以下、図面を参照しながら本発明を実施するための形態を、複数の形態を用いて説明する。各実施形態で先行する実施形態で説明している事項に対応している部分には同一の参照符を付すか、または先行の参照符号に一文字追加し、重複する説明を略する場合がある。また各実施形態にて構成の一部を説明している場合、構成の他の部分は、先行して説明している実施形態と同様とする。各実施形態で具体的に説明している部分の組合せばかりではなく、特に組合せに支障が生じなければ、実施形態同士を部分的に組合せることも可能である。
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に関して、図1〜図5を用いて説明する。図1に示す燃料供給システム10には、第1実施形態による燃料噴射装置100が用いられている。燃料供給システム10は、内燃機関であるディーゼル機関20の燃焼室22に、燃料噴射装置100によって燃料を供給する。燃料供給システム10は、フィードポンプ12、高圧燃料ポンプ13、コモンレール14、機関制御装置17、および複数の燃料噴射装置100を含んで構成されている。
フィードポンプ12は、燃料タンク11内に貯留された燃料を高圧燃料ポンプ13に圧送する電動式のポンプである。フィードポンプ12は、燃料配管12aによって高圧燃料ポンプ13と接続されている。燃料タンク11には、軽油などの燃料が貯留されている。
高圧燃料ポンプ13は、ディーゼル機関の出力軸によって駆動される。高圧燃料ポンプ13は、燃料配管13aによってコモンレール14と接続されている。高圧燃料ポンプ13は、フィードポンプ12によって供給された燃料をさらに昇圧し、コモンレール14に供給する。
コモンレール14は、燃料配管14aを介して各燃料噴射装置100と接続されている。図1では、1つの燃料噴射装置100を示し、他の図示を省略している。燃料配管14aは、燃料を各燃料噴射装置100に供給する燃料流路15を形成している。コモンレール14は、高圧燃料ポンプ13から供給される高圧の燃料を一時的に蓄え、圧力を保持したまま各燃料噴射装置100に分配する。コモンレール14において余剰となった燃料は、減圧されつつ、余剰燃料配管14bに排出される。余剰燃料配管14bは、燃料タンク11に余剰燃料を還流させる戻り流路16を形成している。
機関制御装置17は、燃料噴射制御装置であって、演算回路としてのプロセッサ、RAM、および書き換え可能な不揮発性の記憶媒体を含むマイクロコンピュータ又はマイクロコントローラと、各燃料噴射装置100を駆動する駆動回路とを含む構成である。機関制御装置17は、ディーゼル機関20の稼動状態に応じて各燃料噴射装置100の作動を制御する。
機関制御装置17は、各種センサからの情報を取得し、各部を制御する。機関制御装置17は、たとえばコモンレール14の圧力を検出する圧力センサ14dから取得した燃料圧力を用いて、コモンレール14の圧力を制御する。
燃料噴射装置100には、燃料配管14aおよび戻り配管14cが接続されている。燃料噴射装置100は、燃焼室22を形成するヘッド部材21の挿入孔に挿入された状態で、当該ヘッド部材21に取り付けられている。燃料噴射装置100は、燃料流路15を通じて供給される燃料を、少なくとも1つの噴孔44、本実施形態では複数の噴孔44から燃焼室22内に直接的に噴射する。燃料噴射装置100は、噴孔44からの燃料の噴射を制御する弁機構を備えている。弁機構は、機関制御装置17からの駆動信号に基づいて作動する圧力制御弁35と、噴孔44を開閉する主弁部50と、を含んでいる。
燃料噴射装置100は、噴孔44を開閉するために、燃料流路15を通じて供給される燃料の一部を使用する。噴孔44の開閉に用いられた燃料は、減圧されつつ、戻り配管14cに排出される。戻り配管14cは、余剰燃料配管14bと共に、燃焼に用いられなかった燃料を燃料タンク11に還流させる戻り流路16を形成している。
燃料噴射装置100は、模式的な断面として表した図2に示すように、弁ボデー40、ノズルニードル60、アーマチャ33、駆動部30、リターンスプリング66、およびフローティングプレート70を備えている。弁ボデー40には、噴孔44、高圧燃料通路51a、流入通路52a、流出通路52b、供給通路52c、圧力制御室53、アーマチャ室54、低圧燃料通路51bおよび弁圧室62が形成されている。
