実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の構造を示す概略縦断面図である。なお、図1及び後述する各図において、同一の符号を付したものは、同一の又はこれに相当するものであり、これは明細書の全文において共通している。さらに、明細書全文に表れている構成要素の形態は、あくまで例示であってこれらの記載に限定されるものではない。
スクロール圧縮機1は、冷媒等の流体を吸入して圧縮し、高温高圧の状態にして吐出するものである。図1に示すように、スクロール圧縮機1は、冷媒を圧縮する圧縮機構部2と、圧縮機構部2を駆動する電動機3と、圧縮機構部2及び電動機3を収容する密閉容器21と、を有している。
圧縮機構部2は、密閉容器21に取り付けられたフレーム14に固定された固定スクロール11と、固定スクロール11に対して揺動(すなわち、公転運動)する揺動スクロール12と、を有している。固定スクロール11は、台板部113と、台板部113の一方の面(図1では下面)に設けられた渦巻歯114と、を有している。揺動スクロール12は、台板部122と、台板部122の一方の面(図1では上面)に設けられた渦巻歯126と、を有している。固定スクロール11及び揺動スクロール12は、それぞれの渦巻歯114,126同士が噛み合うように組み合わされている。渦巻歯114と渦巻歯126との間には、冷媒が圧縮される圧縮室が形成される。
固定スクロール11の台板部113の中心部には、圧縮された冷媒を圧縮室から吐出する吐出ポート111が台板部113を貫通して形成されている。吐出ポート111の出口側には、リード弁構造の吐出弁25が設けられている。
揺動スクロール12の台板部122において、渦巻歯126が形成された面とは反対側の面(図1では下面)の中心部には、円筒状のボス部121が形成されている。ボス部121の内周側には、揺動スクロール12の渦巻歯126が固定スクロール11の渦巻歯114に押し当てられることにより揺動スクロール12の揺動半径を定める可変半径クランク機構5が設けられている。本実施の形態1では、スライダ30を用いた可変半径クランク機構5を採用しており、スライダ30はボス部121の内周側に回転自在に設けられている。
揺動スクロール12とフレーム14との間には、固定スクロール11に対する揺動スクロール12の自転を規正する姿勢規正機構4が設けられている。本実施の形態1では、クランクピン33を用いた姿勢規正機構4が採用されている。
電動機3は、密閉容器21の内周に固定されたステータ19と、ステータ19の内周側に配置されたロータ18と、を有している。また、ロータ18には、揺動スクロール12に電動機3の回転駆動力を伝達する主軸15が固定されている。つまり、ステータ19に通電されると、ロータ18は、主軸15と一体となって回転するようになっている。電動機3は、例えばインバータ制御等により、ロータ18の回転数を変更できる構成となっている。なお、主軸15の上部は、フレーム14に設けられた主軸受143に回転自在に支持されている。主軸15の下部は、副軸受20(例えば、ボールベアリング)に回転自在に支持されている。この副軸受20は、サブフレーム26に設けられている。
主軸15の上端部には、偏心軸部151が設けられている。偏心軸部151は、主軸15の中心軸に対して所定の偏心方向に偏心して配置されている。偏心軸部151は、スライダ30の溝部301に回転自在に挿入されている(後述の図3も参照)。
密閉容器21の底部には、潤滑油22が貯留されている。主軸15の下端には、油溜めの潤滑油22を吸い上げる図示せぬオイルポンプが設けられている。また、主軸15の内部には、主軸15の中心軸方向に沿って図示せぬ油穴が形成されている。主軸15の下端に設けられたオイルポンプによって吸い上げられた潤滑油22は、主軸15に形成された油穴を通って、各摺動部に供給されるようになっている。
主軸15の上部には、揺動スクロール12及びクランクピン33の運動に伴うアンバランスを相殺する第1バランサ16が設けられている。ロータ18の下部には、揺動スクロール12及びクランクピン33の運動に伴うアンバランスを相殺する第2バランサ17が設けられている。
また、密閉容器21には、外部から低圧のガス冷媒を吸入する吸入管23と、圧縮された高圧のガス冷媒を外部に吐出する吐出管24と、が設けられている。
このように構成されたスクロール圧縮機1においては、ステータ19に電力が供給されると、ロータ18がトルクを発生し、フレーム14の主軸受143と副軸受20とで支持された主軸15が回転する。主軸15の偏心軸部151によりボス部121が駆動される揺動スクロール12は、クランクピン33により自転を規制されて揺動運動する。これにより、固定スクロール11の渦巻歯114と揺動スクロール12の渦巻歯126との間で形成された圧縮室の容積を変化させる。揺動スクロール12の揺動運動に伴い吸入管23から密閉容器21内に吸入されたガス冷媒が、固定スクロール11と揺動スクロール12の両渦巻歯間の圧縮室に取り込まれ、圧縮され、固定スクロール11に設けた吐出ポート111から吐出弁25に抗して吐出され、吐出管24から回路へ排出される。詳しくは、以下に示す図2のように、固定スクロール11と揺動スクロール12の両渦巻歯間の圧縮室に取り込まれたガス冷媒が圧縮されていく。
図2は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部を下方から観察した断面図である。
図2(a)は、固定スクロール11の渦巻歯114と揺動スクロール12の渦巻歯126との間で最外室となる圧縮室を形成し、ガス冷媒の吸入を完了した状態を示している。そして、図2(a)から、図2(b)、(c)、(d)及び(a)の状態に揺動スクロール12の揺動運動が行われていく。揺動スクロール12の揺動運動が進むにつれて、各圧縮室は容積を減じ、吸入されたガス冷媒は圧縮されるとともに順次中央へ送られる。そして、ガス冷媒は、最内室となる圧縮室から、固定スクロール11の台板部113に設けられた吐出ポート111を経て吐出される。
なお、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1においては、図2に示すように、吐出ポート111に加え、サブポート111a,111bが、固定スクロール11の台板部113を貫通して形成されている。サブポート111aは、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間に形成される圧縮室に連通するものである。また、サブポート111bは、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間に形成される圧縮室に連通するものである。これらサブポート111a,111bの出口側には、図示はしていないが、吐出ポート111と同様に、リード弁構造の吐出弁25が設けられている。このため、圧縮室内のガス冷媒が吐出ポート111と連通する前に吐出圧力に達した際、当該ガス冷媒はサブポート111a,111bから吐出されることとなる。
また、上述したスクロール圧縮機1の運転中、揺動スクロール12の揺動半径は、次のように定められる。
図3は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の可変半径クランク機構を示す図である。ここで、図3(a)は、可変半径クランク機構5近傍を示す縦断面図である。また、図3(b)は、可変半径クランク機構5を上方から観察した断面図である。なお、図3(c)に、揺動スクロール12の渦巻歯126が固定スクロール11の渦巻歯114に押しつけられた状態を示している。また、図3(b)には、矢印で揺動スクロール12の回転方向を示している。
