以下に、本発明の実施の形態に係るモータ駆動装置、ヒートポンプ装置および冷凍空調装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1に係るモータ駆動装置の構成を示す図である。モータ駆動装置100は、直流電源1から供給される直流電力を交流電力に変換する複数の半導体スイッチング素子2aから2fと各々が半導体スイッチング素子2aから2fの各々に並列に接続された複数のダイオード3aから3fとで構成され、図示しない負荷を駆動するモータ4に交流電力を出力するインバータ5と、インバータ5の入力側に印加される直流電圧の電圧値を検出する電圧検出部6と、インバータ5に流入する直流電流の電流値を検出する電流検出部7と、電圧検出部6で検出された電圧と電流検出部7で検出された電流とを入力としてパルス幅変調(Pulse Width Modulation:PWM)信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成してインバータ5に出力しインバータ5をスイッチング動作させるインバータ制御部8とを備える。
インバータ制御部8は、電圧検出部6で検出された電圧Vdcと電流検出部7で検出された電流Idcに基づき電圧指令を生成する電圧指令生成部9と、PWM信号を出力して半導体スイッチング素子2aから2fを駆動する同期PWM制御部10とを備える。インバータ制御部8は、パルス幅変調信号の周波数がインバータ5の出力電圧周波数の3n(nは自然数)倍となるようにインバータ5を動作させ、モータ4が加速した後の出力電圧周波数の最小値が、動作パルス数を切替える周波数の最小値より大きくなるように、インバータ5を動作させる。またインバータ制御部8は、モータ4が加速した後の出力電圧周波数の最大値が、動作パルス数を切替える周波数の最小値より小さくなるように、インバータ5を動作させる。インバータ制御部8の詳細は後述する。
なお直流電源1は交流電源をダイオードブリッジで整流して平滑化した直流電源でもよいし太陽電池またはバッテリに代表される直流電源でもよい。またインバータ5を構成する複数の半導体スイッチング素子2aから2fはトランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor−Field Effect Transistor)、サイリスタ、またはGTO(Gate Turn−Off Thyristor)の何れの素子でもよい。また複数の半導体スイッチング素子2aから2fの半導体材料としては、主流であるケイ素(Silicon:Si)だけでなく、一般的にワイドバンドギャップ半導体と呼ばれる炭化ケイ素(Silicon Carbide:SiC)、窒化ガリウム(Gallium Nitride:GaN)、またはダイヤモンド(Carbon:C)のいずれの半導体材料であってもよい。
以下、インバータ制御部8の構成を説明する。
図2は本発明の実施の形態1に係るモータ駆動装置の電圧指令生成部の構成図である。電圧指令生成部9は、上位コントローラから与えられる第一の目標回転数ω**を入力し、第一の目標回転数ω**を補正して補正後の第二の目標回転数ω***を出力する目標回転数補正部11と、速度推定値ω^に基づいて目標回転数補正部11から出力された第二の目標回転数ω***に一致するような速度指令値ω*を出力する速度指令生成部12と、電流検出部7で検出された電流Idcからモータ4に流れるモータ相電流Iu,Iv,Iwを復元する電流復元部13と、電流復元部13で復元されたモータ相電流Iu,Iv,Iwをモータ4のロータ磁極位置θ^に基づいてdq座標軸のdq軸電流Id,Iqに変換する座標変換部である三相二相変換部14と、三相二相変換部14で変換されたdq軸電流Id,Iqと電圧指令Vd*,Vq*とに基づいてロータ磁極位置θ^とモータ4の速度推定値ω^とを推定する位置速度推定部15と、位置速度推定部15で推定された速度推定値ω^が速度指令値ω*に一致するようなdq座標上のq軸電流の指令値であるq軸電流指令Iq*を生成する電流指令生成部16と、三相二相変換部14で変換されたd軸電流Idが図示しない電流指令生成部で生成されたdq座標上のd軸電流の指令値であるd軸電流指令Id*に一致するようなd軸電圧指令Vd*を求めると共に、q軸電流Iqが電流指令生成部16で生成されたq軸電流指令Iq*に一致するようなq軸電圧指令Vq*を求めるdq軸電圧指令演算部17と、電圧検出部6で検出された電圧Vdcと位置速度推定部15で推定されたロータ磁極位置θ^とに基づいて、dq軸電圧指令演算部17で演算されたdq軸電圧指令Vd*,Vq*をU相,V相,W相の電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換する電圧指令変換部18とを備える。以下では第一の目標回転数ω**を単にω**と称し、第二の目標回転数ω***を単にω***と称する場合がある。
