以下、電動圧縮機の一実施形態について説明する。
図1に示すように、電動圧縮機10は、流体が吸入される吸入口11a及び流体が吐出される吐出口11bが形成されたハウジング11を備えている。ハウジング11は、全体として略円筒形状である。詳細には、ハウジング11は、有底円筒形状の2つのパーツ12,13を有している。第1パーツ12と第2パーツ13とは、互いに開口端同士が突き合わさった状態で組み付けられている。吸入口11aは、第1パーツ12の側壁部12a、詳細には当該側壁部12aのうち第1パーツ12の底部12b側の位置に設けられている。吐出口11bは、第2パーツ13の底部13aに設けられている。
電動圧縮機10は、回転軸14と、吸入口11aから吸入された吸入流体を圧縮して吐出口11bから吐出する圧縮部15と、圧縮部15を駆動する電動モータ16とを備えている。回転軸14、圧縮部15及び電動モータ16は、ハウジング11内に収容されている。電動モータ16は、ハウジング11内において吸入口11a側に配置されており、圧縮部15は、ハウジング11内において吐出口11b側に配置されている。
回転軸14は、回転可能な状態でハウジング11内に収容されている。詳細には、ハウジング11内には、回転軸14を軸支する軸支部材21が設けられている。軸支部材21は、例えば圧縮部15と電動モータ16との間の位置にてハウジング11に固定されている。軸支部材21には、回転軸14が挿通可能なものであって第1軸受22が設けられた挿通孔23が形成されている。また、軸支部材21と第1パーツ12の底部12bとは対向しており、当該底部12bには円筒状のボス24が突出している。ボス24の内側には第2軸受25が設けられている。回転軸14は、両軸受22,25によって回転可能な状態で支持されている。
圧縮部15は、ハウジング11に固定された固定スクロール31と、固定スクロール31に対して公転運動が可能な可動スクロール32とを備えている。
固定スクロール31は、回転軸14と同一軸線上に設けられた円板状の固定側基板31aと、固定側基板31aから起立した固定側渦巻壁31bとを有する。同様に、可動スクロール32は、円板状であって固定側基板31aと対向する可動側基板32aと、可動側基板32aから固定側基板31aに向けて起立した可動側渦巻壁32bとを備えている。
図1及び図2に示すように、固定スクロール31と可動スクロール32とは互いに噛み合っている。詳細には、固定側渦巻壁31bと可動側渦巻壁32bとは互いに噛み合っており、固定側渦巻壁31bの先端面は可動側基板32aに接触しているとともに、可動側渦巻壁32bの先端面は固定側基板31aに接触している。そして、固定スクロール31と可動スクロール32とによって圧縮室33が区画されている。図1に示すように、軸支部材21には、吸入流体を圧縮室33に吸入する吸入通路34が形成されている。
可動スクロール32は、回転軸14の回転に伴って公転運動するように構成されている。詳細には、回転軸14の一部は、軸支部材21の挿通孔23を介して圧縮部15に向けて突出している。そして、回転軸14における圧縮部15側の端面のうち回転軸14の軸線Lに対して偏心した位置には、偏心軸35が設けられている。そして、偏心軸35にはブッシュ36が設けられている。ブッシュ36と可動スクロール32(詳細には可動側基板32a)とは軸受37を介して連結されている。
また、電動圧縮機10は、可動スクロール32の公転運動を許容する一方、可動スクロール32の自転を規制する自転規制部38を備えている。なお、自転規制部38は、複数設けられている。
かかる構成によれば、回転軸14が予め定められた正方向に回転すると、可動スクロール32の正方向の公転運動が行われる。詳細には、可動スクロール32は、固定スクロール31の軸線(すなわち回転軸14の軸線L)の周りで正方向に公転する。これにより、圧縮室33の容積が減少するため、吸入通路34を介して圧縮室33に吸入された吸入流体が圧縮される。圧縮された圧縮流体は、固定側基板31aに設けられた吐出ポート41から吐出され、その後吐出口11bから吐出される。正方向とは、流体の圧縮が正常に行われる方向とも言える。
なお、図1に示すように、固定側基板31aには、吐出ポート41を覆う吐出弁42が設けられている。圧縮室33にて圧縮された圧縮流体は、吐出弁42を押し退けて吐出ポート41から吐出される。
図1及び図2に示すように、固定側基板31aには、吐出ポート41とは別に、インジェクションポート43が設けられている。インジェクションポート43は、例えば複数設けられており、詳細には2つ設けられている。インジェクションポート43は、固定側基板31aにおいて、吐出ポート41よりも径方向外側に配置されている。そして、インジェクションポート43にはインジェクション配管119が接続されている。インジェクション配管119の接続先等については後述する。
電動モータ16は、回転軸14を回転させることにより、可動スクロール32を公転運動させるものである。図1に示すように、電動モータ16は、回転軸14と一体的に回転するロータ51と、ロータ51を取り囲むステータ52とを備えている。ロータ51は、回転軸14に連結されている。ロータ51には永久磁石(図示略)が設けられている。ステータ52は、ハウジング11(詳細には第1パーツ12)の内周面に固定されている。ステータ52は、筒状のロータ51に対して径方向に対向するステータコア53と、ステータコア53に捲回されたコイル54とを有している。
電動圧縮機10は、電動モータ16を駆動させる駆動回路としてのインバータ55を備えている。インバータ55は、ハウジング11、詳細には第1パーツ12の底部12bに取り付けられた円筒形状のカバー部材56内に収容されている。インバータ55とコイル54とは電気的に接続されている。
ここで、本実施形態では、電動圧縮機10は、車両に搭載され、車両空調装置100に用いられる。すなわち、本実施形態では、電動圧縮機10の圧縮対象である流体は冷媒である。車両空調装置100について以下に詳細に説明する。
図3に示すように、車両空調装置100は、配管切換弁101、第1熱交換器102、第2熱交換器103、第1膨張弁104、第2膨張弁105及び気液分離器106を備えている。
配管切換弁101は、複数の口101a〜101dを有している。配管切換弁101は、第1口101aと第2口101bとが連通し、且つ、第3口101cと第4口101dとが連通する第1状態、又は、第1口101aと第3口101cとが連通し、且つ、第2口101bと第4口101dとが連通する第2状態に切り換わるものである。
車両空調装置100は、第1口101aと電動圧縮機10の吐出口11bとを接続する第1配管111と、第2口101bと第1熱交換器102とを接続する第2配管112と、第1熱交換器102と第1膨張弁104とを接続する第3配管113とを備えている。車両空調装置100は、第1膨張弁104と気液分離器106とを接続する第4配管114と、気液分離器106と第2膨張弁105とを接続する第5配管115と、第2膨張弁105と第2熱交換器103とを接続する第6配管116と、第2熱交換器103と第3口101cとを接続する第7配管117とを備えている。更に、車両空調装置100は、第4口101dと電動圧縮機10の吸入口11aとを接続する第8配管118を備えている。
かかる構成において、インジェクションポート43に接続されたインジェクション配管119は、気液分離器106に接続されている。そして、インジェクション配管119上には、逆止弁120が設けられている。
本実施形態の車両空調装置100は、冷房運転と暖房運転との双方が可能となっている。詳細には、車両空調装置100は、配管切換弁101を含めた車両空調装置100の全体を制御する空調ECU121を備えている。空調ECU121は、例えば冷房運転時には、配管切換弁101を第1状態にする。この場合、吐出口11bから吐出された冷媒は、第1熱交換器102に流れ、当該第1熱交換器102にて外気と熱交換が行われることによって凝縮する。凝縮された冷媒は、第1膨張弁104にて減圧されて、気液分離器106に流れる。そして、気液分離器106にて液体と気体とに分離される。液体の冷媒は、第2膨張弁105にて減圧され、第2熱交換器103に流れる。そして、液体の冷媒は、第2熱交換器103にて車内の空気と熱交換されることにより蒸発し、その結果車内の空気が冷却される。そして、第2熱交換器103にて蒸発した冷媒は、電動圧縮機10の吸入口11aに向けて流れる。なお、冷房運転時には、逆止弁120は閉鎖状態となっている。
一方、空調ECU121は、例えば暖房運転時には、配管切換弁101を第2状態にする。この場合、吐出口11bから吐出された冷媒は、第2熱交換器103に流れ、当該第2熱交換器103にて車内の空気と熱交換が行われることによって凝縮し、その結果車内の空気が加熱される。第2熱交換器103にて凝縮された冷媒は、第2膨張弁105によって減圧されて、気液分離器106に流れ、当該気液分離器106にて液体と気体とに分離される。分離された液体の冷媒は第1膨張弁104にて減圧されて、第1熱交換器102に流れ、当該第1熱交換器102にて外気と熱交換が行われることによって蒸発する。そして、蒸発した冷媒は吸入口11aに流れる。
