JP6687035B2 - ポリアミドマルチフィラメントおよびそれを用いたレース編物、ストッキング - Google Patents

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Description

本発明は、ポリアミドマルチフィラメントに関する。さらに詳しくは、本発明のポリアミドマルチフィラメントをストッキングに用いたとき、ソフト性、耐久性、透明感に優れたストッキングを提供し、レース地の地糸に用いたとき、耐久性に優れ、柄が綺麗に映えるレース編物を提供することができるポリアミドマルチフィラメントに関する。
合成繊維であるポリアミド繊維やポリエステル繊維は、機械的・化学的性質において優れた特性を有することから衣料用途や産業用途で広く利用されている。特に、ポリアミド繊維はその独特の柔らかさ、高強度、染色時の発色性、耐熱性、吸湿性等において優れた特性を有することから、ストッキング、インナーウエア、スポーツウエアなど一般衣料用途で広く使用されている。
レースの消費者ニーズとしては、柄が綺麗に映えるようにするため、耐久性は従来並で、かつレース地糸の透明感が望まれていた。ストッキングの消費者ニーズとしては、履き心地が良く、かつ素肌感を出すため、耐久性は従来並で、かつソフト性、透明感の追求が望まれていた。すなわち、衣料用ポリアミド繊維に置き換えると、強力は従来並での細繊度化が強く望まれていた。
これらの問題を解決するために、ポリアミド繊維の高強度化は様々な技術が提案されている。例えば特許文献1では、伸度が51〜64%、強度が4.2〜6.5cN/dtexの高粘度タイプのナイロン6フィラメントからなるレース編物が提案されている。
特許文献2では、伸度が40〜50%、強伸度積が9.1以上で9.8程度のポリアミドフィラメントからなるストッキングが提案されている。
特許文献3では、伸度が16〜18%程度、強度が9.8cN/dtex以上で強伸度積が11.4〜12.2cN/dtex程度のポリアミド系繊維からなるタイヤコード、ベルトが提案されている。
特開2003−129331号公報 国際公開第2016/76184号 特開昭63−159521号公報
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、柄が綺麗に映えるレースが得られるものの、繊維モジュラスと強伸度積が低く、レース編物の製品強度に満足できるものではなかった。
特許文献2に記載の方法をシングルカバリング弾性糸の被服糸に適した繊度に展開して用いた場合、繊維モジュラスと強伸度積が低く、ストッキングの製品強度として満足できるものではなかった。
特許文献3に記載の方法を衣料用途に展開して用いた場合、繊維モジュラスが高すぎて、レースやストッキングの製造工程での糸切れ、毛羽発生など高次通過性に劣るものであった。
本発明は上記問題を解決するものであり、高強伸度積、適正繊維モジュラスを有した高強力ポリアミドマルチフィラメントを提供することを課題とする。さらに詳しくは、高強伸度積、適正繊維モジュラスを有したポリアミドマルチフィラメントによって、高次通過性と製品品位に優れ、細繊度化が可能となり、耐久性を維持しつつ、レース地糸の透明感が増して、柄が綺麗に映えるレース編物、優れた透明感とソフト性を有するストッキングを提供することを課題とする。
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)総繊度4.0〜33.0dtex、単糸繊度1.3〜3.4dtex、15%伸長時の引張強度が4.0〜6.0cN/dtex、強伸度積が10.0以上、糸斑(U%)が1.2以下であることを特徴とするポリアミドマルチフィラメント。
)伸度が30〜50%であることを特徴とする上記(1)載のポリアミドマルチフィラメント。
)結晶量と剛直非晶量の和が70〜90%であることを特徴とする上記(1)または(2)に記載のポリアミドマルチフィラメント。
)上記(1)〜()のいずれか1項に記載のポリアミドマルチフィラメントをレース地糸に使用したレース編物。
)上記(1)〜()のいずれか1項に記載のポリアミドマルチフィラメントをカバリング被覆糸として使用し、そのカバリング糸を一部に使用したストッキング。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、高強伸度積、適正繊維モジュラスを有した高強力ポリアミドマルチフィラメントである。さらには、本発明のポリアミドマルチフィラメントは、高次通過性と製品品位に優れ、細繊度化が可能となり、耐久性を維持しつつ、レース地糸の透明感が増して、柄が綺麗に映えるレース編物、優れた透明感とソフト性を有するストッキングを得ることができる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いることのできる製造装置の一実施態様を示すものである。 本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いることのできる紡糸口金および加熱筒を示す概略断面モデル図である。
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、15%伸長時の引張強度が4.0〜6.0cN/dtex、強伸度積が10.0以上、糸斑(U%)が1.2以下であることを特徴とする。
