以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、特許請求の範囲に係る発明を以下の実施形態に限定するものではない。また、各実施形態で説明する構成の全てが課題を解決するための手段として必須であるとは限らない。また、各実施形態で説明する各図面は、同一の要素には同一の符号を付しており、必要に応じて重複説明を省略する。
<実施の形態1>
実施の形態1について説明する。図1は、実施の形態1に係る走行装置100の低速走行時における側面概観図である。
走行装置100は、パーソナルモビリティの一種であり、ユーザが立って搭乗することを想定した電動式の移動用車輌である。ユーザは、搭乗時には、搭乗部となるステップ141に足を置いて走行装置100に搭乗する。
走行装置100は、走行方向に対して1つの前輪101と2つの後輪102(右側後輪と左側後輪)を備える。前輪101は、ユーザがハンドル115を操作することで向きが変わり、操舵輪として機能する。2つの後輪102は、不図示の車軸で連結されており、不図示のモータと減速機構からなる駆動部によって駆動されて、駆動輪として機能する。走行装置100は、3つの車輪によって3点で接地しており、ユーザが搭乗していない駐機状態でも自立する、静的安定車輌である。
前輪101は、前輪支持部材110により回転可能に支持されている。前輪支持部材110は、前側支柱111とフォーク112を含む。フォーク112は、前側支柱111の一端側に固定されており、前輪101を両側方から挟んで回転自在に軸支している。前側支柱111の他端側には、バー114が走行方向前方かつ前輪101の回転軸方向と直交する方向に延伸するように固定支持され、バー114には、ハンドル115が前輪101の回転軸方向に延伸するように固定されている。ユーザがハンドル115を旋回操作すると、前側支柱111は、その操作力を伝達して前輪101の向きを変える。
後輪102は、後輪支持部材120により回転可能に支持されている。後輪支持部材120は、後側支柱121と本体部122を含む。本体部122は、後側支柱121の一端側を固定支持すると共に、2つの後輪102を不図示の車軸を介して回転自在に軸支している。本体部122は、上述のモータと減速機構からなる駆動部、モータに給電するバッテリ等を収容する筐体の機能も担う。本体部122の上面には上述のステップ141が設けられている。
前輪支持部材110と後輪支持部材120とは、旋回継手131とヒンジ継手132を介して連結されている。旋回継手131は、前輪支持部材110を構成する前側支柱111のうち、ハンドル115が固定された他端寄りの位置に固定されている。さらに、旋回継手131は、ヒンジ継手132に枢設されており、前側支柱111の伸延方向と平行な旋回軸TA周りに、ヒンジ継手132と相対的に回動する。ヒンジ継手132は、後輪支持部材120を構成する後側支柱121のうち、本体部122に支持された一端とは反対側の他端と枢設されており、2つの後輪102を連結する不図示の車軸の伸延方向と平行なヒンジ軸(支軸)HA周りに、後側支柱121と相対的に回動する。
このような構造により、ユーザは、ハンドル115を旋回させると、後輪支持部材120に対して旋回軸TA周りに前輪支持部材110が旋回して前輪101の向きを変えられる。また、ユーザは、ハンドル115を走行方向に対して前方へ傾けると、前輪支持部材110と後輪支持部材120とがヒンジ軸HA周りに相対的に回転し、前側支柱111と後側支柱121の成す角を小さくできる。前側支柱111と後側支柱121の成す角が小さくなると、前輪101と後輪102のホイールベース(WB)の間隔であるWB長は短くなる。逆に、ユーザは、ハンドル115を走行方向に対して後方へ傾けると、前輪支持部材110と後輪支持部材120とがヒンジ軸HA周りに相対的に回転し、前側支柱111と後側支柱121の成す角を大きくできる。前側支柱111と後側支柱121の成す角が大きくなると、WB長は長くなる。
走行装置100は、WB長が短ければ低速で走行し、WB長が長ければ高速で走行する。図1は、WB長が短い低速走行時の様子を示している。図2は、図1と同様の走行装置100の側面概観図であるが、WB長が長い高速走行時の様子を示している。
図示するように、ヒンジ軸HA周りに前側支柱111と後側支柱121の成す角を、相対的に開く方向を正として、回転角θとする。また、回転角θが取り得る最小値(最小角)をθMIN、最大値(最大角)をθMAXとする。例えばθMIN=10度でありθMAX=80度である。換言すると、回転角θがθMINとθMAXの範囲に収まるように、構造上の規制部材が設けられている。
