しかしながら、特許文献1の背もたれ構造では、低剛性の背受部はフレームの役目を果たしている高剛性の側枠部と上端及び下端で繋がっているため、低剛性の背受部の中間部のみが着座者の前後方向への動き(本明細書においては、椅子の前後方向を向く軸(Y−Y)に沿った変形を指し、前後方向の撓みとも呼ぶ。)に追従することはできるが、背もたれ上部及び下部は椅子の左右方向を向く軸(X−X)周りの着座者の動き即ち回転(本明細書においては、前後方向の回転あるいは捩れと呼ぶ。)を吸収することはできない。また、椅子の上下方向を向く軸(Z−Z)周りの着座者の動き即ち回転(本明細書においては、左右方向の回転あるいは捩れと呼ぶ。)も吸収することはできない。
したがって、背もたれの一部が前後に動く構造ではあるが、それほど自由に動けるものではなく、姿勢に追従する柔軟な背もたれとは言えない。例えば、着座した状態で、着座者の力(体重等)で背板を変形させること即ち左右方向や前後方向の回転をさせることは難しい。また、人の体は複雑に動くため、それに機構だけで追従させるには難しく、かといって素材だけでも難しい。さらに、柔らかい背もたれの場合、動きすぎるため適切な位置で止められず、姿勢を維持できない問題を有する。
また、合成樹脂製シェルに肉抜き孔やスリットを数多く入れる、あるいは合成樹脂を薄くするなどにより、大きく撓ませることを可能とする背もたれ構造の場合、大きく撓ませる場合には耐久性の低下が伴う問題を有する。したがって、耐久性を重要視すれば、厚みを薄くしたりスリットを多く入れることができないため、撓み変形に限界が生ずる。即ち、耐久性を強くするため、樹脂シェル自体に剛性をもたせたものでは樹脂の撓み量は少なくなり、着座者を包み込むような撓み量を得ることができなくなる問題がある。このことから、十分な耐久性を要求される椅子等の身体支持構造物に適用する場合、特許文献1記載のシェル撓み構造では、背や座の変形が不十分なものとなり、フィット性に満足感が得られないという問題を有している。
本発明は、2軸方向以上における着座者の動きあるいは体形に追従することができる椅子の背もたれを提供することを目的とする。
かかる目的を達成するために請求項1記載の発明にかかる椅子の背もたれは、弾性変形可能な背板と該背板を支持する剛性のある背支持フレームとで構成され、かつ背板が上下方向における中央部附近の左右両側部に連結部を各々一箇所ずつ有すると共に全体として背凭れ面の曲線長を可変とする要素並びに椅子の上下方向を向く軸周りの回転あるいは捩れを起こさせる捩れ要素を備え、背板と背支持フレームとが連結部においてのみ連結され、背板が背支持フレームに対して浮かされて支持されると共に背板の動きが連結部においてのみ拘束され、背板が連結部を中心に椅子の左右方向を向く軸周りに回転可能であり、かつ前後方向に弾性変形可能とされている。
また、請求項3記載の発明は、椅子の背もたれであって、弾性変形可能な背板と該背板を支持する剛性のある背支持フレームとで構成され、背板は上下方向における中央部附近の左右両側部に連結部を各々一箇所ずつ有すると共に全体として背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備え、背板と背支持フレームとは連結部においてのみ連結され、背板は背支持フレームに対して浮かされて支持されると共に背板の動きが連結部においてのみ拘束され、背板は、連結部を中心に椅子の左右方向を向く軸周りに回転可能であり、かつ前後方向に弾性変形可能であって、背支持フレームには、背板の最大撓み位置を規制する撓み規制部材を備え、通常時には背板が撓み規制部材に触れないが、強い力が作用し背板が大きく変位したときには撓み規制部材と接して背板の撓みを規制するようにしている。
また、請求項2記載の発明にかかる椅子の背もたれは、捩れ要素が、背板の上部において左右方向の中央部に設けられているスリットであることを特徴とする。
また、請求項3記載の発明にかかる椅子の背もたれは、捩れ要素が、背板の上部において左右方向の中央部に設けられている筋状の芯部であり、該芯部は背板の上部の肉厚よりも厚いことを特徴とする。
また、請求項4記載の発明にかかる椅子の背もたれは、捩れ要素が、背板の上辺を除く3辺を囲むU形フレームとその内側に張られているメッシュ地とで構成されていることを特徴とする。
