JP6699705B2 - 切削インサート及び刃先交換式回転切削工具 - Google Patents

Description

本発明は、切削インサートと、それが着脱自在に装着される刃先交換式回転切削工具とに関する。特には、本発明は、歯車の歯溝を形成するために使用される歯切り用の切削インサート及び刃先交換式回転切削工具に関する。

従来、歯車の歯溝を形成するための工具の１つとして、刃先交換式の回転切削工具が使用されている。この工具は、工具ボデーの両側端面に対して配置されたインサート取付座に、側端面側から締付けネジで切削インサートを組み付けるものである。その工具の刃形は歯車の歯溝の少なくとも一部と同形状であり、その工具で溝加工を行うと刃形がそのまま歯の形状として被削材に転写される。

このような歯切り用の回転切削工具に用いられる切削インサートの一例が、特許文献１に開示されている。図１Ａ〜図１Ｃに示されているように、この切削インサートでは、上面と側面との交差稜線部が切れ刃として形成され、側面がすくい面であり、上面が逃げ面であり、下面がインサート着座面である。切れ刃が縁部に形成されている側面側におけるこの切削インサートの側面視（図１Ｃ参照）において、切れ刃は上面側に向かって凸状である。したがって、上面は切れ刃の凸形状にならった曲面形状をなしている。特許文献１の記載によれば、切れ刃は、工具ボデーの軸線周りの回転軌跡が加工すべきインボリュート歯形に成形されている。

特開２００５−６６７８０号公報

ところで、上述した切削インサートにおいて、切れ刃を正確にインボリュートカーブ形状にするためには多大な費用がかかる。なぜなら、インボリュートカーブは曲率が漸次変化していく複雑な曲線であり、その形状を切れ刃に正確に形成するには、高度な技術と多くの製作時間とが必要とされるからである。そのため、歯切り用の切削インサートにおいては、切れ刃をより安価でより簡単に形成することに対する要望がある。

歯溝加工用の切れ刃をインボリュートカーブ形状以外の形状にすることに対する研究が従来行われている。しかし、従来考案されている切れ刃は、インボリュートカーブに対する切れ刃形状の近似度の点で、なお改善の余地がある。

本発明は、上記事情に鑑みて考案されたものであり、歯車の歯溝形成に使用可能な切れ刃を備える切削インサートを提供することを目的とする。

さらに、本発明は、歯車の歯溝を形成するために用いられる、そのような切削インサートが着脱自在に取り付けられる刃先交換式回転切削工具を提供することをさらなる目的とする。

本発明の一態様によれば、
第１端面と、該第１端面に対向する第２端面と、該第１端面と該第２端面との間に延在する周側面とを備えた切削インサートであって、
前記第１端面及び前記第２端面の少なくとも一方と前記周側面との交差稜線部には少なくとも１つの円弧状の切れ刃が形成されていて、
前記切れ刃は、
該切削インサートの端面視において、一定の第１曲率半径を有する１つの第１曲線形状に倣うように形成されているとともに、
該切削インサートの側面視において、その少なくとも過半部分が一定の第２曲率半径を有する１つの第２曲線形状に倣うように形成されている、切削インサートが提供される。

好ましくは、切れ刃は、該切削インサートの端面視において、前記第１曲率半径の前記第１曲線形状を全体的に呈するように形成されているとともに、該切削インサートの側面視において、前記第２曲率半径の前記第２曲線形状を大部分が呈するように形成されている。前記第１曲率半径は、前記第２曲率半径と異なっているとよい。

好ましくは、前記切削インサートの端面視において前記切れ刃を円弧とみなして該円弧を一部に有する第１円の中心を定め、前記切削インサートの側面視において前記切れ刃の少なくとも過半部分を円弧とみなして該円弧を一部に有する第２円の中心を定めたとき、前記切削インサートの端面視において前記円弧状の切れ刃の二等分地点と前記第１円の中心とを通る直線として表される第１平面から、前記第２円の中心は離れているとなおよい。この場合、第２円の中心は、第１平面によって分けられた２つの領域のうちのいずれか一方にあるとよい。しかし、第２円の中心は、第１平面上にあることも可能である。

一実施形態において、前記切れ刃は、前記切削インサートの端面視において凸曲線形状であり、該切削インサートの側面視においても凸曲線形状であることができる。あるいは、切れ刃は、切削インサートの端面視において凹曲線形状であり、該切削インサートの側面視においても凹曲線形状であることができる。

好ましくは、前記第１端面と前記周側面との交差稜線部には、対向する一対の第１切れ刃がそれぞれ前述の切れ刃として形成され、前記第２端面と前記周側面との交差稜線部には対向する一対の第２切れ刃が形成される。第１切れ刃は第２切れ刃と面対称な形状を有するように形成されるとよい。さらに、好ましくは、第１端面及び第２端面の少なくとも一方には凹部が形成される。凹部はその底部が平坦面であるとよい。なお、周側面は、第１端面に対して略直角であってもよい。

本発明のもう１つの態様によれば、
略円形の２つの側端面と、該側端面間の外周部とを備えた工具ボデーであって、２つの前記側端面を貫くように延びる回転軸線を中心として周方向に複数のインサート取付座が配設された工具ボデーを備え、該インサート取付座に切削インサートが着脱自在に取り付けられる、刃先交換式回転切削工具であって、
切削インサートは、各々が上で述べたような構成を有する切削インサートであり、
該切削インサートを前記インサート取付座に取り付けるとき、前記切削インサートの前記第１端面又は前記第２端面は、前記インサート取付座の座面と当接し、
前記インサート取付座の座面は、前記回転軸線に直交すると共に該工具ボデーの両側端面間の中央に延びる平面を定めるとき、該平面から前記インサート取付座の座面までの回転軸線に沿った方向での距離が、工具回転方向の前方側に至るほど漸次大きくなるように傾斜して形成されている、刃先交換式回転切削工具が提供される。

また、切削インサートの第１端面及び第２端面の少なくとも一方には凹部が形成されている場合、前記インサート取付座の座面には、前記切削インサートの凹部に入ることができる凸部が形成されているとよい。特に、切削インサートがインサート取付座に取り付けられたとき、インサート取付座の凸部の頂部は、切削インサートの凹部の底部に当接するとよい。切削インサートの凹部の底部が平坦面である場合、切削インサートがインサート取付座に取り付けられたとき、インサート取付座の凸部の平坦な頂部は切削インサートの凹部の底部に当接するとよい。

