JP6643216B2 - 拍動検出装置 - Google Patents

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Description

本発明は、拍動検出装置に係り、例えば心拍や脈拍などの拍動を検出する装置に適用して有効な技術に関する。
従来、心拍や脈波(脈拍)を検出するために、マイクロホンを用いた拍動検出装置で血管内の圧力を測定する方法が広く用いられてきた。心音マイクロホン装置に代表されるような拍動検出装置には、空気伝導形と直接伝導形(加速度形、ペロッテ形)がある。
空気伝導形は、音圧を電気信号に変換する音圧・電気変換として、例えばコイルが永久磁石の磁界中にセットされた小型ダイナミックスピーカのような動電型を採用するもの、或いは、振動膜と背極を持ったコンデンサマイクのような静電型を採用するものがあり、いずれも被検体表面とマイクロホンの間に空気室を介在させて動脈真上の圧力変化を検出している。空気伝導型は駆動検出装置の改良型としてマイクロホンの前面で被検体に当たる部分にシリコンゴムなどの振動膜を設けたもの、更に、マイクロホンが動脈真上に位置するように、振動膜に突起を設けたものなどがある。
直接伝導形は、振動を電気信号に変換する振動・電気変換として、例えば圧電或いは電歪素子を利用し、ケース内に燐青銅などの支持バネで両端を弾性的に支持した錘の上に圧電素子を設けたような加速度型を採用したもの、或いは、振動・電気変換として例えば圧電素子又は導電コイルを利用し、ゴム円筒状の周辺支持具内に小さなペロッテ(接触子)がダンパーゴムを介して支持バネに接続され、その上端に設けられたコイルが永久磁石の磁界中にセットされたようなペロッテ型を採用したものがある。直接伝導型はケースやペロッテを直接動脈真上の皮膚に押し当てて血管内の圧力変動による振動を検出する。一般に、直接伝導型のペロッテ型の拍動検出装置は、体表面に300g近くの重量で圧着される。また、加速度形のものは、小型軽量(30g)で人体に判創膏で固定することができる。
また、直接伝導型の拍動検出装置として特許文献1,2に記載されているように、マイクロホンの前面に振動伝達部材としてシリコンゴムなどの弾性体から成るバルク状の振動伝達部材を配置し、マイクロホン及び振動伝達部材の周側を制振部材で覆って感度を良くした構造が開示されている。
特開2014−45917号公報 特開2014−45918号公報
上記の拍動検出装置は、音圧・電気変換や振動・電気変換に要する電力が非常に少なく、しかも単純な構造で構成できるので、低消費電力、低価格といった面で拍動検出装置に最も適した特徴を持っている。
しかしながら従来の拍動検出装置は、空気伝導形では、被検体の表面に接する開口部や振動膜の形状が平面、又は平面上に一部突起を設けたものであり、腕や指などの曲面や凹凸のある部分などで使用すると、一部分でしか接することができない。この点に関し、発明者の検討によれば空気室の前面に配置された振動膜には比較的大きな張力がかかっているので柔軟性に劣るためであると考えられる。また、特許文献1,2のようにマイクロホンの前面にバルク状の振動伝達部材を配置した構造は張力をかけた振動膜が不要であっても、バルク状の振動伝達部材も同様に被検体の曲面や凹凸に沿って柔軟に変形し難いことに変わりはない。被検体との接触部分の柔軟性に劣るという点は、マイクロホンを極力血管に近づけて拍動を検出することができないといった問題を含んでいる。また、マイクロホンによる感度は振動膜の面積、特に被検体との接触面積に大きく関係するので、単に振動膜を小型化してその全体を被検体に接触させればよいというものでないことは当然であり、振動膜を大きいままで用いたとしても振動膜の一部しか被検体に接触できないことに変わりなく、拍動の検出感度を思うように向上させることができないという問題があった。
このような従来の空気伝導型の拍動検出装置の構造や大きさは、被検体の表面直下の血管に安定して極力近づけることを阻害し、利用に際して著しく不便なものになっていた。加速度型、ペロッテ型の拍動検出装置も、こうした被検体の凸凹部に接触子を押し付けて、狙った正しい位置に留めて常に安定した押圧し続けることは構造的にも操作上も難しく、検出感度の低下や不便な点は上記同様であった。しかも、利用者は検出に際して体を動かさないようにし、拍動検出装置が正常な位置に留まるようにすることが必要であった。
