詳細な説明
いくつかの異なるヒトアポリポタンパク質E(ApoE)アイソフォームが存在し、これらのアイソフォームの一部が脳内に存在するとアルツハイマー病(AD)のリスクが上昇し、一方で、他のアイソフォームが存在するとADのリスクが低下する。ApoE ε4アイソフォームの存在は、遅発性散発性ADの強力な遺伝的リスク因子である。(Casellanoら、Sci Transl Med、3巻(89号):89ra57頁(2011年6月29日))。ApoE ε4対立遺伝子によりADリスクが強力に上昇し、発症年齢が低下する。他方では、ApoE ε2対立遺伝子の存在により、ADリスクが低下するようである。ヒトApoEアイソフォームは、in vivoにおけるアミロイド−β(Aβ)のクリアランスまたは合成に示差的に影響を及ぼすことが示唆される。
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、parvoviridae科の小さな非病原性ウイルスである。AAVは、複製に関してヘルパーウイルスに依存することにより、この科の他のメンバーとは性質を異にしている。ヘルパーウイルスの不在下では、AAVは、遺伝子座に特異的な様式で第19染色体のqアームに組み込まれ得る。およそ5kbのAAVのゲノムは、正極性または負極性の一本鎖DNAの1つのセグメントからなる。ゲノムの末端は、ヘアピン構造に折り畳まれ得る短い末端逆位配列(inverted terminal repeat)であり、ウイルスDNA複製開始点として機能する。物理的には、パルボウイルスビリオンはエンベロープを有さず、その正二十面体(icosohedral)のカプシドは直径およそ20nmである。
これまで、血清学的に区別されるAAVが8種同定されており、5種はヒトまたは霊長類から単離されたものであり、AAV1型〜AAV5型と称される。Govindasamyら、「Structurally Mapping the Diverse Phenotype of Adeno-Associated Virus Serotype 4」、J. Vir.、80巻(23号):11556〜11570頁(2006年)。AAV2のゲノムは、4680ヌクレオチドの長さであり、2つのオープンリーディングフレーム(ORF)を含有する。左側のORFは、一本鎖の後代ゲノムの産生に加えて複製および転写の調節に関与する非構造Repタンパク質であるRep40、Rep52、Rep68およびRep78をコードする。さらに、Repタンパク質のうちの2種は、ヒト第19染色体のqアームの領域へのAAVゲノムの優先的な組み込みに関連している。Rep68/78は、NTP結合活性ならびにDNAおよびRNAヘリカーゼ活性を有することも示されている。Repタンパク質は、核局在化シグナルならびにいくつかの潜在的なリン酸化部位を有する。これらのキナーゼ部位のうちの1つの変異により、複製活性が失われる。
ゲノムの末端は、ウイルスDNA複製開始点としての機能を果たす、T字形ヘアピン構造に折り畳まれる潜在性を有する短い末端逆位配列(ITR)である。ITR領域内に関しては、ITRの機能の中核をなす2つのエレメント、GAGC反復モチーフおよび末端分解能部位(trs)が記載されている。反復モチーフはITRが直鎖状またはヘアピンコンフォメーションのどちらかにある場合にRepと結合することが示されている。この結合は、部位特異的かつ鎖特異的な様式で起こるtrsにおける切断のためにRep68/78を位置付けるのに役立つ。これらの2つのエレメントは、複製におけるそれらの役割に加えて、ウイルス組み込みの中核をなすようである。第19染色体組み込み遺伝子座内にはRep結合部位がtrsに隣接して含有される。これらのエレメントは、機能性であり、遺伝子座に特異的な組み込みに必要であることが示されている。
AAV2ビリオンは、VP1、VP2およびVP3と称される3種の関連するタンパク質からなる、エンベロープを有さない、直径およそ25nmの正二十面体の粒子である。右側のORFは、カプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3をコードする。これらのタンパク質はそれぞれ1:1:10の比で見いだされ、全て右側のORFに由来する。カプシドタンパク質は、オルタナティブスプライシングおよび普通でない開始コドンを使用することにより、互いとは異なる。欠失分析から、選択的にスプライシングされたメッセージから翻訳されるVP1の除去または変更により感染性粒子の収量が減少することが示された。VP3コード領域内の変異により、いかなる一本鎖の後代DNAまたは感染性粒子の産生もできなくなる。AAV2粒子はAAV2カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。AAV2カプシドポリペプチドは、VP1、VP2およびVP3ポリペプチドの全体をコードし得る。粒子は、AAV2および他のAAVカプシドタンパク質を含む粒子(すなわち、AAV4およびAAV2などのキメラタンパク質)であってよい。本明細書では、結果得られるAAV2カプシドを含むウイルス粒子が、標準の方法によって常套的に決定することができる通り、抗原としてまたは免疫学的にAAV4とは性質が異なったままである限りは、AAV2カプシドタンパク質のアミノ酸配列のバリエーションが意図されている。詳細には、例えば、ELISAおよびウエスタンブロットを使用して、ウイルス粒子が抗原としてまたは免疫学的にAAV4と性質を異にするかどうかを決定することができる。さらに、AAV2ウイルス粒子は、AAV4とは別個の組織トロピズムを保持することが好ましい。
AAV2粒子は、AAV2カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。VP1、VP2、およびVP3ポリペプチドの全体をコードするAAV2カプシドポリペプチドは、全体的に、配列番号1に記載されているヌクレオチドによりコードされるアミノ酸配列を有するポリペプチド(AAV2カプシドタンパク質)に対して少なくとも約63%の相同性(または同一性)を有するものであってよい。カプシドタンパク質は、配列番号1に記載されているタンパク質に対して約70%の相同性、約75%の相同性、80%の相同性、85%の相同性、90%の相同性、95%の相同性、98%の相同性、99%の相同性、または、さらには100%の相同性を有するものであってよい。カプシドタンパク質は、配列番号1に記載されているタンパク質に対して約70%の同一性、約75%の同一性、80%の同一性、85%の同一性、90%の同一性、95%の同一性、98%の同一性、99%の同一性、または、さらには100%の同一性を有するものであってよい。粒子は、AAV4カプシドタンパク質とAAV2カプシドタンパク質を両方含む粒子、すなわち、キメラタンパク質であってよい。本明細書では、結果得られるAAV2カプシドを含むウイルス粒子が、標準の方法によって常套的に決定することができる通り、抗原としてまたは免疫学的にAAV4とは性質が異なったままである限りは、AAV2カプシドタンパク質のアミノ酸配列のバリエーションが意図されている。詳細には、例えば、ELISAおよびウエスタンブロットを使用して、ウイルス粒子が抗原としてまたは免疫学的にAAV4と性質を異にするかどうかを決定することができる。さらに、AAV2ウイルス粒子は、本明細書の実施例において例示されているものなどの、AAV4とは別個の組織トロピズムを保持することが好ましいが、少なくとも1つのAAV2コートタンパク質を含むAAV2キメラ粒子は、AAV2コートタンパク質のみからなるAAV2粒子のものとは異なる組織トロピズムを有してよい。
図6Aおよび6Bに示されている通り、AAV2カプシド配列とAAV4カプシド配列は約60%相同である。ある特定の実施形態では、AAV2カプシドは、配列番号1に記載されているアミノ酸配列と少なくとも65%相同である配列を含む(またはそれからなる)。
ある特定の実施形態では、本発明は、AAV2末端逆位配列の対を含むベクターを含有する、すなわち、カプシド内に包含する(encapsidating)AAV2粒子をさらに提供する。AAV2 ITRのヌクレオチド配列は当技術分野で公知である。さらに、粒子は、AAV4カプシドタンパク質とAAV2カプシドタンパク質を両方含む粒子、すなわち、キメラタンパク質であってよい。さらに、粒子は、他のAAV(例えば、AAV1〜AAV8)由来のAAV末端逆位配列の対を含むベクターをカプシド内に包含する粒子であってよい。粒子においてカプシド内に包含されるベクターは、末端逆位配列の間に挿入された外因性核酸をさらに含んでよい。
AAVは、以下の特徴により、遺伝子移入に関して魅力的なベクターになっている。AAVベクターは、in vitroにおいて細胞のゲノムに安定に組み込まれること、広宿主域を有すること、分裂細胞と非分裂細胞のどちらもin vitroおよびin vivoにおいて形質導入し、形質導入された遺伝子の高レベルの発現を維持することが示されている。ウイルス粒子は、熱安定性であり、溶媒、界面活性剤、pHの変化、温度に対して抵抗性であり、また、CsCl勾配で濃縮することができる。AAVプロウイルスの組み込みには、細胞の成長または分化に対する長期にわたる負の影響はいかなるものも付随しない。ITRは、複製、パッケージングおよび組み込みのために必要な唯一のシスエレメントであることが示されており、いくつかのプロモーター活性を有し得る。
本発明は、AAV粒子、組換えAAVベクター、および組換えAAVビリオンを投与する方法を提供する。例えば、AAV2粒子はAAV2カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である、または、AAV4粒子は、AAV4カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。組換えAAV2ベクターは、AAV2に独特の核酸を少なくとも1つ含む核酸構築物である。組換えAAV2ビリオンは、組換えAAV2ベクターを含有する粒子である。用語「AAV2 ITR」の範囲内に入るとみなされるためには、ヌクレオチド配列は、本明細書に記載されている、AAV2 ITRとAAV4 ITRとを区別する特徴の一方または両方を保持しなければならない:(1)3つ(AAV4の場合のように4つではなく)の「GAGC」反復および(2)AAV2 ITR Rep結合部位において、最初の2つの「GAGC」反復の第4のヌクレオチドがTではなくCである。
プロモーターは、プロモーターに機能的に連結した核酸の発現レベルおよびベクターを使用する細胞型などの、公知の考察によって選択された任意の所望のプロモーターであってよい。プロモーターは、外因性プロモーターであっても内因性プロモーターであってもよい。プロモーターとしては、例えば、SV40もしくは誘導性メタロチオネインプロモーターなどの公知の強力なプロモーター、またはAAV p5プロモーターなどのAAVプロモーターを挙げることができる。プロモーターのさらなる例としては、アクチン遺伝子、免疫グロブリン遺伝子、サイトメガロウイルス(CMV)、アデノウイルス、ウシパピローマウイルス、アデノウイルス主要後期プロモーターなどのアデノウイルスプロモーター、誘導性熱ショックプロモーター、呼吸器合胞体ウイルス、ラウス肉腫ウイルス(RSV)などに由来するプロモーターが挙げられる。詳細には、プロモーターは、AAV2 p5プロモーターまたはAAV4 p5プロモーターであってよい。さらに、プロモーター活性を保持するp5プロモーターの小さな断片を、例えば、p5プロモーターにおいて一連の欠失を構築し、欠失をレポーター遺伝子に連結し、レポーター遺伝子が発現するかどうか、すなわち、転写および/または翻訳されるかどうかを決定することを含めた標準の手順によって容易に決定することができる。
AAVベクターは、プロモーターに機能的に連結した外因性(異種性)核酸をさらに含んでよい。「異種核酸」とは、任意の異種性または外因性核酸を細胞、組織または生物体への移入のためにベクターに挿入することができることを意味する。例えば、ある特定の実施形態では、異種核酸は、保護性ApoEアイソフォームをコードする。「機能的に連結した」とは、当技術分野で公知の通り、プロモーターにより異種核酸の発現が促進され得るような、例えば、異種核酸に対するプロモーターの適切な配向などを意味する。さらに、異種核酸は、機能的にコードするため、すなわち、核酸の発現を可能にするために、当技術分野で公知の核酸を発現させるための適切な配列を全て有することが好ましい。核酸は、例えば、エンハンサーなどの発現制御配列、ならびに、リボソーム結合部位、RNAスプライス部位、ポリアデニル化部位、および転写ターミネーター配列などの必要な情報処理部位を含んでよい。核酸は、2つ以上の遺伝子産物をコードしてよく、パッケージング可能な核酸のサイズによってのみ限定される。
AAV2粒子は、AAV2カプシドタンパク質を含むウイルス粒子である。本明細書では、結果得られるAAV2カプシドを含むウイルス粒子が、標準の方法によって常套的に決定することができる通り、抗原としてまたは免疫学的にAAV4とは性質が異なったままである限りは、AAV2カプシドタンパク質のアミノ酸配列のバリエーションが意図されている。詳細には、例えば、ELISAおよびウエスタンブロットを使用して、ウイルス粒子が抗原としてまたは免疫学的に他のAAV血清型と性質を異にするかどうかを決定することができる。
AAV4は、AAVファミリーの独特のメンバーである。AAV4に関する考察は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,468,524号において提供される。DNAのハイブリダイゼーションデータにより、AAV1〜4に関して同様のレベルの相同性が示された。しかし、他のAAVとは対照的に、AAV4ではカプシドタンパク質に対応するただ1つのORFが同定され、Repタンパク質に対するORFは検出されなかった。本発明は、AAV4ウイルスを含むベクターならびにAAV4ウイルス粒子を提供する。AAV4はAAV2と類似しているが、この2つのウイルスは、本明細書では、物理的かつ遺伝的に別のものであることが見いだされる。これらの差は、AAV4に、遺伝子療法用のベクターとしてより適したものになるいくつかの独特の利点を付与するものである。例えば、野生型AAV4ゲノムはAAV2よりも大きく、より大きな組換えゲノムを効率的にカプシド内に包含することが可能になる。さらに、野生型AAV4粒子は、AAV2粒子よりも浮遊密度が大きく、したがって、AAV2に基づく粒子よりも容易に、混入したヘルパーウイルスおよび空のAAV粒子から分離される。さらに、AAV1、2、および3とは対照的に、AAV4は、ヒト、モルモット、およびヒツジの赤血球を凝集させることが可能である。
ある特定の実施形態では、本発明は、AAV5ウイルスを含むベクターまたは該ウイルスのサブパートを含むベクター、ならびにAAV5ウイルス粒子を提供する。AAV5に関する考察は、参照により本明細書に組み込まれる米国特許第6,855,314号において提供される。AAV5はAAV2と類似しているが、この2つのウイルスは、本明細書では物理的かつ遺伝的に別のものであることが見いだされる。これらの差は、AAV5に、遺伝子療法用のベクターとしてより適したものになるいくつかの独特の特性および利点を付与するものである。例えば、AAV2の遺伝子療法用のベクターとしての使用を限定する特徴の1つは、大量のウイルスの産生である。標準の産生技法を使用すると、AAV5はAAV2と比較して10〜50倍高いレベルで産生される。その独特のTRS部位およびrepタンパク質に起因して、AAV5はAAV2と比較して別個の組み込み遺伝子座も有するはずである。
さらに、AAV5カプシドタンパク質は、重ねて驚いたことに、AAV2カプシドタンパク質と性質を異にし、異なる組織トロピズムを示し、したがって、AAV5カプシドを含有する粒子が、AAV2が適さないまたはあまり適さない細胞型を形質導入するのに適したものになる。AAV2とAAV5は血清学的に別のものであることが示されており、したがって、遺伝子療法への適用では、AAV5およびAAV5由来のベクターにより、自然免疫防御の結果としてか、またはAAV2ベクターへの以前の曝露によってAAV2に対する中和抗体をすでに有する患者への形質導入が可能になる。AAV5の別の利点は、AAV5が他の血清型によって救済され得ないことである。AAV5のみが組み込まれたAAV5ゲノムを救済し、複製をもたらすことができ、したがって、他のAAV血清型によって引き起こされる、意図されたものではないAAV5の複製が回避される。
「ポリペプチド」という用語は、本明細書で使用される場合、アミノ酸のポリマーを指し、全長タンパク質およびその断片を包含する。したがって、「タンパク質」、「ポリペプチド」および「ペプチド」は、本明細書では互換的に使用されることが多い。置換は、中性になるように公知のパラメータによって選択することができる。当業者には理解されるように、本発明は、アミノ酸配列または他の特性にわずかなバリエーションを有するポリペプチドも包含する。そのようなバリエーションは、対立遺伝子バリエーションとして(例えば遺伝的多型に起因する)天然に生じたものであってもよく、人為的な介入(例えば、クローニングしたDNA配列の変異誘発)によって生じさせたもの、例えば、誘導された点変異体、欠失変異体、挿入変異体および置換変異体などであってもよい。アミノ酸配列の軽微な変化、例えば、保存的アミノ酸の置き換え、小さな内部の欠失または挿入、および分子の末端における付加または欠失などが一般に好ましい。これらの修飾により、アミノ酸配列の変化がもたらされるか、サイレント変異がもたらされるか、制限部位が修飾されるか、または他の特定の変異がもたらされ得る。
本方法は、核酸を細胞に送達する方法であって、細胞に、AAV末端逆位配列(ITR)の対の間または1つもしくは複数のAAV ITRの隣に挿入された核酸を含むベクターを含有するAAV粒子を投与し、それにより、核酸を細胞に送達するステップを含む方法を提供する。細胞への投与は、任意選択で組織培養培地または緩衝食塩溶液などの所望の液体に含有された粒子を細胞と単に接触させることを含めた、任意の手段によって実現することができる。粒子を任意の所望の長さの時間にわたって細胞と接触させたままにすることができ、また、一般には、粒子を投与し、無期限にそのままにすることができる。そのようなin vitroにおける方法に関して、ウイルスは、当技術分野で公知のおよび本明細書において例示されている標準のウイルス形質導入方法によって細胞に投与することができる。投与されるウイルスの力価は、特に細胞型に応じて変動し得るが、一般にAAV形質導入のために使用される力価が典型的である。さらに、本実施例において特定の細胞を形質導入するために使用される力価を利用することができる。細胞は、ヒトならびに霊長類、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、およびイヌなどの他の大きな(非げっ歯類)哺乳動物の任意の所望の細胞を含んでよい。
より詳細には、本発明は、核酸を上衣細胞に送達する方法であって、上衣細胞に、AAV末端逆位配列(ITR)の対の間または1つもしくは複数のAAV ITRの隣に挿入された核酸を含むベクターを含有するAAV粒子を投与し、それにより、核酸を上衣細胞に送達するステップを含む方法を提供する。
本発明は、核酸を被験体に送達する方法であって、被験体由来の細胞に、AAV末端逆位配列(ITR)の対の間または1つもしくは複数のAAV ITRの隣に挿入された核酸を含むAAV粒子を投与するステップと、細胞を被験体に戻し、それにより、核酸を被験体に送達するステップとを含む方法も包含する。ある特定の実施形態では、AAV ITRはAAV2 ITRであってよい。そのようなex vivoにおける投与に関しては、細胞を、被験体から細胞型に応じた標準の手段によって単離し、また再度細胞型に応じた適切な培養培地に入れる。次いで、ウイルス粒子を上記の通り細胞と接触させ、ウイルスを細胞にトランスフェクトさせる。次いで、細胞を、再度、細胞型および組織についての標準の手段によって被験体の体内に移植し戻すことができる。所望であれば、移植前に、細胞を、ウイルスによるトランスフェクションの程度について、公知の検出手段によって、本明細書に記載の通りに研究することができる。
本発明は、核酸を被験体内の細胞に送達する方法であって、被験体に、AAV末端逆位配列(ITR)の対の間または1つもしくは複数のAAV ITRの隣に挿入された核酸を含むAAV粒子を投与し、それにより、核酸を被験体内の細胞に送達するステップを含む方法をさらに提供する。投与は、上に列挙されている細胞のいずれかなどの被験体から取り出された細胞に直接ex vivoで投与し、その後、細胞を被験体に戻して置き換えることであってもよく、投与は被験体内の細胞へのin vivo投与であってもよい。ex vivoにおける投与に関しては、細胞を、被験体から細胞型に応じた標準の手段によって単離し、また再度細胞型に応じた適切な培養培地に入れる。次いで、ウイルス粒子を上記の通り細胞と接触させ、ウイルスを細胞にトランスフェクトさせる。次いで、細胞を、再度、細胞型および組織についての標準の手段によって被験体の体内に移植し戻すことができる。所望であれば、移植前に、細胞を、ウイルスによるトランスフェクションの程度について、公知の検出手段によって、本明細書に記載の通りに研究することができる。
核酸を被験体内の上衣細胞に送達する方法であって、被験体に、AAV末端逆位配列(ITR)の対の間または1つもしくは複数のAAV ITRの隣に挿入された核酸を含むAAV粒子を投与し、それにより、核酸を被験体内の上衣細胞に送達するステップを含む方法も提供される。
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的とするアミノ酸配列は、疾患、例えば、アルツハイマー病を有する被験体における脳血管内皮を標的とする。
ある特定の実施形態では、脳血管内皮を標的とするアミノ酸配列は、アルツハイマー病を有さない被験体における脳血管内皮を標的とする。
ある特定の実施形態では、ウイルスベクターは、治療用作用物質(therapeutic agent)をコードする核酸配列を含む。ある特定の実施形態では、治療用作用物質は、保護性ApoEアイソフォームである。
本開示のある特定の実施形態は、本明細書に記載のウイルスベクターを含む細胞を提供する。
ある特定の実施形態では、細胞は、非げっ歯類哺乳動物の哺乳動物細胞である。ある特定の実施形態では、細胞は、霊長類細胞である。ある特定の実施形態では、細胞はヒト細胞である。ある特定の実施形態では、細胞は非ヒト細胞である。ある特定の実施形態では、細胞はin vitroのものである。ある特定の実施形態では、細胞はin vivoのものである。ある特定の実施形態では、細胞は上衣細胞である。
本開示のある特定の実施形態は、哺乳動物における疾患を処置する方法であって、本明細書に記載のウイルスベクターまたは細胞を哺乳動物に投与するステップを含む方法を提供する。
ある特定の実施形態では、哺乳動物はヒトである。
本開示のある特定の実施形態は、作用物質を被験体の中枢神経系に送達する方法であって、CSFに本明細書に記載のウイルスベクターを投与し、それにより、形質導入された上衣細胞が治療用作用物質を発現し、当該作用物質を被験体の中枢神経系に送達するステップを含む方法を提供する。ある特定の実施形態では、ウイルスベクターで上衣細胞に形質導入する。
本開示のある特定の実施形態は、医学的処置において使用するための、本明細書に記載のウイルスベクターまたは細胞を提供する。
本開示のある特定の実施形態は、哺乳動物における疾患、例えば、アルツハイマー病を処置するのに有用な医薬を調製するための、本明細書に記載のウイルスベクターまたは細胞の使用を提供する。
ベクターは、保護性ApoEアイソフォームタンパク質をさらに含んでよい。本明細書で使用される場合、「分泌タンパク質」という用語は、天然に分泌されるものであるか、分泌可能になるようにシグナル配列を含有するよう改変されたのであるかにかかわらず任意の分泌タンパク質を包含する。