本発明のポリアミドマルチフィラメントを構成するポリアミドは、いわゆる炭化水素基が主鎖にアミド結合を介して連結された高分子量体からなる樹脂であって、かかるポリアミドは、製糸性、機械特性に優れており、主としてポリカプロアミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)が好ましく、ゲル化し難しく、製糸性が良いことからポリカプロアミド(ナイロン6)がさらに好ましい。前記における主としてとは、ポリカプロアミドでは、ポリカプロアミドを構成するε−カプロラクタムを構成単位とし、ポリヘキサメチレンアジパミドでは、ポリヘキサメチレンアジパミドを構成するヘキサメチレンジアンモニウムアジペートを構成単位として80モル%以上含むことをいい、さらに好ましくは90モル%以上含む。その他の成分としては、特に限定されないが、例えば、ポリドデカノアミド、ポリヘキサメチレンアジパミド、ポリヘキサメチレンアゼラミド、ポリヘキサメチレンセバカミド、ポリヘキサメチレンドデカノアミド、ポリメタキシリレンアジパミド、ポリヘキサメチレンテレフタラミド、ポリヘキサメチレンイソフタラミド等を構成するモノマーである、アミノカルボン酸、ジカルボン酸、ジアミン等の単位が挙げられる。
また、本発明の効果を有効に発現するためには、ポリアミドには酸化チタンに代表される艶消し剤など各種添加剤を含有しないことが好ましいが、耐熱剤など効果を阻害しない範囲で添加剤を必要に応じて含有していてもよい。また、その含有量は0.001〜0.1wt%の間で必要に応じて混合していてもよい。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、15%強度、強伸度積、U%の全てをかかる、前記範囲とすることが必要である。すなわち、細繊度化することで、レース地糸の透明感が増して柄が綺麗に映えるレース編物や優れた透明感とソフト性を有するストッキングは得られるものの製品強度が低くなり、耐久性が実使用に耐えないレベルとなる。耐久性が実使用に耐えるレベルとするためには、強伸度積を高くする必要が生じる。また、高次通過性や製品品位を保つためには、適正な15%強度、U%とする必要がある。
そこで、本発明者らは鋭意検討し、高次通過性と製品品位に優れ、耐久性に優れ、レース地糸の透明感が増して柄が綺麗に映えるレース編物や優れた透明感とソフト性を有するストッキングを提供するためには、15%強度、強伸度積、およびU%を適正領域とすることが必須であることを見出した。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、強伸度積が10.0以上であることが必要である。かかる範囲とすることにより、ストッキングやレースの耐久性が実使用に耐えるレベルとなる。強伸度積が10.0未満の場合、ストッキングやレースの耐久性が実使用に耐えないレベルとなり、また、高次加工工程での糸切れが増加し高次通過性が悪化する。本発明のポリアミドマルチフィラメントは、強伸度積が10.3以上であることが更に好ましい。また、強伸度積は大きいほど好ましいが、本発明におけるその上限値は11.0程度である。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、原糸物性の1つの指標である15%伸長時の引張強度(以下、これを称して「15%強度」と称す)が4.0〜6.0cN/dtexであることが必要である。15%強度の測定は、JIS L1013−2010−引張強さ及び伸び率に準じて測定し、引張強さ−伸び曲線を描き、15%伸長時の引張強さ(cN)を繊度で除した値を15%強度とした。15%強度は、繊維モジュラスを簡易的に表す値であり、15%強度が高いと引張強さ−伸び曲線の勾配が高く繊維モジュラスが高いことを示し、一方15%強度が低いと引張強さ−伸び曲線の勾配が低く繊維モジュラスが低いことを示す。
本発明のポリアミドマルチフィラメントをかかる範囲とすることにより、ストッキングやレース編物の耐久性が実使用に耐えるレベルとなり、ソフト性にも優れる。15%強度が4.0cN/dtex未満の場合、強伸度積が低下し、ストッキングやレース編物の耐久性が実使用に耐えないレベルとなる。15%強度が6.0cN/dtexを超えると、伸度が低下し、ストッキングやレース編物の風合いが硬くなりソフト性が低下し、また、高次加工工程での糸切れが増加し高次通過性が悪化し、製品品位が低下する。好ましくは4.5〜5.5cN/dtexである。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、伸度が30〜50%であることが好ましい。かかる範囲とすることにより、高次加工工程での糸切れが減少し高次通過性や製品品位が良好となる。特に、高速で編立、製織する際に高次通過性に優れる。伸度が30%以上であると、ストッキング製造工程(カバリング糸製造工程やストッキング編立工程)やレース編み物製造工程(整経工程、製織工程)などの高次加工工程での糸切れが少なく高次通過性が良好である。さらには、ストッキングやレース編物の風合いがソフトで良好である。伸度が50%以下であると、強伸度積が十分であり、ストッキングやレース編物の耐久性も実使用に耐えられ、また、高次加工工程での糸切れが少なく高次通過性、製品品位も向上する。さらに好ましくは、35〜45%である。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、結晶量と剛直非晶量の和が70〜90%であることが好ましい。結晶量と剛直非晶量は以下のとおり算出される値である。
結晶量(Xc)は、DSC法により、融解熱量と冷結晶化熱量の差(ΔHm−ΔHc)を計算し、(1)式により算出する。ここで、ΔHm0は、結晶性ポリアミドの融解熱量であり、その値は、229.76J/gである。
