本発明の化合物である3−メチル−4−ドデセン酸(3−methyl−4−dodecenoic acid)は、下記式(1)で表される化合物であり、式中、波線の結合は(E)体もしくは(Z)体または(E)体と(Z)体の任意の割合の混合物であることを表す(以下、下記式(1)で表される3−メチル−4−ドデセン酸の(E)体、(Z)体、ならびに(E)体および(Z)体の任意の割合の混合物を、単に本発明の化合物とも称する)。
式(1)で表される本発明の化合物は、式(1)における波線で示す部分の結合が(E)体もしくは(Z)体、または(E)体および(Z)体の任意の割合の混合物のいずれであっても、ピーリーなシトラス感に加えて天然感やフレッシュ感に富む香気を有している。
[本発明の化合物の製造方法]
本発明の化合物は、当業者が採用し得る任意の方法で製造することができる。例えば、以下の反応経路に従った合成法を採用してよい。
(1) (E)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成例
本発明の化合物である(E)−3−メチル−4−ドデセン酸は、下記式(2)で表される化合物である。
この(E)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成方法は限定されないが、例えば、以下のように合成することができる。
(工程1)出発物質である式(4)で表される2−ブテナール(クロトンアルデヒドとも呼ばれる)のカルボニル基に、式(5)で表されるアルキル金属化合物またはアルキル金属ハロゲン化物を付加反応することにより、式(6)で表されるアルコール、すなわち(E)−2−ウンデセン−4−オールを得る。
この反応に用いる試薬および反応条件は、式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オールが得られる範囲で、任意に調整してよい。以下、具体例を挙げる。
式(4)の2−ブテナールの入手方法は任意であり、例えば、市販のものを用いることができる。
式(5)中、MはLiまたはMgXを表し、Xはハロゲン原子を表す。MがMgXの場合は、式(5)で表される化合物はいわゆるグリニャール試薬である。ハロゲン原子の例として、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられるが、これらに限定されない。これらのアルキル金属化合物は市場より調達したものでも、対応する金属とハロゲン化アルキルから調製した試薬でも使用できる。この反応に使用する式(5)のアルキル金属化合物またはアルキル金属ハロゲン化物の量は、式(4)の2−ブテナール1モルあたり、通常0.2〜5.0当量、好ましくは1.0〜2.0当量の範囲内とすることができる。なお、本明細書において、記号「〜」を伴う数値範囲は全て、その上限値および下限値を含むものとする。
使用する反応溶媒は、使用する式(5)のアルキル金属化合物またはアルキル金属ハロゲン化物の性質に依存するが、一般的にアルキル金属化合物に不活性でアルキル金属化合物を溶媒に分散し、かつ、反応基質である式(4)の2−ブテナールを溶解する溶媒であれば特に制限されない。エーテル類が好ましい例として挙げられ、具体的には、メチル−t−ブチルエーテル、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、2−メチルプロピルメチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなどが挙げられ、これらのそれぞれ単独でまたは2種もしくはそれ以上を混合して使用することができる。その使用量は、式(4)の2−ブテナールの重量に対して、通常2〜50倍量、好ましくは10〜30倍量の範囲内でよい。
反応条件は使用するアルキル金属化合物の性質に応じて決定してよい。一般的に、カルボニル化合物とアルキル金属化合物の反応は発熱反応であること、溶媒中の水分、雰囲気中または溶媒に溶存している酸素の影響を受けることから、これらを回避する反応条件下で行うことが好ましく、窒素雰囲気下、脱水した溶媒などの使用が好ましい。反応温度は使用するアルキル金属化合物の種類および使用する溶媒に応じて決定してよく、−78℃〜40℃が好ましく、さらに−20℃〜30℃の範囲内が好ましい。また、反応時間は使用するアルキル金属化合物の種類、使用する溶媒に応じるが、通常、数時間内で反応が終了する。反応時間は、反応の進行をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどでモニタリングしながら決定してよい。
この工程1で得た式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オールは、必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
(工程2) 式(6)で表される(E)−2−ウンデセン−4−オールを、酸の存在下に式(7)で表されるオルトエステル、すなわちオルト酢酸トリエチルとともに加熱して、ジョンソン−クライゼン転位によって式(8)で表される不飽和カルボン酸エステル、すなわち(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルを得る。
ジョンソン−クライゼン転位に用いる試薬および反応条件は、式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルが得られる範囲で、任意に調整してよい。以下、具体例を挙げる。
この反応において、酸は触媒として用いる。酸触媒は公知のいかなるものを用いてもよく、例としてフェノール、プロピオン酸、ピバル酸、酸性陽イオン交換樹脂(例えば、ダイヤイオンTM WK40L(三菱化学)など)などが挙げられ、好ましい例としてフェノールが挙げられるが、これらに限定されない。酸触媒の使用量は、反応時間、反応産物中の触媒残存量、副生成物量、収率などに応じて任意に調整してよく、例えば、式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オール1モルあたり、通常0.005〜0.5、好ましくは0.01〜0.1当量の範囲内とすることができる。この反応に使用する式(7)のオルトエステルの使用量は、式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オール1モルあたり、通常1.0〜5.0当量、好ましくは2.0〜3.0当量の範囲内とすることができる。
