JP6620683B2 - 溶接方法 - Google Patents

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本発明は、重ね合わせ溶接において母材自体を溶かして溶接を行う溶接方法に関する。
一方の部材に他方の部材を重ね合わせ、一方の部材の縁部を他方の部材に接合する重ね合わせ溶接が知られている。特許文献1には、直線部分を曲線部分又は屈曲部分で挟んだ凸部位が縁部に形成された一方の板材を他方の板材に重ねて接合する溶接技術が記載されている。
特開2014−140873号公報
ここで、溶加棒(フィラーワイヤ)を用いずに、レーザ照射によって母材自体を溶かして行う重ね合わせ溶接における既存の溶接方法について説明する。図12は、既存の溶接方法において、一方の部材が他方の部材に接合される前の状態を示す斜視図である。図12に示すように、他方の部材としての下板91の表面に一方の部材としての上板92が重ねられている。上板92の表面にレーザヘッド100からレーザビームLが照射される。レーザヘッド100を移動させ、上板92の表面におけるレーザビームLの照射位置を溶接進行方向Sに沿って移動させることで、上板92の縁部92aにおける溶接予定の箇所である所定の箇所92cと下板91における所定の箇所92cに対応する箇所とを溶融して接合する。
図13は、既存の溶接方法において、一方の部材が他方の部材に接合された後の状態を示す斜視図である。図14は、図13の平面図である。図15A,Bは、図14のXV−XV線に沿う断面図である。図13〜図15A,Bに示すように、他方の部材としての下板91の表面に重ねられた一方の部材としての上板92の縁部92aが、下板91の表面に接合されている。
レーザ照射を用いたキーホール溶接では、上板92の表面におけるレーザビームLの照射位置にキーホールが形成され、同時に、レーザビームLによって溶融された母材は溶接進行方向Sの後ろ側に既に形成されているキーホール内へと流れ込む(湯流れ)。湯流れによりキーホール内に流れ込んだ溶融材料は、順次冷えて凝固する。
しかしながら、溶接終端部(溶接箇所M95における溶接進行方向Sの終端部)B91では、湯流れにより流れてくる母材がほとんどなく、必要な母材が不足する。特に、一方の部材と他方の部材とを重ね合わせた状態で一方の部材と他方の部材との間に隙間93(図15A,B参照)が生じている場合には、溶接終端部B91において必要な母材が顕著に不足する。そのため、図15Aに示すように、片落ちたような欠陥が生じる場合がある。また、溶融した母材が冷えて凝固する過程において溶融した母材が収縮し、図15Bに示すように、収縮時に互いに引張合う応力が発生するため凝固ワレが生じる場合がある。このように、溶接終端部91Bにおいて欠陥や凝固ワレが生じることがある。
一方、溶接始端部(溶接箇所M95における溶接進行方向Sの始端部)A91においては、溶接終端部B91のように後方への湯流れによる溶融母材の不足は生じないものの、片落ちたような欠陥や溶融した母材が冷えて凝固する過程において溶融した母材が収縮するため、やはり欠陥としての凝固ワレが生じることがある。溶融始端部A91および溶接終端部B91にそれぞれ発生する欠陥や凝固ワレは応力集中することによって溶融箇所M95に亀裂が生じるおそれがある。
特許文献1のように、一方の板材の溶接される箇所に凸部位が形成されている場合、溶接される箇所の終始端部において、上述した孔は生じ難い。しかしながら、設計上の都合などで、一方の板材の溶接される箇所に、凸部位が形成されていない場合、または凸部位を形成することができない場合もありうる。
以上の背景に鑑み、本発明の目的は、重ね合わせ溶接において母材のみを溶融させて溶接を行う場合に、溶接終始端部における欠陥の発生を効果的に抑制することができる溶接方法を提供することである。
本発明は、一方の部材を他方の部材に重ね、前記一方の部材および前記他方の部材のみを溶融させて前記一方の部材を前記他方の部材に接合する溶接方法であって、前記一方の部材の縁部における所定の箇所と前記他方の部材における前記所定の箇所に対応する箇所とを溶融して接合する工程と、前記接合する工程を開始する前に、前記所定の箇所における溶接進行方向の終始端部に切り欠き部を形成する工程と、を備えるものである。