核酸は、別の核酸配列と機能性関係に配置されている場合、「作動可能に連結」している。一般に、「作動可能に連結」とは、連結するDNA配列が近接していることを意味する。しかし、エンハンサーは近接している必要はない。連結は、都合のよい制限部位におけるライゲーションによって実現される。そのような部位が存在しない場合には、合成オリゴヌクレオチドアダプターまたはリンカーを従来の実施に従って使用する。さらに、酵素をコードする核酸の複数のコピーを発現ベクター内に合わせて連結することができる。そのような複数の核酸は、リンカーによって分離されていてもよい。
本開示は、本明細書に記載のベクターを含有する哺乳動物細胞も提供する。細胞は、ヒト細胞であってよく、また、脳に由来するものであってよい。細胞型は、幹細胞集団または前駆細胞集団であってよい。
本開示は、哺乳動物における遺伝子疾患またはがんなどの疾患を、本明細書に記載のポリヌクレオチド、ポリペプチド、発現ベクター、または細胞を投与することによって処置する方法を提供する。遺伝子疾患は、アルツハイマー病などの神経変性疾患であってよい。
本開示のある特定の態様は、ポリヌクレオチド、ポリペプチド、ベクター、および遺伝子操作された細胞(in vivoにおいて改変されたもの)、ならびにそれらの使用に関する。具体的には、本開示は、治療有効用量の治療用作用物質を全身送達することが可能な遺伝子療法またはタンパク質療法のための方法に関する。
一態様によると、哺乳動物レシピエントにおいて治療用作用物質を発現させるための細胞発現系が提供される。発現系(本明細書では「遺伝子改変細胞」とも称される)は、細胞と、治療用作用物質を発現させるための発現ベクターとを含む。発現ベクターとしては、これらに限定されないが、異種遺伝物質を細胞に送達するためのウイルス、プラスミド、および他のビヒクルが挙げられる。したがって、「発現ベクター」という用語は、本明細書で使用される場合、異種遺伝物質を細胞に送達するためのビヒクルを指す。具体的には、発現ベクターは、組換えアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、またはレンチウイルスベクターまたはレトロウイルスベクターである。
発現ベクターは、異種遺伝子の転写を制御するためのプロモーターをさらに含む。プロモーターは、誘導性プロモーター(下記)であってよい。発現系は、哺乳動物レシピエントへの投与に適するものである。発現系は、複数の非不死化遺伝子改変細胞を含んでよく、各細胞が少なくとも1つの治療用作用物質をコードする少なくとも1つの組換え遺伝子を含有する。
細胞発現系は、in vivoにおいて形成することができる。さらに別の態様によると、哺乳動物レシピエントをin vivoにおいて処置するための方法が提供される。当該方法は、異種遺伝子産物を発現させるための発現ベクターを患者の細胞にin situで、静脈内投与によってなどで導入するステップを含む。発現系をin vivoで形成するために、治療用作用物質を発現させるための発現ベクターをin vivoで哺乳動物レシピエントに静脈内導入し、ベクターが脈管構造を介して脳に移動する。
さらに別の態様によると、哺乳動物レシピエントをin vivoにおいて処置するための方法が提供される。当該方法は、標的タンパク質を患者にin vivoで導入するステップを含む。
異種遺伝子を発現させるための発現ベクターは、異種遺伝子産物の転写を制御するための誘導性プロモーターを含んでよい。したがって、in situにおける治療用作用物質の送達は、細胞をin situにおいて、異種遺伝子の転写が誘導される条件に曝露することによって制御される。
哺乳動物レシピエントは、遺伝子置換療法を受けることができる状態を有してよい。本明細書で使用される場合、「遺伝子置換療法」とは、レシピエントに治療用作用物質をコードする外因性遺伝物質を投与し、その後、投与した遺伝物質をin situで発現させることを指す。したがって、「遺伝子置換療法を受けることができる状態」という句は、遺伝子疾患(すなわち、1つまたは複数の遺伝子欠損に起因する疾患状態)、後天性の病態(すなわち、先天的な欠損に起因しない病的状態)、がん、および予防プロセス(すなわち、疾患の予防または望ましくない医学的状態の予防)を包含する。したがって、本明細書で使用される場合、「治療用作用物質」という用語は、哺乳動物レシピエントに対して有益な効果を有する任意の作用物質または物質を指す。したがって、「治療用作用物質」は、核酸成分またはタンパク質成分を有する、治療用分子と予防用分子の両方を包含する。
一実施形態によると、哺乳動物レシピエントは遺伝子疾患を有し、外因性遺伝物質は当該疾患を処置するための治療用作用物質をコードする異種遺伝子を含む。さらに別の実施形態では、哺乳動物レシピエントは後天性の病態を有し、外因性遺伝物質は当該病態を処置するための治療用作用物質をコードする異種遺伝子を含む。別の実施形態によると、患者はがんを有し、外因性遺伝物質は抗新生物剤をコードする異種遺伝子を含む。さらに別の実施形態では、患者は望ましくない医学的状態を有し、外因性遺伝物質は当該状態を処置するための治療用作用物質をコードする異種遺伝子を含む。
本明細書で使用される場合、「保護性ApoEアイソフォーム」という用語は、このポリペプチドの変異体または生物学的活性もしくは不活性断片を包含する。ポリペプチドの1つの「変異体」は、ネイティブなタンパク質と完全には同一でないポリペプチドである。そのような変異体タンパク質は、1つまたは複数のアミノ酸の挿入、欠失または置換によりアミノ酸配列を変更することによって得ることができる。タンパク質のアミノ酸配列を、例えば置換によって改変して、ネイティブなポリペプチドと比較して実質的に同じまたは改善された品質を有するポリペプチドを作製する。置換は、保存された置換であってよい。「保存された置換」とは、アミノ酸の、同様の側鎖を有する別のアミノ酸での置換である。保存された置換は、アミノ酸の電荷またはアミノ酸の側鎖のサイズ(あるいは、側鎖内の化学基のサイズ、電荷または種類)の可能性のある最小の変化をもたらすアミノ酸での置換であり、それにより、ペプチド全体は、その空間的コンフォメーションを保持するが、生物学的活性は変更されている。例えば、共通の保存された変化は、AspからGlu、AsnまたはGln;HisからLys、ArgまたはPhe;AsnからGln、AspまたはGlu、およびSerからCys、ThrまたはGlyであり得る。アラニンは他のアミノ酸を置換するために一般に使用される。20種の必須アミノ酸は、以下の通り群分けすることができる:非極性側鎖を有するアラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、トリプトファンおよびメチオニン;無電荷極性側鎖を有するグリシン、セリン、トレオニン、シスチン、チロシン、アスパラギンおよびグルタミン;酸性側鎖を有するアスパラギン酸およびグルタミン酸;ならびに塩基性側鎖を有するリシン、アルギニン、およびヒスチジン。
アミノ酸の変化は、対応する核酸配列のコドンを変化させることによって実現される。そのようなポリペプチドは、生物学的活性を改変または改善するために、ある特定のアミノ酸でポリペプチド構造内の他のアミノ酸を置換することに基づいて得ることができることが公知である。例えば、代替アミノ酸の置換を通じて小さなコンフォメーションの変化をポリペプチドに付与することができ、その結果、活性の増加がもたらされる。あるいは、ある特定のポリペプチドにおいてアミノ酸置換を使用して残基をもたらすことができ、次いでそれを他の分子と連結して、他の目的ために有用である出発ポリペプチドの十分な特性を保持する、ペプチド−分子コンジュゲートをもたらすことができる。
ポリペプチドへの相互作用的な生物学的機能の付与においてアミノ酸の疎水性親水性指標を使用することができ、ここで、ある特定のアミノ酸は同様の疎水性親水性指標を有する他のアミノ酸を置換することができ、それでも同様の生物学的活性を保持できることがわかる。あるいは、似ているアミノ酸の置換は、特にポリペプチドに生じさせることが所望される生物学的機能が免疫学的実施形態における使用について意図される場合に、親水性に基づいて行うことができる。「タンパク質」の最大局所平均親水性は、その隣接アミノ酸の親水性によって支配されるので、その免疫原性と相関する。したがって、置換は、各アミノ酸に割り当てられた親水性に基づいて行うことができることに留意する。
各アミノ酸に値を割り当てる親水性指標または疎水性親水性指標のいずれかの使用では、これらの値が±2になるアミノ酸の置換を行うことが好ましく、±1になることが特に好ましく、±0.5になることが最も好ましい置換である。
変異体タンパク質は、対応するネイティブなタンパク質のアミノ酸配列に対して少なくとも50%、少なくとも約80%、または、さらには少なくとも約90%であるが100%未満の、連続したアミノ酸配列の相同性または同一性を有する。
変異体ポリペプチドのアミノ酸配列は、ネイティブなポリペプチドのアミノ酸配列に基本的に対応する。本明細書で使用される場合、「に基本的に対応する」とは、ネイティブなタンパク質によって生じる応答と実質的に同じ生物学的応答を引き出すポリペプチド配列を指す。そのような応答はネイティブなタンパク質によって生じるレベルの少なくとも60%であり得、さらにはネイティブなタンパク質によって生じるレベルの少なくとも80%であり得る。
変異体は、対応するネイティブなタンパク質には存在しないアミノ酸残基または対応するネイティブなタンパク質に対する欠失を含んでよい。変異体は、対応するネイティブなタンパク質と比較して先端が切断された「断片」、すなわち、全長タンパク質のほんの一部であってもよい。タンパク質変異体は、少なくとも1つのD−アミノ酸を有するペプチドも包含する。
変異体タンパク質は、変異体タンパク質をコードする単離されたDNA配列から発現させることができる。「組換え体」とは、遺伝子工学のプロセスによって作製されるペプチドまたは核酸と定義される。遺伝暗号における重複性に起因して、コドン内の個々のヌクレオチドは容易に交換され得、それでも同一のアミノ酸配列をもたらすことができることは当技術分野で周知であることに留意するべきである。「タンパク質」、「ペプチド」および「ポリペプチド」という用語は、本明細書では互換的に使用される。
本開示は、発現ベクターを細胞または患者に投与することによって哺乳動物における疾患を処置する方法を提供する。遺伝子療法の方法に関して、分子生物学および遺伝子療法の当業者は、過度な実験を伴わずに、本開示の新規方法において使用する発現ベクターの適切な投与量および投与経路を決定することができる。
一実施形態によると、in vivoにおいて細胞を形質転換するまたは他のやり方で遺伝子改変する。哺乳動物レシピエント由来の細胞を、in vivoにおいて、治療用作用物質をコードする異種(例えば、組換え)遺伝子を発現させるための外因性遺伝物質を含有するベクターを用いて形質転換(すなわち、形質導入またはトランスフェクト)し、治療用作用物質をin situにおいて送達する。
本明細書で使用される場合、「外因性遺伝物質」とは、細胞内に天然には見いだされない、または細胞内に天然に見いだされる場合には細胞により生物学的に有意なレベルで転写も発現もされない、天然または合成の核酸またはオリゴヌクレオチドを指す。したがって、「外因性遺伝物質」は、例えば、アンチセンスRNAに転写され得る天然に存在しない核酸、ならびに「異種遺伝子」(すなわち、天然に存在する同じ型の細胞において発現しないまたは生物学的に有意でないレベルで発現するタンパク質をコードする遺伝子)を含む。
ある特定の実施形態では、哺乳動物レシピエントは、遺伝子置換療法を受けることができる状態を有する。本明細書で使用される場合、「遺伝子置換療法」とは、レシピエントに治療用作用物質をコードする外因性遺伝物質を投与し、その後、投与した遺伝物質をin situで発現させることを指す。したがって、「遺伝子置換療法を受けることができる状態」という句は、遺伝子疾患(すなわち、1つまたは複数の遺伝子欠損に起因する疾患状態)、後天性病態(すなわち、先天的な欠損に起因しない病的状態)、がん、および予防プロセス(すなわち、疾患の予防または望ましくない医学的状態の予防)などの状態を包含する。したがって、本明細書で使用される場合、「治療用作用物質」という用語は、哺乳動物レシピエントに対する有益な効果を有する任意の作用物質または材料を指す。したがって、「治療用作用物質」は、核酸成分(例えば、アンチセンスRNA)および/またはタンパク質成分を有する、治療用分子と予防用分子の両方を包含する。
あるいは、遺伝子置換療法を受けることができる状態は、予防プロセス、すなわち、疾患または望ましくない医学的状態を予防するためのプロセスである。したがって、本開示は、予防機能を有する治療用作用物質(すなわち、予防剤)を哺乳動物レシピエントに送達するための細胞発現系を包含する。
要約すると、「治療用作用物質」という用語は、これらに限定されないが、上に列挙されている状態に関連する作用物質ならびにそれらの機能的等価物を含む。本明細書で使用される場合、「機能的等価物」という用語は、哺乳動物レシピエントに対して、機能的等価物とみなされる治療用作用物質と同じまたは改善された有益な効果を有する分子(例えば、ペプチドまたはタンパク質)を指す。
上で開示されている、治療用作用物質および遺伝子置換療法を受けることができる状態は、ただ単に例示的なものであり、本開示の範囲を限定するものではない。公知の状態を処置するための適切な治療用作用物質の選択は、過度な実験を伴わずに、当業者の範囲内であるとみなされる。
AAVベクター
一実施形態では、本開示のウイルスベクターはAAVベクターである。「AAV」ベクターとは、アデノ随伴ウイルスを指し、天然に存在する野生型ウイルス自体またはその誘導体を指すために使用することができる。この用語は、別の必要がある場合を除き、亜型、血清型およびシュードタイプの全てを包含し、天然に存在するものと組換え型のものをどちらも包含する。本明細書で使用される場合、「血清型」という用語は、定義済みの抗血清とのカプシドタンパク質の反応性に基づいて同定され、他のAAVと区別されるAAVを指し、例えば、霊長類AAVの血清型は、AAV−1〜AAV−8の8種が公知である。例えば、血清型AAV2は、AAV2のcap遺伝子によりコードされるカプシドタンパク質と、同じAAV2血清型に由来する5’および3’ITR配列を含有するゲノムとを含有するAAVを指すために使用される。本明細書で使用される場合、例えば、rAAVは、同じ血清型に由来するカプシドタンパク質と5’−3’ITRとの両方を有するAAVを指すために使用することができ、1つの血清型に由来するカプシドタンパク質と、異なるAAV血清型に由来する5’−3’ITRとを有する、例えば、AAV血清型2に由来するカプシドとAAV血清型5に由来するITRとを有するAAVを指す場合もある。本明細書において例示されている各例に関して、ベクターの設計および作製についての記載では、カプシドの血清型および5’−3’ITR配列について記載されている。「rAAV」という略語は、組換えAAVベクター(または「rAAVベクター」)とも称される、組換えアデノ随伴ウイルスを指す。
「AAVウイルス」または「AAVウイルス粒子」とは、少なくとも1つのAAVカプシドタンパク質(好ましくは野生型AAVのカプシドタンパク質の全て)と、カプシド内に包含されるポリヌクレオチドとで構成されるウイルス粒子を指す。粒子が異種ポリヌクレオチド(すなわち、哺乳動物細胞に送達される導入遺伝子などの、野生型AAVゲノム以外のポリヌクレオチド)を含む場合、それは一般的には「rAAV」と称される。
一実施形態では、AAV発現ベクターを、公知の技法を使用して、少なくとも、転写開始領域、目的のDNAおよび転写終結領域を含む制御エレメントを転写の方向に作動可能に連結した成分としてもたすように構築する。制御エレメントは、哺乳動物の細胞において機能性になるように選択される。結果得られた、作動可能に連結した成分を含有する構築物は、機能性AAV ITR配列で挟まれている(5’および3’)。
「アデノ随伴ウイルス末端逆位配列」または「AAV ITR」は、ウイルスに対してDNA複製開始点としておよびパッケージングシグナルとしてシスで共に機能する、AAVゲノムの各末端に見いだされる当技術分野で認識されている領域を意味する。AAV ITRは、AAV repコード領域と共に、2つのフランキングITRの間に挟まれたヌクレオチド配列の哺乳動物細胞ゲノムからの効率的な切除および救済、ならびに哺乳動物細胞ゲノムへの組み込みをもたらす。
AAV ITR領域のヌクレオチド配列は公知である。本明細書で使用される場合、「AAV ITR」は、示されている野生型ヌクレオチド配列を有する必要はないが、例えば、ヌクレオチドの挿入、欠失または置換によって変更され得る。さらに、AAV ITRは、限定することなく、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7などを含めた、いくつかのAAV血清型のうちのいずれかに由来するものであってよい。さらに、AAVベクター内の選択されたヌクレオチド配列を挟む5’および3’ITRは、意図された通りに、すなわち、宿主細胞のゲノムまたはベクターからの目的の配列の切除および救済を可能にするように、ならびにAAV Rep遺伝子産物が細胞内に存在する場合にレシピエント細胞ゲノムへの異種配列の組み込みを可能にするように機能する限りは、必ずしも同一であるまたは同じAAV血清型もしくは分離株に由来するものでなくてよい。
一実施形態では、AAV ITRは、限定することなく、AAV1、AAV2、AAV3、AAV4、AAV5、AAV7などを含めたいくつかのAAV血清型のうちのいずれかに由来するものであってよい。さらに、AAV発現ベクター内の選択されたヌクレオチド配列を挟む5’および3’ITRは、意図された通りに、すなわち、宿主細胞のゲノムまたはベクターからの目的の配列の切除および救済を可能にするように、ならびにAAV Rep遺伝子産物が細胞内に存在する場合にレシピエント細胞ゲノムへのDNA分子の組み込みを可能にするように機能する限りは、必ずしも同一であるまたは同じAAV血清型もしくは分離株に由来するものでなくてよい。
一実施形態では、AAVカプシドは、AAV2に由来するものであってよい。AAVベクターに使用するために適したDNA分子は、約5キロベース(kb)未満、約4.5kb未満、約4kb未満、約3.5kb未満、約3kb未満、約2.5kb未満のサイズであり、また、これらは当技術分野で公知である。
一実施形態では、選択されたヌクレオチド配列は、被験体におけるその転写または発現をin vivoで導く制御エレメントに作動可能に連結している。そのような制御エレメントは、通常、選択された遺伝子に付随する制御配列を含んでよい。あるいは、異種制御配列を使用することができる。有用な異種制御配列は、一般に、哺乳動物遺伝子またはウイルス遺伝子をコードする配列に由来する配列を含む。例としては、これらに限定されないが、SV40初期プロモーター、マウス乳房腫瘍ウイルスLTRプロモーター;アデノウイルス主要後期プロモーター(Ad MLP);単純ヘルペスウイルス(HSV)プロモーター、CMV最初期プロモーター領域(CMVIE)などのサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、ラウス肉腫ウイルス(RSV)プロモーター、pol IIプロモーター、pol IIIプロモーター、合成プロモーター、ハイブリッドプロモーターなどが挙げられる。さらに、マウスメタロチオネイン遺伝子などの非ウイルス遺伝子に由来する配列も本発明において用途が見出される。そのようなプロモーター配列は、例えば、Stratagene(San Diego、Calif.)から市販されている。
一実施形態では、異種プロモーターおよび他の制御エレメントの両方、例えば、CNS特異的プロモーターおよび誘導性プロモーター、CNS特異的エンハンサーおよび誘導性エンハンサーなどが特に使用される。異種プロモーターの例としては、CMVプロモーターが挙げられる。CNS特異的プロモーターの例としては、ミエリン塩基性タンパク質(MBP)、グリア線維酸性タンパク質(GFAP)、および神経特異的エノラーゼ(NSE)に由来する遺伝子から単離されたプロモーターが挙げられる。誘導性プロモーターの例としては、エクジソン、テトラサイクリン、低酸素およびアウフィン(aufin)に対するDNA応答性エレメントが挙げられる。
一実施形態では、AAV ITRが結合した目的のDNA分子を有するAAV発現ベクターを、主要AAVオープンリーディングフレーム(「ORF」)を切除したAAVゲノムへと選択配列(複数可)を直接挿入することによって構築することができる。複製およびパッケージング機能を可能にするために十分なITRの部分が残っている限りは、AAVゲノムの他の部分も欠失させることができる。そのような構築物は、当技術分野で周知の技法を使用して設計することができる。
あるいは、AAV ITRをウイルスゲノムからまたはそれを含有するAAVベクターから切り取り、標準のライゲーション技法を使用して別のベクター内に存在する選択された核酸構築物の5’および3’と融合することができる。例えば、ライゲーションは、20mMのTris−Cl、pH7.5、10mMのMgCl2、10mMのDTT、33μg/mlのBSA、10mM〜50mMのNaCl、および、40μMのATP、0.01〜0.02(Weiss)単位のT4 DNAリガーゼ、0℃(「粘着末端」ライゲーションのために)または1mMのATP、0.3〜0.6(Weiss)単位T4 DNAリガーゼ、14℃(「平滑末端」ライゲーションのために)で実現することができる。分子間「粘着末端」ライゲーションは、通常、30〜100μg/mlの総DNA濃度(5〜100nMの総最終濃度)で実施される。ITRを含有するAAVベクター。
さらに、キメラ遺伝子は、1つまたは複数の選択された核酸配列の5’および3’にAAV ITR配列が配置されるように、合成により作製することができる。哺乳動物CNS細胞においてキメラ遺伝子配列を発現させるための好ましいコドンを使用することができる。完全なキメラ配列は標準の方法によって調製された、重複したオリゴヌクレオチドから組み立てられる。
rAAVビリオンを産生させるために、AAV発現ベクターを、トランスフェクションによるなど、公知の技法を使用して適切な宿主細胞に導入する。いくつかのトランスフェクション技法は、一般に、当技術分野で公知である。例えば、Sambrookら、(1989年)Molecular Cloning、a laboratory manual、Cold Spring Harbor Laboratories、New Yorkを参照されたい。特に適切なトランスフェクション方法としては、リン酸カルシウム共沈澱、培養細胞への直接微量注入、電気穿孔、リポソーム媒介性遺伝子移入、脂質媒介性形質導入、および高速微粒子銃を使用した核酸送達が挙げられる。
一実施形態では、rAAVビリオンを産生させるための適切な宿主細胞としては、異種DNA分子のレシピエントとして使用することができるまたは使用されている微生物、酵母細胞、昆虫細胞、および哺乳動物細胞が挙げられる。この用語は、トランスフェクトされた元の細胞の後代を包含する。したがって、「宿主細胞」とは、本明細書で使用される場合、一般に、外因性DNA配列をトランスフェクトされた細胞を指す。安定なヒト細胞株293由来の細胞(例えば、American Type Culture Collectionを通じて、受託番号ATCC CRL1573の下で容易に入手可能)を本開示の実施において使用することができる。特に、ヒト細胞株293は、アデノウイルス5型DNA断片で形質転換されており、アデノウイルスE1a遺伝子およびE1b遺伝子を発現するヒト胎児由来腎臓細胞株である。293細胞株は容易にトランスフェクトされ、rAAVビリオンを産生させるために特に都合のよいプラットフォームをもたらす。
