JP6598159B2 - 燃料電池用電極材料およびその製造方法、並びに燃料電池用電極、膜電極接合体及び固体高分子形燃料電池 - Google Patents
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Description
アノ−ド反応:2H2 → 4H++4e- (反応1)
カソ−ド反応:O2+4H++4e-→2H2O (反応2)
全反応 :2H2+O2→2H2O
燃料電池用電極(特にはPEFC用電極)は、一般に、電極触媒活性を有する電極材料及び高分子電解質からなる電極触媒層と、ガス通気性と電子伝導性を兼ね備えたガス拡散層とから構成される。PEFCの電極材料として、粒子状や繊維状の炭素系材料からなる担体の表面に貴金属粒子を分散させて担持した材料が広く用いられている(例えば、特許文献1,2)。
このような要望に対し、本願発明者らは、特許文献3において、炭素系材料の代わりに酸化スズ担体に貴金属粒子を分散させた電極触媒材料およびその製造を開示している。この電極触媒材料はPEFCのカソードでの運転条件で熱力学的に安定であるため、当該電極触媒材料を用いて製造したカソードは酸化腐食されることなく長期の発電が可能である。
<1> 表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材と、前記導電補助材に担持された電子伝導性酸化物と、前記導電補助材及び前記電子伝導性酸化物のうち前記電子伝導性酸化物に分散担持された電極触媒粒子とを含む燃料電池用電極材料。
<2> 前記導電補助材が、気相成長炭素繊維(VGCF)である<1>に記載の燃料電池用電極材料。
<3> 前記電子伝導性酸化物が、平均粒径3〜200nmの粒子状電子伝導性酸化物であって、当該粒子状電子伝導性酸化物が前記導電補助材の一部が露出するように前記導電補助材に担持されてなる<1>または<2>に記載の燃料電池用電極材料。
<4> 前記電子伝導性酸化物が、平均膜厚2〜50nmの薄膜状電子伝導性酸化物であって、当該薄膜状電子伝導性酸化物が前記導電補助材の一部又は全部を被覆するように担持されてなる<1>または<2>に記載の燃料電池用電極材料。
<5> 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<1>から<4>のいずれかに記載の燃料電池用電極材料。
<6> 前記電極触媒粒子が、平均粒子径1〜30nmのPt及びPtを含む合金からなる電極触媒粒子である<1>から<5>のいずれかに記載の燃料電池用電極材料。
<7> <1>から<6>のいずれかに記載の燃料電池用電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含み、前記導電補助材が互いに接触して導電パスを形成している燃料電池用電極。
<8> 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、<7>に記載の燃料電池用電極である膜電極接合体。
<9> <8>に記載の膜電極接合体を備えてなる固体高分子形燃料電池。
<10> 以下の工程(1)〜(3)を含む燃料電池用電極材料の製造方法。
(1)表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に、電子伝導性酸化物を担持する工程
(2)前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬し、前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を担持する工程
(3)前記電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を活性化する工程
<11> 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である<10>に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
<12> 工程(1)における電子伝導性酸化物を担持する方法が、電子伝導性酸化物の前駆体とアンモニアとを直接反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持するアンモニア共沈法である<10>または<11>に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
<13> 前記アンモニア共沈法における溶媒が無水エタノールである<12>に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
<14> 工程(1)における電子伝導性酸化物を担持する方法が、電子伝導性酸化物の前駆体と、アンモニア発生化合物を分解して発生するアンモニアとを反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持する均一沈殿法である<10>または<11>に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
<15> 前記均一沈殿法が、マイクロ波照射によって加熱を行うマイクロ波照射加熱均一沈殿法である<14>に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
<16> 工程(2)における電極触媒前駆体が、貴金属アセチルアセトナートである<10>から<15>のいずれかに記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
<17> 工程(2)における電極触媒前駆体を担持する方法がコロイド法である<14>または<15>に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
2 導電性補助材
3a (粒子状の)電子伝導性酸化物
3b 電極触媒粒子
4 燃料電池用電極(カソード)
4a カソード電極層
4b ガス拡散層
