JP6677245B2 - ガラス容器の製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、ガラス容器の製造方法、詳しくは有底ガラス容器、特に医療用ガラス容器、例えばバイアルの製造方法に関する。
例えば医療用バイアルのような医療用ガラス容器は、化学的耐久性に優れたホウケイ酸ガラス管から製造されている。ホウケイ酸ガラス管を加熱して成形することによって、バイアルの口部及び底部が形成される。ホウケイ酸ガラス管は、成形するために加熱すると、それに含まれているアルカリ成分が揮発し、揮発したアルカリ成分は、バイアルの内表面に凝縮して付着する。そのようにアルカリ成分が付着した領域は加工劣化領域と呼ばれている。このような加工劣化領域のアルカリ成分は、バイアルに保存される液体中に溶出して液体に悪影響を与える可能性がある。そこで、ISO4802−1および2(医薬ガラス容器の内表面の耐加水分解性(Glassware:Hydrolytic resistance of the interior
surfaces of glass containers))には、ガラス容器の内表面からのアルカリ成分の溶出量の基準が定められている。
ガラス容器の内表面からアルカリ成分の溶出を減らす方法として、ホウケイ酸ガラス管から形成されたガラス容器を回転させながら、その内表面をポイントバーナーの酸素−ガス炎でファイアブラスト処理して加工劣化領域を除去することが知られている(下記特許文献1および2参照)。
国際公開第2006/123621号公報 特開2010−269973号公報
ガラス容器の製造方法において、加工劣化領域を除去するにあたってファイアブラスト処理を効率的に実施することが肝要である。そこで、本発明が解決しようとする課題は、効率的にファイアブラスト処理を実施する手法を提供することである。
発明者らの検討によれば、ガラス容器の製造方法において、予備成形体の内表面をファイアブラスト処理することによって加工劣化領域を除去して、得られるガラス容器の内表面からのアルカリ溶出量を低減するに際して、ファイアブラスト処理時において、加工劣化領域に対応する予備成形体の外表面の温度が650℃〜800℃である場合にファイアブラスト処理が適切に行われることを見出した。
従って、本発明は、1つの要旨において、ガラス容器の予備形成体の内表面をバーナーからの炎によってファイアブラスト処理してガラス容器を製造する、ガラス容器の製造方法を提供し、
この製造方法において、ファイアブラスト処理は、予備成形体の内表面に対して予備成形体の開口部に向かって該炎を走査するに際して、加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分の温度が650℃〜800℃となるように実施することを特徴とする。
上述の本発明は、換言すれば、ガラス製品の製造に際して、バーナーの炎を予備成形体の内表面に当ててファイアブラスト処理する方法に存し、このファイアブラスト処理方法は、加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分の温度が650℃〜800℃となるように実施することを特徴とする。
また、本発明は、別の要旨において、ガラス容器の予備形成体の内表面をバーナーからの炎によってファイアブラスト処理してガラス容器を製造する、ガラス容器の製造方法を提供し、
この製造方法において、ファイアブラスト処理は、予備成形体の外形基準で予備成形体の底部からその全長の8〜16%の高さに位置する帯状領域である内表面部分に対して、予備成形体の開口部に向かって該炎を走査して実施することを特徴とする。
また、上述の本発明は、換言すれば、ガラス製品の製造に際して、バーナーの炎を予備成形体の内表面に当ててファイアブラスト処理する方法に存し、このファイアブラスト処理方法は、予備成形体の外形基準で予備成形体の底部からその全長の8〜16%の高さに位置する帯状領域である内表面部分に対して、予備成形体の開口部に向かって該炎を走査して実施することを特徴とする。
上述の本発明は、更に換言すれば、予備成形体をファイアブラスト処理することによってガラス容器を製造することによってガラス容器からのアルカリ溶出量を低減する方法を提供し、このアルカリ溶出量の低減方法は、上述および後述のファイアブラスト処理すべき予備成形体の箇所および/またはその時の予備成形体の外表面部分の温度を特定の範囲とすることを特徴とし、それによって、ガラス容器のアルカリ溶出量の低減を効率的に実施できる。
