以下、本発明の好ましい実施の形態について添付図面を参照して説明する。まず図1を参照して本発明の第1実施の形態における変速機1の概略構成を説明する。図1は第1実施の形態における変速機1のスケルトン図である。変速機1は、動力が入力される第1軸2(駆動軸)と、第1軸2と平行に配置される第2軸3(出力軸)とを備え、第2軸3に出力ギヤ4が配置されている。第1軸2及び第2軸3は、複数段の変速ギヤとしての1速ギヤ10、2速ギヤ20、3速ギヤ30、4速ギヤ40、5速ギヤ50及び6速ギヤ60を支持する。本実施の形態では変速機1は自動車(図示せず)に搭載されている。
1速ギヤ10は、第1軸2に相対回転不能に固定された駆動ギヤ11と、駆動ギヤ11と噛み合いつつ第2軸3に相対回転可能に固定された被動ギヤ12とを備え、2速ギヤ20は、第1軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ21と、駆動ギヤ21と噛み合いつつ第2軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ22とを備えている。3速ギヤ30は、第1軸2に相対回転不能に固定された駆動ギヤ31と、駆動ギヤ31と噛み合いつつ第2軸3に相対回転可能に固定された被動ギヤ32とを備え、4速ギヤ40は、第1軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ41と、駆動ギヤ41と噛み合いつつ第2軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ42とを備えている。5速ギヤ50は、第1軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ51と、駆動ギヤ51と噛み合いつつ第2軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ52とを備え、6速ギヤ60は、第1軸2に相対回転可能に固定された駆動ギヤ61と、駆動ギヤ61と噛み合いつつ第2軸3に相対回転不能に固定された被動ギヤ62とを備えている。
ハブ70は、被動ギヤ12,32間の第2軸3、駆動ギヤ21,51間の第1軸2、駆動ギヤ41,61間の第1軸2にそれぞれ相対回転不能に固定される部材である。被動ギヤ12,32、駆動ギヤ21,41,51,61は、軸方向の端面にそれぞれ軸方向へ突出する歯(ドグ歯)106,107(図5参照)が設けられている。クラッチリング90は、ハブ70と係合しつつ軸方向へ相対移動可能にハブ70に装着される部材であり、軸方向の端面に軸方向へ突出する歯(ドグ歯、第1歯95及び第2歯100、図5参照)が設けられている。クラッチリング90が軸方向へ移動して第1歯95、第2歯100と歯106,107とが選択的に噛み合うことで、1速ギヤ10、2速ギヤ20、3速ギヤ30、4速ギヤ40、5速ギヤ50及び6速ギヤ60が第1軸2に選択的に結合し、変速が行われる。
操作部110は、クラッチリング90を軸方向へ選択的に移動させるための装置であり、クラッチリング90にそれぞれ係合するシフトフォーク111,112,113と、シフトフォーク111,112,113にそれぞれ結合する凹凸部材114と、凹凸部材114にそれぞれ結合するシフトアーム120,121,122とを備えている。凹凸部材114は、シフトフォーク111,112,113を介してクラッチリング90に軸方向の付勢力を付与する部材であり、半球状に凹んだ凹部115,116,117が軸方向(図1左右方向)に並んでいる。凹部115,116,117は、ケースCに固定されたバネ(コイルスプリング)119で凹凸部材114へ向けて付勢されたボール118が弾性的に係合する部位である。シフトアーム120,121,122は、ケースCに固定された円柱状のシフトドラム123の外周に形成されたシフト溝124,125,126に端部が係合する。
シフトドラム123は、シフトレバー(図示せず)の操作信号に基づき、或いはアクセルペダル(図示せず)の操作によるアクセル開度および車速信号等に基づき、モータ(図示せず)により軸回りに回転駆動される。シフトドラム123が回転駆動されると、シフト溝124,125,126にガイドされたシフトアーム120,121,122を介して、シフトフォーク111,112,113が軸方向へ選択的に駆動する。シフトフォーク111,112,113の駆動によってクラッチリング90が軸方向へ移動する。
