以下、図面に基づいて本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の歯車装置を詳細に説明する。図1は、本発明の実施形態の一例に係る偏心揺動型の歯車装置の全体断面図、図2は、図1の要部拡大断面図である。
本歯車装置10は、揺動歯車に相当する2枚の外歯歯車12(12A、12B)と、2つの偏心体14(14A、14B)を有し該外歯歯車12を揺動回転させるクランク軸16と、外歯歯車12が内接噛合する内歯歯車18と、外歯歯車12の自転成分を取り出す一対のキャリヤ20(20A、20B)と、を備える。
本歯車装置10では、偏心体14、偏心体軸受30、および外歯歯車12の動力伝達系40として入力側動力伝達系40A、出力側動力伝達系40Bの2列(2系統)が並列に配置されている。これは、歯車装置10の動力伝達容量をより大きく確保するためである。
つまり、この歯車装置10では、軸方向入力側の動力伝達系40Aとして、偏心体14A、偏心体軸受30A、および外歯歯車12Aを備える。また、軸方向出力側の動力伝達系40Bとして、偏心体14B、偏心体軸受30B、および外歯歯車12Bを備える。以下では、適宜添え字符号A、Bを付すことによって入力側動力伝達系40A、出力側動力伝達系40Bの部材や部位の区別を行う。
以下、より詳細に説明する。
本歯車装置10は、偏心体14を有し外歯歯車12を揺動回転させるクランク軸16を備える。
クランク軸16は、本歯車装置10の入力軸に相当している。クランク軸16は、軸方向に貫通する中空部16Pを有する筒状に形成され、軸方向端部にタップ穴16Tが形成されている。クランク軸16には、このタップ穴16Tを利用して駆動系の動力を歯車装置10に入力するための動力入力部材(図示略)が連結される。クランク軸16は、外歯歯車12を揺動させるための偏心体14を有している。偏心体14と外歯歯車12との間には、偏心体軸受30が配置されている。
偏心体14、偏心体軸受30、および外歯歯車12の構成については、後に詳述する。
外歯歯車12は、内歯歯車18に内接噛合している。内歯歯車18は、ケーシング24と一体化された内歯歯車本体18Eと、該内歯歯車本体18Eの内周に軸方向に沿って形成されたピン溝18Fと、該ピン溝18Fに回転自在に組み込まれ、当該内歯歯車18の内歯を構成する円柱状の内歯ピン18Gと、を有している。内歯歯車18の内歯の歯数(内歯ピン18Gの本数)は、外歯歯車12の外歯の歯数よりも僅かだけ(この例では1だけ)多い。
外歯歯車12の軸方向両側には、一対のキャリヤ20が配置されている。具体的には、外歯歯車12の軸方向入力側(反負荷側)に入力側キャリヤ20Aが配置され、外歯歯車12の軸方向出力側(負荷側)に出力側キャリヤ20Bが配置されている。
キャリヤ20は、一対の主軸受26を介してケーシング24に回転自在に支持されている。具体的には、ケーシング24と入力側キャリヤ20Aとの間に入力側主軸受26Aが配置され、ケーシング24と出力側キャリヤ20Bとの間に出力側主軸受26Bが配置されている。主軸受26は、この歯車装置10では、背面合わせで組み込まれたアンギュラ玉軸受で構成されている。
クランク軸16とキャリヤ20との間には、一対のクランク軸軸受50が配置されている。具体的には、入力側キャリヤ20Aとクランク軸16との間に入力側クランク軸軸受50Aが配置され、出力側キャリヤ20Bとクランク軸16との間に出力側クランク軸軸受50Bが配置されている。入力側クランク軸軸受50Aは、内輪50A1、外輪50A2、および転動体50A3を有する玉軸受で構成されている。出力側クランク軸軸受50Bは、内輪50B1、外輪50B2、および転動体50B3を有する玉軸受で構成されている。
各外歯歯車12A、12Bには、各々の軸心C12A、C12Bからオフセットした位置において、複数(図1では1本のみ図示)の内ピン22が貫通している。外歯歯車12A、12Bには、内ピン22が貫通する複数の内ピン穴12A1、12B1がそれぞれ形成されている。内ピン22は、外歯歯車12を貫通しているため、外歯歯車12の自転と同期した動きをする。
