以下、図面を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明する。図では、符号を一部省略することがある。本明細書において、数値A及びBについて「A〜B」は、特に別途規定されない限り、「A以上B以下」を意味する。該表記において数値Aの単位を省略する場合には、数値Bに付された単位が数値Aの単位として適用されるものとする。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。
<1.III族窒化物単結晶製造装置>
本発明の第1の態様にIII族窒化物単結晶製造装置について説明する。図1は、本発明の一の実施形態に係るIII族窒化物単結晶製造装置100(以下において単に「装置100」ということがある。)を模式的に説明する断面図である。
III族窒化物単結晶製造装置100は、
III族原料ガス及び窒素源ガスを反応させることにより基板上に結晶を成長させる反応域10を有する反応器11と、
反応域10に配設され、基板(下地基板)12を支持する支持台13と、
III族原料ガスを反応域10へ供給すためのIII族原料ガス供給ノズル24と、
窒素源ガスを反応域10へ供給するための窒素源ガス供給ノズル32と
を有し、窒素源ガス供給ノズル32が、窒素源ガスと、ハロゲン化水素ガス、及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスとを反応域に供給する構造となっている。本発明は、上記構造を必須とする。なお、以下、ハロゲン化水素ガス、及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスを、単にハロゲン系ガスとする場合もある。このハロゲン系ガスは、ハロゲン化水素ガスのみ、ハロゲンガスのみ、又はハロゲン化水素ガスとハロゲンガスとの混合ガスを指す。
図1においては、窒素源ガス供給ノズル32へハロゲン系ガスを導入する構造の一例が示されている。具体的には、窒素源ガス供給ノズル32は、反応器11内に窒素源ガスを導入する窒素源ガス導入口31と、反応域10へ窒素源ガスを排出する窒素源ガス吹き出し口33と、窒素源ガス導入口31から窒素源ガス吹き出し口33までの間に設けられた、ハロゲン系ガス(以下、この窒素源ガスに追加するハロゲン系ガスを「V族追加ハロゲン系ガス」とする場合もある)を供給するためのハロゲン系ガス導入ノズル34(V族追加ハロゲン系導入ノズル34)が接続された接続部35を有している。なお、本発明においては、窒素源ガス供給ノズル32が、窒素源ガスと、ハロゲン化水素ガス、及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガスとを反応域に同時に供給できる構造となれば、図1の構造に限定されるものではない。
また、図1においては、III族原料ガスを製造するために以下の構造が示されている。具体的には、図1の装置100は、反応域10の上流側に配置され、ハロゲン系ガスとIII族金属原料22を反応させてIII族原料ガスを発生させるための原料部反応域20を有する原料部反応器21と;原料部反応器21にハロゲン系ガスを導入する原料ハロゲン系ガス導入ノズル23と;III族原料ガス供給ノズル24は、III族原料ガスを反応域10へ排出するIII原料ガス吹き出し口25を備えた構造となっている。
本発明のIII族窒化物単結晶製造装置100は、III族原料ガスとしてIII族ハロゲン化物ガスを用い、窒素源ガスとして窒素源ガスを用いてHVPE法によってIII族窒化物単結晶を成長させる。反応域10の下流側には反応器11のガス排気口15が設けられており、供給された各種のガスはガス排気口15から反応器11の外部に排気される。以下、HVPE法を用いた場合について説明する。
図1には示されていないが、反応器11にはさらにその外側に外チャンバを有しても良い。反応域10には支持台(サセプタ)13が設置されており、該支持台13は基板12を回転可能に支持することがきるように、回転駆動軸(不図示)に連結されていてもよい。回転駆動軸は、電動機からの動力を支持台13に伝達し、支持台13を適切な回転速度で回転させる。反応器11はさらに、支持台13を加熱するための、高周波コイル等の局所加熱装置(不図示)を有する。なお局所加熱装置としては、支持台を適切に加熱できる限りにおいて、高周波コイル以外にも、抵抗式ヒータその他の公知の加熱手段を採用可能である。
原料部反応器21の内部には、III族金属原料22(例えばアルミニウム、ガリウム等。)が配置されており、原料部反応器21にハロゲン系ガス(具体的には塩化水素ガスや塩素ガス等)を供給することにより、原料部反応域20にIII族原料ガスとしてIII族ハロゲン化物ガス(例えば塩化アルミニウムガス、塩化ガリウムガス等。)が生成する。III族ハロゲン化物ガスは、加熱したIII族金属(例えば、アルミニウム、ガリウム、インジウム)の固体または液体と、ハロゲン化水素ガス(例えば、臭化水素ガス、塩化水素ガス)またはハロゲンガス(例えば、塩素ガス)との反応により発生させることができる。この反応を進行させるため、原料部反応器21は、原料部外部加熱装置16により、反応に適した温度(例えば、塩化アルミニウムガスの発生においては、通常、150〜1000℃程度であり、好ましくは300〜660℃程度であり、さらに好ましくは300〜600℃程度であり、塩化ガリウムガスの発生においては、通常、300〜1000℃程度等である。)に加熱される。原料部外部加熱装置16としては、抵抗式ヒータ等の公知の加熱手段を特に制限なく用いることができる。
原料部発生器21において発生したIII族ハロゲン化物ガス(III族原料ガス)は、III族原料ガス供給ノズル24によって反応器11内の反応域10に導かれる。III族原料ガス供給ノズル24は、III族ハロゲン化物ガス(III族原料ガス)を支持台13の側上方から支持台13の上方へ向けて吹き出すように配設されている。
III族原料ガス供給ノズル24は、一方の端部にIII族原料ガス供給ノズル吹き出し口25を有し、他方が原料部反応器21に接続されているが、その途中において脱着可能な接合部(脱着部)を有してもよい。脱着部を有することにより、III族窒化物単結晶の成長によりIII族原料ガス供給ノズル24の吹き出し口近傍に析出物が発生する場合に、容易にIII族原料ガス供給ノズル24を交換することが可能となる。この接合部(脱着部)の方式は、摺り合せ方式のテーパー形状の接合構造を用いることが脱着の容易さや接合部の気密性が良好であるためガス漏洩が少なくなる点で好ましいが、ネジ接合等の公知の接合方式を特に制限なく用いることができる。
また、III族原料ガス供給ノズル24の、一方の端部であるIII族原料ガス供給ノズル吹き出し口25から他方の端部である原料部反応器21までの任意の位置に、ハロゲン系ガス(以下、このIII族原料ガスに追加するハロゲン系ガスを「III族追加ハロゲン系ガス」とする場合もある)を供給するためのハロゲン系ガス供給ノズル26(III族追加ハロゲン系ガス供給ノズル26)が合流するIII族追加ハロゲン系ガス合流部27を有する態様とすることもできる。III族追加ハロゲン系ガスは、ハロゲン化水素(例えば、塩化水素ガス)および/またはハロゲンガス(例えば、塩素ガス)であり、原料部反応器21内部で生成したIII族ハロゲン化物ガスと合流することにより、III族ハロゲン化物ガスとハロゲン化水素またはハロゲンガスとのガス組成を任意の組成に制御することが可能となる。
前記のIII族原料ガスを供給するための原料ハロゲン系ガス供給ノズル23、原料部反応器21、III族追加ハロゲン系ガス供給ノズル26、III族追加ハロゲン系ガス合流部27、III族原料ガス供給ノズル24、及び、III族原料ガス供給ノズル24に設けられた脱着可能な接合部(不図示)を構成する材料としては、耐熱ガラス、石英ガラス、アルミナ、ジルコニア、ステンレス、またインコネル等の耐腐食性合金等を例示でき、中でも、石英ガラスを好ましく用いることができる。
窒素源ガス供給ノズル32は、窒素源ガス導入口31から反応域10に窒素源ガスを導く。窒素源ガス導入口31の窒素源ガス吹き出し口33は、支持台13の側上方かつ原料ハロゲン系ガス供給ノズル23のIII族原料ガス供給ノズル吹き出し口25の上方から支持台13の上方へ向けて窒素源ガスを吹き出すように配設されている。
本発明においては(装置100は)、窒素源ガス供給ノズル32の、一方の端部である窒素源ガス吹き出し口33から他方の端部である窒素源ガス導入口31までの間の任意の位置に、V族追加ハロゲン系ガスを供給するためのハロゲン系ガス導入ノズル34(V族追加ハロゲン系導入ノズル34)が接続する接続部35を有する構造となってもよい。接続部35の上流側には、V族追加ハロゲン系ガスを導入するV族追加ハロゲン系導入ノズル34が設けられており、V族追加ハロゲン系ガス導入ノズル34からは、V族追加ハロゲン系ガスが導入される。V族追加ハロゲン系ガスは、ハロゲン化水素(例えば、塩化水素ガス)、および/またはハロゲンガス(例えば、塩素ガス)であり、窒素源ガス導入口31から供給された窒素源ガスと接続部35を介して合流する。合流したV族追加ハロゲン系ガスは窒素源ガスとともに窒素源ガス吹き出し口33より反応域10に供給される。