凹凸部材114は、凹部116,117の位置が、被動ギヤ12,32、駆動ギヤ21,41,51,61のいずれかとクラッチリング90とが結合する噛み合い位置(第1位置)に対応し、凹部115の位置が、被動ギヤ12,32、駆動ギヤ21,41,51,61のいずれかとクラッチリング90とが分離するニュートラル位置(第2位置)に対応する。凹部115,116,117のいずれかにボール118が弾性的に係合し、クラッチリング90が、軸方向の第1位置(噛み合い位置)又は第2位置(ニュートラル位置)に位置決めされる。
図2を参照してハブ70について説明する。図2(a)はハブ70の斜視図であり、図2(b)はハブ70の正面図である。図2(a)に示すようにハブ70は、第1軸2又は第2軸3(図1参照)に結合するスプラインが内周面71に形成される円筒状の部材であり、外周面72の周方向の4カ所に溝部73が等間隔に形成されている。溝部73は、軸方向に沿って形成されると共に径方向へ向かって凹む部位であり、周方向へ間隔をあけて互いに対向する第1壁74及び第2壁75と、第1壁74及び第2壁75に連接される底部76とを備えている。
図2(b)に示すように第1壁74は、軸方向の外側から中央部78へ向かうにつれて周方向へ(第2壁75から離れる方向へ)下降傾斜する第1部分77と、第1部分77の軸方向の外側に連接される第3部分79とを備えている。第1部分77は軸方向に対して傾く傾斜面であり、第3部分79は軸方向に対して平行な平坦面である。第2壁75は、軸方向の外側から中央部81へ向かうにつれて周方向へ(第1壁74へ近づく方向へ)上昇傾斜する第2部分80と、第2部分80の軸方向の外側に連接されると共に軸方向の外側から第2部分80へ向かうにつれて周方向へ(第1壁74から離れる方向へ)下降傾斜するガイド部82とを備えている。
第2部分80及びガイド部82は、軸方向に対する傾斜方向が互いに異なる傾斜面である。ガイド部82は第3部分79と周方向(回転方向)に対向し、第2部分80は第1部分77と周方向(回転方向)に対向する。第2部分80とガイド部82との境界83は、軸方向(図2(b)左右方向)の位置が、第1部分77と第3部分79との境界84の軸方向の位置と同一に設定されている。
図3及び図4を参照して、ハブ70(図2(a)参照)の外周面72に装着されるクラッチリング90について説明する。図3(a)はクラッチリング90の斜視図であり、図3(b)は凸部105を構成するピン103の斜視図であり、図3(c)はピン103が組み付けられたクラッチリング90の斜視図である。図4(a)はクラッチリング90が組み付けられたハブ70の斜視図であり、図4(b)は溝部73及び凸部105の正面図である。
図3(a)に示すようにクラッチリング90は、円環状のリング本体91と、リング本体91の軸方向の端面から軸方向の両側へ向けて突出する複数の第1歯95及び第2歯100(ドグ歯)とを備えている。リング本体91は、外周面92の4カ所から径方向の内側へ向かって切り欠かれた切欠部93が、周方向に等間隔に設けられている。リング本体91の内周面94の内径は、ハブ70(図2(a)参照)の外周面72の外径よりわずかに大きく形成されている。
第1歯95は、リング本体91の円形状の内周面94と切欠部93の底との間に設けられており、歯先(軸方向の先端)の歯厚(周方向の厚さ)より歯元の歯厚を小さくするように、周方向の端面96が、歯先から歯元(軸方向の内側)へ向かって傾斜する傾斜面とされる。リング本体91は、第1歯95の径方向の外側の端面97と径方向の内側の端面98及び内周面94との間を貫通して径方向へ伸びる孔部99が形成されている。リング本体91の内周面94と第1歯95の端面97とは同一面上に配置される。
第2歯100は、リング本体91の周方向の4カ所に設けられた第1歯95の間の4カ所に第1歯95と交互に配置される。第2歯100は、歯先(軸方向の先端)の歯厚(周方向の厚さ)より歯元の歯厚を小さくするように、周方向の端面101が、歯先から歯元(軸方向の内側)へ向かって傾斜する傾斜面とされる。第2歯100は、歯元から歯先までの長さ(軸方向へ突出する長さ)が、第1歯95より大きく設定される。リング本体91の内周面94と第2歯100の径方向の内側の端面102とは同一面上に配置される。
図3(b)に示すようにピン103は、リング本体91に形成された孔部99に嵌合する軸部104と、軸部104の端部から軸部104の径方向の外側に張り出す凸部105とを備えている。軸部104は、長さが孔部99の長さと略同一に設定された円柱状に形成されている。凸部105は、軸方向の長さ(厚さ)が、ハブ70(図2(a)参照)の第1壁74及び第2壁75の高さより小さく、径方向の大きさが、第1壁74と第2壁75との間隔より小さく設定された円柱状に形成されている。