電圧指令変換部18は、dq軸電圧指令Vd*,Vq*を電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に変換すると共に、電圧指令Vu*の立下りゼロクロス点を基準点とする電圧位相θvを出力する。なお実施の形態1では、電圧指令Vu*の立下りゼロクロス点を電圧位相θvの基準点、例えば0ラジアンとしているが、電圧位相θvの基準点は電圧指令Vu*の立下りゼロクロス点以外の位置でもよい。例えば電圧指令Vv*の立下りゼロクロス点または電圧指令Vw*の立下りゼロクロス点を電圧位相θvの基準点としてもよい。また、本発明の特徴部分である目標回転数補正部11以外の構成要素は、何れも公知であり、モータ4を駆動可能な構成であれば図示例の構成に限定されるものではない。
図3は本発明の実施の形態1に係るモータ駆動装置の同期PWM制御部の構成図である。同期PWM制御部10は、位置速度推定部15で推定された速度推定値ω^と三相二相変換部14で変換されたq軸電流Iqとにより、負荷の機械角に対応した負荷トルクの値を推定し、推定した負荷トルクの値に対応したパルス数Nを出力するパルス数設定部19と、パルス数設定部19から出力されたパルス数Nに対応したキャリア波を生成するためのキャリア周波数情報を生成する周波数情報生成部20と、電圧指令変換部18から出力された電圧位相θvに同期させるように、周波数情報生成部20から出力されたキャリア周波数情報に対応した周波数のキャリア波を生成するキャリア生成部21と、電圧指令変換部18で変換された電圧指令Vu*,Vv*,Vw*とキャリア生成部21で生成されたキャリア波とを比較してPWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成するPWM信号生成部22とを備える。パルス数Nは同期PWMで用いるキャリア波の周波数を決定するための値である。
なおインバータ制御部8は少なくともプロセッサとメモリを備え、インバータ制御部8の構成要素の動作はソフトウエアにより実現することができる。例えば電圧指令生成部9および同期PWM制御部10用のプログラムをメモリに格納しておき、このプログラムをプロセッサが実行することにより、電圧指令生成部9および同期PWM制御部10が実現される。
次にモータ駆動装置100の基本動作を説明する。
図4は同期PWMによる電圧指令とキャリア波を示す図である。図4の横軸は電圧位相θvを表す。図4では上から順に同期9パルスモード、同期6パルスモード、および同期3パルスモードによるキャリア波の波形と電圧指令Vu*が示される。同期9パルスモードでは電圧指令Vu*の1周期中に9つのキャリア波が生成され、同期6パルスモードでは電圧指令Vu*の1周期中に6つのキャリア波が生成され、同期3パルスモードでは電圧指令Vu*の1周期中に3つのキャリア波が生成される。このように同期PWMではキャリア波の周波数が電圧指令の周波数の整数倍に制御される。
図5は電圧指令とキャリア波とPWM信号との関係を示す図である。前述したようにキャリア生成部21では、電圧位相θvに同期させるようにパルス数Nに対応した周波数のキャリア波が生成される。従ってパルス数Nが9である場合、キャリア生成部21では電圧指令Vu*の周波数に対してキャリア波の周波数が9倍となる。PWM信号生成部22では電圧位相θvを基準とする電圧指令Vu*とキャリア波とが比較され、図5に示すようなPWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNが生成される。図示例では電圧指令Vu*の1周期中、すなわち電圧位相θvが0°から360°までの間にPWM信号UPのオンオフが9回行われる。
図6はパルス数設定部と周波数情報生成部の動作を説明するための図である。
