上記目的を達成するため、本発明の特徴は、原動軸の回転駆動力を従動軸に伝達および遮断するクラッチ装置において、原動軸の回転駆動によって回転駆動する複数のフリクションプレートにそれぞれ対向配置される環状の平板で構成されるとともに同平板の内周部に内歯を有した複数のクラッチプレートと、クラッチプレートの内歯に嵌合する外歯を有して従動軸に連結されるセンタークラッチと、クラッチプレートの内歯に嵌合する外歯を有してセンタークラッチに対して接近および離隔する方向にそれぞれ変位可能に隣接配置されてフリクションプレートまたはクラッチプレートを押圧するプレッシャークラッチとを備え、センタークラッチおよびプレッシャークラッチは、互いに対向し合う各端面が凹凸なく平らに形成されるとともに各外歯が互いに同じ歯先円に形成されており、かつプレッシャークラッチの外歯における歯を部分的に省略した逃げ部と、センタークラッチの外歯のうちの少なくとも1つの歯が逃げ部上に張り出して延びる突出歯とをそれぞれ備えることにある。
このように構成した本発明の特徴によれば、クラッチ装置は、クラッチプレートを保持するセンタークラッチおよびプレッシャークラッチにおける互いに対向し合う各端面が凹凸なく平らに形成されているため、動力伝達時における局所的な応力集中を避けて強度低下を防止できる。また、本発明に係るクラッチ装置は、センタークラッチの外歯のうちの少なくとも1つの歯がプレッシャークラッチの外歯上に張り出して延びる突出歯を備えるとともにこの突出歯が延びるプレッシャークラッチの外歯上に同突出歯が物理的に干渉しない逃げ部を備えているため、センタークラッチとプレッシャークラッチとが互いに離間した際のクラッチプレートの脱落を防止できる。この場合、逃げ部は、突出歯が延びるプレッシャークラッチの外歯上にこの外歯の歯底と同じ高さ、換言すれば、歯底表面の仮想延長面以下に形成するとよい。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、センタークラッチおよびプレッシャークラッチは、センタークラッチの外歯における歯を部分的に省略した逃げ部と、プレッシャークラッチの外歯のうちの少なくとも1つの歯が逃げ部上に張り出して延びる突出歯とをそれぞれ備えることにある。これによれば、クラッチ装置は、プレッシャークラッチの外歯のうちの少なくとも1つの歯がセンタークラッチの外歯上に張り出して延びる突出歯を備えるとともにこの突出歯が延びるセンタークラッチの外歯上に同突出歯が物理的に干渉しない逃げ部を備えているため、センタークラッチとプレッシャークラッチとが互いに離間した際のクラッチプレートの脱落を防止できる。この場合、逃げ部は、突出歯が延びるセンタークラッチの外歯上にこの外歯の歯底と同じ高さ、換言すれば、歯底表面の仮想延長面以下に形成するとよい。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、センタークラッチおよびプレッシャークラッチは、互いに相対回転した際にプレッシャークラッチのフリクションプレートまたはクラッチプレートに対する押圧力を増強または軽減するためにプレッシャークラッチをセンタークラッチに対して接近または離隔させる一対のカム面を有するカム機構を備えており、逃げ部は、同逃げ部に対して周方向に隣接する歯底と直接繋がっていることにある。このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、センタークラッチおよびプレッシャークラッチがカム機構を有しているとともに、逃げ部が隣接する歯底と直接繋がって形成されているため、センタークラッチとプレッシャークラッチとが相対回転しながら接近または離隔する際に突出歯の物理的な干渉を避けながら両者を円滑に接近または離隔させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、突出歯は、センタークラッチまたはプレッシャークラッチに形成されたカム面に隣接して形成されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、突出歯がセンタークラッチまたはプレッシャークラッチに形成されたカム面に隣接して形成されているため、カム面の形成による剛性が高くなった部分の周辺に突出歯を形成することで突出歯の強度を向上させることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、逃げ部は、外歯の歯幅方向の全域に亘って形成されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、逃げ部が外歯の歯幅方向の全域に亘って形成されているため、センタークラッチとプレッシャークラッチとが離隔した際におけるクラッチプレートの物理的干渉および接近する際におけるクラップレートの挟み込みを防止してセンタークラッチとプレッシャークラッチとの離隔および接近の作動性を円滑にすることができる。