JP6598222B1 - 魚類加工品の製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】この発明は、魚類加工品の製造方法に関し、魚類の外観を良好に保ちつつ骨を軟らかい可食部とすることを目的とする。【解決手段】容器12の中に魚類18をセットする。50°C以上90°C以下の第1温度T1、かつ、第1温度T1における飽和水蒸気圧より高く大気圧より低い第1圧力P1の環境で減圧加熱工程を施す。減圧加熱工程の後に、105°C以上125°C以下の第2温度T2、かつ、第2温度T2における飽和水蒸気圧より高い第2圧力P2の環境で加圧加熱工程を施す。加圧加熱工程の後に、容器12内の圧力Pが飽和水蒸気圧を下回らないように、容器12内の温度Tを100°Cまで低下させる第1の環境制御工程を行う。【選択図】図1

Description

この発明は、魚類加工品の製造方法に係り、特に、魚類の外観を良好に保ちつつ骨を軟らかい可食部とするのに好適な魚類加工品の製造方法に関する。
特許文献1には、減圧加熱と加圧加熱とを併用して魚類を加工する方法が開示されている。この方法では、加熱媒体として水蒸気が用いられることがある。その場合、減圧加熱では、加熱容器の内圧が大気圧より下げられた状態で、水蒸気によって加熱容器の内部が60°C程度に加熱される。容器の内圧を下げると、水蒸気の分圧が上昇して、温度分布が均一化し易くなる。また、60°Cという温度はたんぱく質が凝固する変性温度である。このため、上記の減圧加熱によれば、均一な温度分布により、容器内部の魚類の表皮付近を好適に凝固させることができる。
上記の方法において、加圧加熱は、減圧加熱に続けて行われる。この加圧加熱では、容器内が大気圧より高圧とされた状態で、その内部が水蒸気によって120°C程度に加熱される。容器の内圧が大気圧より高圧であれば、その内部の温度は、大気圧での水の沸点100°Cより高くすることができる。そして、このような高温高圧での加熱によれば、魚類の骨を軟化させることができる。このため、特許文献1に記載の方法によれば、身肉だけでなく、骨の部分まで容易に食すことのできる魚類加工品を製造することができる。
特開2001−327267号公報
ところで、特許文献1には、魚類を加圧加熱のみで処理する比較例の方法では、骨は軟化するものの表皮に酷い剥がれが生ずることが記載されている。そして、加圧加熱に先立って減圧加熱を行うと、減圧加熱の段階で表皮付近を凝固させることができるため、表皮の剥がれが改善されることが記載されている(例えば、段落[0049])。
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、骨を軟らかい可食部としつつ、商品として認め得るような外観を魚類加工品に与えることが困難であった。より具体的には、特許文献1に記載の方法では、魚類加工品の身肉の崩れ、および表皮の剥がれを、商品として成立するレベルに抑えることが極めて困難であった。
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、魚類の外観を良好に保ちつつ骨を軟らかい可食部とすることのできる魚類加工品の製造方法を提供することを目的とする。
第1の発明は、上記の目的を達成するため、魚類加工品の製造方法であって、
容器内の魚類を、50°C以上90°C以下の第1温度、かつ、前記第1温度における飽和水蒸気圧より高く大気圧より低い第1圧力の下で処理する減圧加熱工程と、
前記容器内の魚類を、前記減圧加熱工程の後に、105°C以上125°C以下の第2温度、かつ、前記第2温度における飽和水蒸気圧より高い第2圧力の下で処理する加圧加熱工程と、
前記加圧加熱工程の後に、前記容器内の圧力が飽和水蒸気圧を下回らないように、当該容器内の温度を100°Cまで低下させる第1の環境制御工程と、
を備えることを特徴とする。
また、第2の発明は、第1の発明において、前記第1の環境制御工程では、前記容器内の温度の低下に伴って当該容器内の圧力を低下させることを特徴とする。
また、第3の発明は、第2の発明において、前記第1の環境制御工程では、前記容器内の温度が100°Cに低下するのと同期して当該容器内の圧力が大気圧まで下がるように当該圧力を低下させることを特徴とする。