本発明により、重ね合わせ溶接において母材のみを溶融させて溶接を行う場合に、溶接終始端部における欠陥の発生を効果的に抑制することができる。
本実施の形態にかかる溶接方法において、一方の部材が他方の部材に溶接される前の状態を示す斜視図である。 図1の平面図である。 本実施の形態にかかる溶接方法において、一方の部材が他方の部材に接合された後の状態を示す斜視図である。 図3の平面図である。 図4のV−V線に沿う断面図である。 一方の部材の縁部における所定の箇所の溶接進行方向の終始端部に形成する切り欠き部の、図2に示す形状とは別の形状の例について説明する図である。 一方の部材の縁部における所定の箇所の溶接進行方向の終始端部に形成する切り欠き部の、図2に示す形状とはさらに別の形状の例について説明する図である。 上板の縁部における所定の箇所の終端部と始端部とで、それぞれ異なる大きさの切り欠き部を形成する場合について説明する図である。 上板の表面上におけるレーザビームの軌跡の概略について示す図である。 評価した切り欠き部の各形状とその評価結果について示す図である。 溶接終端部および溶接始端部において、レーザ出力は走査時のレーザ出力のままとし、レーザヘッドを溶接進行方向と直行する方向に振動させる振動幅を走査時よりも小さくなるようにする制御について説明する図である。 既存の溶接方法において、一方の部材が他方の部材に溶接される前の状態を示す斜視図である。 既存の溶接方法において、一方の部材が他方の部材に溶接された後の状態を示す斜視図である。 図13の平面図である。 図14のXV−XV線に沿う断面図の一例である。 図14のXV−XV線に沿う断面図の別の一例である。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
図1は、本実施の形態にかかる溶接方法において、一方の部材が他方の部材に溶接される前の状態を示す斜視図である。図2は、図1の平面図である。図1および図2に示すように、他方の部材としての下板1の表面に一方の部材としての上板2が重ねられている。一方の部材および他方の部材の材質は、例えば、自動車に用いられるアルミ材や高炭素鋼材である。上板92の表面にレーザヘッド100からレーザビームLが照射される。上板2の縁部2aにおける溶接される予定の箇所である所定の箇所2cと下板1における所定の箇所2cに対応する箇所とが、レーザビームLの照射によって溶融されることにより接合される。なお、簡便のため、図1および図2には、所定の箇所2cにおける溶接進行方向Sの終端部B1の周辺のみが示されている。
上板2の縁部2aにおける所定の箇所2cと下板1における所定の箇所2cに対応する箇所とが、レーザビームLの照射によって溶融されることにより接合される工程を開始する前に、上板2の縁部2aにおける所定の箇所2cの溶接進行方向Sの終端部B1において、切り欠き部2bを形成する。切り欠き部2bの形状は、平面視において高さH、幅Wの矩形である(図2参照)。ここで高さとは、溶接進行方向Sと垂直で上板2の表面と平行である方向Tにおける、上板2の縁部2aからの距離を意味する。また、所定の箇所2cの始端部においても、所定の箇所2cの終端部B1と同様の形状の切り欠き部を形成する。切り欠き部2bは、例えば、矩形状のパンチ金型を用いたパンチ加工によって形成する。
図3は、本実施の形態にかかる溶接方法において、一方の部材が他方の部材に接合された後の状態を示す斜視図である。図4は、図3の平面図である。図5は、図4のV−V線に沿う断面図である。図3〜図5に示すように、他方の部材としての下板1の表面に重ねられた一方の部材としての上板2の縁部が、下板1の表面に接合されている。下板1と上板2との間には隙間3がある(図5参照)。なお、簡便のため、図3〜図5には、図1および図2に示した、所定の箇所2cにおける溶接進行方向Sの終端部B1の周辺に対応する箇所のみが示されている。
