JP4393118B2 - 車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法に係り、特に、円筒形に加工されたアルミニウム合金板材の両端突合せ部を摩擦撹拌接合してなる管体を用いて得られる、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを有利に製造する方法に関するものである。
【0002】
【背景技術】
従来から、二輪乃至四輪自動車や起動車両、起重機、自転車等の車両用ホイールの一種として、アルミニウム合金製のリムを有し、このリムに対してディスクやスポーク等が一体的に設けられてなるホイールが、知られている。このアルミニウム合金製リムは、軽量性や成形性に優れているところから、かかるリムを有する車両用ホイールが、特に、自動車用やバイク用、自転車用のホイールとして、好適に使用されている。
【0003】
ところで、このような車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法の一種として、先ず、優れた強度を有する5000系アルミニウム合金よりなる板材を円筒状にロール加工して、その周方向において突き合わされる突合せ部を溶接等にて接合し、一体化することにより管体を得、そして、この管体を目的とする形状に成形加工する手法が、知られている。
【0004】
そして、近年では、材料を加熱溶融させずに固相状態のままで接合せしめる固相接合の一種たる摩擦撹拌接合が注目され、車両用ホイール、特に自動車用ホイールのリムの製造に際して、上述の如き円筒状にロール加工された板材の突合せ部の接合等に、適用され始めてきている(例えば、特許文献1乃至5参照)。
【0005】
すなわち、この摩擦撹拌接合方式を利用したアルミニウム合金製リムの製造手法では、円筒状にロール加工された5000系アルミニウム合金の板材の突合せ部に対して、ロッド状の回転冶具の先端に同心的に設けたピンを、かかる回転冶具と共に一体的に回転させつつ差し込み、相対的に移動させることにより、摩擦熱を発生せしめて、その摩擦熱にて、突合せ部を塑性加工可能な状態と為し、更にピンの高速回転による撹拌作用にて、突合せ部の組織を入り交わらせ、以て、それらの突合せ部を溶融せしめることなく接合せしめる摩擦撹拌接合操作が、実施されるのである。
【0006】
このような車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造手法によれば、リムを与えるアルミニウム合金板材の突合せ部の接合の際に、突合せ部が何等溶融せしめられることがないため、かかる突合せ部を溶融溶接する場合とは異なって、バリや溶接特有の接合不良の発生が解消され、しかも入熱が少なく、接合部の強度低下や歪みが有利に抑制され得るのであり、その結果として、優れた接合品質と強度を有するリムが、有利に製造され得ることとなるのである。
【0007】
ところが、かかる従来のアルミニウム合金製リムの製造手法においては、アルミニウム合金板材の突合せ部を摩擦撹拌接合する際に、ピンの高速回転による撹拌作用にて入り交わらされる突合せ部の組織を、回転治具の肩部にて押し固めつつ、接合を確実に進行せしめる上で、多くの場合、回転治具が、その中心軸を、突合せ部の法線に対して接合進行方向において適度な角度(例えば、3°)をもって後傾する状態で、相対的に移動せしめられることとなる。
【0008】
このため、そのような摩擦撹拌接合方式を利用した、従来のリムの製造手法では、リムの中間成形品である管体に形成される接合部の表面に、回転治具の肩部におけるエッジ部の食い込みによる窪みが、接合部の延出方向に沿って形成されて、かかる接合部における幅方向中央部位の板厚が、0.1mm程度減少してしまうことが避けられなかった。そして、そのような管体に対して所定の成形加工を施す際に、薄肉化された接合部の幅方向中央部位において、応力集中が惹起され、それにより、最終的に得られるリムにおいて、接合部に亀裂が生じたり、場合によっては、接合部が破断するといった極めて重大な問題が生ずることがあったのである。
【0009】
【特許文献1】
特表2000−509342号公報
【特許文献2】
特開2000−142003号公報
【特許文献3】
特開2001−88504号公報
【特許文献4】
特開2003−54206号公報
【特許文献5】
特開2003−94177号公報
【0010】
【解決課題】
ここにおいて、本発明は、上述せる如き事情を背景にして為されたものであって、その解決課題とするところは、円筒形に曲げ加工された5000系アルミニウム合金よりなる板材の周方向の突合せ部を摩擦撹拌接合することにより、かかる突合せ部に沿って延びる接合部を形成してなる管体を用いて得られるアルミニウム合金製リムにおいて、摩擦撹拌接合操作の実施により接合部が部分的に薄肉化されていても、かかる接合部に亀裂や破断等が生ずることがなく、優れた接合品質が有利に確保され得る、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを、有利に製造可能な手法を、提供することにある。
【0011】
【解決手段】
そして、本発明者等が、それらの課題を解決するために、種々検討してゆく過程で、5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材に対して摩擦撹拌接合操作を実施した場合、接合部を切断して、その断面におけるビッカース硬さを、JIS Z2244に従って測定した値にて表される接合部の断面の硬さが、接合部以外の母材部を切断して、その断面におけるビッカース硬さを、接合部の断面硬さの測定方法と同様な方法で測定した値にて表される母材部の断面の硬さよりも若干硬くなることに着目した。これは、摩擦撹拌接合操作中に、接合部の温度が500℃程度まで上昇して、かかる接合部の結晶粒が、動的再結晶により、母材部よりも細かくなるためと考えられる。そして、本発明者等による更なる研究の結果、特別な条件の下で摩擦撹拌接合操作を実施することによって、前記母材部の断面の硬さ(ビッカース硬さ)に対する前記接合部の断面の硬さ(ビッカース硬さ)の増加率と、摩擦撹拌接合操作の実施により薄肉化された接合部の幅方向中央部位の板厚の、母材部の板厚に対する減少率との関係をコントロールすることが出来、また、それらの関係が、特定の関係となっているときに限って、接合部に亀裂や破断が、何等生じないことを見出したのである。
