以下、本発明に係る信号測定装置及び信号測定誤差調整方法の一実施形態について図面を用いて説明する。
図1に示すように、本実施形態に係る信号測定システム1は、被測定信号Sを中間周波数帯の信号(IF信号)に変換する周波数変換装置2と、周波数変換装置2によって中間周波数帯に変換された被測定信号Sのレベルを測定する信号測定装置3とを備えている。被測定信号Sを出力する被試験対象物(DUT)5としては、携帯電話や基地局などの各種の無線機器が用いられる。
周波数変換装置2は、信号測定装置3から入力された局部発振信号のオフセットを除去するHPF(High-pass Filter)10と、HPF10を通過した局部発振信号を増幅するアンプ11と、アンプ11によって増幅された局部発振信号を逓倍する逓倍器12と、局部発振信号が逓倍されたミキシング信号の特定の周波数帯域成分を通過させるBPF(Band-pass Filter)13と、BPF13を通過したミキシング信号で被測定信号Sをミキシングするミキサ14と、ミキサ14によってミキシングされた測定用信号を増幅するアンプ15と、アンプ15によって増幅された測定用信号から高周波成分を除去するLPF(Low-pass Filter)16と、を含んで構成される。
本実施形態において、逓倍器12は、局部発振信号の周波数を例えば10倍にするものとして説明するが、設計により適宜変更してもよい。BPF13は、被測定信号Sを生成するDUT5に応じた周波数帯域を通過させるように係数が設定されている。
なお、本実施形態では、被測定信号Sが導波管を通して周波数変換装置2に受信されるものとして説明するが、被測定信号Sが同軸ケーブルなどの他の媒体を通して周波数変換装置2に受信される場合には、BPF13の係数を信号測定装置3側から設定することができるようにしてもよい。
LPF16を通過した測定用信号は、信号測定装置3に出力される。本実施形態において、ミキサ14によってミキシングされる被測定信号Sの周波数帯域は、ミリ波帯のE−bandである60〜90GHzとする。
また、ミキサ14からは、規定周波数として2GHzの測定用信号が出力されることとする。したがって、BPF13は、E−bandの被測定信号Sの全帯域を測定対象とする場合には、58〜92GHzの周波数成分を通過させるように設定されている。
信号測定装置3は、局部発振信号を生成する局部発振器20と、局部発振信号の周波数が所定の周波数領域の間で変化するように局部発振器20を制御する制御部21と、局部発振信号のオフセットを除去するHPF22とを含んで構成され、HPF22を通過した局部発振信号を周波数変換装置2に出力するようになっている。
制御部21は、例えば、コンピュータ装置によって構成される。このコンピュータ装置は、例えば、図2に示すように、所定の信号が入力される入力インターフェース(I/F)211と、信号測定装置3の機能を実現するための所定の情報処理や制御を行うCPU(Central Processing Unit)212と、CPU212を立ち上げるためのOS(Operating System)やその他のプログラムおよび制御用のパラメータ等を記憶するROM(Read Only Memory)213と、CPU212が動作に用いるOSやアプリケーションの実行コードやデータ等を記憶するRAM(Random Access Memory)214と、所定の信号を出力する出力インターフェース(I/F)215と、図示しないハードディスク装置などの不揮発性の記憶媒体と、各種入出力ポートとを有する。これらのポートには、操作部23、測定部35、表示制御部37等が接続されている。
入力インターフェースI/F211には、操作部23や測定部35等から送出された各種情報が入力される。操作部23から入力される情報としては、例えば、掃引周波数範囲の設定や表示制御部37による表示に関する各種設定値などの各種パラメータや、試験(測定)の開始及び終了などを指示するコマンドなどがある。測定部35から入力される情報としては、当該測定部35による測定対象信号の測定結果を示すデータ(測定データ)等がある。出力インターフェースI/F215からは、表示制御部37に向けた、測定データ等を表示部36に表示するための表示制御用コマンド等の情報が出力される。このコンピュータ装置は、CPU212がRAM214を作業領域としてROM213に格納されたプログラムを実行することにより制御部21として機能する。
