以下、クラッチ、モータ及びパワーウインド装置の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態のパワーウインド装置10は、車両ドアDに取り付けられ、該車両ドアDのウインドガラスWGを開閉作動させるものである。パワーウインド装置10は、モータ11と、該モータ11の回転駆動に基づきウインドガラスWGを開閉作動させるXアーム式のウインドレギュレータ12とを備えている。モータ11の出力軸13は、ウインドレギュレータ12の一方のアーム14のセクタギヤ15と噛合されている。
[モータの構成]
図2に示すように、モータ11は、モータ本体20と減速部30とが一体に組み付けられたギヤードモータにて構成されている。また、モータ11は、モータ本体20と減速部30との間の駆動連結部分においてクラッチ40を備えている。
モータ本体20は直流モータよりなる。モータ本体20を構成する有底筒状のヨーク21(ヨークハウジング)の内周面には、一対のマグネット22が互いに対向するように固着されるとともに、マグネット22の内側には電機子23が配置されている。電機子23は、ヨーク21の中央部に配置される回転軸24(駆動軸)を備えている。回転軸24の基端部(図2において上側の端部)は、ヨーク21の底部中央に設けられた軸受25にて軸支されるとともに、同回転軸24の先端側の部位には、円筒状の整流子26が固定されている。また、回転軸24の先端部には、円柱形状から平行に面取りした二面幅形状の連結部24aが形成されるとともに、連結部24aの先端部は曲面状(球面の一部)をなしている(図3参照)。
ヨーク21の開口部には、外側に向かって延設されたフランジ部21aが形成されるとともに、同ヨーク21の開口部にはブラシホルダ27が嵌合されている。このブラシホルダ27は、ヨーク21の開口部を閉塞する形状のホルダ本体27aと、ヨーク21の径方向外側に突出するコネクタ部27bとが一体に形成されてなる。ホルダ本体27aは、図示しない配線でコネクタ部27bと接続され前記整流子26と摺接する一対のブラシ28を保持している。また、ホルダ本体27aの中央には軸受29が設けられるとともに、該軸受29は、回転軸24における整流子26と連結部24aとの間の部位を軸支している。そして、コネクタ部27bを介してブラシ28に供給された外部電源が、整流子26を介して電機子23に供給されると、これにより電機子23(回転軸24)が回転駆動、すなわちモータ本体20が回転駆動されるようになっている。
モータ11の減速部30は、樹脂製のギヤハウジング31内に減速機構32等を収容して形成されている。ギヤハウジング31は、モータ本体20と軸方向に対向する部位(図2において上側の端部)に、該ギヤハウジング31をモータ本体20に固定するための固定部31aを備えている。固定部31aは、ヨーク21のフランジ部21aの外形と同様の外形を有するとともに、同固定部31aには、ヨーク21の内側に開口する嵌合凹部31bが形成されている。そして、嵌合凹部31b内にブラシホルダ27のホルダ本体27aが嵌合された状態で、固定部31aと該固定部31aに当接したフランジ部21aとが螺子33にて固定されることにより、ギヤハウジング31にヨーク21が固定され、モータ本体20と減速部30とが一体化されている。
ギヤハウジング31には、嵌合凹部31bの底部中央にクラッチ収容凹部31cが軸方向に凹設されるとともに、該クラッチ収容凹部31cの底部中央から回転軸24の軸線方向に沿って延びるウォーム軸収容部31dが凹設されている。また、ギヤハウジング31には、ウォーム軸収容部31dの側方(図2において右側)に、ホイール収容部31eが凹設されている。このホイール収容部31eと前記ウォーム軸収容部31dとは、ウォーム軸収容部31dの軸方向(長手方向)の中央部で繋がっている。
前記ウォーム軸収容部31dには、略円柱状のウォーム軸34が収容されている。ウォーム軸34は、金属材料よりなり、その軸方向の中央部には螺子歯状のウォーム部34aが形成されている。そして、ウォーム軸34は、ウォーム軸収容部31dの軸方向の両端部にそれぞれ配置された金属製で円筒状をなす一対の軸受35,36によってその軸方向の両端部が軸支されている。ウォーム軸収容部31d内のウォーム軸34は、軸受35,36にて軸支されることにより、前記回転軸24と同軸上に配置、すなわち回転軸24の中心軸線L1とウォーム軸34の中心軸線L2とが一直線上となるように配置されている(図3参照)。