内ピン22は、出力側キャリヤ20Bから入力側キャリヤ20Aに向けて一体的に突出している。内ピン22の先端は、入力側キャリヤ20Aに形成した凹部20A1に嵌入されている。内ピン22は、ボルト27を介して入力側キャリヤ20Aと連結されている。これにより、入力側キャリヤ20Aと出力側キャリヤ20Bが一体化されている。
この歯車装置10では、内ピン22には摺動促進部材として内ローラ23が外嵌されている。内ローラ23は、その一部が外歯歯車12の内ピン穴12A1、12B1と当接している。内ローラ23の外径は、内ピン穴12A1、12B1の内径よりも小さく、内ローラ23と内ピン穴12A1、12B1との間には、偏心体14の偏心量e14(e14A、e14B)の2倍に相当する隙間が確保されている。外歯歯車12の揺動成分は、当該内ローラ23と内ピン穴12A1、12B1との間に確保された隙間によって吸収される。
次に、図2を合わせて参照しつつ、偏心体14、偏心体軸受30、および外歯歯車12の構成について、詳細に説明する。
本歯車装置10は、クランク軸16の外周に偏心体14が配置され、偏心体14(14A、14B)と外歯歯車12(12A、12B)との間に、偏心体軸受30(30A、30B)が配置されている。なお、本歯車装置10の偏心体軸受30は、一部が偏心体14あるいは外歯歯車12と一体化(兼用)されている。便宜上、本歯車装置10における基礎的な部材を分けて捉え(想像線参照)、各部材の技術的な説明をした上で、一体化されている構成について説明することとする。
図1に戻って、入力側の偏心体14Aの軸心C14Aと、出力側の偏心体14Bの軸心C14Bは、外歯歯車12A、12Bの揺動バランスを維持するために、互いに180度の位相差で偏心している(偏心方向が真逆である)。今、クランク軸16の軸心C16を含む断面(図1、図2の断面)において、クランク軸16の軸心C16と、外歯歯車12Aと外歯歯車12Bの軸方向中央の平面Scとが交わる点を、点Pcと称すると、入力側動力伝達系40Aと出力側動力伝達系40Bは、点Pcに対して、「点対称」の構成を有している。すなわち、入力側動力伝達系40Aの偏心体14A、偏心体軸受30A、および外歯歯車12Aと、出力側動力伝達系40Bの偏心体14B、偏心体軸受30B、および外歯歯車12Bの構成は、偏心方向が異なる以外は、基本的に同一である。
偏心体軸受30は、第1転動体31(31A、31B)と、該第1転動体31よりも軸方向外側に配置された第2転動体32(32A、32B)とを有する複列アンギュラ玉軸受に相当する軸受である。別言するならば、入力側の偏心体軸受30Aは、第1転動体31Aと、該第1転動体31Aよりも軸方向外側に配置された第2転動体32Aを有する。出力側の偏心体軸受30Bも、第1転動体31Bと、該第1転動体31Bよりも軸方向外側に配置されたおよび第2転動体32Bを有している。
ここで、「軸方向外側(あるいは軸方向内側)」の語は、歯車装置10の内部空間P1、外部空間P2をベースにして用いられている。より具体的には、本歯車装置10においては前記点Pcを含む平面Scの位置が、歯車装置10の内部空間P1の軸方向中央に相当している。したがって歯車装置10の内部空間P1の軸方向中央に相当する平面Scから歯車装置10の外部空間P2に向かう側が「軸方向外側」であり、外部空間P2から歯車装置10の内部空間P1の軸方向中央の平面Scに向かう側が「軸方向内側」である。
以上の定義の下で換言するならば、偏心体軸受30は、入力側も、出力側も、第1転動体31(31A、31B)と、該第1転動体31に対して軸方向外側に配置された第2転動体32(32A、32B)と、を有している。入力側の第1転動体31Aと第2転動体32Aは、心間距離L(31A−32A)だけ軸方向にずれて配置されている。出力側の第1転動体31Bと第2転動体32Bも、心間距離L(31B−32B)だけ軸方向にずれて配置されている。なお、偏心体軸受30の第1転動体31と第2転動体32は、周方向から見たときに重なっていない。
