作製した。
<比較例3>
〔トナーの製造例1〕において、分散液〔MD1〕の量を528質量部(固形分換算)とし、分散液〔Bk〕の量を30質量部(固形分換算)としたこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔10〕を作製した。
<比較例4>
〔トナーの製造例1〕において、分散液〔MD1〕の量を546質量部(固形分換算)とし、結晶性樹脂粒子分散液[C1]を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔11〕を作製した。
<比較例5>
凝集反応停止時に用いる塩化カリウムの量を50質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔12〕を作製した。
<比較例6>
凝集反応停止時に用いる塩化カリウムの量を360質量部としたこと以外は、実施例1と同様にして、トナー〔13〕を作製した。
[現像剤の調製]
作製したトナー1〜13のそれぞれに、シリコーン樹脂を被覆した体積平均粒径が60μmのフェライトキャリアを混合し、各トナーの現像剤を調製した。なお、各現像剤におけるトナーの濃度が7.5質量%となるように調製した。
[性能評価]
<誘電正接(tanδ)>
測定試料として、トナー2gを、100kgf/cm2の荷重を10秒かけて成形した40mmφの円盤状のサンプル(厚さ:約2mm)を使用した。なお、円盤状の各サンプルの厚さは、ノギスで測定した。誘電正接tanδは、温度20℃、相対湿度50%RHの環境下において、LCRメーター 65120P(株式会社東陽テクニカ製)を用いて測定した。付属ソフトであるWITNESS−6000を使用し、測定周波数を1kHzから100kHzまで、1ケタのポイント数を5、および平均化回数を3にそれぞれ設定し、円盤状のサンプルの厚さを入力して測定を行った。
<粒状性(GI値)>
市販の複合プリンター「bizhub PRO(登録商標)C500」(コニカミノルタ株式会社製)を使用し、階調率32段階の階調パターンを出力し、この階調パターンの粒状性について、下記評価基準に従って評価した。粒状性の評価は、階調パターンのCCDによる読み取り値にMTF(Modulation Transfer Function)補正を考慮したフーリエ変換処理を施し、人間の比視感度にあわせたGI値(Graininess Index)を測定し、最大GI値を求めた。GI値は小さいほどよい。なお、このGI値は、日本画像学会誌39(2)、84・93(2000)に掲載されている値である。本評価においては、GI値が0.21以下であれば合格とした。
<画像濃度>
市販の複合プリンター「bizhub PRO(登録商標)C500」(コニカミノルタ株式会社製)を改造して、温度20℃、相対湿度50%RHの環境下において、コニカミノルタ株式会社製CFペーパー上に出力した。現像バイアスを調整することにより、紙面上のトナー付着量を4.5g/m2に合わせ、画像濃度を測定した。
画像濃度は、分光光度計「Gretag Macbeth Spectrolino」(Gretag Macbeth社製)を用い、光源としてD65光源、反射測定アパーチャとしてφ4mmのものを用い、測定波長域380〜730nmを10nm間隔で、視野角を2°とし、基準合わせには専用白タイルを用いた条件において測定するものとした。本評価においては、画像濃度が1.80以上を合格とした。
<帯電量>
平行平板(アルミ)電極間に、現像剤をしゅう動させながら配置し、電極間ギャップが0.5mm、DCバイアスが1.0kV、ACバイアスが4.0kV、2.0kHzの条件でトナーを現像させた際のトナーの電荷量と質量とを測定し、単位質量当たりの電荷量Q/m(μC/g)を帯電量とした。本評価においては、45μC/g以上を合格とした。
<アンダーオフセット温度(低温定着性)>
画像形成装置として、市販のフルカラー複合機「bizhub PRO(登録商標)C6500」(コニカミノルタ株式会社製)を、定着上ベルトおよび定着下ローラの表面温度を変更可能に改造したものを用いた。記録材「NPi上質紙128g/m2」(日本製紙株式会社製)上に、トナー付着量11.3g/m2のベタ画像を、定着温度200℃にて、定着速度300mm/secで出力する試験を、定着温度を5℃刻みで減少させるよう変更しながら、コールドオフセットが発生するまで繰り返し行い、コールドオフセットが発生しなかった定着上ベルトの最低の表面温度を調査し、これを定着下限温度として低温定着性を評価した。各試験において、定着温度とは定着上ベルトの表面温度をいい、定着下ローラの表面温度は、常に定着上ベルトより20℃低い温度に設定した。定着下限温度が低いほど低温定着性に優れることを示す。本評価においては、145℃未満である場合を合格とした。
<クリーニング性>
画像形成装置「bizhub PRO(登録商標)C6500」(プリントスピード約65枚/分)(コニカミノルタ株式会社製)の改造機を用い、低温低湿環境(10℃、15%RH)にて感光体上のトナー付着量が4g/m2になるようバイアス電圧を設定し、一次転写電流値を0μAとした。その後、A3版の上質紙(65g/m2)を流し、画像のすり抜け発生有無を目視にて確認し、すり抜けが発生した時のプリント枚数をもってクリーニング性の評価とした。プリント枚数が5枚以上である場合を合格とした。
実施例および比較例のトナーの構成および評価結果を下記表1に示す。なお、表1中、「MAA量」はビニル樹脂中のメタクリル酸の含有量を、「CB量」はトナー母体粒子中のカーボンブラックの含有量を、「CPES量」はトナー母体粒子中のハイブリッド結晶性ポリエステル樹脂の含有量を、それぞれ表す。
上記表1から明らかなように、すべての実施例のトナーは、帯電性が向上し、高画質化を実現することができ、クリーニング性および低温定着性にも優れていることがわかる。
一方、比較例1および2のトナーは、tanδmaxとtanδminとの差が大きく、画質が低下することが示唆された。比較例3のトナーは、カーボンブラックの含有量が少なく、濃度が不足していた。比較例4のトナーは、結晶性樹脂を含んでおらず、低温定着性が低下した。比較例5のトナーは、CV値が高く、粒状性が低下した。比較例6のトナーは、CV値が低く、クリーニング性が低下した。