前記ホイール収容部31eには、ウォーム軸34のウォーム部34aと噛合する円板状のウォームホイール37が回転可能に収容されている。ウォームホイール37は、ウォーム軸34と共に減速機構32を構成している。また、ウォームホイール37の径方向の中央部には、同ウォームホイール37の軸方向(図2において紙面垂直方向)に延び同ウォームホイール37と一体回転する一体回転する前記出力軸13が設けられている。この出力軸13は、前述のようにウインドレギュレータ12に駆動連結される(図1参照)。
[クラッチの構成]
ギヤハウジング31のクラッチ収容凹部31c内には、モータ本体20の回転軸24と減速機構32のウォーム軸34とを連結するクラッチ40が収容されている。
図3及び図4に示すように、クラッチ40は、カラー41、駆動側回転体42、リテーナ43、転動体44及び従動側回転体45から構成されている。
カラー41は、円筒状をなすとともに、同カラー41の軸方向の一端部には、径方向外側に延びる鍔状の固定フランジ部41aが形成されている。カラー41における円筒状の部位の外径はクラッチ収容凹部31cの内径と略等しく形成されるとともに、固定フランジ部41aの外径はクラッチ収容凹部31cの内径よりも大きく形成されている。また、固定フランジ部41aには、周方向に等角度間隔となる4箇所に、固定凹部41bが形成されている。固定凹部41bは、固定フランジ部41aを軸方向に貫通して形成されるとともに、径方向外側に開口している。
図3に示すように、カラー41は、固定フランジ部41aが嵌合凹部31bの底面に当接するまでクラッチ収容凹部31c内に挿入されるとともに、固定フランジ部41aにおいてギヤハウジング31に対して固定されている。詳述すると、嵌合凹部31bの底面であってクラッチ収容凹部31cの開口部の外周縁部には、周方向に等角度間隔となる4箇所に、軸方向に突出する固定突起31fが形成されている。これら4つの固定突起31fは、固定フランジ部41aの4つの固定凹部41bに対して軸方向にそれぞれ挿入されており、各固定突起31fの先端部は熱かしめによって加工される。これにより、カラー41がギヤハウジング31に対して軸方向に移動不能且つ周方向に回転不能に固定される。なお、ギヤハウジング31に固定されたカラー41は、回転軸24及びウォーム軸34と同軸上に配置されている。
駆動側回転体42は、略円筒状の軸連結部51を有している。軸連結部51の外周面には、径方向外側に向かって延びる円盤状の鍔部52が一体に形成されている。
軸連結部51において、モータ本体20側の軸方向端部(図3において上端部)の軸中心には、軸方向に沿って延びる駆動軸挿入孔53が形成されている。駆動軸挿入孔53は、回転軸24の連結部24aの外径形状に対応した二面幅形状をなしている。そして、駆動軸挿入孔53に連結部24aが圧入されることにより、駆動側回転体42は回転軸24と一体回転可能に連結される。なお、回転軸24と、該回転軸24に連結された駆動側回転体42とは、同軸上となる(すなわち、互いに中心軸線が一致する)。
図3及び図4に示すように、軸連結部51において、減速部30側の軸方向端部(図3において下端部)の軸中心には、軸方向に沿って延びる従動軸挿入孔54が形成されている。従動軸挿入孔54の中心軸線は、駆動軸挿入孔53の中心軸線と一致している。なお、本実施形態では、駆動軸挿入孔53と従動軸挿入孔54は互いに連通している。
図5(b)に示すように、従動軸挿入孔54の内周面は、軸方向と平行な平面状をなし互いに平行な一対の駆動側伝達面54aを有している。従動軸挿入孔54は、軸方向から見た形状が、駆動側伝達面54aと平行な方向が長手方向、駆動側伝達面54aと直交する方向が短手方向となる略トラック形状(二面幅形状)をなしている。なお、各駆動側伝達面54aには、ゴム材料等の弾性を有する材料よりなる2つの第1弾性部材55が設けられている。また、従動軸挿入孔54の内周面において、軸方向視における長手方向両端部にはそれぞれ第2弾性部材56が設けられている。第1及び第2弾性部材55,56は、従動軸挿入孔54の内周面から内側に若干突出している。
