以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1〜図6は本発明の第1の実施形態を例示する。図1は本発明の磁石式エンジン点火装置20を示す。このエンジン点火装置20は、エンジン回転により駆動される磁石式発電機1と、点火プラグ2に接続された点火コイル3と、磁石式発電機1のソースコイル4に発生する正の出力波形Vp2(図3(a)参照)によりダイオード5,6を介して充電される充放電用コンデンサ7と、点火信号pによるオン時に充放電用コンデンサ7の電荷を点火コイル3の一次側に放電させる放電用スイッチング素子8と、ソースコイル4に発生する負の出力波形Vn1によりダイオード9を介して充電される電源回路10と、電源回路10の電源電圧Vccの立ち上がりによって動作するマイコン11により構成され且つ正の出力波形Vp1の発生タイミングに基づいて1回転前のエンジン回転数に対応する点火時期で放電用スイッチング素子8に点火信号pを出力する点火時期制御手段12とを備えている。なお、ソースコイル4は発電コイルを構成する。
磁石式発電機1は、図2に示すように、エンジンのクランク軸13の一端に装着され矢印方向に回転するロータ14と、このロータ14の外周でエンジンのクランクケース等の固定側に装着されたステータ15とを備えている。
ロータ14の外周側には、回転方向の両側にN及びSの磁極を有する磁石16が埋設されている。ステータ15は一対の脚部17がロータ14の外周面に近接して配置された鉄心18と、この鉄心18に一方の脚部17に巻装された点火コイル3及びソースコイル4とを備えている。
ソースコイル4には図3(a)に示すように、エンジンの正転時の1回転毎に上死点Qの前後近傍を中心に第1の正の出力波形Vp1、第1の負の出力波形Vn1、第2の正の出力波形Vp2、第2の負の出力波形Vn2の順に出力波形が交互に発生する。電源回路10はソースコイル4の第1の負の出力波形Vn1により充電され、マイコン11に電源を供給するようになっている。なお、ソースコイル4はロータ14、ステータ15の構成によって出力波形の出力数が決まるが、出力波形は二つ又は三つでもよい。
点火時期制御手段12はRAM、ROM、CPU等を有するマイコン11により構成されており、図4に示すように入力処理手段21と回転数検出手段22と点火時期特性記憶手段23と遅延時間演算手段(遅延時間算出手段)24と出力許可範囲設定手段25と点火信号出力手段26とを有する。
入力処理手段21はソースコイル4に第1の正の出力波形Vp1、第1の負の出力波形Vn1、第2の正の出力波形Vp2、第2の負の出力波形Vn2等を波形成形すると共に、交互に発生する出力波形Vp1、Vn1、Vp2、Vn2を正規波形として認識し、正又は負の出力波形が続く場合には、先の出力波形を正規波形とし後の出力波形を認識しないように処理する。
回転数検出手段22は図3(a)に示すように、ソースコイル4の第1の正の出力波形Vp1に基づいて、その前後二つの第1の正の出力波形Vp1間の周期から単位時間当たりのエンジン回転数T0、T1、T2・・・を検出するようになっている。
点火時期特性記憶手段23は点火制御に必要な点火時期特性X(図5参照)を記憶するためのものであって、各回転時に上死点Qよりも進角側の点火時期で点火するようにエンジン回転数に対応する点火角度が設定されている。点火時期特性Xは所定のエンジン出力(加速性能、減速性能等)が得られるように、エンジンの使用目的等に応じて適宜決定されている。