反応の温度条件については、通常、この転移反応は加温下で行うものであり、具体的温度範囲は溶媒の性質にも依存するが、通常70℃〜180℃、好ましくは90℃〜160℃の範囲内である。反応時間については、通常、数時間内で反応が終了する。反応の進行をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどでモニタリングしながら反応時間を決定してよい。
この工程2で得た式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルは、必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してもよい。
(工程3) 式(8)で表される(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルを加水分解して、式(2)で表される(E)−3−メチル−4−ドデセン酸を得る。
この反応に用いる試薬および反応条件は、式(2)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸が得られる範囲で、任意に調整してよい。以下、具体例を挙げる。
加水分解方法は特に限定されず、酸触媒による加水分解でもよいし、アルカリ触媒による加水分解(けん化)でもよいが、不可逆反応であり大量の水を要しない後者が好ましい。なお、アルカリ触媒によって加水分解を行う場合はカルボン酸塩がまず得られるが、このカルボン酸塩を含む溶液に酸、例えば濃塩酸を添加してpHを下げることで、カルボン酸に変換することができる。
反応溶媒は、反応基質である式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルおよび試薬に対して不活性で、かつ、これら溶解するものであれば任意である。酸触媒による加水分解であれば、水を用いることができる。アルカリ触媒による加水分解であれば、一般的には、反応生成物であるカルボン酸塩も溶解可能なエタノールまたは含水エタノールを用いることができる。その使用量は、式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルの重量に対して、通常2〜50倍量、好ましくは10〜30倍量でよい。
反応触媒の量は任意であるが、式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチル1モルあたり、通常1.0〜5.0当量、好ましくは1.5〜3.0当量の範囲内で使用することができる。
加水分解反応の温度は、加水分解反応が進めば任意であるが、一般的には、反応速度をある程度上げるために、加温しながら行う。また、反応時間は、通常、数時間内で反応が終了する。反応の進行をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどでモニタリングしながら反応時間を決定してよい。
この工程3で得た式(2)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸は、必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してよい。
(2) (Z)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成例
本発明の化合物である(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸は、下記式(3)で表される化合物である。
この(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成方法は限定されないが、例えば、以下のように合成することができる。
(工程1) 出発物質である式(9)で表されるラクトン、すなわちα−メチル−γ−ブチロラクトンを還元して、式(10)で表されるラクトール、すなわち3−メチルオキサシクロペンタン−2−オールを得る。
この反応に用いる試薬および反応条件は、式(10)で表されるラクトールが得られる範囲で、任意に調整してよい。以下、具体例を述べる。
出発物質の式(9)のラクトンは任意の方法で入手してよく、例えば、市販のものを用いることができる。
還元剤は、ケトン化合物の還元に使用できる還元剤であれば任意であり、例として、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ジイソブチルアルミニウム、貴金属(パラジウム、ロジウム、ルテニウム、ニッケルなど)などが挙げられる。このような触媒の存在下、有機溶媒の存在下または不存在下、好ましくは有機溶媒の存在下に、式(9)のラクトンの還元(水素化)反応を行うことができる。還元剤の使用量は、式(9)のラクトン1モルに対して、通常0.8〜5.0モル、好ましくは1.0〜3.0モルの範囲内でよい。
反応溶媒としては、有機溶媒が好ましく、反応基質である式(9)のラクトンを溶解する溶媒であれば特に制限はないが、例えば、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル系溶媒;トルエン、ヘキサン、キシレン等の炭化水素系溶媒;クロロホルム、塩化メチレン、四塩化炭素等のハロゲン系溶媒;エタノール、メタノール、プロパノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;アセトニトリル、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン系極性溶媒;酢酸エチル、酢酸メチル等のエステル系溶媒をそれぞれ単独でまたは2種もしくはそれ以上混合して使用することができる。その使用量は、式(9)のラクトンの重量に対して、通常2〜50倍量、好ましくは10〜30倍量の範囲内でよい。
