JP6580350B2 - 硬化層深さ測定装置 - Google Patents
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Description
硬化層の深さに応じて機械的特性が変化するため、予め設定した処理条件で焼入れを行い、さらに、製造後の品質検査を行っている。従来、ワークに対し適正な焼入加工が施されたかを検査する方法として、任意に抽出したワークを切断して検査する方法があったが、この方法の場合、検査に時間を要する上に検査対象のワークは製品として使用できなくなる。
特許文献1の従来例では、磁化器は、側面視がコ字状のヨークにおいてワークとは対向する部分に励磁用のコイルが巻回された構造であり、ヨークの脚元に検出コイルが設けられている。
空間磁束を検出コイルで検出するに際して、検出コイルがヨークの一方の脚部の脚元に設けられているため、空間磁束だけでなくヨークの内部に生じる磁束までも検出することになり、測定精度が十分ではない。
そこで、測定精度の向上がより図れる硬化層深さ測定装置が望まれている。
ここで、硬化層深さが深くなるに従って、検出コイルで検出される検出電圧の値が大きくなる。検出精度をより向上させるには、有効硬化層深さと検出電圧とで示される検量線の傾きを大きくすることが重要である。検量線の傾きを大きくすることにより、硬化層深さが分離しやすいことになる。
検量線の傾きを大きくするため、本発明者は、種々のシミュレーションや実験を行った。まず、検出コイルの大きさのみを変えることを検討したが、硬化層深さを正確に測定できるものではなかった。そこで、検出コイルの検出用コア部の形状を検討した結果、検出用コア部の垂直方向の寸法aを寸法bより小さくすることで、好ましい結果を得ることができた。
つまり、本発明では、寸法cに沿って検出用コイル部が巻回されている場合において、寸法aは寸法bより小さいので、空間磁束を検出コイルで検出しやすくなり、測定精度がより向上することになる。
本願の発明者は、寸法a、寸法b、寸法cのそれぞれの長さを変更して測定精度を検証した。その結果、寸法bや寸法cを変更しても、測定精度にはさほど影響がないが、寸法aを変更することにより、測定精度が大きく変更することを突き止めた。この場合、寸法aが小さくなるに従って、測定精度が向上することが実験で判明した。
寸法aが1.2mmを超えると、検出コイルが大きくなり、これに伴って、励磁コイルも大きくなる。
この構成では、無方向性の電磁鋼板は、全ての方向に均一な磁気特性を有しているので、この点からも測定精度の向上を図ることができる。
図1には、本実施形態にかかる硬化層深さ測定装置の概略が示されている。
図1(A)は硬化層深さ測定装置の正面を示し、(B)は硬化層深さ測定装置の側面を示す。
図1(A)(B)において、硬化層深さ測定装置は、ワークWを焼入れして表面に形成された硬化層Hの深さを測定する装置であって、磁束を発生させる励磁コイル1と、励磁コイル1で発生させた磁束を検出する検出コイル2と、励磁コイル1と検出コイル2とを一体に保持する保持部材3とを備えて構成されている。
励磁用コア部11は、先端面がワークWに対向する一対の脚部111と、これらの脚部111の基端部同士を連結する基部110とを有するものであり、材料は平面コ字状のケイ素鋼板を複数積層したもの、又は同形状軟磁性体である。
励磁用コア部11の正面におけるワークWの表面に沿った長さはlであり、ワークWの表面に対する垂直方向の寸法はmであり、脚部111の幅寸法はnである。
励磁用コイル部12は、基部110に巻回されており、その端部は、図示しない電源装置に接続されている。
検出用コア部21は、平面長方形のケイ素鋼板を複数積層したもの、又は同形状軟磁性体である
図2には検出コイル2の拡大した図が示されている。
図2において、検出用コア部21は、ワークW(図1参照)の表面に対して垂直方向の寸法をa、垂直方向とは直交する方向の寸法をbとし、寸法aと寸法bとにそれぞれ直交する寸法をcとすると、寸法cの長さ方向に沿って検出用コイル部22が巻回されている。ここで、寸法a、寸法b、寸法cは、a<c、b<cの関係にある。