上記構成を有する本発明の一態様によれば、切削インサートの切れ刃は、該切削インサートの端面視において、一定の第１曲率半径を有する１つの第１曲線形状に倣うように形成されるとともに、該切削インサートの側面視において、その少なくとも過半部分が一定の第２曲率半径を有する１つの第２曲線形状に倣うように形成される。したがって、切れ刃に、インボリュートカーブに非常に高い近似度を有する形状を与えることができる。よって、本発明の一態様による切削インサートは、歯車の歯溝形成に好適に使用することができる。

図１Ａは、従来の歯切り用切削インサートの一例の斜視図を示す。 図１Ｂは、図１Ａの切削インサートの正面図を示す。 図１Ｃは、図１Ａの切削インサートの側面図を示す。 図２は、本発明の一実施形態に係る切削インサートの斜視図を示す。 図３Ａは、図２の切削インサートの正面図を示す。 図３Ｂは、図２の切削インサートの右側面図を示す。 図３Ｃは、図２の切削インサートの左側面図を示す。 図３Ｄは、図２の切削インサートの平面図を示す。 図３Ｅは、図２の切削インサートの底面図を示す。 図３Ｆは、図２の切削インサートの背面図を示す。 図４は、図３Ａに相当する図であり、図２の切削インサートの切れ刃の形状を説明するための図である。 図５Ａは、図３Ｃに相当する図であり、図２の切削インサートの切れ刃の形状を説明するための図である。 図５Ｂは、図５Ａの円ＶＢによって囲まれた領域の切れ刃の形状を誇張して表した拡大模式図である。 図６は、図２の切削インサートとは異なる別の実施形態の切削インサートの側面図における、切れ刃部分の拡大模式図である。 図７Ａは、本発明の実施形態に係る切削インサートの切れ刃の形状を説明するための模式図である。 図７Ｂは、本発明の実施形態に係る切削インサートの切れ刃の形状を説明するための模式図である。 図８Ａは、本発明の実施形態に係る切削インサートの切れ刃の形状を説明するための模式図である。 図８Ｂは、本発明の実施形態に係る切削インサートの切れ刃の形状を説明するための模式図である。 図９は、本発明の一実施形態に係る刃先交換式回転切削工具の正面図を示す。 図１０は、図９の切削工具の側面図を示す。 図１１は、図９の切削工具の工具ボデーの正面図を示す。 図１２は、図１１の工具ボデーの側面図を示す。 図１３は、図１１の円ＶＩＩＩの部分の拡大図を示す。 図１４は、図９の切削工具における切削インサートの取付状態を説明するための模式図である。 図１５は、第１比較例の切削インサートを説明するための図である。 図１６は、第２比較例の切削インサートを説明するための図である。 図１７は、発明例の切削インサートの評価結果を示す模式図である。 図１８は、第１比較例の切削インサートの評価結果を示す模式図である。 図１９は、第２比較例の切削インサートの評価結果を示す模式図である。 図２０は、回転切削工具での歯溝加工の様子を表す模式図である。 図２１は、本発明の別の実施形態に係る切削インサートの正面図を示す。

これより、本発明の切削インサート及び切削工具の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。

本発明の一実施形態である切削インサート１は、図２〜図５Ｂに基づいて説明される。切削インサート１は、図２に示されているように、２つの対向する端面（第１及び第２端面）２、３と、これらの間に延在する周側面１ｃｓとを有する。以下では、説明を容易にするため、図２において上側を向いた端面２を上面と称し、図２において下側を向いた端面３を下面と称する。また、以下では、これら上下面にしたがって、用語「上」、「下」を用い得る。しかし、これら用語「上」、「下」は、本発明が限定的に解釈されることを意図しない。

切削インサート１は、略平行四辺形状をした上面２と、上面２に対向して配置された下面３と、これら上面２と下面３とを接続する周側面１ｃｓを構成する４つの側面部４、５、６、７と、から基本的に構成された平板形状を有している。ただし、上下面２、３の各々は、その端面視（図３Ａ、図３Ｆ）において、２つの対向する辺部が曲線形状となっているため、厳密には平行四辺形状ではない。ここでは、曲線状辺部をそれぞれ１つの辺部とみなし、それら辺部は直線的ではないので正確には互いに平行ではないが、略平行とみなす。

上面２と下面３とは、それぞれ、２つの長辺部８及び９、１０及び１１と、２つの短辺部１２及び１３、１４及び１５とを有している。したがって、上面２又は下面３と、４つの側面部４、５、６、７により構成される周側面との交差稜線部は、相対的に長い一対の対向する交差稜線部（上面の長辺部８、９と下面の長辺部１０、１１に相当）と、相対的に短い一対の対向する交差稜線部（上面の短辺部１２、１３と下面の短辺部１４、１５に相当）と、から構成されている。また、上面２と下面３とを接続する４つの側面部４、５、６、７は、相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１を縁部に有する２つの側面部（長側面部）４、５と、相対的に短い交差稜線部１２、１３、１４、１５を縁部に有する２つの側面部（短側面部）６、７と、から構成されている。ここで、下面３は上面２の形状に対応した形状に構成されていて、具体的には上面２に面対称である。また、２つの長側面部４、５は、上面２及び下面３に対して略直角に交差している。また、上面２及び下面３のそれぞれの略中心部に開口部を有し上面２と下面３とを貫通するように延びる、取付穴（貫通穴）１６が切削インサート１に設けられている。

