JP6662575B2 - 硬化層深さ測定装置及び硬化層深さ測定方法 - Google Patents
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Description
硬化層の深さに応じて機械的特性が変化するため、予め設定した処理条件で焼入れを行い、さらに、製造後の品質検査を行っている。
従来、ワークに対し適正な焼入加工が施されたかを検査する方法として、任意に抽出したワークを切断して検査する方法があったが、この方法の場合、検査に時間を要する上に検査対象のワークは製品として使用できなくなる。
しかし、常温まで温度が下がるには時間がかかるので、効率的に硬化層の深さ測定をすることが望まれている。
特に、ワークの焼入れ等の熱処理をした直後に硬化層の深さ測定が行えれば、インラインでの測定が可能となる。
検出コイルで検出される電圧はワーク表面に形成された硬化層の深さに応じて異なるものであり、この検出電圧に基づいて常温下の硬化層の深さを演算部で演算する。
ここで、常温とは、加熱工程で加熱されたワークの温度が自然放熱、ファン等による強制冷却、その他の手段で低下した温度である。常温は、ワークの硬化層深さを測定する環境、例えば、夏か冬か、冷暖房があるか等によるが、例えば、大気の標準的な温度として10℃から30℃を意味する。
本発明では、加熱工程の直後のワークは高温であるため、高温下での測定値は常温下での測定値とは相違するが、本発明では、補正部によって、高温下の測定値を、予め求められている測定時のワーク温度と前記硬化層の深さとの関係から、常温下での硬化層の深さに補正するので、本来の正しい値を求めることができる。
従って、高温下での測定が行えることから、測定時にワークが常温、例えば、10℃から30℃になるまで待たなくてもよく、インラインでの測定が可能となる。
この構成の発明では、前述と同様の効果を奏することができる。
図1には、本実施形態にかかる硬化層深さ測定装置の概略が示されている。
図1(A)は硬化層深さ測定装置の正面を示し、(B)は硬化層深さ測定装置の側面を示す。
図1(A)(B)において、硬化層深さ測定装置は、ワークWを焼入れして表面に形成された硬化層Hの深さを測定する装置であって、磁束を発生させる励磁コイル1と、励磁コイル1で発生させた磁束を検出する検出コイル2と、励磁コイル1と検出コイル2とを一体に保持する保持部材3と、検出コイル2から出力される検出電圧に基づいて、ワークWの硬化層の深さを演算する制御部40と、測定時のワークWの温度を測定する温度センサ50とを備えている。
励磁用コア部11は、先端面がワークWに対向する一対の脚部111と、これらの脚部111の基端部同士を連結する基部110とを有するものであり、材料は平面コ字状のケイ素鋼板を複数積層したもの、又は同形状軟磁性体である。
励磁用コア部11の正面におけるワークWの表面に沿った長さは、lであり、ワークWの表面からの高さ寸法は、mであり、脚部111の幅寸法は、nである。
励磁用コイル部12は、基部110に巻回されており、その端部は、図示しない電源装置に接続されている。
検出用コア部21は、平面長方形のケイ素鋼板を複数積層したもの、又は同形状軟磁性体であり、ワークWの表面に対する垂直方向の寸法がa、当該垂直方向と直交する寸法がb、検出用コイル部22が巻回される方向の寸法がc(a<c、b<c)の直方体形状である。
検出用コア部21は、一対の脚部111の中間位置において、その長さ方向が基部110の長さ方向に沿うようにワークWに配置されている。
検出コイル2とワークWの表面との位置は、適宜設定されるものであるが、検出コイル2はワークWの表面に当接していることが好ましい。
検出用コイル部22は、検出用コア部21の長さ方向に沿って巻回されており、その端部は、制御部40に接続されている。
保持部材3のうち半円の弦を構成する面から励磁用コイル部12の一部が露出している。保持部材3のうち円弧面上の所定の点の接線と同一面となるように検出コイル2が配置されている。
保持部材3は、エポキシ樹脂、その他の合成樹脂から形成されている。
なお、本実施形態では、保持部材3はワークWに対して位置決めする位置決め部3Aを有する。位置決め部3Aの形状は、ワークWとの形状との関係で適宜設定されるものであるが、例えば、励磁用コイル部12の軸方向に沿った突起としてもよい。
本実験では、硬化層Hの深さが相違する複数のワークWを用意し、これらについて硬化層深さ測定装置で検出電圧を測定した。