ここで、逆止弁120は、暖房運転時には、開放状態となっている。これにより、気液分離器106にて分離された気体の冷媒が、インジェクション配管119及びインジェクションポート43を介して、圧縮室33に流れる。これにより、圧縮室33に流れ込む冷媒の流量が増加する。
ちなみに、気液分離器106にて分離された気体の冷媒、すなわちインジェクションポート43を介して圧縮室33に導入される冷媒の圧力は、吸入口11aから吸入される冷媒の圧力よりも高く、吐出口11bから吐出される冷媒の圧力よりも低い。説明の便宜上、以降の説明では、吸入口11aから吸入される冷媒を吸入冷媒とし、吐出口11bから吐出される冷媒を圧縮冷媒とし、インジェクションポート43から圧縮室33に導入される冷媒を中間圧冷媒とする。吸入冷媒が「吸入流体」に対応し、圧縮冷媒が「圧縮流体」に対応する。
上記のように構成された車両空調装置100においては、電動圧縮機10の運転停止後、インジェクション配管119内に中間圧冷媒が残留する。これに対して、本実施形態の電動圧縮機10は、上記中間圧冷媒を好適に排出させるための構成を備えている。当該構成について、電動モータ16のコイル54及びインバータ55の電気的構成等と合わせて説明する。
まず、コイル54とインバータ55との電気的構成について説明すると、図4に示すように、コイル54は、例えばu相コイル54u、v相コイル54v及びw相コイル54wを有する三相構造となっている。すなわち、電動モータ16は三相モータである。各相コイル54u,54v,54wは例えばY結線されている。
インバータ55は、u相コイル54uに対応するu相上アームスイッチング素子Qu1及びu相下アームスイッチング素子Qu2を備えている。同様に、インバータ55は、v相コイル54vに対応するv相上アームスイッチング素子Qv1及びv相下アームスイッチング素子Qv2と、w相コイル54wに対応するw相上アームスイッチング素子Qw1及びw相下アームスイッチング素子Qw2と、を備えている。つまり、インバータ55は、所謂三相インバータである。
各スイッチング素子Qu1,Qu2,Qv1,Qv2,Qw1,Qw2(以降単に各スイッチング素子Qu1〜Qw2と示す)は例えばIGBTで構成されている。なお、これに限られず、パワー型のMOSFET等であってもよい。
インバータ55は、車両に搭載されたDC電源Eに接続された2つの電力線EL1,EL2と、両電力線EL1,EL2に接続され、且つ、u相の両スイッチング素子Qu1,Qu2が設けられたu相配線ELuと、を備えている。u相の両スイッチング素子Qu1,Qu2はu相配線ELuを介して互いに直列に接続されており、u相配線ELuにおけるu相の両スイッチング素子Qu1,Qu2の接続部分とu相コイル54uとが接続されている。なお、DC電源Eとは例えばバッテリや電気二重層キャパシタ等といった蓄電装置である。
同様に、インバータ55は、両電力線EL1,EL2に接続され、且つ、v相の両スイッチング素子Qv1,Qv2が設けられたv相配線ELvを備えている。v相配線ELvにおけるv相の両スイッチング素子Qv1,Qv2の接続部分とv相コイル54vとが接続されている。インバータ55は、両電力線EL1,EL2に接続され、且つ、w相の両スイッチング素子Qw1,Qw2が設けられたw相配線ELwを備えている。w相配線ELwにおけるw相の両スイッチング素子Qw1,Qw2の接続部分とw相コイル54wとが接続されている。
なお、インバータ55は、DC電源Eに対して並列に接続された平滑コンデンサC1を有している。また、インバータ55は、スイッチング素子Qu1〜Qw2に対して並列に接続された還流ダイオードDu1〜Dw2を有している。還流ダイオードDu1〜Dw2は、スイッチング素子Qu1〜Qw2の寄生ダイオードであってもよいし、スイッチング素子Qu1〜Qw2とは別に設けられている構成でもよい。
電動圧縮機10は、インバータ55(詳細には各スイッチング素子Qu1〜Qw2のスイッチング動作)を制御することによりロータ51の回転を制御する制御部としての制御装置60を備えている。制御装置60は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のゲートに接続されている。
制御装置60は、インバータ55をPWM制御するものである。詳細には、制御装置60は、キャリア信号(搬送波信号)と指令電圧値信号(比較対象信号)とを用いて、制御信号を生成する。そして、制御装置60は、生成された制御信号を用いて、各スイッチング素子Qu1〜Qw2に対して所定のパルス幅δTを有する電圧を周期的に印加することにより、各スイッチング素子Qu1〜Qw2を周期的にON/OFFさせ、DC電源Eからの直流電力を交流電力に変換する。そして、変換された交流電力が電動モータ16に入力されることにより、電動モータ16が駆動、すなわち回転する。また、制御装置60は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のパルス幅δT、換言すればON/OFFのデューティ比を変更可能に構成されている。
ちなみに、制御装置60は、電動圧縮機10の運転開始時には、停止しているロータ51の回転位置(回転角)を把握し、その把握結果に基づいて各スイッチング素子Qu1〜Qw2を制御することにより、ロータ51を回転させる。すなわち、ロータ51は、電動圧縮機10の起動時には停止している必要がある。なお、ロータ51の回転位置を把握するための具体的な構成は任意である。
制御装置60は、電動モータ16に流れる電流として、相コイル54u,54v,54wに流れる相電流Iu,Iv,Iwを把握可能に構成されている。詳細には、図4に示すように、インバータ55には、相配線ELu〜ELwを流れる電流を検出する電流検出部としての電流センサ61〜63が設けられている。電流センサ61〜63は、例えば相配線ELu〜ELwにおける下アームスイッチング素子Qu2〜Qw2と第2電力線EL2との間の部分に設けられている。電流センサ61〜63は、その検出結果を制御装置60に送信する。制御装置60は、各電流センサ61〜63の検出結果に基づいて、u相コイル54uに流れる電流であるu相電流Iu、v相コイル54vに流れる電流であるv相電流Iv及びw相コイル54wに流れる電流であるw相電流Iwを把握可能となっている。
なお、電流センサ61〜63の具体的な構成については任意であるが、例えばシャント抵抗を有し、当該シャント抵抗に印加される電圧から相電流Iu〜Iwを推定する構成等が考えられる。
制御装置60と空調ECU121とは、電気的に接続されており、互いに情報のやり取りを行うことができる。制御装置60は、空調ECU121からの要求や異常判定結果等に応じて、電動圧縮機10の運転を開始したり、停止したりする。なお、電動圧縮機10の運転停止とは、電動モータ16への交流電力の供給を停止することであり、詳細には各スイッチング素子Qu1〜Qw2を全てOFF状態にすることである。
ここで、本実施形態の制御装置60は、電動圧縮機10の運転停止後、予め定められた待機期間が経過した後に、各電流センサ61〜63の検出結果に基づいて、ロータ51の回転方向及び回転数(回転速度)rを把握する把握処理を実行する。当該把握処理等を実行する制御装置60が「把握部」に対応する。
詳細には、制御装置60は、各電流センサ61〜63が設けられていない側のスイッチング素子である各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1を全てOFF状態に維持する。そして、制御装置60は、各電流センサ61〜63が設けられている側のスイッチング素子である各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を、予め定められたスイッチングパターンでスイッチング動作(換言すれば周期的にON/OFF)させる。本実施形態では、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がスイッチング動作(換言すればON/OFF動作)対象であり、「三相の対象アームスイッチング素子」に対応する。
例えば、制御装置60は、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のうち一相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となり、他の二相の下アームスイッチング素子がOFF状態となる態様を含むスイッチングパターン(以降一相パターンという)で各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を制御する。本実施形態では、図5(a)〜図5(c)に示すように、一相パターンは、ON状態となる下アームスイッチング素子が、u相下アームスイッチング素子Qu2→v相下アームスイッチング素子Qv2→w相下アームスイッチング素子Qw2の順に切り替わるスイッチングパターンである。