偏心体軸受30は、当該第1転動体31の第1接触角θ31(θ31A、θ31B)と第2転動体32の接触角θ32(θ32A、θ32B)が、零でない態様で組み込まれた軸受とされている。
接触角とは、転動体の作用線が、径方向(ラジアル方向)に対して有する角度を指している。例えば、入力側の第1転動体31Aの第1接触角θ31Aの場合、第1作用線Fa1は、第1転動体31Aと、後述する第1内輪転走面45Aおよび第1外輪転走面41Aとの接触中点P45A、P41Aを結んだ線に相当する。
同様の定義により、出力側の第1転動体31Bの第1接触角はθ31B、入力側の第2転動体32Aの第2接触角はθ32A、出力側の第2転動体32Bの第2接触角はθ32Bである。本歯車装置10では、第1転動体31A、31Bの第1接触角θ31A、θ31B、第2転動体32A、32Bの第2接触角θ32A、θ32Bは、全て30度(≠0)に設定されている。
偏心体軸受30の第1転動体31および第2転動体32は、共に、外歯歯車12の軸方向端面よりも軸方向に突出している。
具体的には、入力側の偏心体軸受30Aの第1転動体31Aの軸方向内側端31A5は、外歯歯車12Aの軸方向内側端面12A5より軸方向内側にδ31A5だけ突出している。入力側の偏心体軸受30Aの第2転動体32Aの軸方向外側端32A6は、外歯歯車12Aの軸方向外側端面12A6より軸方向外側にδ32A6だけ突出している。出力側の偏心体軸受30Bの第1転動体31Bの軸方向内側端31B5は、外歯歯車12Bの軸方向内側端面12B5より軸方向内側にδ31B5だけ突出している。出力側の偏心体軸受30Bの第2転動体32Bの軸方向外側端32B6は、外歯歯車12Bの軸方向外側端面12B6より軸方向外側にδ32B6だけ突出している。
なお、外歯歯車の軸方向端面は、必ずしも面一でないこともあるが、ここでの外歯歯車の軸方向端面は、外歯歯車が偏心体軸受と径方向に隣接する部分の軸方向端面を指している。より具体的には、偏心体軸受が外輪を有している場合には、該外輪が当接している部分の外歯歯車の軸方向端面を指す。偏心体軸受が外輪を有していない場合(外歯歯車が外輪を兼用している場合)は、転動体が当接している部分の外歯歯車の軸方向端面を指す。本歯車装置10においては、偏心体軸受30は、外輪を有さず、外歯歯車12が外輪を兼用しているため、「外歯歯車の軸方向端面」は、第1、第2転動体31、32が当接している部分の外歯歯車12の軸方向端面12A5、12A6、12B5、12B6を指している。
第1、第2転動体31、32の外径は、d31(d31A、d31B)、d32(d32A、d32B)、外歯歯車12の当該第1、第2転動体31、32が当接している部分の軸方向幅は、W12(W12A、W12B)である。第1転動体31の外径d31と、第2転動体32の外径d32の合計は、外歯歯車12の当該部分の軸方向幅W12よりも大きい((d31+d32)>W12)。つまり、第1、第2転動体31、32の外径d31、d32は、突出しなければ外歯歯車12の軸方向幅W12に治まらない大きさに(大きく)設定されている。
第1転動体31は、第1リテーナ33(33A、33B)によって、第2転動体32は、第2リテーナ34(34A、34B)によって、それぞれ保持されている。
前述したように、本歯車装置10では、クランク軸16、偏心体14(14A、14B)、偏心体軸受30(30A、30B)、および外歯歯車12(12A、12B)は、一部は一体化され(同一の部材により一体的に構成され)、一部は別体で(別の部材で)構成されている。
今、動力伝達系40A側に着目すると、第2転動体32Aの第2内輪36Aは、第1転動体31Aの第1内輪35Aよりも軸方向外側に配置されている。第1転動体31Aの第1内輪35Aと、第2転動体32Aの第2内輪36Aは、別体で構成されている。
第1内輪35Aは、第1偏心体13Aと一体化され、さらに、クランク軸16とも一体化されている(同一の部材により一体的に構成されている)。