また、請求項6記載の発明にかかる椅子の背もたれは、撓み規制部材が背支持フレームの一部を兼ね、背板の上部または下部の少なくともいずれか一方もしくは双方を支持するようにしていることを特徴とする。
また、請求項7記載の発明は、椅子の背もたれであって、弾性変形可能な背板と該背板を支持する剛性のある背支持フレームとで構成され、背板は上下方向における中央部附近の左右両側部に連結部を各々一箇所ずつ有すると共に全体として背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備え、背板と背支持フレームとは連結部においてのみ連結され、背板は背支持フレームに対して浮かされて支持されると共に背板の動きが連結部においてのみ拘束され、背板は、連結部を中心に椅子の左右方向を向く軸周りに回転可能であり、かつ前後方向に弾性変形可能であって、背凭れ面の曲線長を可変とする要素は、連結部が背板から斜め上方向外側または斜め下方向外側へ向けて延びる腕であって、背板と連結部との境界附近に連結部と背板との間にスリットまたは切り欠きが形成されることによって構成されるものであることを特徴とする。
また、請求項8記載の発明にかかる椅子の背もたれは、連結部が、背板との境界部附近において背支持フレームに拘束される部位よりも幅が狭く括れた括れ部を有するものであることを特徴とする。
また、請求項9記載の発明にかかる椅子の背凭れは、背板の少なくとも前方にはクッション材が配され、背板とクッション材は表皮部材によってくるまれているものである。
さらに、請求項10記載の発明は、椅子がロッキング可能な椅子であることを特徴とする。
請求項1記載の椅子の背もたれは、弾性変形可能で且つ全体として背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備える背板とこの背板よりも剛体である背支持フレームとを、背板の上下方向における中央部附近の連結部で連結して、背支持フレームに背板を左右両側の2点の連結部でのみ拘束するようにしているので、左右の連結部での前後方向の回転あるいは捩れ並びに前後方向の撓みあるいは変形と相俟って、柔軟性に富む背板が着座者の身体に沿って容易に弾性変形するので、背もたれのフィット感を向上させることができる。つまり、剛性の高い背支持フレーム自体は強く変形し難いが、これに対し浮かして支持される背板自体の可撓性で背板の動きの自由度が高く、柔らかいため、着座した状態で着座者の力(体重等)により背板を変形させることを可能にするので、着座者の体形に沿った形状に変形させて座り心地を向上させ得る。しかも、背板の前後方向の回転(捩れ)及び前後方向への撓みにより、背板の傾きを大きく変更し、それらの間の背板が湾曲により変形するため、背板の身体と接する面を深くて大きな曲率の曲面に変形させることができる。したがって、着座者の上部及び下部の動き、前後方向への動きを吸収することが可能な椅子の背もたれ構造を提供することができる。
さらに、本発明の背もたれによれば、背板と背支持フレームとを2点で連結して拘束するという簡単な機構であるため、製造並びに組み立てが容易であると共に構造が嵩張らず、小型化、コストダウンを可能とする。
また、椅子の上下方向を向く軸周りの回転あるいは捩れを起こさせる捩れ要素を設けることにより、背板の上部が左右に分かれて相互に独立した前後動を可能にすると共に椅子の上下方向を向く軸周りの左右方向の回転即ち背もたれの捩れを可能とする。このため、背凭れは、さらなる複雑な体の動きに追従できる。したがって、着座者の上部及び下部の動き、前後方向への動きのみならず、着座者の左右方向への動きを吸収することが可能な椅子の背もたれ構造を提供することができる。
また、請求項5記載の発明によれば、柔軟性に富む背板が背板の最大撓み位置を規制する撓み規制部材に対して浮かして支持されているので、通常は背板が撓み規制部材に接触せずに背板の動きの自由が保証される一方、背板に強く大きな力がかかって背板が大きく変位したときには背板が撓み規制部材に触れて背板にかかる荷重が撓み規制部材によって支えられることによって、必要な支持強度を達成することができると共に背板の支持に安定感が与えられる。つまり、着座者に追随した撓み量を有する支持構造でありながら、最大撓み位置においては背板と撓み規制部材とが協働して着座者を受け支えるため、剛性をも兼ね備えることから、柔軟な背板の強度面での弱点をカバーできる。
