JP6583503B2 - 新規なグルコースデヒドロゲナーゼ - Google Patents

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Description

本発明は、グルコース濃度を測定する試薬及びグルコースセンサに利用することのできるグルコースデヒドロゲナーゼに関する。また、該酵素の製造方法、並びに該酵素を用いたグルコース定量用組成物及びグルコースセンサに関する。
フラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC1.1.99.10、以下グルコースデヒドロゲナーゼをGDH、またFAD依存型グルコースデヒドロゲナーゼをFAD−GDHとも記す)は、主に血中グルコース濃度測定に用いられる酵素であり、以下の反応を触媒する。
D−グルコース + 電子受容体(酸化型)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + 電子受容体(還元型)
このような血中グルコース定量用酵素としては、他にグルコースオキシダーゼが知られているが、本酵素は分子状酸素を電子受容体としうるため、グルコース濃度を測定する際に溶存酸素濃度の影響を受けるという問題点が指摘されている。グルコースデヒドロゲナーゼは、このような溶存酸素の影響がないことから、近年のグルコースセンサ用酵素の主流となっている。GDHには、FAD依存型のほかにピロロキノリンキノン(PQQ)依存型、NAD(P)依存型が存在する。アシネトバクター・バウマンニ由来のものに代表されるPQQ依存型GDHは、マルトースに対してもグルコースと同等の反応性を有しているなど、基質特異性に問題がある。また、NAD(P)依存型GDHとしては例えばバチルス・スブチリス由来、バチルス・メガテリウム由来、サーモプロテウス・エスピー由来のもの等が知られており、PQQ依存型GDHと比して基質特異性はより厳密であるが、補酵素であるNAD(P)を別途添加しなければならないため、グルコース定量試薬やセンサーを作製する際のコスト高や品質管理上の煩雑さがあり、必ずしも有用とはいえなかった。その点、アスペルギスル属由来に代表されるFAD−GDHは、補酵素結合型であり、かつ基質特異性も高いため近年重宝されている。
ところで、グルコースセンサを作製するにあたっては、GDH溶液を反応層上に蒸発乾固させる工程を踏む。ここで、50℃ないしはそれ以上の温度で加温することにより、蒸発乾固の効率を高め、製造の効率化を図ることが少なくない。かかる加温処理は製造の効率化に有効である一方、一般的にタンパク質は熱による変性が起こることが知られており、特に熱安定性の低い酵素ではそのリスクが高くなる。
また作製後のセンサストリップは、通常においては室温程度の温度で最長2年の保証期間を設ける場合が多い。但し、グルコースセンサを使用する一般ユーザーにおいてはセンサストリップを保管する際に厳密な温度管理を行うことはまれであり、特に夏場において35℃以上、あるいは時に40℃を超える現状を踏まえれば、酵素自身の高い安定性が望まれることは想像に難くない。熱安定性に優れる酵素は、一般にその立体構造が安定であり、過酷な条件での長期保存により適しているといえる。
これまでに知られるFAD−GDHとしては、例えばペニシリウム属由来(特許文献1)、アスペルギルス属由来(特許文献2、3など)、ムコール属由来(特許文献4、5など)等が知られている。これら酵素はいずれも水溶液中での耐熱性の上限が50℃ないし55℃程度であり、十分とはいえなかった。また、特許文献6、7にはタンパク質工学的にFAD−GDHの熱安定性を向上させた例が記載される。しかしながら、タンパク質工学的な改変による安定性向上には限界があり、元の野生型の安定性の高さが重要となる。
上記特許文献に記載されるどの酵素も、60℃ないし65℃の熱処理に耐えるものではなく、安定性の面でいまだ改善の余地があった。
米国特許7871805号 特許第4494978号 特許第4292486号 特許第4648993号 WO2013/118798 特許第4348563号 WO2012/169512
本発明の目的は、グルコースセンサを作製する工程並びに作製後の保存状態において高い安定性を有するFAD−GDHを提供することである。
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を行った結果、従来知られているFAD−GDHよりも高い熱安定性を有する新規FAD−GDHを見出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
項1.
以下(A)〜(E)の特性を有するフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
(A)作用:電子受容体存在下でD−グルコースを酸化し、D−グルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
(B)分子量:タンパク質のポリペプチド鎖部分について、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が65000
(C)熱安定性:60℃15分処理後の残存活性が85%以上、かつ65℃15分処理後の残存活性が50%以上、かつ70℃15分処理後の残存活性が10%以上。
(D)至適反応pH:7.0
(E)基質特異性:
D−グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性が2%以下であり、かつ、
D−グルコースに対する反応性を100%としたときのD−ガラクトースに対する反応性が2%以下であり、かつ、
D−グルコースに対する反応性を100%としたときのD−キシロースに対する反応性が10%以下である。
項2.
以下(A)〜(C)の特性を有するフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
(A)アミノ酸配列:配列番号3に示すアミノ酸配列との同一性が78%以上である。
(B)作用:電子受容体存在下でD−グルコースを酸化し、D−グルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
(C)熱安定性:60℃15分処理後の残存活性が85%以上、かつ65℃15分処理後の残存活性が50%以上、かつ70℃15分処理後の残存活性が10%以上。
項3.
アスペルギルス属糸状菌由来である、項1または2に記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
項4.