図1において、検出用コア部21は、一対の脚部111の中間位置において、その長さ方向が基部110の長さ方向に沿うようにワークWに配置されている。
検出用コア部21とワークWの表面との位置は、適宜設定されるものであるが、検出用コア部21はワークWの表面に当接していることが好ましい。
検出用コイル部22は、検出用コア部21の長さ方向に沿って巻回されており、その端部は、図示しない演算装置に接続されている。演算装置は、検出用コイル部22から出力される電圧(信号)に基づいて、ワークWの硬化層Hの深さを演算する。
保持部材3のうち半円の弦を構成する面から励磁用コイル部12の一部が露出している。保持部材3のうち円弧面上の所定の点の接線と同一面となるように検出コイル2が配置されている。
保持部材3は、エポキシ樹脂、その他の合成樹脂から形成されている。
なお、本実施形態では、保持部材3はワークWに対して位置決めする位置決め部3Aを有する。位置決め部3Aの形状は、ワークWとの形状との関係で適宜設定されるものであるが、例えば、励磁用コイル部12の軸方向に沿った突起としてもよい。
図3(A)には、ワークWの表面に硬化層Hが形成されている場合が示されている。ワークWの硬化層Hは非硬化層に比べて透磁率が低い。硬化層Hが表面に形成されたワークWにおいて、励磁用コイル部12に通電すると、励磁用コア部11のコ字状の正面形状に沿って大きな磁束M1が発生し、この磁束M1とともに閉ループを構成する磁束M21が発生する。磁束M21は、透磁率の低い硬化層Hにのみ生じることになり、磁束M1より小さい。
硬化層Hの有無にかかわらず、磁束M1に伴って空間磁束N1がワークWの表面に発生する。空間磁束N1を検出コイル2で検出することになるが、空間磁束N1は、硬化層Hが表面に形成されたワークWでは、大きく、硬化層Hが表面に形成されていないワークWでは小さい。つまり、硬化層Hの深さに比例して空間磁束N1の大きさが変化し、これを検出コイル2で検出することで、硬化層Hの深さが測定できることになる。
図4にはワークWに硬化層深さ測定装置が装着された状態が示されている。なお、図4の硬化層深さ測定装置は、励磁コイル1が半分のみ図示されている。
シミュレーションの条件
ワークW:硬化層Hの深さの違う溝を有するワークWを想定する。
硬化層深さは、2mmの浅め品モデルと、4mmの深め品モデルとを用意。
励磁コイル1:
励磁用コア部11:ケイ素鋼板
長さ30mm×高さ15mm
脚部の幅寸法:5mm
検出用コア部21:ケイ素鋼板(無方向性の電磁鋼板)
寸法変化条件:寸法aの影響を検討するためのパターン:表1参照
寸法bの影響を検討するためのパターン:表2参照
寸法cの影響を検討するためのパターン:表3参照
励磁条件:20Hz、0.5A
解析方法:3D周波数応答解析
電磁気特性:表4参照
図5は、シミュレーション結果として硬化層深さと変化率との関係を示すグラフである。ここで、変化率とは、{(深め品の検出電圧−浅め品の検出電圧)/浅め品の検出電圧}×100[%]である。
図5(A)は寸法aの影響を示すものであり、図5(B)は寸法bの影響を示すものであり、図5(C)は寸法cの影響を示すものである。
図5(A)では、表1で示される条件下で行われたシミュレーション結果が示されている。寸法aが0.4mmの場合の変化率をP1で示し、0.8mmの場合の変化率をP2で示し、1.2mmの場合の変化率をP3で示す。
一般的に、測定精度を向上させるには、検出電圧と硬化層深さとには、硬化層深さが大きくなるに従って直線状に検出電圧が大きくなる比例関係があることが好ましい。このように、検出電圧と硬化層深さとの関係に比例関係があると、検出電圧から硬化層深さの分離が可能となる。これに対して、硬化層深さが深くなっても、検出電圧が変わらない場合や、深くなると検出電圧が低下する場合では、検出電圧から硬化層深さを分離することができない。
これは、寸法aが小さくなると、空間に浮遊する磁束の検出用コア部21に入る量が減り、相対的にワークWから漏れる磁束の割合が増えるためと考えられるからである。
