JP5641738B2 - 新規なグルコースデヒドロゲナーゼ - Google Patents

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Description

本発明は、グルコース濃度を測定する試薬及びグルコースセンサに利用することのできる新規なグルコースデヒドロゲナーゼに関する。また、該酵素の製造方法、並びに該酵素を用いたグルコース定量用組成物及びグルコースセンサに関する。
NAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.47、以下グルコースデヒドロゲナーゼをGDH、またNAD(P)依存型グルコースデヒドロゲナーゼをNAD(P)−GDHとも記す)は、主に血中グルコース濃度測定に用いられる酵素であり、以下の反応を触媒する。
D−グルコース + NAD(P)
→ D−グルコノ−δ−ラクトン + NAD(P)H
このような血中グルコース測定用酵素としては、他にグルコースオキシダーゼが知られているが、本酵素は分子状酸素を電子受容体として利用しうるため、グルコース濃度を測定する際に溶存酸素濃度の影響を受けるという問題点が指摘されている。グルコースデヒドロゲナーゼは、このような溶存酸素の影響がないことから、近年の血糖センサ用酵素の主流となっている。GDHには、NAD(P)依存型のほかにピロロキノリンキノン(PQQ)依存型、フラビン依存型が存在する。アシネトバクター・バウマンニ由来のものに代表されるPQQ依存型GDHは、マルトースに対してもグルコースと同等の反応性を有しているなど、基質特異性に問題がある。また、フラビン依存型GDHとしては例えばアスペルギルス・テレウス由来のものが知られており、PQQ依存型GDHと比して基質特異性はより厳密であるが、しかしながらキシロースに対して対グルコース比約9%の反応性を有していて、必ずしも十分な基質特異性とはいえない。また、温度安定性としても50℃程度を限度としており、十分ではない。
公知のNAD(P)−GDHとしては、バチルス(Bacillus)属バクテリア由来のものが良く知られ、例えばバチルス・スブチリス(Bacillus subtilis)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、バチルス・セレウス(Bacillus cereus)などがGDH産生菌として報告されている。これらのバクテリア由来NAD(P)−GDHは、基質特異性としては比較的良好である反面、熱安定性としては50℃前後を限度としており、十分な安定性を有しているとはいえない。
超好熱性始原菌(hyperthermophilic archaea)は、系統的にArcheaeに分類される微生物であって、90℃以上で生育可能であるかもしくは80℃以上の至適生育温度を有する生物を指す。こうした超好熱性始原菌に由来する酵素は、一般的に高い耐熱性を有しており、数々の耐熱性酵素が超好熱性始原菌より単離されて産業利用されている。NAD(P)−GDHについても超好熱性始原菌より単離されており、特性が調べられている。1986年にはスルフォロバス・ソルファタリカス(Sulforobus solfataricus)由来(非特許文献1)、1989年にはサーモプラズマ・アシドフィラム(Thermoplasma acidophilum)由来(非特許文献2)、また1997年にはサーモプロテウス・テナックス(Thermoproteus tenax)由来(非特許文献3)のGDHがそれぞれ報告されている。これら酵素は耐熱性に優れている一方で、バクテリア由来のものと比して基質特異性が劣るという問題点を含んでいる。S.ソルファタリカス由来のGDHについては、NADPを補酵素とした場合では基質特異性がブロードになり、基質濃度40mmol/Lにおいてグルコースよりもガラクトースやキシロースに対する活性のほうが高い。NADを補酵素とした場合ではグルコースに対する特異性が比較的高まるものの、依然キシロースに対する活性が対グルコース比26%程度と高い。またT.アシドフィラム由来GDHは、NADPを補酵素とした際にガラクトースに対して活性を示し、対グルコース比70%にも及ぶ。さらにT.テナックス由来GDHの場合もキシロースに対して高い反応性を示す。血中グルコース濃度を測定するにあたって、使用するGDHの基質特異性が低くグルコース以外の物質に反応するということはすなわち血糖値測定の正確性を損なう結果となり、極めて不都合である。しかしながらこれまで、超好熱性始原菌に由来し、80℃以上の温度に耐えうる高い耐熱性を有していてかつグルコースに対する特異性の高いNAD(P)−GDHの存在は知られていなかった。
Giardina P et al. (1986) Biochem. J. Vol.239 p517−522 Smith LD et al. (1989) Biochem. J. Vol.261 p793−797 Siebers B et al. (1997) Arch. Microbiol. Vol.168 p120−127
したがって、本発明の目的は、80℃以上の熱安定性を有する極めて安定な酵素であって、かつグルコース以外の糖類に対して実質的に作用しないグルコースデヒドロゲナーゼを提供することであり、また該酵素の製造方法並びに該酵素を用いたグルコース定量用組成物を提供することである。
本発明者らは、鹿児島県小宝島の温泉水よりサーモプロテウス(Thermoproteus)属に属する超好熱性始原菌を単離し、本菌がGDHを産生することを発見した。そして該GDHは熱安定性に優れるのみならず、公知の超好熱性始原菌由来GDHと異なり極めて高い基質特異性を有していること見出した。さらに発明者らは、このGDHをコードする遺伝子をクローニングし、大腸菌に導入して発現せしめることに成功した。さらに該酵素を用いてグルコース濃度の測定が可能であることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は以下のような構成からなる。
項1: マルトース、ガラクトース、及びキシロースのいずれに対しても対グルコース比3%未満の反応性を有し、かつ80℃以上の温度安定性を有するグルコースデヒドロゲナーゼ。
項2: さらに、グルコースを酸化する反応においてニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)もしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とする、項1に記載のグルコースデヒドロゲナーゼ。
項3: 超好熱性始原菌に由来し、次の(A)〜(F)に示す特性を有するグルコースデヒドロゲナーゼ:
(A)温度安定性:90℃以下
(B)pH安定性:4.8〜9.7
(C)至適反応温度:85℃
(D)至適pH:9.7
(E)補酵素:ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)もしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とする。
(F)基質特異性:補酵素としてNADPを用いた場合、キシロース及びマルトースに対して対グルコース比2%以上3%未満、ガラクトース及びマンノースに対して対グルコース比1%以上2%未満の活性を示し、ラクトース、ソルビトール及びスクロースに対しては実質的に反応せず、補酵素としてNADを用いた場合、キシロース、マルトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、ソルビトール及びスクロースに対して実質的に反応しない。
項4: 配列番号2に示すアミノ酸配列を有するグルコースデヒドロゲナーゼ。
項5: 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1もしくは数個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、且つ配列番号2に示すアミノ酸配列を有するグルコースデヒドロゲナーゼと実質的に同一の活性を有するグルコースデヒドロゲナーゼ。
項6: 項1〜5のいずれかに記載するグルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNA。
項7: 項6に記載するDNAを、該DNAを導入する宿主細胞において作動可能なプロモーターに機能的に連結されてなる発現ベクター。
項8: 項7に記載する発現ベクターを用いて形質転換された形質転換微生物。
項9: 微生物が大腸菌である項8に記載の形質転換微生物。
項10: 項8または9に記載の微生物を培養し、得られる培養物よりグルコースデヒドロゲナーゼを採取することを含む、項1〜5のいずれかに記載のグルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
項11: 項1〜5のいずれかに記載するグルコースデヒドロゲナーゼを含んでなるグルコース定量用組成物。
項12: 項1〜5のいずれかに記載するグルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースの定量工程を含むことを特徴とするグルコースの定量方法。
項13: 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1もしくは2以上のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、且つ配列番号2に示すアミノ酸配列を有するグルコースデヒドロゲナーゼと実質的に同一の活性を有するグルコースデヒドロゲナーゼ。
