JP6531277B2 - 無電解めっき液及び無電解めっき方法 - Google Patents
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本発明は、この点に鑑みてなされたもので、より一層の耐久性等の機能向上、特に、耐摩耗性,摺動性の向上を図った無電解めっき液及び無電解めっき方法を提供することを目的とする。
即ち、このような目的を達成するための本発明の無電解めっき液は、めっき金属の金属イオン源,還元剤及び錯化剤を含み、被めっき物の表面に無電解めっきによりめっき金属を被覆するための無電解めっき液において、炭化ケイ素とカーボンナノチューブとを添加した構成としている。
炭化ケイ素は、望ましくは、平均粒径が0.25μm〜5.0μm、より望ましくは、0.5μm〜2.0μmのものが良い。
また、カーボンナノチューブは、望ましくは、平均直径が1.0nm〜200nm,最大長さが30μm以下のもの、より望ましくは、平均直径が50nm〜150nm,最大長さが10μm以下のものが良い。
特に、上記カーボンナノチューブとして、カップスタック型のものを選択することが有効である。カップスタック型のカーボンナノチューブは、かさ比重が大きく親水性も良く、これに起因して、比較的分散性も良く、めっき液のpHの条件による影響が小さい。そのため、共析を確実に行なわせることができる。
また、一般に、カーボンナノチューブは、絡まりあった状態で凝集し塊状の黒色の粉末として存在するが、優れた特性を発揮するために、一般には、分散液に分散させている。分散溶媒としては、例えば、水,エタノール,メタノール,イソプロピルアルコール,エチルヘキサノール,アセトン,ブタノール,酢酸エチル,酢酸ブチル,トルエン,シクロヘキサン等を挙げることができる。
炭化ケイ素において、0.5g/Lより少ないと共析が不十分になる。10g/Lを超えると、炭化ケイ素同士が凝集して大きな塊となりやすく、好ましくない。望ましくは、1.0g/L〜5.0g/L、より望ましくは、1.5g/L〜2.5g/Lである。
また、カーボンナノチューブにおいて、10ppmより少ないと共析が不十分になる。3000ppmを超えるとカーボンナノチューブが凝集して大きな塊となりやすく、好ましくない。望ましくは、2000ppm以下、より望ましくは、50ppm〜1000ppmである。
pHが4.0未満であるとめっき析出速度が非常に低くなり、pHが8.0を超えるとめっき浴安定性が低下する。望ましくは、pHは、5.0〜7.0である。また、カップスタック型カーボンナノチューブでは、5.0〜6.0、マルチウウォール型カーボンナノチューブでは、6.0〜7.0が最適である。
より望ましくは、硫酸ニッケル六水和物を、0.075mol/L〜0.125mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.175mol/L〜0.225mol/L、グリシンを0.275mol/L〜0.325mol/L、安定剤を、0.2ppm〜1.5ppmとした。安定剤が硝酸ビスマスの場合は、0.75ppm〜1.25ppmである。
実施の形態に係る無電解めっき液は、被めっき物の表面に無電解めっきによりめっき金属を被覆するためのもので、図1に示すように、めっき金属の金属イオン源,還元剤,錯化剤,pH調整剤,安定剤を含むとともに、炭化ケイ素とカーボンナノチューブとを添加している。
望ましくは、平均粒径が0.25μm〜5.0μm、より望ましくは、0.5μm〜2.0μmのものが良い。
望ましくは、硫酸ニッケル六水和物を、0.05mol/L〜0.15mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.15mol/L〜0.25mol/L、グリシンを0.25mol/L〜0.35mol/L、安定剤を、0.2ppm〜2.0ppmとする。安定剤が硝酸ビスマスの場合は、0.5ppm〜1.5ppmである。
より望ましくは、硫酸ニッケル六水和物を、0.075mol/L〜0.125mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.175mol/L〜0.225mol/L、グリシンを0.275mol/L〜0.325mol/L、安定剤を、0.2ppm〜1.5ppmとする。安定剤が硝酸ビスマスの場合は、0.75ppm〜1.25ppmである。