また、図4に示すように、駆動側回転体42は、鍔部52から軸方向の減速部30側に延出された一対の転動体解除部57を有している。転動体解除部57は、軸方向視における従動軸挿入孔54の長手方向両側にそれぞれ設けられている。また、各転動体解除部57は、周方向において180°対向位置に設けられている。なお、各転動体解除部57の周方向両端部は、ゴム材料等の弾性を有する材料よりなる弾性部58にて構成されている(図5(a)参照)。これら各転動体解除部57は、カラー41の内側に配置される。
[リテーナの構成]
図3及び図4に示すように、クラッチ40は、カラー41の内周側において転動体44を保持するリテーナ43を備えている。なお、リテーナ43は、樹脂材料にて形成されている。
リテーナ43は、ウォーム軸34の中心軸線L2を中心とする円環状をなすリング部61を有している。リング部61の外径は、カラー41の内径よりも大きく形成されている。リング部61は、カラー41の固定フランジ部41aに対してモータ本体20側(図3において上側)に配置され、固定フランジ部41aと軸方向に対向している。リング部61の下面(固定フランジ部41aと対向する軸方向の端面)には、軸方向に突出して固定フランジ部41aに当接する下側突条部61aが形成されている。なお、下側突条部61aは、リング部61の周方向に沿って円環状に形成されている。また、リング部61の上面(駆動側回転体42側の端面)には、軸方向に突出して駆動側回転体42の鍔部52に当接する上側突条部61bが形成されている。
リング部61の内周側における周方向に離間した2箇所(本実施形態では、180°間隔となる2箇所)には、略円柱状をなす転動体44を保持する転動体保持部62が形成されている。この転動体保持部62に保持された転動体44は、その軸中心がウォーム軸34の中心軸線L2と平行をなすように配置されている。転動体保持部62は、リング部61から径方向内側に向かって延びる軸方向支持部63を有している。軸方向支持部63は、転動体44の軸方向上側(駆動側回転体42側)を支持している。
図4及び図5(a)に示すように、各転動体保持部62には、軸方向支持部63の周方向両縁から軸方向(軸線L2方向)に沿って下方に延出された一対のローラサポート64a,64bが形成されている。一対のローラサポート64a,64bは、中心軸線L2の周方向において転動体44の両側位置に設けられて、転動体44を該周方向両側から保持している。換言すれば、一対のローラサポート64a,64bは、転動体44をその直径方向に挟むように保持している。なお、各転動体保持部62の対をなすローラサポート64a,64bについて、クラッチ40を軸方向のモータ本体20側から見て、転動体44の反時計回り方向側に位置するローラサポートを第1ローラサポート64aとし、転動体44の時計回り方向側に位置するローラサポートを第2ローラサポート64bとする(図5(a)参照)。
図5(a)に示すように、第1及び第2ローラサポート64a,64bは、互いに非対称形状をなしている。詳しくは、第1及び第2ローラサポート64a,64bにおける中心軸線L2を中心とする径方向の寸法は、第1ローラサポート64aの方が長く設定されている。また、第1ローラサポート64aの径方向内側端部は、第2ローラサポート64bの径方向内側端部よりも内周側に延出されており、この延出部位は、後述する従動側回転体45の制御面73と周方向に当接可能な当接部65として構成されている。
また、リテーナ43には、一方の転動体保持部62の第1ローラサポート64aの下端部と他方の転動体保持部62の第2ローラサポート64bの下端部とを互いに連結する連結部66が形成されている。連結部66は、軸方向視で中心軸線L2を中心とする円弧状をなしている。また、各ローラサポート64a,64bの下端部には、第1及び第2ローラサポート64a,64b間に周方向に略沿って突出する保持爪67が形成されている(図3及び図4参照)。各保持爪67は、転動体44の軸方向への脱落を防止する。
上記構成のリテーナ43は、各転動体保持部62の第1及び第2ローラサポート64a,64b間で転動体44をそれぞれ保持している。つまり、各転動体44は、中心軸線L2の周方向において等角度間隔(本実施形態では180°間隔)に配置されている。