本発明の目的は、被検体のさまざまな部位に対し動いている状態でも簡単に心音や脈拍などの測定を行うことができる拍動検出装置を提供することにある。
本発明の前記並びにその他の目的と新規な特徴は本明細書の記述及び添付図面から明らかになるであろう。
本願において開示される発明のうち代表的なものの概要を簡単に説明すれば下記の通りである。本項の説明で括弧を付して参照する図面中の参照符号はそれが付された構成要素の概念に含まれるものを例示するに過ぎない。
〔1〕すなわち、拍動検出装置(SNSR)は、音圧を受けて電気信号に変換するマイクロホン(2)と、前記マイクロホンを取り付けたケーシング(1)と、前記マイクロホンの音圧入力面に連通させて前記ケーシングの正面側に形成された空気室(3,4)と、を有する。前記空気室は、前記マイクロホンを内包するように前記ケーシングの周縁部に固定されていて外表面を被検体(5)の表面に接触可能とする振動膜(31,41)と、前記振動膜の内表面に係合して内部空間(30,40)を形成するように当該振動膜を立体的に支えると共に被検体への押圧力に抗する大小異なる機械インピーダンスを前記振動膜の異なる部位に形成する支持部材(32〜34、42)と、を有する。
上記によれば、支持部材で支持された振動膜を被検体の計測部位近傍の表面に押し付けながら、被検体内部の動脈から外れた骨部、筋又は腱の直上の空気室の部位(MIP2)が大きな機械インピーダンスによってその押圧力に抗し、動脈直上の空気室の部位(MIP1)が小さな機械インピーダンスによってその押圧力に抗するようにして、計測部位に対して振動膜の押圧位置を決定する。機械インピーダンスは、作用した力に対する変位の速度の割合であり、同じ力であれば変位の速度が小さいほど機械インピーダンスは大きくなる。機械インピーダンスの大きな部分では押圧力に対して大きく変位することなく振動膜を支え、機械インピーダンスの小さな部分では拍動に追従して振動膜が変位する。振動膜を被検体の計測部位近傍の表面に押し付けた状態で、骨部や筋などの直上の機械インピーダンスの大きな部分と、動脈などの直上の機械インピーダンスの小さな部分とが分離される。これにより、被検体に振動膜を強く押し付けても動脈直上の機械インピーダンスは小さな値を保つことができ、その部分の振動膜を動脈に近づけることができるから、機械インピーダンスの小さな部分では拍動に追従して変位する振動膜による音圧の周期的変化を感度良く検出することができる。そして、支持部材は振動膜の内表面に係合して内部空間を形成するように当該振動膜を立体的に支えるから、その内部空間は小さな機械インピーダンスの部位が大きく振動することを阻むことはない。したがって、血管内の圧力変化は周辺の筋や腱にじゃまされることなく正確に振動膜に伝わることになり、外来の音や振動による雑音に影響され難い、最適な心音や脈拍の検出が可能になる。
〔2〕前記ケーシングは前記空気室の内部空間を大気圧に連通させる所定の内径と長さを持つ気圧調整孔(12)を設けるのが好適である。マイクロホンは空気伝導型であり、音圧・電気変換が動電型によるものでも静電型によるものでもよい。マイクロホンは脈拍などの拍動の周期波形を測定できるだけの、十分な低周波の測定周波数帯域が必要である。したがって、空気室の内部空間を外気に通じる小さな孔の気圧調整孔の内径と長さによって気圧調整と下限周波数の調整を行うことができる。
〔3〕拍動検出装置の代表的な一つの形態(図1、図2、図7)として、前記支持部材は、ケーシングの任意の位置に立設された支柱(32,33,34)であり、支柱に接していない部位(MIP1)における振動膜の機械インピーダンスは支柱に接した部位(MIP2)における振動膜の機械インピーダンスよりも小さくされる。
これによれば、支柱に接している振動膜の部分と支柱に接していない振動膜の部分で機械インピーダンスの大小が予め決定されている。したがって、支持部材で支持された振動膜を被検体の計測部位近傍の表面に押し付けるときは、被検体内部の動脈から外れた骨部、筋又は腱の直上に支柱を位置させて振動膜を安定に支え、動脈直上に配置した機械インピーダンスの小さな部位を拍動に追従させて変位させる。機械インピーダンスの大きな部分の振動膜は支柱によって支えられているので、測定に際して振動膜を被検体の表面に押し付けながら骨部、筋又は腱の位置を探ることができるから、振動膜の押し付け位置を容易に確定させることができる。
〔4〕上記において前記支柱は、粘弾性体又はゴム弾性体で形成するのがよい。振動膜を被検体の表面に押し付けたとき支柱のダンパー効果を期待することができる。