また、窒素源ガス供給ノズル32は、一方の端部に窒素源ガス吹き出し口33を有し、他方が窒素源ガス導入口31に接続されているが、その途中において脱着可能な接合部(不図示)を有してもよい。脱着可能な接合部を有することにより、III族窒化物単結晶の成長により窒素源ガス供給ノズル32の吹き出し口近傍に析出物が発生する場合に、容易に窒素源ガス供給ノズル32を交換することが可能となる。この接合部の方式は、摺り合せ方式のテーパー形状の接合構造を用いることが脱着の容易さや接合部の気密性が良好であるためガス漏洩が少なくなる点で好ましいが、ネジ接合等の公知の接合方式を特に制限なく用いることもできる。
また、窒素源ガス吹き出し口33をIII族原料ガス供給ノズル吹き出し口25よりも上方に配設することにより、支持台13上に均一に窒素源ガス(窒素源ガス)を供給することができる。また、窒素源ガス導入口31は、III族原料ガス供給ノズル吹き出し口25よりも上方に配設することが好ましいが、窒素源ガスとしてアンモニアガスを使用する場合には、アンモニアガスは比較的拡散し易いため、窒素源ガス吹き出し口33をIII族原料ガス吹き出し口220aの下方に配設してもよい。
前記の窒素源ガスを供給するための窒素源ガス導入口31、V族追加ハロゲン系ガス導入口34、V族追加ハロゲン系ガス合流する接続部35、窒素源ガス供給ノズル32、脱着可能な接合部(不図示)を構成する材料としては、耐熱ガラス、石英ガラス、アルミナ、ジルコニア、ステンレス、またインコネル等の耐腐食性合金等を例示でき、中でも、石英ガラスを好ましく用いることができる。
III族原料ガス供給ノズル吹き出し口25から供給されたIII族原料ガスと、窒素源ガス吹き出し口33から供給された窒素源ガスとが、成長部における反応域10において反応し、一部が支持台13上に設置した基板12上にIII族窒化物単結晶が成長する。この反応を進行させるため、基板12は反応に適した温度(例えば窒化アルミニウム単結晶の成長においては、通常、1000〜1700℃程度であり、好ましくは1200〜1700℃程度であり、さらに好ましくは1350〜1650℃程度であり、窒化ガリウム単結晶の成長においては、通常、800〜1100℃程度等である。)に加熱される。基板の加熱には前記の通り局所加熱手段を用いることもできるが、反応器11の外部に成長部外部加熱装置17を設置して、反応器全体を加熱する手段も用いることができる。局所加熱装置と外部加熱装置は各々単独で用いてもよく、併用することも可能である。成長部外部加熱手段には、高周波加熱や抵抗加熱、光加熱等の公知の加熱手段を特に制限なく用いることができる。
本実施形態において、反応器11は、反応域10を内部に有することから、石英ガラス、アルミナ、サファイア、耐熱ガラス等の耐熱性および耐酸性の非金属材料で構成されることが好ましい。反応器11の外周に反応器11を加工用に外チャンバ(不図示)を用いてもよい。外チャンバは、反応器11と同様の材質で構成してもよいが、外チャンバは反応域10に直接には接していないので、一般的な金属材料、たとえばステンレス鋼等で構成することも可能である。
本発明に関する上記説明では、HVPE法によってIII族窒化物単結晶を成長させる形態のIII族窒化物単結晶製造装置100を主に例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、MOCVD法によってIII族窒化物単結晶を成長させる形態の気相成長装置とすることも可能である。より具体的には、III族原料供給部がIII族原料ガスとしてIII族有機金属化合物ガス(例えばトリメチルアルミニウムガスやトリメチルガリウムガス等。)を供給する形態の気相成長装置とすることも可能である。その場合、原料部反応器21にはIII族金属原料22を配置せずに、III族原料ガスとしてIII族有機金属化合物を気化させたガスを供給する形態が採用される。
また、HVPE法によってIII族窒化物単結晶を成長させるその他の態様として、原料部反応器21にIII族金属原料22が配置されない形態とすることも可能である。例えば、別途気化又はガス貯蔵装置から放出されたIII族ハロゲン化物ガスを加熱装置により所望の温度(例えば150〜1000℃等。)まで昇温して、III族原料ガスとして供給する形態とすることも可能である。
また例えばHVPE法によって混晶を成長させる場合においては、原料部反応器に複数種類のIII族金属原料を配置してハロゲン化物ガスの供給によりIII族ハロゲン化物の混合ガスを発生させ、該混合ガスをIII族原料ガス供給ノズル24を通じて反応域10に導入することも可能である。一方で、III族金属原料を配置しない形態の原料部反応器とすること、すなわち、ハロゲン化物ガスに代えて別途III族ハロゲン化物の混合ガスを生成し、加熱装置により所望の温度(例えば150〜1000℃等。)まで昇温して、III族原料ガスとして供給する形態の原料部反応器を採用することも可能である。さらに、図1は原料部反応器21が反応器11の内部に設置された例であるが、原料部反応器21が反応器の外部で設置した態様であってもよい。
本発明に関する上記説明では、窒素源ガス供給ノズル32が、ハロゲン系ガスを導入する構造となっている。具体的な例示では、III族窒化物単結晶製造装置100は、V族追加ハロゲン系ガス導入ノズル34から接続部35を介してV族追加ハロゲン系ガスが導入され、窒素源ガス導入口31から供給された窒素源ガスと合流し(V族追加ハロゲン系ガス導入ノズル34からV族追加ハロゲン系ガスが導入され、窒素源ガス導入口31から供給された窒素源ガスと接続部35において合流し)、合流したV族追加ハロゲン系ガスは窒素源ガスとともに窒素源ガス吹き出し口33より反応域10に供給される。そして、反応域10に供給された窒素源ガスが、III族原料ガス供給ノズル吹き出し口25より反応域10に供給されたIII族原料ガスと反応することにより、基板12上にHVPE法によりIII族窒化物単結晶が成長する。前記のV族追加ハロゲン系ガスは、反応域10においてIII族原料ガスと窒素源ガスとの反応の進行を緩和する役割を有し、両ガスの気相中における反応やIII族窒化物結晶の微粒子生成を抑制することができ、基板12上に成長するIII族窒化物単結晶中の微細な結晶欠陥を低減する効果をもたらすものと考えられる。その結果、反射X線トポグラフ像により明点として観察される微細な結晶欠陥を低減できるだけでなく、ノマルスキー微分干渉顕微鏡で観察される付着粒子をも低減できる。
アンモニアガスのような窒素源ガスは、V族追加ハロゲン系ガスと反応して蒸気圧の低い化合物を形成しやすい。このため、本発明においては、混合した窒素源ガスとV族追加ハロゲン系ガスのガス温度を制御できるようにするため、装置外周部に外部加熱手段を有することが好ましい。例えば、窒素源ガスとしてアンモニアガスを供給し、V族追加ハロゲン系ガスとして塩化水素ガスおよび/または塩素ガスを供給する場合には、以下の制御を行うことが好ましい。具体的には、V族追加ハロゲン系ガスと窒素源ガスが合流する接続部35からガス流の下流側以降(少なくとも基板12を過ぎるまで)のガス温度を250℃以上、より好ましくは335℃以上、さらに好ましくは350℃以上に加熱(維持)して、アンモニアガスと塩化水素ガスおよび/または塩素ガスとの反応により生成する塩化アンモニウムの析出を抑制することが好ましい。接続部35からガス流の下流側の温度の上限値は、特に制限されるものではないが、1200℃である。また、制御を容易とするためには、接続部35よりも上流側の窒素源ガス、及びV族追加ハロゲンガスの温度を250℃以上、より好ましくは335℃以上、さらに好ましくは350℃以上とする。この温度の上限値(接続部35よりも上流側におけるガス温度の上限値)も、特に制限されるものではないが1200℃である。また、析出を起こりにくくするために、窒素ガスや水素ガス、または希ガス等の公知のキャリアガスで前記ガス(窒素源ガス及びV族追加ハロゲン系ガス)を希釈しながら供給することも可能である。
上記のV族追加ハロゲン系ガスの加熱に関しては、図1の態様のように原料部反応器21と共に公知の加熱手段により加熱することも可能であるが、この場合はV属追加ハロゲン系ガスの温度が原料部反応器21とほぼ同様の温度となる。V族追加ハロゲン系ガスと原料部反応器21と異なる温度で制御したい場合には、V族追加ハロゲン系ガスの周辺を別途加熱できるように、接続部35と原料部反応器21の位置を前後(ガスの流れ方向における前後)にずらして個別に加熱することも可能である。
本発明において、より高い効果を発揮させるためには(微小な結晶欠陥を低減する効果をより高める観点からは)、窒素源ガス供給ノズルから反応域へ供給されるV族追加ハロゲン系ガス(ハロゲン化水素ガス、及びハロゲンガスから選ばれる少なくとも1種のハロゲン系ガス)の量が、窒素源ガス中の窒素原子の物質量に対する、該V族追加ハロゲン系ガス中のハロゲン原子の物質量の比率(RV−H=V族追加ハロゲン系ガス中のハロゲン原子の物質量/窒素源ガス中の窒素元素の物質量)が0よりも大きく1000以下であることが好ましい。RV−Hを算出するには、結晶成長装置においてガスの供給量の制御に一般的に使用される質量流量(単位時間当たり与えられた面を通過する物質の質量)を元に算出すればよい。例えば、窒素源ガスとしてアンモニアガスを100sccm流通し、V族追加ハロゲン系ガスとして塩化水素ガスを100sccm流通する場合には、窒素原子の物質量も100sccm相当、塩素原子の物質量も100sccm相当となるので、RV−Hは1と算出される。該比率が0の場合には、気相反応の抑制効果が小さくなり、III族窒化物単結晶中の微細な結晶欠陥を低減する効果が発揮されない。一方、該比率が1000倍を超える場合には、窒素源ガスとIII族原料ガスとの反応が進行しにくくなり成長速度が低下する傾向にある。付着粒子、及び微細な結晶欠陥を低減する効果、及びIII族窒化物単結晶の成長速度を考慮すると、該比率は、0.05〜100とすることが好ましく、さらに0.1〜50とすることが好ましい。
