以下、本明細書においては「分離」と「解離」の語句を特に区別して使用しない。
また、本明細書において、便宜上例えば[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]のように、ひとつの複合体を[ ]でまとめて表示する場合がある。
[タマビジン]
本発明に係るタマビジンとしては、食用キノコのタモギタケ(Pueurotus conucopiae)から得られたアビジン様ビオチン結合性タンパク質であって、ビオチンと可逆的に結合する性質を持つものが挙げられる。
具体的には、(i)WO2002/072817(特許文献1)に開示されたタマビジン1並びにその改変型、特許文献1に開示されたタマビジン2並びにその改変型、及び特開平2011-55827号(特許文献2)に開示されたタマビジン2の改変型であり、(ii)且つ酸性から中性域ではビオチン化核酸(ビオチンを結合させてビオチン標識した核酸。以下同じ。)のビオチンと結合するが、タマビジンに対して過剰量の遊離ビオチン(タマビジンに対して40〜4000倍モル)存在下で、且つアルカリ性条件下、好ましくはpH7.8〜9.5の条件下ではビオチン化核酸のビオチンとの結合が解離するという、ビオチンと可逆的に結合する性質を持つものが、挙げられる。
上記タマビジン1、タマビジン2、及びこれらの改変型の中でも、特許文献2に開示された改変型タマビジン2であるTM2 S36A、TM2 D116A、TM2 P46T-T78A、TM2 P46T-D116A、TM2 P46T-T78A-D116A、TM2 T78A、TM2 T78A-D116Aが好ましい。その中でもTM2 S36Aが特に好ましい。
本発明に係るタマビジン2のアミノ酸配列は特許文献1に配列番号2として開示されている。また、TM2 S36Aのアミノ酸配列は、特許文献2に配列番号4として開示されている。TM2 S36Aのアミノ酸配列を本明細書では配列番号1として示す。TM2 S36Aは、タマビジン2のアミノ酸配列のN末端から36番目のセリンがアラニンに置換したアミノ酸配列を持つ。
本明細書において、上記したタマビジン1、タマビジン2、及びこれらの改変型を総称して、単に「本発明に係るタマビジン」、又は単に「タマビジン」と略記する場合がある。また、上記したタマビジン2及びその改変型を総称して、単に「本発明に係るタマビジン2」と略記する場合がある。
また本発明に係るタマビジンには、上記した本発明に係るタマビジンのアミノ酸配列又はその1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するもの、又は上記した本発明に係るタマビジンのアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するものであって、上記(ii)の性質を持つものが含まれる。
さらに本発明に係るタマビジンには、配列番号1で表されるアミノ酸配列の1個もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、もしくは付加されたアミノ酸配列を有するもの、又は配列番号1で表されるアミノ酸配列と70%、好ましくは80%、より好ましくは95%、さらにより好ましくは97%以上の配列相同性を有するアミノ酸配列を有するものであって、上記(ii)の性質を持つものが含まれる。
TM2 S36Aは、和光純薬工業(株)より「タマビジン2-REV」という商品名で市販されている。以下、本明細書ではTM2 S36Aを「タマビジン2-REV」と記載する。
また、本発明に係るタマビジンは、例えば特許文献1及び特許文献2に開示された遺伝学的方法で製造したリコンビナント品であってもよい。
さらに、本発明に係るタマビジンは市販されているものであってもよい。例えば上記したタマビジン2-REV(和光純薬工業(株)製)が挙げられる。
[タマビジン固定化不溶性担体]
本発明に係るタマビジンは、不溶性担体に固定化(担持)させて用いる。
本発明に係る不溶性担体としては、通常この分野で用いられる担体であれば何れも使用可能である。例えばセルロースやその誘導体などの天然高分子化合物;ポリスチレン,ポリアクリル酸,ポリメタクリル酸,ポリアクリルアミド,ポリグリシジルメタクリレート,ポリプロピレン,ポリ塩化ビニール,ポリエチレン,ポリクロロカーボネート,シリコーン樹脂,シリコーンラバー,ポリオレフィン,ポリアミド,ポリイミド,ポリウレタン,ポリエステル等の合成高分子化合物;多孔性ガラス,スリガラス,アルミナ,シリカゲル,酸化珪素,ケイソウ,活性炭,金属酸化物等の無機物質等;を材料として調製されたものが挙げられる。
また、これら担体は、粒子(ラテックス粒子、ビーズ、磁気ビーズ等)、チューブ、カーボンナノチューブ、チップ、ディスク状片、微粒子、薄膜、微細管、プレート、マイクロプレート、フィルター、等多種多様の形態で使用し得る。
これらの形態の中でも特に操作性の点から粒子が好ましい。
中でも、磁性ラテックス粒子(磁性粒子を内包させたラテックス粒子)等の、磁性体が含有されている磁性粒子(磁気ビーズ)が、磁力を利用して良好にB/F分離を行うことができることから、より好ましい。例えば、市販されている生化学用磁気ビーズ(DynabeadsTM (サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)等)が挙げられる。
不溶性担体の大きさは、粒子又は微粒子の場合は、溶液中で分散しやすい大きさであればよい。例えば磁気ビーズの場合、その直径は通常0.1〜10μm、好ましくは0.1〜5μm、より好ましくは1〜3μmである。
不溶性担体が粒子又は微粒子以外の場合は、それぞれの不溶性担体の種類に応じて、通常この分野で使用される大きさを適宜選択すればよい。
本発明に係るタマビジンを不溶性担体に固定化させるには、タマビジンを含有するタマビジン溶液と不溶性担体とを接触させることによって行えばよい。また、例えば、共有結合により固定化する方法、物理的に吸着させて固定化する方法等のタンパク質を担体に結合させるための公知の方法で行うことも可能である。具体的な固定化方法は、不溶性担体の種類等に応じて、適宜選択すればよい。
例えばタマビジン固定化磁気ビーズは、磁気ビーズをタマビジン溶液と1〜6時間程度、好ましくは3〜5時間程度接触させる(例えば磁気ビーズをタマビジン水溶液に浸漬させる。)ことにより、容易に調製することができる。
市販の磁気ビーズを用いる場合は、商品に添付のプロトコールに従って、本発明に係るタマビジンを磁気ビーズに固定化すればよい。
不溶性担体に担持させるタマビジンの量は、その不溶性担体の種類により異なるが、不溶性担体が粒子又は微粒子の場合は、不溶性担体1mgに対して通常0.5〜2000μg、好ましくは2〜500μgである。不溶性担体が磁気ビーズの場合、磁気ビーズに固定化させるタマビジンの量は、磁気ビーズ1mgに対して通常0.5〜200μg、好ましくは2〜100μg、より好ましくは20〜80μgである。
不溶性担体が粒子又は微粒子以外の場合に、該担体に担持させるタマビジンの量は、それぞれの不溶性担体の種類に応じて、適宜調製すればよい。
不溶性担体に本発明に係るタマビジンを固定化した後、任意の方法によりタマビジン溶液から分離する。不溶性担体の分離方法としては、使用した不溶性担体の種類に応じて、デカンテーション、遠心分離、フィルター分離などの任意の方法を用いればよい。磁気ビーズを用いる場合には、磁気分離法によって簡便にタマビジン溶液からタマビジン固定化磁気ビーズを分離することができる。
本発明に係るタマビジン固定化不溶性担体は上記したような自体公知の方法で作成しても得られるが、本発明に係るタマビジンが固定化された不溶性担体の市販品でもよい。例えばMagCapture TMタマビジンTM2-REV (和光純薬工業(株)製)が挙げられる。
[核酸]
本発明に係る、核酸にビオチンを結合させたビオチン化核酸に用いられる核酸としては、デオキシリボ核酸(DNA)でもリボ核酸(RNA)でもよく、特に限定されない。
核酸は一本鎖が好ましい。
また、本発明に係る核酸の種類は特に限定されないが、例えば後記の(工程B−1)に関する説明の中で記載するような核酸結合タンパク質が結合して、該核酸結合タンパク質と複合体を形成する性質を持つ核酸が挙げられる。その例として例えばRNAの場合は、生体内でタンパク質をコードしない非翻訳RNA(ノンコーディングRNA、non-coding RNA: ncRNA)が挙げられる。
ノンコーディングRNAとしては、例えば、200塩基以上の鎖長の長鎖ノンコーディングRNA(long non-coding RNA : lncRNA);マイクロRNA(microRNA : miRNA)、small interfering RNA(siRNA)、核内低分子RNA(small nuclear RNA(snRNA))、核小体低分子RNA(small nucleolar RNA(snoRNA))、repeat asociated small interfering RNA(rasiRNA)、trans-acting siRNA(tasiRNA)、PIWI interacting RNA(piRNA)等の、全長が5〜200塩基程度又はそれ以下の低分子RNA(small RNA、miRNA等);等が挙げられる。
lncRNAとしては、例えばHOTAIR RNAが挙げられる。核内低分子RNAとしては、例えば7SK snRNAが挙げられる。
DNAの場合は、転写因子やエンハンサンーが結合する遺伝子発現調節領域(の塩基配列等)等が挙げられる。
また、その核酸に結合する核酸結合タンパク質が存在するか不明な核酸も、本発明に係る核酸に含まれる。
[ビオチン化核酸]
本発明に係るビオチン化核酸は、上記した本発明に係る核酸をビオチンと結合させてビオチン化(ビオチン標識)することにより得られる。
核酸をビオチンで標識する方法としては、in vitro転写反応(非特許文献3)、Terminal Deoxynucleotidyl Transferase(TdT)等を用いた酵素標識法、DNA合成中にビオチン phosphoramidite を使用して5'末端にビオチンを導入する方法、ビオチン化プライマーを用いたPCRによる末端標識を行う方法、biotin-X-NHSエステルTM を使用して、化学的にビオチン化する方法、Klenow DNA ポリメラーゼ、nick translation あるいはmixed primer labeling法により酵素的に二本鎖 DNA の標識を行う方法、等の常法が挙げられるが、これに限定されない。ビオチンで標識する対象の核酸の種類等に応じて、適宜選択すればよい。一般には、in vitro転写反応がよく行われる。
核酸に結合させるビオチンの量は、5pmol〜100pmol、好ましくは15pmol〜50pmol、より好ましくは20pmol〜30pmolである。
また、ビオチン化核酸は、専門業者に製造を委託することでも入手することができる。
以下に、in vitro転写反応を利用した、ビオチン化RNAの製造方法を例示する。
目的のRNAをコードする遺伝子配列を持つDNAを、ベクター(制限酵素部位の近傍にT7プロモーター、Sp6プロモーター等のプロモーター部位を持つ)の制限酵素部位を利用して、該ベクターに組み込む(クローニングする)。得られた組換えベクターの組換えDNA部分を鋳型にして、例えばT7プライマーとSp6プライマーを用いたPCR増幅反応を行い、RNAの遺伝子配列を増幅させる。得られたPCR増幅産物について、アガロース電気泳動等の通常の電気泳動と、ゲル抽出精製を行い、目的のRNAの遺伝子配列とT7プロモーター配列及びSp6プロモーター配列が含まれるPCR増幅産物を精製する。
目的のRNA遺伝子配列を組み込むベクターとしては、目的のRNA遺伝子配列を組み込め、組み込む制限酵素部位の近傍にT7プロモーター、Sp6プロモーター、T3プロモーター等のプロモーター部位を持つものが扱いやすいので、好ましい。市販品としては、例えばpGEM-T Easyベクター(promega社)、pBluescript II SK(+/-) (Stratagene)等が挙げられる。