なお、この点火時期特性Xは、図5に示すように、低速回転域x1が上死点Q前約20度、アイドル回転域x2が上死点Q前約10度、高速回転域x3が上死点Q前約30度、加減速回転域x4が上死点Q前約10〜30度に夫々設定されているが、その進角度はエンジンの用途等に応じて適宜設定可能である。例えば、エンジンの用途によっては、点火時期特性Xは一定角度でもよいし、高回転域の高進角と、それ以外の1又は複数の低回転域の1又は複数の低進角とで構成してもよい。
遅延時間演算手段24は、点火時期特性記憶手段23に記憶された点火時期特性Xから、回転数検出手段22で検出された1回転前のエンジン回転数T0、T1、T2・・・に対応する点火時期を読み込んで、ソースコイル4の第1の正の出力波形Vp1の検出時点から、その点火時期に点火信号pを出力するまでの遅延時間s0、s1、s2、s3・・・(図3参照)を演算するようになっている。
なお、遅延時間演算手段24は遅延時間算出手段を構成するものであり、この遅延時間演算手段24に代えて遅延時間読取手段を備え、この遅延時間読取手段により点火時期特性Xからエンジン回転数T0、T1、T2・・・に対応する点火時期を読み取って、第1の正の出力波形Vp1の検出時点から点火信号pを出力するまでの遅延時間s0、s1、s2、s3・・・を算出するようにしてもよい。
出力許可範囲設定手段25は、エンジン回転数が急激に変化した場合にもその変化に追従可能な点火時期で点火信号pを出力するように、ソースコイル4に発生する出力波形Vp1、Vn1、Vp2、Vn2の内、上死点Q前の進角側の出力波形Vp1〜Vn1を基準にその出力許可範囲Aを設定するためのものである。
即ち、エンジンの1回転毎にソースコイル4に発生する前後二つの出力波形Vp1の周期はエンジン回転数に比例する。またエンジン回転数は負荷状態の変化に応じて変化する。例えばチェーンソーに搭載のエンジンの場合には、鋸断終了直後に負荷が急激に軽くなると、急加速状態となってエンジン回転数が急速に上昇し、ソースコイル4の出力波形Vp1の発生周期も急激に短くなる。
そこで、この出力許可範囲設定手段25には、エンジンの1回転毎にソースコイル4に発生する出力波形Vp1、Vn1、Vp2、Vn2の内、上死点Qよりも前の進角側で発生する第1の正の出力波形Vp1、第1の負の出力波形Vn1を基準波形として、その第1の正の出力波形Vp1の検出から第1の負の出力波形Vn1の検出までの範囲が、点火信号pの出力を許可する出力許可範囲Aとして設定されている。
点火信号出力手段26は、エンジンの各回転毎に1回転前のエンジン回転数に基づいて演算されたエンジン回転数に対応する遅延時間が、出力許可範囲設定手段25で設定された出力許可範囲A内か否かを判断して、遅延時間が出力許可範囲A内のときに点火信号pを出力するようになっている。
例えば、点火信号出力手段26は、遅延時間s0、s1、s2、s3・・・が出力許可範囲A内に経過する通常回転状態のときには、図3(a)に示すように、その遅延時間s0、s1、s2、s3・・・の経過を契機に点火信号pを出力し、また遅延時間s1の経過が出力許可範囲A外となる急加速状態のときには、図3(c)に示すように、出力許可範囲Aを規定する第1の負の出力波形Vn1を基準波形として、出力波形Vn1の検出(立ち上がり時)を契機に点火信号pを出力するようになっている。
なお、点火信号出力手段26は、図4に示すように、第1の正の出力波形Vp1を検出するVp1検出部(第1検出部)28と、第1の負の出力波形Vn1を検出するVn1検出部(第2検出部)29と、Vp1検出部28が第1の正の出力波形Vp1を検出したときに遅延時間s0、s1、s2、s3・・・をカウントダウン等により計時する遅延時間計時部30と、遅延時間s0、s1、s2、s3・・・が出力許可範囲A内か否かを判別して点火タイミングを決定する判別部31とを備えている。
