(第1実施形態)
以下、操舵制御装置の第1実施形態を説明する。
本実施形態の操舵制御装置は、車両における運転者のステアリング操作を補助する電動パワーステアリング装置(以下、「EPS」という)1に備えられるものである。EPS1は、運転者のステアリング操作に基づいて後述の転舵輪12を転舵させる操舵機構2、運転者のステアリング操作を補助する転舵力付与機構20、及び転舵力付与機構20の動作を制御する制御ユニット(Electronic Control Unit)としてのEPSECU25を備えている。
操舵機構2は、運転者により操作される操舵部材としてのステアリングホイール3及びステアリングホイール3と一体回転する操舵軸4(ステアリングシャフト)を備えている。操舵軸4は、ステアリングホイール3の中心に連結されているコラム軸5、コラム軸5の下端部に連結されているインターミディエイト軸6、及びインターミディエイト軸6の下端部に連結されているピニオン軸7により構成されている。
ピニオン軸7の下端部は、第1ラックアンドピニオン機構8を介して転舵軸としてのラック軸9に連結されている。第1ラックアンドピニオン機構8は、ラック軸9がその軸方向に往復移動可能に挿通される円筒状のラックハウジング10を備えている。ラックハウジング10には、ピニオン軸7のピニオン歯7aが設けられた側が、ラック軸9と斜交した状態で回転可能に収容されている。ピニオン歯7aは、ラック軸9のラック歯9aに噛合されている。
操舵機構2では、運転者のステアリングホイール3の操舵(ステアリング操作)に伴い操舵軸4が回転すると、その回転運動がピニオン軸7、すなわち第1ラックアンドピニオン機構8を介してラック軸9の軸方向の往復直線運動に変換される。このラック軸9の軸方向の往復直線運動がその両端に連結されたタイロッド11を介して転舵輪12に伝達されることにより転舵輪12の転舵角が変化し、車両の進行方向が変更される。
例えば、図1中、A方向(図中、反時計回り方向)へのステアリング操作が生じる場合、これに合わせてコラム軸5及びインターミディエイト軸6がA方向(図中、反時計回り方向)に回転し、これに連動してピニオン軸7がA方向(図中、反時計回り方向)に回転する。この場合、ラック軸9は、その軸方向におけるA方向(図中、左方向)に移動し、転舵輪12がA方向(図中、右方向)に転舵する。同様に、図1中、B方向(図中、時計回り方向)へのステアリング操作が生じる場合、これに合わせてコラム軸5及びインターミディエイト軸6がB方向(図中、時計回り方向)に回転し、これに連動してピニオン軸7がB方向(図中、時計回り方向)に回転する。この場合、ラック軸9は、その軸方向におけるB方向(図中、右方向)に移動し、転舵輪12がB方向(図中、左方向)に転舵する。
ラック軸9の両端には、タイロッド11を回動自在に連結するインナーボールジョイント(以下、「IBJ」という)9bがそれぞれ設けられている。IBJ9bは、ラックハウジング10の両端に設けられる拡径部10aに出入り可能に設けられている。拡径部10aの内径は、ラックハウジング10がラック軸9を収容するラック収容部10bの内径と比較して、大きく設定されている。そのため、拡径部10aとラック収容部10bとのが繋がれる部位には、IBJ9b側に壁面を有する段差部10cが設けられている。一方、IBJ9bの外径は、ラックハウジング10の拡径部10aの内径よりも小さい且つラック収容部10bの内径よりも大きく設定されている。そのため、例えば、ラック軸9がラックハウジング10から抜け出ようとしても、IBJ9bが段差部10cに突き当たることによってラック軸9がラックハウジング10から抜け出ることが防止されている。
こうしたラックハウジングの段差部10cとIBJ9bの配置は、EPS1として許容するラック軸9の軸方向の図1中におけるA方向及びB方向の移動限界、すなわちストロークエンドにおいて、それぞれが突き当たらないように、例えば、1mmや2mmの若干の隙間(図9(a)及び図10(a)中、隙間La,Lb)をあけて設けられている。したがって、本実施形態では、ラック軸9がEPS1として許容するストロークエンドに達したとしてもIBJ9bが段差部10cには突き当たらないように構成されている。
転舵力付与機構20は、モータ21と減速機構22と第2ラックアンドピニオン機構24とを備えている。モータ21は、三相のブラシレスモータ等が採用されるものであり、減速機構22を介してラック軸9に連結されている。減速機構22は、モータ21の回転を減速し、当該減速した回転力を第2ラックアンドピニオン機構24を介してラック軸9に伝達する。
具体的には、モータ21の出力軸21aにはウォーム軸22aが連結されている。ウォーム軸22aは、ウォームホイール22bを介してピニオン軸23に連結される。ピニオン軸23の下端部は、第2ラックアンドピニオン機構24を介してラック軸9に連結されている。第2ラックアンドピニオン機構24は、ラックハウジング10の第1ラックアンドピニオン機構8が設けられるのと反対側の端部側に設けられている。ラックハウジング10には、ピニオン軸23のピニオン歯23aが設けられた側が、ラック軸9と斜交した状態で回転可能に収容されている。ピニオン歯23aは、ラック軸9のラック歯9cに噛合されている。そして、モータ21によって発生させられるモータトルクが転舵力、すなわちアシストトルクとして操舵機構2(本実施形態では、ラック軸9)に付与されることで、運転者のステアリング操作を補助する。
例えば、図1中、A方向(図中、反時計回り方向)へのステアリング操作が生じる場合、図1中、C方向(図中、反時計回り方向)へモータ21が回転することで、運転者のステアリング操作を補助するように、モータトルクをアシストトルクとして付与する。また、図1中、B方向(図中、時計回り方向)へのステアリング操作が生じる場合、図1中、D方向(図中、時計回り方向)へモータ21が回転することで、運転者のステアリング操作を補助するように、モータトルクをアシストトルクとして付与する。このように、本実施形態のEPS1は、ラック型であってデュアルピニオン型の電動パワーステアリング装置である。
その他、本実施形態では、モータ21によって発生させられるモータトルクが転舵力、すなわち反力トルク(規制力)として操舵機構2(本実施形態では、ラック軸9)に付与されることで、運転者のステアリング操作を規制する場合もある。
例えば、図1中、A方向(図中、反時計回り方向)へのステアリング操作が生じる場合、図1中、D方向(図中、時計回り方向)へモータ21が回転することで、運転者のステアリング操作を規制するように、モータトルクを反力トルクとして付与する。また、図1中、B方向(図中、時計回り方向)へのステアリング操作が生じる場合、図1中、C方向(図中、反時計回り方向)へモータ21が回転することで、運転者のステアリング操作を規制するように、モータトルクを反力トルクとして付与する。
また、図1に示すように、EPSECU25には、運転者の要求あるいは走行状態を示す各種の情報を検出する各種のセンサが接続されている。具体的に、EPSECU25には、軸角検出部としての第1及び第2軸角センサ32a,32bを有するセンサユニット(Electronic Control Unit)としてのセンサECU26、モータ角検出部としての第1及び第2モータ角センサ27a,27b、トルクセンサ28、及び車速センサ29が接続されている。
センサECU26が有する各軸角センサ32a,32bは、共に軸倍角1(1X)のMR素子からなるMRセンサであり、ピニオン軸7を同一の検出対象として相対回転角θp1,θp2を検出する。こうした相対回転角θp1,θp2は、各軸角センサ32a,32b(センサECU26)に異常のない場合には略同一(MR素子の個体差を考慮した範囲で同一)の検出結果(値)を示す一方、異常の場合には異なる検出結果(値)を示す。