本明細書において、「ガラス容器」とは、本発明の方法において、ファイアブラスト処理した後の状態にある容器を意味し、「ガラス容器の予備形成体」とは、ファイアブラスト処理する前の状態にある、従って、内表面の少なくとも一部分に加工劣化領域を有する容器を意味する。
このようなガラス容器の予備成形体は、ホウケイ酸ガラス管から常套の方法(例えば縦型成形機を用いてガラス管を加熱して軟化させて成形する方法)で製造され、通常、一方の端部に閉じられた底部を有し、他方の端部に開口した口部を有する、いわゆる有底容器であってよい。そのような予備成形体をファイアブラスト処理(FB処理とも呼ぶ)することによってガラス容器を得る。このようなガラス容器またはその前駆部材としての予備成形体は、1つの態様では、軸を有する、全体として円筒状(即ち、軸を有し、軸に垂直な方向の断面が円形である形態)の容器であるが、このような形態の容器に限定されるものではない。必要に応じて、他の形態であってもよく、例えば角筒(例えば四角筒、三角筒)状の形態であってもよく、別の態様では、軸方向の長さが径に比べて短い形態(例えば低い円筒状形態)であってよい。尚、このようなガラス容器または予備成形体は、いわゆるバイアル、アンプル等の形態であってよく、軸方向に垂直な断面形状が、軸方向に沿って変化してもよく、例えばくびれ状部分等を有してもよい。
尚、ファイアブラスト処理は、ガラス容器からのアルカリ溶出量を低減するために、酸素ガス存在下で低級炭化水素ガス(例えば都市ガス、プロパン、ブタン、天然ガス等)のような可燃性ガスを燃焼して生じる炎(燃焼の結果、ハイドロニウムイオンに富む)をバーナーから加工劣化領域に向かって噴射することによって加工劣化領域に付着したアルカリ成分を低減・除去する処理である。1つの態様では、当該炎はポイントバーナーから噴出し、予備成形体をその軸方向の回りで回転させながら、炎を内表面に当てながら予備成形体の底部(またはその少し開口部側にシフトした箇所)から開口部に向かって予備成形体の側面部の内表面上を移動し、その結果、成形体の内表面をスキャンする。
本発明によれば、加工劣化領域が存在する、予備成形体の内表面部分に対向する外表面部分の温度が上述および後述の特定の範囲となるようにファイアブラスト処理することによって、そのような範囲以外の温度となるように実施した場合と比較して、製造されるガラス容器からのアルカリ溶出量が抑制されるので、ファイアブラスト処理の効果を大きくできる。また、予備成形体の内表面の上述および後述の特定の部分に対してファイアブラスト処理することによってアルカリ溶出量を十分に低減でき、予備成形物の内表面全体に対してファイアブラスト処理する必要は必ずしも無い。例えばガラス容器の用途によっては、内表面の少なくとも一部分の処理でよく、必ずしも全体を処理する必要はない。勿論、内表面の実質的に全体にわたって、例えば、1つの態様では、底部とその周囲から開口部に向かって、予備成形体の全長にわたって処理してよい。この態様において、底部の一部または全部の処理を省略してよい。
更に、上述および後述の予備成形体の特定の範囲の内表面部分に対向する外表面部分が上述および後述の特定の温度範囲となるようにファイアブラストすることによって、ファイアブラスト処理を一層効果的に実施できる。
図1は、ファイアブラスト処理時の予備成形体の外表面部分の温度とアルカリ溶出量の割合との関係を示すグラフである。 図2は、本発明のガラス容器の製造方法においてファイアブラスト処理する工程を模式的に示す。 図3は、本発明のガラス容器の製造方法においてファイアブラスト処理する工程において予備成形体をローラ対で支持しながら回転し、また、その時に予備成形体の外表面部分の温度を測定する様子を模式的に示す。
以下、本発明のガラス容器の製造方法を例として、本発明を更に詳細に説明するが、下記の事項は、本発明のファイアブラスト処理方法およびガラス容器からのアルカリ溶出量を低減する方法ならびに後述の他の方法にも同様に当て嵌まる。
下記にて詳細に説明するように、本発明者らは、ファイアブラスト処理してガラス容器を製造する場合、「加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分」が(特定の温度範囲としての)例えば650℃〜800℃または下記の種々の温度範囲内にあることが肝要であることを見出した。これに基づいて、本発明のガラス容器の製造方法では、1つの態様では、ファイアブラスト処理中に、即ち、ガラス容器の製造中に、加工劣化領域に対向する、詳しくは加工劣化領域を有する内表面部分に対向する、予備成形体の外表面部分の温度を測定し、その測定される温度が特定の温度範囲、例えば650℃〜800℃の範囲内にあるか否かを判断する。