この還元反応の温度については、使用する試薬に応じて決定してよく、例えば、低温下で行うことができ、−78℃〜0℃、または−78℃〜−40℃の範囲内で行うことができる。反応時間については、通常、数時間内で反応が終了する。反応の進行をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどでモニタリングしながら反応時間を決定してよい。
この工程1で得た式(10)のラクトールは、必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してよい。
(工程2)式(10)のラクトールを、式(11)で表されるホスホニウム塩または式(12)で表されるホスホナートと反応させて、ウィッティヒ反応またはホーナー−エモンズ反応によって増炭して、式(13)で表されるアルコール、すなわち(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールを得る。
このウィッティヒ反応またはホーナー−エモンズ反応に用いる試薬および反応条件は、式(13)で表されるアルコールが得られる範囲で、任意に調整してよい。
式(11)中、R1はアリール基を示し、Xはハロゲン原子を示す。式(12)中、R2は炭素数1〜8のアルキル基またはアリール基を示す。
式(11)、式(12)ともに、アリール基としては、例えば、各々場合により置換されていてもよいフェニル基、トリル基、ナフチル基などが挙げられ、好ましくはフェニル基である。
式(12)の炭素数1〜8のアルキル基としては、直鎖または分枝鎖の飽和炭化水素基であり、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、1−メチルエチル基、n−ブチル基、1−メチルプロピル基、2−メチルプロピル基、1,1−ジメチルエチル基、n−ペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、3−メチルブチル基、2,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、1,1−ジメチルプロピル基、1,2−ジメチルプロピル基、n−ヘキシル基、1−メチルペンチル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、1,1−ジメチルブチル基、1,2−ジメチルブチル基、1,3−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、2,3−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、1−エチルブチル基、2−エチルブチル基、1,1,2−トリメチルプロピル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1−エチル−1−メチルプロピル基、1−エチル−2−メチルプロピル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基などが挙げられる。
また、Xのハロゲン原子は限定されないが、塩素原子、臭素原子が好ましい。
式(11)のホスホニウム塩と式(10)のラクトールとのウィッティヒ反応は、通常、不活性有機溶媒中で塩基の存在下に行われる。式(10)のラクトールは、式(11)のホスホニウム塩1モルあたり、通常0.6〜1.2モル、好ましくは0.8〜1.0モルの範囲内で使用することができる。
不活性有機溶媒の例としては、エーテル(例:ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、メチル−t−ブチルエーテル、1,4−ジオキサン、テトラヒドロフランなど)、ハロゲン化炭化水素(例:ジクロロメタン、クロロホルムなど)、芳香族炭化水素(例:ベンゼン、トルエン、キシレンなど)または極性溶媒(例:ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリルなど)などが挙げられ、特に、トルエン、テトラヒドロフラン,ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドまたはこれらの混合溶媒が好適である。その使用量は、式(10)のラクトールの重量に対して、通常2〜50倍量、好ましくは10〜30倍量の範囲内でよい。
また、塩基としては、ウィッティヒ反応に通常用いられる塩基がいずれも使用することができ、例えば、アルカリ金属水酸化物(例:水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウムなど)、アルカリ金属水素化物(例:水素化ナトリウム、水素化カリウムなど)、有機リチウム化合物(例:n−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、フェニルリチウムなど)、アルカリ金属アミド(例:リチウムアミド、カリウムアミド、ナトリウムアミド、リチウムジイソプロピルアミドなど)、アルカリ金属ヘキサメチルジシラジド、アルカリ金属アルコラート(例:ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシドなど)が挙げられ、これらの塩基は、式(11)のホスホニウム塩1モルあたり、通常0.6〜1.2当量、好ましくは0.8〜1.0当量の範囲内で使用することができる。
反応温度は、通常−78℃〜60℃、好ましくは−10℃〜25℃の範囲内でよい。また、反応時間は、通常、数時間内で反応が終了する。反応の進行をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどでモニタリングしながら反応時間を決定してよい。
式(12)のホスホナートと式(10)のラクトールとのホーナー−エモンズ反応は、上記の式(11)のホスホニウム塩と式(10)のラクトールとのウィッティヒ反応の場合と同様にして行うことができる。
この工程2で得た式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールは、必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してよい。