本発明のIII族窒化物単結晶製造装置において、その製造に最も適しているのは、結晶の成長速度が速いために原料供給量が多くなりやすい、窒化アルミニウム単結晶をHVPE法で製造する場合である。この理由は、III族原料ガスである塩化アルミニウムと窒素源ガスであるアンモニアガスとの反応性が一般的に速く不可逆性を有するためであると考えている。窒化ガリウム結晶や窒化インジウム結晶を成長させる場合には、比較的低温で窒化物結晶自体が熱分解を起こしやすい他、雰囲気中のハロゲン化水素ガスやキャリアガスとしてしばしば用いられ水素ガスと窒化物結晶とが反応して、再び塩化物や水素化物に化学変化しやすいため、見掛け上の窒化物結晶の生成速度は比較的遅く、反応は可逆的である。一方、窒化アルミニウム結晶は、このような性質に乏しいので、窒化アルミニウム結晶を成長するにあたっては、III族原料ガスと窒素源ガスとが反応域において気相中で反応することによるIII族窒化物微粒子の生成と、III族窒化物単結晶中への微細な結晶欠陥の導入とが抑制されるように、反応域10を精密に制御する必要が生じる。
本発明に関する上記説明では、反応器11内部にIII族原料ガス供給ノズル24単管が存在する形態の気相成長装置100を例示したが、本発明は当該形態に限定されない。例えば、III族原料ガス供給ノズル24の外周を覆うようにIII族原料ガスの流路の外側にバリアガスの流路(不図示)が形成され、III族原料ガス供給ノズル吹き出し口25を取り囲むようにバリアガス吹き出し口が形成されていてもよい。バリアガスとしては、例えば、水素、窒素、アルゴン、ヘリウム等のバリアガスとして一般的なガスを特に制限なく用いることができる。バリアガスは、III族原料ガスと窒素源ガスとが反応域10において混合する位置を制御することを可能にする他、意図しない位置における窒素源ガスとIII族原料ガスとの混合や反応を未然に防止することが可能となり、ノズルへの付着物の析出を大幅に抑制することを可能にする。また、III族原料ガス供給ノズル24の軸心(ノズルの高さ方向の中心位置)は、結晶成長に影響を与えない範囲において、バリアガスノズルの軸心に対して高さ方向にオフセットしてもよい。
また、本発明のIII族窒化物単結晶製造装置100は、押し出しガスを供給する構造を有していてもよい。すなわち、III族原料ガス、窒素源ガス、及びバリアガスが、排気口15が設けられた側へ、反応器11内で逆流することなく一様に流通するように、押し出しガスを反応器11内に導入する、押し出しガス導入口14を設けてもよい。押し出しガスとしては、例えば水素、窒素、アルゴン、ヘリウム等の一般的なガスを用いることができる。さらに、III族原料ガス、窒素源ガス、及びバリアガスが、排気口15が設けられた側へ、反応器11内で逆流することなく一様に流通するように、反応器11内部を減圧排気する機構(不図示)を排気口15のさらに下流側に設けることにより、反応器11内部のガス流の逆流を抑制してもよい。反応器11内部の圧力は、結晶成長に悪影響を与えない範囲において設定される。反応器11内部の圧力は、通常、0.1〜1.5atmであり、一般的には0.2〜大気圧である。また、同様の目的で特許文献5に記載されているような整流板を装置内に設けることもできる。
窒素源ガス吹き出し口33、及びIII族原料ガス供給ノズル吹き出し口25の断面形状は特に制限されるものではなく、円形、楕円形、矩形等、供給する基板の寸法に応じて自由に形状を選択することが可能である。
<2.結晶成長方法>
本発明の第2の態様に係る結晶成長方法について説明する。本発明の結晶成長方法は、上記本発明の第1の態様に係るIII族窒化物単結晶製造装置を用いて結晶を成長させる工程を有する。すなわち、前記III族窒化物単結晶製造装置の反応域にIII族原料ガス及び窒素源ガスを供給することにより、該III族原料ガスと該窒素源ガスとを反応させる工程(以下において単に工程(a)ということがある。)を有する。工程(a)において、III族原料ガスと窒素源ガスとの反応により、基板上にIII族窒化物単結晶が成長する。工程(a)においては、窒素源ガスとハロゲン系ガスとが、窒素源ガス供給ノズルから反応域に供給される。以下においては、本発明の第1の態様に係るIII族窒化物単結晶製造装置として、上記説明したIII族窒化物単結晶製造装置100を用いる形態を例に挙げて説明する。
III族窒化物単結晶製造装置100(図1参照。)においてIII族原料ガス供給ノズル24から供給するIII族原料ガスとしては、塩化アルミニウム、臭化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウム;塩化ガリウム等のハロゲン化ガリウム;塩化インジウム等のハロゲン化インジウム、等のIII族ハロゲン化物ガスや、トリメチルアルミニウム、トリメチルガリウム等のIII族有機金属化合物ガスを特に制限なく採用可能である。混晶を製造する場合には、複数のIII族原料ガスを含有する混合ガスを使用する。HVPE法を採用する場合、上記の通り、III族原料ガス供給ノズル24の上流側の原料部反応器21にIII族金属原料22を配置し、外部加熱装置16によって原料部反応器21を加熱(例えば塩化アルミニウムガスを発生させる場合には、通常、150〜1000℃程度であり、好ましくは300〜660℃程度であり、さらに好ましくは300〜600℃程度であり、塩化ガリウムガスを発生させる場合には、通常、300〜1000℃程度等である。)しながら原料部反応器21にハロゲン系ガス(例えば塩化水素ガスや塩素ガス等。)を供給することにより原料部反応器21において生成するIII族ハロゲン化物ガスを、III族原料ガス供給ノズル24を通じて反応域10内に導入することができる。
また、III族原料ガス供給ノズル24から原料部反応器21までの任意の位置にIII族追加ハロゲン系ガス合流部27を設け、III族原料ガスにIII族追加ハロゲン系ガスを合流させてもよい。III族追加ハロゲン系ガスはハロゲン系ガス(例えば、塩化水素ガスや塩素ガス等。)である。原料部反応器21内部で生成したIII族ハロゲン化物ガスと合流することにより、III族ハロゲン化物ガスとハロゲン系ガスとのガス組成比を任意の組成比に制御することができる。III族追加ハロゲン系ガスの供給の有無は任意である。ただし、III族原料ガスとしてハロゲン化ガリウムガスを使用して窒化ガリウム単結晶を製造する場合には、III族追加ハロゲン系ガスとハロゲン化ガリウムガスとの同時の供給量の比率(ハロゲン化ガリウムガス中のハロゲン原子の物質量に対する、該III族追加ハロゲン系ガス中のハロゲン原子の物質量の比率;III族追加ハロゲン系ガス中のハロゲン原子の物質量)/(ハロゲン化ガリウムガス中のハロゲン原子の物質量)は、0.01〜10であることが好ましく、さらに0.05〜1であることが好ましい。また、III族原料ガスとしてハロゲン化アルミニウムを用いて窒化アルミニウム単結晶を成長する場合には、III族追加ハロゲン系ガスとハロゲン化アルミニウムガスとの同時の供給量の比率(ハロゲン化アルミニウムガス中のハロゲン原子の物質量に対する、該III族追加ハロゲン系ガス中のハロゲン原子の物質量の比率;(III族追加ハロゲン系ガス中のハロゲン原子の物質量)/(ハロゲン化アルミニウムガス中のハロゲン原子の物質量)は0.1〜1000であることが好ましく、さらに0.5〜100であることが好ましい。上記の比率を算出する場合においても、結晶成長装置においてガスの供給量の制御に一般的に使用される質量流量(単位時間当たり与えられた面を通過する物質の質量)に基づいて算出することができる。III族追加ハロゲン系ガスとIII族原料ガスとを共存させることにより、例えば塩化アルミニウムガスや塩化ガリウムガスの不均化反応によるIII族金属の析出を抑制することができる。
他方、III族金属原料を配置される形態の原料部反応器21に代えて、別途生成されたIII族原料ガス(HVPE法の場合にはIII族ハロゲン化物ガス、MOCVD法の場合にはIII族有機金属化合物ガス。)を供給し、これを加熱装置により所望の温度(例えば室温〜200℃。)まで昇温する形態のIII族原料供給部を採用することも可能である。
