[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の実施形態に係る火花点火式のエンジンを詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態に係るエンジンを示す概略断面図、図2は、図1に示されたシリンダヘッドの要部の断面図である。図1及び図2、これら以降の図において、XYZの方向表示を付している。Z方向は気筒軸方向、Y方向はクランク軸の延伸方向、X方向はZ方向及びY方向の双方と直交する方向である。
本実施形態に係るエンジンは、シリンダ及びピストンを含み、自動車等の車両の走行駆動用の動力源として前記車両に搭載される多気筒エンジンである。エンジンは、エンジン本体1と、これに組付けられた図外の吸排気マニホールド及び各種ポンプ等の補機とを含む。エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものである。
本実施形態のエンジン本体1は、点火プラグにて燃焼室内の混合気に強制点火する通常のSI(Spark Ignition)燃焼と、SI燃焼において燃料噴射のタイミングを圧縮上死点(TDC)付近とするリタードSI燃焼と、SI燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSICI燃焼と、を実行することが可能とされている。SI燃焼では、吸気行程の中期に燃料が噴射され、圧縮行程のTDC付近で混合気に強制点火されるが、リタードSI燃焼では、圧縮行程のTDC前後で燃料が噴射され、その後の膨張行程初期に混合気に強制点火される。SICI燃焼では、燃焼室の混合気に強制点火して火炎伝播により燃焼させると共に、燃焼室内の未燃混合気を自己着火により燃焼させる。なお、SICI燃焼において、自己着火を発生させず、火炎伝播により燃焼を完了させる場合もある。これらの燃焼態様は、運転領域に応じて選択される。例えば、SI燃焼は、エンジンの高回転・高負荷領域で、リタードSI燃焼は低回転・高負荷領域で、SICI燃焼は回転数に依らず低負荷領域で、各々選択される。
エンジン本体1は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5(これらは、本発明における「燃焼室構成部材」の一例である)を備える。シリンダブロック3は、図1の紙面に垂直な方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有している。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、各気筒2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。ピストン5の構造については、図3〜図8に基づき後記で詳述する。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の底面4aは燃焼室天井面6Uであり、この燃焼室天井面6Uは、上向きに僅かに凸のペントルーフ型の形状を有している。燃焼室天井面6Uには、吸気ポート9の下流端である吸気側開口部41と、排気ポート10の上流端である排気側開口部42とが形成されている。シリンダヘッド4には、吸気側開口部41を開閉する吸気バルブ11と、排気側開口部42を開閉する排気バルブ12とが組み付けられている。燃焼室天井面6Uの平面図である図9を参照して、本実施形態のエンジン本体1は、ダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、吸気側開口部41と排気側開口部42とは、各気筒2につき2つずつ設けられると共に、吸気バルブ11および排気バルブ12も2つずつ設けられている。
図2に示されるように、吸気バルブ11及び排気バルブ12は、いわゆるポペットバルブである。吸気バルブ11は、吸気側開口部41を開閉する傘状の弁体11aと、この弁体11aから垂直に延びるステム11bとを含む。同様に、排気バルブ12は、排気側開口部42を開閉する傘状の弁体12aと、この弁体12aから垂直に延びるステム12bとを含む。吸気バルブ11の弁体11aは、燃焼室6に臨むバルブ面11cを有する。排気バルブ12の弁体12aは、燃焼室6に臨むバルブ面12cを有する。
吸気バルブ11及び排気バルブ12も、上記の「燃焼室構成部材」に相当する。本実施形態において、燃焼室6を区画する燃焼室壁面は、気筒2の内壁面、ピストン5の上面(+Z側の面)である冠面50、シリンダヘッド4の底面4a、吸気バルブ11のバルブ面11c及び排気バルブ12のバルブ面12cからなる。
シリンダヘッド4には、吸気バルブ11、排気バルブ12を各々駆動する吸気側動弁機構13、排気側動弁機構14が配設されている。これら動弁機構13、14によりクランク軸7の回転に連動して、各吸気バルブ11及び排気バルブ12が駆動される。これら吸気バルブ11及び排気バルブ12の駆動により、吸気バルブ11の弁体11aが吸気側開口部41を開閉し、排気バルブ12の弁体12aが排気側開口部42を開閉する。