(工程3)式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールを酸化して、式(3)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸を得る。
これらの酸化反応に用いる試薬および反応条件は、式(3)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸が得られる範囲で、任意に調整してよい。
酸化剤は、1級アルコールをカルボン酸に酸化可能な各種反応に使用されるものでよく、過マンガン酸カリウム(KMnO4)、TEMPO(2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル)、ジョーンズ試薬(酸化クロム(VI)濃硫酸溶液)、四酸化ルテニウム(RuO4)、などが挙げられる。これらの酸化剤は、式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オール1モルあたり、通常1.2〜5.0当量、好ましくは1.5〜3.0当量の範囲内で使用することができる。
反応溶媒の例としては、酢酸エチル、ベンゼン、クロロホルム、塩化メチレン、トルエン、アセトンなどが挙げられる。その使用量は、式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールの重量に対して、通常2〜50倍量、好ましくは10〜30倍量の範囲内でよい。
例えば、ジョーンズ酸化の場合、ジョーンズ試薬を酸化剤として用い、アセトンを溶媒として用いることができる。ジョーンズ酸化は、不飽和結合を酸化することが少ないことから、上記酸化反応に好ましく用いることができる。
反応温度は、使用する酸化剤などの試薬に応じて決定してよく、例えば、ジョーンズ酸化の場合、−20℃〜60℃または0℃〜40℃の範囲内で行うことができる。また、反応時間は、通常、数時間内で反応が終了する。反応の進行をガスクロマトグラフィーや薄層クロマトグラフィーなどでモニタリングしながら反応時間を決定してよい。
この工程3で得た式(3)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸は、必要に応じてカラムクロマトグラフィ、減圧蒸留等の手段を用いて精製してよい。
[本発明の化合物の用途]
式(1)で表される本発明の化合物は、それ単独でピーリーなシトラス感に加えて天然感やフレッシュ感に富む香気を有し、この化合物を香料化合物に配合することで、その香料組成物に、みずみずしさ、繊維感、刺激感、ワックス感などを付与または強調することで天然感やフレッシュ感を増強でき、さらには、ボディ感、濃厚感、余韻、コク味などを増強できる。加えて、香味または香気の持続性を向上することができる。
なお、式(1)で表される本発明の化合物は、上述の通り、式(1)における波線で示す部分の結合が(E)体もしくは(Z)体、または(E)体および(Z)体の任意の割合の混合物のいずれであっても、上記の如き香気・香味特性を有しているので、本発明の化合物は、波線で示す部分の幾何学的配置にかかわりなく香料組成物において使用することができる。
香料組成物に式(1)で表される本発明の化合物を配合する場合、その配合量は、配合の目的や香料組成物の種類などに応じて任意に決定してよい。例えば、好適な配合量として、香料組成物の総重量を基準にして、下限値を0.5ppb、1ppb、10ppb、100ppb、500ppb、1ppm、10ppm、または100ppm、上限値を10%、1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、0.5ppm、または0.1ppmとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が例示できる。
式(1)で表される本発明の化合物を配合した香料組成物は、さらに任意の化合物または成分を含有し得る。
そのような化合物または成分の例として、各種の合成香料、天然香料、天然精油、植物エキスなどを挙げることができ、例えば、「特許庁公報、周知・慣用技術集(香料)第II部食品香料,88−131頁,平成12年1月14日発行」に記載されている天然精油、天然香料、合成香料などを挙げることができる。
より具体的には、オシメン、リモネン、α−フェランドレン、テルピネン、3−カレン、ビサボレン、β−ピネン、バレンセンなどの炭化水素類;3−ヘプタノール、1−ウンデカノール、2−ウンデカノール、1−ドデカノール、プレノール、10−ウンデセン−1−オール、ジヒドロリナロール、テトラヒドロリナロール、テトラヒドロムゴール、ミルセノール、ジヒドロミルセノール、テトラヒドロミルセノール、オシメノール、テルピネオール、3−ツヤノール、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−フェニルエチルアルコール、リナロール、ネロール、チモール、シス−3−ヘキセノール、シンナミルアルコール、フェニルエチルジメチルカルビノール、ジメチルベンジルカルビノール、ジメチルフェニルカルビノール、フェニルエチルメチルエチルカルビノールなどのアルコール類;アセトアルデヒド、n−ヘキサナール、n−ヘプタナール、n−オクタナール、n−ノナナール、2−メチルオクタナール、3,5,5−トリメチルヘキサナール、デカナール、ウンデカナール、2−メチルデカナール、ドデカナール、トリデカナール、テトラデカナール、トランス−2−ヘキセナール、トランス−4−デセナール、シス−4−デセナール、トランス−2−デセナール、10−ウンデセナール、トランス−2−ウンデセナール、トランス−2−ドデセナール、3−ドデセナール、トランス−2−トリデセナール、2,4−ヘキサジエナール、2,4−デカジエナール、2,4−ドデカジエナール、5,9−ジメチル−4,8−デカジエナール、シトラール、ジメチルオクタナール、α−メチレンシトロネラール、シトロネリルオキシアセトアルデヒド、ミルテナール、ネラール、α−