WB長は、回転角θと一対一に対応し、WB長=f(θ)の関数により換算できる。したがって、回転角θを変化させることによりWB長を調整できる。走行装置100は、ユーザが回転角θを大きくすると加速し、小さくすると減速する。つまり、回転角θに対して目標速度が対応付けられており、回転角θが変化すると、それに応じた目標速度に到達するように加減速する。別言すれば、回転角θを媒介変数としてWB長と目標速度が対応付けられており、ユーザがWB長を調整すると、目標速度がそのWB長に応じて変化する構成となっている。
回転角θが小さくなるとWB長が短くなるので、小回りが利く。すなわち、狭い場所でも動き回ることができる。逆に回転角θが大きくなるとWB長が長くなるので、走行安定性、特に直進性が向上する。すなわち、高速で走行しても路面上の段差等による揺動を受けにくい。
しかし、走行装置100は、軽量であり、ユーザの体重よりも軽い場合が多いため、高速走行時に急旋回動作を行うと、ユーザにかかる遠心力を走行装置100で支えきれず、ユーザが転倒しまうおそれがある。特に、走行装置100は、上述のように、ハンドル115を走行方向に対して前後に傾けてWB長を調整する構成であるため、ユーザは、WB長を伸ばす操作をする際に、誤って自身の意思とは異なる旋回操作も加えてしまうことがあるため、上記の問題がより生じやすいと考えられる。
そこで本実施の形態1に係る走行装置100は、ハンドル115の旋回操作を機械的に規制する旋回規制部材150を設け、前輪支持部材110と後輪支持部材120との相対姿勢に応じて、旋回規制部材150によるハンドル115の旋回操作の機械的規制の度合いが変化し得るようにしている。
図3および図4は、走行装置100の旋回規制部材150周辺の上面概略図であり、図3は、WB長が短い低速走行時の様子を示し、図4は、WB長が長い高速走行時の様子を示している。旋回規制部材150は、断面が略コの字形状の板状体であり、コの字の開口部分が前側支柱111と対向し、また、後側支柱121との相対姿勢が一定となるように、不図示の本体フレームに取り付けられている。
WB長が短い低速走行時には、前側支柱111は、略垂直になっており、前側支柱111と後側支柱121の成す回転角θは小さい。また、旋回規制部材150は、前側支柱111の伸延方向と略平行になり、前側支柱111からは離れた位置にある。この状態では、バー114は、旋回規制部材150に拘束されないため、前側支柱111は自由に回転可能である。したがって、ユーザは、ハンドル115を、機械的規制を受けずに、自由に旋回操作することができるため、走行装置100の旋回動作も制限されない。
一方、WB長が長い高速走行時には、前側支柱111と後側支柱121は、回転角θが大きくなる方向に相互に斜めに傾く。そのため、前側支柱111のうち、ハンドル115が固定されている他端は、旋回規制部材150に接近し、旋回規制部材150のコの字の開口部分に収容される。この状態では、バー114が旋回規制部材150に拘束され、前側支柱111の回転が制限されることから、ハンドル115の旋回操作の機械的規制の度合いが大きくなる。その結果、走行装置100の高速走行時の急旋回動作を制限することができ、ユーザの転倒の可能性を低減することができる。また、この時、ユーザは、自身で意識しなくても、ハンドル115の旋回操作が機械的規制を受けることになるため、ユーザの操作に依存せずに、ユーザの転倒の可能性を低減することができる。また、電気的なデバイス(モータ、ソレノイド等)を用いることなく、ユーザの転倒の可能性を低減することができるため、消費電力の低減、本体重量の低減、本体寸法の縮小、信頼性の向上等の効果も見込まれる。
図5は、走行装置100の制御ブロック図である。制御部200は、例えばCPUであり、本体部122に収容されている。駆動輪ユニット210は、駆動輪である2つの後輪102を駆動するための駆動回路やモータを含み、本体部122に収容されている。制御部200は、駆動輪ユニット210へ駆動信号を送ることにより、後輪102の回転制御を実行する。
車速センサ220は、後輪102または2つの後輪102を連結する不図示の車軸の回転量を監視して、走行装置100の速度を検出する。車速センサ220は、制御部200の要求に応じて、検出結果を速度信号として制御部200へ送信する。回転角センサ230は、ヒンジ軸HA周りに前側支柱111と後側支柱121の成す回転角θを検出する、例えばロータリエンコーダである。回転角センサ230は、制御部200の要求に応じて、検出結果を回転角信号として制御部200へ送信する。
