以下、本発明に係る電気機械変換部材を有する液体吐出部材としての液滴吐出ヘッドを、画像形成装置としてのインクジェット記録装置に適用した一実施形態について説明する。
なお、本実施形態においては、インクを吐出する例であるが、吐出する液体は、インクに限るものではなく、吐出されるときに液体となるものであれば特に限定されるものではなく、例えばDNA試料、レジスト、パターン材料なども含まれる。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置の構成を示す透視斜視図である。
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置の機構部の側面図である。
図1及び図2に示すインクジェット記録装置は、装置本体の内部に主走査方向へ移動可能なキャリッジ1を備えている。このキャリッジ1には、液滴吐出ヘッド50及び液滴吐出ヘッド50に対してインクを供給するインクカートリッジ2等が搭載されている。
液滴吐出ヘッド50及びインクカートリッジ2は、図3に示すようには、これらを一体化した構成としてもよい。このように液滴吐出ヘッド50及びインクカートリッジ2が一体となった構成では、液滴吐出ヘッド50のアクチュエータ基板を高精度化、高密度化、および高信頼化することが容易となる。よって、歩留まりや信頼性を向上することができ、低コスト化を図ることができる。
装置本体の下方部には、前方側(図2中左側)から多数枚の記録材30を積載可能な給紙カセット(或いは給紙トレイでもよい)4が抜き差し自在に装着されている。また、記録材30を手差しで給紙するために開かれる手差しトレイ5も有している。給紙カセット4あるいは手差しトレイ5から給送される記録材30は、印字機構部3によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ6に排紙される。なお、記録材30は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックス等の材質の媒体を含むものとする。
印字機構部3は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド7と従ガイドロッド8とでキャリッジ1を主走査方向に摺動自在に保持している。このキャリッジ1には、複数のインク吐出口(ノズル孔)が主走査方向と直交する副走査方向に配列され、液滴吐出方向が下方に向くように、イエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴(液滴)を吐出する液滴吐出ヘッド50が装着されている。また、キャリッジ1には、液滴吐出ヘッド50に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ2を交換可能に装着している。
インクカートリッジ2は、上方に大気と連通する大気口、下方には液滴吐出ヘッド50へインクを供給する供給口が設けられている。内部にはインクが充填された多孔質体を有しており、多孔質体の毛管力により液滴吐出ヘッド50へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。また、液滴吐出ヘッド50としては、色ごとに異なる液滴吐出ヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個の液滴吐出ヘッドでもよい。
キャリッジ1は、後方側(用紙搬送方向下流側)を主ガイドロッド7に摺動自在に嵌装し、前方側(用紙搬送方向上流側)を従ガイドロッド8に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ1を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ9aで回転駆動される駆動プーリ10と従動プーリ11との間にタイミングベルト12を張装している。このタイミングベルト12をキャリッジ1に固定し、主走査モータ9aの正逆回転によりキャリッジ1が往復に走査される。
また、本インクジェット記録装置は、給紙カセット4から記録材30を分離給装する給紙ローラ13及びフリクションパッド14、記録材30を案内するガイド部材15、給紙された記録材30を反転させて搬送する搬送ローラ16なども備えている。更に、この搬送ローラ16の周面に押し付けられる搬送コロ17及び搬送ローラ16からの記録材30の送り出し角度を規定する先端コロ18も有している。搬送ローラ16は副走査モータ9bによってギヤ列を介して回転駆動される。
また、キャリッジ1の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ16から送り出された記録材30を液滴吐出ヘッド50の下方側で案内するため、用紙ガイド部材である印写受け部材19も有している。この印写受け部材19の用紙搬送方向下流側には、記録材30を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ20と拍車21を設け、さらに記録材30を排紙トレイ6に送り出す排紙ローラ23と拍車24と、排紙経路を形成するガイド部材25,26とを配設している。
インクジェット記録装置で画像を記録する際、キャリッジ1を移動させながら、画像信号に応じて液滴吐出ヘッド50を駆動することにより、停止している記録材30にインクを吐出して1行分を記録し、その後、記録材30を所定量搬送後、次の行の記録を行う。記録終了信号または記録材30の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ、記録材30を排紙する。
また、キャリッジ1の移動方向一端側の記録領域を外れた位置には、液滴吐出ヘッド50の吐出不良を回復するための回復装置27を配置している。回復装置27はそれぞれ図示していないキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有している。キャリッジ1は、印字待機中には回復装置27側に移動されてキャッピング手段で液滴吐出ヘッド50をキャッピングしてノズル孔の湿潤状態を保つことによりインクの乾燥による吐出不良を防止する。また、記録途中などに記録と関係しないインクを吐出することにより、すべてのノズル孔のインクの粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
更に、吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段で液滴吐出ヘッド50のノズル孔を密封し、チューブを通して吸引手段でノズル孔からインクとともに気泡等を吸い出す。これにより、ノズル面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され、吐出不良が回復される。また、吸引されたインクは、本体下部に設置された廃インク溜(不図示)に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
