上記した特許文献1〜3の銅系摺動部材では、図4(a)に示すように、銅合金等の金属部がネットワークを形成し、固体潤滑剤が該金属部により取り囲まれた島状の形態で金属中に分散している。そして、往復摺動部に特許文献1〜3の銅系摺動部材を適用した場合、まず、往復摺動する相手部材の摺動方向が変化する瞬間には、相手部材の表面と銅系摺動部材の摺動面との相対速度が0となる。このとき、銅系摺動部材の摺動層は、相手部材から摺動層の厚さ方向に平行な負荷のみが加えられる。
次いで、図4(b)に示すように、相手部材の運動が開始する瞬間から動摩擦状態(銅系摺動部材の摺動面と相手部材との2面間で摺動(滑動)が起こる状態)に移行するまでの間には、銅系摺動部材の摺動層が相手部材の運動方向へ向かう負荷(摺動面に平行方向の力)により弾性変形し、2面間には摺動(滑動)が起こらない。この場合、銅系摺動部材の摺動面と相手部材との2面間に摺動(滑動)を起こすための力(起動力)には、摺動層の弾性変形に要する力も含まれる。そして、特許文献1〜3のように摺動層の銅合金がネットワークを形成した場合、図4(a)に示すように、変形が銅合金のネットワークの全体に伝播しやすいので、摺動層の弾性変形量が大きくなり、そのため起動力が大きくなる。換言すれば、銅系摺動部材の摺動面と相手部材との静摩擦係数が大きくなる。このため、銅系摺動部材の摺動面と相手部材との2面間で摺動(滑動)が起こる瞬間には、その2面間に大きな摩擦力が加わり、摺動層の表面に摩耗が起こりやすい。
本発明は、上記した事情に鑑みなされたものであり、その目的とするところは、相手部材との静摩擦係数が低く、往復摺動部での使用に好適な銅系摺動部材を提供することにある。
上記した目的を達成するために、請求項1に係る発明においては、鋼裏金の表面に、中間層を介し摺動面を有する摺動層を設けた銅系摺動部材であって、前記中間層は第一銅合金からなり、前記摺動層は第二銅合金と20〜40体積%の黒鉛とからなり、前記第一銅合金及び前記第二銅合金は各々がSnを1〜15質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなる銅系摺動部材において、前記摺動層は、前記黒鉛により取り囲まれた海島構造の形態で前記摺動層中に分散する島状銅合金相を含み、前記島状銅合金相は、前記摺動面に平行方向の長さが25〜500μmであるものを含み、前記摺動層に対する前記摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の割合は、5〜40体積%であり、前記中間層の厚さをt1、前記摺動層の厚さをt2としたとき、T=t1+t2で表される前記中間層と前記摺動層との厚さの和Tは、0.5〜1.0mmであり、R=t1/Tで表される中間層比率Rは、0.02〜0.4であることを特徴とする。
請求項2に係る発明においては、請求項1記載の銅系摺動部材において、前記鋼裏金のビッカース硬さをH0、前記中間層のビッカース硬さをH1、前記摺動層のビッカース硬さをH2としたとき、H1<H2+(H0−H2)×0.8、且つ、H1>H2+(H0−H2)×0.2を満たすことを特徴とする。
請求項3に係る発明においては、請求項1または請求項2記載の銅系摺動部材において、前記摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相は、前記摺動面に平行方向の長さxと前記摺動面に垂直方向の長さyとの比(x/y)で定義されるアスペクト比が1.2〜5であるものが50体積%以上であることを特徴とする。
請求項4に係る発明においては、請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の銅系摺動部材において、前記第二銅合金は、さらにNiを1〜15質量%、Pを0.01〜0.5質量%の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする。
請求項5に係る発明においては、請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の銅系摺動部材において、前記第二銅合金は、さらにPbとBiとの少なくとも1種以上を1〜10質量%含有することを特徴とする。
請求項6に係る発明においては、請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の銅系摺動部材において、前記第一銅合金は、さらにNiを1〜15質量%、Pを0.01〜0.5質量%の少なくとも1種以上を含有することを特徴とする。
請求項7に係る発明においては、請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の銅系摺動部材において、前記第一銅合金は、さらにPbとBiとの少なくとも1種以上を1〜10質量%含有することを特徴とする。