偏心体14Aは、第1偏心体13Aと、該第1偏心体13Aよりも径方向外側に配置される第2偏心体15Aと、を有する。第1偏心体13Aと第2偏心体15Aは一体に構成されている。第1偏心体13Aと第2偏心体15Aは、クランク軸16とも一体化されている。
第1転動体31Aの第1内輪35Aは、第1偏心体13Aと一体化(兼用)されている。具体的には、第1偏心体13Aの外周部に、第1内輪35Aの第1内輪転走面45Aが一体的に形成されている。なお、第1内輪転走面45Aの軸方向外側には、該第1内輪転走面45Aの軸方向外側端が軸と平行に延在された第1外側延在部45A1が形成されている。第1内輪転走面45Aの軸方向内側には、該第1内輪転走面45Aの軸方向内側端が軸と平行に延在された第1内側延在部45A2が形成されている。
第2転動体32Aの第2内輪36Aは、第2偏心体15Aとは別体に構成されている。第2内輪36Aには、第2内輪転走面46A、第2内側延在部46A1、第2外側延在部46A2が、第1内輪35A側と対称(内側、外側が逆)に形成されている。
本歯車装置10では、既に述べたように、第1内輪35Aは、第1偏心体13Aと一体化されると共に、クランク軸16とも一体化されている(同一の部材により一体的に構成されている)。
しかしながら、第2転動体32Aの第2内輪36Aは、第2偏心体15Aおよびクランク軸16とは別体に構成されている。第2内輪36Aは、第2偏心体15Aおよびクランク軸16に対し、周方向に連結されている。
第2内輪36Aと第2偏心体15Aとの周方向の連結手法は、特に限定されない。この歯車装置10では、圧入による連結を採用している。第2内輪36Aは、クランク軸16を支持するクランク軸軸受50Aによって(具体的には、内輪50A1と当接することによって)クランク軸16(あるいは第2偏心体15A)に対する軸方向外側への移動が規制されている。なお、第2内輪36Aの軸方向内側への移動は、クランク軸16および第1偏心体13Aと一体化された第1内輪35Aとの当接によって規制されている。
なお、前述したように、第2偏心体15Aは、クランク軸16と一体化されている。結局、この歯車装置10では、第1偏心体13Aがクランク軸16と一体化されると共に、第2偏心体15Aもクランク軸16と一体化されており、偏心体14Aは、全てクランク軸16と一体化されている。
一方、本歯車装置10の偏心体軸受30Aは、第1転動体31Aの第1外輪38Aと、該第1外輪38Aよりも軸方向外側に配置される第2転動体32Aの第2外輪39Aとを、有する。ただし、第1外輪38Aと第2外輪39Aは、双方とも、外歯歯車12Aと一体化(兼用)されている(同一の部材により一体的に構成されている)。
具体的には、第1外輪38Aの第1外輪転走面41Aおよび第2外輪39Aの第2外輪転走面42Aは、外歯歯車12Aの内周角部に形成されている。なお、第1外輪38Aの第1外輪転走面41Aと第2外輪39Aの第2外輪転走面42Aとの間には(転走面の形成されない)分離帯43Aが形成されている。
第1外輪38Aの第1外輪転走面41Aは、第1接触角θ31Aに相当する角度だけ径方向から傾いた方向(第1作用線Fa1の方向)において、第1内輪35Aの第1内輪転走面45Aと対向して形成されている。同様に、第2外輪39Aの第2外輪転走面42Aは、第2接触角θ32Aに相当する角度だけ径方向から傾いた方向(第2作用線Fa2の方向)において、第2内輪36Aの第2内輪転走面46Aと対向して形成されている。
ここまでの動力伝達系40A側の構成は、点対称で構成されている動力伝達系40B側も同様である。よって、動力伝達系40B側については、図中で対応する部位に、添え字Bが付された同一の符号を付すに止める。
なお、本歯車装置10では、入力側の偏心体軸受30Aの第1内輪35A(第1偏心体13A)と、出力側の偏心体軸受30Bの第1内輪35B(第1偏心体13B)は、一体化されている。つまり、入力側の偏心体軸受30Aの第1内輪35Aと、出力側の偏心体軸受30Bの第1内輪35Bは、軸方向に隙間を有することなく、クランク軸16と一体化されている。