図3(c)に示すようにクラッチリング90は、リング本体91の内周面94側から孔部99にピン103の軸部104が挿入されることで、第1歯95の端面98に凸部105が固定される。リング本体91の径方向の内側に凸部105が配置されるので、凸部105はピン103の抜け止めを兼ねる。リング本体91の孔部99にピン103を嵌合してクラッチリング90を製造するので、凸部105をリング本体91と一体的に設ける場合に比べて、クラッチリング90の加工を簡素化できる。クラッチリング90は第1歯95の位置に孔部99が形成されるので、第1歯95や第2歯100以外の位置に孔部99を形成する場合に比べて孔径を大きくでき、軸部104を太くできる。孔部99に嵌合する軸部104の強度を高められるので、クラッチリング90の耐久性を向上できる。
図4(a)に示すようにクラッチリング90は、ハブ70の溝部73に凸部105を軸方向から挿入して、ハブ70の外周面72に装着される。図4(b)に示すように第1壁74と第2壁75との間に凸部105が配置される。第1壁74や第2壁75が凸部105に当接して、ハブ70とクラッチリング90とが一体に回転する。
ハブ70にクラッチリング90が装着された状態で、クラッチリング90の内周面94及び第2歯100の端面102はハブ70の外周面72に接触する。ハブ70に対してクラッチリング90が軸方向へ移動するときには、第2歯100の端面102がハブ70の外周面72に擦れて、ハブ70に対してリング本体91が支持される。軸方向に移動するクラッチリング90がハブ70に対して倒れるとスムーズに変速できなくなるおそれがあるが、クラッチリング90のハブ70に対する倒れを第2歯100によって防ぐので、スムーズな変速を確保できる。
クラッチリング90のハブ70に対する倒れを防ぐため、クラッチリング90を支持する部材を別に設ける場合には、クラッチリング90の支持構造が複雑化するという問題点がある。しかし、第2歯100を利用してクラッチリング90を支持するので、クラッチリング90を支持する部材を別に設けることを省略できる。よって、クラッチリング90の支持構造を簡素化できる。
クラッチリング90は、ハブ70に対する倒れを防ぐ支持部を歯(第2歯100)と兼用するので、歯とは別に支持部を設ける場合に比べて、クラッチリング90の加工を簡素化できる。第2歯100は第1歯95より軸方向に突出する長さが大きいので、軸方向に突出する長さが小さい第1歯95と支持部とを兼用する場合に比べて、ハブ70に対するリング本体91の支持長さを大きくできる。第2歯100を利用することにより、第1歯95を利用する場合に比べて、ハブ70に対してクラッチリング90を軸方向へ移動させるときの安定性を向上できる。
第1歯95の数は第2歯100の数と同数であり、第1歯95の位置からリング本体91の径方向に凸部105が突出する。凸部105によるハブ70とクラッチリング90とを一体に回転させる機能と、第2歯100による倒れ防止機能とを両立できるので、変速機1の信頼性を確保できる。
図5から図9を参照して、高速段へ変速(シフトアップ)するときの変速機1の動作を説明する。本実施の形態では一例として4速ギヤ40から5速ギヤ50への変速について説明するが、他の段へ変速する動作も同様なので、他の段の変速については説明を省略する。まず図5及び図6を参照して、低速段(4速ギヤ40)のときの変速機1の動作について説明する。図5は低速段(4速ギヤ40)のコースト走行時の変速機1の模式図であり、図6は低速段(4速ギヤ40)のドライブ走行時の変速機1の模式図である。図5から図9では、駆動ギヤ41,51、ハブ70及びクラッチリング90の回転方向は、紙面に沿って下向き(矢印R方向)である。
図5に示すように4速走行時には、シフトドラム123のシフト溝125及びシフトアーム121によりシフトフォーク112が4速ギヤ40の駆動ギヤ41へ近づき、クラッチリング90の第1歯95及び第2歯100が駆動ギヤ41の歯106に噛み合う。ボール118は凹凸部材114の凹部117に係合する(第1位置)。一方、5速ギヤ50では、ボール118が凹凸部材114の凹部115に係合するニュートラル位置(第2位置)が維持され、クラッチリング90と駆動ギヤ51とが分離する。
