(第1の実施形態)
[エンジンの全体構成]
以下、図面に基づいて、本発明の第1実施形態に係る火花点火式のエンジンの燃焼室構造を詳細に説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係るエンジンの燃焼室構造が適用されるエンジンを示す概略断面図、図2は、図1に示されたシリンダヘッドの要部の断面図である。図1、図2及びこれら以降の図においては、XYZの方向表示を付している。Z方向は気筒軸方向、Y方向はクランク軸の延伸方向、X方向はZ方向及びY方向の双方と直交する方向である。
本実施形態に係るエンジンは、気筒(シリンダ)及びピストンを含み、自動車等の車両の走行駆動用の動力源として前記車両に搭載される多気筒エンジンである。エンジンは、エンジン本体1と、これに組付けられた図外の吸排気マニホールド及び各種ポンプ等の補機とを含む。エンジン本体1に供給される燃料は、ガソリンを主成分とするものである。
本実施形態のエンジン本体1は、点火プラグにて燃焼室内の混合気に強制点火する通常のSI(Spark Ignition)燃焼と、SI燃焼において燃料噴射のタイミングを圧縮上死点(TDC)付近とするリタードSI燃焼と、SI燃焼とCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSICI燃焼と、を実行することが可能とされている。SI燃焼では、吸気行程の中期に燃料が噴射され、圧縮行程のTDC付近で混合気に強制点火されるが、リタードSI燃焼では、圧縮行程のTDC前後で燃料が噴射され、その後の膨張行程初期に混合気に強制点火される。SICI燃焼では、燃焼室の混合気に強制点火して火炎伝播により燃焼させると共に、燃焼室内の未燃混合気を自己着火により燃焼させる。なお、SICI燃焼において、自己着火を発生させず、火炎伝播により燃焼を完了させる場合もある。これらの燃焼態様は、運転領域に応じて選択される。例えば、SI燃焼は、エンジンの高回転・高負荷領域で、リタードSI燃焼は低回転・高負荷領域で、SICI燃焼は回転数に依らず低負荷領域で、各々選択される。
エンジン本体1は、シリンダブロック3、シリンダヘッド4及びピストン5を備える。シリンダブロック3は、図1の紙面に垂直な方向に並ぶ複数の気筒2(図中ではそのうちの1つのみを示す)を有している。シリンダヘッド4は、シリンダブロック3の上面に取り付けられ、気筒2の上部開口を塞いでいる。ピストン5は、各気筒2に往復摺動可能に収容されており、コネクティングロッド8を介してクランク軸7と連結されている。ピストン5の往復運動に応じて、クランク軸7はその中心軸回りに回転する。ピストン5の構造については、図3〜図7に基づき後記で詳述する。
ピストン5の上方には燃焼室6が形成されている。シリンダヘッド4には、燃焼室6と連通する吸気ポート9及び排気ポート10が形成されている。シリンダヘッド4の底面4aは燃焼室天井面6Uであり、この燃焼室天井面6Uは、上向きに僅かに凸のペントルーフ型の形状を有している。燃焼室天井面6Uには、吸気ポート9の下流端である吸気側開口部41と、排気ポート10の上流端である排気側開口部42とが形成されている。シリンダヘッド4には、吸気側開口部41を開閉する吸気バルブ11と、排気側開口部42を開閉する排気バルブ12とが組み付けられている。燃焼室天井面6Uの平面図である図8を参照して、本実施形態のエンジン本体1は、ダブルオーバーヘッドカムシャフト式(DOHC)エンジンであり、吸気側開口部41と排気側開口部42とは、各気筒2につき2つずつ設けられると共に、吸気バルブ11および排気バルブ12も2つずつ設けられている。
図2に示されるように、吸気バルブ11及び排気バルブ12は、いわゆるポペットバルブである。吸気バルブ11は、吸気側開口部41を開閉する傘状の弁体11aと、この弁体11aから垂直に延びるステム11bとを含む。同様に、排気バルブ12は、排気側開口部42を開閉する傘状の弁体12aと、この弁体12aから垂直に延びるステム12bとを含む。吸気バルブ11の弁体11aは、燃焼室6に臨むバルブ面11cを有する。排気バルブ12の弁体12aは、燃焼室6に臨むバルブ面12cを有する。
本実施形態において、燃焼室6を区画する燃焼室壁面は、気筒2の内壁面、ピストン5の上面(+Z側の面)である冠面50、シリンダヘッド4の底面4a、吸気バルブ11のバルブ面11c及び排気バルブ12のバルブ面12cからなる。すなわち、シリンダブロック3、シリンダヘッド4、ピストン5及びバルブ11、12は、燃焼室6を構成する燃焼室構成部材と言える。
シリンダヘッド4には、吸気バルブ11、排気バルブ12を各々駆動する吸気側動弁機構13、排気側動弁機構14が配設されている。これら動弁機構13、14によりクランク軸7の回転に連動して、吸気バルブ11および排気バルブ12が駆動される。これら吸気バルブ11および排気バルブ12の駆動により、吸気バルブ11の弁体11aが吸気側開口部41を開閉し、排気バルブ12の弁体12aが排気側開口部42を開閉する。
吸気側動弁機構13には、吸気側可変バルブタイミング機構(吸気側VVT)15が組み込まれており、同様に、排気側動弁機構14には、排気側可変バルブタイミング機構(排気側VVT)16が組み込まれている。
シリンダヘッド4には、燃焼室6内の混合気に点火エネルギーを供給する点火プラグ17が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。点火プラグ17は、その先端に着火部17Aを備え、この着火部17Aが燃焼室6内に臨む姿勢でシリンダヘッド4に取り付けられている。点火プラグ17は、図外の点火回路からの給電に応じてその先端から火花を放電して、燃焼室6内の混合気に点火する。点火プラグ17の配置、着火部17Aの構造などについては、後記で詳述する。