「AAV repコード領域」とは、複製タンパク質Rep78、Rep68、Rep52およびRep40をコードする、当技術分野で認識されているAAVゲノムの領域を意味する。これらのRep発現産物は、AAVのDNA複製開始点の認識、結合およびニッキング、DNAヘリカーゼ活性ならびにAAV(または他の異種)プロモーターからの転写の調節を含めた多くの機能を有することが示されている。Rep発現産物は、集合的に、AAVゲノムの複製のために必要である。AAV repコード領域の適切な相同体は、AAV2 DNA複製を媒介することも公知であるヒトヘルペスウイルス6(HHV−6)rep遺伝子を含む。
「AAV capコード領域」は、カプシドタンパク質VP1、VP2、およびVP3、またはその機能性相同体をコードする、当技術分野で認識されているAAVゲノムの領域を意味する。これらのCap発現産物は、集合的にウイルスゲノムのパッケージングのために必要であるパッケージング機能をもたらす。
一実施形態では、宿主細胞を、AAV発現ベクターをトランスフェクトする前かまたはそれと同時にAAVヘルパー構築物を用いてトランスフェクトすることによってAAVヘルパー機能を宿主細胞に導入する。したがって、AAVヘルパー構築物は、増殖性AAV感染に必要なAAV機能の欠如を補完するためにAAV repおよび/またはcap遺伝子の少なくとも一過性の発現をもたらすために使用される。AAVヘルパー構築物はAAV ITRを欠き、それ自体では複製もパッケージングもできない。これらの構築物は、プラスミド、ファージ、トランスポゾン、コスミド、ウイルス、またはビリオンの形態であってよい。RepおよびCap発現産物の両方をコードする、一般に使用されるプラスミドpAAV/AdおよびpIM29+45などの、いくつかのAAVヘルパー構築物が記載されている。Repおよび/またはCap発現産物をコードするいくつかの他のベクターが記載されている。
ウイルスベクターを送達する方法は、AAVをCSFに注射するステップを含む。一般に、rAAVビリオンは、in vivoまたはin vitroにおける形質導入技法のいずれかを使用してCNSの細胞に導入することができる。in vitroにおいて形質導入する場合、所望のレシピエント細胞を被験体から取り出し、rAAVビリオンを用いて形質導入し、被験体に再度導入する。あるいは、被験体において不適切な免疫応答を生じさせない、同系または異種細胞を使用することができる。
形質導入された細胞を被験体に送達および導入するために適した方法が記載されている。例えば、組換えAAVビリオンとCNS細胞を、例えば適切な培地中で組み合わせることによって、細胞をin vitroにおいて形質導入することができ、目的のDNAを有する細胞についてのスクリーニングを、サザンブロットおよび/またはPCRなどの従来の技法を使用して、または選択マーカーを使用することによってスクリーニングすることができる。次いで、形質導入された細胞を、下でより詳細に記載されている医薬組成物に製剤化し、当該組成物を移植、筋肉内注射、静脈内注射、皮下注射および腹腔内注射によってなどの種々の技法によって被験体に導入することができる。
一実施形態では、医薬組成物は、目的の核酸の治療有効量、すなわち、問題の疾患状態の症状を軽減するもしくは好転させるのに十分な量、または、所望の利益を付与するのに十分な量をもたらすのに十分な遺伝物質を含む。医薬組成物は、薬学的に許容される賦形剤も含有する。そのような賦形剤は、それ自体は、組成物を受ける個体に有害な抗体の産生を誘導せず、また、過度の毒性を伴わずに投与することができる任意の医薬品を含む。薬学的に許容される賦形剤としては、これらに限定されないが、ソルビトール、Tween80、ならびに水、食塩水、グリセロールおよびエタノールなどの液体が挙げられる。薬学的に許容される塩、例えば、塩酸塩、臭化水素酸塩、リン酸塩、硫酸塩などのような鉱酸塩;および酢酸塩、プロピオン酸塩、マロン酸塩、安息香酸塩などのような有機酸の塩を含めることができる。さらに、例えば、湿潤剤または乳化剤、pH緩衝物質などの補助物質がそのようなビヒクル中に存在してよい。薬学的に許容される賦形剤の詳細な考察は、Remington's Pharmaceutical Sciences(Mack Pub. Co.、N.J. 1991年)において入手可能である。
当業者には明らかである通り、本明細書の教示を考慮して、添加しなければならない有効量のウイルスベクターを経験的に決定することができる。投与は、処置の過程全体にわたって1回用量で、継続的に、または断続的に行うことができる。最も有効な投与の手段および投与量を決定する方法は当業者には周知であり、ウイルスベクター、療法の組み立て、標的細胞、および処置される被験体で変動する。治療担当医師によって選択された用量レベルおよびパターンを用いて単回および複数回投与を行うことができる。
送達されるウイルスベクターによって2つ以上の導入遺伝子を発現させることができることが理解されるべきである。あるいは、それぞれが1つまたは複数の異なる導入遺伝子を発現する別々のベクターを本明細書に記載の通りCNSに送達することもできる。さらに、本開示の方法によって送達されるウイルスベクターを他の適切な組成物および療法と組み合わせることも意図されている。
遺伝物質を細胞に導入するための方法
外因性遺伝物質(例えば、1つまたは複数の治療用タンパク質をコードするcDNA)を、細胞に、ex vivoまたはin vivoにおいて、トランスフェクションまたは形質導入などの遺伝子移入方法によって導入して、遺伝子改変細胞をもたらす。種々の発現ベクター(すなわち、標的細胞への外因性遺伝物質の送達を容易にするためのビヒクル)は当業者には公知である。
本明細書で使用される場合、「細胞のトランスフェクション」とは、細胞が、添加されたDNAを組み入れることによって新しい遺伝物質を取得することを指す。したがって、トランスフェクションとは、物理的または化学的方法を使用して細胞に核酸を挿入することを指す。リン酸カルシウムDNA共沈澱;DEAE−デキストラン;電気穿孔;カチオン性リポソーム媒介性トランスフェクション;およびタングステン粒子促進性微小粒子衝撃を含めたいくつかのトランスフェクション技法が当業者に公知である。リン酸ストロンチウムDNA共沈澱は、別の可能性のあるトランスフェクション方法である。
対照的に、「細胞の形質導入」とは、DNAウイルスまたはRNAウイルスを使用して細胞に核酸を移入するプロセスを指す。細胞に核酸を移入するためのRNAウイルス(すなわち、レトロウイルス)は、本明細書では、形質導入キメラレトロウイルスと称される。レトロウイルスに含有される外因性遺伝物質は、形質導入された細胞のゲノムに組み入れられる。キメラDNAウイルス(例えば、治療用作用物質をコードするcDNAを担持するアデノウイルス)を用いて形質導入した細胞では、外因性遺伝物質はそのゲノム内には組み入れられないが、染色体外に保持された外因性遺伝物質を細胞内で発現させることが可能である。
一般には、外因性遺伝物質は、異種遺伝子(通常、治療用タンパク質をコードするエクソンを含むcDNAの形態で)を、新しい遺伝子の転写を制御するためのプロモーターと一緒に含む。プロモーターは、特徴的に、転写を開始するために必要な特定のヌクレオチド配列を有する。任意選択で、外因性遺伝物質は、所望の遺伝子の転写活性を得るために必要な追加の配列(すなわち、エンハンサー)をさらに含む。この考察の目的で、「エンハンサー」とは、単に、コード配列と連続して働いて(シスで)プロモーターによって規定される基底の転写レベルを変化させる任意の非翻訳DNA配列である。外因性遺伝物質を細胞ゲノムに、プロモーターのすぐ下流に導入することができ、それにより、プロモーターとコード配列が、コード配列の転写が可能になるように作動可能に連結する。レトロウイルス発現ベクターは、挿入された外因性遺伝子の転写を制御するための外因性プロモーターエレメントを含んでよい。そのような外因性プロモーターは、構成的プロモーターと誘導性プロモーターのどちらも含む。
天然に存在する構成的プロモーターは、必須の細胞機能の発現を制御する。結果として、構成的プロモーターの制御下にある遺伝子は、細胞の成長の全ての条件の下で発現する。例示的な構成的プロモーターとしては、ある特定の構成的なまたは「ハウスキーピング」機能をコードする以下の遺伝子のためのプロモーター:ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ(DHFR)、アデノシンデアミナーゼ、ホスホグリセロールキナーゼ(PGK)、ピルビン酸キナーゼ、ホスホグリセロールムターゼ、アクチンプロモーター、および当業者に公知の他の構成的プロモーターが挙げられる。さらに、多くのウイルスプロモーターは真核細胞において構成的に機能する。これらとしては、とりわけ、SV40の初期および後期プロモーター;モロニー白血病ウイルスおよび他のレトロウイルスの長い末端反復(LTR);ならびに単純ヘルペスウイルスのチミジンキナーゼプロモーターが挙げられる。したがって、上で参照されている構成的プロモーターのいずれかを使用して異種遺伝子挿入物の転写を制御することができる。
誘導性プロモーターの制御下にある遺伝子は、誘導作用物質(inducing agent)の存在下でのみ発現する、または、誘導作用物質の存在下ではより大きな程度で発現する(例えば、メタロチオネインプロモーターの制御下での転写は、ある特定の金属イオンの存在下で著しく増加する)。誘導性プロモーターは、それらの誘導因子(inducing factor)が結合すると転写を刺激する応答性エレメント(RE)を含む。例えば、血清因子、ステロイドホルモン、レチノイン酸およびサイクリックAMPに対するREが存在する。誘導性応答を得るために、特定のREを含有するプロモーターを選択することができ、また、いくつかの場合には、RE自体を異なるプロモーターに結合させ、それにより、組換え遺伝子に誘導能を付与することができる。したがって、適切なプロモーターを選択すること(構成的であるか誘導性であるか;強いか弱いか)により、遺伝子改変細胞における治療用作用物質の発現の存在およびレベルの両方を制御することが可能である。治療用作用物質をコードする遺伝子が誘導性プロモーターの制御下にある場合、in situにおける治療用作用物質の送達は、遺伝子改変細胞を、in situにおいて、治療用作用物質の転写が可能になる条件に曝露することによって、例えば、当該作用物質の転写を制御する誘導性プロモーターの特定の誘発因子(inducer)を腹腔内注射することによって誘発する。例えば、in situにおける、メタロチオネインプロモーターの制御下にある遺伝子によりコードされる治療用作用物質の遺伝子改変細胞による発現は、遺伝子改変細胞を、適切な(すなわち、誘導性)金属イオンを含有する溶液とin situにおいて接触させることによって増強される。
したがって、in situにおいて送達される治療用作用物質の量は、(1)挿入された遺伝子の転写を導くために使用するプロモーターの性質(すなわち、プロモーターが構成的であるか誘導性であるか、強いか弱いか);(2)細胞に挿入する外因性遺伝子のコピーの数;(3)患者に投与する(例えば、埋め込む)、形質導入/トランスフェクトされた細胞の数;(4)埋め込み物(例えば、移植片または封入発現系)のサイズ;(5)埋め込み物の数;(6)形質導入/トランスフェクトされた細胞または埋め込み物が定位置に放置される時間の長さ;および(7)遺伝子改変細胞による治療用作用物質の産生速度などの因子を制御することによって調節される。治療有効用量の特定の治療用作用物質を送達するための、これらの因子の選択および最適化は、上で開示されている因子および患者の臨床プロファイルを考慮に入れて、過度な実験を伴わずに、当業者の範囲内であるとみなされる。
発現ベクターは、少なくとも1つのプロモーターおよび治療用作用物質をコードする少なくとも1つの異種核酸に加えて、発現ベクターでトランスフェクトまたは形質導入された細胞の選択を容易にするための選択遺伝子、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子を含んでよい。あるいは、細胞に、少なくとも1つのベクターが治療用作用物質(複数可)をコードする遺伝子(複数可)を含有し、他のベクターが選択遺伝子を含有する2つまたはそれ超の発現ベクターをトランスフェクトする。適切なプロモーター、エンハンサー、選択遺伝子および/またはシグナル配列(下記)の選択は、過度な実験を伴わずに、当業者の範囲内であるとみなされる。
治療用作用物質は、細胞外、細胞内または膜の場所への送達のために標的化することができる。遺伝子産物が細胞から分泌されることが望ましい場合には、発現ベクターを、治療用遺伝子産物を細胞から細胞外環境に分泌させるための適切な分泌「シグナル」配列を含むように設計する。遺伝子産物が細胞内に保持されることが望ましい場合には、この分泌シグナル配列を省く。同様に、発現ベクターを、治療用作用物質を細胞原形質膜内に係留するための「保持」シグナル配列を含むように構築することができる。例えば、膜タンパク質は全て疎水性膜貫通領域を有し、これにより膜内のタンパク質の移動が止まり、タンパク質を分泌させない。遺伝子産物を特定の場所に標的化するためのシグナル配列を含めた発現ベクターの構築は、過度な実験を必要とせずに、当業者の範囲内であるとみなされる。
検出アッセイ
この実施形態について種々の免疫検出方法が意図されている。そのような免疫検出方法としては、酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)、ラジオイムノアッセイ(RIA)、免疫放射定量測定法、蛍光免疫測定法、化学発光アッセイ、生物発光アッセイ、およびウエスタンブロットが挙げられるが、いくつかの他の方法が当業者には周知である。種々の有用な免疫検出方法のステップは科学文献に記載されている。
一般に、免疫結合(immunobinding)方法は、Aβタンパク質を含有する疑いがある試料を得るステップと、試料を、第1の抗体である、本発明によるAβに特異的なモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体と、場合によって、免疫複合体(immunocomplex)の形成を可能にするのに有効な条件下で接触させるステップとを含む。
免疫結合方法は、試料中のAβタンパク質の量を検出および定量するための方法ならびに結合プロセスの間に形成されるあらゆる免疫複合体(immune complex)の検出および定量を含む。ここで、Aβタンパク質を含有する疑いがある試料を得、試料を本発明の抗体断片と接触させ、次いで、特定の条件下で形成された免疫複合体の量を検出および定量する。
選択された生体試料と抗体を、免疫複合体(一次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下、十分な期間にわたって接触させることは、一般に、単に抗体組成物を試料に添加し、混合物を、抗体が存在する任意の抗原と免疫複合体を形成する、すなわち、それと結合するのに十分に長い期間にわたってインキュベートすることである。この期間後、組織切片、ELISAプレート、ドットブロットまたはウエスタンブロットなどの試料−抗体組成物を、一般に、洗浄してあらゆる非特異的に結合した抗体種を除去し、それにより、一次免疫複合体内の特異的に結合したscFv分子のみを検出することを可能にする。
一般に、免疫複合体(immunocomplex)形成の検出は、当技術分野で周知であり、多数の手法を適用することによって実現することができる。これらの方法は、一般に、放射性タグ、蛍光タグ、生物学的タグおよび酵素的タグのいずれかなどの標識またはマーカーの検出に基づく。そのような標識の使用に関する米国特許としては、米国特許第3,817,837号;同第3,850,752号;同第3,939,350号;同第3,996,345号;同第4,277,437号;同第4,275,149号および同第4,366,241号が挙げられ、それぞれが参照により本明細書に組み込まれる。当然、当技術分野で公知の通り、第2の抗体および/またはビオチン/アビジンリガンド結合性配置などの二次結合性リガンドを使用することによって追加の利点を見いだすことができる。
上記の通り、タンパク質検出分子(すなわち、抗体または抗体断片などの結合性リガンド)はそれ自体を検出可能な標識と連結することができ、その場合、次いで、この標識を単に検出し、それにより、組成物中の一次免疫複合体の量を決定することが可能になる。あるいは、一次免疫複合体内に結合した状態になる第1の抗体は、抗体に対する結合親和性を有する第2の結合性リガンドによって検出することができる。これらの場合には、第2の結合性リガンドは、検出可能な標識と連結することができる。第2の結合性リガンドは、多くの場合、それ自体が抗体であり、したがって、「二次」抗体と称することができる。一次免疫複合体を、標識した二次結合性リガンド、または抗体と、二次免疫複合体の形成を可能にするのに有効な条件下、十分な期間にわたって接触させる。次いで、二次免疫複合体を、一般に、洗浄してあらゆる非特異的に結合した標識二次抗体またはリガンドを除去し、次いで、二次免疫複合体内の残りの標識を検出する。
別の方法は、二段階手法によって一次免疫複合体を検出することを含む。第1の結合性リガンドに対する結合親和性を有する、抗体などの第2の結合性リガンドを使用して、上記の通り二次免疫複合体を形成させる。洗浄後、二次免疫複合体を、第2の抗体に対する結合親和性を有する第3の結合性リガンドまたは抗体と、再度、免疫複合体(三次免疫複合体)の形成を可能にするのに有効な条件下、十分な期間にわたって接触させる。第3のリガンドまたは抗体を検出可能な標識と連結し、それにより、このように形成された三次免疫複合体の検出を可能にする。この系は、望ましい場合にはシグナル増幅をもたらすことができる。
上記の通り、イムノアッセイは、それらの最も単純かつ/または直接的な意味では、結合アッセイである。ある特定の好ましいイムノアッセイは、当技術分野で公知の種々の型の酵素結合免疫吸着検定法(ELISA)および/またはラジオイムノアッセイ(RIA)である。組織切片を使用した免疫組織化学的検出も特に有用である。しかし、検出はそのような技法に限定されず、かつ/またはウエスタンブロッティング、ドットブロッティング、FACS分析、および/もしくは同様のものも使用できることが容易に理解されよう。
1つの例示的なELISAでは、ポリスチレンマイクロタイタープレートのウェルなどの、タンパク質親和性を示す選択された表面上に抗体を固定化する。次いで、臨床試料(例えば、被験体から得た生体試料)などの、Aβタンパク質を含有する疑いがある試験組成物をウェルに添加する。結合させ、かつ/または洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗原を検出することができる。検出は、一般に、検出可能な標識と連結した別の抗体を添加することによって実現される。この型のELISAは、単純な「サンドイッチELISA」である。検出は、第2の抗体を添加し、その後、第2の抗体に対する結合親和性を有する、検出可能な標識と連結した第3の抗体を添加することによっても実現することができる。
別の例示的なELISAでは、抗原を含有する疑いがある試料をウェルの表面に固定化し、かつ/または、次いで結合性作用物質(binding agent)と接触させる。結合させ、かつ/または洗浄して非特異的に結合した免疫複合体を除去した後、結合した抗結合性作用物質を検出する。最初の結合性作用物質が検出可能な標識と連結している場合、免疫複合体を直接検出することができる。重ねて、免疫複合体は、第1の結合性作用物質に対する結合親和性を有する、検出可能な標識と連結した第2の抗体を使用して検出することができる。
抗原を固定化する別のELISAは、検出に抗体競合の使用を伴う。このELISAでは、抗原に対する標識した抗体をウェルに添加し、結合させ、かつ/またはそれらの標識によって検出する。次いで、未知の試料中の抗原の量を、試料と、抗原に対する標識した抗体とを、コーティングしたウェルを用いてインキュベートしている間に混合することによって決定する。試料中に抗原が存在することは、ウェルとの結合に利用可能な抗原に対する抗体の量が減少するように、したがって、最終的なシグナルが減少するように作用する。これは、標識されていない抗体が抗原でコーティングしたウェルと結合し、標識した抗体との結合に利用可能な抗原の量も減少させる場合の、未知の試料中の抗原に対する抗体を検出することにも適する。
使用されるフォーマットに関係なく、ELISAには、コーティングすること、インキュベートすること、および結合させ、洗浄して非特異的に結合した種を除去すること、および結合した免疫複合体を検出することなどの、ある特定の共通した特徴がある。
ELISAでは、直接的な手順よりも二次または三次検出手段を使用することの方がおそらくより習慣的である。したがって、タンパク質または抗体をウェルに結合させ、バックグラウンドを減少させるために非反応性材料でコーティングし、洗浄して結合していない材料を除去した後、固定化表面と試験される生体試料を、免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下で接触させる。次いで、免疫複合体の検出には、標識した二次結合性リガンドまたは抗体、および二次結合性リガンドまたは抗体と併せて標識した三次抗体または第3の結合性リガンドが必要である。
「免疫複合体(抗原/抗体)形成を可能にするのに有効な条件下で」とは、条件が、好ましくは、tauオリゴマーおよび/またはscFv組成物をBSA、ウシガンマグロブリン(BGG)またはリン酸緩衝食塩水(PBS)/Tweenなどの溶液で希釈することを含むことを意味する。これらの添加作用物質は、非特異的なバックグラウンドの減少にも役立つ傾向がある。
「適切な」条件とは、インキュベーションが、有効な結合を可能にするのに十分な温度であるまたは十分な期間にわたることも意味する。インキュベーションステップは、一般には、好ましくはおよそ25℃〜27℃の温度で、約1〜2〜4時間ほどである、または約4℃ほどで一晩であり得る。
ELISAでの全てのインキュベーションステップの後、接触させた表面を洗浄して、複合体を形成していない材料を除去する。洗浄手順の例は、PBS/Tween、またはホウ酸緩衝液などの溶液で洗浄することを含む。試験試料と最初に結合した材料との間で特異的な免疫複合体が形成され、その後洗浄した後、微量の免疫複合体の出現さえも決定することができる。
検出手段をもたらすために、第2または第3の抗体は、検出を可能にするための会合した標識を有する。これは、適切な発色基質と一緒にインキュベートすると発色を生じる酵素であってよい。したがって、例えば、第1および第2の免疫複合体をウレアーゼ、グルコースオキシダーゼ、アルカリホスファターゼまたは水素ペルオキシダーゼ(hydrogen peroxidase)とコンジュゲートした抗体と一緒に、さらなる免疫複合体形成が生じるのに有利な期間および条件下で接触またはインキュベートすること(例えば、PBS−TweenなどのPBSを含有する溶液中、室温で2時間のインキュベーション)が望まれる。
標識した抗体と一緒にインキュベートし、その後洗浄して結合していない材料を除去した後に、標識の量を、例えば、発色基質、例えば、尿素、もしくはブロモクレゾールパープル、またはペルオキシダーゼの場合では酵素標識として、2,2’−アジノ−ジ−(3−エチル−ベンゾチアゾリン−6−スルホン酸(ABTS)、もしくはH2O2などと一緒にインキュベートすることによって定量する。次いで、生じた色の程度を、例えば、可視スペクトル分光光度計を使用して測定することによって定量を実現する。
(実施例1)
アミロイド沈着の進行の変化
この実施例では、app/psマウスにおいて、アデノ随伴ウイルス血清型4(AAV4)の脳室内注射による異なるApoEアイソフォームの過剰発現後のアミロイド沈着の進行の変化を研究した。