上面２は、取付穴１６の軸線Ａ周りに１８０°回転対称に構成されている。上面２は、上で述べたように略平行四辺形形状を有し、４つのコーナ部を有する。上面２側の端面視（図３Ａ）において、２つの第１上コーナ部２ａ、２ｂは鋭角であり、２つの第２上コーナ部２ｃ、２ｄは鈍角であり、これらは軸線Ａの周りに交互に配置されている。下面３も、同様に、取付穴１６の軸線Ａ周りに１８０°回転対称に構成されていて、軸線Ａに直交すると共に切削インサート１の周側面を貫通するように定められるインサート中央平面（第１中央平面）１Ｍを基準にして、上面２と面対称である。下面３は、上面２と同様に、略平行四辺形形状を有し、４つのコーナ部を有する。下面３側の端面視（図３Ｆ）において、２つの第１下コーナ部３ａ、３ｂは鋭角であり、２つの第２上コーナ部３ｃ、３ｄは鈍角であり、これらは軸線Ａの周りに交互に配置される。平板面視つまり端面視における、切削インサート１の鋭角のコーナ部２ａ、２ｂ、３ａ、３ｂの角度や鈍角のコーナ部２ｃ、２ｄ、３ｃ、３ｄの角度は、被削材の種類や切削条件などを考慮し、適宜設定されてよい。なお、図３Ａの端面視は、端面である上面２に対向する側から切削インサート１を見た図であり、図３Ａにおいて軸線Ａは点のように示されている。また、図３Ｆの端面視は、下面３に対向する側から切削インサート１を見た図であり、図３Ｆにおいて軸線Ａは点のように示されている。

相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１は、それぞれ切れ刃として機能するように構成されている。これらの交差稜線部８、９、１０、１１と関係する長側面部４、５はすくい面として機能することができるように構成されている。相対的に短い交差稜線部１２、１３、１４、１５と関係する短側面部６、７は逃げ面として機能することができるように構成されている。上面２及び下面３は、使用切れ刃に応じて、逃げ面又はインサート着座面として機能するように構成されている。上面２が逃げ面であるとき下面３はインサート着座面となり、下面３が逃げ面２であるとき上面２はインサート着座面となることができる。また、上記した鋭角のコーナ部２ａ、２ｂ、３ａ、３ｂはそれぞれ切削コーナとして機能することができるように構成されている。下面３は上面２に面対称であるので、上面側の相対的に長い交差稜線部８、９に沿って形成されている切れ刃（上切れ刃）１８は、下面側の相対的に長い交差稜線部１０、１１に沿って形成されている切れ刃（下切れ刃）１９と面対称である。なお、上切れ刃１８は第１切れ刃と称されてもよく、下切れ刃１９は第２切れ刃と称されてもよい。この場合、上面は第１端面であり、下面は第２端面であり得る。これら名称は、逆の関係を有してもよい。

また、本実施形態の切削インサート１においては、図２、図３Ａ〜図３Ｆに示されているように、上面２及び下面３に一定幅の帯状の凹部１７が形成されている。この凹部１７は、上面２又は下面３の長手方向に（各端面において相対的に長い交差稜線部の中間に延在するように）形成されており、その底部１７ａは平坦面となっている。本実施形態の切削インサート１において、凹部１７は切削インサート１の長手方向に沿った帯状の形状を有していて、短側面部６、７に開く。しかし、凹部１７の形状はこれに限定されない。例えば、凹部１７は、その底部が平坦面以外の形状を有してもよく、この場合、凹部17の底部は後述されるインサート取付座の対応する部分と相補的な形状を有するとよい。また、凹部１７は、帯状ではなく、短側面部にまで延びなくてもよく、円形や四角形などの多角形形状でもよいし、その数も各端面において１つに限定されることもない。

本実施形態では、切削インサート１の端面視において、相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１が、それぞれインサート外側に向かって凸状であると共に１つの円弧状に形成されている。ここでは、切削インサート１の端面視において、交差稜線部８、９、１０、１１はそれぞれ、全体的に、１つの円弧形状を有するように構成されている。したがって、上面２と下面３とを接続する４つの側面部のうち、２つの長側面部４、５は、基本的に、それらの交差稜線部８、９、１０、１１の凸状曲線形状にならった曲面形状を有している。

また、本実施形態では、切削インサート１の長側面部の方向からの側面視（図３Ｂまたは図３Ｃ参照）において、相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１は、それぞれ、インサート外側（軸線Ａに平行な方向）に向かって凸状であると共に鋭角のコーナ部およびその近傍を除く大部分が１つの円弧状に形成されている。すなわち、上面２と長側面部４、５との交差稜線部８、９はそれぞれ上面２側に向かって凸状であると共に大部分が円弧状に形成されている。同様に、下面３と長側面部４、５との交差稜線部１０、１１はそれぞれ下面３側に向かって凸状であると共に大部分が円弧状に形成されている。したがって、上面２及び下面３は、基本的に、相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１の凸状曲線形状にならった曲面形状を有している。ただし、図３Ｂ及び図３Ｃにおいては、相対的に長い交差稜線部の湾曲形状を明瞭に観察できないであろう。湾曲の程度が非常に小さいからである。なお、図３Ｂまたは図３Ｃの側面視は、側面部に対向する側から切削インサート１を見た図であり、図３Ｂまたは図３Ｃにおいてインサート中央平面１Ｍは線のように示されている。

このように、切削インサート１では、切れ刃として形成された相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１は、それぞれ、切削インサートの側面視においても、その端面視においても、固有の湾曲形状に形成されている。特に、相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１は、それぞれ、略円弧状であり、端面視において、１つの第１曲率半径を有する第１曲線形状に倣うように、側面視において、１つの（第１曲率半径と異なる）第２曲率半径を有する（第１曲線形状と異なる）第２曲線形状に倣うように、形成されている。特に、第１実施形態の切削インサート１では、相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１は、それぞれ、端面視において、１つの第１曲率半径を有する第１曲線形状を全体的に呈するように形成されていて、かつ、側面視において、１つの第２曲率半径を有する第２曲線形状をその大部分（主に鋭角のコーナ部２ａ、２ｂ、３ａ、３ｂに沿った部分を除く部分）が呈するように形成されている。

このような相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１の湾曲形状、つまり、切れ刃１８、１９の形状に関して、図４及び図５に基づいてさらに説明する。ただし、一対の上切れ刃１８は軸線Ａの周りに回転対称であるので互いに同じ形状であり、一対の下切れ刃１９も軸線Ａの周りに回転対称であるので互いに同じ形状であり、上切れ刃と下切れ刃とはインサート中央平面１Ｍを基準にして面対称な関係にある。したがって、以下では、それらを代表して、相対的に長い交差稜線部８に関する１つの上切れ刃１８のみについて説明する。

図４は、切削インサートの端面図であり、図３Ａに相当する図である。図５Ａは、切削インサート１の側面図であり、図３Ｃに相当する図であり、図５Ｂは図５Ａの円ＶＢによって囲んだ領域の切れ刃部分の湾曲形状を誇張して表した拡大模式図である。図４から図５Ｂを用いて、上面２側の相対的に長い交差稜線部８に沿って延びる上切れ刃１８の形状を説明する。