あるいはβ−シネンサール、マイラックアルデヒド、フェニルアセトアルデヒド、オクタナールジメチルアセタール、ノナナールジメチルアセタール、デカナールジメチルアセタール、デカナールジエチルアセタール、2−メチルウンデカナールジメチルアセタール、シトラールジメチルアセタール、シトラールジエチルアセタール、ヘリオトロピン、シトラールプロピレングリコールアセタール、ジャスミンアルデヒド、アニシックアルデヒドなどのアルデヒド類;デシルビニルエーテル、α−テルピニルメチルエーテル、イソプロキセン、2,2−ジメチル−5−(1−メチル−1−プロペニル)−テトラヒドロフラン、ローズフラン、1,4−シネオール、ネロールオキサイド、2,2,6−トリメチル−6−ビニルテトラヒドロピラン、メチルヘキシルエーテル、オシメンエポキシド、リモネンオキサイド、ルボフィクス、カリオフィレンオキサイド、リナロールオキサイド、5−イソプロペニル−2−メチル−2−ビニルテトラヒドロフラン、テアスピラン、ローズオキサイドなどのエーテル類;3−ヘプタノン、3−オクタノン、2−ノナノン、2−ウンデカノン、2−トリデカノン、メチルヘプテノン、ジメチルオクテノン、ゲラニルアセトン、2,3,5−トリメチル−4−シクロヘキセニル−1−メチルケトン、ネロン、ヌートカトン、ジヒドロヌートカトン、アセトフェノン、p−メトキシアセトフェノン、4,7−ジヒドロ−2−イソペンチル−2−メチル−1,3−ジオキセピンなどのケトン類;ギ酸プロピル、ギ酸オクチル、ギ酸リナリル、ギ酸シトロネリル、ギ酸ゲラニル、ギ酸ネリル、ギ酸テルピニル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸シス−3−ヘキセニル、酢酸トランス−2−ヘキセニル、酢酸オクチル、酢酸ノニル、酢酸デシル、酢酸ドデシル、酢酸ジメチルウンデカジエニル、酢酸オシメニル、酢酸ミルセニル、酢酸ジヒドロミルセニル、酢酸リナリル、酢酸シトロネリル、酢酸ゲラニル、酢酸ネリル、酢酸テトラヒドロムゴール、酢酸ラバンジュリル、酢酸ネロリドール、酢酸ジヒドロクミニル、酢酸テルピニル、酢酸シトリル、酢酸ノピル、酢酸ジヒドロテルピニル、酢酸2,4−ジメチル−3−シクロヘキセニルメチル、酢酸ミラルディル、酢酸ベチコール、プロピオン酸デセニル、プロピオン酸リナリル、プロピオン酸ゲラニル、プロピオン酸ネリル、プロピオン酸テルピニル、プロピオン酸トリシクロデセニル、プロピオン酸スチラリル、酪酸オクチル、酪酸ネリル、酪酸シンナミル、イソ酪酸イソプロピル、イソ酪酸オクチル、イソ酪酸リナリル、イソ酪酸ネリル、イソ吉草酸リナリル、イソ吉草酸テルピニル、イソ吉草酸フェニルエチル、2−メチル吉草酸2−メチルペンチル、3−ヒドロキシヘキサン酸メチル、3−ヒドロキシヘキサン酸エチル、オクタン酸メチル、オクタン酸オクチル、オクタン酸リナリル、ノナン酸メチル、ウンデシレン酸メチル、安息香酸リナリル、ケイヒ酸メチル、アンゲリカ酸イソプレニル、ゲラン酸メチル、クエン酸トリエチルなどのエステル類;オイゲノール、イソオイゲノール、チモール、カルバクロール、β−ナフトールイソブチルエーテルなどのフェノール類;γ−ウンデカラクトン、δ−ドデカラクトンなどのラクトン類;酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、ヘキサン酸、オクタン酸、デカン酸、ドデカン酸、2−デセン酸、ゲラン酸などの酸類;アントラニル酸メチル、アントラニル酸エチル、N−メチルアントラニル酸メチル、N−2′−メチルペンチリデンアントラニル酸メチル、リガントラール、ドデカンニトリル、2−トリデセンニトリル、ゲラニルニトリル、シトロネリルニトリル、3,7−ジメチル−2,6−ノナジエノニトリル、インドール、5−メチル−3−ヘプタノンオキシム、チオゲラニオール、リモネンチオール、p−メンチル−8−チオールなどの含窒素・含硫化合物類など公知の合成香料化合物および動植物原料の圧搾、溶剤抽出、水蒸気蒸留などにより得られる香料組成物などを挙げることができ、さらに、これらを任意に組み合わせて混合した香料組成物を挙げることができる。
かくして、本発明の式(1)で表される化合物は、例えば、フルーツ類(例:ストロベリー、ブルーベリー、ラズベリー、アップル、チェリー、プラム、アプリコット、ピーチ、パイナップル、バナナ、メロン、マンゴー、パパイヤ、キウイ、ペアー、グレープ、マスカット、巨峰など)、柑橘類(例:レモン、スイートオレンジ、ビターオレンジ、グレープフルーツ、ライム、マンダリンなど)、和柑橘類(例:みかん、カボス、スダチ、ハッサク、イヨカン、ユズ、シークワーサー、金柑など)、茶類(例:紅茶、ウーロン茶、緑茶など)、コーヒー類、香辛料類(例:ウコン、オレガノ、カモミール、クミン、コショウ、ゴマ、ショウガ、サンショウ、シソ、シナモン、スターアニス、タマネギ、ナツメグ、ニンニク、バジル、ローズマリー、ローレル、ワサビなど)、アルコール類(例:ワイン、ウィスキー、ブランデー、果実酒など)などの香調の香料組成物に有効量で添加することにより、天然原料が有するようなフレッシュで天然感にあふれる香気または香味やコク味を付与または強調することができる。また、ベルガモット調、ゼラニウム調、ローズ調、ブーケ調、ヒヤシンス調、ラン調、フローラル調、ウッディ調、モス調、シトラス調などの調合香料組成物に式(1)の化合物を有効量で添加することにより、その香気の特徴をより強調することができ、天然精油が本来有するフレッシュで天然感にあふれた香りを再現することができる。
また、式(1)で表される本発明の化合物を有効成分とする香料組成物にグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチン、キラヤサポニン、カゼインナトリウムなどの乳化剤を用いた乳化香料とすること、または、アラビアガムやデキストリンを添加し乾燥させた粉末香料とすることができる。
本発明の香料組成物は、さらに、必要に応じて香料組成物において通常使用されている成分を含有していてもよい。例えば、水、エタノール等の溶剤や、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ヘキシルグリコール、ベンジルベンゾエート、トリエチルシトレート、ジエチルフタレート、ハーコリン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、中鎖脂肪酸ジグリセライド等の香料保留剤を含有することができる。