吸気側動弁機構13には、吸気側可変バルブタイミング機構(吸気側VVT)15が組み込まれている。吸気側VVT15は、吸気カム軸に設けられた電動式のVVTであり、クランク軸7に対する吸気カム軸の回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、吸気バルブ11の開閉タイミングを変更する。同様に、排気側動弁機構14には、排気側可変バルブタイミング機構(排気側VVT)16が組み込まれている。排気側VVT16は、排気カム軸に設けられた電動式のVVTであり、クランク軸7に対する排気カム軸の回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更することにより、排気バルブ12の開閉タイミングを変更する。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグ17が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。点火プラグ17は、その先端に着火部17Aを備え、この着火部17Aが燃焼室6内に臨む姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。点火プラグ17は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して、燃焼室6内の混合気に点火する。点火プラグ17の配置、着火部17Aの構造などについては、後記で詳述する。
シリンダヘッド4(燃焼室天井面6U)には、先端部から燃焼室6内にガソリンを主成分とする燃料を噴射するインジェクタ18(燃料噴射弁)が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。インジェクタ18には燃料供給管19が接続されている。インジェクタ18は、燃料供給管19を通して供給された燃料を燃焼室6に噴射する。燃料供給管19の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプ(図示せず)が接続されている。この高圧燃料ポンプと燃料供給管19との間には、全気筒2に共通の蓄圧用のコモンレール(図示せず)が設けられている。このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ18に供給されることにより、各インジェクタ18からは、高い圧力の燃料が燃焼室6内に噴射される。
インジェクタ18は、例えばソレノイド型インジェクタ、又はピエゾ型のインジェクタであり、電気信号が与えられることによって開閉される弁装置を備える。この弁装置が「開」とされることで、燃料噴射が実行される。インジェクタ18による燃料噴射のタイミングは、燃料噴射制御部18Aによって制御される。
[ピストンの詳細構造]
図3〜図8を参照して、ピストン5の構造、とりわけ冠面50の構造について詳細に説明する。図3は、ピストン5の斜視図、図4は、ピストン5に対する点火プラグ17及びインジェクタ18の配置関係を示す斜視図、図5は、冠面50の平面図である。また、図6、図7、図8は、それぞれ図5のVI−VI線、VII−VII線、VIII−VIII線断面図である。
ピストン5は、ピストンヘッド5Aと、ピストンヘッド5Aの下方(−Z側)に連設されたスカート部5Sとを含む。ピストンヘッド5Aは円柱体からなり、上記の通り燃焼室6の壁面の一部(底面)を形成する冠面50を上面に備えると共に、気筒2の内壁面と摺接する側周面とを備える。前記側周面には、ピストンリングが嵌め込まれるリング溝が複数備えられている。スカート部5Sは、ピストンヘッド5Aの+X側及び−X側に配置され、ピストン5の往復運動の際の首振り揺動を抑制する。ピストンヘッド5Aの下方には、Y方向に延びるピン孔を区画するピストンボス5Bが設けられている。ピストンボス5Bの前記ピン孔には、ピストンピン81が挿通される(図6)。ピストンピン81は、コネクティングロッド8の小端部8Sと、ピストン5とを連結するピンである。
冠面50は、燃焼室天井面6UとZ方向に対向する面である。冠面50は、その径方向(X方向及びY方向)の概ね中央部分に配置されたキャビティ5Cを含む。キャビティ5Cは、冠面50が下方(−Z側)に凹没された部分であり、例えば上述のリタードSI燃焼を行うモードにおいて、インジェクタ18から燃料の噴射を受ける部分である。冠面50においてキャビティ5Cの外周には、吸気側平面部55、排気側平面部56及び一対の側方上面57が配置されている。吸気側平面部55は、キャビティ5Cの−X側に隣接する平面、排気側平面部56は、キャビティ5Cの+X側に隣接する平面、一対の側方上面57はキャビティ5Cの+Y側及び−Y側に各々隣接する、概ね平坦な面である。
キャビティ5Cは、小キャビティ51(第1キャビティ)、大キャビティ52(第2キャビティ)及び凸部53を含む。小キャビティ51は、図4に示すように、点火プラグ17の着火部17Aに対応する位置、つまり着火部17Aの直下の位置に凹設されている。大キャビティ52は、小キャビティ51に隣接する位置に凹設され、気筒軸方向の上面視(図5)において、小キャビティ51よりも大きい投影面積を有している。小キャビティ51の大きさは、後述する燃料噴射期間PF1のタイミングで、後述するインジェクタ18に設けられた複数の噴射孔のうち隣接する2つの噴射孔の中心軸線(燃料噴射の指向軸)が収まる程度の大きさに設定している。大キャビティ52は、後述する燃料噴射期間PF2で燃料を噴射するタイミングで、残りの噴射孔の中心軸線が収まるように設定されている。その結果、本実施形態では、大キャビティ52の気筒軸方向の投影面積が、小キャビティ51よりも8倍程度大きい態様となっている。凸部53は、冠面50のXY方向の中央付近に配置されている。凸部53は、インジェクタ18のノズルヘッド18Nの直下の位置に凸設されている。