また、剛直非晶量(Xra)は、結晶量(Xc)および可動非晶量(Xma)から(2)式により算出する。可動非晶量(Xma)は、温度変調DSC法(TMDSC)による、温度−熱流速可逆曲線上のガラス転移前後での比熱変化(ΔCp)から算出する。ここでのΔCpは、ガラス転移前後の温度−熱流可逆曲線に接線を外挿して算出したガラス転移前後の比熱ギャップを用いる。可動非晶量(Xma)は、(3)式により算出する。ここで、ΔCp0は、非晶ポリアミドのTg前後での比熱差であり、その値は、0.4745J/gである。
なお、剛直非晶量は、温度変調DSCおよびDSCの2回測定の平均値より算出した。
結晶量:Xc(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm0×100・・・(1)
剛直非晶量:Xra(%)=100−(Xc+Xma) ・・・(2)
可動非晶量:Xma(%)=ΔCp/ΔCp0×100 ・・・(3) 。
ここでいう結晶量と剛直非晶量の和は、ポリアミドポリマーの分子鎖の配向緩和の程度を簡易的に表す値である。結晶量と剛直非晶量の和が高いと分子鎖の歪みが少なく、結晶性の高い繊維であることを示し、結晶量と剛直非晶量の和が低いと分子鎖の絡み合いが大きく、結晶性の低い繊維であることを示す。結晶量と剛直非晶量の和を90%以下とすることにより、ポリアミドポリマーの分子鎖の歪み量が適度となり、結晶性の高すぎないポリアミド繊維が得られ、ストッキングやレース編物の風合いやソフト性に優れる。結晶量と剛直非晶量の和を70%以上とすることにより、ポリアミドポリマーの分子鎖の歪みが適度にとれるため、結晶性に優れるポリアミド繊維が得られ、ストッキングやレース編物の耐久性に優れる。さらに好ましくは、75〜85%である。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、U%が1.2以下であることが必要である。かかる範囲とすることで、製品品位に優れたものとなる。U%が1.2を超えるとレース編物を染色した後に、糸条の太い部分が濃染となる、筋が発生するなど、外観不良となり製品品位に劣るものとなる。さらに好ましくは、ストッキング用途の場合は1.0以下、レース編物用途の場合は1.0以下である。また、U%は小さいほど好ましいが、本発明におけるその下限値は0.4程度である。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの総繊度は、衣料用途の点で4.0〜33.0dtexが好ましい。ストッキング用途の場合4.0〜11.0dtex、レース用途の場合20.0〜30.0dtexがさらに好ましい。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、単糸繊度が1.3〜3.4dtexであることが好ましい。かかる範囲とすることにより、ストッキングやレースの耐久性およびソフト性に優れる。さらに好ましくは、1.6〜3.2dtexである。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、硫酸相対粘度が2.5〜4.0であることが好ましい。さらに好ましくは3.2〜3.8である。硫酸相対粘度を2.5〜4.0とすることにより、ストッキングやレース編物の耐久性が実使用に耐えるレベルとなる。さらには、製品品位が良好となる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの断面形状は、特に限定されるものではなく、例えば、 丸断面、偏平断面、レンズ型断面、三葉断面、マルチローバル断面、3〜8個の凸部と同数の凹部を有する異形断面、中空断面その他公知の異形断面でもよい。
次に本発明の高強力ポリアミドマルチフィラメントの製造方法の一例を、具体的に説明する。図1は本発明の高強力ポリアミドマルチフィラメントの製造方法に好ましく用いる直接紡糸延伸法による製造装置の一実施形態を示す。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、ポリアミド樹脂を溶融し、ポリアミドポリマーをギヤポンプにて計量・輸送し、紡糸口金1に設けられた吐出孔から最終的に押し出され、各フィラメントが形成される。このようにして紡糸口金1から吐出された各フィラメントを、図1に示す紡糸口金の経時汚れを抑制するために蒸気を吹き出す気体供給装置2、徐冷するために設けられた全周に囲繞する多層の加熱筒3、冷却装置4に通して、糸条を室温まで冷却固化する。その後、給油装置5で油剤付与するとともに各フィラメントを集束しマルチフィラメントを形成し、流体交絡ノズル装置6で交絡し、引き取りローラー7、延伸ローラー8を通過し、その際引き取りローラー7と延伸ローラー8の周速度の比に従って延伸する。さらに、糸条を延伸ローラー8の加熱により熱処理し、巻取装置9で巻き取る。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造において、ポリアミド樹脂の硫酸相対粘度は2.5〜4.0が好ましい。かかる範囲とすることにより、強伸度積の高い高強力ポリアミドマルチフィラメントが得られる。
また、溶融温度は、ポリアミドの融点に対して20℃より高く、かつ95℃より低くすることが好ましい。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造において、冷却装置4の上部には、各フィラメントを全周に囲繞するように加熱筒3が設けられていることが必要である。加熱筒を冷却装置4の上部に設置し、加熱筒内の雰囲気温度を100〜300℃の範囲内とすることにより、紡糸口金1から吐出されたポリアミドポリマーを、熱劣化することが少なく、配向緩和させることができる。口金面から冷却までの徐冷による配向緩和によって、15%強度、強伸度積の高いマルチフィラメントが得られる。加熱筒を設置しない場合、口金面から冷却までの徐冷による配向緩和が足りないため、15%強度、強伸度積共に満足する繊維が得にくい傾向にある。