得られたPCR増幅産物を鋳型として、常法によるin vitro転写反応を行ってRNA合成を行う。RNA合成を行うためのキット(例えばサーモフィッシャーサイエンティフィック(株)のMEGAscript TM T7 Transcription Kit等)が市販されているので、それを用いてRNA合成を行えばよい。RNA合成の際に基質として用いるヌクレオチドとして、ATP、GTP、CTP、及びUTPとBiotin-16-UTP(Roche社製)をモル比で3:1の比率で混合したものを用いる。そうすることにより、ビオチン化したRNAを得ることができる。次いで常法により得られたビオチン化RNAを精製する。
[A.本発明のビオチン化核酸の分離方法]
本発明のビオチン化核酸の分離方法は、下記の工程を含んでなる。
「(1)ビオチン化核酸を含有する試料と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触させて、ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体を生成させる工程(工程A−1)、
(2)遊離ビオチンの存在下、pH7.8〜9.5の溶液中で、ビオチン化核酸を該複合体から分離する工程(工程A−2)。」
(工程A−1)
本発明の核酸結合タンパク質の分離方法の工程A−1は、「ビオチン化核酸を含有する試料と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触させて、ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体を生成させる工程」である。
工程A−1に係るビオチン化核酸を含有する試料とは、上記した本発明に係る核酸をビオチン化したビオチン化核酸を含有するもので、工程A−1では溶液状態にして用いられる。
ビオチン化核酸を含有する溶液を調製するために用いられる溶媒としては、RNaseフリーの超純水や緩衝液が挙げられる。緩衝液としては、通常この分野で使用されるものであれば特に限定されないが、通常pH 6.0〜8.5、好ましくはpH 7.0〜8.0、より好ましくはpH 7.0〜7.5の中性付近に緩衝作用を有するものが挙げられる。具体的には、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜100 mM、好ましくは10〜50 mMの範囲から適宜選択される。
上記のような溶媒にビオチン化核酸を含有する溶液を懸濁させた試薬溶液中のビオチン化核酸の濃度は、タマビジン固定化不溶性担体又はこれを含有する溶液と混合したときに、目的の濃度範囲になるような濃度であればよい。例えば1〜100ng/μL、好ましくは1〜50ng/μL、更に好ましくは10〜50ng/μLである。
ビオチン化核酸を含有する溶液のpHは、ビオチン化核酸の安定性を考慮して、pH 6.0〜8.0程度が好ましい。
尚、ビオチン化核酸を含有する溶液には、更に増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤等、その他この分野で用いられているものであって、ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体を生成する反応を阻害・抑制しないものを有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲等も、自体公知の該測定方法において通常用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。
工程A−1で用いられるタマビジン固定化不溶性担体は、溶媒に懸濁させた溶液(懸濁液)(以下、「タマビジン固定化不溶性担体溶液)と記載する。)の形態であっても、溶液を除いたペレットの状態でもよい。溶液の形態で用いる場合、タマビジン固定化不溶性担体を懸濁させる溶媒としては、通常この分野で使用されるものであれば特に限定されないが、通常pH 6.0〜8.5、好ましくはpH 7.0〜8.0の中性付近に緩衝作用を有する緩衝液が挙げられる。具体的には、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜100 mM、好ましくは10〜50 mMの範囲から適宜選択される。
上記のようなタマビジン固定化不溶性担体溶液中のタマビジンの濃度は、ビオチン化核酸を含有する溶液と混合したときに、目的の濃度範囲になるような濃度であればよい。例えば0.01mM〜0.2mM、好ましくは0.02mM〜0.1mM、より好ましくは0.02mM〜0.05mM、更に好ましくは0.03mM〜0.05mMである。
また、タマビジン固定化不溶性担体溶液中の不溶性担体の含量としては、用いられる担体の種類により異なるが、担体が磁気ビーズ粒子等の粒子の場合、通常0.05mg〜10mg、好ましくは0.1mg〜1mg、更に好ましくは0.2mg〜0.5mgである。
また、タマビジン固定化不溶性担体溶液のpHは、タマビジン固定化不溶性担体の安定性を考慮して、pH 6.0〜8.0程度が好ましい。
尚、タマビジン固定化不溶性担体溶液は、更に増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤等の、その他この分野で用いられているものであって、ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体を生成する反応を阻害・抑制しないものを含有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲等も、自体公知の該測定方法において通常用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。
工程A−1において、ビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを接触させる方法は、使用する不溶性担体の種類に応じて、適宜選択され、最終的に[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]又は該複合体の溶液が得られる方法であればよい。
例えば、不溶性担体が粒子や微粒子等の場合には、ビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを混合するか、ビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体溶液とを混合する方法が挙げられる。
不溶性担体がチップやプレート等の場合には、本発明のタマビジンを固定化した不溶性担体と、ビオチン化核酸を含有する試料とを接触させればよい。タマビジンを不溶性担体に固定化する方法は、この分野で通常行われている常法が挙げられる。
工程A−1においてビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の、ビオチン化核酸の反応液中の濃度は、例えば0.1〜100ng/μL、好ましくは0.5〜50ng/μL、更に好ましくは1〜20ng/μLである。
工程A−1においてビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の、タマビジンの反応液中の濃度は、試料中のビオチン化核酸の濃度により異なり、特に限定されないが、通常0.001mM〜0.2mMである。
工程A−1において、ビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の反応液中のタマビジン固定化不溶性担体の含量としては、用いられる担体の種類により異なるが、不溶性担体が粒子又は微粒子の場合、通常0.001〜10mg、好ましくは0.005〜5mgである。不溶性担体が磁気ビーズ粒子の場合、通常0.05〜10mg、好ましくは0.1mg〜1mgである。
また、ビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の反応液のpHとしては、ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体を生成する反応を阻害・抑制しない範囲であれば特に限定されず、4.0〜8.0、好ましくは7.0〜7.5の範囲が挙げられる。
反応時の温度も該複合体を生成する反応を阻害・抑制せず、また生成した該複合体を分離させない範囲であれば特に限定されず、通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃の範囲が挙げられる。また、その反応時間は、用いるビオチン化核酸及びタマビジン固定化不溶性担体の種類、pH及び温度等の反応条件により異なるが、0.1〜24時間程度、好ましくは1〜5時間程度である。反応時必要に応じて撹拌処理を行ってもよい。
上記工程A−1の反応後、得られた反応溶液から、[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]を分離することが好ましい。その方法は、使用する不溶性担体の種類に応じて適宜選択される。例えば、デカンテーション、遠心分離、フィルター分離などの従来の方法を行ってもよい。不溶性担体として磁気ビーズを用いた場合は、磁石を用いて磁気ビーズと溶液とを分離することができる。
更に、当該複合体の不溶性担体に付着した夾雑物を除くために、得られた不溶性担体を適当な洗浄液を用いて洗浄処理を行うことが好ましい。洗浄液としては、通常この分野で用いられている緩衝液等が挙げられる。例えば、6.0〜7.5の中性付近に緩衝作用を有するPBSや緩衝液等が好ましい。更に、該洗浄液には、通常この分野で使用される界面活性剤や、NaCl,MgCl2等の塩が含有されていてもよい。
(工程A−2)
本発明のビオチン化核酸の分離方法の工程A−2は、「遊離ビオチンの存在下、pH7.8〜9.5の溶液中で、ビオチン化核酸を、工程A−1で得られた該複合体から分離する工程」である。
本発明に係る遊離ビオチンとは、核酸に結合していない、溶液中に遊離状態で存在するビオチンを意味する。
工程A−2では、工程A−1で得られた[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]を、遊離ビオチンとpH7.8〜9.5の溶液状態で接触・反応させる。
その方法は、該複合体と遊離ビオチンとを含有するpH7.8〜9.5の溶液が得られるような方法であればよい。
例えば以下の方法が挙げられる。
(1)[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]又は該複合体を含有する溶液を遊離ビオチンを含有する溶液と混合した後、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法、
(2)該複合体又は該複合体を含有する溶液を、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合した後、遊離ビオチンを含有する溶液と混合する方法、
(3)該複合体又は該複合体を含有する溶液を、遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法。
上記 (1)〜(3)の方法の中でも、作業効率等を考慮すると、(3)の方法が最も簡便であり、好ましい。
特に、(3)の方法であって、工程A−1で得られた[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]を含有する溶液から不溶性担体の性質に応じた方法で溶媒を除去した後、該複合体を、遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法が、簡便である。
この場合、溶媒を除去した後に混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合することになるので、使用する該溶液は、pHが7.8〜9.5の溶液であればよい。
工程A−2に係る[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]を含有する溶液に用いられる溶媒としては、例えば上記工程A−1に記載したタマビジン固定化不溶性担体を懸濁させる溶媒と同じものが挙げられるが、特に限定されない。
工程A−2で用いられる遊離ビオチンを含有する溶液を調製するために用いられる溶媒としては、例えばリン酸カリウム緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜1000mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。