ApoEのイプシロン4対立遺伝子(ApoE ε4)はアルツハイマー病(AD)についての第1の遺伝的リスク因子であるが、一方、ApoEの稀なイプシロン2対立遺伝子(ApoE ε2)の遺伝により、このリスクは約半分まで低下する。しかし、ほぼ17年前にこれらの強力な遺伝学的な手がかりが発見されたにもかかわらず、ApoEによりリスクが付与される機構は不確かなままである。
異なるApoEアイソフォーム(ApoE ε2、ε3およびε4)が線維状アミロイド斑の形成および安定性にどのように影響するかを解読するために、各ApoEアイソフォームをコードするAAV4ベクターを7カ月齢のAPP/PSマウスの脳室内に注射した。in vivo多光子イメージングを使用して、ベースラインのときおよびApoEに曝露した後、2カ月の間隔にわたってアミロイド沈着の集団を追跡し、このように、生きている動物におけるアミロイドーシス進行の動的観察を可能にした。
アミロイド斑沈着の動態は各アイソフォームに応じて変動することが観察され、したがって、2カ月後に、ApoE ε3と比較して、ApoE ε4の注射を受けたマウスでは老人斑が38%増加したが、ApoE ε2による処置を受けたマウスではアミロイド沈着の数の15%の低下が示された。死後分析により、これらの結果が確認され、また、皮質内の斑を修飾するヒトApoEタンパク質が存在することが明らかになり、これは、タンパク質が実質全体にわたって大きく拡散していること、およびAβペプチドが沈着するところに限局的に蓄積していることを反映する。このApoE ε4タンパク質の含有量の増加が、アミロイド沈着の周囲のシナプス消失がより重度であることにも関連していたことに留意することが重要である。
全体として、本データから、異なるApoEアイソフォームの過剰産生によって疾患の進行に影響を及ぼすことができ、AD患者における認知障害と最もよく相関するパラメータの1つであるシナプス消失の程度を調節することができることが実証された。
1.AAV4−ApoEの脳室内注射により、脳におけるhuApoEの安定発現および組換えヒトApoE(huApoE)タンパク質の持続的検出が導かれた。
簡単に述べると、AAV4ベクターの注射を受けたAPP/PSマウスにおいてGFPおよびhuApoEを免疫検出した。GFPシグナルは脳室領域全体(上のパネル)および脳室内側を覆う細胞において観察することができ、ヒトAPOEも同様であった。
本手法を評価するために、AAV4−Venus(対照)、AAV4−ApoE2、AAV4−ApoE3およびAAV4−ApoE4を野生型マウスの脳室に注射した。注射の2カ月後、アミロイド沈着の周囲の皮質実質においてヒトApoEタンパク質を検出することができた(3H1抗体;AAV4−GFPの注射を受けたマウスでは非特異的なバックグラウンドのみが観察されたことに留意されたい)。したがって、脳におけるELISAによって有意なレベルのヒトApoEが検出され、VenusおよびApoEについての免疫組織学的染色により、異なる導入遺伝子が脳室内側を覆う細胞により発現されることが確認された。
導入遺伝子のmRNAレベルを評価するために、qRT−PCR実験を実施した。標準曲線により、huApoE mRNAの濃度を内因性GAPDHのレベルに応じて決定することが可能になった。2カ月または5カ月にわたって曝露したマウス由来の試料を含めた。ヒトAPOEを特異的に検出するために設計したELISAアッセイを脳ホモジネートに対して実施した(図1A)。ヒトAPOEに特異的なELISAによって定量し(図1B)、ウエスタンブロットによって確認した通り、AAV4−APOEの注射を受けたマウスでは、AAV4−GFPによる処置を受けた動物と比較して、低レベルの組換えタンパク質を検出することができた。
2.APOEの各アイソフォームの過剰発現はアミロイドーシスの進行に示差的に影響を及ぼす。
in vivo二光子イメージングを使用して、生きている動物におけるアミロイド沈着を経時的に追跡した。簡単に述べると、APP/PSマウス(7カ月齢)に、ApoE2をコードするAAV4ベクター、ApoE3をコードするAAV4ベクター、ApoE4をコードするAAV4ベクターおよびVenusをコードするAAV4ベクターを定位で注射した。1週間後、頭蓋窓(cranial window)を埋め込み、開頭術後、経時的にアミロイド沈着を画像化した。2カ月後、動物を屠殺し、死後分析を実施した。
AAV4−ApoE2、AAV4−ApoE3またはAAV4−ApoE4の注射を受けたAPP/PSマウスの二光子画像を調製した。メトキシ−XO4(5mg/kg)を腹腔内注射後にアミロイド斑を検出することができ、Texas Redデキストラン(分子量70,000Da;滅菌PBS中12.5mg/ml)を外側尾静脈内に注射して、蛍光血管造影図をもたらした。画像を注射の1週間後(=T0)、1カ月後および2カ月後に取得した。同じ視野を経時的に捕捉して病変の進行を追跡した。わずかな新しいアミロイド沈着が出現したが、そのうちの少数は2カ月の期間にわたって、もはや検出することができなかった。
in vivo画像の完全な分析により、AAV4−ApoE4の注射を受けたAPP/PSマウスにおいて、AAV4−ApoE3による処置を受けた動物とAAV4−Venusによる処置を受けた動物のどちらと比較してもアミロイド沈着の数が有意により急速に増加することが示される。対照的に、AAV4−ApoE2を使用した場合、斑の密度の小さいが有意な低下が測定される(図2)。AAV4−ApoE4の注射を受けたAPP/PSマウスでは、斑が大きくなる傾向が観察されるが(p<0.06)、全体的に斑のサイズは一定のままである。in vivoイメージングの要約データから、各APOEアイソフォームの過剰発現が、in vivoにおけるアミロイド沈着の進行に示差的に影響を及ぼすことが示される。AAV4−ApoE2を注射するとアミロイド密度のわずかな低下が経時的にもたらされるが、AAV4−ApoE4を注射するとアミロイドーシスが悪化する。
3.アミロイド斑のサイズは各ApoEアイソフォームに応じて変動する。
in vivo二光子イメージングにより、2カ月にわたって各アミロイド沈着のサイズの変化を追跡することが可能であった。斑のサイズは、経時的に安定なままであるか、増加するかまたは低下したままであり得る。T1/T0とT2/T1のサイズ比の分布により、AAV4−ApoE4の注射を受けたマウスでは他の群と比較してアミロイド斑が大きい方にシフトすることが示される(図3)。
4.アミロイド負荷量(load)の死後評価により、ApoE2およびApoE4のアミロイド沈着に対する影響が確認される。
AAV4注射の2カ月後、死後立体解析評価により、AAV4−ApoE4の注射を受けた動物では皮質におけるアミロイド斑の密度が高いことが明らかになったが、他の群の間では差異を検出することはできなかった(図4A)。このアミロイド沈着の数の増加は、斑をThioSまたはBam10で標識すると観察される。しかし、Bam10とThioSの比の変化は検出されなかった。注射の5カ月後の各ApoEアイソフォームの影響は2カ月後と比較してより著しいものである(図4B)。マウスがAAV4−ApoE4の注射を受けた場合には沈着の密度の有意な増加が観察されたが、ApoE2を用いると逆の効果が検出された。重ねて、Bam10とThioSの比の変化は検出されなかった。
5.各ApoEアイソフォームはアミロイド沈着周囲のシナプス密度に示差的に影響を及ぼす。
アレイ断層撮影法を使用して、アミロイド沈着の周囲のシナプス前部要素およびシナプス後部要素の密度を正確に決定した。この新しい画像化方法により、組織分子アーキテクチャの高分解能イメージングの能力がもたらされる。アレイ断層撮影法は、検体の超薄切片作製(70nm)、免疫染色および3D再構成に基づく。アレイ断層撮影法試料の代表的な画像はアミロイド斑およびシナプス後部マーカーPSD95について染色したものあった。アレイ断層撮影法画像により、アミロイド沈着の周囲のシナプス後部マーカーPSD95の数の低下が観察されるが、この影響は斑から離れると消失することが示される。AAV4の注射を受けたマウスの各群において、斑の近くまたは遠くにおけるシナプス前部マーカー(シナプシン−1)およびシナプス後部マーカーの定量を決定した(図5A〜D)。シナプス前部要素およびシナプス後部要素の広範囲にわたる定量により、シナプシン1およびPSD95の密度の低下がアミロイド斑に関連し、この影響は、APP/PS1マウスの脳においてApoE4が過剰発現すると劇的に増幅されることが確認された(図5C、図5D)。ApoE4の過剰発現は、他の群と比較してアミロイド沈着の付近におけるスパインの消失が増加することと関連する。逆に、ApoE2による処置を受けた動物では斑の周囲のシナプシン斑点(synapsin punctum)の密度が高い。
結論
AAVウイルス血清型4の脳室内注射により、大脳実質全体にわたって、可溶性組換えタンパク質の持続的な長期にわたる過剰産生が導かれた。ApoE2、ApoE3およびApoE4の過剰発現は、APP/PSマウスにおける病理の過程に示差的に影響を及ぼし、したがって、ApoE4の注射を受けた場合、ApoE3と比較してアミロイド負荷の進行が有意に増大した。逆に、ApoE2は保護性の効果と関連し、注射の2カ月後には少数のアミロイド沈着はもはや検出可能ではない。死後免疫組織学的分析により、ApoE4の有害作用が確認された。ApoE4の持続的な過剰産生により、アミロイド沈着の周囲で観察されるシナプス消失がApoE3と比較して悪化するが、ApoE2では軽度の影響が見られた。本研究により、in vivoにおけるApoEアイソフォーム、アミロイドーシス進行およびシナプス消失の直接の関係が実証された。
(実施例2)
大きな哺乳動物における、脳脊髄液(CSF)を介した中枢神経系障害の処置
アルツハイマー病などの脳障害に対する遺伝子療法を実現するためには、哺乳動物において、長期間にわたって治療用酵素の定常状態のレベルを実現することができるかどうかを決定することが必要である。上衣細胞(脳の脳室に位置する細胞)を形質導入し、標的化した酵素を脳脊髄液(CSF)中に分泌させることができることが発見された。アデノ随伴ウイルス(AAV4)により、マウスモデルにおける上衣を高い効率で形質導入することができることが決定された。(Davidsonら、PNAS、28巻:3428〜3432頁、2000年)。マウスでは、AAV4処置後に疾患脳内の貯蔵基質レベルが正常化した。
CSF中の酵素の定常状態のレベルを実現するためにベクターの全体的な送達が有効に実施できたかどうかを調査した。まず、ベクターにより大きな哺乳動物の脳内の上衣細胞(脳室の内側を覆う細胞)に形質導入できたことが見いだされる必要があった。LINCLのイヌモデルおよびLINCLの非ヒト霊長類モデルにおいて研究を実施した。LINCLイヌは出生時には正常であるが、約7カ月の時点で神経性の徴候が発生し、約5〜6カ月の時点で試験可能な失認が発生し、10〜11カ月の時点で発作および進行性失明が発生する。
アデノ随伴ウイルス(AAV)は、サイズが小さく(20nm)、その遺伝物質の大部分を除去する(「完全に破壊する」)ことができ、したがってウイルス遺伝子が存在せず、したがって複製インコンピテントであるので、これをベクターとして選択した。アデノ随伴ウイルス4型(AAV4)ベクターは、ベータグルクロニダーゼ欠損によって引き起こされるVII型ムコ多糖症(MPS VII)のマウスモデルにおける全体的な機能性および病理学的改善を媒介することができるかどうかは以前に試験されている(Liuら、J. Neuroscience、25巻(41号):9321〜9327頁、2005年)。ベータグルクロニダーゼをコードする組換えAAV4ベクターを、確立した疾患を有するMPS VIIマウスの側脳室(lateral ventricle)に片側性に注射した。形質導入された上衣は高レベルの組換え酵素を発現し、分泌された酵素が大脳および小脳の構造、ならびに脳幹に浸透した。免疫組織化学的研究により、組換え酵素と脳微小血管系の密接な関連性が明らかになり、これにより、ベータグルクロニダーゼが血管の内側を覆う血管周囲空間を介して脳実質に到達したことが示された。嫌悪連合学習を恐怖条件付けの状況で試験した。年齢を釣り合わせたヘテロ接合性対照と比較して、罹患しているマウスでは、条件恐怖反応および文脈識別が損なわれた。この行動欠陥は、AAV4ベータグルクロニダーゼによる処置を受けたMPS VIIマウスでは遺伝子移入の6週間後に逆転した。データから、上衣細胞が、周囲の脳実質およびCSF中に分泌される酵素の供給源としての機能を果たし得ることが示される。
しかし、驚いたことに、これらの研究を大きな哺乳動物(すなわち、イヌおよび非ヒト霊長類)に拡張すると、AAV4ベクターは、これらの動物における上衣の標的化において有効ではなかった。その代わりに、AAV2ベクターを使用する必要があった。簡単に述べると、TPP1(AAV2−CLN2)をコードするrAAV2を生成し、上衣に形質導入するために脳室内に注射した(Liuら、J. Neuroscience、25巻(41号):9321〜9327頁、2005年)。TPP1は、LINCLが欠損した酵素である。データから、NHP脳における上衣への形質導入により、CSF中の酵素の有意な増加がもたらされることが示された。結果から、種々の脳領域におけるTPP1活性のレベルの上昇が示された。ここで、垂直方向の軸は活性の対照に対する%を示す(図7)。
処置した最初のイヌでは、ベクターの送達は最適以下であったが、それでも脳においてCLN2活性が示された。その後のイヌには定位脳手術を用いてICV送達を行った。T迷路動作によって測定して、処置したイヌの認知能力が無処置のイヌを凌駕して有意に改善されたことが見いだされた(図8)。さらに、LINCLのイヌモデルにおけるAAV2−CLN2のICV送達の影響は非常に著しいものであった。無処置の(−/−)動物では、大きな脳室が存在するが、無処置の対照および処置した動物の脳では脳室は示されなかった。AAV.TPP1をLINCLイヌの脳室に送達した後、小脳および上部脊髄を含めた種々の脳領域において検出可能な酵素活性が認められた。生きている追加の罹患しているイヌ2匹では、脳萎縮は有意に減弱し、寿命が延び、認知機能が改善された。最後に、本発明者らは、NHPでは、この方法により、野生型を2〜5倍上回るTPP1活性レベルを実現できることを示す。
いくつかのAAVベクターを生成し、ITRとカプシドの最適な組合せを決定するために試験した。AAV2 ITRが最も有効であることが決定されたら、5つの異なる組合せを作製した:AAV2/1(すなわち、AAV2 ITRおよびAAV1カプシド)、AAV2/2、AAV2/4、AAV2/5、およびAAV2/8。大きな哺乳動物(イヌおよびNHP)では、AAV2/2がはるかに良好に機能し、その後にAAV2/8、AAV2/5、AAV2/1およびAAV2/4が続くことが発見された。これは、ウイルスベクターの効果の順位がマウスで観察されたものと逆であったので、かなり驚くべきことであった。
したがって、本研究により、脳室内側を覆う細胞が、脳全体にわたって分布させるためのCSF中の組換え酵素の供給源になり得ること、およびAAV2/2が、イヌおよび非ヒト霊長類においてCLN2(TPP1)をコードする遺伝子などの治療用作用物質を投与するための有効なビヒクルであることが示された。
(実施例3)
遺伝子移入によって送達されたヒトAPOEアイソフォームは、アミロイド沈着、クリアランス、および神経毒性に影響を及ぼすことによってアルツハイマー病を示差的に調節する
アルツハイマー病(AD)は、最も頻度の高い加齢性の神経変性障害であり、主要な公衆衛生の懸念になっている。遅発性散発性型のADに関連する易罹患性遺伝子の中でも、アポリポタンパク質E ε4(APOE−遺伝子;ApoE−タンパク質)対立遺伝子は、最も有意な遺伝的リスク因子である。APOE ε4が1コピー存在することにより、疾患が発生するリスクが最も一般的なAPOE ε3対立遺伝子と比較して3倍に実質的に上昇し、2コピーでは12倍の上昇がもたらされる。興味深いことに、APOE ε2は逆の影響を有し、保護性因子であり、したがって、この特定の対立遺伝子の遺伝により、年齢を調整したADのリスクがAPOE3/3と比較して約半分に低下する。認知症の平均発症年齢もこれらのリスクプロファイルに対応し、APOE4/4保有者は60代半ばで発症し、APOE2/3保有者は、ほぼ30年シフトして90代前半で発症し、APOE3/3個体の発症年齢はそれらの中間の1970年代半ばである。
ApoEがADに影響を及ぼす機構は議論の的になっている。患者の海馬および皮質におけるAβを含有する老人斑の蓄積は、稀な常染色体優性型の疾患に関与する公知の遺伝子が全てAβペプチドの産生に関与するので、ADにおいて中心的な役割を果たすと考えられる。興味深いことに、APOE遺伝子型は、ADの患者におけるアミロイド沈着の程度ならびに剖検試料において検出される神経毒性可溶性オリゴマーAβの量に強力に影響を及ぼすことが示された。ApoEアイソフォームは、脳血管の完全性に示差的に影響を及ぼし、また、血液脳関門を通じたAβペプチドの流出に影響を及ぼし、したがって、血管周囲へのアミロイド凝集体の集積(脳アミロイド血管症またはCAA)を調節することが示唆されている。さらに、ApoEは、神経変性およびニューロン可塑性とも直接関連付けられている。ApoE2の影響は、これらの状況で相対的に研究中である。
ヒトAPOE2、ヒトAPOE3およびヒトAPOE4を発現する遺伝子操作された動物は、ヒトと同様のアミロイド負荷量(burden)の順位を有し、これは、異なるApoEアイソフォームが斑の開始および/または成長に影響を及ぼすという仮説と一致する。しかし、現存するアミロイド沈着に対する、および現存する神経変性に対する、ApoEに媒介される影響の機構を詳細に分析するためにはさらなる研究が必要である。知見のこのギャップを克服するために、本発明者らは、種々のAPOE対立遺伝子(またはGFP対照)を発現するアデノ随伴ウイルスベクターを側脳室内に注射して、第一に上衣を形質導入し、その後、それがApoEを脳脊髄液および間質液内に送達するための生物学的工場としての機能を果たす、遺伝子移入手法を使用した。次いで、本発明者らは、斑の形成、成長、およびApoE2の場合では溶解に対する種々のApoEアイソフォームの影響を追跡するために生体内多光子顕微鏡法を使用し、ISF中のApoEおよびAβ生化学的変数をモニターするためにin vivo微量透析手法を使用し、Aβ関連神経毒性の変化を評価するためにアレイ断層撮影法を使用した。本発明者らは、ApoEアイソフォームがISF中の可溶性オリゴマーAβのレベル、Aβの線維化および沈着のペース、一度形成されたアミロイド沈着の安定性、それらのクリアランス、ならびに斑周囲の神経毒性作用の程度に影響を及ぼすことを見いだした。実際に、ApoE4による処置を受けたADマウスでは、可溶性Aβの量の増強、より高密度の線維状斑、シナプス要素消失の増悪および各沈着の周囲の神経突起ジストロフィーの数の増加が示されるが、ApoE2を用いると相対的に保護性の効果が観察された。これらのデータから、APOE対立遺伝子が、ADに対するそれらの影響を主にAβを通じて媒介するという仮説が支持され、ApoEが治療上の標的として強調される。
結果
AAV4−APOEの脳室内注射により、脳における安定なAPOE発現およびヒトApoEの持続的産生がもたらされる
アポリポタンパク質Eは、主にアストロサイトおよび小膠細胞によって産生され、大脳実質全体にわたって拡散し得る天然に分泌されるタンパク質である。本発明者らは、GFP(対照)または各APOE対立遺伝子をコードするAAV血清型4を7カ月齢のAPP/PS1マウスの側脳室(lateral cerebral ventricle)に注射することにより、この特性を利用した。大脳領域がADの独特の病変の影響を受けることを考慮すると、この戦略は、複数の実質内注射と比較して大きな利点をもたらすものであった。
注射の2カ月後、形質導入された細胞が脈絡叢および脳室の内側を覆う上衣において検出され、したがって、AAV4ベクターの機能性が確認された。各種に特異的な抗体を使用して、ヒトApoEタンパク質とマウスApoEタンパク質もELISA(図9A、9Bおよび15A)およびウエスタンブロットによって検出された。本発明者らにより、ヒトアポリポタンパク質Eの濃度が平均で総タンパク質量1mg当たり20μgに達したことが観察され(図9A)、これは、内因性マウスapoEの約10%を表す(図9B)。このそれほど大きくない追加量のヒトApoEの存在により、内因性マウスapoEタンパク質のレベルは検出可能には変更されなかった(図15A)。AAV4注射の2カ月後から5カ月後の間に、小さいが統計的に有意な低下が観察された(図15B)。それにもかかわらず、ヒトタンパク質のレベルは、対照群と比較して、検出可能なままであり、これにより、AAV4媒介性形質導入によって実質全体にわたる分泌型組換えタンパク質の持続的産生のプラットフォームがもたらされたことが示唆された。実際に、内因性マウスapoEタンパク質が蓄積することが公知である皮質外套全体にわたってAPP/PS1マウスのアミロイド沈着の周囲にヒトApoEタンパク質を検出することができた。
次に、本発明者らは、高度に生物学的活性のあるAβ可溶性種も含有する細胞外区画である間質液(ISF)中のヒトApoEの存在を評価した。脳全体の溶解物中に比較的少量のApoEが検出されたので、本発明者らは、いくつかのapoE KOマウスに各AAV4−APOEベクターを注射し、高感度であるが非種特異的な抗体を使用してヒトタンパク質の存在を追跡した。微量透析技法を使用して、本発明者らは、注射を受けたapoE KO動物のISF中のApoEの存在を確認した。
全体として、これらのデータから、脳実質全体にわたる、およびISF中での目的のタンパク質の持続的産生を導くにはAAV4の単回の脳室内注射が十分であること、ならびに、上衣/脈絡叢を、潜在的な治療用タンパク質を脳に送達するための「生物学的ポンプ」として使用することができることが確認される。
ApoEアイソフォームの注入は、アミロイドペプチドおよび斑の沈着に示差的に影響を及ぼす
安楽死の前5カ月間、APP/PS1マウスに、GFPまたは種々のApoEアイソフォームを発現するベクターを用いて形質導入した。アミロイド斑負荷量(load)の分析により、5カ月後に、AAV4−APOE4の注射を受けた動物の皮質において、APOE2を発現する動物と比較して、アミロイド沈着の密度の有意な上昇が観察されたことが明らかになった。AAV4−GFPによる処置を受けたマウスおよびAAV4−APOE3による処置を受けたマウスにおける斑の密度は、中間のレベルであり、互いと異ならなかった(図16A)。
ギ酸抽出物から測定したAβ40ペプチドおよびAβ42ペプチドの濃度はアミロイド斑含有量について観察された変化を模倣し、したがって、5カ月後に、APOE4対立遺伝子を発現するマウスではアミロイドペプチドの濃度の上昇が見いだされ(図16B)、APOE2を用いた場合には逆の効果が検出された。TBS可溶性画分中のAβ40ペプチドおよびAβ42ペプチドの含有量は、各AAV−APOEの注射の影響を同様に受けた(図16C)。さらに、凝集Aβペプチドと可溶性Aβペプチドの比は、ApoE曝露によって変化しないままであり、したがって、別個のヒトApoEアイソフォームのそれぞれの過剰発現により、線維状アミロイド種および可溶性アミロイド種の両方が同時に調節されることが示唆された。
2カ月のみにわたる各ApoEアイソフォームの過剰発現により、5カ月の研究において観察されたものよりも小さな影響がもたらされる。それにもかかわらず、他の実験群と比較して、AAV4−APOE4の注射を受けたマウスの皮質領域内のアミロイド斑の密度の有意な上昇が観察された(図16A)。これは、ギ酸画分中に含有されるAβの量と類似し(図16C)、これにより、この特定の変異体の優勢な影響が実証された。TBS可溶性Aβ40/42種は、それぞれAAV4−APOE2またはAAV4−APOE4を2カ月にわたって発現させると、少なくなるまたは多くなる傾向のみを示した(データは示していない)。