5 燃料電池用電極(アノード)
5a カソード電極層
5b ガス拡散層
6 固体高分子電解質膜
10 膜電極接合体(MEA)
20 固体高分子形燃料電池
21 外部回路
本発明の燃料電池用電極材料(以下、「本発明の電極材料」と称す場合がある。)は、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材と、前記導電補助材に担持された電子伝導性酸化物と、前記導電補助材及び前記電子伝導性酸化物のうち前記電子伝導性酸化物に分散担持された電極触媒粒子とを含むことを特徴とする。
このように、本発明の電極材料は、電子伝導性酸化物に起因する電気化学的酸化への優れた耐久性と、炭素系材料に起因する優れた電子伝導性を併せ持つ。そのため、当該電極材料で形成された燃料電池用電極は、優れた電極性能を示すと共に、サイクル耐久性が高く、長期間発電することができる。
導電補助材2は、炭素系材料由来の優れた電子伝導性を有し、電子伝導性酸化物3aを担持できる。燃料電池用電極材料1は、このような導電補助材2を用いているため、燃料電池用電極を形成した際に、隣接する導電補助材2が連続的に接触でき、かつ燃料電池用電極内の水素や酸素などのガス拡散及び水(蒸気)の排出がスムーズに行える程度の空間を形成できる。
なお、中空状あるいは繊維状の炭素材料のうち、カーボンナノチューブに代表されるように、直径が100nm以下のもの、または、気相成長炭素繊維(Vaper Grown Carbon Fiber,VGCF)のような直径が100〜1000nm程度のもの、活性炭素繊維のような直径が1μm〜20μmのものを指すことが多いが、これらの炭素材料の長さと呼称についての明確な規定はないため、本明細書内ではこれらを合わせて繊維状炭素と称する。
鎖状連結炭素粒子の中でも、アセチレンの熱分解によって製造されるアセチレンブラック(AB)が好ましい。アセチレンブラックは、通常のカーボンブラックと比較して、グラファイト化が進んでいるため、上述の表面がグラファイト構造である繊維状炭素と同様に、電極触媒粒子が担持されにくいという効果が期待できる。また、アセチレンブラックは、アセチレンガスから直接生成させることができ、PEFCにおける電解質膜の劣化を引き起こす鉄イオンなどの不純物を含まないように製造できることから、PEFCで使う導電補助材として適している。
電子伝導性酸化物3aを構成する電子伝導性酸化物としては、燃料電池(特には固体高分子形燃料電池)のアノード条件、カソード条件の少なくともいずれか一方で十分な耐久性と電子伝導性を併せ持つものであればよい。
なお、PEFCのカソード条件とは、PEFCの通常運転時のカソードにおける条件であり、温度が室温〜150℃程度、空気等の酸素を含むガスが供給される条件(酸化雰囲気)を意味し、アノード条件とは、PEFCの通常運転時のアノードにおける条件であり、温度が室温〜150℃程度、水素を含む燃料ガスが供給される条件(還元雰囲気)を意味する。
電子伝導性酸化物3aは、好適には平均粒径3〜200nmの粒子状電子伝導性酸化物であり、より好適には実質的に一次粒子となる平均粒径5〜40nmの粒子状電子伝導性酸化物である。そして、燃料電池用電極材料1の導電性の観点からは、粒子状の電子伝導性酸化物3aが密集せずに、導電補助材2の一部が露出され、導電補助材2と他の導電補助材2とが接触の直接的な接触を阻害しない程度に電子伝導性酸化物3aが分散して担持されていることが好ましい。
なお、「粒子状電子伝導性酸化物の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる任意の粒子状電子伝導性酸化物(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。
燃料電池用電極材料1の導電性の観点からは、薄膜状電子伝導性酸化物の膜厚は、形成できる範囲でできるだけ薄い方が好ましい。すなわち、本発明の燃料電池用電極材料における電子伝導性酸化物の好適な態様の一つは、電子伝導性酸化物が平均膜厚2〜50nmの薄膜状電子伝導性酸化物であって、当該薄膜状電子伝導性酸化物の一部又は全部が前記導電補助材を被覆するように担持されてなる態様である。電子伝導性酸化物が平均膜厚2〜50nmであれば、電子伝導性酸化物に起因する電気抵抗が実質的に問題にならないため、導電補助材の露出部分が互いに接触する必要がない。なお、「薄膜状電子伝導性酸化物の平均膜厚」は、薄膜状電子伝導性酸化物の厚み方向の断面電子顕微鏡像より調べられる任意位置の厚み(5点)の平均値により得ることができる。
酸化スズの場合を例示すると、導電補助材と電子伝導性酸化物の合計を100重量%としたときに、通常、5〜95重量%であり、好ましくは45〜95重量%である。電子伝導性酸化物の担持量が少なすぎると、燃料電池用電極材料として十分な量の電極触媒粒子が担持できなくなる。電子伝導性酸化物の担持量が多すぎると電子伝導性酸化物の粒径(薄膜状の場合は膜厚)が大きくなりすぎて燃料電池用電極材料の電気抵抗が大きくなる場合がある。
元素としてスズ(Sn)は、PEFCのカソード条件で、酸化物であるSnO2が熱力学的に安定であり酸化分解が起こらない。また、酸化スズは、十分な電子伝導性を有し、電極触媒粒子(特には貴金属粒子)を高分散で担持が可能な担体となる。
なお、本発明の燃料電池用電極をアノードとして使用する場合には、酸化スズを主体とする酸化物はPEFCのアノード条件で還元され金属Snとなるため好ましくない。
なお、酸化チタンを主体とする酸化物は、酸化スズを主体とする酸化物と比較して電子伝導性が劣るが、上述の通り、本発明の電極材料は、燃料電池用電極の骨格としての役割は繊維状炭素又は鎖状連結炭素粒子からなる導電補助材が担うことから、電極触媒粒子が担持される電子伝導性酸化物の粒径(薄膜の場合は厚み)は小さくすることができるため、酸化チタンを主体とする酸化物も好適に使用できる。