さらに、本発明によれば、式(1)で表される本発明の化合物、または式(1)で表される本発明の化合物を有効成分として含有する上記香料組成物を、飲食品、香粧品、保健衛生品、医薬品などの各種消費財またはその他物品に有効量配合することにより、式(1)で表される本発明の化合物を香気および/または香味成分として含有する、飲食品、香粧品、保健衛生品、医薬品などの各種消費財またはその他物品を提供することができる。このような各種消費財やその他物品は、式(1)で表される本発明の化合物を香気および/または香味成分として含有することにより、天然感、フレッシュ感、ボディ感、濃厚感、余韻、コク味、および/または香味もしくは香気の持続性に優れるものである。
各種消費財またはその他物品への本発明の式(1)で表される本発明の化合物の配合量は、本発明の化合物の配合目的や配合対象物などに応じて任意に決定してよい。例えば、好適な配合量として、配合対象物の総重量を基準にして、下限値を0.0005ppt、0.001ppt、1ppt、10ppt、100ppt、500ppt、1ppb、10ppb、100ppb、1ppm、10ppm、100ppm、または0.1%、上限値を1%、0.1%、100ppm、10ppm、1ppm、0.5ppm、100ppb、50ppb、10ppb、1ppb、500ppt、100ppt、50ppt、10ppt、1ppt、または0.5pptとして、これら下限値および上限値の任意の組み合わせの範囲内が例示できる。
例えば、茶類飲料、スポーツ飲料、炭酸飲料、果汁飲料、乳飲料、アルコール飲料(例えば、発泡酒、いわゆる第三のビール(つまりその他の醸造酒(発泡性)(1)またはリキュール(発泡性)(1)など)などの飲料類;ヨーグルト、ゼリー、プディング及びムースなどのデザート類;ケーキや饅頭などといった洋菓子、和菓子、蒸菓子などの製菓類;ポテトチップス、煎餅、クッキーなどの菓子スナック類;アイスクリームやシャーベットなどの冷菓類および氷菓類;チューインガム、ハードキャンディー、ヌガーキャンディー、ゼリービーンズなどのその他の菓子類;果実フレーバーソースやチョコレートソースなどのソース類;バタークリームや生クリームなどのクリーム類;イチゴジャムやマーマレードなどのジャム類;菓子パンなどのパン類;味噌、醤油、だし、ドレッシング、マヨネーズなどの調味料類;焼き肉、焼き鳥、鰻蒲焼きなどに用いられるタレやトマトケチャップなどのソース類;お吸い物、出汁類(牛、豚、魚介類)、コンソメスープ、卵スープ、ワカメスープ、フカヒレスープ、ポタージュ、みそ汁などのスープ類;麺・パスタ類(そば、うどん、ラーメン、パスタなど)のつゆ類;おかゆ、雑炊、お茶漬けなどの米調理食品類;ハム、ソーセージ、チーズなどの畜産加工品類;蒲鉾などの練り製品類;レトルト食品、佃煮、総菜類および冷凍食品類;干物、塩辛、珍味などの水産加工品類;漬物などの野菜加工品類;その他煮物、揚げ物、焼き物、カレーなどの加工食品;などに、式(1)で表される本発明の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気香味が付与または強調された飲食品類を提供することができる。また、例えば、シャンプー類、ヘアクリーム類、その他の毛髪化粧料基剤や、オシロイ、口紅、その他の化粧用基剤や化粧用洗剤類基剤などに、式(1)で表される本発明の化合物を有効成分として含有する香料組成物の適当量を添加することにより、そのユニークな香気が付与または強調された香粧品類を提供することができる。さらにまた、式(1)で表される本発明の化合物を有効成分として含有する香料組成物を、例えば、洗濯用洗剤類、消毒用洗剤類、防臭洗剤類、その他各種の保健衛生用洗剤類、歯磨き、ティシュー、トイレットペーパーなどに適当量配合することにより、そのユニークな香気が付与または増強された各種保健衛生品や医薬品などを提供することができる。
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明する。なお、本発明はこれらに限定されるものではない。
[実施例1] 本発明の化合物(E)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成
(工程1:式(4)の2−ブテナールから式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オールの合成)
2Lの4口フラスコに、式(4)の2−ブテナール39.8g(568mmol)をテトラヒドロフラン(以下、THFとも略称する)500mlに溶解させて得た溶液を仕込み、窒素雰囲気下で0℃にて冷却撹拌した。この系内に臭化へプチルマグネシウム500g(21%,516mmol(式(5)のMがMgXであり、Xが臭素である化合物))を1時間かけて滴下した後に徐々に室温まで昇温させながら終夜撹拌した。気−液分配クロマトグラフィー(以下、GLCとも称する)にて原料の消失を確認後、反応系内に10%塩化アンモニウム水溶液を加えて反応を完結させた。分液操作後に水層を酢酸エチルで抽出して得られた有機層と先の有機層をあわせて水で洗浄後、飽和食塩水で洗浄して、無水硫酸マグネシウムにて乾燥させた。減圧濾過後、濾液を減圧濃縮することで得られた式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オールの粗精製物91.3gを得た。このものはこれ以上の精製を行うことなく次工程に用いた。
(工程2:式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オールから式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルの合成)