噴孔44は、図2に示すように、燃焼室22へ挿入される弁ボデー40において、挿入方向の先端部に形成されている。先端部は、円錐状又は半球状に形成されている。噴孔44は、弁ボデー40の内側から外側に向けて放射状に複数設けられている。噴孔44を通じて、高圧の燃料が燃焼室22内に噴射される。噴孔44を通過することにより、燃料は気化し、空気と混合し易い状態となる。
高圧燃料通路51aは、燃料流路15と接続されている。高圧燃料通路51aは、コモンレール14から供給される高圧の燃料を、流入通路52aおよび供給通路52cに流通させる。流入通路52aは、高圧燃料通路51aと圧力制御室53とを連通させている。流入通路52aは、圧力制御室53に高圧の燃料を流入させる。流出通路52bは、圧力制御室53とアーマチャ室54とを連通させている。流出通路52bは、圧力制御室53内の燃料をアーマチャ室54へ流出させる。供給通路52cは、高圧燃料通路51aを通じて供給される高圧の燃料を、噴孔44まで流通させる。
圧力制御室53は、弁ボデー40の内部において、ノズルニードル60を挟んで噴孔44の反対側に設けられている。圧力制御室53には、燃料流路15および流入通路52aを通じて供給される高圧の燃料が流入する。圧力制御室53内の燃料の圧力は、流入通路52aからの高圧の燃料の流入と、流出通路52bを通じたアーマチャ室54への燃料の流出とにより、変動する。圧力制御室53は、燃料の圧力変動を利用して、ノズルニードル60を往復変位させる。
アーマチャ室54には、流出通路52bを通じて圧力制御室53から燃料が流出する。アーマチャ室54は、アーマチャ33を往復変位可能に収容している。アーマチャ室54内の燃料の圧力は、圧力制御室53内の燃料の圧力よりも低くなっている。
低圧燃料通路51bは、アーマチャ室54および戻り配管14cと接続されている。低圧燃料通路51bは、弁ボデー40内において、高圧燃料通路51aに沿って延伸している。低圧燃料通路51bは、アーマチャ室54内の燃料を、戻り配管14cへ排出させる。
弁ボデー40は、金属材料よって形成されたノズルボデー41、シリンダ56、オリフィスプレート46、およびホルダ48等によって構成されている。ノズルボデー41、オリフィスプレート46、およびホルダ48は、燃料噴射装置100の挿入方向の先端部側から、この順序で並んでいる。
ノズルボデー41は、有底円筒状の部材である。ノズルボデー41には、噴孔44と、供給通路52cとが形成されている。ノズルボデー41は、ノズルニードル収容室43およびシート部45を有している。ノズルニードル収容室43は、円筒穴状に形成されており、ノズルニードル60およびシリンダ56を収容している。ノズルニードル収容室43は、シリンダ56と共に供給通路52cを区画している。シート部45は、先端部の内側に円錐状に形成されており、供給通路52cに臨んでいる。
シリンダ56は、円筒状に形成されている。シリンダ56は、オリフィスプレート46と共に圧力制御室53を区画している。またシリンダ56は、内部に圧力制御室53側と弁圧室62側とを仕切る仕切壁64を有する。仕切壁64は、圧力制御室53と弁圧室62とを連通する連通路63が形成されている。シリンダ56は、ノズルボデー41の内周側に、当該ノズルボデー41と同軸となるように配置されている。圧力制御室53と弁圧室62とは、連通路63によって連通しているので、圧力制御室53と弁圧室62との圧力は同様に変化する。
オリフィスプレート46は、円盤状に形成されている。オリフィスプレート46には、流入通路52aおよび流出通路52bが形成されている。オリフィスプレート46は、制御シート部46aを有している。制御シート部46aは、ホルダ48側を向くオリフィスプレート46の頂面のうちで、流出通路52bの開口を囲むように形成されている。制御シート部46aは、アーマチャ33と共に圧力制御弁35を形成している。
ホルダ48は、筒状に形成されている。ホルダ48には、軸方向に沿って延伸する二つの縦孔が形成されている。各縦孔は、高圧燃料通路51aおよび低圧燃料通路51bをそれぞれ形成している。ホルダ48には、アーマチャ33を収容するアーマチャ室54を内部に形成している。またホルダ48には、駆動部30が収容されている。
