以下に、本発明の実施の形態にかかる電力変換装置および空調装置を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1にかかる電力変換装置1を示す図である。電力変換装置1は、電源部である直流電源11から供給された直流電圧を交流電圧に変換し、当該交流電圧をモータ2に出力するインバータ12と、インバータ12のスイッチング素子を駆動させる同期PWM信号を出力するインバータ制御部13と、直流電源11の電圧Vdcを検出する直流電圧検出部14と、インバータ12に流れる電流Idcを検出する電流検出部15とを備える。
直流電源11は、交流電源をダイオードブリッジで整流して直流電圧に変換し、変換した直流電圧を平滑コンデンサにより平滑する構成でもよい。また、直流電源11は、太陽電池またはバッテリに代表される直流電源により構成されてもよい。
インバータ12は、スイッチング素子16a,16b,16c,16d,16e,16fと、スイッチング素子16a,16b,16c,16d,16e,16fに並列接続されたダイオード17a,17b,17c,17d,17e,17fとにより構成される。
なお、スイッチング素子16a,16b,16c,16d,16e,16fは、トランジスタ、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、MOS−FET(Metal Oxide Semiconductor− Field Effect Transistor)、サイリスタ、またはGTO(Gate Turn−Off Thysistor)により構成される。また、スイッチング素子16a,16b,16c,16d,16e,16fを構成する半導体材料は、Siでもよいし、ワイドバンドギャップ半導体の材料であるSiCまたはGaNでもよい。
インバータ制御部13は、直流電圧検出部14により検出された電圧Vdcと、電流検出部15により検出された電流Idcとに基づいて、同期PWM(Pulse Width Modulation)信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成し、生成した同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNをインバータ12に印加する。具体的には、同期PWM信号UPは、スイッチング素子16aに印加され、同期PWM信号VPは、スイッチング素子16bに印加され、同期PWM信号WPは、スイッチング素子16cに印加され、同期PWM信号UNは、スイッチング素子16dに印加され、同期PWM信号VNは、スイッチング素子16eに印加され、同期PWM信号WNは、スイッチング素子16fに印加される。
インバータ12は、同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNの印加に基づいて、スイッチング素子16a,16b,16c,16d,16e,16fが駆動することにより、任意の電圧をモータ2に印加する。モータ2は、印加された電圧に基づいて駆動する。
また、インバータ制御部13は、電圧指令値を生成するモータ制御部18と、同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成する同期PWM制御部19と、負荷の脈動を補償する信号を生成する負荷脈動補償部20とを備える。
ここで、モータ制御部18の構成と動作について説明する。図2は、実施の形態1にかかるモータ制御部18および負荷脈動補償部20の構成を示す図である。モータ制御部18は、電流を復元する電流復元部21と、三相電流を二相電流に変換し、二相電流をdq変換する変換部22と、位置と速度とを推定する推定部23と、速度の制御を行う速度制御部24と、電流の制御を行う電流制御部25と、電圧指令値を生成する電圧指令演算部26とを備える。
電流復元部21は、電流検出部15により検出された電流Idcに基づいて、モータ2に流れる相電流Iu,Iv,Iwを復元する。
変換部22は、モータ2のロータ磁極位置θに基づいて、三相電流である相電流Iu,Iv,Iwを二相電流に変換し、当該二相電流をdq座標軸のd軸電流Idおよびq軸電流Iqにdq変換する。
推定部23は、電流Id,Iqと電流制御部25により生成された電圧指令値Vd*,Vq*とに基づいて、ロータ磁極位置θとモータ2の速度推定値ωを算出する。
速度制御部24は、速度推定値ωが速度指令値ω*に一致するようなq軸電流指令値Iq*を算出する。
電流制御部25は、d軸電流Idが外部から入力されたd軸電流指令値Id*に一致するようなd軸電圧指令値Vd*を算出し、q軸電流Iqがq軸電流指令値Iq*に一致するようなq軸電圧指令値Vq*を算出する。
電圧指令演算部26は、d軸電圧指令値Vd*と、q軸電圧指令値Vq*と、直流電圧検出部14により検出された電圧Vdcと、ロータ磁極位置θとに基づいて、UVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*を算出する。