本発明により、安定性にきわめて優れ、かつグルコース以外の糖にほとんど作用せずまた溶存酸素の影響も受けないため正確な血糖値およびグルコース定量を可能にするGDHもしくは該GDHを含むグルコースセンサ並びにグルコース定量用組成物を提供することができる。
本発明は、超好熱始原菌に由来し、高い安定性と優れた基質特異性を有するGDHに関する。具体的には次のような特性を有するGDHである。すなわち、基質特異性としてはマルトース、ガラクトース、キシロースのいずれに対しても対グルコース比3%未満の反応性である。また該GDHの温度安定性は80℃以上であり、より好ましくは85℃以上、さらに好ましくは90℃である。さらに好ましくは、ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)もしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とするグルコースデヒドロゲナーゼである。さらに好ましい詳細な特性は以下のとおりである。すなわち、温度安定性は90℃、pH安定性は4.8〜9.7、至適反応温度は85℃、至適pHは約9.7、補酵素としてはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)もしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とすることで機能する。また基質特異性については、補酵素としてNADPを用いた場合、キシロース、マルトースに対して対グルコース比2%以上3%未満、ガラクトース、マンノースに対して対グルコース比1%以上2%未満の活性を示し、ラクトース、ソルビトール、スクロースに対しては実質的に反応しない。補酵素としてNADを用いた場合、キシロース、マルトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、ソルビトール、スクロースに対して実質的に反応しない。また、アミノ酸配列から推定される分子量は37000である。
16SリボソームRNA(16SrRNA)の塩基配列(真核生物の場合は18SrRNA)に基づいた進化系統樹によれば、生物はEucarya、Bacteria、Archaeaの3つの大きな生物界に分類される。本発明に述べる「始原菌」とは、この16SrRNAの進化系統樹に基づいて「Archaea」という生物界に分類される生物を指す。さらに超好熱性始原菌とは、90℃以上で生育可能な始原菌であるか、もしくは至適生育温度が80℃以上である始原菌として定義される。
本発明のGDHの由来する生物としては超好熱性始原菌であれば特に限定しないが、好ましくはパイロディクティム(Pyrodictim)属、スルフォロバス(Sulfolobus)属、デスルフロコッカス(Desulfurococcus)属、サーモプロテウス(Thermoproteus)属、サーモフィラム(Thermofilum)属、サーモプラズマ(Thermoplasma)属からなる群のうちいずれかに分類されるかあるいはいずれかに近縁である超好熱始原菌であり、より好ましくはサーモプロテウス属に分類される始原菌である。さらに好ましくは、以下の(A)〜(G)に示す特徴を有する始原菌である。(A)16SrRNAをコードするゲノムDNA上の塩基配列として、配列番号3に示す塩基配列を含む。(B)80℃以上の温度で生育可能であり、至適生育温度は約90℃である。(C)ゲノムDNAのGC含量が58〜62モル%である。(D)絶対嫌気性菌である。(E)電子受容体としてチオ硫酸塩を加えた場合に良好な増殖を示す。(F)NaCl濃度1%以下で生育可能である。(G)形状は長さ10〜30μm、幅約5μmの長桿菌である。
本発明で述べる温度安定性とは、50mM Tris−HCl、0.1M NaCl(pH8.0)にタンパク質量として0.17mg/mLの濃度となるようGDHを溶解し、本GDH溶液を30分間加熱した際の、加熱前のGDH活性に対する加熱後のGDH活性の残存率として定義される。そして温度安定性の項に示す温度範囲の数値は、上記の条件において90%以上の活性残存率を示す温度範囲を表している。例えば、80℃以上の熱安定性とは、GDHを含む溶液を80℃以上の温度で30分間インキュベートした後、当該GDHが加熱前と比較して少なくとも90%の活性を保持していることを意味する。換言すれば、一定の温度で30分間GDHをインキュベートした場合に、そのインキュベートの前と比較してインキュベート後にGDHが90%以上の活性を有する温度が80℃以上で存在することを意味する。また、活性の測定方法は後述のとおりである。
好適な一実施形態において、本発明のグルコースデヒドロゲナーゼが熱安定性を有するとは、特定の温度にて30分間熱処理した後に、当該GDHが、熱処理前の酵素活性と比較して、少なくとも90%以上の残存活性を有することを意味する。例えば、80℃の熱安定性を有するとは、GDHを80℃で30分間熱処理した場合に、熱処理前と比較して、熱処理後のGDHが90%以上の酵素活性を保持していることを意味し、当然ながら80℃よりも低い温度で前記熱処理をした場合も90%以上の残存活性を保持している(即ち、熱安定性を有する)ことを意味する。このように、特定の温度の値をもって熱安定性を規定した場合、少なくとも当該数値で示される温度以下で上記熱処理をした場合に、90%以上の残存活性を本発明のGDHが有することを意味する。従って、80℃以上の熱安定性を有するとは、80℃以上にそのような熱安定性の上限値となる温度を有することを意味する。
より好適な一実施形態において、本発明のグルコースデヒドロゲナーゼが熱安定性を有するとは、特定の温度にて30分間熱処理した後に、当該GDHが、熱処理前の酵素活性と比較して、95%以上の残存活性を有することを意味する。例えば、本実施形態において、80℃の熱安定性を有するとは、GDHを80℃で30分間熱処理した場合に、熱処理前と比較して、熱処理後のGDHが95%以上の酵素活性を保持していることを意味し、当然ながら80℃よりも低い温度で前記熱処理をした場合も95%以上の残存活性を保持している(即ち、熱安定性を有する)ことを意味する。
本発明のGDHは、少なくとも80℃の熱安定性を有し、好ましくは、少なくとも85℃の熱安定性を有し、更に好ましくは、少なくとも90℃の熱安定性を有する。
本発明で述べる基質特異性は、基質濃度150mmol/L、補酵素濃度5mmol/L、pH8.0、反応温度60℃という条件下においてGDHが基質を酸化する速度として評価される。より具体的には、後述の活性測定方法においてグルコースに相当するものとして評価対象である他の糖類に置き換えた場合の活性値を算出し、グルコースを基質とした場合の活性値を100とした場合の百分率に換算して示される。本発明においては、この活性が対グルコース比1%未満であるとき、該基質に対して実質的に反応しないと表現する。
本発明で述べるpH安定性とは、0.1mol/Lのバッファー成分を含む溶液にタンパク質量として5μg/mLの濃度となるようGDHを溶解し、本溶液を25℃で24時間インキュベートした際の、インキュベート前の活性に対するインキュベート後の活性の残存率として定義される。そしてpH安定性の項に示す温度範囲の数値は、上記の条件において90%以上の活性残存率を示すpH範囲を表している。例えば、pH安定性4.8〜9.7とは、pH4.8〜9.7のバッファー中でGDHを24時間インキュベートした後、当該GDHがインキュベート前と比較して少なくとも90%の活性を保持していることを意味する。換言すれば、一定のpHで24時間GDHをインキュベートした場合に、インキュベート前と比較してインキュベート後のGDHの活性が90%以上である特定のpHの値をpH4.8〜9,7の間に有することを意味する。
本発明のGDHは、超好熱性始原菌に由来し、かつ上記の特性を有するものである限り特に制限しない。ここで超好熱性始原菌に由来するとは、自然界において該GDHを本来生産する菌株が超好熱性始原菌であるという意味である。したがって、遺伝子を形質転換する等して人工的に作製した細胞により産生されたGDHであっても、該遺伝子の塩基配列が、超好熱性始原菌ゲノムに本来存在する遺伝子と塩基配列が同一であるかもしくは該塩基配列を元に1もしくは2以上の塩基を置換・欠失・挿入または付加した配列であって且つ本発明のGDHと実質的に同一の活性を有する場合、本発明において該GDHは超好熱性始原菌に由来するとみなす。実質的に同一の活性を有するとは、改変されたGDHの活性が配列番号2で示されるアミノ酸を有するGDHと比較して、実験誤差の範囲内であるか、又はそれ以上の活性を有することを意味する。
本発明の好ましい態様においては、本発明は配列番号2に示すアミノ酸配列からなるポリペプチドを含むグルコースデヒドロゲナーゼであり、または配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1以上のアミノ酸残基を欠失、置換、挿入または付加させてなる配列からなるポリペプチドを含むグルコースデヒドロゲナーゼである。該GDHは、由来する超好熱性始原菌を培養した培養液から得たものであってもよく、また由来する始原菌とは異なる宿主生物に遺伝子を導入し発現させることにより得たものであってもよい。