【0012】
すなわち、本発明は、かくの如き知見に基づいて完成されたものであって、先ず、その対象とするところは、5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材を円筒形に曲げ加工して、開先が設けられることなく該板材の厚みに等しい端面の全面に亘って互いに突き合わされる、該板材の両端部の突合せ部を摩擦撹拌接合することにより、該突合せ部に沿って延びる接合部を形成してなる管体を用いて得られる、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムにおいて、前記接合部の断面の硬さ:H(Hv)と、該接合部以外の母材部の断面の硬さ:h(Hv)と、前記摩擦撹拌接合操作の実施前後における、該接合部の幅方向中央部位の板厚減少量:ΔT(mm)と、該母材部の板厚:t(mm)とが、次式:
(H−h)/h≧ΔT/t
を満足するように構成したことを特徴とする、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムにある。
【0013】
要するに、この本発明に従う車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムにあっては、円筒形に曲げ加工されたアルミニウム合金板の互いの突合せ部に対する摩擦撹拌接合操作の実施により増大せしめられた接合部の断面の硬さ(ビッカース硬さ)の、母材部の断面の硬さ(ビッカース硬さ)に対する増加率が、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率と同じか若しくはそれよりも大きくされている。
【0014】
それ故、かかるアルミニウム合金製リムにおいては、摩擦撹拌接合操作の実施後に、接合部の幅方向中央部位の板厚が減少せしめられていても、そのような接合部の幅方向中央部位における板厚の減少に伴う強度の低下が、かかる部位における硬さの増加分で十分に補われ得、それによって、例えば、製造過程で中間成形品として得られる管体に対する所定の成形加工の実施時に、板厚が減少せしめられた接合部の幅方向中央部位での応力集中に起因して、接合部に亀裂が生じたり、或いは接合部が破断したりするようなことが、有利に解消され得る。
【0015】
従って、このような本発明に従う車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムにあっては、亀裂部分や破断部分等が何等存在しない健全な接合部を有する、優れた接合品質が安定的に確保され得、以て、摩擦撹拌接合による接合方式を利用して製造された従来品に比して、品質性能が、極めて効果的に高められ得るのである。
【0016】
そして、本発明にあっては、前述せる技術的課題の解決のために、5000系アルミニウム合金よりなる板材を円筒形に曲げ加工した後、開先が設けられることなく該板材の厚みに等しい端面の全面に亘って互いに突き合わされる該板材の両端部の突合せ部に対して、ロッド状の回転治具の先端に同心的に設けたピンを、該回転治具と共に一体回転させつつ差し込み、相対的に移動させることによって、該突合せ部を摩擦撹拌接合して、該突合せ部に沿って接合部を形成することにより、所定の管体を成形し、その後、かかる管体を加工して、上述せる車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを製造するに際して、前記板材として、5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材を用いて、かかる板材の前記突合せ部の内面に、所定の裏当て治具を接触配置した後、前記回転治具の先端に設けたピンを500〜1800rpmの回転速度で該回転治具と共に一体回転させつつ、該ピンの先端から該裏当て治具までの距離が0.1〜0.4mmとなる深さ位置にまで、該ピンを該突合せ部に差し込み、その後、該回転治具を、該突合せ部の法線に対して該回転治具の中心線が0°以上、5°以下となる角度をもって該ピンの進行方向において後傾させた状態で、該ピンを150〜800mm/minの速度で、該突合せ部に対して相対的に移動せしめて、前記摩擦撹拌接合操作を行なうことにより、形成される前記接合部の断面の硬さ:H(Hv)と、該接合部以外の母材部の断面の硬さ:h(Hv)と、前記摩擦撹拌接合操作の実施前後における、該接合部の幅方向中央部位の板厚減少量:ΔT(mm)と、該母材部の板厚:t(mm)とが、次式:(H−h)/h≧ΔT/tを満足するように構成した前記管体を得ることを特徴とする、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法を、その要旨とするものである。
【0017】
すなわち、この本発明に従う車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法にあっては、先ず、5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材を用いて、これを円筒形に曲げ加工し、そして、この曲げ加工されたアルミニウム合金板の互いの突合せ部に対して、回転治具のピンを所定の深さ位置まで差し込んだ状態下において、回転治具を、その回転速度と移動速度、更にはその移動時における傾き角度が、それぞれ特定の範囲内の値とされた条件の下で、回転させつつ、相対的に移動させることにより、摩擦撹拌接合操作が実施されて、接合部が、突合せ部に沿って延びるように形成されるようになっている。そして、そのような特定の条件の下での摩擦撹拌接合操作が実施されることにより、接合部の断面の硬さが適度に増大せしめられ、しかも、かかる接合部の断面硬さの、母材部の断面の硬さに対する増加率が、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率と同じか若しくはそれよりも大きな値とされるようになっている。