電極触媒粒子3bは、電子伝導性酸化物3aに選択的に分散担持されている。ここで「電子伝導性酸化物に選択的に分散担持」とは、全ての電極触媒粒子(個数)のうち、80%以上、好適には90%以上、より好適には95%以上(100%を含む)が、電子伝導性酸化物に担持されていることを意味する。電子伝導性酸化物に担持された電極触媒粒子の割合は、評価対象となる燃料電池用電極材料を電磁顕微鏡で観察した任意の電極触媒粒子(100個以上)を選出し、そのうち、電子伝導性酸化物に担持された個数と、炭素系導電補助材に担持された個数とをカウントすることにより、評価することができる。
なお、本発明における「電極触媒粒子の平均粒径」は、電子顕微鏡像より調べられる電極触媒粒子(20個)の粒子径の平均値により得ることができる。電子顕微鏡像による平均粒径算出時は、微粒子の形状が、球形以外の場合は、粒子における最大長を示す方向の長さをその粒径とする。
すなわち、本発明の燃料電池用電極材料における電極触媒粒子の好適な態様の一つは、前記電極触媒粒子が、平均粒子径1〜30nmのPt及びPtを含む合金からなる電極触媒粒子である。
前記担持量が3質量%未満の場合は、電極反応活性が不十分であり、40質量%超の場合は電極触媒粒子の凝集が起こりやすく、酸素や水素の電気化学反応に対する有効表面積が低下するという問題がある。なお、電極触媒粒子の担持量は、例えば、誘導結合プラズマ発光分析(ICP)によって調べることができる。
上述した本発明の燃料電池用電極材料の製造方法は特に限定されず、燃料電池用電極材料を構成する導電性補助材、電子伝導性酸化物、電極触媒粒子の種類に応じて適宜好適な方法を選択すればよい。また、導電補助材に電子伝導性酸化物を担持した後に、電子伝導性酸化物に電極触媒粒子を担持してもよいし、電子伝導性酸化物に電極触媒粒子を担持した後に、当該電極触媒粒子が担持した電子伝導性酸化物を導電補助材に担持してもよい。
本発明の燃料電池用電極材料を再現性良く製造できる点で、以下に説明する製造方法(以下、「本発明の製造方法」と称す。)によって製造することが好適である。
すなわち、本発明の燃料電池用電極材料の製造方法は、以下の工程を含む。
(1)表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に、電子伝導性酸化物を担持する工程
(2)前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬し、前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を担持する工程
(3)前記電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を活性化する工程
なお、本発明の製造方法において、工程(2)と工程(3)は同時に行ってもよい。
すなわち、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子は、電子伝導性酸化物を担持することができるが、電極触媒粒子が担持されにくいという性質を有する。これは導電補助材を構成する炭素材料の表面がグラファイト構造であると、電極触媒粒子と結合性が弱く、電極触媒粒子が表面を移動して凝集する劣化挙動が起こりやすいという性質に由来する。
導電補助材に電子伝導性酸化物を担持した後に、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬すると、電極触媒前駆体が選択的に電子伝導性酸化物に担持され、これを還元処理等により電極触媒粒子に変換される。そのため、本発明の製造方法によれば、大部分の電極触媒粒子が選択的に電子伝導性酸化物に分散担持された燃料電池用電極材料を得ることができる。
工程(1)は、表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に、電子伝導性酸化物を担持する工程である。
導電補助材および電子伝導性酸化物は、<1.本発明の燃料電池用電極材料>で上述した通りであり、ここでは詳しい説明を省略する。本発明の製造方法の工程(1)は、電子伝導性酸化物として、特に酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物を、表面がグラファイト構造である繊維状炭素に担持するのに適した方法である。酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物については上述の通りであるため、説明を省略する。
なお、均一沈殿法は詳しくは後述するように、アンモニア発生化合物の分解生成物としてのアンモニアを利用する点で、アンモニア共沈法の一種でもあるが、本明細書においてはアンモニアそのものを直接利用する方法のみを「アンモニア共沈法」と称し、アンモニア発生化合物を分解してアンモニアを生成する方法は除外して、両者を区別するものとする。
この方法の利点として、アンモニア溶液を滴下しながら順次反応させ、アンモニア溶液の濃度や滴下スピードを変えることによって反応速度を制御できることが挙げられる。なお、アンモニア共沈法における電子伝導性酸化物の前駆体としては、特に制限はなく、電子伝導性酸化物の構成金属元素(例えば、スズ)の硫酸塩、オキシ硝酸塩、オキシ硫酸塩、酢酸塩、塩化物、アンモニウム錯体、リン酸塩、カルボン酸塩などを使用することができる。電子伝導性酸化物が酸化スズの場合の好適な前駆体として、塩化スズ(水和物含む)が挙げられる。
詳細な理由は現時点では完全に明らかではないが、溶媒として無水エタノールを使用すると、導電補助材に対する電子伝導性酸化物の担持量が増加するため好ましい。
すなわち、本発明の製造方法における電子伝導性酸化物を担持する好適な態様のひとつは、アンモニア共沈法であり、特に溶媒に無水エタノールを使用することであり、さらには、導電補助材としてVGCF、電子伝導性酸化物として酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物を使用する態様である。
乾燥方法は、特に制限がなく、加熱・減圧・自然乾燥などの方法で上述の水、エタノールなどの溶媒を蒸発させればよい。また、乾燥時の雰囲気は特に限定されるものではなく、酸素を含有する酸化性雰囲気中や大気雰囲気、窒素やアルゴンなどを含有する不活性雰囲気、水素を含有する還元性雰囲気などの雰囲気条件を任意に選ぶことができるが、通常、大気雰囲気である。