また、第4の発明は、第2または第3の発明において、前記第1の環境制御工程では、前記容器内の圧力を、8分以上の時間をかけて前記第2圧力から大気圧まで低下させることを特徴とする。
また、第5の発明は、第1乃至第4の発明の何れかにおいて、前記減圧加熱工程の後に、前記容器内の圧力を、1分以上の時間をかけて前記第1圧力から大気圧まで復帰させ、次いで当該圧力を大気圧から前記第2圧力に上昇させる第2の環境制御工程を更に備えることを特徴とする。
また、第6の発明は、第1乃至第5の発明の何れかにおいて、前記減圧加熱工程、および前記加圧加熱工程では、加熱された水蒸気が熱源として用いられることを特徴とする。
第1の発明によれば、減圧加熱工程では、魚類の身肉に含まれる水分を沸騰させることなく、魚類の表皮付近のたんぱく質を凝固させることができる。また、加圧加熱工程では、魚類の身肉に含まれる水分を沸騰させることなく、魚類の骨を、可食部となるように軟化させることができる。加圧加熱工程の後に、魚類が100°Cを超える状態で容器の圧力が大気圧に低下すると、容器内の圧力が飽和水蒸気圧を下回って魚類の水分が沸騰温度を超える状態となり、身肉および表皮に著しい損傷が生じ易い。これに対して、第1の環境制御工程によれば、魚類の水分を沸騰させることなくその温度を100°Cまで低下させることができる。魚類の温度が100°Cに下がれば、容器が大気圧に解放されても、身肉に含まれる水分が沸騰することはなく、身肉および表皮に損傷は生じ無い。このため、本発明によれば、可食部となる程度に骨が軟らかく、かつ良好な外観を有する魚類加工品を製造することができる。
第2の発明によれば、第1の環境制御工程において、魚類の温度が低下するのに伴って、容器内の圧力を低下させることができる。容器を大気圧に解放する時点で魚類の温度が100°Cに低下していれば、身肉の水分が沸騰することはない。しかしながら、その時点で容器内に高い圧力が保持されていると、容器を解放した瞬間に、容器内に大きな圧力変化が生ずる。このような圧力変化は、魚類の身肉および表皮に損傷を与える原因となる。本発明によれば、そのような圧力変化を小さくすることができるため、容器を大気圧に解放する際に魚類の外観が損傷を受けるのを有効に防ぐことができる。
第3の発明によれば、第1の環境制御工程において、魚類の温度が100°Cに低下して容器を大気圧に解放し得る状態が調うのと同期して、容器内の圧力を大気圧にまで低下させることができる。この場合、容器の解放時に実質的な圧力変化が生じないため、その解放に伴う外観損傷を最小化することができる。
第4の発明によれば、第1の環境制御工程において、8分以上の時間をかけてゆっくりと容器内の圧力が大気圧まで低下させられる。この間に魚類の温度が適切に下がるため、本発明によれば魚類の身肉および表皮の損傷を十分に抑制することができる。
第5の発明によれば、減圧加熱工程で第1圧力まで下げられた容器内の圧力は、その後1分以上の時間をかけて大気圧まで復帰させられる。減圧加熱工程の後に、容器内の圧力を第1圧力から大気圧まで一気に上昇させると、魚類の身肉および表皮は、急激な圧力変化に起因する損傷を受けることがある。本発明によれば、そのような損傷の発生を防ぐことができ、魚類加工品に良好な外観を与えることができる。
第6の発明によれば、加熱の熱源として水蒸気が用いられる。減圧加熱工程でも、加圧加熱工程でも、容器内の圧力は飽和蒸気圧より高圧に制御される。この状況下で水蒸気が熱源として導入されると、魚類の表皮からの水分蒸発を有効に抑制しつつ、容器内に均一な温度分布を形成することができる。このため、本発明によれば、骨が軟らかく、外観に優れ、かつジューシーな食感を持つ魚類加工品を製造することができる。
本発明の実施の形態1の製造方法に用い得る製造装置の構成を説明するための図である。 本発明の実施の形態1における加圧加熱工程に伴う課題を説明するための図である。 本発明の実施の形態1における加圧加熱工程に伴う課題を解決する手法を説明するための図である。 本発明の実施の形態1における減圧加熱工程の課題と、その課題を解決する手法を説明するための図である。 本発明の実施の形態1の製造方法を説明するためのフローチャートである。 本発明の実施の形態1の製造方法を説明するためのタイミングチャートである。
実施の形態1.
