以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。
第1実施例について説明する。図1は、第1実施例に係る走行装置100の低速走行時における側面概観図であり、図2は、図1の状態における走行装置100を上方から観察した上面概観図である。なお、図2では、図1において点線で示すユーザ900を省いている。
走行装置100は、パーソナルモビリティの一種であり、ユーザが立って搭乗することを想定した電動式の移動用車輌である。走行装置100は、走行方向に対して1つの前輪101と2つの後輪102(右側後輪102a、左側後輪102b)を備える。前輪101は、搭乗者たるユーザ900がハンドル115を操作することで向きが変わり、操舵輪として機能する。右側後輪102aと左側後輪102bは、車軸103で連結されており、不図示のモータと減速機構によって駆動されて、駆動輪として機能する。走行装置100は、3つの車輪によって3点で接地しており、ユーザ900が搭乗していない駐機状態でも自立する、静的安定車輌である。
前輪101は、前輪支持部材110により回転可能に支持されている。前輪支持部材110は、前側支柱111とフォーク112を含む。フォーク112は、前側支柱111の一端側に固定されており、前輪101を両側方から挟んで回転自在に軸支している。前側支柱111の他端側には、ハンドル115が前輪101の回転軸方向に延伸するように固定されている。ユーザ900がハンドル115を旋回操作すると、前側支柱111は、その操作力を伝達して前輪101の向きを変える。
後輪102は、後輪支持部材120により回転可能に支持されている。後輪支持部材120は、後側支柱121と本体部122を含む。本体部122は、後側支柱121の一端側を固定支持すると共に、車軸103を介して右側後輪102aと左側後輪102bを回転自在に軸支している。本体部122は、上述のモータと減速機構、モータに給電するバッテリ等を収容する筐体の機能も担う。本体部122の上面にはユーザ900が足を置くためのステップ141が設けられている。
後輪102は、その回転を制動する制動部材としてディスクブレーキ117を備える。ディスクブレーキ117は、制御部からのブレーキ信号に応じて、ホイールの内側に取り付けられた円盤117aをブレーキパッド117bで挟み込んで摩擦を生じさせ、後輪102の回転速度を低下させる。
ハンドル115のうち、ユーザ900が左手で把持するグリップ近傍には、ブレーキレバー116が設けられている。ユーザ900がブレーキレバー116を握り込んでハンドル115の側に近づけると、その握り込み量に応じた操作信号が制御部に送信される。制御部は、ブレーキレバー116から受信した操作信号に応じて、上述のようにブレーキパッド117bを動作させるブレーキ信号をディスクブレーキ117へ送信する。
前輪支持部材110と後輪支持部材120とは、旋回継手131とヒンジ継手132を介して連結されている。旋回継手131は、前輪支持部材110を構成する前側支柱111のうち、ハンドル115が固定された他端寄りの位置に固定されている。さらに、旋回継手131は、ヒンジ継手132に枢設されており、前側支柱111の伸延方向と平行な旋回軸TA周りに、ヒンジ継手132と相対的に回動する。ヒンジ継手132は、後輪支持部材120を構成する後側支柱121のうち、本体部122に支持された一端とは反対側の他端と枢設されており、車軸103の伸延方向と平行なヒンジ軸HA周りに、後側支柱121と相対的に回動する。
このような構造により、ユーザ900は、ハンドル115を旋回させると、後輪支持部材120に対して旋回軸TA周りに前輪支持部材110が旋回して前輪101の向きを変えられる。また、ユーザ900は、ハンドル115を走行方向に対して前方へ傾けると、その動作が伝達することにより、前輪支持部材110と後輪支持部材120とがヒンジ軸HA周りに相対的に回転して、前側支柱111と後側支柱121の成す角を小さくできる。前側支柱111と後側支柱121の成す角が小さくなると、前輪101と後輪102のホイールベース(WB)の間隔であるWB長は短くなる。逆に、ユーザ900は、ハンドル115を走行方向に対して後方へ傾けると、前輪支持部材110と後輪支持部材120とがヒンジ軸HA周りに相対的に回転して、前側支柱111と後側支柱121の成す角を大きくできる。前側支柱111と後側支柱121の成す角が大きくなると、WB長は長くなる。すなわち、ユーザ900は、自身の動作を回転力として作用させることにより、WB長を短くしたり長くしたりできる。