ヒトApoEアイソフォームの存在がAβの線維化の程度の初期変化を反映し得るかどうかを決定するために、本発明者らは、注射の2カ月後の、Bam10を使用したAβについてのロバストな免疫染色(全てのアミロイド沈着を標識する)とThio−Sを使用したAβについてのロバストな免疫染色(密集したコアのみを染色する)の比も測定した。3種のアイソフォームの中で変化は検出されず、これにより、この時間枠内で、密集したアミロイド沈着集団および拡散したアミロイド沈着集団の分布に対して実験群の間で示差的な影響はなかったことが示唆された(図16B)。これらのデータから、ApoE変異体への曝露が長い方が、短い曝露よりもアミロイド沈着に対する影響が強力であることが示される。
ApoEは、血液脳関門を横切るAβ輸送において役割を果たすことが示唆されている。ApoEアイソフォームへの曝露により血液脳関門を通るAβペプチドの流出を調節することができるかどうかを試験するために、注射を受けた各動物の血漿中のAβ40の濃度を測定した。本発明者らにより、AAV4−APOE3を脳室内注射したマウスおよびAAV4−APOE4を脳室内注射したマウスのヒトAβの血漿中含有量はどちらも、AAV4−APOE2およびAAV4−GFPと比較して少ないことが観察された(図10D)。これにより、E3変異体とE4変異体はどちらも、Aβを中枢神経系区画内に保持する助けとなることが示唆され、これは、観察した大脳実質におけるAβの相対的な濃度の上昇、およびApoEに起因したAβの半減期の増強が示唆される以前のデータと一致する。
APOE4保有者は、神経血管の機能障害にかかりやすく、APOE4トランスジェニックマウスでは、アミロイド沈着の不在下でさえ血液脳関門の崩壊が好都合であることが最近示された。APP/PSにおけるAAV4−APOEの脳室内注射によりBBBの完全性が損なわれ得るかどうかを評価するために、プルシアンブルーを用いた死後染色を実施した。全群において脳にわたって低密度に拡散したヘモジデリン陽性病巣領域がわずかに存在するにもかかわらず、動物の実験群のいずれの間でも明白な差異は観察されなかった。
ApoEアイソフォームの発現によりアミロイドーシスの進行の動態が調節される
ApoE4はアミロイド沈着の密度の上昇に関連したが、ApoE2を用いると5カ月後に逆の効果が観察された。これは、アミロイドβの沈着、クリアランス、またはその両方の速度の変化を反映する可能性がある。ApoE変異体が動的なアミロイドーシスの進行にどのように影響を及ぼすかを評価するために、本発明者らは、in vivo二光子イメージングを使用し、アミロイド斑の形成およびクリアランスの動態を追跡した。7カ月齢のマウスにAAV4ベクターを脳室内注射し、第1のイメージングセッション(T0)を実施するために、注射の1週間後に頭蓋窓を埋め込んだ。1カ月後(T1)および2カ月後(T2)に、同じ視野のアミロイド沈着を画像化した。第2のイメージングセッション後、マウスを死後分析のために安楽死させた。
2カ月の期間にわたって小さな視野体積においてアミロイド沈着の大部分は安定なままであったが、時々新しい斑を検出することができた。さらに、稀な場合、実験の開始のときに画像化されたメトキシ陽性斑は、1カ月後または2カ月後には検出することができず、これにより、いくつかの斑が除去され得たことが示唆される。経時的に、本発明者らは、容積測定によるアミロイド沈着の密度の全体的な上昇を観察し、T2における密度は平均でT1よりも23%大きかった。アミロイド進行の速度は、ApoE4による処置を受けたAPP/PS1マウスにおいてより速かったが、ApoE2に曝露した動物では、2カ月後に、GFP(0.66)、ApoE3(0.67)およびApoE4(0.74)と比較してアミロイド沈着の密度が有意に低下した(図11A、11B)。重要なことに、ApoE2による変化は、ベースラインからの低下を反映し、これにより、直接、および初めて、斑の非免疫媒介性活性クリアランスが示される。APOEトランスジェニック動物から得られたデータとは対照的に、これらの結果から、アミロイド沈着がすでに開始した後でも、ApoEの量のそれほど大きくない増加を誘導することにより、進行中のアミロイド形成プロセスに影響を及ぼすことができることが実証される。
本発明者らは、次に、単一のアミロイド斑の成長を、T1/T0とT2/T1の間の個々の沈着の断面積の比を測定することによって評価した。T1(T1/T0比)では群間で差異が検出されたが、T2(T2/T1比、図12)では差異は検出されず、これにより、ヒトApoE変異体の存在は、曝露後1カ月の間の斑の成長に主に影響を及ぼすが、このパラメータは、その後は異ならないことが示唆される。具体的には、アミロイド沈着のサイズは、ApoE4による処置を受けたマウスにおいて、ApoE2およびApoE3のどちらと比較しても有意に成長が大きく、これにより、この対立遺伝子によって斑の数だけでなくそれらのサイズも悪化したことが示唆される。したがって、ApoE4は、Aβペプチドの播種ならびに既存の斑のサイズの両方に影響を及ぼす。
アミロイド沈着周囲のシナプス密度は、ApoE3およびApoE4アイソフォームにより、ApoE2と比較して悪化する
シナプス消失は、認知障害と最もよく相関するパラメータである。本発明者らは最近、ApoE4の存在が、ヒトAD患者の脳における高レベルのシナプスオリゴマーAβと関連し、ApoE3と比較してアミロイド斑周囲のシナプス密度を有意に低下させることを示した(R. M. Koffieら、Apolipoprotein E4 effects in Alzheimer's disease are mediated by synaptotoxic oligomeric amyloid-beta. Brain 135巻、2155頁(2012年7月);T. Hashimotoら、Apolipoprotein E, Especially Apolipoprotein E4, Increases the Oligomerization of Amyloid beta Peptide. J Neurosci 32巻、15181頁(2012年10月24日))。さらに、最近のin vitroにおける証拠により、ApoE4はAβに誘導されるシナプス消失からの保護ができないことが実証された(M. Buttiniら、Modulation of Alzheimer-like synaptic and cholinergic deficits in transgenic mice by human apolipoprotein E depends on isoform, aging, and overexpression of amyloid beta peptides but not on plaque formation. J Neurosci 22巻、10539頁(2002年12月15日);A. Sen、D. L. Alkon、T. J. Nelson、Apolipoprotein E3 (ApoE3) but not ApoE4 protects against synaptic loss through increased expression of protein kinase C epsilon. J Biol Chem 287巻、15947頁(2012年5月4日))。したがって、本発明者らは、各ApoEアイソフォームの継続的かつ拡散性の分布は、APP/PSマウスの脳におけるAβの沈着およびクリアランスの動態だけでなく、アミロイド沈着周囲のシナプスの完全性にも示差的に影響を及ぼす可能性があるという仮説を立てた。
シナプス前部要素およびシナプス後部要素の密度(それぞれシナプシン−1およびPSD95)を、超薄組織切片の免疫蛍光染色に基づく高分解能技法であるアレイ断層撮影法を使用して決定した(K. D. Micheva、S. J. Smith、Array tomography: a new tool for imaging the molecular architecture and ultrastructure of neural circuits. Neuron 55巻、25頁(2007年7月5日);R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))。アミロイドオリゴマー種は、アミロイド沈着のすぐ付近に高度に濃縮されることが示されたので、シナプシン−1およびPSD95の斑点を、以前に確立されたプロトコール(R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))を使用して、斑から遠く(>50μm)または近く(<50μm)のいずれかで定量した。本発明者らは、APOE3またはAPOE4のいずれかが発現した場合には斑の近くのシナプス前部要素の消失が悪化し、AAV4−APOE2またはAAV4−GFPの注射後にはそうではなかったことを観察した(図13A)。対照的に、シナプス後部斑点の密度は、GFPの注射を受けたマウス、ApoE2の注射を受けたマウスおよびApoE3の注射を受けたマウスの間で変化しないままであったが、ApoE4による処置を受けた動物では、アミロイド沈着の周囲のPSD95の有意な消失、したがって、Aβの神経毒性作用に対するApoE4の有害作用の強化が示された(図13C)。アミロイド沈着から遠く(>50μm)に位置する領域内のシナプス要素の密度を評価した場合、群間で差異を検出することはできず、これにより、ヒトApoE変異体それ自体によるシナプス密度への影響はないが、Aβに誘導される神経毒性に対するApoEアイソフォームの重要な影響があることが示唆される。したがって、ApoE3およびApoE4を用いて観察される相対的なシナプスの消失は、各斑の周囲のAβペプチドの存在(その端部から<50μmの距離)に直接関連する。
追加の神経病理学的パラメータとして、本発明者らは、AAV4の注射を受けたAPP/PS1マウスにおいて、アミロイド沈着に関連する神経突起ジストロフィーの数も評価した。老人斑は、アミロイド沈着の周囲のスパイン密度を低下させることに加えて、神経突起の屈曲の増加および膨張したジストロフィーの出現を伴うより一般的なニューロピルの変更も引き起こす。これらの病理学的変化は、斑表面の50μm以内の領域に富化される可溶性オリゴマーAβ種に起因する可能性がある。本発明者らは、ApoE4の過剰発現により、GFP、ApoE2およびApoE3と比較して、アミロイド沈着に関連するSMI312陽性神経突起ジストロフィーの形成が増悪することを観察した(図13C)。この結果から、ApoE4アイソフォームが最も強力に影響を及ぼし、斑形成を調節するだけでなく、アミロイドに関連する神経毒性にも影響を及ぼすという知見が確認される。
ADの別のマウスモデルにおいて、ヒトApoEタンパク質により間質液に含有されるオリゴマーAβ種の量が改変される
本発明者らは、次に、ISF中の異なるApoEアイソフォームの存在により、それと同じ細胞外区画内の可溶性アミロイド種の量が変更され得るかどうかという質問に対処した。本発明者らは、異なるトランスジェニックマウス系統における本発明者らの以前の所見を検証するために、ADの別のモデル、Tg2576マウスを注射のために選択した。Tg2576マウスは、スウェーデン変異を含有するAPPの変異型を過剰発現し、所与の年齢のAPP/PS1マウスよりもはるかに穏やかな表現型を示す。本発明者らは、16〜18カ月齢の動物のコホートに注射し、したがって、アミロイド沈着はAAV4−APOEによる形質導入のときにはすでに存在していた。遺伝子移入の3カ月後、微量透析プローブを海馬に挿入し、試料を収集してISF中の各APOE変異体に関連する初期変化を特徴付けた。
本発明者らは、特異的な82E1/82E1 ELISAアッセイを使用して測定されたAβオリゴマー種の濃度は、AAV4−APOE4の注射後に、AAV4−APOE2と比較して有意に高いことを観察し(42±7%)(図14)、これにより、ApoEの存在により、この細胞外区画内のアミロイド凝集体の性質が調節され得ることを示唆した。さらに、総Aβ40およびAβ42をISFにおいて評価したところ、同じ傾向が観察されたが、有意には達せず(図17A)、これにより、ISF中の異なるApoEアイソフォームの存在がアミロイドペプチドの凝集状態に総量よりもいくらか多く影響を及ぼすことが示唆される。
予測通り、種々のApoEアイソフォームに曝露したTg2576マウス由来の脳の死後生化学的分析により、ApoE4による処置を受けた動物ではギ酸画分中のAβ42の濃度が有意に上昇することが示され(図17B)、これにより、第2のトランスジェニックモデルにおいて、APP/PS1マウスにおける本発明者らの知見が確認される。
総合すると、これらの生化学的尺度から、Tg2576マウスにおけるApoE発現により、APP/PS1マウスにおいて観察されたのと同様のアミロイドの生物学的性質の変化が誘導されることが示唆される。重要なことに、初期変化は、ISF中のoAβの含有量について観察され、ここで、これらの神経毒性種は、シナプス末端と直接相互作用し得る。
考察
リスクを上昇させるAPOE4対立遺伝子の遺伝と、ADの発生に関して劇的な逆の効果を有するAPOE2対立遺伝子との間の著しい関係により、このリスクがどのように媒介されるかに関する複数の示唆がもたらされている。ApoEは、Aβクリアランスに関与するAβ結合性タンパク質として関連付けられている。しかし、apoEノックアウトマウスにおける研究では、驚いたことに、Aβの沈着がapoEの不在下では実質的に少ないことが報告された。ヒトAPOE2、APOE3、またはAPOE4で置き換えることにより、AD患者におけるものと同じ順位でアミロイド沈着が増加し、これは、斑の開始または原線維形成に対する影響によって起こると仮定された。代替の仮説は、神経突起伸長に対する示差的な影響に焦点を当てたものである、または、さらにはアルツハイマー病表現型に対するAPOE遺伝子型の影響は、第19染色体上のAPOEと遺伝子不均衡にある別の遺伝子の結果であることを提唱するものである。
リソソーム蓄積症およびハンチントン病の状況で以前に試験した手法を使用した2つの異なるマウスモデルの研究に由来する本発明者らのデータは、オリゴマーAβの検査を可能にする、in vivo多光子イメージング、標準の定量的免疫組織病理検査、シナプスの構造に関するアレイ断層撮影法による研究、および新規の高分子量微量透析手法の組合せを使用することによってこれらの問題に直接対処した。本発明者らは、確立した疾患を有する動物におけるISF ApoE微小環境を変化させることには、Aβの効率的使用に対する著しく急速な対立遺伝子特異的影響があることを示した。本発明者らの研究により、ISFに送達されるApoE4レベルのそれほど大きくない(約10%)上昇でさえ、可溶性Aβならびに線維状およびギ酸により抽出可能な形態の上昇のApoE4に関連する保持を伴ってAβの表現型およびクリアランス動態に著しく影響を及ぼし、また、シナプスの消失および神経突起ジストロフィーの増加によって特徴付けられる斑の周囲の神経毒性が増加することが実証された。逆に、apoE2はAβを低下させ、顕著な神経保護性の効果を有する。
ISF ApoEのレベルのより穏やかな変化がそのような劇的な結果を有するので、これらの結果から、APOE発現に影響を及ぼすことによってADのリスクまたはADの進行を変更させる可能性がある多種多様な環境および遺伝因子の影響に関する洞察がもたらされ得る。本発明者らが実証した規模よりも実質的に大きなApoEの増加が外傷、てんかん、虚血および高コレステロール食事の後に起こる可能性があり、これらは全て、大脳Aβの上昇と関連している。さらに、APOE4対立遺伝子と遺伝子不均衡にあることが以前に見いだされているプロモーター多型がAPOE発現に影響を及ぼす。
CNSにおけるApoEまたはApoE−リポタンパク質の恒常性に影響を及ぼす他の操作により、Aβの沈着が明白に変化する。例えば、APOEレンチウイルスを用いた限局的な遺伝子移入(主に海馬のニューロンへのもの)を用いた実験では、APOE4過剰発現は、APOE3と比較してより強力な影響をアミロイドに対して発揮する。以前の研究により、内因性apoE合成の増強を含めた複数の作用を有するRXRアゴニストにより、おそらく、血液脳関門を渡るクリアランスに影響を及ぼすことによって、Aβの脳からのクリアランスがもたらされることも示された。さらに、CNSにおいてコレステロールを代謝し、そのレベルを低下させるCYP46Aの脳への形質導入により、脳内の、apoEレベルを低下させることが公知であるLDL−Rが増加するにつれ、Aβの沈着が減少する。最後に、遺伝子操作により、apoE発現が半分変化することによりAβ表現型が影響を受け得ることが示唆される。興味深いことに、本発明者らの結果から、より穏やかな変化でも、劇的な効果を有し得ることが示唆される。
本発明者らのデータは、APOE−アルツハイマー文献における4つの他の重要な議論の領域に直接対処するものである。1)本発明者らは、どちらも神経細胞系の機能の機能障害に関連する可能性があるシナプス消失および神経突起ジストロフィーによって評価される、ApoEアイソフォームの神経毒性に対する明白な効果を実証する。これらの効果は斑のすぐ近くにおいて明らかであったが、斑から遠い領域では明らかでなかったので、ApoE4と比較してApoE2のシナプス保護性は、シナプス安定性に対するApoEの直接の効果に起因するのではなく、斑のAβの周囲に対する効果によって媒介される可能性がある。2)縦方向の多光子in vivoイメージングを使用した斑の沈着および成長の動態の直接観察により、ApoE4は斑の沈着および成長を増強するが、ApoE2は、斑の消散に実際に関連することが示され、これにより、ApoEアイソフォームが、線維状斑形成に対する最初の影響を超えて疾患のペースおよび進行に対する強力な影響を有することが示される。この結果から、ApoE4は、アミロイド沈着と神経毒性の両方に関して疾患過程を加速し得る(したがって、発症年齢の低下をもたらす)が、ApoE2は逆であるという見解が補強され、これにより、疾患が十分に確立された後でさえ、ApoE2(またはApoE2模倣物)をCNSに導入することには治療的価値があり得るという可能性が生じる。3)ApoEは、Aβを脳から除去する機構として、またはクリアランス半減期を増加させる保持分子として多様に提案されている;本発明者らの現在の結果では、ApoE2を除き、それほど多くない量のApoEをISFに導入することが、CNS内のAβの保持を増強するのに十分であることが示される。4)ADにおけるAPOE2の注目すべき保護性作用の機構は、一部において、ApoE2のApoE受容体への結合が比較的乏しいことが理由で、長く不明のままである。本発明者らの現在のデータから、ApoE2が、可能性のある血漿中へのAβクリアランスに対する中立的またはヌルの効果に加えて、機能獲得を有する−確立したAβの沈着を実際に逆転させること、ならびにシナプスおよび神経突起の可塑性を支持することが可能である−ことが示唆される。これにより、APOE4対立遺伝子が遺伝している患者とAPOE2対立遺伝子が遺伝している患者の間の発症年齢の数十年の違いが、Aβの沈着およびクリアランスの動態における異なる開始点および継続的な差異と、沈着に関連する神経毒性の程度の対立遺伝子に特異的な差異との両方を反映し得ることが示唆される。ApoE2のこの二重の機能により、その斑の除去およびシナプス回復能力を模倣することを目的とした治療的手法がもたらされ得る。
これらの結果は、apoEがAβオリゴマー形成の足場として作用するモデルと、オリゴマーAβの形成および安定化の効率がApoE4>ApoE3>ApoE2であることと、オリゴマーAβがApoE4>ApoE3ヒトADの患者のCNSにおいて上昇する(斑負荷量(burden)を症例にわたって正規化した場合でさえも)という本発明者らの最近の知見と一致する。本発明者らは、ApoE、特にApoE4により神経毒性オリゴマーAβの形成が媒介される場合、現在のデータにおいてそうであるようにみえるのと同様に、ApoE4の増強によりシナプスおよび神経突起の変更の増加がもたらされると予測した。これらの結果に基づいて、APOE4対立遺伝子が遺伝しているAD患者の脳内のApoEレベルを上昇させる作用物質に関して注意が払われるべきである。
最後に、本発明者らのデータから、分泌タンパク質を脳およびここでは皮質外套全体に送達するための上衣へのAAV媒介性形質導入の能力が確認される。apoE4を低下させるもしくはapoE2を増加させる遺伝子移入または他の手法は、AD疾患の進行に影響を及ぼす強力な手段である。
材料および方法
動物。APPswe/PS1dE9(APP/PS1)二重トランスジェニックマウス(D. R. Borcheltら、Accelerated amyloid deposition in the brains of transgenic mice coexpressing mutant presenilin 1 and amyloid precursor proteins. Neuron 19巻、939頁(1997年10月))(Jackson laboratory、Bar Harbor、Maineから入手)およびTg2576マウス(K. Hsiaoら、Correlative memory deficits, Abeta elevation, and amyloid plaques in transgenic mice. Science 274巻、99頁(1996年10月4日))の両方を使用して実験を実施した。スウェーデン二重変異K594N/M595Lを含有するヒト変異体アミロイド前駆体タンパク質遺伝子を、これらの2種のマウス系統のゲノムに、プリオンタンパク質プロモーターの制御下で挿入した。さらに、APP/PS1マウスモデルは、エクソン9が欠失したプレセニリン1遺伝子の変異体を過剰発現する(同じプロモーターによって駆動される)。APP/PS1マウスにおけるAPPsweおよびPSEN1の同時過剰発現により、より重症の表現型がもたらされ、実質的なアミロイド沈着が6カ月齢の早さで現れる。他方では、Tg2576マウス系統は、はるかに軽症のモデルであり、約1年齢でアミロイド斑が発生するだけである。異なるApoEアイソフォームの導入が疾患の進行に影響を及ぼすかどうかを決定するために、本発明者らは、7カ月齢および16カ月齢のAPP/PS1マウス(条件当たり動物4匹から7匹の間)ならびにTg2576マウス(条件当たり動物3匹から5匹の間)にそれぞれ注射を行った。APOE欠損マウス(ApoE−KO、the Jackson Laboratory、Bar Harbor、Maine)も使用した。NIHおよび施設のガイドラインに従って実験を実施した。
ウイルスベクターの構築および作製
APOE−2 cDNA、APOE−3 cDNAおよびAPOE−4 cDNAは、University of Illinois(Chicago)のDr.LaDuから惜しみなく提供された。PCRによって増幅した後、そのそれぞれをBamHIによって消化し、AAV2−pCMV−hrGFP骨格に挿入した。高力価のAAV血清型4ベクター(AAV4−APOE2、AAV4−APOE3、AAV4−APOE4およびAAV4−GFP)は、University of Iowa、Iowa CityのGene Transfer Vector Coreにより、バキュロウイルス系を使用して作製された。定量的PCRを使用してウイルスの力価測定を行った。