【0018】
それ故、このような本発明手法においては、目的とするリムの中間成形品たる管体に対する所定の成形加工の実施時に、接合部の薄肉部分で生ずる応力集中に起因して、接合部に亀裂や破断が生じたりするようなことが、有利に解消され得る。
【0019】
従って、かくの如き本発明に従う、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法によれば、亀裂部分や破断部分等が何等存在しない健全な接合部を有する優れた接合品質が安定的に確保され得て、高い品質性能を発揮する、目的とするアルミニウム合金製リムが、極めて有利に製造され得るのである。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明に係る車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法の構成について、図面を参照しつつ、詳細に説明することとする。
【0021】
先ず、図1には、本発明に係る製造手法に従って製造された車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの一例としての自動車用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムが、その半截断面形態において、概略的に示されている。かかる図1から明らかなように、本実施形態のアルミニウム合金製リム10は、略円筒形状を呈しており、その一方の開口部を閉塞するように、略円盤状のディスク12(図1において二点鎖線で示す)が、内孔内に嵌挿された状態で接合され、一体化せしめられることによって、所定の自動車用ホイールを与え得るようになっている。
【0022】
また、このリム10は、優れた強度を有する5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材を円筒形に曲げ加工した状態下で、その周方向において突き合わされる突合せ部を摩擦撹拌接合し、一体化することにより形成された、中間成形品としての管体に対して、所定の成形加工が施されることにより、構成されている。
【0023】
すなわち、リム10にあっては、図1に破線で示される如き、前記アルミニウム合金板材を周方向において突き合わた突合せ部14に対して、ロッド状の回転冶具の先端に同心的に設けたピンを、かかる回転冶具と共に一体的に回転させつつ差し込み、相対的に移動させることにより、突合せ部14とその両側部位とにおいて生ずる摩擦熱にて、それらの部位が塑性加工可能な状態とされ、更に、ピンの高速回転による撹拌作用にて、突合せ部14の両側部位の組織が入り交わらされて、かかる両側部位が溶融せしめることなく接合せしめられて、形成された管体に対して、所定のフレア加工やロール加工等の成形加工が施されることにより、構成されている(図3参照)。これによって、ピンの高速回転により可塑化状態で撹拌された突合せ部14の両側部位(図1において2本の二点鎖線で囲まれた領域)が、かかる突合せ部14に沿って延びる、帯状形態を呈する接合部16とされる一方、この接合部16を除いた残り部分の全部が、母材部18とされ、そして、全体として、所望の形状とされているのである。
【0024】
また、図1には明示されてはいないものの、かかるリム10においては、接合部16の幅方向中央部位に、回転治具のエッジ部の食込みによる窪みが形成されて、接合部16の幅方向中央部位の板厚が、母材部18の板厚に比して、僅かに小さくされている。更に、そのようなリム10における接合部16の断面の硬さ:H(Hv:ビッカース硬さ)が、上述の如き摩擦撹拌接合操作が実施される前の突合せ部14の硬さ、つまり、それと同一の硬さを有する母材部18の断面の硬さ:h(Hv)よりも適度に増大せしめられている。
【0025】
そして、本実施形態のリム10にあっては、特に、摩擦撹拌接合操作の実施前の突合せ部14の硬さに対する接合部16の断面の硬さ:H(Hv:ビッカース硬さ)の増加率、換言すれば、母材部18の断面の硬さ:hに対する接合部16の断面の硬さ:Hの増加率:(H−h)/hが、摩擦撹拌接合操作の実施前における接合部16の幅方向中央部位に相当する部位の板厚に対する接合部16の幅方向中央部位の板厚の減少率、即ち、母材部18の板厚:tに対する摩擦撹拌接合操作の実施前後における、接合部16の幅方向中央部位の板厚減少量:ΔTの割合:ΔT/tと同じか若しくはそれよりも大きな値とされている。
【0026】
何故なら、上記せる接合部16の断面硬さの増加率:(H−h)/hの値が、前記せる如き摩擦撹拌接合操作の実施前後における、接合部16の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tの値よりも小さい場合には、摩擦撹拌接合操作の実施によって減少せしめられた接合部16の幅方向中央部位の強度が、かかる部位の硬さの増加分で補われることがなく、そのために、リム10の製造過程で得られる管体に対するフレア加工やロール加工等による成形加工時に、接合部16の薄肉部分で生ずる応力集中によって、接合部16に亀裂や破断が生じたりするような懸念が、何等払拭され得ないからである。従って、ここでは、リム10に対して、亀裂部分や破断部分等が全く存在しない健全な接合部16を有する優れた接合品質を付与する上で、接合部16の断面硬さの増加率:(H−h)/hの値が、摩擦撹拌接合操作の実施前後における、接合部16の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tの値と同じか若しくはそれよりも大きくされている必要があるのである。
【0027】
なお、本実施形態においては、接合部16に切断面が形成されるように、リム10を径方向に切断して、かかる接合部16に形成される切断面におけるビッカース硬さを、JIS Z2244に従って測定して得られる値が、接合部16の断面硬さ:Hとされており、また、母材部18の任意の部位に切断面が形成されるように、リム10を径方向に切断して、かかる母材部18に形成される切断面におけるビッカース硬さを、接合部16の断面硬さの測定方法と同様な手法により測定して得られる値が、母材部18の断面硬さ:hとされている。更に、摩擦撹拌接合操作の実施前後における、接合部16の幅方向中央部位の板厚減少量:ΔTは、母材部18の板厚:tから接合部16の幅方向中央部位の板厚:Tを差し引いた値:T−tにて表される(図3参照)。