後記で詳述するが、小キャビティ51は、着火部17A周辺の比較的狭い領域に混合気の乱流を集約し、着火部17Aによる強制点火によって火種となる燃焼領域を作る役目を果たす。従って、小キャビティ51の気筒軸方向の投影面積は、着火部17Aの周囲を取り囲む程度の小面積で足りる。また、小キャビティ51のキャビティ形状は、特に限定されものではないが、例えば着火部17Aの鉛直下方を中心とするパラボラ形状は、好ましい形状の一つである。
一方、大キャビティ52は、同様に混合気の乱流を集約する役目を果たすが、小キャビティ51で発生した火炎を火種として、燃焼室6の全体に速やかにその火炎を拡張させることも企図されたキャビティである。また、火炎を燃焼室6の全体に均等に拡張させるためには、図5に例示しているように大キャビティ52は、上面視において冠面50と大略的に同心円となる外形形状を備えていることが望ましい。
小キャビティ51は、当該小キャビティ51を区画する外周縁である第1周縁511を含む。大キャビティ52は、当該大キャビティ52を区画する外周縁である第2周縁521を含む。第1周縁511は、上面視で略扇型の形状であり、凸部53、吸気側平面部55及び大キャビティ52との境界線となる。第2周縁521は、上面視で略C字型の形状を有している。つまり、大キャビティ52は、冠面50の気筒軸方向視において略C字形状を有している。第2周縁521は、凸部53、吸気側平面部55、排気側平面部56、側方上面57及び小キャビティ51との境界線となる。
第1周縁511の一部は、第2周縁521の一部を兼ねる共通周縁部である。具体的には、第1周縁511における、凸部53及び吸気側平面部55と各々境界をなす円弧状部分を除いた部分は、第2周縁521の一部と共通である。この第2周縁521の一部は、前記C字形状の開放部分(開放端縁)に相当する。前記共通周縁部は、図3、図7、図8に示されているように、上方へ突出した稜線54である。すなわち、本実施形態では、稜線54だけを間に介して小キャビティ51と大キャビティ52とが隣り合っている。
図5を参照して、大キャビティ52は、略円形の凸部53を取り囲むC字形状を有している。小キャビティ51は、このような大キャビティ52の、C字形状の開放部分に挟まれる位置に形成されている。これにより、稜線54で区切られてはいるが、小、大キャビティ51、52によって、凸部53と略同心の環状凹部が冠面50に形成されている。
凸部53はインジェクタ18(ノズルヘッド18N)の直下に位置しているので、小キャビティ51及び大キャビティ52はノズルヘッド18Nを取り囲む形状を有しているとも言える。ノズルヘッド18Nは、放射状に燃料を噴射可能なマルチホールタイプのヘッドであり、小、大キャビティ51、52の双方へ燃料噴射が可能である。ノズルヘッド18Nの構造については、図10〜図12を参照して後記で詳述する。
吸気側平面部55は、小キャビティ51の−X側に隣接する平面であり、平面視で概ね扇型の形状を有している。排気側平面部56は、大キャビティ52の+X側に隣接する平面であり、吸気側平面部55よりも小さいが、同様に平面視で概ね扇型の形状を有している。吸気側平面部55及び排気側平面部56は同じ高さ位置にある平面であり、冠面50において最も高い位置にある。一対の側方上面57は、大キャビティ52の+Y側及び−Y側に各々隣接し、大キャビティ52の外側において吸気側平面部55と排気側平面部56とを繋ぐ面である。側方上面57は、吸気側及び排気側平面部55、56よりもやや高さ位置が低い部分であり、燃焼室天井面6Uの緩いペントルーフ形状に応じた緩い凸形状を有している。側方上面57は、吸気、排気バルブ11、12と冠面50との干渉を回避するバルブリセスでもある。
図6を参照して、キャビティ5Cの深さに関し、小キャビティ51の底面512は、大キャビティ52の底面522よりも気筒軸方向(Z方向)において高い位置に形成されている。底面512、522は、それぞれ小、大キャビティ51、52において、吸気側及び排気側平面部55、56に対する窪み深さが最も深い部分である。凸部53は、底面512、522よりも高い位置にあるが、吸気側及び排気側平面部55、56に対しては窪んだ位置にある。
小キャビティの底面512のZ方向における高さ位置をh1、大キャビティ52の底面522のZ方向における高さ位置をh2とするとき、h1はh2よりも高い位置(+Z側)にあり、両者間には所定の高低差dが与えられている。これによりキャビティ5Cの小、大キャビティ51、52からなる環状凹部は、その底面が−X側が+X側よりも高くなるように傾斜する傾向を有している。
[燃焼室構造の詳細]
続いて、冠面50を含む燃焼室6の各部の構造について説明する。図9は、燃焼室天井面6Uの平面図である。燃焼室天井面6Uは、シリンダヘッド4の底面4aと、吸気ポート9の2つの吸気側開口部41を開閉する2つの吸気バルブ11のバルブ面11cと、排気ポート10の2つの排気側開口部42を開閉する2つの排気バルブ12のバルブ面12cとによって構成されている。2つの吸気側開口部41(吸気ポート9)は、−X側においてY方向に2つが並ぶように配置されている。排気側開口部42(排気ポート10)は、+X側においてY方向に2つが並ぶように配置されている。以下、燃焼室6において、吸気ポート9が配置される側を吸気側、排気ポート10が配置される側を排気側という。