ヒンジ継手132の近傍には、付勢バネ133が取り付けられている。付勢バネ133は、ヒンジ軸HA周りに、前側支柱111と後側支柱121の成す角を小さくする回転方向へ付勢力を発揮する。付勢バネ133は、例えば、トーションバネである。付勢バネ133の付勢力は、ユーザ900がハンドル115に触れない場合に、前側支柱111と後側支柱121の成す角が構造上の最小角になるように変化させ、一方で、ユーザ900がハンドル115を走行方向に対して後方へ容易に傾けられる程度に設定されている。したがって、ユーザ900は、ハンドル115への加重およびステップ141への加重の少なくともいずれかを変化させることにより、前側支柱111と後側支柱121の成す角を調整でき、ひいてはWB長を調整できる。すなわち、このようなヒンジ継手132を介して前側支柱111と後側支柱121を接続する機構は、ユーザ900がWB長を調整する調整機構として機能する。
ヒンジ継手132の近傍には、回転角センサ134が取り付けられている。回転角センサ134は、ヒンジ軸HA周りに前側支柱111と後側支柱121の成す角を出力する。すなわち、回転角センサ134は、前輪支持部材110と後輪支持部材120の相対位置を計測する計測部として機能する。回転角センサ134は、例えば、ロータリエンコーダである。回転角センサ134の出力は、後述する制御部へ送信される。
走行装置100は、通常の走行時において、WB長が短ければ低速で走行し、WB長が長ければ高速で走行する。図1は、WB長が短い低速走行時の様子を示している。図3は、図1と同様の走行装置100の側面概観図であるが、WB長が長い高速走行時の様子を示している。
図示するように、前側支柱111と後側支柱121の成す角を、相対的に開く方向を正として、回転角θとする。また、回転角θが取り得る最小値(最小角)をθMIN、最大値(最大角)をθMAXとする。例えばθMIN=10度でありθMAX=80度である。換言すると、回転角θがθMINとθMAXの範囲に収まるように、構造上の規制部材が設けられている。
WB長は、回転角θと一対一に対応し、WB長=f(θ)の関数により換算できる。したがって、回転角θを変化させることによりWB長を調整できる。走行装置100は、通常の走行時において、ユーザ900が回転角θを大きくすると加速し、小さくすると減速する。つまり、回転角θに対して目標速度が対応付けられており、走行装置100は、回転角θが変化すると、それに応じた目標速度に到達するように加減速する。
ユーザ900がハンドル115を傾斜させたり体重移動したりしてWB長を調整することにより速度を調整する通常走行時においては、回転角θが小さくなるとWB長が短くなって低速で走行するので、小回りが利く。すなわち、狭い場所でも動き回ることができる。逆に回転角θが大きくなるとWB長が長くなるので、走行安定性、特に直進性が向上する。すなわち、高速で走行しても路面上の段差等による揺動を受けにくい。また、速度とWB長が連動して変化するので、低速なのにWB長が長いような状態になることが無く、その速度で必要最低限な投影面積で移動ができる。すなわち、走行装置100が移動するために必要な路面上の面積が小さく、余分なスペースを必要としない。また、ユーザ900は、ハンドル115を前後に傾けるなどの直感的な動作により、速度とWB長の両方を連動させて変化させることができるので、運転操作としても簡便で容易である。
ユーザ900は、上述のように、ハンドル115を傾斜させたり体重移動したりして、自らの動作を調整機構に作用させることでWB長を調整して速度を落とすことが可能である。しかし、走行方向に突然障害物が現れた場合などにおいて、急激に速度を落としたいような状況では、調整機構に作用させるような全身を使った身体的動作は緩慢に過ぎ、速度を落とすまでに時間がかかってしまうこともある。
そこで、走行装置100は、上述のようにブレーキレバー116とディスクブレーキ117を備え、急ブレーキを掛けたいような状況においては、ユーザ900が反射的に反応し得る「把持」の動作をもって瞬時に減速できるようになっている。すなわち、急ブレーキに相当する構成を備えた。この構成により、ユーザ900は、走行装置100の速度を即座に落とすことができる。特に、ディスクブレーキ117によって後輪102の回転が制動される場合には、回転角θに対応付けられた目標速度に追従する制御を中止するので後輪102がモータによって駆動されることがなく、後輪102の回転速度を効果的に落とすことができる。
また、ディスクブレーキ117を後輪102に設けたので、後輪102の制動が開始されると、WB長はおのずと伸長する。すなわち、後輪102は、制動の開始により回転速度が急激に落ちるが、前輪101は、慣性によりそのまま回転しようとするので、両者の回転速度の差によりWB長が伸びることになる。走行装置100の速度が急激に落ちるときに、WB長が短いと、ユーザ900は前のめりになって搭乗のバランスを崩すこともあり得るが、WB長が長ければ、そのような恐れも少ない。つまり、急ブレーキ時にもユーザ900はバランスを取りやすい。