図3(a)は、電圧指令演算部26により生成されたUVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*と、キャリア周波数との関係を示す図である。図3(b)は、同期PWM制御部19により生成される同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNの波形を示す図である。
また、電圧指令演算部26は、電圧位相θvを生成し、生成した電圧位相θvを同期PWM制御部19に出力する。具体的には、電圧指令演算部26は、Vu*が立下りのゼロクロスを電圧位相θvの基準点にして出力する。すなわち、「電圧位相θv=0」である。なお、電圧位相θvは、どのような点を基準点にしてもよい。
同期PWM制御部19は、詳細は後述するが、キャリアとUVW相の電圧指令値Vu*,Vv*,Vw*とを比較して、同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成する。
つぎに、負荷脈動補償部20の構成と動作について説明する。負荷脈動補償部20は、速度指令値補償量Δω*とキャリア周波数指令値補償量Δfc*とを算出する補償部31と、速度指令値ω*を生成する加算器32とを備える。
補償部31は、モータ制御部18の上位コントローラから与えられる速度指令値ω*(ave)に基づいて、速度指令値補償量Δω*とキャリア周波数指令値補償量Δfc*とを算出する。補償部31は、速度指令値補償量Δω*により速度指令値ω*(ave)を補償する。また、補償部31は、キャリア周波数指令値補償量Δfc*によりキャリアを補償する。なお、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*の詳細については後述する。
加算器32は、速度指令値ω*(ave)と速度指令値補償量Δω*とを加算して速度指令値ω*を生成する。
つぎに、同期PWM制御部19の構成と動作について説明する。図4は、実施の形態1にかかる同期PWM制御部19の構成を示す図である。同期PWM制御部19は、キャリアを生成するキャリア生成部33と、同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成するキャリア比較部34とを備える。
キャリア生成部33は、電圧指令演算部26で生成された電圧位相θvに同期するようにキャリアを生成する。また、キャリア生成部33は、キャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償する。キャリア周波数指令値補償量Δfc*の詳細については後述する。
キャリア生成部33は、U相の電圧指令値Vu*の周波数に対して三角波のキャリアの周波数が、3nとなるように制御する。なお、nは、1以上の自然数である。なお、キャリア生成部33は、V相の電圧指令値Vv*の周波数またはW相の電圧指令値Vw*の周波数に対して三角波のキャリアの周波数が、3nとなるように制御してもよい。
キャリア比較部34は、キャリアと電圧指令値Vu*との大小を比較して、HighとLowの同期PWM信号を出力する。なお、電圧指令値の周波数に対して三角波のキャリアの周波数が3倍の場合には、同期PWM信号は、3パルスとなり、電圧指令値の周波数に対して三角波のキャリアの周波数が6倍の場合には、同期PWM信号は、6パルスとなり、電圧指令値の周波数に対して三角波のキャリアの周波数が9倍の場合には、同期PWM信号は、9パルスとなる。
また、キャリア周波数は、電圧指令値の周波数に対して9倍以上にした場合、電圧指令値の一周期に対して同期PWM信号のパルス数が増加するので、出力電圧の精度が向上するが、スイッチング素子16a,16b,16c,16d,16e,16fのスイッチング回数が増加するため、スイッチング損失が増加することになる。つまり、キャリア周波数の大きさとスイッチング損失とは、トレードオフの関係にある。
よって、電力変換装置1は、負荷脈動補償部20により生成された速度指令値補償量Δω*によって速度指令値ω*(ave)を補償し、負荷脈動補償部20により生成されたキャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償するので、同期PWM制御部19から出力される同期PWM信号の周波数が、モータ2に接続されている負荷に周期的な脈動が生じている場合に、周期的に変動され、安定的に同期PWM変調を行うことができる。
ここで、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる負荷が接続された場合におけるモータ回転数およびロータ回転位相への影響と、速度制御部24の応答速度が高い場合と低い場合とについて説明する。