次に、液滴吐出ヘッド50の構成について説明する。
図4は、本実施形態の液滴吐出ヘッド50の内部構成を示す部分破断した斜視図である。
図5は、液滴吐出ヘッド50を構成するアクチュエータ基板の上面図である。
図6は、図5中A−A’における液滴吐出ヘッド50の断面図である。
図7は、図5中C−C’における液滴吐出ヘッド50の断面図である。
なお、図5では、説明のため、アクチュエータ基板上に接着される接着対象部材である保持基板200が取り除かれた状態になっている。
本実施形態の液滴吐出ヘッド50は、主に、アクチュエータ基板100と、保持基板200と、ノズル基板300とから構成されている。アクチュエータ基板100は、変位板としての振動板102の素子取付面(図中上面)上に、液体吐出エネルギーを発生させる電気機械変換素子としての圧電素子101を備えている。本実施形態における圧電素子101は、図6に示すように、下部電極である共通電極層101−1と上部電極である個別電極層101−2との間に圧電体層101−3が挟まれた構成となっている。ただし、図8に示すように、下部電極を個別電極層101−2とし、上部電極を共通電極層101−1とした圧電素子であってもよい。
また、アクチュエータ基板100は、振動板102の素子取付面とは反対側の面(図中下面)に隔壁部103を備えている。振動板102と隔壁部103とノズル基板300によって囲まれる空間が加圧液室104となる。また、アクチュエータ基板100により、流体抵抗部105及び共通液室106も形成される。
保持基板200は、インクカートリッジ2からのインクを供給するインク供給口を備えており、アクチュエータ基板100に接着されることにより、共通インク流路202と、アクチュエータ基板100の振動板102が撓んで変位できる空間を形成する凹部203とを形成する。保持基板200は、シリコンエッチング、プラスチック成型品等により形成できる。
ノズル基板300は、個々の加圧液室104に対応した位置にノズル孔301が形成されている。ノズル基板300は、例えばSUSからなる板に対して、パンチ加工、エッチング、シリコンエッチング、ニッケル電気鋳造、樹脂レーザー加工などを施すことにより形成されたものを用いることができる。
本実施形態の液滴吐出ヘッド50は、各加圧液室104内にインクを満たした状態で、制御部(不図示)の制御の下、駆動IC120から駆動電圧信号を各個別電極層101−2に印加する。この駆動電圧信号としては、発振回路により生成した20[V]のパルス電圧を用いることができる。このような電圧パルスを印加することにより、圧電体層101−3は、圧電効果により圧電体層101−3そのものが振動板102と平行方向に縮む。これにより、振動板102が加圧液室104側へ凸になるように撓む結果、加圧液室104内の圧力が急激に上昇し、加圧液室104に連通するノズル孔301からインクが吐出される。
パルス電圧が印加された後は、縮んだ圧電体層101−3が元に戻り、これに伴って撓んだ振動板102も元の位置に戻る。このため、加圧液室104内が共通液室106内に比べて負圧となり、インクカートリッジ2からインク供給口を介して供給されているインクが共通インク流路202、共通液室106から流体抵抗部105を介して加圧液室104へ供給される。これを繰り返すことにより、インクの液滴を連続的に吐出でき、液滴吐出ヘッド50に対向して配置される記録材に画像を形成する。
次に、本実施形態における液滴吐出ヘッド50の製造方法について説明する。
図9〜図11は、本実施形態の液滴吐出ヘッド50の製造工程を説明するため、ノズル孔の並び方向に対して直交する断面を示す断面図である。
アクチュエータ基板100の基材としては、シリコン単結晶基板を用いることが好ましく、通常100〜600μmの厚みを持つことが好ましい。面方位としては、(100)、(110)、(111)と3種類あるが、半導体産業では一般的に(100)、(111)が広く使用されており、本実施形態では、主に(100)の面方位を持つ単結晶基板を使用する。また、加圧液室104を作製する段階では、エッチングを利用してシリコン単結晶基板を加工していくが、この場合のエッチング方法としては、異方性エッチングを用いることが一般的である。異方性エッチングとは、結晶構造の面方位に対してエッチング速度が異なる性質を利用したものである。例えば、KOH等のアルカリ溶液に浸漬させる異方性エッチングでは、(100)面に比べて(111)面は約1/400程度のエッチング速度となる。従って、面方位(100)では約54°の傾斜を持つ構造体が作製できるのに対して、面方位(110)では深い溝をほることができ、より剛性を保ちつつ、配列密度を高くすることができる。そのため、(110)の面方位を持った単結晶基板を使用することも可能である。ただし、この場合、マスク材であるSiO2もエッチングされてしまうので、この点の留意が必要である。
はじめに、図9(a)に示すように、このシリコン単結晶基板上に振動板102となる膜を成膜する。振動板102は、圧電素子101によって発生した力を受けて変形を繰り返すため、これに耐えうる十分な強度を有したものであることが好ましい。材料としては、Si、SiO2、Si3N4をCVD法により作製したものが挙げられる。また、振動板102は、これに接合される個別電極層101−2や圧電体層101−3の線膨張係数に近い材料を選択することが好ましい。特に、本実施形態では、圧電体層101−3としてPZTが使用されることから、その線膨張係数である8×10-6[1/K]に近い線膨張係数として、5×10-6[1/K]〜10×10-6[1/K]の線膨張係数を有した材料が好ましく、さらには7×10-6[1/K]〜9×10-6[1/K]の線膨張係数を有した材料がより好ましい。具体的な材料としては、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化イリジウム、酸化ルテニウム、酸化タンタル、酸化ハフニウム、酸化オスミウム、酸化レニウム、酸化ロジウム、酸化パラジウム及びそれらの化合物等であり、これらをスパッタ法もしくは、Sol−gel法を用いてスピンコーターにて作製することができる。膜厚としては、0.1〜10μmが好ましく、0.5〜3μmがさらに好ましい。この範囲より小さいと、加圧液室104の加工が難しくなり、この範囲より大きいと振動板102が変形変位しにくくなり、インク滴の吐出が不安定になりやすい。
次に、このようにして成膜した振動板102上には、共通電極層101−1が成膜される。共通電極層101−1は、金属膜単層もしくは金属膜と酸化物膜とからなる複数層であることが好ましく、いずれの場合でも、振動板102と金属膜との間に密着層を入れて剥がれ等を抑制することが好ましい。