[製造装置の構成]
図1は、本発明の実施の形態1の製造方法に用い得る製造装置の構成を説明するための図である。図1に示す製造装置10は、断熱処理が施された容器12を備えている。容器12の内部には、槽内台車14が収納されている。容器12には、図示しない開閉扉が設けられており、槽内台車14は、その開閉扉を通して搬入出することができる。
槽内台車14には複数のトレー16が搭載されている。図1には、トレー16の上に、加工対象の魚類18が並べて配置された状態が示されている。トレー16は、板状であっても網状であってもよいが、網状のトレー16を用いると魚類18に網状の焼き目を付けることができる。また、魚類18としては、例えば、サンマ、イワシ、ニシン、サバなどを用いることができる。
容器12には、温度調節弁20を介して水蒸気供給装置22が接続されている。水蒸気供給装置22は、加熱された水蒸気を送出する装置である。温度調節弁20は、指定されたデューティ比で開閉することにより、容器12に流入する水蒸気の量、つまり、容器12に供給される熱量を制御することができる。
容器12には、真空調節弁24を介して真空吸引装置26が接続されている。真空吸引装置26は、開弁状態にある真空調節弁24を介して、容器12内部のガスを吸引する装置である。真空調節弁24は、指定されたデューティ比で開閉することにより、容器12から流出するガス量を制御することができる。
容器12には、圧力調節弁28を介して加圧空気供給装置30が接続されている。加圧空気供給装置30は、開弁状態にある圧力調節弁28を介して、容器12の内部に空気を送り込むための装置である。圧力調節弁28は、指定されたデューティ比で開閉することにより、加圧空気供給装置30から容器12に流入する空気の量を制御することができる。
容器12には、圧力解放弁32が設けられている。圧力解放弁32も、上記の他の弁と同様に、指定されたデューティ比で開閉することができる。圧力解放弁32が開くと、容器12は大気圧に解放された状態となる。本実施形態において、圧力解放弁32は、減圧された容器12内部の圧力Pを大気圧に解放する際に用いられる。
容器12の底部には、ドレイン弁34が設けられている。ドレイン弁34も、指定されたデューティ比で開閉することができる。ドレイン弁34によれば、容器12の内部に溜まった水分等を外部に排出することができると共に、容器12内の圧力Pを大気圧に解放することができる。本実施形態において、ドレイン弁34は、加圧された容器12内の圧力Pを大気圧に解放する際に用いられる。
容器12の内部には、圧力センサ36および温度センサ38が収容されている(図1では、それらは便宜上容器12の外に示されている)。圧力センサ36は、容器12内部の圧力Pに応じた出力を発する。また、温度センサ38は、容器12内部の温度Tに応じた出力を発する。それらの出力は、何れも制御装置40に供給される。
制御装置40は、圧力センサ36の出力に基づいて容器12内部の圧力Pを、また、温度センサ38の出力に基づいて容器12内部の温度Tを検出することができる。また、制御装置40は、上述した各種の弁に対して、開閉状態を切り替える指令を発することができる。
[基本の製造工程と課題]
(減圧加熱工程)
本実施形態の製造方法では、容器12の中に魚類18をセットした後、先ず、減圧加熱工程が行われる。減圧加熱工程は、容器12の内部を第1温度T1、および第1圧力P1として行われる。第1温度T1は、魚類の種類やサイズに応じて、50°C以上90°C以下の範囲内で定められる温度である。第1圧力P1は、第1温度T1における飽和水蒸気圧より高く、大気圧より低い範囲内で定められる圧力である。
第1温度T1が例えば50°Cである場合、第1圧力P1は、第1温度T1における飽和水蒸気圧12,000Paより高く、大気圧に相当する101,300Pa(ここでは標準大気圧とする)より低い圧力となる。また、第1温度T1が90°Cである場合、第1圧力P1は、第1温度T1における飽和水蒸気圧71,000Paより高く、大気圧に相当する101,300Paより低い範囲内で設定される。