しかも、撓み規制部材による背板の支えが背板の撓み量の増加に従って広がり広域的なものとなるので、最大撓み位置における支持剛性の変化に不連続性を与えることがなく、違和感を与えることが少ない。その上に、背板の左右両側の連結部での前後方向の回転運動(捻れ)により背板全体を大きく撓ませることを可能とする構造であるため、大きく撓ませる構造とするためにスリットを数多く入れる、あるいは合成樹脂を薄くするなどの構造を採る必要が無く、背板自体の耐久性の低下を伴うことがない。
また、請求項2記載の発明によれば、背板の上部において左右方向の中央部にスリットを設けるだけで、捩れ要素を簡単に構成することができる。そして、この場合、背板の上部がスリットを境に左右に分かれて相互に独立した前後動を可能にすると共に椅子の上下方向を向く軸周りの左右方向の回転即ち背もたれの捩れを可能とする。
また、請求項3記載の発明によっても、簡単に捩れ要素を構成でき、スリットを設ける場合と同様の左右方向の回転即ち背もたれの捩れを可能とする。
また、請求項4記載の発明によれば、背板の上辺を除く3辺を囲むU形フレームとその内側に張られているメッシュ地とで捩れ要素が構成されているので、背板の左右方向の捩れ量や前後方向の撓み量をさらに増大させ得る。
また、請求項6記載の発明によれば、背板を左右の2点で支持する背支持フレームの一部で撓み規制部材を構成するという簡単な機構であるため、製造並びに組み立てが容易であると共に構造が嵩張らず、小型化、コストダウンを可能とする。しかも、柔軟性に富む背板の弾性変形により着座者の身体を包み込むことができるので、背もたれとしての安定感、フィット感を向上させることができる。
また、請求項7記載の発明によれば、背凭れ面の曲線長を可変とする要素は、連結部が背板から斜め上方向外側または斜め下方向外側へ向けて延びる腕であって、背板と連結部との境界附近に連結部と背板との間にスリットまたは切り欠きが形成されることによって構成されるものであるので、背板を板状の形態とすることができるため、特殊な成形機などを用いなくとも単純な打ち抜き加工などで容易に製造できる。
また、請求項8記載の発明によれば、連結部は、背板との境界部附近において背支持フレームに拘束される部位よりも幅が狭く括れた括れ部を有するので、背板の前後方向の回転・捩れ並びに前後方向への撓みが括れ部で起きやすくなる。
また、請求項9記載の発明によれば、前記背板の少なくとも前方にはクッション材が配され、前記背板と前記クッション材は表皮部材によってくるまれているものであるので、背板の弾性変形にクッションの弾力性が加味され、さらに着座者の動きあるいは体形に追従し易くなる。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。尚、本明細書において、上下(高さ)、前後(奥行き)、左右(幅)の各方向は特に断りがない限り、椅子に着座した着座者を基準に定め、互いに直交する奥行き方向(Y軸)、幅方向(X軸)並びに高さ方向(Z軸)の3軸方向は座面をXY平面とすることを基準に定め、奥行き方向は椅子の前後方向と一致するものとして定義されている(図1参照)。
図1〜図6に、本発明の椅子の背もたれを回転脚椅子に適用した一実施形態を示す。本実施形態にかかる回転脚椅子は、座1と、背もたれ4と、これらを支える座受け金具3並びにキャスター付き脚2とを備える。そして、背もたれ4は、弾性変形可能な背板5と該背板5を支持する剛性のある背支持フレーム6とで構成され、かつ背板5が上下方向における中央部附近の左右両側部に連結部7を各々一箇所ずつ有すると共に全体として背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備え、背板5と背支持フレーム6とが連結部7においてのみ連結されて背板5が背支持フレーム6に対して浮かされて支持されると共に背板5の動きが連結部7においてのみ拘束される構造とされている。尚、本実施形態の椅子は、特にロッキング機構について言及していないが、ロッキング機構付き椅子でも固定椅子でも実施可能であることは言うまでもない。
