JP6558288B2 - アクリロニトリル系繊維束の製造方法および炭素繊維束の製造方法 - Google Patents

アクリロニトリル系繊維束の製造方法および炭素繊維束の製造方法 Download PDF

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本発明は、炭素繊維束の製造方法に適した、安定して高品位のアクリロニトリル系繊維束を製造する方法に関する。
炭素繊維の前駆体繊維などとして用いられるアクリロニトリル系繊維束の製造においては、生産効率を高め、そして製造原価を低減させることが重要である。この要求に応えるため、一錘当たりの孔数を増加させた紡糸口金や、口金錘数・糸条数を増加させる方法、更には糸条走行速度を増大させる方法等、多種多様の方法が採用されている。これらの方法のうち、口金一錘当たりの孔数を増加させたり、糸条走行速度を増加させたりすることは、大幅な設備投資を伴わずに要求に応えることができる点で大きな利点がある。
しかしながら、アクリロニトリル系繊維束の製造において、アクリロニトリル系ポリマーを含んだ紡糸原液を口金面から一旦空気中に押し出した後、凝固浴中に下向きに吐出し、方向転換ガイドで折り返して凝固浴外に引き出す乾湿式紡糸法を採用する場合、凝固浴中の糸条走行速度を増加させると、得られるアクリロニトリル系繊維束の品位が著しく悪化し、糸切れ等の操業性の悪化を伴うことが多い。
そこで、特許文献1には紡糸原液を直接凝固浴中に吐出し凝固浴外に引き出す湿式紡糸法において、紡出糸条と凝固浴底面の間に仕切板を配置することで、糸条走行速度を高めても凝固浴内での糸条の乱れや、絡まりの原因となる凝固浴液の乱れを抑制する技術が開示されている。また、同じく湿式紡糸法において、紡出糸条と凝固浴底面の間に開口を有する整流板を配置する技術によっても、同様の効果を発揮することが知られている(特許文献2参照)。
しかしながら、これらの技術は、湿式紡糸法では大きな効果を発揮するが、乾湿式紡糸法においては、単に紡出糸条と凝固浴底面との間に仕切板や整流板を配置するだけでは、凝固浴液の乱れを十分に抑制することがこれまで不可能であった。この理由として、凝固浴はその組成を一定なものに保つために、槽から一旦排出した液を槽に戻すという循環がなされているが、湿式紡糸法では一般的に、槽に供給される凝固浴液の流入方向が、紡糸原液が吐出される方向と同一方向である。しかしながら、乾湿式紡糸法で紡糸原液が吐出される方向(下向き)と水平方向に凝固浴液を流入させれば、糸条が乱れ、単繊維切れや絡まりを誘発が発生する。そのため、乾湿式紡糸法では、一般的に凝固浴液は図1に示すように循環ポンプ8を用い凝固浴底部にある凝固浴液流入口6から供給されるため、凝固浴液の流入方向は対向(上向き)となっている。循環のために凝固浴下方向から供給される凝固浴液の流れと、下向きに進行する吐出糸条の周りに随伴する液の流れ、いわゆる随伴流とが、浴内で衝突することで生じる液の乱れや、凝固浴出側の槽壁に衝突して転換した浴液の流れを糸条が受けるため、糸条の単繊維切れや絡まりを誘発し、糸条走行速度を高める上での障壁となっていた(特許文献4参照)。
前記した問題を解決するために、口金と凝固浴中の方向転換ガイドの間に、下向きに走行する糸条と適度な距離を置いて、糸条を取り囲むように整流筒を設置する技術が提案されている(特許文献3参照)。しかしながら、かかる技術では整流筒に入る前の糸条さらに出た糸条が浴液の乱れを受けるため、前記した問題を解消するには不十分であった。また、整流筒から出た糸の随伴流を制御するため、糸の流れに沿うような仕切板の設置する技術が提案されている(特許文献4参照)。しかしながら、かかる技術では整流板を回り込んで口金近傍に供給されるため、糸条走行速度が高速化すると口金近傍に供給される流れが強くなり、口金近傍の浴液流れを乱すことで、単繊維切れや単繊維間接着などの糸欠点が発生するため、前記した問題を解消するには不十分であった。
また、口金から下方に紡出された糸条が凝固浴の底面で反射する随伴流の影響を受けにくくするため、口金から下方に紡出される糸条の周囲の全部または一部を囲む横整流板を設置する技術が提案されている(特許文献5参照)。しかしながら、かかる技術では凝固液面揺れを抑制するには有効であっても、横整流板の下部にある方向転換ガイドでは糸条が浴液の乱れを受け、またこの方向転換ガイドは糸条の進行方向が変わる部分になるため浴液の乱れの影響が大きく、糸条走行速度の増加または口金多ホール化により随伴流および槽壁に衝突して口金位置に向かう方向(上向き)に転換した浴液の流れが強くなった際に方向転換ガイドで走行糸条を大きく乱し、単繊維切れや単繊維間接着などの糸欠点を引き起こしていた。
また、アクリロニトリル系繊維束の生産効率を高めるために、紡糸原液を吐出する多数の紡糸孔が間隔をおいて配列されて設けられた口金の外面が気相を介して凝固液の液面に向いている乾湿式紡糸用スピニングパックにおいて、前記紡糸孔の数が6,000以上である乾湿式紡糸用スピニングパックが提案されている(特許文献6参照)。しかしながら、口金の多ホール化により吐出糸条のフィラメント数が増加し、それに伴い下向きに進行する吐出糸条の随伴流は増加する。増加した随伴流が口金近傍の浴液流れを乱すことで、単繊維切れや単繊維間接着などの糸欠点を引き起こしていた。そのため、生産効率の向上効果は不十分であった。