500mlのナスフラスコに式(6)の(E)−2−ウンデセン−4−オールの粗精製物80.1g(470mmolと仮定)、式(7)のオルト酢酸トリエチル229g(1410mmol)及びフェノール0.44g(4.7mmol)を仕込み、160℃に加熱しながら6.0時間撹拌した。さらに180℃まで昇温して余計なオルト酢酸トリエチルを系外に留出させながら6.0時間撹拌した。GLCにより原料の消失を確認後、反応系内にジエチルエーテル300ml及び20%炭酸ナトリウム水溶液を順次加えた。有機層を水で洗浄し、次いで飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥させた。減圧濾過後、濾液を減圧濃縮することで、式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルの粗精製物120.5gを得た。このものはこれ以上の精製を行うことなく次工程に用いた。
(工程3:式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルから式(2)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成)
2Lナスフラスコに、式(8)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸エチルの粗精製物120.5gをエタノール1500mlに溶解して得た溶液を仕込み、そこに水酸化カリウム89.2g(1590mmol)を加え室温で終夜撹拌した。薄層クロマトグラフィー(以下、TLCとも称する)にて原料の消失を確認後に減圧濃縮してエタノールを除去した。残渣に水1000mlを加え、ジエチルエーテル洗浄(500ml×3回)した後に水層に濃塩酸をpH=1になるまで加えた。酸性となった水層をジエチルエーテル抽出(500ml×3回)して得られた有機層を水で洗浄し、次いで飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。減圧濾過後に濾液を減圧濃縮して得られた残渣を減圧通し蒸留にて精製することで、式(2)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸43.7gを得た(以上3工程、収率39%)。
得られた式(2)の(E)−3−メチル−4−ドデセン酸の物性は以下の通りであった。
1H-NMR(CDCl3,400MHz):δ0.88(3H,t,J=6.8),1.05(3H,d,J=7.2),1.20−1.35(10H,m),1.96(2H,dt,J=6.4,6.8),2.25−2.38(2H,m),2.58−2.68(1H,m),5.33(1H,dd,J=7.2,15.2),5.45(1H,dt,J=6.4,15.2)
13C−NMR(CDCl3,100MHz):δ14.1,20.4,22.7,29.0,29.1,29.4,31.8,32.4,33.4,41.5,129.9,133.6,177.8
MS(m/z):29(11),41(44),55(52),68(67),81(37),96(21),110(25),123(6),137(3),152(100),165(2),176(2),194(6),212(M+,2)
[実施例2] 本発明の化合物(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成
(工程1:式(9)のα−メチル−γ−ブチロラクトンから式(10)の3−メチルオキサシクロペンタン−2−オールの合成)
300mlの3口フラスコに式(9)のα−メチル−γ−ブチロラクトン5.0g(50mmol)及びジクロロメタン150mlを仕込み、窒素雰囲気下にて−78℃で冷却撹拌した。ここに水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAL)のヘキサン溶液70ml(1.0M、70mmol)を滴下し、同温度にて5.0時間撹拌した。TLCにより原料の消失を確認した後に、メタノール48mlを、系内温度−50℃以下を保つ速度で滴下した。徐々に昇温させながら終夜撹拌した後に減圧濾過して得られた濾液を減圧濃縮することで式(10)の3−メチルオキサシクロペンタン−2−オールの粗精製物4.15gを得た。このものはこれ以上の精製を行うことなく次工程に用いた。
(工程2:式(10)の3−メチルオキサシクロペンタン−2−オールから式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールの合成)
300mlの4口フラスコにn−オクチルトリフェニルホスホニウムブロミド42.9g(94.2mmol)及びTHF110mlを仕込み、窒素雰囲気下にて10〜15℃で冷却撹拌した。ここに同温度にてn−ブチルリチウムのヘキサン溶液57.4ml(1.64M、94.2mmol)を滴下した後に30分撹拌した。次いで、この溶液に式(10)の3−メチルオキサシクロペンタン−2−オールの粗精製物4.15gをTHF50mlに溶解して得た溶液をさらに滴下して、同温度にて1.0時間撹拌した。ここに含水メタノール50ml(メタノール:H2O=3:2(容積比))を加えた後に水層をヘキサンで抽出した。得られた有機層を先ほどと同様にして含水メタノールで2回、さらに水で洗浄し、加えて飽和食塩水で洗浄した後、硫酸マグネシウムで乾燥した。減圧濾過後、濾液を減圧濃縮することで、式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールの粗精製物10.7gを得た。このものはこれ以上の精製を行うことなく次工程に用いた。
(工程3:式(13)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールから式(3)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸の合成)