図6の上側の図はパルス数設定部19における動作を説明するための図であり、横軸は位置速度推定部15で推定された速度推定値ω^を表し、縦軸はパルス数を表す。パルス数設定部19には、速度推定値ω^に対する3つのパルス数切替回転数ωa,ωb,ωcと、3つのパルス数Na,Nb,Ncとが対応付けて設定されている。パルス数切替回転数はωa,ωb,ωcの順で高い値となる。パルス数はNc,Nb,Naの順で高い値となる。速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωaからωbまでの範囲のとき、パルス数設定部19はNaに対応するパルス数を出力し、速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωbからωcまでの範囲のとき、パルス数設定部19はNbに対応するパルス数を出力し、速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωc以上のとき、パルス数設定部19はNcに対応するパルス数を出力する。なおパルス数切替回転数とパルス数の設定は何れも3つ以上でもよい。
図6の下側の図は周波数情報生成部20における動作を説明するための図であり、横軸は位置速度推定部15で推定された速度推定値ω^、縦軸はキャリア周波数を表す。周波数情報生成部20には、速度推定値ω^に対する3つのパルス数切替回転数ωa,ωb,ωcと、4つのキャリア周波数fca,fcb,fcc,fcnとが対応付けて設定されている。キャリア周波数はfcn,fcc,fcb,fcaの順で高い値となる。速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωaからωbまでの範囲のとき、周波数情報生成部20はfcnからfcaまでの範囲で徐々に高くなるキャリア周波数を出力し、速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωbからωcまでの範囲のとき、周波数情報生成部20はfcnからfcbまでの範囲で徐々に高くなるキャリア周波数を出力し、速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωc以上のとき、周波数情報生成部20はfcnからfccまでの範囲で徐々に高くなるキャリア周波数を出力する。なおパルス数切替回転数の設定は3つ以上でもよく、キャリア周波数の設定は4つ以上でもよい。
このようにパルス数設定部19および周波数情報生成部20を構成することにより、速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωaからωbまでの範囲のとき、インバータ制御部8はパルス数をNaとする同期PWMでインバータ5を動作させる。速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωbからωcまでの範囲のとき、インバータ制御部8はパルス数をNbとする同期PWMでインバータ5を動作させる。また速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωc以上のとき、インバータ制御部8はパルス数をNcとする同期PWMでインバータ5を動作させる。
なお速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωa未満のとき、インバータ制御部8が一定のキャリア周波数、すなわち非同期PWMでインバータ5を動作させる。ただし速度推定値ω^がパルス数切替回転数ωa未満の範囲においても同期PWMを用いてもよい。
以下では目標回転数補正部11の動作を説明する。
図7は目標回転数補正部における動作を説明するための図である。横軸は目標回転数補正部11に入力される第一の目標回転数ω**を示す、縦軸は特定の加減速期間における速度指令値ω*の最終値、すなわち第二の目標回転数ω***を示す。第二の目標回転数ω***と速度指令値ω*との関係は、通常、加減速完了後はω***=ω*となる。パルス数切替回転数ωaを中心としてω**とω***とを相違させることでヒステリシスを持たせている。同様に目標回転数補正部11は、パルス数切替回転数ωbを中心としてω**とω***とを相違させることでヒステリシスを持たせ、パルス数切替回転数ωcを中心としてω**とω***とを相違させることでヒステリシスを持たせる。従ってω***には、パルス数切替回転数ωa,ωb,ωcの各々の前後一定範囲に禁止帯Δω*が設定される。
モータが加速する場合、ωaよりも低い回転数ではω**の増加に対してω***がリニアに増加するが、ωa付近では、ω**の増加に対して、ω***はωa−Δω*の値が維持された後にωa+Δω*の値となる。またωaからωbまでの回転数ではω**の増加に対してω***がリニアに増加するが、ωb付近では、ω**の増加に対して、ω***はωb−Δω*の値が維持された後にωb+Δω*の値となる。同様にωbからωcまでの回転数ではω**の増加に対してω***がリニアに増加するが、ωc付近では、ω**の増加に対して、ω***はωc−Δω*の値が維持された後にωc+Δω*の値となる。