上記構成のリテーナ43では、図3に示すように、リング部61がカラー41の固定フランジ部41aと駆動側回転体42の鍔部52との間に配置され、リング部61の下側突条部61a及び上側突条部61bは、固定フランジ部41a及び鍔部52とそれぞれ軸方向に当接している。
また、図3及び図5(a)に示すように、リテーナ43の各ローラサポート64a,64b及び転動体44は、カラー41の内周側に配置されている。リテーナ43は、カラー41に対して周方向に相対回転可能であり、転動体44は、その外周面がカラー41の内周面に当接可能となっている。
また、駆動側回転体42の各転動体解除部57は、リテーナ43のリング部61の内周側を通ってカラー41内に挿通されている。これら各転動体解除部57は、リテーナ43の各連結部66と軸方向に対向している。つまり、図5(a)に示すように、各転動体解除部57は、各転動体保持部62の周方向間に配置されている。そして、各転動体解除部57の周方向両端部(各弾性部58)は、一方の転動体保持部62の第1ローラサポート64a及び他方の転動体保持部62の第2ローラサポート64bとそれぞれ周方向に対向している。リテーナ43と駆動側回転体42とは周方向に相対回転可能であり、駆動側回転体42が回転すると、各転動体解除部57は、回転方向の前方側に位置するローラサポート64a,64bに当接するようになっている(図6(a)参照)。
図3に示すように、クラッチ40の従動側回転体45は、ウォーム軸34の基端部に一体に形成されている。従動側回転体45は、軸方向に並設された制御部71及び従動側連結部72を備えている。なお、従動側連結部72は、制御部71の基端側(上側)に設けられている。
制御部71は、ウォーム軸34に一体に形成されるとともに、ウォーム軸34の軸方向に延びる柱状をなしている。そして、制御部71は、その中心軸線がウォーム軸34の中心軸線L2と一致しており、ウォーム軸34と同軸上に形成されている。図5(a)に示すように、制御部71は、ウォーム軸34の中心軸線L2に対して点対称形状をなしている。
制御部71の外周面には、一対の制御面73が形成されている。各制御面73は、制御部71の外周面において周方向に等角度間隔(本実施形態では180°間隔)となる2箇所に形成されている。また、各制御面73は、軸方向に平行、かつ、従動側回転体45の径方向に対して直交する平面状をなしている。更に、一対の制御面73は、互いに平行をなすとともに、各制御面73の軸方向の長さは、前記転動体44の軸方向の長さよりも長い。
図5(b)に示すように、従動側連結部72は、ウォーム軸34の軸方向に延びる柱状をなしている。従動側連結部72の中心軸線はウォーム軸34の中心軸線L2と一致しており、ウォーム軸34と同軸上に形成されている。また、従動側連結部72は、前記従動軸挿入孔54よりも若干細く形成されている。従動側連結部72は、軸方向と直交する断面形状が略楕円形状をなすとともに、その断面形状は軸方向に一定となっている。そして、軸方向視における従動側連結部72の長手方向は、制御面73と平行な方向であるとともに、該従動側連結部72の短手方向は、制御面73と直交する方向となっている(図5(a)も参照)。なお、従動側連結部72は、ウォーム軸34の中心軸線L2に対して点対称形状をなしている。
従動側連結部72の外周面には、一対の第1従動側伝達面74及び一対の第2従動側伝達面75が形成されている。対をなす2つの第1従動側伝達面74のうち、一方の第1従動側伝達面74は、他方の第1従動側伝達面74に対して180°反対側に形成されている。2つの第1従動側伝達面74は、それぞれ軸方向と平行な平面状をなすとともに、互いに平行をなしている。また、2つの第1従動側伝達面74の間の間隔は、駆動側回転体42の従動軸挿入孔54に設けられた一対の駆動側伝達面54aの間の間隔と等しく形成されている。