図5は、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる負荷が接続された場合における負荷トルクとロータ実回転数の関係を示した図である。なお、以下では、機械角1周期において、負荷トルクが脈動する圧縮機を負荷とするが、図5に示す負荷トルクの脈動は、一例であり、どのような脈動パターンであってよい。
速度指令値ω*が一定であった場合、速度制御部24は、モータ回転数を一定に保つようにモータ電流指令値であるq軸電流指令値Id*を生成する。ここで、モータ回転数は、(1)式で示されることが知られている。ωmは、モータ実角速度であるロータ実回転数を示し、τmは、モータ出力トルクを示し、τlは、負荷トルクを示し、Jmは、モータおよび負荷の慣性モーメントを示している。
dωm/dt=(τm−τl)/Jm ・・・(1)
(1)式より、「τm>τl」の場合には、モータ2のロータは、加速状態になり、「τm<τl」の場合には、モータ2のロータは、減速状態になる。
したがって、モータ2のロータ回転数を一定に制御するためには、「τm=τl」となるように制御を行う必要がある。特に、慣性モーメントJmが小さい場合には、(1)式の右辺が大きくなるため、モータ2のロータの速度に対する感度が高くなる。また、「τm=τl」に制御するためには、速度制御部24の応答速度を高くする必要があるため、モータ2の起動動作時の過渡応答において、オーバーシュートを引き起こす可能性がある。
また、速度制御部24の応答速度を高くした場合、マイナーループである電流制御部25の応答速度も高くする必要がある。一般的には、電流制御部25の応答速度は、速度制御部24の応答速度の10倍以上にする必要がある。そうすると、モータ電流波形の高調波成分が増大し、モータ2から高周波音が発生する可能性がある。
また、速度制御部24および電流制御部25の応答速度を高くした場合、速度推定値ω、d軸電流Idのローパスフィルタ時定数τω、およびq軸電流Iqのローパスフィルタ時定数τiを高くする必要がある。
実際には、電力変換装置1が適用されるモータ駆動装置においては、速度推定値ω、d軸電流Idおよびq軸電流Iqには、脈動成分が生じることがある。特に、理論上発生しないオフセットにより、電流検出部15により検出された電流Idcにオフセットが生じる可能性がある。そうすると、電流復元部21において、電流Idcに基づいて復元した相電流Iu,Iv,Iwにもオフセットが生じる。また、変換部22により回転座標系に変換されたd軸電流Idおよびq軸電流Iqにもオフセットが脈動成分として重畳することになる。
当該脈動成分の周波数は、モータ2の回転数に比例するため、モータ2の最小回転数に基づいて、ローパスフィルタの時定数(カットオフ周波数)を設定する。速度制御部24および電流制御部25の安定性を確保するためには、ローパスフィルタの時定数(カットオフ周波数)と、速度制御部24および電流制御部25の応答速度の関係性が重要となる。
制御系全体の応答速度を高くするためには、d軸電流Idのローパスフィルタ時定数τω、およびq軸電流Iqのローパスフィルタ時定数τiを高くする必要がある。そうすると、モータ低速域において、速度推定値ω、d軸電流Id、およびq軸電流Iqの脈動成分が除去しきれず、制御系全体が不安定になり、かつモータ2の回転数が不安定になる可能性がある。
また、モータ制御演算は、キャリアに同期して制御演算を行うことが一般的である。制御周期は、キャリア周波数によって決まるため、制御系全体の応答速度を高くするためには、制御周波数を高くし、かつキャリア周波数も高くする必要がある。しかし、キャリア周波数を高くした場合には、インバータ12のスイッチング回数が増加するため、スイッチング損失が増加することになる。さらに、インバータ12から発生する振動および放射ノイズが増加する可能性もある。
つぎに、速度制御部24の応答速度を低くした場合について説明する。速度制御部24の応答速度を低くした場合には、ロータ実回転数ωmが不安定になる可能性があり、インバータ12から出力される電圧の追従性が悪くなり、ロータ実回転数ωmに脈動が生じ、モータ2から騒音が発生する可能性がある。
また、速度制御部24の応答速度を低くした場合には、推定部23で算出されたロータ磁極位置θと、モータ2のロータ実回転位置θ1との間に位相差が生じ、当該位相差に基づいて電流リップルが生じる可能性がある。
図6は、モータ2のロータ実回転位置θ1とロータ磁極位置θとの関係を示す図である。以下では、モータ2のロータ実回転位置上にd−q座標を定義し、推定部23により制御上で推定する座標をγ−δ軸と定義する。また、位置センサレス制御の場合、モータ制御部18は、d−q軸を直接検出する機構を持たないため、推定部23により推定したγ−δ軸上で制御を行うことになる。しかし、γ−δ座標は、図6に示すように、d−q座標に一致するとは限らない。