請求項1に係る発明においては、図1に示すように、摺動層は、黒鉛により取り囲まれた海島構造の形態で摺動層中に分散する島状銅合金相を含み、摺動層に対する摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の割合が5〜40体積%であることで、相手部材との静摩擦係数が低くなることを見出した。これは、以下のメカニズムによってなされていると推測される。
往復摺動部に本発明の銅系摺動部材を適用した場合、まず、往復摺動する相手部材の摺動方向が変化する瞬間には、相手部材の表面と銅系摺動部材の摺動面との相対速度が0となる。そして、相手部材の運動が開始する瞬間から動摩擦状態(銅系摺動部材の摺動面と相手部材との2面間で摺動(滑動)が起こる状態)に移行するまでの間には、銅系摺動部材の摺動層は相手部材の運動方向へ向かう負荷を受けるが、図1に示すように、島状銅合金相が周囲を黒鉛により取り込まれているため、黒鉛との界面ですべりが発生するので、島状銅合金相自身には僅かな弾性変形しか生じない。また、島状銅合金相に僅かな弾性変形を生じても、周囲の黒鉛に遮断されて、他の島状銅合金相及び島状銅合金相以外の形態の銅合金相(部分的にネットワークを形成した銅合金相)には伝播することがない。また、島状銅合金相以外の形態の銅合金相(部分的にネットワークを形成した銅合金相)の間に存在する島状銅合金相及びその周囲の黒鉛は、島状銅合金相以外の形態の銅合金相(部分的にネットワークを形成した銅合金相)の弾性変形が他の島状銅合金相以外の形態の銅合金相へ伝播することを抑制する。このため、摺動層の弾性変形量は小さくなり、摺動層に負荷される起動時の摩擦力が小さくなる。換言すれば、本発明の銅系摺動部材の摺動層は、相手部材との静摩擦係数が低くなる。
また、請求項1に係る発明においては、摺動層に対する摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の割合が5〜40体積%であるが、その島状銅合金相の割合が5体積%未満であると、摺動層の弾性変形量を小さくする効果が不十分となり、相手部材との静摩擦係数が高くなる。一方、その島状銅合金相の割合が40体積%を超える場合には、後述する二次焼結後の二次焼結層の強度が低くなりすぎるため、一次圧延時に二次焼結層が破壊され、本発明の銅系摺動部材を作製することができない。なお、銅系摺動部材の摺動層に含まれる島状銅合金相は、摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相だけでなく、摺動面に平行方向の長さが25μm未満の島状銅合金相、あるいは、長さが500μmを超える島状銅合金相を少量(摺動層に対して5体積%以下)含むようにしてもよい。
また、請求項1に係る発明においては、中間層の厚さをt1、摺動層の厚さをt2としたとき、T=t1+t2で表される中間層と摺動層との厚さの和Tが1.0mm以下であり、R=t1/Tで表される中間層比率Rが0.4以下であることで、相手部材との静摩擦係数が低くなる。
摺動層と中間層は、常に相手部材により摺動面に垂直な負荷を受けている。このため、起動時には、摺動層と中間層に対し、摺動面に平行方向の力と摺動面に垂直方向の力との合力が作用する。そして、中間層と摺動層との厚さの和Tは、1.0mm以下としているが、その厚さの和Tが1.0mmを超えると、この合力による摺動層と中間層の弾性変形量が大きくなるため、起動力が大きくなり、相手部材との静摩擦係数が高くなる。なお、中間層と摺動層との厚さの和Tは、0.5mm以上としているが、その厚さの和Tが0.5mm未満であると、摺動層と中間層の摩耗寿命が短くなる。
また、R=t1/Tで表される中間層比率Rは、0.4以下としているが、中間層比率Rが0.4を超えると、島状銅合金相を有する摺動層の割合が低くなりすぎるため、静摩擦係数を低くする効果が低下する。
また、R=t1/Tで表される中間層比率Rが0.02以上である理由について、以下に説明する。例えば、中間層比率Rが0、つまり中間層を設けなかった場合、摺動層の厚さを薄くすると、摺動層と鋼裏金との界面での破断が起こりやすくなる。摺動層と鋼裏金の弾性変形量は、変形する層の硬さが影響し、鋼裏金に対して軟らかい摺動層では弾性変形量が大きく、硬い鋼裏金では弾性変形量が小さくなる。このため、銅系摺動部材が相手部材からの力を受けると、摺動層と鋼裏金との界面では弾性変形量に差が生じ、その界面にせん断力が発生する。そして、摺動層の厚さを薄くすると、摺動面にかかる力が摺動層と鋼裏金との界面に伝播しやすくなり、その界面に発生するせん断力も大きくなる。このとき、摺動層の厚さが1.0mm以下である場合には、摺動層と鋼裏金との界面での破断が起こりやすくなる。