300mlのナスフラスコに(Z)−3−メチル−4−ドデセン−1−オールの粗精製物2.0g及びアセトン50mlを仕込み、室温で撹拌した。ここにジョーンズ試薬5ml(三酸化クロムの濃硫酸溶液、8.0N、40mmol)を加えて終夜撹拌した。TLCにて原料の消失を確認後、系内にイソプロピルアルコール50ml及び水50mlを加えて30分室温撹拌した。水層をジエチルエーテル抽出して得られた有機層に水酸化ナトリウム水溶液(NaOH4.0g、H2O100ml)を加えて15分撹拌した。分液操作後に水層をジエチルエーテル洗浄した後に2NのHCl水溶液を液性がpH=1になるまで加えた。得られた酸性水溶液をジエチルエーテル抽出して得られた有機層を水で洗浄し、次いで飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸マグネシウムにて乾燥した。減圧濾過後、濾液を減圧濃縮して得られた残渣0.6gをシリカゲルカラムクロマトグラフィー(60g、ヘキサン:酢酸エチル=10:1)により精製して、式(3)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸430mgを得た(以上3工程、収率22%)。
得られた式(3)の(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸の物性は以下の通りであった。
1H−NMR(CDCl3,400MHz):δ0.88(3H,t,J=6.8),1.03(3H,d,J=6.4),1.20−1.38(10H,m),2.03−2.11(2H,m),2.28−2.30(2H,m),2.94−3.05(1H,m),5.16(1H,t−like,J=10.8),5.34(1H,dt,J=7.2,10.8)
13C−NMR(CDCl3,100MHz):δ14.1,20.9,22.7,27.4,28.8,29.2,29.3,29.7,31.8,41.8,130.1,133.3,178.5
MS(m/z):29(11),41(46),55(49),68(69),81(37),96(21),110(26),123(5),137(3),152(100),165(2),176(2),194(5),212(M+,2)
[実施例3] 本発明の化合物の香気評価
実施例1で得られた(E)−3−メチル−4−ドデセン酸の0.1%エタノール溶液、および実施例2で得られた(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸の0.1%エタノール溶液を調製した。また、本発明の化合物と近い構造を有する化合物として、特許文献(特公昭54−8652号公報)に記載の(E)−3−メチル−4−デセン酸の0.1%エタノール溶液を調製した。次いで、得られた各エタノール溶液について、訓練されたパネラーにより香気評価を行った。香気評価は、30mlサンプル瓶に前記0.1%エタノール溶液を用意し、瓶口の香気およびその溶液を含浸させた匂い紙により行った。5名の平均的な評価コメントを下記表1に示す。
[実施例4] 本発明の化合物を配合した柑橘様香料組成物の香気評価
オレンジ様の調合香料組成物として、下記表2に示す一般的な処方にて基本調合香料組成物を調製した。
次いで、このオレンジ様基本調合香料組成物99.9gに、実施例1で得られた(E)−3−メチル−4−ドデセン酸を0.1g配合した新規な調合香料組成物(本発明品1)、同基本調合香料組成物99.9gに実施例2で得られた(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸を0.1g配合した新規な調合香料組成物(本発明品2)、および同基本調合香料組成物99.9gに(E)−3−メチル−4−ドデセン酸および(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸をそれぞれ0.05g配合した新規な調合香料組成物(本発明品3)を調製した。次いで、本発明品1〜3、ならびに本発明の化合物を加えていない上記のオレンジ様基本調合香料組成物(対照品1)の香気について、よく訓練された10名のパネラーによって、対照品1と比べた本発明品1〜3の香気を評価した。その結果、専門パネラー10人の全員が、本発明品1〜3はいずれも、対照品1と比べて、フレッシュな天然果実のような香気が強調され、果皮感とワックス感を伴ってオレンジ果実の特徴をよくとらえており、さらにこの香気特性がよく持続すると評価した。
[実施例5] 本発明の化合物を配合した各種果実果汁の香味評価
実施例1および2で得られた(E)−3−メチル−4−ドデセン酸および(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸0.01g(以下、それぞれ(E)体、(Z)体とも略称する)を、それぞれ下記表3に示すように様々な果実の濃縮還元果汁(市販品)100gに配合して、本発明品(本発明品4〜9)を調製した。なお、表3中の白丸は、その化合物を果汁に配合したことを表す。次いで、(E)体も(Z)体も添加していない濃縮還元果汁を対照品(レモン果汁:対照品2、グレープ果汁:対照品3、ライチ果汁:対照品4)として、各果汁について、よく訓練された10名のパネラーによって、対照品と比べた本発明品の香味を評価した。パネラー10名による平均的な評価コメントを下記表3に示す。
表3に示すように、(E)体、(Z)体ともに、様々な果汁の香味について、良好な天然感、フレッシュ感、ボディ感、飲みごたえなどを増強することが確認された。
[実施例6] 本発明の化合物を配合したフローラル調香料組成物の香気評価
ライラック様の調合香料組成物として、下記表4に示す一般的な処方にて基本調合香料組成物を調製した。
次いで、この基本調合香料組成物99.9gに実施例1で得られた(E)−3−メチル−4−ドデセン酸0.1gを配合した新規な調合香料組成物(本発明品10)と、同基本調合香料組成物99.9gに実施例2で得られた(Z)−3−メチル−4−ドデセン酸0.1gを配合した新規な調合香料組成物(本発明品11)とを調製して、新規なライラック様の調合香料組成物を得た。次いで、基本調合香料組成物(対照品5)と比べた本発明品10および11の香気について、よく訓練されたパネラー10名による評価を行った。パネラー10名の平均的な評価コメントを下記表5に示す。なお、表5中の白丸は、表3と同様、その化合物を配合したことを表す。
表5に示すように、本発明品10も本発明品11も、対照品5と比べて、生花を思わせる天然感とグリーン感が増強され、持続性にも優れることが確認された。