上述のように、本実施の形態1では、スライダ30を用いた可変半径クランク機構5を採用している。このスライダ30は、円筒形状の外周面を備え、ボス部121の内周側に回転自在(回転摺動自在)に設けられている。また、スライダ30は、偏心軸部151が一方向に往復摺動自在に挿入される長穴形状の溝部301が形成されている。図3(b)において、偏心軸部151は主軸15に対して、紙面右側に偏心している。溝部301は、平面視(主軸15及び偏心軸部151の中心軸と垂直な断面)において、この偏心方向に対して角度γ傾くように形成されている。また、溝部301内を摺動する偏心軸部151には、平面視においてこの偏心方向に対して角度γ傾く斜面Pが形成されている。
すなわち、主軸15の偏心軸部151の偏心方向に対して角度γなる偏心軸部151の斜面Pがスライダ30を介して揺動スクロール12のボス部121を駆動することにより、可変半径クランク機構5を構成する。図3(b)に示すように、揺動スクロール12に作用する反偏心方向ガス荷重をFgrとし、反回転方向ガス荷重をFgθとし、遠心力(慣性力)をFcとすると、偏心軸部151の斜面Pからスライダ30のS面垂直方向に作用する力はFgθ/cosγとなる。このため、揺動スクロール12及びスライダ30に関する力の釣り合いから、揺動スクロール12の渦巻歯126が固定スクロール11の渦巻歯114に次式(1)で示すFsなる力で押しつけられる。
Fs=Fc+Fgθ・tanγ−Fgr …(1)
このときの揺動スクロール12の揺動(クランク)半径は、揺動スクロール12の渦巻歯126と固定スクロール11の渦巻歯114との接触により決まることになる。
揺動運動する揺動スクロール12には、さらに、図2において時計廻り方向へ自転させるようなモーメントが作用する。この自転モーメントに対して揺動スクロールの姿勢を規正するために、クランクピン及びオルダムリング等を用いた姿勢規正機構がスクロール圧縮機に設けられる。そして、上述のように、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1には、クランクピン33を用いた姿勢規正機構が設けられている。クランクピン33による姿勢規正は、駆動源側のクランク機構(ここでは主軸15の偏心軸部151、スライダ30及び揺動スクロール12のボス部121で構成されるクランク機構)とは別に、当該クランク機構と同じクランク半径を持つピンクランク機構を、通常揺動スクロール12の台板部122とフレーム14等の固定部材(静止部材)との間に設けることにより、揺動スクロール12の揺動運動を許容しつつ自転を拘束することで行なわれる。
図4は、従来のクランクピンを用いた姿勢規正機構を示す斜視図である。なお、図4(a)は揺動スクロール12及びクランクピン33を示しており、図4(b)は固定部材であるフレーム14及びクランクピン33を示している。
従来のクランクピン33は、回転部材333、静止側ピン部331、及び揺動側ピン部332を備えている。静止側ピン部331は、円筒形状をしており、回転部材333のフレーム14側の面から、該フレーム14側に突出している。この静止側ピン部331は、フレーム14に形成された断面円形状の静止側凹部142に、回転自在に挿入される。揺動側ピン部332は、円筒形状をしており、回転部材333の揺動スクロール12側の面から、該揺動スクロール12側に突出している。揺動側ピン部332の中心軸は、静止側ピン部331の中心軸に対して偏心している。この揺動側ピン部332は、揺動スクロール12の台板部122に形成された断面円形状の揺動側凹部124に、回転自在に挿入される。ピン部と該ピン部が挿入される凹部との間に摩擦抵抗やガタの無い理想的なピンクランク機構であれば、クランクピン33を一箇所に設けることで姿勢規正が可能である。しかしながら、実際には、ピン部と該ピン部が挿入される凹部との間クリアランス分の規正精度低下を補うため、複数のクランクピン33が必要となる。
図5は、従来のクランクピンを用いた姿勢規正機構による姿勢規正の特性計算用の説明図である。この図5は、主軸15の中心軸OO周りに、揺動スクロール12の台板部122が揺動半径Rrで揺動運動する状態を示している。また、図5は、紙面において水平方向右側へ延びる座標軸を角度の基準(0deg)としている。そして、図5は、揺動スクロール12の台板部122が回転角ψだけ回転した状態、つまり主軸15の中心軸OOから台板部122の中心OO0の方向が回転角ψとなっている状態を示している。また、図5では、主軸15の中心軸OOからの半径Rの位置で位相θ及びψの位置が、クランクピン33の静止側ピン部331の中心Oとなっている。
揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124とクランクピン33の揺動側ピン部332との間にガタが無く、クランクピン33のクランク半径Rr´(静止側ピン部331の中心Oと揺動側ピン部332の中心O1との間の距離)が揺動半径Rrと等しい、所謂理想的な状態の姿勢規正機構4の場合、揺動側ピン部332の中心O1と、揺動スクロール12の台板部122の中心OO0から半径Rで位相θの位置にある揺動側凹部124の中心O0とは一致し、クランクピン33の回転角は揺動スクロール12自身の回転角ψに等しい。すなわち、クランクピン33にも揺動スクロール12にも自転するという自由度は無い。
これに対して、揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124とクランクピン33の揺動側ピン部332との間にクリアランスΔrがあり、クランクピン33のピンクランク半径誤差ΔRr´を前提とすると、クランクピン33の回転角=揺動スクロール12の回転角になるとは限らず、揺動スクロール12の自転角=0となるとは限らない。
詳しくは、
Rr:揺動スクロール12の台板部122の揺動半径、
ΔRr´:ピンクランク半径誤差、つまり揺動半径とクランク半径Rr´との差、
ψ:揺動スクロール12の台板部122の回転角、
Δr:揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124とクランクピン33の揺動側ピン部332との間のクリアランス、
R:上記の理想的な状態における、揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124及びクランクピン33の揺動側ピン部332の中心位置(揺動スクロール12の台板部122の中心OO0からの半径)、
Δψ:ピンクランク回転角(クランクピン33の回転角と揺動スクロール12の台板部122の回転角ψとの差)、
θ:上記の理想的な状態における、揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124及びクランクピン33の揺動側ピン部332の中心位置(揺動スクロール12の台板部122の中心OO0からの位相)、
Δθ:揺動スクロール12の自転角、
とする。
この場合、上記の理想的な状態において座標(R,θ)に位置する揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124及びクランクピン33の揺動側ピン部332の中心の実際の座標は、次の様になる。
すなわち、揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124の中心O0の座標は、(Rr・cosψ+R・cos(θ+Δθ),Rr・sinψ+R・sin(θ+Δθ))となる。
また、クランクピン33の揺動側ピン部332の中心O1の座標は、(R・cosθ+(Rr+ΔRr´)・cos(ψ+Δψ),R・sinθ+(Rr+ΔRr´)・sin(ψ+Δψ))となる。
