JP6536658B2 - 非水系電解質二次電池用正極活物質、及びこれを用いた非水系電解質二次電池 - Google Patents

非水系電解質二次電池用正極活物質、及びこれを用いた非水系電解質二次電池 Download PDF

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Description

本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質、及びこれを用いた非水系電解質二次電池に関する。
携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及にともない、高いエネルギー密度を有する小型で軽量な非水系電解質二次電池の開発が強く望まれている。このような二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。このようなリチウムイオン二次電池の正極材料には、リチウム複合酸化物が活物質として用いられ、現在、研究開発が盛んに行われている。
リチウム複合酸化物の中でも、リチウム遷移金属複合酸化物、特に合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として期待され、実用化されている。このリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)を用いたリチウムイオン二次電池では、優れた初期容量特性やサイクル特性を得るための開発がこれまで数多く行われてきており、すでにさまざまな成果が得られている。
しかし、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)は、原料に希産で高価なコバルト化合物を用いているため、電池のコストアップの原因となっている。このため、正極活物質としてリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)以外のものを用いることが望まれている。また、最近は、携帯電子機器用の小型二次電池だけではなく、電力貯蔵用や、電気自動車用などの大型二次電池としてリチウムイオン二次電池を適用することへの期待も高まってきている。このため、活物質のコストを下げ、より安価なリチウムイオン二次電池の製造を可能とすることは、広範な分野から大きな波及効果が期待されている。
リチウムコバルト複合酸化物に代替として新たに提案されている材料としては、コバルトよりも安価なマンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)や、ニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)を挙げることができる。
リチウムマンガン複合酸化物は原料が安価である上、熱安定性、特に、発火などについての安全性に優れるが、理論容量がリチウムコバルト複合酸化物の半分程度しかないため、年々高まるリチウムイオン二次電池の高容量化の要求に応えるのが難しいという欠点がある。また、45℃以上では、自己放電が激しく、充放電寿命も低下するという欠点もある。
一方、リチウムニッケル複合酸化物は、リチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)とほぼ同じ理論容量を持ち、リチウムコバルト複合酸化物よりもやや低い電池電圧を示す。このため、電解液の酸化による分解が問題になりにくく、より高容量が期待できることから、近年、研究開発が盛んに行われている。しかしリチウムニッケル複合酸化物を正極活物質に用いてリチウムイオン二次電池を作製した場合、リチウムコバルト複合酸化物の場合と比較して、充電状態での熱安定性、特に発火などについての安全性に劣るという欠点がある。すなわち、純粋なニッケル酸リチウムを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、熱安定性などの安全性、充放電サイクル特性などに問題があり実用電池として使用することが困難であった。これは、リチウムニッケル複合酸化物の充電状態における結晶構造の安定性が、リチウムコバルト複合酸化物に比べて低いためである。
この解決策として、例えば特許文献1にあるように、ニッケルの一部をコバルト、マンガン、鉄などの遷移金属元素、アルミニウム、バナジウム、スズなどの異種元素で置換して、充電でリチウムが抜けた状態での結晶構造の安定化を図り、正極活物質として安全性及び充放電サイクル特性が良好なリチウムニッケル複合酸化物を得ることが一般的に知られている。
さらに特許文献2〜6では、リチウムニッケル複合酸化物にニオブ化合物を含有させることが検討されている。ニオブ化合物を含有するリチウムニッケル複合酸化物(以下、ニオブ含有リチウムニッケル複合酸化物と記載する)の多くは、リチウムニッケル複合酸化物にニオブ化合物を混合又は被覆することや、ニッケルやその他の元素を含有する複合水酸化物にニオブ化合物を共沈又は被覆した後、リチウム化合物と混合、焼成することで得られる。いずれも熱安定性と充放電容量の両立を目的としたものであるが、ニオブ含有量が少ないと充放電容量は大きいものの、十分な熱安定性が得られ難く、一方、ニオブ含有量が多いと熱安定性は良好であるものの、充放電容量を確保できないという問題があった。また、優れたサイクル特性を確保することが難しいという問題もあった。
最近では携帯電子機器などの小型二次電池に対する高容量化の要求は年々高まる一方であり、安全性を確保するために容量を犠牲にすることは、リチウムニッケル複合酸化物の高容量のメリットを失うことになる。また、リチウムイオン二次電池を大型二次電池に用いる動きも盛んであり、中でもハイブリッド自動車用、電気自動車用の電源、あるいは電力貯蔵用の定置式蓄電池としての期待が大きい。さらに、これらの電池では、高寿命化についても要求されており、優れたサイクル特性を有することが重要である。このような用途において、安全性に劣るというリチウムニッケル複合酸化物の問題点の解消や安全性と高容量化・高寿命化の両立は大きな課題である。
特開2006−310181号公報 特開2002−151071号公報 特開2006−147500号公報 特開2012−014887号公報 特開2008−153017号公報 特開2008−181839号公報
そこで発明者らは、上記問題を解決しうるニオブ含有正極活物質について検討している。
ニオブ含有正極活物質の製造方法の一例として、晶析により得られたニオブ含有複合水酸化物をリチウム化合物と混合し、焼成する方法が挙げられるが、ニオブ含有ニッケル複合水酸化物は濾過し難く、工業的規模での生産に適さないという問題がある。
さらに、ニオブ含有正極活物質は、その製造工程で、原料由来の不純物である硫酸根、塩素や硝酸根などが含まれる。これらは、充放電反応に寄与しないため、電池を構成する際、正極材料の不可逆容量に相当する分、負極材料を余計に電池に使用せざるを得ず、その結果、電池全体としての重量当たり及び体積当たりの容量が小さくなる上、不可逆容量として負極に蓄積された余分なリチウムは安全性の面からも問題となっている。