次に走行装置100のシステム構成について説明する。図4は、走行装置100の制御ブロック図である。制御部200は、例えばCPUであり、本体部122に収容されている。駆動輪ユニット210は、駆動輪である後輪102を駆動するための駆動回路やモータを含み、本体部122に収容されている。制御部200は、駆動輪ユニット210へ駆動信号を送ることにより、後輪102の回転制御を実行する。
車速センサ220は、後輪102または車軸103の回転量を監視して、走行装置100の速度を検出する。車速センサ220は、制御部200の要求に応じて、検出結果を速度信号として制御部200へ送信する。回転角センサ134は、上述のように、回転角θを検出する。回転角センサ134は、制御部200の要求に応じて、検出結果を回転角信号として制御部200へ送信する。
ブレーキレバー116は、ユーザ900が握り込んだときに、制御部200へ操作信号を送信する。操作信号は、握り込み量に関する情報を含む。ディスクブレーキ117は、後輪102の回転を摩擦力により低下させる。制御部200は、ブレーキレバー116から操作信号を受信した場合に、ディスクブレーキ117にブレーキ信号を送信して、制動の開始終了および摩擦力の増減を制御する。制御部200は、摩擦力の増減を、操作信号の握り込み量に関する情報に応じてブレーキパッド117bが円盤117aを押圧する押圧力を調整することにより制御する。
荷重センサ240は、ステップ141へ加えられる荷重を検出する、例えば圧電フィルムであり、ステップ141に埋め込まれている。荷重センサ240は、制御部200の要求に応じて、検出結果を荷重信号として制御部200へ送信する。
メモリ250は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばソリッドステートドライブが用いられる。メモリ250は、走行装置100を制御するための制御プログラムの他にも、制御に用いられる様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル等を記憶している。メモリ250は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251を記憶している。
図5は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251の一例としての、回転角θと目標速度の関係を示すグラフである。図示するように、目標速度は回転角θの一次関数として表されており、回転角θが大きくなるにつれて、目標速度が大きくなるように設定されている。最小角θMIN(度)のときに目標速度は0であり、最大角θMAX(度)のときに目標速度は最高速度Vm(km/h)である。このように、変換テーブル251は、関数形式であっても良い。
図6は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251の他の一例としての、回転角θと目標速度の関係を示すテーブルである。図5の例では、連続的に変化する回転角θに対して連続的に変化する目標速度を対応付けた。図6の例では、連続的に変化する回転角θを複数のグループに区分して、それぞれにひとつの目標速度を対応付ける。
図示するように、回転角θが、θMIN以上θ1未満である場合に目標速度0(km/h)を対応付け、θ1以上θ2未満である場合に目標速度5.0(km/h)を対応付け、θ2以上θ3未満である場合に目標速度10.0(km/h)を対応付け、θ3以上θMAX以下である場合に目標速度15.0(km/h)を対応付ける。このような場合の変換テーブル251は、ルックアップテーブル形式を採用することができる。このように目標速度を、ある程度幅を持たせた回転角θの範囲に対応付けると、例えばユーザ900の体の揺れに影響されて小刻みに目標速度が変わるようなことがなくなり、滑らかな速度変化を期待できる。もちろん、範囲の境界にヒステリシスを持たせても良く、加速時と減速時で範囲の境界を異ならせれば、より滑らかな速度変化を期待できる。
回転角θと目標速度の対応付けは、図5や図6の例に限らず、さまざまな対応付けが可能である。例えば、回転角θの変化量に対する目標速度の変化量を、低速領域においては小さく設定し、高速領域においては大きく設定するといったアレンジも可能である。また、本実施形態では、回転角θがWB長と一対一に対応することから、媒介パラメータである回転角θを目標速度と対応付ける変換テーブル251を採用しているが、本来の趣旨通りに、WB長を目標速度と対応付ける変換テーブルを採用しても良い。この場合は、回転角センサ134から取得される回転角θを上述の関数を用いてWB長に換算してから、変換テーブルを参照すれば良い。
次に、本実施例における、走行処理について説明する。図7は、走行中の処理を示すフロー図である。フローは、電源スイッチがオンにされ、荷重センサ240から荷重ありの信号を受け取った時点、すなわちユーザ900が搭乗した時点から開始する。