シリンダヘッド4(燃焼室天井面6U)には、先端部から燃焼室6内にガソリンを主成分とする燃料を噴射するインジェクタ18(燃料噴射弁)が、各気筒2につき1つずつ取り付けられている。インジェクタ18には燃料供給管19が接続されている。インジェクタ18は、燃料供給管19を通して供給された燃料を燃焼室6に噴射する。燃料供給管19の上流側には、クランク軸7と連動連結されたプランジャー式のポンプ等からなる高圧燃料ポンプ(図示せず)が接続されている。この高圧燃料ポンプと燃料供給管19との間には、全気筒2に共通の蓄圧用のコモンレール(図示せず)が設けられている。このコモンレール内で蓄圧された燃料が各気筒2のインジェクタ18に供給されることにより、各インジェクタ18からは、高い圧力の燃料が燃焼室6内に噴射される。
なお、図1において、符号91は、スワールコントロールバルブ(SCV/本発明のスワール流生成部に相当する)であり、2つの吸気側開口部41に連通する吸気ポート9のうちの一つに設けられている。前記エンジン本体1では、運転状態(モード)に応じて、このSCV91により一方の吸気ポート9(吸気側開口部41)を閉止又はそれに近い状態とすることにより、燃焼室6内に気筒軸周りの渦流であるスワール流を発生させ、着火性及び燃焼性を向上させている。当例では、前記SI燃焼やSICI燃焼が実行される際に、図外の制御回路の制御によりSCV91が駆動され、前記一方の吸気ポート9(吸気側開口部41)が閉止又はそれに近い状態とされる。
[ピストンの詳細構造]
図3〜図7を参照して、ピストン5の構造、とりわけ冠面50の構造について詳細に説明する。図3は、ピストン5に対する点火プラグ17及びインジェクタ18の配置関係を示す斜視図、図4は、冠面50の平面図である。また、図5、図6は、それぞれ図4のV−V線、VI−VI線断面図であり、図7は、図4のVII−VII線断面の展開図である。
ピストン5は、ピストンヘッド5Aと、ピストンヘッド5Aの下方(−Z側)に連設されたスカート部5Sとを含む。ピストンヘッド5Aは円柱体からなり、上記の通り燃焼室6の壁面の一部(底面)を形成する冠面50を上面に備えると共に、気筒2の内壁面と摺接する側周面とを備える。前記側周面には、ピストンリングが嵌め込まれるリング溝が複数備えられている。スカート部5Sは、ピストンヘッド5Aの+X側及び−X側に配置され、ピストン5の往復運動の際の首振り揺動を抑制する。ピストンヘッド5Aの下方には、Y方向に延びるピン孔を区画するピストンボス5Bが設けられている。ピストンボス5Bの前記ピン孔には、ピストンピン81が挿通される(図5)。ピストンピン81は、コネクティングロッド8の小端部8Sと、ピストン5とを連結するピンである。
冠面50は、燃焼室天井面6UとZ方向に対向する面である。冠面50は、その径方向(X方向及びY方向)の概ね中央部分に配置されたキャビティ5Cを含む。キャビティ5Cは、冠面50が下方(−Z側)に凹没された部分であり、例えば上述のリタードSI燃焼を行うモードにおいて、インジェクタ18から燃料の噴射を受ける部分である。冠面50においてキャビティ5Cの外周には、吸気側平面部55、排気側平面部56及び一対の側方上面57が配置されている。吸気側平面部55は、キャビティ5Cの−X側に隣接する平面、排気側平面部56は、キャビティ5Cの+X側に隣接する平面、一対の側方上面57はキャビティ5Cの+Y側及び−Y側に各々隣接する、概ね平坦な面である。
キャビティ5Cは、小キャビティ51(本発明のプラグ対応領域/第1キャビティに相当する)、大キャビティ52(本発明の下段部/第2キャビティに相当する)及び山型の形状を有する凸部53を含む。小キャビティ51は、図3に示すように、点火プラグ17の着火部17Aに対応する位置、つまり着火部17Aの直下の位置を含む領域に凹設されている。大キャビティ52は、小キャビティ51に隣接する位置に凹設され、気筒軸方向の上面視(図4)において、小キャビティ51よりも大きい投影面積を有している。本実施形態では、大キャビティ52の気筒軸方向の投影面積が、小キャビティ51よりも8倍程度大きい態様を例示している。凸部53は、冠面50のXY方向の中央付近に配置されている。凸部53は、インジェクタ18のノズルヘッド18Nの直下の位置に凸設されている。すなわち、インジェクタ18(ノズルヘッド18N)は、冠面50のXY方向の中央部分に対向して配置されている。
後記で詳述するが、小キャビティ51は、着火部17A周辺の比較的狭い領域に混合気を集約し、着火部17Aによる強制点火によって火種となる燃焼領域を作る役目を果たす。従って、小キャビティ51の気筒軸方向の投影面積は、着火部17Aの周囲を取り囲む程度の小面積で足りる。小キャビティ51のキャビティ形状は、インジェクタ18から当該小キャビティ51に噴射される燃料を燃焼室天井面6Uに向かって案内できる形状、すなわち燃料を点火プラグ17の着火部17Aに向かって案内できる形状とされている(図13参照)。小キャビティ51のキャビティ形状は特に限定されものではないが、例えば着火部17Aの鉛直下方を中心とするパラボラ形状は、好ましい形状の一つである。
一方、大キャビティ52は、同様に混合気を集約する役目を果たすが、小キャビティ51で発生した火炎を火種として、燃焼室6の全体に速やかにその火炎を拡張させることが企図されたキャビティである。このため、大キャビティ52の投影面積はなるべく大きいことが望ましく、小キャビティ51の投影面積に対して5〜15倍程度の投影面積を具備していることが望ましい。また、火炎を燃焼室6の全体に均等に拡張させるためには、図4に例示しているように、上面視において冠面50と大略的に同心円となる外形形状を備えていることが望ましい。
小キャビティ51は、当該小キャビティ51を区画する外周縁である第1周縁511を含む。大キャビティ52は、当該大キャビティ52を区画する外周縁である第2周縁521を含む。第1周縁511は、上面視で略扇型の形状であり、凸部53、吸気側平面部55及び大キャビティ52との境界線となる。第2周縁521は、上面視で略C字型の形状を有している。つまり、大キャビティ52は、冠面50の気筒軸方向視において略C字形状を有している。第2周縁521は、凸部53、吸気側平面部55、排気側平面部56、側方上面57及び小キャビティ51との境界線となる。