これらのIII族原料ガスやIII族追加ハロゲン系ガスは、通常、キャリアガスによって希釈した状態で供給する。キャリアガスとしては、水素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、若しくはアルゴンガス、又はこれらの混合ガスを特に制限なく用いることができ、水素ガスを含むキャリアガスを用いることが好ましい。III族原料ガスをキャリアガスで希釈された状態で供給する場合には、III族原料ガスの濃度は、III族原料ガスと該III族原料ガスを希釈するキャリアガスとの合計量を基準(100体積%)として、例えば0.0001〜10体積%とすることができる。III族原料ガスの供給量は、例えば0.005〜500sccmとすることができる。なお後述するように、III族原料ガスは、ハロゲン系ガスの基板12上への供給を開始した後に、反応域10(基板12上)に供給することが好ましい。
原料部反応器21からIII族原料ガス供給ノズル24を介して反応域10に導入されたIII族原料ガスを窒化してIII族窒化物単結晶を得るために、窒素源ガス導入口31から窒素源ガス供給ノズル32を介して反応域10に窒素源ガスを導入する。この窒素源ガスは、通常キャリアガスによって希釈した状態で供給する。窒素源ガスとしては、窒素を含有する反応性ガスを特に制限なく採用可能であるが、コストと取扱の容易性の点で、アンモニアガスを好ましく用いることができる。キャリアガスとしては、水素ガス、窒素ガス、ヘリウムガス、若しくはアルゴンガス、又はこれらの混合ガスを特に制限なく用いることができ、水素ガスを含むキャリアガスを用いることが好ましい。窒素源ガスをキャリアガスによって希釈した状態で反応域10に供給する場合には、装置の大きさ等に基づいて、窒素源ガスの供給量、およびキャリアガスの供給量を決定することができる。III族窒化物単結晶の製造のし易さ等を考慮すると、キャリアガスの供給量は50〜10000sccmであることが好ましく、100〜5000sccmであることがより好ましい。窒素源ガスの濃度は、窒素源ガスと該窒素源ガスを希釈するキャリアガスとの合計量を基準(100体積%)として、例えば0.0000001〜10体積%とすることができる。また、窒素源ガスの供給量は、例えば0.01〜1000sccmとすることができる。窒素源ガスを基板12上に供給する順番は、特に制限されるものではないが、後述するように、ハロゲン系ガス及びIII族原料ガスが反応域10(基板12上)に供給される前に窒素源ガスを反応域10(基板12上)に供給することが好ましい。
本発明では、窒素源ガス導入口31から窒素源ガス吹き出し口33の任意の箇所に、接続部35が設けられており、導入口を有したV族追加ハロゲン系ガス導入ノズル34よりV族追加ハロゲン系ガスが導入され、窒素源ガス導入口31から供給された窒素源ガスとV族追加ハロゲン系ガスとが接続部35において合流し、合流したV族追加ハロゲン系ガスは窒素源ガスとともに窒素源ガス吹き出し口33より反応域10に供給される。接続部35から下流側の温度、接続部35から上流側の温度、窒素源ガスに合流させるV族追加ハロゲン系ガスの供給量等の好ましい態様については、上記(<III族窒化物単結晶製造装置>)において既に説明した。
なお、一般に、III族原料ガスとしてIII族ハロゲン化物ガスを用いる場合、すなわち成長速度の高いHVPE法によりIII族窒化物単結晶を成長させる場合には、ノズルに堆積物が付着しやすく、微細な結晶が生成し易い。この傾向は反応速度の速いハロゲン化アルミニウムガスを使用する場合に特に顕著である。このことから、本発明のIII族窒化物単結晶製造装置および製造方法は、HVPE法によってIII族窒化物単結晶を成長させる場合に好ましく用いることができ、HVPE法によってIII族元素としてアルミニウムを含むIII族窒化物(以下において「Al系III族窒化物」ということがある。)の単結晶を成長させる場合に特に好ましく用いることができ、HVPE法によって窒化アルミニウムの単結晶を成長させる場合に最も好ましく用いることができる。この観点から、本発明の結晶成長方法においては、III族原料ガスがIII族ハロゲン化物ガス、特にハロゲン化アルミニウムガスであり、窒素源ガスがアンモニアガスであることが特に好ましい。III族原料ガスがハロゲン化アルミニウムガスである場合、ハロゲン化アルミニウムガスの供給量は、例えば0.001〜100sccmとすることができる
そして、本発明者らが検討する限りでは、特に、HVPE法を使用した窒化アルミニウム単結晶の成長において、成長速度が5μm/h以上、好ましくは10μm/h以上、特に好ましくは15μm/hを超えた場合に本発明の効果がより顕著に発揮される。成長速度の上限値は、特に制限されるものではいが、工業的な生産を考慮すると200μm/h、好ましくは100μm/h以下とすることができ、外部から基板12を加熱する手段を設けた場合には例えば300μm/h以下とすることができる。
III族窒化物単結晶製造装置100の反応域10においてIII族原料ガス供給ノズル24から流出するIII族ハロゲン化物ガス(III族原料ガス)のフローと、窒素源ガス供給ノズル32から流出する窒素源ガスのフローとの間には、バリアガスのフローを介在させてもよい。III族原料ガスのフローと窒素源ガスのフローとの間に流出させるバリアガスとしては、不活性である点、及び、分子量が大きいためにIII族原料ガスや窒素源ガスのバリアガスへの拡散が遅い(バリア効果が高い)点で、窒素ガス若しくはアルゴンガス、又はこれらの混合ガスを好ましく用いることができる。ただしバリアガスの効果を調整するために、窒素ガス若しくはアルゴンガス又はこれらの混合ガスに、水素ガス、ヘリウムガス、ネオンガス等の、不活性な(すなわち、III族原料ガス及び窒素源ガスと反応しない)低分子量ガスを混合してもよい。バリアガスの供給量は、装置の大きさ、混合を抑制する効果等に基づいて決定され、特に制限されるものではないが、例えば50〜10000sccmとすることができ、好ましくは例えば100〜5000sccmとすることができる。
III族窒化物単結晶を析出させる基板12の材質としては、例えばサファイア、シリコン、シリコンカーバイド、酸化亜鉛、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、窒化アルミニウムガリウム、ガリウムヒ素、ホウ素化ジルコニウム、ホウ素化チタニウム等を特に制限なく採用できる。また、下地基板の厚みも特に制限されるものではなく、例えば100〜2000μmとすることができる。また、基板12を構成する結晶の面方位も特に制限されるものではなく、例えば+c面、−c面、m面、a面、r面等とすることができる。
III族原料ガスと窒素源ガスとを反応させる前に、基板12に付着している有機物を除去するため、反応域10に水素ガスを含むキャリアガスを流通しながら支持台13を介して基板12を加熱することにより、サーマルクリーニングを行うことが好ましい。基板12のサーマルクリーニングは一般的に基板12を1100℃で10分程度保持することにより行うが、基板12の材質に応じて適宜変更することも可能である。例えば、基板12としてサファイア基板を用いる場合、一般的には基板12を1100℃で10分間程度保持する。
その後、III族原料ガス供給ノズル24を通じてIII族原料ガスを反応域10に導入し、且つ、窒素源ガス供給ノズル32を通じて窒素源ガスを反応域10に導入しながら、加熱された基板12上にIII族窒化物単結晶を成長させる。HVPE法で成長する場合には、好ましくは1000〜1700℃であり、特に、窒化アルミニウム単結晶をHVPE法で製造する場合には、1200〜1650℃であり、MOCVD法を用いる場合には好ましくは1000〜1600℃である。本発明の結晶成長方法におけるIII族窒化物の成長は、HVPE法を用いる場合(すなわちIII族原料ガスとしてIII族ハロゲン化物ガスを用いる場合。)には、通常、大気圧付近の圧力下(反応器内部、III族原料ガス供給ノズル内部、及び窒素源ガス供給ノズルが、0.1〜1.5atmとなる条件下。特に窒化アルミニウム単結晶を製造する場合には、0.2〜大気圧となる条件下。)で行われ、MOCVD法を用いる場合(すなわちIII族原料ガスとしてIII族有機金属化合物ガスを用いる場合)には通常100Pa〜大気圧の圧力下で行われる。
HVPE法を用いる場合、III族原料ガス(III族ハロゲン化物ガス)の供給量は、供給分圧(供給される全ガス(キャリアガス、III族原料ガス、窒素源ガス、バリアガス、押し出しガス)の標準状態における体積の合計に対するIII族原料ガスの標準状態における体積の割合。)に換算して通常1Pa〜1000Paである。MOCVD法を用いる場合、III族原料ガス(III族有機金属化合物ガス)の供給量は、供給分圧換算で通常0.1〜100Paの範囲の値が選択される。窒素源ガスの供給量は特に制限されるものではないが、一般的には、供給する上記III族原料ガスの0.5〜1000倍であり、より好ましくは1〜200倍である。
III族窒化物単結晶を成長する過程においては、III族元素および窒素が属するV族元素とは異なる価数を有する元素をドープすることにより、結晶の電気伝導性をn形もしくはp形、または半絶縁性に制御することや、ドープした不純物をIII族窒化物単結晶の成長におけるサーファクタントとして作用させることにより、+c軸方向や−c軸方向、m軸方向、a軸方向等に結晶成長方位を制御することも可能である。これらのドーパントとしては、C、Si、Ge、Mg、O、S等の元素を含む分子を特に制限なく用いることができる。