上板2において、溶融箇所M5における溶接進行方向Sの終端M5aと溶融されていない母材の端部2dとは、所定の箇所2cにおける溶接進行方向Sの終端部B1に形成された切り欠き部2bにより分離されている。このため、溶融箇所M5における溶接進行方向Sの終端部D1では、溶融した母材が冷えて凝固する過程において溶融した母材が収縮しても、互いに引張合う応力によって生じる凝固ワレや図13〜15に示した、溶融金属の不足による片落ちのような欠陥は生じない。
また、溶融箇所M5における溶接進行方向Sの終端M5aと同様に、溶融箇所M5における溶接進行方向Sの始端と溶融されていない母材とは、所定の箇所2cにおける溶接進行方向Sの終端部B1に形成された切り欠き部により分離されている。このため、溶融箇所M5の溶接進行方向Sの始端部においても溶融箇所に前述のような欠陥や凝固ワレは生じない。
[変形例1]
図6は、上板2の縁部2aにおいて、所定の箇所2cの溶接進行方向Sの終始端部に形成する切り欠き部の、図2とは別の形状の例について説明する図である。図6に示すように、上板2の縁部2aにおいて、所定の箇所2cの溶接進行方向Sの終始端部に形成する切り欠き部22bの形状は、平面視において半径R、高さHの半円形状であってもよい。ここで高さとは、溶接進行方向Sと垂直で上板2の表面と平行である方向Tにおける、上板2の縁部2aからの距離を意味する。切り欠き部22bは、例えば、円形状のパンチ金型を用いたパンチ加工によって形成する。
[変形例2]
図7は、上板2の縁部2aにおいて、所定の箇所2cの溶接進行方向Sの終始端部に形成する切り欠き部の、図2、6とは別の形状の例について説明する図である。図7に示すように、上板2の縁部2aにおいて、所定の箇所2cの溶接進行方向Sの終始端部に形成する切り欠き部32bの形状は、平面視において半径R、高さHの半円形状で、角部32bA,32bBを半径RでR面取りしたものあってもよい。ここで高さとは、溶接進行方向Sと垂直で上板2の表面と平行である方向Tにおける、上板2の縁部2aからの距離を意味する。切り欠き部22bは、例えば、パンチ金型を用いたパンチ加工によって形成する。
[変形例3]
上板2の縁部2aにおける所定の箇所2cの終端部と始端部とで、それぞれ異なる形状または大きさの切り欠き部を形成してもよい。図8は、上板2の縁部2aにおける所定の箇所2cの終端部と始端部とで、それぞれ異なる大きさの切り欠き部を形成する場合について説明する図である。溶接終端部では、溶接始端部と異なり、湯流れにより後方から流れてくる母材がほとんどないので母材が不足しがちである。このため、溶接終端部のほうが溶接始端部よりも欠陥が発生しやすい。そこで、図8に示すように、例えば、終端部に形成する切り欠き部42bの半径Rbを、始端部に形成する切り欠き部42eの半径Raの2分の1倍にする。例えば、切り欠き部42bの高さを2mm、半径Rbを4mmにし、切り欠き部42eの高さを2mm、半径Raを8mmにする。

上板の縁部の終始端部に、それぞれ、図2、図6、図7に示す切り欠き部を形成したときにおける、重ね継手の隅肉溶接を行った後の欠陥の有無について評価試験を行った。この評価試験について以下で説明する。
本評価試験において重ね継ぎ手を行った、一方の部材である上板および他方の部材である下板の材質は、いずれも6000系のアルミニウムである。上板の厚さは1.6mm、下板の厚さは1.4mmである。また、上板と下板を重ねたときの上板と下板との間の隙間の距離d(図5参照)は0.6mmである。
本評価試験において用いたレーザは、ファイバーレーザである。走査時におけるレーザビームの集光径は0.4mm、出力は4500Wである。走査時におけるレーザ出力に対し、溶接始端部では走査時の出力の1/2から走査時の出力へとスロープアップ、溶接終端部では走査時の出力から走査時の出力の約1/2へとスロープダウンさせるようにレーザ出力を制御した。
図9は、上板の表面上におけるレーザビームの軌跡SC1の概略について示す図である。図9に示すように軌跡SC1が円周を描くよう、レーザヘッドを溶接進行方向Sと直行する方向Tに一定の周波数で振動(ウォブリング)させながら溶接進行方向Sに移動させた。レーザヘッドの振動幅W1は4mmである。レーザヘッドを溶接進行方向Sに移動させる速度は400cm/minである。