制御部200は、ステップS101で、回転角センサ134から回転角信号を取得して現在の回転角θを算出する。そして、ステップS102で、算出した回転角θを、メモリ250から読み出した変換テーブル251に当てはめ、目標速度を設定する。
制御部200は、目標速度を設定したら、ステップS103へ進み、駆動輪ユニット210へ対して加減速の駆動信号を送信する。具体的には、まず車速センサ220から速度信号を受け取り、現在の速度を確認する。そして、目標速度が、現在の速度より大きければ加速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信し、現在の速度より小さければ減速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する。
制御部200は、加減速中も回転角θが変化したかを監視する(ステップS104)。回転角θが変化したと判断したら、再度ステップS101からやり直す。変化していないと判断したらステップS105へ進む。なお、図6のような変換テーブルを採用している場合は、回転角θがひとつの範囲に留まる間は、変化していないと判断する。
制御部200は、ステップS105で、ユーザ900にブレーキレバー116が操作されたか否かを判断する。具体的には、制御部200は、ブレーキレバー116から操作信号を受信したか否かを確認する。受信していればステップS111へ進み、受信していなければステップS106へ進む。
制御部200は、ステップS106で、車速センサ220から速度信号を受け取り、目標速度に到達したか否かを判断する。目標速度に到達していないと判断したら、ステップS103へ戻り、加減速を継続する。目標速度に到達したと判断したら、ステップS107へ進む。ステップS107では、目標速度が0であったか否かを確認する。目標速度が0であったなら、ステップS107の時点では走行装置100は停止していることになる。この場合は、ステップS115へ進む。そうでなければ、目標速度により走行中であるので、制御部200は、その速度で走行を維持するように駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する(ステップS108)。
制御部200は、ステップS108の定速走行時にも、ユーザ900にブレーキレバー116が操作されたかを監視する(ステップS109)。制御部200は、ブレーキレバー116から操作信号を受信したらステップS111へ進み、受信していなければステップS110へ進む。
制御部200は、ステップS110で、回転角θが変化したか、つまり、ユーザ900が調整機構を調整したかを判断する。回転角θが変化したと判断したら、ステップS101へ戻る。変化していないと判断したら定速走行を続けるべくステップS108へ戻る。
ステップS107で目標速度が0であったと確認したら、制御部200は、ステップS115へ進み、ユーザ900が降機したかを荷重センサ240から受信する荷重信号から判断する。ユーザ900が降機していない、つまり荷重があると判断したら、走行制御を継続すべくステップS101へ戻る。降機したと判断したら、一連の処理を終了する。
制御部200は、ステップS105あるいはステップS109で、ブレーキレバー116から操作信号を受信した場合に、ステップS111へ進み、駆動輪ユニット210へ送信する駆動信号を停止する。つまり、回転角θに対応付けられた目標速度に追従する速度制御を中止する。制御部200は、ステップS112へ進み、受信している操作信号から握り込み量に関する情報を抽出して、握り込み量に応じた押圧力を発生させるブレーキ信号を生成する。そして、生成したブレーキ信号をディスクブレーキ117へ送信することにより後輪102の制動を実行する。
制御部200は、後輪102の制動を実行している間、ブレーキレバー116の握り込みが解除されたか否かを監視する(ステップS113)。解除されない間は後輪102の制動を継続する。解除されたら、ステップS114へ進む。
制御部200は、ステップS114で、車速センサ220から速度信号を取得し、現在の速度が0であるか否かを確認する。速度が0でないと判断したら、回転角θに対応付けられた目標速度に追従する速度制御を再開すべくステップS101へ戻る。ただし、この場合は、ステップS111からステップS113までのブレーキ制御によりWB長が伸びているので、大きな目標速度が設定されて急加速しないように、加減速を調整することが好ましい。速度が0であると判断したら、ステップS115へ進む。ステップS115以降の処理は上述の通りである。