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、突出歯は、センタークラッチおよびプレッシャークラッチのうちのクラッチプレートを多く保持する側に形成されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、突出歯がセンタークラッチおよびプレッシャークラッチのうちのクラッチプレートを多く保持する側に形成されているため、クラッチプレートを多く保持することで伝達トルクが大きい側のセンタークラッチまたはプレッシャークラッチの剛性を高めて駆動力を安定的に伝達することができる。この場合、センタークラッチおよびプレッシャークラッチのうちのクラッチプレートを少なく保持する側には逃げ部が形成されるが、クラッチプレートを少なく保持する側は伝達トルクも小さいため駆動力を安定的に伝達することができる。
また、本発明の他の特徴は、前記クラッチ装置において、突出歯が形成されたセンタークラッチまたはプレッシャークラッチは、突出歯に対して周方向両側の歯底が同突出歯が形成された外歯の歯底円よりも内側に凹んで形成されていることにある。
このように構成した本発明の他の特徴によれば、クラッチ装置は、突出歯が形成されたセンタークラッチまたはプレッシャークラッチにおける突出歯に対して周方向両側の歯底が同突出歯が形成された外歯の歯底円よりも内側に凹んで形成されているため、突出歯を鋳造加工または切削加工で成形する場合に歯厚をより厚く成形し易くして突出歯の強度を向上させることができる。
以下、本発明に係るクラッチ装置の一実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明に係るクラッチ装置100の全体構成の概略を示す断面図である。なお、本明細書において参照する各図は、本発明の理解を容易にするために一部の構成要素を誇張して表わすなど模式的に表している。このため、各構成要素間の寸法や比率などは異なっていることがある。このクラッチ装置100は、二輪自動車(オートバイ)における原動機であるエンジン(図示せず)の駆動力を被動体である車輪(図示せず)に伝達および遮断するための機械装置であり、同エンジンと変速機(トランスミッション)(図示せず)との間に配置されるものである。
(クラッチ装置100の構成)
クラッチ装置100は、クラッチハウジング101を備えている。クラッチハウジング101は、フリクションプレート103を保持するとともにこのフリクションプレート103にエンジンからの駆動力を伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を有底円筒状に成形して構成されている。より具体的には、クラッチハウジング101の筒状部には、内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインに複数枚(本実施形態においては5枚)のフリクションプレート103がクラッチハウジング101の軸線方向に沿って変位可能、かつ同クラッチハウジング101と一体回転可能な状態でスプライン嵌合して保持されている。
このクラッチハウジング101は、図示左側側面がトルクダンパ(図示せず)を介してリベット101aによって入力ギア102に取り付けられている。入力ギア102は、エンジンの駆動により回転駆動する図示しない駆動ギアと噛合って回転駆動する歯車部品であり、軸受102aを介して後述するシャフト111に回転自在に支持されている。すなわち、クラッチハウジング101は、シャフト111と同心位置でシャフト111と独立して入力ギア102と一体的に回転駆動する。
フリクションプレート103は、クラッチプレート104に押し当てられる平板環状の部品であり、アルミニウム材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのフリクションプレート103における各両側面(表裏面)には、図示しない複数の紙片からなる摩擦材が貼り付けられているとともに各摩擦材間に図示しない油溝が形成されて構成されている。また、これらのフリクションプレート103は、それぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。
クラッチハウジング101の内側には、複数枚(本実施形態においては4枚)のクラッチプレート104が前記フリクションプレート103で挟まれた状態でセンタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112にそれぞれ保持されている。