モータが減速する場合、ωcよりも高い回転数ではω**の減少に対してω***がリニアに減少するが、ωc付近では、ω**の減少に対して、ω***はωa+Δω*の値が維持された後にωa−Δω*の値となる。またωcからωbまでの回転数ではω**の減少に対してω***がリニアに減少するが、ωb付近では、ω**の減少に対して、ω***はωb+Δω*の値が維持された後にωb−Δω*の値となる。同様にωbからωaまでの回転数ではω**の減少に対してω***がリニアに減少するが、ωa付近では、ω**の減少に対して、ω***はωc+Δω*の値が維持された後にωc−Δω*の値となる。
これによりパルス数切替回転数ωa,ωb,ωcの各々の近くでモータ実角速度と速度推定値ω^が脈動した場合でも、パルス数切替動作時のハンチングを回避することが可能である。
図8は加速時における第二の目標回転数と速度指令値との関係を説明するための図である。図8では図7のパルス数切替回転数ωa付近における加速時のω***、ω**、ω*の関係を説明する。縦軸は速度指令値ω*、すなわちモータの回転数を表す。横軸は時間を表す。2種類の点線の内、細い点線はω**を表し、太い点線はω***を表す。実線は速度指令値ω*を示す。(1)の期間は、モータが一定速度で回転するとき、例えば非同期PWMでインバータ5が動作するときの速度指令値ω*を表す。(2)の期間は同期PWMでインバータ5が動作するときにおいて、加速時の速度指令値ω*を表す。(3)の期間は同期PWMでインバータ5が動作するときにおいて、加速後のモータの回転数がω***と一致するときの速度指令値ω*を表す。
パルス数切替回転数ωaの前後一定範囲には禁止帯Δω*が示される。ω**はωaよりも高く、かつ、ωa+Δω*に相当する回転数よりも低い値であると仮定する。そしてω***は、ωa+Δω*に相当する回転数以上の値に設定されているものとする。このように設定された目標回転数補正部11では、(1)と(2)の期間の境界部のタイミングAで目標回転数が更新される。このときω**は禁止帯Δω*内に入っているため、ω**はωa+Δω*に補正される。その後(2)の期間でω*が増加することによりモータが加速し、ω*は禁止帯Δω*内、すなわちωa−Δω*からωa+Δω*までの値を通過して、最終的にはω*=ω***となる。
図9は減速時における第二の目標回転数と速度指令値との関係を説明するための図である。図9では図7のパルス数切替回転数ωa付近における減速時のω***、ω**、ω*の関係を説明する。図8と同様に縦軸はモータの回転数を表し、横軸は時間を表す。実線は速度指令値ω*を示し、2種類の点線の内、細い点線はω**を表し、太い点線はω***を表す。(2)の期間は、モータが一定速度で回転するときの速度指令値ω*を表す。(3)の期間は、減速時の速度指令値ω*を表す。(4)の期間は減速後のモータの回転数がω***と一致するときの速度指令値ω*を表す。
パルス数切替回転数ωaの前後一定範囲に禁止帯Δω*が示される。ω**は、ωaよりも低く、かつ、ωa−Δω*に相当する回転数よりも高い値であると仮定する。そしてω***は、ωa−Δω*に相当する回転数以下の値に設定されている。このように設定された目標回転数補正部11では、(2)の期間と(3)の期間の境界部のタイミングAで目標回転数が更新される。このときω**は禁止帯Δω*内に入っているため、ω**はωa−Δω*に補正される。その後、(3)の期間でω*が減少することによりモータが減速し、ω*は禁止帯Δω*内、すなわちωa+Δω*からωa−Δω*までの値を通過して、最終的にはω*=ω***となる。
以下では、負荷トルクが脈動する負荷の一例を説明した上で、目標回転数を補正せずにこの負荷を制御した場合の動作と、目標回転数を補正してこの負荷を制御した場合の動作とを対比して説明する。