従って、点火信号出力手段26は、Vp1検出部28が第1の正の出力波形Vp1を検出してからVn1検出部29が第1の負の出力波形Vn1を検出するまでの出力許可範囲A内に遅延時間s0、s1、s2、s3・・・が経過するときには、図3(a)に示すように、遅延時間s0、s1、s2、s3・・・の経過時点を契機に点火信号pを出力し、またVp1検出部28が第1の正の出力波形Vp1を検出してからVn1検出部29が第1の負の出力波形Vn1を検出するまでの出力許可範囲A内に遅延時間s0、s1、s2、s3・・・が経過しないときには、図3(c)にエンジン回転数T2の場合を示すように、Vn1検出部29の第1の負の出力波形Vn1の検出を契機に点火信号pを出力する。
なお、この実施形態の点火信号出力手段26は、遅延時間s0、s1、s2、s3・・・のカウントダウン中に第1の負の出力波形Vn1が立ち上がるか否かを判断し、その何れか早い方を契機に、即ち遅延時間s0、s1、s2、s3・・・のカウントダウン中に第1の負の出力波形Vn1を検出すれば、その第1の負の出力波形Vn1の検出時点を契機に、それ以外のときには遅延時間s0、s1、s2、s3・・・の経過を契機に夫々点火信号pを出力するようになっている。
次に図6のフローチャートを参照しながら、このエンジン点火装置20におけるアイドル回転以降の点火制御を説明する。エンジンの1回転毎にソースコイル4に所定の出力電圧が誘起され、図3(a)に示すように、第1の正の出力波形Vp1、第1の負の出力波形Vn1、第2の正の出力波形Vp2、第2の負の出力波形Vn2がその順に交互に出力される。
点火時期制御手段12では、先ず入力処理手段21が入力処理を行い(ステップS1)、次いで回転数検出手段22がエンジンの1回転毎に前後二つの正の出力波形Vp1間の周期からエンジン回転数T0、T1、T2・・・を検出する(ステップS2)。そして、遅延時間演算手段24が1回転前のエンジン回転数T0、T1、T2・・・に対応する遅延時間s0、s1、s2、s3・・・を点火時期特性記憶手段23の点火時期特性Xに従って演算する(ステップS3)。
例えば図3(a)に示すように、1回転前のエンジン回転数がT0、T1、T2・・・と変化する場合には、各回転毎に1回転前のエンジン回転数T0、T1、T2・・・を基準に、次の1回転での点火時期を決定するための遅延時間s0、s1、s2・・・を演算する。
各回転毎の遅延時間s0、s1、s2・・・が演算されると、点火信号出力手段26において、その遅延時間s0、s1、s2・・・が出力許可範囲A内か否かを判別して、その回転時の最適な点火タイミングで点火信号pを出力する(ステップS4、S5)。
出力許可範囲設定手段25には、ソースコイル4の第1の正の出力波形Vp1の検出から第1の負の出力波形Vn1の検出までが出力許可範囲Aと設定されている。そのため点火信号出力手段26では、第1の正の出力波形Vp1の検出から遅延時間s0、s1、s2・・・の計時を開始し、遅延時間s0、s1、s2・・・の計時中に第1の負の出力波形Vn1があるか否かを確認し(ステップS4、S5)、遅延時間s0、s1、s2・・・の経過と第1の負の出力波形Vn1の検出との何れか早い方をその回転時の適正点火タイミングと判断して、それを契機に点火信号pを出力する(ステップS6)。
そして、出力許可範囲A内に遅延時間s0、s1、s2・・・が経過する場合には、図3(a)に示すように、その遅延時間s0、s1、s2・・・の経過を契機に点火信号pを出力する。また図3(c)にエンジン回転数T2の場合を点線で示すように、出力許可範囲A内に遅延時間s1が経過しない場合には、第1の負の出力波形Vn1の検出を契機に点火信号pを即時に出力する。