例えば、Qu2:ON且つQu1,Qv1,Qw1,Qv2,Qw2:OFFの組み合わせの態様を第1態様とし、Qv2:ON且つQu1,Qv1,Qw1,Qu2,Qw2:OFFの組み合わせの態様を第2態様とする。この場合、制御装置60は、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を周期的にON/OFFさせることにより、第1態様から第2態様へ切り替えているとも言える。換言すれば、減速制御(一相パターン)におけるスイッチング態様は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFFの組み合わせが異なる第1態様と第2態様とを含んでいる。
一相パターンは、三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のうち複数相(二相又は三相)の下アームスイッチング素子が同時にON状態となることがないように設定されたスイッチングパターンである。
なお、一相パターンは、図5(a)〜図5(c)に示すように、常時一相の下アームスイッチング素子がON状態となるスイッチングパターンに限られず、全下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がOFF状態となるインターバル態様を含んでもよい。例えば、一相パターンは、上記インターバル態様を介して、一相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となり、他の二相の下アームスイッチング素子がOFF状態となるスイッチングパターンでもよい。
ここで、本実施形態では、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のONタイミングはそれぞれズレ量δaだけ異なっている。かかる構成においては、一相パターンは、パルス幅δTがズレ量δa以下に設定されているスイッチングパターンである。パルス幅δTがズレ量δa未満である場合には、一相パターンは、インターバル態様を介して、一相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンとなる。パルス幅δTがズレ量δaと同一である場合には、一相パターンは、インターバル態様を介することなく、一相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンとなる。
ここで、図6及び図7を用いて、ロータ51の回転方向及び回転数rと、各相電流Iu,Iv,Iwとの関係について説明する。
図6は、ロータ51が正方向に回転している状況において検出される各相電流Iu,Iv,Iwを模式的に示したグラフであり、図7は、ロータ51が逆方向に回転している状況において検出される各相電流Iu,Iv,Iwを模式的に示したグラフである。なお、図示の都合上、図6及び図7においては、各相電流Iu,Iv,Iwの最小単位波形(1つの三角波)の周期を実際よりも長く示す。
ちなみに、図6及び図7では、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を常にON/OFFした場合の各相電流Iu,Iv,Iwの電流波形を示す。このため、実際に、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を一相パターンでスイッチングした場合には、図6及び図7にて示された各相電流Iu,Iv,Iwよりも1/3の数の三角波が得られることとなる。
図6及び図7に示すように、各相電流Iu,Iv,Iw(詳細には各相電流Iu,Iv,Iwの包絡線)は互いに位相が異なっている。このため、正の値となる相電流は、時間経過に伴い順次遷移する。なお、相電流が正の値となるのは、当該正の値となる相電流に対応する相コイルにて発生する逆起電力が他の相コイルにて発生する逆起電力よりも低い場合である。
ここで、正の値となる相電流が遷移する順序は、ロータ51が正方向に回転している場合と、逆方向に回転している場合とで異なっている。詳細には、図6に示すように、ロータ51が正方向に回転している場合、正の値となる相電流は、u相電流Iu→v相電流Iv→w相電流Iwの順に遷移する。一方、図7に示すように、ロータ51が逆方向に回転している場合、正の値となる相電流は、w相電流Iw→v相電流Iv→u相電流Iuの順に遷移する。
また、相電流が正の値となっている期間である正電流期間Taは、ロータ51の電気角の1周期の1/3に対応する。
制御装置60は、上記特性と、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を一相パターンでスイッチングした場合に各電流センサ61〜63の検出結果から得られる電流波形とに基づいて、ロータ51の回転方向及び回転数rを把握する。
詳細には、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2が一相パターンでスイッチングすると、現在の回転方向及び回転数rに対応する各相電流Iu,Iv,Iwの電流波形が得られる。制御装置60は、これらの電流波形から、正の値となる相電流の遷移順序を把握し、その把握結果に基づいて、ロータ51の回転方向が正方向か逆方向かを判定する。
制御装置60は、一相パターンのスイッチングによって得られた電流波形から正電流期間Taを把握し、その把握された正電流期間Taに基づいて、ロータ51の回転数rを導出する。
ちなみに、これらの特性、詳細には正の値となる相電流が遷移する順序が回転方向に応じて異なる点、及び、正電流期間Taがロータ51の1周期の1/3に対応する点は、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングパターンに応じて変動しない。このため、制御装置60は、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングパターンが二相パターンである場合であっても、上記特性と、各電流センサ61〜63から得られる電流波形とに基づいて、ロータ51の回転方向及び回転数rを把握できる。二相パターンの詳細については後述する。
制御装置60は、上記把握処理によってロータ51が逆方向に回転していると把握されたことに基づいて、逆方向に回転しているロータ51の回転数を制御する逆回転制御処理を実行する。当該逆回転制御処理について説明する。
図8に示すように、制御装置60は、まずステップS101にて、回転数rを目標回転数rtまで減速させる減速制御を実行する。ステップS101の処理を実行する制御装置60が「減速制御部」に対応する。
目標回転数rtは、予め定められた許容回転数ra以下に設定されている。詳述すると、ロータ51が逆回転している場合、電動圧縮機10から騒音や振動等が発生する。当該騒音や振動は回転数rが高くなるほど高くなり易い。この点、許容回転数raは、騒音や振動が許容される最大値である。
ちなみに、電動圧縮機10が通常の運転状態から停止すれば、回転数rは、目標回転数rt及び許容回転数raよりも高くなる可能性が高い。
本実施形態の減速制御について詳述すると、制御装置60は、減速制御では、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のうち少なくとも1つのスイッチング素子をON状態にすることにより、ロータ51を減速させる。本実施形態では、制御装置60は、減速制御では、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を所定のスイッチングパターンで周期的にON/OFFさせることにより、ON状態となる下アームスイッチング素子を順次切り替える。すなわち、減速制御における制御装置60のスイッチング制御態様は、ON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わるように各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をスイッチング動作(ON/OFF動作)させる態様となっている。なお、ON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わるということは、各スイッチング素子Qu1〜Qw2(詳細には各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2)のON/OFFの組み合わせが順次変更されることとなる。