燃焼室天井面6Uの吸気側には吸気側天面43が、排気側には排気側天面44が備えられている。吸気側天面43は、2つの吸気側開口部41の間の−X側領域において延びる平坦な面である。排気側天面44は、2つの排気側開口部42の間の+X側領域において延びる平坦な面である。吸気側天面43は、冠面50の吸気側平面部55と対向する面、排気側天面44は、排気側平面部56と対向する面である。バルブ面11c、12cは、概ね半分が側方上面57と対向し、残りの半分が大キャビティ52と対向する。
2つの吸気側開口部41の中間にはプラグ凹部45が凹設されている。プラグ凹部45は、点火プラグ17の着火部17Aを燃焼室6内に露出させるための円柱型の凹部である。インジェクタ18のノズルヘッド18Nは、燃焼室天井面6Uにおいて、X方向及びY方向の略中心位置に配置されている。着火部17Aは、このノズルヘッド18Nよりも吸気側寄りに配置されている。
小、大キャビティ51、52の燃焼室6内の配置に関し、大略的には、小キャビティ51は吸気側、大キャビティ52は排気側に配置されている。図5を参照して、ノズルヘッド18Nと対向する位置にある凸部53よりも−X側が吸気側、+X側が排気側となる。着火部17Aと対向する小キャビティ51は、全体が吸気側に位置している。一方、大キャビティ52は、大部分(少なくとも一部)が排気側に位置している。
大キャビティ52は、凸部53よりも+X側の排気側領域52Aと、凸部53の+Y側及び−Y側に位置する側方領域52Bと、小キャビティ51の+Y側及び−Y側に隣接する隣接領域52Cとを含む。排気側領域52Aは、投影面積及び容積が最も大きい領域であって、排気側(燃料噴射弁よりも排気側寄り)に位置している。側方領域52Bは、吸気側と排気側とのボーダー上に位置している。一方、隣接領域52Cは吸気側に位置している。隣接領域52C及び側方領域52Bは、排気側領域52Aに比べて投影面積が小さい領域であり、排気側領域52Aと小キャビティ51とを繋ぐ領域である。
大キャビティ52の底面522の高さ位置は、排気側領域52Aから隣接領域52Cにかけて同じ高さとしても良いし、異なる高さとしても良い。なお、後述する斜めスワール流FS(図19)の良好な形成のために、排気側領域52Aが最も深く、側方領域52Bから隣接領域52Cに向けて徐々に浅くなるように、底面522の高さ位置を設定しても良い。
次に、図2を主に参照して、点火プラグ17の着火部17Aの構造を説明する。着火部17Aは、中心電極171と、L字型に折曲された角棒からなる接地電極172とを含む。接地電極172は、放電空間となるギャップGを隔てて中心電極171と対向する対向部173と、対向部173に連なる基部174とを含む。基部174は、点火プラグ17の軸心方向に延びている。対向部173は、L字型に突出する接地電極172の先端部であって、基部174と直交する方向に延びている。
着火部17Aは、インジェクタ18のノズルヘッド18Nと小キャビティ51との間に配置され(図4)、且つ、対向部173がノズルヘッド18Nの配置位置から離間する方向を指向するように、燃焼室6に配置されている。つまり、中心電極171と対向部173との間に形成されているギャップGとノズルヘッド18Nとの間に、基部174(接地電極172)が介在するように、着火部17Aがシリンダヘッド4に対して組み付けられている。
既述の通り、ノズルヘッド18Nはマルチホールタイプのヘッドであり、環状に配置された複数の噴射孔18Hを備える。複数の噴射孔18Hは、次述の通り、小キャビティ51を指向した噴射孔18Hを含む。上記の通りの着火部17Aの組み付けにより、当該噴射孔18Hから噴き出される噴射燃料18Eは、接地電極172にブロックされて放電空間であるギャップGに直接入り込むことができない。つまり、噴射燃料18Eが、充分に霧化しない状態でギャップGに入り込まないように工夫されている。
続いて、ノズルヘッド18Nについて詳述する。図10(A)は、ノズルヘッド18Nの概略断面図、図10(B)は、ノズルヘッド18Nの下面の平面図である。図11は、ノズルヘッド18Nが有する噴射孔18H(18H1、18H2)の、燃料噴射の指向軸AX1、AX2を説明するための模式的な平面図である。ノズルヘッド18Nは、互いに異なる方向を指向する複数(図例では10個)の噴射孔18Hを有する。インジェクタ18は、これら噴射孔18Hを通して燃焼室6内に燃料を噴射する。ノズルヘッド18Nの配置位置は、気筒軸方向視で燃焼室天井面6Uの略中心位置である(図2、図4)。
図10(A)を参照して、ノズルヘッド18Nは、ヘッド筐体181を含む。ヘッド筐体181は、内部に燃料を保持する中空部182を備えた筒体であって、下面側に円錐型の下壁面18Bを有する。複数の噴射孔18Hは、それぞれ異なる指向軸AXを持つように下壁面18Bに穿孔されている。図10(B)を参照して、複数の噴射孔18Hは、下壁面18Bの円錐頂点を中心として、気筒軸方向視で環状に等ピッチで配列されている。中空部182には、Z方向に移動自在のプランジャー183が収容されている。プランジャー183が−Z方向へ移動することで、各噴射孔18Hから指向軸AXが延びる方向へ燃料が噴射される。