本発明は、上記問題点に鑑み、充放電反応に寄与しない不純物量を低減させることで、熱安定性に優れた正極活物質を提供し、さらに該活物質を用いることで、高いサイクル特性と充放電容量を実現する非水系電解質二次電池を提供することを目的とする。
本発明者らは、鋭意検討したところ、ニオブ含有ニッケル複合水酸化物を洗浄する際の
洗浄液を、炭酸塩水溶液とすることで、不純物である硫酸根、塩素や硝酸根などを低減で
き、かつ、濾過性を高めるとの知見を得て、本発明を完成するに至った。
本発明の第1の態様によれば、一般式LiNi1−a−b−cCoNb(但し、MはMn、V、Mg、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.35、0≦b≦0.10、0.006≦c≦0.05、0.95≦d≦1.20である。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなり、リチウム遷移金属複合酸化物中にニオブが固溶し、硫酸根及び塩素を含み、硫酸根含有量が0.11質量%以上0.2質量%以下、かつ塩素含有量が0.03質量%以上0.05質量%以下である非水系電解質二次電池用正極活物質が提供される。
また、上記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶子径が10〜100nmであることが好ましい。また、該リチウム遷移金属複合酸化物は、多孔質構造を有し、比表面積が1.4〜7.0m/gであることが好ましい。
本発明の第2の態様によれば、上記非水系電解質二次電池用正極活物質を正極に用いる非水系電解質二次電池が提供される。
本発明によって、熱安定性に優れた非水系電解液二次電池用正極活物質を提供し、さらに、該活物質を用いた非水系電解液二次電池は、高いサイクル特性と充放電容量を有したものである。
図1は、電池評価に用いたコイン電池の断面図である。
本発明は、非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法及びこれを用いた非水系電解質二次電池に関する。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質とその製造方法及びこれを用いた非水系電解質二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態
で実施することができる。また、本発明の非水系電解質二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
1.非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法
本発明は、特定の組成及び構造を有するリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質の製造方法であり、(1)ニオブ含有遷移金属含有複合水酸化物を得る晶析工程、(2)該ニオブ含有遷移金属含有複合水酸化物を炭酸塩水溶液で洗浄し正極活物質の前駆体を得る洗浄工程、(3)該前駆体とリチウム化合物とを混合してリチウム混合物を得る混合工程、(4)該リチウム混合物焼成し、リチウム遷移金属複合酸化物を得る焼成工程を含む。さらに、焼成工程後に、(5)該リチウム遷移金属複合酸化物を水洗する水洗工程を含んでもよい。
以下、各工程の詳細を説明をする。
(1)晶析工程
晶析工程は、一般式Ni1−a−b−cCoNb(OH)(但し、MはMn、V、Mg、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.35、0≦b≦0.10、0.006≦c≦0.05、0.95≦d≦1.20である。)で表されるニオブ含有遷移金属複合水酸化物を得る工程である。
上記一般式においてコバルト含有量を示すaは、0.05≦a≦0.35であり、0.07≦a≦0.20であることが好ましい。また、ニオブ含有量を示すcは、0.006≦c≦0.05であり、0.01≦c≦0.05であることが好ましく、0.01≦c≦0.04であることがより好ましい。
添加元素であるMの含有量添加量を示すbは、0≦b≦0.10であり、さらに、Mを必ず含む0<b≦0.10あることが好ましい。
晶析工程により得られるニオブ含有遷移金属複合水酸化物中の各金属間の組成比は、焼成工程後のリチウム遷移金属複合酸化物中でも、ほぼ維持される。よって、各金属間の組成比が上記範囲であることにより、後述するように、正極活物質として優れた電池特定を示すリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。
上記ニオブ含有遷移金属複合水酸化物を製造する方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、(1−1)少なくともニッケルおよびコバルトを含む混合水溶液にアルカリ水溶液を加えて晶析させ、遷移金属複合水酸化物を得た後、該遷移金属複合水酸化物のスラリーに、ニオブ溶液と酸とを滴下し、ニオブ化合物を被覆する被覆(コート)法、又は、(1−2)少なくともニッケル及びコバルトを含む混合水溶液に、ニオブ溶液とアルカリ水溶液とを加えて晶析させる共沈法等が挙げられる。
以下、晶析工程に用いられる少なくともニッケル及びコバルトを含む混合水溶液、ニオブ溶液、及び、これら溶液の調整方法について説明する。
少なくともニッケル及びコバルトを含む混合水溶液に用いられる、ニッケル塩、コバルト塩などの塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物などが例示される。また、該混合水溶液の濃度は、金属塩の合計で1〜2.6mol/Lとすることが好ましく、1〜2.2mol/Lとすることがより好ましい。1mol/L未満であると、得られる水酸化物スラリー濃度が低く、生産性に劣る。一方、2.6mol/Lを超えると、−5℃以下で結晶析出や凍結し、設備の配管を詰まらせる恐れがあり、配管の保温もしくは加温する必要があり、コストがかかる。
ニオブ溶液の作製には、ニオブの溶解度が高いニオブもしくはニオブ塩(以下、ニオブメタルも含めて単にニオブ塩と記載する)と、溶媒との組み合わせを選択することが必要である。例えば、ニオブ塩として、水酸化ニオブ(ニオブ酸化物・水和物)、ニオブメタル、五塩化ニオブ又はフェロニオブを、溶媒として苛性カリ水溶液を選択したニオブ溶液や、該ニオブ塩として水酸化ニオブ又は五塩化ニオブを、該溶媒として塩酸を選択したニオブ溶液が好ましい。これら組み合わせは、ニオブ溶液中のニオブ濃度を高めることが可能であり、本晶析工程への使用に好ましい。
一方、上記ニオブ塩として、オルトニオブ酸塩あるいは、メタニオブ酸塩を用いると、溶解した際に加水分解、又は溶解中に酸化が進み、溶解残渣を生じる場合があるため、本晶析工程には好ましくない。また、上記溶媒としてフッ化水素酸と硫酸の混合水溶液を選択してニオブ溶液を得た場合、本晶析工程でニオブ化合物が単独で析出し、ニオブの偏析が起こるため、均一組成の複合水酸化物は得られず好ましくない。
ニオブ塩の形状は、特に選ばず、一般に入手できる粉末状、粒状、又は塊状と特に制限されるものではない。
