JP6631387B2 - 異種金属部材の摩擦攪拌接合方法 - Google Patents

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本発明は、異種金属部材の摩擦攪拌接合方法に関する。
従来、特許文献1に記載されるように、アルミニウムと鉄などの異種金属部材の接合において、金属部材を溶融させずに軟化させ、塑性流動化して固相接合する摩擦撹拌接合が用いられている。この摩擦撹拌接合では、金属部材同士を重ね合わせて、一方の金属部材に接合用のツールを回転させながら押し付ける。そして、一方の金属部材を摩擦熱により軟化させてツールを貫入させるとともに、ツールの回転力によって双方の金属部材を撹拌させて塑性流動させることで、両金属部材の接合を行う。
特開2015−150610号公報
しかし、この方法で異種金属同士を接合する場合、両金属部材の物性が大きく異なることに起因して、両者の撹拌が十分に達成されず、十分な接合状態が得られないという問題が生じていた。
特に、アルミニウムと鉄との組み合わせのように、撹拌が十分に起こる軟化点が両金属で大きく異なる場合には、軟化点の高い鉄の軟化及び塑性流動ができないため、接合部位の酸化膜などの不純物が除去されにくい。このため、予め酸化膜除去用のペーパーによる磨き処理やエッチング等の化学的処理により、酸化膜などの不純物を除去する工程が必要であった。
本発明は、このような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、簡易な方法で十分な接合状態を得ることが可能な異種金属部材の摩擦攪拌接合方法を提供することにある。
本発明の異種金属部材の摩擦攪拌接合方法は、アルミニウム材で形成される第1金属部材(1,10)と、第1金属部材の融点よりも高い融点を有する銅、鉄、及びステンレスのうちいずれかの材料で形成される第2金属部材(2,20)との組み合わせにおいて、回転ツール(3)を回転させながら回転ツールの先端に設けられるプローブ(32)を第1金属部材側から押し当てて挿入し、回転ツールにおいてプローブの基端に段差として形成されるショルダ部(33)を第1金属部材の表面から押し込みつつ摩擦撹拌により第1金属部材と第2金属部材とを固相接合する。
特に本発明の特徴とするところは、プローブの挿入量(I)は、第1金属部材の厚み(ta)の110%以上120%未満であり、第1金属部材は車両用空調装置が備えるフィンであり、第2金属部材はフィンが固定される基板である点である。
本発明の構成によれば、プローブの挿入量を第1金属部材の厚みの110〜160%としている。すなわち、プローブは第2金属部材に到達し、本来融点が高く軟化しにくい第2金属部材が直接発熱し塑性流動しやすくなることで、十分な接合状態を得ることができる。さらに、接合部間に存在する酸化膜が良好に除去されるため、酸化膜を除去する別工程が不要であり簡易な方法で実施することができる。
本発明の異種金属部材の摩擦攪拌接合方法が適用された第1実施形態による摩擦攪拌接合方法の実施状況を示す概略側面図であり、(a)は回転ツールを挿入し始めた段階を示す図、(b)は回転ツールを鉄まで挿入した段階を示す図、(c)は接合完了の段階を示す図である。 プローブの挿入量毎の接合強度をグラフに示す図であり、横軸にプローブ挿入量、縦軸に接合強度を取った図。 第1実施形態による摩擦攪拌接合方法により接合された送風ファンの全体斜視図。 本発明の異種金属部材の摩擦攪拌接合方法が適用された第2実施形態による摩擦攪拌接合方法の実施状況を示す概略側面図。 ショルダ部の押込量毎の接合強度をグラフに示す図であり、横軸に押込量、縦軸に接合強度を取った図。 他の実施形態による回転ツールを示す図。 他の実施形態による回転ツールを示す図。
以下、本発明の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。
〈第1実施形態〉
[構成]
本発明の異種金属部材の摩擦攪拌接合方法が適用された第1実施形態第について、図1〜図3を参照しつつ説明する。本実施形態では、第1金属部材としてのアルミニウム材1と、第2金属部材としての鉄材2との接合に本発明の摩擦攪拌接合方法を適用する。鉄材2は、アルミニウム材1の融点よりも高い融点を有する。固相接合における鉄材2の軟化温度は約1000℃、アルミニウム材1の軟化温度は約400℃である。
まず、摩擦撹拌接合を行う回転ツール3の構成について説明する。なお、図1における上側を基端側、下側を先端側とする。図1に示すように、回転ツール3は、丸棒形状の本体部31と、本体部31の先端に設けられるプローブ32とを有している。本体部31は、図示しないモータ等の回転駆動装置によって、矢印A1に示すように回転軸Cの回りに回転駆動される。プローブ32は、本体部31の先端から回転軸Cを中心に同心円状に突出しており、先端に向けて徐々に先細となる円錐形状であり先端SR形状をなしている。