図10(B)、図11を参照して、複数の噴射孔18Hは、着火部17Aの配置位置を指向する2つの第1噴射孔18H1と、これら第1噴射孔18H1を除く8つの第2噴射孔18H2とからなる。2つの第1噴射孔18H1は、互いに隣接する噴射孔であり、着火部17Aに向かう方向の指向軸AX1を各々有している。8つの第2噴射孔18H2は、燃焼室6の径方向外側へ向かう指向軸AX2を各々有している。2つの指向軸AX1及び8つの指向軸AX2は、周方向に所定のピッチで並んでおり、ノズルヘッド18Nから放射状に延び出している。第1、第2噴射孔18H1、18H2の内径は同じであって、個々噴射孔から噴射される燃料の量は同じである。但し、第2噴射孔18H2の方が数の多い分だけ、第1噴射孔18H1から噴射される燃料の量よりも多くの量の燃料を噴射する。
小、大キャビティ51、52と噴射孔18Hの配置との関係について、第1噴射孔18H1の2つの指向軸AX1は、小キャビティ51を指向しており、第2噴射孔18H2の8つの指向軸AX2は大キャビティ52を指向している。換言すると、小キャビティ51は第1噴射孔18H1から噴射された燃料を捕捉可能な位置に凹設され、大キャビティ52は第2噴射孔18H2から噴射された燃料を捕捉可能な位置に凹設されている。
図12は、2つの第1噴射孔18H1と着火部17Aとの位置関係及び燃料噴射の状況を示す模式図である。着火部17Aは、2つの第1噴射孔18H1の指向軸AX1の間に挟まれる位置に配置されている。これは、過剰な燃料(混合気)が着火部17Aへ向かうことを回避するためである。第1噴射孔18H1から噴射された噴射燃料18Eは、指向軸AX1に沿って進行しつつ、拡散しながら霧化する。本実施形態の配置によれば、噴射燃料18Eの拡散エッジe付近の燃料だけが直接的に着火部17Aに向かう。高負荷運転時のように噴射孔18Hからの燃料噴射量が多い場合に、指向軸AX1に沿った噴射燃料18Eの主流が直接的に着火部17Aに向かうと、着火部17Aに燃料が付着して炭化するプラグ被りが発生することがある。しかし、本実施形態によれば、適切に霧化された燃料を着火部17Aに向かわせることができ、前記プラグ被りを防止することができる。
[燃料噴射タイミング]
図13は、燃料噴射タイミング(燃料噴射期間)及び点火タイミングとクランク角との関係を示すタイムチャートである。本実施形態のエンジン本体1は、燃料噴射制御部18A(図1)が、ピストン5が圧縮TDC近傍にあるときに燃料噴射を実行させるモードI(第1噴射モード)と、ピストン5が圧縮TDC近傍よりも進角側にあるときに燃料噴射を実行させるモードII(第2噴射モード)との間で、燃料噴射タイミングを制御可能とされ、これら燃料噴射期間及びこれに応じた点火タイミングで、少なくとも運転を成立させる。
モードIは、上掲のリタードSI燃焼の実行の際に採用されるもので、燃料噴射期間PF1は圧縮TDCの近傍、点火タイミングは膨張行程初期である。すなわち、TDCよりも前の圧縮行程終盤のクランク角−CA11のタイミングT11からインジェクタ18による燃料噴射が開始され、TDC後の膨張行程開始期のクランク角+CA12のタイミングT12まで燃料噴射が実行される。このタイミングT11〜T12が燃料噴射期間PF1である。その後、膨張行程初期の所定のクランク角+CA13のタイミングT13において、点火プラグ17によって混合気に点火される。一例を挙げると、−CA11は圧縮TDC前10°、+CA12は圧縮TDC後2°、+CA13は圧縮TDC後9°である。このモードIによれば、圧縮TDC前後で燃料が噴射されるので、ノッキングを防止することができる。
モードIIは、上掲のSI燃焼及びSICI燃焼の際に採用されるもので、燃料噴射期間PF2は吸気行程の中期(圧縮TDC近傍よりも進角側)、点火タイミングは圧縮TDC付近である。すなわち、排気TDCからピストン5が半分程度下降するクランク角CA2を挟んだタイミングT21〜T22が、燃料噴射期間PF2とされる。点火タイミングは、圧縮TDCに至るタイミングT23である。一例を挙げると、CA2は排気TDC後70°である。なお、ノッキング防止のため、圧縮TDC前のクランク角CA3で、CA2に加えて追加的に燃料噴射を行わせても良い。
[燃焼動作]
図14は、モードIにおける燃料噴射の状況を示す、燃焼室6の断面図である。上述の通り、モードIではピストン5がTDC付近にあるときに、インジェクタ18のノズルヘッド18Nから燃料が噴射される。図14において、符号18E1は、第1噴射孔18H1から噴射された噴射燃料を、符号18E2は、第2噴射孔18H2から噴射された噴射燃料を、それぞれ模式的に示している。モードIにおいて、着火部17Aを指向する第1噴射孔18H1の噴射燃料18E1は、小キャビティ51に捕捉される。小キャビティ51は、冠面50において、前記捕捉が可能な位置に凹設されている。なお、第2噴射孔18H2の噴射燃料18E2は、大キャビティ52に捕捉される。
吸気行程で吸気側開口部41(図1)を通して吸気ポート9から燃焼室6に導入された吸気は、圧縮行程初期においては、燃焼室6内でタンブル流乃至はスワール流を形成する。圧縮行程が進行し、ピストン5がTDCに近づくに連れて、一定の規則性を持ったタンブル流は徐々に潰され、乱流に変換されてゆく。圧縮行程終盤では、スワール流が少々残存するものの、前記乱流が支配的となる。冠面50にはキャビティ5C(小、大キャビティ51、52)が形成されているので、前記乱流はキャビティ5Cに集約されるようになる。従って、噴射燃料18E1、18E2は、キャビティ5C内で前記乱流によって掻き回され、霧化が促進される。