これによってエンジン回転数の多少の乱れに影響されることなく適正な点火タイミングで点火することができ、エンジン回転数のバラツキによる意図した点火時期以外で点火信号pを出力する点火時期異常を抑制できる利点がある。
即ち、エンジン回転が安定した状態にある通常運転時には、図3(a)に示すように、1回転前のエンジン回転数T0、T1、T2・・・を条件に次の1回転での遅延時間s0、s1、s2・・・を演算するが、出力許可範囲Aの最後を規定する第1の負の出力波形Vn1が発生するまでに遅延時間s0、s1、s2・・・が経過する。従って、点火信号出力手段26が遅延時間s0、s1、s2・・・の経過を契機に点火信号pを出力しても、エンジンは適正な回転状態を維持する。
しかし、チェーンソーの鋸断終了直後のように負荷が急激に軽くなれば、エンジンは急加速状態になるため、図3(b)(c)にエンジン回転数T2、T3の場合を示すように、エンジン回転数T1からエンジン回転数T2、T3・・・へと急激に加速することがある。このような急加速の場合には、ソースコイル4の出力波形Vp1、Vn1、Vp2、Vn2の周期は、そのエンジン回転数T1、T2、T3に比例して短くなる。
例えば図3(b)(c)に示すように、1回転の前後でエンジン回転数T1からエンジン回転数T2へと急加速すれば、1回転前の遅いエンジン回転数T1に対応する遅延時間s1が長いにも拘わらず、次の1回転のエンジン回転数T2でのソースコイル4の出力波形Vp1、Vn1、Vp2、Vn2の周期が急激に短くなる。
そのためエンジン回転数T2での回転時に、エンジン回転数T1を条件に演算された遅延時間s1を契機に点火信号pを出力すれば、図3(b)に示すように、その1回転前の点火時期が上死点Q前30度付近であるのに対して、エンジンの上死点Q(0度)近く又は上死点Qを超えるまで急激に遅角して点火するため、その急激な変化にスムーズに追従できないことになる。
その結果、エンジンの挙動及び点火時期制御手段12によるプログラム制御に悪影響を及ぼす惧れがある。またエンジン回転数が変化するときの状況によっては、上死点Qを越えるまで点火時期が遅れるようなこともある。その場合には不完全燃焼により異常振動が発生したり、アフターファイアにより逆回転が発生したりする。
しかし、エンジン回転数T2まで急加速等により、図3(c)にエンジン回転数T2の場合を示すように、出力許可範囲Aが終了するまでに遅延時間s1が経過しないときには、その第1の負の出力波形Vn1の検出を契機に点火信号pを即時出力することにより、上死点Qの前約20度付近まで進角させて点火することができる。
従って、図3(c)の点線で示す従来の上死点Q近傍の点火に比べて、上死点Qの前約20度付近まで点火時期を大幅に進角させることができ、エンジンの挙動の変化、プログラム制御に対する悪影響を防止できると共に、不完全燃焼によるエンジンの異常振動、アフターファイア等を防止することができる。
なお、この実施形態では、点火信号出力手段26において、遅延時間の計時中に第1の負の出力波形Vn1の有無を検出するようにしているが、第1の負の出力波形Vn1の検出までに遅延時間が経過するか否かを判断するようにしてもよい。要するに点火信号出力手段26は、遅延時間の経過と、第1の負の出力波形Vn1の検出との何れか早い方を契機に点火信号pを放電用スイッチング素子8に印加できる構成であればよい。
図7〜図9は本発明の第2の実施形態を例示する。点火時期制御手段12は、図7に示すように構成されており、その出力許可範囲設定手段25は、ソースコイル4の第1の負の出力波形Vn1と第2の負の出力波形Vn2との間が出力許可範囲Aとして設定されている。