ニオブ溶液を調整するための溶解条件は、所望するニオブ濃度によって最適とする条件は多少変動するものの、例えば、溶媒に苛性カリ水溶液を用いる場合、該苛性カリ水溶液の濃度を150〜500g/Lとすることが好ましい。苛性カリの濃度が150g/Lよりも少ない場合、ニオブを十分に溶解できず、残渣中にニオブが残留してしまうため好ましくない。逆に、苛性カリの濃度が500g/Lを超える場合、苛性カリの飽和濃度に近く、ニオブを溶解できなくなる。また、溶解時の温度は60℃〜90℃とすることが好ましい。温度が60℃よりも低い場合、反応性が低下し、溶解に長時間を要してしまう。一方、90℃超では反応性は上がるが水の蒸発量が多い上、激しく反応して突沸する危険がある。
(1−1)被覆(コート)法
被覆法によってニオブ含有遷移金属複合水酸化物を晶析する工程について述べる。
本法は、まず、少なくともニッケルおよびコバルトを含む混合水溶液にアルカリ水溶液を加えて晶析させ、遷移金属複合水酸化物を得る。
なお、該遷移金属複合水酸化物中の各金属の組成比は、焼成工程後のリチウム遷移金属複合酸化物中でも、ほぼ維持されるため、得られる遷移金属複合酸化物は、一般式Ni1−a’−b’Coa’b’(OH)(但し、MはMn、V、Mg、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦a’≦0.35、0≦b’≦0.10である)で表される組成を有するものであることが好ましい。
遷移金属複合水酸化物を得る方法としては、特に限定されず、従来公知の製造方法を用いることができるが、以下に、一例として、具体的な製造方法を示す。
反応槽内に、上記方法で調整した少なくともニッケルとコバルトを含む混合水溶液を加えて反応液とし、該反応液に、反応温度を40℃〜60℃に維持しながら、アルカリ溶液を加え、pHを10〜13に制御して、遷移金属複合水酸化物を得る。その際、反応液を撹拌して反応液中の金属濃度や晶析条件の局所的な変動を抑制する。
pHが10未満であると、遷移金属複合水酸化物の生成速度が著しく遅くなる。さらにろ液中に遷移金属元素が残留して、得られる遷移金属複合水酸化物の組成が、目的組成から外れることもある。一方、pHが13を越えると、生成した遷移金属複合水酸化物の粒子が細かくなり過ぎ、濾過性が悪くなる。また、遷移金属複合水酸化物の球状性が低下して正極中での充填性が低下する。反応液のpHが変動すると、得られる複合水酸化物粒子の粒径や形状が変動するため、設定値を中央値としてpHの変動幅を0.2以下に抑制することが好ましい。
また、上記アルカリ溶液としては、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などを用いることができる。
さらに、反応液にはアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を加えることもでき、反応液中のアンモニア濃度は3g/L〜25g/Lであることが好ましい。反応液中にアンモニウムイオンが存在することで、金属イオン、特にNiイオンはアンミン錯体を形成し、金属イオンの溶解度が大きくなり、一次粒子の成長が促進され、緻密な複合水酸化物粒子が得られ易い。さらに、金属イオンの溶解度が安定するため、形状及び粒径が整った複合水酸化物粒子が得られ易い。特に、反応液中のアンモニア濃度を3g/L〜25g/Lとすることで、より緻密で形状及び粒径が整った複合水酸化物粒子が得られ易い。反応液中のアンモニア濃度が3g/L未満であると、金属イオンの溶解度が不安定になる場合があり、形状及び粒径が整った一次粒子が形成されず、ゲル状の核が生成して粒度分布が広くなることがある。一方、アンモニア濃度が25g/Lを超える濃度では、金属イオンの溶解度が大きくなりすぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量が増えて、組成のずれなどが起きる場合がある。
アンモニウムイオン供給体は特に限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウムなどを使用することができる。
次に、上記工程で得られた遷移金属複合水酸化物のスラリーに、ニオブ溶液と酸とを滴下し、ニオブ化合物を被覆する。この際、ニオブ溶液と酸を同時に滴下することが好ましく、スラリーpHが一定になるように制御することが好ましい。
ニオブ溶液を滴下する際に用いられる酸としては、特に限定されるものではないが、安価で工業的に利用できる硫酸、塩酸、硝酸が好ましい。
また、上記スラリーpHは、液温25℃基準で、7〜11が好ましい。pHが7未満の場合、遷移金属複合水酸化物中の遷移金属元素が溶解し、得られる遷移金属複合水酸化物の組成が、目的組成から外れることもある。また、pHが11を超えると、析出したニオブ化合物が遷移金属複合水酸化物から剥離して、濾過時にニオブが流出して目的のニオブ含有量とすることが困難になる。また、ニオブ含有遷移金属複合水酸化物の粒子間で、組成が均一にならず、電池特性が低下することもある。
さらに上記pHの範囲でニオブを被覆させると、遷移金属複合水酸化物粒子表面が損傷を受けることがある。該損傷部は、後の工程である(4)焼成工程で空隙となり、リチウム遷移金属複合酸化物が多孔質構造を有するものとなるため、充放電容量の向上に寄与すると考えられる。また、ニオブ塩溶液と酸を同時に滴下すると、上記pHの範囲でニオブ化合物の被覆処理が進行しやすく、ニッケル含有水酸化物粒子に適度な損傷を与えることができる。
(1−2)共沈法
共沈法によって、ニオブ含有遷移金属複合水酸化物を得る方法としては、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができ、上記ニオブ溶液を加える方法が異なる以外は、上記(1−1)被覆法で例示した、遷移金属複合水酸化物得る方法と同様なものとすることができる。
具体的には、反応槽内に、上記方法で調整した少なくともニッケルとコバルトを含む混合水溶液を加えて反応液とし、該反応液に、反応温度を40〜60℃に維持しながら、上記ニオブ溶液とアルカリ溶液を加えることで、ニオブ含有遷移金属複合水酸化物を得る。その際の、pH制御範囲やアンモニア濃度は、上記(1−1)被覆法で遷移金属複合水酸化物得る方法に準ずればよい。
晶析工程で得られたニオブ含有遷移金属複合水酸化物は、通常用いられる濾過装置で固液分離することができ、吸引濾過機、フィルタープレスや遠心機などを用いることができる。
(2)洗浄工程
洗浄工程は、上記ニオブ含有遷移金属複合水酸化物を炭酸塩水溶液で洗浄して正極活物質の前駆体(以下、単に「前駆体」ともいう)を得る工程である。
炭酸塩水溶液を用いて洗浄することにより、不純物として残留している硫酸根や塩素イオンなどのアニオン不純物を炭酸塩水溶液中の炭酸イオンとのイオン交換作用により、効率よく除去することができる。また、水への溶解度が高い炭酸塩を用いることで、アルカリ処理等よりもナトリウムなどのアルカリ金属の混入も抑制することができる。さらに、ニオブ含有遷移金属複合水酸化物は、表面に残留するニオブイオンや水酸化物などの微細なニオブ化合物が前記アニオン不純物との相互作用により洗浄時にゲル化しやすいため、該アニオン不純物を除去することでゲル化が解消され、濾過性が向上する。
用いられる炭酸塩水溶液のpHが8以上12以下であることが好ましく、さらに8以上11以下であることがより好ましい。