本発明の高強力ポリアミドマルチフィラメントの製造において、加熱筒は多層であることが必要である。特許文献3において、徐冷の為に口金直下の雰囲気温度を250〜450℃に保つ加熱筒が提案されているが、産業用の太繊度領域においては有効であるものの、本発明のポリアミドマルチフィラメントのような衣料用の細繊度領域においては、加熱筒内での温度分布が一定であるため、熱対流が乱れた状態になり易く、各フィラメントの固化状態に影響し、U%を悪化させる要因となる。その為、加熱筒を多層にして上層から下層にかけて段階的に温度設定を下げることで、上層から下層への熱対流を意図的に作り出し、糸の随伴流と同方向の下降気流とすることで、加熱筒内での熱対流の乱れを抑制し、糸揺れも小さく、U%の小さいマルチフィラメントが得られる。
多層加熱筒長さLは、フィラメントの繊度にもよるが、40〜100mmであることが好ましい。また、多層加熱筒は2層以上から構成されることが好ましく、多層加熱筒の単層長さL1は、10〜25mmの範囲が好ましい。
また、多層加熱筒内の雰囲気温度は100〜300℃の範囲内であり、各層間において緩やかな温度勾配を設けることが必要である。例えば、多層加熱筒長さLを75mm、単層長さL1を25mmとした場合、上層の雰囲気温度を250〜300℃、中層の雰囲気温度を200〜250℃、下層の雰囲気温度100〜200℃とすることが必要である。
かかる構成とすることで、口金−冷却間の雰囲気温度プロフィールを100〜300℃に段階的にコントロールし、15%強度、強伸度積、U%の良好な高強力ポリアミドマルチフィラメントが得られる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造において、冷却装置4は、一定方向から冷却整流風Aを吹き出す冷却装置、あるいは外周側から中心側に向けて冷却整流風Aを吹き出す環状冷却装置、あるいは中心側から外周に向けて冷却整流風を吹き出す環状冷却装置など、いずれの方法においても製造可能である。紡糸口金の下面から冷却装置4の冷却風吹出し部の上端部までの鉛直方向距離LS(以下、冷却開始距離と称す)は、159〜219mmの範囲にあることが糸揺れやU%を抑制する点で好ましく、169〜189mmがより好ましい。冷却風吹出し面から吹き出される冷却風速に関しては、該冷却吹出し部上端面から下端面までの区間の平均で20.0〜40.0(m/分)の範囲にあることがU%および強伸度積の点から好ましい。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造において、給油装置5の位置、すなわち図1における紡糸口金下面から給油装置5の給油ノズル位置までの鉛直方向距離Lg(以下、給油位置と称す)は、単糸繊度および冷却装置からのフィラメントの冷却効率にもよるが、800〜1500(mm)が好ましく、より好ましくは1000〜1300(mm)である。800(mm)以上である場合にはフィラメント温度が油剤付与時に適切な程度に下がり、1500(mm)以下である場合には下降気流による糸揺れも小さく、U%の低いマルチフィラメントが得られる。また、1500(mm)以下である場合には、固化点から給油位置までの距離が短くなることで随伴流が低減し、紡糸張力が低下することで紡糸配向が抑制され、延伸性に優れるため、強伸度積、15%強度の高い高強力マルチフィラメントが得られる。800(mm)以上である場合には、口金から給油ガイドまでの糸屈曲が適正となり、ガイドでの擦過による影響を受けにくく、強伸度積、15%強度の低減が少なくなる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントの製造において、紡糸速度は、引き取りローラー7を低速度の領域である1000〜2000m/minとすることが好ましく、ドラフト延伸ムラの抑制、糸条冷却の均一化が可能となり、U%を1.2以下と低く抑えることができる。また、2000m/min以下である場合には、紡糸配向が抑制されると共に、加熱筒の徐冷効果が促進することで、分子鎖の歪み緩和が大きくなり、15%強度、強伸度積の高い高強力マルチフィラメントが得られる。
また、延伸ローラー8を加熱ローラーとして熱処理を施し、その熱セット長は500〜1200mm、熱処理温度は120〜180℃が好ましい。適度な熱処理を施すことでマルチフィラメントの熱収縮を設計することが可能となるためである。熱セット長を500mm以上とすることで、繊維の結晶化が十分となるため、15%強度が大きくなり、耐久性に優れる製品となる。熱セット長を1200mm以下とすると、繊維の結晶化が進みすぎず、15%強度が適正な範囲となると共に製品の風合いが柔らかく、共に、高次加工工程での工程通過性に優れる高強力ポリアミドマルチフィラメントが得られる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、加熱筒を冷却装置4の上部に設置し、加熱筒内の雰囲気温度を100〜300℃の範囲内とし、更に、加熱筒を多層型とすることで、加熱筒内に温度勾配を設け、糸の随伴流と同方向の下降気流を意図的に作り出し、給油位置を口金面から800〜1500mm、紡糸速度を1000〜2000m/min、延伸後の熱セット長を500〜1200mmとすることで製造することができる。