図2には実験で使用される硬化層深さ測定装置がワークWに装着された状態が示されている。
図2において、実験に使用するワークWは、溝加工ワークであり、その断面形状は半円状内周面を有する。半円状内周面のうち円中心Oを通り弦と直交する直線WLの上に凹状のガイド溝WGを有する。本実験では、円中心Oとガイド溝WGとを結ぶ直線WLに対してそれぞれ所定角度α(45°)離れた2つの位置B,Cが測定位置となる。
対象ワーク:溝加工ワーク
材質:炭素鋼
限界硬さ:446HV
ワーク水準:硬化層無(未焼入れ)、硬化層Hが浅め、通常、深めの合計4パターン。
有効硬化層深さ仕様:
硬化層Hが浅めのワークW:
B点での有効硬化層深さ2.71mm
C点での有効硬化層深さ3.14mm
硬化層Hが通常のワークW:
B点での有効硬化層深さ3.25mm
C点での有効硬化層深さ3.04mm
硬化層Hが深めのワークW:
B点での有効硬化層深さ3.77mm
C点での有効硬化層深さ3.74mm
ここで、有効硬化層深さとは、表面から限界硬さに対応した深さをいう。
励磁用コア部11:
1枚のケイ素鋼板の形状:寸法l=30mm、寸法m=15mm、脚部幅寸法n=5mm、厚みt=0.2mm
ケイ素鋼板を25枚重ねて励磁用コア部11を構成(コア全体の厚みが5mm)。
励磁用コイル部12:φ0.45mmの線を165ターン
検出用コア部21:
1枚のケイ素鋼板の形状:寸法c=7.5mm、寸法b=1.5mm、厚みt=0.2mm
ケイ素鋼板を4枚重ねて検出用コア部21を構成(コア全体の厚み=寸法aが0.8mm)。
検出用コイル部22:φ0.07mmの線を100ターン
保持部材3:
材料:エポキシ樹脂
成型方法:実際のワークWを型とし、この型の中にエポキシ樹脂を注入する。エポキシ樹脂が硬化する前に、巻線後の励磁コイル1及び検出コイル2を埋め込む。その後、エポキシ樹脂を硬化させる。
図3には、実験装置の概略が示されている。なお、図3の硬化層深さ測定装置では保持部材3の図示が省略されている。
図3において、硬化層深さ測定装置の励磁コイル1には抵抗器4及びバイポーラ電源5が接続され、バイポーラ電源5には周波数発生装置6が接続されている。硬化層深さ測定装置の検出コイル2には信号増幅器7が接続されている。抵抗器4と信号増幅器7とにはオシロスコープ8が接続されている。
抵抗器4:金属被膜抵抗1/4W22Ωを22本並列接続して作製した1Ω抵抗器
バイポーラ電源5:株式会社高砂製作所製 4象限バイポーラ電源(BWS40-7.5)
周波数発生装置6:株式会社エヌエフ回路設計ブロック製 ファンクションジェネレータDF1906
信号増幅器7:株式会社エヌエフ回路設計ブロック製 アイソレーションアンプ5325
オシロスコープ8:Tektronix社製 オスロスコープTDS3054B
[ワーク温度の影響と室温の影響]
以上の実験を、ワーク温度と室温とをそれぞれ変化させて行う。
表1に示されるパターンで実験を行った。
[ワーク温度の影響の検討]
室温を20℃とし、ワーク温度の条件を変えて、有効硬化層深さと検出電圧との関係を調べた。測定結果を図4(A)に示し、測定結果に基づいて作成した検量線を図4(B)に示す。
図4(A)において、ワーク温度が10℃の場合の測定結果をP11〜P16で示し、20℃の場合の測定結果をP21〜P26で示し、30℃の場合の測定結果をP31〜P36で示し、40℃の場合の測定結果をP41〜P46で示し、50℃の場合の測定結果をP51〜P56で示す。
図4(B)において、ワーク温度が10℃の場合の検量線をP1で示し、20℃の場合の検量線をP2で示し、30℃の場合の検量線をP3で示し、40℃の場合の検量線をP4で示し、50℃の場合の検量線をP5で示す。
図4(A)(B)から、ワーク温度が10℃〜30℃は同等であり、ワーク温度が40℃と50℃とは同等である。検量線の傾きは全て同等である。検量線P2と検量線P4との電圧差ΔVは、約2mV〜3mVである。
図5(A)において、ワーク温度が10℃の場合の測定結果をQ11〜Q16で示し、30℃の場合の測定結果をQ21〜Q26で示し、50℃の場合の測定結果をQ31〜Q36で示す。
図5(B)において、ワーク温度が10℃の場合の検量線をQ1で示し、30℃の場合の検量線をQ2で示し、50℃の場合の検量線をQ3で示す。
図5(A)(B)から、ワーク温度が10℃と30℃とは同等であり、検量線の傾きは全て同等である。検量線Q2と検量線Q3との電圧差ΔVは、約2mV〜3mVである。
図6(A)において、ワーク温度が10℃の場合の測定結果をR11〜R16で示し、30℃の場合の測定結果をR21〜R26で示し、50℃の場合の測定結果をR31〜R36で示す。