制御部21は、例えば、E−bandの被測定信号Sの全帯域を測定対象とする場合には、ミキシング信号の周波数領域である58〜92GHzのうち、所定の周波数領域(例えば、操作部23などを介して設定された周波数領域)にわたって、所定の周波数間隔(例えば、操作部23を介して設定された周波数間隔)で局部発振信号の周波数が変化するように局部発振器20を制御するようになっている。
本実施形態は、ミキシング信号として、局部発振器20によって生成された局部発振信号の周波数が逓倍器12によって10倍にされた信号を用いるため、制御部21は、局部発振器20によって生成された局部発振信号の周波数が5.8〜9.2GHzの間で変化するように局部発振器20を制御するようになっている。
信号測定装置3は、コマンドなど各種情報を入力するための操作部23、周波数変換装置2から入力された測定用信号からノイズ成分を除去するLPF30と、測定用信号を周波数変換するための局部発振信号を生成する局部発振器31と、局部発振器31によって生成された局部発振信号で測定用信号をミキシングするミキサ32と、ミキサ32によってミキシングされた信号から測定対象信号を抽出するBPF33と、BPF33を通過した測定対象信号をデジタル信号に変換するA/D(Analog to digital)コンバータ34と、デジタル信号に変換された測定対象信号のレベルを測定する測定部35と、測定部35による測定結果を表示するための表示部36、表示部36の表示に関する制御を行う表示制御部37とを更に含んで構成される。
操作部23は、例えば、被測定信号Sの測定帯域(掃引周波数範囲)、被測定信号Sの測定目標とする目標周波数、表示用の各種設定値などの各種パラメータ、並びに、試験の開始及び終了などを指示するコマンドなどを入力するものである。
本実施形態では、例えば、2GHzの測定用信号をミキサ32によって0.1GHzの測定対象信号に変換するために、局部発振器31は、0.9GHzの局部発振信号を生成するようになっている。
したがって、BPF33は、0.1GHz帯の測定対象信号を通過させるように係数が設定されている。測定部35は、制御部21による制御に応じて、測定対象信号のレベルを測定するようになっている。
測定部35は、制御部21による制御に応じて掃引される掃引周波数範囲(図3〜図5参照)の予め設定された所定間隔の周波数ごとに、A/Dコンバータ34によってデジタル信号に変換された測定対象信号のレベルを測定し、その測定結果を表示制御部37へと出力する。
表示制御部37は、測定部35が出力する被測定信号Sの測定結果を取り込んで、測定された被測定信号Sの周波数軸上の強度を、横軸を周波数、縦軸を振幅レベルとする周波数スペクトラム波形のグラフとして表示結果画面上に表示する制御を行う。表示制御部37は、例えば、ビデオカードによって構成される。
本実施形態において、制御部21は、測定部35による広帯域信号の測定を可能にすべく、予め設定した掃引周波数範囲(図3〜図5参照)内の周波数の掃引を2回に分けて実施するようになっている。ここでいう広帯域信号とは、例えば、上述した中間周波数よりも広い帯域の信号のことである。
制御部21は、2回の掃引のうち、1回目の掃引は、例えば、被測定信号Sの測定周波数からミキシング信号の周波数を減算した周波数が規定周波数となるように局部発振器20を制御することにより行い、2回目の掃引は、ミキシング信号の周波数から被測定信号Sの測定周波数を減算した周波数が規定周波数となるように局部発振器20を制御することにより行うようになっている。
すなわち、本実施形態では、被測定信号Sの測定周波数をFRF、ミキシング信号の周波数をFLOとするときに、(FRF−FLO)の周波数が規定周波数になるように局部発振器20を制御する第1の方法に従った掃引と、(FLO−FRF)の周波数が規定周波数になるように局部発振器20を制御する第2の方法に従った掃引とを切り換えて適用することができる。第2の方法に従った掃引は、−(FRF−FLO)の周波数が規定周波数になるように局部発振器20を制御する方法ということもできる。以下の説明では、第1の方法に従った掃引を正極性の掃引、第2の方法に従った掃引を負極性の掃引と称するものとする。
次に、本実施形態に係る信号測定システム1の測定周波数の掃引と測定誤差の補正の手順について図3〜図5を参照して説明する。図3は1回目の掃引の手順を示し、図4は2回目の前半の掃引の手順を示し、図5は2回目の後半の掃引の手順を示している。図4においては横軸に掃引周波数範囲を示し、縦軸の被測定信号Sの強度については図示を省略している。