次に第2実施例について説明する。図8は、第2実施例に係る走行装置500の側面概観図である。走行装置500は、後輪102にディスクブレーキ117を備える他に、前輪101にもディスクブレーキ118を備える点で走行装置100と相違する。したがって、走行装置100と同様の機能を担う要素については、第1実施例における符番と同じ符番を付して、その説明を省略する。また、走行装置500の制御ブロックの構成や処理フローも、走行装置100のそれらとほぼ同様である。したがって、以下の説明においては、走行装置100との相違点について説明する。
図8に示すように、走行装置600の前輪101は、その回転を制動する制動部材としてディスクブレーキ118を備える。ディスクブレーキ118は、制御部200からのブレーキ信号に応じて、ホイールの内側に取り付けられた円盤118aをブレーキパッド118bで挟み込んで摩擦を生じさせ、前輪101の回転速度を低下させる。
ユーザ900がブレーキレバー116を握り込んでハンドル115の側に近づけると、その握り込み量に応じた操作信号が制御部200に送信される。制御部200は、ブレーキレバー116から受信した操作信号に応じて、ブレーキパッド117bを動作させるブレーキ信号をディスクブレーキ117へ送信すると共に、ブレーキパッド118bを動作させるブレーキ信号をディスクブレーキ118へ送信する。
図9は、ユーザ900によるブレーキレバー116の把持量と、それぞれのブレーキパッド117b、118bの押圧力との関係を示す図である。横軸は、ユーザ900がブレーキレバー116をハンドル115側へ変位させた長さである把持量を表し、縦軸は、円盤に押しつけられるブレーキパッドの圧力である押圧力を表す。
図示するように、把持量に対する押圧力は一次関数で表される。後輪用のディスクブレーキ117における直線の傾きは、前輪用のディスクブレーキ118における直線の傾きより大きい。図の例によれば、同じ把持量であれば、後輪用のディスクブレーキ117の押圧力は、前輪用のディスクブレーキ118の押圧力の2倍である。例えば、把持量がL0(mm)である場合、ディスクブレーキ117の押圧力がP0(Pa)であるのに対し、ディスクブレーキ118の押圧力はP0/2(Pa)である。
このように前輪制動部材であるディスクブレーキ118の前輪101に対する制動力を、後輪制動部材であるディスクブレーキ117の後輪102に対する制動力より小さくすると、おのずとWB長が伸長する。すなわち、このような制動力の差により前輪101の回転速度よりも後輪102の回転速度の方がいち早く低下するので、後輪102を支持する後輪支持部材120と前輪101を支持する前輪支持部材110とがヒンジ軸HA周りに回動してWB長が伸びる。このような構成によれば、より急激に走行装置500の速度を低下させられると共に、急激な速度低下に対してもユーザ900がバランスを崩す恐れが少ない。
第2実施例の変形例を説明する。本変形例は、走行装置500の構成はそのままであり、ブレーキ制御が図9で示した例と異なる。図10は、本変形例に係るディスクブレーキ117、118の作動のタイミングを示す図である。横軸は、経過時間を示し、縦軸は、円盤に押しつけられるブレーキパッドの圧力である押圧力を表す。
図9のブレーキ制御では、前輪用のディスクブレーキ118と後輪用のディスクブレーキ117を同じタイミングで作動させた。本変形例では、ユーザ900がブレーキレバー116を握り込んで制動を指示した場合に、前輪用のディスクブレーキ118は、後輪用のディスクブレーキ117が後輪102の制動を開始するよりも遅れて、前輪101の制動を開始する。
具体的には、制御部200は、時刻t1にブレーキレバー116から操作信号を受信すると、即座に後輪用のディスクブレーキ117へブレーキ信号を送信する。すると、ディスクブレーキ117は、0(Pa)からブレーキレバー116の握り込み量に対応するP1(Pa)まで押圧力を高める。そして、時刻t1から遅延して時刻t2に前輪用のディスクブレーキ118へブレーキ信号を送信する。すると、ディスクブレーキ118は、0(Pa)からブレーキレバー116の握り込み量に対応するP2(Pa)まで押圧力を高める。
このように前輪の制動開始を後輪の制動開始よりも遅らせると、少なくともこの遅延時間の間におのずとWB長が伸長する。すなわち、このような遅延により前輪101の回転速度よりも後輪102の回転速度の方がいち早く低下するので、後輪102を支持する後輪支持部材120と前輪101を支持する前輪支持部材110とがヒンジ軸HA周りに回動してWB長が伸びる。このような構成によれば、より急激に走行装置500の速度を低下させられると共に、急激な速度低下に対してもユーザ900がバランスを崩す恐れが少ない。なお、図示するように、P1>P2となるように設定すれば、図9を用いて説明した作用も生じるので、前輪101の制動開始後もWB長を伸長させることができる。