たんぱく質が凝固する変性温度は60°C程度である。本実施形態における減圧加熱工程によれば、その変性温度に近い第1温度T1で魚類18を加熱することで、魚類18の表皮付近を好適に凝固させることができる。これにより、魚類18の身肉が崩れ難くなり、また、身肉の水分や旨み成分が表皮の外に逃げ出し難くなる。
また、上記の第1圧力P1によれば、容器12内の魚類18は、飽和水蒸気圧より高い圧力下に置かれることになる。この場合、魚類18の温度は、水の沸点以下であることになり、身肉に含まれる水分の急激な蒸発を避けることができる。
更に、本実施形態では、水蒸気供給装置22から供給される水蒸気によって容器12の内部が加熱される。つまり、トレー16に乗せられた魚類18は、容器12の内部がほぼ水蒸気で飽和している状態で加熱される。熱源である水蒸気を容器12の中にほぼ飽和させると、容器12内の温度分布を均一化させることができる。加えて、このような環境によれば、魚類18からの水分の蒸発を更に抑えることができる。このため、本実施形態における減圧加熱工程によれば、魚類18からの水分の蒸発を十分に抑制しつつ、魚類18の表皮付近を好適に凝固させることができる。
(加圧加熱工程)
本実施形態の製造方法では、上記の減圧加熱工程の終了後に、加圧加熱工程が行われる。加圧加熱工程は、容器12の内部を第2温度T2に昇温し、かつその内部を第2圧力P2に上昇させた状態で行われる。第2温度T2は、魚類の種類やサイズに応じて、105°C以上125°C以下の範囲内で定められる温度である。第2圧力P2は、第2温度T2における飽和水蒸気圧に所定のマージンを加えて設定される圧力である。
第2温度T2が例えば105°Cである場合、第2圧力P2は、第2温度T2における飽和水蒸気圧120,000Paより僅かに高い圧力となる。また、第2温度T2が125°Cである場合、第2圧力P2は、第2温度T2における飽和水蒸気圧232,000Paより僅かに高い値に設定される。
本実施形態の加圧加熱工程では、減圧加熱工程の場合と同様に水蒸気が熱源として用いられる。従って、加圧加熱工程は、減圧加熱工程の場合と同様に、容器12内が十分に水蒸気で満たされ、かつ、魚類18の温度が水の沸点以下に保たれた状態で進められる。このような加圧加熱工程によれば、魚類18の身肉に含まれる水分の蒸発を十分に抑制しつつ、魚類に十分な熱を伝えることができる。そして、このような加熱によれば、魚類18の骨を十分に軟らかい可食部とすることができる。
(上記工程の課題)
本願発明者は、上記の減圧加熱工程および加圧加熱工程を適用して、種々の条件で魚類加工品の製造を試みた。その結果、数百回に上る実験を繰り返すも、水分の保有状態と骨の軟化状態については満足が得られるが、身肉の崩れと表皮の剥がれが十分に抑制できず、商品として出荷できるレベルの外観が得られない状態が続いた。
魚類加工品を製造するにあたっては、その製造時間は短いほど望ましい。そして、その製造時間を短縮するためには、加圧加熱工程の後、容器12内の圧力Pを素早く大気圧まで下げて、魚類18の搬出までに要する時間を短くすることが有効である。このような潜在的欲求から、製造実験は、当初、加圧加熱工程の終了後に迅速に圧力Pを下げる方法で繰り返された。
そして、本願発明者は、製造実験を繰り返すうちに、加圧加熱工程の後、第2圧力P2が大気圧に低下するまでの圧力変化が緩やかであると、良好な外観が得られ易いという傾向を見出した。更に、本願発明者は、減圧加熱工程の後に、第1圧力P1が大気圧に戻る速度についても、同様の傾向があることを見出した。
[実施の形態1の製造方法の特徴]