図４において、上切れ刃１８を１つの円弧とみなして、この円弧を一部に有する円の中心を定めることができる。つまり、図４において、点Ｂを中心とした半径Ｂｒの円の円弧Ｂ１は、交差稜線部８つまり上切れ刃１８に重なる。特に、図４では、鋭角の第１上コーナ部２ａに沿った上切れ刃１８の部分１８ａも、円弧Ｂ１上に延在する。

一方、図５Ｂにおいて、上切れ刃１８の部分を円弧とみなして、この円弧を一部に有する円の中心を定めることができる。つまり、図５において、点Ｃを中心とした半径Ｃｒの円の円弧Ｃ１は、交差稜線部８つまり上切れ刃１８に重なる。しかし、図５Ａ、図５Ｂから理解できるように、鋭角の第１上コーナ部２ａに沿った上切れ刃１８の部分１８ａは、円弧Ｃ１上に延在しない。なお、図４における半径Ｂｒは、図５における半径Ｃｒと異なる。ここでは、半径Ｂｒは、半径Ｃｒよりもはるかに短い。このように、上切れ刃１８は、端面視と側面視の各々において、独特の湾曲形状を有して構成されている。

さらに、切削インサート１では、図４の円弧Ｂ１を一部とする円の中心Ｂと、図５の円弧Ｃ１を一部とする円の中心Ｃとが所定の関係を有する。図４では、中心Ｂと中心Ｃとの関係を説明するために、図４の長手方向Ｚに直角な方向において特に意味を有さないが、図５Ｂにおける円の中心Ｃが表されている。また、図４では、上切れ刃１８の二等分地点（図４において上切れ刃１８の両端部から等距離であって上切れ刃１８上の箇所）が点１８Ｍとして表されて、この点１８Ｍと円の中心Ｂとを通る直線Ｌが表されている。この直線Ｌは軸線Ａに平行に延びる図５Ａ、Ｂの平面Ｓに相当する。なお、長手方向Ｚは、ここでは、図４の切削インサートの端面視において、上切れ刃１８の両端部を結ぶ線ＤＬに平行な方向として定められることができ、さらに軸線Ａに直角な方向として定められることができる。

図４（及び図５Ｂ）から明らかなように、円の中心Ｃは、直線Ｌ（平面Ｓ）上に位置せず、直線Ｌから離れている。このような中心Ｂと中心Ｃとの位置関係は、半径（曲率半径）Ｂｒと半径（曲率半径）Ｃｒとの長さ関係と共に、所望のインボリュートカーブ形状に合わせて、設計される。よって、平面Ｓから中心Ｃが離れる度合い（離間距離）も、選択されるインボリュートカーブ形状に合わせて設定される。

ここで、軸線Ａを含むと共に長手方向Ｚに平行に延びる平面（第２中央平面）２Ｍを定めるとき、上切れ刃１８は、図４における線Ｌ上の点１８Ｍで最も平面２Ｍから離れ、点１８Ｍから離れるにしたがい平面２Ｍに近づく。平面２Ｍは、インサート中央平面１Ｍに直交し、切削インサート１を二等分する。また、上切れ刃１８は、図５Ｂにおいて、直線Ｌに相当する平面Ｓから離れた箇所１８ｂで、最も上面２側に突出するように（インサート中央平面１Ｍから最も離れるように）湾曲する。

なお、切削インサート１では、各切れ刃は、このように、端面視で単一の円の円弧（１つの曲率半径の曲線形状）に倣うように形作られ、側面視でその大部分が単一の別の円の円弧（１つの別の曲率半径の曲線形状）に倣うように形作られていて、３次元に湾曲するように構成されている。しかし、切削インサート１の側面視で、各切れ刃は、その過半部分のみが単一の円の円弧に倣うように形作られてもよい。切削インサート１の端面視でも、各切れ刃は、その過半部分のみが単一の円の円弧に倣うように形作られることも可能であるが、好ましくはその大部分、さらに好ましくはその全体が単一の円の円弧に倣うように形作られるとよい。さらに、各切れ刃１８、１９は、つまり交差稜線部８、９、１０、１１の各々は、その少なくとも過半部分が、好ましくはその大部分が、さらに好ましくはその全部が滑らかな３次元湾曲形状を有するように形成される。しかし、各切れ刃１８、１９は、全体的にまたは部分的に、複数の直線部が、特に相対的に短い直線部が連続することによって近似的に曲線形状を有するように形成されてもよい。

切削インサート１では、その側面視において切れ刃を円弧とみなしたときのその円弧を一部とする円の中心は、平面Ｓにより分けられる２つの領域のうち、当該切れ刃の鋭角の第１コーナ部側の領域に位置した。しかし、そのような側面視における円の中心Ｃは、選択されるインボリュートカーブ形状によっては、平面Ｓの反対側の領域に位置づけられることもあり得る。図６は、切削インサート１とは異なる別の実施形態の切削インサートの側面図における、切れ刃部分をその湾曲形状を誇張して表す、拡大模式図であり、図５Ａの円ＶＢで囲った領域に相当する箇所での図である。図６では、上切れ刃１８の大部分を円弧とみなしたときの、該円弧を一部に含む円の中心Ｃが平面Ｓの右側に表されている。したがって、図６に関する切削インサートでは、その側面視において切れ刃の大部分を円弧とみなしたときのその円弧を一部とする円の中心Ｃは、平面Ｓにより分けられた２つの領域のうち、当該切れ刃の鋭角の第１コーナ部側の領域には位置せず、もう１つの領域に位置する。加えて、図６に関する切削インサートでは、上切れ刃１８は、切削インサート１の切れ刃１８と同様に、面Ｓに対して中心Ｃが位置する領域に、最もインサート中央平面１Ｍから離れる箇所１８ｂを有する。しかし、面Ｓにより分けられる２つの領域のうち、一方の領域に中心Ｃが位置し、他方の領域に最もインサート中央平面１Ｍから離れる切れ刃の部分１８ｂが位置してもよい。