図10は本発明の実施の形態1に係るモータ駆動装置で駆動されるモータを内蔵した圧縮機の横断面図である。図10に示す圧縮機30は、ロータの機械角1周期毎に負荷トルクが脈動する密閉型のロータリ圧縮機である。圧縮機30は、シリンダ31と、シリンダ31の内部に配置されるローリングピストン32と、ローリングピストン32に貫通する回転軸33とを備え、シリンダ31には吸入口34と吐出口35が形成される。回転軸33はモータ4のロータにも貫通しており、ローリングピストン32の機械角1周期はロータの機械角1周期と等しい。シリンダ室36は、吸入口34に通じる低圧室36aと、吐出口35に通じる高圧室36bと、低圧室36aと高圧室36bと、低圧室36aと高圧室36bを区画するベーン36cとにより構成されている。図1に示すインバータ5からモータ4に交流電力が供給されることにより図1に示すモータ4のロータが回転し、ロータの回転軸33に設けられたローリングピストン32がシリンダ31内で回転する。このとき図示しない吸入パイプを通じて吸入口34から低圧室36a内に冷媒ガスが吸入され、吸入された冷媒ガスはシリンダ室36で圧縮されて吐出口35より吐き出される。図10の上側の図は、上死点近くに位置するローリングピストン32の状態を表し、このとき冷媒ガスがシリンダ31内に吸入される。図10の中側の図は、時計周りに回転することにより吸入口34からシリンダ31内に吸入された冷媒ガスを圧縮しながら下死点に向かうローリングピストン32の状態を表す。このときシリンダ31内の冷媒ガスがローリングピストン32により圧縮される。図10の下側の図は、下死点を通過した後のローリングピストン32の状態を表す。このとき圧縮された冷媒ガスが吐出口35から排出される。密閉型の圧縮機30では、ローリングピストン32が1回転する間、すなわちモータ4のロータが1回転する間に、冷媒の吸入、圧縮、および吐出という行程を経る。そのため圧縮機30では、機械的な構造に起因して、ローリングピストン32の機械角に応じた圧力変動、すなわち周期的な負荷トルクの変動を伴う場合がある。図10の上側の図に示すようにローリングピストン32が上死点近くにある場合には負荷トルクが軽くなり、図10の中側と下側の図に示すように、ローリングピストン32が下死点付近にある場合には負荷トルクが重くなる。特に図示例の密閉型の圧縮機30では、ローリングピストン32の回転数が低下するほど負荷トルクの変動が大きくなる傾向がある。なお図10には、ロータの機械角1周期毎に負荷トルクが脈動する負荷の一例としてロータリ圧縮機を例示したが、モータ駆動装置100は、例えばスクロール圧縮機といったロータリ圧縮機以外の負荷トルクが脈動する負荷にも適用可能である。
図11は目標回転数を補正せずに負荷トルクが脈動する負荷を制御した場合の第一の動作例を示す図である。図11には負荷トルクが脈動する負荷に内蔵されるモータが1回転するときにおける負荷トルクτlと時間の関係と、モータ実速度ωmと時間の関係と、パルス数Nと時間の関係が示される。図11ではモータ実速度ωmgがωa付近であるものと仮定している。図11に示す動作は、圧縮機のように機械角1周期において、負荷トルクが脈動する場合を想定しているが、図11に示す負荷トルクの脈動パターンは一例であり、どのような脈動パターンであってもよい。
速度指令値ω*が一定の場合、電流指令生成部16は回転数を一定に保つようにモータ電流指令値、特にトルク成分指令値であるq軸電流指令Iq*を生成する。ここで、モータ回転数は下記(1)式で示されることが知られている。(1)式のωmはモータ実角速度、τmはモータ出力トルク、τlは負荷トルク、Jmはモータおよび負荷の慣性モーメントを表している。(1)式より、τm>τlの場合、ロータは加速状態となり、τm<τlの場合、ロータは減速状態となる。
次に図11に示すように負荷トルクτlに脈動が生じたときに、ω*がωaと等しい値であり、またはω*がωaと近い値である場合の動作を考える。ここでω^=ωmとした場合、ω^はωmと同様に脈動する。図11の期間Aはω^<ωaとなる期間であり、期間Bはω^>ωaとなる期間である。ωpはωmのピーク値であり、Δωはωmの脈動を表し、ωaからωpまでの値に相当する。インバータ5は、ω^<ωaとなる期間Aでは非同期PWMで動作し、ω^>ωaとなる期間Bではパルス数Naの同期PWMで動作する。パルス数Nは機械角1周期内で変化することとなる。
このようにパルス数Nが大きく変化することにより、キャリア周波数も大きく変化するため、騒音および振動が増加することとなる。またキャリア周波数の変化によりモータ電流の歪み率も変化するため、モータから発生する騒音にも変化が生じる。特にキャリア周波数が低下する際にはモータ電流の歪み率が増加するため、騒音レベルが悪化する。また、キャリア周波数の大きな変化は、騒音レベルの変化に繋がり、騒音レベルの数値以上に聴感上での不快感に繋がる。またモータ電流の歪み率の増加はモータの振動悪化にも繋がる。