アスペルギルス属糸状菌がアスペルギルス・エスピーRD009469株である、項3に記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
項5.
項1〜4のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを生産する微生物を栄養培地にて培養し、グルコース脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、項1〜4のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
項6.
項1〜4のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコースアッセイキット。
項7.
項1〜4のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコースセンサー。
項8.
項1〜4のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコース定量法。
本発明により、熱安定性が高く、グルコースセンサの製造中あるいは製造後において失活のリスクの低いグルコースデヒドロゲナーゼが提供可能である。
アスペルギルス・エスピー・RD009469株由来FAD−GDHの各処理温度における活性残存率を示す。 アスペルギルス・エスピー・RD009469株由来FAD−GDHの各pHにおける相対活性を示す。 実施例1で得られた精製FAD−GDH溶液のSDS−PAGEゲル写真を示す。
(1)FAD−GDH
本発明の実施形態の一つは、以下(A)〜(E)の特性を有するフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(FAD−GDH)である。
(A)作用:電子受容体存在下でD−グルコースを酸化し、D−グルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
(B)分子量:タンパク質のポリペプチド鎖部分について、SDS−ポリアクリルアミド電気泳動による分子量が65000
(C)熱安定性:60℃15分処理後の残存活性が85%以上、かつ65℃15分処理後の残存活性が50%以上、かつ70℃15分処理後の残存活性が10%以上。
(D)至適反応pH:7.0
(E)基質特異性:
D−グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性が2%以下であり、かつ、
D−グルコースに対する反応性を100%としたときのD−ガラクトースに対する反応性が2%以下であり、かつ、
D−グルコースに対する反応性を100%としたときのD−キシロースに対する反応性が10%以下である。
AD−GDHの酵素活性は、後述の「FAD−GDH活性測定法」に記載の方法により測定する。
(1−1)熱安定性
本明細書において、熱安定性は、0.1Mのリン酸カリウムバッファー(pH6.0)に2U/mlのGDHが含まれる状態で15分間の加温処理をした後も維持される活性で評価される。
本発明のFAD−GDHは、60℃で15分加温した際の活性残存率が85%以上であり、好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上である。
また、本発明のFAD−GDHは、65℃で15分の加温処理後の活性残存率が50%以上であり、好ましくは60%以上であり、さらに好ましくは70%以上である
さらに、本発明のFAD−GDHは、70℃15分処理後の残存活性率が10%以上であり、好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上である。
(1−2)基質特異性
本明細書において、基質特異性は、後述の「基質特異性の評価方法」に従って評価される。
本発明のFAD−GDHは、D−グルコースに対する反応性を100%としたときのマルトースに対する反応性が2%以下であり、好ましくは1%以下である。
また、本発明のFAD−GDHは、D−グルコースに対する反応性を100%としたときのD−ガラクトースに対する反応性が2%以下であり、好ましくは1%以下である。
さらに、本発明のFAD−GDHは、D−グルコースに対する反応性を100%としたときのD−キシロースに対する反応性が10%以下であり、好ましくは5%以下である。
(1−3)分子量
本明細書において、「タンパク質のポリペプチド鎖部分の分子量」は、エンドグルコシダーゼHによって糖鎖部分を除去(より厳密には、前記の糖鎖部分除去後には、元々糖鎖が付加されていたポリペプチド鎖上のアスパラギン残基にN−アセチルグルコサミン1個が残存する。)した後にSDS−PAGEを行うことによって推定される分子量である。
本発明のFAD−GDHのタンパク質のポリペプチド鎖部分の分子量はおおよそ65000である。
SDS−PAGEで測定した場合には通常60−70kDaである。「60−70kDa」とは、SDS−PAGEで分子量を測定した際に、当業者が、通常60kDaから70kDaの間の位置にバンドがあると判断する範囲を含むことを意味する。
SDS−PAGEでの分子量の測定は、一般的な手法及び装置を用い、市販される分子量マーカーを用いて行うことができる。
(1−4)至適反応pH
本明細書において、至適反応pHは以下の手順で評価される。
後述の「FAD−GDH活性測定法」に記載の反応液組成における、0.1mol/LのHEPESに代えて、pH5.0〜9.0の範囲でさまざまなpHの測定液を作製する。
次いで、前記各測定液を用いて、前記活性測定法の手順に従って、各pHにおけるFAD−GDH活性を測定する。
そして、その結果を基に、最も高い活性を示した条件における活性値を100として、各pHにおける相対活性値を算出する。
本発明のFAD−GDHの至適反応pHは、7.0である。
また、別の観点から本発明の好ましい実施形態の一つは、以下(A)〜(C)の特性を有するFAD−GDHである。
(A)アミノ酸配列:配列番号3に示すアミノ酸配列との同一性が78%以上である。
(B)作用:電子受容体存在下でD−グルコースを酸化し、D−グルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
(C)熱安定性:60℃15分処理後の残存活性が85%以上、かつ65℃15分処理後の残存活性が50%以上、かつ70℃15分処理後の残存活性が10%以上。
(1−5)アミノ酸配列
本発明のFAD−GDHのアミノ酸配列は、前記(B)の作用および(C)の熱安定性を有する限りにおいて、配列番号3に示すアミノ酸配列との同一性が78%以上であり、好ましくは85%以上であり、さらに好ましくは90%以上であり、さらに好ましくは95%以上であり、さらに好ましくは98%以上であり、さらに好ましくは99%以上であり、もっとも好ましくは100%(配列番号3と同一)である。
また、別の観点から本発明のFAD−GDHのアミノ酸配列は、前記(B)の作用および(C)の熱安定性を有する限りにおいて、配列番号3に示すアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなるものであっても良い。
配列番号3で示されるアミノ酸配列とは、後述の実施例で示されるとおり、Aspergillus sp. RD009469に由来するFAD−GDHのアミノ酸配列である。