【0028】
ところで、このような構造を有する自動車用ホイールにおけるアルミニウム合金製リム10を製造する際には、例えば、以下に示す如き手順に従って、その作業が進められることとなる。
【0029】
すなわち、先ず、図2に示される如く、目的とするリム10を与え得る大きさと板厚とを有する帯状のアルミニウム合金板材20が、準備される。なお、ここで準備されるアルミニウム合金板材20は、5000系アルミニウム合金よりなるものであれば、その材質が何等限定されるものではなく、また、リム10の形成材料として従来から使用される展伸材や鋳物材等の中から適宜に選択され得るが、その質別がO材である必要がある。
【0030】
何故なら、前述せるように、ここでは、最終的に得られるリム10における接合部16の断面の硬さが、母材部18の硬さよりも大きくされている必要があるが、このような接合部16の断面硬さの増大は、質別がO材である5000系アルミニウム合金板材に対して、摩擦撹拌接合を行なうことにより始めて実現され得るからである。これは、5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材が、摩擦撹拌接合操作中に、500℃程度まで温度上昇して、接合部16の結晶粒が、動的再結晶により、母材部18の結晶粒よりも細かくなるためと考えられる。
【0031】
そして、そのような5000系アルミニウム合金のO材よりなる帯状の板材20が、例えば、ロール加工(ロールフォーミング)等の公知の曲げ加工手法により、突き合わされる両端部の所定幅部分を残して、円筒形に曲げられて、周方向において両端部が突き合わされてなる形態の円筒状成形体22が形成される。かくして、この円筒状成形体22にあっては、アルミニウム合金板材20の周方向において突き合わされる両端部の突合せ部14が、円筒状成形体22の軸方向延びる形態とされており、また、周方向において突き合わされるアルミニウム合金板材20の両端部が、突合せ部14を間にして、その両側に位置せしめられた平坦部24,24とされている。
【0032】
なお、このような突合せ部14の両側の平坦部24,24の形成には、公知の手法が適宜に採用され、また平坦化工程も、曲げ加工工程と同時に行なわれる他、曲げ加工工程の後に行なう等の手法を採用することが可能であるが、このような平坦部24,24を形成することなく、アルミニウム合金板材20の全体を円筒形に曲げ加工して、円筒状成形体22を形成し、そして、かかる円筒状成形体22の両端突合せ部14に対して、後述する摩擦撹拌接合操作を実施しても、何等差し支えない。
【0033】
次ぎに、図3に示される如く、円筒状成形体22の内部に、例えば、鋼板からなる裏当て治具25が、その厚さ方向の一方面において、突合せ部14の両側の平坦部24,24の裏面に接触せしめられるように配置された後、かかる突合せ部14が摩擦撹拌接合されて、リム10の中間成形体たる管体26が、形成される。なお、この管体26の形成工程では、突合せ部14の摩擦撹拌接合が、公知の手法に基づいて、実施される。
【0034】
すなわち、ロッド状の回転冶具28の先端に同心的に設けたピン30が、かかる回転冶具28と共に、その軸心回りに一体回転せしめられつつ、内部に裏当て治具25が配置された円筒状成形体22の突合せ部14に差し込まれる。このとき、ピン30が突合せ部14を貫通しない状態で、回転冶具28の肩部が平坦部24,24の表面(外面)に当接するまで、ピン30が突合せ部14に差し込まれることにより、それら突合せ部14及び平坦部24,24と、ピン30及び回転冶具28の下部との接触面において摩擦熱が発生せしめられて、その周囲が可塑化されると共に、ピン30の高速回転に伴う撹拌作用にて、突合せ部14の両側の平坦部24,24の組織が互いに入り交じり合わされる。そして、そのような状態下で、かかるピン30及び回転冶具28が、突合せ部14に沿って相対的に移動せしめられることにより、組織が入り交じり合わされた各平坦部24,24にて、平坦な接合部16が、突合せ部14に沿って延びるように形成され、以て、円筒状成形体22が、その突合せ部14において一体的に接合される。
【0035】
なお、このような摩擦撹拌接合の実施に際しては、ピン30の高速回転による撹拌作用にて入り交わらされる突合せ部14の組織を、回転治具28の肩部にて押し固めつつ、接合を確実に進行せしめる上で、図4に示されるように、回転治具28が、その進行方向(図4中、矢印アに示される方向)に対して後傾する状態で、突合せ部14に対して相対移動せしめられる。このため、かかる回転治具28の肩部におけるエッジ部29が突合せ部14に食い込んで、接合部16の幅方向中央部位に、その全長に亘って、窪みが形成されて、かかる部位が、母材部18に比して、僅かに薄肉となる。
【0036】
そして、ここでは、特に、かくの如き摩擦撹拌接合操作が、以下の如き特別な条件の下で、実施されることとなる。即ち、回転治具28とピン30の回転速度は、500〜3000rpmの範囲内の値とされる。
【0037】
何故なら、かかる回転速度が500rpmを下回る場合には、回転速度が遅すぎるため、ピン30の回転に伴う撹拌作用が不十分となって、突合せ部14の両側の平坦部24,24の組織を十分に入り交じり合わせることが困難となるばかりでなく、ピン30及び回転冶具28の下部との接触面において生ずる摩擦熱が小さ過ぎて、接合部16の温度が、動的再結晶を惹起させる温度にまで上昇せず、そのために、動的再結晶による結晶粒の微細化に起因する接合部16の断面の硬さの増大が望めなくなって、断面の硬さが適度に高められた、健全な接合部16の形成が困難乃至は不能となるからである。
【0038】