以上説明した第1実施例の走行装置100および第2実施例の走行装置500では、回転角センサ134を用いて回転角θを検出した。しかし、前輪支持部材110と後輪支持部材120の相対位置を計測する計測部であれば、回転角センサ134に限らず、他のセンサを採用しても良い。例えば、前側支柱111と後側支柱121のそれぞれに重力センサを設けて、重力方向に対するそれぞれの傾きを検出するように構成しても良い。また、回転角θを媒介パラメータとして相対位置を計測する場合に限らず、他のパラメータを用いて相対位置を間接的に計測することもできる。その場合は、目標速度を当該他のパラメータに対応付けた変換テーブル251を構築すれば良い。もちろん、距離センサ等を用いてWB長を直接的に計測しても良く、その場合は、媒介パラメータを利用すること無く、目標速度をWB長に対応付けた変換テーブル251、押圧力PをWB長に対応付けた変換テーブルを準備すれば良い。
次に第3実施例について説明する。図11は、第3の実施例に係る走行装置600の低速走行時における側面概観図であり、図12は、図11の状態における走行装置600を上方から観察した上面概観図である。なお、図12では、図11において点線で示すユーザ900を省いている。走行装置600は、第1の実施例の走行装置100と同様に、パーソナルモビリティの一種であり、ユーザが立って搭乗することを想定した電動式の移動用車輌である。走行装置100と同様の機能を担う要素については、第1の実施例における符番と同じ符番を付して、その説明を省略する。
第1の実施例における走行装置100は、前輪101と後輪102のWB長を調整する機構として、ヒンジ継手132を介して前輪支持部材110と後輪支持部材120を接続し、これらを相対的に回転させる機構を採用した。そして、ユーザ900は、ハンドル115を前後に傾けることにより自らの力を作用させてWB長を調整した。第3の実施例における走行装置600は、前輪101と後輪102のWB長を調整する機構として、前輪支持部材110と後輪支持部材として機能する本体部122との間に介在するように設けられた伸縮ロッド610を伸縮させる機構を採用する。伸縮ロッド610は、制御部200の制御信号により不図示のアクチュエータが駆動されて伸縮する。
伸縮ロッド610は、互いに径の異なる中空の連結棒が入れ子状に複数配列されており、それぞれの連結棒を収縮状態から伸長状態へまたは伸長状態から収縮状態へ変位させることができる構造を有する。したがって、制御部200は、WB長を、連結棒の数に応じて、段階的に長くしたり短くしたりすることができる。
旋回継手131は、前輪支持部材110を構成する前側支柱111のうち、フォーク112が固定された一端寄りの位置に固定されている。さらに、旋回継手131は、連結器620を構成する軸受部621に枢設されており、前側支柱111の伸延方向と平行な旋回軸TA周りに、軸受部621と相対的に回動する。連結器620は、軸受部621の他に接続部622を有し、軸受部621と接続部622は一体的に形成されている。接続部622は、前側支柱111とほぼ平行に伸延する柱状部材であり、軸受部621が設けられた一端側とは反対の他端側で収容ボックス630を支持している。
収容ボックス630は、伸縮ロッド610を構成する連結棒のうち最細の連結棒の先端部を固定支持すると共に、収縮時には入れ子状となった連結棒の外周面の少なくとも一部を覆うように伸縮ロッド610を収容する。伸縮ロッド610を構成する連結棒のうち最太の連結棒の後端部は、本体部122に固定支持されている。
走行装置600は、ハンドル115を構成する右側のグリップが、伸縮ロッド610を伸張、収縮させる操作グリップ616として構成されている。操作グリップ616は、ハンドル115の伸延方向の軸周りに前回転と後回転ができるようになっており、ユーザ900によって前回転されると伸張信号が、後回転されると収縮信号が制御部200へ送信される。
なお、走行装置600も、ブレーキレバー116の操作によって後輪102の回転を制動するディスクブレーキ117を備える。ディスクブレーキ117は、制御部200からのブレーキ信号に応じて、ホイールの内側に取り付けられた円盤117aをブレーキパッド117bで挟み込んで摩擦を生じさせ、後輪102の回転速度を低下させる。
走行装置600は、操作グリップ616を介してユーザから伸縮ロッド610を伸縮させる指示を受けてWB長を調整する。そして、そのWB長に対応付けられた目標速度に追従するように速度調整が行われる。図13は、図11と同様の走行装置600の側面概観図であるが、高速走行時にWB長を長くしている様子を示している。