各モータ角センサ27a,27bは、共に軸倍角1(1X)のMR素子からなるMRセンサであり、モータ21の出力軸21aを同一の検出対象として相対回転角θm1,θm2を検出する。こうした相対回転角θm1,θm2は、各モータ角センサ27a,27bに異常のない場合には略同一(MR素子の個体差を考慮した範囲で同一)の検出結果(値)を示す一方、異常の場合には異なる検出結果(値)を示す。
トルクセンサ28は、ピニオン軸7に内挿されるトーションバー7bの上流側(ステアリングホイール3側)と下流側(ラック軸9側)との間に生じる相対的な回転変位に基づき操舵軸4(操舵機構2)に生じる操舵トルクTr、すなわちステアリングホイール3に加わる負荷を検出する。車速センサ29は、車速(車両の走行速度)Vを検出する。
そして、EPSECU25は、各種のセンサの検出結果を取得し、これら取得する各種センサの検出結果に応じてモータ21の動作を制御する。すなわち、本実施形態において、EPSECU25、センサECU26、及び第1及び第2モータ角センサ27a,27bは、EPS1のモータ21の動作を制御する操舵制御装置である。
次に、EPSECU25及びセンサECU26の構成について説明する。
まずセンサECU26の構成について詳しく説明する。
図2に示すように、センサECU26は、印加される磁気によって抵抗が変化するMR素子や演算回路や不揮発性メモリ等を含む電子部品をパッケージングした軸角検出IC(Integrated Circuit)としてのセンサIC26aと、温度検出部としての温度センサ30と、送信部としての通信インターフェース(以下、「I/F」という)31とを備えている。
図1に示すように、センサIC26aは、第1ラックアンドピニオン機構8のピニオン軸7の下端部に対向するように、ラックハウジング10のラック収容部10bの内部に固定されている。ピニオン軸7の下端部には、センサIC26aに印加する磁気の発生源たる磁石26bが、ピニオン軸7と一体回転可能に固定されている。磁石26bは、センサIC26aとの間に隙間をあけて対向配置されている。
図2の説明に戻り、センサIC26aは、各軸角センサ32a,32bと、増幅回路としてのアンプ33a,33bと、マイクロプロセッシングユニット等の演算回路からなる内部異常判定部としてのDSP(Degital Signal Processor)34と、不揮発性メモリからなるEEPROM35と、ダイアグ(Diag)36とを有している。
各軸角センサ32a,32bは、ピニオン軸7の回転に伴って変化する磁気に応じて変化する抵抗の値をアナログ信号Sin_a1,Sin_a2(それぞれsinθ及びcosθの2値のアナログ値)として出力する。
各軸角センサ32a,32bから出力されるアナログ信号Sin_a1,Sin_a2は、それぞれアンプ33a,33bで増幅された後、DSP34に入力される。DSP34は、各軸角センサ32a,32bから出力されるアナログ信号Sin_a1,Sin_a2をデジタル信号Sin_d1,Sin_d2に変換補正する各種デジタル信号処理を実行し、デジタル信号Sin_d1,Sin_d2を出力する。また、DSP34は、センサECU26における電圧異常や断線異常等を判定する自己判定を実行し、異常を判定する場合には異常信号Sin_erを出力する。そして、DSP34には、各種デジタル信号処理や自己判定で必要となる情報が記憶されているEEPROM35が接続されている。
EEPROM35には、各種デジタル信号処理や自己判定で必要となる情報の他、ラック軸9の軸方向の図1中におけるA方向及びB方向のストロークエンドを示す位置情報φendとして、ラック軸9がストロークエンドに達する場合のピニオン軸7の絶対回転角が記憶されている。位置情報φendは、ラック軸9の軸方向の移動範囲を特定する。
位置情報φendは、A方向限界φend(A)及びB方向限界φend(B)を含んで構成される。A方向限界φend(A)は、図1中において転舵輪12がA方向に転舵された場合の転舵限界(実際には内輪側に位置する転舵輪12が大きく転舵される)であり、ラック軸9がその軸方向のA方向に移動する場合のストロークエンドに相当するピニオン軸7の絶対回転角である。B方向限界φend(B)は、図1中において転舵輪12がB方向に転舵された場合の転舵限界(実際には内輪側に位置する転舵輪12が大きく転舵される)であり、ラック軸9がその軸方向のB方向に移動する場合のストロークエンドに相当するピニオン軸7の絶対回転角である。
こうした位置情報φendは、ピニオン軸7、第1ラックアンドピニオン機構8、ラック軸9、転舵力付与機構20、ピニオン軸23、第2ラックアンドピニオン機構24等を、ラックハウジング10に組み付けたギヤ組み立て体の生産工程で当該ギヤ組み立て体が搭載される車種等に応じて予め設定(記憶)される。すなわちこの場合、例えば、上記ギヤ組み立て体と、ステアリングホイール3、操舵軸4等を組み付けた操舵組み立て体とがそれぞれ別々の生産工程で組み立てられた後に車両工場で組み付けられる場合、車両工場での位置情報φendの設定を不要とすることができる。
また、本実施形態では、EEPROM35に記憶させる位置情報φendの内容を変更することで、ラック軸9のストロークエンドを容易に変更することができる。これにより、ラック軸9について複数の車種の車両間で共通化を図ることができる。なお、EEPROM35は、不揮発性メモリである。そのため、位置情報φendは、EEPROM35に一度書き込まれて記憶されると新たな情報が書き込みされて記憶されるまでの間、その記憶状態が維持される。すなわち、車両のバッテリからEPS1が切り離されたとしても、EEPROM35には、位置情報φendが記憶状態で維持される。したがって、車両のバッテリからEPS1が切り離されてもラック軸9の軸方向の移動位置について機能保持が可能となる。
また、DSP34には、当該DSP34が出力する異常信号Sin_erを記録するダイアグ36が接続されている。ダイアグ36は、異常信号Sin_erを記録している場合、当該異常信号Sin_erをセンサECU26に接続される図示しない診断ツールに対して出力する。
また、センサIC26aには、各軸角センサ32a,32bが検出対象とするピニオン軸7の周辺温度、すなわちラックハウジング10の温度tmpを検出する温度センサ30が接続されている。温度センサ30は、温度tmpを検出してセンサIC26a、すなわちDSP34に対して出力する。温度tmpは、DSP34によって実行される上記変換補正のなかで各軸角センサ32a,32bの検出結果が温度補正される際の指標となる指標温度である。
また、センサIC26aには、EPSECU25に対して情報を送信(出力)することで、当該EPSECU25との間でCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じたデジタル通信を可能にするI/F31が接続されている。I/F31は、DSP34から出力されるデジタル信号Sin_d1,Sin_d2をそれぞれピニオン軸7の相対回転角θp1,θp2としてEPSECU25に対して出力する。また、I/F31は、DSP34から異常信号Sin_erが出力される場合、相対回転角θp1,θp2に替えて異常信号Sin_erをEPSECU25に対して出力する。なお、I/F31は、相対回転角θp1,θp2(異常信号Sin_er)の他、位置情報φendについてもEPSECU25に対して出力する。位置情報φendは、DSP34によってI/F31を介して出力されたり、EEPROM35から直接I/F31を介して出力されたりする。
次にEPSECU25の構成について詳しく説明する。