炭酸塩水溶液のpHが8未満であると、原料由来の不純物である硫酸根や塩素と炭酸イオンの置換が不十分となり、これら不純物の除去が不十分となる。さらにニオブ含有遷移金属複合水酸化物の濾過性が低下し、生産性に劣る。一方、炭酸塩水溶液のpHが12を超えても原料由来の不純物である硫酸根や塩素の洗浄効果は変わらない。余剰に加えた炭酸塩は、コスト増加や環境負荷に影響するだけでなく、該炭酸塩により持ち込まれるカチオン(ナトリウムイオンやカリウムイオンなど)が不純物として残留することもあり、これらを洗浄する余分な工程を追加することとなり、生産性に劣る。
また、炭酸塩水溶液の濃度は、上記pH範囲であればよいが、100g/Lを超えても、不純物の洗浄効果は変わらないため、100g/L以下がよい。
炭酸塩水溶液は、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムもしくは炭酸アンモニウムから選ばれる少なくとも1種類以上炭酸塩水溶液であることが好ましい。炭酸カルシウム、炭酸バリウムなど、水に溶解しにくい塩は使用しない方がよい。
洗浄に用いる炭酸塩水溶液量は、上記で得た前駆体1kgに対して、1〜20Lである(スラリー濃度としては、1000〜50g/Lである)ことが好ましい。1L未満では、不純物である硫酸根や塩素と炭酸イオンが十分に置換されず期待される洗浄効果が得られ難い。さらに、20Lを超える炭酸塩水溶液を用いても洗浄効果は変わらず、過剰な洗浄液はコスト増加や廃水負荷増加の要因となる。
洗浄工程においては、該炭酸塩水溶液により洗浄した後、濾過し、乾燥する工程を含むことが好ましい。さらに、該炭酸塩水溶液として焼成後も残留しやすい金属元素を含む塩を用いた場合は、乾燥前にさらに水を用いて洗浄し、濾過する工程を含むことが好ましい。
洗浄工程に用いられる装置は、通常用いられる濾過装置であればよく、吸引濾過機、フィルタープレスや遠心機などを用いることができる。
本発明により得られるニオブ含有遷移金属複合水酸化物は、アニオン不純物が除去され良好な濾過性を有するため、通常用いられる濾過装置によって容易に濾過することが可能である。
また、本発明の製造方法においては、混合工程前に、洗浄後の前駆体を熱処理する熱処理工程を備えてもよい。
熱処理工程により、前駆体に含有され、次工程である焼成工程まで残留している水分を減少させることができる。前駆体中に残留している水分を除去することにより、製造される正極活物質中のリチウム以外の金属の原子数(Me)とリチウム(Li)の原子数の比(Li/Me)がばらつくことを防止できる。なお、正極活物質のLi/Meにばらつきが生じない程度に水分が除去できればよく、必ずしも全ての複合水酸化物を複合酸化物に転換する必要はない。しかしながら、Li/Meのばらつきをさらに低減させるためには、前駆体中の複合水酸化物を複合酸化物まで転換することが好ましい。
熱処理工程においては、前駆体中の残留水分が除去される温度まで加熱されればよく、105℃〜800℃とすることが好ましい。例えば、複合水酸化物を105℃以上に加熱すれば残留水分を除去することができる。なお、105℃未満では、残留水分を除去するために長時間を要するため工業的に適当でない。800℃を超えると、複合酸化物に転換された粒子が焼結して凝集することがある。複合水酸化物を複合酸化物まで転換する場合は、350℃〜800℃の温度で加熱することが好ましい。
熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではなく、簡易的に行える空気気流中において行うことが好ましい。また、熱処理時間は特に制限されないが、1時間未満では複合水酸化物中の残留水分の除去が十分に行われない場合があるので、少なくとも1時間以上が好ましく、5時間〜15時間がより好ましい。そして、熱処理に用いられる設備は特に限定されるものではなく、複合水酸化物を空気気流中で加熱できるものであれば良く、送風乾燥器、ガス発生がない電気炉が好適に使用できる。
(3)混合工程
混合工程は、前駆体とリチウム化合物と混合してリチウム混合物を得る工程である。さらに、この工程で添加元素Mを含む化合物を加えてもよい。
なお、混合工程で用いられる前駆体は、洗浄後のニオブ含有遷移金属複合水酸化物および/または熱処理により該ニオブ含有遷移金属複合水酸化物が複合酸化物に転換された組成物を含む。
前駆体とリチウム化合物とは、リチウム混合物中のリチウム以外の金属の原子数(Me)とリチウム(Li)の原子数の比(Li/Me)が、0.95〜1.20となるように、混合される。つまり、リチウム混合物におけるLi/Meが、本発明の正極活物質におけるLi/Meと同じになるように混合される。これは、焼成工程前後で、Li/Meは変化せず、混合工程で混合するLi/Meが正極活物質におけるLi/Meとなるからである。
一方、後述のように焼成後に(5)水洗工程を含む場合には、水洗によりLi/Meが減少する。したがって、(5)水洗工程を含む場合には、Li/Meの減少分を見越して前駆体とリチウム化合物とを混合することが好ましい。Li/Meの減少分は、焼成条件や水洗条件により変動するが、0.05〜0.1程度であり、予備試験として少量の正極活物質を製造することにより減少分を確認することも可能である。
リチウム化合物は特に限定されるものではなく、例えば、水酸化リチウム、硝酸リチウム又は炭酸リチウム、もしくはその混合物は入手が容易であるという点で好ましい。特に、取り扱いの容易さ、品質の安定性を考慮すると、水酸化リチウムを用いることがより好ましい。
リチウム混合物は、焼成前に十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない間などの問題が生じる可能性がある。また、混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダーなどを用いることができ、複合水酸化物粒子などの形骸が破壊されない程度で、前駆体とリチウム化合物とが十分に混合されればよい。
(4)焼成工程
焼成工程は、上記混合工程で得られたリチウム混合物を酸化雰囲気中700℃〜820℃、好ましくは700℃〜800℃で焼成して、リチウム遷移金属複合酸化物を形成する工程である。
リチウム混合物を焼成すると、前駆体にリチウム化合物中のリチウムが拡散するので、リチウム遷移金属複合酸化物が形成される。焼成温度が700℃未満であると、前駆体中へのリチウムの拡散が十分に行われなくなり、余剰のリチウムや未反応の粒子が残ったり、結晶構造が十分整わなくなったりして、十分な電池特性が得られないという問題が生じる。また、焼成温度が820℃を超えると、形成されたリチウム遷移金属複合酸化物粒子間で激しく焼結が生じるとともに、異常粒成長を生じる可能性がある。異常粒成長が生じると、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態を保持できなくなる可能性があり、正極活物質を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる。