図6(B)において、ワーク温度が10℃の場合の検量線をR1で示し、30℃の場合の検量線をR2で示し、50℃の場合の検量線をR3で示す。
図6(A)(B)から、ワーク温度が10℃と30℃とは同等である。検量線R2と検量線R3との電圧差ΔVは、約2mV〜3mVである。
ワーク温度を10℃とし、室温の条件を変えて、有効硬化層深さと検出電圧との関係を調べた。測定結果を図7(A)に示し、測定結果に基づいて作成した検量線を図7(B)に示す。
図7(A)において、室温が20℃の場合の測定結果をS11〜S16で示し、25℃の場合の測定結果をS21〜S26で示し、30℃の場合の測定結果をS31〜S36で示す。
図7(B)において、室温が20℃の場合の検量線をS1で示し、25℃の場合の検量線をS2で示し、30℃の場合の検量線をS3で示す。
図7(A)(B)から、室温が20℃、25℃、30℃は全て同等である。
図8(A)において、室温が20℃の場合の測定結果をU11〜U16で示し、25℃の場合の測定結果をU21〜U26で示し、30℃の場合の測定結果をU31〜U36で示す。
図8(B)において、室温が20℃の場合の検量線をU1で示し、25℃の場合の検量線をU2で示し、30℃の場合の検量線をU3で示す。
図8(A)(B)から、室温が20℃、25℃、30℃は全て同等である。
図9(A)において、室温が20℃の場合の測定結果をW11〜W16で示し、25℃の場合の測定結果をW21〜W26で示し、30℃の場合の測定結果をW31〜W36で示す。
図9(B)において、室温が20℃の場合の検量線をW1で示し、25℃の場合の検量線をW2で示し、30℃の場合の検量線をW3で示す。
図9(A)(B)から、室温が20℃、25℃、30℃は全て同等である。
ワーク温度が変わった場合の検量線を試験結果より算出することを説明する。
図10には、ワーク温度の条件を変えた場合の有効硬化層深さと検出電圧との関係を示す検量線のグラフが示されている。
図10において、X1は、室温20℃でワーク温度10℃の検量線と、室温25℃でワーク温度10℃の検量線と、室温30℃でワーク温度10℃の検量線とを平均した検量線を示し、X2は、同様にワーク温度30℃の場合の検量線の平均値を示し、X3は、同様にワーク温度50℃の場合の検量線の平均値を示す。
図10で示されるデータから、検量線を構成する2点(有効硬化層深さ2.5mmと4.0mm)について、ワーク温度と検出電圧との関係を確認する。
図11のグラフに基づいて、温度で変化する検出電圧の計算式を求める。
Tをワーク温度とし、V2.5mmを有効硬化層深さ2.5mmの場合のワーク温度で変化する検出電圧とし、V4.0mmを有効硬化層深さ4.0mmの場合のワーク温度で変化する検出電圧とすると、検量線を構成する2点を求める計算式は次の通りである。
V2.5mm=-0.0000431819×T3+0.0010965833×T2-0.0093059722×T+125.8……式(1)
V4.0mm=-0.0000450744×T3+0.0007005333×T2-0.0085512222×T+131.8……式(2)
ワーク温度を式(1)式(2)に代入してV2.5mmとV4.0mmとが求められるため、この2点から検量線を算出できる。
図12において、ワーク温度が10℃の場合の検量線をY1で示し、20℃の場合の検量線をY2で示し、30℃の場合の検量線をY3で示し、40℃の場合の検量線をY4で示し、50℃の場合の検量線をY5で示す。
図12に示される通り、検量線Y1〜Y5は、それぞれ有効硬化層深さに比例して検出電圧も大きくなるようになっており、これらは互いに平行である。
例えば、ワーク温度が50℃で硬化層深さを測定し、その際の有効硬化層深さD1が3.8mmであるとする。図12では、50℃での検量線Y5において、有効硬化層深さD1が3.8mmである場合には、検出電圧V1が127mVである。一方、常温(20℃)での検出電圧V1での有効硬化層深さD2は2.8mmである。
図13は制御部40のブロック図である。
図13において、制御部40は、検出信号入力部41、温度情報入力部42、メモリー43、演算部44、補正部45及び表示部46を備えている。
検出信号入力部41は、検出コイル2から出力される検出電圧を入力する。
温度情報入力部42は、温度センサ50から出力される温度情報を入力する。
メモリー43は、予め求められている測定時のワーク温度と硬化層深さとの関係(図12で示される検量線データ)を記憶する。