このような構成においても、操作グリップ616を介してWB長を調整する通常走行時においては、低速で走行しているときにはWB長が短くなるので、小回りが利く。すなわち、狭い場所でも動き回ることができる。逆に高速で走行しているときにはWB長が長くなるので、走行安定性、特に直進性が向上する。すなわち、高速で走行しても路面上の段差等による揺動を受けにくい。また、WB長と速度が連動して変化するので、低速なのにWB長が長いような状態になることが無く、その速度で必要最低限な投影面積で移動ができる。すなわち、走行装置600が移動するために必要な路面上の面積が小さく、余分なスペースを必要としない。また、ユーザ900は、操作グリップ616を前後に回転させれば、WB長と速度の両方を連動させて変化させることができるので、運転操作としても簡便で容易である。
ユーザ900は、上述のように、操作グリップ616を操作してWB長を短くすれば速度を落とすことが可能である。換言すれば、WB長を短くしなければ速度を落とせず、走行方向に突然障害物が現れた場合などにおいて、操作グリップ616を勢いよく回転させて急激に速度を落とせば、WB長も一気に短縮してしまい、ユーザ900はバランスを保つことが難しいとも言える。
そこで、走行装置600は、上述のようにブレーキレバー116とディスクブレーキ117を備え、走行装置600の速度を即座に落とすことができるようにすると共に、ディスクブレーキ117を作動させるときには、WB長を伸長させる制御を実行する。すなわち、制御部200は、ディスクブレーキ117にブレーキ信号を送信する場合には、WB長に対応付けられた目標速度に追従させる速度制御を中止し、伸縮ロッド610を伸長させる。このような制御により、急ブレーキ時にもユーザ900はバランスを取りやすくなる。
図14は、走行装置600の制御ブロック図である。走行装置100と同様の機能を担う機能ブロックについては、第1実施例における符番と同じ符番を付して、その説明を省略する。
操作グリップ616は、上述のように、前回転を検出したら伸長信号を、後回転を検出したら収縮信号を制御部200へ送信する。その回転量も検出して、単位時間あたりの伸長量、収縮量を変化させても良い。
WB調整機構230は、伸縮ロッド610と、伸縮ロッド610を伸縮させるための駆動回路やアクチュエータを含む。WB調整機構230は、アクチュエータの駆動力によってWB長を伸長させる伸長駆動部としての機能を担う。制御部200は、WB調整機構230へ伸縮信号を送ることにより、伸縮ロッド610の伸縮制御を実行する。
図15は、WB長に対応付けられた目標速度に追従させる速度制御を行う場合の、WB長と目標速度の関係を示すグラフである。図示するように、目標速度はWB長の一次関数として表されており、WB長が大きくなるにつれて、目標速度が大きくなるように設定されている。最小WB長WBMIN(mm)のときに目標速度は0であり、最大角WB長WBMAX(mm)のときに目標速度は最高速度Vm(km/h)である。この関係は、WB長を目標速度に変換する変換テーブル251としてメモリ250に記憶されている。
また、第1実施例で図6を用いて説明した例のように、連続的に変化するWB長を複数のグループに区分して、それぞれにひとつの目標速度を対応付けたルックアップテーブル形式を採用しても良い。また、WB長と目標速度の対応付けは、WB長の変化量に対する目標速度の変化量を、低速領域においては小さく設定し、高速領域においては大きく設定するなど、様々なアレンジも可能である。
次に、本実施例における、走行処理について説明する。図16は、走行中の処理を示すフロー図である。フローは、電源スイッチがオンにされ、荷重センサ240から荷重ありの信号を受け取った時点、すなわちユーザ900が搭乗した時点から開始する。図7中の処理と同等の処理については、図7のステップ番号と同じ番号を付す。
制御部200は、ステップS201で、操作グリップ616の回転を検出し、伸張信号または収縮信号を受信する。そして、ステップS202で、受信した伸張信号または収縮信号に応じてWB調整機構230へ伸縮信号を送信し、WB長を調整する。制御部200は、ステップS102へ進み、調整したWB長を、メモリ250から読み出した変換テーブル251に当てはめ、目標速度を設定する。
制御部200は、目標速度を設定したら、ステップS103へ進み、駆動輪ユニット210へ対して加減速の駆動信号を送信する。具体的には、まず車速センサ220から速度信号を受け取り、現在の速度を確認する。そして、目標速度が、現在の速度より大きければ加速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信し、現在の速度より小さければ減速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する。
制御部200は、加減速中も操作グリップ616が回転されたかを監視する(ステップS204)。操作グリップ616が回転されたと判断したら、再度ステップS201からやり直す。操作グリップ616が回転されていないと判断したらステップS105へ進む。