乾湿式紡糸法において、糸条走行速度の増加または口金多ホール化させながら、安定して高品位のアクリロニトリル系繊維束を製造する方法、および具体的に浴液の流れをどこまで抑制する必要があるか定量評価された方法は開示されていなかった。
また、生産効率を高める手段として、特定の分子量分布の大きなPAN系重合体溶液を用いる技術が提案されている(特許文献7参照)。しかしながら、かかる技術で得られたアクリロニトリル系繊維束は、短期的に品位および工程通過性が安定していても、連続的に生産を続けていると方向転換ガイドで走行糸条が乱れることに起因する単繊維切れや単繊維間接着が、糸欠点となり、続く延伸工程において糸切れが発生していた。
特開昭62−33814号公報 特開平11−229227号公報 特開平11−350244号公報 特開2007−291594号公報 国際公開第2013/047437号 特開2011−63926号公報 特開2010−255159号公報
本発明は乾湿式紡糸において、糸条走行速度の高速化または口金多孔化しつつ、高品位のアクリロニトリル系繊維束を安定して製造できる方法を提供することにある。
前記目的を達成するために、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法は、次の構成を有する。すなわち、紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出した後、底面に配された凝固浴液流入口から上方に凝固浴液が供給される凝固浴中に下向きに進入せしめて凝固糸条とし、口金下方の凝固浴中に配された方向転換ガイドで凝固糸条を折り返して凝固浴外に引き出すアクリロニトリル系繊維束の製造方法であって、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に少なくとも10分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の60%以上が口金方向であり、該凝固浴液の流速の絶対値の平均が0.8m/分以上であることを特徴とするアクリロニトリル系繊維束の製造方法である。
また、本発明の炭素繊維束の製造方法は、前記アクリロニトリル系繊維束の製造方法によってアクリロニトリル系繊維束を製造した後、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化処理し、次いで1000℃以上の不活性雰囲気中で加熱する炭素繊維束の製造方法である。
本発明によれば、乾湿式紡糸法において、糸条走行速度を高速化または口金多孔化させても、吐出糸条が凝固浴中で受ける浴液抵抗を減少させることができ、それにより単繊維切れや絡まり等の品位低下要因を減少させることができ、高品位なアクリロニトリル系炭素繊維束を短時間のうちに大量に生産できるようになる。特に、炭素繊維用アクリロニトリル系前駆体繊維束を製造するに好適である。
従来の乾湿式紡糸装置の実施形態の一例を概略で示す側断面図である。 本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態の一例を示す側断面図である。 本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態の一例を示す上面図である。 本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態の別の一例を示す側断面図である。 本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態のさらに別の一例を示す側断面図である。 本発明に係る乾湿式紡糸装置の実施形態のさらに別の一例を示す側断面図である。 比較例に係る乾湿式紡糸装置を示す側断面図である。 比較例に係る乾湿式紡糸装置を示す上面図である。 乾湿式紡糸装置の凝固浴液の流れの方向および流速の測定方法を示す側断面図である。 乾湿式紡糸装置の凝固浴液の流れの方向および流速の測定方法を示す上面図である。
本発明は安定して高品位なアクリロニトリル系繊維束を得るために口金から吐出されたポリマーが凝固浴内に侵入する際に口金近傍の凝固浴液流れの口金方向への流れを適正化し、凝固浴液の乱れによる糸揺れが原因となる単繊維間接着や単繊維絡まり、さらには単繊維切れを抑制することにある。
本発明について、以下に詳細を説明する。
本発明において、アクリロニトリル系繊維束の原料となる紡糸原液は、アクリロニトリル系重合体が溶媒に溶解されてなる。アクリロニトリル系重合体としては、アクリロニトリル(以下、ANと略記する)90質量%以上を重合してなる重合体が好ましく使用される。アクリロニトリル系重合体は、AN100質量%を重合してなるホモポリマーであってもよく、ANに他のモノマーを共重合させたコポリマーであってもよい。ANに共重合させるモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、およびそれらアルカリ金属塩、アンモニウム塩および低級アルキルエステル類、アクリルアミドおよびその誘導体、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸およびそれらの塩類またはアルキルエステル類等を採用用することができる。