これに対し、R=t1/Tで表される中間層比率Rが0.02以上であると、摺動層と中間層との界面での破断が起こらなくなる。これは、摺動層と鋼裏金との間に、中間層比率Rが0.02以上となるように中間層を設けることで、銅系摺動部材が相手部材からの力を受けた際、摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差が緩和されるためである。なお、本発明の銅系摺動部材は、各層の硬さの関係が、鋼裏金>中間層>摺動層である。つまり、摺動層よりも硬く、鋼裏金よりも軟らかい中間層は、銅系摺動部材が相手部材からの力を受けた際の弾性変形量が、摺動層と鋼裏金との弾性変形量の間のものとなる。このため、中間層を設けなかった場合において摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差によるせん断力が発生する箇所が、摺動層と中間層との界面と、中間層と鋼裏金との界面との2箇所に分散され、また、それら界面に発生するせん断力は、中間層を設けなかった場合において摺動層と鋼裏金との界面に発生するせん断力よりも小さくなる。ただし、中間層比率Rが0.02未満であると、摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差を緩和する効果が十分ではなくなる。
なお、摺動層に対する島状銅合金相の体積割合は、直接、測定することは困難であるが、摺動面に垂直方向の摺動層の断面組織での摺動層の面積に対する島状合金相の面積の割合を測定することにより確認することができる。また、請求項1に係る発明において、島状銅合金相の摺動面に平行方向の長さとは、摺動面に垂直方向の摺動層の断面組織での島状銅合金相の摺動面に対する平行方向の長さである。
また、黒鉛は、潤滑成分として摺動層に含有させるが、さらに、黒鉛により取り囲まれた海島構造の形態で摺動層中に分散する島状銅合金相の形成にも関与する。摺動層中の黒鉛の含有量が20体積%未満であると、黒鉛により取り囲まれた形態で摺動層中に分散する島状銅合金相の形成が不十分になる。一方、摺動層中の黒鉛の含有量が40体積%を超えると、摺動層が脆くなる。
また、第一銅合金及び第二銅合金は、各々がSnを1〜15質量%含有する。Snは、第一銅合金及び第二銅合金の強度を高める効果があるが、Snの含有量が1質量%未満であると、その効果が不十分である。一方、Snの含有量が15質量%を超えると、第一銅合金及び第二銅合金が脆くなる。
また、中間層中の第一銅合金の成分は、Snを1〜15質量%含有し、残部が銅及び不可避不純物からなり、この成分の範囲であれば、中間層と摺動層や中間層と鋼裏金との接着が強くなる。
また、請求項2に係る発明においては、鋼裏金のビッカース硬さをH0、中間層のビッカース硬さをH1、摺動層のビッカース硬さをH2としたとき、H1<H2+(H0−H2)×0.8、且つ、H1>H2+(H0−H2)×0.2を満たすことで、中間層による摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差を緩和する効果がさらに高くなり、摺動層と中間層との界面での破断を防ぐ効果が高くなる。
前記したように、本発明の銅系摺動部材は、各層の硬さの関係が、鋼裏金>中間層>摺動層である。ここで、中間層と摺動層との硬さの差が小さすぎる場合には、中間層の弾性変形量が大きくなるため、相手部材との静摩擦係数が高くなる。一方、中間層と鋼裏金との硬さの差が小さすぎる場合には、中間層による摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差を緩和する効果が低くなる。このため、中間層の硬さは、摺動層と鋼裏金との硬さの中間となる硬さがもっともよい。
また、請求項3に係る発明においては、摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相は、摺動面に平行方向の長さxと摺動面に垂直方向の長さyとの比(x/y)で定義されるアスペクト比が1.2〜5であるものが50体積%以上であることで、銅系摺動部材と相手部材との静摩擦係数がより低くなることを見出した。これは、島状銅合金相の粒の形状が、摺動面に対して平行方向に若干、長い異方性をもっていることに起因する。すなわち、相手部材は、銅系摺動部材の摺動面に対して水平方向に往復摺動するため、島状銅合金相は、摺動面に対して平行方向に若干、長い形状であるほうが、島状銅合金相と黒鉛とのすべりが発生しやすい。このため、相手部材との静摩擦係数が低くなる。
また、請求項4に係る発明のように、第二銅合金は、さらにNiを1〜15質量%、Pを0.01〜0.5質量%の少なくとも1種以上を含有させてもよい。これらの元素を第二銅合金に含有させたとしても、摺動層中の島状銅合金相によって相手部材との静摩擦係数を低減する効果が十分に発揮される。
また、請求項5に係る発明のように、第二銅合金は、さらにPbとBiとの少なくとも1種以上を1〜10質量%含有させてもよい。Pb、Biは、潤滑成分であり、摺動層の動摩擦時の動摩擦係数を低くする効果があるが、PbとBiとの少なくとも1種以上の含有量が1質量%未満であると、その効果が不十分である。一方、PbとBiとの少なくとも1種以上の含有量が10質量%を超えると、摺動層が脆くなる。
また、請求項6に係る発明のように、第一銅合金は、さらにNiを1〜15質量%、Pを0.01〜0.5質量%の少なくとも1種以上を含有させてもよい。これらの元素を第一銅合金に含有させることで、中間層の硬さを調整することができる。