荷重センサ240は、ステップ141へ加えられる荷重を検出する、例えば圧電フィルムであり、ステップ141に埋め込まれている。荷重センサ240は、制御部200の要求に応じて、検出結果を荷重信号として制御部200へ送信する。
メモリ250は、不揮発性の記憶媒体であり、例えばソリッドステートドライブが用いられる。メモリ250は、走行装置100を制御するための制御プログラムの他にも、制御に用いられる様々なパラメータ値、関数、ルックアップテーブル等を記憶している。メモリ250は、回転角θを目標速度に変換する変換テーブル251を記憶している。
変換テーブル251は、回転角θと目標速度の関係を示すテーブルであり、回転角θが大きくなるにつれて、目標速度が大きくなるように設定されている。変換テーブル251は、例えば、目標速度を回転角θの関数として表した関数形式として良いが、変換テーブル251の形式はこれに限られない。
次に、本実施の形態1における、走行処理について説明する。図6は、走行中の処理を示すフロー図である。図6のフローは、電源スイッチがオンにされ、荷重センサ240から荷重ありの信号を受け取った時点、すなわちユーザが搭乗した時点から開始する。
制御部200は、ステップS101で、回転角センサ230から回転角信号を取得して現在の回転角θを算出する。そして、ステップS102で、算出した回転角θを、メモリ250から読み出した変換テーブル251に当てはめ、目標速度を設定する。
制御部200は、目標速度を設定したら、ステップS103へ進み、駆動輪ユニット210へ対して加減速の駆動信号を送信する。具体的には、まず車速センサ220から速度信号を受け取り、現在の速度を確認する。そして、目標速度が、現在の速度より大きければ加速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信し、現在の速度より小さければ減速する駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する。
制御部200は、加減速中も回転角θが変化したか、つまり、ユーザがハンドル115を前後に傾けたかを監視する(ステップS104)。回転角θが変化したと判断したら、再度ステップS101からやり直す。変化していないと判断したらステップS105へ進む。
制御部200は、ステップS105で、車速センサ220から速度信号を受け取り、目標速度に到達したか否かを判断する。目標速度に到達していないと判断したら、ステップS103へ戻り、加減速を継続する。目標速度に到達したと判断したら、ステップS106へ進む。ステップS106では、目標速度が0であったか否かを確認する。目標速度が0であったなら、ステップS106の時点では走行装置100は停止していることになる。そうでなければ、目標速度により走行中であるので、制御部200は、その速度で走行を維持するように駆動信号を駆動輪ユニット210へ送信する(ステップS107)。
制御部200は、ステップS107で定速走行している間も、回転角θが変化したか、つまり、ユーザがハンドル115を前後に傾けたかを監視する(ステップS108)。回転角θが変化したと判断したら、ステップS101へ戻る。変化していないと判断したら定速走行を続けるべく、ステップS107へ戻る。
ステップS106で目標速度が0であったと確認したら、ステップS109へ進み、ユーザが降機したかを荷重センサ240から受信する荷重信号から判断する。ユーザが降機していない、つまり荷重があると判断したら、走行制御を継続すべくステップS101へ戻る。降機したと判断したら、一連の処理を終了する。
なお、本実施の形態1に係る走行装置100は、WB長が長い高速走行時には、バー114を旋回規制部材150で拘束することで、ハンドル115の旋回操作を規制していたが、これには限られない。例えば、ハンドル115自体を拘束することで、ハンドル115の旋回操作を規制しても良い。
ここで、ハンドル115自体を拘束する本実施の形態1の変形例1の構成を図7および図8に示す。図7および図8は、実施の形態1の変形例1に係る走行装置100Aの側面概観図であり、図7は、WB長が短い低速走行時の様子を示し、図8は、WB長が長い高速走行時の様子を示している。本実施の形態1の変形例1に係る走行装置100Aは、旋回規制部材150の代わりに、旋回規制部材150Aを備えている。旋回規制部材150Aは、旋回規制部材150と比較して、ハンドル115の高さ位置まで上方に延伸した構成になっている。そのため、走行装置100Aは、WB長が長い高速走行時には、ハンドル115自体を旋回規制部材150Aで拘束することで、ハンドル115の旋回操作を規制することができる。