密着層としては、Tiをスパッタ成膜後、RTA(rapid thermal annealing)装置を用いて、650〜800℃、1〜30分、O2雰囲気でチタン膜を熱酸化し、チタン膜を酸化チタン膜にする。酸化チタン膜を作成するには反応性スパッタでもよいが、チタン膜の高温による熱酸化法が望ましい。反応性スパッタによる作製では、シリコン基板を高温で加熱する必要があるため、特別なスパッタチャンバ構成を必要とする。さらに、一般の炉による酸化よりも、RTA装置による酸化の方がチタン酸化膜の結晶性が良好になる。なぜなら、通常の加熱炉による酸化によれば、酸化しやすいチタン膜は、低温においてはいくつもの結晶構造を作るため、一旦、それを壊す必要が生じるためである。したがって、昇温速度の速いRTAによる酸化の方が良好な結晶を形成するために有利になる。またTi以外の材料としては、Ta、Ir、Ru等の材料でも好ましい。膜厚としては、10nm〜50nmが好ましく、15nm〜30nmがさらに好ましい。この範囲以下の場合においては、密着性に懸念があるのと、この範囲以上になってくるとその上で作製する電極膜の結晶の質に影響が出てくる。
また、共通電極層101−1を作成するときの金属膜としては、従来から高い耐熱性と低い反応性を有する白金が用いられているが、鉛に対しては十分なバリア性を持つとはいえない場合もあり、イリジウムや白金−ロジウムなどの白金族元素や、これらの合金膜を用いてもよい。また、白金を使用する場合には、下地(特にSiO2)との密着性が悪いため、上述した密着層を先に積層しておくことが好ましい。作製方法としては、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜が一般的である。膜厚としては、80〜200nmが好ましく、100〜150nmがさらに好ましい。この範囲より薄い場合においては、共通電極として十分な電流を供給することができなくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する。また、この範囲より厚い場合には、白金族元素の高価な材料を使用する場合においては、コストアップとなる点、白金を材料とした場合においては膜厚を厚くしていったときに表面粗さが大きくなり、その上に作製する酸化物電極膜やPZTの表面粗さや結晶配向性に影響を及ぼして、インク吐出に十分な変位が得られない点が、不具合として発生する。
共通電極層101−1を作成するときの金属酸化膜としては、材料として、SrRuO3を用いることが好ましい。これ以外でも、SrxA(1−x)RuyB(1−y)で記述されるような材料も挙げられる(A=Ba,Ca、B=Co,Ni、x,y=0〜0.5)。成膜方法はスパッタ法を採用できる。スパッタ条件によってSrRuO3薄膜の膜質が変わるが、特に結晶配向性を重視し、金属膜で用いるPt(111)にならってSrRuO3膜についても(111)で配向させるために、成膜温度については500℃以上での基板加熱を行い、成膜することが好ましい。成膜条件については、室温成膜でその後、RTA処理にて結晶化温度(650℃)で熱酸化している。この場合、SrRuO3薄膜としては、十分結晶化され、電極としての比抵抗としても十分な値が得られるが、膜の結晶配向性は(110)が優先配向しやすくなり、その上に成膜されるPZTについても(110)配向しやすくなる。
Pt(111)上に作製されるSrRuO3薄膜の結晶性については、PtとSrRuO3で格子定数が近いため、通常の2θ/θ測定では、SrRuO3(111)とPt(111)の2θ位置が重なってしまい、判別が難しい。Ptについては、消滅則の関係から、Psi方向を35°傾けた2θが約32°付近の位置には回折線が打ち消し合い、回折強度が見られない。そのため、Psi方向を約35°傾けて、2θが約32°付近のピーク強度で判断することで、SrRuO3が(111)に優先配向しているかを確認することができる。2θ=32°に固定してPsiを振ったとき、Psi=0°では、SrRuO3(110)ではほとんど回折強度が見られず、Psi=35°付近において、回折強度が見られることから、本実施形態の成膜条件にて作製したものについては、SrRuO3が(111)で配向していることが確認された。また、このように作製されたSrRuO3膜については、Psi=0°のときにSrRuO3(110)の回折強度が見られる。
圧電素子101を連続変位させたときに、一定駆動後の変位量が、初期変位量に比べてどのくらい劣化したかを見積もったところ、PZTの配向性が非常に影響しており、(110)では変位劣化抑制において不十分である。さらに、SrRuO3膜の表面粗さを見たとき、成膜温度が影響し、室温から300℃では表面粗さが非常に小さく2nm以下になる。この場合、SrRuO3膜の表面粗さとしては非常にフラットにはなっているが、結晶性が十分でなく、その後成膜した圧電素子101の初期変位量や連続駆動後の変位量劣化については十分な特性が得られない。表面粗さとしては、4nm〜15nmになっていることが好ましく、6nm〜10nmがさらに好ましい。この範囲を超えると、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。したがって、良好な結晶性や表面粗さを得るためには、成膜温度としては500℃〜700℃、好ましくは520℃〜600℃の範囲で成膜を実施するのがよい。なお、表面粗さは、原子間力顕微鏡(AFM)により測定される表面粗さ(平均粗さ)を指標としたものである。
SrRuO3膜の成膜後のSrとRuの組成比については、Sr/Ruが0.82以上1.22以下であることが好ましい。この範囲から外れると比抵抗が大きくなり、共通電極層101−1として十分な導電性が得られなくなる。また、SrRuO3膜の膜厚は、40nm〜150nmが好ましく、50nm〜80nmがさらに好ましい。この膜厚範囲よりも薄いと、初期変位量や連続駆動後の変位量劣化については十分な特性が得られない点、PZTのオーバーエッチングを抑制するためのストップエッチング層としての機能が得られにくくなる点で不具合が出る。一方、この膜厚範囲よりも厚いと、その後成膜したPZTの絶縁耐圧が非常に悪く、リークしやすくなる。また、SrRuO3膜の比抵抗としては、5×10−3Ω・cm以下になっていることが好ましく、1×10−3Ω・cm以下になっていることが更に好ましい。この範囲よりも大きくなると、共通電極層101−1として、これに接触する電極との界面で接触抵抗が大きくなり、共通電極層101−1として十分な電流を供給することができず、インク吐出をする際に不具合が発生する。
次に、図9(b)に示すように、共通電極層101−1上に圧電体層101−3を形成する。圧電体層101−3の材料として、本実施形態ではPZTを用いる。PZTとは、ジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸(PbTiO3)の固溶体で、その比率により特性が異なる。一般的に優れた圧電特性を示す組成はPbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53,Ti0.47)O3と示される。PZT以外の複合酸化物としては、チタン酸バリウムなどが挙げられ、この場合はバリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することも可能である。これら材料は、一般式ABO3で記述され、A=Pb,Ba,Sr、B=Ti,Zr,Sn,Ni,Zn,Mg,Nbを主成分とする複合酸化物が該当し、その具体的な記述は、例えば、(Pb1−x,Ba)(Zr,Ti)O3、(Pb1−x,Sr)(Zr,Ti)O3となる。これらは、AサイトのPbを部分的にBaやSrで置換した場合を意味する。このような置換は、2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