逆に、寸法aが1.2mmより大きいと、グラフの傾きが小さくなり、測定精度を十分に向上させることができないだけでなく、検出コイル2が大きくなって装置の小型化が十分に図れない。寸法aが0.4mmより小さい場合には、0.4mmの場合より測定精度が向上することが容易に想定できるが、寸法aが0.2mmより小さいと、検出用コア部21を製造することが困難となる。
図5(B)で示される通り、変化率Q1のグラフの傾きが小さく、変化率Q3のグラフの傾きが大きく、変化率Q2のグラフの傾きはこれらの間にあるが、これらの差は僅かである。
そのため、寸法bの影響度はやや低いものの、寸法bが大きくなるに従って、変化率は僅かに大きくなる。
これは、寸法bが短くなると、検出用コア部21の両端部でワークWとのギャップが縮まり、ワークWから漏れる磁束が検出用コア部21に入りやすくなり、硬化層深さの変化を検出しやすくなったと考えられるからである。
図5(C)で示される通り、変化率R1、変化率R2、変化率R3は、ほぼ同一線上にある。
そのため、寸法cの影響度は殆ど無い。
これは、寸法cが変わっても、空間を浮遊する磁束とワークWから漏れる磁束の比率や、検出用コア部21とワークWとのギャップがほぼ変わらないと考えられるからである。
本実験では、硬化層Hの深さが相違する複数のワークWを用意し、これらについて硬化層深さ測定装置で検出電圧を測定した。
図6には実験で使用される硬化層深さ測定装置がワークWに装着された状態が示されている。
図6において、実験に使用するワークWは、溝加工ワークであり、その断面形状は略半円状内周面を有する。半円状内周面のうち円中心Oを通り弦と直交する直線WLの上に凹状のガイド溝WGを有する。本実験では、円中心Oとガイド溝WGとを結ぶ直線WLに対してそれぞれ所定角度α(45°)離れた2つの位置B,Cが測定位置となる。
対象ワーク:溝加工ワーク
材質:炭素鋼
限界硬さ:446HV
ワーク水準:硬化層Hが浅め、通常、深めの合計3パターン。
有効硬化層深さ仕様:
硬化層Hが浅めのワークW:
B点での有効硬化層深さ3.15mm
C点での有効硬化層深さ2.71mm
硬化層Hが通常のワークW:
B点での有効硬化層深さ3.25mm
C点での有効硬化層深さ3.04mm
硬化層Hが深めのワークW:
B点での有効硬化層深さ3.77mm
C点での有効硬化層深さ3.74mm
ここで、有効硬化層深さとは、表面から限界硬さに対応した深さをいう。
励磁用コア部11:
1枚のケイ素鋼板の形状:寸法l=30mm、寸法m=15mm、脚部幅寸法n=5mm、厚みt=0.2mm
ケイ素鋼板を25枚重ねて励磁用コア部11を構成(コア全体の厚みが5mm)。
励磁用コイル部12:φ0.45mmの線を165ターン
検出用コイル部22:φ0.07mmの線を100ターン
保持部材3:
材料:エポキシ樹脂
成型方法:実際のワークWを型とし、この型の中にエポキシ樹脂を注入する。エポキシ樹脂が硬化する前に、巻線後の励磁コイル1及び検出コイル2を埋め込む。その後、エポキシ樹脂を硬化させる。
検出用コア部21:
第一実験
1枚のケイ素鋼板の形状:寸法c=7.5mm、寸法b=1.5mm、厚みt=0.2mm
ケイ素鋼板を4枚重ねて検出用コア部21を構成(コア全体の厚み=寸法aが0.8mm)。
第二実験
1枚のケイ素鋼板の形状:寸法c=9.0mm、寸法b=3.0mm、厚みt=0.2mm
ケイ素鋼板を2枚重ねて検出用コア部21を構成(コア全体の厚み=寸法aが0.4mm)。
図7には、実験装置の概略が示されている。なお、図7の硬化層深さ測定装置では保持部材3の図示が省略されている。
図7において、硬化層深さ測定装置の励磁コイル1には抵抗器4及びバイポーラ電源5が接続され、バイポーラ電源5には周波数発生装置6が接続されている。硬化層深さ測定装置の検出コイル2には信号増幅器7が接続されている。抵抗器4と信号増幅器7とにはオシロスコープ8が接続されている。
抵抗器4:金属被膜抵抗1/4W22Ωを22本並列接続して作製した1Ω抵抗器
バイポーラ電源5:株式会社高砂製作所製 4象限バイポーラ電源(BWS40-7.5)
周波数発生装置6:株式会社エヌエフ回路設計ブロック製 ファンクションジェネレータDF1906
信号増幅器7:株式会社エヌエフ回路設計ブロック製 アイソレーションアンプ5325