〔5〕振動膜はマイクロホンを内包するようにケーシングの周縁部に固定され内部空間を形成して振動可能にされているので振動膜それ自体に特別な柔軟性が要求されるものではないが、前記振動膜を前記支柱よりも柔軟なゴム弾性体から構成することによって、更なる検出感度の向上に寄与する。
〔6〕上記において前記支柱として長さの異なる複数個の支柱を採用し、被検体と接触可能とされる振動膜の外表面の一部を他よりも長い支柱で支えて突出させてよい。これによれば、機械インピーダンスの大きな突出部分を被検体に強く押し当てても機械インピーダンスの小さな部位に作用する反力対が大きくなることを緩和することができ、結果として、被検体に振動膜を押し当て位置決めするときの安定性が増し、検出感度の更なる向上に寄与する。
〔7〕上記において、振動膜の外表面の一部を突出させる形状として、中央部が凹状の立体的な形状を前記振動膜に採用してよい。
〔8〕上記同様に、振動膜の外表面の一部を突出させる形状として、中央部が凸状の立体的な形状を前記振動膜に採用してよい。
〔9〕拍動検出装置の代表的な他の形態(図9、図10、図12、図13)として、前記支持部材を熱可塑性エラストマーから成る繊維の連続線条体を曲りくねらせたランダムループの接合構造体(42)とし、被検体への押圧力に抗する力が小さな部位(MIP1)における振動膜の機械インピーダンスは当該被検体への押圧力に抗する力が大きな部位(MIP2)における振動膜の機械インピーダンスよりも小さくなるようにする。
これによれば、振動膜の異なる部に発生される機械インピーダンスの大小は予め決定されず、実際に振動膜を被検体の表面に押し当てた状態で決定される。即ち、被検体内部の動脈から外れた骨部、筋又は腱の直上の空気室の部位では接合構造体が大きく圧縮して大きな機械インピーダンスを生じ、動脈直上の空気室の部位では接合構造体が左程圧縮せずに小さな機械インピーダンスを生ずる。このように、実際に振動膜を押し当てた場所に応じて空気室の機械インピーダンスの大小を動的に決定することができる。したがって、複雑な被検体の表面形状若しくは被検体の骨部や動脈など複雑な内部配置に都合良く合わせながら動脈の直上若しくは近傍に小さな機械インピーダンスの領域を容易に配置することができる。
〔10〕前記連続線条体は例えば線径が0.1mm乃至3.0mmである。
〔11〕上記において前記振動膜はゴム弾性体で形成するのがよい。振動膜はマイクロホンを内包するようにケーシングの周縁部に固定され内部空間を形成して振動可能にされているので振動膜それ自体に特別な柔軟性が要求されるものではないが、前記振動膜をゴム弾性体で構成することによって、更なる検出感度の向上に寄与する。
〔12〕上記において前記振動膜の表裏方向における前記接合構造体の厚さ寸法を部分的に相違させ、被検体と接触可能とされる外表面の一部が前記接合構造体の厚さ寸法に応じて突出されているように前記振動膜を形成してよい。これによれば、機械インピーダンスの大きな突出部分を被検体に強く押し当てても機械インピーダンスの小さな部位に作用する反力が大きくなることを緩和することができ、結果として、被検体に振動膜を押し当て位置決めするときの安定性が増し、検出感度の更なる向上に寄与する。
〔13〕振動膜の外表面の一部を突出させる形状として、中央部が凹状の立体的な形状を前記振動膜に採用してよい。
〔14〕上記同様に、振動膜の外表面の一部を突出させる形状として、中央部が凸状の立体的な形状を前記振動膜に採用してよい。
本願において開示される発明のうち代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば下記の通りである。
すなわち、被検体のさまざまな部位に対し動いている状態でも簡単に心音や脈拍などの測定を行うことができる拍動検出装置を提供することができる。