アミノ酸配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムBLAST(Basic local alignment search tool)http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/においてデフォルト(初期設定)のパラメータを用いることにより、アミノ酸配列の同一性を算出する。
また、前記FAD−GDHを構成するポリペプチドは、シグナルペプチド部分を欠失していてもよい。SignalP 4.1を用いた推定によれば、配列番号3に示すアミノ酸配列のうち、1番目から16番目までがシグナル配列と予想される。したがって、この部分を欠失することは酵素特性に不都合な影響をもたらさないと推察される。
(1−6)由来
上述の本発明のFAD−GDHにおいて、由来は特に限定しないが、好ましくは糸状菌であり、より好ましくはアスペルギルス属であり、最も好ましくはアスペルギルス・エスピーRD009469株として独立行政法人製品評価技術基盤機構が保有している菌株である。
(2)FAD−GDHの製造方法
本発明の他の実施形態の一つは、前記のFAD−GDHを生産する微生物を栄養培地にて培養し、グルコース脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、前記のFAD−GDHの製造方法である。
本発明のFAD−GDHを製造するにあたっては、前記の本発明のGDHの由来菌株を培養することにより実施可能であるが、本発明のFAD−GDHをコードするDNAを取得し、これを適当な宿主に形質転換することによって得られる形質転換体を培養することもできる。
本発明のFAD−GDHをコードするDNAを発現可能なプラスミドの作製方法としては、例えば本発明のFAD−GDHの由来菌株を培養し、得られる菌体よりゲノムDNAを抽出するかもしくは全RNAを抽出し、定法に従ってcDNAライブラリを作製する。
ゲノムDNAであれば例えばインバースPCRの方法により、またcDNAライブラリであれば5‘−RACEおよび3’−RACEにより末端配列を決定し、遺伝子全長をクローニング可能である。このようにして得られる、FAD−GDHをコードするDNA配列として最も好ましい例は、配列番号2に示す塩基配列である。
(2−1)FAD−GDHをコードするDNA
本発明のFAD−GDHをコードするDNA配列としては、前記の、
(a)配列番号2に示す塩基配列
のほかに、以下の(b)〜(f)が例示できる。
(b)配列番号3に示されるアミノ酸配列をコードするDNA;
(c)配列番号2に示される塩基配列との相同性が80%以上である塩基配列をからなり、且つ、FAD−GDH活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(d)配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAを含み、且つFAD−GDH活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(e)配列番号2に示される塩基配列において、一若しくは数個の塩基が置換、欠失、挿入、付加及び/又は逆位されている塩基配列であり、FAD−GDH活性を有するポリペプチドをコードするDNA;
(f)配列番号3に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸残基が置換、欠失、挿入および/または付加したアミノ酸配列からなり、且つ、FAD−GDH活性を有するポリペプチドをコードするDNA。
本書において「タンパク質をコードするDNA」とは、それを発現させた場合に当該タンパク質が得られるDNA、即ち、当該タンパク質のアミノ酸配列に対応する塩基配列を有するDNAのことをいう。従ってコドンの縮重によって相違するDNAも含まれる。
本発明のDNAは、それがコードするアミノ酸配列を有するタンパク質が、FAD−GDH活性を備える限り、配列番号2に示される塩基配列との相同性が80%以上、好ましくは85%以上、さらに好ましくは88%以上、さらに好ましくは90%以上、さらに好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上、さらに好ましくは98%以上、さらに好ましくは99%以上である塩基配列を有する。
塩基配列の同一性を算出する方法としては、種々の方法が知られている。例えば、市販の又は電気通信回線(インターネット)を通じて利用可能な解析ツールを用いて算出することができる。
本明細書では、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)の相同性アルゴリズムAdvanced BLAST 2.1において、プログラムにblastnを用い、各種パラメータはデフォルト値に設定して検索を行うことにより、ヌクレオチド配列の相同性の値(%)を算出する。
本発明のDNAは、それがコードするタンパク質がFAD−GDH活性を有する限り、配列番号2に示される塩基配列に相補的な塩基配列に対してストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAであっても良い。
本明細書では、「ストリンジェントな条件」とは、以下に示す条件を言う。
ハイブリダイゼーション液として50%ホルムアミド、5×SSC(0.15M NaCl, 15mM sodium citrate, pH 7.0)、1×Denhardt溶液、1%SDS、10%デキストラン硫酸、10μg/mLの変性サケ精子DNA、50mMリン酸バッファー(pH7.5))を65℃で用いる。
このような条件でハイブリダイズするDNAの中には途中にストップコドンが発生したものや、活性中心の変異により活性を失ったものも含まれ得るが、それらについては、市販の活性発現ベクターに組み込み、適当な宿主で発現させて、酵素活性を公知の手法で測定することによって容易に取り除くことができる。
また、本発明のFAD−GDH生産に用いるDNAの入手方法としては、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法を利用して接続することにより、本発明のFAD−GDHの全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成もしくはPCR法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該遺伝子を導入する宿主に合わせて使用コドンを遺伝子全長にわたり設計できる点にある。同一のアミノ酸をコードする複数のコドンは均一に使用されるわけではなく、生物種によってその使用頻度が異なる。一般にある生物種において高発現する遺伝子に含まれるコドンは、その生物種において使用頻度の高いコドンを多く含んでおり、逆に発現量の低い遺伝子は使用頻度の低いコドンの存在がボトルネックとなって高発現を妨げている例が少なくない。異種遺伝子の発現に際し、その遺伝子配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに置換することで該異種タンパク質発現量が増大した例はこれまでに多数報告されており、このような使用コドンの改変は異種遺伝子発現量の増大に効果があると期待される。