第1周縁511の一部は、第2周縁521の一部を兼ねる共通周縁部である。具体的には、第1周縁511における、凸部53及び吸気側平面部55と各々境界をなす円弧状部分を除いた部分は、第2周縁521の一部と共通である。この第2周縁521の一部は、前記C字形状の開放部分(開放端縁)に相当する。前記共通周縁部は、図3、図6に示されているように、上方へ突出した稜線54である。すなわち、本実施形態では、稜線54だけを間に介して小キャビティ51と大キャビティ52とが隣り合っている。
図4を参照して、大キャビティ52は、略円形の凸部53を取り囲むC字形状を有している。小キャビティ51は、このような大キャビティ52の、C字形状の開放部分に挟まれる位置に形成されている。これにより、稜線54で区切られてはいるが、小、大キャビティ51、52によって、凸部53と略同心の環状凹部が冠面50に形成されている。
凸部53はインジェクタ18(ノズルヘッド18N)の直下に位置しているので、小キャビティ51及び大キャビティ52はノズルヘッド18Nを取り囲む形状を有しているとも言える。ノズルヘッド18Nは、放射状に燃料を噴射可能なマルチホールタイプのヘッドであり、ノズルヘッド18Nからピストン5のTDC又はその近傍付近で燃料が噴射される場合には、当該燃料は小、大キャビティ51、52(上記の環状凹部)に向かうことになる。つまり、ノズルヘッド18Nは、小、大キャビティ51、52の双方へ燃料噴射が可能である。
吸気側平面部55は、小キャビティ51の−X側に隣接する平面であり、平面視で概ね扇型の形状を有している。排気側平面部56は、大キャビティ52の+X側に隣接する平面であり、吸気側平面部55よりも小さいが、同様に平面視で概ね扇型の形状を有している。吸気側平面部55及び排気側平面部56は同じ高さ位置にある平面であり、冠面50において最も高い位置にある。一対の側方上面57は、大キャビティ52の+Y側及び−Y側に各々隣接し、大キャビティ52の外側において吸気側平面部55と排気側平面部56とを繋ぐ面である。側方上面57は、吸気側及び排気側平面部55、56よりもやや高さ位置が低い部分であり、燃焼室天井面6Uの緩いペントルーフ形状に応じた緩い凸形状を有している。側方上面57は、吸気、排気バルブ11、12と冠面50との干渉を回避するバルブリセスでもある。
図5を参照して、キャビティ5Cの深さに関し、小キャビティ51の底面512は、大キャビティ52の底面522よりも気筒軸方向(Z方向)において高い位置に形成されている。つまり、小キャビティ51は大キャビティ52よりも気筒軸方向において高い位置に形成されている。換言すれば、小キャビティ51は大キャビティ52よりも気筒軸方向において相対的に燃焼室天井面6Uに近くなるように形成されている。底面512、522は、それぞれ小、大キャビティ51、52において、吸気側及び排気側平面部55、56に対する窪み深さが最も深い部分である。凸部53は、底面512、522よりも高い位置にあるが、吸気側及び排気側平面部55、56に対しては窪んだ位置にある。
小キャビティの底面512のZ方向における高さ位置をh1、大キャビティ52の底面522のZ方向における高さ位置をh2とするとき、h1はh2よりも高い位置(+Z側)にあり、両者間には所定の高低差dが与えられている。これによりキャビティ5Cの小、大キャビティ51、52からなる環状凹部は、その底面が−X側が+X側よりも高くなるように傾斜する傾向を有している。
[燃焼室構造の詳細]
続いて、冠面50を含む燃焼室6の各部の構造について説明する。図8は、燃焼室天井面6Uの平面図である。燃焼室天井面6Uは、シリンダヘッド4の底面4aと、吸気ポート9の2つの吸気側開口部41を開閉する2つの吸気バルブ11のバルブ面11cと、排気ポート10の2つの排気側開口部42を開閉する2つの排気バルブ12のバルブ面12cとによって構成されている。2つの吸気側開口部41(吸気ポート9)は、−X側においてY方向に2つが並ぶように配置されている。排気側開口部42(排気ポート10)は、+X側においてY方向に2つが並ぶように配置されている。以下、燃焼室6において、吸気ポート9が配置される側を吸気側、排気ポート10が配置される側を排気側という。
燃焼室天井面6Uの吸気側には吸気側天面43が、排気側には排気側天面44が備えられている。吸気側天面43は、2つの吸気側開口部41の間の−X側領域において延びる平坦な面である。排気側天面44は、2つの排気側開口部42の間の+X側領域において延びる平坦な面である。吸気側天面43は、冠面50の吸気側平面部55と対向する面、排気側天面44は、排気側平面部56と対向する面である。バルブ面11c、12cは、概ね半分が側方上面57と対向し、残りの半分が大キャビティ52と対向する。
2つの吸気側開口部41の中間にはプラグ凹部45が凹設されている。プラグ凹部45は、点火プラグ17の着火部17Aを燃焼室6内に露出させるための円柱型の凹部である。インジェクタ18のノズルヘッド18Nは、燃焼室天井面6Uにおいて、X方向及びY方向の略中心位置に配置されている。着火部17Aは、このノズルヘッド18Nよりも吸気側寄りに配置されている。
小、大キャビティ51、52の燃焼室6内の配置に関し、大略的には、小キャビティ51は吸気側、大キャビティ52は排気側に配置されている。図4を参照して、ノズルヘッド18Nと対向する位置にある凸部53よりも−X側が吸気側、+X側が排気側となる。着火部17Aと対向する小キャビティ51は、全体が吸気側に位置している。一方、大キャビティ52は、大部分(少なくとも一部)が排気側に位置している。
大キャビティ52は、凸部53よりも+X側の排気側領域52Aと、凸部53の+Y側及び−Y側に位置する側方領域52Bと、小キャビティ51の+Y側及び−Y側に隣接する隣接領域52Cとを含む。排気側領域52Aは、投影面積及び容積が最も大きい領域であって、排気側(燃料噴射弁よりも排気側寄り)に位置している。側方領域52Bは、吸気側と排気側とのボーダー上に位置している。一方、隣接領域52Cは吸気側に位置している。隣接領域52C及び側方領域52Bは、排気側領域52Aに比べて投影面積が小さい領域であり、排気側領域52Aと小キャビティ51とを繋ぐ領域である。