このような直接紡糸延伸法での条件を採用することにより、10.0cN/dtex以上の高い強伸度積、4.0〜6.0cN/dtexの15%強度、1.2以下のU%の高強力ポリアミドマルチフィラメントが得られる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、生糸のまま地糸としてレース編み機に供給されて通常の方法でレース地に編成される。レース地は、エンブロイダルレース、ラッセルレース、リバーレース等の通常の編組織とすればよい。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、カバリング糸の被覆糸として用いられる。カバリング糸は、ポリウレタン系弾性繊維、ポリアミド系エラストマ弾性繊維等の弾性糸を芯糸とし、被覆糸を一重に巻き付けるシングルカバリング糸、被覆糸を二重に巻き付けるダブルカバリング糸に用いられる。
本発明のポリアミドマルチフィラメントは、上記記載のカバリング糸を一部に使用したストッキングに用いられる。また、ストッキングの編機として、通常の靴下編み機を用いることができ、制限はなく、2口あるいは4口給糸の編機を用い、本発明のカバリング糸を供給して編成するという通常の方法で編成すればよい。
さらに編成後の染色やそれに続く後加工、ファイナルセット条件についても公知の方法にしたがい行えばよく、染料として酸性染料、反応染料を用いることや、色なども限定されるものではない。
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。
A.強度、伸度、強伸度積、15%強度
JIS L1013−2010−引張強さ及び伸び率に準じて繊維試料を測定し、引張強さ−伸び曲線を描く。試験条件としては、試験機の種類は定速伸長形、つかみ間隔50cm、引張速度50cm/minにて行った。なお、切断時の引張強さが最高強さより小さい場合は、最高引張強さおよびそのときの伸びを測定した。
強度、強伸度積は、下記式にて求めた。
伸度=切断時の伸長(%)
強度=切断時の引張強さ(cN)/繊度(dtex)
強伸度積={強度(cN/dtex)}×{伸度(%)+100}/100
15%強度=15%伸長時の引張強さ(cN)/繊度(dtex) 。
B.総繊度、単糸繊度
1.125m/周の検尺器に繊維試料をセットし、500回転させて、ループ状かせを作成し、熱風乾燥機にて乾燥後(105±2℃×60分)、天秤にてかせの質量を量り、公定水分率を乗じた値から繊度を算出した。なお、公定水分率は4.5%とした。
C.硫酸相対粘度(ηr)
ポリアミドチップ試料又は繊維試料0.25gを、濃度98質量%の硫酸100mlに対して1gになるように溶解し、オストワルド型粘度計を用いて25℃での流下時間(T1)を測定した。引き続き、濃度98質量%の硫酸のみの流下時間(T2)を測定した。T2に対するT1の比、すなわちT1/T2を硫酸相対粘度とした。
D.糸斑(U%)
zellweger uster社製のUSTER TESTER IVを用いて試料長:500m、測定糸速度V:100m/min、Twister:S、30000/min、1/2Inertで繊維試料を測定した。
E.結晶量、剛直非晶量
(Xc)は、DSC法により、融解熱量と冷結晶化熱量の差(ΔHm−ΔHc)を計算し、(1)式により算出する。ここで、ΔHm0は、結晶性ポリアミドの融解熱量であり、その値は、229.76J/gである。
また、剛直非晶量(Xra)は、結晶量化度(Xc)および可動非晶量(Xma)から(2)式により算出する。可動非晶量(Xma)は、温度変調DSC法(TMDSC)による、温度−熱流速可逆曲線上のガラス転移前後での比熱変化(ΔCp)から算出する。ここでのΔCpは、ガラス転移前後の温度−熱流可逆曲線に接線を外挿して算出したガラス転移前後の比熱ギャップを用いる。可動非晶量(Xma)は、(3)式により算出する。ここで、ΔCp0は、非晶ポリアミドのTg前後での比熱差であり、その値は、0.4745J/g℃である。
なお、剛直非晶量は、温度変調DSCおよびDSCの2回測定の平均値より算出した。
結晶量:Xc(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm0×100・・・(1)
剛直非晶量:Xra(%)=100−(Xc+Xma) ・・・(2)
可動非晶量:Xma(%)=ΔCp/ΔCp0×100 ・・・(3) 。
また、通常DSCおよび温度変調DSCの測定条件は以下の条件で実施した。
(a)通常DSC
TA Instrument社製Q1000を用いUniversal Analysis2000にてデータ処理を実施した。測定は窒素流下(50mL/min)で、温度範囲0〜300℃、昇温速度10℃/min、試料重量約5mg(熱量データは測定後重量で規格化)にて測定を実施した。
上記のDSC法の詳細は、次の[文献1]に記載されている。
[文献1]
Wunderlich B.,Thermal Analysis of Polymeric Materials,Appendix1(The ATHAS Data Bank),Springer(2005)。
(b)温度変調DSC
TA Instrument社製Q1000を用いUniversal Analysis2000にてデータ処理を実施した。測定は窒素流下(50mL/min)で、温度範囲0〜200℃、昇温速度2℃/min、試料重量約5mg(熱量データは測定後重量で規格化)にて測定を実施した。