クラッチプレート104は、前記フリクションプレート103に押し当てられる平板環状の部品であり、SPCC(冷間圧延鋼板)材からなる薄板材を環状に打ち抜いて成形されている。これらのクラッチプレート104における各両側面(表裏面)には、クラッチオイルを保持するための深さ数μm〜数十μmの図示しない油溝が形成されているとともに、耐摩耗性を向上させる目的で表面硬化処理がそれぞれ施されている。
また、各クラッチプレート104の内周部には、センタークラッチ105に形成されたセンター側嵌合部108およびプレッシャークラッチ112に形成されたプレッシャー側嵌合部116にそれぞれスプライン嵌合する内歯歯車状のスプラインがそれぞれ形成されている。これらのクラッチプレート104は、それぞれ同じ大きさおよび形状に形成されている。なお、摩擦材は、前記フリクションプレート103に代えてクラッチプレート104に設けてもよい。
センタークラッチ105は、図2に示すように、前記クラッチプレート104およびプレッシャークラッチ112をそれぞれ保持するとともにエンジンの駆動力を変速機側に伝達するための部品であり、アルミニウム合金材を略円筒状に成形して構成されている。より具体的には、センタークラッチ105は、主として、接続部105a、中間部105bおよびプレート保持部105cを一体的に形成して構成されている。
接続部105aは、プレッシャークラッチ112を保持しつつシャフト111に接続される部分であり、円筒状に形成されている。この接続部105aの内周面には、センタークラッチ105の軸線方向に沿って内歯歯車状のスプラインが形成されており、このスプラインにシャフト111がスプライン嵌合している。すなわち、センタークラッチ105は、クラッチハウジング101およびシャフト111と同心位置でシャフト111とともに一体的に回転する。
中間部105bは、接続部105aとプレート保持部105cとの間に形成された部分であり、円周状に配置された3つのセンター側カム部106の間に3つの支柱貫通孔107がそれぞれ形成されて構成されている。3つのセンター側カム部106は、センター側アシストカム面106aおよびセンター側スリッパカム面106bを形成する凸状の部分であり、センタークラッチ105の周方向に沿って延びて形成されている。この場合、3つのセンター側カム部106は、センタークラッチ105の周方向に沿って均等に形成されている。そして、各センター側カム部106におけるセンタークラッチ105の周方向の両端部には、センター側アシストカム面106aおよびセンター側スリッパカム面106bがそれぞれ形成されている。
各センター側アシストカム面106aは、後述するプレッシャー側アシストカム面113aと協働してフリクションプレート103とクラッチプレート104との圧接力を増強するアシスト力を生じさせるための部分であり、センタークラッチ105の円周方向に沿って徐々にプレッシャークラッチ112側に張り出す傾斜面でそれぞれ構成されている。
各センター側スリッパカム面106bは、後述するプレッシャー側スリッパカム面113bと協働してフリクションプレート103とクラッチプレート104とを早期に離隔させて半クラッチ状態に移行させるための部分であり、センター側アシストカム面106aとは周方向の反対側にセンター側アシストカム面106aと同じ方向に傾斜する傾斜面でそれぞれ構成されている。ここで、半クラッチ状態とは、クラッチ装置100におけるフリクションプレート103とクラッチプレート104とが完全に密着する前の状態においてエンジンの駆動力の一部が駆動輪側に伝達される不完全な伝達状態のことである。
3つの支柱貫通孔107は、後述する3つの筒状支柱114をそれぞれ貫通させるための貫通孔である。これら3つの支柱貫通孔107は、前記3つのセンター側カム部106の間の位置にセンタークラッチ105の周方向に沿って均等に形成されている。
プレート保持部105cは、前記複数枚のクラッチプレート104の一部を保持する部分であり、円筒状に形成されるとともにこの円筒状に形成された部分の端部がフランジ状に張り出して形成されている。このプレート保持部105cにおける前記円筒状に形成された部分の外周面には、センター側嵌合部108が形成されている。
センター側嵌合部108は、クラッチプレート104を、フリクションプレート103を挟んだ状態でセンタークラッチ105の軸線方向に沿って変位可能、かつ同センタークラッチ105と一体回転可能な状態保持する部分であり、外歯歯車状のスプラインで構成されている。また、センター側嵌合部108は、このセンター側嵌合部108を構成するスプラインの一部に突出歯110が形成されているとともに、後述するプレッシャー側嵌合部116に対向するセンター側端面108aにおける突出歯110を除く部分、すなわち、スプライン歯よりも内周部分が凹凸のない平らに形成されている。