焼成時間は、少なくとも3時間以上とすることが好ましく、より好ましくは、6時間〜24時間である。3時間未満では、リチウム遷移金属複合酸化物の生成が十分に行われないことがあるからである。また、焼成時の雰囲気は、酸化性雰囲気とすることが好ましく、特に、酸素濃度が18容量%〜100容量%の雰囲気とすることがより好ましい。すなわち、焼成は、大気ないしは酸素気流中で行うことが好ましい。これは、酸素濃度が18容量%未満であると、十分に酸化できず、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶性が十分でない状態になる可能性があるからである。特に電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
焼成工程においては、700℃〜830℃の温度で焼成する前に、上記焼成温度より低い温度であって、リチウム化合物と前駆体が反応し得る温度で仮焼することが好ましい。このような温度でリチウム混合物を保持することにより、前駆体へのリチウムの拡散が十分に行われ、均一なリチウム遷移金属複合酸化物を得ることができる。例えば、水酸化リチウムを使用する場合であれば、400℃〜550℃の温度で1時間〜10時間程度保持して仮焼することが好ましい。
焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、大気ないしは酸素気流中でリチウム混合物を焼成できるものであればよく、バッチ式あるいは連続式の電気炉が好ましい。
焼成によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合には、解砕により上記焼結や凝集を解消して粒度分布を調整することが好ましい。
(5)水洗工程
水洗工程は、上記リチウム遷移金属複合酸化物を水洗した後、濾過、乾燥する工程である。
上記(4)焼成工程によって得られたリチウム遷移金属複合酸化物は、そのままの状態でも正極活物質として十分用いることが出来るが、粒子表面の余剰リチウムを除去することにより、電解液と接触可能な表面積が増加して充放電容量を向上させることができる。そのため、焼成工程後に水洗工程を経ることが好ましい。また、粒子表面に形成された脆弱部も十分に除去されるため、電解液との接触が増加して充放電容量を向上させることができる。
さらに、余剰リチウムは、非水系二次電池内において副反応を引き起こしガス発生による電池の膨張などの原因となるため、安全性向上の観点からも水洗することが好ましい。
水洗する際のスラリー濃度としては、スラリー中に含まれる水1Lに対する上記リチウム遷移金属複合酸化物の量(g)が100g〜2000gであることが好ましい。すなわち、スラリー濃度が濃いほど粉末量が多くなり、2000g/Lを超えると、粘度も非常に高いため攪拌が困難となるばかりか、液中のアルカリが高いので平衡の関係から付着物の溶解速度が遅くなったり、剥離が起きても粉末からの分離が難しくなる。一方、スラリー濃度が100g/L未満では、希薄過ぎるためリチウムの溶出量が多く、表面のリチウム量は少なくなるが、正極活物質の結晶格子中からのリチウムの脱離も起きるようになり、結晶が崩れやすくなるばかりか、高pHの水溶液が大気中の炭酸ガスを吸収して炭酸リチウムを再析出する。
使用される水としては、特に限定されるものではなく、純水が好ましい。純水を用いることにより、正極活物質への不純物の付着による電池性能の低下を防ぐことができる。
上記濾過装置は、通常用いられる濾過装置であればよく、吸引濾過機、フィルタープレスや遠心機などを用いることができる。濾過装置を用いた、上記スラリーの固液分離時の粒子表面に残存する付着水は、少ないことが好ましい。付着水が多いと液中に溶解したリチウムが再析出し、乾燥後リチウム遷移金属複合酸化物粒子の表面に存在するリチウム量が増加する。
上記乾燥の温度としては、特に限定されるものではなく、好ましくは80℃〜350℃である。80℃未満では、水洗後の正極活物質の乾燥が遅くなるため、粒子表面と粒子内部とでリチウム濃度の勾配が起こり、電池特性が低下することがある。一方、正極活物質の表面付近では化学量論比にきわめて近いか、もしくは若干リチウムが脱離して充電状態に近い状態になっていることが予想されるので、350℃を超える温度では、充電状態に近い結晶構造が崩れる契機になり、電池特性の低下を招く恐れがある。
2.非水系電解質二次電池用正極活物質 本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質について、(1)組成、(2)不純物含有量、(3)結晶子径、(4)粒径、(5)構造、(6)比表面積、の項目毎に詳しく説明する。
(1)組成
本発明の非水系電解質二次電池用正極活物質は、一般式LiNi1−a−b−cCoNb(但し、MはMn、V、Mg、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.35、0≦b≦0.10、0.006≦c≦0.05、0.95≦d≦1.20である。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなることを特徴とする。
上記一般式においてコバルト含有量を示すaは、0.05≦a≦0.35であり、好ましくは0.07≦a≦0.20である。コバルトはサイクル特性の向上に寄与する添加元素であるが、aが0.05未満になると、期待する十分なサイクル特性を得ることはできず、容量維持率も低下してしまうため好ましくない。また、aが0.35を超えると、初期放電容量の低下が大きくなってしまうため好ましくない。
次にニオブ含有量を示すcは、0.006≦c≦0.05であり、好ましくは0.01≦c≦0.05、より好ましくは0.01≦c≦0.04である。ニオブは、リチウム遷移金属複合酸化物の脱酸素による熱分解反応の抑制に寄与していると考えられ、安全性の改善に効果がある添加元素である。cが0.006未満になると、ニオブ含有量が少なすぎて安全性の改善が不十分となる。一方、安全性は、ニオブ含有量に応じて向上するが、cの値が0.05を超えると充放電容量が低下してしまう。また、サイクル特性についても、低下が見られる。
ニオブ存在形態は、リチウム遷移金属複合酸化物中に固溶、又は、リチウム遷移金属複合酸化物の結晶粒界あるいは粒子表面にリチウムニオブ複合酸化物として存在してもいずれでもよく、固溶していることが好ましい。ここで、固溶とは、透過型電子顕微鏡のEDX測定によりニオブ化合物がほとんど検出されない状態を意味する。固溶することにより、少量添加でも上記熱分解反応の抑制効果を高めることができる。
さらに、固溶している場合には、結晶粒界と粒内のNb濃度比(結晶粒界のNb濃度/粒内のNb濃度)が4倍以下であることが好ましく、3倍以下であることがより好ましい。なお、結晶粒界と粒内のNb濃度比は、透過型電子顕微鏡のEDX測定結果より求めることができる。
添加元素であるMは、Mn、V、Mg、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、サイクル特性や安全性などの電池特性の向上のために添加することができ、その含有量添加量を示すbは、0≦b≦0.10である。bが0.10を超えると、サイクル特定や安全性などの電池特性はより向上するが、初期放電容量の低下が大きくなり好ましくない。さらに、Mを必ず含む0<b≦0.10あることで、優れたサイクル特性を発現させることができるため、bはこの範囲であることが好ましい。