また、請求項7に係る発明のように、第一銅合金は、さらにPbとBiとの少なくとも1種以上を1〜10質量%を含有させてもよい。これらの元素を第一銅合金に含有させることで、中間層の硬さを調整することができる。
本実施形態に係る銅合金と黒鉛とからなる銅系摺動部材について、図2及び図3を参照して説明する。本実施形態に係る銅系摺動部材の製造工程は、粉末作製、粉末混合、一次散布、一次焼結、二次散布、二次焼結、一次圧延、三次焼結の順に行われる。まず、中間層用の銅合金粉末(第一銅合金粉末)として、ガスアトマイズ法にて、平均粒径d50が25〜75μmの銅合金粉末を作製する。なお、平均粒径d50は、レーザー回折・散乱方式を用いた粒度分布測定における累積体積50%の粒径を意味する。また、ガスアトマイズにて作製した粉末は、球形粉となる。
次に、摺動層用の銅合金粉末(第二銅合金粉末)として、水アトマイズ法にて、平均粒径d50が25μm〜50μmの銅合金粉末を作製する。また、水アトマイズにて作製した粉末は、異形粉(球形ではない形状の粉末)となる。
そして、上記第二銅合金粉末と、扁平形状である鱗片状黒鉛粉末(日本黒鉛工業(株)製)と、を一般的な混合機を用いて混合し、摺動層用の混合粉末を作製する。この鱗片状黒鉛粉末は、粒径が45〜75μmのものが黒鉛粉末全体の60質量%以上を占め、且つ、最大粒径が300μm以下である。なお、鱗片状黒鉛粉末の粒径は、篩を用いて測定する。また、鱗片状黒鉛粉末の粒径とは、扁平形状である粒子の最も長い部分の寸法である。このとき、第二銅合金粉末と鱗片状黒鉛粉末との混合粉末の空孔率(空孔率:1−AD/TD、AD:見掛密度(g/cm3)、TD:理論密度(g/cm3))は、60〜76%になる。
次に、帯鋼(鋼裏金)上に第一銅合金粉末を散布(一次散布)し、焼結(一次焼結)し、中間層付帯鋼を作製する。なお、鋼裏金は、炭素の含有量が0.05〜0.3質量%の炭素鋼を用いることができる。一次焼結時の焼結温度は、例えば、10質量%の錫を含有した第一銅合金粉末を焼結する場合、700〜740℃の焼結温度で焼結を行う。そして、第一銅合金粉末の加熱を開始して焼結温度になった後には、その焼結温度で2〜10分間保持し、その後冷却する。
次に、中間層付帯鋼上に前記摺動層用の混合粉末を散布(二次散布)し、二次散布層を形成する。二次散布工程の前には、ロール等を用いて中間層の表面を軽く平滑化してもよい。図2(a)に示すように、二次散布層の空孔率は、前記摺動層用の混合粉末の空孔率(60〜76%)が維持される。
二次散布工程の後、二次焼結工程を行う。二次焼結工程では、二次散布時の二次散布層の空孔率を維持するため、銅合金に液相が発生する温度(融点)よりも50℃以上低い焼結温度で焼結を行う必要がある。これにより、銅合金に液相が発生するのを防ぐことができる。二次焼結時の焼結温度は、一次焼結時と同様に、例えば、10質量%の錫を含有した第二銅合金粉末を焼結する場合、700〜740℃の焼結温度で焼結を行う。そして、第二銅合金粉末の加熱を開始して焼結温度になった後には、その焼結温度で2〜10分間保持し、その後冷却する。また、二次焼結工程では、収縮率(二次焼結時の収縮率:1−二次焼結層厚(mm)/二次散布層厚(mm))が3〜10%になるように焼結を行う。このように、二次焼結時の収縮率が3〜10%になるように焼結を行った場合には、図2(b)に示すように、二次焼結層の空孔率が55〜75%になる。なお、銅合金に液相が発生する焼結温度で焼結を行うと、二次焼結層の空孔率が低下してしまい、二次焼結時の収縮率が10%を超えるようになる。そして、二次焼結時の収縮率が10%を超えたときの二次焼結層の断面を測定すると、図3(b)に示す組織と同じように、銅合金粉末同士のネック形成が多くみられ、結果、二次焼結層(摺動層)中の島状銅合金相の形成量が少なくなる。一方、二次焼結時の収縮率が3%未満になると、二次焼結層の強度が低すぎて、後述する圧延時に二次焼結層が破壊されてしまう。
二次焼結工程の後、圧延機を用いて二次焼結層を緻密化する圧延工程(一次圧延)を行う。一次圧延前の二次焼結層の空孔率が55〜75%の場合(図2(b))には、一次圧延時の潰し代(一次圧延前に空孔を有する二次焼結層の厚さと、一次圧延後に空孔が無くなり緻密化された二次焼結層の厚さとの差)が多い。このため、図2(c)に示すように、一次圧延後に鱗片状黒鉛粉末の長軸の向きが揃う。また、二次焼結工程では、図2(b)に示すように、銅合金粉末同士のネック形成が少ないので、その後の一次圧延工程において、鱗片状黒鉛粉末が第二銅合金粉末同士の隙間に入り込み、鱗片状黒鉛粉末に囲まれた島状銅合金相が多く形成される。一方、二次散布層の空孔率が60%未満の場合(図3(a))には、二次焼結層の空孔率も低くなる。そして、一次圧延前の二次焼結層の空孔率が55%未満の場合には、図3(b)に示すように、圧延時の潰し代が少ない。このため、図3(c)に示すように、一次圧延後に鱗片状黒鉛粉末の長軸の向きが揃わない。また、二次焼結工程では、図3(b)に示すように、第二銅合金粉末同士のネック形成が多いので、その後の一次圧延工程において、鱗片状黒鉛粉末が第二銅合金粉末同士の隙間に入り込むことができず、鱗片状黒鉛粉末に囲まれた島状銅合金相はほとんど形成されない。