図3〜図5に示す手順で2回の掃引を行うためには、まず、掃引周波数範囲を設定する。本実施形態では、例えば、操作部23からの設定に必要な情報の入力に基づいて、制御部21が、被測定信号Sの測定目標とする目標周波数、掃引を開始する周波数であるスタート周波数、及び掃引を終了する周波数であるストップ周波数とを含む掃引周波数範囲を設定する。
図3〜図5の例では、目標周波数として、被測定信号Sを発生するDUT5が使用する周波数帯域の中心周波数が設定されている。本実施形態では、中心周波数は、例えば、80GHzとする。すなわち、本実施形態では、80GHzを中心周波数とする周波数帯を使用するDUT5によって送出された被試験信号のレベルを周波数単位で測定することを想定している。スタート周波数、ストップ周波数は、それぞれ、本発明における開始周波数、停止周波数に相当する。
掃引周波数範囲を設定した後、制御部21は、図3に示すように、まず、掃引極性を正極性に設定したうえで(Seq1)、スタート周波数の周波数からの測定に対応する1回目の掃引を開始する(Seq2)。その後、制御部21は、中心周波数未満の周波数までの周波数領域(図3の「A」に示す周波数領域)の周波数の測定に対応する1回目の掃引を続行し、この間、中心周波数未満の周波数に対応する測定ポイント(以下、トレースポイント)であるセンターポイントを検知すると(Seq3)、1回目の掃引を停止する(Seq4)。
上述した1回目の掃引実行中、制御部21は、スタート周波数から中心周波数未満の周波数までの周波数領域(図3の「A」に示す周波数帯域)内に設定される複数のトレースポイントごとに測定された被測定信号Sの各々の測定結果(便宜的に、第1の測定データという)を、順次、表示部36の表示結果画面に上述したグラフとして表示する。上述したように、被測定信号Sの各々の測定結果、つまり、各々の第1の測定データは、当該グラフ上に被測定信号Sの周波数軸上の強度が分かるような周波数スペクトラム波形として表示される。すなわち、第1の測定データは、上述した周波数スペクトラム波形を有するデータである。後述する第2の測定データにおいても同様である。
また、制御部21は、1回目の掃引実行中、測定された各々の第1の測定データのうち、スタート周波数から中心周波数未満の周波数までの周波数範囲内に予め設定されている所定の周波数範囲内の各トレースポイントで測定された所定数の第1の測定データの合計値を算出する(Seq5)。上記所定の周波数範囲は、例えば、上記掃引周波数範囲の設定の際に、操作部23の操作により設定することができる。また、この所定の周波数範囲内の各トレースポイントで測定された各々の第1の測定データの合計値は後述する補正値を算出するために用いられる。このため、以下の説明では、上記所定の周波数範囲を補正値算出用周波数範囲、当該補正値算出用周波数範囲内で測定された所定数の第1の測定データを第1の補正値算出用測定データと称することがある。
1回目の掃引で、所定数の第1の測定データ(第1の補正値算出用測定データ)の合計値の算出後、制御部21は、掃引の極性を負極性に設定し(Seq6)、1回目の掃引を終了する。なお、制御部21は、1回目の掃引により算出された補正値算出用周波数範囲内の所定数の第1の測定データの合計値を例えばRAM214等の記憶領域に記憶するようになっている。また、制御部21は、1回目の掃引で中心周波数の後の周波数が掃引されたとしてもその測定データを表示しないようになっている。
1回目の掃引が終了すると、制御部21は、図4に示すように、掃引極性を負極性に設定した状態で、1回目の掃引と同様、スタート周波数の周波数からの測定に対応する2回目の掃引を開始する(Seq7)。制御部21は、その後、中心周波数未満の周波数までの周波数領域(図4の「C」に示す周波数領域)の測定周波数の測定に対応する2回目の前半の掃引を続行する。なお、図3の「A」、及び図4の「C」に示す周波数領域は、本発明における第1の周波数範囲に相当する。
2回目の前半の掃引の実行中、制御部21は、それまでの掃引によりスタート周波数から中心周波数未満の周波数までの周波数領域内に予め設定されている複数のトレースポイントごとに測定された被測定信号Sの各々の測定結果(便宜的に、第2の測定データという)については、表示部36の表示結果画面に表示させないようになっている。一方で、制御部21は、測定された各々の第2の測定データのうち、中心周波数前の予め設定されている所定の周波数範囲(補正値算出用周波数範囲;図4の「C1」参照)内の各トレースポイントで測定された所定数の第2の測定データをRAM214等の記憶領域に記憶するようになっている。上記所定数の所定数の第2の測定データもまた補正値を算出するために用いられる。このため、以下の説明では、2回目の掃引で測定される補正値算出用周波数範囲内で測定される所定数の第2の測定データを第2の補正値算出用測定データと称することがある。