図2は、加圧加熱工程後の圧力Pの変化に伴う課題の原因に関する仮説を説明するための図である。図2に示す曲線42は、飽和水蒸気圧と温度の関係を表す飽和水蒸気圧曲線である。また、星印44は、加熱加圧工程における温度および圧力の一例である(ここでは、120°C、245,000Paとする)。
加熱加圧工程の終了時には、容器12の内部で星印44に対応する環境が成立している。この場合、魚類18の身肉に含まれる水分は、第2圧力P2と、ほぼ飽和状態にある水蒸気との影響で、蒸発し難い状態にある。この状態でドレイン弁34が解放されると、温度Tが第2温度T2に維持されたまま、圧力Pだけが一気に大気圧まで低下し、容器12内部が丸印46に対応する環境となる。
丸印46の環境では、魚類18が、飽和蒸気圧を大きく下回る圧力Pに晒される。そして、容器12内の環境が星印44で示すものから丸印46で示すものに一気に変化すると、身肉に含まれる水分が一気に沸騰し、その水分が爆発的に魚類18から抜け出すことが考えられる。そこで、本願発明者は、このような瞬間的な水分の沸騰が、魚類18の外観に損傷を与えている主原因であるとの仮説を立てた。
図3は、上記の仮説に基づき本願発明者が採用した課題解決のための手法を説明するための図である。図3において、曲線42および星印44は、夫々図2に示すものと同じである。丸印48は、大気圧に相当する圧力Pと、その圧力Pでの水の沸点100°Cとの組み合わせを示している。また、曲線50は、飽和蒸気圧より僅かに高い圧力Pを保ちつつ、星印44の環境を丸印48の環境に移行させるための軌跡を示している。
加圧加熱工程の後に、容器12の環境を曲線50に沿って変化させれば、魚類18を飽和蒸気圧以下の圧力Pに晒すことなく、その温度Tを100°Cまで下げることができる。そして、魚類18の温度Tが100°Cまで下がれば、以後容器12の開閉扉を開けてその内部を大気圧に晒しても、魚類18が、飽和蒸気圧以下の圧力Pに晒されることはない。従って、加圧加熱工程の後に、容器12の内部環境をこのように制御すれば、上記の仮説に伴う外観の損傷は防止できるはずである。
以上の分析に基づき、本願発明者は、加圧加熱工程の後に、容器12の環境を曲線50に倣って変化させる第1の環境制御工程を実施する実験を試みた。その結果、魚類18の外観には著しい改善が見られた。そこで、本実施形態の製造方法では、加圧加熱工程の後に、第1の環境制御工程を追加することとした。
図4は、減圧加熱工程の終了後、加圧加熱工程が開始されるまでの容器12内の環境変化を説明するための図である。図中、曲線42および星印44は、図2および図3の場合と同様である。また、白抜きの星印52は、減圧加圧工程における容器12内の環境を表しているものとする。更に、下側の丸印54は、減圧加熱工程の後、容器12の圧力Pが大気圧に復帰した際の環境を表し、上側の丸印56は、その後更に圧力Pが第2圧力P2まで上昇した際の環境を表している。
図4に示す環境変化の過程では、魚類18が飽和水蒸気圧以下の圧力Pに晒されることはない。このため、減圧加圧工程から加圧加熱工程への移行過程では、水分の沸騰に起因する外観損傷は生じ難いと考えられる。また、大気圧に戻った圧力Pの第2圧力P2への上昇、つまり、丸印54から丸印56への変化は、加圧空気供給装置30からの空気の供給に依拠しており、一気に進行するものではない。このため、この段階でも、魚類18の外観に大きな損傷は生じ難いと考えられる。
これに対して、減圧加熱工程の終了後、圧力Pが大気圧に戻る変化、つまり、星印52から丸印54への変化は、圧力解放弁32が解放されれば一気に進行する。そして、このような環境下では、圧力衝撃を受けた魚類18の外観に大きな損傷が生ずることが考えられる。