圧電体層101−3の作製方法としては、スパッタ法もしくはSol−gel法を用いて、スピンコーターにて作製することができる。その場合は、パターニング化が必要となるので、フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。PZTをSol−gel法により作製した場合、酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させて均一溶液を得ることで、PZT前駆体溶液が作製できる。金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に加水分解してしまうので、前駆体溶液に安定剤として、アセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミンなどの安定化剤を適量、添加しても良い。
下地基板全面にPZT膜を得る場合、スピンコートなどの溶液塗布法により塗膜を形成し、溶媒乾燥、熱分解、結晶化の各々の熱処理を施すことで得られる。塗膜から結晶化膜への変態には体積収縮が伴うので、クラックフリーな膜を得るには一度の工程で100nm以下の膜厚が得られるように前駆体濃度の調整が必要になる。圧電体層101−3の層厚としては、0.5〜5μmが好ましく、さらに好ましくは1μm〜2μmとなる。この範囲より小さいと、十分な変位を発生することができなくなり、この範囲より大きいと、何層も積層させていくため、工程数が多くなりプロセス時間が長くなる。
また、圧電体層101−3の比誘電率としては、600以上2000以下になっていることが好ましく、さらに1200以上1600以下になっていることが好ましい。この範囲よりも小さいと、十分な変位特性が得られにくく、またこの範囲より大きくなると、分極処理が十分行われず、連続駆動後の変位劣化により十分な特性が得られにくい。
圧電体層101−3を成膜した後は、次に、個別電極層101−2を成膜する。個別電極層101−2も、共通電極層101−1と同様、金属膜単層もしくは金属膜と酸化物膜とからなる複数層であることが好ましい。酸化物膜としては、共通電極層101−1で説明した酸化物膜を用いることができる。このとき、SrRuO3膜の膜厚としては、20nm〜80nmが好ましく、40nm〜60nmがさらに好ましい。また、金属膜も、共通電極層101−1で説明した金属膜を用いることができる。このとき、膜厚としては、30〜200nmが好ましく、50〜120nmがさらに好ましい。
次に、図9(c)に示すように、共通電極層101−1及び圧電素子101と、後に形成する引き出し配線108との間を絶縁するために、層間絶縁膜110を成膜する。また、層間絶縁膜110は、成膜、エッチングの工程による圧電素子101へのダメージを防ぐとともに、大気中の水分が透過しづらい材料を選定する必要があるため、緻密な無機材料とする必要がある。有機材料では、十分な保護性能を得るために膜厚を厚くする必要があるため、適さない。層間絶縁膜110を厚い膜とした場合、振動板102の変形を阻害してしまうため、吐出性能の低いインクジェットヘッドなってしまうからである。
層間絶縁膜110について、薄膜で高い保護性能を得るには、酸化物、窒化物、炭化物を用いるのが好ましいが、層間絶縁膜110の下地となる電極材料、圧電体材料、振動板材料との密着性が高い材料を選定することが必要になる。また、成膜法も、圧電素子101を損傷しない成膜方法を選定する必要がある。すなわち、反応性ガスをプラズマ化して基板上に堆積するプラズマCVD法や、プラズマをターゲット材に衝突させて飛ばすことで成膜するスパッタリング法は好ましくない。好ましい成膜方法としては、蒸着法、ALD法などが例示できるが、使用できる材料の選択肢が広いALD法が好ましい。好ましい材料としては、Al2O3、ZrO2、Y2O3、Ta2O3、TiO2などのセラミクス材料に用いられる酸化膜が例として挙げられる。特にALD法を用いることで、膜密度の非常に高い薄膜を作製し、プロセス中でのダメージを抑制することができる。
層間絶縁膜110の膜厚は、圧電素子101の保護性能を確保できる十分な薄膜とする必要があると同時に、振動板102の変形を阻害しないように可能な限り薄くする必要がある。そのため、層間絶縁膜110の膜厚の好ましい範囲は、20nm〜100nmである。100nmより厚い場合は、振動板102の変形量が低下するため、吐出効率の低いインクジェットヘッドとなる。一方、20nmより薄い場合は、圧電素子101の保護層としての機能が不足してしまうため、圧電素子101の性能が低下してしまう。
また、層間絶縁膜110を2層構成としてもよい。この場合は、図7に示すように、2層目の絶縁保護膜110bを厚くするとともに、振動板102の変形を阻害しないように、圧電素子101に重なる付近では2層目の絶縁保護膜を除去して1層目の絶縁保護膜110aのみとする構成としてもよい。このとき、2層目の絶縁保護膜110bとしては、任意の酸化物、窒化物、炭化物またはこれらの複合化合物を用いることができるが、半導体デバイスで一般的に用いられるSiO2を用いることができる。成膜は、任意の手法を用いることができ、CVD法、スパッタリング法が例示でき、段差被覆を考慮すると、等方的に成膜できるCVD法を用いることが好ましい。層間絶縁膜110の膜厚は、共通電極層101−1と個別電極層101−2の間に印加される電圧で絶縁破壊されない程度の膜厚とする必要がある。すなわち、絶縁保護膜に印加される電界強度を、絶縁破壊しない範囲に設定する必要がある。さらには、層間絶縁膜110の下地の表面性やピンホール等を考慮すると、層間絶縁膜110の膜厚は200nm以上であるのが好ましく、さらに好ましくは500nm以上である。
層間絶縁膜110を成膜した後、個別電極層101−2と引き出し配線108とを接続するための接続孔111をリソエッチ法で形成する。また、共通電極層101−1を別の引き出し配線と接続する場合には、同様に接続孔を層間絶縁膜110に形成する。その後、図9(d)に示すように、引き出し配線108を形成する。