図6及び図7に示すように、大キャビティ52の底面522の高さ位置は、排気側領域52Aから隣接領域52Cにかけて略同じ高さ位置であり、大キャビティ52は、その底面522から前記第2周縁521に向かって曲面状に立ち上がっている。つまり、大キャビティ52は、曲面で小キャビティ51に繋がっている。
次に、図2を主に参照して、点火プラグ17の着火部17Aの構造を説明する。着火部17Aは、中心電極171と、L字型に折曲された角棒からなる接地電極172とを含む。接地電極172は、放電空間となるギャップGを隔てて中心電極171と対向する対向部173と、対向部173に連なる基部174とを含む。基部174は、点火プラグ17の軸心方向に延びている。対向部173は、基部174と直交する方向に延びている。
点火プラグ17は、接地電極172の先端、すなわち対向部173の反基部側の末端が、気筒軸方向視において燃焼室6の径方向外側を向くように燃焼室天井面6U(プラグ凹部45)に配置されている。つまり、中心電極171と対向部173との間に形成されているギャップGとノズルヘッド18Nとの間に、基部174(接地電極172)が介在するように、点火プラグ17がシリンダヘッド4に対して組み付けられている。この組付けにより、インジェクタ18の後記噴射孔181から噴き出される噴射燃料18E(図2参照)は、接地電極172にブロックされて放電空間であるギャップGに直接入り込むことができない。つまり、噴射燃料18Eが、充分に霧化しない状態でギャップGに入り込まないように工夫されている。
既述の通り、ノズルヘッド18Nはマルチホールタイプのヘッドであり、その中心軸周りの複数の位置に噴射孔181が形成された構造を有する。当例では、図12に示すように、第1〜第10の合計10個の噴射孔181a〜181jが中心軸周りに等間隔で形成されている。この構成により、インジェクタ18(ノズルヘッド18N)を中心として、噴射孔181a〜181jから燃焼室6内に放射状に燃料が噴射される。各噴射孔181からは先広がりの円錐状(コーン状)に燃料が噴射されるが、図12では、噴射孔181a〜181jからの噴射燃料を、各噴射孔181a〜181iの指向軸(破線矢印)181Ea〜181Ejで示している。
各噴射孔181a〜181jは、ピストン5のTDC又はその近傍付近で燃料が噴射された場合に、キャビティ5C(小キャビティ51及び大キャビティ52)に燃料が向かうように指向軸181Ea〜181Ejの向きが設定されている。詳しくは、第1〜第10の噴射孔181a〜181jのうち、互いに隣接する第1、第2の噴射孔181a、181bは、燃料が小キャビティ51に向かうように指向軸181Ea、181Ebの向きが設定され、それ以外の噴射孔181c〜181jは、燃料が大キャビティ52に向かうように指向軸181Ec〜181Ejの向きが設定なっている。よって、大キャビティ52への燃料の噴射量よりも小キャビティ51への燃料の噴射量は少ない。
[燃料噴射および点火のタイミング]
図9は、燃料噴射期間及び点火タイミングとクランク角との関係を示すタイムチャートである。本実施形態のエンジン本体1は、図9に示す、少なくともモードI及びモードIIの燃料噴射期間及び点火タイミングで、運転を成立させる。
モードIは、上述のリタードSI燃焼の実行の際に採用されるもので、燃料噴射期間PF1は圧縮行程のTDC前後、点火タイミングは膨張行程初期である。すなわち、TDCよりも前の圧縮行程終盤のクランク角−CA11のタイミングT11からインジェクタ18による燃料噴射が開始され、TDC後の膨張行程開始期のクランク角+CA12のタイミングT12まで燃料噴射が実行される。このタイミングT11〜T12が燃料噴射期間PF1である。その後、膨張行程初期の所定のクランク角+CA13のタイミングT13において、点火プラグ17によって混合気に点火される。一例を挙げると、−CA11は圧縮TDC前10°、+CA12は圧縮TDC後2°、+CA13は圧縮TDC後9°である。
モードIIは、上述のSI燃焼及びSICI燃焼の際に採用されるもので、燃料噴射期間PF2は吸気行程の中期、点火タイミングは圧縮TDC付近である。すなわち、排気TDCからピストン5が半分程度下降するクランク角CA2を挟んだタイミングT21〜T22が、燃料噴射期間PF2とされる。点火タイミングは、圧縮TDCに至るタイミングT23である。一例を挙げると、CA2は排気TDC後70°である。なお、圧縮TDC前のクランク角CA3で、CA2に加えて追加的に燃料噴射を行わせても良い。
[燃焼動作]
既述の通り、SI燃焼やSICI燃焼が実行される際には、SCV91が駆動され、2つの吸気側開口部41のうちの一方が閉止又はそれに近い状態とされる。これにより、吸気行程には、図10に示すように、他方の吸気側開口部41から気筒2の略接線方向に沿って燃焼室6に吸気が導入され、白抜き矢印で示すように、燃焼室6内に気筒軸周りの渦流であるスワール流FSが形成される。
吸気行程後、圧縮行程が進行し、ピストン5がTDCに近づくに連れて、スワール流FSは、燃焼室6内において徐々に気筒軸方向に圧縮されていく。
図11は、図9のタイミングT11の直前の状態を示している。つまり、モードI(リタードSI燃焼の実行)の圧縮行程後期において、インジェクタ18による燃料噴射が開始される直前の状態を示している。既述した通り、小キャビティ51の底面512は、大キャビティ52の底面522よりも気筒軸方向において高い位置に形成されている。すなわち、小キャビティ51は大キャビティ52よりも気筒軸方向において高い位置に形成されている。このため、ピストン5がTDC付近にあるときの燃焼室6内のスワール流FSは、同図に示すように、大キャビティ52から小キャビティ51へ向けて斜め上方へせり上がる斜めスワール流FSとなる。この斜めスワール流FSは、小キャビティ51の上方領域において燃焼室天井面6Uに到達し、小キャビティ51に対応する位置に配置された着火部17Aを通過することとなる。