遊離ビオチンを含有する溶液中の遊離ビオチンの濃度は、[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]と混合したとき、又は当該複合体を含有する溶液と混合したときに、pH7.8〜9.5で該複合体をビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体とに分離できるような過剰量になる濃度であればよい。具体的には、[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]と混合したとき、又は当該複合体を含有する溶液と混合したときに、混合液中の該複合体の不溶性担体に担持されたタマビジンに対して40〜4000倍モルになるような濃度、例えば混合液中の該複合体の不溶性担体に担持されたタマビジン0.01〜0.05mMに対して2〜40mMとなるような濃度である。100〜4000倍モル程度がより好ましい。
遊離ビオチン含有溶液には、更に増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤その他この分野で用いられているものを含有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲等も、自体公知の該測定方法において通常用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。
工程A−2で用いられる、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液としては、例えばpH7.8〜9.5付近に緩衝作用を有する緩衝液が挙げられ、具体的には、例えばリン酸カリウム緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜1000 mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。
工程A−2で溶液状態でない[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]を用いる場合、例えば上記工程A−2が(3)該複合体を、遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法、の場合には、混合後のpHが7.8〜9.5となるような溶液として、pH7.8〜9.5付近に緩衝作用を有する緩衝液を用いればよい。
尚、本明細書において、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液、又は遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液を、「溶出バッファー」と記載する場合がある。
工程A−2で該複合体と遊離ビオチンをpH7.8〜9.5で接触・反応させる際の反応液中の遊離ビオチンの濃度は、あまり濃度が高くても無駄になるので、該反応液中のタマビジン濃度、すなわち該反応液中の不溶性担体に担持されたタマビジンに対して40〜4000倍モル程度である。また、該反応液のpHは7.8〜9.5である。
工程A−2で該複合体と遊離ビオチンをpH7.8〜9.5で接触・反応させる際の反応時の温度は、通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃の範囲が挙げられる。また、その反応時間は、用いるビオチン化核酸及びタマビジン固定化不溶性担体の種類、pH及び温度等の反応条件により異なるので、各々に応じて1〜360分程度、好ましくは10〜180分程度、より好ましくは10〜30分程度である。反応時必要に応じて撹拌処理を行ってもよい。
尚、ビオチン化核酸の核酸がRNAの場合、工程A−2におけるビオチン化核酸が該複合体から分離する際の溶液のpHがpH9.5以上のアルカリ性になると、RNAが変性してしまう可能性がある。ビオチン化核酸の核酸がDNAの場合は、pH9.5以上のアルカリ性条件下でも変性する心配はない。
しかし、pH9.5以上のアルカリ条件下でビオチン化DNAを分離した場合には、この後の作業(ビオチン化核酸を使用する場合等)を考慮して溶液の中和処理等を行う必要が生じる場合があり、作業が繁雑になる。また、自動分析装置を用いて本発明を実施する場合、あまり高アルカリ条件下で実施するのは、使い勝手が良くないので好ましくない。更に、核酸結合タンパク質の種類によっては、高アルカリ条件下では変性してしまうおそれもある。
そのため、ビオチン化核酸がRNAの場合もDNAの場合も、工程A−2におけるpHは、好ましくはpH7.8〜9.5、より好ましくはpH8.0〜9.0、更に好ましくはpH8.2〜8.8である。pH8.5付近が特に好ましい。
本発明のビオチン化核酸の分離方法を、工程A−2が前記(3)の方法(該複合体又は該複合体を含有する溶液を、遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法。)の場合を例にとって具体的に示すと、例えば以下の如くなる。
タマビジン2-REV固定化磁気ビーズ 0.05〜1mg(タマビジン担持量は磁気ビーズ1mgに対して0.5〜2000μg、0.3nM〜1.3μM)をチューブへ加え、洗浄処理後、洗浄液を除く。次いで、10〜50ng/μLのビオチン化RNAを含有する溶液を加え、攪拌しながら通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃で0.1〜24時間、好ましくは1〜5時間程度反応させてビオチン化RNAとタマビジン2-REV固定化磁気ビーズの複合体を生成させる。反応後、磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離する。ビーズを数回洗浄処理した後、洗浄液を除く。次に、溶出バッファー(5〜20mMのビオチンを含む50mM Tris-HCl pH9.0)15〜40μLをチューブに添加し、攪拌しながら通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃で1〜360分間、好ましくは10〜180分間、更に好ましくは10〜30分間反応させる。反応後、磁気スタンドを用いて該複合体から分離したビオチン化核酸を含む溶出液を分離・回収する。以上の操作により、ビオチン化核酸を分離することができる。
工程A−2を実施することにより、[ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]がpH7.8〜9.5の溶液中で、タマビジンに対して40〜4000倍モルの遊離ビオチンと反応し、ビオチン化核酸が該複合体から分離する。
次いで、溶液中に分離して存在するビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを、使用した不溶性担体の種類に応じた常法により分離することにより、ビオチン化核酸を含有する溶液を容易に得ることができる。例えば、不溶性担体として磁気ビーズを用いた場合には、磁気分離によってタマビジン固定化磁気ビーズを分離すれば、ビオチン化核酸を含有する溶液を得ることができる。
ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体を分離後の該タマビジン固定化不溶性担体又はその溶液に、遊離ビオチンを含有する溶液と、混合後のpHが7.8〜9.5となるような溶液を加えるか、遊離ビオチンを含有する混合後のpHが7.8〜9.5となるような溶液を再度加えて、該タマビジン固定化不溶性担体上に残存しているビオチン化核酸を分離する工程を複数回行い、ビオチン化核酸を含有する溶液を複数回回収してもよい。
また、必要に応じ、さらに公知の核酸抽出法等で核酸を精製することにより、工程A−2で得られたビオチン化核酸を含有する溶液からビオチン化核酸を回収してもよい。例えば、フェノール/クロロフォルム抽出や市販の核酸精製キット等を使用する方法が挙げられる。
ビオチンとタマビジン2-REVの結合は、過剰量の遊離ビオチンを加えることにより分離(解離)することは知られている。また、この性質を利用して、ビオチン化タンパク質とタマビジン2-REV固定化不溶性担体との複合体に過剰量の遊離ビオチンを加えることにより、ビオチン化タンパク質のビオチンとタマビジン2-REV固定化不溶性担体のタマビジン2-REVとの結合を解離させ、ビオチン化タンパク質を得ることは知られている(非特許文献1)。しかしながら、ビオチン化タンパク質に代えてビオチン化核酸を用いた場合には、ビオチン化核酸とタマビジン2-REVの結合は、過剰量の遊離ビオチンを加えただけでは十分に遊離させることができなかった。
本発明のこの工程A−2で、過剰量の遊離ビオチン(本発明に係るタマビジンに対して40〜4000倍モルの遊離ビオチン)の存在下に、当該複合体を含有する溶液のpHを7.8〜9.5に調整することにより、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体との解離効率が向上し、ビオチン化核酸を収率よく回収することが可能になった。
[B.本発明の核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法]
本発明の、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法は、以下の工程より成る。
(1)核酸結合タンパク質を含有する試料と、ビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触させて、核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体を生成させる工程(工程B−1)、
(2)遊離ビオチンの存在下、pH7.8〜9.5の溶液中で、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を、工程B−1で得られた該複合体から分離する工程(工程B−2)。
(工程B−1)
本発明の、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法の工程B−1は、「核酸結合タンパク質を含有する試料と、ビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触させて、核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体を生成させる工程」である。
核酸結合タンパク質としては、本発明に係る核酸に結合し得るタンパク質であればよく、特に限定されない。二本鎖DNA結合タンパク質、一本鎖DNA結合タンパク質、RNA結合タンパク質等が挙げられる。
具体的には、例えば転写因子やヒストン、スプライシング因子や輸送因子、リボゾームタンパク質、核内低分子リボ核タンパク質(snRNPタンパク質)、核小体低分子リボ核酸蛋白質(snoRNPタンパク質)等が挙げられる。
また、上記したHOTAIR RNAには、ポリコーム抑制複合体PRC2の構成因子であるEzh2やLSD1/CoREST/REST複合体のLSD1と結合することが知られており、7SK snRNAはHexim1/2やCDK9, Larp7といったRNA結合タンパク質が結合していることが知られている。これらのRNA結合タンパク質も、本発明に係る核酸結合タンパク質として挙げられる。
工程B−1に係る核酸結合タンパク質を含有する試料としては、核酸結合タンパク質を適当な溶媒に溶解させた溶液の他、細胞ライセート(細胞抽出液)、細胞培養上清、血漿、血清、尿、唾液、母乳等の体液、あるいはこれらを溶媒に溶解又は懸濁した溶液が挙げられる。
該細胞ライセートとしては、通常溶液1mL中に5×106〜2×107細胞を含有させた後に溶解させたもの、5×106〜2×107細胞の細胞ペレットを溶解させたものが用いられる。
細胞ライセートを得るには、この分野で通常行われている細胞を破壊させる方法であればよいが、タンパク質が熱変性を起こさない、タンパク質が失活しない、タンパク質の回収率がよい、操作が簡便である、等の点から、物理的に細胞を破砕する方法よりは化学的に細胞を可溶化させる方法が好ましい。例えば、界面活性剤を用いて細胞を可溶化させる方法が好ましい。
例えば、5×106〜5×107細胞の細胞ペレットに、界面活性剤を含有する細胞溶解剤を添加し、細胞を懸濁させた後1〜10分間氷上で反応させる。その後20000×gで15分間程度遠心処理し、得られた上清を細胞ライセートとして用いればよい。