本発明のグルコースデヒドロゲナーゼが、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸の置換、付加、欠失、又は挿入を有するポリペプチドから成る場合、このようなアミノ酸の変異の数や種類は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性や上述する熱安定性、pH安定性、基質特異性といった酵素特性に影響を及ぼさない限り特に制限はない。好ましくは、変異の数は、数個であり、より具体的には、1〜30個、より好ましくは1〜15個、更に好ましくは1〜10個、より更に好ましくは1〜5個、特に好ましくは1〜3個である。
本発明のグルコースデヒドロゲナーゼが、配列番号2に示すアミノ酸配列において、1以上のアミノ酸が置換されているポリペプチドから成る場合、当該アミノ酸の置換は、グルコースデヒドロゲナーゼ活性や前述する酵素特性を損なわない限り特に制限はないが、好ましくは、類似のアミノ酸によって置換されている。類似のアミノ酸としては、例えば、以下を挙げることが出来る。
芳香族アミノ酸:Phe、Trp、Tyr
脂肪族アミノ酸:Ala、Leu、Ile、Val
極性アミノ酸:Gln、Asn
塩基性アミノ酸:Lys、Arg、His
酸性アミノ酸:Glu、Asp
水酸基を有するアミノ酸:Ser、Thr
配列番号2に示すポリペプチド配列は、公知のサーモプロテウス・テナックス由来GDHと79%という高い相同性を有している。しかしながら、基質特異性という観点において本発明のGDHはきわめて優れている点で明確に異なる特性を有している。上述の非特許文献3によれば、公知のサーモプロテウス・テナックス由来GDHは基質濃度40mmol/Lにおいてグルコースよりもキシロースに対する活性が高いが、本発明のGDHは、NADPを補酵素とした場合基質濃度150mmol/Lという高い濃度においてもキシロースに対する活性は対グルコース比3%未満であり、NADを補酵素とした場合では対グルコース比1%未満と、キシロースに対する反応性が極めて低い。このような特性の差異は、両者のアミノ酸配列比較において異なっている部分が大きく関与していると考えられる。本発明のGDHを特徴付ける指標の一つとして該GDHが有するアミノ酸配列の配列番号2の配列に対する高い相同性が挙げられ、その相同性は80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上である。より好適な実施形態において、本発明のグルコースデヒドロゲナーゼは、配列番号2に示されるアミノ酸配列に対して、95%以上の相同性を有し、更に好ましくは、98%の相同性を有し、特に好ましくは、99%の相同性を有する。
本発明のGDHは、(1)該酵素を産生する細胞を原料として抽出精製する方法、(2)化学的に合成する方法、(3)遺伝子組換え技術によりGDHを発現するように操作された細胞から精製する方法、または(4)GDHをコードする核酸から無細胞転写/翻訳系を用いて生化学的に合成する方法等を適宜用いることによって取得することができる。
本発明のGDHを産生する天然の細胞を得る方法としては例えば以下に述べるような方法がある。まず超好熱性始原菌の好む生育環境、すなわち火山地帯、深部地下、海底熱水孔、温泉湧出地といった高温環境よりサンプルを採取し、適当な培地に植菌し80℃以上の温度で培養する。
天然のGDH産生細胞からのGDHの単離精製は、例えば以下のようにして行うことができる。GDH産生細胞を適当な緩衝液中でホモジナイズし、超音波処理や界面活性剤処理等により細胞抽出液を得、そこから蛋白質の分離精製に常套的に利用される分離技術を適宜組み合わせることにより精製することができる。このような分離技術としては、例えば、塩析、溶媒沈澱法等の溶解度の差を利用する方法、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性ポリアクリルアミド電気泳動(PAGE)、ドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミド電気泳動(SDS−PAGE)等の分子量の差を利用する方法、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシアパタイトクロマトグラフィー等の荷電を利用する方法、アフィニティークロマトグラフィー等の特異的親和性を利用する方法、逆相高速液体クロマトグラフィー等の疎水性の差を利用する方法、等電点電気泳動等の等電点の差を利用する方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
化学合成によるGDHの製造は、例えば、配列番号2に示されるアミノ酸配列を基にして、配列の全部または一部をペプチド合成機を用いて合成することにより行うことができる。ペプチド合成法は、例えば、固相合成法、液相合成法のいずれであってもよい。本発明のGDHを構成し得る部分ペプチドもしくはアミノ酸と残余部分とを縮合し、生成物が保護基を含む場合は保護基を脱離することにより、目的とするタンパク質を製造することができる。ここで、縮合や保護基の脱離は、自体公知の方法、例えば、以下の(1)および(2)に記載された方法に従って行われる。
(1) M. Bodanszkyand M.A. Ondetti, Peptide Synthesis, Interscience Publishers, New York (1966)
(2) Schroeder and Luebke, The Peptide, Academic Press, NewYork(1965)
このようにして得られた本発明のGDHは、公知の精製法により精製単離することができる。ここで、精製法としては、例えば、溶媒抽出、蒸留、カラムクロマトグラフィー、液体クロマトグラフィー、再結晶、これらの組み合わせなどが挙げられる。
上記方法で得られるGDHが遊離体である場合には、該遊離体を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって適当な塩に変換することができるし、逆にタンパク質が塩として得られた場合には、該塩を公知の方法あるいはそれに準じる方法によって遊離体または他の塩に変換することができる。
本発明のGDHは、好ましくは、該蛋白質をコードする核酸をクローニング(もしくは化学的に合成)し、該核酸を担持する発現ベクターを含む形質転換体の培養物から単離精製することにより製造することができる。
酵素遺伝子のクローニングは、通常、以下の方法により行われる。まず、所望の酵素を産生する細胞または組織より、該酵素を完全または部分精製し、そのN末端アミノ酸配列をエドマン法や質量分析などを用いて決定する。また、ペプチドを配列特異的に切断するプロテアーゼや化学物質で該酵素を部分分解して得られるオリゴペプチドのアミノ酸配列を同様にエドマン法や質量分析により決定する。決定された部分アミノ酸配列に対応する塩基配列を有するオリゴヌクレオチドを合成し、これをプローブとして用いて、該酵素を産生する細胞または組織より調製されたcDNAまたはゲノミックDNAライブラリーから、コロニー(もしくはプラーク)ハイブリダイゼーション法によって該酵素をコードするDNAをクローニングする。あるいは、完全または部分精製された酵素の全部または一部を抗原として該酵素に対する抗体を常法にしたがって作製し、該酵素を産生する細胞または組織より調製されたcDNAまたはゲノミックDNAライブラリーから、抗体スクリーニング法によって該酵素をコードするDNAをクローニングすることもできる。
目的の酵素と酵素学的性質の類似する酵素の遺伝子が公知である場合、例えば、NCBI BLASTのホームページ(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/BLAST/)にアクセスし、該公知遺伝子の塩基配列と相同性を有する配列を検索し、ヒットした塩基配列を基にして、上記のようにプローブを作製し、コロニー(もしくはプラーク)ハイブリダイゼーション法によって該酵素をコードするDNAをクローニングすることができる。
また、ヒットした塩基配列を基にして、適当なオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成し、GDHを産生する細胞より調製したゲノムDNA画分または全RNAもしくはmRNA画分を鋳型として用い、Polymerase Chain Reaction(以下、「PCR法」と略称する)またはReverse Transcriptase−PCR(以下、「RT−PCR法」と略称する)によって直接増幅することもできる。
上記のようにして得られたDNAの塩基配列は、マキサム・ギルバート法やジデオキシターミネーション法等の公知のシークエンス技術を用いて決定することができる。
より好ましくは、本発明のGDHをコードする核酸としては、例えば、配列番号1に示される塩基配列を含む核酸(該核酸がRNAの場合はtをuに読み替えるものとする)、あるいは配列番号1に示される塩基配列に相補的な塩基配列と、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列を含み、且つ前記した配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるポリペプチドと同質の性質、即ち、SDS−PAGEによる推定分子量が37000である、温度安定性は90℃以下、pH安定性は4.8〜9.7、至適反応温度は85℃、至適pHは約9.7、基質特異性としてはマルトース・ガラクトース・キシロース・ラクトース・ソルビトール・マンノースに実質的に作用しない、補酵素としてはニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NAD)もしくはニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸(NADP)を補酵素とすることで機能する、という諸性質を有するポリペプチドをコードする核酸などが挙げられる。配列番号1に示される塩基配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする核酸としては、例えば、配列番号1に示される塩基配列と60%以上、好ましくは70%以上、さらに好ましくは80%以上、特に好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の同一性を有する塩基配列を含む核酸などが用いられる。