一方、回転治具28とピン30の回転速度が3000rpmを越える場合には、ピン30の高速回転に伴う撹拌作用にて、突合せ部14の両側の平坦部24,24の組織を互いに入り交じり合わせる上で、ピン30の回転速度が必要以上に速過ぎるため、ピン30の回転速度に突合せ部14の材料の撹拌が追いついていかず、組織を十分に入り交じり合わせることが出来なくなり、健全な接合部16の形成に悪影響を及ぼす恐れが生じるからである。なお、突合せ部14の両側の平坦部24,24の組織が十分に入り交じり合わされると共に、適度に硬さが高められた健全な接合部16を形成するためには、摩擦撹拌接合操作における回転治具28とピン30の回転速度が500〜1800rpmの範囲内の値とされていることが、より好ましいのである。
【0039】
また、ピン30の突合せ部14への挿入深さとしては、ピン30の先端から、円筒状成形体22の内部に配置された裏当て治具25までの距離:dが0.1〜0.4mmとなる範囲内とされる(図4参照)。ピン30の先端から裏当て治具25までの距離:dが0.1mm未満となる極めて深い位置にまでピン30が突合せ部14に挿入された状態で摩擦撹拌接合操作が実施されると、ピン30が、突合せ部14を貫通して、鋼板製の裏当て治具25に接する恐れがあり、また、そのように、ピン30が裏当て治具25に接した場合には、ピン30が破損する危惧が生ずる。また、ピン30の先端から裏当て治具25までの距離:dが0.4mmを越える深さ位置にピン30が突合せ部14に挿入されて、摩擦撹拌接合操作が実施される場合には、ピン30の挿入深さが浅過ぎるため、ピン30の高速回転による撹拌作用が、突合せ部14の両側における平坦部24,24の厚さ全体に行き渡らず、その結果として、接合部16の裏面側部分において接合不良が生じ易くなる。
【0040】
従って、ピン30の損傷を未然に防ぎつつ、欠陥のない接合部16を形成する上において、ピン30の突合せ部14への挿入深さが上述の如き範囲内とされた状態で、摩擦撹拌接合が実施されることが望ましく、また、そのようなピン30の挿入深さは、ピン30の先端から、円筒状成形体22の内部に配置された裏当て治具25までの距離:dが0.1〜0.3mmとなる範囲内とされていることが、より望ましいのである。
【0041】
さらに、ここでの摩擦撹拌接合操作は、ピン30が突合せ部14に差し込まれた状態で相対移動せしめられることにより進められることとなるが、その際には、図4に示される如く、回転治具28が、突合せ部14の法線に対して、回転治具28の中心線が0°以上、5°以下となる角度:θをもって、ピン30の進行方向において後傾せしめられた状態で、突合せ部14に対して相対移動せしめられる。
【0042】
何故なら、回転治具28の後傾角度:θが0°未満、即ち、回転治具28が前傾状態で、突合せ部14に対して相対移動せしめられると、ピン30の高速回転による撹拌作用にて入り交わらされる突合せ部14の組織を、回転治具28の肩部にて押し固めることが出来ずに、健全な接合部16の形成が困難となるからである。また、回転治具28の後傾角度:θが5°よりも大きい場合には、回転治具28の肩部におけるエッジ部29が、突合せ部14に、必要以上に深く食い込み、それによって、接合部16の幅方向中央部位に深い窪みが形成され、その結果、かかる部位が著しく薄肉化されて、接合強度の低下が惹起されることとなるからである。なお、このような様々な問題の発生を有効に回避するためには、回転治具28の後傾角度:θが2〜4°の範囲内とされていることが、より好ましい。
【0043】
更にまた、そのような回転治具28の突合せ部14に対する相対移動時の移動速度は、150〜800mm/minとされている必要がある。この回転治具28の相対移動速度が150mm/minを下回るような遅い速度である場合、摩擦撹拌接合操作の所要時間が長くなり過ぎて、目的とするリム10の生産性が低下してしまう。また、回転治具28の相対移動速度が800mm/minを上回る場合には、余りにも高速であるために、回転治具28の回転速度が規定速度を下回る場合と同様に、ピン30の回転に伴う撹拌作用が不十分となって、突合せ部14の両側の平坦部24,24の組織を十分に入り交じり合わせることが困難となるばかりでなく、ピン30及び回転冶具28の下部との接触面において生ずる摩擦熱が小さ過ぎて、接合部16の温度が、動的再結晶を惹起させる温度にまで上昇せず、そのために、動的再結晶による結晶粒の微細化に起因する接合部16の断面の硬さの増大が望めなくなって、断面の硬さが適度に高められた、健全な接合部16の形成が困難乃至は不能となる。
【0044】
従って、ここでは、目的とするリム10の生産性の低下を防止しつつ、断面の硬さが適度に高められた、健全な接合部16を形成する上で、回転治具28の相対移動速度が上述の如き範囲内とされている必要があり、また、そのような特徴をより効果的に発揮させるためには、回転治具28の突合せ部14に対する相対的な移動速度が、300〜700mm/minの範囲内とされていることが、更に望ましいのである。
【0045】
かくして、本実施形態においては、上述せる如き特別な条件の下で摩擦撹拌接合操作が行なわれることにより、断面の硬さが適度に高められると共に、幅方向中央部位の板厚の減少量が可及的に少なく抑えられ、しかも接合不良のない健全な接合部16が、有利に形成される。そして、それによって、母材部18の断面硬さ:hに対する接合部16の断面硬さ:Hの増加率:(H−h)/hが、母材部18の板厚:tに対する摩擦撹拌接合操作の実施前後における、接合部16の幅方向中央部位の板厚量:ΔTの割合:ΔT/tと同じか若しくはそれよりも大きな値とされるのである。
【0046】
而して、そのような接合部16の形成により、円筒状成形体22が、その突合せ部14において一体的に接合されて、リム10の中間成形体である管体26が形成された後、必要に応じて、かかる管体26の平坦な接合部16が研磨され、更に、この接合部16に対して、円弧状に成形せしめる公知の矯正加工が施されて、管体26が円形形状に成形加工される。そして、その後、円形形状とされた管体26が、一般的なフレア加工やロール加工等の成形加工手法により、所望の形状に成形加工され、以て、目的とする、所望の形状を有するアルミニウム合金製リム10が得られる。
【0047】