紡糸原液に用いる溶媒としては、例えば、塩化亜鉛水溶液、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド(以下、DMSOと略記する)、またはジメチルホルムアミド等を用いることが可能である。紡糸原液におけるアクリロニトリル系重合体の濃度は、10質量%以上30質量%以下であることが好ましい。かかる濃度が低すぎると、凝固浴中へ吐出した凝固糸条の単繊維がローラーとの擦過により切断され易くなり、濃度が高すぎると、口金内の圧力が大きくなり、吐出孔がポリマーにより詰まりやすく操業性が悪化することがある。
以下、図面を用いて本発明を説明する。図2および図3は本発明の一態様を例示説明するための乾湿式紡糸装置の側断面図および上面図である。
本発明では、通常、25〜30℃、好ましくは27〜29℃に温調された紡糸原液を、口金1から一旦空気中に押し出して、凝固浴液が貯蓄された凝固浴3の中に下向きに進入せしめる。ここで、凝固浴液としては、紡糸原液に使用される溶媒と同種の溶媒と水との混合液が好ましく使用できる。紡糸原液温度が低すぎると、紡糸原液の粘度が高すぎるため、口金1からの自由吐出線速度が遅すぎて、口金1から凝固浴液面7との間で単繊維切れが発生することがある。また、紡糸原液温度が高すぎると、逆に紡糸原液の粘度が低すぎるため、口金1から凝固浴液面7との間で単繊維同士の融着による操業性低下を引き起こすことがある。
凝固浴3の中に進入せしめた凝固糸条2は、口金1の下方の凝固浴3中に配された方向転換ガイド4で折り返されて、凝固浴出フリーローラー5を介して凝固浴外へ引き出される。図2において、循環する凝固浴液が、方向転換ガイド4の下方に位置する凝固浴液流入口6から、上向きに供給されている。また凝固糸条2の随伴流は、方向転換ガイド4の下方で凝固浴3の底面に衝突して口金1の方向(上向き)に転換する。
ここで口金1の孔数増加または紡糸速度の上昇により随伴流は増加し、口金1の直下での凝固浴液の流れは随伴流により複雑な乱流になる。本発明は、この随伴流乱れを整流化することを目的とするものである。ただし、循環する凝固浴液は、凝固浴3内の温度・濃度を既定値に制御するため、循環する凝固浴液の流量は口金1の孔数増加または紡糸速度の上昇に伴い必要量だけ循環する形態とするのが好ましい。
本発明では、口金1の直下での凝固浴液の流れを整流化し、それにより単繊維切れや絡まり等の品位低下要因を減少させる点から、口金1の外周部から35mm離れた位置であって、口金1の中心から円周方向に均等に少なくとも10分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の60%以上が口金1の方向であることが必須条件であり、好ましくは80%以上、更に好ましくは90%以上である。凝固浴液の流れのうち、口金1に向いているものが60%未満である場合、口金1の直下での凝固浴液の流れが乱流化し単繊維間接着や単繊維絡まり、さらには単繊維切れ等の糸欠点が発生する。また、本発明に用いる口金孔配置に制限はなく、円形や多角形、半円形状など口金孔外周部の一部に辺を有する形状、環状の口金でも良い。
また、生産効率の低下を抑制する点から、口金1の外周部から35mm離れた位置であって、口金1の中心から円周方向に均等に少なくとも10分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面から深さ40mmでの凝固浴液の流速の絶対値の平均は0.8m/分以上であることが必須条件であり、好ましくは1.0m/分以上である。
ここで、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に少なくとも10分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向およびその流速の絶対値の平均は次のように求められる。
図9および図10に示すように、凝固浴液と比重の等しいビーズ10を、凝固浴液面7から深さ40mmにおいて、口金中心から円周方向に均等に少なくとも10分割、より詳細に流れ方向の分布を把握するために好ましくは20分割以上の半径方向における直線上の口金外周部から35mm離れた位置に一つずつ配置し、そのビーズ10の動きを空気中から液面方向にレンズを向けてビーズ10の動きを観察する。
ビーズの移動距離は、メジャー等をカメラで同時に撮影し、画像を解析することで算出する。凝固糸条の走行状態をビーズ10の有無で違いが出ないようにするために、ビーズの外径は2mmの球体状のものを用いる。