上記の理由から、本発明のFAD−GDHをコードするDNAは、それが導入される宿主細胞により適したコドン(即ち、該宿主において使用頻度の高いコドン)に改変することが望ましい。各宿主のコドン使用頻度は、該宿主生物のゲノム配列上に存在する全遺伝子における各コドンの使用される割合で定義され、たとえば1000コドンあたりの使用回数で表される。またコドン使用頻度は、その全ゲノム配列の解明されていない生物にあっては代表的な複数遺伝子の配列から近似的に算出することも可能である。組換えようとする宿主生物におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(財)かずさDNA研究所のホームページ(http://www.kazusa.or.jp)に公開されている遺伝暗号使用頻度データベースを用いることができ、または各生物におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよく、あるいは使用する宿主生物のコドン使用頻度データを自ら決定してもよい。入手したデータと導入しようとする遺伝子配列を参照し、遺伝子配列に用いられているコドンの中で宿主生物において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに置換すればよい。このような使用頻度の高いコドンとしては、例えば宿主が大腸菌K12株である場合にあっては、GlyにはGGTまたはGGC、GluにはGAA、AspにはGAT、ValにはGTG、AlaにはGCG、ArgにはCGTまたはCGC、SerにはAGC、LysにはAAA、IleにはATTまたはATC、ThrにはACC、LeuにはCTG、GlnにはCAG、ProにはCCGなどが挙げられる。
(2−2)宿主−ベクター系
本発明のFAD−GDHをコードするDNAは、組換えベクターに接続した状態で形質転換される。本発明の組換えベクターは原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるものが好ましく選択され、プラスミドベクターやウイルスベクター等が包含される。当該組換えベクターは、簡便には当該技術分野において入手可能な公知のクローニングベクターまたは発現ベクターに、上記のFAD−GDHをコードするDNAを適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより調製することができる。また、Taqポリメラーゼのように増幅末端に一塩基を付加するようなDNAポリメラーゼを用いて増幅作製した遺伝子断片であれば、TAクローニングによるベクターへの接続も可能である。または宿主細胞のゲノムDNA中にDNAを導入する場合にあっては、必ずしも宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるベクターである必要はなく、本発明のGDHをコードする遺伝子、祝す細胞で作動可能なプロモーター、及び形質転換体を選択するためのマーカー遺伝子を少なくとも有し、宿主細胞に固有の遺伝子組換えシステムを利用するかまたはゲノムDNA中に遺伝子を挿入するために必要なエンドヌクレアーゼ遺伝子等と共に宿主細胞に導入し、所望のDNAが挿入された形質転換体を選抜すればよい。
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpBR322、pBR325、pUC18、pUC19など、酵母由来プラスミドとして、例えばpSH19、pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして、例えばpUB110、pTP5、pC194などが挙げられる。また、ウイルスとして、λファージなどのバクテリオファージや、SV40、ウシパピローマウイルス(BPV)等のパポバウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)等のレトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニヤウイルス、バキュロウイルスなどの動物および昆虫のウイルスが例示される。
特に、本発明は、目的の宿主細胞内で機能的なプロモーターの制御下にFAD−GDHをコードするDNAが配置されたFAD−GDH発現ベクターを提供する。使用されるベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で機能して、その下流に配置された遺伝子の転写を制御し得るプロモーター領域(例えば宿主が大腸菌の場合、trpプロモーター、lacプロモーター、lecAプロモーター等、宿主が枯草菌の場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等、宿主が酵母の場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、宿主が哺乳動物細胞の場合、SV40由来初期プロモーター、MoMuLV由来ロングターミナルリピート、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター)と、該遺伝子の転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有し、該プロモーター領域と該ターミネーター領域とが、少なくとも1つの制限酵素認識部位、好ましくは該ベクターをその箇所のみで切断するユニークな制限部位を含む配列を介して連結されたものであれば特に制限はないが、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有していることが好ましい。さらに、挿入されるGDHをコードするDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。
宿主細胞として細菌を用いる場合、一般に発現ベクターは上記のプロモーター領域およびターミネーター領域に加えて、宿主細胞内で自律複製し得る複製可能単位を含む必要がある。また、プロモーター領域は、プロモーターの近傍にオペレーターおよびShine−Dalgarno(SD)配列を包含する。
宿主として酵母,動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、発現ベクターは、エンハンサー配列、GDH mRNAの5’側および3’側の非翻訳領域、ポリアデニレーション部位等をさらに含むことが好ましい。
(2−3)FAD−GDHの製造
本発明のFAD−GDHは、上記のようにして調製されるFAD−GDH発現ベクターを含む形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物からGDHを回収することによって製造することができる。
使用される培地は、宿主細胞(本発明のFAD−GDHの由来生物もしくは形質転換体)の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース,デキストラン,可溶性デンプン,ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素〔例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム),ビタミン類,抗生物質(例えばテトラサイクリン,ネオマイシン,アンピシリン,カナマイシン等)など〕を含んでいてもよい。