着火部17Aは、燃焼室天井面6Uのプラグ凹部45に収容されている。プラグ凹部45の近傍には、着火時に発生するガス(残留ガス)が滞留しがちとなるが、斜めスワール流FSがプラグ凹部45を通過することにより、着火部17Aに存在する残量ガスが、斜めスワール流FSによって除去されることとなる。すなわち、放電空間となる前記ギャップGやその周辺に存在する残留ガスが除去される。
図12、図13は、図9のタイミングT11の直後の状態を示している。つまり、モードIの圧縮行程後期において、燃料噴射が開始された直後の状態を示している。燃料は、インジェクタ18のノズルヘッド18Nによって、小キャビティ51及び大キャビティ52に噴射される。ここで、大キャビティ52の大部分(排気側領域52A)は、排気側に配置されている。排気側は、燃焼後の高温ガスを排出する排気ポート10を有するので、吸気側よりも高温化している。従って、大キャビティ52に向けて噴射された燃料は、排気側の熱によって比較的早く霧化し易くなり、短時間で充分に吸気と混合された混合気FAとなる。このように充分に混合された混合気FAは、前記斜めスワール流FSによって着火部17Aに運ばれる(図12)。一方、小キャビティ51に噴射された燃料は、その底面512に沿ってインジェクタ18の着火部17Aに向かって案内される(図13)。
その後、図9のタイミングT13で着火部17Aによる着火が行われる。この強制点火によって、小キャビティ51内において火炎が高速で拡がる。つまり、小キャビティ51に集約された混合気が一気に燃焼する。これは、斜めスワール流FSによって着火部17Aに存在する残量ガスが除去されるとともに、高温の排気側で霧化が促進された燃料と吸気との混合気FAが斜めスワール流FSにより着火部17A及び小キャビティ51に運ばれることで、小キャビティ51内の混合気の着火性が良好となっていることによる。
前記強制着火により着火部17Aの周囲に形成された燃焼領域は、燃焼室6内の残りの混合気を燃焼させるための火種となる。すなわち、小キャビティ51で発生した火炎が、大キャビティ52に集約された混合気へ火炎伝播して、大キャビティ52内に燃焼領域を作り、これを拡張させてゆく。このとき、吸気側平面部55上では、ピストン5の下降に伴う負圧力の作用(逆スキッシュ流の形成)も相俟って火炎伝播し、燃焼領域を拡大させてゆく。
そして、この燃焼領域の拡大による燃焼室6内の高温高圧化によって、大キャビティ52及びその他の残部領域において自己着火による燃焼も発生する。これら火炎伝播及び自己着火によって、大キャビティ52内の混合気及びその他の残部領域において燃焼が急速に拡がる。従って、燃焼室6全体に火炎を高速で拡大させ、燃焼室6の空間全体を利用した均質燃焼を実現させることができる。なお、自己着火による燃焼が発生せず、火炎伝播のみで燃焼が完遂される場合もある。
以上、主にモードI(リタードSI燃焼)の燃焼状態について説明したが、モードIIについてもSICI燃焼が実行される際には、2つの吸気側開口部41のうちの一方が閉止又はそれに近い状態とされることで燃焼室6内にスワール流FSが形成される。そして、ピストン5の上昇に伴い斜めスワール流FSとなり、このスワール流FSにより着火部17Aに存在する残量ガスが除去される。また、排気側で霧化が促進された燃料と吸気の混合気が斜めスワール流FSによって着火部17A及び小キャビティ51に運ばれる。そのため、図9のタイミングT23で着火が行われると、小キャビティ51内において火炎が高速で拡がり、さらに燃焼室6全体に火炎を高速で拡大させ、燃焼室6の空間全体を利用した均質燃焼が実現される。
[作用効果]
以上説明した本実施形態に係る火花点火式のエンジンの燃焼室構造によれば、次のような作用効果を奏する。
本実施形態のエンジン本体1において、燃焼室6の底面を区画するピストン5の冠面50は、点火プラグ17の着火部17Aに対応する領域に凹設された小キャビティ51と、小キャビティ51に隣接する位置に凹設された大キャビティ52とを有し、この小キャビティ51の底面512は大キャビティ52の底面522よりも気筒軸方向において高い位置に形成されている(図4)。すなわち、小キャビティ51は大キャビティ52よりも気筒軸方向の高い位置にある。
そのため、ピストン5が上死点付近にあるときに、燃焼室6内に生成されるスワール流FSを小キャビティ51へ向けて斜め上方へせり上がる斜めスワール流FSとすることができる(図10、図11)。つまり、小キャビティ51に対応する位置に配置されている着火部17Aに存在する残留ガスを、斜めスワール流FSによって除去することが可能となる。従って、点火プラグ17の着火部17Aに新鮮な混合気を与え、点火プラグ17による着火性を向上させることができる。そして、小キャビティ51で発生した火炎(火種)を、小キャビティ51よりも気筒軸方向の投影面積が大きい第2キャビティ52内へ火炎伝播させることにより、急速に大キャビティ52内の混合気を燃焼させることができる。従って、燃焼室全体に火炎を高速で拡大させ、燃焼室空間の全体を利用した均質燃焼を実現させることができる。
特に、点火プラグ17の着火部17Aが、燃焼室6のうち、排気ポート10が設けられる側とは反対側の吸気側に配置されていることで、着火部17Aの周りに残留ガスが比較的存在し難くなり、仮に溜まっていたとしても少量となる。そのため、残留ガスを斜めスワール流FSによって難なく除去することができる。
また、小キャビティ51と大キャビティ52とは曲面で繋がっているので(図6、図7)、斜めスワール流FSの形成が段差によって妨げられることが抑制される。そのため、より良好に斜めスワール流FSを形成すること、ひいては点火プラグ17による着火性をより一層向上させることができる。