プローブ32の径Dpは、本体部31の径Dtより小さい。本体部31とプローブ32との段差部分がショルダ部33として形成されている。プローブ32の径Dpは、例えば3〜5mm、本体部31の径Dtは例えば6〜8mm程度である。プローブ先端角度θは、60〜150度である。プローブ長さLは、接合時、プローブ32の先端がアルミニウム材1を突き抜けて鉄材2まで到達するように、上層のアルミニウム材1の厚みtaに対して110%〜160%の範囲に調整される。例えばアルミニウム材1の厚みtaが1mmであれば、プローブ長さLは1.1〜1.6mmの範囲となる。なお、この根拠については後述する。
[方法]
次に、第1実施形態の摩擦攪拌接合方法について説明する。本実施形態では、アルミニウム材1と鉄材2の厚みta,tbは、共に1mmである。まず、アルミニウム材1が上側に、鉄材2が下側になるように両部材が重ね合わされる。次に、図1(a)に矢印A2に示すように、回転ツール3が、アルミニウム材1側から接合部位に押し当てられ挿入される。図1に示す例では、プローブ長さLは1.1mmであり、アルミニウム材1の厚みtaの110%に相当する長さに設定されている。
図1(a)に示すように、プローブ32の先端がアルミニウム材1に接触すると、プローブ32の先端周辺には、摩擦熱の影響を受ける摩擦熱影響域Fが形成される。摩擦熱影響域Fは、図1において網掛ハッチで示している。図1(b)に示すように、プローブ32が徐々に挿入され、回転ツール3のショルダ部33がアルミニウム材1の表面11に摺接する位置まで来たとき、プローブ32の先端は鉄材2に到達し突き抜ける。このときのプローブ32の挿入量を挿入量Iとして図示している。
このとき、摩擦熱影響域Fは、ショルダ部33の直径と略等しい範囲にまで大きく広がり、鉄材2が直接発熱することでアルミニウム材1の酸化膜12と鉄材2の酸化膜22に亀裂が生じる。さらに、摩擦熱影響域Fにおいて摩擦熱の伝熱により、プローブ32周辺の各金属材が温度上昇により軟化し、塑性流動する。塑性流動のイメージを図1(b)において、矢印A3で示している。この塑性流動により、脆い酸化膜12,22は除去される。
回転ツール3を図1(b)に示す最下点まで挿入したのちは、図1(c)に示すように、速やかに回転ツール3を矢印A4に示す方向に引き上げる。アルミニウム材1の酸化膜12と鉄材2の酸化膜22が共に除去された状態で強固に接合完了となる。
次に、上述したように、プローブ32の挿入量Iを上層のアルミニウム材1の厚みtaに対して110%〜160%とする根拠について説明する。図2は、プローブ32の挿入量Iを90%から170%まで10%刻みで変え、摩擦撹拌接合体の引っ張り試験による接合テストを行った結果を示すグラフである。接合条件は、アルミニウム材1と鉄材2の厚みta,tbが共に1mm、回転ツール3の回転数が1600rpm以上、ツール送り速度が5〜100mm/minである。また、接合体の強度については、試験結果より、挿入量Iが110%のときに得られた最大強度を強度100%として縦軸に図示している。以下、接合強度については、最大強度を基準としたパーセント表示で説明する。
図2に示すように、プローブ32の挿入量Iが110%〜160%の範囲で接合強度が50%を超える十分な接合が見られた。最も好ましいのは、プローブ32の挿入量Iが110%〜120%の範囲で接合強度が90%程度の強い接合が見られた。プローブ32の挿入量Iが160%を超えると接合強度が50%以下に著しく低下している。これは、プローブ32の挿入量Iが増えるとプローブ32と金属材とが接触する面積が増え、接合時の摩擦熱が高くなりすぎるためである。接合界面の温度が、低融点材料であるアルミニウム材1の溶融温度を超えてしまうと材料自体が脆化し接合強度が低下してしまい接合不可となる。
以上より、プローブ32の挿入量Iは、上層のアルミニウム材1の厚みtaの110%〜160%とする。
上記詳述した摩擦撹拌接合方法は、より具体的には例えば図3に示す車両用空調装置の送風ファン4において、アルミニウムからなるフィン10と鉄からなる基板20との接合部Sに適用することができる。送風ファン4は、その径Dfが150mm程度であり、基板20の内部に図示しないIHコイルが設けられており、このIHコイルからの発熱を基板20からフィン10へ熱伝導させて温風を送り出す。鉄は熱伝導が悪く、いかに鉄からアルミに熱を伝えるかが重要であり、ある程度の接合面積の確保が必要である。また、接合面積の確保は製品としての接合強度の向上にも繋がる。
例えば、抵抗溶接のスポット溶接やプロジェクション溶接による接合では、点接合であり接合面積を稼ぐことができず、伝熱性、接合強度の観点から十分な接合状態を得られない。また、超音波接合では、ツール自体をフィン10の間に挿入することが困難なため不向きである。よって、上記の摩擦撹拌接合方法は、フィン10と基板20との接合において接合面積を広く確保する点においてメリットが大きく、有効な方法であると言える。