該手法は、加熱と冷却を一定の周期および振幅で繰り返しながら平均的に昇温して測定する方法であり、全体のDSC シグナル(Total Heat Flow:全熱流)を、ガラス転移などの可逆的な成分(Reversing Heat Flow)と、エンタルピー緩和、硬化反応、脱溶媒などの不可逆的な成分(Nonreversing Heat Flow)とに分離できる。ただし結晶の融解ピークは、可逆成分と、不可逆成分のどちらにも現れる。
上記の温度変調DSC法の詳細は、上述の[文献1]に記載されている。
F.レースの評価
(a)ソフト性
レース製品について、風合い評価経験豊富な検査者(5人)のソフト性を相対評価した。その結果は、各検査者の評価点の平均値をとり小数点以下は四捨五入して、平均値が、5をS、4をA、3をB、1〜2をCとした。
5点:非常に優れる
4点:やや優れる
3点:普通
2点:やや劣る
1点:劣る 。
S、Aをソフト性合格とした。
(b)耐久性
破裂強度はJIS L1096−2010、ミューレン形法(A法)による破裂強さ試験方法に準じて、任意の3ヶ所の破裂強度を測定し、その平均値より、次の基準で4段階評価した。
S:130kPa以上
A:100kPa以上130kPa未満
B:90kPa以上100kPa未満
C:90kPa未満 。
S、Aを耐久性合格とした。
(c)品位
レース製品を、検査者(5人)の染め斑の程度を相対評価した。その結果は、各検査者の評価点の平均値をとり小数点以下は四捨五入して、平均値が、5をS、4をA、3をB、1〜2をCとした。
5点:非常に優れる
4点:やや優れる
3点:普通
2点:やや劣る
1点:劣る
S、Aを品位合格とした。
(d)工程通過性
編成操業性:編成途中での断糸回数をレース生地一反(80m)当たりの断糸件数として、次の基準で表示した。
S:0件以上5件未満
A:5件以上10件未満
B:10件以上20件未満
C:20件以上30件未満
S、Aを工程通過性合格とした。
G.ストッキングの評価
(a)ソフト性
ストッキング製品について、人体足型に履かせた状態で、風合い評価経験豊富な検査者(5人)のレック部のソフト性を相対評価した。その結果は、各検査者の評価点の平均値をとり小数点以下は四捨五入して、平均値が、5をS、4をA、3をB、1〜2をCとした。
5点:非常に優れる
4点:やや優れる
3点:普通
2点:やや劣る
1点:劣る
S、Aをソフト性合格とした。
(b)耐久性
ストッキング製品を人体足型に表を外側にして履かせ、踵から大腿部方向に60cmの位置にガーター部を合わせた上で、踵から大腿部方向に52.5cmの位置を中心として、足形の大腿部裏側に測定枠の大きさに合わせて円形の印を付けておく。測定枠に製品を固定する際には先につけた円形の印に合わせて固定することで、着用状態と同じ状態で破裂強さを測定し、耐久性の指標とした。
破裂強度はJIS L1096−2010、ミューレン形法(A法)による破裂強さ試験方法に準じて、任意の3箇所の破裂強度を測定し、その平均値より、次の基準で4段階評価した。
S:117.7kPa以上
A:98.1kPa以上117.7kPa未満
B:88.3kPa以上98.1kPa未満
C:88.3kPa未満 。
S、Aを耐久性合格とした。
(c)品位
ストッキング製品を、検査者(5人)の染め斑の程度を相対評価した。その結果は、各検査者の評価点の平均値の小数点以下は四捨五入して、その平均値が、5をS、4をA、3をB、1〜2をCとした。
5点:非常に優れる
4点:やや優れる
3点:普通
2点:やや劣る
1点:劣る 。
S、Aを品位合格とした。
(d)工程通過性
靴下編機にて、回転数400rpm、ストッキングを1時間連続運転し編立した際の編立時の糸切れによる停台回数を、次の基準で評価した。
S:糸切れ2回未満、
A:糸切れ2回以上4回未満、
B:糸切れ4回以上6回未満、
C:糸切れ6回以上。
S、Aを工程通過性合格とした。
〔実施例1〕
(ポリアミドマルチフィラメントの製造)
ポリアミドとして、硫酸相対粘度(ηr)が3.3、融点225℃のナイロン6チップを水分率0.03質量%以下となるよう常法にて乾燥した。得られたナイロン6チップを紡糸温度(溶融温度)290℃にて溶融し、紡糸口金より吐出させた。紡糸口金は、ホール数が42、丸形、孔径φ0.25、6糸条/口金のものを使用した。
紡糸機は、図1に示す態様の紡糸機(直接紡糸延伸機)を用いて紡糸した。なお、加熱筒は、加熱筒長さLを50mm、単層長さL1、L2それぞれ25mmの2層の加熱筒を用い、上層の加熱筒の雰囲気温度300℃、下層の加熱筒の雰囲気温度150℃となるように温度設定した。
紡糸口金から吐出された各フィラメントを、2層の加熱筒内で雰囲気温度150〜300℃にて徐冷し、冷却開始距離LS169mm、18℃の冷風の環状冷却装置を通過させて糸条を室温まで冷却固化する。その後、口金面からの給油位置Lgを1300mmの位置で油剤付与するとともに各フィラメントを集束しマルチフィラメントを形成し、流体交絡ノズル装置で交絡を施した後、引き取りローラー速度(紡糸速度)1500m/min、熱セット長600mm、155℃に加熱した延伸ローラーを介して延伸倍率2.8倍で延伸し、巻き取りを行い、22.0dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。
得られたナイロン6マルチフィラメントについて評価した結果を表1に示す。
(レース編物の製造)
次に該マルチフィラメントを整経し28Gラッセルレース地糸のバック側の糸としてランナー長21.0cm、更に、地糸のフロント側の糸としてもランナー長100.0cm、柄糸235〜330dtexとともに製編した。つぎに生機を精練、染色、仕上げセットすることでインナー用レース編物を得た。得られたレース製品について評価した結果を表1に示す。