ノズルニードル60は、金属材料によって全体として円柱状に形成されている。ノズルニードル60は、ノズルボデー41に収容されている。ノズルニードル60の一端である受圧部61は、シリンダ56の内部に挿入されている。ノズルニードル60は、シリンダ56の内壁に形成された支持面56aに案内され、支持面56aに沿って軸方向である開弁方向および閉弁方向に往復変位可能である。
ノズルニードル60は、開弁方向側の端部に受圧部61を、閉弁方向側の端部にフェース部65を有している。ノズルニードル60は、受圧部61に受ける圧力制御室53の燃料圧力の変動により、ノズルボデー41の軸方向に沿って往復変位し、フェース部65をシート部45に離着座させる。フェース部65は、噴孔44を開閉する主弁部50を、シート部45と共に形成している。シート部45からフェース部65が離れると、噴孔44が開弁されて燃料が噴射される。またシート部45にフェース部65が着座すると、噴孔44が閉弁されて燃料噴射が停止される。
アーマチャ33は、アーマチャ室54に収容されており、アーマチャ室54内を往復変位可能である。アーマチャ33は、強磁性体である金属材料によって形成された二段円柱状の部材である。アーマチャ33は、圧力制御室53からアーマチャ室54への燃料の流出を制御することで、圧力制御室53の圧力を変動させる。アーマチャ33は、吸引部33aおよび制御フェース部33bを有している。吸引部33aは、円形の板状に形成されている。吸引部33aは、駆動部30の発生する磁力により、駆動部30へ向けて吸引される。制御フェース部33bは、吸引部33aの中央から流出通路52bの開口へ向けて突出する円柱状部分の先端に形成されている。制御フェース部33bは、アーマチャ33の変位によって制御シート部46aに押し当てられて、アーマチャ室54に臨む流出通路52bの開口を塞ぐことができる。
駆動部30は、電磁アクチュエータであって、磁力によってアーマチャ33を駆動する。駆動部30は、アーマチャ33の上方に配置される。駆動部30は、ソレノイド31aおよびスプリング31cを有している。ソレノイド31aには、機関制御装置17からパルス状の駆動信号が供給される。ソレノイド31aは、駆動信号の供給により磁界を発生させ、吸引部33aを磁力によって吸引する。スプリング31cは、金属製の線材を螺旋状に巻設したコイルスプリングである。スプリング31cは、アーマチャ33を駆動部30の下面から離間させる方向へ付勢している。
以上の駆動部30は、機関制御装置17からの電力供給が無い場合、スプリング31cの付勢力により、制御フェース部33bを制御シート部46aに着座させる。これにより、圧力制御弁35は、圧力制御室53と燃料流出室であるアーマチャ室54との連通を遮断した閉状態となる。
一方、機関制御装置17からの電力供給がある場合、駆動部30は、アーマチャ33を吸引して、制御シート部46aから制御フェース部33bを離座させる。これにより、圧力制御弁35は、圧力制御室53とアーマチャ室54とを連通させた開状態となる。以上のように、駆動部30は、機関制御装置17の制御によってアーマチャ33を往復変位させることにより、圧力制御弁35を開閉する。その結果、圧力制御室53からアーマチャ室54への燃料の流出が圧力制御弁35によって制御される。
フローティングプレート70は、圧力制御室53に収容され、高圧燃料通路51aが連通した状態と高圧燃料通路51aが遮断した状態とを切替える。またフローティングプレート70は、流出通路52bと圧力制御室53とを連通する挿通孔であるアウトオリフィス71が形成されている。フローティングプレート70は、金属材料によって円盤状に形成されている。フローティングプレート70は、ノズルボデー41の軸方向に沿って往復変位可能な状態で、圧力制御室53内に配置されている。フローティングプレート70は、プレート用スプリング72により、オリフィスプレート46へ向けて付勢されている。フローティングプレート70には、アウトオリフィス71が形成されている。アウトオリフィス71は、フローティングプレート70を板厚方向に貫通する貫通孔である。アウトオリフィス71の流路面積は、流出通路52bの流路面積よりも狭く規定されている。アウトオリフィス71は、フローティングプレート70がオリフィスプレート46に密着した状態において、圧力制御室53から流出通路52bへの燃料の流出を許容し、かつ、流出通路52bに流出する燃料の流量を制限する。