細胞溶解剤には、例えば通常この分野で用いられる細胞溶解剤としての界面活性剤を添加した、適当な塩(KCl、NaCl等)やDTT等の還元剤を含む緩衝液が用いられる。該緩衝液としては、例えばpH 5.0〜10.0、好ましくはpH 7.0〜8.0の中性付近に緩衝作用を有する、例えばリン酸緩衝液、トリス緩衝液、グッド緩衝液、グリシン緩衝液、ホウ酸緩衝液等が好ましい。また、緩衝液中の緩衝剤濃度としては、通常10〜500 mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。塩の濃度は、緩衝液中の濃度として通常100〜200 mMである。
細胞を可溶化させる界面活性剤としては、通常この分野で用いられているものであればよく、使用する細胞の種類や使用する緩衝液のpHや塩濃度、等の条件に従って適宜選択すればよい。例えばNP-40、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル(和光純薬工業(株)製)、TritonX-100、ジギトニン等が挙げられるが、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテルが好ましい。その濃度は、核酸結合タンパク質に影響を与えない濃度であって細胞溶解効果のある濃度であればよく、緩衝液全量に対して通常0.01〜1.0%が好ましい。
また、核酸結合タンパク質の溶液や細胞溶解液には、核酸結合タンパク質を分解させないために、通常プロテアーゼ阻害剤及びホスファターゼ阻害剤を含有させる。
また細胞培養上清や体液を用いる場合には、細胞分泌顆粒(エキソソーム)の溶解剤として界面活性剤を添加してもよい。そのために用いられる界面活性剤としては、例えばポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテル(和光純薬工業(株)製)、TritonX-100等が挙げられるが、ポリ(オキシエチレン)ノニルフェニルエーテルが好ましい。その添加濃度は、本発明に係る核酸結合タンパク質に影響を与えない濃度であって細胞溶解効果のある濃度であればよく、サンプル全量に対して通常0.01〜0.5%であり、0.05〜0.1%が好ましい。
工程B−1に用いられるビオチン化核酸及びそれを含有する溶液、タマビジン固定化不溶性担体及びこれを含有する溶液等の、夫々の構成要素の好ましい態様、具体例及び濃度等については、上記の、該当する各項目及び本発明のビオチン化核酸の分離方法の工程A−1に関する説明に記載したものと同じである。
工程B−1において、核酸結合タンパク質を含有する試料とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体とを接触させる方法としては、目的の核酸結合タンパク質又は使用する不溶性担体の種類等に応じて適宜選択され、最終的に試料中の核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体が得られる方法であればよい。
工程B−1における核酸結合タンパク質を含有する試料と、ビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の、ビオチン化核酸の反応液中の濃度は、該試料0.1〜1mLに対して通常10〜50pmol、好ましくは10〜20pmolである。
工程B−1において核酸結合タンパク質とビオチン化核酸を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の、タマビジンの反応液中の濃度は、試料中のビオチン化核酸の濃度により異なり、特に限定されないが、通常0.001mM〜0.2mMである。
工程B−1において、核酸結合タンパク質を含有する試料と、ビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の反応液中のタマビジン固定化不溶性担体の含量としては、用いられる担体の種類により異なるが、該試料0.1〜1mLに対して、不溶性担体が粒子又は微粒子の場合、通常0.001〜10mg、好ましくは0.005〜5mgである。不溶性担体が磁気ビーズ粒子の場合、通常0.05〜10mg、好ましくは0.1〜1mgである。
工程B−1において、核酸結合タンパク質を含有する試料と、ビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触・反応させる際の反応温度は、[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]を生成する反応を阻害・抑制せず、また生成した該複合体を分離させない範囲であれば特に限定されないが、3〜30℃が好ましい。反応時間は0.1〜24時間、好ましくは1〜5時間である。反応時、必要に応じて撹拌処理を行ってもよい。その他の成分同士を接触・反応させる際の温度及び反応時間は、上記の本発明のビオチン化核酸の分離方法の工程A−1において説明した各条件に従い、適宜選択される。
例えば、核酸結合タンパク質を含有する試料とビオチン化核酸(又はそれを含有する溶液)とタマビジン固定化不溶性担体(又はそれを含有する溶液)とを接触・反応させる際の反応液のpHとしては、核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体を生成する反応を阻害・抑制しない範囲であれば特に限定されず、4.0〜8.0、好ましくは7.0〜7.5の範囲が挙げられる。
工程B−1において各成分を接触・反応させる具体的な方法としては、タマビジン固定化不溶性担体が粒子や微粒子の場合には、例えば以下の方法が挙げられる。
(1)核酸結合タンパク質を含有する試料を、ビオチン化核酸を含有する溶液と混合した後、タマビジン固定化不溶性担体又はタマビジン固定化不溶性担体溶液と混合する方法。
(2)核酸結合タンパク質を含有する試料をタマビジン固定化不溶性担体又はタマビジン固定化不溶性担体溶液と混合した後、ビオチン化核酸を含有する溶液と混合する方法。
(3)核酸結合タンパク質を含有する試料と、[タマビジン固定化不溶性担体とビオチン化核酸との複合体]を含有する試薬(試液)とを混合する方法。
不溶性担体がチップやプレート等の場合には、核酸結合タンパク質を含有する試料とタマビジン固定化不溶性担体(又はそれを含有する溶液)と、ビオチン化核酸(又はそれを含有する溶液)とを接触させればよい。
上記工程B−1の反応後、得られた反応溶液から、[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]を分離することが好ましい。また当該複合体の不溶性担体に付着した夾雑物を除くために、得られた不溶性担体を適当な洗浄液を用いて洗浄処理を行うことが好ましい。その具体的な方法等は、上記工程A−1から工程A−2に移行する前に行うことが好ましい分離・洗浄処理と同様の方法でよい。
(工程B−2)
本発明の核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法の工程B−2は、「遊離ビオチンの存在下、pH7.8〜9.5の溶液中で、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を、工程B−1で得られた該複合体から分離する工程」である。
工程B−2では、工程B−1で得られた[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]と遊離ビオチンを、pH7.8〜9.5の溶液状態で接触・反応させる。
その方法は、該複合体と遊離ビオチンとを含有するpH7.8〜9.5の溶液が得られるような方法であればよい。
その具体的な方法、及び当該工程における[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]を含有する溶液、遊離ビオチンを含有する溶液、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液等の、夫々の構成要素の好ましい態様、具体例及び濃度、反応条件等については、上記の、本発明のビオチン化核酸の分離方法の工程A−2に関する説明に記載したものと同じである。
例えば、具体的な方法としては、工程A−2と同様に以下の方法が挙げられる。
(1)[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]又は該複合体を含有する溶液を遊離ビオチンを含有する溶液と混合した後、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法、
(2)該複合体又は該複合体を含有する溶液を、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合した後、遊離ビオチンを含有する溶液と混合する方法、
(3)該複合体又は該複合体を含有する溶液を、遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法。
上記 (1)〜(3)の方法の中でも、作業効率等を考慮すると、(3)の方法が最も簡便であり、好ましい。
特に、(3)の方法であって、工程B−1で得られた[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体の複合体]を含有する溶液から不溶性担体の性質に応じた方法で溶媒を除去した後、該複合体を遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法が、簡便である。
この場合、溶媒を除去した後に混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合することになるので、使用する該溶液は、pHが7.8〜9.5の溶液であればよい。
工程B−2に係る[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]を含有する溶液に用いられる溶媒としては、例えば上記工程A−1に記載したタマビジン固定化不溶性担体を懸濁させる溶媒と同じものが挙げられるが、特に限定されない。
工程B−2で用いられる遊離ビオチンを含有する溶液を調製するために用いられる溶媒としては、例えばリン酸カリウム緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜1000mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。
遊離ビオチンを含有する溶液中の遊離ビオチンの濃度は、[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]と混合したとき、又は当該複合体を含有する溶液と混合したときに、pH7.8〜9.5で該複合体を、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体とに分離できるような過剰量になる濃度であればよい。具体的には、[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]と混合したとき、又は当該複合体を含有する溶液と混合したときに、混合液中の該複合体の不溶性担体に担持されたタマビジンに対して40〜4000倍モルになるような濃度、例えば混合液中の該複合体の不溶性担体に担持されたタマビジン0.01〜0.05mMに対して2〜40mMである。
遊離ビオチン含有溶液には、更に増感剤、界面活性剤、防腐剤(例えばアジ化ナトリウム、サリチル酸、安息香酸等)、安定化剤(例えばアルブミン、グロブリン、水溶性ゼラチン、界面活性剤、糖類等)、賦活剤、共存物質の影響回避剤その他この分野で用いられているものを含有していてもよい。またこれら試薬類等の濃度範囲等も、自体公知の該測定方法において通常用いられる濃度範囲等を適宜選択して用いればよい。
工程B−2で用いられる、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液としては、例えばpH7.8〜9.5付近に緩衝作用を有する緩衝液が挙げられ、具体的には、例えばリン酸カリウム緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜1000 mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。