4速ギヤ40の被動ギヤ42(図1参照)から駆動ギヤ41へ動力が伝達されるコースト走行時には、クラッチリング90はハブ70より速く回転するので、凸部105はハブ70の第3部分79に当接する。第3部分79は軸方向に沿う平坦面なので、凸部105(クラッチリング90)に軸方向のスラスト分力は生じない。よって、クラッチリング90と駆動ギヤ41との噛み合いが保たれる。第1歯95及び第2歯100の周方向の端面96,101及び駆動ギヤ41の歯106は、歯先から歯元へ向かって傾斜する傾斜面同士が擦れ合うので、摩擦によってギヤ抜けを防止する。
図6に示すように、駆動ギヤ41から被動ギヤ42(図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時には、ハブ70はクラッチリング90より速く回転するので、凸部105はハブ70のガイド部82に当接する。ガイド部82は、軸方向に対して傾き、第2部分80へ向かうにつれて周方向へ下降傾斜するので、凸部105(クラッチリング90)に第2部分80へ向かう軸方向の力が作用する。シフト溝125とシフトアーム121との間に軸方向の遊び(隙間)G(図5参照)があるので、その分だけ、クラッチリング90は駆動ギヤ41から離脱する方向へ移動する。クラッチリング90の凸部105は、ガイド部82及び第2部分80に当接した状態となる。一方、5速ギヤ50では、ハブ70はクラッチリング90より速く回転するので、凸部105は、ハブ70の第2壁75の中央部81に当接する。
4速ギヤ40では、クラッチリング90の移動につれて軸方向へ移動した凹凸部材114は、凹部117によりボール118を押しのけ、バネ119を圧縮して弾性エネルギーを蓄える。これによりバネ119は、駆動ギヤ41との噛み合いを深くする軸方向(矢印B方向)の付勢力をクラッチリング90に付与する。また、第1歯95及び第2歯100の周方向の端面96,101及び駆動ギヤ41の歯106は、歯先から歯元へ向かって傾斜する傾斜面同士が擦れ合うので、摩擦によってギヤ抜けを防止する。
被動ギヤ42(図1参照)から駆動ギヤ41へ動力が伝達されるコースト走行時には(図5参照)、第1軸2(図1参照)から駆動ギヤ41に動力が伝達されないので、バネ119による軸方向(矢印B方向)の付勢力により、クラッチリング90は、バネ119の復元に伴い駆動ギヤ41との噛み合いを深くする方向へ移動する。クラッチリング90はハブ70より速く回転するので、凸部105はハブ70の第3部分79に当接する。4速ギヤ40による走行時には、凸部105は、ドライブ走行とコースト走行との切り換えにより、ガイド部82及び第2部分80に当接する位置と第3部分79に当接する位置との間を行き来する。
図7は低速段(4速ギヤ40)から高速段(5速ギヤ50)へ変速途中の変速機1の模式図であり、図8は低速段から高速段への変速直後の変速機1の模式図であり、図9は高速段(5速ギヤ50)のドライブ走行時の変速機1の模式図である。図7及び図8に示す矢印Sはシフトドラム123のシフトアップ時の回転方向である。
図7に示すように、駆動ギヤ41から被動ギヤ42(図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時に、シフトドラム123を回転して高速段(5速ギヤ50)へのシフトアップ操作が行われると、シフトドラム123のシフト溝126及びシフトアーム122によりシフトフォーク113が5速ギヤ50の駆動ギヤ51へ近づき、クラッチリング90の第1歯95の歯先が駆動ギヤ51の歯107の歯先に当接する。クラッチリング90の第2歯100は、軸方向の長さが第1歯95より大きいので、第2歯100と駆動ギヤ51の歯107とを噛み合い易くできる。一方、4速ギヤ40では、凹凸部材114の凹部117によってボール118を介してバネ119が圧縮されるので、クラッチリング90と駆動ギヤ41とが噛み合った状態が維持される。
図8に示すように4速ギヤ40の駆動ギヤ41とクラッチリング90とが噛み合った状態で、5速ギヤ50の駆動ギヤ51とクラッチリング90とが噛み合うと(歯107と第2歯100とが噛み合うと)、5速ギヤ50は4速ギヤ40より速く回転するので、内部循環トルクにより4速側はコースト状態、5速側はドライブ状態となる。5速ギヤ50では、ハブ70の第2部分80に凸部105が当接して、クラッチリング90が駆動ギヤ51に深く噛み合う軸方向の力が凸部105に作用する。4速ギヤ40では、ハブ70とクラッチリング90との相対回転によって、第2部分80及びガイド部82に当接する凸部105が第1壁74側へ移動し、ハブ70の第1部分77に凸部105が当接する。第1部分77では、クラッチリング90をニュートラル方向(ハブ70の中央部78側)へ移動させて駆動ギヤ41との噛み合いを解除する軸方向の力が凸部105に作用する。このスラスト力によりクラッチリング90はニュートラル方向へ移動する。