以上の燃料噴射装置100では、圧力制御弁35の開弁により、圧力制御室53内の燃料がアウトオリフィス71および流出通路52bを通じてアーマチャ室54へ流出する。その結果、圧力制御室53内の燃料圧力が下がり、同様に弁圧室62の燃料圧力が下がり、ノズルニードル60は、圧力制御室53側に移動して、噴孔44を開状態とする。そして、圧力制御弁35の閉弁によって圧力制御室53とアーマチャ室54との連通が遮断されると、流入通路52aを通じて供給される燃料がフローティングプレート70をプレート用スプリング72の付勢力に抗して押し下げつつ、圧力制御室53に流入する。その結果、圧力制御室53と弁圧室62との燃料圧力が回復し、ノズルニードル60は、シート部45側に移動して、噴孔44を閉状態とする。
次に、図3を用いて、燃料噴射装置100が機関制御装置17からの駆動電流に応じて燃料噴射を行う動作について説明する。噴射前、すなわち噴射停止中は、ソレノイド31aに駆動電流が流れていない。したがってアーマチャ33は閉弁状態であるので、圧力制御室53および弁圧室62の燃料圧力が高圧で維持されている。したがってノズルニードル60は、弁圧室62の燃料圧力によって押し下げられており、噴孔44の閉状態を維持している。またフローティングプレート70は、高圧燃料通路51aが遮断した状態である。
次に、噴射開始時の動作に関して説明する。噴射するために、機関制御装置17からの駆動電流をソレノイド31aへ流して、圧力制御弁35の開弁を開始させるように開弁制御すると、流出通路52bはアーマチャ室54と連通状態となる。すると圧力制御室53内の燃料がアウトオリフィス71および流出通路52bを通じてアーマチャ室54へ流出する。その結果、圧力制御室53内の燃料圧力が下がり、同様に弁圧室62内の燃料圧力が下がり、ノズルニードル60は、圧力制御室53側に移動して、噴孔44を開状態とする。これによって噴射が開始される。この状態では、圧力制御室53の圧力によって、フローティングプレート70は高圧燃料通路51aが遮断した状態を維持している。噴孔44が開状態になり、ノズルニードル60が最も開弁方向側に変位した上限位置では、受圧部61はシリンダ56との間には隙間がある。したがってノズルニードル60は、上限位置はリターンスプリング66の付勢力によって規制されている。換言すると、ノズルニードル60の上限位置を規制する規制部を有しないフライングニードル方式である。
次に、噴射終了時の動作に関して説明する。噴射を停止するために、機関制御装置17によって駆動電流を停止すると、スプリング31cによって圧力制御弁35が閉弁し、流出通路52bはアーマチャ室54と遮断状態となる。すると流入通路52aを通じて供給される燃料がフローティングプレート70を押し下げつつ、圧力制御室53に流入する。したがってフローティングプレート70は、高圧燃料通路51aを連通した状態になる。
その結果、圧力制御室53および弁圧室62の燃料圧力が回復するので、ノズルニードル60がシート部45側に押し下げられて噴孔44を閉状態とする。さらに圧力制御室53の燃料圧力が回復すると、プレート用スプリング72の付勢力によってオリフィスプレート46へ向けてフローティングプレート70が変位して、高圧燃料通路51aを遮断する。
次に、弁圧室62の構成、およびノズルニードル60の挙動について、図4および図5を用いてさらに詳細に説明する。図2および図4に示すように、仕切壁64には、弁圧室62と圧力制御室53とを仕切り、圧力制御室53と弁圧室62とを連通する連通路63が形成されている。また弁圧室62は、シリンダ56の内壁と仕切壁64とノズルニードル60の受圧部61とに囲まれた空間である。
仕切壁64および受圧部61には、ノズルニードル60の開弁方向(図2の上方)への変位速度を弁圧室62の燃料の圧力によって小さくする減速機構80を有する。仕切壁64および受圧部61には、ノズルニードル60が開弁方向に変位して所定のリフト位置から上限位置に達するまでの間にわたって、受圧部61と仕切壁64との間の連通路63とは離れた位置に燃料溜り室67を形成する。このような燃料溜り室67は、本実施形態では、受圧部61および仕切壁64のうち一方の受圧部61に凸部81を、他方の仕切壁64に凹部82を形成し、受圧部61が有する凸部81と仕切壁64が有する凹部82によって実現される。
凹部82は、仕切壁64の弁圧室62側に形成されている。凹部82は、圧力制御室53側に凹となり、環状であり、連通路63の外周を囲うように連続して形成される。凹部82は、ノズルニードル60が開弁方向に変位すると、受圧部61の凸部81と係合する。