工程B−2で溶液状態でない[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]を用いる場合、例えば上記工程B−2が(3)該複合体を、遊離ビオチンを含有する、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液と混合する方法、の場合には、混合後のpHが7.8〜9.5となるような溶液として、pH7.8〜9.5付近に緩衝作用を有する緩衝液を用いればよい。
工程B−2で該複合体と遊離ビオチンをpH7.8〜9.5で接触・反応させる際の反応液中の遊離ビオチンの濃度は、あまり濃度が高くても無駄になるので、該反応液中のタマビジン濃度、すなわち該反応液中の不溶性担体に担持されたタマビジンに対して40〜4000倍モル程度である。100〜4000倍モル程度が好ましい。また、該反応液のpHは7.8〜9.5である。
工程B−2で該複合体と遊離ビオチンをpH7.8〜9.5で接触・反応させる際の反応時の温度は、通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃の範囲が挙げられる。また、その反応時間は、用いるビオチン化核酸及びタマビジン固定化不溶性担体の種類、pH及び温度等の反応条件により異なるので、各々に応じて1〜360分程度、好ましくは10〜180分程度、より好ましくは10〜30分程度である。反応時必要に応じて撹拌処理を行ってもよい。
使用するビオチン化核酸がRNAの場合もDNAの場合も、工程B−2におけるpHは、好ましくはpH7.8〜9.5、より好ましくはpH8.0〜9.0、更に好ましくはpH8.2〜8.8である。pH8.5付近が特に好ましい。
工程B−2を実施することにより、[核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]がpH7.8〜9.5の溶液中で、タマビジンに対して40〜4000倍モルの遊離ビオチンと反応し、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸が該複合体から分離する。
次いで、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体とを分離することにより、ビオチン化核酸を含有する溶液を得ることができる。その方法の具体例は、上記工程A−2に関する発明に記載した方法と同様である。
例えば、溶液中に分離して存在する核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを、使用した不溶性担体の種類に応じた常法により分離することにより、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を含有する溶液を容易に得ることができる。例えば、不溶性担体として磁気ビーズを用いた場合には、磁気分離によってタマビジン固定化磁気ビーズを分離すれば、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を含有する溶液を得ることができる。
核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体を分離後の該タマビジン固定化不溶性担体又はその溶液に、遊離ビオチンを含有する溶液と、混合後のpHが7.8〜9.5となるような溶液を加えるか、遊離ビオチンを含有する混合後のpHが7.8〜9.5となるような溶液を再度加えて、該タマビジン固定化不溶性担体上に残存している核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を分離する工程を複数回行い、ビオチン化核酸を含有する溶液を複数回回収してもよい。
また、必要に応じ、さらに公知の核酸抽出法等で核酸を精製することにより、工程B−2で得られた核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を含有する溶液からビオチン化核酸を回収してもよい。例えば、フェノール/クロロフォルム抽出や市販の核酸精製キット等を使用する方法が挙げられる。
本発明の核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法を実施することにより、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を収率よく回収することが可能になった。
本発明の核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法において、ビオチン化核酸に用いられる核酸として、例えば目的の核酸結合タンパク質に対応する核酸を用いることが出来る。すなわち、既知の核酸結合タンパク質に対しては、その核酸結合タンパク質が結合する対応の核酸を用いればよい。また、対応する核酸結合タンパク質が知られていない核酸を用いて本発明の核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法を実施した場合には、当該核酸に結合する未知のタンパク質を得ることができる。
本発明の核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法を、工程B−1が前記(1)の方法(核酸結合タンパク質を含有する試料を、ビオチン化核酸を含有する溶液と混合した後、タマビジン固定化不溶性担体又はタマビジン固定化不溶性担体溶液と混合する方法)の場合を例にとって具体的に示すと、例えば以下の如くなる。
核酸結合タンパク質を含むと思われる細胞1x107個のペレットに500μLの細胞溶解剤(25mM Tris-HCl pH7.4, 150mM KCl, 0.5mM DTT, 0.5% 細胞を可溶化させる界面活性剤, プロテアーゼ阻害剤、ホスファターゼ阻害剤)を添加し、細胞ペレットを懸濁させ、氷上で1〜5分間インキュベーションする。その後、20,000xg, 15分間遠心し、得られた上清を細胞ライセートとする。該細胞ライセート0.1〜1mLを、ビオチン化核酸(10〜50pmol)を含む溶液と混合し、3〜30℃で0.1〜24時間、好ましくは1〜5時間反応させる。
別にタマビジン2-REV固定化磁気ビーズ 0.05〜10 mg(タマビジン担持量は磁気ビーズ1mgに対して0.5〜2000μg、0.3nM〜1.3μM)をチューブへ加え、洗浄処理後、洗浄液を除く。次いで、先に調製した細胞ライセートとビオチン化核酸の混合溶液を加え、攪拌しながら通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃で0.1〜24時間、好ましくは1〜5時間程度反応させて核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン2-REV固定化磁気ビーズの複合体を生成させる。反応後、磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離する。ビーズを数回洗浄処理した後、洗浄液を除く。次に、溶出バッファー(2〜20mMのビオチンを含む50mM Tris-HCl pH7.8〜9.5)10〜20μLをチューブに添加し、攪拌しながら通常3〜50℃、好ましくは3〜25℃で1〜360分間、好ましくは10〜180分間、更に好ましくは10〜30分間反応させる。反応後、磁気スタンドを用いてタマビジン2-REV固定化磁気ビーズを除き、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を含む溶出液を分離・回収する。以上の操作により、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を分離することができる。
本発明に係る核酸結合タンパク質を結合したビオチン化核酸の分離方法は、用手法によって行っても良いことはもちろんであるが、本発明の方法は、自動分析装置を用いた測定系に適用できるので、自動分析装置を用いて行っても良いことは云うまでもない。尚、用手法又は自動分析装置を用いて測定を行う場合の試薬類の組み合わせについては、特に限定はされず、適用する自動分析装置の環境、その他の要因等に合わせて適宜行えば良い。
工程B−2の後、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の状態で、核酸結合タンパク質を解析することができる。例えば、溶媒を1〜2%トリクロロ酢酸に交換し、トリプシン消化、次いで質量分析器による解析を行えばよい。または、1〜10%SDS溶液、7Mグアニジン塩酸塩、グリシンpH2.3溶液、8M尿素溶液等の変性剤やSDSサンプルbufferを添加してSDS-PAGEすることによる解析を行う方法も挙げられる。
[C.本発明の核酸結合タンパク質の分離方法]
本発明の核酸結合タンパク質の分離方法は、下記工程を含んでなる。
(1)核酸結合タンパク質を含有する試料と、核酸にビオチンを結合させたビオチン化核酸と、タマビジン固定化不溶性担体とを接触させて、核酸結合タンパク質とビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体を生成させる工程(工程C−1)、
(2)遊離ビオチンの存在下、pH7.8〜9.5の溶液中で、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸を、工程C−1で得られた該複合体から分離する工程(工程C−2)。
(3)工程C−2で得られた核酸結合白質が結合したビオチン化核酸から、核酸結合タンパク質を分離する工程(工程C−3)。
工程C−1の具体的な方法、及び当該工程におけるそれぞれの構成要素や試薬の好ましい態様等については、上記の「核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法」の工程B−1関する説明に記載した通りである。工程C−2の具体的な方法、及び当該工程におけるそれぞれの構成要素や試薬の好ましい態様等については、上記の「核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法」の工程B−2に関する説明に記載した通りである。
また、各工程C−1から工程C−2の間、工程C−2から工程C−3の間に得られた複合体の分離・洗浄処理を行うのは、上記と同じである。
工程C−2で得られた[核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸]の核酸結合タンパク質を解析するには、通常核酸結合白質が結合したビオチン化核酸から、核酸結合タンパク質を分離する必要はない。例えば[核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸]を通常のSDS-PAGE等で分離する。核酸結合タンパク質はSDSで核酸と分離するので、SDS-PAGE後、必要であれば目的の核酸結合タンパク質を含有するゲル画分を切り出して、常法により核酸結合タンパク質を抽出すればよい。
また、工程C−2で得られた[核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸]から、必要に応じ核酸結合タンパク質を分離してもよい。
工程C−3は、工程C−2で得られた核酸結合白質が結合したビオチン化核酸から、核酸結合タンパク質を分離する工程である。
その具体的な方法としては、例えば[核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸]を含有する溶液からTCA/アセトン沈殿やメタノール/クロロフォルム抽出等でタンパク質成分を精製する方法、2〜4%SDS溶液,7Mグアニジン塩酸塩,グリシンpH2.3溶液等のタンパク質変性剤を用いて分離する方法、およびSDS-PAGE試料緩衝液を添加しボイルする方法等が挙げられる。
[D.本発明の核酸分離用キット]
本発明の核酸分離用キットは、上記の如き本発明のビオチン化核酸の分離方法、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法、又は核酸結合タンパク質の分離方法を実施するために使用されるもので、タマビジンを固定化した不溶性担体を含んでなる試薬と、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような試薬とを構成試薬として含んでなる。