また、本実施の形態1に係る走行装置100は、断面が略コの字形状の旋回規制部材150を用いたが、これには限られない。断面が略コの字形状の旋回規制部材150は、ハンドル115を一意な旋回角度にしか規制することができない。そこで、旋回規制部材の断面形状は、例えば、上方から下方に向かうにしたがって、前側支柱111と対向する開口部分の幅が徐々に狭くなるような形状としても良い。これにより、WB長が長くなるにしたがって、ハンドル115をより小さい旋回角度に規制することができ、無段階の角度規制が可能になる。
また、本実施の形態1に係る走行装置100は、断面が略コの字でかつ板状体の形状である旋回規制部材150を用いたが、これには限られない。
ここで、旋回規制部材150の断面および形状を変更した本実施の形態1の変形例2の構成を図9に示す。本実施の形態1の変形例2に係る走行装置100Bは、旋回規制部材150の代わりに、旋回規制部材150Bを備えている。旋回規制部材150Bは、後側支柱121のうち、本体部122に支持された一端とは反対側の他端に固定支持された略Y字形状の部材であり、Y字の開口部分が前側支柱111と対向するように配置されている。旋回規制部材150Bは、後側支柱121の他端に固定支持されているため、後側支柱121と共に、ヒンジ軸HA周りに、ヒンジ継手132と相対的に回動する。
図10〜図13は、走行装置100Bの旋回規制部材150B周辺の低速走行時における概観図であり、図10は斜視概観図、図11は正面概観図、図12は上面概観図、図13は側面概観図である。また、図14〜図17は、走行装置100Bの旋回規制部材150B周辺の高速走行時における概観図であり、図14は斜視概観図、図15は正面概観図、図16は上面概観図、図17は側面概観図である。なお、図15および図16は、構造の理解を容易とするために、それぞれ正面および上面から若干斜めにずらした斜め正面および斜め上面から見た図面としている。
WB長が短い低速走行時は、旋回規制部材150Bは、前側支柱111からは離れた位置にある。この状態では、不図示のバー114は、旋回規制部材150Bに拘束されないため、前側支柱111は自由に回転可能である。したがって、ユーザは、不図示のハンドル115を、機械的規制を受けずに、自由に旋回操作することができるため、走行装置100Bの旋回動作も制限されない。
一方、WB長が長い高速走行時は、前側支柱111のうち、不図示のハンドル115が固定されている他端は、旋回規制部材150BのY字の開口部分に収容される。ここで、不図示のバー114の前側支柱111の伸延方向における位置は、図12〜図15の状態でハンドル115を旋回操作した時に、バー114が旋回規制部材150Bで拘束されるような位置に配置されている。そのため、バー114が旋回規制部材150Bに拘束され、前側支柱111の回転が制限されることから、ハンドル115の旋回操作の機械的規制の度合いが大きくなる。その結果、走行装置100Bの高速走行時の急旋回動作を制限することができ、ユーザの転倒の可能性を低減することができる。
<実施の形態2>
実施の形態2について説明する。図18および図19は、実施の形態2に係る走行装置300の側面概観図であり、図18は、WB長が短い低速走行時の様子を示し、図19は、WB長が長い高速走行時の様子を示している。
本実施の形態2に係る走行装置300は、上記の実施の形態1と比較して、旋回規制部材150(又は150A又は150B)の代わりに、弾性バネである旋回規制部材151を備える点が異なっている。旋回規制部材151は、前側支柱111のうち前輪101を支持する一端寄りの位置にて、前側支柱111と後輪支持部材120とをバネ接続している。なお、ここでは、後輪支持部材120には、後側支柱121よりも前輪101寄りの位置にて後側支柱121を固定支持する補助支柱123が設けられているため、旋回規制部材151は、補助支柱123に接続されているが、補助支柱123を設けない場合には、後側支柱121に接続すれば良い。
WB長が短い低速走行時は、弾性バネである旋回規制部材151は縮む。この状態では、前側支柱111は、旋回規制部材151のバネ力の影響を受けないため、自由に回転可能である。したがって、ユーザは、ハンドル115を、機械的規制を受けずに、自由に旋回操作することができるため、走行装置300の旋回動作も制限されない。