凸部81が凹部82に係合した状態で、凸部81と凹部82とに囲まれた空間が燃料溜り室67となる。燃料溜り室67は、図3の噴射開始時で示すように、連通路63とは離れた位置にある。具体的には、連通路63に連通する連通空間が、仕切壁64と受圧部61とによって形成されている。そして連通空間は、燃料溜り室67と凹部82と凸部81とのクリアランスを介して連通している。
燃料溜り室67の容積は、ノズルニードル60のリフト位置によって異なり、凸部81が凹部82に係合し始めが最も大きい。そして燃料溜り室67の容積は、ノズルニードル60のリフト限界位置に配置されたときが最も小さい。燃料溜り室67の容積が最も大きいときであっても、連通空間の容積よりも小さい。
次に、図4および図5の(1)から(5)の順に、ノズルニードル60の挙動について説明する。(1)駆動部30によってアーマチャ33が吸引されて、圧力制御室53の燃料がアウトオリフィス71を介してアーマチャ室54に抜けて、ノズルニードル60が上昇する。
(2)ノズルニードル60が上昇して、受圧部61の凸部81が仕切壁64の凹部82に侵入し、凹部82と凸部81によって区切られた燃料溜り室67が形成される。凸部81の先端面積は、摺動クリアランス面積よりも大きくなるように、凸部81および凹部82の形状が選択されている。摺動クリアランス面積とは、凹部82と凸部81との隙間の合計面積のことである。ノズルニードル60の上昇に従い、燃料溜り室67の容積は小さくなり、燃料溜り室67の燃圧が上昇する。上昇した燃圧によって凸部81を押し下げる力が発生し、図5に示すように、ノズルニードル60の上昇速度が徐々に低下する。
(3)ノズルニードル60が徐々に上昇して、ノズルニードル60がリフト限界に達すると停止する。リフト限界位置でも、凸部81の先端は凹部82の底に接触せず、離間している。したがってリターンスプリング66によってリフト限界位置が規定されている。そしてアーマチャ33が閉状態となるように、駆動部30が制御される。
(4)アーマチャ33が閉状態となると、圧力制御室53の圧力よりも流入通路52aの圧力が高い状態にあるので、流入通路52aの燃料の圧力によって、フローティングプレート70は押し下げられる。したがって流入通路52aを通じて供給される燃料は、フローティングプレート70を押し下げつつ、圧力制御室53に流入する。これによってフローティングプレート70は、高圧燃料通路51aを連通した状態になる。このとき燃料溜り室67が形成されている状態にある。燃料溜り室67は摺動クリアランスによって流入量が制限され、圧力が上昇しにくく、連通空間を形成する受圧部61に燃料圧力による押し下げ力が作用するが、凸部81は押し下げ力として作用しない。したがって受圧部61の全域に押し下げ力が作用する場合に比べて、ゆっくりとノズルニードル60が下降する。
(5)ノズルニードル60の所定の位置まで下降すると、凸部81と凹部82とが離間し、燃料溜り室67が消失する。すると受圧部61の全体に燃料圧力による押し下げ力が作用する。これによってノズルニードル60の下降速度が上昇し、閉弁位置まで下降する。
図5では、実施例と比較例とを比較して、リフト量と時間との関係を示している。図5で示す(1)〜(5)は、図4の(1)〜(5)に対応している。比較例は、凹部82と凸部81がない構成であり、受圧部61は平坦状であり、仕切壁64も同様に平坦状である。
比較例では、燃料溜り室67が形成されないので、一定の速度でノズルニードルが上昇し、一定の速度で下降する。これに対して実施例では、前述のように、(2)燃料溜り室67が形成されることで上昇速度が低下し、(4)燃料溜り室67が形成されることで下降速度が低下する。これによって比較例に対して噴射期間が長くなるので、噴射量も増加する。
以上説明したように本実施形態の燃料噴射装置100は、ノズルニードル60が上昇するとき、減速機構80によって燃料溜り室67が形成される。燃料溜り室67は、ノズルニードル60が開弁方向に変位して所定のリフト位置から上限位置に達するまでの間にわたって、受圧部61と仕切壁64との間の連通路63とは離れた位置に形成される。燃料溜り室67が形成されると、燃料溜り室67の燃料が圧縮されて、ノズルニードル60の上昇とは反対の力がノズルニードル60に作用する。これによってノズルニードル60の変位速度が小さくなる。ノズルニードル60の変位速度が小さくなると、減速機構80がない構成に比べて、開弁時間を長くすることができる。また減速機構80は、弁圧室62の燃料の圧力を用いて減速している。したがって新たなスプリングなどの別部材を用いることなく、仕切壁64および受圧部61の形状を選択することによって、実現することができる。したがってリターンスプリング66を変更することなく、開弁時間を長くすることができる。