図2に示すように、EPSECU25は、転舵力制御IC(Integrated Circuit)としてのEPS用IC40と、駆動回路41と、受信部としての通信インターフェース(以下、「I/F」という)42とを備えている。EPS用IC40は、マイクロプロセッシングユニット等の演算回路や不揮発性メモリ等を含む電子部品をパッケージングしたものであり、PWM信号等のモータ制御信号Smを出力する。EPS用IC40には、モータ21の相対回転角θm1,θm2と、操舵トルクTrと、車速Vとが入力される。なお、各モータ角センサ27a,27bの検出結果は、元々はアナログ信号であり、EPS用IC40に内蔵されるアンプにて増幅されたアナログ信号として当該EPS用IC40に取り込まれた(入力された)後、デジタル信号に変換されてモータ21の相対回転角θm1,θm2として各種処理に用いられる。また、EPS用IC40には、センサECU26から情報を受信(入力)することで、当該センサECU26との間でCAN(Controller Area Network)等の車載ネットワークを通じた通信を可能にするI/F42が接続されている。そして、EPS用IC40には、ピニオン軸7の相対回転角θp1,θp2(異常信号Sin_er)がI/F42を介して入力される。また、EPS用IC40には、モータ21に通電される各相電流値Iを検出するための電流センサ43が接続されている。また、EPS用IC40には、車両において、EPS1や各種センサ等への電力の供給及び遮断を切り替えるイグニッション信号(IG)の入力時にI/F42を介して位置情報φendも入力される。
EPS用IC40から出力されるモータ制御信号Smは、駆動回路41に入力される。駆動回路41は、直列に接続された一対のスイッチング素子(FET)を基本単位(アーム)として各相に対応する3つのアームを並列接続してなる周知のPWMインバータであり、EPS用IC40の出力するモータ制御信号Smは、駆動回路41を構成する各スイッチング素子のオンduty比を規定する。モータ制御信号Smが各スイッチング素子のゲート端子に印加され、同モータ制御信号Smに応答して各スイッチング素子がオン/オフすることにより、三相の駆動電力がモータ21に供給される。モータ21への駆動電力の電力源は、イグニッション信号が入力されることによって供給されるようになる図示しない車両のバッテリの電力である。
次に、DSP34の機能について説明する。
図3に示すように、DSP34は、各種デジタル変換処理を実行する信号変換部としてのA/D変換処理部50及び補正処理部51と、自己判定を実行する自己判定処理部52とを備えている。
A/D変換処理部50は、アナログ信号Sin_a1,Sin_a2を入力する。A/D変換処理部50は、アナログ信号Sin_a1,Sin_a2を入力すると、アナログ信号Sin_a1,Sin_a2をデジタル信号へ変換するデジタル処理を実行し、変換されたデジタル信号Sin_d1´,Sin_d2´を補正処理部51に対して出力する。
補正処理部51は、デジタル信号Sin_d1´,Sin_d2´と温度tmpとを入力する。補正処理部51は、デジタル信号Sin_d1´,Sin_d2´を入力すると、当該デジタル信号Sin_d1´,Sin_d2´に対して温度tmpに基づき温度補正するデジタル処理を実行し、温度補正されたデジタル信号Sin_d1,Sin_d2をI/F31に対して出力する。なお、補正処理部51は、温度補正を実行する際、EEPROM35に記憶されている温度補正のための特性を示すマップ等を読み出して用いる。
自己判定処理部52は、アナログ信号Sin_a1,Sin_a2を入力する。自己判定処理部52は、アナログ信号Sin_a1,Sin_a2を入力すると、リサージュ図を用いて電圧異常や断線異常等、センサECU26内の異常を自己判定する。すなわち、センサECU26内で電圧の異常な低下や電圧の異常な上昇や断線が生じている場合、アナログ信号Sin_a1,Sin_a2が自己判定処理部52(DSP34)に正しく入力されなくなる結果、検出結果がリサージュ図から逸脱することでセンサECU26内の異常が自己判定される。そして、自己判定処理部52は、自己判定によって異常を自己判定する場合、異常信号Sin_erをI/F31及びダイアグ36に対して出力する。
次に、EPS用IC40の機能について説明する。
図4に示すように、EPS用IC40は、位置情報φendを記憶する情報管理部60を備えている。また、EPS用IC40は、ピニオン軸7の相対回転角θp1,θp2の異常を判定する軸角異常判定を実行する軸角判定部及び異常特定部としての軸角異常判定部61と、モータ21の相対回転角θm1,θm2の異常を判定するモータ角異常判定を実行するモータ角判定部及び異常特定部としてのモータ角異常判定部62とを備えている。また、EPS用IC40は、ピニオン軸7の多回転の絶対回転角φを演算する絶対回転角演算部63と、操舵機構2に付与する転舵力の目標値として電流指令値I*を演算する動作制御部としての電流指令値演算部64と、モータ制御信号Smを生成する動作制御部としての制御信号生成部65とを備えている。
情報管理部60には、イグニッション信号が入力される毎にセンサIC26a(センサECU26)から位置情報φendが入力されて記憶される(センサIC26aに対する取得要求に基づき取得される)。情報管理部60では、イグニッション信号の入力時に入力された位置情報φendが、既に記憶している位置情報φendと一致するか否かに基づき異常の有無を判定する異常判定が実行される。なお、イグニッション信号の入力時に入力された位置情報φendと情報管理部60が既に記憶している位置情報φendとが一致しない場合、位置情報φendに異常が発生していると判定し、情報管理部60は、例えばモータ21の駆動制御を停止する等のフェイルセーフ制御の実行を電流指令値演算部64に対して指示する。
軸角異常判定部61は、ピニオン軸7の相対回転角θp1,θp2と異常信号Sin_erとを入力する。軸角異常判定部61は、相対回転角θp1,θp2を入力すると、これらの比較を通じて相対回転角θp1,θp2の異常、すなわちセンサIC26aにおける各軸角センサ32a,32bの異常を判定する軸角異常判定を実行する。そして、軸角異常判定部61は、ピニオン軸7の相対回転角θpとして相対回転角θp1,θp2のうち異常のない値(相対回転角)を絶対回転角演算部63に対して出力する。なお、軸角異常判定部61は、イグニッション信号が入力される毎に軸角異常判定を実行し、それ以外では当該軸角異常判定で異常のなかった値(相対回転角)を絶対回転角演算部63に対して出力する。また、軸角異常判定部61は、異常信号Sin_erを入力すると、例えばモータ21の駆動制御を停止する等のフェイルセーフ制御の実行を電流指令値演算部64に対して指示する。また、軸角異常判定部61は、軸角異常判定の結果、異常がある場合、機能制限信号Sin_rgを電流指令値演算部64に対して出力する。
また、モータ角異常判定部62は、モータ21の相対回転角θm1,θm2を入力する。モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1,θm2を入力すると、これらの比較を通じて相対回転角θm1,θm2の異常、すなわちモータ角センサ27a,27bの異常を判定するモータ角異常判定を実行する。そして、モータ角異常判定部62は、モータ21の相対回転角θmとして相対回転角θm1,θm2のうち異常のない値(相対回転角)を絶対回転角演算部63及び制御信号生成部65に対して出力する。なお、モータ角異常判定部62は、イグニッション信号が入力される毎にモータ角異常判定を実行し、その以外では当該モータ角異常判定で異常のなかった値(相対回転角)を絶対回転角演算部63に対して出力する。また、モータ角異常判定部62は、モータ角異常判定の結果、異常がある場合、機能制限信号Sin_rgを電流指令値演算部64に対して出力する。