また点火信号出力手段26は、図7に示すように、第1の負の出力波形Vn1を検出するVn1検出部(第1検出部)32と、第2の負の出力波形Vn2を検出するVn2検出部(第2検出部)33と、その回転時の第1の正の出力波形Vp1又はその前の正のノイズ波形N1を検出したときに遅延時間を計時する遅延時間計時部34と、遅延時間が出力許可範囲A内か否かを判別して点火タイミングを決定する判別部35とを備えている。
この実施形態では、磁石式発電機1のソースコイル4には、図8(a)(b)に示すように、エンジンの1回転毎に第1の負の出力波形Vn1が上死点Qの前約40度付近で発生し、第2の負の出力波形Vn2が上死点Q近くで発生するように設定されている。
点火信号出力手段26は、遅延時間s0、s1、s2・・・の経過が出力許可範囲A内のときには、その遅延時間s0、s1、s2・・・の経過を契機に点火信号pを出力し、遅延時間s0、s1、s2・・・が出力許可範囲Aの前に経過したときには、出力許可範囲Aの最初を規定する第1の負の出力波形Vn1の検出を契機に、遅延時間s0、s1、s2・・・が出力許可範囲A内に経過せずに後に続くときには、出力許可範囲Aの最後を規定する第2の負の出力波形Vn2の検出を契機に夫々点火信号pを即時に出力するようになっている。
この実施形態のエンジン点火装置20は、図9のフローチャートに従って点火時期を制御する。図8(a)に示すように、ノイズ等がない場合には、入力処理手段21を経て第1の正の出力波形Vp1、第1の負の出力波形Vn1、第2の正の出力波形Vp2、第2の負の出力波形Vn2が交互に入力する。また図8(b)に示すように、第1の正の出力波形Vp1の前に正のノイズ波形N1があれば、入力処理手段21を経てノイズ波形N1が入力し、このノイズ波形N1と同じ第1の正の出力波形Vp1は入力しない(ステップ1)。
その後、第1の実施形態の場合と同様に回転数検出手段22でエンジン回転数T0、T1、T2・・・を検出し(ステップ2)、遅延時間演算手段24で1回転前のエンジン回転数T0、T1、T2・・・に対応する遅延時間s0、s1、s2・・・を演算する(ステップ3)。
エンジンの運転中はソースコイル4の出力に放電ノイズ等のノイズ波形N1が加わり易い状況にあり、そのノイズ波形N1が原因して回転数検出手段22で検出するエンジン回転数T0、T1、T2・・・が実際の正規の回転数よりも遅く認識される場合がある。
例えば、図8(a)にエンジン回転数T2の場合を示すように、ソースコイル4の第1の正の出力波形Vp1の前にノイズ波形N1が発生した場合には、回転数検出手段22がこのノイズ波形N1を第1の正の出力波形Vp1と誤認識し、このノイズ波形N1から1回転後に発生する第1の正の出力波形Vp1までを1周期としてエンジン回転数T2を検出する上に、遅延時間s1の計時の開始時点が第1の正の出力波形Vp1からノイズ波形N1へと前に移動する。
即ち、1回前のエンジン回転数T0から次のエンジン回転数T1(>T0)へと若干増速する程度の通常運転状態の場合には、図8(a)にエンジン回転数T1の場合を示すように、エンジン回転数T0に対応する遅延時間s0を演算し、第1の正の出力波形Vp1の検出から遅延時間s0を計時する。このときの遅延時間s0の場合には、第1の負の出力波形Vn1と第2の負の出力波形Vn2との間で遅延時間s0が経過するため、その遅延時間s0の経過時点である20度付近で点火信号pを出力してもよい。
しかし、図8(a)にエンジン回転数T2の場合を示すように、通常運転中に第1の正の出力波形Vp1の前に正のノイズ波形N1が発生すれば、そのノイズ波形N1の検出時点から、1回転前のエンジン回転数T1に対応する遅延時間s1(<s0)の計時を開始する。そのため出力許可範囲Aという制限がなければ、遅延時間s1の計時開始がノイズ波形N1の検出時点へと前に移動するため、第1の負の出力波形Vn1の発生前の50度付近の進角で点火信号pを出力して点火する。