この場合、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチング周波数はそれぞれ同一に設定されている。また、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチング周波数は、中間圧冷媒によって逆回転する場合に想定されるロータ51の回転数rの最大値よりも十分高ければ任意である。
かかる構成によれば、ON状態となっている下アームスイッチング素子に対応する相電流が正である場合、ON状態となっている下アームスイッチング素子に対応する相コイルにて熱が発生する。このため、ロータ51が有する運動エネルギが熱エネルギに変換されて、ロータ51が減速する。なお、以降の説明において、ロータ51の運動エネルギが熱エネルギに変換されてロータ51が減速される効果をブレーキ効果という。
なお、ON状態となっている下アームスイッチング素子に対応する相電流及び相コイルとは、u相下アームスイッチング素子Qu2がON状態である場合にはu相電流Iu及びu相コイル54uを意味する。同様に、v相下アームスイッチング素子Qv2がON状態である場合にはv相電流Iv及びv相コイル54vを意味し、w相下アームスイッチング素子Qw2がON状態である場合にはw相電流Iw及びw相コイル54wを意味する。
かかる構成においては、各相電流Iu,Iv,Iwが高くなるほど、熱が発生し易いため、ブレーキ効果が高くなる。すなわち、各相電流Iu,Iv,Iwが高くなるほど、ロータ51に付与される減速に係る力が大きくなり易い。
また、各相コイル54u,54v,54wにて発生する逆起電力は、回転数rが高くなるほど高くなる。そして、各相電流Iu,Iv,Iwは、上記逆起電力が高くなるほど、高くなり易い。つまり、各相電流Iu,Iv,Iwは、回転数rに依存する。
これに対して、制御装置60は、まず予め定められた初期減速デューティ比及び初期減速スイッチングパターンで、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をスイッチング動作(換言すれば周期的にON/OFF)させて減速制御を開始する。本実施形態では、初期スイッチングパターンは一相パターンである。また、初期減速デューティ比は、回転数rが中間圧冷媒によって逆回転する状況下で想定される回転数rの最大値である場合に一相パターンのスイッチングによって流れる各相電流Iu,Iv,Iwが予め定められた許容値を超えないように、当該許容値及び回転数rが想定最大値である場合に生じる逆起電力に対応させて設定されている。すなわち、初期減速デューティ比及び初期スイッチングパターンは、ロータ51の回転数rに関わらず各相電流Iu,Iv,Iwが許容値を超えないように設定されている。許容値は、例えば各スイッチング素子Qu1〜Qw2の定格電流値又はそれよりも所定のマージン分だけ低い値等である。
その後、制御装置60は、各相電流Iu,Iv,Iwの検出結果に基づいて、各相電流Iu,Iv,Iwが許容値を超えない範囲内で高くなるように、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2におけるスイッチングパターン及びON/OFFのデューティ比の少なくとも一方を可変制御する。例えば、制御装置60は、各相電流Iu,Iv,Iwが許容値を超えないように、デューティ比を、初期減速デューティ比から徐々に高くする。
ここで、既に説明した通り、本実施形態のスイッチングパターンにおいては、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のONタイミングがそれぞれズレ量δaだけ異なっている。かかる状況において、デューティ比が高くなり、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のパルス幅δTが上記ONタイミングのズレ量δaよりも長くなると、スイッチングパターンが一相パターンから二相パターンに切り替わる。
図9(a)〜図9(c)に示すように、二相パターンとは、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のうち、二相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となり、他の一相の下アームスイッチング素子がOFF状態となる態様を含むスイッチングパターンである。例えば、二相パターンでは、ON状態となる下アームスイッチング素子が、u相下アームスイッチング素子Qu2及びv相下アームスイッチング素子Qv2→v相下アームスイッチング素子Qv2及びw相下アームスイッチング素子Qw2→w相下アームスイッチング素子Qw2及びu相下アームスイッチング素子Qu2→…の順序で切り替わる。なお、本実施形態の二相パターンでは、各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1は全てOFF状態を維持する。
例えば、Qu2,Qv2:ON且つQu1,Qv1,Qw1,Qw2:OFFの組み合わせの態様を第1態様とし、Qv2,Qw2:ON且つQu1,Qv1,Qw1,Qu2:OFFの組み合わせの態様を第2態様とする。この場合、制御装置60は、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を周期的にON/OFFさせることにより、第1態様から第2態様へ切り替えているとも言える。換言すれば、減速制御(二相パターン)におけるスイッチング態様は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFFの組み合わせが異なる第1態様と第2態様とを含んでいる。
ちなみに、二相パターンは、図9(a)〜図9(c)に示すように、常時二相の下アームスイッチング素子がON状態となるスイッチングパターンに限られず、一相の下アームスイッチング素子がON状態となり且つ二相の下アームスイッチング素子がOFF状態となる一相ON態様を含んでもよい。例えば、二相パターンは、Qu2:ON且つQv2,Qw2:OFF→Qu2,Qv2:ON且つQw2:OFF→Qv2:ON且つQu2,Qw2:OFF→Qv2,Qw2:ON且つQu2:OFF→Qw2:ON且つQu2,Qv2:OFF→Qu2,Qw2:ON且つQv2:OFF→…というスイッチングパターンでもよい。つまり、二相パターンとは、一相ON態様を介して、二相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンでもよい。
二相パターンは、全下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がON状態となる三相ON態様を含んでもよい。例えば、二相パターンは、Qu2,Qv2:ON且つQw2:OFF→Qu2,Qv2,Qw2:ON→Qv2,Qw2:ON且つQu2:OFF→Qu2,Qv2,Qw2:ON→Qu2,Qw2:ON且つQv2:OFF→Qu2,Qv2,Qw2:ON→Qu2,Qv2:ON且つQw2:OFF→…となるスイッチングパターンでもよい。つまり、二相パターンとは、三相ON態様を介して、二相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンでもよい。
なお、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のパルス幅δTが上記ズレ量δaの2倍よりも短い場合、二相パターンは、一相ON態様を介して、二相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンとなる。上記パルス幅δTが上記ズレ量δaの2倍よりも長い場合、二相パターンは、三相ON態様を介して、二相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンとなる。上記パルス幅δTが上記ズレ量δaの2倍と同一である場合、二相パターンは、一相ON態様及び三相ON態様を介することなく、二相の下アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンとなる。デューティ比が高くなるほど、ブレーキ効果は高くなり易い。
ここで、二相パターンで各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングが行われる構成においては、同時に二相の下アームスイッチング素子がON状態となる態様が存在するため、当該態様に係る3回のスイッチングのうち2回の頻度で、正の値となっている相電流に対応する下アームスイッチング素子をON状態にできる。このため、二相パターンは、一相パターンと比較して、各相電流Iu,Iv,Iwが高くなり易いスイッチングパターンである。