定位脳室内注射。AAV血清型4ベクターの定位脳室内注射を以前に記載されている通り実施した(T. L. Spiresら、Dendritic spine abnormalities in amyloid precursor protein transgenic mice demonstrated by gene transfer and intravital multiphoton microscopy. J Neurosci 25巻、7278頁(2005年8月3日);G. Liu、I. H. Martins、J. A. Chiorini、B. L. Davidson、Adeno-associated virus type 4 (AAV4) targets ependyma and astrocytes in the subventricular zone and RMS. Gene Ther 12巻、1503頁(2005年10月))。ケタミン/キシラジン(それぞれ体重1kg当たり100mgおよび体重1kg当たり50mg)を腹腔内注射することによって動物を麻酔し、定位枠に置いた(David Kopf Instruments、Tujunga、CA)。ウイルス調製物(力価2×1012vg/ml)5μlを用いた各側脳室へのベクターの注射を、10μlのHamiltonシリンジ(Hamilton Medical、Reno、NV)に取り付けた33ゲージの鋭いマイクロピペットを使用し、毎分0.25μlの速度で実施した。注射部位の定位座標はブレグマから算出した(前後+0.3mm、中外側±1mmおよび背腹側−2mm)。
頭蓋窓の埋め込みおよび多光子イメージング。脳室内注射の1週間後、マウスをイソフルラン(1.5%)で麻酔し、頭蓋の小片を取り出し、直径8mmのカバーガラスで置き換えることによって頭蓋窓を埋め込んだ(以前に記載されている通り、T. L. Spiresら、Dendritic spine abnormalities in amyloid precursor protein transgenic mice demonstrated by gene transfer and intravital multiphoton microscopy. J Neurosci 25巻、7278頁(2005年8月3日))。画像化のために、窓の縁に沿ってワックスリング(wax ring)を構築して対物レンズ(20×対物レンズ、開口数0.95、Olympus)用の水のウェルを作製した。アミロイド沈着を可視化するために、トランスジェニック動物に、血液脳関門を横断し、アミロイド沈着に結合する蛍光化合物であるメトキシ−XO4(5mg/kg)を外科手術の24時間前に腹腔内注射した(B. J. Bacskai、W. E. Klunk、C. A. Mathis、B. T. Hyman、Imaging amyloid-beta deposits in vivo. J Cereb Blood Flow Metab 22巻、1035頁(2002年9月))。画像化の前に、Texas Redデキストラン(分子量70,000Da;滅菌PBS中12.5mg/ml;Molecular Probes、Eugene、OR)を外側尾静脈内に注射して、蛍光血管造影図をもたらし、したがって、脈管構造の形状を正確な同じ視野を経時的に追跡するためのランドマークとして使用することとした。AAV注射の1週間後に、アミロイド沈着のベースラインレベルを評価するためにマウスを画像化し、次いで、注射の1カ月後および2カ月後に画像化した。
多光子イメージングシステム(Bio−Rad 1024ES、Bio−Rad、Hercules、CA)に搭載したモードロックTi:Sapphire laser(MaiTai、Spectra−Physics、Mountain View、CA)により860nmの二光子蛍光励起光を生成した。放出された光を、380〜480、500〜540および560〜650nmの範囲の3つの光電子増倍管(Hamamatsu Photonics、Bridgewater、NJ)を含有する特注外付け検出器によって収集した。斑および血管造影についての二色画像を同時に取得した。低拡大率のin vivo画像(615×615μm;z−ステップ、2μm、深さ、約200μm)を取得し、大皮質領域を網羅するように6〜8視野を画像化した。
画像処理および解析。各視野内の斑の密度を、Image Jを使用して、画像化した皮質の体積当たりのアミロイド沈着の総数を報告することによって定量した。本発明者らは、表面におけるzスタックの最初のスライスから始まってアミロイド沈着を検出することができた最後のスライスまでを皮質の体積とみなした。アミロイド沈着のサイズを、2次元投影後の最大強度からそれらの断面積を測定することによって経時的に評価した。各斑について、最初の時点と1カ月目の間の面積の比(T1/T0)、または2カ月目と1カ月目の間の面積の比(T2/T1)を算出した。
多光子顕微鏡の設定(レーザーパワーおよびPMT)は、実験の全時間中、異なるイメージングセッション全体にわたって変化させずに維持した。
in vivoにおける微量透析試料採取。Tg2576マウスに対して、各AAV4を脳室内注射した3カ月後に、脳間質AβおよびApoEのin vivoにおける微量透析試料採取を実施した(S. Takedaら、Novel microdialysis method to assess neuropeptides and large molecules in free-moving mouse. Neuroscience 186巻、110頁(2011年7月14日))。微量透析プローブは、4mmのシャフトを有し、3.0mm、1000kDa分子量カットオフ(MWCO)ポリエチレン(PE)膜(PEP−4−03、株式会社エイコム、日本、京都)を伴った。使用する前に、プローブを、エタノール中に短時間液浸し、次いで、孔径0.2μm膜を通して濾過した人工脳脊髄液(aCSF)灌流緩衝液(122mMのNaCl、1.3mMのCaCl2、1.2mMのMgCl2、3.0mMのKH2PO4、25.0mMのNaHCO3)を用いて洗浄することによって条件付けた。予め条件付けたプローブの出口および入口を、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)管材料(φ250μm i.d.)を使用して、それぞれ蠕動ポンプ(ERP−10、株式会社エイコム、日本、京都)およびマイクロシリンジポンプ(ESP−32、株式会社エイコム、日本、京都)に接続した。
プローブの埋め込みを、わずかな改変を伴って以前に記載されている通り実施した(S. Takedaら、Novel microdialysis method to assess neuropeptides and large molecules in free-moving mouse. Neuroscience 186巻、110頁(2011年7月14日;J. R. Cirritoら、In vivo assessment of brain interstitial fluid with microdialysis reveals plaque-associated changes in amyloid-beta metabolism and half-life. J Neurosci 23巻、8844頁(2003年10月1日))。簡単に述べると、麻酔した動物(1.5%イソフルラン)に、ガイドカニューレ(PEG−4、株式会社エイコム、日本、京都)を海馬(ブレグマ−3.1mm、正中線に対して−2.5mm外側、硬膜に対して−1.2mm腹側)に定位に埋め込んだ。次いで、二成分歯科用セメント(binary dental cement)を使用してガイドを頭蓋に固定した。
ガイドカニューレ埋め込みの4日後、マウスを標準の微量透析ケージに入れ、ガイドを通じてプローブを挿入した。プローブを挿入した後、安定した記録を得るために、試料収集の前に、プローブおよび接続管を、aCSFを用いて毎分10μlの流速で240分にわたって灌流した。試料を毎分0.25μl(Aβ定量のため)および毎分0.1μl(ApoE検出のため)の流速で収集した。試料をポリプロピレンチューブ中に入れ4℃で保管した。微量透析試料収集の間、マウスは覚醒しており、プローブ集合に圧力を適用せずに動物の制限されない動作が可能になるように設計された微量透析ケージ内を自由に動ける状態であった(AtmosLM microdialysis system、株式会社エイコム、日本、京都)。
免疫組織学的分析。APP/PS1マウスは、脳室内注射の2カ月後または5カ月後(短期および長期曝露)にCO2吸入によって安楽死させ、Tg2576動物は3カ月後に屠殺した。大脳半球全体の一方を免疫組織学的分析のためにリン酸緩衝食塩水中4%パラホルムアルデヒド中に固定し、パラフィンワックスに包埋した。前頭皮質を通る1mmの冠状切片をアレイ断層撮影アッセイのために処理し、残りの半脳は生化学的および生体分子分析を実施するためにスナップ凍結した。
アミロイド沈着、ApoEおよびGFPを検出するために、パラフィン包埋した切片(10μm)を逐次的にキシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で再水和し、クエン酸緩衝液(10mMのクエン酸ナトリウム、0.05%のTween20、pH6.0)中で処理し、0.5%トリトンを伴うPBS中で透過処理し、3%BSAを伴うPBS中、室温で2時間ブロッキングした。一次抗体と一緒に4℃で一晩インキュベートした:アミロイド斑についてはBam10(SIGMA 1:1000)およびR1282(1:500、Dr Dennis Selkoeから提供された)、ヒトApoEについてはマウスモノクローナル抗体3H1(Ottawa Heart Institute)、神経突起ジストロフィーについてはニワトリ抗GFP(1:500、Aves)およびSMI−312(Covance)。翌日、二次抗体と一緒に室温で2時間インキュベートした。封入前にスライスを50%エタノール中Thio−S(Sigma、St Louis、MO)0.05%の溶液中で8分インキュベートすることによってアミロイド密集コア斑(amyloid dense core plaque)を標識した。
アレイ断層撮影法のための試料の調製、免疫染色および画像解析
シナプス前部要素およびシナプス後部要素についてのアレイ断層撮影分析を以前に記載されている通り実施した(R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))。簡単に述べると、脳室領域に隣接する皮質組織の小片(1mm3)を切り取り、0.01MのPBS中4%パラホルムアルデヒド、2.5%スクロース中に3時間にわたって固定した。エタノール中で脱水した後、試料をLR White resin(Electron Microscopy Sciences)中、4℃で一晩インキュベートし、その後、53℃で重合させた。次いで、切片のリボン(70nm)をultracut microtome(Leica)上でJumbo Histo Diamond Knife(Diatome)を使用することによって切断した。
TBS中50mMのグリシンで5分再水和した後、切片をTris中0.05%Tweenおよび0.1%BSAで5分にわたってブロッキングし、ブロッキング緩衝液中1:50の一次抗体を2時間にわたって適用した(Dr Virginia Leeからの、オリゴマーAβ種を優先的に染色する、PSD95 Abcam Ab12093、synapsin I Millipore AB1543およびNAB61、E. B. Leeら、Targeting amyloid-beta peptide (Abeta) oligomers by passive immunization with a conformation-selective monoclonal antibody improves learning and memory in Abeta precursor protein (APP) transgenic mice. J Biol Chem 281巻、4292頁(2006年2月17日))。スライドをTBSで洗浄し、二次抗体を適用した(抗ヤギAlexa Fluor 488、抗マウスCy3、または抗マウスAlexa Fluor 488 Invitrogen)。前頭皮質を通した7〜30の連続切片に関して画像を得、Zeiss Axioplan LSM510共焦点/多光子顕微鏡(63×開口数、Plan Apochromatic油浸対物レンズ)を使用することによって取得した。
画像を、Image J(National Institutes of Health open software)およびMATLAB(Mathworks)を使用して以前に記載されている通り解析した(R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))。各画像セットをスタックに変換し、Image J MultiStackRegおよびStackReg plug−ins(Brad BusseおよびP.Thevenaz、Stanford Universityの好意による)を使用することによってアラインメントした。既知体積を選択し、自動化された閾値に基づく検出プログラムを使用して、2つ以上の連続した切片に出現したPSD95斑点とシナプシン斑点の両方を計数した(WaterShed program、Brad Busse、Stephen Smith、およびKristina Micheva、Stanford Universityにより提供された)。Watershedにより、2つ以上のアレイのスライスに存在した斑点を示す閾値画像スタック(各チャネルについて別々)がエクスポートされた。マウスごとに皮質内のいくつかの部位を試料採取し、斑の端部からのそれらの距離を測定した。
Aβ定量
TBS可溶性画分、ギ酸画分ならびに微量透析液中のAβ40およびAβ42の濃度を、BNT−77/BA−27(Aβ40について)およびBNT−77/BC−05(Aβ42について)サンドイッチELISA(和光純薬工業株式会社、日本、大阪)により、製造業者の指示に従って決定した。試料中のオリゴマーAβの量を、同じN末端(残基1〜16)抗体を捕捉と検出のどちらにも使用した82E1/82E1サンドイッチELISA(Immuno−Biological Laboratories,Inc、Hamburg、Germany)によって決定した(W. Xiaら、A specific enzyme-linked immunosorbent assay for measuring beta-amyloid protein oligomers in human plasma and brain tissue of patients with Alzheimer disease. Arch Neurol 66巻、190頁(2009年2月))。
免疫ブロット分析
脳TBS可溶性画分および微量透析液(タンパク質20μg)をSDS−PAGE(Invitrogen)用のMOPSランニング緩衝液中4〜12%Novex Bis−Trisゲル(Invitrogen)で電気泳動した。ゲルをPVDF膜に転写し、5%Milk/TBS−T中、室温で60分にわたってブロッキングした。膜をヤギ抗ApoE抗体(1:1000、Millipore、AB947)でプローブしてAPOEヌル動物のISF中の少量のAPOEを検出し、対照としてアルブミンを検出した。ヒトおよびマウスのApoEについてのブロットを、EP1373Y抗体(1:1000、Novus Biologicals、NB110−55467)を用いて、およびウサギポリクローナルapoE抗体(1:1000、Abcam、ab20874)を用いてそれぞれプローブした。HRPとコンジュゲートしたヤギIgG抗体(Vector)と一緒に2時間インキュベートした。ECL kit(Western Lightning、PerkinElmer)を使用して免疫反応性タンパク質を生じさせ(developed)、Hyperfilm ECL(GE Healthcare)で検出した。
qRT−PCR
TRIzol(登録商標)Reagent(Life technologies;15596−026)を使用して脳試料由来の全RNAを抽出し、次いで、SuperScript(登録商標)III One−Step RT−PCR System(Life technologies;12574−018)の製造業者の指示に従ってcDNAを合成した。組換えヒトAPOE mRNAならびに内因性Apoe mRNAおよびGapdh mRNAを増幅するために、PCRプライマーを特別に設計した(Apoeフォワード:5’−AGCTCCCAAGTCACACAAGA;Apoeリバース:5’−GTTGCGTAGATCCTCCATGT;APOEフォワード:5’- CCAGCGACAATCACTGAAC;APOEリバース:5’- GCGCGTAATACGACTCACTA;Gapdhフォワード:5’- ATGACATCAAGAAGGTGGTGおよびGapdhリバース:5’- CATACCAGGAAATGAGCTTG)。
APOE ELISA
ヒトAPOEタンパク質と内因性マウスAPOEタンパク質の両方を検出するために特異的なELISAアッセイを使用した。簡単に述べると、ELISAプレートを、1.5μg/mlのヤギ抗APOE抗体(マウスAPOEを検出するために)または1.5μg/mlのWUE4抗体(ヒトAPOEを検出するために)を用いて一晩コーティングし、PBS中に希釈した1%脱脂乳を用いて37℃で1.5時間ブロッキングした。ヒト組換えapoEタンパク質を標準物質として使用した(ヒト特異的アッセイについて、Biovision)、または脳抽出物由来の、組織内の(in-house)マウス標準物質(マウス特異的アッセイについて)および試料をELISA緩衝液(PBS中0.5%BSAおよび0.025%Tween−20)中に希釈し、一晩インキュベートした。洗浄後、ヒトに特異的な検出抗体(ヤギ−apoe Millipore;1:10,000)またはマウスに特異的な検出抗体(Abcam ab20874;1:2,000)をそれぞれ使用し、その後、適切なHRPとコンジュゲートした二次抗体と一緒に1.5時間インキュベートした。H3PO4を使用して溶液を停止する前にTMB基質を使用してシグナルを明らかにした。比色定量の結果を450nmにおいて測定した。
統計解析
Prismソフトウェアを使用して統計解析を実施した。試料のサイズが小さいので、本解析の大部分について、正規性を仮定することはできなかった。全ての死後分析について、ノンパラメトリックなクラスカル・ワリス検定、続いてダンの多重比較検定を実施して、注射した各ベクターの影響を評価した。アミロイド進行のin vivoイメージングデータを、マウスを変量効果として、およびベクターを固定効果として、時間およびベースライン容積測定密度を用いた混合効果モデルを使用して解析した。時間とベクターとの間の相互作用をこの解析で考察したが、有意ではなかった。斑サイズを経時的に分析するために、マウスを変量効果としておよび対数ベースラインサイズ(第1の分析におけるt0、第2の分析におけるt1)を固定効果として用いて、2つの混合効果モデルを2つの連続した時点の比の対数について当てはめた。
(実施例4)
マウスにおいて、ヒトApoEアイソフォームの遺伝子移入によりアミロイド沈着および神経毒性が示差的に調節される
アポリポタンパク質E(APOE)のε4対立遺伝子の遺伝は、散発型のアルツハイマー病(AD)に関連する最も強力な遺伝的リスク因子であるが、稀なAPOE ε2対立遺伝子は、逆の効果を有する。しかし、APOEによりリスクおよび保護が付与される機構は不確かなままである。本発明者らは、アミロイド斑を有するトランスジェニックマウスの皮質を、ウイルスにより発現させたヒトAPOEに浸す(bathe)遺伝子移入手法を使用した。本発明者らは、アミロイド−β(Aβ)を、トランスジェニックマウスにおけるAβ関連神経毒性におけるヒトAPOE媒介性変化の動態を研究するために、多光子イメージング、in vivo微量透析、および死後アレイ断層撮影法を用いてモニターした。本発明者らは、ヒトAPOE4により、間質液(ISF)中のオリゴマーAβの濃度が上昇し、斑の沈着が悪化することを観察し、ヒトAPOE2に曝露すると逆のことが起こった。斑周囲のシナプス消失および神経突起ジストロフィーも、APOE4により悪化した、またはAPOE2により減弱した。中枢神経系(CNS)から血漿中へのAβの放出は、CNSにおけるAβのアイソフォーム特異的保持に従って、APOE2と比較して、APOE3およびAPOE4によって少なくなった。全体として、本発明者らのデータから、トランスジェニックマウスにおけるアミロイド沈着およびクリアランスに対する、ならびに、より重要なことに、Aβ媒介性シナプス毒性に対するヒトAPOEアイソフォームの示差的な影響が示される。これらの結果から、APOE遺伝的リスクがAβによって媒介されること、およびAPOE4を低下させること、またはAPOE2を増加させることを目的とする治療的手法がADに関して有益であり得ることが示唆される。
アルツハイマー病(AD)は、最も頻度の高い加齢性神経変性障害であり、主要な公衆衛生の懸念である。遅発性散発性型のADに関連する易罹患性遺伝子の中で、アポリポタンパク質E ε4(APOE ε4)対立遺伝子が断然最も有意な遺伝的リスク因子である。APOE ε4が1コピー存在することにより、疾患が発生するリスクが最も一般的なAPOE ε3対立遺伝子と比較して3倍に実質的に上昇し、2コピーでは12倍の上昇がもたらされる。興味深いことに、APOE ε2は逆の影響を有し、年齢を調整したADのリスクが約半分低下する。認知症の平均発症年齢はこれらのリスクプロファイルに対応し、APOE4/4保有者は60代半ばで発症し、APOE2/3保有者は、ほぼ30年シフトして90代前半で発症し、APOE3/3個体の発症年齢はそれらの中間の70代半ばである。
患者の海馬および皮質におけるAβを含有する老人斑の蓄積は、稀な常染色体優性型の疾患に関与する公知の遺伝子が全てAβペプチドの産生に関与するので、ADにおいて中心的な役割を果たすと考えられる。APOEがAβに対する影響を介してADに影響を及ぼすかどうかは議論の的になっている。APOE遺伝子型は、患者におけるアミロイド沈着の程度に強力に影響を及ぼし、ヒトAPOE2、ヒトAPOE3およびヒトAPOE4を発現する遺伝子操作された動物は、ヒトと同様のアミロイド負荷量(burden)の順位を有し、これは、異なるAPOEアイソフォームが斑の開始および/または成長に影響を及ぼすという仮説と一致する。APOE変異体は、神経毒性可溶性オリゴマーAβの量を改変すること、ならびに脳血管の完全性および血液脳関門を通じたAβの流出に示差的に影響を及ぼすことも提唱されている。最後に、APOEは、神経変性およびシナプス完全性と直接関連付けられている。ADに対して保護性であるAPOE2がこれらのプロセスにどのように影響を及ぼすかは分かっていない。
APOEの影響に関する以前の研究の大部分は、トランスジェニックマウスにおけるApoeの遺伝子切除またはAPOEの生涯発現を使用しているので、斑の沈着がすでに開始した後にAPOEを導入することの影響は現在のところ分かっていない。しかし、APOE発現を上昇させることを目的とする新しい治療試験が現在評価されていること、およびアミロイド沈着が失認の数十年前に観察され得ることを考えると、この問題に対処することは重要である。この知見のギャップを克服するために、本発明者らは、種々のヒトAPOE対立遺伝子(または対照として緑色蛍光タンパク質、GFP)を発現するアデノ随伴ウイルスベクター(AAV)をADのトランスジェニックマウスモデルの側脳室に注射して上衣層に形質導入し、次いで、それによりヒトAPOEタンパク質が脳脊髄液(CSF)および間質液(ISF)中に送達される遺伝子移入手法を使用した。生体内多光子顕微鏡法、in vivo微量透析ならびにアレイ断層撮影法を使用して、本発明者らは、ヒトAPOEアイソフォームは、ISF中の可溶性オリゴマーAβのレベル、Aβの線維化および沈着のペースならびに斑周囲の神経毒性作用の程度に影響を及ぼすことを見いだした。実際に、ヒトAPOE4に曝露したADマウスでは、可溶性Aβの量の増強、より高密度の線維状斑、シナプスの消失の増悪、および各沈着の周囲の神経突起ジストロフィーの数の増加が示されたが、APOE2を用いた場合には相対的に保護性の効果が観察された。
結果
AAV4−APOEの脳室内注射により、脳におけるヒトAPOEの持続的産生がもたらされる