培養は当分野において知られている方法により行われる。下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されるものではない。
宿主が細菌,放線菌,酵母,糸状菌等である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜9である培地である。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地[Miller. J., Exp. Mol. Genet, p.431, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1972)]等が例示される。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常14〜43℃で約3〜72時間行うことができる。宿主が枯草菌の場合、必要により通気・攪拌をしながら、通常30〜40℃で約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母の場合、培地として、例えばBurkholder最少培地 [Bostian. K.L. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980)]が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が動物細胞の場合、培地として、例えば約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)[Virology, 8, 396 (1959)]、RPMI1640培地[J. Am. Med. Assoc., 199, 519 (1967)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)] 等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が昆虫細胞の場合、培地として、例えばウシ胎仔血清を含むGrace’s培地[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 8404 (1985)]等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
GDHの精製は、GDH活性の存在する画分に応じて、通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。
培養物の培地中に存在するGDHは、培養物を遠心または濾過して培養上清(濾液)を得、該培養上清から、例えば、塩析、溶媒沈澱、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性PAGE、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことにより得ることができる。
一方、細胞質に存在するGDHは、培養物を遠心または濾過して細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解、浸透圧ショック、および/またはトライトン−X100等の界面活性剤処理などにより、細胞およびオルガネラ膜を破砕(溶解)した後、遠心分離や濾過などによりデブリスを除去して可溶性画分を得、該可溶性画分を、上記と同様の方法で処理することにより単離精製することができる。
組換えGDHを迅速且つ簡便に取得する手段として、GDHのコード配列のある部分(好ましくはNまたはC末端)に、金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列(例えば、ヒスチジン、アルギニン、リシン等の塩基性アミノ酸からなる配列、好ましくはヒスチジンからなる配列)(いわゆる「タグ」)をコードするDNA配列を、遺伝子操作により付加して宿主細胞で発現させ、該細胞の培養物のGDH活性画分から、該金属イオンキレートを固定化した担体とのアフィニティーによりGDHを分離回収する方法が好ましく例示される。
金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列をコードするDNA配列は、例えば、GDHをコードするDNAをクローニングする過程で、GDHのC末端アミノ酸配列をコードする塩基配列に該DNA配列を連結したハイブリッドプライマーを用いてPCR増幅を行ったり、あるいは該DNA配列を終止コドンの前に含む発現ベクターにGDHをコードするDNAをインフレームで挿入することにより、GDHコード配列に導入することができる。また、精製に使用される金属イオンキレート吸着体は、遷移金属、例えばコバルト、銅、ニッケル、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等、好ましくはコバルトまたはニッケルの二価イオン含有溶液を、リガンド、例えばイミノジ酢酸(IDA)基、ニトリロトリ酢酸(NTA)基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)基等を付着したマトリックスと接触させて該リガンドに結合させることにより調製される。キレート吸着体のマトリックス部は通常の不溶性担体であれば特に限定されない。
あるいは、タグとしてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、HA、FLAGペプチドなどを用いてアフィニティー精製することもできる。
上記精製工程において、必要に応じて膜濃縮、減圧濃縮、活性化剤および安定化剤添加等の処理を行うこともできる。特に本GDHは耐熱性に優れているため、他の宿主細胞由来夾雑タンパク質を熱変性せしめ、かつGDH活性を保持しうる範囲での加温処理が、大幅なGDH純度向上に有効である。これら工程に用いる溶媒としては特に限定されないが、pH6〜9程度の範囲において緩衝能を有するK−リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、GOODの緩衝液等に代表される各種緩衝液が好ましい。
かくして得られるGDHが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該タンパク質が塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
また、該GDHを含む溶液または組成物に対して安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX−100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース、マンニトール等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを適宜添加してもよい。
精製酵素は液状で産業利用に供することも可能であるが、粉末化し、あるいはさらに造粒することもできる。液状酵素の粉末化は定法により凍結乾燥することでなされる。