上述した2回目の前半の掃引の実行中、制御部21は、センターポイントを検知すると(Seq8)、補正値算出用周波数範囲内で測定された所定数の第2の測定データの合計値を算出する(Seq9)。引き続き、制御部21は、この所定数の第2の測定データの合計値と、1回目の掃引で測定された所定数の第1の測定データの合計値とに基づいて補正値を算出する(Seq10)。
この補正値は、図5に示す2回目の後半の掃引、つまり、中心周波数からストップ周波数までの周波数範囲の周波数の掃引により各トレースポイントごとに測定される各々の第2の測定データに加算することによって、当該各々の第2の測定データを、掃引の極性の切り換えによる第1の測定データに対する測定誤差が所定の測定誤差以下となる周波数レベルに対応する値である。
図4に示す2回目の前半の掃引が終了し、補正値が算出された後、制御部21は、図5に示すように、2回目の後半の掃引、つまり、中心周波数からストップ周波数までの周波数範囲に対応する掃引を開始する。この中心周波数からストップ周波数までの周波数範囲は、本発明の第2の周波数範囲に相当する。この2回目の後半の掃引において、制御部21は、第2の周波数範囲内に設定されている各トレースポイントごとに測定される各々の第2の測定データのうち、中心周波数に最も近いトレースポイントであるセンターポイントの次のトレースポイントで測定される第2の測定データから順にそれ以降に測定される各々の第2の測定データを補正する処理を行う(Seq11)。ここで制御部21は、第2の周波数範囲内の各トレースポイントで測定される各々の第2の測定データに図4のSeq10で算出した補正値を加算する処理を行う。
図5に示す2回目の後半の掃引において、掃引周波数がストップ周波数に達すると、制御部21は、2回目の掃引を終了する(Seq12)。その後、制御部21は、掃引の極性を正極性に戻し(Seq13)、次の測定に移行する準備を整える。
このように、制御部21は、第1の周波数範囲の周波数の掃引を行う1回目の掃引と、第1の周波数範囲及び第2の周波数範囲の周波数の掃引を行う2回目の掃引の切り換えに対応して局部発振信号の周波数を所定の周波数領域間で変化させるように局部発振器20を制御する。測定部35は、局部発振信号が逓倍されたミキシング信号で被測定信号がミキシングされた規定周波数の測定対象信号のレベルを各トレースポイントごとに測定する。さらに、表示制御部37は、1回目の掃引により第1の周波数範囲の予め設定された周波数ごとに測定された各々の第1の測定データと、2回目の掃引により第1及び第2の周波数範囲の予め設定された周波数ごとに測定された複数の第2の測定データのうちの第2の周波数範囲内で測定された各々の第2の測定データとを結合して表示部36に表示させる表示制御を実行する。
図6は、図3〜図5に示す2回の掃引と2回目の後半の掃引で測定される各々第2の測定データの測定誤差の補正処理を実現する制御部21の機能構成をブロック図で示したものである。
図6に示すように、本実施形態の制御部21は、掃引範囲設定部21a、掃引制御部21b、測定データ記憶制御部21c、記憶部21d、補正値算出部21e、測定誤差補正部21fを有して構成されている。
掃引範囲設定部21aは、操作部23の操作に応じて入力される設定コマンドや設定値情報に基づき、被測定信号Sの測定目標とする目標周波数、スタート周波数及びストップ周波数が規定された掃引周波数範囲、及び補正値算出用周波数範囲を設定する。掃引範囲設定部21aは、目標周波数として、DUT5が使用する周波数帯域の中心周波数、つまり、被測定信号Sの中心周波数を設定可能である。これに限らず、掃引範囲設定部21aは、DUT5が使用する周波数帯域内の任意の周波数を設定することができる。
補正値算出用周波数範囲としては、目標周波数から該目標周波数より小さい所定の周波数までの周波数範囲が設定される。目標周波数として被測定信号Sの中心周波数を設定した場合、補正値算出用周波数範囲としては、当該中心周波数より前の所定の周波数までの帯域幅の周波数範囲が設定される(図3の「A1」、図4の「C1」参照)。このような補正値算出用周波数範囲は、例えば、掃引周波数範囲の予め設定された各トレースポイントに対応する周波数を全て含む帯域幅の10分の1に設定されていることが望ましい。具体例として、掃引周波数範囲の周波数を1000個のトレースポイントで測定する場合、補正値算出用周波数範囲が、100個のトレースポイントを含む周波数帯域幅の10パーセント程度の帯域幅に設定されることが好ましい(図9参照)。