本歯車装置10においては、偏心体軸受30が第1、第2接触角θ31、θ32を有する第1転動体31と第2転動体32の組み合わせで構成されていることから、該偏心体軸受30によって外歯歯車12の軸方向移動を規制することができる。そのため、この歯車装置10では、外歯歯車12の軸方向移動を、偏心体軸受30によって規制するようにしている。別言するならば、本歯車装置10は、偏心体軸受30以外に外歯歯車12の軸方向移動を規制する部材や摺動部位等を備えていない。
本歯車装置10では、偏心体軸受30は、第1転動体31(31A、31B)と第2転動体32(32A、32B)が、背面合わせで組み込まれた軸受とされている。つまり、入力側の第1転動体31Aの作用線Fa1と第2転動体32Aの作用線Fa2は、クランク軸16の軸心C16に向かって互いに離反する態様で配置されている。出力側の第1転動体31Bの作用線Fb1と第2転動体32Bの作用線Fb2も、クランク軸16の軸心C16に向かって互いに離反する態様で配置されている。
なお、本歯車装置10は、偏心体軸受30Aの第1内輪35Aと第2内輪36Aが別体で構成されている。このため、第1内輪35Aと第2内輪36Aとの間、あるいは、第2内輪36Aとクランク軸軸受50Aとの間に、図示せぬシムを配置する等の手法で、第1内輪35Aと第2内輪36Aとの軸方向位置を調整することができる。これにより、偏心体軸受30Aの与圧を調整することができる。偏心体軸受30B側も同様である。
なお、偏心体軸受30は、必ず背面合わせで構成された軸受としなければならないわけではなく、正面合わせで構成された軸受とされていてもよい。
次に、本歯車装置10の作用を説明する。
始めに、動力伝達系40の作用から説明する。
モータの駆動によってクランク軸16(入力軸)が回転すると、該クランク軸16と一体的に形成された偏心体14(14A、14B)の第1偏心体13(13A、13B)および第2偏心体15(15A、15B)が、クランク軸16と共に回転する。偏心体14が回転すると、偏心体軸受30(30A、30B)を介して組み込まれている外歯歯車12(12A、12B)の軸心C12(C12A、C12B)が揺動する。外歯歯車12は内歯歯車18に内接噛合している。また、外歯歯車12の外歯の歯数は、内歯歯車18の内歯の歯数(内歯ピン18Gの本数)よりも1だけ少ない。
これにより、外歯歯車12は、クランク軸16が1回回転する毎に、軸心C12が1回揺動し、噛合している内歯歯車18に対して歯数差分(1歯分)だけ位相がずれ、自転する。この自転成分が、外歯歯車12を貫通している内ローラ23および内ピン22に伝達され、内ピン22は、内歯歯車18の軸心C18の周りで公転する。この内ピン22の公転により、該内ピン22を支持しているキャリヤ20(20A、20B)が内歯歯車18の軸心の周りで回転(自転)する。その結果、入力側のキャリヤ20Aと連結されている図示せぬ相手機械(被駆動部材)が駆動される。
ここで、偏心体軸受30は、第1転動体31(31A、31B)と該第1転動体31よりも軸方向外側に配置された第2転動体32(32A、32B)とを有し、かつ第1、第2接触角θ31、θ32が零でない軸受で構成されている。さらに、入力側の偏心体軸受30Aの第1転動体31Aは、外歯歯車12Aの軸方向内側端面12A5より軸方向内側にδ31A5だけ突出しており、第2転動体32Aは、外歯歯車12Aの軸方向外側端面12A6より軸方向外側にδ32A6だけ突出している。また、出力側の偏心体軸受30Bの第1転動体31Bは、外歯歯車12Bの軸方向内側端面12B5より軸方向内側にδ31B5だけ突出しており、第2転動体32Bは、外歯歯車12Bの軸方向外側端面12B6より軸方向外側にδ32B6だけ突出している。