その後、かくして得られたリム10にあっては、その内孔内に、鍛造等により別途に形成されたディスク14が嵌挿され、摩擦撹拌接合手法や各種の溶接手法により接合されて、一体化せしめることによって、自動車用ホイールとして完成されるようになっているのである。
【0048】
このように、本実施形態では、高強度の5000系アルミニウム合金板材20を円筒状に曲げた状態で、その両端の突合せ部14を、固相接合方式の一種たる摩擦撹拌接合手法により接合して、管体26を形成し、この管体26から、目的とするホイール10のリムを形成するようにしたものであるところから、突合せ部14の接合方式として、溶接接合を採用する場合とは異なって、リム10において、優れた接合品質と強度、更には高度な生産性が、確保され得るのである。
【0049】
そして、本実施形態においては、特に、円筒形に曲げ加工されたアルミニウム合金のO材よりなる板材20の両端の突合せ部14が、特別な条件の下で摩擦撹拌接合されて、母材部18の断面の硬さに対する接合部16の断面の硬さの増加率:(H−h)/hが、母材部18の板厚:tに対する接合部16の幅方向中央部位の板厚:Tの減少率:ΔT/tと同じか若しくはそれよりも大きくされているため、接合部16の幅方向中央部位における板厚の減少に伴う強度の低下が、かかる部位における硬さの増加分で十分に補われ得る。それによって、リム10の中間成形品たる管体26に対する所定の成形加工の実施時に、板厚が減少せしめられた接合部16の幅方向中央部位での応力集中に起因して、接合部16に亀裂が生じたり、或いは接合部16が破断したりするようなことが、有利に解消され得る。
【0050】
従って、かくの如き本実施形態によれば、亀裂部分や破断部分等が何等存在しない健全な接合部16を有して、優れた接合品質が安定的に確保され得るアルミニウム合金製リム10が、高い品質性能をもって、極めて有利に製造され得ることとなるのである。
【0051】
なお、本実施形態では、本発明を、自動車用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムとその製造方法に適用した例が示されていたが、本発明は、その他、自動車用ホイール以外の車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムとその製造方法の何れにも、有利に適用され得るものであることは、言うまでもないところである。
【0052】
【実施例】
以下に、本発明の幾つかの実施例を示し、本発明を更に具体的に明らかにすることとするが、本発明が、そのような実施例の記載によって、何等の制約をも受けるものでないことは、言うまでもないところである。また、本発明には、以下の実施例の他にも、更には上記した発明の実施の形態以外にも、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々なる変更、修正、改良等を加え得るものであることが、理解されるべきである。
【0053】
<実施例1>
先ず、板厚:3mm、幅:300mm、長さ:900mmのJIS−A−5454アルミニウム合金のO材よりなる板材を準備し、この板材を、公知のロール加工により円筒形に曲げて、長さ方向の両端部が周方向において互いに突き合わされてなる円筒状成形体を成形した。次いで、この円筒状成形体における突合せ部の裏側に、鋼板からなる裏当て冶具を配置した。
【0054】
そして、引き続き、先端にピンが同心的に設けられた鋼製の回転冶具を用いて、上述の如き状態とされた円筒状成形体の突合せ部を、公知の摩擦撹拌接合手法により摩擦撹拌接合して、かかる突合せ部に沿って延びる接合部を形成し、以て、円筒状成形体が突合せ部において一体的に接合されてなる管体を得た。
【0055】
なお、この円筒状成形体の突合せ部の摩擦撹拌接合操作は、回転治具として、肩部の直径(先端面の直径):16mm、先端のピン直径:4mm、ピン高さ:2.8mmで、且つピンの外周面にM5のねじ加工が施されてなるものを用い、回転速度:1500rpm、回転冶具の突合せ部に対する相対移動速度、つまり接合速度:500mm/min、後傾角度:3°、ピン先端と裏当て治具との距離:0.2mmの条件の下で、実施した。
【0056】
その後、かくして得られた管体に対して、拡管率20%フレア加工を公知に手法により実施して、目的とするリム(実施例1)を得た。そして、この実施例1のリムにおける接合部での亀裂や破断の有無を目視により確認したところ、そのような亀裂や破断は、何等認められなかった。
【0057】
また、かかる実施例1のリムの母材部の板厚と接合部における幅方向中央部位の板厚をそれぞれ測定したところ、母材部の板厚:tが3mmで、接合部における幅方向中央部位の板厚:Tは2.9mmとなっており、かかる部位の摩擦撹拌接合操作の実施前後における板厚減少量:ΔT(=T−t)が0.1mmとなっていた。更に、実施例1のリムを、接合部と母材部とに切断面がそれぞれ形成されるように、径方向において切断して、かかる接合部に形成される切断面と母材部に形成される切断面のビッカース硬さを、JIS Z2244に従って、試験荷重:49Nの条件で、それぞれ測定することにより、実施例1のリムにおける接合部の断面硬さ:Hと母材部の断面硬さ:hとを各々求めたところ、前者の値は、Hvで65であり、また後者の値は、Hvで58であった。
【0058】
そして、それらの測定値に基づいて、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hを算出した結果、その値が0.12であり、また、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tを算出した結果、その値が0.03であった。これらの算出値から、実施例1のリムでは、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hが、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tよりも大きくされていることが確認された。また、かかる実施例1のリムにおける接合部と母材部とを、それぞれ把持して、リムが破断するまで引張した結果、母材部において、引張破断が生じた。
【0059】
<実施例2>