また、第2従動側伝達面75は、2つの第1従動側伝達面74の間にそれぞれ形成されるとともに、一方の第2従動側伝達面75は、他方の第2従動側伝達面75に対して180°反対側に形成されている。2つの第2従動側伝達面75は、それぞれ軸方向と平行な平面状をなすとともに、互いに平行をなしている。また、2つの第2従動側伝達面75間の間隔は、駆動側回転体42の従動軸挿入孔54に設けられた一対の駆動側伝達面54a間の間隔と等しく形成されている。そして、第1従動側伝達面74及び第2従動側伝達面75は、軸方向には、従動側連結部72の軸方向の一端から他端に亘って形成されている。
図3に示すように、上記のような従動側回転体45は、駆動側回転体42とは反対側からカラー41及びリテーナ43の内側に挿入されている。また、従動側連結部72は、駆動側回転体42の従動軸挿入孔54に挿入され、制御部71は、リテーナ43に保持された2つの転動体44の間に配置されている。更に、従動側回転体45は、カラー41、駆動側回転体42及びリテーナ43と同軸上に配置されている。
図5(b)に示すように、従動側連結部72は、駆動側回転体42と一体回転可能に従動軸挿入孔54に遊嵌されている。ここで、従動側連結部72の外周面と従動軸挿入孔54の内周面との間には、第1及び第2弾性部材55,56が介在されている。詳しくは、一対の第2弾性部材56は、従動側連結部72の軸方向視における長手方向両端部と接触している。また、4つの第1弾性部材55は、2つの第1従動側伝達面74及び2つの第2従動側伝達面75と駆動側伝達面54aとの間にそれぞれ介在されている。
そして、従動側回転体45に対して駆動側回転体42が中心軸線回りに回転すると、駆動側伝達面54aは、第1弾性部材55を弾性変形させつつ、第1及び第2従動側伝達面74,75のいずれかに対して回転方向に当接する。これにより、駆動側回転体42と従動側回転体45とが回転方向に係合されて駆動側回転体42の回転駆動力が従動側回転体45に伝達されるようになる。
また、図5(a)に示すように、従動側回転体45の制御部71は、各制御面73とカラー41の内周面との間にそれぞれ転動体44が介在されるようにリテーナ43の内側に挿入されている。すなわち、リテーナ43は、カラー41の内周面と従動側回転体45の各制御面73との間に転動体44を保持している。
各制御面73は、カラー41の内周面との間の距離(制御面73と直交する方向の間隔)が、従動側回転体45の回転方向に変化する。本実施形態では、制御面73とカラー41の内周面との間の距離は、各制御面73の周方向の中央において最も長く、各制御面73の周方向の中央から周方向の両端に向かうに連れて徐々に短くなる。また、制御面73の周方向の中央とカラー41の内周面との間の距離は、転動体44の外径(直径)よりも長く、且つ、各制御面73の周方向端部とカラー41の内周面との間の距離は、転動体44の外径(直径)よりも短くなっている。
また、制御部71の外周側に配置されたリテーナ43において、中心軸線L2から当接部65(第1ローラサポート64a)の径方向内側端部までの距離D1は、制御面73の周方向両端部の外径D2(中心軸線L2から該周方向端部までの距離)よりも短く設定されている。また、中心軸線L2から第2ローラサポート64bの径方向内側端部までの距離D3は、前記制御面73の周方向端部の外径D2よりも長く設定されている。
次に、モータ11の動作(特にクラッチ40の動作)をその作用とともに説明する。
モータ本体20の駆動時には、回転軸24と共に駆動側回転体42が回転する。ここで、図6(a)(b)には、駆動側回転体42が周方向の第1の方向R1に回転駆動する場合を示している。このとき、図6(a)に示すように、駆動側回転体42の各転動体解除部57の周方向端部(弾性部58)が、各転動体保持部62の第2ローラサポート64bに回転方向に当接して、該第2ローラサポート64b及び転動体44を回転方向に押圧する。これにより、各転動体44が従動側回転体45の各制御面73の周方向の中央部に配置される。つまり、転動体44が制御面73とカラー41との間に挟持されない(すなわち従動側回転体45の回転の妨げとならない)ロック解除状態とされる。