成長時間は所望の成長膜厚が達成されるように適宜調節される。一定時間結晶成長を行った後、III族原料ガスの供給を停止することにより結晶成長を終了する。その後、基板12を室温まで降温する。以上の操作により、基板12上にIII族窒化物単結晶を成長させることができる。
本発明のIII族窒化物単結晶製造装置及び製造方法は、特に制限されるものではないが、基板上に膜厚20μm以上のIII族窒化物単結晶、とりわけ窒化アルミニウム単結晶を成長させる場合に好ましく採用でき、基板上に膜厚100μm以上のIII族窒化物単結晶、とりわけ窒化アルミニウム単結晶を成長させる場合に特に好ましく用いることができる。III族窒化物単結晶の厚みの上限は、特に制限されるものではないが、例えば、2000μm以下とすることがある。また、III族窒化物単結晶、とりわけ窒化アルミニウム単結晶の大きさは、特に制限されるものではないが、大きければ大きいほど付着粒子、及び微細な結晶欠陥を低減する効果が顕著となる。そのため、III族窒化物単結晶、とりわけ窒化アルミニウム単結晶の大きさは、該基板上に成長する面積(結晶成長面の面積)が100mm2以上、より好ましくは400mm2以上、さらに好ましくは1000mm2以上である。なお、結晶成長面の面積の上限値も、特に制限されるものではないが10000mm2である。
<窒化アルミニウム単結晶>
上記の通り、本発明のIII族窒化物単結晶製造装置、及びIII族窒化物単結晶の製造方法は、窒化アルミニウム単結晶の製造に好適である。つまり、以上のようなIII族窒化物単結晶製造装置100を使用することにより、反応域10においてV族追加ハロゲン系ガスがIII族原料ガスと窒素源ガスとの反応の進行を緩和し、気相中における両ガスの反応やIII族窒化物単結晶の微粒子生成を効果的に抑制することができる。その結果、得られるIII族窒化物単結晶において、付着粒子(ノマルスキー微分干渉顕微鏡にて、厚みが0.05〜2.0mmのものであり、かつ最大外径が1〜200μmの大きさで観察されるもの(粒子))、及び微細な結晶欠陥をも低減することができる。そのため、原料ガスの反応性が高く、高品質な結晶の成長が難しかったHVPE法による窒化アルミニウム単結晶であっても、微細な結晶欠陥が低減された窒化アルミニウム単結晶を製造できる。具体的には、(114)面の反射X線トポグラフ像に存在する明点(以下において単に「明点」ということがある)の数密度が20個/cm2以下である窒化アルミニウム単結晶を製造できる。明点の下限値は、0であることが好ましい。また、該窒化アルミニウム単結晶における付着粒子の数密度は20/cm2以下であることが好ましい。付着粒子の数の下限値は、0であることが好ましい。
また、上記III族窒化物単結晶装置を使用すれば、明点の数密度が0〜20個/cm2である高品質な窒化アルミニウム単結晶を、結晶成長面の面積が100mm2以上の大きさで製造することができる。この時、該窒化アルミニウム単結晶における付着粒子の数は、0〜20/cm2以下であることが好ましい。結晶成長面の面積は好ましくは100mm2以上であるが、上限値は特に制限されるものではなく、大きければ大きいほど工業的に有利となる。ただし、工業的な生産を考慮すると、本発明の要件を満足するためには結晶成長面の面積の上限値は10000mm2である(この場合、結晶成長面の面積100〜10000mm2の範囲において、明点が20個/cm2以下となればよい。付着粒子も20/cm2以下となればよい)。なお、窒化アルミニウム単結晶の厚みは特に制限されるものではないが、好ましくは20〜3000μmである。
上記窒化アルミニウム単結晶は、明点を低減することにより、波長265nmにおける補正吸収係数α265が20cm−1未満とすることもできる。その他、特に制限されるものではないが、窒化アルミニウム単結晶の厚みは、20〜3000μmであることが好ましい。そして、上記窒化アルミニウム単結晶は、優れた結晶品質のものとなるため、波長265nmにおける補正吸収係数α265を20cm−1未満とすることができる。さらには、波長220nmにおける補正吸収係数α220を20cm−1未満とすることができる。なお、工業的な生産を考慮すると、補正吸収係数α265の下限値は0cm−1であり、補正吸収係数α220の下限値は0cm−1である。
ここで補正吸収係数α265及びα220は、板状サンプルの直線光透過率を表す式:
T265=(1−R265)2exp(−α265x)/{1−R265 2exp(−2α265x)} …(2a)
T220=(1−R220)2exp(−α220x)/{1−R220 2exp(−2α220x)} …(2b)
におけるα265及びα220を意味する。式(2a)及び(2b)中、T265及びT220はそれぞれ波長265nm及び波長220nmにおける直線光透過率を表し、xは板厚(cm)を表し、R265及びR220はそれぞれ波長265nm及び波長220nmにおける反射率を表す。本明細書において、窒化アルミニウム単結晶の波長265nmにおける補正吸収係数α265は、R265=0.160として式(2a)を解くことにより算出される値とする。また、窒化アルミニウム単結晶の波長220nmにおける補正吸収係数α220は、R220=0.218として式(2b)を解くことにより算出される値とする。
本発明の窒化アルミニウム単結晶は、上記III族窒化物単結晶製造装置100、すなわち窒素源ガス供給ノズル32から窒素源ガスとハロゲン系ガスとを反応域へ供給する装置により製造できる。この理由の以下のように推定される。従来の装置を使用した場合には、III族原料ガスと窒素源ガスが反応域10において混合しやすく、反応域中における気相反応により生成したIII族窒化物結晶の微細な粒子が生成し、これが基板12に付着することにより、微細な結晶欠陥((114)面の反射X線トポグラフ像において観察される明点)が増加するものと考えられる。この現象は、特に反応性の高いアルミニウムを含む原料ガスを用いたアルミニウムを含む窒化物結晶の製造において顕著であったと考えられる。反応域中における気相反応が顕著になると、微細な結晶欠陥がIII族窒化物単結晶中に増加するばかりでなく、反応域で生成した微粒子がさらに粒成長して成長粒子となり、装置内にも成長粒子の堆積物が増加する他、成長中の基板表面に付着する成長粒子の数が増加するものと考えられる。従来技術では、整流隔壁(特許文献5に記載)やバリアガスフロー等を用いてIII族窒化物単結晶製造装置100内のガスの流れを調整することにより、付着粒子自体の発生(成長粒子の基板表面への付着)を抑制し、該付着粒子が原因となる結晶欠陥を低減することができた。しかしながら、該従来技術では、成長粒子よりもさらに微細なスケールで発生する気相反応まで制御することはできず、微細な結晶欠陥は低減できなかったものと推定される。本発明のIII族窒化物単結晶製造装置100によれば、V族追加ハロゲン系ガスがIII族原料ガスと窒素源ガスの反応の進行を緩和し、両ガスの気相中における反応やIII族窒化物結晶の微粒子生成を効果的に抑制することができるため、付着粒子による結晶欠陥、及び微細な結晶欠陥の両方を低減できるものと考えられる。本発明では、V族追加ハロゲン系ガスを、本来ならば混合するべきでないと考えられてきた窒素源ガスである窒素源ガスに敢えて共存させた後に反応域10に供給するが、これにより反応域10においてIII族原料ガスと窒素源ガスとの反応が動力学的に効果的に阻害され、微粒子生成の抑制効果が顕著に得られるものと推測される。
例えば、整流隔壁を設けたIII族窒化物単結晶製造装置で作製したIII族窒化物単結晶基板は、化学的機械的研磨(CMP)後、この研磨表面を反射X線トポグラフィにより評価すると、結晶欠陥と考えられる明点が観察された。詳細にこの明点を観察すると、明点は付着粒子の存在箇所には対応しておらず、付着粒子とは異なる微細な結晶欠陥であることが明らかとなった。つまり、この観察結果は、反射X線トポグラフィにより観察される明点は、付着粒子とは関係していない結晶欠陥に対応することを示すものであることが明らかになった。
また、従来の評価方法であるノマルスキー微分干渉顕微鏡(光学顕微鏡)では、付着粒子は 観察できるが、微細な結晶欠陥((114)面の反射X線トポグラフィによる明点部)は観察できないことも判明した。本発明で定義した明点で観察される結晶欠陥は、微細であるため、X線ロッキングカーブ測定のような結晶(基板)の平均的特性を観測する手法では判別することが難しい。また、CMP表面を酸やアルカリ(塩基)でエッチングすることにより結晶欠陥部分に形成されるピットを観察する手法(エッチピット法)では、転位(本発明で明点となって観測される欠陥よりも小さな結晶欠陥)までもがピットとなるので、欠陥の数が過大に評価される。明点とする結晶欠陥は、刃状転位やラセン転位等に分類される転位とは異なるものである。