絶対回転角演算部63は、ピニオン軸7の相対回転角θpとモータ21の相対回転角θmとを入力する。絶対回転角演算部63は、相対回転角θpと相対回転角θmとを入力すると、ピニオン軸7の絶対回転角φを演算する。
ここで、絶対回転角φの演算について説明する。
ピニオン軸7の相対回転角θpと、モータ21の相対回転角θmとは、共に1XのMRセンサ(各軸角センサ32a,32b、各モータ角センサ27a,27b)によって検出される。一方、各軸角センサ32a,32bと各モータ角センサ27a,27bとのそれぞれの検出対象であるピニオン軸7とモータ21の出力軸21aとは、ラック軸9に対する減速比が異なっている。これは、ピニオン軸7がラック軸9に直接噛合されているのに対して、モータ21の出力軸21aがラック軸9に減速機構22を介して噛合されているからである。
これにより、例えば、図5に示すように、縦軸に相対回転角θp(実線)を示し、横軸にピニオン軸7の多回転の絶対回転角φを示す場合、ピニオン軸7の相対回転角θp(実線)の波形の位相及びモータ21の相対回転角θm(ここでは、便宜上図示しない)の波形の位相が回転とともにずれていく。こうした波形の位相のずれは、例えば、ピニオン軸7が1回転するのにモータ21の出力軸21aが約16.9回転するように設定する場合に生じる。ピニオン軸7とモータ21の出力軸21aとのラック軸9に対するそれぞれの減速比の組み合わせは、それぞれに現れる波形の位相が回転とともにずれるような組み合わせが選択されている。なお、ピニオン軸7のラック軸9に対する減速比は、ピニオン軸7(ピニオン歯7a)の歯数及びラック軸9(ラック歯9a)の歯数の比(ピニオン軸7の1回転におけるラック軸9の移動量)によって定まる。また、モータ21の出力軸21aのラック軸9に対する減速比は、モータ21の出力軸21aに連結されるウォーム軸22aの歯数、及びラック軸9(ラック歯9a)の歯数の比(モータ21の出力軸21aの1回転におけるラック軸9の移動量)によって定まる。
上記例の場合、図5の破線に示すように、角度差(|θp−θm|)は、絶対回転角φが大きくなるにつれて小さくなる傾向を示す。なお、図5の黒点は、N回転目(N:自然数)を示す。これを用いて絶対回転角演算部63は、相対回転角θpと相対回転角θmとの角度差(|θp−θm|)を算出し、角度差(|θp−θm|)に応じて絶対回転角φを算出する。そして、絶対回転角演算部63は、ピニオン軸7の絶対回転角φを電流指令値演算部64に対して出力する。なお、角度差(|θp−θm|)と絶対回転角φとを対応付けた情報は、絶対回転角演算部63の所定の記憶領域に予め記憶されている。
絶対回転角φは、ピニオン軸7、すなわちステアリングホイール3(操舵軸4)の5回転分の「0°〜1800°」の範囲でラック軸9の移動位置に換算可能に設定されている。例えば、ラック軸9が車両の車幅方向の中心に位置する、すなわちステアリングホイール3の中立位置であって、転舵輪12が車両の前方に真っ直ぐ向いている移動位置は、絶対回転角φとして「900°」によって換算されるようにする。この場合、絶対回転角φは、「900°」を基準に「0°」に向かって減少する範囲で、A方向のストロークエンドまでの移動位置に換算される。一方、絶対回転角φは、「900°」を基準に「1800°」に向かって増加する範囲で、B方向のストロークエンドまでの移動位置に換算される。そして、絶対回転角φが「0°〜1800°」を最大範囲として、A方向限界φend(A)が「5°」、B方向限界φend(B)が「1795°」のように設定される場合、ラック軸9の移動範囲は、絶対回転角φの「5°〜1795°」の範囲ということとなり、ピニオン軸7の4回転以上(約5回転)分ということとなる。
電流指令値演算部64は、操舵トルクTrと車速Vと絶対回転角φと機能制限信号Sin_rgとを入力する。電流指令値演算部64は、操舵トルクTrと車速Vと絶対回転角φとを入力すると、絶対回転角φに応じて操舵機構2にアシストトルク及び反力トルクのいずれを付与するかを判断するとともに、操舵機構2に付与するアシストトルクや反力トルクのモータの制御量たる目標値として電流指令値I*を演算する。また、電流指令値演算部64は、機能制限信号Sin_rgを入力すると、転舵力のうちアシストトルクの出力、すなわちEPS1の出力を機能制限信号Sin_rgを入力していない通常制御時と比較して抑えるように機能制限するフェイルセーフ制御を実行する。
制御信号生成部65は、モータ21の相対回転角θmと各相電流値Iと電流指令値I*とを入力する。制御信号生成部65は、電流指令値I*を入力すると、モータ21の相対回転角θmを使用して各相電流値Iと目標値(電流指令値I*)との偏差を求め、この偏差を解消するように電流フィードバック(F/B)制御を実行する。また、制御信号生成部65は、電流フィードバック(F/B)制御を実行することによりモータ制御信号Smを生成する。
次に、軸角異常判定部61及びモータ角異常判定部62の機能についてさらに詳しく説明する。なお、軸角異常判定部61及びモータ角異常判定部62は、イグニッション信号の入力後、相対回転角θp1,θp2の最初の入力後、制御周期(例えば、200μsから2ms)毎に周期処理を実行することによって、以下の軸角異常判定やモータ角異常判定にかかる処理を実行する。こうしたイグニッション信号の入力後しばらくは、モータ21が停止又は低回転(定常回転に対して低い回転)の状態であって、軸角異常判定やモータ角異常判定にかかる処理によって情報の伝達遅れ等が生じたとしても比較的にモータ21の動作の制御、すなわちEPS1に関わる制御への影響が小さい状態と言える。
まず、軸角異常判定部61について説明する。
図6に示すように、軸角異常判定部61は、イグニッション信号の入力後、相対回転角θp1,θp2の最初の入力時、それぞれの値自体を比較して異常があるか否かを判断する(S100)。S100にて、軸角異常判定部61は、相対回転角θp1,θp2の差(|θp1−θp2|)と所定閾値とを比較し、相対回転角θp1,θp2の差が所定閾値よりも大きい場合に異常と判定する一方、相対回転角θp1,θp2の差が所定閾値以下の場合に異常でないと判断する。なお、所定閾値には、相対回転角θp1,θp2(各軸角センサ32a,32b)の個体差を考慮していくらかの許容範囲を設けて異常であるか否かを判断することができ、アンプ33a,33bの増幅率が微小変化を伴うことにより生じてしまう検出結果の微小誤差についても異常と判断することができる範囲の値が設定される。
軸角異常判定部61は、相対回転角θp1,θp2が異常でないと判断する場合(S100:NO)、ピニオン軸7の相対回転角θpとして基本的に相対回転角θp1を出力し(S110)、軸角異常判定にかかる処理を終了する。この場合、相対回転角θp1,θp2が異常でないことから機能制限信号Sin_rgが出力されない。そのため、それ以後の電流指令値演算部64では、通常制御が実行される。こうして出力される相対回転角θp1は、モータ角異常判定における期待角の演算の際にも用いられる。
一方、軸角異常判定部61は、相対回転角θp1,θp2が異常と判断する場合(S100:YES)、そのときのモータ21の相対回転角θmに基づき相対回転角θp1,θp2の期待角を演算する(S120)。S120にて、軸角異常判定部61は、モータ角異常判定によって異常でないと判断された場合に出力されることとなるモータ21の相対回転角θmを用いて、そのときの相対回転角θmに対して期待されるピニオン角の相対回転角として予め定められた期待角を演算する。この場合、モータ21がいくらかは回転している可能性があるため、モータ21の角速度を加味した速度予測角が期待角として演算される。