また図8(a)にエンジン回転数T3の場合を示すように、次の回転時には1回転前のエンジン回転数T2はノイズ波形N1から次の第1の正の出力波形Vp1までを1周期として検出される。そのため回転数検出手段22はエンジン回転数T2を本来の回転よりも遅い回転数と認識し、遅延時間演算手段24が点火時期特性Xからその遅いエンジン回転数T2に対応する遅延時間s2を演算する。
従って、このときの遅延時間s2は正規の回転数がエンジン回転数T1と同じ程度であるにも拘らず、遅いエンジン回転数T2に対応しているため、遅延時間s1に比べて遥かに長くなる。一方、このエンジン回転数T3での回転時にはノイズ波形N1がないため、遅延時間s2の計時開始は第1の正の出力波形Vp1の検出時点まで後に移動する。その結果、遅延時間s2の経過時点に点火信号pを出力するとすれば、図8(a)に示すように、上死点Q後20度付近まで点火時期が大きく遅角する。
このように出力許可範囲Aの設定がなければ、実際のエンジン回転数に大きな変動がない場合でも、ノイズ波形N1によって点火時期が上死点Q前に大きく進角したり、その直後に上死点Qを越えて大きく遅角したりする等、ノイズ波形N1の有無によって点火時期が前後に大きくばらつく問題がある。
しかし、この実施形態に示すように、第1の負の出力波形Vn1の検出から第2の負の出力波形Vn2までを出力許可範囲Aとして設定し、この出力許可範囲A内でのみ点火信号pの出力を許容することにより、ノイズ波形N1によるエンジン回転数の誤認識、それに伴う点火時期のバラツキ等を防止することができる。
即ち、点火信号出力手段26では、1回転前のエンジン回転数T0、T1、T2、T3・・・に対応する遅延時間s0、s1、s2、s3・・・を演算して、第1の正の出力波形Vp1又はノイズ波形N1から遅延時間s0、s1、s2、s3・・・の計時を開始し、その遅延時間s0、s1、s2、s3・・・が経過したか否かを判断する(ステップS4)。そして、遅延時間s0、s1、s2が経過すれば、その経過が出力許可範囲A内か否かを判断し(ステップS5)、出力許可範囲A内であれば、遅延時間s0の経過を契機に点火信号pを出力する(ステップS6)。
遅延時間s0、s1、s2、s3・・・の経過時点が出力許可範囲Aの前であれば、出力許可範囲Aの最初を規定する第1の負の出力波形Vn1を検出したか否かを判別し(ステップS7)、その第1の負の出力波形Vn1の検出を契機に点火信号pを出力する(ステップS6)。
従って、図8(b)にエンジン回転数T2の場合を示すように、第1の正の出力波形Vp1の前にノイズ波形N1が入力して、そのノイズ波形N1を基準に遅延時間s1の計時を開始する場合には、遅延時間s1が上死点Q前の点線で示す50度付近で経過するにも拘わらず、出力許可範囲Aの最初の第1の負の出力波形Vn1の検出時点である上死点Q前の40度付近まで点火時期を遅角させることができる。
また図8(b)にエンジン回転数T3の場合を示すように、第1の正の出力波形Vp1の前のノイズ波形N1がなくなり、その第1の正の出力波形Vp1を基準に遅延時間s2の計時を開始する場合には、そのときの遅延時間s2が上死点Qの後側に越えて点線で示す20度付近まで延びる。しかし、このような場合には、出力許可範囲Aの最後の第2の負の出力波形Vn2の検出を契機に点火信号pを出力する(ステップS8、S6)。そのため点火時期を上死点Q付近又は上死点Qよりも前まで進角させることができる。