APOEは、主にアストロサイトおよび小膠細胞によって産生され、大脳実質全体にわたって拡散し得る天然に分泌されるタンパク質である。本発明者らは、GFPをコードする遺伝子または各ヒトAPOE対立遺伝子を有するAAV血清型4ベクターを7カ月齢のAPP/PS1トランスジェニックマウスの側脳室(lateral cerebral ventricle)に注射することにより、この特性を利用した。大脳領域がADの独特の病変の影響を受けることを考慮すると、この戦略により、複数回の実質内注射と比較して利点がもたらされ得る。
注射の2カ月後、形質導入された細胞が脈絡叢および脳室の内側を覆う上衣において検出された。種特異的抗体を使用して、ヒトAPOEタンパク質およびマウスAPOEタンパク質も両方ともELISAアッセイ(図18A〜18Bおよび図24B)およびウエスタンブロット(図24A)によって検出された。ヒトアポリポタンパク質Eの濃度が平均で総タンパク質1mg当たり20μgに達し(図18A)、これは、内因性マウスApoeの約10%を表わしていた(図18BC)。このそれほど多くない追加量のヒトAPOEにより、内因性マウスmRNAまたはタンパク質のレベルは有意には変更されなかった(図24A〜24C)。AAV4注射の2カ月後から5カ月後の間に、ヒトAPOEレベルの小さいが統計的に有意な低下が観察された(図24D)。それにもかかわらず、ヒトタンパク質の量は容易に検出可能なままであり、これにより、AAV4媒介性形質導入により、実質全体にわたる分泌タンパク質の持続的産生のプラットフォームがもたらされたことが示唆された。実際に、APOEタンパク質が蓄積することが公知である皮質外套全体にわたってアミロイド沈着の周囲にヒトAPOEタンパク質が存在した。
次に、本発明者らは、高度に生物学的活性のある可溶性Aβを含有する細胞外区画であるISF中のヒトAPOEの存在を評価した。脳全体の溶解物中に比較的少量のAPOEを検出したので、本発明者らは、ApoeノックアウトマウスにAAV4−APOEベクターを注射し、高感度であるが非種特異的な抗体を使用してヒトAPOEタンパク質の存在を追跡した。微量透析により、注射を受けたApoeノックアウト動物のISF中のAPOEの存在を確認した。
全体として、これらのデータから、AAV4−APOE2/3/4の単回の脳室内注射により、脳実質全体およびISFにわたり目的のタンパク質の持続的産生がもたらされること、ならびに上衣/脈絡叢を、タンパク質を脳に送達するために使用することができることが確認される。
各APOEアイソフォームの注入は、アミロイドペプチドおよび斑の沈着に示差的に影響を及ぼす
安楽死の前5カ月間、実質的なアミロイド沈着を有する7カ月齢のAPP/PS1マウスに、GFPまたは各ヒトAPOEアイソフォームを発現するベクターを注射した。アミロイド斑負荷量(load)の分析により、AAV4−APOE4の注射を受けた動物の皮質において、APOE2を発現する動物と比較して、アミロイド沈着の密度の有意な上昇が明らかになった(皮質1mm2当たりの斑の数、AAV4−APOE2:31±4およびAAV4−APOE4:77±5。p<0.01)。GFPに曝露したマウスおよびAPOE3に曝露したマウスにおける斑の密度は、APOE4とAPOE2の中間のレベルに達し(皮質1mm2当たりの斑の数、AAV4−GFP:54±15;AAV4−APOE3:47±3、図19A)、さらに、注射を受けていない動物の斑の密度と同等であった。
マウス脳のギ酸抽出物から測定したAβ40ペプチドおよびAβ42ペプチドの濃度は組織学的に観察された変化を模倣し、したがって、APOE4を発現するマウスではアミロイドペプチドの増加が見いだされ(Aβ40:タンパク質1mg当たり1733±338pMolおよびAβ42:タンパク質1mg当たり8720±1155pMol)、APOE2を用いると逆の効果が検出された(Aβ40:タンパク質1mg当たり468±105pMolおよびAβ42:タンパク質1mg当たり5156±1318pMol、p<0.05、図19B)。トリス緩衝食塩水(TBS)可溶性画分中のAβペプチドの含有量も同様に影響を受け、APOE4曝露後に測定された可溶性Aβ40およびAβ42はどちらも、APOE2(Aβ40:タンパク質1mg当たり20±8pMolおよびAβ42:タンパク質1mg当たり2.3±0.8pMol、p<0.05。図19C)と比較して高濃度であった(Aβ40:タンパク質1mg当たり94±18pMolおよびAβ42:タンパク質1mg当たり12.9±1.5pMol)。
2カ月にわたる各APOEアイソフォームの発現により、5カ月後に観察されたものよりも小さな影響がもたらされ、これは、アミロイドの形成またはクリアランスに対するAPOEの影響が、死後に評価した場合、明らかになるまでに数カ月かかったことを意味していた。それにもかかわらず、他の群と比較して、AAV4−APOE4の注射を受けたマウスの皮質内のアミロイド斑の密度の有意な上昇が観察され(皮質1mm2当たりの斑の数、AAV4−GFP:25±4;AAV4−APOE2:22±6;AAV4−APOE3:26±5およびAAV4−APOE4:56±4、p<0.05。図25A)、これは、ギ酸画分中に含有されるAβ40の量と類似した(AAV4−GFP:タンパク質1mg当たり725±92pMol;AAV4−APOE2:タンパク質1mg当たり492±62pMol;AAV4−APOE3:タンパク質1mg当たり681±140pMolおよびAAV4−APOE4:タンパク質1mg当たり1108±238pMol、p<0.05。図25C)。TBS可溶性Aβ40/42種の濃度は変化せず、また、総Aβ免疫反応性に対する密集したコア斑の比に変化は検出されなかった(図25B)。別の対照実験では、アミロイド前駆体タンパク質(APP)代謝、グリアの活性化、またはインスリン分解酵素の量に対してAAV4−APOE注射のいかなる影響も示されなかった。全体として、2カ月曝露のデータと5カ月曝露のデータの比較により、APOEアイソフォームの変更は、急性に作用するのではなく、Aβ可溶性および線維状沈着を数カ月かけてシフトさせることが示唆される。
APOEは、血液脳関門(BBB)に影響を及ぼし、Aβペプチドの流出を変更する。APOEへの曝露により、BBB全体に渡るAβペプチドの平衡がどのように調節されるかを調査するために、5カ月後にAβ40の血漿中濃度を測定した。AAV4−APOE3またはAAV4−APOE4の注射を受けたマウスにおけるAβの血漿中含有量は、AAV4−APOE2およびAAV4−GFPと比較して低く(AAV4−GFP:血漿1ml当たり1167±213pMol;AAV4−APOE2:血漿1ml当たり1247±160pMol;AAV4−APOE3:血漿1ml当たり736±78pMolおよびAAV4−APOE4:血漿1ml当たり799±67pMol;p<0.05。図19D)、これにより、APOE3およびAPOE4がAβをCNS内に保持する助けとなったことが示唆され、これは、Aβの脳内濃度の相対的な上昇、およびAPOEに起因したAβのより長いCNS半減期が報告された以前のデータと一致した。
APOE4保有者は、神経血管の機能障害にかかりやすく、APOE4トランスジェニックマウスでは、アミロイド沈着の不在下でさえBBB崩壊が好都合であることが示された。AAV4−APOE注射によりBBBの完全性が損なわれるかどうかを評価するために、プルシアンブルーを用いた死後染色を実施した。ヘモジデリン陽性病巣領域がわずかに存在するにもかかわらず、実験群のいずれの間でも影響は観察されなかった。
APOEアイソフォームの発現により、アミロイドーシスの動態が調節される
APOE変異体がアミロイドーシスの動的な進行にどのように影響を及ぼすかを評価するために、本発明者らは、in vivo二光子イメージングを使用し、アミロイド斑の形成およびクリアランスの動態を追跡した。7カ月齢のマウスに、GFPまたは各APOE変異体を有するAAV4を脳室内注射し、その1週間後に頭蓋窓を埋め込んだ(T0)。1カ月後(T1)または2カ月後(T2)に、アミロイド沈着を画像化し、脳内の正確な同じ皮質領域を経時的に追跡した。
小さな視野体積において、大多数のアミロイド沈着は安定なままであったが、時々新しい斑を検出することができた。しかし、稀な場合、最初に画像化されたメトキシ陽性斑は、1カ月後または2カ月後には検出することができず、これにより、いくつかの斑が除去された可能性があることが示唆された。アミロイド進行の速度は、APOE4に曝露したAPP/PS1マウスにおいてより速かったが、APOE2に曝露した動物では、低下し、さらには逆転した。2カ月後、APOE2ではアミロイド沈着の密度がGFPと比較して0.66(p=0.002)、APOE3と比較して0.67(p<0.0001)およびAPOE4と比較して0.74(p<0.0001)、有意に低下した(図20A、B)。
次に、本発明者らは、単一のアミロイド斑の成長を、T1/T0とT2/T1との間の個々の沈着の断面積の比を測定することによって評価した。T1(T1/T0比、図21)では群間で差異が検出され、したがって、APOE4への曝露では、GFP、APOE2およびAPOE3に曝露した動物と比較して、アミロイド沈着の成長が有意に大きかった(T1/T0比:AAV4−GFPについて1.175±0.048;AAV4−APOE2について0.97±0.043;AAV4−APOE3について1.063±0.041およびAAV4−APOE4について1.29±0.065;p<0.05)。しかし、この影響は2カ月後には観察されなかった(T1/T2比)。
APOEへの曝露後のアミロイド沈着の周囲のシナプスの消失および神経突起ジストロフィー
シナプス消失は、認知障害と相関することが公知である。本発明者らは最近、APOE4の存在が、APOE3と比較して、ヒトAD患者の脳における高濃度のシナプスオリゴマーAβおよびアミロイド斑周囲のシナプス密度の低下と関連することを示した。さらに、最近のin vitroにおける証拠により、APOE4はAβに誘導されるシナプス消失からの保護ができないことが実証された。したがって、本発明者らは、APOEが、Aβの沈着およびクリアランスの動態だけでなく、アミロイド沈着周囲のシナプスの完全性にも示差的に影響を及ぼし得るという仮説を立てた。
シナプス前部要素およびシナプス後部要素の密度(シナプシン−1およびPSD95)を、超薄組織切片の免疫蛍光染色に基づく高分解能技法であるアレイ断層撮影法を使用して決定した(K. D. Micheva、S. J. Smith、Array tomography: a new tool for imaging the molecular architecture and ultrastructure of neural circuits. Neuron 55巻、25頁(2007年7月5日);R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))。アミロイドオリゴマー種は、アミロイド沈着の付近に高度に濃縮されることが示されたので、シナプシン−1およびPSD95の斑点を、斑から遠く(>50μm)または近く(<50μm)のいずれかで定量した。APOE3またはAPOE4のいずれかが発現した場合には斑の近くのシナプス前部要素の消失が悪化し、AAV4−APOE2またはAAV4−GFPの注射後にはそうではなかった(図22A)。シナプス後部斑点の密度は、AAV4−GFPの注射を受けたマウス、AAV4−APOE2の注射を受けたマウスおよびAAV4−APOE3の注射を受けたマウスの間で変化しないままであったが、AAV4−APOE4による処置を受けた動物では、アミロイド沈着の周囲のPSD95の大きな消失、したがって、Aβ神経毒性に対するAPOE4の有害作用の強化が示された(図22B)。アミロイド沈着から遠く(>50μm)に位置する領域内のシナプス要素の密度を評価した場合、群間で差異を検出することはできず、これにより、APOE3およびAPOE4を用いて観察された相対的なシナプスの消失が各斑の周囲のAβペプチドの存在に直接関連するものであったことが示唆される。
老人斑が、神経突起の屈曲の増加および膨張したジストロフィーの出現を伴うより一般的なニューロピルの変更を反映するので、本発明者らは、アミロイド沈着に関連するジストロフィー性神経突起の数も評価した。これらの病理学的変化は、斑表面の50μm以内の領域に富化される可溶性オリゴマーAβ種に起因する可能性がある。APOE4の発現により、GFP、APOE2およびAPOE3と比較して、アミロイド沈着に関連するSMI312陽性ジストロフィー性神経突起の形成が増悪する(B22C)。この結果から、APOE4アイソフォームがアミロイド神経毒性に影響を及ぼすという知見が確認される。
Tg2576マウスにおいて、ヒトAPOEタンパク質により間質液中のオリゴマーAβ種の量が改変される
次に、本発明者らは、ISF中の異なるヒトAPOEアイソフォームの存在により、それと同じ細胞外区画内の可溶性アミロイド種の量が変更され得るかどうかという質問に対処した。異なるADマウスモデルにおける本発明者らの以前の所見を検証するために、本発明者らは、Tg2576マウスに注射を行った。Tg2576マウスは、同じ年齢のAPP/PS1マウスよりもはるかに穏やかな表現型を示す。本発明者らは、アミロイド沈着がすでに始まっている16〜18カ月齢の動物のコホートを処置した。遺伝子移入の3カ月後、微量透析プローブを海馬に挿入し、試料を収集して各ヒトAPOE変異体に関連する初期変化を特徴付けた。
本発明者らは、特異的な82E1/82E1 ELISAアッセイを使用して測定されたAβオリゴマーの濃度が、AAV4−APOE4の注射後に、AAV4−APOE2と比較して有意に高いことを観察し(42±7%;p<0.05)(図23)、これにより、APOEの存在により、細胞外区画内のアミロイド凝集体の性質が調節され得ることを実証した。総Aβ40およびAβ42をISFにおいて評価したところ、同じ傾向が観察されたが、有意には達しなかった(図26)。
予測通り、Tg2576マウス由来の脳の死後生化学的分析により、APOE4に曝露した動物ではギ酸画分中のAβ42の濃度が上昇することが示され(図26B)、これにより、第2のトランスジェニックモデルにおいて、APP/PS1マウスにおける本発明者らの以前の知見が確認された。
考察
APOE対立遺伝子の遺伝とADとの間の著しい遺伝的関連により、このリスクがどのように媒介されるかに関する多数の示唆がもたらされている。APOEは、Aβに結合し、Aβクリアランスに関連付けられているが、Apoeノックアウトマウスにおける研究では、驚いたことに、Aβの沈着がApoeの不在下では実質的に少ないことが示されている。内因性マウスApoeをヒトAPOE2、APOE3、またはAPOE4で置き換えることにより、おそらく斑の開始または原線維形成に対する影響を通じて、AD患者におけるものと同じ順位でアミロイド沈着が改変される。代替の仮説は、神経突起伸長に対する示差的な影響に焦点を当てたものである、またはAD表現型に対するAPOE遺伝子型の影響は、第19染色体上のAPOEと遺伝子不均衡にある別の遺伝子の結果であることを提唱するものである。
最近開発された遺伝子移入技術(G. Liu、I. Martins、J. A. Wemmie、J. A. Chiorini、B. L. Davidson、Functional correction of CNS phenotypes in a lysosomal storage disease model using adeno-associated virus type 4 vectors. J Neurosci 25巻、9321頁(2005年10月12日))および2種のADのマウスモデルを使用して、本発明者らのデータは、ISF中のオリゴマーAβの検査を可能にする、in vivo多光子イメージング、標準の定量的免疫組織病理検査、アレイ断層撮影法、および高分子量微量透析手法の組合せを使用することによってこれらの問題に対処するものであった。本発明者らの研究により、APOE4レベルのそれほど大きくない(約10%)上昇により、Aβの凝集およびクリアランスの動態が変更され、それによりAβの保持の増加がもたらされ、斑の周囲のシナプスの消失および神経突起ジストロフィーが増悪することが実証された。逆に、APOE2は、Aβの沈着を低下させ、顕著な神経保護性の効果を有する。観察された効果は、APPタンパク質分解産物の含有量の変化と相関せず、これにより、Aβ産生自体は影響を受けなかったことが示唆された。したがって、これらの結果から、ISF中のそれほど多くない量のAPOE4およびAPOE2がアミロイドクリアランス、沈着、および神経毒性に逆方向に影響を及ぼすことが示される。CNSにおいてAPOE3またはAPOE4単独に曝露したマウスの血漿中で測定されたAβの量が少ないので、本発明者らは、本発明者らの結果が、脳内の示差的なAβクリアランスに起因し得るという仮説を立てる。この影響は、AAVにより形質導入された上衣細胞によって産生される各APOE変異体の脂質付加の状態と潜在的に関連する可能性がある。実際に、以前の研究により、APOE4はAPOE2およびAPOE3と比較してリポタンパク質との関連性が低く、したがって、脂質付加されたリポタンパク質に対する脱脂されたリポタンパク質のレベルの上昇が、脳におけるAβの蓄積および保持に対するAPOEアイソフォームの示差的な影響の1つの機構であり得ることが示されている。あるいは、本発明者らの研究の1つの限定は、ヒトAPOE2の発現により、重要な区画内のマウスApoeが低下するまたは置き換えられ、それにより、Aβの蓄積が少ないApoeヌル動物において見られるものと類似した影響が生じる可能性である。それにもかかわらず、マウスApoeタンパク質およびmRNAの本発明者らの直接の測定値では、内因性タンパク質に対するヒトAPOE発現の全体的な影響は示されないので、また、APOE2とAPOE4はアミロイド沈着に対して対立する効果を有するので、本発明者らは、アミロイド沈着に対するヒトAPOEアイソフォームの直接の効果を支持する。
ISF APOEのレベルのより穏やかな変化がそのような劇的な結果を有するので、これらの結果から、APOE発現に影響を及ぼすことによってADのリスクまたは進行を変更させ得る多種多様な環境因子および遺伝因子の影響に関する洞察ももたらされ得る。ここで本発明者らが実証する規模よりも大きなAPOEの増加が外傷性脳損傷、てんかん、虚血および高コレステロール食事の後に起こり得、これらは全て、大脳Aβの上昇に関連している。さらに、APOE4対立遺伝子と遺伝子不均衡であることが見いだされているプロモーター多型がAPOE発現に影響を及ぼす。
CNSにおけるAPOE−リポタンパク質の恒常性に影響を及ぼす他の操作により、Aβの沈着が明白に変化する。例えば、APOEレンチウイルスを用いた限局的な遺伝子移入(海馬のニューロンにおいて主に発現する)を用いた実験では、APOE4過剰発現は、APOE3と比較してより強力な影響をアミロイドに対して発揮する。以前の研究により、内因性APOE合成を増強するレチノイドX受容体アゴニストが、脳からのAβのクリアランスをもたらすことも示された(P. E. Cramerら、ApoE-directed therapeutics rapidly clear beta-amyloid and reverse deficits in AD mouse models. Science 335巻、1503頁(2012年3月23日);C. Bachmeier、D. Beaulieu-Abdelahad、F. Crawford、M. Mullan、D. Paris、Stimulation of the retinoid x receptor facilitates Beta-amyloid clearance across the blood-brain barrier. J Mol Neurosci 49巻、270頁(2012年2月))。さらに、CNSにおいてコレステロールを代謝し、そのレベルを低下させるCYP46A1の脳への形質導入により、脳内の、APOEレベルを低下させることが公知であるLDL−Rが増加するにつれ、Aβの沈着が減少する。あるいは、APOE3/4とAβとの間の相互作用を遮断するまたはAPOE4の構造をAPOE2またはAPOE3様コンフォメーションに変換するAβ模倣ペプチドもアミロイドの蓄積に影響を及ぼすことが示された。最後に、遺伝子操作により、内因性Apoeの発現が50%低下することが動物の寿命にわたってAβの表現型に強力に影響を及ぼすことが示唆される。マウスApoeのバックグラウンドで発現させたヒトAPOEについての本発明者らの現在の結果は、一部において、Aβ相互作用についてのヒトAPOEとマウスApoeとの間の競合に起因し得る。それにもかかわらず、これらのデータから、ヒトアイソフォーム依存性変化は、病理学的変化が十分に確立された後でさえも劇的な影響を有し得ることが示唆される。
本発明者らのデータは、APOE AD文献における4つの重要な議論の領域に直接対処するものである。本発明者らは、どちらも神経細胞系の機能の機能障害に関連する可能性があるシナプス消失および神経突起ジストロフィーによって評価される、神経毒性に対するAPOEアイソフォームの明白な効果を実証する。これらの効果は斑のすぐ近くにおいて明らかであったが、斑から遠い領域では明らかでなかったので、APOE2によるシナプス保護は、シナプス安定性に対するAPOEの直接の効果に起因するのではなく、斑のAβの周囲に対する効果によって媒介される可能性がある。アミロイドーシスの縦方向の多光子in vivoイメージングにより、APOE4は斑の沈着および成長を増強するが、APOE2は斑の消散に関連することが示され、これにより、APOEアイソフォームが、線維状斑形成に対する最初の影響を超えて疾患のペースおよび進行に対する強力な影響を有することが示される。これらの結果から、APOE4は、アミロイド沈着と神経毒性の両方に関して疾患過程を加速し得る(したがって、発症年齢の低下をもたらす)が、APOE2は逆であるという見解が補強され、これにより、CNSへのAPOE2(またはAPOE2模倣物)の導入には治療的価値があり得るという可能性が生じる。APOEは、Aβを脳から除去する機構として、またはクリアランス半減期を低下させる保持分子として多様に提案されている;本発明者らの現在の結果から、それほど多くない量のAPOE3/4をISFに導入することが、CNSにおけるAβの保持を増強するのに十分であることが示される。ADにおけるAPOE2の注目すべき保護性作用の機構は、一部において、APOE2のAPOE受容体への結合が比較的乏しいことが理由で長く不明のままである。本発明者らの現在のデータから、APOE2が、AβのCNS保持に対する可能性のある中立的または有益な効果(他の対立遺伝子と比較して)に加えて、機能獲得を有し、確立したAβの沈着を逆転させること、ならびにシナプスおよび神経突起の可塑性を支持することが可能であることが示唆される。これにより、APOE4対立遺伝子が遺伝している患者とAPOE2対立遺伝子が遺伝している患者との間の発症年齢の数十年の違いが、Aβの沈着およびクリアランスの動態における異なる開始点および継続的な差異と、沈着に関連する神経毒性の程度の対立遺伝子に特異的な差異との両方を反映し得ることが示唆される。このAPOE2の二重の機能により、その斑の除去およびシナプス回復能力を模倣することを目的とした治療的手法がもたらされ得る。
これらの結果は、APOEがAβオリゴマー形成の足場として作用するモデルと一致する。これらの結果はまた、オリゴマーAβがAPOE4>APOE3(斑負荷量(burden)を症例にわたって正規化した場合でさえも)を有するADのヒト患者のCNSにおいて上昇するという本発明者らの最近の知見とも一致する。APOE、特にAPOE4により神経毒性オリゴマーAβの形成が媒介される場合、本発明者らの現在のデータからそうであるとみなされるのと同様に、APOE4の発現の増強によりシナプスおよび神経突起の変更の増加がもたらされると予測した。これらの結果に基づいて、APOE4保有者の脳内のAPOE濃度を上昇させる作用物質に関して注意が払われるべきである。