本実施形態において背もたれ4は、弾性変形する素材あるいは構造によって形成される弾性変形可能な背板5と、剛性のある背支持フレーム6と、背板5をくるむクッション材(図示省略)及び上張地9とによって構成されている。背板5と背支持フレーム6とは、背板5の上下(高さ)方向の中央部附近の連結部7を介して背支持フレーム6に対して各々一箇所で連結され、背支持フレーム6に対して連結される連結部7を除いて背板5が浮かされるように支持されている。つまり、背板5は、連結部7においてのみ背支持フレーム6と連結され、背板5の動きが連結部7においてのみ拘束される。
本実施形態の場合、背板5と連結部7とは合成樹脂によって一体成形された合成樹脂製シェルとして構成されている。そして、連結部7は背板5の両側の上下方向の中央部付近で斜め上方向外側へ向けて突出するように延びる腕のように形成されることによって(図6参照)、背支持フレーム6に対する背板5の左右の連結点(背板取付部16)の間の間隔を変更せずに左右の連結点間の背凭れ面の曲線長を可変とする要素を構成するようにしている。即ち、背板5が全体として備える背凭れ面の曲線長を可変とする要素は、図3及び図6に示すように、背板5から斜め上方向外側へ向けて延びる腕のような連結部7によって構成されている。尚、本実施形態における連結部7は、背板5の内側に向けて抉るように切り込まれた切り込み12,13によって括れ部8が形成されると共に応力集中を回避するためのRが背板5との境界の基部に採られ、スリットを背板5との間に形成するのと同様の機能を切り込み12,13に発揮させるように設けられていることが好ましい。この場合、左右方向に突出する連結部7と背板5との境界の括れ部8を中心に背板5が前後方向に回転し易くなる。また、連結部7は、撓み易く、応力も分散して壊れにくくなる形状であれば良く、必ずしも図示の形状に限られるものでもない。また、連結部7と背板5との境界附近は、撓み易く、応力も分散して壊れにくくなる湾曲面を隣接した括れ部8を有していることが好ましいが、必ずしもこのような形状に限られるものでもない。例えば、図7の(D)に示すようなRを有さない形態でも良い。さらには、連結部7は、本実施形態並びに図7(A)に示すように、背板5の上下方向の中央部附近において斜め上方外側へ突出しても良いが、場合によっては図7(B)に示すように斜め下方外側へ突出させても良い。
本実施形態においては、連結部7と背板5とは、平面(二次元)的に連続的に成形する構成とするために、図6や図7などに例示する形状・構造とされているが、三次元的に形成される場合には背板5の背部に連結部7が隠れて正面からは連結部7が見えない形状・構造とされることもある。尚、本実施形態では、背板5と連結部7とは同一材料で一体成形されているが、これに特に限られるものではなく、場合によっては別体で成形された背板5と連結部7とを接着剤や高周波溶着、ボルト・ナットやビスなどの締結具で一体化しても良い。また、背板5や連結部7の材質には伸縮性は必要なく撓み性があれば良いことから、本実施形態のようなナイロン樹脂やポリプロピレン樹脂のような可撓性に富む合成樹脂によって構成される場合に限られず、ばね鋼のような反復可撓性があれば金属などでも実施可能である。
ここで、背板5を構成する合成樹脂製シェルは、板材を加工したものであって、例えば図3〜図6に示すように、椅子の前後方向と平行な鉛直面内では着座者の腰部付近を支える部分(背支点)で最も前方へ突出するように全体に椅子の前方へ向けて突出すると共に背支点よりも上方と背支点よりも下方では傾きが逆方向となるように「く」の字形に湾曲し、かつ水平面内では内側に向かうほど椅子の後方へ向けて突出するように(後方に凹むように)湾曲している双曲放物面(鞍形)の三次元形状に成形されている。本実施形態の場合、背板5は、例えばナイロン樹脂、ポリプロピレン樹脂のような可撓性に富む合成樹脂を素材とした射出成形法によって所定の荷重により適当な大きさの弾性変形量を得る薄板構造(形状・厚さ)に成形されている。
本実施形態の場合、背板5は、図3〜6及び図7(A),(B),(E)に示すように、その上部例えば背支点よりも上方において、右側の支持領域14と左側の支持領域15との2領域にスリット11を挟んで分離されている。このスリット11の設定により、背板5の上方において、右側の支持領域14と左側の支持領域15とにおいて互いに独立してそれぞれ椅子の上下方向を向く軸周りに回転し(捩れ)易くなるように設けられている。