掃引制御部21bは、掃引周波数範囲の設定に基づいて、図3〜図5に例示したように、局部発振器20を制御しつつ、1回目の掃引は正極性に設定して第1の周波数範囲の周波数の掃引を行い、2回目の掃引は負極性に設定して第1の周波数範囲及び第2の周波数範囲の周波数の掃引を行う。
測定データ記憶制御部21cは、1回目の掃引と2回目の掃引で測定部35により測定される測定対象信号の測定データ(第1の測定データ及び第2の測定データ)のうちの必要な第1の測定データ及び第2の測定データを記憶部21dに記憶するとともに、記憶した第1の測定データ及び第2の測定データを記憶部21dから読み出す制御を行う。
記憶部21dは、測定データ記憶制御部21cによる制御に応じて、1回目の掃引で測定される各々の第1の測定データ、2回目の掃引で測定される複数の第2の測定データのうちの上述した第2の周波数範囲内で測定される各々の第2の測定データを記憶するものである。記憶部21dは、上述した各々の第1の測定データ、上述した複数の第2の測定データとは別に、1回目の掃引と2回目の前半の掃引とで補正値算出用周波数範囲内で測定されるそれぞれ所定数の第1の測定データ及び第2の測定データを記憶する構成としてもよい。
補正値算出部21eは、記憶部21dに記憶された1回目の掃引と2回目の前半の掃引とで補正値算出用周波数範囲内で測定されるそれぞれ所定数の第1の測定データ及び第2の測定データに基づいて、第1の掃引と第2の掃引の極性の切り換えによる測定誤差を補正するための補正値を算出する。具体的に、補正値算出部21eは、所定数の第1の測定データの平均値と、同数の第2の測定データの平均値の差を上記補正値として算出する。
測定誤差補正部21fは、補正値算出部21eにより算出された補正値を用いて、2回目の後半の掃引で測定される第2の周波数範囲内の各々の第2の測定データをそれぞれ補正する処理を行う。具体的に、測定誤差補正部21fは、上述した各々の第2の測定データに上記補正値をそれぞれ加算する処理を行う。
本実施形態では、制御部21は、測定部35、表示制御部37を含む構成としてもよい。この場合の測定部35、表示制御部37についてもCPU212により構成することができる。
以上のように構成された本実施形態の信号測定装置3の信号測定処理動作について図7及び図8を参照して説明する。
信号測定処理を開始するに際し、掃引範囲設定部21aはまず、図7に示すように初期設定の処理を行う(ステップS1)。掃引範囲設定部21aは、操作部23での設定操作に応じた入力を受け付け、被測定信号Sの中心周波数を目標周波数としかつスタート周波数及びストップ周波数を含む掃引周波数範囲、並びに補正値算出用周波数範囲を設定する。また、掃引範囲設定部21aは、操作部23からの入力情報に基づき、1回目の掃引と2回目の掃引ごとの掃引周波数範囲と極性を設定する。
次に、掃引制御部21bは、初期設定の設定内容に基づいて、1回目の掃引を開始する(ステップS2)。1回目の掃引では、掃引制御部21bは、例えば、被測定信号Sの測定周波数からミキシング信号の周波数を減算した周波数が規定周波数となるように局部発振器20を制御しつつ(ステップS3)、スタート周波数から中心周波数未満の周波数までの周波数範囲の掃引を実行する。
1回目の掃引の実行中、測定データ記憶制御部21cは、スタート周波数から中心周波数未満の周波数までの周波数範囲の各トレースポイントで測定部35によってそれぞれ測定される各々の第1の測定データを各トレースポイントの周波数に対応して記憶部21dに記憶する処理を行う。また、表示制御部37は、測定部35によって測定された各々の第1の測定データを表示部36の表示結果画面に順次表示する処理を行う(ステップS4)。
ステップS3、S4の処理を実行しつつ、掃引制御部21bは、現在の掃引周波数が補正値算出用周波数範囲の周波数であるか否かを判定する(ステップS5)。ここで、補正値算出用周波数範囲の周波数でないと判定された場合(ステップS5でNO)、掃引制御部21bは、ステップS3〜S5の処理を続行するように制御する。