図７Ａ、図７Ｂは、直線Ｌつまり平面Ｓに対して、鋭角の第１コーナ部２ａ、２ｂ側の領域に、インサート中央平面１Ｍから最も離れた箇所１８ｂがある切削インサートについての、側面視における円の中心Ｃの位置し得る領域を矢印で概念的に示す。図７Ａは、円の中心Ｃが、鋭角の第１コーナ部２ａ、２ｂ側の領域に位置することを表す。図７Ｂは、円の中心Ｃが、鋭角の第１コーナ部２ａ、２ｂ側の領域と異なるもう一方の領域に位置することを表す。一方、図８Ａ、図８Ｂは、直線Ｌつまり平面Ｓに対して、鋭角の第１コーナ部２ａ、２ｂ側の領域と異なる領域に、インサート中央平面１Ｍから最も離れた箇所１８ｂがある切削インサートについての、側面視における円の中心Ｃの位置し得る領域を矢印で概念的に示す。図８Ａは、円の中心Ｃが、鋭角の第１コーナ部２ａ、２ｂ側の領域と異なる領域に位置することを表す。図８Ｂは、円の中心Ｃが、鋭角の第１コーナ部２ａ、２ｂ側の領域に位置することを表す。図７Ａから図８Ｂに示されるような、切削インサートの側面視において定められる円の中心Ｃと、インサート中央平面１Ｍから最も離れた切れ刃１８の箇所１８ｂとの複数の位置関係を本発明は許容する。これらの位置関係は、選択されるインボリュートカーブ形状に合わせて選択されるとよい。

さらに、切削インサート１では、その端面視における切れ刃形状に関して、切れ刃は、図４における線Ｌ上の箇所１８Ｍで最も平面２Ｍから離れた。しかし、切れ刃は、点１８Ｍと異なる箇所で、平面２Ｍから最も離れるように形成されることも可能である。この場合、平面２Ｍから最も離れる箇所は、直線Ｌつまり平面Ｓのいずれの側に位置してもよい。また、切れ刃における平面２Ｍから最も離れる箇所が、同切れ刃におけるインサート中央平面１Ｍから最も離れた箇所に一致するように、切削インサートの切れ刃が形成されることを、本発明は許容する。

本実施形態の切削インサート１では、上面２及び下面３の長辺部同士を接続する長側面部４、５が、上面２及び下面３に対して略直角に交差する。しかし、長側面部４、５の形状はこれに限定されない。たとえば、長側面部４、５はそれぞれ切削インサート１の内方に凹んだ形状をしていてもよいし、反対に外方に突出した形状をしていてもよい。すなわち、上面２の曲線状に形成された長辺部８と、それと対応する下面３の曲線状に形成された長辺部１１とが、上面２の曲線状に形成された長辺部８に沿って上面２に対して略直角に定められた（つまり軸線Ａに平行である）仮想曲面上に位置していることさえ満たしていれば、側面部４の形状は適宜変更することができる。側面部５に関しても同様である。上面２及び下面３の曲線状に形成された長辺部８、９、１０、１１がこのような位置関係にあることで、本実施形態の切削インサート１では、上下面２、３の両方の切れ刃を切削に使用することができる。しかしながら、本発明は、側面部４、５が上面２又は下面３に対して共に鋭角又は鈍角に交差した、いわゆるポジティブタイプの切削インサートに関することを排除しない。この場合、上面２又は下面３のいずれか一方の面に関して切れ刃が形成される。

本実施形態では、前述したように、平板面視における切削インサート１の外郭形状が基本的に略平行四辺形であり、その長辺部８、９、１０、１１のみが特定の曲線形状とされているが、そのような曲線形状を有するように形成される辺部についてはこれに限定されない。すなわち、切削インサート１では異なるが、短辺部１２、１３、１４、１５が上で説明した長辺部または切れ刃の如き曲線形状を有して形成されてもよい。そして、この長辺部８、９、１０、１１と短辺部１２、１３、１４、１５との長さの比率については、適宜変更することが可能である。さらに、切削インサート１の外郭形状は略平行四辺形に限定されることはなく、略長方形状や略正方形状も可能である。

また、すくい面として機能するように構成される長側面部４、５上には、切りくず処理性の向上などを目的としてチップブレーカを形成することも可能である。チップブレーカの形状は、切削する被削材の種類や切削インサートの材種などの要素を考慮して、適宜決定することができる。また、切れ刃の強度向上を目的として、切れ刃にホーニングやランドを形成することも可能である。ホーニングやランドの形状に関しても、切削する被削材の種類や切削インサートの材種などの要素を考慮して、適宜決定することができる。

本実施形態の切削インサート１は、超硬合金、サーメット、セラミック、又はダイヤモンドあるいは立方晶窒化硼素を含有する超高圧焼結体といった硬質材料、又はコーティングされたそれらの硬質材料から形成されることができる。

次に、上記切削インサート１が着脱自在に装着される刃先交換式回転切削工具２１について、図９から図１４を参照しながら説明する。

刃先交換式回転切削工具２１は歯切りカッタであり、切削インサート１が着脱自在に装着される。工具ボデー２２は、略円形の２つの側端面２２ａ、２２ｂと、それら両側端面間を接続する外周部２２ｃと、から基本的に構成された略円板形状をなしている。回転切削工具２１は、２つの側端面２２ａ、２２ｂを貫くように延びる回転軸線Ｏ周りに回転されて、送りを与えられることで、切削加工に用いられる。

工具ボデー２２の外周縁部分に沿って、回転軸線Ｏを中心として周方向において、切削インサート１を装着するためのインサート取付座２３（２３ａ、２３ｂ）が両側端面に交互に千鳥状に配設されている。また、切削インサート１以外の一般的な略長方形板状の切削インサート２４ａ、２４ｂが装着されるインサート取付座２５（２５ａ、２５ｂ、２５ｃ、２５ｄ）も同様に設けられている。また、各インサート取付座２３、２５の工具回転方向Ｋの前方側には切りくずポケット２６が配設されている。このような形態の回転切削工具２１の各インサート取付座２３、２５に、上記実施形態の切削インサート１と他の切削インサート２４ａ、２４ｂとがそれぞれ縦置きでネジ止めされる。