そして、そのロック解除状態において、図6(b)に示すように、駆動側回転体42の各駆動側伝達面54aが、従動側連結部72の各第1従動側伝達面74と回転方向に当接する。これにより、駆動側回転体42(回転軸24)の回転力が従動側回転体45(ウォーム軸34)に伝達されて回転軸24とウォーム軸34とが第1の方向R1に一体回転する。なお、このとき、リテーナ43及び各転動体44は、各転動体解除部57に回転方向に押圧されることで、駆動側回転体42及び従動側回転体45と共に回転する。そして、ウォーム軸34の第1の方向R1への回転がウォームホイール37を介して出力軸13に伝達されることで、該出力軸13に連結されたウインドレギュレータ12が作動し、ウインドガラスWGが開作動(下降)される。
上記の図6(a)(b)で示した動作では、駆動側回転体42が第1の方向R1に回転する場合を示しているが、第1の方向R1とは反対の第2の方向R2に駆動側回転体42が回転する場合においても同様の動作が実現される。つまり、駆動側回転体42が時計回り方向に回転する場合には、各駆動側伝達面54aが各第2従動側伝達面75と回転方向(第2の方向R2)に当接し、駆動側回転体42と従動側回転体45(ウォーム軸34)とが第2の方向R2に一体回転する。そして、ウォーム軸34の第2の方向R2への回転がウォームホイール37を介して出力軸13に伝達されることで、該出力軸13に連結されたウインドレギュレータ12が作動し、ウインドガラスWGが閉作動(上昇)される。
一方、モータ本体20の停止時、すなわち回転軸24及び駆動側回転体42の非回転駆動時において、負荷側(本実施形態ではウインドレギュレータ12側)から出力軸13に荷重がかかると、その荷重により従動側回転体45(ウォーム軸34)が回転しようとする。
ここで、図7(a)(b)には、例えばウインドガラスWGに開方向(下降方向)への外力が掛かることで、従動側回転体45が周方向の第1の方向R1に回転しようとする場合を示している。このとき、図7(a)に示すように、従動側回転体45の各制御面73が、各制御面73とカラー41の内周面との間に配置された転動体44を外周側に押圧する。制御面73に押された転動体44は、対をなすローラサポート64a,64bの間で外周側に移動してカラー41の内周面に当接するとともに、制御面73の中央よりも周方向端部(第1の方向R1の後方側端部73a)寄りの位置で該制御面73とカラー41の内周面との間に挟持される。これにより、転動体44がくさびとなって、従動側回転体45の第1の方向R1への回転が阻止(つまり、ウォーム軸34の回転がロック)される。従って、モータ本体20の非駆動時において、ウインドガラスWGが例えば自重によって下降してしまうことが抑制されるようになっている。なお、図7(a)に示す従動側回転体45のロック位置(カラー41とで転動体44を挟持する位置)において、図7(b)に示すように、従動側連結部72の各第2従動側伝達面75は、駆動側回転体42の各駆動側伝達面54aに対して回転方向(第1の方向R1)に接触しないようになっている。
一方、図8(a)(b)には、例えばウインドガラスWGに閉方向(上昇方向)への外力が掛かることで、従動側回転体45が周方向の第2の方向R2に回転しようとする場合を示している。このとき、図8(a)に示すように、従動側回転体45の制御面73の周方向端部(第2の方向R2の後方側端部73b)が、第1ローラサポート64aの当接部65と回転方向(第2の方向R2)に当接し、リテーナ43及び各転動体44が従動側回転体45と共に第2の方向R2に連れ回りする。このとき、各転動体44は、各制御面73の周方向の中央部に配置された状態、つまり、制御面73とカラー41とで挟持されない状態を保持されたまま、第2の方向R2に回転する。
そして、図8(b)に示すように、従動側連結部72の各第1従動側伝達面74が、駆動側回転体42の各駆動側伝達面54aと回転方向(第2の方向R2)に当接し、その後においては、従動側回転体45、リテーナ43、各転動体44及び駆動側回転体42が第2の方向R2に一体回転する。
次に、本実施形態の特徴的な効果を記載する。
(1)クラッチ40は、駆動側回転体42の回転駆動状態では、該駆動側回転体42の正逆回転駆動を従動側回転体45に伝達する。また、クラッチ40は、駆動側回転体42の非回転駆動状態では、従動側回転体45とカラー41との間に転動体44が挟持されることで従動側回転体45の第1の方向R1への回転を阻止する一方、該第1の方向R1とは反対の第2の方向R2への従動側回転体45の回転は許容する。