補正部45は、演算部44及び温度情報入力部42からのデータを受領するとともにメモリー43からデータを呼び出して測定時のワーク温度での硬化層深さを常温下での硬化層深さに補正する。
表示部46は、補正部45で補正された硬化層深さを図示しないディスプレイに表示させる。
[準備工程]
予め、図12で示される検量線を作成しておき、メモリー43に記憶させておく。
焼入れや焼き戻し等の加熱処理をした後の高温(例えば、40℃〜50℃)のワークWに励磁コイル1及び検出コイル2をセットし、さらに、温度センサ50をセットする。
[演算工程]
そして、励磁コイル1の励磁用コイル部12に通電すると、門形の励磁用コア部11及びワークWの内部に磁束が発生するとともに、この磁束に伴って空間磁束がワークWの表面に生じる。この空間磁束を検出コイル2で検出する。
検出コイル2で検出される信号は、制御部40の検出信号入力部41に送られる。検出信号入力部41から演算部44に信号が送られ、演算部44では、測定時のワークWの硬化層深さが演算される。
測定時のワークWの温度は、温度センサ50から制御部40の温度情報入力部42に送られる。
補正部45では、演算部44及び温度情報入力部42からのデータを受領するとともにメモリー43からデータを呼び出して測定時のワーク温度での硬化層深さを常温下での硬化層深さに補正する。
補正された硬化層深さは、表示部46により、図示しないディスプレイに表示される。
(1)検出コイル2から出力される検出電圧に基づいて、ワークWの硬化層Hの深さを演算する演算部44と、演算部44で演算された測定時の硬化層深さと、予め求められている測定時のワーク温度と硬化層深さとの関係から、常温下での硬化層深さに補正する補正部45を備えたから、高温下、例えば、40℃から50℃での測定が行えることになる。そのため、測定時にワークが常温、例えば、10℃から30℃になるまで待たなくてもよく、インラインでの測定が可能となる。
例えば、前記実施形態では、検出コイル2は、励磁用コア部11に脚部111の間であってワークWに配置される検出用コア部21と、検出用コア部21に巻回された検出用コイル部22とを有し、検出コイル2が励磁コイル1とは離れた位置に配置される構成としたが、本発明では、検出コイル2の構成は前記実施形態のものに限定されるものではなく、例えば、励磁用コア部11の脚部111に検出用コイル部22を巻回する構成としてもよい。
さらに、本発明では、保持部材3を必ずしも設けることを要しない。仮に、保持部材3を設ける場合であっても、前記実施形態の構成に限定されない。例えば、ベースに励磁コイル1及び検出コイル2を固定する構成としてもよい。
Claims (2)
- ワークを焼入れして表面に形成された硬化層の深さを測定する装置であって、
磁束を発生させて前記ワークを磁化する励磁コイルと、
前記励磁コイルで発生させた磁束を検出する検出コイルと、
前記励磁コイルと前記検出コイルとを一体に保持する保持部材と、
前記検出コイルから出力される検出電圧に基づいて、前記ワークの硬化層の深さを演算する演算部と、
前記演算部で演算された測定時の硬化層の深さと、予め求められている測定時のワーク温度と前記硬化層の深さとの関係から、常温下での前記硬化層の深さに補正する補正部とを備え、
前記励磁コイルは、先端が前記ワークに対向する一対の脚部と前記脚部の基端部同士を連結する基部とを有する門形の励磁用コア部と、前記励磁用コア部の前記基部に巻回された励磁用コイル部とを有し、
前記検出コイルは、前記励磁用コア部の前記脚部の間に前記基部の長さ方向に沿うように配置される検出用コア部と、前記検出用コア部に当該検出用コア部の長さ方向に沿って巻回された検出用コイル部とを有し、
前記保持部材は、前記ワークに対する位置決め部を有する
ことを特徴とする硬化層深さ測定装置。 - 請求項1に記載の測定装置を用い、ワークを焼入れして表面に形成された硬化層の深さを測定する硬化層深さ測定方法であって、
前記保持部材に設けられた位置決め部で、前記ワークに対する前記励磁コイルおよび前記検出コイルの位置決めを行う工程と、
前記検出コイルから出力される検出電圧に基づいて、前記ワークの硬化層の深さを演算する工程と、
予め求められている測定時のワーク温度と前記硬化層の深さとの関係から、前記演算する工程で求められた硬化層の深さを、常温下での前記硬化層の深さに補正する工程とを有する
ことを特徴とする硬化層深さ測定方法。
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