本実施形態の回転切削工具２１は、複数種類の切削インサートを組み合わせて歯切り加工を行うタイプである。このタイプの回転切削工具２１では、加工される歯車形状における歯の基端部（根本部）付近を加工する切削インサート、歯の中央部付近を加工する切削インサート、歯の頂部付近を加工する切削インサートの複数種類の切削インサートを用いて歯切り加工が行われる。上記実施形態の切削インサート１は歯の中央部付近を加工するために用いられる。この切削インサート１は、切削インサートの端面視における鋭角のコーナ部が切削に関与することができるように工具ボデー２２に装着される。すなわち、例えば、上面２が逃げ面で、下面３が着座面として工具ボデー２２に配置されるとき、工具ボデー２２の外周部側において、切削インサート１の使用される上切れ刃１８と関係しない長側面が取付座の工具回転方向前方側を向いた側壁面に接し、切削インサート１の１つの使用される上切れ刃１８の鋭角コーナ部が切りくずポケット２６側の開放空間に位置する。なお、このような実施形態の回転切削工具２１とは異なり、本発明に係る切削インサート（切削インサート１と同様の発明思想に基づいて構成された切削インサート）のみによって歯の基端部から頂部までの全体を形成する工具形態もあり得る。その場合、本発明に係る切削インサートのみが、工具ボデーの外周部に、その周方向において、千鳥状に装着される。

本実施形態の回転切削工具２１においては、図１１の円部ＸＩＩＩの拡大図である図１３に示されているように、第１側端面２２ａ側の第１インサート取付座２３ａの座面（底壁面）に凸部２７が形成されている。この凸部２７は、インサート取付座２３ａの長手方向（工具２１の回転軸線Ｏを中心とした略径方向）に沿って一定の幅で形成されており、その頂部２７ａは平坦面となっている。このインサート取付座２３ａの凸部２７は切削インサート１の下面３に形成された凹部１７に入ることができるように寸法付けられ、凹部１７の底部１７ａにその頂部２７ａが当接可能に構成されている。凹部１７の平坦な底部と凸部２７の平坦な頂部とを付き合わせるようにして切削インサート１はインサート取付座２３ａに取り付けられる。第２側端面２２ｂ側の第２インサート取付座２３ｂに関しても、同様に、切削インサート１の上面２の凹部１７と関係付けられた凸部が設けられている。

第１インサート取付座２３ａは、上切れ刃１８を使用するように切削インサート１が取り付けられるように構成されている。もう一方の第２インサート取付座２３ｂは、下切れ刃１９を使用するように切削インサート１が取り付けられるように構成されている。

切削インサート１の下面３を着座面として使用する（上切れ刃１８を使用する）場合には、下面３がインサート取付座２３ａの座面に当接する。一方、切削インサート１の上面２を着座面として使用する（下切れ刃１９を使用する）場合には、上面２がインサート取付座２３ｂの座面に当接する。そして、切削インサート１の側面部４、５、６、７のいずれか２つがインサート取付座２３の２つの側壁面（座面から屹立するように延在する面）と当接する。このとき、交差稜線部８、９、１０、１１のいずれかに形成された切れ刃がインボリュートカーブ近似形状を有する切れ刃として機能する。したがって、本実施形態の切削インサート１においては、上面２にて２つの切れ刃１８、下面３にて２つの切れ刃１９、の合計４つの切れ刃を切削に使用することが可能であり、切削インサート１は割出可能である。

インサート取付座２３の座面は、工具回転方向Ｋに対して傾けられている。図１４を用いて、第１インサート取付座２３ａに関してその傾きを説明し、第１インサート取付座２３ａに面対称な形状を有する第２インサート取付座２３ｂに関するその説明は省略する。

図１４では、切削工具２１を、つまり工具ボデー２２を、二等分する工具中央平面２１Ｍが概念的に表されている。なお、工具中央平面２１Ｍは、切削工具２１の回転軸線Ｏに直交すると共に、一方の側端面２２ａ側と、もう一方の側端面２２ｂ側とに切削工具２１の工具ボデー２２を均等に分けるように定められる面である。図１４では、インサート取付座２３ａの座面（底壁面）２３ｃが概念的に表されている。

図１４から明らかなように、インサート取付座２３ａの座面２３ｃは、工具中央平面２１Ｍから傾き、工具回転方向Ｋ前方側の部分ほど、回転軸線Ｏに平行な方向での中央平面２１Ｍからの距離２３ｄが長くなる。つまり、工具ボデー２２の工具中央平面２１Ｍからインサート取付座２３ａの座面２３ｃまでの距離２３ｄが、工具回転方向Ｋ側に至るにしたがい漸次大きくなるようにインサート取付座２３ａは工具中央平面２１Ｍに対して傾斜して形成されている。したがって、切削インサート１を下面３が着座面となるようにインサート取付座２３ａに装着したとき、切削インサート１の上面２は工具ボデー２２の側端面２２ａと略平行にはならずに、切削に関与する使用切れ刃１８側（すなわち、切りくずポケット２６に隣接する長辺部側）が工具ボデー２２の側壁面２２ａから立ち上がった状態で、切削インサート１は傾いて配置される。これによって、切削インサート１には適切な逃げが設けられる。なお、切削インサート１のこの傾き取付角度を考慮して、切削インサート１の切れ刃の上記形状は設計される。

次に、上述した切削インサート１及び刃先交換式回転切削工具２１の作用及び効果について説明する。

本実施形態の切削インサート１では、切れ刃として機能するように設計された相対的に長い交差稜線部８、９、１０、１１が、端面視においてインサート外方に向かって凸状湾曲する一定の曲率半径の１つの凸曲線形状に形成されているとともに、側面視においてもインサート外方（すなわち、上面２又は下面３側）に向かって凸状湾曲する突出する一定の曲率半径を有する１つの凸曲線形状に形成されている。これによって、大きなコストをかけることなく、切れ刃形状のインボリュートカーブに対する近似度を大幅に向上させることが可能である。以下、実験例を用いてその作用及び効果について詳細に説明する。

本実験では、上記切削インサート１の切れ刃１８、１９と同じ発明思想のもとに構成される、切削インサート（発明例）１Ｅの切れ刃１８Ｅの形状を評価した。比較例として、切削インサートの側面視においてのみ湾曲する切れ刃を有する切削インサート（第１比較例）３１の切れ刃３１Ｅの形状を評価した。さらに、切削インサートの端面視においてのみ湾曲する切れ刃を有する切削インサート（第２比較例）３２の、切れ刃３２Ｅの形状を評価した。この実験では、それらの切削インサート１Ｅ、３１、３２の切れ刃１８Ｅ、３１Ｅ、３２Ｅを可能な限り同一のインボリュートカーブに近くなるように設計したときにおける、それぞれの切れ刃形状のインボリュートカーブに対する近似度を比較して評価した。