Li/Meを示すdは、0.95≦d≦1.20であり、好ましくは0.98≦d≦1.10、より好ましくは1.00≦d≦1.08である。dの値が0.95未満になると充放電容量が低下する。一方、dの値が大きくなるに応じて充放電容量は増加するが、dが1.20を超えると、安全性が低下してしまう。
(2)不純物含有量
上記リチウム遷移複合金属酸化物は、硫酸根含有量が0.2質量%以下、好ましくは0.15質量%以下であり、かつ塩素含有量が0.1質量%以下、好ましくは0.08重量%以下、より好ましくは0.05重量%以下であることを特徴とする。ここで、リチウム遷移金属複合酸化物に含有される硫酸根や塩素は、上記晶析工程で用いた原料に由来する。
リチウム遷移複合金属酸化物中の硫酸根含有量が、0.2質量%を超えると、電池を構成する際、正極材料の不可逆容量に相当する分、負極材料を余計に電池に使用せざるを得ず、その結果、電池全体としての重量当たり及び体積当たりの容量が小さくなる上、不可逆容量として負極に蓄積された余分なリチウムは安全性の面からも問題となるため好ましくない。
一方、塩素含有量が0.1質量%を超えると、硫酸根の場合と同様に、電池容量の低下や安全性の問題がある。さらに、塩素は主にLiClやNaClの形態での形態で含まれており、これらは吸湿性が高いため、電池内部に水分を持ち込む要因となり、電池の劣化の原因となる。
(3)結晶子径
上記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶子径は、10〜100nmが好ましく、30〜100nmがより好ましく、50〜100nmがさらに好ましい。結晶子径が10nm未満になると、結晶粒界が多くなり過ぎて活物質の抵抗が増加するため、十分な充放電容量が得られないことがある。一方、結晶子径が100nmを越えると、結晶成長が進みすぎて、層状化合物であるリチウム遷移金属複合酸化物のリチウム層にニッケルが混入するカチオンミキシングが起こり、充放電容量が減少する。
(4)粒径
上記リチウム遷移金属複合酸化物の平均粒径は、レーザー散乱法測定による体積積算50%径であるD50として5μm〜20μmであることが好ましい。5μm未満になると、電池の正極に用いた場合に充填密度が低下して体積当たりの充放電容量が十分に得られない場合がある。一方、20μmを超えると、電解液との接触面積が十分に得られず、充放電容量が低下することがある。
(5)構造
上記リチウム遷移金属複合酸化物は多孔質構造を有していることが好ましい。本明細書において多孔質構造とは、走査型電子顕微鏡の断面観察により確認可能な大きさを有する空隙(空隙外縁の任意の2点間の距離が0.3μm以上)を複数個有する構造をいう。多孔質構造を有しているリチウム遷移金属複合酸化物は、晶析工程において、pHやアンモニア濃度などを最適化することで得ることができるが、該構造物は被覆(コート)法の方がより容易に得られる。
上記リチウム遷移金属複合酸化物の多孔質構造としては、最大長さが3μm以下と確認できる複数の空隙を結晶粒界に有していることが好ましい。これにより、電池の正極に用いられた場合に電解液と接触できる粒子表面が大幅に増加し、ニオブ添加による充放電容量の低下を補って、安全性を確保しながら十分な充放電容量を得ることができる。
(6)比表面積
上記リチウム遷移金属複合酸化物の比表面積が、好ましくは1.4〜7.0m/gであり、より好ましくは1.5〜5.0m/g、さらに好ましくは1.5〜4.0m/gである。比表面積が1.4m/g未満になると、電解液と接触できる粒子表面が少なくなり、十分な充放電容量が得られない。一方、比表面積が7.0m/gを超えると、電解液と接触する粒子表面が多くなり過ぎて安全性が低下する。
3.非水系電解質二次電池
本発明に係る非水系電解質二次電池は、一般の非水系電解質二次電池と同様に、(1)正極、(2)負極、(3)セパレータ、(4)非水電解液から構成される。
以下、非水系電解質二次電池の実施形態について、各構成要素及び、(5)電池の形状と構成について詳しく説明する。
(1)正極
正極を形成する正極合材及びそれを構成する各材料について説明する。本発明の粉末状の正極活物質と、導電材、結着剤とを混合し、さらに必要に応じて活性炭、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製する。正極合材中のそれぞれの材料の混合比も、リチウム二次電池の性能を決定する重要な要素となる。
正極合材中の各材料の混合比は、特に限定されないが、一般のリチウム二次電池の正極と同様、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量100質量%に対して、それぞれ、正極活物質を60〜95質量%、導電材を1〜20質量%、結着剤を1〜20質量%含有することが望ましい。
得られた正極合材ペーストは、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させる。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレスなどにより加圧することもある。このようにしてシート状の正極を作製することができる。シート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断などし、電池の作製に供することができる。ただし、正極の作製方法は、上記例示のものに限られることなく、他の方法に依ってもよい。
上記正極の作製にあたって、導電剤としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛、膨張黒鉛など)やアセチレンブラック、ケッチェンブラックなどのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
また、結着剤(バインダー)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、エチレンプロピレンジエンゴム、フッ素ゴムなどの含フッ素樹脂、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂、ポリアクリル酸、ポリプロピレン、ポリエチレンなどを用いることができる。
必要に応じ、正極活物質、導電材、活性炭を分散させ、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加する。溶剤としては、具体的にはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には電気二重層容量を増加させるために活性炭を添加することができる。
(2)負極
負極には、金属リチウム、リチウム合金など、また、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅などの金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを使用する。
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛、フェノール樹脂などの有機化合物焼成体、コークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、ポリフッ化ビニリデンなどの含フッ素樹脂などを用いることができ、これら活物質及び結着剤を分散させる溶剤としてはN−メチル−2−ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(3)セパレータ