特に好適なVGCFは、結晶性が高いため、少なくとも600℃の大気雰囲気において、導電補助材から電子伝導性酸化物がほとんど脱離せず安定である。
アンモニア発生化合物としては均一沈殿法を行う温度において分解し、アンモニアを発生する化合物であればよく、溶媒が水の場合には、100℃以下で分解する尿素や尿素誘導体が用いられる。
実施例で後述するように電子伝導性酸化物が酸化スズの場合には、BET比表面積が70m2/g以上、好適には100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上とすることができる。
マイクロ波照射の強度は、溶液の量、アンモニア発生化合物の分解性や導電補助材の分散性等を考慮して適宜決定される。反応温度は、電子伝導性酸化物の種類、アンモニア発生化合物の分解性等の諸条件を考慮して決定されるが、均一な品質の電子伝導性酸化物が形成される点で90〜100℃が好ましい。
工程(2)は、前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬し、前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を担持する工程である。表面がグラファイト構造である繊維状炭素や鎖状連結炭素粒子(特には繊維状炭素)には電極触媒前駆体ないしは電極触媒粒子は担持されにくく、大部分が電子伝導性酸化物に担持される。
電極触媒粒子が白金(Pt)である場合で電極触媒前駆体を具体的に例示すると、塩化白金、臭化白金、ヨウ化白金等のハロゲン化白金;クロロ白金酸、テトラクロロ白金酸アンモニウム、ヘキサクロロ白金酸カリウム等の白金の無機酸塩;白金アセチルアセトナート、白金ヘキサフルオロアセチルアセトナート、ジクロロ(1,5−シクロオクタジエン)白金、シアン化白金等の白金の有機酸塩などが挙げられる。電極触媒粒子がPt以外の金属である場合には、それに対応する前駆体を使用すればよい。
工程(2)において、電極触媒前駆体から電極触媒微粒子の形成と、電子伝導性酸化物への担持を行う方法は特に制限されないが、担持方法によっては、電極金属粒子の粒径や分散性の点で、本発明の目的を達成することができない場合がある。
高分散で粒径の小さい電極触媒粒子を得ることが可能な好適な方法として、以下に説明する貴金属アセチルアセトナートを使用する貴金属アセチルアセトナート法と、貴金属コロイドを使用するコロイド法が挙げられる。
例えば、電子伝導性酸化物として酸化スズを選択し、マイクロ波加熱均一沈殿法によって高表面積の電子伝導性酸化物の形成した場合において、コロイド法を採用することにより、電子伝導性酸化物の表面に高分散な電極触媒に選択的に担持できる。
なお、貴金属コロイドを含む溶液の作製する条件は特に制限されるものではなく、選択した貴金属前駆体、および還元剤に応じた適宜の条件とすればよい。
工程(3)は、前記電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を活性化する工程である。工程(2)において、電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体は、不定比の金属酸化物を含むことがあり、そのままでは活性が低いため、窒素やアルゴン等の不活性雰囲気、あるいは水素を含有する還元性雰囲気中で熱処理することで電極触媒となる金属の有する電気化学触媒作用を活性化する。
本発明の燃料電池用電極は、上述の燃料電池用電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含み、前記導電補助材が互いに接触して導電パスを形成していることを特徴とする。
例えば、上述の燃料電池用電極材料に含まれる導電補助材以外の導電補助材(以下、「他の導電性補助材」と記載する。)を含んでいてもよい。他の導電補助材を含むことにより、燃料電池用電極材料をつなぐ導電パスが増加し、電極全体としての導電性が向上する場合がある。
他の導電補助材としては、上述した導電補助材である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子でもよいし(但し、電子伝導性酸化物や電極触媒粒子は担持されていないもの)、カーボンブラック、活性炭など通常の粒子状炭素でもよい。
なお、本発明の燃料電池用電極材料を含む燃料電池用電極は、酸素の還元、水素の酸化に対する優れた電気化学的触媒活性を有するため、カソード及びアノードとして使用することができる。特に、上記(反応2)で示される酸素の還元電気化学的触媒活性に優れ、燃料電池の運転条件で担体である導電性材料の電気化学的酸化分解が起こらないことから、特にカソードとして好適に使用することができる。
本発明の膜電極接合体は、固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、上記本発明の燃料電池用電極であることを特徴とする。
図2は本発明の実施形態に係る膜電極接合体の断面構造を模式的に示したものである。図2に示すように膜電極接合体10は、カソード4及びアノード5が固体高分子電解質膜6に対面して配置された構造を有する。
電極触媒層4aは、上述の通り、本発明の燃料電池用電極(電子伝導性酸化物:酸化スズを主体とする酸化物)を用いているため、詳細な説明は省略する。なお、アノード5として本発明の燃料電池用電極を使用した場合には、カソード4としてその他の公知のカソードも使用できる。
炭化水素系高分子電解質材料としては、例えば、ポリスルホン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリアリールエーテルケトンスルホン酸、ポリフェニルスルホン酸、ポリベンズイミダゾールスルホン酸、ポリベンズイミダゾールホスホン酸、ポリイミドスルホン酸等のポリマーや、これらにアルキル基等の側鎖を有するポリマー等が挙げられる。また、電解質膜として、無機系プロトン伝導体であるリン酸塩、硫酸塩などからなる電解質膜を使用することもできる。