なお、第１比較例の切削インサート３１では、その側面視においてのみ、切れ刃３１Ｅは単一の曲率半径Ｒ１を有する凸曲線状に形成されている（図１５参照）。また、第２比較例の切削インサート３２では、端面視においてのみ、切れ刃３２Ｅは単一の曲率半径Ｒ２を有する凸曲線状に形成されている（図１６参照）。これに対して、本発明例の切削インサート１Ｅでは、上で切削インサート１に関して説明したように、側面視と端面視のそれぞれにおいて、切れ刃１８Ｅに単一の曲率半径の凸曲線形状が付与されている。

本実験では、モジュール１０、圧力角２０°、歯数７０枚の歯車を作製する際のインボリュートカーブと、それぞれの切削インサートの切れ刃の形状と、の間の理論誤差を求めることによって、インボリュートカーブに対する切れ刃の近似度を算出した。

図１７から図１９のそれぞれには、上記切削インサート１Ｅ、３１、３２が装着された刃先交換式回転切削工具の部分的な模式図が示されている。なお、図１７から図１９では、２つの切削インサートが対向して部分的に重ねて表されているが、実際にはこれら切削インサートは、上記切削工具２１と同様に、工具本体の外周方向に所定間隔ずらして配置される。ただし、これら切削インサート１Ｅ、３１、３２は、それぞれ、図２０に示されるように用いられることができるものとして構成されている。図２０には、切削インサート１Ｅが取り付けられた回転切削工具をその中心軸線周りに回転させつつ被削材３３に対して送りを与えることで、内歯車の歯溝３４を１箇所ずつ加工していく様子が、一例として、模式的に表されている。図２０に示されるように、切削インサート１の切れ刃形状（その回転軌跡の径方向断面形状）がそのまま被削材に転写され、それにより歯車の歯が形成される。

それぞれの切削インサート１Ｅ、３１、３２の切れ刃１８Ｅ、３１Ｅ、３２Ｅは、図１７から図１９において、先端側から順に、Ｐ１、Ｐ２、Ｐ３の３点においてインボリュートカーブと一致するように設定されている。すなわち、Ｐ１、Ｐ２、Ｐ３の３点においては、いずれの切削インサートの切れ刃形状でもインボリュートカーブとの誤差はゼロとなっている。このように設定することで、それぞれの切削インサートの切れ刃形状は、それぞれの形態において最もインボリュートカーブに近似したものとなる。

そして、この状態において、Ｐ１点とＰ２点の中間のＰＡ点と、Ｐ２点とＰ３点の中間のＰＢ点と、における切れ刃とインボリュートカーブとの理論誤差を、切削インサートごとに求めて、それらを比較した。当然ながら、理論誤差が小さければ小さいほど、インボリュートカーブに対する近似度が高いということになる。以下、図１７から図１９に表すと共に、表１にその結果をまとめて示す。

このとき、第１比較例の切削インサート３１の切れ刃の曲率半径Ｒ１（側面視を示す図１５参照）は１２２ｍｍであった。また、第２比較例の切削インサート３２の切れ刃の曲率半径Ｒ２（端面視を示す図１６参照）は１７ｍｍであった。また、本発明例の切削インサート１Ｅの切れ刃の、側面視における曲率半径（上記半径Ｃｒに相当）は６６２ｍｍ、端面視における曲率半径（上記半径Ｂｒに相当）は２０ｍｍであった。また、表中の誤差のプラス及びマイナスについては、図１７から図１９において工具中央平面ＴＭに直角な方向においてＸ側（図中右側）をマイナスとし、Ｙ側（図中左側）をプラスとしている。また、表１における、最大誤差とはＰ１、Ｐ２、Ｐ３、ＰＡ、ＰＢの５点を比較した際のそれらの間の最大の数値差のことである。

表１に示されているように、本発明例の切削インサート１Ｅにおいては、第１及び第２比較例の切削インサート３１、３２と比較して、インボリュートカーブに対する理論誤差が著しく小さいことがわかった。具体的には、本発明例の切削インサート１Ｅにおいては、最大誤差で比較して、第１比較例の切削インサート３１に対して約７０％、第２比較例の切削インサート３２に対して約４５％も、理論誤差が改善することがわかった。このように、本出願の発明者らが鋭意研究した結果、側面視又は端面視のどちらか一方に関してのみ切れ刃の形状を単一の曲率半径を有する凸曲線形状とするよりも、その両者を組み合わせた切削インサートの切れ刃の方がインボリュートカーブに対する近似度が大幅に向上することがわかったのである。したがって、本発明例の切削インサート１Ｅにおいては、大きなコストをかけることなく、比較例と比較してインボリュートカーブに対する近似度を大きく向上できるという効果を達成することが可能となる。

本実施形態の切削インサート１における、端面視での切れ刃の曲率半径と側面視での切れ刃の曲率半径との組み合わせを種々変えることによって、被削材に形成する歯の形状に求められる様々な種類のインボリュートカーブに顕著に類似した切れ刃形状を実現することができる。したがって、切れ刃の端面視方向の第１曲率半径と側面視方向の第２曲率半径とは、異なっていた方が好ましい（上記の発明例においても、前述した切削インサート１のようにそれぞれの曲率半径が異なっている）。

また、図４から図５Ｂに基づいて説明したように、端面視において円弧を作り出す円の中心Ｂと、側面視において円弧を作り出す円の中心Ｃとが、図４のＺ方向において一致していないことが好ましい。すなわち、切削インサートの端面視において切れ刃を円弧とみなして該円弧を一部に有する第１円の中心を定め、切削インサートの側面視において同切れ刃の少なくとも過半部分を円弧とみなして該円弧を一部に有する第２円の中心を定めたとき、切削インサートの端面視において切れ刃の二等分地点と第１円の中心とを通る直線として表される平面から、第２円の中心は離れているとよい。このように、端面視と側面視とのそれぞれにおける円の中心をずらすことによって、切れ刃全体の三次元形状変化を状況に応じて一層精密に設定することが可能となり、曲率半径が漸次変化するように変化するインボリュートカーブをさらに正確に近似することができるようになる。ただし、本発明は、切削インサートの端面視において切れ刃の二等分地点と第１円の中心とを通る直線として表される平面上に、第２円の中心があることを排除しないが、上で説明したように、好ましくは当該平面から第２円の中心は離れているとよい。