このため、偏心体軸受30が、軸方向にずれて配置された第1転動体31と第2転動体32とを有する軸受でありながら、該第1転動体31および第2転動体32の外径を大きく設定することができる。例えば、本歯車装置10では、第1転動体の外径d31と、第2転動体32の外径d32の合計を、外歯歯車12の軸方向幅W12よりも大きく設定することができている。したがって、より動力伝達容量の大きな偏心体軸受30とすることができる。その結果、偏心体軸受30の転動体として「玉」を用いながら、大きな動力伝達容量を確保でき、かつ伝達ロスを低減することができる。
この種の偏心揺動型の歯車装置10にあっては、第1転動体31および第2転動体32を外歯歯車12の軸方向端面から若干突出させても、歯車装置10全体の軸方向長さは、殆ど増大させないで済むことが多い。そのため、歯車装置10全体の大きさ、特に軸方向長さの増大を抑えつつ、偏心体軸受30の動力伝達容量を大きく確保することができる。逆に捉えるならば、偏心体軸受30の動力伝達容量が同一でよい場合には、よりコンパクトな歯車装置10を得ることができる。
また、偏心体軸受30は、第1、第2接触角θ31、θ32が零でない軸受で構成されていることから、ラジアル方向の荷重のほか、スラスト方向の荷重も受けることができる。そのため、外歯歯車12の軸方向の移動を偏心体軸受30によって規制することができる。したがって、例えば本歯車装置10のように、外歯歯車12の軸方向の移動を規制する専用の位置決め部材の配置を廃止してコンパクト性の向上、および動力損失の低減を図ることができる(廃止しない場合でも、位置決めに伴う摺動抵抗を低減できるため、動力損失をより小さく抑える設計が可能となる)。
本歯車装置10では、さらに、第1転動体31の第1内輪35と第2転動体32の第2内輪36が別体に構成されている。
そのため、第1、第2転動体31、32の組み付けが容易である。また、シムの挿入等によって第1内輪35と第2内輪36の軸方向位置を調整することにより、偏心体軸受30A、あるいは偏心体軸受30Bの予圧を調整することもできる。
また、本歯車装置10においては、第2内輪36よりも軸方向内側に配置された第1内輪35は、第1偏心体13のみならず、クランク軸16とも一体化されている(同一の部材により一体的に構成されている)。そのため、部品点数が少なく、また、クランク軸16に対して軸方向に位置決めされている第1内輪35(第1偏心体13)を、クランク軸16に組み込む他の部材の軸方向の位置決めの指標とすることができる。
また、本歯車装置10においては、第1内輪35よりも軸方向外側に配置された第2内輪36は、クランク軸16(あるいは第2偏心体15)と別体に構成されると共に、クランク軸16を支持するクランク軸軸受50によって軸方向移動が規制されている。そのため、偏心体軸受30の第2内輪36を、例えば止め輪等の専用の位置決め部材で位置決めする必要がないため、部品点数を低減でき、軸方向長さを短縮でき、組み付け工数を削減できる。
また、本歯車装置10においては、外歯歯車12の軸方向移動が、30度の(零でない)第1、第2接触角θ31、θ32を有する偏心体軸受30によって規制されている。そのため、外歯歯車12の軸方向移動を規制するための、例えば差し輪等の別途の位置決め部材を必要とせず、その分、部品点数を削減でき、軸方向長さを短縮でき、組み付け工数を削減できる。また、外歯歯車12の軸方向規制に伴って動力損失が発生することを防止できる。
また、本歯車装置10においては、第1転動体31と第2転動体32が背面合わせで配置されている。このため、入力側の第1転動体31Aの作用線Fa1と第2転動体32Aの作用線Fa2のクランク軸16の軸心C16上の間隔、および、出力側の第1転動体31Bの作用線Fb1と第2転動体32Bの作用線Fb2のクランク軸16の軸心C16上の間隔を大きく確保することができる。この結果、(正面合わせと比較して)外歯歯車12のスラスト方向の荷重に対する支持剛性をより大きく確保することができる。
図3に、図1、図2に示した偏心揺動型の歯車装置10の変形例を示す。