一方、ステップS5において、補正値算出用周波数範囲の周波数であると判定された場合(ステップS5でYES)、測定データ記憶制御部21cは、補正値算出用周波数範囲の各トレースポイントで測定部35によってそれぞれ測定される各々の第1の測定データを、各トレースポイントの周波数に対応して、記憶部21dの上記各々の第1の測定データとは別の記憶エリアに第1の補正値算出用測定データとして記憶する処理を行う(ステップS6)。
上記ステップS3〜S6の処理を実行しつつ、掃引制御部21bは、現在の掃引周波数が中心周波数であるか否かを判定する(ステップS7)。ここで、中心周波数ではないと判定した場合(ステップS7でNO)、掃引制御部21bは、ステップS3以降の掃引制御を続行するように制御する。
これに対し、ステップS7において、中心周波数であると判定した場合(ステップS7でYES)、掃引制御部21bは、2回目の掃引の準備、例えば、掃引の極性の切り換えに係る処理を実行し(ステップS8)、その後、1回目の掃引を終了する。
ステップS8の処理によって2回目の掃引を開始する準備が整うと、掃引制御部21bは、図8に示すように、ステップS1での初期設定の設定内容に基づいて、2回目の掃引制御を開始する(ステップS11)。2回目の前半の掃引については、掃引制御部21bは、例えば、ミキシング信号の周波数から被測定信号Sの測定周波数を減算した周波数が規定周波数となるように局部発振器20を制御しつつ(ステップS12)、まず、スタート周波数から中心周波数未満の周波数までの周波数範囲の掃引を実行する。
2回目の前半の掃引の実行中、掃引制御部21bは、現在の掃引周波数が補正値算出用周波数範囲の周波数であるか否かを判定する(ステップS13)。ここで、補正値算出用周波数範囲の周波数でないと判定された場合(ステップS13でNO)、掃引制御部21bは、ステップS12、S13の処理を続行するように制御する。
一方、ステップS13において、補正値算出用周波数範囲の周波数であると判定された場合(ステップS13でYES)、測定データ記憶制御部21cは、補正値算出用周波数範囲の各トレースポイントで測定部35によってそれぞれ測定される各々の第2の測定データを、各トレースポイントの周波数に対応して、記憶部21dの上述した第1の補正値算出用測定データとは別の記憶エリアに第2の補正値算出用測定データとして順に記憶する処理を行う(ステップS14)。
なお、上記ステップS11で2回目の前半の掃引を開始した後、測定データ記憶制御部21cは、スタート周波数から中心周波数未満の周波数までの掃引周波数範囲の各トレースポイントでそれぞれ測定される各々の第2の測定データのうち、補正値算出用周波数範囲外で測定された第2の測定データについては記憶部21dに記憶しないように制御し、表示制御部37は、当該各々の第2の測定データを表示部36に表示しないように制御する。
上記ステップS12〜S14の処理を実行しつつ、掃引制御部21bは、現在の掃引周波数が中心周波数であるか否かを判定する(ステップS15)。ここで、中心周波数ではないと判定した場合(ステップS15でNO)、掃引制御部21bは、ステップS12以降の掃引制御を続行するように制御する。
これに対し、ステップS15において、中心周波数であると判定した場合(ステップS15でYES)、補正値算出部21eは、ステップS6で記憶した第1の補正値算出用測定データと、ステップS14で記憶した第2の補正値算出用測定データに基づいて補正値を算出する処理を行う(ステップS16)。
この処理において、補正値算出部21eは、まず、第1の補正値算出用測定データである上記所定数の第1の測定データを記憶部21dから読み出してその合計値を算出するとともに、第2の補正値算出用測定データである上記所定数の第2の測定データを記憶部21dから読み出してその合計値を算出する。次に、補正値算出部21eは、上記所定数の第1の測定データの平均値を算出する一方、上記所定数の第2の測定データの平均値を算出する。さらに、補正値算出部21eは、上記所定数の第1の測定データの平均値と上記所定数の第2の測定データの平均値との差を算出し、その算出結果を補正値として記憶部21dの所定の記憶エリアに記憶する。
引き続き、掃引制御部21bは、2回目の後半の掃引を続行する。2回目の後半の掃引の実行中、測定誤差補正部21fは、当該後半の掃引周波数範囲である中心周波数からストップ周波数までの周波数範囲の各トレースポイントで測定される各々の第2の測定データを上記ステップS16で算出した補正値で補正する処理を行う(ステップS17)。具体的に、掃引制御部21bは、2回目の後半の掃引周波数範囲の各トレースポイントでそれぞれ測定される各々の第2の測定データに上記補正値を加算する処理を行って当該各々の第2の測定データを補正する。