圧延工程(一次圧延工程)の後、三次焼結工程を行うが、この三次焼結工程では、一次、二次焼結工程と同様の条件で焼結し、必要に応じて二次圧延工程を行う。
第二銅合金粉末について、平均粒径d50が25μm未満のものを用いると、二次焼結後の二次焼結層の空孔率が75%より大きくなるため、二次焼結層の強度が低くなり、一次圧延時に二次焼結層が破壊される。一方、第二銅合金粉末の平均粒径d50が50μmを超えると、二次焼結後の二次焼結層の空孔率が55%より小さくなるため、鱗片状黒鉛粉末に囲まれた島状銅合金相はほとんど形成されない。
図2(c)に示すように、二次焼結後の二次焼結層の空孔率が55〜75%であり、一次圧延時の潰し代が多い場合には、鱗片状黒鉛の粉末の長軸の向きが揃うが、粒径の小さい鱗片状黒鉛粉末を用いると、粒径の大きい鱗片状黒鉛粉末に比べて、長軸の向きが揃いにくい。このため、鱗片状黒鉛粉末の粒径が小さくなるほど、鱗片状黒鉛粉末に囲まれた島状銅合金相の形成への寄与が小さい。また、摺動層に含まれる鱗片状黒鉛の量を一定とするならば、鱗片状黒鉛粉末の粒径が大きくなるほどその粉末の個数が減り、鱗片状黒鉛粉末に囲まれた島状銅合金相は形成されにくくなる。このように、鱗片状黒鉛の粒径が小さすぎる場合や、大きすぎる場合のいずれも、鱗片状黒鉛粉末によって囲まれた島状銅合金相は形成されにくくなる。具体的には、粒径が45μm未満の鱗片状黒鉛粉末は、鱗片状黒鉛粉末によって囲まれた島状銅合金相の形成への寄与が小さく、粒径が75μmを超えた鱗片状黒鉛粉末も、鱗片状黒鉛粉末によって囲まれた島状銅合金相の形成への寄与が小さい。したがって、粒径が45〜75μmの範囲にあるものを60%以上含む鱗片状黒鉛粉末を用いなければ、鱗片状黒鉛粉末によって囲まれた島状銅合金相は形成されない。また、上記のような理由から、最大粒径が300μmを超える鱗片状黒鉛粉末が含まれる場合にも、鱗片状黒鉛粉末によって囲まれた島状銅合金相は形成されにくくなる。
次に、本実施形態に係る実施例1〜26及び比較例1〜12を作製し、その銅合金相の形態を測定すると共に、往復摺動試験を行った。実施例1〜26及び比較例1〜12の成分、各層のビッカース硬度、中間層と摺動層との厚さの和T、中間層比率R、使用した第二銅合金粉末、黒鉛の特性、焼結層の空孔率と収縮率、銅合金相の形態、往復摺動試験での静摩擦係数の測定結果を、表1に示す。
中間層の厚さは、摺動面に垂直な断面から測定した。具体的には、断面組織写真上で、鋼裏金と中間層との界面と、摺動層に含まれる複数の黒鉛との距離をそれぞれ測定し、この測定された距離の中で、最も小さい値を中間層の厚さとした。また、摺動層の厚さは、中間層の厚さと摺動層の厚さとの和から中間層の厚さを引いて算出した。また、鋼裏金、中間層、摺動層の各層の硬さは、マイクロビッカース硬度計を用いて、摺動面に垂直な断面から100gの荷重で測定した。この結果は、表1の「ビッカース硬度(HV)」欄に示す。
銅系摺動部材の断面測定は、摺動面の垂直方向に切断し、2.3mm×0.7mmの範囲で組成像(倍率:50倍)を撮影した。また、得られた組成像を、一般的な画像解析手法(解析ソフト:Image−Pro Plus(Version4.5);(株)プラネトロン製)を用いて摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の面積の和を測定し、摺動層全体の面積から、摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の占める割合を算出した。また、この面積の割合は、6視野(6つの異なる任意の断面)の組成像を用いて、その平均を求めた。この結果は、表1の「25〜500μmの島状銅合金相(体積%)」欄に示す。
また、アスペクト比は、得られた組成像を上記解析ソフトを用いて、摺動層の厚さ方向の長さをY軸とし、それに対して垂直方向の長さをX軸とした場合の各島状銅合金相のY軸方向の長さ(y)とX軸方向の長さ(x)を測定し、それら各長さの比(x/y)を算出して求めた。その中からアスペクト比が1.2〜5のものの面積の和を測定し、摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の全体の面積から、アスペクト比が1.2〜5である島状銅合金相の占める割合を算出した。この結果は、表1の「アスペクト比:1.2〜5(体積%)」欄に示す。
また、往復摺動試験は、表2に示す条件で実施した。静摩擦係数の測定方法は、摺動方向が変化した直後の摩擦係数を測定し、これを4時間繰り返し、その平均値を求めた。また、往復摺動試験での摩擦係数の測定は、摺動方向の変化時の摩擦係数のピークを、静摩擦係数として測定している。また、試験時間は4時間であるが、摩耗量が50μmを超えた場合、異常摩耗と判断し、試験を終了した。
実施例1〜26は、中間層用の第一銅合金粉末として、ガスアトマイズ法を用いて平均粒径d50が45μmの球形粉を、表1の成分となるように作製した。Sn、Ni、P、Pb、Biの成分は、合金化され第一銅合金粉末に含まれている。そして、帯鋼(鋼裏金)上に作製した第一銅合金粉末を散布して第一散布層を形成し、700〜740℃の焼結温度で一次焼結を行い、一次焼結層を形成し、中間層付帯鋼を作製した。