このため、揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124の中心O0とクランクピン33の揺動側ピン部332の中心O1との間の距離O0O1は、次式(2)となる。
(O0O1)2={Rr・cosψ+R・cos(θ+Δθ)−R・cosθ−(Rr+ΔRr´)・cos(ψ+Δψ)}2+{Rr・sinψ+R・sin(θ+Δθ)−R・sinθ−(Rr+ΔRr´)・sin(ψ+Δψ)}2 …(2)
そして、上述の式(2)においてcosΔθ≒1,sinΔθ≒Δθとすると、上述の式(2)は次式(3)となる。
(O0O1)2={Rr・cosψ(1−cosΔψ)+(Rr+ΔRr´)sinψsinΔψ−ΔRr´・cosψcosΔψ−R・Δθ・sinθ}2+{Rr・sinψ(1−cosΔψ)−(Rr+ΔRr´)cosψsinΔψ−ΔRr´・sinψcosΔψ+R・Δθ・cosθ}2
=Rr2(1−cosΔψ)2+(Rr+ΔRr´)2sin2Δψ+(R・Δθ)2−2(Rr+ΔRr´)R・Δθ・sinΔψcos(ψ−θ)+2Rr・R・Δθ(1−cosΔψ)sin(ψ−θ)+ΔRr´2cos2Δψ−2ΔRr´・R・Δθ・cosΔψsin(ψ−θ)−2ΔRr´・Rr・cosΔψ(1−cosΔψ)
=2Rr2+ΔRr´2−2Rr2・cosΔψ+2Rr・ΔRr´+(R・Δθ)2−2Rr・ΔRr´・cosΔψ−2R・Δθ(ΔRr´・cosΔψ−Rr+Rr・cosΔψ)sin(ψ−θ)−2R・Δθ(Rr+ΔRr´)・sinΔψcos(ψ−θ)
=2(Rr+ΔRr´)2(1−cosΔψ)+(R・Δθ)2−2(Rr+ΔRr´)R・Δθ{sinΔψcos(ψ−θ)−(1−cosΔψ)sin(ψ−θ)}−2(Rr+ΔRr´)・ΔRr´(1−cosΔψ)−2ΔRr´・R・Δθ・sin(ψ−θ)+ΔRr´2 …(3)
すなわち、O0O1=Δrを満たすΔθが、揺動側凹部124と揺動側ピン部332との間のクリアランスがΔrとなっている姿勢規正機構4において姿勢規正された時の、回転角ψでの揺動スクロール12の自転角となる。また、O0O1=Δrを満たすΔψが、揺動側凹部124と揺動側ピン部332との間のクリアランスがΔrとなっている姿勢規正機構4において姿勢規正された時の、回転角ψでのピンクランク角となる。式(3)は揺動スクロール12の自転角Δθとピンクランク回転角Δψの組合せとなるので、式(3)=Δr2として一義に自転角Δθを求めることは出来ない。しかしながら、Δψを0近傍で変化させて各々のΔψに対するΔθを求め、abs(Δθ)つまりΔθの絶対値が最大となるΔψ及びΔθの組合せを捜すことで、ピンクランク半径誤差ΔRr´とクリアランスΔrが有る姿勢規正機構4で姿勢規正されたときの揺動スクロール12の自転角Δθを求めることが可能となる。
式(3)からわかるように、揺動スクロール12の自転角Δθは、姿勢規正機構4を構成する部材の寸法誤差及び部材間のクリアランスだけではなく、クランクピン33の位置(R,θ)と回転角ψの関係にも依存する。このため、揺動スクロール12の自転角Δθは、一回転中に刻々変化し、クランクピン33の位置関係によっては規正精度が著しく低下する、或いは規正出来ない場合も起こりうる。これが、クランクピン33を用いた姿勢規正機構4で姿勢規正を行なう場合、複数のクランクピン33を配する理由である。
図6は、従来のクランクピンを用いた姿勢規正機構による姿勢規正の特性計算結果の一例である。この図6は、θ=45deg,135deg,−45deg,−135degの位置に4本のクランクピン33を等間隔配置した場合における、揺動スクロール12の台板部122の回転角ψと揺動スクロール12の自転角Δθとの関係を示す計算結果である。なお、図6(a)は、ある値であるクリアランスΔrに対して、ピンクランク半径誤差ΔRr´が0の場合の計算結果を示している。図6(b)は、ある値であるクリアランスΔrに対して、ピンクランク半径誤差ΔRr´がクリアランスΔrの35%となっている場合の計算結果を示している。図6(c)は、ある値であるクリアランスΔrに対して、ピンクランク半径誤差ΔRr´がクリアランスΔrの50%となっている場合の計算結果を示している。また、図6(d)は、ある値であるクリアランスΔrに対して、ピンクランク半径誤差ΔRr´がクリアランスΔrの75%となっている場合の計算結果を示している。
4本のクランクピン33を設けた場合、最も揺動スクロール12の自転量(Δθの絶対値)が少なくなる1本で揺動スクロール12の自転は制限され、残りの3本は所謂「効かない」という状態になる。図6に示すように、揺動スクロール12の台板部122の回転角ψに対して90deg毎に、規正に関与する(所謂「効く」)クランクピン33が順に移り変わっている。また、クリアランスΔrが同じでも、Δrを相殺するようにピンクランク半径誤差ΔRr´を大きくしていくことで、一回転中の揺動スクロール12の自転量の平均レベルを小さくする(規正精度を向上させる)ことが可能であることがわかる。
そこで、本実施の形態1では、このような姿勢規正特性を持つクランクピン33を姿勢規正機構4に併用することにより、可変速運転幅以上に広い能力範囲を持つスクロール圧縮機1を実現している。
図7は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機のクランクピンを示す図である。図7(a)及び図7(b)は共に、クランクピン33の平面図及び縦断面図を示している。また、図7(a)は、クランクピン33のクランク半径Rr´つまり静止側ピン部331の中心Oと揺動側ピン部332の中心O1との間の距離が小さい状態を示している。また、図7(b)は、クランク半径Rr´つまり静止側ピン部331の中心Oと揺動側ピン部332の中心O1との間の距離が大きい状態を示している。
本実施の形態1に係るクランクピン33は、回転部材333が2つの部材(第1回転部材334、第2回転部材335)で構成されている。第1回転部材334は、フレーム14側の面に、フレーム14側へ突出する静止側ピン部331が設けられている。また、第1回転部材334の揺動スクロール12側の面には、断面円形状の凹部334aが形成されている。凹部334aの中心軸は、静止側ピン部331の中心軸(中心O)に対して偏心している。第2回転部材335は、円筒形状つまりピン形状をしており、第1回転部材334の凹部334aに回転自在に挿入されている。すなわち、第2回転部材335の中心軸(中心O11)は、静止側ピン部331の中心軸(中心O)に対して偏心している。この第2回転部材335は、揺動スクロール12側の面に、揺動スクロール12側へ突出する揺動側ピン部332が設けられている。揺動側ピン部332の中心軸(中心O1)は、第2回転部材335の中心軸(中心O11)に対して偏心している。さらに、揺動側ピン部332の中心軸(中心O1)は、静止側ピン部331の中心軸(中心O)に対しても偏心している。このため、第1回転部材334の凹部334a内で揺動側ピン部332が回転することにより、静止側ピン部331の中心Oと揺動側ピン部332の中心O1との間の距離(=クランクピン33のクランク半径Rr´)が変化する。
ここで、第1回転部材334が本発明の回転部材に相当し、凹部334aが本発明の第1凹部に相当し、第2回転部材335が本発明の第1ピン部に相当する。
図8は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の姿勢規正機構を示す斜視図である。なお、図8(a)は揺動スクロール12及びクランクピン33を示しており、図8(b)は固定部材であるフレーム14及びクランクピン33を示している。