続いて、軸角異常判定部61は、相対回転角θp1,θp2のそれぞれと期待角とをそれぞれ比較し、相対回転角θp1,θp2のうち相対回転角θp1が異常であるか否かを判断する(S130)。S130にて、軸角異常判定部61は、相対回転角θp1,θp2のうち期待角との差が大きい(期待から離れている)方の相対回転角を特定し、異常のある相対回転角θp1,θp2、すなわち各軸角センサ32a,32bを特定する。
軸角異常判定部61は、相対回転角θp1に異常があることを特定する、すなわち相対回転角θp2が異常でないことを特定する場合(S130:YES)、ピニオン軸7の相対回転角θpとして異常でない相対回転角θp2を出力し(S140)、軸角異常判定にかかる処理を終了する。S140にて、軸角異常判定部61は、相対回転角θp1が異常であることから機能制限信号Sin_rgを出力する。そのため、それ以後の電流指令値演算部64では、EPS1の出力を通常制御時と比較して抑えるように機能制限するフェイルセーフ制御が実行される。こうして出力される相対回転角θp2は、モータ角異常判定における期待角の演算の際にも用いられる。
一方、軸角異常判定部61は、相対回転角θp1が異常でないことを特定する、すなわち相対回転角θp2に異常があることを特定する場合(S130:NO)、ピニオン軸7の相対回転角θpとして異常でない相対回転角θp1を出力し(S150)、軸角異常判定にかかる処理を終了する。S150にて、軸角異常判定部61は、相対回転角θp2が異常であることから機能制限信号Sin_rgを出力する。そのため、それ以後の電流指令値演算部64では、EPS1の出力を通常制御時と比較して抑えるように機能制限するフェイルセーフ制御が実行される。こうして出力される相対回転角θp1は、モータ角異常判定における期待角の演算の際にも用いられる。
軸角異常判定部61は、軸角異常判定にかかる処理を行った後、すなわちイグニッション信号の入力後、相対回転角θp1,θp2の2回目以後の入力時、ピニオン軸7の相対回転角θpとして先に実行した軸角異常判定のS110,S140,S150にて出力した相対回転角θp1,θp2のいずれかを出力することとなる。
次に、モータ角異常判定部62について説明する。
図7に示すように、モータ角異常判定部62は、イグニッション信号の入力後、相対回転角θm1,θm2の最初の入力時、それぞれの値自体を比較して異常があるか否かを判断する(S200)。S200にて、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1,θm2の差(|θm1−θm2|)と所定閾値とを比較し、相対回転角θm1,θm2の差が所定閾値よりも大きい場合に異常と判定する一方、相対回転角θm1,θm2の差が所定閾値以下の場合に異常でないと判定する。なお、所定閾値には、相対回転角θm1,θm2(各モータ角センサ27a,27b)の個体差を考慮していくらかの許容範囲を設けて異常であるか否かを判断することができ、EPS用IC40に内蔵されるアンプの増幅率が微小変化を伴うことにより生じてしまう検出結果の微小誤差についても異常と判断することができる範囲の値が設定される。
モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1,θm2が異常でないと判断する場合(S200:NO)、モータ21の相対回転角θmとして基本的に相対回転角θm1を出力し(S210)、モータ角異常判定にかかる処理を終了する。この場合、相対回転角θm1,θm2が異常でないことから機能制限信号Sin_rgが出力されない。そのため、それ以後の電流指令値演算部64では、通常制御が実行される。こうして出力される相対回転角θm1は、軸角異常判定における期待角の演算の際にも用いられる。
一方、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1,θm2が異常と判断する場合(S200:YES)、そのときのピニオン軸7の相対回転角θpに基づき相対回転角θm1,θm2の期待角を演算する(S220)。S220にて、モータ角異常判定部62は、軸角異常判定によって異常でないと判断された場合に出力されることとなるピニオン軸7の相対回転角θpを用いて、そのときの相対回転角θpに対して期待されるモータ21の相対回転角として予め定められた期待角を演算する。この場合、モータ21がいくらかは回転している可能性があるため、モータ21の角速度を加味した速度予測角が期待角として演算される。
続いて、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1,θm2のそれぞれと期待角とをそれぞれ比較し、相対回転角θm1,θm2のうち相対回転角θm1が異常であるか否かを判断する(S230)。S230にて、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1,θm2のうち期待角との差が大きい(期待から離れている)方の相対回転角を特定し、異常のある相対回転角θm1,θm2、すなわち各モータ角センサ27a,27bを特定する。
モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1に異常があることを特定する、すなわち相対回転角θm2が異常でないことを特定する場合(S230:YES)、モータ21の相対回転角θmとして異常でない相対回転角θm2を出力し(S240)、モータ角異常判定にかかる処理を終了する。S240にて、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1が異常であることから機能制限信号Sin_rgを出力する。そのため、それ以後の電流指令値演算部64では、EPS1の出力を通常制御時と比較して抑えるように機能制限するフェイルセーフ制御が実行される。こうして出力される相対回転角θm2は、軸角異常判定における期待角の演算の際にも用いられる。
一方、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm1が異常でないことを特定する、すなわち相対回転角θm2に異常がことを特定する場合(S230:NO)、モータ21の相対回転角θmとして異常でない相対回転角θm1を出力し(S250)、モータ角異常判定にかかる処理を終了する。S250にて、モータ角異常判定部62は、相対回転角θm2が異常であることから機能制限信号Sin_rgを出力する。そのため、それ以後の電流指令値演算部64では、EPS1の出力を通常制御時と比較して抑えるように機能制限するフェイルセーフ制御が実行される。こうして出力される相対回転角θm1は、軸角異常判定における期待角の演算の際にも用いられる。
モータ角異常判定部62は、モータ角異常判定にかかる処理を行った後、すなわちイグニッション信号の入力後、相対回転角θm1,θm2の2回目以後の入力時、モータ21の相対回転角θmとして先に実行したモータ角異常判定のS210,S240,S250にて出力した相対回転角θm1,θm2のいずれかを出力することとなる。
次に、電流指令値演算部64の機能についてさらに詳しく説明する。なお、電流指令値演算部64は、制御周期(例えば、200μsから2ms)毎に周期処理を実行することによって、以下の処理を実行する。また、電流指令値演算部64は、情報管理部60によって位置情報φendに異常が発生していることが指示される場合、フェイルセーフ制御として以下の処理を実行しない。