本実施形態では、エンジン本体1は、燃焼室6内に強制的にスワール流FSを生成するためのSCV91(スワール流生成部)を備えており(図1)、気筒軸方向視において排気側に向かって燃焼を噴射するように燃焼室天井面6Uにインジェクタ18が配置されている(図12)。つまり、比較的温度の高い排気側(排気ポート10側)に向かって燃料を噴射させることで、燃料の霧化を促進させるとともに、この霧化した燃料を、強力な斜めスワール流FSにより吸気と充分に混合させながら点火プラグ17の着火部17Aに運ぶことができる。そのため、この点でも点火プラグ17による着火性を向上させることができる。
なお、モードI(リタードSI燃焼)のように、ピストン5が上死点位置又はその近傍にあるときに燃料を噴射し、その直後に点火プラグ17により着火を行う場合、排気側で霧化した燃料が斜めスワール流FSによって点火プラグ17に運ばれるまでにタイムラグが生じて着火に支障が生じることが考えられる。この点、本実施形態では、インジェクタ18により小キャビティ51及び大キャビティ52の双方へ燃料を噴射し、当該噴射時には、大キャビティ52の方向に噴射する量よりも少量の燃料を小キャビティ51の方向に噴射するようにしている。また、小キャビティ51は、インジェクタ18から噴射された燃料の混合気を燃焼室天井面6Uに向かって案内可能に形成されている。これにより、小キャビティ51に噴射された比較的少量の燃料を利用して点火プラグ17より火種を形成し、この火種に対して、排気側で霧化された燃料を斜めスワール流FSによって与えることができる。そのため、上記のようなタイムラグによる不都合が生じることが抑制され、点火プラグ17による着火性及びその後の燃焼性を向上させることが可能となる。
また、点火プラグ17の着火部17Aは、L字型の接地電極172の先端が、燃焼室6の径方向外側、すなわちインジェクタ18の配置位置から離間する方向を指向するように燃焼室天井面6U(プラグ凹部45)に配置されている。これにより、着火部17Aの放電空間となるギャップGに、ノズルヘッド18Nから噴射された燃料が、充分に霧化しない状態で入り込まないようにされている。つまり、図2に示すように、接地電極172自身で噴射された燃料がブロックされるので、ギャップGを挟んだ中心電極171及び対向部173に霧化不足の燃料が直接付着して炭化する、いわゆるプラグ被りを防止できる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る火花点火式のエンジンの燃焼室構造を詳細に説明する。なお、第2実施形態の基本的な構造は第1実施形態と共通するため、以下の説明では、第1実施形態と共通する構成要素については同一符号を付して説明を省略又は簡略化し、主に第1実施形態に係る燃焼室構造との相違点について詳細に説明する。
図14は、第2実施形態に係るエンジンの燃焼室構造が適用されるエンジンのシリンダヘッドの要部の断面図であり、図15は、燃焼室天井面の平面図である。
燃焼室天井面6Uは、第1実施形態と同様にペントルーフ型の形状である。第1実施形態の燃焼室天井面6Uが、図2に示すような浅型の(勾配の小さい)ペントルーフ型であるのに対して、第2実施形態の燃焼室天井面6Uは、深型の(勾配が大きい)ペントルーフ型である。つまり、第2実施形態の燃焼室6は、第1実施形態よりも燃焼室6の容積を大きくして圧縮比を下げた構造となっている。
このような深型のペントルーフ型の燃焼室天井面6Uにおいて、2つの吸気側開口部41の間にインジェクタ18を配置しながら、必要とされる各吸気側開口部41の開口面積を確保するには、X方向において、2つの吸気側開口部41をより気筒2の中心寄りに配置する必要がある。そのため、第2実施形態では、図15に示すように、2つの吸気側開口部41は、それら一部分が気筒2の中心2aよりも排気側に位置するように配置されている。
これに伴い、インジェクタ18(ノズルヘッド18N)も気筒2の中心2aから排気側にオフセットされた配置となっている。インジェクタ18のオフセット量は、主にモードIIにおける燃料噴射時、すなわち吸気行程の中期にノズルヘッド18Nから噴射される燃料が、吸気側開口部41から燃焼室6に導入される吸気の主流に乗って拡散し易い位置に設定されており、当例では、インジェクタ18は、気筒2の中心2aから約2mmだけ排気側にオフセットされている。
図28は、吸気行程の中期の吸気の流れとインジェクタ18との関係を説明するための断面図である。同図に示すように、吸気ポート9を通じて燃焼室6に導入される吸気の主流Msは、吸気ポート9の上側壁面に沿って燃焼室6に導入されつつタンブル流を形成する。このような状態において、気筒2の中心2aにインジェクタ18の中心が位置する場合には、燃料の一部は吸気の主流Msよりも下方でノズルヘッド18Nから噴射されることとなり、吸気の主流Msに乗り難くなる。これに対して、インジェクタ18が気筒2の中心2aから排気側にオフセットされた構成によれば、吸気の主流Msよりも上方又はその近傍位置でノズルヘッド18Nから噴射されるため、燃料が吸気の主流Msに乗って拡散し易くなる。
なお、この実施形態では、気筒2の中心2aからインジェクタ18(ノズルヘッド18N)の中心が約2mmだけ排気側にオフセットされているが、この場合のオフセット量は、インジェクタ18から噴射される燃料が吸気の主流Msに乗って良好に拡散されるように設定されていればよく、例えば、気筒2の中心2aから、当該気筒2の直径(ボア径)の2〜5%の範囲内で排気側にオフセットされているのが好適である。
第2実施形態のピストン5の冠面50もキャビティ5C、吸気側平面部55、排気側平面部56及び一対の側方上面57を含む点で第1実施形態と構成が共通している。しかし、以下の点で第1実施形態と具体的な構造が相違している。
図16は、ピストン5に対する点火プラグ17及びインジェクタ18の配置関係を示す斜視図、図17は、同配置関係を示す平面図である。図18は、ピストン5の冠面50の平面図であり、図19〜図21は、それぞれピストン5の正面図(吸気側から視た図)、背面図(排気側から視た図)、側面図であり、図22、図23は、それぞれ図18のXXII−XXII線、XXIII−XXIII線断面図である。また、図24は、排気側から視たピストン5の斜視図であり、図25は、吸気側から視たピストン5の斜視図である。