図8(b)に示すように、第1回転部材334に設けられた静止側ピン部331は、固定部材であるフレーム14に形成された断面円形状の静止側凹部142に、回転自在に挿入される。ここで、静止側凹部142が本発明の第2凹部に相当し、静止側ピン部331が本発明の第2ピン部に相当する。なお、静止側凹部142が形成される固定部材として、フレーム14以外の固定部材(静止部材)を用いてもよい。また、静止側凹部142を第1回転部材334に形成し、静止側ピン部331をフレーム14等の固定部材に設けてもよい。
また、図8(a)に示すように、第2回転部材335に設けられた揺動側ピン部332は、揺動スクロール12の台板部122に形成された断面円形状の揺動側凹部124に、回転自在に挿入される。ここで、揺動側凹部124が本発明の第3凹部に相当し、揺動側ピン部332が本発明の第3ピン部に相当する。なお、揺動側凹部124を第2回転部材335に形成し、揺動側ピン部332を揺動スクロール12の台板部122に設けてもよい。この場合、揺動側凹部124の中心軸を、第2回転部材335の中心軸(中心O11)に対して偏心させる。
前述の如く、クランクピン33のクランク半径Rr´が可変なので、ピンクランク半径誤差ΔRr´が大きくなると、揺動側凹部124と揺動側ピン部332との間のクリアランスΔrを相殺するように設定することにより、クランクピン33のクランク半径Rr´の変化により揺動スクロール12の許容自転量が減るように、揺動スクロール12の姿勢規正精度を変化させることができる。
図9は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機における揺動スクロールの自転角の変化を説明するための説明図である。なお、図9は、揺動スクロール12の台板部122及びクランクピン33を平面図で示している。また、図9(a)は、クランクピン33のクランク半径Rr´(静止側ピン部331の中心Oと揺動側ピン部332の中心O1との間の距離)が小さく、揺動スクロール12の自転角Δθが大きい状態を示している。また、図9(b)は、クランクピン33のクランク半径Rr´が大きく、揺動スクロール12の自転角Δθが小さい状態を示している。
揺動スクロール12の揺動運動に伴い、各クランクピン33は、静止側ピン部331(換言すると静止側凹部142)の中心O周りに回転運動するので、クランクピン33自体に遠心力(慣性力)が作用する。このため、揺動側ピン部332と揺動スクロール12の台板部122の揺動側凹部124との間での姿勢規正に対する反力と、クランクピン33に作用する遠心力との兼ね合いで、クランク半径Rr´が定まることになる。上記の姿勢規正に対する反力は揺動スクロール12に作用するガス荷重に依存し、遠心力は回転数の二乗に比例する。このため、電動機3つまり揺動スクロール12が可変速運転する際、換言するとクランクピン33が可変速運転する際、ある回転数以上の高速運転時には遠心力が支配的となるようにクランクピン33を設定することにより、低速時における揺動スクロール12の自転角Δθが大きい状態から高速時における揺動スクロール12の自転角Δθが小さい状態へと、連続的に変化するような姿勢規正特性を得ることが可能である。
すなわち、クランクピン33(つまり姿勢規正機構4)の回転数が増加するにしたがって、静止側ピン部331の中心Oと揺動側ピン部332の中心O1との間の距離を大きくすることができる。換言すると、クランクピン33(つまり姿勢規正機構4)に働く慣性力(遠心力)が規定の慣性力よりも大きい状態においては、該慣性力が前記規定の慣性力以下の状態と比べ、揺動スクロール12の固定スクロール11に対する自転量を低減することができる。
図10は、固定スクロール及び揺動スクロールの両渦巻歯間の隙間と、揺動スクロールの自転量との関係を示す図である。
従来のスクロール圧縮機では、可能な限り高精度の姿勢規正をすることにより、揺動スクロールの渦巻歯の側面と固定スクロールの渦巻歯の側面との間のすきまを極小化することが行なわれてきた。図10(a)がそのような状況を示している。つまり、固定スクロール11の渦巻歯114及び揺動スクロール12の渦巻歯126の形状精度、揺動スクロール12の揺動半径、及び揺動スクロール12の姿勢規正精度(換言すると自転角Δθ)の誤差が極小のとき、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間のすきま(シール点すきま)δoは、δo≒0となる。また、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間のすきま(シール点すきま)δiも、δi≒0となる。
揺動スクロールの姿勢規正精度を低下させて、揺動スクロール12を自転させた場合、揺動スクロール12の揺動半径が図10(a)と変わらなければ、上記すきまδo及びδiは、図10(b)のようになる。すなわち、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間のすきま(シール点すきま)δoは、δo<0となる。また、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間のすきま(シール点すきま)δiは、δi>0となる。δo<0という渦巻歯114,126が干渉した状況は実際にはあり得ないが、可変半径クランク機構5により駆動される揺動スクロール12の姿勢規正精度に本実施の形態1のように速度依存性を持たせることにより、上記すきまδo及びδiは、図10(c)のようになる。すなわち、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間のすきま(シール点すきま)δoは、δo≒0となる。また、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間のすきま(シール点すきま)δiは、δi>0となる。
つまり、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、可変半径クランク機構5により駆動される揺動スクロール12の姿勢規正機構4が、低速ほど姿勢規正精度が低くなるように構成されている。このため、高速運転時、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、揺動スクロール12の固定スクロール11に対する自転量が少なくなりあるいは無くなり、図2及び図10(a)に示すような第1圧縮モードとなる。詳しくは、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間でガス冷媒の圧縮が行われると共に、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間とで流体の圧縮が行われる第1圧縮モードとなる。
一方、低速運転時、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、揺動スクロール12の姿勢規正が甘くなり(自転量が大きくなり)、δoが小さくなりδiが大きくなる方向に揺動スクロール12が自転する。このため、低速運転時、図10(c)及び図11に示すように、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面とが接触するように揺動半径が変化し、スクロール圧縮機1は第2圧縮モードに自動的に切り替わる。詳しくは、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間の隙間が拡大して、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間でのみガス冷媒の圧縮が行われる第2圧縮モードとなる。この第2圧縮モードは、第1圧縮モードに対して最大50%のアンロード運転となる。