〔実施例2〕
上層の加熱筒の雰囲気温度300℃、下層の加熱筒の雰囲気温度を100℃となるように温度設定し、加熱筒内で雰囲気温度100〜300℃にて徐冷、引き取りローラー速度1700m/min、延伸倍率2.7倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表1に示す。
〔実施例3〕
上層の加熱筒の雰囲気温度300℃、下層の加熱筒の雰囲気温度を200℃となるように温度設定し、加熱筒内で雰囲気温度200〜300℃にて徐冷、延伸倍率3.0倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表1に示す。
〔実施例4〕
ポリアミドとして、硫酸相対粘度(ηr)が3.2、融点265℃のナイロン66チップとした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン66マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表1に示す。
〔比較例1〕
加熱筒は、加熱筒長さLを50mmの単層加熱筒を用い、雰囲気温度300℃となるように温度設定、延伸倍率3.2倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表1に示す。
単層加熱筒のため、加熱筒内での雰囲気温度が一定となり、加熱筒内の熱対流が乱れ、U%が悪化した。また、加熱筒内の雰囲気温度設定が300℃と紡糸温度に近い温度であるため、口金面から冷却までの徐冷による配向緩和が充分ではなく、15%強度が高かった。そのため、レース編物の工程通過性、品位、ソフト性に劣っていた。
〔比較例2〕
上層の加熱筒の雰囲気温度200℃、下層の加熱筒の雰囲気温度を100℃となるように温度設定し、加熱筒内で雰囲気温度100〜200℃にて徐冷、引き取りローラー速度1700m/minとした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表1に示す。
加熱筒内での雰囲気温度設定が100〜200℃と紡糸温度より90℃低い温度であるため、口金面から冷却までの徐冷による配向緩和が充分ではなく、強伸度積、15%強度が低かった。そのため、レース編物の耐久性に劣っていた。
〔比較例3〕
加熱筒を設置しないとした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表1に示す。
加熱筒を設置していないため、口金面から冷却までの徐冷による配向緩和が不足し、強伸度積、15%強度が低かった。そのため、レース編物の耐久性に劣っていた。
〔実施例5〕
給油位置Lgを800mm、延伸倍率3.0倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
〔実施例6〕
給油位置Lgを1500mm、延伸倍率2.7倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
〔比較例4〕
給油位置Lgを600mm、延伸倍率3.2倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
フィラメント温度が室温まで下がっていない状態で油剤付与を行ったため、U%が悪化した。また、口金面から給油ガイドまでの糸屈曲が大きく、給油ガイドでの擦過による影響で、強伸度積、15%強度が低かった。そのため、レース編物の工程通過性、耐久性、品位に劣っていた。
〔比較例5〕
給油位置Lgを3000mm、延伸倍率2.7倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
下降気流による糸揺れの影響が大きく、U%が悪化した。また、随伴流による影響で、紡糸張力が高くなり、紡糸配向が進んだため、15%強度、強伸度積が低かった。そのため、レース編物の品位、耐久性に劣っていた。
〔実施例7〕
引き取りローラー速度(紡糸速度)1000m/min、延伸倍率3.8倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
〔実施例8〕
引き取りローラー速度(紡糸速度)2000m/min、延伸倍率2.3倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
〔比較例6〕
引き取りローラー速度(紡糸速度)800m/min、延伸倍率4.5倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
紡糸速度が低いため、紡糸張力が低くなり、糸揺れの影響が大きく、U%が悪化した。また、加熱筒の徐冷効果が大きくなり、ポリアミド分子鎖の歪み緩和が進みすぎ15%強度が高かった。そのため、レース編物の工程通過性、品位、ソフト性に劣っていた。
〔比較例7〕
引き取りローラー速度(紡糸速度)2500m/min、延伸倍率1.9倍とした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
紡糸速度が高いため、ひずみ速度が高くなり、ひずみ速度のバラツキが増し、ドラフト延伸ムラが増大しU%が悪化した。また、加熱筒の徐冷効果が低くなり、ポリアミド分子差の歪み緩和が不十分で、15%強度、強伸度積が低かった。そのため、レース編物の品位、耐久性に劣っていた。
〔実施例9〕
径の異なる延伸ローラーを用い、熱セット長1200mmとした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
〔比較例8〕