突出歯110は、図3に示すように、クラッチプレート104および/またはフリクションプレート103の脱落を防止するための部分であり、センター側嵌合部108を構成するスプライン歯の一つがプレッシャークラッチ112におけるプレッシャー側嵌合部116の逃げ部117上に達する長さに延びて形成されている。この突出歯110は、前記3つのセンター側カム部106に対してそれぞれセンタークラッチ105の径方向外側に隣接する位置に形成されている。すなわち、突出歯110は、センタークラッチ105の周方向に沿って均等配置で3つ設けられている。
シャフト111は、中空状に形成された軸体であり、一方(図示左側)の端部側が円筒状の軸受102aを介して入力ギア102およびクラッチハウジング101を回転自在に支持するとともに、前記スプライン嵌合するセンタークラッチ105をナット111aを介して固定的に支持する。このシャフト111における他方(図示左側)の端部は、二輪自動車における図示しない変速機に連結されている。すなわち、シャフト111は、本発明における従動軸に相当する。
プレッシャークラッチ112は、図1に示すように、フリクションプレート103を押圧することによってこのフリクションプレート103とクラッチプレート104とを互いに密着させるための部品であり、アルミニウム合金材をクラッチプレート104の外径と略同じ大きさの外径の略円盤状に成形して構成されている。より具体的には、プレッシャークラッチ112は、図4に示すように、主として、内側円盤部112aおよびプレート保持部112bを一体的に形成して構成されている。
内側円盤部112aは、円周状に配置された3つのプレッシャー側カム部113の間に3つの筒状支柱114がそれぞれ有してセンタークラッチ105における接続部105aの外周面上に摺動自在な状態で嵌合している。すなわち、プレッシャークラッチ112は、クラッチハウジング101、センタークラッチ105およびシャフト111と同心位置でセンタークラッチ105およびシャフト111とは独立して回転可能に設けられている。
3つのプレッシャー側カム部113は、プレッシャー側アシストカム面113aおよびプレッシャー側スリッパカム面113bを形成する凸状の部分であり、プレッシャークラッチ112の周方向に沿って延びて形成されている。この場合、3つのプレッシャー側カム部113は、プレッシャークラッチ112の周方向に沿って均等に形成されている。そして、各プレッシャー側カム部113におけるプレッシャークラッチ112の周方向の両端部には、プレッシャー側アシストカム面113aおよびプレッシャー側スリッパカム面113bがそれぞれ形成されている。
各プレッシャー側アシストカム面113aは、前記センタークラッチ105のセンター側アシストカム面106a上を摺動する部分であり、プレッシャークラッチ112の円周方向に沿って徐々にセンタークラッチ105側に張り出す傾斜面で構成されている。すなわち、センター側アシストカム面106aとプレッシャー側アシストカム面113aとでアシスト機構が構成されている。そして、このアシスト機構によって発生させるアシスト力によって容量(弾性係数)の低いクラッチスプリング115cを用いることができる。
各プレッシャー側スリッパカム面113bは、前記センター側スリッパカム面106b上を摺動する部分であり、プレッシャー側アシストカム面113aとは周方向の反対側にプレッシャー側アシストカム面113aと同じ方向に延びる傾斜面でそれぞれ構成されている。すなわち、センター側スリッパカム面106bとプレッシャー側スリッパカム面113bとでスリッパ機構が構成されている。
3つの筒状支柱114は、リフタープレート115aを支持するためにセンタークラッチ105の軸方向に柱状に延びた円筒状の部分であり、その内周部に取付ボルト115bがネジ嵌合する雌ネジが形成されている。これら3つの筒状支柱114は、プレッシャークラッチ112の周方向に沿って均等に形成されている。
リフタープレート115aは、クラッチスプリング115cをセンタークラッチ105の中間部105bとで挟むための部品であり、金属製の板状体で構成されている。このリフタープレート115aの中央部には、ベアリングを介してレリーズピン115dが設けられている。
クラッチスプリング115cは、プレッシャークラッチ112をセンタークラッチ105側に押圧することによってプレッシャークラッチ112のプレート保持部112bをフリクションプレート103に押圧するための弾性体であり、ばね鋼を螺旋状に巻いたコイルスプリングによって構成されている。このクラッチスプリング115cは、3つの筒状支柱114の各間にそれぞれ配置されている。
レリーズピン115dは、クラッチ装置100の回転駆動力の伝達状態を切断状態とする際にリフタープレート115aを押圧するための棒状部品であり、一方(図示右側)の端部が図示しないクラッチレリーズ機構に接続されている。ここで、クラッチレリーズ機構とは、クラッチ装置100が搭載される自走式車両の運転者のクラッチ操作レバー(図示しない)の操作によってレリーズピン115dをシャフト111側に押圧する機械装置である。