図15(A)、(B)及び図16(A)、(B)は、モードI(リタードSI燃焼)が採用された場合の、燃焼室6における混合気の燃焼状況を経時的に説明するための、冠面50の平面図である。まず、図15(A)は、図13のタイミングT12の直後の状態を示している。つまり、圧縮TDCの後、膨張行程においてピストン5が下降を開始している共に、圧縮TDCを跨いだ燃料噴射期間PF1が終了した状態である。このとき、冠面50の吸気側平面部55上に、逆スキッシュ流RSが発生する。逆スキッシュ流RSは、冠面50の径方向中心から径方向外側に向かうフローである。
吸気側平面部55は冠面50において最も高い位置にある平面であって、燃焼室天井面6Uの吸気側天面43(図2)と対向している。吸気側天面43は、吸気側平面部55と略平行な面であり、吸気側平面部55はピストン5がTDCにあるとき、冠面50において燃焼室天井面6Uに最も接近する領域となる。このため、ピストン5の下降によって吸気側平面部55と吸気側天面43との間が拡開することにより、両者間の空間には負圧が発生する。前記負圧によって燃焼室6内の流体が引き寄せられ、逆スキッシュ流RSを形成する。この意味で、吸気側平面部55は逆スキッシュ流生成部ということができる。
なお、排気側平面部56も排気側天面44に同様に接近するが、吸気側平面部55は排気側平面部56に比べて投影面積が充分大きい。従って、前記逆スキッシュ流RSは、排気側平面部56の存在によって妨げられない。因みに、排気側平面部56が存在することにより、TDC付近において燃焼室天井面6Uと冠面50との間隔が狭くなり、TDC付近での燃料噴射された場合に、当該燃料が気筒2の内壁面(シリンダライナ)に直接付着することが防止される。
上述の通り燃料は、ノズルヘッド18Nの第1、第2噴射孔18H1、18H2から、小、大キャビティ51、52に向けて噴射される。ここで、大キャビティ52の大部分(排気側領域52A)は、排気側に配置されている。排気側は、燃焼後の高温ガスを排出する排気ポート10を有するので、吸気側よりも高温化している。従って、大キャビティ52に向けて噴射された燃料は、吸気側の熱によって比較的早く霧化し易くなり、短時間で充分に吸気と混合された混合気を得ることができる。
そして、この大キャビティ52の混合気は、逆スキッシュ流RSによって吸気側に引き寄せられ、混合気フローF1が形成される。混合気フローF1は、大キャビティ52のC字形状に沿って吸気側へ流れ、当該C字形状の開放部分に位置する小キャビティ51に向かうフローである。なお、混合気フローF1の形成には、図18に基づき後述するように、吸気側と排気側との混合気の温度差も貢献している。
図15(B)は、図13のタイミングT13の直前の状態を示している。つまり、混合気に強制点火される直前の状態であり、特に小キャビティ51の状態に着目している。点火直前の燃焼室6内においては、タンブル流などの筒内主流がほとんど存在せず(スワール流が僅かに残る)、乱流が支配的となる。この燃焼室6内のうちの一部の乱流FR1が、図15(B)に示されているように、小キャビティ51に集約される。つまり、点火プラグ17の着火部17Aの周囲に乱流FR1が集約される。
この集約は、小キャビティ51という凹部自体が乱流FR1を閉じ込める作用を有すること、上記の逆スキッシュ流RSに伴う混合気フローF1によって、大キャビティ52内の乱流が小キャビティ51へ導かれること、等によって達成される。また、大キャビティ52とは別個に独立して小キャビティ51が設けられていることも、前記集約に貢献している。すなわち、小キャビティ51が存在せず、単に一つの大きなキャビティが冠面50の径方向中央付近に凹設されているだけでは、乱流を当該キャビティに閉じ込めることはできるとしても、着火部17Aの周囲に乱流を集約することはできない。
図16(A)は、図13のタイミングT13の状態を示している。つまり、混合気への強制点火が行われた状態であり、図中に着火部17Aによる着火点IPを示している。この強制点火によって、小キャビティ51内において火炎が高速で拡がる。つまり、小キャビティ51に集約された混合気の乱流FR1が一気に燃焼し、燃焼領域B1を作る。これは、高温の排気側に配置された大キャビティ52で吸気と燃料が混合された混合気が、小キャビティ51に集約されることによって、小キャビティ51内の混合気(乱流FR1)の着火性が良好となっていることによる。なお、図15(B)では記載を省いたが、図16(A)に示す通り、大キャビティ52にも混合気の乱流FR2が閉じ込められている。但し、着火性は小キャビティ51内の乱流FR1に劣るので、この時点では燃焼していない。
図16(B)は、図13のタイミングT13の直後の状態を示している。つまり、燃焼が投影面積の大きい大キャビティ52、ひいては燃焼室6全体に拡がりつつある状態を示している。着火部17Aの周囲に形成された燃焼領域B1は、燃焼室6内の残りの混合気を燃焼させるための火種となる。すなわち、小キャビティ51で発生した火炎が、大キャビティ52に集約された混合気(乱流FR2)へ火炎伝播して、大キャビティ52内に燃焼領域B2を作り、これを拡張させてゆく。また、吸気側平面部55上では、ピストン5の下降に伴う負圧力の作用も相俟って火炎伝播し、燃焼領域B3を作る。