径の異なる延伸ローラーを用い、熱セット長1800mmとした以外は実施例1と同様の方法で、22dtex、7フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、レース編物を得た。評価結果を表2に示す。
熱による繊維の結晶化が進みすぎ、15%強度が高かった。そのため、レース編物の工程通過性、ソフト性に劣っていた。
〔実施例10〕
(ポリアミドマルチフィラメントの製造)
ポリアミドとして、硫酸相対粘度(ηr)が3.3、融点225℃のナイロン6チップを水分率0.03質量%以下となるよう常法にて乾燥した。得られたナイロン6チップを紡糸温度(溶融温度)290℃にて溶融し、紡糸口金より吐出させた。紡糸口金は、ホール数が30、丸形、孔径φ0.20、6糸条/口金のものを使用した。
紡糸機は、図1に示す態様の紡糸機を用いて紡糸した。なお、加熱筒は、加熱筒長さLを50mm、単層長さL1、L2それぞれ25mmの2層の加熱筒を用い、上層の加熱筒の雰囲気温度300℃、下層の加熱筒の雰囲気温度150℃となるように温度設定した。
紡糸口金から吐出された各フィラメントを、2層の加熱筒内で雰囲気温度150〜300℃にて徐冷し、冷却開始距離LS169mm、18℃の冷風の環状冷却装置を通過させて糸条を室温まで冷却固化する。その後、口金面からの給油位置Lgを1300mmの位置で油剤付与するとともに各フィラメントを集束しマルチフィラメントを形成し、流体交絡ノズル装置で交絡を施した後、引き取りローラー速度(紡糸速度)1500m/min、熱セット長600mm、155℃に加熱した延伸ローラーを介して延伸倍率2.6倍で延伸し、巻き取りを行い、8.0dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得た。
得られたナイロン6マルチフィラメントについて評価した結果を表3に示す。
(ストッキングの製造)
次に該マルチフィラメントをカバリング糸の被服糸に用い、22デシテックスのポリウレタン弾性糸を芯糸とし、ドラフト3.0倍に設定し、撚数2400t/m(S,Z方向)でシングルカバリングして、シングルカバリグ弾性糸(SCY)を製造した。
得られたSCYを用い、靴下編機で編成した。つぎに生編を精錬、染色、120℃で30秒ファイナルセットを行い、パンティストッキング製品を得た。得られたパンティストッキング製品のレッグ部について評価した結果を表3に示す。
〔比較例9〕
加熱筒を設置しないとした以外は実施例10と同様の方法で、8dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキング製品を得た。評価結果を表3に示す。
加熱筒を設置していないため、口金面から冷却までの徐冷による配向緩和が不足し、強伸度積、15%強度が低かった。そのため、ストッキング製品の耐久性に劣っていた。
〔比較例10〕
加熱筒を設置しない、引き取りローラー速度(紡糸速度)2500m/min、延伸倍率1.5倍とした以外は実施例10と同様の方法で、8dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキング製品を得た。評価結果を表3に示す。
紡糸速度が高いため、ひずみ速度が高くなることにより、ひずみ速度のバラツキが増し、ドラフト延伸ムラが増大しU%が悪化した。また、加熱筒を設置していないため、口金面から冷却までの徐冷による歪み緩和が不足し、15%強度、強伸度積が低かった。そのため、ストッキング製品の品位、耐久性に劣っていた。
〔比較例11〕
加熱筒は、加熱筒長さLを50mmの単層加熱筒を用い、雰囲気温度300℃となるように温度設定、給油位置Lgを3000mm、引き取りローラー速度(紡糸速度)600m/min、延伸倍率4.5倍とした以外は実施例10と同様の方法で、8dtex、5フィラメントのナイロン6マルチフィラメントを得、ストッキング製品を得た。評価結果を表3に示す。
単層加熱筒のため加熱筒内での雰囲気温度分布が一定となり加熱筒内の熱対流が乱れ、更には、給油位置が低い(口金から給油までの距離が長い)ことや紡糸速度が低いため糸揺れの影響が大きくU%が悪化した。また、紡糸速度が低いことで、加熱筒の徐冷効果が大きくなり、ポリアミド分子鎖の歪み緩和が進みすぎ、更には熱セット長大による繊維の結晶化が進みすぎ、15%強度が高かった。そのため、ストッキング製品の工程通過性、品位、ソフト性に劣っていた。
1:紡糸口金
2:気体噴出装置
3:加熱筒
4:冷却装置
5:給油装置
6:流体交絡ノズル装置
7:引き取りローラー
8:延伸ローラー
9:巻取装置
L:多層加熱筒長さ
L1:多層加熱筒の単層長さ
LS:冷却開始距離
Lg:給油位置

Claims (5)

  1. 総繊度4.0〜33.0dtex、単糸繊度1.3〜3.4dtex、15%伸長時の引張強度が4.0〜6.0cN/dtex、強伸度積が10.0以上、糸斑(U%)が1.2以下であることを特徴とするポリアミドマルチフィラメント。
  2. 伸度が30〜50%であることを特徴とする請求項1載のポリアミドマルチフィラメント。
  3. 結晶量と剛直非晶量の和が70〜90%であることを特徴とする請求項1または2に記載のポリアミドマルチフィラメント。
  4. 請求項1〜のいずれか1項に記載のポリアミドマルチフィラメントをレース地糸に使用したレース編物。
  5. 請求項1〜のいずれか1項に記載のポリアミドマルチフィラメントをカバリング被覆糸として使用し、そのカバリング糸を一部に使用したストッキング。
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