本明細書における塩基配列の同一性は、相同性計算アルゴリズムNCBI BLAST(National Center for Biotechnology Information Basic Local Alignment Search Tool)を用い、以下の条件(期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=−3)にて計算することができる。塩基配列の相同性を決定するための他のアルゴリズムとしては、上記したアミノ酸配列の相同性計算アルゴリズムが同様に好ましく例示される。
ハイブリダイゼーションは、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法、例えば、Molecular Cloning, 第2版 (J. Sambrook et al., Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989) に記載の方法などに従って行うことができる。また、市販のライブラリーを使用する場合、ハイブリダイゼーションは、添付の使用説明書に記載の方法に従って行うことができる。ハイブリダイゼーションは、好ましくは、ストリンジェントな条件に従って行うことができる。
ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム塩濃度が約19〜約40mM、好ましくは約19〜約20mMで、温度が約50〜約70℃、好ましくは約60〜約65℃の条件等が挙げられる。特に、ナトリウム塩濃度が約19mMで温度が約65℃の場合が好ましい。当業者は、ハイブリダイゼーション溶液の塩濃度、ハイブリダゼーション反応の温度、プローブ濃度、プローブの長さ、ミスマッチの数、ハイブリダイゼーション反応の時間、洗浄液の塩濃度、洗浄の温度等を適宜変更することにより、所望のストリンジェンシーに容易に調節することができる。
本発明のGDHをコードするDNAは、上記のようにサーモプロテウス属超好熱始原菌のゲノムDNAもしくはRNA(cDNA)より取得することもできるが、化学的にDNA鎖を合成するか、もしくは合成した一部オーバーラップするオリゴDNA短鎖を、PCR法を利用して接続することにより、GDHの全長をコードするDNAを構築することも可能である。化学合成もしくはPCR法との組み合わせで全長DNAを構築することの利点は、該遺伝子を導入する宿主に合わせて使用コドンを遺伝子全長にわたり設計できる点にある。同一のアミノ酸をコードする複数のコドンは均一に使用されるわけではなく、生物種によってその使用頻度が異なる。一般にある生物種において高発現する遺伝子に含まれるコドンは、その生物種において使用頻度の高いコドンを多く含んでおり、逆に発現量の低い遺伝子は使用頻度の低いコドンの存在がボトルネックとなって高発現を妨げている例が少なくない。異種遺伝子の発現に際し、その遺伝子配列を宿主生物において使用頻度の高いコドンに置換することで該異種タンパク質発現量が増大した例はこれまでに多数報告されており、このような使用コドンの改変は異種遺伝子発現量の増大に効果があると期待される。
上記の理由から、本発明のGDHをコードするDNAは、それが導入される宿主細胞により適したコドン(即ち、該宿主において使用頻度の高いコドン)に改変することが望ましい。各宿主のコドン使用頻度は、該宿主生物のゲノム配列上に存在する全遺伝子における各コドンの使用される割合で定義され、たとえば1000コドンあたりの使用回数で表される。またコドン使用頻度は、その全ゲノム配列の解明されていない生物にあっては代表的な複数遺伝子の配列から近似的に算出することも可能である。組換えようとする宿主生物におけるコドン使用頻度のデータは、例えば(財)かずさDNA研究所のホームページ(http://www.kazusa.or.jp)に公開されている遺伝暗号使用頻度データベースを用いることができ、または各生物におけるコドン使用頻度を記した文献を参照してもよく、あるいは使用する宿主生物のコドン使用頻度データを自ら決定してもよい。入手したデータと導入しようとする遺伝子配列を参照し、遺伝子配列に用いられているコドンの中で宿主生物において使用頻度の低いものを、同一のアミノ酸をコードし使用頻度の高いコドンに置換すればよい。
本発明のGDHをコードするDNAを導入する宿主細胞は、後述するように組換え発現系が確立しているものであれば、特に制限されないが、好ましくは大腸菌、枯草菌などのバクテリア、放線菌、麹菌、酵母といった微生物宿主並びに昆虫細胞、動物細胞、高等植物等が挙げられ、より好ましくは大腸菌(例えば、K12株、B株など)が挙げられる。大腸菌において使用頻度の高いコドンとしては、例えば、K12株の場合であれば、GlyにはGGTまたはGGC、GluにはGAA、AspにはGAT、ValにはGTG、AlaにはGCG、ArgにはCGTまたはCGC、SerにはAGC、LysにはAAA、IleにはATTまたはATC、ThrにはACC、LeuにはCTG、GlnにはCAG、ProにはCCGなどが挙げられる。
このように宿主において使用頻度の高いコドンに置換されたGDHをコードするDNAとして、例えば、サーモプロテウス属始原菌由来のGDHをコードするDNAを、該GDHと同一のアミノ酸配列をコードし、且つ大腸菌K12株において使用頻度の高いコドンに置換したDNAが挙げられる。
本発明はまた、本発明のGDHをコードするDNAを含む組換えベクターを提供する。本発明の組換えベクターは原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で複製保持または自律増殖できるものであれば特に限定されず、プラスミドベクターやウイルスベクター等が包含される。当該組換えベクターは、簡便には当該技術分野において入手可能な公知のクローニングベクターまたは発現ベクターに、上記のGDHをコードするDNAを適当な制限酵素およびリガーゼ、あるいは必要に応じてさらにリンカーもしくはアダプターDNAを用いて連結することにより調製することができる。また、Taqポリメラーゼのように増幅末端に一塩基を付加するようなDNAポリメラーゼを用いて増幅作製した遺伝子断片であれば、TAクローニングによるベクターへの接続も可能である。
ベクターとしては、大腸菌由来のプラスミドとして、例えばpBR322、pBR325、pUC18、pUC19など、酵母由来プラスミドとして、例えばpSH19、pSH15など、枯草菌由来プラスミドとして、例えばpUB110、pTP5、pC194などが挙げられる。また、ウイルスとして、λファージなどのバクテリオファージや、SV40、ウシパピローマウイルス(BPV)等のパポバウイルス、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMuLV)等のレトロウイルス、アデノウイルス(AdV)、アデノ随伴ウイルス(AAV)、ワクシニヤウイルス、バキュロウイルスなどの動物および昆虫のウイルスが例示される。
特に、本発明は、目的の宿主細胞内で機能的なプロモーターの制御下にGDHをコードするDNAが配置されたGDH発現ベクターを提供する。使用されるベクターとしては、原核および/または真核細胞の各種宿主細胞内で機能して、その下流に配置された遺伝子の転写を制御し得るプロモーター領域(例えば宿主が大腸菌の場合、trpプロモーター、lacプロモーター、lecAプロモーター等、宿主が枯草菌の場合、SPO1プロモーター、SPO2プロモーター、penPプロモーター等、宿主が酵母の場合、PHO5プロモーター、PGKプロモーター、GAPプロモーター、ADHプロモーター等、宿主が哺乳動物細胞の場合、SV40由来初期プロモーター、MoMuLV由来ロングターミナルリピート、アデノウイルス由来初期プロモーター等のウイルスプロモーター)と、該遺伝子の転写終結シグナル、すなわちターミネーター領域を含有し、該プロモーター領域と該ターミネーター領域とが、少なくとも1つの制限酵素認識部位、好ましくは該ベクターをその箇所のみで切断するユニークな制限部位を含む配列を介して連結されたものであれば特に制限はないが、形質転換体選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有していることが好ましい。さらに、挿入されるGDHをコードするDNAが開始コドンおよび終止コドンを含まない場合には、開始コドン(ATGまたはGTG)および終止コドン(TAG、TGA、TAA)を、それぞれプロモーター領域の下流およびターミネーター領域の上流に含むベクターが好ましく使用される。