このように第1の正の出力波形Vp1の前にノイズ波形N1が発生すれば、エンジン回転数T2、T3を適正に認識できなくなるため、そのノイズ対策が必要になる。しかし、第1の正の出力波形Vp1から後の1回転中にノイズ波形N1があっても、そのノイズ波形N1に続いて発生する同じ正又は負の正規の出力波形Vn1,Vp2,Vn2を入力処理手段21で認識しないように処理するため、出力許可範囲Aが若干進角するだけであり、誤動作等の問題は生じない。
何故なら、例えば第2の負の出力波形Vn2の前にノイズ波形N1がある場合には、そのノイズ波形N1を正規の第2の負の出力波形Vn2と認識し、本来の第2の負の出力波形Vn2を認識しないので、出力許可範囲Aの最後がノイズ波形N1までとなり、ノイズ波形N1と第2の負の出力波形Vn2との位相差分だけ点火時期が進角する。従って、この点火時期の進角により、エンジン回転が良好になるものの、点火時期の大きなバラツキの原因とはなり得ない。
図10は本発明の第3の実施形態を例示する。この実施形態は、図10に示すような点火時期特性Xに従って点火時期を制御する場合に、そのエンジン回転数の回転数域に応じて複数種類の出力許可範囲A1、A2を設けたものである。
即ち、エンジン回転数の高い第1回転数域a1に対応する第1出力許可範囲A1は、1回転中に発生する出力波形の内の高進角側の初期波形を基準に設定し、またエンジン回転数の低い第2回転数域a2に対応する第2出力許可範囲A2は、1回転中に発生する出力波形の内の初期波形に続く低進角側の後期波形を基準に設定することも可能である。
例えば、上死点Q前の進角側で第1の正の出力波形Vp1、第1の負の出力波形Vn1、第2の正の出力波形Vp2、第2の負の出力波形Vn2がその順で発生する場合、エンジン回転数6000r/min以上の第1出力許可範囲A1はVn1〜Vp2間に設定し、エンジン回転数6000r/min未満の第2出力許可範囲A2はVp2〜Vn2間に設定してもよい。
図11、図12は本発明の第4の実施形態を例示する。磁石式発電機1には、図11に示すように中央脚部37にコイル3,4が巻装されたE型の鉄心38をステータ15側に、周方向に3極の磁極を有する磁石39をロータ14側に設けたものを使用することも可能である。この場合には、図12に示すように、ソースコイル4の出力波形はVp1、Vn1、Vp2、Vn2、Vp3、Vn3、Vp4が交互に出力するので、それらを適宜組み合わせて基準波形とすればよい。このようにすれば、出力波形の数が増えるので、制御範囲を細かくすることができる。
以上、本発明の各実施形態について詳述したが、本発明は各実施形態に限定されるものではない。例えば実施形態では、磁石式発電機1は第1の実施形態に例示のもの以外の構成でもよい。例えば、ソースコイル4の正負の出力波形の数は3以上あればよい。
また実施形態では、エンジン回転数が急激に加速状態となる場合、ノイズが入力して回転数検出手段22が実際のエンジン回転数よりも遅い回転数と認識する場合について例示しているが、運転者の操作とは関係なく負荷の増加等によりエンジン回転数が減速するような場合、その減速を防止するための手段として出力許可範囲A内に点火信号pを出力するようにしてもよい。
ノイズとしてはソースコイル4の出力波形とは別に発生して入力する放電ノイズ、その他のノイズが一般的である。しかし、放電ノイズ等に限定されるものではなく、ソースコイル4の出力波形に影響を与えるようなノイズ等もある。
従って、このエンジン点火装置では、エンジン回転数のバラツキ等をなくして、エンジンの挙動の安定化、及びエンジン回転数の急激な加減速に追従する点火時期の応答性の向上を図ることができると共に、また点火時期の極端な遅れに伴う失火等のエンジン点火装置の不具合を防止することができ、更にはノイズによる入力波形異常が発生しても、正常な点火動作への円滑な復帰等を図ることができる。