測定結果が特定の温度範囲内にある場合、ファイアブラスト処理は所定通り進行していることを意味する。従って、ファイアブラスト処理後に得られるガラス容器は所定のように低減されたアルカリ溶出量を有することを確認できる。他方、測定結果が特定の温度範囲内にない場合、ファイアブラスト処理は所定通り進行していないことを意味するので、特定の温度範囲内に入るようにファイアブラスト処理の条件(例えばガス流量等のバーナーの操作条件、ファイアブラスト時間等)を変更する。尚、外表面部分の温度が特定の温度範囲内に入っていない時に製造されたガラス容器は、そのアルカリ溶出量が所定量を上回ることが有り得るので、その場でオフスペック製品と見なして除外し、場合によっては廃棄する。この態様では、ファイアブラスト処理の適否をオンラインで判断している。即ち、ファイアブラスト処理している時またはその直後に判断している。
従って、1つの態様では、本発明の方法は、ガラス容器の予備形成体の内表面をバーナーからの炎によってファイアブラスト処理してガラス容器を製造する、本発明のガラス容器の製造方法であって、予備成形体の内表面に対して予備成形体の開口部に向かって該炎を走査してファイアブラスト処理するに際して、加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分の温度を測定し、測定される温度が650℃〜800℃の範囲外にある場合に、得られるガラス容器をオフスペック製品と判断し、このガラス容器を測定される温度が650℃〜800℃の範囲内である場合のガラス容器から区別することを特徴とする。この区別は、ガラス容器をピックアップして搬送する手段を用いて、範囲外にある場合に得られたガラス容器を廃棄するまたはそれを準備する(例えば廃棄するために、所定の容器にためる)ことによって実施してよい。そのような手段は、当業者であれば、容易に想到できるいずれの適当なものであってもよい。尚、650℃〜800℃の範囲は、好ましい態様では、後述の他の温度範囲(例えば、670℃〜780℃の範囲、700℃〜770℃の範囲)であってもよい。
別の態様では、ファイアブラスト処理中に、即ち、ガラス容器の製造中に、加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分の温度を測定し、ファイアブラスト処理してガラス容器を得た後に、即ち、ガラス容器の製造後に、予備成形体の上記外表面温度の測定結果を特定の温度範囲と比較して製造したガラス容器に施したファイアブラスト処理の適否を判断する。測定結果が特定の温度範囲内にある場合、ファイアブラスト処理は所定通り進行していることを意味するので、そのような測定結果が得られた時のガラス容器は所定のように低減されたアルカリ溶出量を有することを確認できる。他方、測定結果が特定の温度範囲内にない場合、ファイアブラスト処理は所定通り進行していないことを意味するので、その時に製造されたガラス容器は、そのアルカリ溶出量が所定量を上回ることが有り得るので、後でオフスペック製品と見なして除外し、場合によっては廃棄する。この態様では、ファイアブラスト処理の適否をオフラインで判断している。ファイアブラスト処理してガラス容器を得た後に判断している。
本発明において、「加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分(即ち、外表面の一部分)」とは、加工劣化領域が存在する、予備成形体の内表面部分(即ち、内表面の一部分)としての予備成形体の厚さ部分を規定する内壁部分(内壁の一部分)に対向して、当該厚さ部分を介して向かい合う、予備成形体の外壁部分(外壁の一部分)を意味する。換言すれば、予備成形体の側面部の一部分は、それを規定する内壁の一部分としての内表面部分と外壁の一部分としての外表面の一部分とを有し、これらが対向して当該厚さ部分を有する当該側面部の一部分を規定する。
また、本発明者らは、本発明において用いる予備成形体の内表面に存在する加工劣化領域の存在箇所を確認した。本発明の方法において使用する予備成形体は、例えば、一般的な縦型成形機を用いて、垂直に保持されて回転するホウケイ酸ガラス製のガラス管を加熱して口部を形成し、次に底部を形成することにより、ガラス容器としてのバイアルの予備成形体を得た。このようにして得られる、バイアルを製造するための予備成形体の内表面において、加工劣化領域が存在する箇所を測定した。この測定には、次の方法を用いた:
(1)種々の予備成形体についてマイクロスコープ(200〜1000倍)を用いて目視により内表面上にアルカリ成分付着物(クレーター状または円丘状パターン)が存在する箇所を観察した。マイクロスコープにより拡大した内表面の写真を得、予備成形体の底部から開口部に向かって各高さにおけるアルカリ成分付着物の数を数えると、ある高さ(H1)を越えると急激に増加し、その後、ある高さ(H2)を越えると急激に減少することが分かった。
(2)また、0.05%のメチレンブルー溶液を予備成形体に満たし、20分静置したのちに排出し、蒸留水で洗浄したのちに120℃で10分間乾燥した。その結果、メチレンブルーは加工劣化領域に吸着し、予備成形体の内表面に帯状の着色領域が生じた。実質的に着色した帯状部分のバイアルの底部からの位置(帯状領域の開始位置H1および終了位置H2)を求めた。種々の予備成形体について加工劣化領域の存在箇所を確認した結果、加工劣化領域は、予備成形体の底部からある高さの位置から口部に向かってある幅で帯状に存在することが分かった。その結果を次の表1に示す:
Figure 0006677245

表中、用語は以下の意味を有する:
胴径:最大部分の外径(予備成形体の外形基準)
全長:予備成形体の軸方向の全長(予備成形体の外形基準)
H1:帯状領域が始まる、底部から高さ(予備成形体の外形基準)
H2:帯状領域が終わる、底部から高さ(予備成形体の外形基準)
尚、H1およびH2は上記方法(2)で得た数値であるが、これらの数値は、上記方法(1)で得た数値と実質的に一致した。
表1から明らかなように、予備成形体の種類を問わず、予備成形体の外形基準で、予備成形体の底部からその全長の8%〜16%の範囲の帯状領域に相当な割合の加工劣化領域が存在し、また、予備成形体の底部からその全長の6%〜20%の範囲により多くの割合の加工劣化領域が存在し、更に、予備成形体の底部からその全長の5%〜30%の範囲の帯状領域内に大部分の加工劣化領域が存在することが分かった。
従って、加工劣化領域を低減するには、予備成形体の外形基準で、予備成形体の底部からその全長の8〜16%、好ましくはその全長の6〜20%、より好ましくは5〜30%の高さ部分に位置する帯状領域である内表面部分をファイアブラストするだけでアルカリ溶出量を効果的に減らすことができる。換言すれば、アルカリ溶出量を効果的に減らすためには、予備成形体の外形基準で、予備成形体の底部からその全長の少なくとも8〜16%、好ましくはその全長の少なくとも6〜20%、より好ましくはその全長の少なくとも5〜30%の高さ部分に位置する帯状領域である内表面部分をファイアブラストする。本発明の方法において、1つの態様では、このような特定範囲の帯状領域のみをファイアブラスト処理してもよく、別の態様では、このような特定範囲の帯状領域を含むより広い領域をファイアブラスト処理してもよい。尚、加工劣化領域の位置と予備成形体の肉厚との相関は実質的に認められないが、上述のこれらの特定の範囲に位置する帯状領域は、肉厚が0.8〜2.0mm、例えば0.9〜1.5mm、特に1.0〜1.2mmのバイアルの製造に好適である。
予備成形体をファイアブラスト処理する場合、上述のように、加工劣化領域が存在する内表面の部分に対向する、予備成形体の外表面部分の温度が上述または後述の特定の温度範囲、例えば650℃〜800℃であることが必要である。本発明において、ファイアブラスト処理する内表面部分に対向する、予備成形体の外表面部分は、上述のその定義および実験的に確認した上述の帯状領域の範囲から容易に理解できるように、加工劣化領域が存在する、予備成形体の内表面部分の直ぐ外側の領域に相当する。
ファイアブラスト処理は、バーナーからの炎に含まれるイオンおよび粒子が加工劣化領域のアルカリ成分を削り取ると考えられ、従って、より多くのイオンおよび粒子が炎に含まれるのが好ましい。ところで、そのようなイオンおよび粒子は低級炭化水素と酸素との燃焼反応の結果によって生じると推測される。
そのような反応には燃焼温度が重要であり、ファイアブラスト処理を有効に実施するには、バーナーから噴出する炎の温度が重要であると考えられる。炎の熱は、炎が当たる内表面部分の外側である予備成形体の外表面部分にも伝わり、その温度にも影響を与える。そこで、ファイアブラスト処理時の予備成形体の外表面部分の温度とファイアブラスト後の予備成形体、即ち、ガラス容器のアルカリ溶出量との関係を種々測定した結果、ファイアブラスト処理時の予備成形体の外表面部分の温度がアルカリ溶出量に影響を与えることが分かった。