各測定点において、ビーズを配置する直前と配置0.5秒後に撮影を3回行い、配置する直前と配置0.5秒後の画像を重ね合わせ、3回測定の平均においてビーズの移動前後の位置を結ぶ直線上に口金外周部があれば口金に向いていると判断する。また、移動前後のビーズの位置を結んだ距離を移動距離とし、3回測定分の平均値をDmmとする。移動距離の平均値Dから、V=D/8.33の式にて凝固浴液の流速Vm/分を算出する。また、各測定点の凝固浴液の流速Vから流速Vの絶対値の平均を算出し、凝固浴液の流速の絶対値の平均とする。
口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に少なくとも10分割した位置それぞれにおける凝固浴液面から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の60%以上が口金方向であるようにし、該凝固浴液の流速の絶対値の平均を0.8m/分以上とする手段として特に制限はされないが、例えば図2に示すように、強制送液ポンプ9を用いて凝固糸条出側より凝固液を吸い上げ、口金1の直下の凝固浴3中に、口金1の周囲から凝固糸条が方向転換ガイド4の方向へ下向きに走行する方向と直交するように凝固液を送液することで、口金1の直下での随伴流を強制的に整流化する手段、または、強制送液ポンプ9同様に口金1の直下の凝固浴3中に、電動耐溶媒性のあるプロペラを設置し口金1の周囲から凝固糸条が方向転換ガイド4の方向へ下向きに走行する方向と直交するように凝固液を送液することで、口金1の直下での随伴流を強制的に整流化する手段が挙げられる。強制送液ポンプ9はバルブ開度により流量調整が容易であり、簡便に実施ができる。口金孔数増加と紡糸速度増加に応じて強制送液ポンプ9からの送液量を増やすことで、口金1直下での凝固浴液の流れを制御できる。
なお、口金の孔数を多くすると、凝固浴内での凝固糸条の糸密度が増加し、単繊維間接着や単繊維間絡まりなど糸欠点が発生しやすくなるため、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法では、口金の孔数60,000以下が好ましく、さらには24,000以下が好ましい。また生産効率の低下を抑制する点から、孔数1,000以上にすることが好ましく、より好ましくは3,000以上であり、更に好ましくは6,000以上である。
凝固糸条2による凝固浴液の乱れを抑制する点および循環浴液による凝固浴液の乱れを抑制する点から、図5のように、整流筒12および仕切板11を有することが好ましい。整流筒12は、口金1と方向転換ガイド4の間の凝固糸条2の周囲に備えられ、使用する口金1の形に合わせて、円形・矩形・多角形等に加工することにより糸条走行速度を向上することが可能となる。かかる整流筒12は、その上端の位置が凝固浴液面7から下方に0〜300mmにすることが好ましく、50〜150mmにすることが更に好ましい。整流筒12が、凝固浴液面7より上方に突出していると、凝固浴液の循環を阻害し、濃度斑が発生する懸念がある。また、仕切板11は、凝固糸条2の走行位置から凝固浴3の側面および底面の方向へ、凝固糸条2の走行方向に沿うように設けることができ、仕切板11の始端部および終端部が凝固浴液面7から深さ0〜300mmに位置するようにすることが好ましい。また、凝固浴液の乱れを可能な限り凝固糸条2に与えないために、凝固糸条2と仕切板11の距離を20〜200mmにすることが好ましく、50〜100mmにすることが更に好ましい。また、50〜100mmの距離で隔てて、凝固糸条2を取り囲むように、あるいは、凝固糸条2を挟むように仕切板11を設置することが更に好ましい。
乾湿式紡糸法によって紡糸し、凝固糸条を凝固浴外に引き出した後、浴中延伸を行う。この浴中延伸は、通常50〜98℃の延伸浴中で約2〜6倍に延伸される。なお、紡糸した凝固糸条は、好ましくは浴中延伸後水洗するか、水洗後浴中延伸することによって、残存溶媒を除去しておく。浴中延伸後は、通常、油剤を付与し、ホットローラーなどで乾燥緻密化する。また、必要があればその後、スチーム延伸等の2次延伸を行う。本発明では、これらの工程を経て得られた複数のアクリロニトリル系繊維束を巻き取るかキャンなどに収納する前に集束用フリーローラーガイド群により合糸し、巻き取り機によりパッケージに巻き取られるかキャンに収納される。また別の態様として、巻き取ったアクリロニトリル系繊維束を複数本解舒するか、キャンから引き出して集束用フリーローラーガイド群により合糸を行うこともできる。かかるアクリロニトリル系繊維束を構成する単糸数は、1,000を超えるとき、より好ましくは2,000を超えるときに本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法の効果を好適に得ることができる。また、単糸数の上限は特に制限がないが、通常100,000以下である。
次に、本発明のアクリロニトリル系繊維束の製造方法によって得られたアクリロニトリル系繊維束から炭素繊維束を製造する方法について説明する。