ここで、上述した図11は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機の圧縮機構部を下方から観察した断面図であり、第2圧縮モードを説明するための図である。図11(a)は、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間で最外室となる圧縮室を形成し、ガス冷媒の吸入を完了した状態を示している。そして、図11(a)から、図11(b)、(c)、(d)及び(a)の状態に揺動スクロール12の揺動運動が行われていく。揺動スクロール12の揺動運動が進むにつれて、上記圧縮室は容積を減じ、吸入されたガス冷媒は圧縮されるとともに順次中央へ送られる。そして、ガス冷媒は、サブポート111aから吐出される。なお、吐出ポート111からガス冷媒を吐出してもよい。
図12は、本発明の実施の形態1に係るスクロール圧縮機における圧縮機構の最内室近傍を下方から観察した断面図である。なお、図12(a)は、第2圧縮モード時の最内室近傍を示している。また、図12(b)は、第1圧縮モード時の最内室近傍を示している。
固定スクロール11の渦巻歯114及び揺動スクロール12の渦巻歯126の巻き始めの所謂球根形状は、揺動スクロール12の自転量が最大になったときでも、固定スクロール11の渦巻歯114における内向面の巻き始めである球根大円部112と、揺動スクロール12の渦巻歯126における外向面の巻き始めである球根小円部125とが干渉することのないような関係寸法に設定されている(図12(a)参照)。したがって、第1圧縮モード時には、つまり揺動スクロール12の自転が抑制された状態では、図12(b)のように、揺動スクロール12の球根小円部125は、第2圧縮モード時に較べて固定スクロール11の球根大円部112との距離を保って運動することになる。
以上、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、第1圧縮モード及び第2圧縮モードを有するので、可変速運転幅以上に広い能力範囲を持つスクロール圧縮機となることができる。
この際、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、運転状態(回転速度)に応じて揺動スクロール12の自転量が自動的に変更され、第1圧縮モードと第2圧縮モードとが自動的に変更される構成となっている。このため、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、特許文献1に記載の流体圧縮途中の圧縮室と吸入室とに連通するバイパス及び該バイパスに設けられた電磁弁が不要である。したがって、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、圧縮効率が低下することも抑制できる。また、本実施の形態1に係るスクロール圧縮機1は、特許文献1に記載のバイパス及び電磁弁が不要になるので、スクロール圧縮機の構造を簡素化することもできる。
実施の形態2.
固定スクロールに対する揺動スクロールの自転を規正する姿勢規正機構としては、オルダムリングを用いたものも従来より知られている。本実施の形態2で示すように、このような姿勢規正機構を用いたスクロール圧縮機に本発明を実施することもできる。なお、本実施の形態2において、特に記述しない項目については実施の形態1と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
図13は、本発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機の構造を示す概略縦断面図である。図14及び図16は、本発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機のオルダムリングを示す図である。図15及び図17は、本発明の実施の形態2に係るスクロール圧縮機の姿勢規正機構を下方から観察した断面図である。
なお、図14及び図16は、(a)がオルダムリング13の分解斜視図を示しており、(b)がオルダムリング13の組立斜視図を示している。また、図15及び図17は、(a)が揺動スクロール12及び揺動側オルダムリング132を示しており、(b)が揺動側オルダムリング132及び静止側オルダムリング131を示しており、(c)が静止側オルダムリング131及びフレーム14を示している。また、図14及び図15は第1圧縮モード時の状態を示しており、図16及び図17は第2圧縮モード時の状態を示している。
図14及び図16に示すように、本実施の形態2に係るオルダムリング13は、固定部材であるフレーム14側に配置された静止側オルダムリング131と、揺動スクロール12側に配置された揺動側オルダムリング132とが組み合わされて構成されている。
静止側オルダムリング131は、静止側リング部材131c、2つの爪部131a及び2つの溝部131bを備えている。例えば円環状の静止側リング部材131cにおけるフレーム14側の面には、該フレーム14側に突出するように2つの爪部131aが設けられている。これら爪部131aは、静止側リング部材131cの半径方向に並設されている。また、静止側リング部材131cにおける揺動側オルダムリング132側の面には、2つの溝部131bが設けられている。これら溝部131bは、静止側リング部材131cの半径方向に並設されている。また、溝部131bの並設方向は、静止側リング部材131cの中心軸を中心として、爪部131aの並設方向に対して規定角度回転した位置となっている。
揺動側オルダムリング132は、揺動側リング部材132c、2つの爪部132a及び2つの爪部132bを備えている。例えば円環状の揺動側リング部材132cにおける揺動スクロール12側の面には、該揺動スクロール12側に突出するように2つの爪部132aが設けられている。これら爪部131aは、揺動側リング部材132cの半径方向に並設されている。また、静止側オルダムリング131と揺動側オルダムリング132とが組み合わされた状態において、爪部132aの並設方向は、静止側リング部材131c及び揺動側リング部材132cの中心軸を中心として、爪部131aの並設方向に対して略90deg角度回転した位置となっている。
また、揺動側リング部材132cにおける静止側オルダムリング131側の面には、2つの爪部132bが設けられている。これら爪部132bは、揺動側リング部材132cの半径方向に並設されている。そして、これら爪部132bは、静止側リング部材131c及び揺動側リング部材132cの半径方向に移動自在に、静止側オルダムリング131の溝部131bに挿入されている。この際、溝部131bと爪部132bとの間には、揺動側リング部材132cが静止側リング部材131cに対して回転自在となるクリアランスが形成されている。つまり、溝部131bと爪部132bとの間には、静止側オルダムリング131及び揺動側オルダムリング132の半径方向にクリアランスが形成されている。このため、揺動側オルダムリング132は、静止側オルダムリングに対してクリアランス分、微小角度だけ相対回転可能となっている。
ここで、溝部131bが本発明の第1溝部に相当し、爪部132bが本発明の第1爪部に相当する。なお、溝部131bを揺動側リング部材132cに形成し、爪部132bを静止側リング部材131cに形成してもよい。
図15及び図17に示すように、静止側オルダムリング131の爪部131aは、フレーム14に形成された溝部141に、静止側リング部材131cの半径方向に移動自在に挿入されている。また、揺動側オルダムリング132の爪部132aは、揺動スクロール12の台板部122に形成された溝部123に、揺動側リング部材132cの半径方向に移動自在に挿入されている。このようにして、本実施の形態2に係る姿勢規正機構4が構成されている。