次いで、実施例1〜11、19〜26は、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が35μmの異形状の第二銅合金粉末と、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが80質量%を占め、且つ、最大粒径が106〜150μmの範囲にある鱗片状黒鉛粉末と、を表1の成分となるように一般的な混合機を用いて混合し、混合粉末を作製した。Sn、Ni、P、Pb、Biの成分は、合金化され第二銅合金粉末に含まれている。そして、中間層付帯鋼上に摺動層用の混合粉末を散布して散布層を形成し、一次焼結時と同様に、700〜740℃の焼結温度で二次焼結を行い、二次焼結層を形成した。次に、二次焼結層を緻密化する圧延および700〜740℃の焼結温度での三次焼結を行い、銅系摺動部材を作製した。
なお、表1の「中間層+摺動層の厚さT(mm)」欄には、中間層と摺動層との厚さの和(合計)を示し、「中間層比率R」欄には、中間層と摺動層との厚さの和(合計)に対する中間層の厚さの比率を示し、「黒鉛45〜75μm(質量%)」欄には、原材料である鱗片状黒鉛粉末のうち、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが占める質量割合を示す。また、二次焼結層に関して、「散布層の空孔率(%)」欄には、二次散布層の空孔率を示し、「収縮率(%)」欄には、二次焼結工程での収縮率(収縮率:1−二次焼結後の二次焼結層厚(mm)/二次散布層厚(mm))を示し、「焼結層の空孔率(%)」欄には、二次焼結後の二次焼結層の空孔率を示す。
実施例12は、第二銅合金粉末として、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が50μmの異形状の銅合金粉末を用い、また、鱗片状黒鉛粉末として、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが60質量%を占め、且つ、最大粒径が106〜150μmの範囲にある鱗片状黒鉛粉末を用い、混合粉末における鱗片状黒鉛粉末の割合を20体積%とし、これ以外は実施例1と同様に作製した。
実施例13,14は、第二銅合金粉末として、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が25μmの異形状の銅合金粉末を用い、また、鱗片状黒鉛粉末として、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが95質量%を占め、且つ、最大粒径が106〜150μmの範囲にある鱗片状黒鉛粉末を用い、混合粉末における鱗片状黒鉛粉末の割合を40体積%とし、これ以外は実施例1と同様に作製した。
実施例15は、第二銅合金粉末として、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が50μmの異形状の銅合金粉末を用い、実施例16は、第二銅合金粉末として、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が25μmの異形状の銅合金粉末を用い、これ以外は実施例1と同様に作製した。
実施例17は、鱗片状黒鉛粉末として、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが98質量%を占め、且つ、最大粒径が106〜150μmの範囲にある鱗片状黒鉛粉末を用い、実施例18は、鱗片状黒鉛粉末として、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが60質量%を占め、且つ、最大粒径が106〜150μmの範囲にある鱗片状黒鉛粉末を用い、これ以外は実施例1と同様に作製した。
実施例1〜26は、中間層と摺動層との厚さの和Tが0.5〜1.0mm、且つ、中間層比率Rが0.02〜0.4であり、摺動層に対する摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の割合が5〜40体積%形成され、静摩擦係数が低い結果となった。
実施例1〜11,13〜26は、二次焼結層の空孔率(二次散布層の空孔率)が高くなるように制御することで、摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相が多く形成されている。特に、実施例13,14は、二次焼結層の空孔率(散布層の空孔率)が高くなるように制御することで、摺動層に対する摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の割合が約40体積%ともっとも多く形成されている。このような実施例13,14では、摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相のうち、アスペクト比が1.2〜5のものが50体積%以上と多く、特に静摩擦係数が低い結果となった。