さらに、表示制御部37は、ステップS17での補正後の上記各々の第2の測定データを表示部36の表示結果画面に表示する(ステップS18)。その際、表示制御部37は、補正後の各々の第2の測定データのうちの先頭の第2の測定データ、つまり、2回目の後半の掃引周波数範囲内で中心周波数に最も近い周波数に対応するトレースポイントで測定されかつ補正された第2の測定データを、1回目の掃引中に測定され、かつ、上記表示結果画面に表示されている各々の第1の測定データのうちの一番最後の第1の測定データ、つまり、1回目の掃引周波数範囲内で中心周波数に最も近い周波数に対応するトレースポイントで測定される第1の測定データに結合して表示する。また、その後に順次測定されかつ測定誤差が補正される各々第2の測定データについては、順に直前の補正後の第2の測定データに結合して表示する。
上記ステップS17、18の処理を継続して実行しつつ、掃引制御部21bは、掃引周波数がストップ周波数に達したか否か、つまり、測定が終了したか否かを判定する(ステップS19)。ここで、測定が終了していないと判定した場合(ステップS19でNO)、制御部21は、上記ステップS17、S18の処理をさらに続行するよう制御する。具体的に、制御部21では、掃引制御部21bが2回目の後半の掃引を続行しつつ、測定誤差補正部21が測定部35により順次測定される各々の第2の測定データの測定誤差を補正し、表示制御部37が補正後の各々の第2の測定データを表示部36の表示結果画面に表示する制御を続行する。
これに対し、上記ステップS17、S18の処理の継続実行中、測定が終了していると判定した場合(ステップS19でYES)、掃引制御部21bは、図7及び図8に示した一連の信号測定制御を終了する。
次に、本実施形態の信号測定装置3の信号測定処理について具体的なデータ例に挙げて説明する。図9は、掃引周波数範囲内に例えば1000個のトレースポイントを設定して被測定信号Sを測定する場合の各トレースポイントにそれぞれ対応する周波数ごとの測定データの例を示している。
図9において、図9(a)は、1回目の掃引でスタート周波数から中心周波数未満の周波数までの掃引周波数範囲における各トレースポイントTP1、〜、TP500でそれぞれ測定される各々の第1の測定データ((D1−1)、〜、(D1−500))を示している。図9(b)は、2回目の掃引でスタート周波数からストップ周波数までの掃引周波数範囲における各トレースポイントTP1、〜、TP1000でそれぞれ測定される各々の第2の測定データ((D2−1)、〜、(D2−1000))を示している。これら第1及び第2の測定データは、上述したスペクトラムを各トレースポイントの周波数にそれぞれ対応付けて記憶したものであり、各々周波数軸上の強度はdBで表されている。
本実施形態において、補正値算出部21eは、図8のステップS16での補正値の算出処理において、まず、1回目の掃引により各トレースポイントTP1、〜、TP500でそれぞれ測定される各々の第1の測定データ((D1−1)、〜、(D1−500))のうち、補正値算出用周波数範囲に設定されているトレースポイントTP490、〜、TP50ごとにそれぞれ測定される所定数の第1の測定データ((D1−490)、〜、(D1−500))の平均値を求める。
次に、2回目の掃引により各トレースポイントTP1、〜、TP500でそれぞれ測定される各々の第2の測定データ((D2−1)、〜、(D2−500))のうち、補正値算出用周波数範囲に設定されているトレースポイントTP490、〜、TP50ごとにそれぞれ測定される所定数の第2の測定データ((D2−490)、〜、(D2−500))の平均値を求める。
さらに補正値算出部21eは、所定数の第1の測定データ((D1−490)、〜、(D1−500))の平均値と、所定数の第2の測定データ((D2−490)、〜、(D2−500))の平均値の差を補正値(D0)として求める。
図9(c)は、1回目の掃引により各トレースポイントTP1、〜、TP500でそれぞれ測定される各々の第1の測定データ((D1−1)、〜、(D1−500))と、2回目の後半の掃引により各トレースポイントTP501〜TP1000でそれぞれ測定される各々の第2の測定データ((D2−501)、〜、(D2−1000))の補正後の値((D2−501)+D0、〜、(D2−1000)+D0)を結合した状態を示している。