この構成によれば、駆動側回転体42の非回転駆動状態における従動側回転体45の第2の方向R2への回転時には、転動体44が従動側回転体45とカラー41との間に挟持されない(くさびとならない)。これにより、転動体44が従動側回転体45とカラー41との間に挟持される回数を減少できるため、カラー41、転動体44及び従動側回転体45の摩耗を抑制でき、その結果、ロック性能の低下を抑制できる。
また、パワーウインド装置10は、モータ11の駆動に基づく従動側回転体45及びウォーム軸34の第1の方向R1への回転によってウインドガラスWGが開作動され、モータ11の駆動に基づく従動側回転体45及びウォーム軸34の第2の方向R2への回転によってウインドガラスWGが閉作動されるように構成される。
このため、モータ11の非駆動状態においてウインドガラスWGに開方向(下降方向)の外力が掛かったとき、従動側回転体45が第1の方向R1に回転しようとするが、該第1の方向R1への回転はクラッチ40の転動体44のくさびによって阻止される。一方、モータ11の非駆動状態においてウインドガラスWGに閉方向(上昇方向)の外力が掛かったときには、転動体44が従動側回転体45とカラー41との間に挟持されず、従動側回転体45の第2の方向R2への回転は許容される。これにより、モータ11の非回転駆動状態においてウインドガラスWGが自重等によって下降することを抑制しつつも、クラッチ40の転動体44が従動側回転体45とカラー41との間に挟持される回数を減少でき、その結果、摩耗によるロック性能の低下を抑制できる。
(2)カラー41に対して相対回転可能に構成され、転動体44をカラー41の内周面と従動側回転体45との間に保持するリテーナ43を備える。そして、リテーナ43は、駆動側回転体42の非回転駆動状態における従動側回転体45の第2の方向R2への回転時において該従動側回転体45が回転方向に当接される当接部65を有する。
この構成によれば、駆動側回転体42の非回転駆動状態における従動側回転体45の第2の方向R2への回転時に、従動側回転体45が回転方向にリテーナ43の当接部65に当接し、それにより、リテーナ43と転動体44が従動側回転体45と連れ回りする。従って、従動側回転体45の第2の方向R2への回転時に転動体44が従動側回転体45とカラー41との間に挟持されず、従動側回転体45の第2の方向R2への回転を許容させることができる。
(3)リテーナ43は、従動側回転体45の周方向における転動体44の両側を保持する一対のローラサポート(第1及び第2ローラサポート64a,64b)を有する。そして、リテーナ43の当接部65は、一対のローラサポートのうち、転動体44の第1の方向R1側に位置する第1ローラサポート64aに設けられていることが好ましい。この構成によれば、駆動側回転体42の非回転駆動状態における従動側回転体45の第2の方向R2への回転時において、該従動側回転体45を当接部65に対して好適に当接させることが可能となる。
なお、上記実施形態は、以下のように変更してもよい。
・駆動側回転体42の非回転駆動状態において従動側回転体45の第2の方向R2への回転を許容する構成は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。具体的には、上記実施形態では、第2の方向R2に回転する従動側回転体45の制御面73をリテーナ43(当接部65)に対して回転方向に当接させる構成としたが、これ以外に例えば、制御面73の形状変更によって従動側回転体45の第2の方向R2への回転を許容する構成を実現してもよい。
例えば、図9に示す構成では、制御面73における第2の方向R2の後方側端部73bとカラー41の内周面との間隔D4(径方向に沿った間隔)が、転動体44の直径D5よりも長く設定されている。なお、制御面73における第1の方向R1の後方側端部73aとカラー41の内周面との間隔D6(径方向に沿った間隔)は、上記実施形態と同様に、転動体44の直径D5よりも短く設定されている。また、制御部71の外周面において、制御面73の第1の方向R1側(換言すると、制御面73の第2の方向R2の後方側)には、中心軸線L2を中心とする円弧状をなす円弧面71aが、制御面73と段差無く繋がるように形成されている。この円弧面71aの外径は、制御面73における第2の方向R2の後方側端部73bの外径と等しく設定されている。なお、制御部71の外周面における制御面73以外の面(円弧面71aを含む)の外径は、図9に示す構成に限定されるものではなく、制御面73における第2の方向R2の後方側端部73bの外径よりも小さい範囲内で適宜変更可能である。