プレート保持部112bは、前記複数枚のクラッチプレート104の他の一部を保持する部分であり、円筒状に形成されるとともにこの円筒状に形成された部分の端部がフランジ状に張り出して形成されている。このプレート保持部112bにおける前記円筒状に形成された部分の外周面には、プレッシャー側嵌合部116が形成されている。
プレッシャー側嵌合部116は、クラッチプレート104を、フリクションプレート103を挟んだ状態でプレッシャークラッチ112の軸線方向に沿って変位可能、かつ同プレッシャークラッチ112と一体回転可能な状態保持する部分であり、外歯歯車状のスプラインで構成されている。
この場合、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプラインは、センター側嵌合部108を構成するスプラインと同じ歯先円、歯底円および歯厚で形成されているとともに、センター側嵌合部108を構成するスプライン歯よりも短い歯幅で形成されている。また、プレッシャー側嵌合部116は、センター側嵌合部108に対向するプレッシャー側端面116aが凹凸のない平らに形成されているとともに、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプラインの一部に逃げ部117が形成されている。
逃げ部117は、前記突出歯110の物理的干渉を防止するための部分であり、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプライン歯の一つが省略されて曲面で構成されている。より具体的には、逃げ部117は、突出歯110が位置するプレッシャー側嵌合部116上の一つのスプライン歯が省略されるとともに、この省略されたスプライン歯に対して周方向の両側にそれぞれ隣接する2つの歯底と面一に直接繋がった凹凸のない平らな円弧面で構成されている。したがって、逃げ部117は、3つの突出歯110に対応してプレッシャークラッチ112の周方向に沿って均等配置で形成されている。
そして、このクラッチ装置100内には、所定量のクラッチオイル(図示しない)が充填されている。クラッチオイルは、主として、フリクションプレート103とクラッチプレート104との間に供給されてこれらの間で生じる摩擦熱の吸収や摩擦材の摩耗を防止する。すなわち、このクラッチ装置100は、所謂湿式多板摩擦クラッチ装置である。
(クラッチ装置100の作動)
次に、上記のように構成したクラッチ装置100の作動について説明する。このクラッチ装置100は、前記したように、車両におけるエンジンと変速機との間に配置されるものであり、車両の運転者によるクラッチ操作レバーの操作によってエンジンの駆動力の変速機への伝達および遮断を行なう。
具体的には、クラッチ装置100は、図1に示すように、車両の運転者(図示せず)がクラッチ操作レバー(図示せず)を操作しない場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン115dを押圧しないため、プレッシャークラッチ112がクラッチスプリング115cの弾性力によってフリクションプレート103を押圧する。これにより、センタークラッチ105は、フリクションプレート103とクラッチプレート104とが互いに押し当てられて摩擦連結された状態となって回転駆動する。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ105に伝達されてシャフト111が回転駆動する。なお、この場合、プレッシャークラッチ112は、アシスト機構によって強い力でセンタークラッチ105に押し付けられている。
このようなクラッチON状態においては、センタークラッチ105におけるプレート保持部105cに形成された突出歯110は、プレッシャークラッチ112におけるプレッシャー側嵌合部116に形成された逃げ部117上に位置して互いに重なっている。このため、センター側嵌合部108とプレッシャー側嵌合部116との境界部分に存在するフリクションプレート103および/またはクラッチプレート104は、突出歯110によってプレート保持部105c,112bから脱落することはない。
また、クラッチON状態においては、運転者による変速機に対するシフトダウン操作などによってエンジン側の回転数よりも駆動輪側の回転数が上回った場合には、シャフト111の回転数が入力ギア102の回転数を上回ってクラッチ装置100にバックトルクが作用することがある。この場合、クラッチ装置100は、センタークラッチ105に形成されたセンター側スリッパカム面106bにプレッシャークラッチ112に形成されたプレッシャー側スリッパカム面113bが乗り上げるカム作用によってプレッシャークラッチ112がセンタークラッチ105に対して相対回転しながら離隔する方向に変位して押圧力が急激に弱まるスリッパ機能が作用する。