特に、トルク負荷脈動が生じる場合には、ロータ実回転数ωmが脈動するため、ロータ実回転位置θ1も脈動する。しかしながら、速度制御部24の応答速度が低い場合には、インバータ12から出力される電圧ベクトルvとロータ実回転位置θ1との位相関係θvが脈動するため、相電流Iu,Iv,Iwにリップルが発生する。
相電流Iu,Iv,Iwにリップルが生じると、モータ2の騒音が増大する可能性がある。さらに、制御系設計者が想定しているモータ駆動方法である最大効率制御または最大力率制御から逸脱する可能性もある。
また、速度制御部24の応答速度を低くした場合には、同期PWM制御に対する干渉の可能性がある。同期PWM制御は、キャリア周波数と電圧指令値の周波数とを一定の関係に制御することで、低いキャリア周波数においても安定的にインバータ12およびモータ2を制御している。
したがって、キャリア周波数と電圧指令値の周波数とを一定の関係に制御できていない場合には、インバータ12のスイッチング素子を駆動するPWM信号およびインバータ12からモータ2に出力される電圧指令値には、本来とは異なる周波数成分が重畳している。特に、同期PWM制御のパルス数を低く設定した場合には、キャリアとインバータ12からモータ2に出力される電圧指令値との間に生ずる位相差、および、モータ2のロータ実回転位置θ1とロータ磁極位置θとの間に生ずる位相差による電流リップルの感度が大きくなる傾向にある。
当該電流リップルにより、モータ制御および同期PWM制御が不安定になり、キャリアとインバータ12からモータ2に出力される電圧指令値との間に生ずる位相差、および、モータ2のロータ実回転位置θ1とロータ磁極位置θとの間に生ずる位相差が大きくなる可能性がある。
よって、実施の形態1にかかる電力変換装置1は、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる負荷が接続された場合において、速度制御部24および電流制御部25の応答速度を制御せずに、負荷脈動補償部20により生成された速度指令値補償量Δω*によって速度指令値ω*(ave)を補償し、負荷脈動補償部20により生成されたキャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償することによって、負荷トルクの周期的な脈動を抑制する。
ここで、負荷脈動補償部20の詳細な動作について説明する。図7は、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる負荷が接続された場合における負荷トルクτl、ロータ実回転数ωm、速度指令値ω*、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*の関係を示した図である。τlは、負荷トルクの瞬時値を示し、τl(ave)は、負荷トルク平均値を示し、ω*(ave)は、モータ制御部18の上位コントローラから与えられる速度指令値であって平均回転数指令値を示している。
また、速度指令値補償量Δω*は、(2)式および(3)式に示す条件に基づいて設定される。
if τl>τm then Δω*>0 ・・・(2)
if τl<τm then Δω*<0 ・・・(3)
ここで、(2)式および(3)式に示す条件の導出原理について説明する。負荷脈動補償部20が機能しない場合、すなわち、「ω*=ω*(ave)」の場合、負荷トルク脈動に基づいてモータ実回転数ωmが脈動してしまう。特に、(2)式に示す条件の場合には、(1)式から、モータ実回転数ωmは減速し、(3)式に示す条件の場合には、モータ実回転数ωmは加速する。
負荷脈動補償部20は、速度指令値ω*を速度指令値補償量Δω*の分だけ変更する。具体的には、負荷脈動補償部20は、(2)式に示す条件の場合には、モータ実回転数ωmが減速しないように速度指令値ω*を増加し、(3)式に示す条件の場合には、モータ実回転数ωmが加速しないように速度指令値ω*を減少する。よって、電力変換装置1は、負荷脈動補償部20による動作によって、モータ実回転数ωmの脈動を抑制することができる。
つぎに、速度指令値補償量Δω*の決定手順について説明する。負荷トルクが一定周期で脈動する場合には、負荷トルク脈動分は、事前に把握することができるため、モータ制御系設計時に事前に決定することができ、フィードフォワード制御を利用することができる。負荷トルク脈動に基づいた速度指令値補償量Δω*は、マップとしてメモリに保存する構成が考えられる。なお、インバータ制御部13は、当該メモリを有するマイクロコンピュータまたはDSP(Digital Signal Processor)により構成されてもよい。負荷脈動補償部20は、メモリに保存されている速度指令値補償量Δω*を読み出して、速度指令値補償量Δω*により速度指令値ω*(ave)を補償する。