引き出し配線108の材料としては、Ag合金、Cu、Al、Au、Pt、Irのいずれかからなる金属電極材料であることが好ましい。作製方法としては、スパッタ法、スピンコート法を用いて作製し、その後フォトリソエッチング等により所望のパターンを得る。引き出し配線108の膜厚は、0.1〜20μmが好ましく、0.2〜10μmがさらに好ましい。この範囲より小さいと、抵抗が大きくなって個別電極層101−2に十分な電流を流すことができなくなり、ヘッド吐出が不安定になる。また、この範囲より大きいと、プロセス時間が長くなる。また、接続孔111における個別電極層101−2との接触抵抗は、1Ω以下が好ましく、さらに好ましくは0.5Ω以下である。また、接続孔における共通電極層101−1との接触抵抗は、10Ω以下が好ましく、さらに好ましくは5Ω以下である。これらの範囲を超えると、十分な電流を供給することができなくなり、インク吐出をする際に不具合が発生する。
また、引き出し配線108は、後述するように、保持基板200の接着領域内にも介在することになる。そのため、本実施形態では、保持基板200の接着領域における高さ均一性を確保するために、図7に示すように、圧電素子101を挟んで引き出し配線108とは反対側(共通インク流路202側)で保持基板200が接着される接着領域109においても、引き出し配線108側の接着領域と同一の層構成を残し、保持基板200の接着の信頼性を高めている。
次に、図10(a)に示すように、引き出し配線108の保護層として機能するパッシベーション膜112を成膜する。このようなパッシベーション膜112を設けることで、引き出し配線108の材料として、安価なAlもしくはAlを主成分とする合金材料を用いることができる。その結果、低コストかつ信頼性の高いインクジェットヘッドとすることができる。パッシベーション膜112の材料としては、任意の無機材料、有機材料を使用することができるが、透湿性の低い材料とする必要がある。無機材料としては、酸化物、窒化物、炭化物等が例示でき、有機材料としては、ポリイミド、アクリル樹脂、ウレタン樹脂等が例示できる。ただし、有機材料の場合には厚膜とすることが必要となるため、後述のパターニングには適さない。そのため、薄膜で配線保護機能を発揮できる点で、無機材料とすることが好ましい。特に、Alの引き出し配線108に対してSi3N4のパッシベーション膜112を用いることが、半導体デバイスで実績のある技術であり、好適である。また、パッシベーション膜112の膜厚は200nm以上とすることが好ましく、さらに好ましくは500nm以上である。膜厚が薄い場合は十分なパッシベーション機能を発揮できないため、引き出し配線108の腐食による断線が発生し、インクジェットの信頼性を低下させてしまう。
また、パッシベーション膜112は、振動板102の変形を阻害しないように、圧電素子101及びその周囲に重なる部分を除去するのが好ましい。これにより、高効率かつ高信頼性のインクジェットヘッドとすることが可能になる。具体的には、図10(b)に示すように、フォトリソグラフィ法やドライエッチング法を用いて、駆動IC120に接続される個別電極パッド107となる引き出し配線108の端部と、圧電素子101の上面の一部と、共通インク流路202との箇所におけるパッシベーション膜112及び層間絶縁膜110を除去する。そして、図10(c)に示すように、リソエッチ法により、共通インク流路202と共通液室106とを連通させる箇所の振動板102を除去する。
引き出し配線108の端部には、駆動IC120を接続するためのバンプ電極からなる個別電極パッド107を形成する。この個別電極パッド107の形成方法としては、電解めっき法、無電解メッキ法及びスタッドバンプ法などがある。個別電極パッド107の材料としては、Au、Ag、Cu、Ni、はんだなどがある。駆動IC120を個別電極パッド107に接続する方法としては、例えば、FPC(Flexible Printed Circuits)を用いたACF(Anisotropic Conductive Film)接合、ハンダ接合、ワイヤボンディング接合、駆動IC120の出力端子と直接接合するフリップチップ接合などを選択的に用いることができる。ただし、FPCを用いると、FPCの部品コストがかかるため、ワイヤボンディング接合やフリップチップ接合の方がコスト的に有利である。また、ワイヤボンディング接合は、フリップチップ接合と比較してタクトが遅いため、生産性が悪く、狭ピッチ化にも不利である。そのため、本実施形態においては、フリップチップ接合により駆動IC120を個別電極パッド107に接続し、駆動IC120をフリップチップ実装している。
次に、図11(a)に示すように、振動板変位領域113に対応した位置に凹部203を形成した保持基板200の脚部200aと、アクチュエータ基板100上の接着領域109とを、接着剤114で接着する。アクチュエータ基板100は、加圧液室104等の形成のために20〜100μm程度の厚みにすると、十分な剛性を確保することができないので、保持基板200を接着して剛性を確保している。そのため、保持基板200は、樹脂などの低剛性材料ではなく、シリコンなどの高剛性材料であるのが好ましい。また、アクチュエータ基板100の反りを防止するために、アクチュエータ基板100に対して熱膨張係数の近い材料を選定する必要がある。そのため、ガラス、シリコンやSiO2、ZrO2、Al2O3等のセラミクス材料とすることが好ましい。
また、保持基板200の圧電素子101に対向する振動板変位領域113に対応した位置には、凹部203が形成されている。この凹部203により、圧電素子101が変形するための空間が確保される。保持基板200の各凹部203は、図12に示すように、1つの圧電素子101ごとに区画されている。これにより、板厚の薄いアクチュエータ基板100でも十分な剛性を確保することができるとともに、各圧電素子101を駆動した際に隣接する加圧液室104間の相互干渉を低減することが可能となる。また、図12に示すように、保持基板200の凹部203については、圧電素子101ごとに区画されるため、圧電素子101の高密度化のためには高度な加工精度が要求され、例えば300dpiの画像記録が可能な液滴吐出ヘッドを実現する場合には、保持基板200の凹部203を区画する隔壁の幅は5〜20μmとするのが好ましい。
次に、図11(b)に示すように、リソ法により、加圧液室104、共通液室106、流体抵抗部105以外の隔壁部103をレジストで被覆した後、アルカリ溶液(KOH溶液あるいはTMHA溶液)で異方性ウェットエッチングを行い、加圧液室104、共通液室106、流体抵抗部105を形成する。アルカリ溶液による異方エッチング以外にも、例えばICPエッチャーを用いたドライエッチングで、加圧液室104、共通液室106、流体抵抗部105を形成してもよい。その後、図11(c)に示すように、各加圧液室104に対応した位置にノズル孔301が開口したノズル基板300を接合する。
なお、以上の説明は、液滴吐出ヘッド50の製造方法の一例であり、これに限られない。
次に、保持基板200をアクチュエータ基板100に接着する接着領域の構成について説明する。