最後に、本発明者らのデータから、分泌タンパク質をコードする遺伝子を送達し、次いで皮質外套全体に拡散させるための、脳の上衣層へのAAV媒介性形質導入の有用性が強調される。本発明者らは、APOE4を低下させる、またはAPOE2を増加させる遺伝子移入または他の手法がAD疾患の進行に影響を及ぼすのに有用であり得ることを示唆する。
材料および方法
研究デザイン
本研究は、斑の沈着が開始された後に、各ヒトAPOEアイソフォームの導入がアミロイドの進行およびAβ関連神経毒性にどのように影響を及ぼすかを調査することを目的とした。この問題に取り組むために、2つの異なるADトランスジェニックマウスモデルの脳室空間内に、各APOE変異体をコードするAAVベクターの単回注入を行った。マウスを短期間(2〜3カ月)または長期間(5カ月)曝露した。in vivoイメージング、in vivo微量透析およびアレイ断層撮影法を使用して、ISFにおけるアミロイド沈着およびオリゴマー形成に対するだけでなく、Aβ関連神経毒性(スパイン消失およびジストロフィー)に対する、ヒトApoEアイソフォームの影響を評価した。マウスを処置群にランダムに割り当てた。注射するベクターの性質は統計解析まで盲検化したままにした。外科手技から首尾よく回復した全ての動物を死後分析に含めた。サンプルサイズは以前の経験に基づいて予め決定した。第2のトランスジェニック系統を用いた反復を行って仮説をさらに試験した。
動物
APPswe/PS1dE9(APP/PS1)マウス(D. R. Borcheltら、Accelerated amyloid deposition in the brains of transgenic mice coexpressing mutant presenilin 1 and amyloid precursor proteins. Neuron 19巻、939頁(1997年10月))(Jackson laboratory)およびTg2576マウス(K. Hsiaoら、Correlative memory deficits, Abeta elevation, and amyloid plaques in transgenic mice. Science 274巻、99頁(1996年10月4日))は、プリオンプロモーターの制御下で、スウェーデン変異K594N/M595Lを含有するヒト変異体アミロイド前駆体タンパク質遺伝子を発現する。APP/PS1モデルは、6カ月齢でアミロイド沈着を有する重症の表現型がもたらされる、エクソン9が欠失したプレセニリン1遺伝子も過剰発現する。Tg2576系統は、約1年齢でアミロイド斑が発生する穏やかなモデルである。本発明者らは、7カ月齢のAPPPS1を2カ月(n=4匹のAAV4−GFP動物、n=4匹のAAV4−APOE2動物、n=6匹のAAV4−APOE3動物およびn=5匹のAAV4−APOE4動物)または5カ月(n=4匹のAAV4−GFP動物、n=5匹のAAV4−APOE2動物、n=6匹のAAV4−APOE3動物およびn=5匹のAAV4−APOE4動物)のいずれかにわたって各AAVベクターに曝露した。さらに、ISF中のAβのレベルを測定するために、16カ月齢のTg2576マウスのコホート(n=3匹のAAV4−GFP動物、n=3匹のAAV4−APOE2動物、n=5匹のAAV4−APOE3動物およびn=5匹のAAV4−APOE4動物)を含めた。APOE欠損マウス(the Jackson Laboratory)も使用した。NIHおよび施設のガイドラインに従って実験を実施した。
ウイルスベクターの構築および作製
University of Illinois(Chicago)のDr.LaDuから惜しみなく提供されたAPOE−2 cDNA、APOE−3 cDNAおよびAPOE−4 cDNAをPCRによって増幅し、BamHIによって消化し、AAV2−pCMV−hrGFP骨格に挿入した。AAV血清型4ベクターは、University of Iowa、Iowa CityのGene Transfer Vector Coreにより作製された。AAVウイルス力価を定量的PCRによって決定した。
定位脳室内注射
AAV脳室内注射を以前に記載されている通り実施した(G. Liu、I. H. Martins、J. A. Chiorini、B. L. Davidson、Adeno-associated virus type 4 (AAV4) targets ependyma and astrocytes in the subventricular zone and RMS. Gene Ther 12巻、1503頁(2005年10月);T. L. Spiresら、Dendritic spine abnormalities in amyloid precursor protein transgenic mice demonstrated by gene transfer and intravital multiphoton microscopy. J Neurosci 25巻、7278頁(2005年8月3日))。動物を麻酔し(ケタミン/キシラジン:それぞれ体重1kg当たり100mgおよび体重1kg当たり50mg)、定位枠に置いた(David Kopf Instruments)。ウイルス調製物(力価2×1012vg/ml)5μlを用いた各側脳室への注射を、10μlのHamiltonシリンジ(Hamilton Medical)に取り付けた33ゲージの針を使用し、0.25μl/分で実施した。定位座標はブレグマから算出した(前後+0.3mm、中外側±1mmおよび背腹側−2mm)。
頭蓋窓の埋め込みおよび多光子イメージング
マウスをイソフルラン(1.5%)で麻酔し、頭蓋の小片を5mmのカバーガラスで置き換えることによって頭蓋窓を埋め込んだ(T. L. Spiresら、Dendritic spine abnormalities in amyloid precursor protein transgenic mice demonstrated by gene transfer and intravital multiphoton microscopy. J Neurosci 25巻、7278頁(2005年8月3日))。画像化のために、ワックスリングを構築して対物レンズ(20×、開口数0.95、Olympus)用の水のウェルを作製した。BBBを横断し、斑に結合する蛍光化合物であるメトキシ−XO4(5mg/kg)を外科手術の24時間前に腹腔内注射した後にアミロイド沈着を可視化した(B. J. Bacskai、W. E. Klunk、C. A. Mathis、B. T. Hyman、Imaging amyloid-beta deposits in vivo. J Cereb Blood Flow Metab 22巻、1035頁(2002年9月))。Texas Redデキストラン(70,000Da;PBS中12.5mg/ml;Molecular Probes)を外側尾静脈内に注射して、蛍光血管造影図をもたらし、正確な同じ視野を経時的に追跡した(follow)。AAV注射の1週間後、次いで、1カ月後および2カ月後にマウスを画像化した。
多光子イメージングシステム(Bio−Rad 1024ES、Bio−Rad)に搭載したモードロックTi:Sapphire laser(MaiTai、Spectra−Physics)により860nmの二光子蛍光励起光を生成した。放出された光を、380〜480、500〜540および560〜650nmの範囲の3つの光電子増倍管(Hamamatsu Photonics)を含有する外付け検出器によって収集した。斑および血管造影についての二色画像を同時に取得した。低拡大率のin vivo画像(615×615μm;z−ステップ、2μm、深さ、約200μm)を取得し、6〜8視野を画像化した。
画像処理および解析
斑の密度を、Image Jを使用して、画像化した皮質の体積当たりのアミロイド沈着の数を報告することによって定量した。本発明者らは、表面におけるzスタックの最初のスライスから始まってアミロイド沈着を検出することができた最後のスライスまでを皮質の体積とみなした。アミロイド沈着のサイズを、2次元投影後の最大強度からそれらの断面積を測定することによって経時的に評価した。各斑について、最初の時点と1カ月目の間の面積の比(T1/T0)、または2カ月目と1カ月目の間の面積の比(T2/T1)を算出した。多光子顕微鏡の設定(レーザーパワーおよびPMT)はイメージングセッション全体にわたって維持した。
in vivoにおける微量透析試料採取
Tg2576マウスに対して、AAV注射の3カ月後に、ISFのin vivoにおける微量透析試料採取を実施した(S. Takedaら、Novel microdialysis method to assess neuropeptides and large molecules in free-moving mouse. Neuroscience 186巻、110頁(2011年7月14日))。微量透析プローブは4mmのシャフトを有し、3.0mm、1000kDaの分子量カットオフ(MWCO)ポリエチレン(PE)膜(PEP−4−03、株式会社エイコム)を伴った。使用する前に、プローブを人工脳脊髄液(aCSF:122mMのNaCl、1.3mMのCaCl2、1.2mMのMgCl2、3.0mMのKH2PO4、25.0mMのNaHCO3)で洗浄した。予め条件付けたプローブの出口および入口を、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)管材料(φ250μm i.d.)を使用して、それぞれ蠕動ポンプ(ERP−10、株式会社エイコム)およびマイクロシリンジポンプ(ESP−32、株式会社エイコム、日本、京都)に接続した。
プローブの埋め込みを、以前に記載されている通り実施した(S. Takedaら、Novel microdialysis method to assess neuropeptides and large molecules in free-moving mouse. Neuroscience 186巻、110頁(2011年7月14日);J. R. Cirritoら、In vivo assessment of brain interstitial fluid with microdialysis reveals plaque-associated changes in amyloid-beta metabolism and half-life. J Neurosci 23巻、8844頁(2003年10月1日))。麻酔した動物(1.5%イソフルラン)に、ガイドカニューレ(PEG−4、株式会社エイコム)を海馬(ブレグマ−3.1mm、正中線に対して−2.5mm外側、硬膜に対して−1.2mm腹側)に定位に埋め込んだ。次いで、歯科用セメントを使用してガイドを頭蓋に固定した。外科手術の4日後、マウスを微量透析ケージに入れ、ガイドを通じてプローブを挿入した。試料収集の前に、プローブを、aCSFを用いて毎分10μlの流速で240分にわたって灌流した。試料を毎分0.25μl(Aβについて)および毎分0.1μl(ApoEについて)の流速で収集した。マウスは覚醒しており、微量透析ケージ内を自由に動ける状態であった(AtmosLM microdialysis system、株式会社エイコム)。
免疫組織学的分析
マウスをCO2吸入によって安楽死させた。一方の大脳半球をPBS中4%パラホルムアルデヒド中に固定し、パラフィンワックスに包埋した。皮質の1mm3の小片をアレイ断層撮影法のために処理し、残りはスナップ凍結した。パラフィン包埋した切片(10μm)をキシレン中で脱パラフィンし、エタノール中で再水和し、クエン酸緩衝液(10mMのクエン酸ナトリウム、0.05%のTween20、pH6.0)中で処理し、0.5%トリトンを伴うPBS中で透過処理し、3%BSAを伴うPBS中で2時間にわたってブロッキングした。一次抗体と一緒に4℃で一晩インキュベートした:アミロイド斑についてはBam10(1:1000、SIGMA)およびR1282(1:500、Dr Dennis Selkoeから提供された)、ヒトAPOEについてはマウスモノクローナル抗体3H1(1:250、Ottawa Heart Institute)、神経突起ジストロフィーについてはニワトリ抗GFP(1:500、Aves)、SMI−312(1:500、Covance)、小膠細胞およびアストロサイトについてはそれぞれIBA1(1:500、和光純薬工業株式会社)およびGFAP(1:1000、SIGMA)。二次抗体と一緒に2時間インキュベートした。封入前に50%エタノール中Thio−S(Sigma−Aldrich)0.05%によってアミロイド密集コア斑を標識した。
アレイ断層撮影法のための試料の調製、免疫染色およびイメージング
アレイ断層撮影分析を以前に記載されている通り実施した(R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))。脳室領域に隣接する皮質組織の小片(1mm3)を切り取り、0.01MのPBS中4%パラホルムアルデヒド、2.5%スクロース中に3時間にわたって固定した。エタノール中で脱水した後、試料をLR White resin(Electron Microscopy Sciences)中で4℃で一晩インキュベートし、その後、53℃で重合させた。次いで、切片のリボン(70nm)をultracut microtome(Leica)上でJumbo Histo Diamond Knife(Diatome)を使用することによって切断した。
TBS中50mMのグリシンで5分再水和した後、切片をTris中0.05%Tweenおよび0.1%BSAで5分にわたってブロッキングし、ブロッキング緩衝液中1:50の一次抗体を2時間にわたって適用し(Dr Virginia Leeからの、オリゴマーAβ種を優先的に染色するPSD95 Abcam Ab12093、シナプシンI Millipore AB1543およびNAB61(E. B. Leeら、Targeting amyloid-beta peptide (Abeta) oligomers by passive immunization with a conformation-selective monoclonal antibody improves learning and memory in Abeta precursor protein (APP) transgenic mice. J Biol Chem 281巻、4292頁(2006年2月17日))、その後、二次抗体(Invitrogen)を適用した。7〜30の連続切片に関して画像を得、Zeiss Axioplan LSM510共焦点/多光子顕微鏡(63×開口数 Plan Apochromatic油浸対物レンズ)を使用することによって取得した。
画像を、ImageJ(National Institutes of Health)およびMATLAB(Mathworks)を使用して以前に記載されている通り解析した(R. M. Koffieら、Oligomeric amyloid beta associates with postsynaptic densities and correlates with excitatory synapse loss near senile plaques. Proc Natl Acad Sci U S A 106巻、4012頁(2009年3月10日))。各画像セットをスタックに変換し、Image J MultiStackRegおよびStackReg plug−ins(Brad BusseおよびP.Thevenaz、Stanford Universityの好意による)を使用することによってアラインメントした。既知体積を選択し、自動化された閾値に基づく検出プログラムを使用して、2つ以上の連続した切片に出現したPSD95斑点とシナプシン斑点の両方を計数した(WaterShed program、Brad Busse、Stephen Smith、およびKristina Micheva、Stanford Universityにより提供された)。Watershedにより、2つ以上のアレイのスライスに存在した斑点を示す閾値画像スタック(各チャネルについて別々)がエクスポートされた。マウスごとに皮質内のいくつかの部位を試料採取し、斑の端部からのそれらの距離を測定した。
Aβ定量
Aβ40およびAβ42の濃度を、BNT−77/BA−27(Aβ40について)およびBNT−77/BC−05(Aβ42について)サンドイッチELISA(和光純薬工業株式会社)により、製造業者の指示に従って決定した。同じN末端(残基1〜16)抗体を捕捉と検出のどちらにも使用した82E1/82E1サンドイッチELISA(Immuno−Biological Laboratories)を使用してAβオリゴマーを定量した(W. Xiaら、A specific enzyme-linked immunosorbent assay for measuring beta-amyloid protein oligomers in human plasma and brain tissue of patients with Alzheimer disease. Arch Neurol 66巻、190頁(2009年2月))。
免疫ブロット分析
脳溶解物および微量透析液(タンパク質20μg)をSDS−PAGE(Invitrogen)用のMOPSランニング緩衝液中4〜12%Novex Bis−Trisゲル(Invitrogen)で電気泳動した。ゲルをPVDF膜に転写し、5%Milk/TBS−T中で60分にわたってブロッキングした。膜をヤギ抗APOE抗体(1:1000、Millipore)でプローブしてApoeヌル動物のISF中のAPOEを検出し、対照としてアルブミンを使用した。ヒトおよびマウスのAPOEについてのブロットを、EP1373Y抗体(1:1000、Novus Biologicals)を用いて、およびウサギポリクローナルAPOE抗体(1:1000、Abcam)を用いてそれぞれプローブした。APPタンパク質分解産物(sAPP:22C11、1:4000、MilliporeおよびC83/C99:APP Cter、1:4000、Sigma)およびインスリン分解酵素(IDE、1:1000、Santa Cruz)も分析した。HRPとコンジュゲートしたヤギIgG抗体(Vector)と一緒に2時間インキュベートした。ECL kit(Western Lightning、PerkinElmer)を使用して免疫反応性タンパク質を生じさせ、Hyperfilm ECL(GE Healthcare)で検出した。
qRT−PCR
TRIzol(登録商標)Reagent(Life technologies;15596−026)を使用して脳由来の全RNAを抽出し、次いで、SuperScript(登録商標)III One−Step RT−PCR System(Life technologies;12574−018)を使用してcDNAを合成した。ヒトAPOE mRNA、内因性apoE mRNAおよびGapdh mRNAを増幅するために、PCRプライマーを設計した(Apoeフォワード:5’-AGCTCCCAAGTCACACAAGA;Apoeリバース:5’-GTTGCGTAGATCCTCCATGT;APOEフォワード:5’-CCAGCGACAATCACTGAAC;APOEリバース:5’-GCGCGTAATACGACTCACTA;Gapdhフォワード:5’-ATGACATCAAGAAGGTGGTGおよびGapdhリバース:5’-CATACCAGGAAATGAGCTTG)
APOE ELISA
試料をTBS中2%トリトンで抽出し、それにより、膜に結合したApoEの動員(mobilization)および定量を可能にした。ELISAプレートを、1.5μg/mlのヤギ抗APOE抗体(マウスAPOE)または1.5μg/mlのWUE4抗体(ヒトAPOE)を用いて一晩コーティングし、PBS中1%乳を用いて1.5時間にわたってブロッキングした。ヒト組換えApoEを標準物質として使用した(ヒトアッセイ、Biovision)または脳抽出物由来の、組織内のマウス標準物質(マウスアッセイ)および試料をELISA緩衝液(PBS中0.5%BSAおよび0.025%Tween−20)中で一晩インキュベートした。ヒトに特異的な検出抗体(ヤギ−apoe Millipore;1:10,000)またはマウスに特異的な検出抗体(Abcam;1:2,000)をそれぞれ使用し、その後、HRPとコンジュゲートした二次抗体を使用した。H3PO4を使用して溶液を停止する前にTMB基質を使用してシグナルを明らかにし、それを450nmにおいて測定した。
統計解析
Prismソフトウェアを使用して統計解析を実施した。試料のサイズが小さいので、本解析の大部分について、正規性を仮定することはできなかった。全ての死後分析について、ノンパラメトリックなクラスカル・ワリス検定、続いてダンの多重比較検定を実施した。アミロイド進行のin vivoイメージングデータを、マウスを変量効果として、およびベクターを固定効果として、時間およびベースライン容積測定密度を用いた混合効果モデルを使用して解析した。時間とベクターとの間の相互作用をこの解析で考察したが、有意ではなかった。斑サイズを経時的に分析するために、マウスを変量効果としておよび対数ベースラインサイズ(第1の分析におけるt0、第2の分析におけるt1)を固定効果として用いて、2つの混合効果モデルを2つの連続した時点の比の対数について当てはめた。試料は各分析について盲検化した。
刊行物、特許および特許出願は全て、参照により本明細書に組み込まれる。上記明細書では本発明をそのある特定の好ましい実施形態に関連して記載し、また、例示目的で多くの詳細を記載しているが、当業者には、本発明にはさらなる実施形態が可能であること、および本明細書に記載の詳細のいくつかは、本発明の基本的な原理から逸脱することなく相当に変動し得ることが明らかである。
「a(1つの)」および「an(1つの)」および「the(その)」という用語ならびに同様の指示対象の使用は、本発明の記載に関しては、本明細書において特に指定がある場合を除き、または文脈から明らかに矛盾する場合を除き、単数と複数の両方を包含すると解釈されるべきである。「含む(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」および「含有する(containing)」という用語は、特に断りのない限り、制限のない用語(すなわち、「〜に限定されないが、〜を含めた」という意味である)と解釈されるべきである。本明細書では、値の範囲の列挙は、本明細書では別段の指定のない限り、ただ単にその範囲内に入る別々の値のそれぞれについて個々に参照する簡潔な方法として機能するものとし、別々の値のそれぞれが、本明細書において個々に列挙されたのと同じく本明細書に組み込まれる。本明細書に記載の方法は全て、本明細書において別段の指定がある場合を除き、または文脈から明らかに矛盾する場合を除き、任意の適切な順番で実施することができる。本明細書において提供されるありとあらゆる例、または例示的な言葉(例えば、「などの(such as)」)の使用は、ただ単に本発明をよりよく明らかにするためのものであり、別段特許請求されていない限り、本発明の範囲に対する限定を課すものではない。本明細書中のどの言葉も、任意の特許請求されていない要素が本発明の実施に必須であることを示すと解釈されるべきではない。
本発明の実施形態は、本発明を実行するため、本発明者らが知っている最良の様式を含めて、本明細書に記載されている。それらの実施形態の変形は、前述の記載を読めば当業者には明らかになり得る。本発明者らは、当業者がそのような変形を必要に応じて使用することを予想し、また、本発明者らは、本発明が本明細書で具体的に記載されているものとは別のやり方で実施されることを意図している。したがって、本発明は、適用法によって認められる添付の特許請求の範囲において列挙されている主題の改変および等価物の全てを包含する。さらに、本明細書において別段の指定がある場合を除き、または文脈から明らかに矛盾する場合を除き、その可能性のある変形全てにおける上記の要素の任意の組合せが本発明に包含される。