そして、制御装置60は、スイッチングパターンが一相パターンから二相パターンに切り替わった後、各相電流Iu,Iv,Iwが許容値を超えない範囲内で、更にデューティ比を徐々に高くする。
なお、念のため説明すると、各相電流Iu,Iv,Iwは回転数rに依存するため、回転数rが徐々に低くなる減速時には、各相電流Iu,Iv,Iwが徐々に高くなるようにスイッチングパターン及びデューティ比が可変制御された場合であっても、実際の各相電流Iu,Iv,Iwが、必ずしも高くなるわけではない。つまり、各相電流Iu,Iv,Iwが徐々に高くなるようなスイッチングパターン及びデューティ比の可変制御とは、実際に各相電流Iu,Iv,Iwが高くなる必要はなく、減速に伴う各相電流Iu,Iv,Iwの低下を抑制できればよい。
また、制御装置60は、減速制御によって得られた各相電流Iu,Iv,Iwの波形から、現在のロータ51の回転数rを把握する。そして、制御装置60は、回転数rが目標回転数rtとなるまで、上記減速制御を継続し、回転数rが目標回転数rtとなることに基づいて減速制御を終了する。ステップS101の処理の実行開始タイミングが減速制御の開始タイミングに対応し、回転数rが目標回転数rtとなったタイミングが減速制御の終了タイミングに対応する。また、制御装置60は、減速制御の実行期間である第1期間T1を記憶する。なお、第1期間T1は、運転停止時の状況などに応じて変動する。
図8に示すように、制御装置60は、回転数rが目標回転数rtまで減速した場合には、ステップS102に進み、ロータ51の逆回転を継続させる継続制御を実行する。ステップS102の処理を実行する制御装置60が「継続制御部」に対応する。
制御装置60は、継続制御では、回転数rが目標回転数rtに維持されるようにインバータ55を制御する。詳細には、制御装置60は、予め定められた初期継続スイッチングパターン及び初期継続デューティ比で各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をスイッチング動作(換言すれば周期的にON/OFF)させて継続制御を開始する。本実施形態では、初期継続スイッチングパターン及び初期継続デューティ比は、減速制御の終了時に設定されたスイッチングパターン及びデューティ比である。
ここで、ロータ51の逆回転中、中間圧冷媒は排出される。中間圧冷媒が排出されると、インジェクション配管119の中間圧冷媒の圧力が低くなるため、ロータ51を逆回転させる運動エネルギが小さくなる。このため、同一態様のスイッチング制御が継続されると、ロータ51の逆回転に伴う運動エネルギの低下によって回転数rは徐々に低下する。
これに対して、本実施形態では、制御装置60は、各相電流Iu,Iv,Iwが徐々に低くなるように、スイッチングパターン及びデューティ比の少なくとも一方(本実施形態では双方)を可変制御する。詳細には、制御装置60は、回転数rが目標回転数rtに維持されるようにデューティ比を徐々に低くする。また、制御装置60は、スイッチングパターンが二相パターンである状況においてデューティ比が二相パターンに対応する下限値に達した場合には、スイッチングパターンを一相パターンに切り替え、更にデューティ比を徐々に低下させる。
かかる構成によれば、中間圧冷媒の排出に伴う運動エネルギの低下に対応させて、電動モータ16で消費される熱エネルギが低下することにより、回転数rが目標回転数rtに維持され易くなる。
なお、制御装置60は、継続制御によって得られる各相電流Iu,Iv,Iwの波形から現在の回転数rを把握し、その把握された回転数rが目標回転数rtに近づくように、スイッチングパターン及びデューティ比のフィードバック制御を行う。すなわち、制御装置60は、継続制御中、回転数rが目標回転数rtに近づくように、インジェクション配管119の中間圧冷媒の圧力変化に対応させて、各相電流Iu,Iv,Iwを制御する。
制御装置60は、継続制御を、減速制御の実行期間である第1期間T1よりも長い第2期間T2に亘って実行する。詳細には、制御装置60は、継続制御中、予め定められた継続制御終了条件が成立しているか否かを定期的に判定する。継続制御終了条件は、例えば(A)継続制御の実行期間(すなわち第2期間T2)が第1期間T1より長く、且つ、(B)各相電流Iu,Iv,Iwが予め定められた終了契機電流値以下となることである。
ここで、終了契機電流値とは、インジェクション配管119に残存していた中間圧冷媒が十分に排出された状態、換言すれば中間圧冷媒に起因してロータ51が停止後に動くことがない状態に対応させて設定されている。詳細には、制御装置60は、スイッチング制御の態様(詳細にはスイッチングパターン及びデューティ比)と、終了契機電流値とが対応付けられたマップデータを備えている。終了契機電流値は、当該終了契機電流値に対応付けられたスイッチング制御が行われている状況において、インジェクション配管119に残存している中間圧冷媒の圧力が予め定められた許容圧力値である場合の各相電流Iu,Iv,Iwである。
制御装置60は、上記マップデータを参照することにより、現在のスイッチング制御の態様に対応する終了契機電流値を把握し、当該スイッチング制御によって流れる各相電流Iu,Iv,Iwが終了契機電流値以下となっているか否かを判定する。そして、制御装置60は、各相電流Iu,Iv,Iwが終了契機電流値以下となっている場合には、(B)の条件を満たすと判定する。
制御装置60は、継続制御終了条件が成立するまで継続制御の実行を継続する。
制御装置60は、継続制御終了条件が成立した場合には、ステップS103に進み、ロータ51を停止させる停止制御を実行する。詳細には、制御装置60は、全ての下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2をON状態に維持する。すなわち、制御装置60は、各相コイル54u,54v,54wを全て短絡させる。なお、停止制御は、三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2が全てON状態に設定され、且つ、デューティ比が100%に設定された減速制御とも言える。
次に、図10を用いて本実施形態の作用について説明する。図10は、運転停止後の回転数rの時間変化を模式的に示すグラフである。なお、図10においては、正方向の回転を「+」とし、逆方向の回転を「−」とする。
図10に示すように、t1のタイミングにて、電動圧縮機10の運転が停止すると、ロータ51の回転数rは徐々に低下する。そして、t2のタイミングにて、ロータ51の回転方向が正方向から逆方向に切り替わる。その後、回転数rが目標回転数rtよりも高くなるとともに、許容回転数raよりも高くなる。
そして、t3のタイミングにて、把握処理が実行され、ロータ51が逆回転していることが把握されると、減速制御が開始される。これにより、運動エネルギから熱エネルギへの変換が行われて、ロータ51が減速し始める。この場合、既に説明した通り、ブレーキ効果が徐々に強くなるため、回転数rの減速度は、徐々に大きくなる。
その後、t4のタイミングにて、回転数rが目標回転数rtに到達すると、減速制御から継続制御に切り替わる。この場合、第1期間T1は、t3のタイミングからt4のタイミングである。また、減速制御の開始タイミングであるt3のタイミングにおける回転数rと、減速制御の終了タイミングであるt4のタイミングにおける回転数rとの差を減速回転数差(減速回転速度差)δr1という。
ここで、継続制御中、回転数rは目標回転数rtに維持される。この場合、実際には、回転数rは、完全に目標回転数rtと一致しているのではなく、多少変動する。但し、継続制御中の回転数rの最小値と最大値との差である継続回転数差(継続回転速度差)δr2は、減速回転数差δr1よりも十分小さくなっている。継続回転数差δr2は、継続制御中におけるロータ51の回転数rの変動差に対応する。
そして、t5のタイミングにて、継続制御終了条件が成立すると、スイッチング制御が継続制御から停止制御に切り替わり、t6のタイミングにて、ロータ51の逆回転が停止する。この場合、第2期間T2は、t4のタイミングからt5のタイミングである。
以上詳述した本実施形態によれば以下の効果を奏する。
(1)電動圧縮機10は、ロータ51を有する電動モータ16と、流体としての冷媒が吸入される吸入口11aが形成されたハウジング11と、吸入口11aから吸入された吸入冷媒を圧縮し、その圧縮された圧縮冷媒を吐出する圧縮部15とを備えている。圧縮部15は、ハウジング11に固定された固定スクロール31と、固定スクロール31と噛み合うものであって固定スクロール31に対して公転運動が可能な可動スクロール32と、固定スクロール31と可動スクロール32とによって区画された圧縮室33とを有している。そして、圧縮部15は、ロータ51が正方向に回転する場合に可動スクロール32が正方向に公転運動することにより、圧縮室33に吸入される吸入冷媒を圧縮するように構成されている。