[効果]
(1)上記第1実施形態では、プローブ32の挿入量Iを上層のアルミニウム材1の厚みtaに対して110%〜160%とすることで、アルミニウムと鉄との組み合わせのように、撹拌が十分に起こる軟化温度が両金属で大きく異なる場合においても、十分な接合状態を得ることができる。特に、摩擦熱の不足により除去しにくい高融点の鉄材2の酸化膜22を好適に除去することができる。
(2)また、予め酸化膜除去用のペーパーによる磨き処理やエッチング等の化学的処理により、各金属部材1,2の接合面に存在する酸化膜12,22などの不純物を除去する工程が不要となり、工程を簡易化することができる。
(3)特に上記摩擦撹拌接合方法を、車両用空調装置の送風ファン4においてフィン10と基板20との接合に適用した場合には、接合面積を確保することで接合強度及び伝熱性能を向上させることができる。
〈第2実施形態〉
[構成]
次に、本発明の第2実施形態について、図4、図5を参照しつつ説明する。なお、回転ツール3の構成は第1実施形態と同様であるため、同じ符号を付し、説明を省略する。図4では、酸化膜12,22の図示は省略している。第2実施形態では、ショルダ部33をアルミニウム材1の表面11に押し込みつつ固相接合する点が異なる。
図4に示すように、摩擦熱が増していくと、アルミニウム材料は軟化して塑性流動し、本体部31の外周外側へ向けて矢印A5に示すように逃げていく。ショルダ部33を押し込まない場合と比較すると、ショルダ部33を押し込むことによりアルミニウム材1の表面11への逃げ道Eが狭く塞がれるため、アルミニウム材料の逃げが抑制される。これにより、回転ツール3による加圧力の低下が抑制され、接合強度を上昇させることができる。
なお、図4では、押込量Pは、アルミニウム材1の厚みtaの15%程度で例示してあるが、概ね60%以下であれば良い。例えば、アルミニウム材1の厚みtaが1mmの場合には、押込量Pは0.6mm以下に調整される。図5に示すように、ショルダ部33を押し込むことで接合強度は上昇し、押込量Pが概ね60%程度まで、接合強度が75%以上の安定した強度を得ることができる。押込量Pが60%を超えると、プローブ32の挿入量Iも併せて増加するため、上記第1実施形態において述べたようにプローブ32の挿入量Iが多くなりすぎることに起因して接合強度が下がる。
本実施形態によれば、第1実施形態と同様の効果を奏し、さらに接合強度を向上させることができる。
〈他の実施形態〉
上記各実施形態において、回転ツール3の形状、本体部31やプローブ32の径等のサイズは、接合する金属材料の厚みや形状に応じて種々変更することができる。例えば、プローブ32の形状については、図6に示す回転ツール30のプローブ321ように円錐形状でも良いし、図7に示す回転ツール300のプローブ322のように円錐台形状であっても良い。
上記各実施形態では、第1金属部材としてアルミニウム材1、第2金属部材として鉄材2との組み合わせにおいて実施したが、第2金属部材の融点が第1金属部材の融点よりも高い融点を有していれば良く、その他の金属の組み合わせに適用しても良い。例えば、第1金属部材のアルミニウム材1に対して、第2金属部材は、銅、鉄、ステンレス等でも良い。
本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の形態で実施可能である。
1 ・・・アルミニウム材(第1金属部材)
2 ・・・鉄材(第2金属部材)
3 ・・・回転ツール
32 ・・・プローブ
33 ・・・ショルダ部
I ・・・挿入量

Claims (2)

  1. アルミニウム材で形成される第1金属部材(1,10)と、前記第1金属部材の融点よりも高い融点を有する銅、鉄、及びステンレスのうちいずれかの材料で形成される第2金属部材(2,20)との組み合わせにおいて、回転ツール(3)を回転させながら前記回転ツールの先端に設けられるプローブ(32)を前記第1金属部材側から押し当てて挿入し、前記回転ツールにおいて前記プローブの基端に段差として形成されるショルダ部(33)を前記第1金属部材の表面から押し込みつつ摩擦撹拌により前記第1金属部材と前記第2金属部材とを固相接合する異種金属部材の摩擦撹拌接合方法であって、
    前記プローブの挿入量(I)は、前記第1金属部材の厚み(ta)の110%以上10%未満であり、
    前記第1金属部材は車両用空調装置が備えるフィンであり、前記第2金属部材は前記フィンが固定される基板である異種金属部材の摩擦撹拌接合方法。
  2. 前記ショルダ部を前記第1金属部材に押し込む押込量(P)は、前記第1金属部材の厚みの15%以上60%以下である請求項1に記載の異種金属部材の摩擦撹拌接合方法。
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