魚類加工品の製造時間を短縮したいという潜在的欲求によれば、減圧加圧工程の終了後に、製造者は、容器12の圧力Pを大気圧まで一気に復帰させる手法を選択し勝ちである。これに反して、本願発明者は、減圧加熱工程の後、圧力Pをゆっくりと大気圧に戻す処理が、魚類18の外観にどのような変化をもたらすかを検討し、その結果、その処理が良好な外観を得る上で有用であることを見出した。そこで、本実施形態の製造方法では、減圧加熱工程と加圧加熱工程との間に、容器12内の圧力Pをゆっくりと大気圧に復帰させ、その後圧力Pを第2圧力P2まで上昇させる第2の環境制御工程を追加することとした。
[実施の形態1の製造方法の流れ]
図5は、図1に示す製造装置を用いて実行される本実施形態の製造方法の流れを説明するためのフローチャートである。図1に示すルーチンは、製造装置10の制御装置40に、オペレータにより加工開始が指令されることにより起動される。この指令を受けると、製造装置10は先ず真空調節弁24を開いて容器12の減圧を開始する(ステップ100)。
制御装置40は、次に、容器12内の圧力Pが、減圧加熱工程で用いる第1圧力P1まで下がったか否かが判別される(ステップ102)。本ステップ102の処理は、P≦P1の成立が認められるまで繰り返し実行される。
圧力Pが第1圧力P1まで下がったと判別されると、次に、圧力維持の制御が開始される(ステップ104)。この制御が開始されると、以後、圧力Pが、閾値を越えて第1圧力P1より高くなるまでは全ての弁が閉状態に維持される。そして、圧力Pが、閾値を越えて第1圧力P1より高い状況が検知されると、P≦P1が成立するまで真空調節弁24が開状態とされる。
制御装置40は、次に、容器12の加熱を開始する(ステップ106)。具体的には、温度調節弁20を開いて、水蒸気供給装置22から容器12の中に熱源である水蒸気を流入させる。
次に、容器12内の温度Tが、減圧加熱工程で用いる第1温度T1(例えば70°C)まで上昇したか否かが判別される(ステップ108)。本ステップ108の処理は、T≧T1の成立が認められるまで繰り返し実行される。
温度Tが第1温度T1まで上昇したと判別されると、減圧加熱工程を開始するべく、温度維持の制御が開始される(ステップ110)。ここでは、具体的には、温度Tが、第1温度T1の上下に設定された制御範囲に収まるように温度調節弁20の開閉状態が制御される。これにより、容器12の内部は、第1圧力P1、第1温度T1の環境に維持されることになり、所望の環境での減圧加熱工程が開始される。
上記の処理が終わると、次に、減圧加熱工程の開始後の時間が、予め定めた処理時間(例えば10分)に達したか否かが判別される(ステップ112)。本ステップ112の処理は、処理時間の経過が判別されるまで繰り返し実行される。
そして、減圧加熱工程の処理時間の経過が判別されると、圧力復帰処理が実行される(ステップ114)。圧力復帰処理は、上述した第2の環境制御工程の一部であり、容器12内の圧力Pを、第1圧力P1から大気圧まで、ゆっくりと戻すための処理である。この処理では、圧力解放弁32が、例えば下記パターンで制御される。
開弁:1秒
閉弁:7秒
(1サイクルの時間:8秒)
次に、容器12内の圧力Pが大気圧に復帰したか否かが判別される(ステップ116)。本ステップ116の処理は、圧力Pが大気圧に復帰したと判別されるまで繰り返し実行される。
上記の制御パターンは、繰り返し回数が19回〜22回、所用時間が約2分30秒〜3分程度で圧力Pを大気圧に戻すためのパターンである。但し、このパターンはあくまで一例であり、圧力解放弁32の制御パターンは、圧力解放弁32の大きさ、魚類18の種類、最終製品に求める外観等に応じて、適宜設定することができる。例えば、圧力Pが大気圧に復帰するための所要時間が1分以上となるように、そのパターンを設定すれば、圧力Pが一気に大気圧に戻される場合に比して、有意な効果を得ることができる。
上記ステップ116の処理で大気圧への復帰が認められると、次に、容器12内の圧力Pを上昇させるための加圧が開始される(ステップ118)。具体的には、圧力調節弁28を開いて、加圧空気供給装置30を容器12に連通させる処理が行われる。