オシロスコープ8:Tektronix社製 オスロスコープTDS3054B
励磁条件:周波数20Hz 励磁電流0.5A
測定方法:位置Bと位置Cとの2箇所で、有効硬化層深さが3パターンのワーク水準で測定を行った。この測定は励磁条件に従って励磁し、検出コイル2から出力された検出電圧波形の実効値をオシロスコープ8で読む。
図8(A)は、第一実験により求められた有効硬化層深さと検出電圧との関係を示す検量線のグラフである。
図8(A)には、位置Bと位置Cとで有効硬化層深さが3パターンで行った検出電圧の実験値S1と、これらの実験値S1を基に求めた検量線の近似直線SL1とが示されている。
近似直線SL1は、y=1.8572x+52.288の式1となる。
近似直線SL1に対する実験値S1の測定誤差のうち最大値SM1が0.22mmであり、最小値SN1が−0.19mmである。つまり、近似直線SL1に対する測定誤差は、−0.19mm〜0.22mmである。繰り返し測定ばらつきのうち最大値SO1(n=5)は、0.49mVである。
図8(B)には、位置Bと位置Cとで有効硬化層深さが3パターンで行った検出電圧の実験値S2と、これらの実験値S2を基に求めた検量線の近似直線SL2とが示されている。
近似直線SL2は、y=3.3928x+116.3の式2となる。
近似直線SL2に対する実験値S2の測定誤差のうち最大値SM2が0.09mmであり、最小値SN2が−0.08mmである。つまり、近似直線SL2に対する測定誤差は、−0.08mm〜0.09mmである。繰り返し測定ばらつきの最大値SO2(n=5)は、0.50mVである。
(1)検出コイル2は、励磁用コア部11を構成する脚部111の間であってワークWに配置される検出用コア部21と、検出用コア部21に巻回された検出用コイル部22とを有するから、検出コイル2が励磁コイル1とは離れた位置に配置されることになり、励磁用コア部11に流れる磁束の影響が及ぶことが少ない。そのため、本実施形態では、従来に比べて、測定精度を高くできる。
(4)検出用コア部21は、全ての方向に均一な磁気特性を有する無方向性の電磁鋼板から構成されるので、この点からも測定精度の向上を図ることができる。
例えば、前記実施形態では、検出用コア部21を直方体状に形成したが、本発明では、寸法aは寸法bより小さい構成であれば、検出用コア部21の具体的な形状は限定されるものではない。例えば、検出用コア部21を断面楕円形状としてもよい。
Claims (3)
- ワークを焼入れして表面に形成された硬化層の深さを測定する装置であって、
磁束を発生させて前記ワークを磁化する励磁コイルと、前記励磁コイルで発生させた磁束を検出する検出コイルと、前記励磁コイルと前記検出コイルとを一体に保持する保持部材とを備え、
前記励磁コイルは、先端が前記ワークに対向する一対の脚部と前記脚部の基端部同士を連結する基部とを有する門形の励磁用コア部と、前記励磁用コア部に巻回された励磁用コイル部とを有し、
前記検出コイルは、前記励磁用コア部の脚部の間に配置され前記ワークに配置される直方体形状の検出用コア部と、前記検出用コア部に巻回された検出用コイル部とを有し、
前記検出用コア部は、前記ワークの表面に対して垂直方向の寸法をa、前記垂直方向とは直交する方向のうち1つの方向の寸法をbとし、前記寸法aと前記寸法bとにそれぞれ直交する寸法をcとすると、寸法cの方向が前記励磁用コア部の基部の長さ方向に沿うように配置され、かつ、寸法cの方向に沿って前記検出用コイル部が巻回され、
寸法aは寸法bより小さく、
前記保持部材は、前記ワークの断面形状に沿って形成された部分と、前記ワークに対して位置決めする位置決め部とを有する
ことを特徴とする硬化層深さ測定装置。 - 請求項1に記載された硬化層深さ測定装置において、
前記寸法aは、1.2mm以下である
ことを特徴とする硬化層深さ測定装置。 - 請求項1又は請求項2に記載された硬化層深さ測定装置において、
前記検出用コア部は、無方向性の電磁鋼板から構成される
ことを特徴とする硬化層深さ測定装置。
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