さらに、切削インサート１の上面２や下面３に底部が平坦面となっている凹部１７を形成し、この平坦面とインサート取付座２３の凸部２７の頂部の平坦面とを当接させるようにして切削インサート１を取付座２３に装着することで、工具の製造コストを大幅に低減することができる。上記説明から明らかなように、切れ刃に三次元湾曲形状を付与することに伴い、切れ刃を縁部に有する端面の形状は湾曲する。このような湾曲曲面形状の端面が着座面として扱われるとき、一般に、インサート取付座の座面もその曲面形状にフィットする形状を有することが望ましい。インサート取付座における切削インサートの安定度をより高めるためである。しかし、切削インサートは一般に金型から作製されるのに対して、インサート取付座は材料から削り出して作ることが一般的であるので、そのような形状にインサート取付座を形成するには非常に大きな手間がかかり、製造コストの上昇をもたらし得る。

これに対し、切削インサート１とインサート取付座２３を上で述べたように構成するとき、凹凸部１７、２７の平坦面同士を当接させて切削インサート１をインサート取付座２３にしっかりと装着することが可能となる。したがって、切削インサート１がインサート取付座２３に取り付けられたとき、切削インサートの端面の凹部以外の部分はインサート取付座２３の座面に非当接状態であることができる。よって、インサート取付座２３の座面を切削インサートの端面形状に相補的な曲面形状にする必要がないため、製造コストを抑制することができる。さらには、これは平坦面同士を突き合わせる構成であるので、切削インサートの端面とインサート取付座の座面との間に寸法誤差が生じてもその影響を最小化することができ、高精度で切削インサート１をインサート取付座に固定することが可能となる。また、切削インサート１の切れ刃となる交差稜線部８、９、１０、１１の側面視における曲率半径を変化させたとき、これによって上面２又は下面３の曲面形状も変化するのであるが、上述したように凹凸部の平坦面同士を当接させるように構成しているので、インサート取付座２３の座面の形状を変更する必要がない。すなわち、交差稜線部（切れ刃）の曲率半径が様々に異なっている多種の切削インサートを同一の回転切削工具に装着することができるようになるため、工具にかかるコストを大きく抑制することが可能となる。

これまで、端面視及び側面視において、切れ刃となる交差稜線部８、９、１０、１１が外方に突出した凸曲線形状である切削インサートについて説明してきたが、この曲線形状は切削インサート内方に陥没した凹曲線形状であってもよい。この一例としての切削インサート４１が図２１に示される。図２１の切削インサート４１では、切れ刃は、側面視及び端面視のそれぞれにおいて、切削インサート１の切れ刃と同じように、特有の湾曲形状を有するように形成されている。このように凹曲線形状の切れ刃で切削することで、図２から図３Ｆに示されている実施形態の切削インサート１によって形成された歯と噛み合うことが可能な歯を形成することができる。すなわち、切削インサート１を使用して形成された歯とは凹凸が反対である、言い換えれば相補的なインボリュートカーブ近似形状を有する歯を形成することが可能である。さらには、切れ刃となる交差稜線部８、９、１０、１１を、端面視にて凸曲線形状とし、側面視にて凹曲線形状となるように構成することも可能であるし、端面視にて凹曲線形状とし、側面視にて凸曲線形状となるように構成することも可能である。これらは加工する歯車の形状にあわせて、適宜設定することが可能である。当然ながら、これらのように形状を変更した切削インサートも、上述してきた本発明に特徴的な効果を同様に発揮することができる。

以上、本発明の代表的な実施形態について説明したが、本発明は種々の変更が可能である。本発明は、本願の請求の範囲によって定義される本発明の精神及び範囲から逸脱しない限り、置換、変更が可能である。

Claims (6)

1. 第１端面と、前記第１端面に対向する第２端面と、前記第１端面と前記第２端面との間に延在する周側面とを備え、回転軸線を中心として工具回転方向に回転することにより、インボリュートカーブに近似する形状を被削材に転写する歯溝加工用の切削インサートであって、
   前記第１端面と前記周側面との交差稜線部には少なくとも１つの切れ刃が形成され、
   前記切れ刃の過半部分は、
   前記切削インサートの端面視において、一定の第１曲率半径を有する第１円弧に形成され、
   前記切削インサートの側面視において、一定の第２曲率半径を有する第２円弧に形成され、
   前記第１曲率半径は、前記第２曲率半径より小さく、
   前記切れ刃は、前記回転軸線を中心として前記工具回転方向に回転することにより、回転軌跡の径方向断面形状が前記インボリュートカーブと３点において一致する形状を有する、
   切削インサート。
2. 前記切れ刃の全体は、
   前記切削インサートの端面視において、前記第１曲率半径を有する第１円弧に形成されている、請求項１に記載の切削インサート。
3. 前記切削インサートの端面視において前記第１円弧を一部に有する第１円の中心を定め、
   前記切削インサートの側面視において前記第２円弧を一部に有する第２円の中心を定めたとき、
   前記切削インサートの端面視において前記切れ刃の二等分地点と前記第１円の中心とを通る直線として表される第１平面から、前記第２円の中心は離れている、請求項１又は２に記載の切削インサート。
4. 前記切れ刃は、前記切削インサートの端面視において凸曲線形状であり、前記切削インサートの側面視において凸曲線形状である、請求項１から３のいずれか一項に記載の切削インサート。
5. 前記切れ刃は、前記切削インサートの端面視において凹曲線形状であり、前記切削インサートの側面視において凸曲線形状である、請求項１から３のいずれか一項に記載の切削インサート。
6. 前記第１端面と前記周側面との交差稜線部には、対向する一対の第１切れ刃がそれぞれ前記切れ刃として形成され、前記第２端面と前記周側面との交差稜線部には対向する一対の第２切れ刃が形成され、前記第１切れ刃は前記第２切れ刃と面対称に形成されている、請求項１から５のいずれか一項に記載の切削インサート。