例えば、上記実施の形態ではカソードのみに本発明の燃料電池用電極を採用しているが、アノードにも本発明の燃料電池用電極を用いてもよい。好適な一例として、電子伝導性酸化物に酸化チタンを主体とする酸化物を用いた電極材料を含む燃料電池用電極をアノードとして用いることが挙げられる。
本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)は、本発明の膜電極接合体を備えてなり、通常、膜電極接合体をガス流路が形成されたセパレータで挟持した構造を有する。
実際には、本発明の固体高分子形燃料電池(単セル)が発電性能に応じた基数だけ積層された燃料電池スタックが形成され、ガス供給装置、冷却装置などその他付随する装置を組み立てることにより使用される。
導電性補助材として、以下の物性を有する繊維状炭素(昭和電工株式会社製、気相法炭素繊維、VGCF−H(登録商標))を使用した。
繊維径:150nm
真密度:2.1g/cm3
比表面積:11.4m2/g
熱伝導率:1200W/(m・K)
導電率:1×10-4Ωcm
実施例1においては、アンモニア共沈法で酸化スズ粒子を製造した。
まず、上記繊維状炭素(0.2519g)に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌し、繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O)(0.7698g)を入れ、ホットスターラーで50℃に保持して、攪拌しながらアンモニア水(NH328重量%)をビュレットで滴下した(5cc/分)。アンモニア水の滴下後、1時間攪拌を続けたのちに、分散液の濾過、洗浄を行い、100℃で10時間乾燥させた。乾燥後大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、実施例1の酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を得た。なお、本明細書(実施例及び図面の説明)において「酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素」を、燃料電池材料用電極材料(電極触媒未担持)と記載する場合がある。
得られたサンプルを走査型電子顕微鏡(FE−SEM、株式会社日立ハイテクノロジーズ、S−5200)で観察したFE−SEM像を図4(a)〜(c)に示す。また、得られたサンプルをX線回折法にて評価したところ、Snのシグナルは確認されず、SnO2のシグナルのみが確認された。
また、熱分析装置(株式会社リガク製、ThermoPlus TG8120)を用いて、酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を、大気雰囲気下で800℃まで昇温し、昇温前後の質量差を重量減少分を燃焼した繊維状炭素の重量として、酸化スズ粒子の担持率を求めたところ、47.47重量%であった。
工程(1)で得られた酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素に、白金アセチルアセトナート法により、電極触媒粒子であるPt触媒粒子を担持した。Pt前駆体(Pt(C5H7O2)2)の量は、Ptが20wt%になるようにした。ナスフラスコに、酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素およびPt前駆体を加え、さらにジクロロメタン(20mL)を加え溶解させた。次いで、ナスフラスコを氷冷しながら、超音波攪拌装置にて、溶媒が全て揮発するまで攪拌して、薄黄色の粉末を得た。
工程(2)で得られた粉末を、N2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間還元処理を施すことで、実施例1の燃料電池用電極材料を得た。
工程(1)(<実施例2>)
実施例2においては、均一沈殿法(加熱式)で酸化スズ粒子を製造した。
導電性補助材として実施例1と同じ繊維状炭素(VGCF)を使用し、当該繊維状炭素(0.5008g)に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌して繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O)(0.2912g)及び尿素(5.0672g)を入れ、ホットスターラーで100℃に保持して30分間攪拌し、さらにホットスターラーのヒーターをオフしたのちに30分間攪拌した。次いで、分散液の濾過、洗浄を行い、100℃で10時間乾燥させた。乾燥後大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、実施例2の酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素を得た。得られたサンプルのFE−SEM像を図5(a)〜(c)に示す。また、得られたサンプルをX線回折法にて評価したところ、Snのシグナルは確認されず、SnO2のシグナルのみが確認された。
使用する酸化スズ粒子を担持した導電性補助材を、上記実施例2の酸化スズ粒子を担持した繊維状炭素に変更した以外は、実施例1の工程(2)、(3)と同様にして、実施例2の燃料電池用電極材料を得た。
導電性補助材として、以下の物性を有する鎖状連結炭素粒子(電気化学工業株式会社製、デンカブラック、HS−100(登録商標))を使用した。
一次粒子径:48nm
比表面積:39m2/g
(鎖平均長さ/粒子平均粒径):約12
導電率:0.14Ωcm
工程(1)として、導電性補助材として繊維状炭素に代えて、上記鎖状連結炭素粒子を使用した以外は、上記工程(1)(<実施例1>)と同様にして、酸化スズ粒子を担持した鎖状連結炭素粒子を得た。
使用する酸化スズ粒子を担持した導電性補助材を、上記の工程(1)(<実施例3>)