駆動IC120と引き出し配線108の端部に形成されている個別電極パッド107との接続部は、曲げや衝撃などの外力が加わると、駆動IC120と個別電極パッド107との接続が外れやすい。また、熱応力により、駆動IC120と個別電極パッド107との接続が外れるおそれもある。また、温度や湿度変化により、駆動IC120と個別電極パッド107との接続部に水分が付着して、接続部が腐食するおそれもある。そのため、駆動IC120と個別電極パッド107との接続部は、液状硬化性樹脂(アンダーフィル)等の封止剤で封止する必要がある。
本実施形態において、保持基板200には、図12に示すように、駆動IC120を収容するためのIC収容部201が形成されている。アンダーフィル130は、図7に示すように、保持基板200のIC収容部201内に入れられ、駆動IC120と個別電極パッド107との接続部がアンダーフィル130によって覆われて封止される。
アンダーフィル130は液体状であるため、IC収容部201の下部が密閉状態でないと、IC収容部201からアンダーフィル130が流出することがある。本実施形態では、図7に示すように、IC収容部201の下部において、保持基板200の脚部200aとアクチュエータ基板100とが接着剤114で接着される接着部が存在する。そのため、この接着部において接着剤114が不足していると、接着部に隙間が生じ、その隙間からIC収容部201内のアンダーフィル130が流出する場合がある。この場合、流出したアンダーフィル130は、圧電素子101及びその周囲の振動板変位領域113へ達することがある。ここでいう振動板変位領域113は、圧電素子101の伸縮によって振動板102が撓む(変位する)領域であり、図11(b)又は図11(c)に示すように、加圧液室104の壁面を構成する振動板102の部分に相当する。この振動板変位領域113までアンダーフィル130が流出すると、の剛性が変化し、圧電素子101の伸縮によって振動板102の撓む量(変位量)が変わってくる。その結果、振動板102を所望のとおり撓ませる(変位させる)ことができず、吐出動作不良を引き起こすおそれがある。
特に、本実施形態における接着部は、図13(a)及び(b)に示すように、保持基板200の脚部200aが接着されるアクチュエータ基板100上の接着領域に、各圧電素子101と駆動IC120とを接続する複数の引き出し配線108が存在する。そのため、接着部では、この引き出し配線108の厚み(基板面からの引き出し配線108の高さ)によって、保持基板200の脚部200aにおける接着面と基板面との間が離間した状態になる。一般に、接着剤114の付着量には多少のムラが生じるので、接着剤114が全体的に不足していると、図13(a)に示すように、接着剤114の付着量が相対的に少ない部分で、脚部200aの接着面と基板面との離間スペースに接着剤が充填されず、IC収容部201からアンダーフィルが流出可能な隙間ができてしまう。この場合、図14の矢印で示すように、引き出し配線108間にける離間スペースを通って、アンダーフィルが、圧電素子101の配置されている振動板変位領域113へ流入する。
一方、図13(b)に示すように、接着剤114の付着量が相対的に少ない部分でも脚部200aの接着面と基板面との離間スペースに接着剤114が充填されるように多くの接着剤114を使用すれば、IC収容部201からのアンダーフィルの流出を防ぐことができる。しかしながら、この場合、接着剤114の付着量が相対的に多い部分では、接着剤114の量が過剰となり、アンダーフィル130の代わりに、接着剤114が振動板変位領域113へ流入して吐出動作不良を引き起こすおそれがある。
そこで、本実施形態では、図5に示すように、保持基板200の脚部200aが接着されるアクチュエータ基板100上の接着領域における引き出し配線108の間に、配線間構造体131を設けた。このような配線間構造体131が接着領域内の引き出し配線108間に存在すると、この配線間構造体131が存在しない従来構成よりも、保持基板200の脚部200aの接着面と基板面との離間スペースが減る。これにより、接着剤114の付着量ムラにより接着剤付着量が相対的に多くなる部分でも接着剤114が振動板変位領域113側へ流入しない程度の少なめの接着剤114を使用しても、接着剤付着量が相対的に少ない部分の離間スペースを接着剤114で充填することができるようになる。したがって、接着剤114及びアンダーフィル130の両方について、振動板変位領域113側への流入を安定して抑制でき、接着剤114やアンダーフィル130が振動板変位領域113側へ流入することによって生じ得る吐出動作不良を安定して抑制することができる。
なお、保持基板200の脚部200aの接着面と基板面との離間スペースを減らす方法としては、引き出し配線108間の距離を短くする方法も考えられる。しかしながら、この方法では、引き出し配線108間の電流リークなど、配線間の電気的関係性(抵抗成分、容量成分、誘導成分など)の問題が顕著なるので、配線間の距離を短くするにも限度があり、配線間構造体131を用いずに、配線間の離間スペースを十分に減らすことは困難である。
また、本実施形態において、配線間構造体131と引き出し配線108との間の距離が近すぎると、両者間の電気的関係性が問題となり得る。しかしながら、配線間構造体131は、引き出し配線108間の離間スペースを減らす機能さえあればよいので、その機能に特化した配線間構造体131、すなわち、引き出し配線108との間の電気的関係性の影響が少ない材料、構成の配線間構造体131を用いることができる。配線間構造体131は、実質的に、配線とは電気的に独立したものであるのが好ましく、例えば絶縁性材料で形成するのが好ましいが、導電性材料であっても引き出し配線108との間の電気的関係性の影響が少なければ問題ない。
〔実施例1〕
以下、上述した実施形態のアクチュエータ基板100及び保持基板200からなる電気機械変換部材についての一実施例(以下、本実施例を「実施例1」という。)を説明する。
アクチュエータ基板100に関しては、6インチのシリコンウェハ上に、振動板102となる熱酸化膜(膜厚1μm)を形成した後、共通電極層101−1を形成する(図9(a))。共通電極層101−1の形成では、まず、密着層として、チタン膜(膜厚30nm)をスパッタ装置にて成膜した後にRTAを用いて750℃にて熱酸化し、引き続き、金属膜として白金膜(膜厚100nm)、酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚60nm)をスパッタ成膜した。スパッタ成膜時の基板加熱温度は550℃とした。