図1は本発明に係る拍動検出装置の第1の例を示す横断面図である。 図2は図1に示される拍動検出装置の一部切欠した斜視図である。 図3は図1に示される拍動検出装置の底面図である。 図4は図1に示される拍動検出装置の側面図である。 図5は図1に示される拍動検出装置の気圧調整孔の例を示す断面図である。 図6は図1に示される拍動検出装置の使用例を示す説明図である。 図7は本発明に係る拍動検出装置の第2の例を示す横断面図である。 図8は図7の拍動検出装置の使用例を示す説明図である。 図9は本発明に係る拍動検出装置の第3の例を示す横断面図である。 図10は図9に示される拍動検出装置の一部切欠した斜視図である。 図11は図9の拍動検出装置の使用例を示す説明図である。 図12は本発明に係る拍動検出装置の第4の例を示す横断面図である。 図13は本発明に係る拍動検出装置の第5の例を示す横断面図である。 図14は本発明に係る拍動検出装置による手首からの検出波形を例示する波形図である。 図15は従来の心音センサーによる手首からの検出波形を例示する波形図である。 図16は本発明に係る拍動検出装置による指先先端部からの検出波形を例示する波形図である。 図17は従来の心音センサーによる指先先端部からの検出波形を例示する波形図である。 図18は本発明の拍動検出装置を椅子の座面に組み込んだ状態を例示する説明図である。 図19は本発明に係る拍動検出装置による臀部からの検出波形を例示する波形図である。 図20は従来の心音センサーによる臀部からの検出波形を例示する波形図である。
図1及び図2には本発明に係る拍動検出装置の第1の例が示される。同図に示される拍動検出装置SNSRは心拍や脈拍などの拍動を検出する装置である。
拍動検出装置SNSRは、音圧を受けて電気信号に変換するマイクロホン2と、マイクロホン2を取り付けたケーシング1と、マイクロホン2の音圧入力面に連通させてケーシング1の正面側に形成された空気室3と、を有する。空気室3は、マイクロホン2を内包するようにケーシング1の周縁部に固定されていて外表面を被検体5の表面に接触可能とする振動膜31と、前記振動膜の内表面に係合して内部空間30を形成するように当該振動膜31を立体的に支えると共に被検体への押圧力に抗する大小異なる機械インピーダンスを振動膜31の異なる部位MIP1,MIP2に形成する支持部材32〜34と、を有する。
図1の例では支持部材は、ケーシングの任意の位置に立設された支柱32,33,34であり、支柱32,33,34に接していない部位における振動膜31の機械インピーダンスMIP1は支柱32,33,34に接した部位における振動膜31の機械インピーダンスMIP2よりも小さくされる。図1の例では中央部の支柱33が最も長くされ、図3、図4から明らかなように振動膜31は山型の立体形状を有し、中央部が突出されている。内部空間30は図2からも明らかなように支柱33によって区切られることなく連通している。振動膜31はシリコンゴム或いは適宜のエラストマーで形成すればよい。支柱32,33,34は、粘弾性体又はゴム弾性体で形成するのがよい。振動膜を被検体5の表面に押し付けたとき支柱32,33,34のダンパー効果を期待することができるからである。振動膜31はマイクロホン2を内包するようにケーシング1の周縁部に固定され内部空間を形成して振動可能にされているので振動膜31それ自体に特別な柔軟性が要求されるものではないが、振動膜31を支柱32,33,34よりも柔軟なゴム弾性体から構成したり、薄く構成したりすることが望ましい。
前記ケーシング1には前記空気室3の内部空間30を大気圧に連通させる所定の内径と長さを持つ気圧調整孔12を有する。即ち、空気室3は気圧調整孔12の経路を除いて密閉されている。空気調整孔12は図1に例示されるように垂直に形成してもよいし、垂直形成だけでは必要な長さを得ることができない場合には図5の如く垂直孔及び水平孔を組み合わせればよい。
マイクロホン2は、空気伝導形で、音圧・電気変換が公知の動電型によるものでも静電型によるものでもよい。マイクロホン2は脈拍の周期波形を測定することを考慮して、十分な低周波の測定周波数帯域が必要であり、下限周波数を例えば0.5Hzとする。
ケーシング1はマイクロホン2を収納すると同時に、振動膜31と共に空気室3を構成するための構造体の一部となっている。気圧調整孔12は空気室3の内部空間30の気圧を調整するためと、測定周波数の下限を調整するための小孔であり、外気に通じている。気圧調整孔12は孔が大きいほど、長さが短いほど下限周波数を上げる。ケーシング1の外周縁部には振動膜31が固定される、振動膜31の固定状態に関し、支柱32,33,34に接していない振動膜31は部分では被検体からの反力で容易に変位し若しくは撓み得るように過大な張力が作用されないようにケーシングに固定されている。振動膜31はケーシング1と一体成形で構成することも可能である。
空気室3は、振動膜31が捉えた血管内の圧力変化などを、空気の圧力変化として、音圧・電気変換器であるマイクロホン2に伝えるための、ケーシング1と振動膜31で囲まれた空間(内部空間30)を形成する。この内部空間30は3次元空間で、上述の如く中央部が飛び出すように形成されていて、その形は支柱32,33,34で支えられた振動膜31の形状に従うよう決められる。