また、背板5は、合成樹脂製シェルのような単一の部材に構成される場合ばかりではなく、複数の部材によって構成されても良い。例えば、図7(D)に示すように、背もたれ面を構成する可撓性に富むメッシュ地20と、該メッシュ地20の左右両側縁部及び下底縁部を支持するU形のフレーム21とで構成されることもある。この場合、メッシュ地20で身体支持面の前後方向の動き(撓み)を可能とし、U形フレーム21の左右の縱辺21aの相互に独立した前後動で左右方向の回転即ち背もたれの捩れを可能とする。勿論、連結部7での水平軸(X−X軸)周りの回転、即ち捻りによっても鉛直面内での前後方向の回転も可能である。このメッシュ式背板5の場合には、着座者の身体が当たる部分がメッシュ生地20であるため大きな曲率で変形させることができる。
また、背板5の一部の肉厚を相対的に薄くして撓み易くする一方、一部の肉厚を相対的に厚くして撓み難くすることにより、背板5の左右の領域を互いに独立して前後方向に変形可能として左右方向の回転即ち背もたれの捩れを可能としても良い。例えば、図7(C)に示すように、背板5の上部(連結部7の基部よりも上)の肉厚を下部の肉厚よりも薄く形成すると共にその中央部分に筋状芯部22となる厚肉部分を残し、筋状深部22で分断された左右の上部背板部分を左右に撓み易くするようにしても良い。あるいは、図示していないが、背板5の全体の肉厚は均一であり、背板5の上部の中央部分の筋状芯部の肉厚を周囲の肉厚よりも厚肉とすることにより、筋状深部22で分断された左右の上部背板部分を左右に撓み易くするようにしても良い。いずれの場合にも、筋状芯部22は先端(背板5の上端)に向かう程に先細りとなった三角形状を成すように設けて撓み易くすることが好ましい。
さらに、背板5は、図7(E)に示すように、背板5の全域においてあるいは一部において縱方向のスリット23を入れて、全体的にあるいは部分的に水平面内において撓み易くする、即ち前後方向に撓み易くすることも可能である。複数のスリット23を設けることにより、当該スリットを含めたその近傍において背板5の弾力性能(単位荷重に対する撓み量)が大きくなって柔らかくなり、着座者が背中に受ける圧迫感を緩和してクッション性能の高い背もたれとすることができる。この場合においても、背板5の上半分の中央部には背板5の上半分を左右に分離するスリット11が設けられ、右側の支持領域14と左側の支持領域15となるように設けられている。中央部のスリット11は、上端が開口され、背板5の右上半分と左上半分とが互いに独立して前後方向に撓みうるように設けられている。そして、背板5の右半分と左半分において、背板5の上部と下部とに跨がって複数本のスリット23が入れられている。このスリット23は、上端も下端も閉ざされたものであり、右半分と左半分とが1つの塊となって撓むように設けられている。
また、背板5を取り付ける背支持フレーム6の背板取付部16は、本実施形態の場合、背板5の連結部7を嵌合するスリット17によって構成されている。スリット17は、背支持フレーム6の内側の面に、溝加工によって背板取付部16の上下方向に向けて開口するように開けられている。そして、背板5の連結部7の端はスリット17に嵌合させられた状態で接着剤(図示省略)などで固着されたり、あるいは締結用ビス(図示省略)を貫通させて締結されたりすることで、背支持フレーム6に固定されている。
背支持フレーム6は、背板5の左右の連結部7を固定する背板連結部16を少なくとも備えるものである。したがって、背支持フレーム6の形状は、図1に示す台形を背中合わせに組み合わせたような枠形状(変則的な八角形)に限られず、図8に示すように様々な形態を示すものでも実施可能である。例えば図8(A)に示すようなY形の背支持フレーム、図8(B)に示すようなT形の背支持フレーム、図8(C)に示すような矩形の枠形の背支持フレーム、さらには図8(D)に示すような略六角形状の背支持フレームなど、様々な形態の採用が可能である。