次に、圧電体層101−3として、Pb:Zr:Ti=114:53:47に調整された溶液(PZT前駆体溶液)を準備し、スピンコート法により圧電体膜を成膜して形成した。具体的なPZT前駆体溶液は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、ノルマルプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水は、メトキシエタノールに溶解後に脱水した。化学量論組成に対して鉛量は過剰にしてある。これは、熱処理中のいわゆる鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。イソプロポキシドチタン、ノルマルポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、前記酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することで、PZT前駆体溶液を合成した。このPZT前駆体溶液のPZT濃度は、0.5モル/Lとした。このPZT前駆体溶液を用い、スピンコートにより成膜し、成膜後、120℃で乾燥した後、500℃で熱分解を行った。3層目の熱分解処理後、結晶化熱処理(温度750℃)をRTA(急速熱処理)にて行った。このときの膜厚は240nmであった。この工程を計8回(24層)実施し、最終的に、約2μmの圧電体層101−3を得た。
次に、個別電極層101−2を形成する。個別電極層101−2の形成では、まず、酸化物膜としてSrRuO3膜(膜厚40nm)、金属膜としてPt膜(膜厚125nm)をスパッタ成膜した。その後、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィ法でレジストパターンを形成した後、ICPエッチング装置(サムコ社製)を用いてPt膜、酸化物膜をエッチングした後、セミツール社製のレジスト剥離装置にて、アミン系の剥離液を用いて30分レジスト剥離処理、およびキャノン社製のアッシャーにて3分のアッシング処理を行い、個別電極層101−2のパターニングを行った(図9(b))。
また、同様にフォトリソグラフィ法でレジストパターンを形成した後、圧電体層101−3をエッチングし、レジスト剥離処理、アッシング処理を行い、圧電体層101−3及び配線間構造体131をパターニングした(図9(b))。すなわち、本実施例1において、配線間構造体131は、圧電体層101−3と同じ材料で形成される。
本実施例1においては、300個の圧電素子101からなる圧電素子列を2列セットで1チップとしており、図15に示すように、1つのシリコンウェハから64個のチップが作製される。
また、図16に示すように、圧電素子101の配列ピッチ(圧電素子101の中心間距離)は85μmとし、圧電素子列の列方向における圧電素子101の長さ(圧電素子101の短手方向長さ)は40μmであり、配線間構造体131は70μm×70μmの正方形の角を丸めた形状である。
次に、フォトリソグラフィ法で、共通電極層101−1のパターンを形成した後(図9(b))、レジスト剥離処理、アッシング処理を行い、共通電極層101−1をパターニングした後、2層からなる層間絶縁膜110を形成する(図9(c))。層間絶縁膜110の形成では、まず、ALD工法を用いてAl2O3膜を50nmで成膜した後、CVD法を用いてSiO2膜を1μmで成膜した。Al2O3膜は、原材料のAlであるTMA(シグマアルドリッチ社)とオゾンジェネレーターによって発生させたO3とを交互に積層させることで、成膜を進めた。層間絶縁膜110の成膜後、エッチングにより、個別電極層101−2と引き出し配線108とを接続するための接続孔111を形成した(図9(c))。
次に、引き出し配線108と共通電極用の配線として、Alをスパッタ成膜し、エッチングよりパターニングした(図9(d))。本実施例1において、個別電極用の引き出し配線108は、図17に示すように、接続孔111に位置する75μmの正方形状配線部から、8μm幅の配線が延び、その端部に個別電極パッド107となる20μmの正方形状配線部が形成された構成となっている。配線間構造体131と引き出し配線108との間隔は、3.5μmになっている。
本実施例1では、上述したように、圧電体層101−3と同じ材料で配線間構造体131を形成し、圧電体層101−3の形成時に配線間構造体131も一緒に形成しているが、例えば、引き出し配線108と同じ材料で配線間構造体131を形成し、引き出し配線108の形成時に配線間構造体131も一緒に形成するようにしてもよい。
次に、パッシベーション膜112を形成する(図10(a))。パッシベーション膜112の形成では、Si3N4をプラズマCVD法により500nmで成膜し、個別電極パッド107を形成する箇所等をエッチングした(図10(b))。次に、共通インク流路202となる振動板102の部分をドライエッチングにより除去した(図10(c))。その後、引き出し配線108や共通電極用の配線上に駆動IC等との接続のための個別電極パッド107等を、Auからなるスタッドバンプ121で形成し、図18に示すように、保持基板200が接着されるアクチュエータ基板100を形成した。
次に、保持基板200の作成について説明する。
まず、ウェハを厚さ400μmに研磨し、保持基板200のアクチュエータ基板100側に酸化膜を形成した。次に、凹部203、IC収容部201、共通インク流路202となる箇所の酸化膜を、フォトリソパターニングにより除去した。その後、パターニングされた酸化膜上にレジストを形成し、IC収容部201及び共通インク流路202などの保持基板200を貫通する貫通孔を形成するためのレジストをフォトリソパターニングした。そして、図12に示すように、ICPエッチングでIC収容部201や共通インク流路202等の貫通孔を形成した。
続いて、保持基板200のアクチュエータ基板100側のレジストのみを除去し、はじめにパターニングした酸化膜パターンをマスクとして、アクチュエータ基板100側をICPエッチングでハーフエッチングすることで、凹部203を形成した。最後に、酸化膜を除去することで、IC収容部201、共通インク流路202、凹部203が形成された保持基板200を形成した。
このようにして形成された保持基板200の接着面(脚部200aの面)にエポキシ系接着剤114をフレキソ印刷機により塗布したものを、上述したアクチュエータ基板100上の接着領域に当てた後、その接着剤114を硬化させることで、保持基板200をアクチュエータ基板100に接着した。その後、駆動IC120をアクチュエータ基板100の個別電極パッド107上にフリップチップ実装し、IC収容部201と駆動IC120の隙間からIC収容部201内にアンダーフィル130を注入し、硬化させた。
〔実施例2〕
次に、上述した実施形態のアクチュエータ基板100及び保持基板200からなる電気機械変換部材についての他の実施例(以下、本実施例を「実施例2」という。)を説明する。
本実施例2は、図19及び図20に示すように、配線間構造体131のサイズを65μm×65μmの正方形の角を丸めた形状であり、配線間構造体131と引き出し配線108との間隔が6.0μmである点を除き、前記実施例1と同様の電気機械変換部材を形成した。
〔比較例〕
また、後述する効果確認試験のため、比較例とする電気機械変換部材も形成した。
比較例では、図21及び図22に示すように、配線間構造体131を設けない点を除き、前記実施例1と同様の電気機械変換部材を形成した。
〔効果確認試験〕