上記実験例4の予備成形体の外形基準でその底部から6mmの高さの位置に対応する内表面部分にバーナーの炎の先端が当たるようにしてファイアブラスト(FB)処理を実施した。ファイアブラストは都市ガスおよび酸素を用いて実施した。ファイアブラスト条件を種々変えて、その時の予備成形体の底部から6mmの高さの位置の外表面部分の温度を測定すると共に、得られたガラス容器のアルカリ成分の溶出量を測定した。その結果を、バーナーに用いた都市ガス量、ファイアブラスト(FB)時間と共に表2に示す:
Figure 0006677245
アルカリ成分の溶出量の測定は、各バイアルに蒸留水を充填し、121℃で60分間加熱した後に冷却し、各バイアルに充填した蒸留水に含まれるナトリウム量を測定した。ナトリウム量の測定は、ISO4802−1および2に記載されている原子吸光法により行った。この結果を図1のグラフに示す:
このグラフから、予備成形体の外表面の温度が620℃を越えると、得られるガラス容器のアルカリ溶出量が急激に減少することが分かる。従って、1つの態様では、ファイアブラスト処理する際、加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分の温度は、少なくとも620℃である。
ファイアブラスト処理に際しての上述の外表面部分の温度は、当業者であれば所望のアルカリ溶出量に応じて、図1のグラフを用いて適切に選択できる。例えば、アルカリ溶出量を、ファイアブラスト処理しない場合の半分以下にしたい場合、上述の外表面温度が少なくとも650℃となるように炎を加工劣化領域にあてることが好ましい。尚、ファイアブラスト処理の結果、ホウケイ酸ガラスが軟化するほどまでに加熱すると、予備成形体の形状、容量等が変わる可能性がある。従って、外表面部分の温度は、ホウケイ酸ガラスの軟化点を大きく上回らないのが好ましく、軟化点以下であるのがより好ましく、具体的には800℃以下、例えば780℃以下である。
従って、本発明の方法において、上述の外表面部分の温度が650℃〜800℃となるように炎を予備成形体の内表面部分の加工劣化領域にあてることが好ましく、670℃〜780℃となるように炎を加工劣化領域にあてることがより好ましい。例えば700℃〜770℃となるように炎を加工劣化領域にあてる。このような外表面部分の温度が特定の温度範囲内となるようなファイアブラスト処理は、容量が1〜100ml、例えば1〜30ml、特に1〜20mlのバイアルの製造に好適であり、また、肉厚が0.8〜2.0mm、例えば0.9〜1.5mm、特に1.0〜1.2mmのバイアルの製造に好適である。
図2に本発明のガラス容器の製造方法において、バーナー30を用いて予備成形体10をファイアブラスト処理する時の様子をバイアルの側面が正面に位置するように見た場合で模式的に示している。図示した予備成形体10は、ファイアブラスト処理によってガラス容器、例えばバイアル、特に医療用バイアルとなる。予備成形体10は断面図にて模式的に示す。
予備成形体10は、底が封止された、概ね円筒形状の容器であり、左側から順に底部11、側面部12、首部18及び口部13を有する。予備成形体10は、内部空間14を有し、口部13の端部17において開口する。底部11は、平坦な円盤形状であり、底部11の縁において側面部12と一体となっている。側面部12は、円筒形状であり、軸方向において、外径及び内径が実質的に一定に成形されている。側面部12は首部18に向かってテーパー状に縮径している。図示した態様では、首部18の内径及び外径は、側面部12より狭く成形されている。口部13は、首部18に連続し、端部17で区画される開口16を有する。口部13の内径及び外径は、側面部12より狭く成形されている。口部13の外径は、首部18の外径において最も狭く形成された箇所より広く成形されている。このため、バイアル10において、側面部12の外径が最大である。すなわち、側面部12の外周面は、バイアル10の最大径である。このような予備成形体は、常套の方法で製造することができる。
このような予備成形体10は、例えば、一般的な縦型成形機を用いて、垂直に保持されて回転するガラス管をバーナーの炎で加熱することにより、ガラス管の一部を軟化変形させて、予備成形体10の底部11及び口部13を成形する。底部を成形する際に、ガラス管の原料であるホウケイ酸ガラスからアルカリホウ酸塩等のアルカリ成分が揮発し、予備成形体の内表面に付着して加工劣化領域が生じる。揮発したアルカリホウ酸塩等のアルカリ成分は、バイアル10の内表面15における底部11近傍に付着して加工劣化領域を生じさせる。