このスリッパ機能が作用した場合において、突出歯110は、プレッシャークラッチ112に対して相対的に回転変位するが、プレッシャークラッチ112のプレッシャー側嵌合部116には逃げ部117が隣接する歯底と面一で一体的に繋がって形成されているため、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプライン歯に衝突するなど物理的に干渉することはない。
一方、クラッチ装置100は、図5に示すように、車両の運転者がクラッチ操作レバーを操作した場合においては、クラッチレリーズ機構(図示せず)がレリーズピン115dを押圧するため、プレッシャークラッチ112がクラッチスプリング115cの弾性力に抗してセンタークラッチ105から離隔する方向に変位する。これにより、センタークラッチ105は、フリクションプレート103とクラッチプレート104との摩擦連結が解消された状態となるため、回転駆動が減衰または回転駆動が停止する状態となる。すなわち、原動機の回転駆動力がセンタークラッチ105に対して遮断される。
そして、このクラッチOFF状態においては、センタークラッチ105におけるプレート保持部105cに形成された突出歯110は、プレッシャークラッチ112におけるプレッシャー側嵌合部116に形成された逃げ部117上に重ならない離隔した位置でかつセンター側嵌合部108のセンター側端面108aとプレッシャー側嵌合部116のプレッシャー側端面116aとの間の離隔した隙間上に位置する。このため、センター側嵌合部108とプレッシャー側嵌合部116との境界部分に存在していたフリクションプレート103および/またはクラッチプレート104は、突出歯110によってプレート保持部105c,112bから脱落することはない。
この後、クラッチ装置100は、再び、車両の運転者によるクラッチ操作レバーの操作によってクラッチON状態に移行した場合であっても、突出歯110がプレッシャー側嵌合部116に物理的に干渉することがないとともに、センター側嵌合部108とプレッシャー側嵌合部116との境界部分に存在していたフリクションプレート103および/またはクラッチプレート104は突出歯110によってプレート保持部105c,112bから脱落することはない。
上記作動説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、クラッチ装置100は、クラッチプレート104を保持するセンタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112における互いに対向し合うセンター側端面108aおよびプレッシャー側端面116aがそれぞれ凹凸なく平らに形成されているため、動力伝達時における局所的な応力集中を避けて強度低下を防止できる。また、本発明に係るクラッチ装置100は、センタークラッチ105のセンター側嵌合部108を構成するスプラインのうちの少なくとも1つの歯がプレッシャークラッチ112のプレッシャー側嵌合部116を構成するスプライン上に張り出して延びる突出歯110を備えるとともにこの突出歯110が延びるプレッシャー側嵌合部116上に同プレッシャー側嵌合部116の歯底と同じ高さの逃げ部117を備えているため、センタークラッチ105とプレッシャークラッチ112とが互いに離間した際のクラッチプレート104の脱落を防止できる。
さらに、本発明の実施にあたっては、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、下記に示す各変形例においては、上記実施形態におけるクラッチ装置100と同様の構成部分にはクラッチ装置100に付した符号に同一の符号を付して、その説明は省略する。
例えば、上記実施形態においては、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプラインは、センター側嵌合部108を構成するスプラインと同じ歯先円、歯底円および歯厚で形成されているとともに、センター側嵌合部108を構成するスプライン歯よりも短い歯幅で形成されている。しかし、センター側嵌合部108を構成するスプラインとプレッシャー側嵌合部116を構成するスプラインは、少なくとも互いに同じ歯先円で形成されて互いに対向配置されていればよい。これにより、複数のクラッチプレート104を全て同じ大きさおよび形状で構成することができる。一方で、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプラインは、例えば、センター側嵌合部108を構成するスプラインよりも小さい歯底円または長い歯厚で形成することもできる。
また、上記実施系形態においては、突出歯110は、センター側嵌合部108の周方向に沿って均等配置で3つ設けた。しかし、突出歯110は、センター側嵌合部108またはプレッシャー側嵌合部116に少なくとも1つ設けられていればよく、2つ、3つまたは4つ以上設けられていてもよい。