図9に示すようにシフトドラム123によって5速ギヤ50への変速が完了すると、4速ギヤ40では、ボール118が凹凸部材114の凹部115に係合するニュートラル位置(第2位置)が維持され、クラッチリング90と駆動ギヤ41とが分離した状態が維持される。5速ギヤ50では、ボール118が凹凸部材114の凹部117に係合する。
駆動ギヤ51から被動ギヤ52(図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時には、凸部105はハブ70のガイド部82に当接する。ガイド部82は、軸方向に対して傾き、第2部分80へ向かって周方向へ下降傾斜するので、凸部105(クラッチリング90)に第2部分80へ向かう軸方向の力が作用する。シフト溝125とシフトアーム121との間に軸方向の遊び(隙間)Gがあるので、その分だけ、クラッチリング90は駆動ギヤ51から離脱する方向へ移動する。クラッチリング90の凸部105は、ガイド部82及び第2部分80に当接した状態となる。凹凸部材114は、凹部117によりボール118を押しのけ、バネ119を圧縮して弾性エネルギーを蓄える。これによりバネ119は、駆動ギヤ51との噛み合いを深くする軸方向(矢印B方向)の付勢力をクラッチリング90に付与する。
以上のように変速機1は、ハブ70に設けられたガイド部82により、クラッチリング90の噛み合い位置(第1位置)からニュートラル位置(第2位置)へ向かう軸方向の力が凸部105に生じると(駆動ギヤ41から被動ギヤ42へ動力が伝達されるドライブ走行時)、ガイド部105の軸方向の長さの分だけ4速ギヤ40等の変速ギヤから軸方向へクラッチリング90が離れる。これにより、低速段から高速段への変速を待機状態にできるので、変速時のショックを抑制できる。
低速段から高速段への変速時に、変速比の異なる2つの変速ギヤ(4速ギヤ40及び第5ギヤ50)にクラッチリング90が2つ同時に結合すると、軸方向に対して傾く第1部分77により、第1位置から第2位置へ向かう軸方向の力が凸部105に生じ、内部循環トルクにより、高速段の変速ギヤ(5速ギヤ50)に比べて回転数の低い低速段の変速ギヤ(4速ギヤ40)に結合するクラッチリング90が軸方向へ押し出される。高速段の変速ギヤ(5速ギヤ50)とクラッチリング90とが結合すると、低速段の変速ギヤ(4速ギヤ40)とクラッチリング90とが分離して高速段が成立するので、変速時のトルク切れを解消できる。
ガイド部82は、第1壁74及び第2壁75を加工してハブ70に溝部73を設けるときに併せて形成できるので、ガイド部82を設けるために部品の加工工数が増加することを抑制できると共に、クラッチリング90の歯元に斜面を設ける加工を不要にできる。よって、変速時のトルク切れを解消しつつ、部品の加工を簡素化できる。
変速機1は、駆動ギヤ41から被動ギヤ42へ動力を伝達するドライブ走行時に第2壁75の第2部分80に凸部105が当接する。第2部分80は第1部分77と回転方向(周方向)に対向しガイド部82に連接されているので、ガイド部82によって第2部分80へ移動した凸部105が、第2部分80から第1部分77へ回転方向に相対移動すると、駆動ギヤ41から被動ギヤ42へ動力を伝達できなくなる。駆動ギヤ41から被動ギヤ42へ動力を伝達できない状態では、クラッチリング90と4速ギヤ40とを分離できる。クラッチリング90と4速ギヤ40とが分離されると高速段(5速ギヤ50)への変速が行われるので、変速をスムーズにできる。
変速機1は、駆動ギヤ41,51から被動ギヤ42,52へ動力を伝達するドライブ走行時に、凸部105はガイド部82及び第2部分80に当接する。よって、ドライブ走行時にガイド部82と第2部分80との間を凸部105が移動できるように距離をあけてガイド部82及び第2部分80が軸方向に設けられる場合に比べて、第2壁75の軸方向の長さ、即ちハブ70の軸方向の長さを短くできる。その結果、ハブ70が複数配置される変速機1の軸方向の長さを短くできる。