図12は目標回転数を補正せずに負荷トルクが脈動する負荷を制御した場合の第二の動作例を示す図である。図12には、負荷トルクが脈動する負荷に内蔵されるモータが1回転するときにおける負荷トルクτlと時間の関係と、モータ実速度ωmと時間の関係と、パルス数Nと時間の関係と、キャリア周波数fcと時間の関係が示される。図12ではモータ実速度ωmがωb付近であるものと仮定している。
ここでω^=ωmとした場合、ω^はωmと同様に脈動する。期間Cはω^<ωbとなる期間であり、期間Dはω^>ωbとなる期間である。ωpはωmのピーク値である。インバータは、期間Cではパルス数Naの同期PWMで動作し、または、キャリア周波数がfcnからfcaに高まるように動作する。期間Dではパルス数Nbの同期PWMで動作し、または、キャリア周波数がfcn付近で動作する。このようにパルス数Nとキャリア周波数fcは機械角1周期内で大きく変化することとなる。
負荷トルクτlに脈動が生じているとき、期間Cでは同期PWMのパルス数がNaとNbの境界上にある。そのためキャリア周波数が大幅に増減し、ハンチングが生じる。特にωb<ω*<ωcで設定されているのにも関わらず負荷トルクτlの脈動によるω^>ωbとなる期間Cでは、キャリア周波数が高くなるため、インバータのスイッチング回数増加に伴い、インバータの損失増加すなわち効率悪化に繋がる。
図13は目標回転数を補正して負荷トルクが脈動する負荷を制御した場合の動作例を示す図である。図13には、負荷トルクが脈動する負荷に内蔵されるモータが1回転するときにおける負荷トルクτlと時間の関係と、モータ実速度ωmと時間の関係と、パルス数Nと時間の関係と、キャリア周波数fcと時間の関係が示される。図13では、2つのモータ実速度ωmの曲線が示され、上側が図12に示すモータ実速度ωmであり、下側が目標回転数補正部11で補正されたω***を用いたときのモータ実速度ωmである。図13に示すように目標回転数補正部11ではωbを中心として禁止帯Δω*が設定されている。ω^=ωmとした場合、図示例のようにω^は全体的に低減し、期間Dではω^のピーク値は禁止帯Δω*内に納まる。従ってインバータは、期間Cではパルス数Naの同期PWMで動作し、キャリア周波数がfcnからfcaに高まるように動作する。また期間Dでは引き続きパルス数Naの同期PWMで動作し、キャリア周波数がfca付近で動作する。このように、モータ負荷のトルクリップルが大きい場合においても、パルス数Nとキャリア周波数fcのハンチングを抑制することができる。
図14はモータが加速または減速した後のインバータの出力電圧周波数の平均値を示す図である。縦軸は、目標回転数補正部11で補正する前後の目標回転数で制御されるインバータ5の出力電圧周波数であり、横軸は時間である。なおインバータ5の出力電圧周波数はモータの回転数周波数と読み替えてもよい。(1)の期間はモータが加速するときの期間であり、(2)の期間はモータが加速した後の一定回転数で運転するときの期間であり、(3)の期間はモータが減速するときの期間であり、(4)の期間はモータが減速した後の一定回転数で運転するときの期間である。fav1は目標回転数補正部11で補正された後の目標回転数で制御されたインバータ5の出力電圧周波数の平均値である。fav2は目標回転数補正部11で補正される前の目標回転数で制御されたインバータ5の出力電圧周波数の平均値である。Δfは平均値fav2とインバータ5の出力電圧周波数の最大値との差分である。そして(2)の期間のfav1はfav2にΔfを加算した値以上に設定され、そして(4)の期間のfav1はfav2からΔfを減算した値以下に設定される。本実施の形態に係るモータ駆動装置のインバータ制御部は、モータ4が加速した後の出力電圧周波数の最小値fminが、動作パルス数であるパルス数Nを切替える周波数f’の最小値より大きくなるように、インバータ5を動作させる。またインバータ制御部8は、モータ4が加速した後の出力電圧周波数の最大値fmaxが、動作パルス数であるパルス数Nを切替える周波数f’の最小値より小さくなるように、インバータ5を動作させる。
図15はトルク脈動とトルク電流の脈動を説明するための図である。ここまでの説明では目標回転数補正部11においてパルス数切替回転数ωa,ωb,ωcの各々の前後一定範囲に禁止帯Δω*を設ける例を説明した。図15に示すように負荷トルクτlとq軸電流Iqは相関性があるため、目標回転数補正部11は、Δω*の代わりにΔIqを禁止帯として設定してもよい。ΔIqはIqの平均値とIqのピーク値との差分に相当する値である。また、ΔIqの代わりにq軸電流指令Iq*の脈動を用いて設定してもよい。
実施の形態2.