かかる構成において、電動圧縮機10は、吸入冷媒よりも高圧であって圧縮冷媒よりも低圧の中間圧冷媒を圧縮室33に導入するインジェクションポート43と、電動モータ16を駆動させるインバータ55と、インバータ55を制御することにより、ロータ51の回転を制御する制御装置60とを備えている。制御装置60は、ロータ51が正方向とは逆方向に回転していることに基づいて、第1期間T1に亘ってロータ51を減速させる減速制御を実行する。そして、制御装置60は、減速制御の終了後、第1期間T1よりも長い第2期間T2に亘って、ロータ51の逆回転を継続させる継続制御を実行する。継続制御中におけるロータ51の回転数(回転速度)rの最大値と最小値との差である継続回転数差(継続回転速度差)δr2は、減速制御の開始タイミングの回転数rと減速制御の終了タイミングの回転数rとの差である減速回転数差(減速回転速度差)δr1よりも小さい。
かかる構成によれば、ロータ51の逆回転が行われている場合には、第1期間T1に亘ってロータ51の減速が行われ、その後、第1期間T1よりも長い第2期間T2に亘って、比較的低い回転数rでロータ51の逆回転が継続される。これにより、騒音や振動を抑制しつつ、中間圧冷媒を排出させることができる。
詳述すると、騒音や振動は、回転数rが高くなるほど大きくなり易い。このため、回転数rが高い状態が長く継続すると、騒音や振動が気になり易い。かといって、ロータ51を早期に強制停止させると、インジェクション配管119に中間圧冷媒が残存し続ける。すると、ロータ51の回転停止後に、再度ロータ51が逆回転する再逆回転現象が生じ得る。当該再逆回転現象が生じると、ロータ51の回転位置がずれてしまうため、当該ロータ51の回転位置に基づいて各スイッチング素子Qu1〜Qw2を制御する電動圧縮機10の起動に支障が生じ得る。
これに対して、本実施形態では、まず減速制御が行われ、回転数rが低くなってから継続制御が行われる。当該継続制御は、減速制御よりも回転数rの変動が小さい制御であるため、継続制御では、比較的低い回転数rでロータ51の逆回転が維持され易い。これにより、継続制御中は、騒音や振動を抑制できる。そして、継続制御が、第1期間T1よりも長い第2期間T2に亘って実行されることにより、中間圧冷媒を好適に排出できる。また、比較的回転数rが高い減速制御の実行期間である第1期間T1は、第2期間T2よりも短いため、騒音や振動が気になりにくい。以上のことから、騒音や振動を抑制しつつ、再逆回転現象の発生を抑制できる。よって、中間圧冷媒に起因して電動圧縮機10の起動に支障が生じる不都合を抑制できる。
(2)制御装置60は、減速制御では、ロータ51の回転数rが予め定められた許容回転数ra以下に設定された目標回転数rtとなるまでロータ51を減速させる。制御装置60は、継続制御では、第2期間T2に亘って、回転数rが許容回転数ra以下を維持した状態でロータ51の回転を継続させる。かかる構成によれば、継続制御中、回転数rが許容回転数ra以下となっているため、より好適に騒音や振動を抑制できる。
(3)制御装置60は、継続制御では、回転数rが目標回転数rtに維持されるようにインバータ55を制御する。かかる構成によれば、回転数rが目標回転数rtから徐々に低下する構成と比較して、回転数rの高い状態が維持されるため、中間圧冷媒が排出され易い。これにより、中間圧冷媒を早期に排出させることができる。よって、第2期間T2の短縮化を図ることができ、ロータ51が停止するまでの期間の短縮化を図ることができる。
(4)インバータ55は、同一相同士が接続された上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1と下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2とを有している。制御装置60は、これら各スイッチング素子Qu1〜Qw2を制御するものである。制御装置60は、減速制御では、各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1をOFF状態に維持し、且つ、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を周期的にON/OFFさせることにより、ON状態となる下アームスイッチング素子を順次切り替える。
かかる構成によれば、ON状態となる下アームスイッチング素子に対応する相電流が流れることにより、ロータ51の運動エネルギが熱エネルギに変換される。これにより、ロータ51を減速させることができる。
ここで、仮に各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を、周期的にON/OFFさせることなくON状態に維持することも考えられる。しかしながら、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のON状態が維持されると、各相電流Iu,Iv,Iwが過度に高くなり、許容値を超えてしまうおそれがある。これに対して、本実施形態では、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を周期的にON/OFFさせる構成が採用されているため、各相電流Iu,Iv,Iwが過度に高くなることを抑制できる。
さらに、本実施形態では、ON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わっているため、各相電流Iu,Iv,Iwはそれぞれ同等の大きさとなる。これにより、所望のブレーキ効果を得るための1つ当たりの相電流を小さくできる。よって、ロータ51を減速させるために、各相電流Iu,Iv,Iwが過度に高くなることを抑制できる。
また、ON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わっているため、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2の発熱量のばらつきを抑制できる。これにより、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のうち特定の下アームスイッチング素子のみが過度に発熱するという事態を抑制できる。よって、特定の下アームスイッチング素子の局所的な発熱を抑制しつつ、ロータ51の減速させることができる。
(5)特に、ブレーキ効果は、正の値となる相電流に対応する下アームスイッチング素子がON状態となることによって生じる。そして、正の値となる相電流は、予め定められた順序で順次切り替わっている。このため、仮に予め定められた固定相の下アームスイッチング素子のみを周期的にON/OFFさせる構成では、その固定相に対応する相電流が正の値となる期間のみ減速が行われる。この場合、ロータ51に対して断続的な減速が行われることとなり、例えば十分なブレーキ効果を得ることができなかったり、ロータ51の逆回転が不安定となったりする不都合が生じ得る。
これに対して、本実施形態では、ON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わっているため、所定の頻度(本実施形態では少なくとも3回に1回)で正の値となっている相電流に対応する下アームスイッチング素子をON状態にすることができる。これにより、継続的に減速を行うことができるため、上記不都合を抑制できる。
また、例えば、各相電流Iu,Iv,Iwの正電流期間Taを予め把握しておき、正電流期間Taに対応する相の下アームスイッチング素子のみを周期的にON/OFFさせる制御も考えられる。しかしながら、当該制御を行うためには、ロータ51の回転位置を把握し、且つ、当該回転位置と各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングとを同期させる必要が生じる。すると、レゾルバ等の回転角センサが別途必要となったり複雑な制御が必要となったりして、構成の複雑化が懸念される。
これに対して、本実施形態では、上記のようにON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わっているため、ロータ51の回転位置を把握したり、当該回転位置と各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングとを同期させたりすることなく、ロータ51を減速させることができる。よって、構成の複雑化を抑制できる。
(6)制御装置60は、予め定められた初期減速スイッチングパターン及び初期減速デューティ比で各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を周期的にON/OFFさせることにより減速制御を開始する。その後、制御装置60は、各相電流Iu,Iv,Iwが許容値を超えない範囲内で高くなるように各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングパターン及びデューティ比の少なくとも一方を可変制御する。かかる構成によれば、減速制御の開始時に各相電流Iu,Iv,Iwが過度に高くなることを抑制しつつ、比較的早期にロータ51の回転数rを低下させることができる。