ここで、溝部141が本発明の第2溝部に相当し、爪部131aが本発明の第2爪部に相当する。また、溝部123が本発明の第3溝部に相当し、爪部132aが本発明の第3爪部に相当する。なお、溝部141を静止側リング部材131cに形成し、爪部131aをフレーム14に設けてもよい。また、溝部123を揺動側リング部材132cに形成し、爪部132aを揺動スクロール12の台板部122に形成してもよい。
従来のオルダムリングは、本実施の形態2に係る静止側オルダムリング131と揺動側オルダムリング132を一体形成した形状となっている。すなわち、1つのリング部材に爪部131a及び132aが設けられた形状となっている。そして、爪部131aがフレーム14に形成された溝部141に挿入され、従来のオルダムリングは、溝部141の並設方向に往復運動する。また、従来のオルダムリングの爪部132aが揺動スクロール12の台板部122に形成された溝部123に挿入されることにより、揺動スクロール12は、往復動する従来のオルダムリングに対して、オルダムリングの往復動方向と直交する方向に相対往復動する。直交する2方向の往復運動の重ね合わせとして、揺動スクロール12は揺動運動し、ガス荷重等により揺動スクロール12の姿勢を自転させようとする自転モーメントが従来のオルダムリングを介してフレーム14等に伝えられ支持されることで姿勢規正が行われる。
したがって通常時、揺動スクロール12の自転モーメントが従来のオルダムリングに伝達される場合、従来のオルダムリングの2つの爪部132aには、対角に位置する面に荷重が作用する。つまり、爪部132aのそれぞれは、揺動スクロール12の自転モーメント方向とは反対側の面が揺動スクロール12の溝部123と接触し、該面に荷重が作用する。同様に、従来のオルダムリングに伝達された揺動スクロール12の自転モーメントをフレーム14に伝達する際、従来のオルダムリングの2つの爪部131aには、対角に位置する面に荷重が作用する。つまり、爪部131aのそれぞれは、揺動スクロール12の自転モーメント方向とは反対側の面がフレーム14の溝部141と接触し、該面に荷重が作用する。
ここで、揺動スクロール12の自転モーメントはガス荷重に依存し、オルダムリング自身に作用する慣性力は回転数の二乗に比例する。このため、高速運転により慣性力が支配的になると、従来のオルダムリングの2つの爪部132aには、同一側の面に荷重が作用する。つまり、爪部132aの一方は、揺動スクロール12の自転モーメント方向とは反対側の面に荷重が作用し、爪部132aの他方は、揺動スクロール12の自転モーメント方向側の面に荷重が作用する。同様に、従来のオルダムリングの2つの爪部131aにも、同一側の面に荷重が作用する。
そこで、本実施の形態2では、このようなオルダムリングの特性を利用して、可変速運転幅以上に広い能力範囲を持つスクロール圧縮機1を実現している。
詳しくは、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1においては、揺動スクロール12の自転モーメントは、揺動スクロール12の台板部122の溝部123及び揺動側オルダムリング132の爪部132aを介して、揺動側オルダムリング132に伝達される。この伝達された自転モーメントは、揺動側オルダムリング132の爪部132b及び静止側オルダムリング131の溝部131bを介して、静止側オルダムリング131に伝達される。そして、この伝達された自転モーメントは、静止側オルダムリング131の爪部131a及びフレーム14の溝部141を介して該フレーム14に伝達され、該フレーム14で支持される。本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1は、このようにして、揺動スクロール12の姿勢規正が行われる。
この際、比較的低速(すなわち慣性力よりも自転モーメントが支配的な回転数)な状態においては、オルダムリング13の2つの爪部132aのそれぞれ、2つの爪部132bのそれぞれ、及び2つの爪部131aのそれぞれには、対角に位置する面に荷重が作用する。このため、比較的低速(すなわち慣性力よりも自転モーメントが支配的な回転数)な状態においては、図16及び図17に示すように、静止側オルダムリング131と揺動側オルダムリング132との間に形成された半径方向のクリアランス分だけ、揺動側オルダムリング132が静止側オルダムリング131に対して相対回転する。したがって、揺動側オルダムリング132の爪部132aの並設方向と静止側オルダムリング131の爪部131aの並設方向とのなす角が90degからずれ、揺動スクロール12の姿勢規正精度が低下する。これにより、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間の隙間が拡大して、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間でのみガス冷媒の圧縮が行われる第2圧縮モードとなる。
一方、高速運転によりオルダムリング13に作用する揺動スクロール12の自転モーメントよりもオルダムリング自身の慣性力が卓越するようになると、図14及び図15に示すように、オルダムリング13の2つの爪部132aのそれぞれ、2つの爪部132bのそれぞれ、及び2つの爪部131aのそれぞれには、同一側の面に荷重が作用する。したがって、揺動側オルダムリング132の爪部132aの並設方向と静止側オルダムリング131の爪部131aの並設方向とのなす角が略90degとなり、揺動スクロール12の姿勢規正精度が向上する。これにより、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間でガス冷媒の圧縮が行われると共に、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間とで流体の圧縮が行われる第1圧縮モードとなる。
以上、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1においても、実施の形態1と同様に第1圧縮モード及び第2圧縮モードを有するので、可変速運転幅以上に広い能力範囲を持つスクロール圧縮機となることができる。
この際、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1は、実施の形態1と同様に、運転状態(回転速度)に応じて揺動スクロール12の自転量が自動的に変更され、第1圧縮モードと第2圧縮モードとが自動的に変更される構成となっている。このため、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1も、実施の形態1と同様に、特許文献1に記載の流体圧縮途中の圧縮室と吸入室とに連通するバイパス及び該バイパスに設けられた電磁弁が不要である。したがって、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1も、実施の形態1と同様に、圧縮効率が低下することも抑制できる。また、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1も、実施の形態1と同様に、特許文献1に記載のバイパス及び電磁弁が不要になるので、スクロール圧縮機の構造を簡素化することもできる。
さらに、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1は、第1圧縮モードと第2圧縮モードとを自動的に変更できる姿勢規正機構4を、実施の形態1よりも少ない部品点数で実現することができる。このため、本実施の形態2に係るスクロール圧縮機1は、実施の形態1にくらべ、スクロール圧縮機1の組立が容易になるという効果も得られる。
実施の形態3.