また、上記実施形態においては、突出歯110は、センタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112のうちのクラッチプレート104を多く保持する側のセンタークラッチ105に形成した。上記実施形態においては、センタークラッチ105は、3枚のクラッチプレート104を保持している。これにより、クラッチ装置100は、クラッチプレート104を多く保持することで伝達トルクが大きい側のセンタークラッチ105の剛性を高めて駆動力を安定的に伝達することができる。しかし、突出歯110は、センタークラッチ105およびプレッシャークラッチ112のうちのクラッチプレート104を少なく保持する側のプレッシャークラッチ112に形成してもよいことは当然である。この場合、逃げ部117は、センタークラッチ105に形成されることになる。
また、上記実施形態においては、突出歯110は、プレッシャークラッチ112におけるプレッシャー側嵌合部116上に重なる長さに形成した。しかし、突出歯110は、プレッシャークラッチ112におけるプレッシャー側嵌合部116上に重なる長さに形成した。しかし、突出歯110は、少なくともプレッシャー側嵌合部116のプレッシャー側端面116aに達する長さに形成されていればよい。
また、上記実施形態においては、突出歯110は、3つのセンター側カム部106に対してそれぞれセンタークラッチ105の径方向外側に隣接する位置に形成されている。これにより、クラッチ装置100は、センター側カム部106の形成による剛性が高くなった部分の周辺に形成されることで突出歯110の強度を向上させることができる。しかし、突出歯110は、センター側嵌合部108の周方向におけるセンター側カム部106に隣接する位置以外の場所、例えば、支柱貫通孔107の径方向外側に隣接する位置に形成してもよいものである。
また、上記実施形態においては、センター側嵌合部108は、突出歯110の周方向両側の歯底を含めて一定の歯底円で構成した。しかし、センター側嵌合部108は、図6に示すように、突出歯110の周方向両側の歯底を突出歯110以外のスプライン歯の両側に形成されている歯底(スプライン溝の底部)よりも径方向内側に凹んで形成されていてもよい。これによれば、クラッチ装置100は、突出歯110に対して周方向両側の歯底が同突出歯110が形成された外歯の歯底円よりも内側に凹んで形成されているため、突出歯110を鋳造加工または切削加工で成形する場合に歯厚をより厚く成形し易くすることができ突出歯110の強度を向上させることができる。
また、上記実施形態においては、逃げ部117は、周方向に隣接する歯底と面一で構成した。しかし、逃げ部117は、突出歯110に衝突したり突き当たったりするなど物理的に干渉しないように形成されていればよいため、周方向に隣接する歯底と同じ高さ以下(換言すれば、歯底の仮想延長面に対して面一以下)に形成されていればよい。
また、上記実施形態においては、逃げ部117は、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプライン歯の歯幅方向の全域に亘って形成した。これにより、クラッチ装置100は、センタークラッチ105とプレッシャークラッチ112とが離隔した際におけるクラッチプレート104の物理的干渉および接近する際におけるクラッチプレート104の挟み込みを防止してセンタークラッチ105とプレッシャークラッチ112との離隔および接近の作動性を円滑にすることができる。しかし、逃げ部117は、突出歯110に物理的に干渉しないように形成されていればよいため、プレッシャー側嵌合部116を構成するスプライン歯の歯幅方向の一部にのみ形成されるとともに他の一部にスプライン歯が形成されるように構成してもよい。
また、上記実施形態においては、クラッチ装置100は、アシスト機構およびスリッパ機構を備えて構成した。しかし、クラッチ装置100は、アシスト機構およびスリッパ機構のうちの少なくとも一方を備えない構成であってもよい。
また、上記実施形態においては、プレッシャークラッチ112は、フリクションプレート103を押圧するように構成されている。しかし、プレッシャークラッチ112は、フリクションプレート103とクラッチプレート104とを互いに密着させるようにフリクションプレート103またはクラッチプレート104を押圧するように構成されていればよい。すなわち、プレッシャークラッチ112は、クラッチプレート104を押圧するように構成してよい。例えば、上記実施形態におけるフリクションプレート103とクラッチプレート104の配置位置を入れ替えてプレッシャークラッチ112がクラッチプレート104を押圧するように構成することもできる。