振動膜31は直接被検体5表面に接して動脈51内の圧力変化を検出するためのもので、圧力の変化は振動膜31を介して内部空間30に伝播し、空気の振動として音圧・電気変換器のマイクロホン2に伝わる。振動膜31の3次元立体構造は、音圧・電気変換の効率に関係する膜の実効面積を大きくできること、そして身体のあらゆる部分の任意の形状に、例えば凸凹があっても、合わせやすくスムーズに接触できるためである。
上述の如く空気室3は二つの異なった機械インピーダンスの領域MIP1,MIP2に分けられて、それぞれの領域MIP1,MIP2が異なった役割をするよう構成されている。二つの異なった機械インピーダンスの領域のうち、機械インピーダンスが小さい値で構成される膜の領域(以下第1機械インピーダンス領域とも称する)MIP1は、血管内の圧力変化を検出するための従来の振動膜として用いる、一方の機械インピーダンスが大きい値の領域(以下第2機械インピーダンス領域とも称する)MIP2は第1機械インピーダンス領域MIP1の振動膜31を保持する部位として機能する。
振動膜31の二つの異なった機械インピーダンス領域のうち、第1機械インピーダンス領域MIP1の機械インピーダンスの値は、拍動検出装置のセンサーとしての感度を決める上で重要となる。振動膜31は血管の近傍で圧力変化を検出するよう配置されるため、血管近傍の機械インピーダンスに近い値であることが好ましい。また、第1機械インピーダンス領域MIP1の膜の形状が被検体の表面に合わせて自由に変化できるよう、膜に無用な張力を加えないでできるだけ柔らかいほうが変化の自由度が増す。したがって、任意の曲面に接するときも振動膜31が曲面に沿って比較的自由に形を変えられることが望ましく、振動膜31の第1機械インピーダンス領域MIP1のインピーダンスの値は血管のインピーダンスに近くて、柔らかくするためにできるだけ小さい値に設定しておくのが好ましい。
更に、振動膜31は、被検体の体に押し付けたときの力によって、第1機械インピーダンス領域MIP1の膜の張力が大きく変化して血管のインピーダンスの値に整合できなくなると、本来の性能が得られなくなる虞があるので、押し付けたときの第1機械インピーダンス領域MIP1のインピーダンス値の変化を極力小さくする構造が考慮されている。すなわち、第2機械インピーダンス領域MIP2は、第1機械インピーダンス領域MIP1の膜を撓まないよう形状を保持すると同時に、被検体の表面に押し付けたとき、第1機械インピーダンス領域MIP1が張力変化を起こし難くするように、振動膜31を支持するために支柱32,33,34が設けられていて、支柱32,33,34は、振動膜31を被検体の表面に押し当てたときにその反力を弾性的に支える非線形弾性機能と、振動膜31を構造的に支える機能が一体で構成されている。
図6には拍動検出装置の使用例が示される。先ず、振動膜31を被検体5の計測部位近傍の表面に押し付けながら、被検体5の内部の動脈51から外れた骨部、筋又は腱50の直上の空気室30の部位MIP2が大きな機械インピーダンスによってその押圧力に抗し、動脈直上の空気室の部位MIP1が小さな機械インピーダンスによってその押圧力に抗するようにして、計測部位に対して振動膜31の押圧位置を決定する。第1機械インピーダンス領域MIP1の振動膜31を、動脈51の近くで血管を押さえつけ過ぎない程度の位置まで案内したら、動脈51から外れた筋や腱、又は骨部50の真上の被検体表面を第2インピーダンス領域で押し付けながら圧迫して振動膜31を計測位置に位置決めする。このとき支柱32,33,34は、筋や腱、又は骨部の真上で押圧力の反力を受ける振動膜31を支えることが可能にされ、動脈51の近傍の第1機械インピーダンス領域MIP1に機械インピーダンスを変化させるような余計な力がかからないように支える。第1機械インピーダンス領域MIP1は振動膜31の立体形状を保持して、動脈50の圧力変化に従って動く柔らかい膜として機能し、第2機械インピーダンス領域MIP2は、筋や腱、又は骨部の真上の体表面に強く押し当ててその反作用を受ける振動膜31を支える非線形バネとして機能する。第2機械インピーダンス領域MIP2は、第1機械インピーダンス領域MIP1の機械インピーダンスの値より大きいことは当然であり、振動膜31を押し付ける被検体の部分の機械インピーダンスの値に合わせた値に設定するのが望ましい。