前記したアクリロニトリル系繊維束の製造方法により製造されたアクリロニトリル系繊維束を、200〜300℃の空気などの酸化性雰囲気中において耐炎化処理する。処理温度は低温から高温に向けて複数段階に昇温するのが耐炎化繊維束を得る上で好ましく、さらに毛羽の発生を伴わない範囲で高い延伸比で繊維束を延伸するのが炭素繊維の性能を十分に発現させる上で好ましい。次いで得られた耐炎化繊維束を窒素などの不活性雰囲気中で1000℃以上に加熱することにより、炭素繊維を製造する。その後、電解質水溶液中で陽極酸化をおこなうことにより、炭素繊維表面に官能基を付与し樹脂との接着性を高めることが可能となる。また、エポキシ樹脂等のサイジング剤を付与し、耐擦過性に優れた炭素繊維を得ることが好ましい。
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。
(接着評価)
凝固浴から引取後の繊維束を50cm採取し、底が黒色で、2cm深さの水が入ったバットで繊維束を泳がせ、ばらけ具合を観察して、接着状態を評価した。評価基準は以下の通りである。
1:単繊維状にばらけている。
2:ピンセットで水中の繊維束を軽くたたくと単繊維にばらける。
3:数本単位でばらけない繊維束を含む。
4:数十本単位でばらけない繊維束を1つ含む。
5:数十本単位でばらけない繊維束を複数含む。
(アクリロニトリル系繊維束の品位)
アクリロニトリル系繊維束を巻き取る手前で1000m分のアクリロニトリル系繊維の毛羽の数を数え、品位を評価した。評価基準は以下の通りである。
1:(毛羽本数/1繊維束・1000m)≦1
2:1<(毛羽本数/1繊維束・1000m)≦2
3:2<(毛羽本数/1繊維束・1000m)≦5
4:5<(毛羽本数/1繊維束・1000m)<60
5:(毛羽本数/1繊維束・1000m)≧60
(比較例1)
図1,8に示す乾湿式紡糸装置を用いるとともに、紡糸原液として、AN99モル%、イタコン酸1モル%を共重合してなるAN共重合体を20質量%含むDMSO溶液を紡糸原液として用い、一錘当たりの孔数が6,000ホールの口金から、28℃に温調した紡糸原液を、一旦空気中に押し出して、30質量%DMSO水溶液で調整された凝固浴中へ下方向に進入させ、方向転換ガイド4で角度65°で折り返して、凝固浴外に25m/分で引き出した後、水洗工程へ搬入した。その後、浴延伸工程で延伸させながらアミノシリコーンを主成分とする油剤を付与し、更に乾燥・後延伸工程を経てアクリロニトリル系繊維束を得た。
この時、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の57%であった。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は満足できるものではなかった。
(実施例1)
図3,6に示す乾湿式紡糸装置を用いるとともに、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の93%が口金方向に向くように、口金外周部から50mm離れた位置において凝固浴液面7から深さ40mmの位置から口金方向へ凝固浴液を送液できるよう2つの強制送液ポンプ9を設置し送液量を調整した以外は比較例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は良好であった。
(実施例2)
図7,8に示す乾湿式紡糸装置を用いる以外は比較例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。この時、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の86%であった。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は実施例1と同等であり満足できるものであった。
(比較例2)
図1,8に示す乾湿式紡糸装置を用い、凝固浴外に35m/分で引き出した以外は比較例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。この時、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の29%であった。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は比較例1と比べ悪化し、満足できるものではなかった。
(実施例3)
図3,6に示す乾湿式紡糸装置を用い、凝固浴外に35m/分で引き出すとともに、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の64%が口金方向に向くよう強制送液ポンプ9の送液量を調整した以外は実施例1と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は問題なかった。また、凝固浴外に引き出す速度が実施例2の25m/分から35m/分に高速化していることに比例して、その生産効率は向上し、その製造原価は満足できるものであった。
(比較例3)
図7,8に示す乾湿式紡糸装置を用いる以外は比較例2と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。この時、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の50%であった。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は比較例2に比べ改善は見られたが、依然満足できるものではなかった。