変速機1は、操作部110により駆動ギヤ41,51(変速ギヤ)の最も近くにクラッチリング90を移動させたときの凸部105の軸方向の位置(凹凸部材114の凹部117にボール118が係合する位置)が、ガイド部82の軸方向の位置と同一に設定される。駆動ギヤ41から被動ギヤ42へ動力を伝達するドライブ走行時に、バネ119により、ニュートラル位置(第2位置)からクラッチリング90の噛み合い位置(第1位置)へ向かう軸方向の付勢力がクラッチリング90に付与される。第2部分80は、第2位置から第1位置へ向かう軸方向の力を凸部105に生じさせるように軸方向に対して傾くので、バネ119による軸方向の付勢力により、変速ギヤ(4速ギヤ40)からクラッチリング90を分離させ難くする軸方向の力を凸部105(クラッチリング90)に作用させることができる。よって、ギヤ抜けを防止できる。
変速機1は、被動ギヤ42から駆動ギヤ41へ動力が伝達されるコースト走行時に、第1壁74の第3部分79に凸部105が当接する。第3部分79は、第1部分77に連接され、ガイド部82と回転方向(周方向)に対向するので、凸部105は、ドライブ走行時にガイド部82に当接し、コースト走行時に第3部分79に当接する。よって、ドライブ走行とコースト走行との切り換えをスムーズにできる。
図10を参照して第2実施の形態について説明する。第1実施の形態では、第1歯95及び第2歯100の周方向の端面96,101及び駆動ギヤ41,51の歯106,107の周方向の端面に、歯先から歯元へ向かって傾斜する傾斜面を設け、その傾斜面同士の摩擦によってギヤ抜けを防止する場合について説明した。これに対し第2実施の形態では、ハブ130の溝部131にギヤ抜けを防止する部位を設ける場合について説明する。なお、第1実施の形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図10は第2実施の形態における変速機に用いられるハブ130の部分拡大図である。図10では、ハブ130の周方向の図示が省略されている。ハブ130は、第1実施の形態で説明した変速機1のハブ70に代えて配置される。
図10に示すようにハブ130は、第1軸2又は第2軸3(図1参照)に結合する円筒状の部材であり、軸方向に沿う溝部131が外周に形成されている。溝部131は、径方向へ向かって凹む部位であり、周方向へ間隔をあけて互いに対向する第1壁132及び第2壁133を備えている。第1壁132は、軸方向の外側から中央部78へ向かうにつれて周方向へ下降傾斜する第1部分77の軸方向の外側に連接される第1保持部134(第3部分)を備えている。
第1保持部134は、軸方向に対して交差する面であり、本実施の形態では、第1部分77と第3部分134との境界135から軸方向の外側へ向かうにつれて周方向へ(第2壁133から離れる方向へ)下降傾斜する。第1保持部134は、軸に平行であって第1部分77と第1保持部134との境界135を通る平面P1と第1保持部134とのなす角θ1が0°<θ1≦90°に設定される。θ1=90°は、平面P1に対して直交する壁状に第1保持部134が形成されることを示す。
第2壁133は、第2部分80の軸方向の外側に連接されると共に軸方向の外側へ向かうにつれて周方向へ(第1壁132から離れる方向へ)下降傾斜する第2保持部136を備えている。第2部分80及び第2保持部136は、軸方向に対する傾きが互いに異なる傾斜面である。軸に平行であって第2部分80と第2保持部136との境界137を通る平面P2と第2部分80とのなす角θ2は、平面P2と第2保持部136とのなす角θ3より大きく設定されている(θ2>θ3)。なす角θ3は0°<θ3<90°に設定される。また、第2部分80と第2保持部136との境界137の軸方向の位置は、第1部分77と第1保持部134との境界135の軸方向の位置より軸方向の内側(中央部78,81寄り)に設定されている。
ハブ130は、被動ギヤ42(図1参照)から駆動ギヤ41へ動力が伝達されるコースト走行時に(図5参照)、第1保持部134(境界135より軸方向の外側)に凸部105が当接する。第1保持部134は、平面P1に対して下降傾斜する傾斜面(θ1<90°)又は壁状の垂直面(θ1=90°)に形成されるので、コースト走行時(変速時以外)に凸部105が境界135を超えて第1部分77へ移動することを防止できる。その結果、クラッチリング90がニュートラル方向へ移動して駆動ギヤ41との噛み合いが外れるギヤ抜けを防止できる。特に、第1保持部134が平面P1に対して下降傾斜する傾斜面(θ1<90°)の場合には、コースティングトルクによって凸部105に駆動ギヤ41側へのスラスト力が作用するので、ギヤ抜けの抑制効果を高めることができる。
溝部131の加工に併せて第1壁132に第1保持部134を設けることでコースト走行時のギヤ抜けを防止できるので、ギヤ抜けを防ぐために駆動ギヤ41等の変速ギヤやクラッチリング90の歯(第1歯95及び第2歯100)に斜面を設ける等の加工を不要にできる。よって、コースト走行時のギヤ抜けを防ぎつつ部品(駆動ギヤ41やクラッチリング90等)の加工を簡素化できる。