さらに、燃焼領域B1の発生、或いは燃焼領域B1〜B3の発生による、燃焼室6内の高温高圧化によって、大キャビティ52及びその他の残部領域において自己着火B4による燃焼も発生する。これら火炎伝播及び自己着火によって、大キャビティ52内の混合気及びその他の残部領域において燃焼が急速に拡がる。従って、燃焼室6全体に火炎を高速で拡大させ、燃焼室6の空間全体を利用した均質燃焼を実現させることができる。なお、自己着火B4による燃焼が発生せず、火炎伝播のみで燃焼が完遂される場合もある。
図17は、モードIIにおける燃料噴射の状況を示す、燃焼室6の断面図である。モードIでは、ピストン5がTDCから相当下降した位置にあるときに、ノズルヘッド18Nから燃料が噴射される。第2噴射孔18H2から噴射された噴射燃料18E2は、大キャビティ52に向けて噴射され、当該大キャビティ52によって捕捉される。従って、噴射燃料18E2は、冠面50で跳ね返され、気筒2の内壁面へ付着するようなことはない。なお、第1噴射孔18H1から噴射された噴射燃料18E1は、小キャビティ51に捕捉される。
図18は、モードII(SI燃焼、SICI燃焼)が採用された場合に、燃焼室6において発生する混合気フローF2を説明するための斜視図である。上述の通り、小キャビティ51は比較的低温の吸気側に、大キャビティ52は比較的高温の排気側寄りに、各々形成されている。燃焼室6の燃焼室壁面は、排気側の壁面の方が吸気側よりも高温となることから、燃焼室6内の混合気の温度も排気側がより高温となる。従って、大キャビティ52(排気側領域52A)に存在する混合気FAも高温となり、当該混合気FAは燃料の霧化が良好に進んだものとなる。
圧縮行程においてピストン5が上昇しTDCに近づくにつれ、燃焼室6内の吸気側空間と排気側空間との間における混合気の温度差によって、図18に示すような混合気フローF2が発生する。すなわち、排気側の混合気FAの方が吸気側よりも高温であることから、当該温度差に基づき、混合気FAが大キャビティ52の有するC字形状に沿って流れる混合気フローF2が形成される。この混合気フローF2によって、高温で良好に燃料が霧化された混合気FAが、小キャビティ51に供給されることになる。つまり、着火部17Aの周囲に着火性に優れる混合気FAが供給される。従って、良好な着火性を得ることができる。
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係る火花点火式のエンジンによれば、次のような作用効果を奏する。本実施形態のエンジン本体1において、燃焼室6の底面を区画するピストン5の冠面50は、小キャビティ51と大キャビティ52とを含む。小キャビティ51は、ピストン5が圧縮TDC近傍にあるときに燃料噴射を実行させるモードIにおいて、点火プラグ17の着火部17Aの配置位置を指向する第1噴射孔18H1から噴射された燃料を捕捉可能な位置において、冠面50に凹設されている。大キャビティ52は、ピストン5が圧縮TD近傍よりも進角側にあるときに燃料噴射を実行させるモードIIにおいて、第2噴射孔18H2から噴射された燃料を捕捉可能な位置において、冠面50に凹設されている。
このため、モードIが実行される場合には、小キャビティ51によって着火部17Aに向けて第1噴射孔18H1から噴射された燃料が捕捉される。従って、ピストン5が圧縮TDC近傍にあるときに燃料が噴射される場合でも、着火部17Aの周囲に燃料を含む混合気の乱流を集約させ、着火部17Aによる着火性を良好にすることができる。また、小キャビティ51内において火炎を高速で拡げることができる。一方、モードIIが実行される場合には、大キャビティ52によって第2噴射孔18H2から噴射された燃料が捕捉される。すなわち、第2噴射孔18H2からの噴射燃料18E2が冠面50で跳ね返されて気筒2の内周壁に付着、炭化するといった不具合を起こさないよう、大キャビティ52で噴射燃料18E2がトラップされる。従って、モードIIにおいて均質燃焼を実現することができる。
ノズルヘッド18Nが備える複数の噴射孔18Hのうち、隣接する2つの噴射孔が第1噴射孔18H1とされ、着火部17Aは、2つの第1噴射孔18H1が各々有する燃料噴射の指向軸AX1の間に挟まれる位置に配置されている(図12)。これにより、適切に霧化された燃料を着火部17Aに向かわせることができる。例えば、高負荷運転時のように噴射孔18Hからの燃料噴射量が多い場合には、指向軸AX1に沿って拡散しながら霧化する燃料の拡散エッジe付近だけが着火部17Aに向かう。このため、過剰な燃料(混合気)が着火部17Aへ向かうことを回避でき、プラグ被りを防止できる。また、噴射孔18Hからの燃料噴射量が比較的少ない場合には、燃焼室6内で発生するスワール流等を利用して、混合気を着火部17Aへ輸送させることができる。
本実施形態では、小キャビティ51が比較的低温となる吸気側に配置され、大キャビティ52が比較的高温となる排気側寄りに配置されている。そして、孔数が多く総量として多くの量の燃料を噴射する第2噴射孔18H2から噴射された燃料が、大キャビティ52にて捕捉される。つまり、より多くの量の燃料が比較的高温となる大キャビティ52へ噴射されるので、燃焼室6全体として燃料の霧化を促進することができる。