さらに、本発明のGDHは、それをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞タンパク質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。本発明のGDHをコードするRNAは、本発明のGDHをコードするcDNAの取得方法において上記した、本発明のGDHをコードするmRNAを常法を用いて該RNAを発現する宿主細胞から精製するか、あるいは、GDHをコードするDNAを鋳型とし、RNAポリメラーゼを含む無細胞転写系を用いてcRNAを調製することによって取得することができる。無細胞タンパク質転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には、大腸菌抽出液はPratt J.M. et al., ”Transcription and Tranlation”, Hames B.D. and Higgins S.J. eds., IRL Press, Oxford 179−209 (1984) に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system (Promega社製) やRTS 500 Rapid Tranlation System (Roche社製) 等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System (Promega社製) 等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製) 等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B. et al., Nature, 179: 160−161 (1957) あるいはErickson A.H. et al., Meth. Enzymol., 96: 38−50 (1996) 等に記載の方法を用いることができる。
化学合成によるGDHの製造は、例えば、配列番号2に示すアミノ酸配列、すなわち本発明のGDHのアミノ酸配列を基にして、配列の全部または一部をペプチド合成機を用いて合成することにより行うことができる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明のGDHを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を含む場合は保護基を脱離することにより、目的とするタンパク質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. Bodanszkyand M.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966)
(2) Schroeder and Luebke, The Peptide, Academic Press, NewYork(1965)
このようにして得られた本発明のGDHは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるGDHが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にタンパク質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
(3)グルコースの測定方法等
本発明の別の実施形態は、上記の特性を有する本発明のFAD−GDHの用途である。用途としては、グルコースの測定方法が例示でき、血糖値の測定や食品(調味料や飲料など)中のグルコース濃度の測定などに好適に利用できる。
また、本発明のさらに別の実施形態は、グルコースアッセイキットやグルコースセンサーなど、上記の特性を有する本発明のFAD−GDHを含む、グルコースを測定するための種々のプロダクトである。
FAD−GDHを用いたグルコースの測定方法は既に当該技術分野において確立されている。よって、公知の方法に従い、本発明のFAD−GDHを用いて、各種試料中のグルコースの量又は濃度を測定することができる。本発明のFAD−GDHを用いてグルコースの濃度又は量が測定可能である限り、その態様は特に制限されない。
(3−1)グルコース測定用試薬
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、本発明のGDH、緩衝液、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。また好ましくはメディエーターなど測定に必要な試薬を含む。また、GDHを含む試薬中には、安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX−100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース、マンニトール等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを適宜添加してもよい。
(3−2)グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、典型的には、本発明のGDH、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。また、GDHを含む試薬中には、安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX−100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを適宜添加してもよい。
(3−3)グルコースセンサ
本発明のグルコースセンサは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上にGDHを固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、NADもしくはNADPといった補酵素、あるいは電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。使用する電子メディエーターとしては、GDHの補酵素であるFADから電子を受け取り、発色物質や電極に電子を供与しうるものが挙げられ、たとえばフェリシアン化物塩、フェナジンエトサルフェート、フェナジンメトサルフェート、フェニレンジアミン、N,N,N’,N’−テトラメチルフェニレンジアミン、1−メトキシ−フェナジンメトサルフェート、2,6−ジクロロフェノールインドフェノール、2,5−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,6−ジメチル−1,4−ベンゾキノン、2,5−ジクロロ−1,4−ベンゾキノン、ニトロソアニリン、フェロセン誘導体、オスミウム錯体、ルテニウム錯体等が例示されるが、これらに限定されない。また、電極上のGDH組成物中には、安定化剤及び/又は活性化剤としてウシ血清アルブミン、セリシン等のタンパク質、TritonX−100、Tween20、コール酸塩、デオキシコール酸塩などの界面活性剤、グリシン、セリン、グルタミン酸、グルタミン、アスパラギン酸、アスパラギン、グリシルグリシン等のアミノ酸、トレハロース、イノシトール、ソルビトール、キシリトール、グリセロール、スクロース等の糖及び/又は糖アルコール類、塩化ナトリウム、塩化カリウム等の無機塩類、さらにはプルラン、デキストラン、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリグルタミン酸などの親水性ポリマーを含んでもよい。