宿主細胞として細菌を用いる場合、一般に発現ベクターは上記のプロモーター領域およびターミネーター領域に加えて、宿主細胞内で自律複製し得る複製可能単位を含む必要がある。また、プロモーター領域は、プロモーターの近傍にオペレーターおよびShine−Dalgarno(SD)配列を包含する。
宿主として酵母,動物細胞または昆虫細胞を用いる場合、発現ベクターは、エンハンサー配列、GDH mRNAの5’側および3’側の非翻訳領域、ポリアデニレーション部位等をさらに含むことが好ましい。
作成した組換えベクターを導入する宿主生物としては、組換え発現系が確立している大腸菌、枯草菌などのバクテリア、放線菌、麹菌、酵母といった微生物宿主並びに昆虫細胞、動物細胞、高等植物等を挙げることができるが、中でもタンパク質発現能力に優れている大腸菌を用いるのが好ましい。組換えプラスミドを導入する方法としてはエレクトロポレーションによる導入のほか、塩化カルシウム等薬品処理によりコンピテント化した宿主であればヒートショックによる導入も可能である。宿主ベクターへの目的組換えプラスミドの移入の有無についての選択は、目的とするDNAを保持するベクターの各種薬剤耐性遺伝子に代表されるマーカーとGDH活性とを同時に発現する微生物を検索すればよく、例えば薬剤耐性マーカーに基づく選択培地で生育し、かつGDHを発現する微生物を選択すればよい。
本発明のGDHは、上記のようにして調製されるGDH発現ベクターを含む形質転換体を培地中で培養し、得られる培養物からGDHを回収することによって製造することができる。
使用される培地は、宿主細胞(形質転換体)の生育に必要な炭素源,無機窒素源もしくは有機窒素源を含んでいることが好ましい。炭素源としては、例えばグルコース,デキストラン,可溶性デンプン,ショ糖などが、無機窒素源もしくは有機窒素源としては、例えばアンモニウム塩類,硝酸塩類,アミノ酸,コーンスチープ・リカー,ペプトン,カゼイン,肉エキス,大豆粕,バレイショ抽出液などが例示される。また所望により他の栄養素〔例えば、無機塩(例えば塩化カルシウム,リン酸二水素ナトリウム,塩化マグネシウム),ビタミン類,抗生物質(例えばテトラサイクリン,ネオマイシン,アンピシリン,カナマイシン等)など〕を含んでいてもよい。
培養は当分野において知られている方法により行われる。下記に宿主細胞に応じて用いられる具体的な培地および培養条件を例示するが、本発明における培養条件はこれらに何ら限定されるものではない。
宿主が細菌,放線菌,酵母,糸状菌等である場合、例えば上記栄養源を含有する液体培地が適当である。好ましくは、pHが5〜9である培地である。宿主が大腸菌の場合、好ましい培地としてLB培地,M9培地[Miller. J., Exp. Mol. Genet, p.431, Cold Spring Harbor Laboratory, New York (1972)]等が例示される。培養は、必要により通気・攪拌をしながら、通常14〜43℃で約3〜72時間行うことができる。宿主が枯草菌の場合、必要により通気・攪拌をしながら、通常30〜40℃で約16〜96時間行うことができる。宿主が酵母の場合、培地として、例えばBurkholder最少培地 [Bostian. K.L. et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 77, 4505 (1980)]が挙げられ、pHは5〜8であることが望ましい。培養は通常約20〜35℃で約14〜144時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が動物細胞の場合、培地として、例えば約5〜20%のウシ胎仔血清を含む最少必須培地(MEM)[Science, 122, 501 (1952)]、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)[Virology, 8, 396 (1959)]、RPMI1640培地[J. Am. Med. Assoc., 199, 519 (1967)]、199培地[Proc. Soc. Exp. Biol. Med., 73, 1 (1950)] 等を用いることができる。培地のpHは約6〜8であるのが好ましく、培養は通常約30〜40℃で約15〜72時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
宿主が昆虫細胞の場合、培地として、例えばウシ胎仔血清を含むGrace’s培地[Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 82, 8404 (1985)]等が挙げられ、そのpHは約5〜8であるのが好ましい。培養は通常約20〜40℃で15〜100時間行なわれ、必要により通気や攪拌を行うこともできる。
GDHの精製は、GDH活性の存在する画分に応じて、通常使用される種々の分離技術を適宜組み合わせることにより行うことができる。
培養物の培地中に存在するGDHは、培養物を遠心または濾過して培養上清(濾液)を得、該培養上清から、例えば、塩析、溶媒沈澱、透析、限外濾過、ゲル濾過、非変性PAGE、SDS−PAGE、イオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、逆相高速液体クロマトグラフィー、等電点電気泳動などの公知の分離方法を適当に選択して行うことにより得ることができる。
一方、細胞質に存在するGDHは、培養物を遠心または濾過して細胞を集め、これを適当な緩衝液に懸濁し、例えば超音波処理、リゾチーム処理、凍結融解、浸透圧ショック、および/またはトライトン−X100等の界面活性剤処理などにより、細胞およびオルガネラ膜を破砕(溶解)した後、遠心分離や濾過などによりデブリスを除去して可溶性画分を得、該可溶性画分を、上記と同様の方法で処理することにより単離精製することができる。
組換えGDHを迅速且つ簡便に取得する手段として、GDHのコード配列のある部分(好ましくはNまたはC末端)に、金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列(例えば、ヒスチジン、アルギニン、リシン等の塩基性アミノ酸からなる配列、好ましくはヒスチジンからなる配列)をコードするDNA配列を、遺伝子操作により付加して宿主細胞で発現させ、該細胞の培養物のGDH活性画分から、該金属イオンキレートを固定化した担体とのアフィニティーによりGDHを分離回収する方法が好ましく例示される。金属イオンキレートに吸着し得るアミノ酸配列をコードするDNA配列は、例えば、GDHをコードするDNAをクローニングする過程で、GDHのC末端アミノ酸配列をコードする塩基配列に該DNA配列を連結したハイブリッドプライマーを用いてPCR増幅を行ったり、あるいは該DNA配列を終止コドンの前に含む発現ベクターにGDHをコードするDNAをインフレームで挿入することにより、GDHコード配列に導入することができる。また、精製に使用される金属イオンキレート吸着体は、遷移金属、例えばコバルト、銅、ニッケル、鉄の二価イオン、あるいは鉄、アルミニウムの三価イオン等、好ましくはコバルトまたはニッケルの二価イオン含有溶液を、リガンド、例えばイミノジ酢酸(IDA)基、ニトリロトリ酢酸(NTA)基、トリス(カルボキシメチル)エチレンジアミン(TED)基等を付着したマトリックスと接触させて該リガンドに結合させることにより調製される。キレート吸着体のマトリックス部は通常の不溶性担体であれば特に限定されない。
あるいは、タグとしてグルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)、マルトース結合タンパク質(MBP)、HA、FLAGペプチドなどを用いてアフィニティー精製することもできる。
上記精製工程において、必要に応じて膜濃縮、減圧濃縮、活性化剤および安定化剤添加等の処理を行うこともできる。特に本GDHは耐熱性に優れているため、他の宿主細胞由来夾雑タンパク質を熱変性せしめ、かつGDH活性を保持しうる範囲での加温処理が、大幅なGDH純度向上に有効である。これら工程に用いる溶媒としては特に限定されないが、pH6〜9程度の範囲において緩衝能を有するK−リン酸緩衝液、トリス−塩酸緩衝液、GOODの緩衝液等に代表される各種緩衝液が好ましい。
かくして得られるGDHが遊離体である場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法によって該遊離体を塩に変換することができ、該タンパク質が塩として得られた場合には、自体公知の方法あるいはそれに準じる方法により該塩を遊離体または他の塩に変換することができる。
精製酵素は液状で産業利用に供することも可能であるが、粉末化し、あるいはさらに造粒することもできる。液状酵素の粉末化は定法により凍結乾燥することでなされる。
さらに、本発明のGDHは、それをコードするDNAに対応するRNAを鋳型として、ウサギ網状赤血球ライセート、コムギ胚芽ライセート、大腸菌ライセートなどからなる無細胞タンパク質翻訳系を用いてインビトロ翻訳することによっても合成することができる。