当該キットには、遊離ビオチンを含んでなる試薬を構成試薬として含んでいてもよい。
また、さらに核酸結合タンパク質を結合したビオチン化核酸から核酸結合タンパク質を分離する試薬を構成試薬として含んだ「核酸結合タンパク質分離用キット」を構成することもできる。
夫々の構成要素の好ましい態様、具体例及び濃度等については、上記の、本発明のビオチン化核酸の分離方法、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法、又は核酸結合タンパク質の分離方法に関する説明に記載した通りである。
例えば、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような試薬、遊離ビオチンを含んでなる試薬、タマビジンを固定化した不溶性担体を含んでなる試薬の好ましい態様、具体例及び濃度等については、上記の、本発明のビオチン化核酸の分離方法、核酸結合タンパク質が結合したビオチン化核酸の分離方法、又は核酸結合タンパク質の分離方法に関する説明に記載した通りであるが、以下に改めて説明する。
タマビジンを固定化した不溶性担体を含んでなる試薬の具体例としては、タマビジン固定化不溶性担体を含んでなる試薬、又はタマビジン固定化不溶性担体溶液が挙げられる。その具体例は上記した通りである。
例えば、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような試薬としては、上記した混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液が挙げられる。例えばpH7.8〜9.5付近に緩衝作用を有する緩衝液が挙げられ、具体的には、例えばリン酸カリウム緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜1000 mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。
また、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5となるような溶液のpHは、好ましくはpH7.8〜9.5、より好ましくはpH8.0〜9.0、更に好ましくはpH8.2〜8.8である。pH8.5付近が特に好ましい。
遊離ビオチンを含んでなる試薬としては、上記した遊離ビオチンを含有する溶液が挙げられる。遊離ビオチンを含有する溶液中の遊離ビオチンの濃度は、特に限定されない。例えば、2mM〜1Mの濃度の遊離ビオチンを含有する溶液であってもよい。該遊離ビオチンを含有する溶液を[(核酸結合タンパク質が結合した)ビオチン化核酸とタマビジン固定化不溶性担体との複合体]と混合したとき、又は当該複合体を含有する溶液と混合したときに、その遊離ビオチンを含有する溶液を、混合液中の該複合体の不溶性担体に担持されたタマビジンに対して40〜4000倍モルになるような濃度になるように、加えればよい。
遊離ビオチンを含有する溶液を調製するために用いられる溶媒としては、例えばリン酸カリウム緩衝液、トリス緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)、HEPES緩衝液、ホウ酸緩衝液、リン酸緩衝液、ベロナール緩衝液、グッド緩衝液等が挙げられる。また、これらの緩衝液の緩衝剤濃度としては、通常10〜1000mM、好ましくは10〜100 mMの範囲から適宜選択される。
また、各構成試薬は、適当な緩衝液中に各試薬を懸濁させた懸濁液等の溶液状態のもの、若しくはこれを凍結した凍結品や凍結乾燥した凍結乾燥品であってもよい。この目的に用いられる緩衝剤等の具体例、そのpH及び濃度は上記した通りである。
また、これらキットに含まれる試薬中には、通常この分野で用いられる試薬類、例えばプロテアーゼ阻害剤、緩衝剤、界面活性剤、安定化剤、その他この分野で用いられているものを添加してもよい。これらの試薬類は、別の試薬として、使用時に添加混合するようにしてもよい。その場合の濃度やpH等も、通常用いられる条件に設定されればよい。
また、当該キットが複数の試液で構成される場合、これら試薬類は、各試液を混合した時点で目的の濃度になるように各試液の何れかに適宜分散させて含有させればよい。これら試液を構成する試薬類の使用濃度は、通常この分野で用いられる範囲から適宜選択すればよい。
さらにまた本発明のキットには、ビオチン化核酸を分離する方法の説明書等を含ませておいても良い。当該「説明書」とは、当該方法における特徴・原理・操作手順、判定手順等が文章又は図表等により実質的に記載されている当該キットの取扱説明書、添付文書、あるいはパンフレット(リーフレット)等を意味する。
本発明のキットの具体的な実施態様としては、例えば以下の如き構成が挙げられる。
(1)本発明に係るタマビジン固定化不溶性担体を含んでなる第1試薬と、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5になるような第2試薬とを構成試薬とするもの、
(2)本発明に係るタマビジン固定化不溶性担体を含んでなる第1試薬と、混合後の溶液のpHが7.8〜9.5になるような試薬を含んでなる第2試薬と、遊離ビオチンを含んでなる第3試薬とを構成試薬とするもの。
(3)本発明に係るタマビジン固定化不溶性担体を含んでなる第1試薬と、遊離ビオチンを含有し且つ混合後の溶液のpHが7.8〜9.5になるような第2試薬とを構成試薬とするもの。
以下に実施例等を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
実施例1.タマビジン2-REV固定化不溶性担体からのビオチン化RNAの分離とpHとの関係の検証
以下の方法により、各溶出バッファーを用いてタマビジン2-REV固定化担体からのビオチン化RNAの解離効率の比較を行った。
(1)タマビジン2-REV固定化磁気ビーズの調製
DynabeadsTM MyOneTM Carboxylic Acid(磁気ビーズ、粒径2.7μm、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)1mgに対して、50μgのタマビジン2TM-REV(和光純薬工業(株)製)を、DynabeadsTM MyOneTM Carboxylic Acidに添付のプロトコールに従って固定化し、タマビジン2-REV固定化磁気ビーズを得た。
最終的にビーズ濃度が10mg/mLのタマビジン2-REV固定化磁気ビーズの溶液を調製した(タマビジン2-REV担持量は、磁気ビーズ1mgに対し最大50μg、10mg/mL磁気ビーズのタマビジン2-REV担持量は、最大0.03mM)。
(2)ビオチン化RNAの調製
1)ビオチン化7SK snRNA及びビオチン化HOTAIR RNAの合成
<ビオチン化RNA合成に用いる遺伝子配列のクローニングおよびin vitro transcriptionに用いる鋳型DNAの調製>
ヒト由来7SK snRNAをコードする遺伝子配列を持つDNA(配列番号2)およびヒト由来HOTAIR RNAをコードする遺伝子配列を持つDNA(配列番号3)の人工遺伝子合成と、合成されたDNAのpGEM-T Easyベクター(プロメガ(株)製、マルチクローニングサイトの両側に、T7及びSP6のRNAポリメラーゼプロモーターの認識部位を持つ)のEcoRIとSpeI切断サイト間へのクローニングを(株)ファスマックに依頼して入手した。
得られた各組換えベクターを鋳型に、T7プライマーおよびSp6プライマー(ともにユニバーサルプライマー、タカラバイオ社製)を用いてPCR増幅を行った。次いで得られたPCR増幅産物について通常のアガロース電気泳動を行った後、QIAquickTM Gel Extraction Kit((株)キアゲン)を使用してゲル抽出精製を行い、ヒト由来7SK snRNAの遺伝子配列が含まれるPCR増幅断片およびヒト由来HOTAIR RNAの遺伝子配列が含まれるPCR増幅断片を取得した。
<in vitro transcriptionによるビオチン化RNAの合成>
上記で得られた各PCR増幅断片を鋳型として用い、MEGAscriptTM T7 Transcription Kit(Ambion Inc.製、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)販売)を用いて、キットに添付のプロトコールに従い、in vitro transcriptionによるRNA合成を行って、ビオチン化RNAを得た。その際、ビオチン化基質としてBiotin-16-UTP(ロシュ・ダイアグノスティックス(株)製)を用い、その他の基質はKitに添付の基質を用いた。UTPとBiotin-16-UTPはモル比で3:1の比率で用いた。
PureLinkTM RNA Mini Kit(Ambion Inc.製、サーモフィッシャーサイエンティフィック(株)販売)を用いて、得られたビオチン化RNA(ビオチン化7SK snRNA及びビオチン化HOTAIR RNA)の精製を行った。
2)3'末端ビオチン化RNAオリゴ(3'−Biotin mir-92a RNAオリゴ)の合成
ヒト由来microRNAであるmir-92a(配列番号4)の3'末端をビオチン化したRNAオリゴ(3'−Biotin mir-92a RNAオリゴ)の合成をニッポンジーンマテリアル社に依頼して入手した。得られた3'−Biotin mir-92a RNAオリゴは、RNaseフリー水で1μg/μLに調製した。
(3)ビオチン化RNAの分離・回収試験
上記(2)で調製した3種類のビオチン化RNA(ビオチン化7SK snRNA、ビオチン 化HOTAIR RNA、3'-Biotin mir-92a RNAオリゴ)をそれぞれPBSで20ng/μLになるように希釈した。各ビオチン化RNA溶液のRNA濃度を、吸光度260nmを測定することで算出した。
別に、上記(1)で調製したタマビジン2-REV固定化磁気ビーズ(ビーズ濃度10mg/mL、タマビジン2-REV量は最大0.03mM)を0.1mgずつ9本の1.5mL容チューブへ加えた。次いで、1mLのPBSを各チューブへ添加し、ボルテックスミキサーを用いて十分に攪拌後、専用磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。分離したPBS溶液はピペットを用いて慎重に廃棄した(磁気ビーズの洗浄処理)。
洗浄処理後の磁気ビーズに、先に調製した20ng/μLの各種ビオチン化RNA溶液(ビオチン化7SK snRNA、ビオチン 化HOTAIR RNA、3'-Biotin mir-92a RNAオリゴ)を、それぞれチューブ3本に50μL添加した。その後、各チューブはチューブミキサーを用いて攪拌しながら室温で一時間反応させた。
反応後、磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。上清をピペットを用いて廃棄した後、各チューブに1mLの洗浄バッファー(20mM Tris-HCl pH7.4, 200mM NaCl, 2.5mM MgCl2, 0.05% NP-40含有)を添加し、磁気ビーズを3回洗浄処理した。洗浄処理後、洗浄バッファーを廃棄した。
次に、溶出バッファーとして20μLの20mM Biotin/50mM Potassium phosphate pH7.0 (50mM KPBと略記する場合がある。)、20mM Biotin/50mM Tris-HCl pH8.0、又は20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を各チューブに添加し、チューブミキサーを用いて攪拌しながら室温で15分間反応させた。反応時の反応液中のタマビジン2-REVのモル濃度は約0.016nmol/μLである。
反応後、磁気スタンドを用いて溶出液の分離を行い、分離した溶出液を新しいチューブへ移した。この溶出工程を再度繰り返し、得られた溶出液は先に分注したチューブへプールして、それぞれ一本のチューブに纏めた。溶出処理後のビーズは、保存しておいた。
得られた溶出液のRNA濃度を、吸光度260nmを測定することで算出した。得られたRNA濃度をもとに、使用した各種ビオチン化RNA溶液のRNA濃度に対する、得られた溶出液のRNA濃度の割合(回収効率、%)を求め、RNAの回収性能の比較を行った。
(4)結果
結果を図1に示す。図1において、各カラムはそれぞれ下記のビオチン化RNAを分離した場合の結果を示す。