実施の形態1では、ΔωとΔIqを用いてΔω*を予め設定する場合、すなわちオフラインチューニングの場合を説明した。しかしながら、モータと負荷には製造ばらつきがあるため、ΔωとΔIqはそのばらつきにより変動する。そこで実施の形態2では、動作中のΔω*の自動設定、すなわちオンラインチューニングによる制御方法の一例を説明する。
図16は本発明の実施の形態2に係るモータ駆動装置の電圧指令生成部の構成図である。実施の形態1との相違点は電圧指令生成部9の代わりに電圧指令生成部9Aが用いられる。電圧指令生成部9Aは、実施の形態1の電圧指令生成部9が備える構成要素に加えて、速度推定値ω^を入力して、速度推定値ω^のフィルタ処理を行い、速度推定値ω^’として出力するフィルタ処理部23を備える。また電圧指令生成部9Aは、速度指令生成部12の代わりに速度指令生成部12aを備える。速度指令生成部12aは、速度推定値ω^’に基づいて目標回転数補正部11から出力された第二の目標回転数ω***に一致するような速度指令値ω*を電流指令生成部16に対して出力する。
図17は実施の形態2に係る速度指令生成部の動作を説明するためのフローチャートである。速度指令生成部12aは、フィルタ処理されたω^’と第二の目標回転数ω***との差分であるΔω*を検出する。そして速度指令生成部12aは、Δω*がΔω+αよりも大きいか否かを判断し、Δω*がΔω+α未満である場合(S1,No)、Δω*を変更し(S2)、Δω*がΔω+αとなるまで変更ループを繰り返す。Δω*がΔω+α以上である場合(S1,Yes)、Δω*を固定化する。αは設計マージンとなるため設計者が任意に設定して良い数値である。図17のループ演算の演算周期はいずれに設定しても問題ないが、同期PWMの動作パルス数切替の演算周期よりは長くしなければΔω*の変更が同期PWMへ反映されない点に注意が必要である。
なお実施の形態1,2では、直流電源とインバータとの間に流れる直流電流を検出してインバータ制御部8に取り込み例を説明したが、インバータとモータとの間に流れる相電流を検出する相電流検出部を設けて、相電流検出部で検出された相電流をインバータ制御部8の制御で用いる構成でもよい。この場合、図2に示す三相二相変換部14では相電流検出部で検出された相電流をロータ磁極位置θに基づいてdq座標軸のdq軸電流Id,Iqに変換される。このように三相二相変換部14では直流電流または相電流を用いてd軸電流とq軸電流が求められる。また実施の形態1,2では、図3に示すパルス数設定部19において、q軸電流Iqにより負荷の機械角に対応したパルス数を設定しているが、負荷トルクと機械角との相関性のある電流情報を用いることができればよいため、パルス数設定部19は、座標変化後の直流量であるq軸電流Iqの代わりに、モータ相電流Iu,Iv,Iwを用いてパルス数を設定してもよいし、q軸電流Iqの代わりに三相二相変換部14で変換されたd軸電流Idを用いてもよい。
以上に説明したように実施の形態1,2に係るモータ駆動装置は、インバータと、直流電源とインバータとの間で検出された直流電圧と、直流電源とモータとの間で検出された電流とを入力として、パルス幅変調信号を生成してインバータに出力し、インバータをスイッチング動作させるインバータ制御部とを備え、インバータ制御部は、モータが加速した後の出力電圧周波数の平均値がインバータの出力電圧の瞬時周波数にΔfを加算した値以上になるようにインバータを動作させ、またはモータが減速した後の出力電圧周波数の平均値がインバータの出力電圧の瞬時周波数からΔfを減算した値以下になるようにインバータを動作させるように構成されている。この構成により、負荷トルクの脈動による回転数脈動Δωが発生した場合でも、同期PWMにおけるパルス数およびキャリア周波数のハンチングが抑制され、インバータの更なる低損失化を図ることができる。
実施の形態3.