実施の形態1にかかる負荷脈動補償部20は、速度指令値ω*(ave)に基づいて、速度指令値補償量Δω*を選択している。これは、圧縮機のようにロータ実回転数ωmに基づいて、負荷トルクが大きくなる場合を想定している。なお、(2)式および(3)式に示す条件と、速度指令値補償量Δω*を選択する手順との相関関係については実施の形態2で説明する。
つぎに、同期PWM制御部19の動作について説明する。キャリア周波数指令値補償量Δfc*は、(4)式および(5)式に示す条件に基づいて設定される。
if τl>τm then Δfc*>0 ・・・(4)
if τl<τm then Δfc*<0 ・・・(5)
ここで、(4)式および(5)式に示す条件の導出原理について説明する。上述したように、(2)式および(3)式に基づいて、速度指令値ω*を負荷トルク脈動に基づいた速度指令値補償量Δω*だけ更新するので、インバータ12から出力される電圧の周波数も速度指令値ω*に基づいて、変更する必要がある。よって、キャリア周波数とインバータ12から出力される電圧の周波数とが整数倍の関係になるように保つためには、同期PWM制御部19に対しても速度指令値補償量Δω*に基づいた補償量を設定する必要がある。
ここで、キャリア周波数指令値補償量Δfc*の決定手順について説明する。同期PWM制御とは、キャリア周波数をインバータ12から出力される電圧の周波数の整数倍にする制御である。したがって、キャリア周波数指令値補償量Δfc*は、(6)式に基づいて算出することができる。(6)式中のNは、同期PWM制御におけるパルス数を示している。なお、(6)式は、キャリア周波数指令値補償量Δfc*を算出する一例である。
Δfc*=N×Δω* ・・・(6)
また、(4)式および(5)式に示す条件と、キャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択する手順との相関関係については実施の形態2で説明する。
よって、実施の形態1にかかる電力変換装置1は、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる負荷が接続された場合において、負荷脈動補償部20により生成された速度指令値補償量Δω*によって速度指令値ω*(ave)を補償し、負荷脈動補償部20により生成されたキャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償することによって、負荷トルクが周期的に脈動をする場合においても、安定的に同期PWM変調を行うことができる。
実施の形態2.
実施の形態1にかかる電力変換装置1は、(2)式から(5)式に示す条件により、モータ出力トルクτmと負荷トルクτlと関係において、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択していた。
しかしながら、モータ2が駆動しているときに負荷トルクを検出することが困難な場合がある。また、負荷トルクに基づいて速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を事前に決定した上で、マップとしてインバータ制御部13のメモリに保存しても、負荷トルクが運転中に測定および検出ができない場合には、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択するための指標が必要になる。
実施の形態2では、当該指標にモータ回転位置θを用いた場合について説明する。図8は、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる負荷が接続された場合における負荷トルクτl、ロータ実回転数ωmおよびモータ2のロータ実回転位置θ1の関係を示す図である。
図8では、周期的に負荷トルクが脈動する場合を想定している。周期性は、ロータ実回転位置θ1との間で相関がある。なお、図8では、ロータ実回転位置θ1の1周期に対して、負荷トルクτlが1周期脈動する場合を示しているが、ロータ実回転位置θ1の1周期に対して、負荷トルクτlが2周期脈動する場合であってもよい。
負荷脈動補償部20は、ロータ実回転位置θ1に基づいて、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択すればよい。
また、位置センサ付き駆動、すなわち、位置検出機構を備える構成の場合には、ロータ実回転位置θ1を直接検出することができるが、実施の形態2にかかる電力変換装置1は、位置センサレス制御を行うため、位置検出機構を備えておらず、ロータ実回転位置θ1を直接検出することができない。そこで、実施の形態2にかかる電力変換装置1は、推定部23により算出されたロータ磁極位置θを用いる。