図1から明らかな通り、各種ビオチン化RNAを分離したすべての場合で、中性域の溶出バッファー(Elution buffer)である20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0を用いて分離した場合より、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH8.0を用いて分離した場合、および20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を用いて分離した場合の方が、ビオチン化RNAの回収効率が高かった。特にビオチン化HOTAIR RNAの場合、20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0溶液を用いて分離した場合では60%程度しかビオチン化HOTAIR RNAを回収できなかったのに対して、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を用いて分離した場合には、ほぼ100%のビオチン化HOTAIR RNAが回収できたことが判る。
実施例2.タマビジン2-REV固定化不溶性担体からのビオチン化DNAの解離
以下の方法により、各溶出バッファーを用いてタマビジン2-REV担体からのビオチン化DNAの解離効率の比較を行った。
(1)ビオチン化ssDNA(一本鎖DNA)及びビオチン化dsDNA(二本鎖DNA)の合成
1)ビオチン化7SK ssDNAの合成
実施例1(2)1)で得られたヒト由来7SK snRNAの遺伝子配列が含まれるPCR増幅断片1μgを反応チューブに加え、TaKaRa Ex TaqTM Hot Start Version(タカラバイオサイエンス社製)を用い、基質として0.2mM dATP, 0.2mM dCTP, 0.2mM dGTP、0.15mM dTTP、0.05mM Biotin-11-dUTPになるよう添加した(すべて反応時の終濃度。dATP, dCTP, dGTP, dTTPは和光純薬工業(株)製、dBiotin-11-dUTPはサーモフィッシャーサイエンティフィック(株)製)。dTTPとBiotin-11-dUTPは、3:1の比率になるように加えた。
次いで、100μM T7プライマーを終濃度0.5μMになるように反応チューブに加え、94℃3分の熱変性後に98℃10秒、57℃30秒、72℃30秒のサイクル反応を40回行うという条件でPCRを行い、PCR伸長サンプルを得た。
得られたPCR伸長サンプルは、QIAquickTM PCR Purification Kit((株)キアゲン製)を用いて精製し、ビオチン化7SK ssDNAを得た。得られたビオチン化7SK ssDNAの濃度をNanoDrop1000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定・算出した。
2)ビオチン化7SK dsDNAの合成
プライマーとしてそれぞれ終濃度100μMのT7プライマーとSP6プライマーを用いる以外は上記の「1)ビオチン化7SK ssDNAの合成」と同じ試薬を用いた同じ反応を行い、ビオチン化7SK dsDNAの合成を行った。
得られたPCR増幅サンプルは、QIAquickTM PCR Purification Kit((株)キアゲン製)を用いて精製し、ビオチン化7SK dsDNAを得た。得られたビオチン化7SK dsDNAの濃度をNanoDrop1000(Thermo Fisher Scientific社製)を用いて測定・算出した。
(2)ビオチン化DNAの回収試験
上記(1)で調製したビオチン化7SK ssDNAおよびビオチン化dsDNAをそれぞれPBSで20ng/μLになるように希釈した。各ビオチン化RNA溶液のRNA濃度を、吸光度260nmを測定することで算出した。
別に、実施例1で調製したタマビジン2-REV固定化磁気ビーズ(ビーズ濃度10mg/mL、タマビジン2-REV量は最大0.03mM)を0.1mgずつ6本の1.5mL容チューブへ加えた。次いで、1mLのPBSを各チューブへ添加し、ボルテックスミキサーを用いて十分に攪拌後、専用磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。分離したPBS溶液はピペットを用いて慎重に廃棄した(磁気ビーズの洗浄処理)。
洗浄処理後の磁気ビーズに、先に調製した20ng/μLの各種ビオチン化DNA溶液(ビオチン化7SK ssDNA、ビオチン化dsDNA)を、それぞれチューブ3本に25μL添加した。その後、各チューブはチューブミキサー等を用いて攪拌しながら室温で一時間反応させた。
反応後、磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。上清をピペットを用いて廃棄した後、各チューブに1mLの洗浄バッファー(20mM Tris-HCl pH7.4, 200mM NaCl, 2.5mM MgCl2, 0.05% NP-40)を添加し、磁気ビーズを3回洗浄処理した。洗浄処理後、洗浄バッファーを廃棄した。
次に、溶出バッファーとして15μLの20mM Biotin / 50mM KPB、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH8.0、又は20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を各チューブに添加し、チューブミキサーを用いて攪拌しながら室温で15分間反応させた。反応時の反応液中のタマビジン2-REVのモル濃度は約0.021nmol/μLである。
反応後、磁気スタンドを用いて溶出液の分離を行い、分離した溶出液を新しいチューブへ移した。この溶出工程を再度繰り返し、得られた溶出液は先に分注したチューブへプールして、それぞれ一本のチューブに纏めた。溶出処理後のビーズは、保存しておいた。
得られた溶出液のDNA濃度を、吸光度260nmを測定することで算出した。得られたDNA濃度をもとに、使用した各ビオチン化DNA溶液のDNA濃度に対する、得られた溶出液のDNA濃度の割合(回収効率、%)を求め、DNAの回収性能の比較を行った。
(4)結果
結果を図2(1)及び(2)に示す。図2(1)は、ビオチン化7SK ssDNAの回収効率に関する結果を、図2(2)は、ビオチン化7SK dsDNAの回収効率に関する結果をそれぞれ示す。
図2(1)及び(2)から明らかなように、ビオチン化7SK ssDNAの場合(図2(1))も、ビオチン化7SK dsDNAの場合(図2(2))も、中性域の溶出バッファーである20mM Biotin / 50mM KPBを用いて分離した場合より、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH8.0を用いて分離した場合、および20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を用いて分離した場合の方が回収効率が高かった。
以上のことから、過剰量の遊離ビオチンの存在下に溶液のpHをpH9.0に上げることで、タマビジン2-REV磁気ビーズとビオチン化一本鎖DNAの結合、及びタマビジン2-REV磁気ビーズとビオチン化二本鎖DNAの結合の解離が向上し、ビオチン化一本鎖DNA(ssDNA)及びビオチン化二本鎖DNA(dsDNA)を効率よく回収できることが判る。
比較例1.タマビジン2-REVとビオチンの結合解離効率に対するpHの影響
以下の方法により、各種溶出バッファーを用いて、核酸に結合していないビオチン担体からのタマビジン2-REVの解離効率の比較を行った。
(1)タマビジン2-REVのビオチン解離性試験
タマビジン2-REVの凍結乾燥品(和光純薬工業(株)製)に蒸留水1.67mLを添加し、0.6mg/mL濃度のタマビジン2-REV溶液を調製した。
別にビオチンを固定化したビオチンアガロースビーズ(sigma社製)200μLを2本の1.5mL容チューブに分注した。そこにPBSを1mL添加し、ボルテックスミキサーでよく攪拌させた後、8,000xgで5分間遠心分離処理した。遠心分離処理後、上清をピペットを用いて除去し、再度同様の操作を2回繰り返し、ビオチンアガロースビーズの平衡化を行った。次に、各チューブに先に調製した0.6mg/mLのタマビジン2-REV溶液を0.84mL添加し、室温で1.5時間ローテーターを用いて攪拌しながら反応させた。
その後、8,000xgで5分間遠心を行い、上清をFlowthrough画分として、各チューブからそれぞれ回収した。残ったビーズに溶出バッファーとして20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0もしくは20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を0.5mL添加し、室温で5分間ローテーターを用いて攪拌しながら反応させた。反応時の反応液中のタマビジン2-REVの濃度は0.6mg/mLである。
反応後、8,000xgで5分間遠心を行い、各チューブの上清を溶出画分(溶出画分1)として回収した(溶出ステップ1)。上記溶出ステップを4回繰り返し、1回目から5回目までの溶出ステップで、合計5画分の溶出画分を取得した。はじめに添加したタマビジン2-REV溶液(0.6mg/mL濃度のタマビジン2-REV溶液)、Flowthrough画分および溶出画分1〜5それぞれの吸光度(A280)を測定することによって、タンパク質濃度を算出した(0.25mg/mLのとき、OD280=0.68で換算した。)。
得られたタンパク質濃度をもとに、使用したタマビジン2-REV溶液のタンパク質濃度に対する、得られた溶出液のタンパク質濃度の割合(回収効率、%)を求め、タマビジン2-REVの回収性能の比較を行った。
(2)結果
結果を図3に示す。図3において、□のカラムは20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0を用いてタマビジン2-REVとビオチン化アガローズビーズの分離を行った結果を、■のカラムは20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を用いてタマビジン2-REVとビオチン固定化アガローズビーズの分離を行った結果をそれぞれ示す。
図3から明らかなように、溶出バッファーとして20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0を用いてタマビジン2-REVとビオチン化アガローズビーズの分離を行った場合、溶出2回目でタマビジン2-REVの回収率が100%に達しているのに対し、溶出バッファーとして20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0を用いてタマビジン2-REVとビオチン固定化アガローズビーズの分離を行った場合には、溶出4回目で、タマビジン2-REVの回収率が100%になることが明らかとなった。
以上の結果から明らかなように、タマビジン2-REVとビオチンの結合の解離は、過剰量の遊離ビオチンを含有する溶出バッファーのpHをアルカリ側にシフトさせても変化は確認されなかった。すなわち、実施例1及び実施例2の結果とは異なり、核酸と結合していないビオチンとタマビジンとの結合は、過剰量の遊離ビオチンの存在下に溶液のpHを上げても、解離が向上する、という現象は確認されなかった。
よって、過剰量の遊離ビオチンの存在下にpHを上げることによりビオチンとタマビジン2-REVの解離が向上するという現象は、ビオチン化核酸とタマビジン2-REVとの結合について生じるものであること、従って、この現象が起こる原因は、核酸と結合していないビオチンとタマビジンの結合が過剰量の遊離ビオチンの存在下に解離する現象とは異なるメカニズムによるものであることが示唆された。
実施例3.タマビジン2-REV固定化不溶性担体からのビオチン化核酸の解離に有効なpHの範囲の検討
以下の方法により、それぞれpHの異なる各種溶出バッファーを用いて、タマビジン2-REV固定化不溶性担体からのビオチン化RNAの解離効率の比較を行い、有効なpHの範囲の検証を行った。
(1)ビオチン化RNAの分離・回収試験
実施例1で調製したビオチン化HOTAIR RNAをPBSで40ng/μLになるように希釈し、該ビオチン化HOTAIR RNA溶液のRNA濃度を、吸光度260nmを測定することで算出した。