次に、容器12内の圧力Pが、加圧加熱工程で用いる第2圧力P2まで上昇したか否かが判別される(ステップ120)。本ステップ120の処理は、P≧P2の成立が認められるまで繰り返し実行される。
圧力Pが第2圧力P2まで上昇したと判別されると、その圧力を維持するための制御が開始される(ステップ122)。この制御が開始されると、以後、圧力Pが、閾値を越えて第2圧力P2より高くなると圧力解放弁32を開き、他方、圧力Pが、閾値を越えて第2圧力P2より低くなると圧力調節弁28を開く処理が行われる。
尚、本ルーチンでは、上記のステップ114乃至ステップ122の処理により「第2の環境制御工程」が実現されている。
上記の処理が終わると、次に、第2温度T2に向けた容器12の加熱が開始される(ステップ124)。次いで、容器12内の温度Tが、加圧加熱工程で用いる第2温度T2(例えば120°C)まで上昇したか否かが判別される(ステップ126)。そして、温度Tが第2温度T2に達したと判別されると、加圧加熱工程を開始するべく温度維持の制御が開始される(ステップ128)。また、この処理に続いて、加圧加熱工程の開始後の時間が、予め定めた処理時間(例えば30分)に達したか否かが判別される(ステップ130)。これらの処理は、実質的に上記ステップ106乃至112の場合と同様に行われる。
加圧加熱工程の処理時間が経過したと判別されると、容器12内の圧力Pを、温度Tの低下に合わせてゆっくりと下げるための冷却同期減圧処理が実行される(ステップ132)。冷却同期減圧処理は、上述した第1の環境制御工程の一部であり、時々刻々温度Tが低下する状況下で、容器12内の圧力Pを、飽和水蒸気圧を下回ることがないように、徐々に低下させるための処理である。この処理では、ドレイン弁34が、例えば下記パターンで制御される。
開弁:1秒
閉弁:7秒
(1サイクルの時間:8秒)
次に、容器12内の圧力Pが大気圧まで下がったか否かが判別される(ステップ134)。本ステップ134の処理は、圧力Pが大気圧まで低下したと判別されるまで繰り返し実行される。
尚、本ルーチンでは、上記のステップ132および134により「第1の環境制御工程」が実現されている。
冷却同期減圧処理で用いられるドレイン弁34の制御パターンは、繰り返し回数が60回〜67回、所用時間が約8分〜9分程度で圧力Pを大気圧まで低下させるためのパターンである。但し、このパターンはあくまで一例であり、ドレイン弁34の制御パターンは、ドレイン弁34の大きさ、魚類18の種類、最終製品に求める外観等に応じて適宜設定することができる。具体的には、容器12内部の魚類18が第2温度T2から100°Cにまで冷めると同じ時間で圧力Pが大気圧に復帰するように、その制御パターンを設定すれば、圧力Pが一気に大気圧に解放される場合に比して、有意な効果を得ることができる。
上記ステップ134の処理で、圧力Pが大気圧に復帰したと認められると、加工処理の終了が報知される(ステップ136)。以後、作業者は、容器12の開閉扉を開けて、加工された魚類18を取り出すことができる。
図6は、図5に示すフローチャートの進行に伴う動作を説明するためのタイミングチャートである。図中上段の波形は、容器12内の温度Tの変化を示している。また、図中下段の波形は、容器12内の圧力Pの変化を示している。ここには、以下のような動作が示されている。
時刻t0:加工開始の指令を受けて容器12内の減圧開始。
時刻t1:圧力Pが第1圧力P1まで低下したのを受けて、容器12内の加熱開始。
時刻t2:温度Tが第1温度T1に到達し、減圧加熱工程が開始。
ここまでの所要時間は、例えば6分30秒〜8分程度。
時刻t3:減圧加熱工程の処理時間(例えば10分)が経過し、圧力復帰処理(第2の環境制御工程)が開始。これに伴って圧力Pがゆっくりと大気圧に向かって上昇。
時刻t4:圧力Pが大気圧に復帰したのを受けて、容器12内の加圧開始。
大気圧への復帰に要する時間は最低1分。