上述のように、加工劣化領域の大部分は、予備成形体10の底部11からその全長の8%〜16%の高さの範囲の帯状領域に相当部分の加工劣化領域が存在し、また、予備成形体10の底部からその全長の6%〜20%の高さの範囲により多くの加工劣化領域が存在し、更に、予備成形体10の底部からその全長の5%〜30%の高さの範囲に大部分の加工劣化領域が存在することが分かっている。容易に理解できるように、予備成形体の全長L、例としての底部から全長の5%の高さh(=L×0.05)および30%(=L×0.30)の高さhを模式的に図2に図示している。その結果、加工劣化領域の大部分は、底部11から高さhとhの間の内表面部分Riの帯状領域に存在する。このような特定範囲の帯状領域にバーナーの炎をあててファイアブラスト処理することによって、得られるガラス容器のアルカリ溶出量を大幅に低減できる。
また、本発明の方法において、1つの態様では、ファイアブラスト処理は、予備成形体の内表面に対して予備成形体の開口部に向かって(即ち、図示した態様では、右方向に向かって)炎を走査しながら、加工劣化領域が存在する内表面部分(図示した態様では例えば領域Ri)に対向する、予備成形体の外表面部分(図示した態様では例えば領域Ro)の温度が例えば650℃〜800℃となるように実施する。容易に理解できるように、予備成形体の側面部12の厚さ部分、即ち、予備成形体10の斜線で示した部分は、内表面15および外表面19により規定され、厚さ部分を介して相互に対向している。同様に、内表面部分Riに厚さ部分を介して直ぐ外側に外表面部分Roが対向している。本発明の方法において、ファイアブラスト処理時の温度を測定すべき、予備成形体の外表面部分は、加工劣化領域が存在する内表面部分、例えば図2の矢印Aで示す内表面部分に厚さ部分を介して直ぐ外側に対向する矢印Bで示す外表面部分であり、矢印Bで示す部分の温度が例えば650℃〜800℃となるようにファイアブラスト処理の条件を調節する。
尚、1つの態様では、矢印Bで示す部分は実質的に点であってもよい。ファイアブラスト処理は、予備成形体をその軸の回りで回転させながら行うので、矢印で示す部分が実質的に点である場合、温度を測定すべき、外表面部分は実質的にその点を含む円周部分となる。この場合、底部からある高さの位置の点Bの温度を測定すると、予備成形体の外表面の該ある高さの円周上の温度を測定することになる。
別の態様では、矢印Bで示す部分は線である。ファイアブラスト処理は、予備成形体をその軸の回りで回転させながら行うので、矢印で示す部分が実質的に軸方向のある長さにわたる線である場合、温度を測定すべき、外表面の部分は実質的に(円形断面を有し、閉じた)帯状部分となる。上述のように、加工劣化領域は予備成形体の側面部の内表面の帯状領域、特に底部から特定の高さ部分にわたって存在する帯状領域に多くの割合で存在することが分かっているので、温度を測定する外表面部分もその帯状領域に対向する外表面の帯状領域であるのが特に好ましい。勿論であるが、温度測定は、予備成形体を軸回転しながら、帯状領域を面状にわたって測定してもよい。
本発明の方法において、温度測定は、非接触型の温度測定装置、例えば放射型温度計で実施するのが特に好ましい。放射型温度計は、スポット領域の温度を測定するものであっても、より広い領域の温度を測定できるものであってもよい。上述のように帯状領域の温度を測定するのが好ましいので、この場合、いわゆるサーモグラフィー型の温度計を使用できる。換言すれば、本発明は、放射型温度計の使用方法を提供し、この方法は、予備成形体をファイアブラスト処理するに際して、放射型温度計を用いて予備成形体の外表面部分の温度を測定することを特徴とする。この方法において、測定すべき外表面部分の箇所の特定範囲(例えば予備成形体の外形基準で予備成形体の底部からその全長の8〜16%の高さに位置する帯状領域)、およびその箇所における、測定される温度が含まれるべき特定の範囲(例えば650℃〜800℃)等については、本発明のガラス製品の製造方法におけるそれらの特徴と実質的に同じである。
より具体的には、サーモグラフィーを用いて、加工劣化領域が存在する内表面部分に対向する外表面部分の帯状領域の帯の幅(例えば図2のh−hの領域部分、即ち、Roの領域)の全体にわたって一度に温度測定するのが好ましい。例えば、図2にて矢印Cで示すように、予備成形体10の上方に温度測定装置Cを配置して、予備成形体10の外表面の所定の部分の温度を測定する。
ファイアブラスト処理の間、この温度測定を実施する。測定結果が所定温度範囲内にあれば、ファイアブラスト処理は所定通り実施できていることが分かる。即ち、ファイアブラスト処理後に得られるガラス製品のアルカリ溶出量は所定範囲内であることが推定される。他方、測定結果が所定温度範囲外となれば、ファイアブラスト処理が十分に実施できていない可能性があるので、その時に製造されるガラス容器はオフスペック品として扱う。