第1の例によれば、機械インピーダンスの大きな部分(MIP2)では押圧力に対して大きく変位することなく振動膜31を支え、機械インピーダンスの小さな部分(MIP1)では拍動に追従して振動膜31が変位する。振動膜31を被検体5の計測部位近傍の表面に押し付けた状態で、骨部や筋51などの直上の機械インピーダンスの大きな部分MIP2と、動脈50などの直上の機械インピーダンスの小さな部分(MIP1)とが分離される。これにより、被検体5に振動膜を強く押し付けても動脈直上の機械インピーダンスは小さな値を保つことができ、その部分の振動膜31を動脈に近づけることができるから、機械インピーダンスの小さな部分(MIP1)では拍動に追従して変位する振動膜31による音圧の周期的変化を感度良く検出することができる。そして、支柱32,33,34は振動膜31の内表面に係合して内部空間を形成するように当該振動膜31を立体的に支えるから、その内部空間は小さな機械インピーダンスの部位MIP1が大きく振動することを阻むことはない。したがって、動脈50の圧力変化は周辺の筋や腱51にじゃまされることなく正確に振動膜31に伝わることになり、外来の音や振動による雑音に影響され難い、最適な心音や脈拍の検出が可能になる。支柱32,33,34に接している振動膜31の部分と支柱32,33,34に接していない振動膜31の部分で機械インピーダンスの大小が予め決定されている。したがって、支柱32,33,34で支持された振動膜31を被検体5の計測部位近傍の表面に押し付けるときは、被検体内部の動脈50から外れた骨部、筋又は腱51の直上に支柱32,33,34を位置させて振動膜31を安定に支え、動脈50直上に配置した機械インピーダンスの小さな部位MIP1を拍動に追従させて変位させる。機械インピーダンスの大きな部分MIP2の振動膜は支柱32,33,34によって支えられているので、測定に際して振動膜31を被検体5の表面に押し付けながら骨部、筋又は腱51の位置を探ることができるから、振動膜31の押し付け位置を容易に確定させることができる。
図7には本発明に係る拍動検出装置の第2の例が示される。空気室3の形状は図1及び図2に限定されず適宜変更可能であり、例えば、指などのような形状に拍動検出装置を密着させるときには、図7の例に示すように振動膜31は被検体の表面に沿って凹面であると勝手が良い。図8の使用状態の説明図の如く、支柱32,33,34で振動膜31を凹状に支持してあれば、左右2箇所の第2機械インピーダンス領域MIP2で被検体5からの反力を受けることができ、拍動の検出に際して被検体5に拍動検出装置SNSRを安定的に押し付けて位置決めすることができる。その他の構成は図1の例と同様であるからそれと同じ機能を有する部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
図9及び図10には本発明に係る拍動検出装置の第3の例が示される。同図に示される拍動検出装置SNSRは、空気室4の支持部材を熱可塑性エラストマーから成る繊維の連続線条体を曲りくねらせたランダムループの接合構造体42とする。ランダムループは例えばスチレン系熱可塑性エラストマーを含む熱可塑性エラストマーから成り、繊維径が0.1mm〜3.0mm程度の連続線状体を曲りくねらせて成り、ランダムループの夫々のループを互いに溶融状態で接触してランダムループの3次元の接合構造体42が構成される。
接合構造体42は前記と同様にケーシング1の縁部に固定され或いはケーシング1の縁部にケーシングに一体形成された振動膜41で覆われて、空気室4を構成する。接合構造体42は非線形弾性を有し、振動膜41の外側から押圧した部分だけが振動膜41と共に沈み込んで変位する。したがって、振動膜41のどの部分でも押し付ければ沈み込むことになり、平面でない被検体5の表面に振動膜41を押し付ければ、振動膜41はその表面の任意の形状に合わせて容易に変形する。押圧して沈み込んだ部分は押圧しない部分に比べて大きな反力を生ずる。この状態を基準に考えれば、被検体5への押圧力に抗する力が小さな部位である第1機械インピーダンス領域MIP1における振動膜の機械インピーダンスは、当該被検体5への押圧力に抗する力が大きな部位である第2機械インピーダンス領域MIP2における振動膜41の機械インピーダンスよりも小さくなる。第1インピーダンス領域MIP1の振動膜41は拍動に追従して変位し、第2インピーダンス領域MIP1の振動膜41は拍動に追従して変位し難く、第1インピーダンス領域MIP1の振動膜41に無用な振動が重畳されるのを防止するように振動膜41を被検体5表面に支持する。