また本実施形態では、減速機構80は、受圧部61に形成されている凸部81と、仕切壁64に形成されており、ノズルニードル60が開弁方向に変位すると凸部81と係合する凹部82とを有する。このような凹部82と凸部81という簡単な構成で、減速機構80を実現することができる。
さらに本実施形態では、フローティングプレート70は、ノズルニードル60が閉弁しているときは、圧力制御室53を閉状態にし、圧力制御室53の圧力が低下すると開状態になって高圧燃料が流入する。したがって本実施形態の燃料噴射装置100は、常時、圧力制御室53に燃料が供給されない静リークレス構造である。したがってノズルニードル60が上昇している間は、燃料が圧力制御室53には供給されないので、リフト限界位置に到達するまでの時間を長くすることができる。
さらに本実施形態の燃料噴射装置100は、ノズルニードル60のリフト限界位置を規制するストッパを有しないフライングニードル構造である。これによってノズルニードル60がリフト限界位置で、ストッパなどに接触しないので、接触による損傷を抑制することができる。
第1実施形態では、アーマチャ33が「制御部材」に相当し、低圧燃料通路51bが「排出通路」に相当し、アーマチャ室54が「燃料流出室」に相当する。また、ノズルニードル60が「弁体」に相当し、フローティングプレート70が「可動プレート」に相当する。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に関して、図6および図7を用いて説明する。本実施形態では、受圧部61に凹部82が形成されており、仕切壁64に凸部81が形成されている点に特徴を有する。
凸部81は、仕切壁64の弁圧室62側に形成されている。凸部81は、シリンダ56の内壁と一体に形成されている。したがって凸部81は、シリンダ56の内壁と仕切壁64と結合部分に設けられた段差ともいうことができる。凹部82は、受圧部61の周縁部に形成されている。凸部81は、ノズルニードル60が開弁方向に変位すると、受圧部61の凹部82と係合する。図6に示すように、凸部81が凹部82に係合した状態で、凸部81と凹部82とに囲まれた空間が燃料溜り室67となる。燃料溜り室67は、連通路63とは離れた位置にある。
次に、図7(1)から(5)の順に、ノズルニードル60の挙動について説明する。(1)駆動部30によってアーマチャ33が吸引されて、圧力制御室53の燃料がアウトオリフィス71を介してアーマチャ室54に抜けて、ノズルニードル60が上昇する。
(2)ノズルニードル60が上昇して、受圧部61の凹部82が仕切壁64の凸部81に係合し、凹部82と凸部81によって区切られた燃料溜り室67が形成される。ノズルニードル60の上昇に従い、燃料溜り室67の容積は小さくなり、燃料溜り室67の燃圧が上昇する。上昇した燃圧によって凹部82を押し下げる力が発生し、ノズルニードル60の上昇速度が徐々に低下する。
(3)ノズルニードル60が徐々に上昇して、ノズルニードル60がリフト限界に達すると停止する。リフト限界位置でも、凹部82の底は凸部81の先端に接触せず、離間している。したがってリターンスプリング66によってリフト限界位置が規定されている。そしてアーマチャ33が閉状態となるように、駆動部30が制御される。
(4)アーマチャ33が閉状態となると、前述のようにフローティングプレート70は押し下げられ、流入通路52aを通じて燃料が圧力制御室53に流入する。このとき燃料溜り室67が形成されている状態にある。燃料溜り室67は摺動クリアランスによって流入量が制限され、圧力が上昇しにくく、連通空間を形成する受圧部61に燃料圧力による押し下げ力が作用するが、凹部82は押し下げ力として作用しない。したがって受圧部61の全域に押し下げ力が作用する場合に比べて、ゆっくりとノズルニードル60が下降する。