正極と負極との間にはセパレータを挟み込んで配置する。セパレータは、正極と負極とを分離し電解質を保持するものであり、ポリエチレン、ポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な穴を多数有する膜を用いることができる。
(4)非水系電解液
非水系電解液は、支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものである。有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、トリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネート、また、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらに、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物などから選ばれる1種を単独で、あるいは2種以上を混合して用いることができる。
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSOなど、及びそれらの複合塩を用いることができる。
さらに、非水系電解液は、ラジカル補足剤、界面活性剤及び難燃剤などを含んでいてもよい。
(5)電池の形状、構成
以上説明してきた正極、負極、セパレータ及び非水系電解液で構成される本発明に係るリチウム二次電池の形状は、円筒型、積層型など、種々のものとすることができる。
いずれの形状を採る場合であっても、正極及び負極にセパレータを介して積層させて電極体とし、この電極体に上記非水電解液を含浸させる。正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、並びに負極集電体と外部に通ずる負極端子との間に集電用リードなどを用いて接続する。以上の構成のものを電池ケースに密閉して電池を完成させることができる。
以下、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例は、以下の装置及び方法を用いた測定結果により評価した。
(1)組成、硫酸根含有量:ICP発光分光分析装置(株式会社島津製作所製、ICPS−8100)で測定した。なお、硫酸根の測定は、ICP発光分析により硫黄元素を測定し、この測定された硫黄元素の量をSO4に換算することにより求めた。
(2)塩素含有量:自動滴定装置(平沼産業株式会社製、COM−1600)で測定した。
(3)ニオブ存在形態:走査型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、JSM−6360LA)付属のEDXにより、断面を分析した。
(4)結晶子径:X線回折装置(パナリティカル社製、X‘Pert PRO)を用いて、得られた回折パターンにおける(003)面の2θおよび半値幅を用いてScerrerの式により算出した。
(5)比表面積:比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、カンタソーブQS−10)を用いて、BET法により測定した。
(6)濾過性の評価:定量濾紙(アドバンテック東洋社製、No.5C、φ=90mm)を用いて、スラリー濃度200g/Lのスラリー1Lを吸引濾過した際に濾過が完了するまでの時間が1分間以内のものを「◎」、5分間以内のものを「○」、10分間以内のものを「△」、10分間を超えるものを「×」と評価した。
(7)電池特性の評価
[評価用コイン電池の作成]
ニオブ含有遷移金属複合酸化物粉末70質量%に、アセチレンブラック20質量%及びPTFE10質量%を混合し、ここから150mgを取り出してペレットを作製し、正極とした。負極としてリチウム金属を用い、電解液として、1MのLiClOを支持塩とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合溶液(富山薬品工業製)を用い、露点が−80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス中で、図1に示すような2032型のコイン電池を作製した。
[放電容量]
該コイン電池を24時間程度放置し、開路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.5mA/cm2としてカットオフ電圧4.3Vまで充電して、1時間の休止後カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を放電容量として評価した。
[サイクル特性]
サイクル特性は、上記コイン電池に対し、温度25℃にて、1Cのレートで4.4VまでCC充電し、10分間休止した後、同じレートで3.0VまでCC放電し、10分間休止する、という充放電サイクルを、200サイクル繰り返した。1サイクル目及び200サイクル目の放電容量を測定し、1サイクル目2C放電容量に対する、200サイクル目2C放電容量の百分率を容量維持率(%)として求めた。
[安全性]
正極活物質の安全性は、上記コイン電池をカットオフ電圧4.5VまでCCCV充電(定電流−定電圧充電:まず、充電が、定電流で動作し、それから定電圧で充電を終了するという2つのフェーズの充電過程を用いる充電)した後、短絡しないように注意しながら解体して正極を取り出し、この電極を3.0mg計り取り、電解液を1.3mg加えて、アルミニウム製測定容器に封入し、示差走査熱量計(DSC)(Rigaku社製、PTC−10A)を用いて昇温速度10℃/minで室温から300℃まで発熱挙動を測定し、得られた発熱ピーク高さを安全性の評価とした。
(実施例1)
(晶析工程)ニッケル:コバルト:アルミニウムのモル比が81.0:15.5:3.5となるように、硫酸ニッケルと硫酸コバルトの混合水溶液と、アルミン酸ソーダ水溶液、25質量%水酸化ナトリウム溶液、25質量%アンモニア水を反応槽に同時に添加し、pHを液温25℃基準で11.8に、反応温度を50℃に、アンモニア濃度を10g/Lに保ち、共沈法によって球状の二次粒子からなる遷移金属複合水酸化物を形成した。その後、反応槽内が安定した後、のオーバーフロー口から遷移金属複合水酸化物スラリーを全量回収し、濾過、水洗後乾燥して、遷移金属複合水酸化物を得た。
次に、五塩化ニオブ(NbCl)粉末を、300g/Lの濃度の苛性カリ溶液に、ニオブ濃度で30g/lLとなるように、溶解温度を80℃で一定に保持し、6時間攪拌して溶解した後、残渣を濾別してニオブ溶液を作製した。
上記遷移金属複合水酸化物を純水と混合したスラリーに、狙いのニオブ比率添加量cを0.01として、ニオブ溶液と25質量%硫酸水溶液を、液温25℃で保持しながらpHが8.0となるように同時に滴下して水酸化ニオブで被覆した後、濾過してニオブ含有遷移金属複合水酸化物(Ni0.802Co0.152Al0.035Nb0.01(OH))を得た。