姿勢規正機構4をオルダムリングで構成する場合、本実施の形態3に示すようなオルダムリングを用いてもよい。なお、本実施の形態3において、特に記述しない項目については実施の形態1又は実施の形態2と同様とし、同一の機能や構成については同一の符号を用いて述べることとする。
図18は、本発明の実施の形態3に係るスクロール圧縮機のオルダムリングを示す斜視図である。図19は、このオルダムリングの揺動側爪部近傍を示す拡大図である。また、図20は、このオルダムリングの揺動側爪部の分解斜視図である。
本実施の形態3に係るオルダムリング13は、リング部材133、2つの静止側爪部134及び2つの揺動側爪部135を備えている。例えば円環状のリング部材133におけるフレーム14側の面には、該フレーム14側に突出するように2つの静止側爪部134が設けられている。これら静止側爪部134は、リング部材133の半径方向に並設されている。また。静止側爪部134のそれぞれは、フレーム14に形成された溝部141に、リング部材133の半径方向(より詳しくは静止側爪部134の並設方向)に移動自在に挿入される。
リング部材133における揺動スクロール12側の面には、該揺動スクロール12側に突出するように2つの揺動側爪部135が設けられている。これら揺動側爪部135は、リング部材133の半径方向に並設されている。また、揺動側爪部135の並設方向は、リング部材133の中心軸を中心として、静止側爪部134の並設方向に対して略90deg回転した位置となっている。また、揺動側爪部135のそれぞれは、揺動スクロール12の台板部122に形成された溝部123(揺動側溝部)に、リング部材133の半径方向(より詳しくは揺動側爪部135の並設方向)に移動自在に挿入されている。
ここで、本実施の形態3に係るオルダムリング13の各揺動側爪部135は、爪支持部136、爪部材137、及び例えば圧縮バネ等である弾性体138を備えている。爪支持部136は、リング部材133における揺動スクロール12側の面から揺動スクロール12側に突出するように、リング部材133に設けられている。換言すると、爪支持部136は、リング部材133に対して固定されている。爪部材137は、爪支持部136における揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面と対向して配置されている。爪部材137は、リング部材133及び爪支持部136には固定されておらず、これらに対して移動自在な部材である。
弾性体138は、爪支持部136と爪部材137との間に配置されている。弾性体138は、爪部材137における揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面と溝部123の側面とが接触し、爪部材137に揺動スクロール12の揺動方向の力が作用した際、爪部材137を揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に付勢するものである。これにより、爪部材137における揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面と溝部123の側面との間の角度及び位置のずれを吸収し、爪部材137における揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面を溝部123の側面に沿わせることができる。本実施の形態3では、弾性体138の一端は、爪部材137に形成された凹部137aに挿入されている。また、弾性体138の他端は、爪支持部136に形成された溝部136aに挿入されている。溝部136aの一端は、リング部材133とは反対側に開口している。このため、一端が爪部材137の凹部137aに挿入された状態の弾性体138の他端を、溝部136aの開口部から挿入することができる。弾性体138の他端を溝部136aに挿入することにより、弾性体138は、溝部136aのリング部材133側の端部で支持される。すなわち、爪部材137は、弾性体138を介して、爪支持部136に支持される。
上述のように、爪部材137における揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面と溝部123の側面とが接触し、爪部材137に揺動スクロール12の揺動方向の力が作用した際、爪部材137は、弾性体138によって、揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に付勢される。すなわち、爪部材137は、弾性体138によって、爪支持部136から離れる方向に付勢される。このため、爪部材137に作用する揺動スクロール12の揺動方向の力(すなわち弾性体138を圧縮する力)が規定の力以上になるまで、弾性体138の付勢力により、爪支持部136と爪部材137との間には隙間が形成された状態となる。
このようなオルダムリング13を用いて姿勢規正機構4を構成しても、スクロール圧縮機1は、運転状態(回転速度)に応じて揺動スクロール12の自転量が自動的に変更され、第1圧縮モードと第2圧縮モードとが自動的に変更される構成となる。
以下では、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4が当該作用を発揮できる理由の理解を容易とするため、まず、従来のオルダムリングを用いた姿勢規正機構の動作について説明する。そして、その後に、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4が当該作用を発揮できる理由について説明する。
図21は、従来のオルダムリングを用いた姿勢規正機構の動作を説明するための説明図である。なお、図21では、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4の構成と同じ構成には、本実施の形態3と同じ符号を付している。また、図21は、揺動スクロール12側から従来の姿勢規正機構を観察した図であり、揺動スクロール12を透過して従来の姿勢規正機構を示した図となっている。このため、図21では、揺動スクロール12の台板部122及び該台板部122に形成された溝部123を、想像線(二点鎖線)で示している。また、図21は、揺動スクロール12が紙面時計回りに揺動しながらガス冷媒を圧縮する際の従来の姿勢規正機構を示しており、従来の姿勢規正機構の状態は、図21(a)、(b)、(c)及び(d)で示す順に変化していく。
従来のオルダムリングと本実施の形態3に係るオルダムリング13とで異なる点は、揺動側爪部の構成である。従来のオルダムリングの揺動側爪部139は、リング部材133から揺動スクロール12側に突出した角柱状部材のみで構成されている。すなわち、従来のオルダムリングの揺動側爪部139は、本実施の形態3に係る揺動側爪部135の爪部材137及び弾性体138を備えない構成となっている。
このように構成された従来のオルダムリングを用いた姿勢規正機構においては、静止側爪部134がフレーム14の溝部141に挿入され、揺動側爪部139が揺動スクロール12の溝部123に挿入されて、ガス冷媒を圧縮する際の揺動スクロール12の姿勢を規正する。この際、揺動スクロール12に作用するガス力による該揺動スクロール12の自転モーメントを支持するために、揺動側爪部139には反力F1,F2が作用する。また、F1,F2によるモーメントとバランスするように、静止側爪部134には反力F3,F4が作用する。
図22は、従来のオルダムリングの各爪部に作用する反力F1,F2,F3,F4の変化を示す図である。なお、図22(a)は、低速運転時に従来のオルダムリングの各爪部に作用する反力F1,F2,F3,F4の変化を示している。また、図22(b)は、高速運転時に従来のオルダムリングの各爪部に作用する反力F1,F2,F3,F4の変化を示している。また、図22(a),(b)は、図21(a)の状態を、揺動スクロール12の回転角ψ=0degとしている。また、図22(a),(b)に示す反力F1,F2,F3,F4は、図21に矢印で示す方向を正の値としている。