先ず、板厚:3mm、幅:300mm、長さ:900mmのJIS−A−5182アルミニウム合金のO材よりなる板材を準備し、この板材を、公知のロール加工により円筒形に曲げて、長さ方向の両端部が周方向において互いに突き合わされてなる円筒状成形体を成形した。次いで、この円筒状成形体における突合せ部の裏側に、鋼板からなる裏当て冶具を配置した。
【0060】
そして、引き続き、先端にピンが同心的に設けられた鋼製の回転冶具を用いて、上述の如き状態とされた円筒状成形体の突合せ部を、公知の摩擦撹拌接合手法により摩擦撹拌接合して、かかる突合せ部に沿って延びる接合部を形成し、以て、円筒状成形体が突合せ部において一体的に接合されてなる管体を得た。
【0061】
なお、この円筒状成形体の突合せ部の摩擦撹拌接合操作は、回転治具として、実施例1において用いられたものと同じものを用い、回転速度:1350rpm、回転冶具の突合せ部に対する相対移動速度、つまり接合速度:400mm/min、後傾角度:3°、ピン先端と裏当て治具との距離:0.2mmの条件の下で、実施した。
【0062】
その後、かくして得られた管体に対して、拡管率20%フレア加工を公知に手法により実施して、目的とするリム(実施例2)を得た。そして、この実施例2のリムにおける接合部での亀裂や破断の有無を目視により確認したところ、そのような亀裂や破断は、何等認められなかった。
【0063】
また、かかる実施例2のリムの母材部の板厚と接合部における幅方向中央部位の板厚をそれぞれ測定したところ、母材部の板厚:tが3mmで、接合部における幅方向中央部位の板厚:Tは2.9mmとなっており、かかる部位の摩擦撹拌接合操作の実施前後における板厚減少量:ΔT(=T−t)が0.1mmとなっていた。更に、実施例1のリムにおける接合部と母材部のそれぞれの断面硬さを求めたときと同様な方法により、実施例2のリムにおける接合部の断面硬さ:Hと母材部の断面硬さ:hとを、それぞれ求めたところ、前者の値は、Hvで90であり、また後者の値は、Hvで85であった。
【0064】
そして、それらの測定値に基づいて、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hを算出した結果、その値が0.06であり、また、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tを算出した結果、その値が0.03であった。これらの算出値から、実施例2のリムでは、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hが、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tよりも大きくされていることが確認された。また、かかる実施例1のリムにおける接合部と母材部とを、それぞれ把持して、リムが破断するまで引張した結果、母材部において、引張破断が生じた。
【0065】
<比較例1>
先ず、実施例1で用いられたアルミニウム合金板材と同一の板材を準備し、この板材に対して公知のレベラー矯正操作を行なって、かかる操作の実施に伴う加工硬化により、準備された板材を若干硬くした。次いで、この硬化せしめられた板材を、実施例1と同様にして、曲げ加工し、円筒状成形体を成形した後、実施例1と同様な手法と条件により、かかる円筒状成形体の突合せ部に対する摩擦撹拌接合を行なって、円筒状成形体が突合せ部において一体的に接合されてなる管体を得た。
【0066】
その後、かくして得られた管体に対して、拡管率20%フレア加工を公知に手法により実施して、目的とするリム(比較例1)を得た。そして、この比較例1のリムにおける接合部を目視により確認したところ、接合部に亀裂が発生しており、また、かかるリムでは、フレア加工部が全長破断して、所望の形状に成形され得なかったことが、確認された。
【0067】
引き続き、そのような比較例1のリムの母材部の板厚と接合部における幅方向中央部位の板厚をそれぞれ測定したところ、母材部の板厚:tが3mmで、接合部における幅方向中央部位の板厚:Tは2.9mmとなっており、かかる部位の摩擦撹拌接合操作の実施前後における板厚減少量:ΔT(=T−t)が0.1mmとなっていた。更に、実施例1のリムにおける接合部と母材部のそれぞれの断面硬さを求めたときと同様な方法により、比較例1のリムにおける接合部の断面硬さ:Hと母材部の断面硬さ:hとを、それぞれ求めたところ、前者の値は、Hvで64であり、また後者の値は、Hvで63であった。
【0068】
そして、それらの測定値に基づいて、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hを算出した結果、その値が0.02であり、また、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tを算出した結果、その値が0.03であった。これらの算出値から、比較例1のリムでは、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hが、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tよりも小さくなっていることが認められた。
【0069】
<比較例2>
先ず、実施例2で用いられたアルミニウム合金板材と同一の板材を用い、この板材を、実施例1と同様にして、曲げ加工し、円筒状成形体を成形した。次いで、回転治具の後傾角度を6°とした以外は実施例1と同様な条件の下で、実施例1と同様な手法により、かかる円筒状成形体の突合せ部に対する摩擦撹拌接合を行なって、円筒状成形体が突合せ部において一体的に接合されてなる管体を得た。
【0070】
その後、かくして得られた管体に対して、拡管率20%フレア加工を公知に手法により実施して、目的とするリム(比較例2)を得た。そして、この比較例2のリムにおける接合部を目視により確認したところ、接合部に亀裂が発生しており、また、かかるリムでは、フレア加工部が全長破断して、所望の形状に成形され得なかったことが確認された。
【0071】