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液、GDH、メディエーターとして2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)を含む反応液を入れ、一定温度に維持する。そこにグルコースを含む試料を加え、一定温度で一定時間反応させる。この間、600nmにおける吸光度の減少をモニタリングすることでグルコースの定量が可能である。また、メディエーターとしてphenazine methosulfate (PMS)を、さらに発色試薬としてnitrotetrazorium blue (NTB)を加え、570nm吸光度を測定することにより生成するジホルマザンの量を決定し、グルコース濃度を算出することが可能である。いうまでもなく使用するメディエーターおよび発色試薬はこれらに限定されない。
またグルコース濃度の測定は、以下のようにしても行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、GDH、および必要に応じてメディエーターを加えて一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
(4)測定方法等
(4−1)FAD−GDH活性測定法
本明細書において、FAD−GDH活性測定は特に断りのない限り、以下の方法に従って行われる。
反応液(0.1mol/L HEPES、200mmol/L D−グルコース、0.55mmol/L DCPIP、pH6.5)2.9mLを石英セルにいれ、37℃で5分間予備加温する。そしてGDH溶液0.1mLを加えて混和し、37℃で5分反応させ、この間700nm吸光度を測定する。吸光度変化の直線部分から1分間あたりの吸光度の上昇度(ΔODTEST)を算出する。盲検は、GDH溶液の代わりに緩衝液を加えて混和し、同様に37℃5分インキュベートして700nm吸光度を記録し、1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を算出する。これらの値を以下の式に当てはめて活性値(U/mL)を算出する。なおここでは、基質存在下で1分間に1マイクロモルのDCPIPを還元する酵素量を1Uと定義する。

GDH活性(U/mL)=[(ΔODTEST−ΔODBLANK)×3.0×希釈倍率]/(4.5×1.0×0.1)

なお、ここで
3.0 :GDH溶液混和後の容量(mL)
4.5 :DCPIPのミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)
1.0 :光路長(cm)
0.1 :添加するGDH溶液の液量(mL)
である。
(4−2)タンパク質の定量および比活性の算出例
本発明に述べるタンパク質量は280nmの吸光度を測定することにより測定したものである。すなわち、280nmにおける吸光度が0.1〜1.0の範囲となるように酵素溶液を蒸留水で希釈し、蒸留水を用いてゼロ点補正を行った吸光度計を用いて280nmの吸光度(Abs)を測定する。本発明に述べるタンパク質濃度は、1Abs≒1mg/mlと近似し、吸光度の測定と測定した溶液の希釈倍率とを乗じた値で示したものである。また、本発明に述べる比活性とは、本測定方法によるタンパク質量として1mgあたりのGDHの活性(U/mg)であり、この際のGDH活性は、上記活性測定例に従って測定することにより得られる値である。
(4−3)グルコースに対するミカエリス定数(Km)の算出例
本発明に述べる基質に対するミカエリス定数(Km)の算出方法は、以下の測定方法により行う。すなわち、測定溶液として上述の活性測定例に記載の反応液組成におけるD−グルコースの濃度を200mmol/L、 160mmol/L、120mmol/L、80mmol/L、40mmol/LLとした5種類の反応液を作製し、それぞれの測定溶液を用いて上述の活性測定例の方法に従いGDH溶液(上述の活性測定例における活性値が0.8U/mlとなるよう調整した溶液)のΔOD(ΔODTEST−ΔODBLANK)を測定する。それら測定値をもとにLineweaver−Burkプロット法(両逆数プロット法)に従ってミカエリス定数(Km)を算出する
(4−4)基質特異性の評価方法
本明細書において、基質特異性の評価は、以下の方法により行う。すなわち、測定溶液として上述の「FAD−GDH活性測定法」に記載の反応液組成におけるD−グルコースに換えて、他の糖類(例えばマルトース、ガラクトース、キシロースなど)を200mmol/L含む反応液をそれぞれ作製し、これらを用いて「FAD−GDH活性測定法」に従って活性値を測定する。これら反応液を用いた活性値を、グルコースを基質とした場合の活性値で割った値を、各基質に対する反応性(対グルコース%)として算出する。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
アスペルギルス・エスピーRD009469株からのGDHの取得
アスペルギルス・エスピーRD009469株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構より貸与を受けた。この菌株をまずはME寒天培地(2%マルトエキス、0.1%ペプトン、0.1%リン酸1カリウム、2%グルコース、1.5%アガロース、pH6.0)に植菌し、25℃で培養することにより菌糸をプレート一面に生育させた。この菌糸を生育させたアガロース全量をプレートからかき出し、100mlの滅菌水に懸濁した。10L容ジャーファーメンターに6LのYM培地(3%酵母エキス、3%マルトース、0.05%アデカノール)に懸濁した寒天を投入し、25℃で65時間通気攪拌培養した。培養終了後、培地上清のGDH活性を測定したところ、0.2U/mlの活性が検出された。この培養液をろ紙によりろ過して菌体を除去したのち、1Lあたり300gの硫酸アンモニウムを添加し、完全に溶解させた後、20%水酸化ナトリウム溶液を加えてpHを6.0に調整した。この液を、同じ濃度の硫酸アンモニウムを含む50mMのリン酸カリウム緩衝液(pH6.0)で緩衝化した200mlのPhenyl−sepharose(GEヘルスケア製)充填カラムに通液しGDHを吸着させた。さらに硫酸アンモニウム濃度を0まで低下させたグラジエント溶出によりGDHを溶出させ、GDH活性を有する画分を集めた。さらに分子量10,000カットの限外ろ過膜を用い、透過液が透明になるまで50mMリン酸カリウムバッファー(pH6.0)を加えつつ限外ろ過を行った。最後に300mM塩化ナトリウムを含む50mMリン酸カリウムバッファー(pH6.0)で緩衝化したSuperdex200カラム(560ml、GEヘルスケア製)を用いてゲルろ過を行うことにより、精製GDHを得た。得られた精製GDHの比活性はおおよそ180U/mgであった。
<実施例2>
GDHの熱安定性
