JP6598167B2 - 音響レンズ及びその製造方法、並びに音響波プローブ - Google Patents
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Description
[1] 波長λが100μm以下である音波を伝播させるために使用する音響レンズであって、
シリコーン樹脂と、シリカ粒子とを含んでなり、
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm以上であり、且つ
前記シリカ粒子の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が前記伝播させる音波の波長λの1/8未満である、音響レンズ。
[2] JIS K 6253−3:2012に準拠し、タイプAデュロメーターにより測定される硬度が、30以上50以下である、上記[1]に記載の音響レンズ。
[3] 上記[1]又は[2]の音響レンズを備える、音響波プローブ。
[4] 波長λが100μm以下である音波を伝播させるために使用する音響レンズの製造方法であって、
粘度が3.5Pa・s未満である付加反応型液状シリコーン樹脂と、シリカ粒子とを含むシリコーン樹脂組成物を得る工程と、
前記シリコーン樹脂組成物を硬化させる工程と、を有し、
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm以上であり、且つ
前記シリカ粒子の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が前記伝播させる音波の波長λの1/8未満である、音響レンズの製造方法。
[5] 前記シリコーン樹脂組成物を、硬化させる前に、脱泡処理する工程をさらに有する、上記[4]に記載の音響レンズの製造方法。
本発明の音響レンズは、波長λが100μm以下である音波を伝播させるために使用するものであり、シリコーン樹脂と、シリカ粒子とを含有してなり、前記シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm以上であり、且つ前記シリカ粒子の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(以下、単に「D90」という)が前記伝播させる音波の波長λの1/8未満であることを特徴とする。
シリコーン樹脂としては、特に限定されないが、例えばジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーン、フェニルシリコーン、変性シリコーン等が挙げられる。中でもジメチルシリコーン、メチルフェニルシリコーンが好ましい。具体的には、シリコーン樹脂は、後述する付加反応型液状シリコーン樹脂の硬化物であることが好ましい。ここで、付加反応型液状シリコーン樹脂には1液型と2液混合型があるが、付加反応型液状シリコーン樹脂が2液混合型である場合、その硬化物とは、当該2液の混合物が硬化してなる物の全体を指す。
シリカ粒子は、フィラーとしての役割を担う。フィラーは、音響レンズの強度及び耐摩耗性の向上、また音響レンズとしての密度調整を目的として添加される成分である。しかしながら、フィラーの添加は、音波の乱反射の発生元になる粒子界面を、音響レンズの内部に内包させる要因になる。そのため、強度向上や密度調整の目的でフィラーを添加する必要があっても、内包される粒子界面において伝送する音波が反射し、音波振動が減衰して、音響特性の悪化を招く問題があった。
通常、液状シリコーン樹脂に粉末状のフィラーを配合すると、フィラーと共に空気が混ぜ込まれてしまう場合がある。このような空気は混練工程や、脱泡工程において概ね除去されるが、シリコーン樹脂組成物の粘度が高い場合には、組成物中に空気が残る場合がある。そしてそのまま液状シリコーン樹脂が硬化すると、硬化物(音響レンズ)内に泡(ボイド)が形成される。こうして形成されたボイドは、音響レンズ内で音波の反射の発生元になるため、音波振動を減衰させ、音響特性の悪化を招く要因となる。したがって、音響特性に優れた音響レンズを得る上では、音響レンズ内にボイドが形成されないよう、シリカ粒子の配合量はさらに低減する必要があった。