一方、実施例12は、二次焼結層の空孔率(二次散布層の空孔率)を制御し、摺動層に対する摺動面に平行方向の長さが25〜500μmである島状銅合金相の割合が5体積%となるように作製したが、静摩擦係数が低い結果となった。
実施例2は、中間層と摺動層との厚さの和Tが1.0mmと厚くなるように作製し、実施例3は、中間層と摺動層との厚さの和Tが0.5mmと薄くなるように作製したが、いずれも静摩擦係数が低い結果となった。また、実施例3は、中間層と摺動層との厚さの和Tを0.5mmと薄くしたが、中間層と摺動層との界面での破断が起こらなかった。
実施例4は、中間層比率Rが0.40と高くなるように作製し、実施例5は、中間層比率Rが0.02と低くなるように作製したが、いずれも静摩擦係数が低い結果となった。また、実施例5は、中間層比率Rが0.02と低くしたが、中間層と摺動層との界面での破断が起こらなかった。
実施例6は、摺動層中の黒鉛含有量が40体積%と多くなるように作製し、実施例7は、摺動層中の黒鉛含有量が20体積%と少なくなるように作製したが、いずれも静摩擦係数が低い結果となった。
実施例8は、中間層の第一銅合金のSn含有量が15質量%と多くなるように作製し、実施例9は、中間層の第一銅合金のSn含有量が1質量%と少なくなるように作製したが、いずれも静摩擦係数が低い結果となった。また、実施例8,9は、中間層の第一銅合金にSnを含有させたが、鋼裏金や摺動層との界面での破断が起こらなかった。
実施例10は、摺動層の第二銅合金のSn含有量が15質量%と多くなるように作製し、実施例11は、摺動層の第二銅合金のSn含有量が1質量%と少なくなるように作製したが、いずれも静摩擦係数が低い結果となった。また、実施例10,11は、摺動層の第二銅合金にSnを含有させたが、中間層との界面での破断が起こらなかった。
実施例15は、第二銅合金粉末の平均粒径d50が50μmと大きいものを用い、実施例16は、第二銅合金粉末の平均粒径d50が25μmと小さいものを用いたが、いずれも摺動層中に島状合金相が形成され、静摩擦係数が低い結果となった。
実施例17は、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが98質量%を占めるようにした鱗片状黒鉛粉末を用い、実施例18は、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが60質量%を占めるようにした鱗片状黒鉛粉末を用いたが、いずれも摺動層中に島状合金相が形成され、静摩擦係数が低い結果となった。
実施例19,20は、中間層の第一銅合金の成分を変化させて中間層の硬さが最も高くなるようにし、実施例21,22は、中間層の第一銅合金の成分を変化させて中間層の硬さが最も低くなるようにしたが、いずれも各層の硬さの関係が、鋼裏金>中間層>摺動層を満たし、静摩擦係数が低い結果となった。また、これら実施例は、鋼裏金や摺動層との界面での破断が起こらなかった。
実施例20、22〜25は、摺動層の第二銅合金の成分を変化させたが、いずれも静摩擦係数が低い結果となった。また、これら実施例は、中間層との界面での破断が起こらなかった。
実施例26は、実施例1と同様に作製したが、粉末混合工程で、同時に硬質粒子(Mo2C)も添加し混合した。硬質粒子の成分量は、表1になるように添加した。硬質粒子を添加しても、実施例1と同じ結果が得られた。
比較例1は、中間層を設けず、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例1は、中間層がないので、中間層による摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差を緩和する効果がなく、試験中に摺動層と鋼裏金との界面での破断が起こったため、試験を中止した。
比較例2は、中間層と摺動層との厚さの和Tを1.2mmとし、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例2は、中間層と摺動層との厚さの和Tが1.2mmと厚いので、中間層と摺動層の弾性変形量が大きくなり、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例3は、中間層比率Rを0.5とし、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例3は、中間層比率Rが0.5と高いので、島状銅合金相を有する摺動層の厚さの割合が低くなり、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例4は、中間層比率Rを0.01とし、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例4は、中間層比率Rが0.01と低いので、摺動層と鋼裏金との弾性変形量の差を緩和する効果が不十分であり、試験中に鋼裏金や摺動層と中間層との界面での破断が起こったため、試験を中止した。