で得られた酸化スズ粒子を担持した鎖状連結炭素粒子に変更した以外は、実施例1の工程(2)、(3)と同様にして、実施例3の燃料電池用電極材料を得た。
実施例1,2(導電性補助材:繊維状炭素)
アンモニア共沈法で製造した実施例1の燃料電池用電極材料のFE-SEM像を図4(a)〜(c)、均一沈殿法(加熱式)で製造した実施例2の燃料電池用電極材料のFE-SEM像を図5(a)〜(c)に示す。なお、図4(a)〜(c)及び図5(a)〜(c)は工程(1)における繊維状炭素に酸化スズ粒子担持した後のサンプルを観察したものであり、Pt触媒粒子は担持されていない。
また、図4(b)、(c)に示されるように、アンモニア共沈法で製造した実施例1の燃料電池用電極材料では、繊維状炭素の表面に粒径10〜20nm程度の酸化スズ粒子が担持されていた。一方、図5(b)、(c)均一沈殿法(加熱式)で製造した実施例2の燃料電池用電極材料では、繊維状炭素の表面に酸化スズ粒子が担持されているものの、凝集粒子となっている部分が確認された。このようにアンモニア共沈法及び均一沈殿法(加熱式)のいずれの方法でも、導電性補助材である繊維状炭素に対して酸化スズ粒子を担持できることが確認された。
図6(a)に示されるように繊維状炭素に担持された酸化スズ粒子の表面には微粒子が担持されている。なお、酸化スズ粒子のほとんどが粒径40nm以下であり、粒子20nm以下の粒子も多数認められた。担持された酸化スズ粒子に対し、高分解STEM観察(図7(a),(b))及びEDS分析を行ったところ、前記微粒子がPt触媒粒子であることが確認された。観察されたPt触媒粒子の粒径は、すべて5nm以下であった。
方、図6(b)に示されるように(酸化スズが担持されていない)繊維状炭素の表面には、Pt触媒粒子はほとんど観察されなかった。
このことから、上述の実施例1の製造方法により、Pt触媒粒子は酸化スズ粒子に選択的に分散担持されていることが分かった。
図8(a),(b)に実施例3の燃料電池用電極材料のFE−SEM像を示す。実施例3の燃料電池用電極材料では、鎖状連結炭素粒子の表面にPt触媒粒子が担持された酸化スズ粒子が担持されていることが確認された。また、Pt触媒粒子の大部分は酸化スズ粒子に担持されているが、実施例1と異なり、酸化スズが担持されていない鎖状連結炭素粒子の表面にも、一部Pt触媒粒子が担持されていることが確認された。
燃料電池実用化推進協議会(FCCJ)が推奨する方法(固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案、平成23年1月発行)にて、実施例1及び実施例3の燃料電池材料の燃料電池材料の評価を行った。この評価方法は、PEFCの起動停止を模擬した電位サイクルを負荷することによって電極材料の劣化挙動を評価する方法である。評価の方法の詳細は後述する。なお、PEFCの起動停止にはカソード電位は標準水素電極基準で1.0Vから1.5Vまで三角波に近い形で変動するとされ、電位サイクル耐久試験ではこれを模擬した電位サイクル(1.0V〜1.5V、1サイクル:2秒)を負荷することによって測定が行われる。本評価ではこの操作を繰り返し、燃料電池自動車(FCV)で10年間以上の使用に相当する60,000サイクルまで実施した。
測定:三電極式セル(作用極:燃料電池用電極材料/GC,対極:Pt,参照極:Ag/AgCl)
電解液:0.1M HClO4(pH:約1)
測定電位範囲:0.05〜1.2V(標準水素電極基準)
走査速度 :50 mV/s
水素吸着量:0.05〜0.4Vの水素吸着を示すピーク面積から算出
Pt有効表面積(ECSA):下記式より算出
ECSA=(水素吸着量)[μC] / 210[μC/cm2]
評価条件は、上記実施例1,3と同様である。
塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O)(2.98g)を純水(4.5mL)に溶解させ、6%に希釈したアンモニア水に滴下した。滴下後1時間、攪拌してから、ろ過、洗浄、乾燥(100℃、24時間)後、大気雰囲気下、600℃、2時間熱処理を行うことで、酸化スズ粒子を作製した。得られたSnO2粒子の平均粒径(二次粒子)は約1.0μmであった。
酸化スズ粒子へのPt担持は白金アセチルアセトナート法により行った。Pt前駆体(Pt(C5H7O2)2)の量は、Ptが20重量%になるようにし、ジクロロメタン(CH2Cl2)中で担持した。得られたスラリーを乾燥後、N2雰囲気下で、210℃で3時間、240℃で3時間還元処理を施すことで、比較例1の燃料電池用電極材料を得た。
比較例1の燃料電池用電極材料の作製における酸化スズ粒子の作製の際に、塩化ニオブ(NbCl5)を、Sn:Nb=98:2(mol比)の割合で添加することで作製したニオブドープ酸化スズ粒子を使用した以外は比較例1と同様にして、比較例2の燃料電池用電極材料を得た。
比較例3の燃料電池用電極材料として、炭素担体(VULCAN XC-72 カーボン)にPt触媒粒子を担持したPt/Cを使用した。なお、比較例3の燃料電池用電極材料のPt担持量は、実施例1,3及び比較例1,2と同様に20重量%である。
導電補助材として繊維状炭素を使用した実施例1及び鎖状連結炭素粒子を使用した実施例3は、導電補助材を使用していない比較例1,2と比較して大きなECSAを示した。このことから、Pt触媒粒子を分散担持した酸化スズ粒子を導電補助材に担持した実施例1、実施例3の燃料電池用電極材料は、従来のPt/SnO2系燃料電池用電極材料と比較して、高活性であることが示唆された。
また、実施例1及び実施例3と、炭素担体にPtを担持した比較例3とを比較すると、ECSAの初期値は、比較例3と比較して小さかったものの、サイクル回数が増加すると比較例3が著しくECSAが低減するのに対し、実施例1及び実施例3ではECSAの低下は緩やかであり、特に実施例1はその傾向が顕著であった。
今回負荷した電位サイクルは担体腐食が起きる1.0V〜1.5Vであるので,炭素担体にPtを担持した比較例3では担体腐食によりPtが脱離・凝集を起こし大幅なECSAの低下を引き起こしたと考えられる。一方で実施例1及び実施例3では、大部分のPtが担体腐食が起こらない酸化スズ微粒子に担持されているため、ECSAの減少率が小さくなっていると考えられる。