(5)ノズルニードル60の所定の位置まで下降すると、凸部81と凹部82とが離間し、燃料溜り室67が消失する。すると受圧部61の全体に燃料圧力による押し下げ力が作用する。これによってノズルニードル60の下降速度が上昇し、閉弁位置まで下降する。
このように本実施形態では、受圧部61に凹部82が形成され、仕切壁64に凸部81が形成されているが、第1実施形態の同様の作用および効果を奏することができる。
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に関して、図8および図9を用いて説明する。本実施形態では、受圧部61および仕切壁64はともに平坦状であり、連通路63の位置に特徴を有する。
仕切壁64は、連通路63の弁圧室62側の開口である下側開口62aが受圧部61の中心からずれた位置に形成されている。下側開口62aは、仕切壁64の中心から外側にずれた位置にある。連通路63の圧力制御室53側の開口である上側開口62bは、受圧部61の中心を含むように開口している。したがって連通路63は、上下方向に対して傾斜した方向に延びている。また圧力制御室53の圧力減少によって、ノズルニードル60が開弁方向側に最も変位したリフト限界位置である上限位置では、仕切壁64と受圧部61との間には隙間がある。
次に、図9(1)から(5)の順に、ノズルニードル60の挙動について説明する。(1)駆動部30によってアーマチャ33が吸引されて、圧力制御室53の燃料がアウトオリフィス71を介してアーマチャ室54に抜けて、ノズルニードル60が上昇する。
(2)連通路63がオフセットした位置にあるので、連通路63が中心にある場合に比べて、燃料が弁圧室62から圧力制御室53に抜けがたい。したがって連通路63がずれた位置とは反対側の位置では、燃料が滞留して燃圧が上昇して、受圧部61を押し下げる力が発生し、ノズルニードル60の上昇速度が徐々に低下する。
(3)ノズルニードル60が徐々に上昇して、ノズルニードル60がリフト限界に達すると停止する。リフト限界位置でも、受圧部61と仕切壁64とは接触せず、離間している。そしてアーマチャ33が閉状態となるように、駆動部30が制御される。
(4)アーマチャ33が閉状態となると、前述のようにフローティングプレート70は押し下げられ、流入通路52aを通じて燃料が圧力制御室53に流入する。弁圧室62にも連通路63を介して燃料が流入するが、連通路63がずれた位置にあるので燃料が流入しにくい。したがって押し下げ力が弱くなり、ゆっくりとノズルニードル60が下降する。
(5)ノズルニードル60の所定の位置まで下降すると、仕切壁64と受圧部61との間隔が広くなるので、下降当初よりも燃料が流入しやすくなる。したがってノズルニードル60の下降速度が上昇し、閉弁位置まで下降する。
このように本実施形態では、連通路63の下側開口62aが中心からずれた位置にある。これによって燃料が弁圧室62から抜けにくくなり、また弁圧室62に入り難くなるので、噴射期間を長くすることができる。したがって噴射量を増加することができる。連通路63の下側開口62aの位置をずらすという簡単な構成で、第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
(その他の実施形態)
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は前述した実施形態に何ら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において種々変形して実施することが可能である。
前述の実施形態の構造は、あくまで例示であって、本発明の範囲はこれらの記載の範囲に限定されるものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲の記載によって示され、さらに特許請求の範囲の記載と均等の意味及び範囲内での全ての変更を含むものである。
前述の第1実施形態では、燃料溜り室67は、ノズルニードル60の軸方向における断面が長方形状の凹部82と凸部81とによって形成されるが、長方形状に限るものではない。たとえば断面円弧状の凸部81および凹部82でもよく、断面に傾斜面を有する三角形状の凹部82および凸部81であってもよい。
前述の第1実施形態では、静リークレス構造であったが、静リークレス構造に限るものではない。圧力制御室53に常時、高圧燃料が供給される構成であってもよい。