図9(c)に示すように、制御部21において、測定誤差補正部21fは、2回目の後半の掃引で測定された各々の第2の測定データ((D2−500)、〜、(D2−1000))を、上記補正値(D0)を加算した値に補正している(図8のS18参照)。この処理により、1回目の掃引で測定された各々の第1の測定データ((D1−1)、〜、(D1−500))と、補正後の各々の第2の測定データ((D2−501)+D0、〜、(D2−1000)+D0)とを結合した状態では、掃引の極性の切り換えによる第1の測定データに対する第2の測定データの測定誤差が解消されている。
本件の発明者は、上記実施形態に示した条件で信号測定装置3により被測定信号Sの測定する状況下で、本実施形態の測定誤差補正処理を適用しない従来装置では同条件での測定した場合には1dB程度であった測定誤差を、本実施形態の測定誤差補正処理を適用することによって0.01dB程度以下に調整し得ることを確認することができた。
なお、本実施形態では、被測定信号Sを発生するDUT5が使用する周波数帯域の中心周波数を目標周波数として設定し、中心周波数より前の所定の周波数帯域の測定データに基づき補正値を算出しているが、本発明はこれに限るものではなく、補正値を算出する周波数帯域は任意に設定可能である。要するに、本発明は、DUT5が使用する全周波数帯域内の所望の周波数を目標周波数として設定し、当該目標周波数より前の所定の周波数帯域の測定データに基づき補正値を算出する構成であればよい。
また、本実施形態において、1回目の掃引は正極性で、2回目の掃引は負極性で行う場合について述べたが、本発明は、これに限らず、1回目の掃引については正極性と負極性のうちのいずれか一方の極性の掃引を実行し、2日目の掃引については他方の極性に切り換えて掃引を実行する構成としてもよい。
以上説明したように、本実施形態では、補正値算出部21eが、補正値算出用周波数範囲内で測定された所定数の第1の測定データと、同じ補正値算出用周波数範囲内で測定された所定数の第2の測定データと、に基づき、極性の異なる1回目の掃引と2回目の掃引の切り換えによる第2の周波数範囲内で測定された各々の第2の測定データの測定誤差を補正する補正値を算出し、測定誤差補正部21fが、算出された補正値に基づき測定誤差を補正するようになっている。
この構成により、本実施形態では、補正値算出部21eが、1回目の掃引と2回目の掃引により、同じ測定タイミングと同じ補正値算出用周波数範囲内のそれぞれ所定数の第1及び第2の測定データを用いて測定対象の周波数の揺らぎの影響を受けない補正値を算出することができる。また、測定誤差補正部21fは、補正値算出部21eにより算出された補正値を用いて、2回目の掃引による各々の第2の測定データの掃引の極性の切り換えによる測定誤差を所定の誤差以下に補正することができる。
その結果、本実施形態において、表示制御部37は、2回目の掃引による補正後の測定結果を1回目の掃引による測定結果に対して段差が抑制され、かつ、利用者に違和感を与えることがないように結合表示することが可能になる。
また、本実施形態では、補正値算出部21eは、所定数の第1の測定データの平均値と所定数の第2の測定データの平均値との差を補正値として算出するようになっている。
これにより、本実施形態では、1回目の掃引と2回目の掃引とで被測定信号が揺らいでいたとしても、各掃引に共通の補正値算出用周波数範囲のそれぞれ所定数の第1及び第2の測定データのそれぞれの平均値の差は殆ど発生せず、補正値算出部21eは、被測定信号の揺らぎの影響の少ない補正値を算出することができる。
また、本実施形態では、補正値算出用周波数範囲は、中心周波数から該中心周波数より小さい所定の周波数までの周波数範囲に設定されている。このように、本実施形態では、補正値を得るための補正値算出用周波数範囲を、被試験対象物が使用する周波数帯域の中心周波数を含む周波数範囲に設定しているため、測定誤差補正部21fは、極性の異なる掃引の切り換えがなされる中心周波数を境にそれより後の各々の第2の測定データの測定誤差を確実に補正できる。
また、本実施形態では、補正値算出用周波数範囲は、中心周波数から、掃引周波数範囲の予め設定された全ての周波数の測定ポイントを含む帯域幅の10分の1の帯域幅に設定されている。このため、本実施形態では、補正値算出用周波数範囲が狭すぎたり広すぎたりして補正算出部21eによる補正値の精度が低下することを回避することができる。