静止側爪部134に作用する反力F3,F4は、揺動スクロール12に作用するガス力に依存して変動する。これに対して、揺動側爪部139に作用する反力F1,F2は、当該ガス力に加え、オルダムリングが往復動する際に該オルダムリングに作用するオルダムリング自重分の慣性力にも依存する。このため、図22に示すように、揺動側爪部139に作用する反力F1,F2は、静止側爪部134に作用する反力F3,F4よりも変動が大きくなる。また、図22(a)に示すように、低速運転時には、揺動スクロール12が1回転揺動する間、反力F1,F2は正の値となる。一方、図22(b)に示すように、高速運転時には、オルダムリングに作用する慣性力が増大するため、揺動スクロール12が1回転揺動する間のほとんどの期間において、反力F1又は反力F2が負の値となる。
これは、低速運転時には、2つの揺動側爪部139には図21に示すように対角に位置する面に反力F1,F2が作用し、揺動スクロール12の自転モーメントが伝達されることを示している。つまり、揺動側爪部139のそれぞれには、揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面に、反力F1,F2のいずれかが作用することを示している。一方、慣性力が支配的になる高速運転時には、2つの揺動側爪部139には同一側の面に反力F1,F2が作用し、揺動スクロール12の自転モーメントが伝達されることを示している。つまり、揺動側爪部139の一方は、揺動スクロール12の揺動方向とは反対側に向いた面に反力F1,F2の一方が作用し、揺動側爪部139の他方は、揺動スクロール12の揺動方向に向いた面に反力F1,F2の他方が作用することを示している。
本実施の形態3に係るオルダムリング13の揺動側爪部135においても、ガス冷媒を圧縮する際、従来のオルダムリングの揺動側爪部135と同様に、反力F1,F2が作用する。このため、本実施の形態3に係るオルダムリング13を用いた姿勢規正機構4は、低速運転時には後述の図23に示す動作となり、高速運転時には後述の図24に示す動作となる。
図23及び図24は、本発明の実施の形態3に係るオルダムリングを用いた姿勢規正機構の動作を説明するための説明図である。なお、図23は、本実施の形態3に係るオルダムリング13を用いた姿勢規正機構4における低速運転時の動作を示している。また、図24は、本実施の形態3に係るオルダムリング13を用いた姿勢規正機構4における高速運転時の動作を示している。また、図23及び図24は、揺動スクロール12側から姿勢規正機構4を観察した図であり、揺動スクロール12を透過して姿勢規正機構4を示した図となっている。このため、図23及び図24では、揺動スクロール12の台板部122及び該台板部122に形成された溝部123を、想像線(二点鎖線)で示している。また、図23及び図24は、揺動スクロール12が紙面時計回りに揺動しながらガス冷媒を圧縮する際の姿勢規正機構4を示している。
低速運転時、2つの揺動側爪部135には、上述のように、対角に位置する面に反力F1,F2が作用する。このため、図23に示すように、揺動側爪部135のそれぞれにおいて爪部材137が揺動スクロール12の溝部123と接触することにより、揺動スクロール12の自転モーメントがオルダムリング13のリング部材133へと伝達される。ここで、低速運転時の反力F1,F2の大きさでは、爪部材137が爪支持部136と接触する状態にまで弾性体138が変形しない構成となっている。このため、揺動側爪部135のそれぞれでは、爪部材137と爪支持部136との間には、隙間Cが形成される。つまり、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4は、爪部材137と爪支持部136との間の隙間分だけ揺動スクロール12が自転でき、低速運転時には揺動スクロール12の姿勢規正が甘くなる(自転量が大きくなる)。このため、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4を用いることにより、低速運転時、図10(c)に示すように、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面とが接触するように揺動半径が変化し、スクロール圧縮機1は第2圧縮モードとなる。
これに対して、高速運転時、上述のように、2つの揺動側爪部135には同一側の面に反力F1,F2が作用し、揺動スクロール12の自転モーメントが伝達される。換言すると、反力F1,F2が作用する面は、往復動するオルダムリング13の自重分の慣性力を受ける側に作用し、揺動スクロール12が半回転揺動する毎に入れ替わる。つまり、図24(a)に示すように、揺動スクロール12が半回転揺動する間、揺動側爪部135の一方は、爪部材137が揺動スクロール12の溝部123と接触し、爪部材137における溝部123との接触面に反力F1が作用する。そして、揺動側爪部135の他方は、リング部材133に固定されている爪支持部136が揺動スクロール12の溝部123と接触し、爪支持部136における溝部123との接触面に反力F2が作用する。また、揺動スクロール12が残りの半回転揺動する間、揺動側爪部135の一方は、爪支持部136が揺動スクロール12の溝部123と接触し、爪支持部136における溝部123との接触面に反力F1が作用する。そして、揺動側爪部135の他方は、爪部材137が揺動スクロール12の溝部123と接触し、爪部材137における溝部123との接触面に反力F2が作用する。
低速運転時に比べ、高速運転時の反力F1,F2は大きい。このため、高速運転時、爪部材137と揺動スクロール12の溝部123とが接触する揺動側爪部135では、爪部材137と爪支持部136とが面接触する状態まで、弾性体138が変形する。このため、爪支持部136に対してこれ以上相対移動できなくなった爪部材137と、リング部材133に固定されている揺動側爪部135とで、揺動スクロール12の姿勢を規正することとなる。したがって、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4は、揺動スクロール12の固定スクロール11に対する自転量が少なくなるあるいは無くなる状態となる。このため、本実施の形態3に係る姿勢規正機構4を用いることにより、高速運転時、図10(a)に示すように、固定スクロール11の渦巻歯114の内向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の外向面との間でガス冷媒の圧縮が行われると共に、固定スクロール11の渦巻歯114の外向面と揺動スクロール12の渦巻歯126の内向面との間とで流体の圧縮が行われる第1圧縮モードとなる。
以上、本実施の形態3に係るスクロール圧縮機1においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、第1圧縮モードと第2圧縮モードとを自動的に移行できるので、可変速運転幅以上に広い能力範囲を持つスクロール圧縮機となることができる。換言すると、本実施の形態3に係るスクロール圧縮機1においても、実施の形態1及び実施の形態2と同様に、非アンロード運転である第1圧縮モードと、第1圧縮モードに対して例えば最大50%のアンロード運転となる第2圧縮モードとを自動的に移行できる。
なお、溝部141をリング部材133に形成し、静止側爪部134をフレーム14に設けてもよい。
また、溝部123をリング部材133に形成し、揺動側爪部135を揺動スクロール12の台板部122に形成してもよい。この場合、爪部材137は、爪支持部136における揺動スクロール12の揺動方向側に向いた面と対向して配置される。このように爪部材137を配置することにより、低速運転時、揺動側爪部135のそれぞれにおいて爪部材137が溝部123と接触することとなる。すなわち、爪部材137と爪支持部136との間の隙間分だけ揺動スクロール12が自転でき、揺動スクロール12の姿勢規正が甘くなる(自転量が大きくなる)。また、高速運転時、揺動側爪部135の一方では爪部材137が溝部123と接触し、揺動側爪部135の他方では爪支持部136が溝部123と接触することとなる。すなわち、揺動スクロール12の固定スクロール11に対する自転量が少なくなるあるいは無くなる状態となる。