図9、図10の例は、振動膜41の表裏方向における接合構造体42の厚さ寸法を部分的に相違させ、被検体5と接触可能とされる外表面の一部が前記接合構造体42の厚さ寸法に応じて突出されているように振動膜41を形成してあり、例えば、中央部が凹状の立体的な形状を前記振動膜41に採用する。その他の構成は図1の例と同様であるからそれと同じ機能を有する部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
図9及び図10の拍動検出装置SNSRによれば、振動膜41の異なる部に発生される機械インピーダンスの大小は予め決定されず、実際に振動膜41を被検体5の表面に押し当てた状態で決定される。例えば図11に例示されるように、被検体5の内部の動脈51から外れた骨部、筋又は腱50の直上の空気室4の部位(第2機械インピーダンス領域MIP2)では接合構造体が大きく圧縮して大きな機械インピーダンスを生じ、動脈51直上の空気室4の部位(第1機械インピーダンス領域MIP1)では接合構造体42が左程圧縮せずに小さな機械インピーダンスを生ずる。このように、実際に振動膜41を押し当てた場所に応じて空気室4の機械インピーダンスの大小を動的に決定することができる。したがって、複雑な被検体5の表面形状若しくは被検体5の骨部や動脈50など複雑な内部配置に都合良く合わせながら動脈51の直上若しくは近傍に小さな機械インピーダンスの領域を容易に配置することができる。特に、振動膜41の中央部を凹状とするように振動膜の表裏方向における前記接合構造体の厚さ寸法を部分的に相違させることにより、機械インピーダンスの大きな突出部分を被検体5に強く押し当てても機械インピーダンスの小さな部位に作用する反力が大きくなることを緩和することができ、結果として、被検体5に振動膜を押し当て位置決めするときの安定性が増し、検出感度の更なる向上に寄与する。
図12には本発明に係る拍動検出装置の第4の例を示す。同図に示される拍動検出装置SNSRは振動膜41の外表面の一部を突出させる形状として、中央部が凸状の立体的な形状を振動膜41に採用した点が図9と異なる。図13は本発明には係る拍動検出装置の第5の例を示す。同図に示される拍動検出装置SNSRは振動膜41の外表面を平面状にした点が図9と異なる。図12及び図13においてその他の構成は図9の例と同様であるからそれと同じ機能を有する部材には同じ参照番号を付してその詳細な説明を省略する。
次に本発明に係る拍動検出装置を実際に人体の手首、指先端部及び臀部に利用した場合の実験例について説明する。
図14は本発明に係る拍動検出装置による手首からの検出波形を例示し、図15は従来の心音センサーによる手首からの検出波形を例示する。各図において縦軸は脈波の振幅値を表し、横軸は時間を表わす。前半の波形は歩行時の測定、後半は静止時での測定波形を示した。本発明の拍動検出装置SNSRによる測定波形は、歩行時でのR−Rインターバルのピークの位置が明白に示されているのに対し、従来方式の心音センサーは歩行による振動に拍動がかく乱されてピークが捉え難くなっている。
図16は本発明に係る拍動検出装置による指先先端部からの検出波形を例示し、図17は従来の心音センサーによる指先先端部からの検出波形を例示する。前半の波形は歩行時の測定、後半は静止時での測定波形を示した。ここでも本発明の拍動検出装置SNSRによる測定波形は、歩行時でのR−Rインターバルのピークの位置が明白に示されているのに対し、従来の方式の心音センサーはピークの位置が外乱によってわかり難くなっている。
図19は本発明に係る拍動検出装置SNSRによる臀部からの検出波形を例示し、図20は従来の心音センサーによる臀部からの検出波形を例示する。図19及び図20の測定では図18に例示されるように拍動検出装置SNSRを椅子6の座面に組み込んで用いた。図19及び図20の前半の波形は被検体(ここでは被験者)5が椅子6に座ってキーボードを操作しているときの波形であり、後半は静止しているときの波形を示す。ここでは、周波数が低い呼吸の波形も一緒に検出しているため、図14乃至図17とは異なった、ゆっくりしたうねりが加わった波形となっているが、本発明の拍動検出装置SNSRを使用することによりR−Rインターバルのピークを容易に検出することができる。従来方式の心音センサーでは図20のように静止時にわずかにピークが見つけられる程度であった。