実施例1で得られたGDHについて、50mMリン酸カリウムバッファー(pH6.0)を用いてGDH濃度2U/mlとなるよう希釈し、それぞれの溶液について40℃〜70℃までの範囲で5℃刻みの各温度で15分加温処理を行い、加温後におけるGDH活性の加温前のGDH活性に対する比率(活性残存率)を調べた。結果を図1に示す。本GDHの加温後の活性残存率は、60℃で94.5%、65℃で78.8%、70℃で48.6%であった。
<実施例3>
GDH活性値のpH依存性
実施例1で得られたGDHについて、次のようにGDH活性値のpH依存性を調べた。活性測定例に示す組成のうち、0.1mol/LのHEPESに代えて各種バッファーを使用し、pH5.0〜9.0の範囲でさまざまなpHの測定液を作製した。使用したバッファー種は、酢酸ナトリウム(pH5.0〜5.5)、MES−NaOH(pH5.5〜6.5)、リン酸カリウム(pH6.0〜8.0)、トリス塩酸(pH7.0〜9.0)であり、測定液中におけるバッファー濃度はすべて70mMである。それぞれの測定液を用い、上述の活性測定例の手順に従って各pHにおけるGDH活性を測定した。最も高い活性を示した条件における活性値を100として、各pHにおける相対活性値を算出した(図2)。至適反応pHは、おおよそ7.0であった。
<実施例4>
GDHの基質特異性
実施例1で得られたGDHについて、基質特異性を調べた。方法は上述の基質特異性の評価例に従うが、使用する基質としてマルトース、ガラクトース、キシロースに加えて、さらに2−デオキシグルコース、フルクトース、スクロース、マンノース、アラビノース、グリセロール、メレジトールについても同様に反応性(対グルコース%)を測定した。結果を表1に示す。マルトース、ガラクトースに対しては対グルコース比1%未満、またキシロースに対しては対グルコース比5%未満であり、本発明のGDHは良好な基質特異性を有していることが確認された。
<実施例5>
GDHの基質に対するミカエリス定数
実施例1で得られたGDHについて、基質に対するミカエリス定数(Km)を上述の算出例に従って求めた。結果、本発明のGDHのD−グルコースに対するミカエリス定数は、52.2mMであった。
<実施例6>
SDS−PAGEおよびペプチド質量分析による分子量の推定
実施例1で得られたGDHについて、まずエンドグリコシダーゼH(NEW ENGLAND BioLabs製Endo H)を用いて糖鎖を切断し、定法に従いSDS−PAGEを行った(図3)。主に65kDaおよび55kDaにそれぞれ濃いバンドが見られたため、それぞれのバンドをゲルから切り出し、トリプシンで消化させた後LC/MS/MS解析による消化断片の分子量測定、およびMASCOT解析によるタンパク質の同定を行った。結果、65kDaのバンドから得られるペプチドが既知のFAD依存型GMCオキシドレダクターゼ様タンパク質と高いヒット率を示し、このバンドがすなわちGDHであると推定した。
<実施例7>
GDHのアミノ酸配列の推定
実施例6でえられるSDS−PAGEのみかけの分子量65kDaのバンドについて、バンドの切り出しおよび脱水処理ののち、トリプシンを含む溶液を浸透させて1晩消化させ、産物をSDS−PAGEに供し、セミドライ法によるPVDF膜への転写およびCBB染色を行った。出現したバンドのいくつかについてエドマン分析によりN末端アミノ酸配列を決定し、得られた配列よりディジェネレートプライマーを設計してcDNAをテンプレートにPCRを行い、GDH遺伝子の部分断片を得た。この遺伝子部分断片を東洋紡製TAクローニングキット(TArget Clone−Plus−)を用いてプラスミドpTA2にクローニングし、その塩基配列を解析した。得られた部分塩基配列を配列番号1に示す。さらにこの部分配列情報を元に、定法に従って5‘−RACEおよび3’−RACEを行い、最終的に配列番号2に示す、本発明のGDHをコードする塩基配列全長を決定した。この配列から推定される本発明のGDHのアミノ酸配列を配列番号3に示す。この配列についてデータベース上の配列との相同性検索を行ったところ、Aspergillus terreus NIH2624由来hypothetical protein ATEG_08295(シーケンスID:XP_001216916.1)が最も同一性が高く77%、ついでAspergillus kawachii IFO4308由来のGlucose oxidaseとアノテーションされている配列(シーケンスID:GAA92291.1)が63%の同一性であり、本発明のGDHは新規な酵素であるといえる。また、上記アミノ酸配列から計算上推定されるポリペプチド鎖の分子量は64600であり、実施例6に示すSDS−PAGEの結果とほぼ一致する。
本発明により製造したグルコースデヒドロゲナーゼは、血糖値測定用試薬、血糖センサー並びにグルコース定量キットの原料としての供給が可能である。

Claims (11)

  1. 以下(A)〜(C)の特性を有するフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
    (A)アミノ酸配列:配列番号3に示すアミノ酸配列との同一性が90%以上である。
    (B)作用:電子受容体存在下でD−グルコースを酸化し、D−グルコノ−δ−ラクトンを生成する反応を触媒する。
    (C)熱安定性:60℃15分処理後の残存活性が85%以上、かつ65℃15分処理後の残存活性が50%以上、かつ70℃15分処理後の残存活性が10%以上。
  2. アスペルギルス属糸状菌由来である、請求項1に記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
  3. アスペルギルス属糸状菌がアスペルギルス・エスピーRD009469株である、請求項2に記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼ。
  4. 請求項1〜3のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを生産するアスペルギルス属糸状菌を栄養培地にて培養し、グルコース脱水素酵素活性を有するタンパク質を採取することを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
  5. 請求項1〜3のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNA。
  6. 請求項5に記載のDNAを含む組換えベクター。
  7. 請求項6に記載の組換えベクターを含む形質転換体。
  8. 請求項7に記載の形質転換体を培養した培養物からフラビン結合型グルコース脱水素酵素を精製すること、を含む請求項1〜3のいずれかに記載のフラビン結合型グルコース脱水素酵素の製造方法。
  9. 請求項1〜3のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコースアッセイキット。
  10. 請求項1〜3のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコースセンサー。
  11. 請求項1〜3のいずれかに記載のフラビンアデニンジヌクレオチド依存型グルコースデヒドロゲナーゼを含むグルコース定量法。
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