図9は、実施の形態2にかかるモータ制御部41および負荷脈動補償部43の構成を示す図である。なお、モータ制御部41および負荷脈動補償部43は、補償部44の入力をロータ磁極位置θとし、ロータ磁極位置θに基づいて速度指令値補償量Δω*を選択する構成が実施の形態1にかかるモータ制御部18および負荷脈動補償部20の構成と異なる。他の構成要素は、実施の形態1にかかるモータ制御部18および負荷脈動補償部20と同一であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
推定部42は、電流Id,Iqと電流制御部25により生成された電圧指令値Vd*,Vq*とに基づいて、ロータ磁極位置θとモータ2の速度推定値ωを算出する。推定部42は、速度推定値ωを速度制御部24へ出力し、ロータ磁極位置θを電圧指令演算部26と負荷脈動補償部43へ出力する。
負荷脈動補償部43は、速度指令値補償量Δω*とキャリア周波数指令値補償量Δfc*とを算出する補償部44と、速度指令値ω*を生成する加算器45とを備える。
補償部44は、ロータ磁極位置θに基づいて、速度指令値補償量Δω*とキャリア周波数指令値補償量Δfc*とを算出する。加算器45は、速度指令値ω*(ave)と速度指令値補償量Δω*とを加算して速度指令値ω*を生成する。
図10は、実施の形態2の同期PWM制御部19および補償部44の構成を示す図である。なお、補償部44の入力をロータ磁極位置θとし、ロータ磁極位置θに基づいてキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択する構成が実施の形態1にかかる同期PWM制御部19および補償部31と異なる。他の構成要素は、実施の形態1にかかる同期PWM制御部19と同一であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
よって、実施の形態2にかかる電力変換装置1は、モータ2のロータ磁極位置に基づいて選択された速度指令値補償量Δω*によって速度指令値ω*(ave)を補償し、モータ2のロータ磁極位置に基づいて選択されたキャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償するので、同期PWM制御部19から出力される同期PWM信号の周波数が、モータ2に接続されている負荷に周期的な脈動が生じている場合に、モータ2のロータ磁極位置に基づいて、周期的に変動され、負荷トルクが周期的に脈動をする場合においても、安定的に同期PWM変調を行うことができる。
実施の形態3.
実施の形態2では、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択するための指標をモータ回転位置θとした。実施の形態3では、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択するための指標をq軸電流Iqとする場合について説明する。
図11は、負荷トルクτl、ロータ実回転数ωmおよびq軸電流Iqの関係を示す図である。Iq(ave)は、モータ電流平均値を示している。
負荷トルクτlが負荷トルク平均値τl(ave)に対して大きい、すなわち、「τl>τl(ave)」のときに流れるq軸電流Iqは、「τl=τl(ave)」のときに流れるモータ電流平均値Iq(ave)よりも大きい。一方で、負荷トルクτlが負荷トルク平均値τl(ave)に対して小さい、すなわち、「τl<τl(ave)」のときに流れるq軸電流Iqは、「τl=τl(ave)」のときに流れるモータ電流平均値Iq(ave)よりも小さい。
したがって、q軸電流Iqの大小関係に基づいて、負荷トルクの状態を把握することができ、速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択するための指標をq軸電流Iqにすることができる。なお、q軸電流Iqは、トルク成分を示している。
図12は、実施の形態3にかかるモータ制御部51および負荷脈動補償部53の構成を示す図である。なお、モータ制御部51および負荷脈動補償部53は、補償部54の入力をq軸電流Iqとし、q軸電流Iqに基づいて速度指令値補償量Δω*を選択する構成が実施の形態1にかかるモータ制御部18および負荷脈動補償部20の構成と異なる。他の構成要素は、実施の形態1にかかるモータ制御部18および負荷脈動補償部20と同一であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
変換部52は、モータ2のロータ磁極位置θに基づいて、三相電流である相電流Iu,Iv,Iwを二相電流に変換し、当該二相電流をdq座標軸のd軸電流Idおよびq軸電流Iqにdq変換する。変換部52は、d軸電流Idを推定部23および電流制御部25へ出力し、q軸電流Iqを推定部23、電流制御部25および負荷脈動補償部53へ出力する。
負荷脈動補償部53は、速度指令値補償量Δω*とキャリア周波数指令値補償量Δfc*とを算出する補償部54と、速度指令値ω*を生成する加算器55とを備える。