時刻t5:温度Tが第2温度T2に到達し、加圧加熱工程が開始。
時刻t3〜t5の所要時間は、例えば2分30秒〜3分程度。
時刻t6:加圧加熱工程の処理時間(例えば30分)が経過し、冷却同期減圧処理(第1の環境制御工程)が開始。これに伴って圧力Pと温度Tがゆっくりと低下。
時刻t7:温度Tが100°Cに下がるのと同期して圧力Pが大気圧まで低下。
加圧加熱工程の終了後、100°Cおよび大気圧への復帰に要する時間は、例えば8分〜9分程度。
以上説明した通り、本実施形態の製造方法によれば、第1の環境制御工程および第2の環境制御工程の効果により、加工済みの魚類18に極めて良好な外観を与えることができる。このため、本実施形態の製造方法によれば、骨が可食部であり、その結果栄養価が高く、加えて十分に美しい外観を有する魚類加工品を製造することができる。
[実施の形態1の変形例]
ところで、上述した実施の形態1では、第1の環境制御工程と第2の環境制御工程とを併用しているが、本発明はこれに限定されるものではない。魚類18の種類や、最終製品に求められる外観の程度によっては、第2の環境制御工程を省略することとしてもよい。
また、図5に示すルーチンでは、ステップ116で大気圧の復帰が認められた場合に圧力復帰処理を終了することとしているが、その終了の手法はこれに限定されるものではない。例えば、大気圧への復帰に要する真空調節弁24の制御サイクル数、或いはその制御サイクルの継続時間を予め設定しておき、それらの設定回数または時間が経過した時点で圧力復帰処理を終了することとしてもよい。
同様に、図5に示すルーチンでは、ステップ134で大気圧の復帰が認められた場合に冷却同期減圧処理を終了することとしているが、その終了時期も、ドレイン弁34の開閉サイクル回数、或いはサイクル継続時間に基づいて判断することとしてもよい。
10 製造装置
12 容器
18 魚類
20 温度調節弁
24 真空調節弁
28 圧力調節弁
32 圧力解放弁
34 ドレイン弁
36 圧力センサ
38 温度センサ
40 制御装置

Claims (5)

  1. 容器内の魚類を、50°C以上90°C以下の第1温度、かつ、前記第1温度における飽和水蒸気圧より高く大気圧より低い第1圧力の下で処理する減圧加熱工程と、
    前記容器内の魚類を、前記減圧加熱工程の後に、105°C以上125°C以下の第2温度、かつ、前記第2温度における飽和水蒸気圧より高い第2圧力の下で処理する加圧加熱工程と、
    前記加圧加熱工程の後に、前記容器内の圧力が飽和水蒸気圧を下回らないように、当該容器内の温度を100°Cまで低下させる第1の環境制御工程と、
    を備え
    前記減圧加熱工程、および前記加圧加熱工程では、加熱された水蒸気が熱源として用いられることを特徴とする魚類加工品の製造方法。
  2. 前記第1の環境制御工程では、前記容器内の温度の低下に伴って当該容器内の圧力を低下させることを特徴とする請求項1に記載の魚類加工品の製造方法。
  3. 前記第1の環境制御工程では、前記容器内の温度が100°Cに低下するのと同期して当該容器内の圧力が大気圧まで下がるように当該圧力を低下させることを特徴とする請求項2に記載の魚類加工品の製造方法。
  4. 前記第1の環境制御工程では、前記容器内の圧力を、8分以上の時間をかけて前記第2圧力から大気圧まで低下させることを特徴とする請求項2または3に記載の魚類加工品の製造方法。
  5. 前記減圧加熱工程の後に、前記容器内の圧力を、1分以上の時間をかけて前記第1圧力から大気圧まで復帰させ、次いで当該圧力を大気圧から前記第2圧力に上昇させる第2の環境制御工程を更に備えることを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載の魚類加工品の製造方法。
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