比較例5は、実施例1と同じ鱗片状黒鉛粉末を用い、摺動層中の黒鉛含有量を45体積%とし、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例5は、摺動層中の黒鉛含有量が45%と多いため、摺動層が脆くなり、異常摩耗で試験を中止した。
比較例6は、実施例1と同じ鱗片状黒鉛粉末を用い、摺動層中の黒鉛含有量を15体積%とし、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例6は、摺動層中の黒鉛含有量が15体積%と少ないため、鱗片状黒鉛粉末によって銅合金が囲まれる割合が低くなった。このため、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相がほとんど形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例7は、第二銅合金粉末として、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が55μmの異形状の銅合金粉末を用い、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例7は、第二銅合金粉末の平均粒径d50が55μmと大きいため、第二散布層の空孔率が低くなってしまい、第二焼結層の空孔率も低くなった。このため、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相がほとんど形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例8は、鱗片状黒鉛粉末として、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが50質量%を占め、且つ、75〜300μmの範囲にあるものが50質量%を占める鱗片状黒鉛粉末を用い、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例8は、粒径が45〜75μmの範囲にある鱗片状黒鉛を50質量%しか含まないために、鱗片状黒鉛粉末の個数が少なく、鱗片状黒鉛の粉末によって銅合金が囲まれにくい。このため、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相がほとんど形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例9は、第二銅合金粉末として、ガスアトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が35μmの銅合金粉末を用い、これ以外は実施例1と同様に作製した。ガスアトマイズ法を用いて銅合金粉末を作製した場合、その粉末は球形状となる。この比較例9は、球形状の銅合金粉末を用いたため、二次散布層の空孔率が低くなってしまい、二次焼結層の空孔率も低くなった。このため、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相がほとんど形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例10は、二次焼結温度を、銅合金の一部が液相になる850℃で焼結を行い、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例10は、二次散布層の空孔率が67%であったが、二次焼結時に銅合金の液相が発生し、二次焼結層の空孔率が51%に低下した。このため、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相がほとんど形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例11は、第二銅合金粉末として銅粉末と錫粉末の混合粉末を用い、これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例11は、二次焼結時の昇温過程で、まず、錫粉末が液相となり、錫の液相により銅粉末の一部が液相化され、二次焼結層の空孔率が51%に低下した。このため、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相がほとんど形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。
比較例12は、摺動層中に島状銅合金相が形成されない従来の条件で摺動部材を作製した。具体的には、鱗片状黒鉛粉末として、粒径が45〜75μmの範囲にあるものが40質量%を占め、且つ、粒径が75〜300μmの範囲にあるものが60質量%を占める鱗片状黒鉛粉末を用い、第二銅合金粉末として、水アトマイズ法を用いて作製した平均粒径d50が70μmの銅合金粉末を用い、これらを混合した粉末を用いた。これ以外は実施例1と同様に作製した。この比較例12は、摺動層中に黒鉛に囲まれた島状銅合金相が形成されず、静摩擦係数が実施例1よりも高い結果となった。