補償部54は、q軸電流Iqに基づいて、速度指令値補償量Δω*とキャリア周波数指令値補償量Δfc*とを算出する。加算器55は、速度指令値ω*(ave)と速度指令値補償量Δω*とを加算して速度指令値ω*を生成する。
図13は、実施の形態3の同期PWM制御部19および補償部54の構成を示す図である。なお、補償部54の入力をq軸電流Iqとし、q軸電流Iqに基づいてキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択する構成が実施の形態1にかかる同期PWM制御部19および補償部31と異なる。他の構成要素は、実施の形態1にかかる同期PWM制御部19と同一であるため、同一の符号を付し、説明を省略する。
よって、実施の形態3にかかる電力変換装置1は、q軸電流Iqに基づいて選択された速度指令値補償量Δω*によって速度指令値ω*(ave)を補償し、q軸電流Iqに基づいて選択されたキャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償するので、同期PWM制御部19から出力される同期PWM信号の周波数が、モータ2に接続されている負荷に周期的な脈動が生じている場合に、モータ2に流れる電流であるq軸電流Iqに基づいて、周期的に変動され、負荷トルクが周期的に脈動をする場合においても、安定的に同期PWM変調を行うことができる。
なお、実施の形態2では、ロータ磁極位置に基づいて速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択し、実施の形態3では、q軸電流Iqに基づいて速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択する構成について説明したが、相電流Iu,Iv,Iwのいずれか、相電流Iu,Iv,Iwの最大値、相電流Iu,Iv,Iwのピークピーク値、相電流Iu,Iv,Iwの実効値または相電流Iu,Iv,Iwの平均値に基づいて速度指令値補償量Δω*およびキャリア周波数指令値補償量Δfc*を選択する構成でもよい。
実施の形態4.
実施の形態1から実施の形態3にかかる電力変換装置1は、ヒートポンプ装置100に備えられてもよい。図14は、実施の形態4にかかるヒートポンプ装置100の構成を示す図である。
ヒートポンプ装置100は、冷媒を圧縮する圧縮機構を有する圧縮機101と、冷媒ガスの向きを変える四方弁102と、熱交換器103,104と、膨張機構105とが、冷媒配管106を介して順次接続された冷凍サイクルを備える。なお、四方弁102により冷媒ガスの向きを第1方向に切り替えることによって、熱交換器103が蒸発器になり、熱交換器104が凝縮器になり、また、四方弁102により冷媒ガスの向きを第2方向に切り替えることによって、熱交換器103が凝縮器になり、熱交換器104が蒸発器になる。図14では、四方弁102は、冷媒ガスの向きを第1方向に切り替えている。
圧縮機101は、冷媒を圧縮する圧縮機構107と、圧縮機構107を動作させるモータ2とを備える。モータ2は、U相、V相、W相の三相の巻き線を有する三相モータである。モータ2は、電力変換装置1から交流電圧が供給されて、駆動する。
実施の形態4にかかるヒートポンプ装置100は、モータ2に一定周期でトルク脈動が生じる圧縮機構107が接続された場合において、速度指令値補償量Δω*によって速度指令値ω*(ave)を補償し、キャリア周波数指令値補償量Δfc*によってキャリアを補償することによって、負荷トルクが周期的に脈動をする場合においても、安定的に同期PWM変調を行うことができる。なお、ヒートポンプ装置100は、空調装置に適用できる。
なお、実施の形態1から3にかかる電力変換装置1のインバータ制御部13は、図15に示すように、演算を行うCPU201と、CPU201により読み取られるプログラムが保存されるメモリ202と、信号の入出力を行うインターフェイス203とから構成されてもよい。
具体的には、メモリ202には、インバータ制御部13の機能を実行するプログラムが格納されている。CPU201は、インターフェイス203を介して、直流電圧検出部14により検出された電圧Vdcと、電流検出部15により検出された電流Idcとが入力され、同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを生成し、生成した同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNを、インターフェイス203を介して出力する。インバータ12は、インターフェイス203から出力された同期PWM信号UP,VP,WP,UN,VN,WNが印加される。
以上の実施の形態に示した構成は、本発明の内容の一例を示すものであり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、構成の一部を省略、変更することも可能である。