一方、WB長が長い高速走行時は、弾性バネである旋回規制部材151は伸びる。この状態では、前側支柱111は、旋回規制部材151のバネ力により後輪102側に引っ張られ、自由な回転が制限される。そのため、ハンドル115の旋回操作の機械的規制の度合いが大きくなる。その結果、走行装置300の高速走行時の急旋回動作を制限することができ、ユーザの転倒の可能性を低減することができる。また、旋回規制部材151には弾性力があるため、ハンドル115の直進方向への復元力を持たせることができるという利点もある。
なお、走行装置300の制御ブロックおよび走行中の処理フローは、上記の実施の形態1と同様であるため、説明を省略する。
<実施の形態3>
実施の形態3について説明する。図20は、実施の形態3に係る走行装置500の低速走行時における側面概観図である。
本実施の形態3に係る走行装置500は、上記の実施の形態1,2と比較して、旋回規制部材150(又は150A又は150B又は151)の代わりに、ハンドル115の旋回角度を規制する旋回角度規制機構160を備え、前輪支持部材110と後輪支持部材120の相対姿勢に応じて、旋回角度規制機構160によるハンドル115の旋回角度の規制の度合いが変化し得るようにしている点が異なっている。本実施の形態3に係る旋回角度規制機構160は、歯車161、歯車162、およびモータ163を含む。
歯車161は、前側支柱111のうち、ハンドル115が固定された他端寄りの位置に前側支柱111に軸支されて固定されており、前側支柱111の回転と共に、歯車161自身も回転する。歯車162は、歯車161と噛合し、歯車161と相対的に回転する。また、歯車162には、歯車162を軸支するモータ163が取り付けられており、モータ163により回転駆動される。モータ163は、旋回継手131に固定されている。すなわち、歯車162は、歯車161と噛合した状態で固定されており、歯車161と歯車162の相対姿勢は一定となる。
WB長が短い低速走行時は、モータ163を作動させない。そのため、前側支柱111は、歯車162により回転が制限されずに、自由に回転可能である。したがって、ユーザは、ハンドル115を、旋回角度の規制を受けずに、自由に旋回操作することができるため、走行装置500の旋回動作も制限されない。
一方、WB長が長い高速走行時は、モータ163を作動させて、前側支柱111の回転を歯車162により制限する。ここで、歯車161の回転角を、走行装置500が直進方向を向いている時を0°として、回転角rとする。例えば、WB長が最長の時は、回転角rが±30°の範囲内であれば、モータ163を作動させないが、回転角rが±30°の範囲を超えたら、歯車162をロックするようにモータ163を作動させる。このように、回転角rが±30°の範囲を超えた場合には、歯車161がロックされることから、前側支柱111は、回転角rが±30°の範囲内でしか回転することができない。そのため、ハンドル115の旋回角度も±30°の範囲に規制され、ハンドル115の旋回角度の規制の度合いが大きくなる。その結果、走行装置500の高速走行時の急旋回動作を制限することができ、ユーザの転倒の可能性を低減することができる。
図21は、走行装置500の制御ブロック図である。図21は、図5と比較して、歯車ユニット260および回転角センサ270を追加した点が異なっている。歯車ユニット260は、歯車162を駆動するための駆動回路やモータ163を含む。回転角センサ270は、歯車161の回転角rを検出する、例えばロータリエンコーダである。回転角センサ270は、制御部200の要求に応じて、検出結果を回転角信号として制御部200へ送信する。制御部200は、回転角センサ270の回転角信号に応じた駆動信号を歯車ユニット260へ送ることにより、歯車162の回転制御を実行する。
次に、本実施の形態3における、走行処理について説明する。ここでは、上述のように、WB長が最長の時に、回転角rが±30°の範囲を超えたら、歯車162をロックするものとして説明する。本実施の形態3は、走行中は、図6の処理に追加して、図22の処理を行う。図22は、本実施の形態3で追加される、走行中の処理を示すフロー図である。図22のフローは、図6のステップS101で算出された現在の回転角θが最大角であった場合に、つまりWB長が最長であった場合に、開始される。
制御部200は、現在の回転角θが最大角である場合、つまりWB長が最長である場合、ステップS201で、回転角センサ270から回転角信号を取得して現在の回転角rを算出する。そして、ステップS202で、現在の回転角rが±30°の範囲内であるか否かを判断する。現在の回転角rが±30°の範囲内であったなら、ユーザはステップS202の時点では大きな旋回角度で旋回操作をしていないことになるため、ステップS204に進む。そうでなければ、ユーザは大きな旋回角度で旋回操作をしようとしているので、歯車162をロックするように駆動信号を歯車ユニット260へ送信し(ステップS203)、ステップS204に進む。