図8に示すように、電流指令値演算部64は、定期的(制御周期毎)にピニオン軸7の絶対回転角φを検出(取得)する(S300)。絶対回転角φを検出した電流指令値演算部64は、情報管理部60から位置情報φendを読み出して、当該絶対回転角φがA方向限界φend(A)又はB方向限界φend(B)と一致しないか否かを判断する(S310)。S310にて、電流指令値演算部64は、ラック軸9が図1中におけるA方向及びB方向のいずれかのストロークエンドに達しているか否かを判断する。
電流指令値演算部64は、ラック軸9が図1中におけるA方向及びB方向のいずれのストロークエンドにも達していない場合(S310:YES)、転舵力としてアシストトルクを付与するためのアシスト制御を実行する(S320)。
具体的に、S320にて、電流指令値演算部64は、絶対回転角φの他、入力している操舵トルクTr及び車速Vに基づき、操舵トルクTrが大きく(負荷が高く)なるほど電流指令値I*を大きい値、すなわち付与するアシストトルクとして大きい目標値を設定する。また、電流指令値演算部64は、車速Vが速くなるほど、操舵トルクTrに対する電流指令値I*、すなわち付与するアシストトルクの変化勾配(アシスト勾配)を小さくする通常制御を実行する。
一方、電流指令値演算部64は、絶対回転角φが位置情報φendと一致はしないが当該位置情報φend近傍の所定絶対回転角から位置情報φendに近付く場合、絶対回転角φが位置情報φendに近付くほど電流指令値I*、すなわち付与するアシストトルクが減少するように目標値を設定する。この場合、電流指令値演算部64は、絶対回転角φが位置情報φend近傍の所定絶対回転角から位置情報φendに近付くほど、ステアリング操作のための操舵トルクTrが大きく(ステアリング操作が重く)なる通常制御におけるアシスト減衰制御を実行する。
また、電流指令値演算部64は、EPS1の出力を通常制御時と比較して抑えるように機能制限するフェイルセーフ制御を実行する場合、絶対回転角φの他、入力している操舵トルクTr及び車速Vに基づき設定する目標値(アシストトルク)に対してそれよりも低い目標値(小さい電流指令値I*)を設定する。例えば、電流指令値演算部64は、目標値(電流指令値I*)の上限値を通常制御時と比較して半分以下等のように低く設定したり、通常制御時の目標値を書き換える等してEPS1の出力を制限する。
また、電流指令値演算部64は、ラック軸9が図1中におけるA方向及びB方向のいずれかのストロークエンドに達する場合(S310:NO)、転舵力として反力トルクを付与するための電子ストッパ制御を実行する(S330)。
具体的に、S330にて、電流指令値演算部64は、S310で達していると判断したストロークエンド側にラック軸9がそれ以上移動不能となるように、ラック軸9の移動方向に生じる操舵トルクTrよりも大きい反力トルク(反対方向へ向けたトルク)となる電流指令値I*を設定する。この場合、S310で達していると判断されたストロークエンド側にラック軸9を移動させる方向へのステアリング操作が規制される。なお、電流指令値演算部64は、駆動回路41における3相の2つの通電相と1つの非通電相とを固定するように電流指令値I*を設定することで、ラック軸9を移動不能にしてもよい。
以上に説明した本実施形態によれば、以下に示す作用及び効果を得ることができる。
(1)EPS用IC40において、センサIC26aを構成する各軸角センサ32a,32bの検出結果(相対回転角θp1,θp2)の異常を判定する軸角異常判定が実行される。こうしたEPS用IC40における軸角異常判定では、各軸角センサ32a,32bの検出結果の値自体を比較するようにすることで、各軸角センサ32a,32bの検出結果が少なくとも同一でなければ異常と判断することができる。そして、本実施形態では、アンプ33a,33bの増幅率が微小変化を伴うことにより生じてしまう検出結果の微小誤差についても異常と判断することができるように、異常と判定する範囲を設定している。そのため、例えば、センサIC26aにおける自己判定のようなリサージュ図を用いる場合と比較して異常と判定し易くすることができる。したがって、各軸角センサ32a,32bの異常判定の精度向上を図ることができる。
(2)また、上述したように各軸角センサ32a,32bの検出結果に異常があると判断される場合においても、各軸角センサ32a,32bのなかに異常でない軸角センサが含まれていることが考えられる。すなわちこの場合、ピニオン軸7の相対回転角θpを検出する軸角センサの異常判定の精度向上を図るだけでなくピニオン軸7の相対回転角θpを検出する軸角センサの冗長化の実現も可能になる。したがって、操舵制御装置の信頼性の向上を図ることができる。
(3)センサIC26aには、温度センサ30が接続されている。そして、センサIC26aでは、DSP34における補正処理部51において、デジタル信号Sin_d1´,Sin_d2´に対して温度tmpに基づき温度補正するデジタル処理が実行される。
そのため、各軸角センサ32a,32bが検出対象とするピニオン軸7の周辺温度に基づく検出誤差を好適に補正することができる。これにより、各軸角センサ32a,32bにおけるピニオン軸7の相対回転角の検出の精度向上を図ることができ、操舵制御装置の信頼性の向上を図ることができる。
(4)EPS用IC40において、各モータ角センサ27a,27bの検出結果(相対回転角θm1,θm2)の異常を判定するモータ角異常判定が実行される。こうしたEPS用IC40におけるモータ角異常判定では、各モータ角センサ27a,27bの検出結果の値自体を比較するようにすることで、各モータ角センサ27a,27bの検出結果が少なくとも同一でなければ異常と判断することができる。そして、本実施形態では、EPS用IC40に内蔵されるアンプの増幅率が微小変化を伴うことにより生じてしまう検出結果の微小誤差についても異常と判断することができるように、異常と判定する範囲を設定している。そのため、例えば、センサIC26aにおける自己判定のようなリサージュ図を用いる場合と比較して異常と判定し易くすることができる。したがって、各モータ角センサ27a,27bの異常判定の精度向上を図ることができる。
(5)また、上述したように各モータ角センサ27a,27bの検出結果に異常があると判断される場合においても、各モータ角センサ27a,27bのなかに異常でないモータ角センサが含まれていることが考えられる。すなわちこの場合、モータ21の相対回転角θmを検出するモータ角センサの異常判定の精度向上を図るだけでなくモータ21の相対回転角θmを検出するモータ角センサの冗長化の実現も可能になる。したがって、操舵制御装置の信頼性の向上を図ることができる。
(6)本実施形態では、各軸角センサ32a,32bについて異常が判定される場合、異常である軸角センサを特定することができる。また、各モータ角センサ27a,27bについて異常が判定される場合、異常であるモータ角センサを特定することができる。これにより、EPS用IC40では、軸角異常判定部61やモータ角異常判定部62によって異常が判定されたとしても異常でない軸角センサやモータ角センサの検出結果を用いて、絶対回転角φの演算やモータ21の動作の制御を継続させることができる。したがって、絶対回転角φの演算やモータ21の動作の制御の精度向上を図るだけでなく絶対回転角φの演算やモータ21の動作の制御のバックアップの実現も可能になる。したがって、操舵制御装置の信頼性の向上を図ることができる。
(7)そして、こうした操舵制御装置の信頼性の向上を図るための構成として、本実施形態では、センサIC26aとEPS用IC40とがそれぞれ独立したECUとしてEPS1に備えられている。そのため、独立したECUで操舵制御装置の信頼性の向上を図るための機能(各種判定部等)を分担することができる。したがって、より多くの異常の状況に対応することができ、異常の検出精度をより好適に高めることができる。