温度測定の結果が所定温度範囲内にあるか否かの判断は、ファイアブラスト処理を実施している最中に実施しても、あるいは処理が終了した後から実施してもよい。前者の場合、判断をオンラインで実施することになり、範囲外の温度測定結果になれば、その時に処理して得られたガラス容器はオフスペックとして直ちに除外できる。後者の場合、判断をオフラインで実施することになり、ファイアブラスト処理の時機と得られるガラス製品とを関連付けておき、範囲外の温度測定結果をもたらしたファイアブラスト処理の時機を探し当ててその時に製造されたガラス容器をオフスペック品として後で除外する。
図3(A)及び図3(B)に、本発明の方法において、ファイアブラスト処理に際して予備成形体10を軸回転させる機構を模式的に示す。図3(A)は図2の左側に図示する予備成形体の様子と実質的同じである。図3(B)は、図3(A)においてその右側から予備成形体10を見た時の様子を模式的に示す。尚、図3では、温度測定装置110を模式的に示している。図示した態様では、予備成形体の母線方向に所定の長さ部分および周方向の短い長さ部分で囲まれた外表面の一部分(上述のRoに相当)の温度をサーモグラフィーのような温度測定装置110で測定する様子を模式的に示している。尚、破線にて温度測定範囲を模式的に示している。
予備成形体10は、ローラ対60の周面上に配置されている。ローラ対60の軸線は水平方向(前後方向103)に対して少し傾斜した状態(図1の下方の一点鎖線Fを参照)で、左右方向102に沿って並列されている。このため、第1ローラ61及び第2ローラ62の周面によって支持されている予備成形体10の軸線方向は、水平方向(前後方向103)に対して少し傾斜している。その結果、バイアル10は、水平方向より上方に対して開口する。予備成形体10の側面部12は、第1ローラ61及び第2ローラ62の外周面とそれぞれ接する。その結果、予備成形体10は、垂直方向101に対して少し傾斜して配置された当接部材20に当接した状態を安定に維持した状態で軸回転できる。
詳しくは、バイアル10の最大径となる外周面である側面部12の全体が、第1ローラ61及び第2ローラ62の各周面と回転しながら当接する。図2(B)に示されるように、バイアル10の側面部12の周方向における一点(実際には側面部12の母線)が第1ローラ61の周方向における一点(実際にはローラの側面部の母線)と接し、バイアル10の側面部12の周方向における他の一点(実際には側面部12の母線)が第2ローラ62の周方向における一点(実際にはローラの側面部の母線)と接しながら、バイアル10、第1ローラ61及び第2ローラ62は回転する。例えば、矢印で示すように、各ローラを右回りで軸回転させると、予備成形体10は左回りで軸回転する。
図示したローラは、熱伝導性に優れた材料を用いて形成されているのが好ましく、ファイアブラスト処理によって予備成形体に加えられる熱を放熱し、それによって、ファイアブラストの操作条件との組み合わせで予備成形体の外表面の温度を上述の所定範囲内に維持することができる。ローラに使用するのが好ましい材料としては、グラファイト、アルミニウム合金および真鍮等を例示できる。
本発明の方法において使用するバーナーは、いわゆるポイントバーナー30であるのが好ましい。図2に示すように、バーナー30は当接部材20に対向するように配置されている。ポイントバーナー30はバーナー本体33及びノズル32を有する。ノズルの直径(内径)は1.0〜1.5mmであるのが好ましい。
バーナー本体33は、概ね円筒形状であり、例えば液化天然ガス等の可燃性ガス及び酸素がそれぞれ流通可能な流路と、これら流路が合流して混合ガスを形成し、その混合ガスが流通可能な流路とが内部空間に形成されている。バーナー本体33は、その基端側において可燃性ガス及び酸素の流量制御装置(図示せず)が接続されている。流量制御装置は、公知のものが採用可能である。
ノズル32は、バーナー本体33の先端側に接続されている。ノズル32は、ストロー状であり、バーナー本体33から流出する混合ガスが流通可能である。ノズル32の外径は、バイアル10の内部空間14へ挿入可能であって、ノズル32の先端がバイアル10の内部空間14に位置した状態において、ノズル32の軸線方向が変更可能な太さに設計されている。すなわち、ノズル32の外径は、バイアル10の首部18の内径より十分に細い。ノズル32の軸線方向における長さは、バイアル10の軸線方向に沿った長さより十分に長い。ノズル32の素材としては、例えばセラミックなどの耐熱性が高いものが好ましい。