ハブ130は、駆動ギヤ41から被動ギヤ42(図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時に(図6参照)、第2保持部136(境界137より軸方向の外側)に凸部105が当接する。第2保持部136は、平面P2に対して下降傾斜する傾斜面に形成されるので、ドライブ走行時(変速時以外)に凸部105が境界137を超えて第2部分80へ移動することを防止できる。その結果、クラッチリング90がニュートラル方向へ移動して駆動ギヤ41との噛み合いが外れるギヤ抜けを防止できる。第2保持部136は平面P2に対して下降傾斜する傾斜面(θ3<90°)なので、ドライブトルクによって凸部105に駆動ギヤ41側へのスラスト力が作用するので、ギヤ抜けの抑制効果を高めることができる。
溝部131の加工に併せて第2壁133に第2保持部136を設けることでドライブ走行時のギヤ抜けを防止できるので、ギヤ抜けを防ぐために駆動ギヤ41等の変速ギヤやクラッチリング90の歯(第1歯95及び第2歯100)に斜面を設ける等の加工を不要にできる。よって、ドライブ走行時のギヤ抜けを防ぎつつ部品(駆動ギヤ41やクラッチリング90等)の加工を簡素化できる。
ハブ130は、平面P2と第2部分80とのなす角θ2が、平面P2と第2保持部136とのなす角θ3より大きく設定されるので、ドライブ走行時(変速時以外)には、凸部105は、軸方向に対する傾きが変わる第2部分80と第2保持部136との境界137付近に主に当接する。ハブ130は、第2部分80と第2保持部136との境界137が、第1部分77と第1保持部134との境界より中央部78,81寄りに位置するように設けられる。その結果、ドライブ走行時に第2部分80と第2保持部136との境界137付近に当接する凸部105が回転方向(周方向)に移動すると、凸部105が第1部分77に当接する。これにより、低速段から高速段への変速時に、低速段の第1部分77に凸部105を沿わせて軸方向へクラッチリング90を押し出し易くできる。その結果、変速をスムーズにできる。
ハブ130が配置された変速機では、操作部110(図1参照)により変速ギヤ(駆動ギヤ41や被動ギヤ41等)の最も近くにクラッチリング90を移動させたときの凸部105の軸方向の位置が、第1保持部134の軸方向の位置と同一に設定される。駆動ギヤ41から被動ギヤ42へ動力を伝達するドライブ走行時に(図6参照)、操作部110のバネ119により、ニュートラル位置(第2位置)から噛み合い位置(第1位置)へ向かう軸方向(矢印B方向)の付勢力がクラッチリング90に付与される。第2部分133は、第2位置から第1位置へ向かう軸方向の力を凸部105に生じさせるように軸方向に対して傾くので、バネ119による軸方向の付勢力により、変速ギヤ(4速ギヤ40)からクラッチリング90を分離させ難くする軸方向の力を凸部105(クラッチリング90)に作用させることができる。よって、ギヤ抜けを生じ難くできる。
図11を参照して第3実施の形態について説明する。第2実施の形態では、ハブ130の第2壁133に第2部分80及び第2保持部136が設けられる場合について説明した。これに対し第3実施の形態では、第2部分143及び第2保持部145に加え、第2壁142にガイド部146が設けられる場合について説明する。なお、第1実施の形態および第2実施の形態で説明した部分と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。図11は第3実施の形態における変速機に用いられるハブ140の部分拡大図である。図11では、ハブ140の周方向の図示が省略されている。ハブ140は、第1実施の形態で説明した変速機1のハブ70に代えて配置される。
図11に示すようにハブ140は、第1軸2又は第2軸3(図1参照)に結合する円筒状の部材であり、軸方向に沿う溝部141が外周に形成されている。溝部141は、径方向へ向かって凹む部位であり、周方向へ間隔をあけて互いに対向する第1壁132及び第2壁142を備えている。
第2壁142は、軸方向の外側から中央部144へ向かうにつれて周方向へ(第1壁132に近づく方向へ)上昇傾斜する第2部分143と、第2部分143の軸方向の外側に連接されると共に軸方向の内側から外側へ向かうにつれて周方向へ(第1壁132から離れる方向へ)下降傾斜する第2保持部145と、第2保持部145の軸方向の外側に連接されると共に軸方向の外側へ向かって周方向へ上昇傾斜するガイド部146とを備えている。