また、本実施形態における椅子の背もたれは、最適な柔らかさと安定感並びに強度を両立させることが望まれる。そこで、背板5の背後には、背板5の最大撓み位置を規制する撓み規制部材10が備えられている。撓み規制部材10は、弾性変形する背板5の最大撓み位置を規制して身体支持構造物としての機能を十分に発揮できるものであれば、特定の材質や構造に特に限られるものではないが、例えば背板5よりも剛性の高い素材や構造であることが好ましく、例えば背支持フレーム6の一部で構成することが好ましい。そこで、本実施形態の場合、図3及び図4に示すように、環状の枠形を成す背支持フレーム6の上下の横桁部分(6a,6b)が撓み規制部材10を兼ねるようにしている。このとき、背板5は、図5に示すように、側面視「く」の字形の背支持フレーム6の前方に突出した背板取付部16に対して連結部7が固定され、上下の横桁部分6a,6b(即ち撓み規制部材10)が背板5から離れた後方に位置するように配置されており、背板5の上下・左右・前後方向において背支持フレーム6から浮いた状態に支持されている。
本実施形態の撓み規制部材10は、背板5が撓んで当接したときに下支えすることにより、シェル単独の場合よりも剛性を高めて撓み難くあるいはそれ以上に撓まなくするように機能するためのものである。撓み規制部材10は、背板5よりも剛性を有する材料例えばガラス繊維マットを含浸させたガラス強化合成樹脂(FRP)やその他の剛性に優れる合成樹脂などで形成されることが好ましく、背板5との間に一定の間隔を開けて背板5の背面側に配置されるように背支持フレーム6に設けられている。この撓み規制部材10は、必ずしも背板5の上部と下部の双方を支える必要はなく、場合によっては背板5の上部のみあるいは下部のみを支えるようにしても良い。さらに、撓み規制部材10は、背支持フレーム6と一体に成形しなければならない理由はなく、別体に成形したものを背支持フレーム6に取り付けるようにしても良いし、場合によっては背支持フレーム6とは別個に座受け部材に直接に取付るようにしても良い。
背板5を支持する背支持フレーム6は、背支桿としても機能するものである。そこで、本実施形態では、背板5を支持する部分は、図3〜図5に示すように、左右一対の縦桿19とこれら縦桿19の上下を互いに連結する2本の横桁部分6a,6bとでほぼ井桁状に構成されている。そして、座受け部材3に取り付けられる背支桿18部分が座受け部材3に沿った形状とされた前方に折り曲げられている。
以上のように構成された本実施形態の背もたれ4によると、着座者が背板5に凭れかかることにより、左右の連結部7を中心に背板5が前後方向に回転しあるいは撓んで背板5が背中に密着するように弾性変形する。このため、背板5で着座者の身体を包み込むような状態となり、その結果、高いフィット性を確保できる。したがって、背板5の広い面積で着座者の体重を受け支えるので、体重が分散されて身体の特定の部分が強く圧迫されることを防止又は著しく低減して、身体を快適な状態に支持することができ、凭れ心地を良くする。また、背板5にクッション材例えばウレタンフォーム等を張っていなくとも、あるいはクッション材の厚さが薄くとも、背板5が大きく撓むことでクッションとしての変形量が大となり、着席者は背凭れ面を柔らかく感じる。そして、着座者が背もたれ4から体を離すと、背板5は自身の弾性復元力により原位置・元姿勢に復帰する。
また、背板5の上部ではスリット11を挟んで左右の支持領域14,15が互いに独立して前後方向に撓みあるいは左右方向に回転する(捩れる)ため、背もたれ4に対して偏って凭れかかるときには、荷重分布に応じて左右の支持領域14,15の左右方向への回転角度あるいは前後方向への撓みに相違が生じる。即ち、背板5は着座者の凭れかかる姿勢に応じて左右の回転角度を異ならせて、左右非対称な形状に湾曲する(捩れる)ことから、着座者の身体に的確にフィットする。
このとき、着座者が勢いよく凭れ掛からない限りあるいは強く背中を押しつけない限り、背板5は撓み規制部材10に当接することの無い範囲で変位し、背板5の動きの自由を保証する。そして、着座者によって背板5に強く力が加えられたとき、背板5が大きく変位して背板が撓み規制部材10に当接すると、背板5そのものの弾性変形が撓み規制部材10によって妨げられるので、それ以上の撓み変形が防がれる。このため、最大撓み位置においては背板5と撓み規制部材10とが協働して着座者を受け支えるため、背板5の撓みが抑制されて剛性が高まり安定感が高まると共に体重を安全に受支えうる。つまり、背凭れ4としての剛性は、背板5の剛性に加えて撓み規制部材10の剛性が加わったものとなる。他方、撓み易さは、背板5が撓み規制部材10に当接して一体的に身体に作用するまでは、背板5そのものの可撓性のみならず、連結部7での背板5の両端の支持に起こる回転変位に起因するものであり、背板5としての剛性に左右されないものである。つまり、座った状態の着座者の力(体重等)で背板5を自由に変形させることが可能となると共に背もたれ4としての限界強度・安全強度は確保される。