[評価3−1]実施例1(導電補助材:繊維状炭素)
導電補助材に繊維状炭素(VGCF)を使用した実施例1の燃料電池用電極材料から形成されるカソードを有するMEAを用いて、IV特性の評価を行った。また、比較のため、カソードに市販の46wt%Pt/Cからから形成されるカソードを有するMEA(以下、比較例4と称す。)を作成し、同様にIV特性の評価を行った。
まず、電解質膜として、ナフィオン膜(厚み:50μm)に、46wt%Pt/C(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E)を、ナフィオン溶液を含む所定の有機溶媒に分散させて、アノード形成用の分散溶液を調合した。得られた分散溶液をナフィオン膜上にスプレー印刷して、所定の厚みのアノード(電極触媒層)をナフィオン膜上に作製した。アノード(電極触媒層)の上には、ガス拡散層として撥水性カーボンペーパー(東レ社製,型番:EC−TP1−060T)を配置した。なお、アノードの形成において、Pt量が0.3mg/cm2になるように調整した。
次いで、実施例1の燃料電池用電極材料を使用した以外はアノードと同様の方法で、カソード形成用の分散溶液を調合した。得られた分散液を、アノードを形成したナフィオン膜の反対面に、スプレー印刷して、ナフィオン膜上に所定の厚みのカソード(電極触媒層)を作製した。アノード、カソードそれぞれの上にカーボンペーパーを配置して、所定の条件(0.3kN、130℃)で圧着して、実施例1のMEAを得た。なお、実施例1のMEAのカソードにおけるPt量は0.5mg/cm2である。
市販の46wt%Pt/C(田中貴金属工業株式会社、TEC10E50E)を、比較例4の燃料電池用電極材料として使用し、該燃料電池用電極材料を使用した以外は、実施例1と同様の方法にて、比較例4のMEAを得た。比較例4のMEAのカソード、アノードにおけるPt量はともに0.3mg/cm2である。
(アノード条件)
電極面積:0.5cm2
供給ガス種 :100% H2
ガス供給速度 :100mL/min
供給ガス加湿温度 :79℃(相対湿度:100%)
(カソード条件)
電極面積:0.5cm2
供給ガス種 :Air
ガス供給速度 :100mL/min
供給ガス加湿温度 :60℃(相対湿度:42%)
なお、活性化過電圧については、実施例1と比較例4とは同様の傾向であった。
導電補助材に鎖状連結炭素粒子を使用した実施例3の燃料電池用電極材料から形成されるカソードを有するMEAを用いて、IV特性の評価を行った。MEAの製造方法及び評価方法は上記[評価3−1]と同様である。図12に評価結果を示すように、実施例3は低電流密度領域では実施例1に匹敵する性能を示したが、400mA/cm2を超えると、電圧低下が大きくなった。
実施例1、実施例3および比較例4の燃料電池用電極をカソードとして用いたMEAを用いて、燃料電池実用化推進審議会「固体高分子形燃料電池の目標・研究開発課題と評価方法の提案(平成23年度改訂版)」における「III−3−3 試験名:電位サイクル試験法1/2」(起動停止模擬電位サイクル)に準じる方法でサイクル耐久性試験評価を行った。図13に起動停止模擬電位サイクルの説明図を示す。
まず、実施例1、実施例3および比較例4のMEAを使用して、上記評価3と同じ装置を使用して、初期IV特性を測定した。次いで、起動停止模擬電位サイクルとして、電位を1.0Vから1.5Vまで0.5V/secで走査させて、三角波で加速試験を行い、所定回数サイクル後、IV測定を行う。この操作を繰り返し、燃料電池自動車(FCV)で10年間の使用に相当する60,000サイクルまで実施した。結果を図14に結果を示す。
これに対し、実施例1、実施例3では、60,000サイクルの発電が可能であった。特に実施例1では60,000サイクル後も相対セル電圧(サイクル初期電圧に対する電圧比)が0.95以上であった。上述の通り、導電補助材に繊維状炭素(VGCF)を使用した実施例1では、Pt触媒粒子は、カソード条件下で熱力学的に安定な電子伝導性酸化物(酸化スズ)に選択的に分散担持されており(図6(a),(b)参照)、導電補助材の上にはほとんど存在しなかったため、炭素腐食によるPt触媒粒子の脱離が起こっていないと考えられる。
上述の通り、導電補助材に鎖状連結炭素粒子を使用した実施例3では、Pt触媒粒子は、電子伝導性酸化物(酸化スズ)に大部分が分散担持されているが、一部のPt触媒粒子は導電補助材にも存在するため(図8(a),(b)参照)、サイクル初期には導電補助材の上のPt触媒粒子は炭素腐食により脱離し、その後電子伝導性酸化物(酸化スズ)に保持されたPt触媒粒子によって発電していることが示唆される。
この結果から、導電補助材として繊維状炭素(VGCF)がより好適であると判断した。
[評価5−1]溶媒の影響(アンモニア共沈法)
<実施例1A>
上記<実施例1>の工程(1)において、塩化スズ水和物を溶解する溶媒を、純水から無水エタノールに変えた以外は、実施例1と同様にして、実施例1Aの燃料電池用電極材料(電極触媒粒子未担持)を得た。表1に実施例1、実施例1AにおけるSnO2担持率を示す。なお、SnO2回収率は、(SnO2実担持率)/(SnO2理論担持率)である。表1に示されるように溶媒を無水エタノールにすることでSnO2回収率が大幅に向上した。
<実施例2A,実施例2B>
実施例2A,2Bにおいては、マイクロ波加熱均一沈殿法で酸化スズ粒子を製造した。
導電性補助材として上述の実施例1と同じ繊維状炭素(VGCF)を使用し、当該繊維状炭素に超純水を加え、超音波ホモジナイザーで攪拌して繊維状炭素の分散液を得た。この分散液に塩化スズ水和物(SnCl2・2H2O)及び尿素を入れて十分に混合した。塩化スズ水和物の量は、酸化スズに変化した際に30wt%となる仕込み量とした。