(実施例4)
図2,3に示す乾湿式紡糸装置を用いるとともに、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の79%が口金方向に向くよう強制送液ポンプ9の送液量を調整した以外は実施例3と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。接着は問題なく、アクリロニトリル系繊維製造時の品位は実施例2に比べ改善した。また、凝固浴外に引き出す速度が実施例1の25m/分から35m/分に高速化していることに比例して、その生産効率は向上し、その製造原価は満足できるものであった。
(実施例5)
図3、4に示す乾湿式紡糸装置を用いるとともに、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の71%が口金方向に向くよう強制送液ポンプ9の送液量を調整した以外は実施例3と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。接着は実施例2に比べ改善し、アクリロニトリル系繊維製造時の品位は問題なかった。また、凝固浴外に引き出す速度が実施例1の25m/分から35m/分に高速化していることに比例して、その生産効率は向上し、その製造原価は満足できるものであった。
(実施例6)
図3、5に示す乾湿式紡糸装置を用いるとともに、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に14分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面7から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の86%が口金方向に向くよう強制送液ポンプ9の送液量を調整した以外は実施例3と同様にしてアクリロニトリル系繊維束を得た。接着およびアクリロニトリル系繊維製造時の品位は実施例2に比べ改善し良好であった。また、凝固浴外に引き出す速度が実施例1の25m/分から35m/分に高速化していることに比例して、その生産効率は向上し、その製造原価は満足できるものであった。
Figure 0006558288
1 口金
2 凝固糸条
3 凝固浴
4 方向転換ガイド
5 凝固浴出フリーローラー
6 凝固浴液流入口
7 凝固浴液面
8 循環ポンプ
9 強制送液ポンプ
10 ビーズ
11 仕切板
12 整流筒

Claims (7)

  1. 紡糸原液を、口金から一旦空気中に押し出した後、底面に配された凝固浴液流入口から上方に凝固浴液が供給される凝固浴中に下向きに進入せしめて凝固糸条とし、口金下方の凝固浴中に配された方向転換ガイドで凝固糸条を折り返して凝固浴外に引き出すアクリロニトリル系繊維束の製造方法であって、口金外周部から35mm離れた位置であって、口金中心から円周方向に均等に少なくとも10分割した位置それぞれにおける、凝固浴液面から深さ40mmでの凝固浴液の流れる方向の60%以上が口金方向であり、該凝固浴液の流速の絶対値の平均が0.8m/分以上であることを特徴とするアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
  2. 凝固糸条を凝固浴外に引き出す速度が25〜50m/分である請求項1に記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
  3. 口金の孔数が1,000〜60,000である請求項1または2に記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
  4. 凝固浴液が口金方向へ流れるように凝固浴液の流れを制御する手段を凝固浴内に備える請求項1〜3のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
  5. 凝固糸条の走行位置から凝固浴の側面および底面の方向へ20〜200mm離れた位置に、凝固糸条の走行方向に沿った形状の仕切板を備え、仕切板の始端部および終端部は凝固浴液面から深さ0〜300mmに位置する請求項1〜4のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
  6. 口金と方向転換ガイドの間の凝固糸条の周囲に整流筒を備える請求項1〜5のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法。
  7. 請求項1〜6のいずれかに記載のアクリロニトリル系繊維束の製造方法によってアクリロニトリル系繊維束を製造した後、200〜300℃の酸化性雰囲気中で耐炎化処理し、次いで1000℃以上の不活性雰囲気中で加熱する炭素繊維束の製造方法。
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