また、リテーナ43の第1ローラサポート64aは、上記実施形態の第2ローラサポート64bと同様の形状をなしている。つまり、第1及び第2ローラサポート64a,64bは互いに対称形状をなしている。
このような構成によれば、図9に示すように、駆動側回転体42の非回転駆動状態における従動側回転体45の第1の方向R1への回転時には、上記実施形態と同様に、転動体44を制御面73とカラー41との間に挟持させて従動側回転体45の回転を阻止するように構成できる。一方、図10に示すように、駆動側回転体42の非回転駆動状態における従動側回転体45の第2の方向R2への回転時には、制御面73の第2の方向R2の後方側端部73bで該制御面73とカラー41との間に転動体44が挟持されない。このため、従動側回転体45の第2の方向R2への回転が許容されるようになっている。これにより、上記実施形態と同様に、転動体44が制御面73とカラー41との間に挟持される回数を減少できるため、カラー41、転動体44及び従動側回転体45の摩耗を抑制でき、その結果、ロック性能の低下を抑制できる。なお、従動側回転体45の第2の方向R2への回転時には、上記実施形態と同様に、従動側連結部72の各第1従動側伝達面74が、駆動側回転体42の各駆動側伝達面54aと回転方向に当接し、その後においては、従動側回転体45、リテーナ43、各転動体44及び駆動側回転体42が第2の方向R2に一体回転する(図8(b)を参照)。
・リテーナ43の形状等の構成は上記実施形態に限定されるものではなく、構成に応じて適宜変更可能である。例えば、上記実施形態では、リテーナ43において第2の方向R2に回転する従動側回転体45が回転方向に当接する当接部65を第1ローラサポート64aに設けたが、リテーナ43における第1ローラサポート64a以外の箇所(例えば連結部66)に当接部を設けてもよい。
・クラッチ40が備える転動体44の個数は、上記実施形態の2つに限定されるものではなく、1つ、又は3つ以上としてもよい。なお、勿論、設けられる転動体44の個数に応じて、制御面73の個数、リテーナ43の転動体保持部62の個数、及び転動体解除部57の個数等が変更可能である。
・上記実施形態では、転動体44はその軸中心がウォーム軸34の中心軸線L2と平行をなすように構成されたが、転動体44の軸中心がウォーム軸34の中心軸線L2に対して若干傾斜する構成であってもよい。また、上記実施形態では、転動体44は略円柱状をなしているが、これ以外に例えば、球体状であってもよい。
・回転軸24の連結部24a及び該連結部24aが嵌合される駆動軸挿入孔53の形状は、上記実施形態の形状(二面幅形状)に限らず、連結部24aと駆動軸挿入孔53とを一体回転可能に連結可能な形状であればよい。また、従動側連結部72及び従動軸挿入孔54の形状も同様に、上記実施形態の形状に限らない。
・上記実施形態では、駆動側回転体42と従動側回転体45とを一体回転可能に連結する構成として、従動側回転体45側の従動側連結部72を駆動側回転体42側の従動軸挿入孔54に挿入する構成とした。しかしながら、これに特に限定されるものではなく、例えば、従動側連結部72の先端面に軸方向に窪む挿入凹部を設け、該挿入凹部に駆動側回転体42側に設けた連結凸部を挿入する構成としてもよい。
・上記実施形態では、駆動側回転体42が回転軸24と別体で構成されたが、これらを一体に形成してもよい。また、上記実施形態では、従動側回転体45をウォーム軸34と一体に形成したが、従動側回転体45をウォーム軸34とは別体で構成してもよい。
・上記実施形態では、Xアーム式のウインドレギュレータ12を用いたパワーウインド装置10に適用したが、ワイヤ式のウインドレギュレータを用いるパワーウインド装置に適用してもよい。また、パワーウインド装置以外の、モータを駆動源とする車載装置に適用してもよい。また、上記実施形態のクラッチ40をモータ以外の装置に適用してもよい。
・上記した実施形態並びに各変形例は適宜組み合わせてもよい。