詳述すると、各相電流Iu,Iv,Iwは、ロータ51の回転数rが高くなるほど高くなり易い。このため、仮に回転数rが高い状況である減速制御の最初から、各相電流Iu,Iv,Iwが高くなり易いスイッチングパターン及びデューティ比が設定されると、各相電流Iu,Iv,Iwが過度に高くなり易い。かといって、各相電流Iu,Iv,Iwが低くなり易いスイッチングパターン及びデューティ比で減速制御が継続されると、ロータ51の回転数rが低下しにくい。
これに対して、本実施形態では、初期減速スイッチングパターン及び初期減速デューティ比で減速制御が開始されてから、各相電流Iu,Iv,Iwが許容値を超えない範囲内で高くなるように各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2が制御される。これにより、減速制御の開始時に各相電流Iu,Iv,Iwが過度に高くなることを抑制しつつ、ブレーキ効果を高めることができることを通じて第1期間T1の短縮化を図ることができる。
(7)制御装置60は、初期継続スイッチングパターン及び初期継続デューティ比で各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を周期的にON/OFFさせることにより、継続制御を開始する。その後、制御装置60は、各相電流Iu,Iv,Iwが徐々に低くなるように各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチングパターン及びデューティ比の少なくとも一方を可変制御する。かかる構成によれば、継続制御の開始後、徐々に電動モータ16にて消費される熱エネルギが減少する。これにより、継続制御中、中間圧冷媒の排出に伴うインジェクションポート43からの圧力低下に起因して運動エネルギが徐々に低下しても、回転数rを、ある程度維持することができる。よって、継続回転数差δr2が減速回転数差δr1よりも大きくなることを抑制できる。
(8)制御装置60は、継続制御の終了後、ロータ51の回転を停止させる停止制御を行う。かかる構成によれば、継続制御の終了後に自然減速させる構成と比較して、早期にロータ51の回転を停止させることができる。これにより、ロータ51の逆回転が停止するまでの期間を短縮することができる。
(9)制御装置60は、減速制御及び継続制御によって流れる各相電流Iu,Iv,Iwに基づいて、ロータ51の回転方向及び回転数rを把握する。かかる構成によれば、専用のセンサ等を設けることなく、ロータ51の回転方向及び回転数rを把握できるため、センサレス化を図ることができる。また、減速制御及び継続制御によって流れる各相電流Iu,Iv,Iwに基づいて、ロータ51の回転方向及び回転数rを把握することにより、減速制御及び継続制御の有効活用を図ることができる。換言すれば、ロータ51の回転方向及び回転数rを把握するための専用の通電制御を行う必要がない分だけ、制御の簡素化を図ることができる。
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。
○ 継続制御は、回転数rを目標回転数rtに維持する制御に限られない。例えば、継続制御は、継続回転数差δr2が減速回転数差δr1よりも小さい範囲内で、回転数rが徐々に低下する制御であってもよい。
また、制御装置60は、継続制御中、回転数rが許容回転数ra以下の範囲内で高くなるように各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2を制御してもよい。また、制御装置60は、加速と減速とを交互に繰り返してもよい。要は、継続制御は、継続回転数差δr2が減速回転数差δr1よりも小さく、且つ、第1期間T1よりも長く実行されればよく、当該継続制御中における回転数rの具体的な変化態様は任意である。また、継続回転数差δr2として、減速制御の開始タイミングの回転数rと、減速制御の終了タイミングの回転数rとの差を採用してもよい。
○ 減速制御及び継続制御の具体的なスイッチング制御態様は、実施形態のものに限られず任意である。例えば、制御装置60は、予め定められた固定相の下アームスイッチング素子のみを周期的にON/OFFさせ、他の相の下アームスイッチング素子をOFF状態に維持する構成でもよい。また、制御装置60は、三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2の立ち上がりタイミング及び立ち下がりタイミングを同期させて周期的にON/OFFさせる構成でもよい。
○ 制御装置60は、減速制御では、回転数rが低くなるほど、各相電流Iu,Iv,Iwが高くなり易いスイッチングパターン及びデューティ比を採用すればよく、具体的なスイッチングパターンやデューティ比の変更態様は任意である。
○ 制御装置60は、減速制御中、スイッチングパターン及びデューティ比を初期減速スイッチングパターン及び初期減速デューティ比から変更しない構成でもよい。同様に、制御装置60は、継続制御中、スイッチングパターン及びデューティ比を初期継続スイッチングパターン及び初期継続デューティ比から変更しない構成でもよい。
○ 初期継続スイッチングパターン及び初期継続デューティ比は、回転数rが過度に変動しなければ、減速制御の終了タイミングにおけるスイッチングパターン及びデューティ比に限られず任意である。
○ 減速制御の終了契機となる目標回転数rtと、継続制御にて維持する目標回転数rtとが異なっていてもよい。例えば、制御装置60は、回転数rが第1目標回転数となるまで減速制御を実行し、その後回転数rが第1目標回転数よりも第2目標回転数に近づくように、ロータ51の逆方向の回転を継続してもよい。この場合、第2目標回転数は、許容回転数ra以下であるとよい。また、第1目標回転数は、許容回転数ra以下であってもよいし、許容回転数raよりも若干高くてもよい。
○ 停止制御を省略してもよい。この場合、ロータ51は自然減速によって停止する。
○ 減速制御の終了契機条件は、回転数rが目標回転数rtに到達することに限られない。例えば、減速制御の終了契機条件は、減速制御の開始タイミングから予め定められた第1期間T1が経過したことであってもよい。
○ 継続制御終了条件の(B)の条件を省略してもよい。この場合、第2期間T2は、例えば、運転停止時の状況に関わらず、中間圧冷媒が十分排出できる期間に設定されているとよい。
○ また、(B)の条件を省略した場合、第2期間T2は、第1期間T1に対応させて設定されてもよい。例えば、第2期間T2は、第1期間T1が短いほど長く設定されてもよい。これにより、第1期間T1が短いことに起因して減速制御中の中間圧冷媒の排出量が小さい場合には、継続制御中の中間圧冷媒の排出量を大きくすることができる。よって、中間圧冷媒を好適に排出させることができる。
○ 実施形態では、スイッチング動作対象である三相の対象アームスイッチング素子は、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2であったが、これに限られず、例えば各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1であってもよい。詳細には、制御装置60は、ON状態となる上アームスイッチング素子が順次切り替わるように、各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1を周期的にON/OFFさせてもよい。この場合、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2は例えばOFF状態を維持するとよい。また、電流センサ61〜63は、相配線ELu〜ELwにおける上アームスイッチング素子Qu1〜Qw1と第1電力線EL1との間に設けられているとよい。
すなわち、減速制御における制御装置60のスイッチング制御態様は、ON状態となる上アームスイッチング素子が順次切り替わるように各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1をスイッチング動作させる態様でもよい。