(洗浄工程)上記ニオブ含有遷移金属複合水酸化物をスラリー濃度が200g/Lとなるように、pHが8.0の炭酸アンモニウム水溶液を混合し、スターラーを用いて1時間洗浄した後に、吸引濾過にて濾過し、乾燥して前駆体を得た。
なお、晶析工程、及び洗浄工程条件を表1にそれぞれ示す。
(混合工程)上記洗浄工程を経て得た前駆体と、市販の水酸化リチウムとをLi/Meが1.10になるように秤量した後、球状の二次粒子前駆体の形骸が維持される程度の強さでシェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合してリチウム混合物を得た。
(焼成工程)このリチウム混合物をマグネシア製の焼成容器に挿入し、密閉式電気炉を用いて、流量6L/分minの酸素気流中で昇温速度2.77℃/分minで500℃まで昇温して500℃で3時間保持した。その後に、同様の昇温速度で780℃度℃まで昇温して12時間保持した後、室温まで炉冷し、リチウム遷移金属複合酸化物を得た。
(水洗工程)得られたリチウム遷移金属複合酸化物正極活物質粉末をスラリー濃度が1500g/Lとなるように純水と混合したスラリーを作製し、スターラーを用いて30分水洗した後に濾過した。濾過後、真空乾燥機を用いて210℃で14時間保持して室温まで冷却して、正極活物質粉末を得た。
得られた正極活物質は、断面の走査型電子顕微鏡の断面観察により多孔質構造を有しており、また、断面の走査型電子顕微鏡付属のEDX分析により、ニオブが正極活物質粒子内に均一に分布しており、結晶粒界と粒内のNb濃度比は3倍以下であることが確認された。
得られた正極活物質の各種評価結果を表2にそれぞれ示す。
(実施例2)
洗浄工程の炭酸塩水溶液を、pHが12の炭酸ナトリウム水溶液とし、吸引濾過時に掛け水洗浄したこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
(実施例3)
狙いのニオブ添加量比率cを0.03としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した
(実施例4)
狙いのニオブ添加量比率cを0.05としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
(実施例5)
ニッケル:コバルト:アルミニウム:ニオブのモル比が80.2:15.2:3.5:1となるように、硫酸ニッケル及び硫酸コバルトの混合水溶液と、アルミン酸ソーダ水溶液と、さらに実施例1と同様に作製したニオブ溶液と、25質量%水酸化ナトリウム溶液と、25質量%アンモニア水とを反応槽に同時に添加したこと以外は、実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
(比較例1)
洗浄工程において炭酸塩水溶液を用いず、純水としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
(比較例2)
洗浄工程において炭酸塩水溶液を用いず、pHが12の水酸化ナトリウム水溶液としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
(比較例3)
狙いのニオブ添加量比率cを0.005としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
(比較例4)
狙いのニオブ添加量比率cを0.07としたこと以外は実施例1と同様にして正極活物質を得るとともに評価した。
Figure 0006536658
Figure 0006536658
表1に示すように、本発明の請求の範囲内にある実施例1〜5では、得られた正極活物質中の硫酸根含有量が0.15質量%以下、さらに塩素含有量は0.05質量%以下である。得られた正極活物質のDSC測定による発熱ピーク高さは1.5cal/sec/g以下であり、さらに放電容量は180mAh/gを超え、さらに容量維持率も90%を超えており、正極活物質として有用であることがわかる。また、被覆(コート)法(実施例1)では、共沈法(実施例5)と比較して、容量維持率が高い傾向があった。
比較例1〜2では、純水や水酸化ナトリウム水溶液で洗浄したため、硫酸根や塩素含有量が高く、放電容量、濾過性が同様の組成比を有する実施例1と比較して、劣っていた。
比較例3では、ニオブ添加量比率cが0.005と低いために、DSC測定による発熱ピーク高さが7.2cal/sec/gと非常に高くなっており、熱安定性が良くなかった。
比較例4では、ニオブ添加量比率cが0.07と高いために、放電容量が142.3mAh/gと大幅に低下した
本発明の非水系電解質二次電池は、安全性に優れていながら、高いサイクル特性と初期容量を有するというメリットがあり、常に高容量・高寿命を要求される小型携帯電子機器の電源として好適に用いられる。また、電気自動車用の電源や定置型蓄電池においては、電池の大型化による安全性の確保の難しさや、より高度な安全性を確保するための高価な保護回路の装着が必要不可欠であるという問題があるが、本発明の非水系電解質二次電池は、優れた安全性を有しているため、安全性の確保が容易になるばかりでなく、高価な保護回路を簡略化し、より低コストにできるという点において、電気自動車用の電源や定置型蓄電池として好適に用いられる。なお、電気自動車用の電源とは、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車のみならず、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源も含み、本発明の非水系電解質二次電池は、これらのハイブリッド車用の電源としても好適に用いることができる。
1 リチウム金属負極
2 セパレータ(電解液含浸)
3 正極(評価用電極)
4 ガスケット
5 負極缶
6 正極缶
7 集電体

Claims (4)

  1. 一般式LiNi1−a−b−cCoNb(但し、MはMn、V、Mg、Ti及びAlから選ばれる少なくとも1種の元素であり、0.05≦a≦0.35、0≦b≦0.10、0.006≦c≦0.05、0.95≦d≦1.20である。)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物からなる非水系電解質二次電池用正極活物質であって、
    前記リチウム遷移金属複合酸化物中にニオブが固溶し、
    硫酸根及び塩素を含み、
    硫酸根含有量が0.11質量%以上0.2質量%以下、かつ塩素含有量が0.03質量%以上0.05質量%以下である
    非水系電解質二次電池用正極活物質。
  2. 前記リチウム遷移金属複合酸化物の結晶子径が10〜100nmである請求項1に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  3. 前記リチウム遷移金属複合酸化物は多孔質構造を有し、比表面積が1.4〜7.0m/gであることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質。
  4. 請求項1〜のいずれか一項に記載の非水系電解質二次電池用正極活物質を正極に用いた非水系電解質二次電池。
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