別に、実施例1で調製したタマビジン2-REV固定化磁気ビーズ(ビーズ濃度10mg/mL、タマビジン2-REV量は最大0.03mM)を0.2mgずつ6本の1.5mL容チューブへ加えた。次いで、1mLのPBSを各チューブへ添加し、ボルテックスミキサーを用いて十分に攪拌後、専用磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。分離したPBS溶液はピペットを用いて慎重に廃棄した(磁気ビーズの洗浄処理)。
洗浄処理後の磁気ビーズに、先に調製した40ng/μLのビオチン化HOTAIR RNA溶液をそれぞれのチューブに50μLずつ添加した。その後、各チューブはチューブミキサー等を用いて攪拌しながら4℃で4時間反応させた。
反応後、磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。上清をピペットを用いて廃棄した後、各チューブに0.5mLの洗浄バッファー(20mM Tris-HCl pH7.4, 200mM NaCl, 2.5mM MgCl2, 0.05% NP-40)を添加し、磁気ビーズを3回洗浄処理した。洗浄処理後、洗浄バッファーを廃棄した。
次に、pHがそれぞれ異なる8種類の溶出バッファー(8mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH7.4, pH7.6, pH7.8, pH8.0, pH8.2, pH8.5, pH9.0, pH9.5)、又は対照としてそれら溶出バッファーのベースとなっているpHがそれぞれ異なる緩衝液8種類(過剰量の遊離ビオチンを含まない緩衝液)各々20μLを各チューブに添加し、チューブミキサーを用いて攪拌しながら4℃で15分間反応させた。反応時の反応液中のタマビジン2-REVのモル濃度は約0.032nmol/μLである。
反応後、磁気スタンドを用いて溶出液の分離を行い、分離した溶出液を新しいチューブへ移した。この溶出工程を再度繰り返し、得られた溶出液は先に分注したチューブへプールして、それぞれ一本のチューブに纏めた。溶出処理後のビーズは、保存しておいた。
得られた溶出液のRNA濃度を、吸光度260nmを測定することで算出した。次いで、過剰量の遊離ビオチンを含有する溶出バッファーを用いてビオチン化HOTAIR RNAの溶出を行った場合の溶出液中のRNA量から、対照として測定した遊離ビオチンを含有しない同pHの緩衝液を用いて同様にビオチン化HOTAIR RNAの溶出を行った場合の溶出液中のRNA量の差を算出した。以上の手順で得られたRNA濃度をもとに、使用したビオチン化HOTAIR RNA溶液のRNA濃度に対する、得られた溶出液のRNA濃度の割合(回収効率、%)を求め、RNAの回収性能の比較を行った。
(2)結果
結果を図4に示す。
図4から明らかなように、pH7.4から7.6の範囲では、ビオチン化HOTAIR RNAの溶出効率はほぼ横ばいであるのに対し、pH7.8からpH9.5の範囲にかけては、溶出効率が向上していく傾向が確認された。また、pH7.8からpH9.5の範囲の溶出バッファーを用いた場合は、いずれもpH7.4から7.6の範囲の溶出バッファーを用いた場合よりも溶出効率が高かった。
この結果から、Tamavidin2-REV固定化磁気ビーズに結合したビオチン化核酸の回収効率は、過剰量の遊離ビオチンを添加するとともに、溶出バッファーのpHをpH7.8以上にすることで高くなるという、相乗効果が見られることが明らかとなった。
実施例4.RNA pull down assayにおけるタマビジン2-REV担体からのRNA結合タンパク質の溶出効率比較
以下の方法により、各溶出バッファーを用いてRNA pull down assayにおけるタマビジン2-REV固定化不溶性担体からのRNA結合タンパク質の溶出効率の比較を行った。
(1)RNA pull dowm assayに用いる細胞ライセートの調製
K562細胞(ヒト慢性骨髄性白血病細胞、JCRB0019、理研バイオリソースセンター)を、75cm2フラスコで10% FBS(Biosera社製)含有DMEM(和光純薬工業(株)製)20mLを用いて70−90%コンフルエントになるまで37℃、5%CO2条件下で培養した。培養後、培養液を50mLの遠沈管に移し、400 x g, 5分間の遠心操作を行った。遠心操作後、上清を除き、PBSを加えて細胞を再懸濁させ、再度遠心分離した。上清を除いた後細胞を適当量のPBSで再懸濁し、細胞数を測定した。1x107細胞になるよう細胞懸濁液をチューブに分注し、再度遠心操作を行い、上清を除いて細胞ペレットを調製した。得られた細胞ペレットに500μLのRIPバッファー(25mM Tris-HCl pH7.4, 150mM KCl, 0.5mM DTT, 0.5% NP-40, プロテアーゼ阻害剤(和光純薬工業(株)製), ホスファターゼ阻害剤(和光純薬工業(株)製))を添加し、ボルテックスミキサーを用いて細胞ペレットを懸濁させ、氷上で5分間インキュベーションした。その後、20,000xg, 15分間遠心し、得られた上清をRNA pull down assayに供する細胞ライセートとした。
(2)RNA プルダウンアッセイ
実施例1で得られたビオチン化7SK snRNAの溶液(RNaseフリ-水)を15pmol量1.5mL容チューブに分取し、90℃で2分間熱処理した後、直ちに氷上に2分間置いて急冷させた。その後、ヒト由来7SK snRNA溶液の50倍容量のRNA再構成バッファー(10mM Tris-HCl pH7.4, 0.1M KCl, 10mM MgCl2)を添加し、室温で20分間反応させた。反応後、上記(1)で調製した細胞ライセート500μLを添加し、ローテーターで攪拌しながら4℃で4時間反応させた。
別に、実施例1で調製したタマビジン2−REV固定化磁気ビーズ(ビーズ濃度10mg/mL、タマビジン2-REV量は最大0.03mM)を50μLずつ3本の1.5mL容チューブへ加えた。次いで、1mLのPBSを各チューブへ添加し、ボルテックスミキサーを用いて十分に攪拌後、磁気スタンドを用いて磁気ビーズと溶液を分離した。分離したPBS溶液はピペットを用いて廃棄した(磁気ビーズの洗浄処理)。
洗浄処理後の磁気ビーズに、先に調製したビオチン化7SK snRNAと細胞ライセーとの反応液を、それぞれチューブ3本に反応液全量を添加した。その後、各チューブはローテーターを用いて攪拌しながら4℃で1時間反応させた。
反応後、磁気スタンドを用いてビーズと溶液を分離した。上清をピペットを用いて廃棄した後、各チューブに洗浄バッファー(20mM Tris-HCl pH7.4, 200mM NaCl, 2.5mM MgCl2, 0.05% NP-40)を添加し、磁気ビーズを3回洗浄処理した。洗浄処理後、洗浄バッファーを廃棄した。
次に、溶出バッファーとして15μLの20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH8.0、又は20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH9.0をチューブに添加し、チューブミキサーを用いて攪拌しながら室温で15分間反応させた。反応時の反応液中のタマビジン2-REVのモル濃度は約0.1nmol/μLである。
反応後、磁気スタンドを用いて溶出液の分離を行い、分離した溶出液を新しいチューブへ移した。この溶出工程を再度繰り返し、得られた溶出液は先に分注したチューブへプールして、それぞれ一本のチューブに纏めた(「RNA pull downサンプル」とした。)。溶出処理後のビーズは、保存しておいた。
(3)ウエスタンブロッティング
1)ウエスタンブロッティング用試料の調製
上記(2)で得られたRNA pull downサンプル各全量に10μLの4×試料用緩衝液(和光純薬工業(株)製)を混合し、ウエスタンブロッティング用の各試料40μLをそれぞれ得た。
また、ビオチン溶出処理後もビーズ表面に残存しているタンパク質を検出するために、上記(2)で得られた溶出処理後のビーズに、40μLの2×試料用緩衝液(SDS含有、和光純薬工業(株)製)を加えて混合後、98℃で5分間加熱した後、磁気スタンドを用いて溶液を分離し、ウエスタンブロッティング用の各試料40μLをそれぞれ得た。
2)ウエスタンブロッティング
スーパーセップエース 5−20%ゲル(和光純薬工業(株)製)に、上記1)で得られたウエスタンブロッティング用の試料各20μLずつを乗せて、25mA
で60分間電気泳動した。得られたゲルを、セミドライブロッターと不連続バッファー(Anode Buffer 1:0.3M Tris/5% Methanol、Anode Buffer 2:0.025M Tris/5%Methanol、Cathode Buffer:0.025M Tris/0.04M アミノカプロン酸/5%Methanol)を用いて、PVDF膜(Millipore社製)に1mA/cm2で60分間転写した。転写したPVDF膜にPBS-Tで希釈した3%スキムミルクを加えて1時間室温で反応させてブロッキングし、PBS-Tで1000倍希釈した抗ヒトHEXIM1ウサギポリクローナル抗体(Abcam社製)2mLを4℃で16時間反応させた。PBS-Tで3回洗浄後、PBS-Tで10,000倍希釈した2次抗体[抗ウサギIgG(H+L)、マウスIgG分画、ペルオキシダーゼ結合抗体(和光純薬工業(株)製)]を室温で1時間反応させた。反応後のPVDFF膜をPBS-Tで5回洗浄後、ImmnunoStar Zeta(化学発光試薬、和光純薬工業(株)製)を含有する溶液に浸漬させ、5分間反応させた後、ImageQuant LAS-4000(GEヘルスケア・ジャパン(株)製)を用いて発光シグナルをそれぞれ検出した。
(4)結果
得られた結果を図5(1)及び(2)に示す。
図5(1)は、プルダウン後に3種の溶出バッファーそれぞれで溶出したウェスタンブロッティング用試料を用いた電気泳動の結果を示す。図5(1)から明らかな通り、20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0を溶出バッファーを用いて溶出した場合に比べ、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH8.0および20mM Biotin / 50mM Tris-HCl 9.0の溶出バッファーを用いて溶出した場合の方が、ヒト由来7SK snRNAに結合するRNA結合タンパク質であるHEXIM1がより多く検出されていることが確認された。
また、図5(2)はビオチン溶出処理後のビーズ表面に残存しているタンパク質をSDSで変性溶出させて得られたウエスタンブロッティング用の試料を用いた電気泳動の結果を示す。図5(2)から明らかな通り、20mM Biotin / 50mM KPB pH7.0は過剰ビオチン溶出後もビーズにHEXIM1が残存しているのに対し、20mM Biotin / 50mM Tris-HCl pH8.0および9.0を用いた溶出条件では、ほとんどビーズに残存しているHEXIM1が検出されていないことが確認された。
以上の結果より、K562細胞の細胞ライセートとビオチン化7SK snRNAを反応させて細胞ライセート中のHEXIM1をビオチン化7SK snRNAに結合させ、次いでタマビジン2-REV固定化磁気ビーズを反応させて「HEXIM1とビオチン化7SK snRNAとタマビジン2-REV固定化磁気ビーズとの複合体」を生成させた後、過剰量の遊離ビオチン存在下に当該複合体を含有する溶液のpHをアルカリにシフトさせることにより、当該複合体から「HEXIM1が結合したビオチン化7SK snRNA」と「タマビジン2-REV固定化磁気ビーズ」を分離することができた。また、分離後のタマビジン2-REV固定化磁気ビーズをSDSで処理して、当該ビーズの表面に分離せずに残っているタンパク質の量を調べたところ、当該ビーズには殆どタンパク質が残っていなかったことが確認された。以上のことから、本発明の方法で、核酸結合タンパク質を極めて効率よく、高精度に分離することができることが確認された。
更に、以上の結果より、実際の実用に用いられるRNA pull down assayにおける溶出効率についても、中性域の溶出バッファーより高アルカリ側の溶出バッファーの方が溶出効率を向上させることができることが示された。