しかしながら、本発明の上記構成によれば、放射される音波の周波数に応じたシリカ粒子の粒子サイズを選定することで、効率よく、優れた音響特性を有する音響レンズを作製することが可能となる。
λ=ν/f ・・・(1)
上記(1)式に示されるように、放射される音波の周波数fが高周波数になるほど、音響レンズ内を伝播する音波の波長λは短くなる。例えば、シリコーン樹脂の音速νを1000m/sとするとき、音響レンズに周波数が10MHzの音波を放射する場合は、伝播する音波の波長λは100μmとなり、周波数が15MHzの音波を放射する場合は、伝播する音波の波長λは66.7μmとなる。
また、音響レンズは、必要に応じて、上記以外の成分を更に含有してもよい。上記以外の成分としては、例えば、着色剤、白金触媒、硬化促進剤、硬化遅延剤、溶媒、分散剤、帯電防止剤、酸化防止剤、難燃剤、熱伝導性向上剤等が挙げられる。
本発明の音響レンズは、JIS K 6253−3:2012に準拠し、タイプAデュロメーターにより測定される硬度(以下、「A硬度」ともいう)が、好ましくは25以上であり、より好ましくは28以上であり、更に好ましくは30以上である。A硬度が上記範囲であれば、音響レンズとしての形状保持特性が良好となる。特に実用上の変形回避の観点では、A硬度は30以上とすることがより好ましい。また、A硬度は、好ましくは50以下であり、より好ましくは45以下であり、更に好ましくは42以下である。A硬度が上記範囲であれば、音響特性が良好に維持される。
音響レンズの密度は、好ましくは1.05〜1.32g/cm3であり、より好ましくは1.08〜1.30g/cm3であり、更に好ましくは1.10〜1.28g/cm3である。密度が、上記範囲であれば、音響レンズに要求される優れた音響特性(音響インピーダンス)となり、良好な音響レンズが得られる。
なお、本明細書において、音響レンズの密度は、実施例に記載の方法により測定された値を意味する。
音響レンズとしての音響特性は、例えば、実施例に記載の方法で算出する音波振動の減衰率によって評価することができる。本発明の音響レンズは、上記減衰率が6未満であることが好ましく、より好ましくは5未満である。このような減衰率であれば、音響レンズ内を伝播する音波振動の減衰量を少さくできるため、音響レンズとして優れた音響特性を発揮する。具体的な減衰率の測定方法は実施例の頁にて説明する。
以下に、本発明の音響レンズの好ましい製造方法の一例を説明する。なお、本発明の音響レンズは、下記の製造方法により得られる音響レンズに限定されるものではない。
波長λが100μm以下である音波を伝播させるために使用する音響レンズの製造方法であって、
粘度が3.5Pa・s未満である付加反応型液状シリコーン樹脂と、シリカ粒子とを含むシリコーン樹脂組成物を得る工程と、
前記シリコーン樹脂組成物を硬化させる工程と、を有し、
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm以上であり、且つ
前記シリカ粒子の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が前記伝播させる音波の波長λの1/8未満である。以下、詳しく説明する。
まず、以下の液状シリコーン樹脂と、シリカ粒子と、さらに必要に応じてその他の成分とをそれぞれ準備し、所定の配合比率となるように適量秤量する。なお、秤量は、公知の方法により行うことができ、各成分の配合比率は、上述の音響レンズの含有量に準ずる。
上記のようにして得られたシリコーン樹脂組成物を、所定の形状に成形し、硬化させる。このようにして得られた硬化物(音響レンズ)は、泡(ボイド)がほとんどなく、優れた音響特性を発揮する。
硬化温度は、好ましくは50〜150℃であり、より好ましくは50〜120℃である。上記範囲とすることにより、寸法精度を得やすくなる。
硬化時間は、好ましくは0.5〜5.0時間であり、より好ましくは1.0〜3.0時間である。上記範囲とすることにより、実用上必要な強度を有する音響レンズを得ることができる。
また、上記製造方法は、シリコーン樹脂組成物を、硬化させる前に、脱泡処理する工程をさらに有していることが好ましい。硬化前に、脱泡処理を施すことにより、硬化前のシリコーン樹脂組成物から十分に泡を抜くことができる。その後硬化させて得られる硬化物(音響レンズ)は、泡(ボイド)がなく、優れた音響特性を発揮する。