本実施例1及び2並びに比較例で形成した電機機械変換部材を用い、IR顕微鏡を用いて、保持基板200側からアンダーフィル130の圧電素子101側への流入状況、保持基板200とアクチュエータ基板100とを接着する接着剤114の圧電素子101側への流入状況を検査し、流入箇所の数をカウントする効果確認試験を行った。この効果確認試験では、本実施例1及び2並びに比較例で形成する電機機械変換部材について、保持基板200の接着面に接着剤114をフレキソ印刷機により塗布するときの厚みを1.0μm、1.5μm、2.0μm、2.5μm、3.0μmの5水準でそれぞれ5枚ずつ形成した。上述したとおり、1枚のウェハから64個のチップが作成されるため、本効果確認試験で用いた電機機械変換部材の数は、各実施例1及び2並びに比較例について、64チップ×5枚=320個である。そして、アンダーフィル130及び接着剤114それぞれについての圧電素子101側への流入状況を、その流入が発生したチップの発生率(アンダーフィルor接着剤の流入発生チップ数÷320個)として算出した。
図23は、本効果確認試験の結果をまとめたグラフである。
まず、アンダーフィル130の流入状況についてみると、配線間構造体131が設けられた実施例1及び2と、配線間構造体131が設けられていない比較例との間で、明らかな差が確認できた。また、配線間構造体131のサイズを大きくするほど、アンダーフィル130の流入状況が改善されることも確認された。これは、引き出し配線108の厚みによって生じる保持基板200の接着面と基板面との離間スペースが、配線間構造体131が大きいほど減り、接着剤114が少なくても離間スペースに接着剤が安定して充填され、アンダーフィル130の流入経路を封じたためである。
また、接着剤114の流入状況についてみると、配線間構造体131が設けられた実施例1及び2と、配線間構造体131が設けられていない比較例との間では、大きな差は確認されなかった。一方、接着剤114の厚みが厚いほど、接着剤114の流入状況が悪化することが確認された。これにより、接着剤114の流入については、配線間構造体131の有無よりも、接着剤114の厚み(量)が支配的であると考えられる。
以上より、実施例1や2のように接着領域内の引き出し配線108の間に配線間構造体131を設けることにより、接着剤114及びアンダーフィル130の両方について、振動板変位領域113側への流入を安定して抑制でき、チップの取れ数を増やすことができる。
以上に説明したものは一例であり、本発明は、次の態様毎に特有の効果を奏する。
(態様A)
複数の圧電素子101等の電気機械変換素子と該複数の電気機械変換素子のそれぞれに電気的に接続される複数の配線108等の配線とを備えたアクチュエータ基板100等の基板と、前記複数の配線にまたがって存在する接着領域に接着剤114によって接着された保持基板200等の接着対象部材とを有する電気機械変換部材において、前記接着領域における前記配線の間に、配線間構造体131を有することを特徴とする。
本態様によれば、接着領域における配線間に配線間構造体が存在するため、配線の厚みによって接着対象部材と基板面との間に生じ得る離間スペースの一部が配線間構造体によって埋められ、配線間構造体が存在しない従来構成よりも離間スペースが減る。これにより、接着剤の付着量ムラにより接着剤付着量が相対的に多くなる部分でも接着剤が複数の電気機械変換素子側へ流入しない程度の少なめの接着剤を使用しても、接着剤付着量が相対的に少ない部分の離間スペースを接着剤で充填することが可能になる。したがって、接着剤及びアンダーフィルの両方について、複数の電気機械変換素子側への流入を安定して抑制でき、接着剤やアンダーフィルが複数の電気機械変換素子側へ流入することによって生じ得る各種問題を安定して抑制することができる。
(態様B)
前記態様Aにおいて、前記接着対象部材は、前記電気機械変換素子と対向する部分に凹部203を備え、該凹部の側壁を形成する脚部200aが前記基板上の接着領域に接着されるものであることを特徴とする。
これによれば、電気機械変換素子の変形を阻害することなく基板の強度を確保する等の目的で基板に接着される接着対象部材の接着領域で、接着剤及びアンダーフィルの両方について複数の電気機械変換素子側へ流入することを安定して抑制できる。
(態様C)
前記態様A又はBにおいて、前記配線と前記配線間構造体との隙間は6.0μm以下であることを特徴とする。
これによれば、上述した効果確認試験より、接着剤及びアンダーフィルの両方について複数の電気機械変換素子側へ流入することを安定して抑制できる。
(態様D)
前記態様A〜Cのいずれかの態様において、前記配線間構造体は、前記電気機械変換素子と同じ材料で形成されていることを特徴とする。
これによれば、基板上に電気機械変換素子を形成する工程で、配線間構造体も一緒に形成することができ、製造が容易な電気機械変換部材を提供できる。
(態様E)
前記態様A〜Cのいずれかの態様において、前記配線間構造体は、前記配線と同じ材料で形成されていることを特徴とする。
これによれば、基板上に前記配線を形成する工程で、配線間構造体も一緒に形成することができ、製造が容易な電気機械変換部材を提供できる。
(態様F)
前記態様A〜Eのいずれかの態様において、前記接着領域に対して前記複数の電気機械変換素子の反対側で前記複数の配線にフリップチップ実装される駆動IC120等の電子部品を有することを特徴とする。
これによれば、フリップチップ実装された電子部品と基板との接続部に充填されるアンダーフィルが複数の電気機械変換素子側へ流入することによって生じ得る各種問題を安定して抑制することができる。
(態様G)
前記態様A〜Fのいずれかの態様において、前記配線の厚みは4.0μm以下であることを特徴とする。
これによれば、複数の電気機械変換素子側への接着剤の流入を抑制できる少なめの接着剤で、複数の電気機械変換素子側へのアンダーフィルの流入経路を良好に遮蔽できる。
(態様H)
前記態様A〜Gのいずれかの態様に係る電気機械変換部材の電気機械変換素子を変形させることによりインク滴等の液滴を吐出させることを特徴とする液滴吐出ヘッド50等の液滴吐出部材。
これによれば、複数の電気機械変換素子側への接着剤やアンダーフィルの流入によって生じ得る吐出動作不良が抑制された液滴吐出部材を実現することができる。
(態様I)
液滴吐出ヘッド50等の液滴吐出部材から液滴を吐出して画像を形成するインクジェット記録装置等の画像形成装置において、前記液滴吐出部材として、前記態様Hに係る液滴吐出部材を用いたことを特徴とする。
これによれば、複数の電気機械変換素子側への接着剤やアンダーフィルの流入によって生じ得る吐出動作不良が抑制された画像形成装置を実現することができる。
(態様J)
前記態様A〜Gのいずれかの態様に係る電気機械変換部材の製造方法であって、前記基板と前記接着対象部材とを接着する接着工程で、前記基板又は前記接着対象部材に付着させる接着剤の厚みが1.5μm以上2.5μm以下であることを特徴とする。
これによれば、上述した効果確認試験より、接着剤及びアンダーフィルの両方について複数の電気機械変換素子側へ流入することを安定して抑制できる。