第2実施形態のキャビティ5Cは、小キャビティ51(プラグ対応部)と大キャビティ52(下段部)とが稜線54により区切られることなく(換言すれば、稜線54を介することなく)滑らかに連続した形状を有している。つまり、キャビティ5Cは、図18に示すように、凸部53とこれを取り囲むように滑らかに連続する一つの環状のキャビティ(以下、環状キャビティ58と称す)とを含む。環状キャビティ58は、稜線54により区切られていないが、環状キャビティ58のうち、主に吸気側の底面(第1実施形態の小キャビティ51の底面512に対応する部分)はそれ以外の部分の底面(第1実施形態の大キャビティ52の底面522に対応する部分)よりも気筒軸方向において高い位置に形成されている。すなわち、環状キャビティ58のうち、主に吸気側はそれ以外の部分よりも気筒軸方向において相対的に燃焼室天井面6Uに近くなるように形成されている。
図18〜図21に示すように、冠面50のうち、吸気側平面部55と環状キャビティ58との間であってかつ一対の側方上面57の間には、吸気側斜面部61が設けられ、排気側平面部56と環状キャビティ58との間であってかつ一対の側方上面57の間には排気側斜面部62が設けられている。
吸気側斜面部61は、吸気側平面部55の末端部分から排気側に向かって先上がりに傾斜する平坦な斜面であり、排気側斜面部62は、排気側平面部56の末端部分から吸気側に向かって先上がりに傾斜する平坦な斜面である。図26に示すように、各斜面部61、62は、ピストン5が上死点位置にあるときに、燃焼室天井面6Uのペントルーフ部分に近接して対向し、当該ペントルーフ部分と略平行に延びる面である。
環状キャビティ58は、冠面50において排気側に偏って形成されている。凸部53は、図18に示すように、気筒軸方向視においてX方向の寸法53XがY方向の寸法53Yよりも大きい、つまりX方向に細長いオーバル形状(長円形)を有している。凸部53の中心53aは、インジェクタ18に対応して冠面50の中心5a(気筒2の中心2a)から排気側にオフセットされており、これにより、凸部53の中心はインジェクタ18(ノズルヘッド18N)の直下に位置している。
環状キャビティ58は、当該環状キャビティ58を区画する周縁である内周縁581と外周縁582とを含む。内周縁581は、凸部53との境界線となり、外周縁582は、吸気側斜面部61、排気側斜面部62及び側方上面57との境界線となる。
外周縁582のうち、冠面50の中心5a(図18中のXXIII−XXIII線)よりも排気側の部分(排気側外周縁582b)であって側方上面57との境界線となる部分は、当該中心5aを中心とする略真円に沿った円弧状であり、他方、冠面50の中心5aよりも吸気側の部分(吸気側外周縁582a)であって側方上面57との境界線となる部分は、当該中心5aを中心とする楕円又はY方向に細長い長円に沿った円弧状である。このように、環状キャビティ58及び凸部53が形成される結果、当該環状キャビティ58は冠面50において排気側に偏っている。
第2実施形態では、図14及び図16に示すように、点火プラグ17は第1実施形態とは反対の向きで燃焼室天井面6U(プラグ凹部45)に配置されている。具体的には、点火プラグ17は、接地電極172の先端、すなわち対向部173の反基部側の末端が、気筒軸方向視において燃焼室6の径方向内側を向くように配置されている。燃焼室天井面6Uが深型のペントルーフ型とされ、冠面50に吸気側斜面部61が設けられている第2実施形態では、このように点火プラグ17が配置されることで、圧縮行程時に着火部17Aの周りの掃気効果を高めるようにされている。つまり、ピストン5の冠面50に、燃焼室天井面6Uのペントルーフ部分に対応する吸気側斜面部61が設けられる第2実施形態では、圧縮行程時に、燃焼室天井面6Uの吸気側天面43とピストン5の吸気側平面部55との間で吸気又は混合気が圧縮されるに伴い、図27中に矢印で示すように、吸気側斜面部61に沿って燃焼室天井面6Uに向かうスキッシュ流が生成される。この際、接地電極172の先端が燃焼室6の径方向内側を向くように点火プラグ17が配置されていることで、当該スキッシュ流によりプラグ凹部45内の残留ガスを押し出し易くなる。つまり、着火部17Aの周りの掃気効果が高められる。
環状キャビティ58のキャビティ形状は、モードIにおいて、ピストン5が圧縮上死点位置又はその近傍にあるときにインジェクタ18から噴射される燃料を燃焼室天井面6Uに沿って円滑に巻き上げることが可能な形状とされている。詳しくは、環状キャビティ58は、図26に示すように、当該環状キャビティ58の内周側に位置し、ピストン5が圧縮上死点位置又はその近傍にあるときにインジェクタ18から噴射された燃料を凸部53に沿って外向きに案内する助走部59aと、この助走部59aの外周に位置し、当該助走部59aに沿って案内される燃料を燃焼室天井面6Uに向かって巻き上げる巻き上げ部59bとを含む。助走部59aは凸部53に滑らかに連続する断面円弧状であり、巻き上げ部59bは助走部59aよりも曲率半径が小さい断面円弧状である。吸気側斜面部61及び排気側斜面部62に対応する部分では、これら斜面部61、62が設けられている分、巻き上げ部59bがより上方まで延在している。これにより、図26中に破線矢印で示すように、ノズルヘッド18Nから噴射される燃料が燃焼室天井面6Uのペントルーフ部分に沿って効果的に巻き上げられ、燃料の霧化促進が図られるようになっている。
なお、環状キャビティ58の吸気側外周縁582aのうち、一対の側方上面57の末端に対応する部分(図17の破線丸枠の部分)は、気筒軸方向視で点火プラグ17の着火部17Aに湾曲して指向している。すなわち、一対の側方上面57の末端に対応する部分から吸気側外周縁582aを延長したとすると、吸気側外周縁582aが着火部17Aを通るように、当該吸気側外周縁582aのうち一対の側方上面57の末端に対応する部分が形成されている。これにより、図17中の矢印で示すように、環状キャビティ58に沿って排気側から吸気側に流れる混合気が着火部17Aに向かって案内されるようになっている。