制御部200は、ステップS105で、ユーザ900にブレーキレバー116が操作されたか否かを判断する。具体的には、制御部200は、ブレーキレバー116から操作信号を受信したか否かを確認する。受信していればステップS111へ進み、受信していなければステップS106へ進む。
制御部200は、ステップS106で、車速センサ220から速度信号を受け取り、目標速度に到達したか否かを判断する。目標速度に到達していないと判断したら、ステップS103へ戻り、加減速を継続する。目標速度に到達したと判断したら、ステップS107へ進む。ステップS107では、目標速度が0であったか否かを確認する。目標速度が0であったなら、ステップS107の時点では走行装置100は停止していることになる。この場合は、ステップS115へ進む。そうでなければ、目標速度により走行中であるので、制御部200は、その速度で走行を維持するように駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する(ステップS108)。
制御部200は、ステップS108の定速走行時にも、ユーザ900にブレーキレバー116が操作されたかを監視する(ステップS109)。制御部200は、ブレーキレバー116から操作信号を受信したらステップS111へ進み、受信していなければステップS210へ進む。
制御部200は、ステップS210で、操作グリップ616が回転されたか否かを判断する。操作グリップ616が回転されたと判断したら、ステップS201へ戻る。操作グリップ616が回転されていないと判断したら定速走行を続けるべくステップS108へ戻る。
ステップS107で目標速度が0であったと確認したら、制御部200は、ステップS115へ進み、ユーザ900が降機したかを荷重センサ240から受信する荷重信号から判断する。ユーザ900が降機していない、つまり荷重があると判断したら、走行制御を継続すべくステップS201へ戻る。降機したと判断したら、一連の処理を終了する。
制御部200は、ステップS105あるいはステップS109で、ブレーキレバー116から操作信号を受信した場合に、ステップS111へ進み、駆動輪ユニット210へ送信する駆動信号を停止する。つまり、WB長に対応付けられた目標速度に追従する速度制御を中止する。制御部200は、ステップS212へ進み、WB長の伸長を開始する。具体的には、制御部200は、操作グリップ616の回転によらず、伸縮信号をWB調整機構230へ送信し、WB長を一定速度で伸長させる。また、制御部200は、ステップS112で、受信している操作信号から握り込み量に関する情報を抽出して、握り込み量に応じた押圧力を発生させるブレーキ信号を生成する。そして、生成したブレーキ信号をディスクブレーキ117へ送信することにより後輪102の制動を実行する。
制御部200は、後輪102の制動を実行している間、ブレーキレバー116の握り込みが解除されたか否かを監視する(ステップS113)。解除されない間はWB長の伸長(ステップS212)と後輪102の制動(ステップS112)を継続する。なお、WB長がWBMAXに到達したら伸長を停止する。ブレーキレバー116の握り込みが解除されたら、ステップS114へ進む。
制御部200は、ステップS114で、車速センサ220から速度信号を取得し、現在の速度が0であるか否かを確認する。速度が0でないと判断したら、WB長に対応付けられた目標速度に追従する速度制御を再開すべくステップS201へ戻る。ただし、この場合は、ステップS111からステップS113までのブレーキ制御によりWB長が伸びているので、大きな目標速度が設定されて急加速しないように、加減速を調整することが好ましい。速度が0であると判断したら、ステップS115へ進む。ステップS115以降の処理は上述の通りである。
以上説明した走行装置600は、後輪102を制動するディスクブレーキ117を備えたが、第2実施例に係る走行装置500のように、前輪101を制動するディスクブレーキ118を備えても良い。その場合の押圧力は、図9および図10を用いて説明したように制御することが好ましい。
以上本実施形態を各実施例により説明したが、前輪、後輪は、車輪でなくても良く、球状輪、クローラなどの接地要素であっても構わない。この場合、制動部材は、それぞれに適したものを採用すれば良い。また、車輪を採用する場合であっても、制動部材はディスクブレーキに限らず、様々な機構を採用し得る。例えば、電磁ブレーキを採用しても良い。また、ユーザ900によるブレーキレバー116の操作を電気信号に変換することなく、例えば油圧などによって操作力を増幅して制動部材を作動させる機構を採用しても良い。また、制動部材を作動させる操作部材はブレーキレバーに限らず、様々な操作部材を採用し得る。例えば押しボタン形式の操作部材を採用しても良い。また、駆動輪を駆動する動力源はモータに限らず、ガソリンエンジンなどであっても構わない。