本発明のGDHをコードするRNAは、本発明のGDHをコードするcDNAの取得方法において上記した、本発明のGDHをコードするmRNAを常法を用いて該RNAを発現する宿主細胞から精製するか、あるいは、GDHをコードするDNAを鋳型とし、RNAポリメラーゼを含む無細胞転写系を用いてcRNAを調製することによって取得することができる。無細胞タンパク質転写/翻訳系は市販のものを用いることもできるし、それ自体既知の方法、具体的には、大腸菌抽出液はPratt J.M. et al., “Transcription and Tranlation”, Hames B.D. and Higgins S.J. eds., IRL Press, Oxford 179−209 (1984) に記載の方法等に準じて調製することもできる。市販の細胞ライセートとしては、大腸菌由来のものはE.coli S30 extract system (Promega社製) やRTS 500 Rapid Tranlation System (Roche社製) 等が挙げられ、ウサギ網状赤血球由来のものはRabbit Reticulocyte Lysate System (Promega社製) 等、さらにコムギ胚芽由来のものはPROTEIOSTM(TOYOBO社製) 等が挙げられる。このうちコムギ胚芽ライセートを用いたものが好適である。コムギ胚芽ライセートの作製法としては、例えばJohnston F.B. et al., Nature, 179: 160−161 (1957) あるいはErickson A.H. et al., Meth. Enzymol., 96: 38−50 (1996) 等に記載の方法を用いることができる。
タンパク質合成のためのシステムまたは装置としては、バッチ法 [Pratt, J.M. et al. (1984) 前述] や、アミノ酸、エネルギー源等を連続的に反応系に供給する連続式無細胞タンパク質合成システム [Spirin A.S. et al., Science, 242: 1162−1164(1988)]、透析法(Kigawa et al., 第21回日本分子生物学会, WID6)、あるいは重層法(PROTEIOSTMWheat germ cell−free protein synthesis core kit取扱説明書: TOYOBO社製)等が挙げられる。さらには、合成反応系に、鋳型のRNA、アミノ酸、エネルギー源等を必要時に供給し、合成物や分解物を必要時に排出する方法(特開2000−333673)等を用いることができる。
本発明はまた、本発明のGDHを含んでなるグルコース定量用組成物、並びに本発明のGDHを用いてグルコース濃度を測定する方法を提供する。
本発明においては以下の種々の方法によりグルコースを測定することができる。
本発明のグルコース測定用試薬、グルコースアッセイキット、グルコースセンサは、液状(水溶液、懸濁液等)、真空乾燥やスプレードライなどにより粉末化したもの、凍結乾燥など種々の形態をとることができる。凍結乾燥法としては、特に制限されるものではなく常法に従って行えばよい。本発明の酵素を含む組成物は凍結乾燥物に限られず、凍結乾燥物を再溶解した溶液状態であってもよい。
グルコース測定用試薬
本発明のグルコース測定用試薬は、典型的には、本発明のGDH、補酵素、緩衝液、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。また好ましくはメディエーターなど測定に必要な試薬を含む。
グルコースアッセイキット
本発明のグルコースアッセイキットは、典型的には、本発明のGDH、補酵素、緩衝液、メディエーターなど測定に必要な試薬、キャリブレーションカーブ作製のためのグルコース標準溶液、ならびに使用の指針を含む。本発明のキットは、例えば、凍結乾燥された試薬として、または適切な保存溶液中の溶液として提供することができる。
グルコースセンサ
本発明のグルコースセンサは、電極としては、カーボン電極、金電極、白金電極などを用い、この電極上にGDHを固定化する。固定化方法としては、架橋試薬を用いる方法、高分子マトリックス中に封入する方法、透析膜で被覆する方法、光架橋性ポリマー、導電性ポリマー、酸化還元ポリマーなどを用いる方法があり、NADもしくはNADPといった補酵素、あるいはフェロセンあるいはその誘導体に代表される電子メディエーターとともにポリマー中に固定あるいは電極上に吸着固定してもよく、またこれらを組み合わせて用いてもよい。本発明のGDHは補酵素であるNADもしくはNADPと共存させた形態で電極上に固定化するが、補酵素不在の形態で固定化し、補酵素を別の層としてまたは溶液中で供給することも可能である。典型的には、グルタルアルデヒドを用いて本発明のGDHをカーボン電極上に固定化した後、アミン基を有する試薬で処理してグルタルアルデヒドをブロッキングする。
グルコース濃度の測定は、以下のようにして行うことができる。恒温セルに緩衝液、GDH、補酵素としてNADもしくはNADPを含む反応液を入れ、一定温度に維持する。そこにグルコースを含む試料を加え、一定温度で一定時間反応させる。この間、340nmの吸光度をモニタリングする。レート法であれば吸光度の時間あたりの上昇率から、エンドポイント法であれば試料中のグルコースがすべて酸化された時点までの吸光度上昇度より、あらかじめ標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブを元に試料中のグルコース濃度を算出することができる。また、可視光領域での比色による定量を行う場合においては、さらに適当なメディエーター及び発色試薬を添加すればよい。このような例としては、たとえば2,6−ジクロロフェノールインドフェノール(DCPIP)を添加し、600nmにおける吸光度の減少をモニタリングすることでグルコースの定量が可能である。また、メディエーターとしてphenazine methosulfate (PMS)を、さらに発色試薬としてnitrotetrazorium blue (NTB)を加え、570nm吸光度を測定することにより生成するジホルマザンの量を決定し、グルコース濃度を算出することが可能である。いうまでもなく使用するメディエーターおよび発色試薬はこれらに限定されない。
またグルコース濃度の測定は、以下のようにしても行うことができる。恒温セルに緩衝液を入れ、補酵素、および必要に応じてメディエーターを加えて一定温度に維持する。メディエーターとしては、フェリシアン化カリウム、フェナジンメトサルフェートなどを用いることができる。作用電極として本発明のGDHを固定化した電極を用い、対極(例えば白金電極)および参照電極(例えばAg/AgCl電極)を用いる。カーボン電極に一定の電圧を印加して、電流が定常になった後、グルコースを含む試料を加えて電流の増加を測定する。標準濃度のグルコース溶液により作製したキャリブレーションカーブに従い、試料中のグルコース濃度を計算することができる。
活性測定例
本発明においては、GDH活性は特に断りのない限り、以下の方法に従って行われる。
反応液(90mmol/L Bicine、5mmol/L β−NADP+、150mmol/L D−グルコース)900μLを蓋つき石英セルにいれ、60℃で5分間予備加温する。そしてGDH溶液15μLを加えて混和し、60℃で3分反応させ、この間340nm吸光度を測定する。吸光度変化の直線部分から1分間あたりの吸光度の上昇度(ΔODTEST)を算出する。盲検は、GDH溶液の代わりに緩衝液を加えて混和し、同様に60℃3分インキュベートして340nm吸光度を記録し、1分間あたりの吸光度変化(ΔODBLANK)を算出する。これらの値を以下の式に当てはめて活性値(U/mL)を算出する。なおここでは、基質存在下で1分間に1マイクロモルの補酵素を還元する酵素量を1Uと定義する。
GDH活性(U/mL)=[(ΔODTEST−ΔODBLANK)×0.915×希釈倍率 ]
/(6.22×1.0×0.015)
なお、ここで
915:GDH溶液混和後の容量(mL)
6.22 :NADPHのミリモル分子吸光係数(cm/マイクロモル)
0 :光路長(cm)
015:添加するGDH溶液の液量(mL)
である。
タンパク質の定量
本発明に述べるタンパク質量はBradford法により測定したものである。より具体的にはタンパク質濃度測定キットであるバイオラッド社製Bio−Rad Protein Assayを用い、本キットに添付のマニュアルに従って測定したものであり、またタンパク質濃度の決定にはウシ血清アルブミン(BSA)を用いて作成した検量線を使用した。すなわち本発明に述べるタンパク質量はBSA当量として算出したものである。
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
<実施例1>
超好熱性始原菌の培養とGDHの精製
発明者らは、鹿児島県小宝島の温泉水より超好熱性始原菌を分離した。本菌株は、16SrRNAの塩基配列より、サーモプロテウス属に分類される菌であると推定され、さらに以下の(A)〜(G)に示す特性を有していた。(A)16SrRNAをコードするゲノムDNA上の塩基配列として、配列番号3に示す塩基配列を含む。(B)80℃以上の温度で生育可能であり、至適生育温度は約90℃である。(C)ゲノムDNAのGC含量が58〜62モル%である。(D)絶対嫌気性菌である。(E)電子受容体としてチオ硫酸塩を加えた場合に良好な増殖を示す。(F)NaCl濃度1%以下で生育可能である。(G)形状は長さ10〜30μm、幅約5μmの長桿菌である。以上の特徴を有する本菌株を、サーモプロテウス・エスピー・GDH1株(Thermoproteus sp. GDH1)と名づけた。