図1、図2に示した偏心揺動型の歯車装置10においては、偏心体軸受30の第1転動体31と第2転動体32は、周方向から見たときに重なっていなかった。しかしながら、この図3に示す偏心揺動型の歯車装置110にあっては、図3の一部に併記された入力側の偏心体軸受130Aの部分平面図に見られるように、入力側の偏心体軸受130Aの第1転動体131Aの軸方向内側端131A5と、第2転動体132Aの軸方向内側端132A6は、周方向から見て重なり量L(131A5−132A6)だけ、重なっている。第1転動体131Aと第2転動体132Aは、それぞれの配列位置が、1/2ピッチずつ周方向にずれており、この重なりを許容している。
この構成により、仮に、外歯歯車12Aの軸方向内側端面12A5、外側端面12A6からの突出量δ131A5、δ132A6を先の歯車装置10とほぼ同一に抑えた場合であっても、組み込む転動体の大きさを先の歯車装置10よりも、より大きく確保することができる。この結果、一層大きな動力伝達容量を維持することができる。
出力側も同様の構成とされる。つまり、偏心体軸受130Bの第1転動体131Bと第2転動体132Bは、周方向から見たときにL(131B5−132B6)だけ重なっている。第1転動体131B、第2転動体132Bは、外歯歯車12Bの軸方向内側端面12B5、外側端面12B6からの突出量δ131B5、δ132B6だけ突出しており、入力側と同様な作用効果が得られる。
なお、この歯車装置110においては、入力側の第1転動体131Aと第2転動体132Aは、1個のリテーナ129Aによってセットで保持されている。出力側の第1転動体131Bと第2転動体132Bも、1個のリテーナ129Bでセットで保持されている。
また、この図3の歯車装置110における「第1転動体131A、131Bと第2転動体132A、132Bの配列位置を、1/2ピッチずつ周方向にずらす」という構成は、第1転動体131と第2転動体132が、周方向から見たときに、「重なっていない」ときでも採用するようにしてもよい。例えば、第1転動体と第2転動体の周方向の配列位置を1/2ピッチずつずらすと共に、周方向から見たときの第1転動体と第2転動体の軸方向間隔が、丁度零となる程度に接近させる構成としてもよい。これにより、偏心体軸受の内外輪(内外輪は偏心体や外歯歯車と一体化されていてもよい)の強度の低下をより抑制することができる。
その他の構成は、先の歯車装置10と同様であるため、同一または対応する主な部位に同一の符号を付すこととし、重複説明を省略する。
図4に本発明のさらに他の実施形態の例に係る偏心揺動型の歯車装置210を示す。
この歯車装置210は、いわゆる振り分け型と称される偏心揺動型の歯車装置である。歯車装置210は、揺動歯車に相当する外歯歯車212A、212Bと、偏心体214A、214Bを有し該外歯歯車212A、212Bを揺動回転させるクランク軸216と、偏心体214A、214Bと外歯歯車212A、212Bとの間に配置される偏心体軸受230A、230Bと、を備える。
歯車装置210は、さらに、外歯歯車212A、212Bの軸方向両側に、該外歯歯車212A、212Bの自転成分を取り出す一対のキャリヤ220A、220Bと、ケーシング224とキャリヤ220A、220Bとの間に配置された一対の主軸受226A、226Bと、一対のキャリヤ220A、220Bとクランク軸216との間に配置された一対のクランク軸軸受250A、250Bと、を有している。
この偏心揺動型の歯車装置210は、クランク軸216を、内歯歯車218の軸心C218Cからオフセットされた位置に、複数(この例では3本)有している(一本のみ図示)。それぞれのクランク軸216には、クランク軸216の軸心C216に対して同位相で偏心している偏心体214A、214Bが設けられている。偏心体214A、214B、偏心体軸受230A、230B、および外歯歯車212A、212Bの構成は、基本的に先の歯車装置10、110の構成と同様である。
歯車装置210は、駆動源からの動力が入力される図示せぬ入力歯車と、該入力歯車と同時に噛合する3個(図4では1個のみ図示)の振り分け歯車215と、を備え、振り分け歯車215の回転が3本のクランク軸216に同時に同位相で伝達可能とされている。