(8)このように、本実施形態では、異常の検出精度が高められた各軸角センサ32a,32bや各モータ角センサ27a,27bの検出結果から演算されるピニオン軸7の絶対回転角φによっては、ラック軸9の軸方向の移動位置を高精度で検出することができる。この場合、高い精度で検出されたラック軸9の軸方向の移動位置について、ラック軸9のストロークエンドに関わって電流指令値演算部64がアシスト制御(S320)として、アシスト減衰制御を実行することができる。
また、本実施形態では、高精度に検出されたラック軸9の軸方向の移動位置について、ラック軸9のストロークエンドに関わって電流指令値演算部64が電子ストッパ制御(S330)を実行することができる。
すなわち、図9(a)に示すように、ラック軸9が図1中におけるA方向のストロークエンドに達する場合、電子ストッパ制御によりA方向のストロークエンド側にラック軸9がそれ以上移動不能、すなわちA方向のストロークエンド側にラック軸9を移動させる方向へのステアリング操作を不能とする状態が制御的に実現される。この場合、図9(b)に示すように、A方向のストロークエンド側にラック軸9が移動することによって転舵する側への転舵輪12の転舵を不能とする状態が制御的に実現される。
また、図10(a)に示すように、ラック軸9が図1中におけるB方向のストロークエンドに達する場合、電子ストッパ制御によりB方向のストロークエンド側にラック軸9がそれ以上移動不能、すなわちB方向のストロークエンド側にラック軸9を移動させる方向へのステアリング操作を不能とする状態が制御的に実現される。この場合、図10(b)に示すように、B方向のストロークエンド側にラック軸9が移動することによって転舵する側への転舵輪12の転舵を不能とする状態が制御的に実現される。
このように、本実施形態では、ラック軸9のストロークエンドを制御的に実現することができる。一方、ラック軸9のストロークエンドを制御的に実現することができない場合、例えば、ラック軸9をラックハウジング10の軸方向に移動可能に収容し、ラック軸9のIBJ9bをラックハウジング10の段差部10cに突き当てる等、機械的に実現しなければいけない。これに対し、本実施形態のように、ラック軸9のストロークエンドを制御的に実現する場合、例えば、ラック軸9のIBJ9bがラックハウジング10の段差部10cに突き当たらないようにすることが可能となる。
すなわち、図9(a)に示すように、ラック軸9が図1中におけるA方向のストロークエンドに達する場合、ラック軸9のIBJ9bとラックハウジング10の段差部10cとの間に隙間Laを設けることができる。
また、図10(a)に示すように、ラック軸9が図1中におけるB方向のストロークエンドに達する場合、ラック軸9のIBJ9bとラックハウジング10の段差部10cとの間に隙間Lb(本実施形態では、隙間Laと同一長さ)を設けることができる。
これにより、ラック軸9のIBJ9bがラックハウジング10の段差部10cに突き当たる際に生じうる衝撃音をなくすことができる他、操舵機構2の強度として当該突き当たる際の衝撃を考慮する必要がなくなり、操舵機構2の強度を落として低重量化を図ることができる。
(第2実施形態)
次に、操舵制御装置の第2実施形態について説明する。なお、既に説明した実施形態と同一構成などは、同一の符号を付すなどして、その重複する説明を省略する。
図11に示すように、本実施形態のセンサIC26aは、各軸角センサ32a,32bのそれぞれに一つずつ対応付けられた第1及び第2DSP34a,34bを有している。なお、各DSP34a,34bは、それぞれに各種デジタル変換処理を実行するA/D変換処理部50及び補正処理部51と、自己判定を実行する自己判定処理部52とを備えている。
すなわち、第1軸角センサ32aから出力されるアナログ信号Sin_a1は、アンプ33aで増幅された後、第1DSP34aに入力される。第1DSP34aは、第1軸角センサ32aから出力されるアナログ信号Sin_a1をデジタル信号Sin_d1に変換補正する各種デジタル信号処理を実行し、デジタル信号Sin_d1を出力する。また、第2軸角センサ32bから出力されるアナログ信号Sin_a2は、アンプ33bで増幅された後、第2DSP34bに入力される。第2DSP34bは、第2軸角センサ32bから出力されるアナログ信号Sin_a2をデジタル信号Sin_d2に変換補正する各種デジタル信号処理を実行し、デジタル信号Sin_d2を出力する。
また、各DSP34a,34bは、センサECU26における電圧異常や断線異常等を判定する自己判定をそれぞれ実行し、異常を判定する場合には異常信号Sin_erをそれぞれ出力する。そして、各DSP34a,34bには、各種デジタル信号処理や自己判定で必要となる情報が記憶されているEEPROM35が接続されている。また、各DSP34a,34bには、ダイアグ36が接続されている。また、各DSP34a,34bには、温度センサ30が接続されている。
以上に説明した本実施形態によれば、上記第1実施形態の(1)〜(8)の作用及び効果に加えて、以下の作用及び効果を得ることができる。
(9)EPS用IC40において、各軸角センサ32a,32bの検出結果に異常があると判断される場合、各軸角センサ32a,32bの異常の他、各DSP34a,34b、すなわちA/D変換処理部50や補正処理部51の異常も考えられる。この場合、各DSP34a,34bが各軸角センサ32a,32bのそれぞれに一つずつ対応付けられていることから、各DSP34a,34bのいずれか自体に異常が生じたとしても異常でないDSPを用いて、ピニオン軸7の相対回転角の検出を継続させることができる。したがって、ピニオン軸7の相対回転角θpを検出する軸角センサの異常判定の精度向上を図りつつDSPの冗長化の実現も可能になる。したがって、操舵制御装置の信頼性の向上を図ることができる。
なお、上記各実施形態は、これを適宜変更した以下の形態にて実施することもできる。
・図12に示すように、第1実施形態において、センサIC26aは、複数(ここでは2個)の第1及び第2温度センサ30a,30bを有するようにしてもよい。また、各温度センサ30a,30bの検出結果(温度tmp1,tmp2)の異常の判定は、各軸角センサ32a,32bの検出結果の異常を判断する場合と同様に、各温度センサ30a,30bの検出結果の値自体を比較するようにすることで、各温度センサ30a,30bの検出結果の異常を判断するようにしてもよい。これにより、温度センサの冗長化を実現することができ、操舵制御装置の信頼性の向上をより好適に図ることができる。なお、温度センサの冗長化の構成は、第2実施形態においても同様に採用することができる。
・図13に示すように、各実施形態において、EPS1は、複数(ここでは2系統)の第1及び第2センサECU26,26´を備えるようにしてもよい。この場合、ピニオン軸7の相対回転角θp1,θp2,θp1´,θp2´は、第1及び第2センサECU26,26´の両方からEPSECU25に入力可能になっていてもよい。また、相対回転角θp1,θp2,θp1´,θp2´は、基本的に第1センサECU26からEPSECU25に入力され、当該第1センサECU26に異常(例えば、軸角センサの全てが異常となる等)が生じた場合に第2センサECU26´からEPSECU25に入力されるようになっていてもよい。これにより、センサECUの冗長化を実現することができ、操舵制御装置の信頼性の向上をより好適に図ることができる。