図18は本発明の実施の形態3に係るヒートポンプ装置の構成図である。ヒートポンプ装置200は、実施の形態1または2に係るモータ駆動装置100を搭載し、さらに圧縮機30と四方弁40と熱交換器41と膨張機構42と熱交換器43とを備え、圧縮機30、四方弁40、熱交換器41、膨張機構42、および熱交換器43が冷媒配管44を介して接続されている。圧縮機30はその内部にローリングピストン32とモータ4を備える。
図19は図18に示すヒートポンプ装置を適用した冷凍空調装置の構成図である。図20は図19に示す冷凍空調装置の冷媒の状態についてのモリエル線図である。図20の縦軸は冷媒圧であり横軸は比エンタルピを表す。図19に示す圧縮機30、熱交換器41、膨張機構42、レシーバ45、内部熱交換器46、膨張機構47および熱交換器43は、それぞれ配管によって接続され、当該配管を冷媒が循環する主冷媒回路を構成している。なお、圧縮機30の吐出側には四方弁40が設けられており、冷媒の循環方向の切り替えが可能である。また熱交換器43の近傍にはファン48が設けられている。
図19に示す冷凍空調装置には、レシーバ45と内部熱交換器46との間から圧縮機30のインジェクションパイプまでを接続するインジェクション回路49が備えられている。インジェクション回路49には、膨張機構50と内部熱交換器46が接続されている。
熱交換器41には水が循環する水回路51が接続される。水回路51には、給湯器、ラジエータまたは床暖房が備える放熱器といった水を利用する装置が接続されている。
次に図19と図20を用いて冷凍空調装置の動作を説明する。まず冷凍空調装置が暖房運転する際の動作について説明する。圧縮機30で冷媒が圧縮されることで、図20のA点に示す高温高圧状態となる。
高温高圧状態の冷媒は圧縮機30からインジェクション回路49に吐出され、インジェクション回路49を介して四方弁40へと移送され、四方弁40を経由した後に熱交換器41へと移送され、熱交換器41で熱交換されることで冷却されて、図20のB点に示すように液化される。このとき水回路51の水は冷媒から放熱された熱によって温められ、温められた水は暖房または給湯に利用される。
熱交換器41で液化された冷媒は、膨張機構42へと移送され、膨張機構42で減圧されることで、図20のC点に示すように気液二相状態になる。気液二相状態の冷媒は、レシーバ45へと移送され、レシーバ45において圧縮機30に移送された冷媒と熱交換される。これにより気液二相状態の冷媒は冷却されて図20のD点に示すように液化する。
レシーバ45で液化された冷媒は、図中のP点で分岐し、内部熱交換器46に流れる冷媒は、内部熱交換器46において膨張機構50から圧縮機30に移送される冷媒と熱交換されて、図20のE点に示すようにさらに冷却される。なお膨張機構50で減圧された冷媒は気液二相状態である。内部熱交換器46で冷却された冷媒は、膨張機構47へと移送されて減圧され、図20のF点に示すように気液二相状態になる。
膨張機構47で気液二相状態になった冷媒は、熱交換器43に移送され、熱交換器43において外気と熱交換され、図20のG点に示すように加熱される。熱交換器43で加熱された冷媒は、四方弁40へと移送され、四方弁40を経由した冷媒はレシーバ45へと移送される。レシーバ45に移送された冷媒は図20のH点に示すようにレシーバ45でさらに加熱され、加熱された冷媒は圧縮機30に移送される。
一方、図20のD点に示す冷媒、すなわちP点で分岐した他方の冷媒は、膨張機構50において図20のI点に示すように減圧される。減圧された冷媒は、内部熱交換器46で熱交換され、図20のJ点に示すように気液二相状態となる。内部熱交換器46で熱交換された冷媒は圧縮機30へ移送される。
圧縮機30では、図20のH点に示すようにレシーバ45から圧縮機30へ移送された冷媒が中間圧まで圧縮され、圧縮された冷媒は図20のK点に示すように加熱される。加熱された冷媒は、内部熱交換器46で熱交換された冷媒と合流することで、図20のL点に示すようにその温度が低下する。そして、温度が低下した冷媒が圧縮機30でさらに圧縮される。加熱された冷媒は図20のA点に示すように高温高圧となり、圧縮機30からインジェクション回路49に吐出される。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。