GDH1株を培養するにあたって、0.5%トリプトン、0.5%酵母エキス、0.5%チオ硫酸ナトリウム、0.5%塩化ナトリウム、0.005%硫化ナトリウム、さらに溶存酸素の指示薬として5mg/Lのレサズリンを成分として含む培地を嫌気性グローブボックスに入れ、窒素置換を繰り返すことで培地中の酸素を除いた。ここに、上記の分離菌株を植え、85℃で3日間静置培養した。さらに、上記培地組成に終濃度0.5%のグルコースを追加した培地に増殖菌体を植え継ぎ、85℃で3日間嫌気培養を行った。培養液7Lを、高速冷却遠心装置を用いて遠心し、上清を除くことで菌体を回収した。この菌体を20mLの50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)に懸濁して氷上に置き、超音波破砕機(トミー精工社製、UD−201)を用いて出力3、駆動率40%で10分処理し、菌体を破砕した。破砕液をさらに遠心分離することで固形残渣を取り除き、GDH粗抽出液を得た。この粗抽出液に、硫酸アンモニウムを終濃度30%となるよう溶解して室温で20分攪拌することで夾雑タンパク質を沈殿させた。遠心分離にて沈殿を取り除き、さらに終濃度48%となるよう硫酸アンモニウムを加えて溶解し、室温で20分攪拌することでGDHを含む画分を沈殿させた。遠心分離にて上清を取り除き、得られたGDH画分を20mLの50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.0)に溶解した。この液をカラム容量6mLのResourceQ(GEヘルスケア社製)にアプライして夾雑タンパク質をカラムに吸着させ、GDHを透過させた。この透過液に終濃度22.8%となるよう硫酸アンモニウムを溶解し、疎水性カラムであるresourceISOカラム(GEヘルスケア社製、容量6mL)にアプライし吸着させた。硫酸アンモニウム濃度22.8%〜0%のグラジエントをかけて吸着タンパク質を溶出してGDH活性を有するフラクションを集めた。さらに分離カラムとしてSuperdex200、溶出バッファーとして50mMトリス、0.15mM塩化ナトリウムを含むpH7.0の緩衝液を用いてゲルろ過を行った。得られたGDH画分を精製溶液とした。
<実施例2>
GDH遺伝子のクローニング
実施例1で得られたGDH溶液10μLに等量の2×SDSサンプルバッファー(10mM Tris−HCl、10%グリセロール、2%SDS、0.1%ブロモフェノールブルー、2%(v/v)2−メルカプトエタノール、pH6.8)を加えて100℃で10分煮沸した。これを12.5%アクリルアミドゲルにアプライし、40mAで電気泳動の後、CBB Stain One(ナカライテスク社製)を用いてゲルのCBB染色を行った。染色後のゲルから、サンプルのメインバンドを切り出し、質量分析装置によるペプチドシーケンスの解析を行った。得られた推定アミノ酸配列を元に、ミックス塩基を含むディジェネレートPCRプライマーを作製し、ゲノムDNAをテンプレートにPCR反応を行った。このPCR反応液を1%アガロースゲルにアプライして電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色したのち、UV照射下で増幅したGDH遺伝子の内部部分断片のバンドを切り出した。そして切り出したゲル片からWizard SV Gel and PCR Clean−up System(プロメガ社製)を用いてDNAを抽出・精製した。得られたDNA断片を東洋紡製TArget Clone Plusを用い、TAクローニングの要領で本キットに付属のクローニングベクターpTA2にライゲーションした。ライゲーション産物を大腸菌JM109株コンピテントセル(東洋紡製コンピテントハイJM109)に添加してヒートショックによる形質転換を行い、100μg/mLのアンピシリンを含むLBアガロースプレート上に塗布、37℃一晩培養して形質転換体コロニーを形成させた。複数のコロニーをそれぞれ5mLのLB培地(100μg/mLのアンピシリンを含む)に植菌して一晩培養し、培養液からQuantum Prep ミニプレップキット(バイオラッド社製)を用いて、本キットのマニュアルに従いプラスミドを抽出した。抽出したプラスミドのインサートの塩基配列を解析することで、目的のGDH遺伝子の部分塩基配列を決定した。さらに決定した配列を元に、内部部分配列の外側に向けたプライマーを作製し、このプライマーとLA PCR in vitro Cloning Kit(タカラバイオ製)を用いてGDH遺伝子の5’側および3’側末端領域の増幅および塩基配列決定を行うことで、遺伝子の全塩基配列を決定した。決定した塩基配列を配列番号1に、推定されるアミノ酸配列を配列番号2に示す。
<実施例3>
GDH発現ベクターの構築
超好熱菌ゲノムDNAをテンプレートに、GDH遺伝子の開始コドンにNdeI、終止コドン直後にBamHIサイトを付加させた配列を有するよう設計したプライマーを用いてPCR反応を行った。反応液を1%アガロースゲルにアプライして電気泳動し、エチジウムブロマイドで染色したのち、UV照射下で増幅したGDH遺伝子のバンドを切り出した。そして切り出したゲル片からDNAを抽出・精製し、得られたDNA断片をTArget Clone Plusを用い、本キットに付属のクローニングベクターpTA2に挿入した(pTA2TGDH1)。挿入したGDH遺伝子内部に存在するNdeIサイト(CATATG)を、コードするアミノ酸は変えずに別の塩基配列に置換するために以下の操作を行った。5’−AGCACGGCATTTGGGGGCTCC−3’(配列番号4)および5’−GGAGCCCCCAAATGCCGTGCT−3’(配列番号5)からなる塩基配列を有するオリゴDNAをプライマーとし、上記で得られたpTA2TGDH1をテンプレートとしてPCRと同様の反応をサーマルサイクラーを用いて行った。つづいて反応液に対液2%のDpnIを添加し、37℃1時間処理することでテンプレート(pTA2TGDH1)を消化した。このDpnI処理液を大腸菌JM109株コンピテントセル(東洋紡製コンピテントハイJM109)に添加してヒートショックによる形質転換を行い、100μg/mLのアンピシリンを含むLBアガロースプレート上に塗布、37℃一晩培養して形質転換体コロニーを形成させた。複数のコロニーをそれぞれ5mLのLB培地(100μg/mLのアンピシリンを含む)に植菌して一晩培養し、培養液からQuantum Prep プラスミドミニプレップキットを用いてプラスミドを抽出した。得られたプラスミドの塩基配列を解析し、GDHアミノ酸配列のうち113番目のイソロイシンをコードするコドンがATAからATTに変換された、すなわちGDH遺伝子塩基配列のうち339番目のAがTに置換されたことを確認して配列修正済みプラスミドpTA2TGDH2とした。このpTA2TGDH2についてNdeI、BamHIによる制限酵素処理を行い、1%アガロースゲルで電気泳動を行ってGDH遺伝子(NdeI及びBamHI切断末端を5’、3’末端にそれぞれ有する)を含むゲル片を切り出し、Wizard SV Gel and PCR Clean−up Systemを用いてDNAを抽出・精製した。これを同じ制限酵素で処理した発現ベクターpET21aと混合し、この混合液と等量のライゲーションハイ(東洋紡製)を混和して16℃30分インキュベートすることによりライゲーションを行った。このライゲーション液を大腸菌JM109株コンピテントセルに添加してヒートショックによる形質転換を行い、100μg/mLのアンピシリンを含むLBアガロースプレート上に塗布、37℃一晩培養して形質転換体コロニーを形成させた。形質転換体コロニーのうち、コロニーダイレクトPCRでインサートの挿入が確認されたものを5mLのLB培地(100μg/mLのアンピシリンを含む)に植菌して一晩培養した。培養液を遠心分離して得られた菌体から、プラスミド抽出キットを用いてプラスミドを回収した。このプラスミドのインサートのシーケンス解析により、正しい遺伝子配列を有していることを確認して発現ベクター(pET21aTGDH2)とした。
<実施例4>
GDH遺伝子の発現と精製
実施例3で得たpET21aTGDH1を、大腸菌BL21(DE3)コンピテントセル(ストラタジーン社製)に添付のマニュアルに従ってヒートショック導入し、形質転換株を得た。形質転換コロニーを試験管中のLB培地5mL(100μg/mLのアンピシリンを含む)8本に懸濁し、37℃で1晩振とう培養した。得られた培養液を、2L容坂口フラスコ中のLB培地800mL(100μg/mLのアンピシリンを含む)4本にそれぞれ8mLずつ植菌した。フラスコは37℃120rpmで3時間振とうし、660nmにおける菌体濁度が約0.6になった時点で終濃度0.1mMとなるようIPTGを添加し、さらに37℃120rpmで4時間振とう培養を継続した。培養液を高速冷却遠心分離機で遠心分離して上清をデカントにより除き、得られた菌体を70mLの50mM Tris塩酸緩衝液+0.1M NaCl(pH8.0)に懸濁した。この懸濁液に、超音波破砕機(トミー精工社製、UD−201)を用いて出力4、駆動率40%で20分処理することで菌体を破砕した。破砕液を遠心分離して残渣を取り除き、GDH粗抽出液とした。この粗抽出液を85℃で30分処理して夾雑タンパク質を変性させ、変性タンパク質を遠心分離によって除いた。上清画分は50mM Tris−HCl・0.1M NaCl(pH8.0)で緩衝化したresourceQカラムを透過させた後、透過液に対液21.3%の硫酸アンモニウムを溶解させた。この液を、50mM Tris−HCl・22.8%硫酸アンモニウム(pH8.0)で緩衝化したresourceISOカラムに吸着させ、硫酸アンモニウム濃度0%までのグラジエント溶出を行い、GDH画分を集めた。この画分をさらにsuperdex200カラムを用いてゲルろ過し、得られたGDH画分を精製リコンビナントGDH溶液とした。この精製溶液は、SDS−PAGEにてCBB染色で単一バンドを示す純品であることを確認した。