・図14に示すように、各実施形態において、EPS1は、複数(ここでは2系統)の第1及び第2モータ系統250,250´を備えるようにしてもよい。なお、各モータ系統250,250´は、それぞれにEPSECU25,25´、モータ21,21´、第1モータ角センサ27a,27a´、第2モータ角センサ27b,27b´、及び電流センサ43,43´を少なくとも含んで構成される。これにより、モータ系統の冗長化を実現することができ、操舵制御装置の信頼性の向上をより好適に図ることができる。また、この場合、少なくともEPSECU25のみ冗長化を実現するようにしてもよく、モータ21、各モータ角センサ27a,27b、及び電流センサ43は共通であってもよい。
・各実施形態において、温度センサは、センサECUの外部に設けられるようにしてもよいし、EPSECUが備えるようにしてもよい。その他、温度センサは、センサECU及びEPSECUのそれぞれが備えるようにしてもよい。
・各実施形態において、EPSECU25は、温度tmpを入力するように構成してもよい。この場合、温度tmpに基づき温度補正するデジタル処理は、EPSECU25で実行するようにすればよい。上記図12で示したように、温度センサの冗長化を実現する場合、各温度センサ30a,30bの検出結果(温度tmp1,tmp2)の異常の判定についてもEPSECU25で実行されるようにしてもよい。
・各実施形態において、各軸角センサ32a,32bは、アンプやDSPとともにIC化されていて自己判定を少なくとも実行可能に構成されていればよく、EEPROMやダイアグと合わせてIC化されていなかったり、温度センサ30やI/F31と合わせてECU化されていなかったりしてもよい。
・各実施形態において、軸角異常判定やモータ角異常判定では、相対回転角θp1,θp2や相対回転角θm1,θm2の異常を検出可能であればよく、異常がある対象を特定するまでに至っていなくてもよい。
・各実施形態において、軸角異常判定やモータ角異常判定は、イグニッション信号の入力に関係なく任意のタイミングで実行されたり、絶対回転角φが演算される毎に実行されたりしてもよい。
・各実施形態において、軸角センサは、複数であればよく、例えば、3個以上であってもよい。
・各実施形態において、モータ角センサは、3個以上であってもよい一方、単数であってもよい。なお、モータ角センサが単数の場合、モータ角異常判定としては、リサージュ図を用いた異常判定を実行するようにすればよい。
・各実施形態において、温度センサを設けていなくてもよい。すなわち、温度補正については実行しないようにしてもよい。
・各実施形態において、各軸角センサ32a,32bの検出結果は、EPS用IC40に内蔵されるアンプにて増幅されたアナログ信号として当該EPS用IC40に取り込まれた(入力された)後、デジタル信号に変換されてピニオン軸7の相対回転角θp1,θp2として各種処理に用いられるように構成されていてもよい。
・各実施形態において、ピニオン軸7の絶対回転角φの検出には、各モータ角センサ27a,27bに替えてステアリングホイール3、すなわち操舵軸4の回転数を検出可能な舵角センサを用いるようにしてもよい。その他、電動パワーステアリング装置として、コラムアシスト型に適用する場合、コラム軸5に設けられるコラムアシスト用のモータのモータ角センサを用いるようにしてもよい。この場合のモータ角センサは、スリープカウント機能を持つものであって、検出精度を低く抑えてステアリングホイール3、すなわち操舵軸4の回転角を検出可能にしたものが望ましい。その他、ピニオン軸23の相対回転角を検出可能なピニオン角センサを設けるようにしてもよい。この場合のピニオン角センサとしては、センサECU26と軸倍角を異ならせる等してピニオン軸7の絶対回転角φを検出可能になっていればよい。
・各実施形態において、トルクセンサ28は、コラム軸5に設けるようにしてもよい。この場合、センサECU26は、ピニオン軸7の上流側、すなわちインターミディエイト軸6側に設けるようにしてもよい。
・各実施形態において、EPS用IC40で軸角異常判定される相対回転角としては、ピニオン軸7に替えてステアリングホイール3や操舵軸4(コラム軸5、インターミディエイト軸6)やピニオン軸23等の相対回転角を用いるようにしてもよい。
・各実施形態において、ラック軸9の軸方向の移動位置に換算可能な情報を用いた制御としては、アシスト制御(S320)及び電子ストッパ制御(S330)の少なくともいずれかを実行可能であればよい。
・各実施形態において、ステアリングホイール3の操舵角に応じたアシスト制御、すなわち自動操舵制御を実行する場合には、ピニオン軸7の絶対回転角φを用いるようにしてもよく、これにより高精度で検出される転舵軸の軸方向の移動位置を用いて自動操舵制御を行うことができる。したがって、自動操舵制御の信頼性の向上を図ることができる。
・各実施形態において、位置情報φendは、ラック軸9の軸方向の移動範囲を特定可能であればよく、中点を示す情報であってもよく、こうした中点を示す情報からラック軸9のストロークエンドを特定可能にすることもできる。また、位置情報φendとしては、中点から図1中におけるA方向又はB方向のストロークエンドまでの差分を示す情報であってもよい。この場合には、図1中におけるA方向又はB方向のストロークエンドまでの何れかのみの情報を有していればよい。
・各実施形態において、位置情報φendの設定の手法としては、ラック軸9にバーコード(記号)等の物理的な記録を施すようにし、この物理的な記録をセンサIC26aやEPSECU25に読み込ませることで、EPS用IC40の情報管理部60が位置情報φendを取得するようにしてもよい。この場合、上記物理的な記録は、ラック軸9が使用される車種のコード等の情報であればよく、ピニオン軸7の絶対回転角φを示す情報でなくてもよい。この場合、センサIC26aにも上記物理的な記録に対応する情報として、ラック軸9が使用される車種のコード等の情報が記憶される。また、EPSECU25には、車種のコード等の情報と位置情報φendとを対応付けた情報が予め記憶されるようにすればよい。
・各実施形態において、各モータ角センサ27a,27bは、IC化されていてもよいし、センサECU26と同様、ECU化されていてもよい。この場合、アンプやDSP等、センサECU26と同様の構成を有するようにすればよい。また、各モータ角センサ27a,27bは、EPSECU25の内部に設けられていてもよい。
・各実施形態において、各軸角センサ32a,32bや各モータ角センサ27a,27bは、ホール素子を用いたセンサや、レゾルバ等の他の方式を適用してもよい。また、MR素子の種類を変更してもよく、各軸角センサ32a,32bと各モータ角センサ27a,27bとで、MR素子の種類(AMR素子、TMR素子、GME素子等)を異ならせてもよい。これにより、各軸角センサ32a,32bと各モータ角センサ27a,27bとで軸倍角が異なるようになる場合、軸倍角に応じてそれぞれの検出対象における減速比を調整する等すればよい。
・各実施形態では、デュアルピニオン型の電動パワーステアリング装置に適用したが、ピニオン軸7(第1ラックアンドピニオン機構8)に転舵力を付与するピニオン型や、ラックパラレル型等のラックアシスト型の電動パワーステアリング装置への適用も可能である。例えば、ラックパラレル型の電動パワーステアリング装置では、ラック軸9への転舵力の付与にボールねじ機構を用いることになる。この場合、モータ21の出力軸21aのラック軸9に対する減速比は、ボールねじ機構のボールねじのねじ溝のリード、駆動及び従動プーリの歯数の比、モータ21の出力軸21aの1回転におけるラック軸9の移動量等によって定まる。その他、電動パワーステアリング装置に限らず、例えばステアバイワイヤ式の操舵装置等にも適用可能である。
・各変形例は、互いに組み合わせて適用してもよく、例えば、上記図12や上記図13で示したセンサECUの構成と、上記図14で示したEPSECU(モータ系統)の構成とは、互いに組み合わせて適用してもよい。