3本のクランク軸216は、偏心体214A、214Bが同位相で形成されているため、外歯歯車212A、212Bの軸心C212A、C212Bを揺動させることができる。この偏心揺動型の歯車装置210では、外歯歯車212A、212Bの揺動により、クランク軸216自体が内歯歯車218の軸心C218Cの周りを公転するため、該クランク軸216を支持しているキャリヤ220A、220Bを回転させることができる。
なお、一対のキャリヤ220A、220Bは、出力側のキャリヤ220Bの側から一体的に突出されたキャリヤピン235および入力側のキャリヤ220A側に挿入されたボルト227を介して連結されている。
このような構成によっても、外歯歯車212を揺動させることができ、該外歯歯車212A、212Bの自転成分を出力側キャリヤ220Bと連結した相手機械(被駆動装置)を伝達することができる。
この歯車装置210では、偏心体軸受230A、230Bは、第1転動体231A、231Bと、該第1転動体231A、231Bよりも軸方向にずれて配置された第2転動体232A、232Bとを有している。偏心体軸受230A、230Bは、第1転動体231A、231Bの接触角θ231A、θ231Bと第2転動体232A、232Bの接触角θ232A、θ232Bが零でない軸受で構成されている(具体的には30度)。
さらに、入力側の偏心体軸受230Aの第1転動体231Aは、外歯歯車212Aの軸方向内側端面212A5より軸方向内側にδ231A5だけ突出しており、第2転動体232Aは、外歯歯車212Aの軸方向外側端面212A6より軸方向外側にδ232A6だけ突出している。また、出力側の偏心体軸受230Bの第1転動体231Bは、外歯歯車212Bの軸方向内側端面212B5より軸方向内側にδ231B5だけ突出しており、第2転動体232Bは、外歯歯車212Bの軸方向外側端面212B6より軸方向外側にδ232B6だけ突出している。
つまり、歯車装置210は、クランク軸216、偏心体214A、214B、偏心体軸受230A、230B、および外歯歯車212A、212Bにおける偏心体軸受230A、230Bの近傍構成に関し、基本的に先の図1、図2の歯車装置10と同様の構成を採用しており、同様な作用効果を得ることができる。
その他の構成は、先の歯車装置10、110と同様であるため、図中で対応する主な部材あるいは部位に下2桁が同一の符号を付すことで、重複説明を省略する。
なお、上述した歯車装置においては、偏心体、偏心体軸受の内外輪、および外歯歯車(揺動歯車)に関し、これらを適宜に一体化(兼用化)したり、分割したりして、部品点数の削減や、組み込みの容易化等を図っていた。しかし、本発明においては、これらの部材の一体化あるいは分割については、必ずしも上述した構成とする必要はなく、別の態様で、一体化したり、分割したりしてもよい。例えば、偏心体とクランク軸を別体としてもよいし、専用の外輪を設けるようにしてもよい。この場合でも、外輪は1個の部材で構成してもよいし、2個に分割してもよい。1個の偏心体と1個の揺動歯車との間に2列の転動体が介在される限り、各列に内輪および外輪を備えた2セットの軸受としてもよい。
また、上述した歯車装置においては、「玉」による転動体を採用していたが、「ローラ」による転動体を採用してもよい。この場合は、アンギュラローラ、あるいは、テーパローラタイプの軸受となる。これにより、一層動力伝達容量を増大できる。また、いずれの種類の転動体とした場合であっても、接触角が0でない限り、揺動歯車のスラスト荷重を支持できるため、揺動歯車の軸方向の移動規制が容易となり、動力損失も低減できる。
また、上記歯車装置においては、偏心揺動型の歯車装置として、クランク軸によって外歯歯車が内歯歯車に対して揺動するタイプの歯車装置が示されていた。しかし、偏心揺動型の歯車装置の中には、クランク軸によって内歯歯車が外歯歯車に対して揺動するタイプの歯車装置も公知である。本発明は、このような内歯歯車が揺動するタイプの偏心揺動型の歯車装置においても、同様に適用でき、偏心体軸受の動力伝達容量をより増大させることができる。