X線トポグラフィによる結晶欠陥の評価には透過方式の評価が一般的に用いられる。透過方式は高強度のX線を基板に照射し、基板内部において結晶面で回折を経た後に、基板から透過してくる回折X線を結像するものである。このため、基板内部全体において結晶欠陥が存在する場合には、回折X線が強め合うかもしくは弱め合うか、また単に散乱して弱まるために結晶欠陥部分に結像コントラストが生じる。本発明で反射X線トポグラフィを用いる理由は、本発明により得られる窒化アルミニウム単結晶基板の上に発光素子や電子デバイスとして機能する積層構造を形成する際には、基板の最表面の欠陥が発光素子や電子デバイスの機能に影響するためである。例えば、窒化アルミニウム単結晶基板上に発光素子を形成する場合、基板表面に結晶欠陥が存在すると電流のリーク等の不具合をもたらすことになる。すなわち、窒化アルミニウム単結晶基板上に構築された積層構造の機能発現に悪影響を及ぼすような結晶欠陥は、主として反射X線トポグラフィによって観測される基板表面近傍の結晶欠陥である。透過X線トポグラフィによる観測では、基板内部全体を含めた評価になるため、基板表面近傍の結晶欠陥を適切に評価することができない。
また、透過X線トポグラフィでは、そのX線源としてシンクロトロン放射光や回転対陰極型等の高強度で高価なものが必要となるのが一般的である。これに対して、反射X線トポグラフィでは、銅ターゲット製X線管球を用いた比較的低強度で安価な光源であっても明点を評価することが十分に可能であり、評価コストを低減することができる。もちろん、X線源に透過方式で用いられるような回転対陰極型やシンクロトロン放射光を用いても明点の評価をすることは可能である。
この明点は、反射X線トポグラフィにより窒化アルミニウム単結晶基板の例えば(114)面からの回折像を観測した時に観察される結晶欠陥に相当するものであり、(114)面を観測した場合には欠陥部分の回折が強まった結果として明点として観測されるものである。測定する回折面を変えた場合には、該欠陥個所は暗点として映し出される場合もある。例えば(105)面や(214)面の回折を用いて反射X線トポグラフィを測定する場合には、該欠陥個所は暗点として映し出されるが、本発明者らの検討では、(114)面測定により得られる明点の位置と(105)面測定により得られる暗点の位置は、全く一致することを確認している。
このような理由で、本発明の窒化アルミニウム結晶は、反射X線トポグラフ像に存在する明点で結晶欠陥を評価したものであり、従来の評価方法ではその差が見出せなかった、新規な窒化アルミニウム結晶である。
また、本発明の窒化アルミニウム単結晶は、好ましくはHVPE法により製造される。III族原料ガスとして塩化アルミニウムガスを用いてHVPE法により製造された窒化アルミニウム単結晶中の塩素含有量は、通常、1×1012〜1×1019個/cm3、好ましくは1×1014〜1×1017個/cm3である。該塩素含有量は、二次イオン質量分析により測定することができる。そして、通常、一次イオン種をCs+とし、一次加速電圧を15kVとして測定する。塩素含有量が1×1012〜1×1019個/cm3の範囲にあることにより、高品質な窒化アルミニウム単結晶とすることができる。
<窒化アルミニウム単結晶の用途>
本発明の窒化アルミニウム単結晶は、結晶欠陥が少ないため、発光ダイオード用の成長基板、発光ダイオード基板、電子デバイス用基板として好適に使用できる。特に、結晶成長面の面積が100mm2以上のものであって、(114)面の反射X線トポグラフ像において観察される明点の数密度が20個/cm2以下の窒化アルミニウム単結晶は、その上に発光素子層を形成して得られる積層体(ウェハ)を切断することにより発光ダイオードとする際、歩留まりを向上することができる。
ウェハの製造方法は、該窒化アルミニウム単結晶上に発光素子層を形成する工程を含む。発光素子層の層構成は、特に制限されるものではないが、一例としては、n型層、p型層、及びn型層とp型層との間に配置された活性層を含む層構成を挙げることができる。活性層は量子井戸構造を有する層であってもよく、バルクヘテロ結合を有する層であってもよい。発光素子層の各層を構成する半導体としては、III族窒化物半導体を特に好ましく採用できる。窒化アルミニウム単結晶の表面に発光素子層を形成するにあたっては、MOCVD法等の公知の結晶成長方法を特に制限なく採用することができる。
発光ダイオードの製造方法は、該ウェハの製造方法によりウェハを製造する工程と、該ウェハを切断する工程とを、この順に有する。ウェハを切断するにあたっては、レーザーダイシングやブレードダイシング、ステルスダイシング等の公知の方法を特に制限なく採用することができる。
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。実施例・比較例においては、III族窒化物単結晶のなかでも窒化アルミニウム単結晶を製造した例を示す。
(反射X線トポグラフィによる結晶欠陥の評価)
反射X線トポグラフィの測定には高分解能薄膜X線回折装置(パナリティカル製X‘Pert Pro MRD)を用いた。Cuターゲットを用いたX線管球から加速電圧45kV、フィラメント電流40mAの条件で特性X線を発生させ、ラインフォーカスでX線ビームを取り出した。発生させたX線ビームはX線ミラーモジュール(ゲーベルミラー)により高強度の平行X線ビームとした。このとき、X線ミラーモジュールの入口に1/2°発散スリット(横制限スリット)と50μm幅の縦制限スリットとを装着し、ビーム幅が約1.2mmに絞られたX線ビームとした後に、測定ステージ上に設置した対象物である窒化アルミニウム単結晶基板に照射した。窒化アルミニウム単結晶基板の(114)面から回折したCuKα1線を2次元半導体X線検出器(パナリティカル製PIXcel3D半導体検出器)により検出して反射X線トポグラフ像を取得した。2次元半導体X線検出器は256×256画素であるため、1回の反射X線トポグラフ像により測定できる基板領域がy方向に約8.4mm、x方向に約5.7mmに制限される。このため、基板全面の反射X線トポグラフ像を測定するために、測定ステージをx、y方向に適宜移動して、基板面内の異なる箇所の反射X線トポグラフ像を測定することを繰り返し、取得した基板面内の各位置の反射X線トポグラフ像をつなぎ合わせることにより基板面内全面の反射X線トポグラフ像を取得した。取得した反射X線トポグラフ像を画像解析により明点の個数をカウントし、窒化アルミニウム単結晶基板の面積で除することにより、1cm2あたりの明点の存在密度(明点の数密度;個/cm2)を算出した。
測定する窒化アルミニウム単結晶(基板)の結晶面は(114)面を採用した。この理由は、(114)面の測定によれば、上述の装置を用いた場合に明点の観察が十分に可能な分解能が得られるからである。(114)面以外にも(103)面や(105)面等を用いた反射X線トポグラフ像の測定も可能であるが、例えば、上述の装置を用いて(103)面の反射X線トポグラフ像を取得する場合には分解能が不足するために明点の観察が不明瞭となるためである。したがって、少なくとも上記の測定条件における分解能以上の分解能を有する反射X線トポグラフ像を取得できることが好ましいが、本発明者が調べる限りでは、明点を測定するために実用的な分解能の上限は1画素が10μm×10μm程度となる分解能であることを確認している。これよりも高い分解能で測定を行う場合には、1回の反射X線トポグラフ像の測定領域が狭くなり、基板全面の測定に長時間を要することになるので好ましくない。測定面が異なる場合には回折条件が変わるために、明点が暗点として観測される場合があるが、明点位置と暗点位置とは一致することを本発明者らは確認している。また、基板面内で結晶面が湾曲しており、基板面において回折条件を満たす箇所と解析条件から外れる箇所とが存在する場合に、各位置で回折条件を満たすように窒化アルミニウム単結晶の測定軸出しを行うことが好ましい。
反射X線トポグラフ像を取得する窒化アルミニウム単結晶基板の表面は化学的機械研磨(CMP)研磨を行い、表面の研磨ダメージ層を除去し、反射X線トポグラフ像に研磨ダメージや研磨傷が観測されない状態に仕上げた。表面粗さは原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察で二乗平均粗さ(RMS)として0.15nm以下の状態に仕上げた。研磨傷が存在する場合には、明点が不明瞭になるため、本発明の評価(明点の数密度)が困難になる。
(付着粒子の評価)
ノマルスキー微分干渉顕微鏡(ニコン社製LV150)を用いて、成長直後の対象となる窒化アルミニウム単結晶基板の表面を観察倍率100〜500倍で明視野観察し、窒化アルミニウム単結晶層の表面、及び該層中に存在するもので厚みが0.05〜2.0mmのものであり、かつ最大外径が1〜200μmの大きさの付着異物や欠陥を付着粒子として観察した。付着粒子の個数は、窒化アルミニウム単結晶層の主表面側からノマルスキー微分干渉顕微鏡で主表面全体を観察し、基板全体に存在する個数をカウントすることにより求めた。
実施例1
(窒化アルミニウム単結晶層の成長)
(下地基板の準備)
下地基板として昇華法により作製した直径22mm、厚さ510μmの市販の窒化アルミニウム単結晶基板を使用した。この下地基板である窒化アルミニウム単結晶基板をアセトンとイソプロピルアルコールで超音波洗浄したのち、窒化アルミニウム単結晶基板のAl極性側が成長面になるように、該窒化アルミニウム単結晶基板をHVPE装置内のBNコートグラファイト製サセプタ上に設置した。
(窒化アルミニウム単結晶の製造条件)
窒化アルミニウム単結晶層の成長に用いたHVPE装置には図1の態様のものを用いた。V族追加ハロゲン系ガス供給ノズルの接続部35は、窒素源ガス供給ノズル32、原料部反応器21とともに原料部加熱装置16により400℃に加熱した状態とした。