また、小キャビティ51が点火プラグ17の着火部17Aに対応する位置に配置され、この小キャビティ51に隣接する位置に、気筒軸方向の投影面積が大きい大キャビティ52が配置されている。着火部17Aの直下位置に小キャビティ51が配置されているので、図15(B)に示したように、当該着火部17Aの周囲に混合気の乱流FR1が集約されるようになる。とりわけ、大キャビティ52は気筒軸方向視において、インジェクタ18を取り囲むようなC字形状を有し、小キャビティ51は、前記C字形状の開放部分に挟まれる位置に形成されている。従って、比較的高温の排気側で充分に霧化された混合気が、ピストン5がTDC付近に到達した際に、大キャビティ52のC字形状に沿って、小キャビティ51に集約される。
このため、着火部17Aによる前記混合気への着火性が良好となり、また、小キャビティ51内において火炎を高速に拡げることができる。この小キャビティ51に隣接して、投影面積が大きい大キャビティ52が配置されている。当該大キャビティ52にも混合気の乱流FR2が集約されるため、小キャビティ51で発生した火炎が大キャビティ52内へ火炎伝播する、或いは前記火炎の発生に伴う高温化により自己着火が発生することによって、急速に大キャビティ52内の混合気、燃焼室6内の他の領域の混合気が燃焼する。従って、燃焼室6全体に火炎を高速で拡大させ、燃焼室6空間の全体を利用した均質燃焼を実現させることができる。また、ピストン5のTDE付近で混合気を高速燃焼させることができ、結果としてエンジン本体1に大きなエンジントルクを発生させることが可能となる。
また、小キャビティ51と大キャビティ52とが、稜線54を間に介して隣り合うように配置されている。従って、小キャビティ51と大キャビティ52との間にプラトー部が存在するような態様に比較して、図16(A)に例示したステップにおいて、小キャビティ51で発生した火炎が大キャビティ52内の混合気にスムースに燃え移るようにすることができる。これにより、燃焼室6全体としてより高速な燃焼を行わせることができる。
さらに、図6に示したように、小キャビティ51の底面512は、大キャビティ52の底面522よりも気筒軸方向において高い位置に形成されている。このため、ピストン5がTDC付近にあるときに燃焼室6内で残存するスワール流を、図19に示すように、大キャビティ52から小キャビティ51へ向けて斜め上方へせり上がる斜めスワール流FSとすることができる。斜めスワール流FSは、小キャビティ51の上方領域において燃焼室天井面6Uに到達し得る。
着火部17Aは、燃焼室天井面6Uのプラグ凹部45に収容されている。プラグ凹部45の近傍には、着火時に発生するガス(残留ガス)が滞留しがちとなる。本実施形態では、着火部17Aは、小キャビティ51に対応する位置に配置されている。そして、斜めスワール流FSは、プラグ凹部45を通過する。このため、着火部17Aに存在する残量ガスを、斜めスワール流FSによって除去することができる。従って、着火部17Aに新鮮な混合気を与え、小キャビティ51内において火炎をより高速で拡げることができる。
なお、より良好な斜めスワール流FSの形成のため、大キャビティ52の底面522の高さを、排気側が最も深く、C字形状の開放部分付近(稜線54付近)に向けて徐々に浅くなるように設定することが望ましい。このように、底面522が排気側領域52A(図5)から隣接領域52Cにかけてせり上がる底面522とすることで、より確実に着火部17Aを経由する斜めスワール流FSを発生させ易くすることができる。
[変形実施形態]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、次のような変形実施形態を取り得る。
(1)上記実施形態では、小キャビティ51と大キャビティ52とが、稜線54を間に介して隣り合うように配置されている例を示したが、両者は互いに隣接している限りにおいて、実質的に離間していても良い。例えば、小キャビティ51と大キャビティ52との間に平面部を設け、両者を独立的な凹部としても良い。
(2)上記実施形態では、燃焼室天井面6Uに2つの吸気側開口部41が設けられる例を示した。そのうちの一つの吸気側開口部41に連通する吸気ポート9に、スワールコントロールバルブを設け、燃焼室6におけるスワール流を積極的に発生させることが可能な構成としても良い。スワール流を積極的に活用する状況において、前記スワールコントロールバルブによって一方の吸気側開口部41を閉止し、気筒軸回りの渦流であるスワール流を発生させ易くする。例えば、上掲のSI燃焼やSICI燃焼(モードII)の燃焼において、前記スワールコントロールバルブを動作させることが望ましい。
また、スワール流を積極的に作り出すことで、着火部17Aへの混合気の輸送を促進することができる。図20は、スワールコントロールの状況を示す燃焼室6の平面図である。ここでは、図略のスワールコントロールバルブにより、+Y側の吸気側開口部41が閉止されている状態を示している。この場合、−Y側の吸気側開口部41から燃焼室6へ吸気が流入し、スワール流FSを形成する。上述の通り、着火部17Aは、2つの第1噴射孔18H1の指向軸AX1に挟まれるように配置されている。例えば低負荷運転時のように噴射孔18Hからの燃料噴射量が少ない場合には、前記スワール流FSによって混合気を着火部17Aへ良好に輸送させることができる。