マイクロ波装置(μReacter EX, 四国計測工業株式会社)を使用し200Wのマイクロ波を照射して、昇温速度20℃/分で90℃まで昇温した。90℃到達後、出力を50Wとして同温度で10分間保持した。次いで、分散液の濾過、洗浄を行い、100℃で10時間乾燥させることで、実施例2Aの燃料電池用電極材料(電極触媒粒子未担持、as-prepared)を得た。次いで、大気雰囲気下、600℃で2時間の熱処理を行い、実施例2Bの燃料電池用電極材料(電極触媒粒子未担持、after heat treatment)を得た。実施例2A,実施例2B及び比較用の実施例1AのXRDプロファイルを図15に示す。また、実施例2A,実施例2BのFE−SEM像を図16(a),(b)に示す。
アンモニア共沈法、均一沈殿法(ホットスターラー加熱)、マイクロ波加熱均一沈殿法でSnO2の担持を行った燃料電池用電極材料のBET比表面積を評価した。アンモニア共沈法、マイクロ波加熱均一沈殿法は上述の実施例1A、実施例2Aに準じる方法で製造し、均一沈殿法(ホットスターラー加熱)のサンプルは上記実施例2に準じる方法で作製し、加熱には同じホットスターラーを使用した。図17にそれぞれ製造方法でのSnO2の担持量30wt%、50wt%でのBET比表面積の評価結果を示す。
図17に示されるように、BET比表面積が大きい順に、マイクロ波加熱均一沈殿法、均一沈殿法(ホットスターラー加熱)、アンモニア共沈法であった。また、アンモニア共沈法では担持率が増加してもBET比表面積がほとんど変化しなかったのに対し、均一沈殿法(特にマイクロ波加熱均一沈殿法)では担持率が増加すると表面積が増加した。
Claims (16)
- 表面がグラファイト構造である気相成長炭素繊維(VGCF)からなる導電補助材と、前記導電補助材に担持された電子伝導性酸化物と、前記導電補助材及び前記電子伝導性酸化物のうち前記電子伝導性酸化物に分散担持された電極触媒粒子とを含むことを特徴とする燃料電池用電極材料。
- 前記電子伝導性酸化物が、平均粒径3〜200nmの粒子状電子伝導性酸化物であって、当該粒子状電子伝導性酸化物が前記導電補助材の一部が露出するように前記導電補助材に担持されてなる請求項1に記載の燃料電池用電極材料。
- 前記電子伝導性酸化物が、平均膜厚2〜50nmの薄膜状電子伝導性酸化物であって、当該薄膜状電子伝導性酸化物が前記導電補助材の一部または全部を被覆するように担持されてなる請求項1に記載の燃料電池用電極材料。
- 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である請求項1から3のいずれかに記載の燃料電池用電極材料。
- 前記電極触媒粒子が、平均粒子径1〜30nmのPt及びPtを含む合金からなる電極触媒粒子である請求項1から4のいずれかに記載の燃料電池用電極材料。
- 請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池用電極材料とプロトン伝導性電解質材料を含み、前記導電補助材が互いに接触して導電パスを形成していることを特徴とする燃料電池用電極。
- 固体高分子電解質膜と、前記固体高分子電解質膜の一方面に接合されたカソードと、前記固体高分子電解質膜の他方面に接合されたアノードと、を有する膜電極接合体であって、前記カソードとアノードの少なくとも一方が、請求項6に記載の燃料電池用電極であることを特徴とする膜電極接合体。
- 請求項7に記載の膜電極接合体を備えてなることを特徴とする固体高分子形燃料電池。
- 請求項1から5のいずれかに記載の燃料電池用電極材料の製造方法であって、以下の工程(1)〜(3)を含むことを特徴とする燃料電池用電極材料の製造方法。
(1)表面がグラファイト構造である繊維状炭素及び鎖状連結炭素粒子から選択される1種以上からなる導電補助材に、電子伝導性酸化物を担持する工程
(2)前記電子伝導性酸化物を担持した前記導電補助材を、電極触媒前駆体を含む溶液に浸漬し、前記電子伝導性酸化物に電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を担持する工程
(3)前記電子伝導性酸化物に担持された前記電極触媒粒子又は電極触媒前駆体を活性化する工程 - 前記電子伝導性酸化物が、酸化スズを主体とする電子伝導性酸化物である請求項9に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
- 工程(1)における電子伝導性酸化物を担持する方法が、電子伝導性酸化物の前駆体とアンモニアとを直接反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持するアンモニア共沈法である請求項9または10に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
- 前記アンモニア共沈法における溶媒が無水エタノールである請求項11に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
- 工程(1)における電子伝導性酸化物を担持する方法が、電子伝導性酸化物の前駆体と、アンモニア発生化合物を分解して発生するアンモニアとを反応させて生成する電子伝導性酸化物を導電補助材に担持する均一沈殿法である請求項9または10に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
- 前記均一沈殿法が、マイクロ波照射によって加熱を行うマイクロ波照射加熱均一沈殿法である請求項13に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
- 工程(2)における電極触媒前駆体が、貴金属アセチルアセトナートである請求項9から14のいずれかに記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
- 工程(2)における電極触媒前駆体を担持する方法がコロイド法である請求項13又は14に記載の燃料電池用電極材料の製造方法。
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