○ また、制御装置60は、各上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1及び各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2の双方をスイッチング動作(換言すれば周期的にON/OFF)させてもよい。すなわち、スイッチング動作対象である三相の対象アームスイッチング素子は、三相の上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1と三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2との双方でもよい。この場合、制御装置60は、同一相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子とが同時にON状態とならないように制御するとよい。詳細には、制御装置60のスイッチング制御態様は、同一相の上アームスイッチング素子と下アームスイッチング素子とが同時にON状態とならないように、ON状態となる上アームスイッチング素子を順次切り替えるとともに、ON状態となる下アームスイッチング素子を順次切り替える態様でもよい。
つまり、制御装置60は、減速制御では、三相の上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1及び三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のうち少なくとも1つのスイッチング素子をON状態にすることによりロータ51を減速させればよい。この場合、減速制御における制御装置60のスイッチング制御態様は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のうち1又は複数のスイッチング素子がON状態となり且つ他のスイッチング素子がOFF状態となる組み合わせの第1態様と、第1態様の組み合わせとは異なる組み合わせの第2態様とを含んでいればよい。これにより、特定のスイッチング素子のみが局所的に発熱する事態を抑制でき、それを通じて好適にロータ51を減速できる。
なお、第2態様は、各スイッチング素子Qu1〜Qw2のON/OFFの組み合わせが第1態様と異なっていればよく、ON状態となる相のスイッチング素子の一部が第1態様と重複してもよい。例えば、二相パターンにおいて、Qu2,Qv2:ON且つQu1,Qv1,Qw1,Qw2:OFFの態様を第1態様とし、Qv2,Qw2:ON且つQu1,Qv1,Qw1,Qu2:OFFを第2態様とする。この場合、v相下アームスイッチング素子Qv2は、第1態様及び第2態様の双方においてON状態となっている。一方、第1態様ではu相下アームスイッチング素子Qu2がON状態となり、第2態様ではw相下アームスイッチング素子Qw2がON状態となっているため、第1態様と第2態様とは、ON状態となる相のスイッチング素子が異なっている。
○ 制御装置60は、スイッチングパターン又はデューティ比のいずれか一方を可変制御する構成でもよい。例えば、制御装置60は、スイッチングパターンを一相パターン又は二相パターンのいずれかに固定し、デューティ比のみを可変制御してもよいし、デューティ比を固定し、スイッチングパターンを、一相パターン又は二相パターンに切り替えてもよい。要は、制御装置60は、回転数rに応じて、スイッチングパターン及びデューティ比の少なくとも一方を可変制御すればよい。
○ 一相パターンにおけるON状態となる下アームスイッチング素子の順序は任意である。例えば、一相パターンは、ON状態となる下アームスイッチング素子が、w相下アームスイッチング素子Qw2→v相下アームスイッチング素子Qv2→u相下アームスイッチング素子Qu2の順に切り替わる構成でもよい。二相パターンについても同様である。
○ 二相パターンにおいて、同時にON状態となる相の組み合わせは任意である。
○ スイッチングパターンは、ON状態となる対象アームスイッチング素子が順次切り替わるように設定されていれば、その具体的な態様は任意である。例えば、スイッチングパターンは、三相の対象アームスイッチング素子が全てON状態となる三相ON態様を介して、一相の対象アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となる態様でもよい。
○ 実施形態で説明した二相パターンは、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2がON状態となるタイミングがずれていたが、これに限られない。例えば、二相パターンは、ON状態となる二相の下アームスイッチング素子のONタイミングが一致するスイッチングパターンでもよい。例えば、二相パターンは、Qu2,Qv2:ON且つQw2:OFF→Qu2,Qv2,Qw2:OFF→Qv2,Qw2:ON且つQu2:OFF→Qu2,Qv2,Qw2:OFF→Qu2,Qw2:ON且つQv2:OFF→Qu2,Qv2,Qw2:OFF→Qu2,Qv2:ON且つQw2:OFF→…となるスイッチングパターンでもよい。すなわち、二相パターンは、三相の対象アームスイッチング素子の全てがOFF状態となるインターバル態様を介して、二相の対象アームスイッチング素子が予め定められた順序でON状態となるスイッチングパターンでもよい。換言すれば、二相パターンは、インターバル態様を介するスイッチングパターンと、一相ON態様を介するスイッチングパターンと、三相ON態様を介するスイッチングパターンと、インターバル態様、一相ON態様及び三相ON態様のいずれの態様も介さないスイッチングパターンと、のうち少なくとも1つを含めばよい。
なお、実施形態では、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2におけるON状態となるタイミングがずれていた関係上、デューティ比を調整することにより、スイッチングパターンが一相パターン又は二相パターンに切り替わった。しかしながら、上記のように、各下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2におけるON状態となるタイミングが同時である場合(すなわち位相ずれがない場合)には、デューティ比を調整しても、スイッチングパターンは切り替わらない。すなわち、デューティ比とスイッチングパターンとは、互いに関連付けられていてもよいし、関連付けられていなくてもよい。
○ 制御装置60がロータ51の回転方向及び回転数rを把握するための具体的な構成は任意であり、例えばレゾルバ等の回転角センサを設け、当該回転角センサの検出結果に基づいて把握する構成でもよい。
○ 制御装置60は、予め定められた条件が成立している場合、例えば把握処理によって把握されたロータ51の回転方向が逆方向であり且つ当該把握処理によって把握された回転数rが予め定められた閾値回転数以下である場合には、減速制御及び継続制御の少なくとも一方を実行しなくてもよい。すなわち、制御装置60は、電動圧縮機10の運転停止後(換言すればロータ51の逆回転時)に常に減速制御及び継続制御を実行する構成に限られず、電動圧縮機10の運転停止後に所定条件が成立している場合(例えば逆方向の回転数rが上記閾値回転数よりも高い場合等)に減速制御及び継続制御を実行する構成でもよい。要は、制御装置60は、減速制御を行う機能と、継続制御を行う機能とを備えていればよい。
なお、上記閾値回転数は、比較的低い値であれば任意であるが、例えば目標回転数rt又はそれよりも低い値であってもよいし、目標回転数rtよりも高く且つ許容回転数raよりも低い値でもよい。また、上記閾値回転数は、例えば許容回転数raでもよい。
○ インジェクションポート43の位置や数は任意である。
○ 電動圧縮機10の搭載対象は、車両に限られず、任意である。
○ 電動圧縮機10は、車両空調装置100に用いられていたが、これに限られず、他の装置に用いられてもよい。例えば、車両が燃料電池を搭載した燃料電池車両(FCV)である場合には、当該電動圧縮機10は、上記燃料電池に空気を供給する供給装置に用いられてもよい。要は、圧縮対象の流体は、任意であり、冷媒であってもよいし空気などであってもよい。
○ 実施形態及び各別例を適宜組み合わせてもよい。例えば、制御装置60は、ON状態となる上アームスイッチング素子が順次切り替わるように三相の上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1のスイッチング動作を行い、その後ON状態となる下アームスイッチング素子が順次切り替わるように三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2のスイッチング動作を行う構成でもよい。例えば、制御装置60は、三相の上アームスイッチング素子Qu1,Qv1,Qw1又は三相の下アームスイッチング素子Qu2,Qv2,Qw2についてスイッチング動作を行い、その後各スイッチング素子Qu1〜Qw2についてスイッチング動作を行う構成でもよい。
次に、上記実施形態及び別例から把握できる好適な一例について以下に記載する。
(イ)前記初期減速スイッチングパターン及び前記初期減速デューティ比は、前記ロータの回転数に関わらず、前記三相モータに流れる電流が前記許容値を超えないように設定されている請求項6に記載の電動圧縮機。