上記製造方法は、上記工程の他に、必要に応じて他の工程を含んでも良い。音響特性に影響を及ぼさない範囲であれば、耐薬品性、耐水性、耐摩耗性、接着性等を向上させるための各種処理を施すことも可能である。
本発明の音響レンズは、音響波プローブの構成部材として好適に用いられる。
図1に、音響波プローブの代表的な構成を、概略斜視図(部分透過図)で示す。図1に示される音響波プローブ10は、超音波送受信面側(対象物側)から順に、音響レンズ1、音響整合層(音響マッチング層)2、圧電素子(振動子)3及びバッキング材4を有し、さらにこれらを収める筐体5を備える。
本発明の音響レンズ1を備える音響プローブ10は、高い超音波伝播効率を有し、これにより鮮明な画像による超音波診断が可能となる。
なお、後述する作製例、実施例及び比較例について、各評価は以下の条件にて行った。
シリカ粒子の平均一次粒子径及びD90は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社堀場製作所製、商品名:LA−500)を用いて測定した。
具体的には、界面活性剤を加えた水中にシリカ粒子を加え、超音波処理を施してシリカ粒子を十分に分散させた後、このスラリーを測定用サンプルとして、上記装置により粒度分布の測定を行った。得られたシリカ粒子の累積粒度分布において、累積百分率50%の粒子径(D50)を平均一次粒子径とし、累積百分率90%の粒子径をD90とした。
なお、粒子が凝集して上記測定が行えないシリカ粒子については、電子顕微鏡写真を撮影し、画像解析により一次粒子の粒子径の測定を行った。この方法では、電子顕微鏡写真から得られた一次粒子の粒子径に基づき、その平均値を平均一次粒子径とし、粒度分布曲線に基づいた累積百分率90%の粒子径をD90とした。
成形品を目視で観察し、気泡の有無を確認した。目視にて気泡が確認されなかったものを泡抜け良好と評価した。
厚さ2mmの成形品を50mm×50mmの大きさに切り出し、水中浸漬法により求めた。
JIS K 6253−3:2012に準拠し、厚さ2mmの成形品のA硬度を測定した。
硬度計は、タイプAデュロメーター(株式会社テクロック製、商品名:GS−719N)を用いた。
音響特性は、反射法を用いて、以下の方法で評価した。以下、図2の評価方法の概略図を参照しながら説明する。
厚さ2mmの成形品を測定用サンプル1aとし、図2に示されるように、サンプル1aに対し、探触子20を用いて所定の発信周波数の超音波W0を入射し、観測される反射波の1波目W1と2波目W2の強度をそれぞれ求め、下記式(2)より減衰率を算出した。
減衰率=20log(I1/I2)/2t ・・・(2)
なお、上記式(2)中で、I1は反射波の1波目W1の強度、I2は反射波の2波目W2の強度、tは成形品の厚みである。探触子20としては、発信周波数10MHz用の探触子(オリンパス株式会社製、商品名:V127−RM/U8403050)又は発信周波数15MHz用の探触子(オリンパス株式会社製、商品名:V113−RM/U8403036)を使用した。
本実施例では、音波振動の減衰率が、5.0未満のものを音響特性が良好として「○」、5.0以上6.0未満を音響特性がやや不良として「△」、6.0以上を不良として「×」と評価した。音響特性が良好であれば、音響レンズとして好適に用いることができることを意味する。
付加型液状シリコーン樹脂(信越化学工業株式会社製、商品名:KE−1031 A/B、粘度:室温(22℃±5℃)にて、A=1.0Pa・s、B=0.7Pa・s)100質量部(A:B=50質量部:50質量部)に対し、シリカ粒子を適量配合し、混練処理することで、シリコーン樹脂組成物を調製した。シリカ粒子の原料及び配合割合は、表1のとおりである。
・シリカA:粉末シリカ(平均一次粒子径:30nm、D90:100nm)
・シリカB:粉末シリカ(平均一次粒子径:2.8μm、D90:5.1μm)
・シリカC:粉末シリカ(平均一次粒子径:6.0μm、D90:11.3μm)
・シリカD:粉末シリカ(平均一次粒子径:9.8μm、D90:15.9μm)
・シリカE:粉末シリカ(平均一次粒子径:13.6μm、D90:22.1μm)