図10は、評価した切り欠き部の各形状とその評価結果について示す図である。図10に示すように、評価した切り欠き部の形状は、図2に示す矩形形状において高さHを1mm、2mmと振った2パターン、図6に示す半円形形状において高さHを1mm、2mmと振るとともに半径Rを1mmから10mmの間で1mmおきに振った20パターン、図7に示す半円形で角部をR面取りした形状において高さHを1mm、2mmと振るとともに半径Rを1mmから10mmの間で1mmおきに振った20パターン、である。なお、矩形形状における幅Wについては、ある程度以上(例えば、1mm以上)確保できていれば評価結果に影響を及ぼさない。このため、矩形形状における幅Wは1mmのみ評価した。
評価結果については、図10中において、欠陥がなく良好だったものを○、欠陥が生じた場合があるものを△、欠陥が生じたものを×として示す。切り欠き部の形状が矩形形である場合、いずれのパターンでも欠陥がなく良好だった。切り欠き部の形状が半円形である場合、半径Rが1mmから7mmの間であれば、高さが1mm、2mmのいずれであっても欠陥がなく良好だった。また、切り欠き部の形状が半円形で角部をR面取りした形状である場合、半径Rが1mmから7mmの間であれば、高さが1mm、2mmのいずれであっても欠陥がなく良好だった。
一方、切り欠き部の形状が、半円形または半円形で角部をR面取りした形状のときに、半径Rを7mm以上にすると欠陥が生じる場合があった。これは、高さHに対し半径Rを大きくしていくと切り欠き部の円弧が直線に近づくため、上板において、溶融箇所における溶接進行方向Sの終端および始端と溶融されていない母材の端部とを切り欠き部によって分離する効果が薄れるためである。
[変形例4]
溶接終端部および溶接始端部において、レーザ出力は走査時のレーザ出力のままとし、レーザヘッドを溶接進行方向Sと直行する方向Tに振動させる振動幅を走査時よりも小さくなるように制御してもよい。図11は、溶接終端部および溶接始端部において、レーザ出力は走査時のレーザ出力のままとし、レーザヘッドを溶接進行方向Sと直行する方向Tに振動させる振動幅を走査時よりも小さくなるようにする制御について説明する図である。図11に示すように、例えば、溶接始端部においては、レーザヘッドの振動幅を、走査時におけるレーザヘッドの振動幅P1よりも小さい振動幅P2から振動幅P1へと漸増させ、溶接終端部においては、レーザヘッドの振動幅を、振動幅P1から振動幅P2へと漸減させるようにレーザヘッドを制御する。例えば、振動幅P2を振動幅P1の約1/2にする。このようにすることで、溶接終端部および溶接始端部における、レーザ照射による入熱量が適切になるようにすることができる。
以上より、重ね合わせ溶接において母材のみを溶融させて溶接を行う場合に、一方の部材における縁部の溶接される所定の箇所の終始端部に切り欠き部を形成することで、溶接終始端部における欠陥の発生を効果的に抑制することができる。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。上記実施の形態では、レーザの照射により一方の部材および他方の部材を溶融させるレーザ溶接の場合を例に説明したが、これに限定するものではない。例えば、プラズマの噴射により一方の部材および他方の部材を溶融させるプラズマ溶接など、溶加棒を用いずに母材自体を溶かして行う溶接手段であればよい。
1 下板
2 上板
2a 縁部
2b 切り欠き部
2c 所定の箇所
B1 所定の箇所2cにおける溶接進行方向Sの終端部
L レーザビーム
M5 溶融箇所
S 溶接進行方向

Claims (1)

  1. 一方の部材を他方の部材に重ね、前記一方の部材および前記他方の部材のみを溶融させて前記一方の部材の隅肉を前記他方の部材に接合する溶接方法であって、
    前記一方の部材の縁部における所定の箇所と前記他方の部材における前記所定の箇所に対応する箇所とを溶融して接合する工程と、
    前記接合する工程を開始する前に、前記所定の箇所における溶接進行方向の終始端部に切り欠き部を形成する工程と、を備える溶接方法。
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