さらに、図1の態様に、III族原料ガス供給ノズル24の先端から上流側250mmのフローチャネル内部に整流隔壁を設けた装置を使用した。整流隔壁は直径3mmの貫通孔が24個設けた石英ガラス製の板であり、石英ガラス製フローチャネルの内壁に溶接して設置される。整流隔壁の貫通孔を通してフローチャネルのさらに上流側から供給する押し出しキャリアガスを流通した。押し出しキャリアガスには水素と窒素を7:3の割合で混合した混合キャリアガスを使用した。
(III族原料ガスの供給)
III族原料ガス供給ノズル24よりさらに上流部の原料部反応器21に、石英ガラス製ボート上に6Nグレードの高純度アルミニウムを配置した。原料部反応器21内部を400℃に加熱し、原料部反応器21にキャリアガスとともに塩化水素ガスを16.8sccm供給することにより塩化アルミニウムガスを発生させた。さらに発生した塩化アルミニウムガスにはIII族追加ハロゲン系ガス供給ノズル26からIII族追加ハロゲン系ガス合流部27を介して塩化水素ガスを1.1sccm供給し、水素窒素混合キャリアガス1782.1sccmを含めた合計1800sccmの混合ガスとして、該混合ガスをIII族原料供給ノズル吹き出し口25から反応域10に導入した。
(窒素源ガスの供給:V族追加ハロゲン系ガスの追加)
また、窒素源ガス供給ノズル32からは、アンモニアガス31sccmと塩化水素ガス3.1sccm(RV−Hは0.1)、水素キャリアガス165.9sccmの合計で200sccmを反応域へ供給した。整流隔壁を通過して供給される押し出しキャリアガスの質量流量は6500sccmとした。また、バリアガスノズルから窒素ガス1500sccmを供給した。フローチャネル内に供給したガスの合計流量は10000sccmとした。また、成長中の系内の圧力は0.99atmに保持した。
(下地基板の温度と窒化アルミニウム単結晶の成長)
上記条件に従って窒素源ガス供給ノズル32よりアンモニアガス(塩化水素ガスが追加された混合ガス)を供給しながら、基板12を1500℃に加熱した。その後、III族原料ガス供給ノズル24より塩化アルミニウムガス(塩化水素ガスが追加された混合ガス)を供給し、窒化アルミニウム単結晶層を11時間成長した。窒化アルミニウム単結晶層の成長後、塩化アルミニウムガスとアンモニアガスの供給を停止して、基板を室温まで冷却した。
(窒化アルミニウム単結晶層の分析)
得られた窒化アルミニウム単結晶層に破断やクラックはなく、窒化アルミニウム単結晶層の厚さは396μmであった。窒化アルミニウム単結晶層の厚さは、成長後の窒化アルミニウム単結晶基板の総厚さ906μmから、成長前に測定しておいた窒化アルミニウム単結晶基板の厚さ510μmを差し引くことにより算出した。窒化アルミニウム単結晶層の粒子付着を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察したところ、付着粒子の数密度は、1個/cm2であった。また、(002)面のX線ロッキングカーブ半値幅は16秒であった。
次に、基板外周に異常成長した多結晶の窒化アルミニウム粒子を除去するために、基板外周形状を1辺が9.8mmの六角形(面積にして2.5cm2)に切断し、窒化アルミニウム単結晶層側の表面を機械研磨により平坦化し、さらに、CMP研磨により窒化アルミニウム単結晶層表面の研磨ダメージ層を除去した。このときの研磨量は142μmであり、残存する窒化アルミニウム単結晶層は254μmであった。また、原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察により測定した二乗平均粗さ(RMS)は0.10nmであった。CMP研磨した窒化アルミニウム単結晶層全面の(114)面の反射X線トポグラフ像を取得した。画像解析により観察された明点は9個であり、基板面積2.5cm2で除することにより明点密度(明点の数密度)は3.6個/cm2と算出された(図2参照)。さらに、加速電圧15kVにてCs+を照射する二次イオン質量分析により塩素含有量を測定したところ、3×1015個/cm3であった。
次に、透過率を評価するために種結晶である窒化アルミニウム単結晶基板を機械研磨により除去し、HVPE法で成長した窒化アルミニウム単結晶層のみからなる窒化アルミニウム単結晶自立基板を得た。具体的には、窒化アルミニウム単結晶基板側の表面から機械研磨することにより、窒化アルミニウム単結晶基板を除去して厚さ185μmの窒化アルミニウム単結晶自立基板を得た。機械研磨後の基板表面の表面粗さを白色干渉顕微鏡(Zygo社NewView7300)の対物レンズ50倍観察により確認したところ、二乗平均粗さ(RMS)の値は1.2nmであった。この自立基板の直線光透過率をダブルビーム方式の紫外・可視分光光度計(日本分光製分光光度計V−7300)を用いて評価したところ、波長265nmにおいて62%、波長220nmにおいて47.6%であった。本実施例のような板状サンプルの直線透過率測定では、直線透過率をT、板厚をx、反射率をR、吸収係数をαとすると次式の相関がある。
T=(1−R)2exp(−αx)/{1−R2exp(−2αx)}。
反射率には波長依存性があり、紫外領域における吸収のみられない窒化アルミニウム単結晶を用いて調べた波長265nm及び220nmにおける反射率はR265=0.160、R220=0.218である。これらの反射率の値を仮定した場合、直線光透過率Tとサンプルの板厚xから上記の式によって補正吸収係数α265とα220が求めることができ、本サンプルではそれぞれ8.0cm−1及び15cm−1であった。
実施例2
整流隔壁、III族追加ハロゲン系ガス導入管26、及びIII族追加ハロゲン系ガス合流部27を設けなかった以外は実施例1と同様の装置を使用し、窒化アルミニウム単結晶基板上に窒化アルミニウム単結晶層を成長した。III族原料ガス供給ノズル24のさらに上流部に配置した高純度アルミニウム上にキャリアガスとともに塩化水素ガスを10.8sccm供給することにより塩化アルミニウムガスを発生させた。また、窒素源ガス供給ノズル32からは、アンモニアガス26sccm、塩化水素ガス1.3sccm(RV−Hは0.05)、及び水素キャリアガス172.7sccm(合計で200sccm)を反応域10へ供給した。基板12の温度を1450℃とし、10時間、窒化アルミニウム単結晶を成長した。以上の条件以外は実施例1と同様の条件とした。
得られた窒化アルミニウム単結晶層に破断やクラックはなく、窒化アルミニウム単結晶層の厚さは260μmであった。窒化アルミニウム単結晶層の粒子付着を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察したところ、付着粒子の数密度は、5個/cm2であった。また、(002)面のX線ロッキングカーブ半値幅は21秒であった。
次に、実施例1と同様に、基板外周形状を1辺が9.8mmの六角形(面積にして2.5cm2)に切断し、窒化アルミニウム単結晶層側の表面を機械研磨とCMPを施した。このときの研磨量は75μmであり、残存する窒化アルミニウム単結晶層の厚さは185μmであった。原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察により測定した二乗平均粗さ(RMS)は0.13nmであった。CMP研磨した窒化アルミニウム単結晶層全面の(114)面の反射X線トポグラフ像において観察された明点は38個であり、基板面積2.5cm2で除することにより明点密度(明点の数密度)は15個/cm2と算出された。二次イオン質量分析により測定した塩素含有量は4×1015個/cm3であった。
次に、種結晶である窒化アルミニウム単結晶基板を機械研磨により除去し、HVPE法で成長した窒化アルミニウム単結晶層のみからなる窒化アルミニウム単結晶自立基板とした。得られた窒化アルミニウム単結晶自立基板の厚さは105μmであり、白色干渉顕微鏡により確認した機械研磨面の二乗平均粗さ(RMS)の値は1.1nmであった。この自立基板の直線光透過率を評価したところ、波長265nmにおいて67.2%、波長220nmにおいて59%であり、波長265nm及び波長220nmにおける補正吸収係数α265及びα220はそれぞれ6.8cm−1及び7.4cm−1であった。
実施例3
実施例1と同様の装置を使用し、窒化アルミニウム単結晶基板上に窒化アルミニウム単結晶層を成長した。III族原料ガス供給ノズル24のさらに上流部に配置した高純度アルミニウム上にキャリアガスとともに塩化水素ガスを9sccm供給することにより塩化アルミニウムガスを発生させた。発生した塩化アルミニウムガスに、III族追加ハロゲン系ガス合流部27を介して塩化水素ガスを7sccm供給し、水素窒素混合キャリアガス1784sccmを含めた合計1800sccmの混合ガスとして、該混合ガスをIII族原料供給ノズル吹き出し口25から反応域10に供給した。窒素源ガス供給ノズル32からは、アンモニアガス20sccm、塩化水素ガス20sccm(RV−Hは1.0)、水素キャリアガス160sccm(合計で200sccm)を反応域10へ供給した。基板12の温度を1450℃とし、16時間、窒化アルミニウム単結晶を成長した。以上の条件以外は実施例1と同様の条件とした。