第2部分143及び第2保持部145は、軸方向に対する傾きが互いに異なる傾斜面である。軸に平行であって第2部分143と第2保持部145との境界147を通る平面(図示せず)と第2部分143とのなす角は、該平面と第2保持部145とのなす角より大きく設定されている。該平面と第2保持部145とのなす角は0°〜90°に設定される。また、第2部分143と第2保持部145との境界147の軸方向の位置は、第1部分77と第1保持部134との境界135の軸方向の位置より軸方向の内側(中央部78,144寄り)に設定されている。第2保持部145とガイド部146との境界148の軸方向の位置は、第1部分77と第1保持部134との境界135の軸方向の位置と同一に設定される。
ハブ140は、被動ギヤ42(図1参照)から駆動ギヤ41へ動力が伝達されるコースト走行時に(図5参照)、第1保持部134に凸部105が当接し、駆動ギヤ41から被動ギヤ42(図1参照)へ動力が伝達されるドライブ走行時に(図6参照)、第1保持部134と対向するガイド部146に凸部105が当接する。ガイド部146は、第2保持部145へ向かって下降傾斜する傾斜面なので、凸部105に作用するスラスト力により、凸部105は境界148を超えて第2保持部145へ移動する。これにより、低速段から高速段への変速を待機状態にできるので、変速時のショックを抑制できる。
第2保持部145は、軸方向に対して傾く方向がガイド部146とは異なるので、ドライブ走行時(変速時以外)に凸部105が中央部144へ向かって移動することを防止できる。第2保持部136によりクラッチリング90と駆動ギヤ41(変速ギヤ)とが噛み合う方向のスラスト力が凸部105に作用するので、クラッチリング90がニュートラル方向へ移動して駆動ギヤ41との噛み合いが外れるギヤ抜けを防止できる。
溝部141の加工に併せて第2壁142に第2保持部145を設けることでドライブ走行時のギヤ抜けを防止でき、また第2壁142に加工時のガイド部146を形成するので、ギヤ抜け等を防ぐために駆動ギヤ41等の変速ギヤやクラッチリング90の歯(第1歯95及び第2歯100)に斜面を設ける等の加工を不要にできる。よって、ドライブ走行時のギヤ抜けを防ぎつつ部品(駆動ギヤ41やクラッチリング90等)の加工を簡素化できる。
以上、実施の形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変形が可能であることは容易に推察できるものである。例えば、変速機1の変速段の数、溝部73,131,141及び凸部105の数、第1歯95及び第2歯100の数等は適宜設定できる。
上記各実施の形態では、変速機1を自動車に搭載する場合について説明したが、これに限られるものではなく、建設機械、産業車両、農業機械等に変速機1を搭載することは当然可能である。この場合も変速機1により変速時のトルク切れを解消できる。その結果、第1軸2(駆動軸)の空回りをなくし燃費を改善できる。
上記各実施の形態では、ハブ70,130,140に溝部73,131,141が形成され、クラッチリング90に凸部105が設けられる場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。これとは逆に、ハブ70,130,140の外周面に凸部105を設け、クラッチリング90の内周面に溝部73,131,141を設けることは当然可能である。この場合も、凸部105に当接した溝部73,131,141の壁にスラスト力を作用させて、クラッチリング90を軸方向へ移動させることができるからである。
上記各実施の形態では、凸部105が円柱状(正面視が円形状)に形成される場合について説明したが、必ずしもこれに限られるものではない。溝部73,131,141の壁に凸部105が当接して軸方向の分力(スラスト力)を生じさせることができれば、四角柱等の多角柱状、四角錐等の多角錐状、円錐状等の円柱状以外の形に凸部105を形成することは当然可能である。
上記の各実施形態は、それぞれ、他の実施形態が有する構成の一部または複数部分を、その実施形態に追加し或いはその実施形態の構成の一部または複数部分と交換等することにより、その実施形態を変形して構成するようにしても良い。例えば、第2実施の形態で説明した第1保持部134を第1実施の形態におけるハブ70に設けること、第3実施の形態で説明した第2保持部145を第1実施の形態におけるハブ70に設けること等、適宜設定できる。