引き続き、そのような比較例2のリムの母材部の板厚と接合部における幅方向中央部位の板厚をそれぞれ測定したところ、母材部の板厚:tが3mmで、接合部における幅方向中央部位の板厚:Tは2.7mmとなっており、かかる部位の摩擦撹拌接合操作の実施前後における板厚減少量:ΔT(=T−t)が0.3mmとなっていた。更に、実施例1のリムにおける接合部と母材部のそれぞれの断面硬さを求めたときと同様な方法により、比較例1のリムにおける接合部の断面硬さ:Hと母材部の断面硬さ:hとを、それぞれ求めたところ、前者の値は、Hvで91であり、また後者の値は、Hvで63であった。
【0072】
そして、それらの測定値に基づいて、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hを算出した結果、その値が0.07であり、また、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tを算出した結果、その値が0.1であった。これらの算出値から、比較例2のリムでは、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hが、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tよりも小さくなっていることが認められた。
【0073】
これら実施例1及び2のリムと比較例1及び2のリムとを比較すると、本発明手法に規定される特別な条件の下で、特定のアルミニウム合金板材が曲げ加工されてなる円筒状成形体の突合せ部を摩擦撹拌接合することによって、始めて、母材部の断面の硬さに対する接合部の断面の硬さの増加率:(H−h)/hが、母材部の板厚に対する接合部の幅方向中央部位の板厚の減少率:ΔT/tよりも大きくされたリムが得られ、また、そのようなリムにおいては、接合部の幅方向中央部位が薄肉化されていても、亀裂部分や破断部分等が何等存在せず、しかも極めて高い接合強度を有する健全な接合部が形成され、優れた接合品質が安定的に確保され得ることが、明確に認識され得るのである。
【0074】
【発明の効果】
以上の説明からも明らかなように、本発明に従う車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムにあっては、亀裂部分や破断部分等が何等存在しない健全な接合部を有する、優れた接合品質が安定的に確保され得、以て、摩擦撹拌接合による接合方式を利用して製造された従来品に比して、品質性能が、極めて効果的に高められ得るのである。
【0075】
また、本発明に従う車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法によれば、亀裂部分や破断部分等が何等存在しない健全な接合部を有する優れた接合品質が安定的に確保され得て、高い品質性能を発揮する、目的とするアルミニウム合金製リムが、極めて有利に製造され得るのである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明手法に従って製造された車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの一例を示す半截断面説明図である。
【図2】図1に示された車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを製造する工程の一例を示す説明図であって、アルミニウム合金板材を円筒形に曲げ加工して円筒状成形体を成形した状態を示している。
【図3】図1に示された車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを製造する工程の別の例を示す説明図であって、円筒状成形体の突合せ部を摩擦撹拌接合して、管体を成形している状態を示している。
【図4】図1に示された車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを製造する際に実施される摩擦撹拌接合操作での回転治具の姿勢を示す説明図である。
【符号の説明】
10 リム 12 ディスク
14 突合せ部 16 接合部
18 母材部 20 板材
22 円筒状成形体 24 平坦部
25 裏当て治具 26 管体
28 回転冶具 29 エッジ部
30 ピン
Claims (1)
- 5000系アルミニウム合金よりなる板材を円筒形に曲げ加工した後、開先が設けられることなく該板材の厚みに等しい端面の全面に亘って互いに突き合わされる該板材の両端部の突合せ部に対して、ロッド状の回転治具の先端に同心的に設けたピンを、該回転治具と共に一体回転させつつ差し込み、相対的に移動させることによって、該突合せ部を摩擦撹拌接合して、該突合せ部に沿って接合部を形成することにより、所定の管体を成形し、その後、かかる管体を加工して、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムを製造するに際して、
前記板材として、5000系アルミニウム合金のO材よりなる板材を用いて、かかる板材の前記突合せ部の内面に、所定の裏当て治具を接触配置した後、前記回転治具の先端に設けたピンを500〜1800rpmの回転速度で該回転治具と共に一体回転させつつ、該ピンの先端から該裏当て治具までの距離が0.1〜0.4mmとなる深さ位置にまで、該ピンを該突合せ部に差し込み、その後、該回転治具を、該突合せ部の法線に対して該回転治具の中心線が0°以上、5°以下となる角度をもって該ピンの進行方向において後傾させた状態で、該ピンを150〜800mm/minの速度で、該突合せ部に対して相対的に移動せしめて、前記摩擦撹拌接合操作を行なうことにより、形成される前記接合部の断面の硬さ:H(Hv)と、該接合部以外の母材部の断面の硬さ:h(Hv)と、前記摩擦撹拌接合操作の実施前後における、該接合部の幅方向中央部位の板厚減少量:ΔT(mm)と、該母材部の板厚:t(mm)とが、次式:
(H−h)/h≧ΔT/t
を満足するように構成した前記管体を得ることを特徴とする、車両用ホイールにおけるアルミニウム合金製リムの製造方法。
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