得られた窒化アルミニウム単結晶層に破断やクラックはなく、窒化アルミニウム単結晶層の厚さは336μmであった。窒化アルミニウム単結晶層の粒子付着を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察したところ、付着粒子の数密度は、3個/cm2であった。また、(002)面のX線ロッキングカーブ半値幅は15秒であった。
次に、実施例1と同様に、基板外周形状を1辺が9.8mmの六角形(面積にして2.5cm2)に切断し、窒化アルミニウム単結晶層側の表面を機械研磨とCMPを行った。このときの研磨量は138μmであり、残存する窒化アルミニウム単結晶層は198μmであった。原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察により測定した二乗平均粗さ(RMS)は0.11nmであり、CMP研磨した窒化アルミニウム単結晶層全面の(114)面の反射X線トポグラフ像において観察された明点は13個であり、基板面積2.5cm2で除することにより明点密度(明点の数密度)は5.2個/cm2と算出された。二次イオン質量分析により測定した塩素含有量は7×1014個/cm3であった。
次に、種結晶である窒化アルミニウム単結晶基板を機械研磨により除去し、HVPE法で成長した窒化アルミニウム単結晶層のみからなる窒化アルミニウム単結晶自立基板を得た。得られた窒化アルミニウム単結晶自立基板の厚さは120μmであり、白色干渉顕微鏡により確認した機械研磨面のした二乗平均粗さ(RMS)の値は1.0nmであった。この自立基板の直線透過率を評価したところ、波長265nmにおいて70.1%、波長220nmにおいて60%であり、波長265nm及び波長220nmにおける補正吸収係数α265及びα220は、それぞれ2.6cm−1及び5.2cm−1であった。
実施例4
窒素源ガス供給ノズル32からアンモニアガス20sccmと塩化水素ガス50sccm(RV−Hは2.5)、及び水素キャリアガス130sccm(合計で200sccm)を反応域10へ供給した。基板12の温度を1450℃とし、16時間、窒化アルミニウム単結晶を成長した。以上の条件以外は実施例1と同様の条件とした。
得られた窒化アルミニウム単結晶層に破断やクラックはなく、窒化アルミニウム単結晶層の厚さは272μmであった。窒化アルミニウム単結晶層の粒子付着を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察したところ、付着粒子の数密度は、2個/cm2であった。また、(002)面のX線ロッキングカーブ半値幅は15秒であった。
次に、実施例1と同様に、基板外周形状を1辺が9.8mmの六角形(面積にして2.5cm2)に切断し、窒化アルミニウム単結晶層側の表面を機械研磨とCMPを施した。このときの研磨量は95μmであり、残存する窒化アルミニウム単結晶層の厚さは177μmであった。原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察により測定した二乗平均粗さ(RMS)は0.10nmであった。CMP研磨した窒化アルミニウム単結晶層全面の(114)面の反射X線トポグラフ像において観察された明点は13個であり、基板面積2.5cm2で除することにより明点密度(明点の数密度)は4.1個/cm2と算出された。二次イオン質量分析により測定した塩素含有量は8×1014個/cm3であった。
次に、種結晶である窒化アルミニウム単結晶基板を機械研磨により除去し、HVPE法で成長した窒化アルミニウム単結晶層のみからなる窒化アルミニウム単結晶自立基板とした。得られた窒化アルミニウム単結晶自立基板の厚さは100μmであり、白色干渉顕微鏡により確認した機械研磨面のした二乗平均粗さ(RMS)の値は1.0nmであった。この自立基板の直線透過率を評価したところ、波長265nmにおいて69.8%、波長220nmにおいて61%であり、波長265nm及び波長220nmにおける補正吸収係数α265及びα220は、それぞれ3.5cm−1及び4.7cm−1であった。
比較例1
特許文献5に記載の実施例1に従い、整流隔壁を設けた装置を使用し、V族追加ハロゲン系ガスを供給しないで窒化アルミニウム単結晶を成長した。整流隔壁の形態は本発明の実施例1において用いた整流隔壁と同様であり、III族追加ハロゲン系ガス供給ノズル26、及びIII族追加ハロゲン系ガス合流部27を設けなかった以外は、本明細書に記載の上記実施例1において用いたHVPE装置と同様の構成を有するHVPE装置を用いた。
下地基板として、昇華法により作製いた直径18mm、厚さ500μmの市販の窒化アルミニウム単結晶基板を使用した。III族原料ガス供給ノズル24のさらに上流部に配置した高純度アルミニウム上にキャリアガスとともに塩化水素ガスを10.8sccm供給することにより、塩化アルミニウムガスを発生させた。また、窒素源ガス供給ノズル32からは、アンモニアガス26sccm、水素キャリアガス174sccm(合計で200sccm)を反応域10へ供給し、10時間、窒化アルミニウム単結晶を成長した。以上の条件以外は実施例1と同様の条件とした。
得られた窒化アルミニウム単結晶層に破断やクラックはなく、窒化アルミニウム単結晶層の厚さは320μmであった。窒化アルミニウム単結晶層の粒子付着を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察したところ、付着粒子の数密度は、2個/cm2であった。また、(002)面のX線ロッキングカーブ半値幅は25秒であった。
次に、実施例1と同様の手順で基板から1辺が3mmの四角形(面積にして0.09cm2)に切断し、窒化アルミニウム単結晶層側の表面を機械研磨とCMPを施した。このときの研磨量は115μmであり、残存する窒化アルミニウム単結晶層の厚さは205μmであった。原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察により測定した二乗平均粗さ(RMS)は0.13nmであった。CMP研磨した窒化アルミニウム単結晶層全面の(114)面の反射X線トポグラフ像において観察された明点は6個であり、基板面積0.09cm2で除することにより明点密度(明点の数密度)は67個/cm2と算出された。二次イオン質量分析により測定した塩素含有量は9×1015個/cm3であった。
次に、種結晶である窒化アルミニウム単結晶基板を機械研磨により除去し、HVPE法で成長した窒化アルミニウム単結晶層のみからなる窒化アルミニウム単結晶自立基板を得た。得られた窒化アルミニウム単結晶自立基板の厚さは150μmであり、白色干渉顕微鏡により確認した機械研磨面のした二乗平均粗さ(RMS)の値は1.1nmであった。この自立基板の直線光透過率を評価したところ、波長265nmにおいて72.4%、波長220nmにおいて64.2%であり、波長265nm及び波長220nmにおける補正吸収係数α265及びα220は、それぞれ0cm−1及び0cm−1であった。ここで補正吸収係数が0となるのは、紫外領域に吸収が無い紫外透過性に最も優れた本サンプルを標準試料として反射率R265とR220を設定したためである。
比較例2
窒素源ガス供給ノズルからは、アンモニアガス31sccmと水素キャリアガス169sccm(合計200sccm)とを供給したが、V族追加ハロゲン系ガスを供給しなかった以外は本発明の実施例1と同様の条件で結晶成長を行った。得られた窒化アルミニウム単結晶層に破断やクラックはなく、窒化アルミニウム単結晶層の厚さは429μmであった。窒化アルミニウム単結晶層の粒子付着を、ノマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察したところ、付着粒子の数密度は6個/cm2であった。また、(002)面のX線ロッキングカーブ半値幅は19秒であった。
次に、実施例1と同様に、基板外周形状を1辺が9.8mmの六角形(面積にして2.5cm2)に切断し、窒化アルミニウム単結晶層側の表面を機械研磨とCMPを施した。このときの研磨量は140μmであり、残存する窒化アルミニウム単結晶層の厚さは289μmであった。原子間力顕微鏡の5×5μm2視野観察により測定した二乗平均粗さ(RMS)は0.12nmであった。CMP研磨した窒化アルミニウム単結晶層全面の(114)面の反射X線トポグラフ像において観察された明点は68個であり、基板面積2.5cm2で除することにより明点密度(明点の数密度)は27個/cm2と算出された(図3参照)。二次イオン質量分析により測定した塩素含有量は3×1015個/cm3であった。
次に、種結晶である窒化アルミニウム単結晶基板を機械研磨により除去し、HVPE法で成長した窒化アルミニウム単結晶層のみからなる窒化アルミニウム単結晶自立基板を得た。得られた窒化アルミニウム単結晶自立基板の厚さは202μmであり、白色干渉顕微鏡により確認した機械研磨面のした二乗平均粗さ(RMS)の値は1.1nmであった。この自立基板の直線光透過率を評価したところ、波長265nmにおいて50.7%、波長220nmにおいて41%であり、波長265nm及び波長220nmにおける補正吸収係数α265及びα220は、それぞれ17cm−1及び21cm−1であった。
以上の実施例、比較例の結果を表1にまとめた。