<実施例5>
組換えGDHの補酵素濃度依存性および基質濃度依存性
実施例4で得られたGDHを用いて、本発明のGDHの60℃・pH8.0における最大反応速度(Vmax)およびミカエリス定数(Km)を求めた。算出方法は、上記の活性測定例に準じる方法で基質濃度と補酵素濃度を変化させて活性を測定し、両逆数プロットにより最小二乗法で決定した直線よりこれら定数を算出した。結果、補酵素としてNADを用いた場合では、ミカエリス定数(Km)はNADに対して10.3mM、グルコースに対して66.9mMであり、グルコース濃度1Mにおける最大反応速度(Vmax)は1670U/mgであった。また、補酵素としてNADPを用いた場合では、ミカエリス定数(Km)はNADPに対して0.075mM、グルコースに対して5.27mMであり、補酵素濃度5mMにおける最大反応速度(Vmax)は333U/mgであった。本発明のGDHは、各補酵素に対するミカエリス定数より、生体内では主にNADPを補酵素として働いていると推定されるが、最大反応速度はNADを用いた場合の方が5倍程度高くなる。
<実施例6>
組換えGDHの温度安定性
実施例4で得られたGDHを用いて、温度安定性を調べた。タンパク質濃度0.17mg/mLのGDH溶液(50mM Tris−HCl、0.1M NaCl pH8.0に溶解)を50℃〜95℃の範囲の温度で30分加熱し、加熱前後の活性を比較した。加熱前の活性に対する加熱後の活性の割合(活性残存率)は図1のとおりである。本発明の酵素は、90℃において96%、95℃において85%の活性残存率を示した。
<実施例7>
組換えGDH反応速度の温度依存性
実施例4で得られたGDHを用いて、反応速度の温度依存性を調べた。上述の活性測定例に準じる方法で、反応させる温度条件を85℃、80℃、60℃、37℃、25℃として各反応温度における活性を調べた。結果を表1に示す。本酵素は85℃付近で最も高い活性を示すが、37℃において40U/mg、25℃において18.6U/mgと常温においても活性を示すことがわかった。
Figure 0005641738
<実施例8>
組換えGDHのpH安定性
実施例4で得られたGDHを用いて、pH安定性を調べた。緩衝液としては、0.1Mのクエン酸バッファー(pH4.3〜6.2)、0.1Mのリン酸カリウムバッファー(pH6.1〜8.1)、0.1MのBicineバッファー(pH7.9〜8.8)、0.1Mのグリシンバッファー(pH8.8〜10.6)を用い、それぞれの緩衝液にGDHを終濃度5μg/mLとなるよう添加し、添加直後の活性を測定した。GDH溶液はさらに25℃で24時間インキュベートし、インキュベート後の活性を測定した。インキュベート前の活性に対するインキュベート後の活性の割合(活性残存率)を図2に示す。本発明のGDHはpH5.8〜9.2の範囲で活性の低下がなく、またpH4.8〜9.7の範囲で活性残存率90%以上を示した。
<実施例9>
組換えGDH反応速度のpH依存性
実施例4で得られたGDHを用いて、反応速度のpH依存性を調べた。活性測定方法としては活性測定例に従うが、活性測定例に示す反応液組成の中でBicineに相当するバッファー成分としてpH6.5〜7.9ではリン酸カリウム、pH7.9〜8.8ではBicine、pH8.6〜9.7ではCHES、pH9.8〜10.2ではグリシンをそれぞれ用いた。最も活性値の高かった条件を100とした相対活性を示したグラフが図3である。本発明のGDHは至適pH領域がアルカリ性側に分布しており、pH9.7において最も高い活性を示した。
<実施例10>
組換えGDHの基質特異性
実施例4で得られたGDHの各糖類に対する反応性を調べた。上記活性測定例に示す反応液組成のうち、補酵素として5mMのNADPもしくはNADを用い、基質に相当する糖類として150mMグルコース、キシロース、ガラクトース、マルトース、ラクトース、ソルビトール、スクロース、マンノースを用いて活性を測定した。グルコースに対する活性を100とした場合の、各基質に対する相対活性を表2に示す。NADPを補酵素とした場合の対グルコース比活性はキシロース・マルトースに対し2%程度、ガラクトース・マンノースに対し1%程度であり、ラクトース、ソルビトール、スクロースにはほとんど反応しなかった。一方、NADを補酵素とした場合では、キシロース・マルトース、ガラクトース、マンノース、ラクトース、ソルビトール、スクロースに対しグルコース比1%未満であった。特にガラクトース・キシロースに対する反応性という観点から、本酵素は公知の超好熱性始原菌由来GDHと比べて優れた基質特異性を有していることがわかった。
Figure 0005641738
<実施例11>
組換えGDH反応速度のカリウムイオン濃度依存性
実施例4で得られたGDHを用いて、反応速度のカリウムイオン濃度依存性を調べた。活性測定例に示す反応液組成に、各濃度のKClを加えた反応液を用いてGDH活性を測定した。KCl無添加条件での活性を100とした相対活性は、KCl濃度0.1mol/Lで129、0.2mol/Lで133、0.5mol/Lで146、1.0mol/Lで150であった。本発明のGDHはカリウムイオン濃度の上昇に伴って活性も上昇し、0.5mol/L以上のカリウムイオン濃度領域では活性はほぼ横ばいであることがわかった。
<実施例12>
組換えGDHを用いたグルコースの定量
グルコース定量用の試薬として、0.1mol/L Bicine、0.5mol/L KCl、20mmol/L β−NAD、1U/mL GDH(実施例4で得たもの。活性は上述の活性測定例による。)を成分として含むpH8.0の溶液を調製した。この試薬900μLを石英セルに入れ、インキュベート装置付き吸光度計にセットし、25℃で5分予備加温した。ここにグルコース溶液15μLを加えて溶液中のグルコースの終濃度が2、5、10、15mmol/Lとなるようにし、それぞれのグルコース濃度条件で25℃3分間反応させて340nmの吸光度変化をモニタリングした。3分間の吸光度変化の直線部分から1分間あたりの吸光度の上昇を算出し、グルコースの代わりに15μLの蒸留水を加えた場合の吸光度変化を差し引いた値(ΔmAbs/分)をプロットした(図4)。横軸にグルコース濃度、縦軸にΔmAbs/分をとってプロットした点の軌道は直線性を示した。最小二乗法で求めた回帰直線の決定係数はR=0.9993となり、本発明のGDHを用いて精度良くグルコース濃度の定量ができることが確認された。
本発明により製造したグルコースデヒドロゲナーゼは、血糖値測定用試薬、血糖センサー並びにグルコース定量キットの原料としての供給が可能である。
配列番号2と同一のアミノ酸配列からなる大腸菌組換えGDHの温度安定性を示す。縦軸は活性残存率(加温処理前のGDH活性を100としたときの、各温度条件で30分加温処理した後の相対活性;%)、横軸は加温処理時の温度を示す。 配列番号2と同一のアミノ酸配列からなる大腸菌組換えGDHのpH安定性を示す。縦軸は活性残存率(加温処理前のGDH活性を100としたときの、各pH条件で25℃24時間加温した後の相対活性;%)、横軸は反応液のpHを示す。但しpH4.3〜6.2は0.1Mのクエン酸バッファー、pH6.1〜8.1は0.1Mのリン酸カリウムバッファー、pH7.9〜8.8は0.1MのBicineバッファー、pH8.8〜10.6は0.1Mのグリシンバッファーを用いたデータである。 配列番号2と同一のアミノ酸配列からなる大腸菌組換えGDHのpH依存性を示す。縦軸は相対活性(活性値最大となる条件の活性を100とした場合の、各pH条件での相対活性)、横軸は反応pHを示す。但しpH6.5〜7.9ではリン酸カリウムバッファー、pH7.9〜8.8ではBicineバッファー、pH8.6〜9.7ではCHESバッファー、pH9.8〜10.2ではグリシンバッファーをそれぞれ用いたデータである。 配列番号2と同一のアミノ酸配列からなる大腸菌組換えGDHを含む組成物により、標準グルコース溶液を用いて作成した検量線を示す。縦軸は1分間あたりの340nm吸光度の上昇率(ΔmAbs/分)、横軸は反応溶液中のグルコース濃度を示す。

Claims (9)

  1. 配列番号2に示すアミノ酸配列を有するグルコースデヒドロゲナーゼ。
  2. 配列番号2に示すアミノ酸配列のうち1〜30個のアミノ酸が欠失、置換、挿入または付加されたアミノ酸配列を含み、且つマルトース、ガラクトース、及びキシロースのいずれに対しても対グルコース比3%未満の反応性を有するグルコースデヒドロゲナーゼ。
  3. 請求項1又は2に記載するグルコースデヒドロゲナーゼをコードするDNA。
  4. 請求項に記載するDNAを、該DNAを導入する宿主細胞において作動可能なプロモーターに機能的に連結されてなる発現ベクター。
  5. 請求項に記載する発現ベクターを用いて形質転換された形質転換微生物。
  6. 微生物が大腸菌である請求項に記載の形質転換微生物。
  7. 請求項またはに記載の微生物を培養し、得られる培養物よりグルコースデヒドロゲナーゼを採取することを含む、請求項1又は2に記載のグルコースデヒドロゲナーゼの製造方法。
  8. 請求項1又は2に記載するグルコースデヒドロゲナーゼを含んでなるグルコース定量用組成物。
  9. 請求項1又は2に記載するグルコースデヒドロゲナーゼを用いたグルコースの定量工程を含むことを特徴とするグルコースの定量方法。
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