混合ガスは、バーナー本体33の内部空間からノズル32の内部空間を介して、ポイントバーナー30の先端であるノズル32の先端から外部へ流出される。ノズル32の先端から外部へ流出する混合ガスに着火することにより、ポイントバーナー30の先端から炎が噴出する。ポイントバーナー30の先端から噴出される炎31の火力は、流量制御装置によりガス及び酸素のそれぞれの流量を変更することにより制御可能である。
ポイントバーナーは、両末端矢印Dで示すように、例えば軸40の回りで回転可能であり、また、両末端矢印Eで示すように水平方向に移動可能であり、予備成形体10に近づいたり、あるいはそれから遠ざかることができる。このような2種類の動きを組み合わせることによって、バーナーから噴射される炎の先端部が予備成形体の内表面の特定の部分に当たるようにできる。
尚、本発明の方法において、ファイアブラスト処理すべき内表面部分は、上述のように、予備成形体の外形基準でその底部からの高さを用いて規定している。例えば、上述のように「予備成形体の底部からその全長の8%〜16%の範囲の帯状領域に相当する部分の加工劣化領域」をファイアブラスト処理する場合のファイアブラストの開始点は予備成形体の底部からその全長の8%の高さの箇所である。本発明の方法では、予備成形体に向かうノズル32(詳しくはその中心線)の延長線上に8%の箇所が位置するようにバーナーを配置すると共に、バーナーの操作条件を調節することによって、8%の箇所にバーナーのノズルから噴出する炎の先端部が当たるようにする。別の態様では、炎の先端部および/または先端部よりやや内側(即ち、先端部より手前の部分)の部分がそのような位置に当たるようにしてもよい。その後、8%の位置から17%の位置に向かってバーナーの炎を口部に向かって走査し、終点としての17%の位置でファイアブラスト処理を終了してよい。本発明の方法では、バーナーまたはその先端部のノズルの延長線上に上述の所定の高さの箇所があれば、その内表面のその箇所をファイアブラスト処理すると考える。
ファイアブラスト処理における予備成形体の外表面部分の上述の種々の温度範囲の特徴およびファイアブラスト処理する予備成形体の内表面部分の上述の種々の位置の範囲の特徴は、本発明のガラス容器の製造方法、ファイアブラスト処理方法およびガラス容器からのアルカリ溶出量を低減する方法ならびに後述の他の方法において、いずれの組み合わせで適用してもよい。
本出願は、日本国特許出願第2015−89619号に基づくパリ条約上の優先権を主張し、ここで該特許出願を引用することによって該特許出願に記載事項は本願の明細書を構成する。
10・・・予備成形体またはバイアル(ガラス容器)
11・・・底部
12・・・側面部
13・・・口部
15・・・内表面
20・・・当接部材
30・・・ポイントバーナー
31・・・炎
32・・・ノズル
60・・・ローラ対
61・・・第1ローラ
62・・・第2ローラ
110・・温度測定装置
h1・・・加工劣化領域が存在する帯状領域の開始点までの底部からの距離
h2・・・加工劣化領域が存在する帯状領域の終了点までの底部からの距離
Lo・・・・予備成形体の全長
Ri・・・加工劣化領域が存在する内表面部分
Ro・・・内表面部分Riに対向する、予備成形体の外表面部分

Claims (5)

  1. ガラス容器の予備形成体の内表面をバーナーからの炎によってファイアブラスト処理してガラス容器を製造する、ガラス容器の製造方法であって、
    ファイアブラスト処理は、予備成形体の内表面に対して予備成形体の開口部に向かって該炎を走査するに際して、加工劣化領域に対向する、予備成形体の外表面部分の温度が650℃〜800℃となるように実施することを特徴とする、ガラス容器の製造方法。
  2. ファイアブラスト処理は、予備成形体の外形基準で予備成形体の底部からその全長の8〜16%の高さに位置する帯状領域である内表面部分に対して、予備成形体の開口部に向かって該炎を走査して実施することを特徴とする、請求項1に記載のガラス容器の製造方法。
  3. 非接触型温度計を用いて温度測定を実施することを含む請求項1または2に記載のガラス容器の製造方法。
  4. 予備成形体は、ホウケイ酸ガラス製であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス容器の製造方法。
  5. ガラス容器は、医療用ガラス容器であることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のガラス容器の製造方法。
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