以上の如く、本発明に係る拍動検出装置を用いることにより、ウォーキングやランニング中であっても、体の動きによって生じる雑音に影響されないで、安定した心音や脈拍測定を行うことができる。本発明に係る拍動検出装置は、被検体のさまざまな部位に対し動いている状態でも簡単に心音や脈拍などの測定を行うことができ、健康機器、医療機器、車載機器で必要とされる生体情報の安定的な取得の実現に資することができる。
以上本発明者によってなされた発明を実施形態に基づいて具体的に説明したが、本発明はそれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更可能であることは言うまでもない。
例えば、ケーシングの形状は長方形状に限定されず円形など適宜の形状に変更可能である。支柱を用いる場合にその本数は3個に限定されず、例えばケーシングの長手方向の夫々の縁辺に沿って長さの異なるものを配置することも可能である。また、支部部材の一例である支柱にはゴム弾性又は粘弾性を呈する素材を用いることに限定されず、柔軟性のない樹脂等で形成することを妨げるものではない。拍動検出装置は心音や脈拍の測定に用いるだけでなく、体内音の測定に広く用いることが可能である。
SNSR 拍動検出装置
1 ケーシング
2 マイクロホン
3、4 空気室
5 被検体
MIP1 第1機械インピーダンス領域
MIP2 第2機械インピーダンス領域
30 内部空間
31 振動膜
32,33,34 支柱
40 内部空間
41 振動膜
42 接合構造体42
50 骨部、筋又は腱
51 動脈

Claims (14)

  1. 音圧を受けて電気信号に変換するマイクロホンと、
    前記マイクロホンを取り付けたケーシングと、
    前記マイクロホンの音圧入力面に連通させて前記ケーシングの正面側に形成された空気室と、を有し、
    前記空気室は、前記マイクロホンを内包するように前記ケーシングの周縁部に固定されていて外表面を被検体の表面に接触可能とする振動膜と、前記振動膜の内表面に係合して内部空間を形成するように当該振動膜を立体的に支えると共に被検体への押圧力に抗する大小異なる機械インピーダンスを前記振動膜の異なる部位に形成する支持部材と、を有する、拍動検出装置。
  2. 請求項1において、前記ケーシングは前記空気室の内部空間を大気圧に連通させる所定の内径と長さを持つ気圧調整孔を有する、拍動検出装置。
  3. 請求項1において前記支持部材は、ケーシングの任意の位置に立設された支柱であり、支柱に接していない部位における振動膜の機械インピーダンスは支柱に接した部位における振動膜の機械インピーダンスよりも小さくされる、拍動検出装置。
  4. 請求項3において前記支柱は、粘弾性体又はゴム弾性体から成る、拍動検出装置。
  5. 請求項3又は4において前記振動膜は前記支柱よりも柔軟なゴム弾性体から成る、拍動検出装置。
  6. 請求項3において前記支柱として長さの異なる複数個の支柱を有し、前記振動膜は被検体と接触可能とされる外表面の一部が他よりも長い支柱に支えられて突出されている、拍動検出装置。
  7. 請求項6において前記振動膜は中央部が凹状の立体的な形状を有する、拍動検出装置。
  8. 請求項6において前記振動膜は中央部が凸状の立体的な形状を有する、拍動検出装置。
  9. 請求項1において前記支持部材は、熱可塑性エラストマーから成る繊維の連続線条体を曲りくねらせたランダムループの接合構造体であり、被検体への押圧力に抗する力が小さな部位における振動膜の機械インピーダンスは当該被検体への押圧力に抗する力が大きな部位における振動膜の機械インピーダンスよりも小さくされる、拍動検出装置。
  10. 請求項9において前記連続線条体は線径が0.1mm乃至3.0mmである、拍動検出装置。
  11. 請求項9又は10において前記振動膜はゴム弾性体から成る、拍動検出装置。
  12. 請求項9において前記振動膜の表裏方向における前記接合構造体の厚さ寸法は部分的に異なり、前記振動膜は被検体と接触可能とされる外表面の一部が前記接合構造体の厚さ寸法に応じて突出されている、拍動検出装置。
  13. 請求項12において前記振動膜は中央部が凹状の立体的な形状を有する、拍動検出装置。
  14. 請求項12において前記振動膜は中央部が凸状の立体的な形状を有する、拍動検出装置。
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