このように、背もたれ4としての剛性を大きく損なうことなく、背板5の撓み量を大きくできるので、クッション9の厚さを薄くしても、背もたれ4の全体が体重に応じて適当な量だけ変形できるため、着座者の体に全体がフィットするような柔らかな感じを与えることができ、その結果、快適なクッション性能を与えることができる。したがって、適度のクッション性能を与えることができ、長時間快適な凭れ心地を与えることができる。
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では、剛性の高い合成樹脂製あるいは金属製の背支持フレーム6を採用し、その一部を撓み規制部材10として利用する例を挙げて主に説明したが、これに特に限られるものではなく、場合によっては背支持フレーム6とは別体の剛体の撓み規制部材あるいは左右方向に張り渡されたベルト(バンド・紐・革・帯などを含む。図示省略)のような非剛体の支持部材であっても良く、なかでもバックルによってベルトの長さを調整することにより背板の撓み量即ち最大撓み位置を調節可能とする調整ベルト方式としても良い。この場合、背板の最大撓み位置を変更可能とすることによって背もたれとしての剛性を調整することができる。ここで、調整方式としては、ベルト孔式のものの他、バックルの締め付けによって固定する位置を調整する摩擦式のようなものでも良く、特定の固定方法に限定されるものではない。
また、背支持フレーム6の具体的な構造・形態や、背板5の取付け構造は必要に応じて任意に変更できる。例えば、本発明の背もたれは、椅子全般に適用可能であり、特にオフィス等で使用される回転脚椅子への適用、中でもロッキング椅子への適用において好ましいが、固定椅子であると、回転椅子であるとを問わないし、ロッキング椅子にも非ロッキング椅子にも適用することができることは言うまでもない。さらに、簡易なパイプ脚フレームによって支持される固定椅子にも適用できることは言うまでも無い。この場合には、脚体の一部をなす左右1対の脚フレームに、背板5と撓み規制部材10とを備え、座面後端から立ち上がるように延びる背凭れ背支持フレーム6に上記実施形態と同様の構成の背板5と撓み規制部材10とを取付ければよい。
さらに、上述の実施形態において、背板5は、軟質発泡ウレタン等の軟質発泡樹脂製の薄いクッション(図示省略)を表面に張り、さらにクッションの表面を布製の上張地9で覆う構造としているが、これに特に限られるものではなく、場合によってはクッションを省いて上張地9だけで覆われる構造としたり、あるいは背板を剥き出しにしたシェル単体(ヌードとも呼ばれる)で用いられることもある。
さらに、上述の実施形態において、背凭れ面の曲線長を可変とする要素は、連結部7を斜め方向外側へ上または下へ向けて突出するように延びる腕のように形成することによって構成するようにしているが、連結部7そのものが背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備える必要はなく、背板5が全体として背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備えていれば足りる。例えば、連結部7が背板5に対して真横に突出していて連結部7と背板とが直線的に連結された場合であっても、背板5が弾性的に伸びるもの(例:背板5の一部がメッシュの場合(図7(D))や、背板5にスリット23が入っているもの(図7(E)等)である場合には、背板5が全体としては変形可能である。また、連結部7そのものが背凭れ面の曲線長を可変とする要素を備える場合においても、連結部7を斜めに延びる腕のように形成する上述の実施形態に特に限られるものではなく、例えば図示していないが連結部7そのものが蛇腹状の可撓性領域を有する場合であったり、場合によってはスライダや伸縮可能なバネなどで構成するようにしても良い。例えば、背板5から真横に延びる連結部に水平方向の長孔(図示省略)を設けて、該長孔を貫通するビスやリベットなどで背支持フレーム6の背板連結部16に取り付け、連結部が背支持フレームに対して前後方向・左右方向に摺動可能にしても良い。