第2実施形態のピストン5においては、図19〜図21に示すように、当該ピストン5のピストンヘッド5Aの上端部外周に段差部63が形成されている。この段差部63は、膨張行程において、当該ピストンヘッド5Aの上端部外周面と気筒2の内周面との間に未燃焼ガスを逃がすための隙間を形成するためのものであり、これによりノック音の発生が抑制されるようになっている。
以上が第2実施形態の燃焼室構造である。第2実施形態の燃焼室構造は、燃焼室6の容積を大きくして圧縮比を下げるために、燃焼室天井面6Uが深型のペントルーフ型とされたものであるが、基本的な構造は第1実施形態と共通する。そのため、第2実施形態の燃焼室構造についても第1実施形態の燃焼室構造とほぼ同等の作用効果を享受することができる。すなわち、ピストン5が上死点付近にあるときに、燃焼室6内に生成されるスワール流FSを環状キャビティ58に沿って排気側から吸気側へ向けて斜め上方へせり上がる斜めスワール流FSとし、着火部17Aに存在する残留ガスを、斜めスワール流FSによって除去することが可能となる。従って、点火プラグ17の着火部17Aに新鮮な混合気を与え、点火プラグ17による着火性を向上させることができる。
[変形例]
以上、本発明の実施形態を説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、次のような変形例に係る実施形態を取り得る。
(1)上記第1実施形態では、斜めスワール流FSを形成するために、ピストン5の冠面50に、互いに高さの異なる小キャビティ51と大キャビティ52とを形成した例について示した。しかし、ピストン5は、例えばより単純に、冠面50の半分の領域が、それ以外の領域よりも高く(又は低く)形成された構成であってもよい。図29(a)、(b)は、その例示(模式図)である。図29(a)は、冠面50のうち、点火プラグ17の着火部17Aの下方位置を含む吸気側の領域50aが、残りの領域(排気側の領域50b)よりも気筒軸方向に高い位置に形成された例である。各領域50a、50bの上面はほぼ平坦である。この構成によれば、燃焼室6内に生成されるスワール流FSを、排気側の領域50bから吸気側の領域50aへ向けて斜め上方へせり上がる斜めスワール流FSとすることができる。
なお、図29(b)に示すように、図29(a)とは逆の構成を採用することもできる。すなわち、燃焼室6の吸気側に着火部17Aが位置するように点火プラグ17を燃焼室天井面6Uに配置され、冠面50のうち、点火プラグ17の着火部17Aの下方位置を含む排気側の領域50bが、残りの領域(吸気側の領域50a)よりも気筒軸方向に高い位置に形成されている。この構成によれば、図29(a)とは異なり、吸気側の領域50aから排気側の領域50bへ向けて斜め上方へせり上がる斜めスワール流FSが形成される。しかし、着火部17Aが排気側に位置しているので、上記実施形態と同様に、着火部17Aに存在する残留ガスを、斜めスワール流FSによって除去することが可能となる。
なお、図29(a)、(b)の例についても、良好な斜めスワール流FSを形成するうでは、両領域50a、50bが曲面で繋がっているのが望ましい。
(2)上記第1実施形態では、図7に示したように、大キャビティ52の底面522は略一定の高さに形成されている。しかし、大キャビティ52は、例えば図30に示すように、排気側領域52Aの底面522が最も深く、この排気側領域52Aから隣接領域52Cに向かって漸減的に浅くなるように形成されていてもよい。つまり、大キャビティ52のうち、少なくとも排気側から吸気側に向かってスワール流FSが流れる部分はその深さが漸減的に浅くなっている。この構成によれば、斜めスワール流FSの良好な形成に寄与する。そのため、排気側で霧化された燃料をより円滑に点火プラグ17の着火部17Aに運ぶことができ、燃焼性をより一層向上させることができる。
なお、図示を省略するが、第2実施形態の環状キャビティ58についても同様である。この場合には、環状キャビティ58のうち、主に吸気側(第1実施形態の小キャビティ51に対応する部分)以外の部分の底面(第1実施形態の大キャビティ52の底面522に対応する部分)が上述するように、排気側から吸気側に向かって漸減的に浅くなるようにすればよい。
(3)上記第1、第2実施形態では、スワール流FSを形成するために、2つの吸気側開口部41に連通する吸気ポート9のうちの一つにSCV91が設けられている。しかし、スワール流FSを生成するための構成(すなわち、本発明のスワール流生成部の構成)は、これに限らない。例えば、SCV91を設ける代わりに、気筒軸方向視において、2つの吸気ポート9がそれぞれ吸気側開口部41に対してX方向よりも+Y方向側(又は−Y方向側)から斜めに連通するように形成してもよい。すなわち、吸気ポート9自身がスワール流生成部としての機能を兼ねた構成でもよい。この構成によれば、2つの吸気側開口部41からの吸気が気筒2の内周面に沿って流れ易くなり、上記実施形態と同様に、燃焼室6内にスワール流FSを形成することが可能となる。
(4)スワール流FSを強制的に生成するための構成(上記スワール流生成部)は省略されてもよい。吸気バルブ11は傘状の弁体11aを備えており、吸気側開口部41から気筒2内に導入される吸気は、この傘状の弁体11aに沿って気筒内に流入することでスワール成分(スワール流)を含む流れとなる。そのため、スワール流FSを強制的に生成するための構成を備えていない場合であっても、ある程度は上記実施形態で説明したような作用効果を享受することが可能となる。
(5)上記第1、第2実施形態では、インジェクタ18のノズルヘッド18Nが燃焼室6内に配置され、直噴方式で燃料が燃焼室6に供給される例を示した。これに代えて、吸気ポート9にインジェクタ18を配置するポート噴射方式を採用しても良い。