制御部200は、ステップS204で、回転角センサ230から回転角信号を取得して現在の回転角θを算出し、現在の回転角θが最大角であるか否かを判断する。現在の回転角θが最大角であると判断したら、ステップS201に戻り、現在の回転角rを算出する。現在の回転角θが最大角でないと判断したら、一連の処理を終了する。以降に、図6のステップS101で算出された現在の回転角θが最大角になると、つまりWB長が最長になると、図22のフローが再度開始される。
なお、本実施の形態3に係る走行装置500は、ハンドル115の旋回角度を規制する旋回角度規制機構160を、歯車とモータで構成していたが、これには限られない。例えば、ブレーキパッドのように、摩擦力を用いて前側支柱111の回転にブレーキをかけることで、ハンドル115の旋回角度を規制しても良い。または、油圧を用いて前側支柱111の招動部に粘性成分を付与することで、ハンドル115の旋回角度を規制しても良い。
ここで、前側支柱111に粘性成分を付与する本実施の形態3の変形例1の構成を図23に示す。図23は、本実施の形態3の変形例1の走行装置500Aの旋回角度規制機構160A周辺の上面概略図である。本実施の形態3の変形例1に係る旋回角度規制機構160Aは、油溜まり171および羽根172を含む。
油溜まり171は、前側支柱111の伸延方向の任意の位置に設けられた箱状の部材であり、底面が閉塞されていて、粘性油が溜められるようになっている。ここでは、油溜まり171は、立方体又は直方体の四角柱形状としているが、その他の多角柱形状(六角柱や八角柱)、円柱形状としても良い。また、油溜まり171の上面は開放されても良いし、閉塞されても良い。また、油溜まり171には、外部から油圧により粘性油の供給及び排出を可能とするための不図示の給油/排出口が設けられている。
羽根172は、前側支柱111の外周に設けられ、前側支柱111から放射方向に延びる板状の部材である。ここでは、羽根172は6枚設けられているが、羽根172の数はこれには限られない。なお、羽根172は、前側支柱111の伸延方向の全面にわたって設ける必要はなく、少なくとも油溜まり171に対応する位置に設ければ良い。
WB長が短い低速走行時は、油溜まり171における粘性油は空の状態とする。この状態で、ユーザは、ハンドル115を旋回させて前側支柱111を回転させると、前側支柱111の回転と共に6枚の羽根172も回転する。このとき、油溜まり171には粘性油がないため、前側支柱111は、粘性油により回転が制限されずに、自由に回転可能である。したがって、ユーザは、ハンドル115を、旋回角度の規制を受けずに、自由に旋回操作することができるため、走行装置500Aの旋回動作も制限されない。
一方、WB長が長い高速走行時は、油溜まり171に粘性油を供給し、粘性油が溜まった状態とする。この状態で、ユーザは、ハンドル115を旋回させて前側支柱111を回転させると、6枚の羽根172は、粘性油からの粘性抵抗力を表面に受けるため、前側支柱111の回転が制限されることから、ハンドル115の旋回角度の規制の度合いが大きくなる。その結果、走行装置500Aの高速走行時の急旋回動作を制限することができ、ユーザの転倒の可能性を低減することができる。
また、本実施の形態3に係る走行装置500は、ハンドル115の旋回角度を規制するために、旋回角度が規制角度以上になるとハンドル115を完全にロックしていたが、これには限られない。例えば、本実施の形態3の変形例1の場合、ハンドル115の旋回角度が規制角度に近づくにしたがって、徐々に粘性抵抗力を高くし、規制角度以上になった場合でも、ユーザが手でハンドル115を旋回させるにはかなりの力を要するものの、完全にはロックしない構成としても良い。なお、粘性抵抗力を高くする方法としては、粘性油の量を増やす方法が考えられるが、これには限られない。
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、走行装置は、自立可能な静的安定車輌でなくても良い。また、前輪、後輪は、車輪でなくても良く、球状輪、クローラなどの接地要素であっても構わない。また、ハンドルは、前輪支持部材に設けることに限らず、後輪支持部材に設けても構わない。また、搭乗部は、後輪支持部材に設けることに限らず、前輪支持部材に設けても構わない。また、駆動輪は後輪に限らず、前輪であっても構わない。また、駆動輪を駆動する動力源はモータに限らず、ガソリンエンジンなどであっても構わない。