・シリカF:粉末シリカ(平均一次粒子径:10nm、D90:100nm)
なお、シリカA及びシリカFの平均一次粒子径及びD90は、電子顕微鏡写真から得られた一次粒子の粒子径に基づく値であり、シリカB〜Eの平均一次粒子径及びD90はレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した値である。
表1に示す量的関係でシリカ粒子を配合した以外は、作製例1と同様にシリコーン樹脂組成物の作製を試みた。しかし、配合したシリカ粒子の粒子径が、平均一次粒子径にて15nm未満であったため、混合物の粘度が高くなりすぎてしまい、混合操作時に発熱を生じたため試料作製を中止した。
作製例1で作製した成形品を測定用サンプル1aとして用い、発信周波数が10MHzの探触子を使用して、超音波を放射(入力)し、音響レンズとしての音響特性を評価した。用いた成形品の試料No.と、音響特性の結果を表2に示す。なお、周波数10MHzの超音波を放射したとき音響レンズ内に伝播される音波の波長λは、シリコーン樹脂の音速νを1000m/sとするとき、100μmである。
また、比較例6で用いた成形品は、シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm未満であったため、シリコーン樹脂組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、成形品の脱泡処理が十分に行われず、泡抜けが不良な成形品であった。そのため、波長λが100μmの音波を伝播させるために使用する音響レンズとしては、音響特性が劣ることが確認された。
作製例1で作製した成形品を測定用サンプル1aとして用い、発信周波数が15MHzの探触子を使用して、超音波を放射(入力)し、音響レンズとしての音響特性を評価した。用いた成形品の試料No.と、音響特性の結果を表3に示す。なお、周波数15MHzの超音波を放射したとき音響レンズ内に伝播される音波の波長λは、シリコーン樹脂の音速νを1000m/sとするとき、66.7μmである。
また、比較例12で用いた成形品は、シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm未満であったため、シリコーン樹脂組成物の粘度が高くなりすぎてしまい、成形品の脱泡処理が十分に行われず、泡抜けが不良な成形品であった。そのため、波長λが66.7μmの音波を伝播させるために使用する音響レンズとしては、音響特性が劣ることが確認された。
1a 測定用サンプル
2 音響整合層
3 圧電素子
4 バッキング材
5 筐体
10 音響波プローブ
20 探触子
Claims (5)
- 波長λが100μm以下である音波を伝播させるために使用する音響レンズであって、
シリコーン樹脂と、シリカ粒子とを含んでなり、
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm以上であり、且つ
前記シリカ粒子の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が前記伝播させる音波の波長λの1/8未満である、音響レンズ。 - JIS K 6253−3:2012に準拠し、タイプAデュロメーターにより測定される硬度が、30以上50以下である、請求項1に記載の音響レンズ。
- 請求項1又は2の音響レンズを備える、音響波プローブ。
- 波長λが100μm以下である音波を伝播させるために使用する音響レンズの製造方法であって、
粘度が3.5Pa・s未満である付加反応型液状シリコーン樹脂と、シリカ粒子とを含むシリコーン樹脂組成物を得る工程と、
前記シリコーン樹脂組成物を硬化させる工程と、を有し、
前記シリカ粒子の平均一次粒子径が15nm以上であり、且つ
前記シリカ粒子の累積粒度分布における累積百分率90%の粒子径(D90)が前記伝播させる音波の波長λの1/8未満である、音響レンズの製造方法。 - 前記シリコーン樹脂組成物を、硬化させる前に、脱泡処理する工程をさらに有する、請求項4に記載の音響レンズの製造方法。
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