例えば、硫酸ニッケル六水和物を、0.1mol/L、次亜リン酸ナトリウムを、0.2mol/L、グリシンを0.3mol/L、硝酸ビスマスを、1.0ppmとする。
更に、カーボンナノチューブを、10ppm〜3000ppm添加した。望ましくは、2000ppm以下、より望ましくは、50ppm〜1000ppmである。
次に、試験例について説明する。
(1)炭化ケイ素の添加量の検討
平均径0.75μm(d50)の炭化ケイ素(太平洋ランダム社製GMF-15S)を用い、図6に示す成分の液に、炭化ケイ素を添加して、その添加濃度が、0.1g/L、0.5g/L、1.0g/L、2.0g/L、5.0g/L、10.0g/Lになる6種の無電解めっき液を作成し、各々のめっき液に被めっき物のサンプル(ハルセル鉄板2cm×2.5cm)を浸漬しめっき処理を行なった。めっき液はビーカに入れてスターラーで撹拌しながら、スターラー回転数300rpm、浴温度80℃、pH5.5、めっき処理時間60分の条件で行なった。めっき処理したサンプルを走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製,SU6600)を使用し、加速電圧:15kV、倍率:5000倍にてサンプル断面の観察を行なった。また、同箇所を元素分析装置(堀場製作所製,EMAX EX250 x−act)を使用し、加速電圧:15kV、積算時間:5分にて元素マッピングを行ない評価した。その結果を図7に示す。この結果において、全ての場合において皮膜中に炭化ケイ素が共析する事を確認できたが、炭化ケイ素共析状態の均一性に関しては、0.1g/Lでは共析が不十分であり、0.5g/L〜1.0g/Lでは炭化ケイ素がややまばらに共析していた。また、炭化ケイ素の添加濃度が5.0g/L以上になると、炭化ケイ素同士が凝集して比較的大きな塊となった。皮膜より脱落する虞を考慮すると、1.0g/L〜5.0g/Lが望ましい。共析状態は、添加濃度2.0g/Lが最良と判断された。
平均直径50nm、最大長さ1〜2μmのカップスタック型カーボンナノチューブ(三恵技研工業製)を用い、図6に示す成分の液に、カーボンナノチューブを添加し、その添加濃度1ppm、10ppm、100ppm及び1000ppmになる4種類の無電解めっき液を作成し、各々のめっき液に上記のサンプルを浸漬して、めっき処理を行なった。めっき液はビーカに入れてスターラーで撹拌しながら、スターラー回転数300rpm、浴温度80℃、pH5.5、めっき処理時間90分の条件で行なった。そして、上記と同様にめっき処理したサンプルを走査型電子顕微鏡にて断面の観察を行なった。その結果、添加濃度は、100ppm以上必要であると判断された。また、マルチウォール型のカーボンナノチューブにおいても同様であった。
pHの異なる数種の無電解めっき液を作成し、各々のめっき液に上記のサンプルを浸漬して、めっき処理を行ない、これらのサンプルについてめっき皮膜の表面を観察した。その結果、酸性域での使用範囲が良好と判断されたので、これを踏まえて、図6に示す成分の液に、平均直径50nm、最大長さ1〜2μmのカップスタック型のカーボンナノチューブ(三恵技研工業製)と、平均直径100〜150nm、最大長さ5〜10μmのマルチウォール型のカーボンナノチューブ(ナノフロンティアテクノロジー株式会社製)とを、夫々、100ppm加え、そのpHを、5.0、5.5、6.0、6.5及び7.0にした各々5種類ずつの無電解めっき液を作成し、スターラー回転数300rpm、浴温度80℃、炭化ケイ素濃度2.0g/Lの条件でめっきを行ない、各々のめっき状態を評価した。結果を図8に示す。この結果から、カップスタック型カーボンナノチューブでは全ての条件にてめっきが析出した。一方、マルチウォール型のカーボンナノチューブでは、pH5.0〜6.0においてめっき析出が不十分であった。そのため、pHは、カップスタック型カーボンナノチューブでは、5.0〜6.0、マルチウォール型では、6.0〜7.0が最適であると判断された。
上記図6に示す成分の液において、炭化ケイ素を10g/L加え、グリシン、及び、グリシンに代るクエン酸、リンゴ酸、コハク酸、酢酸の各錯化剤を、純水に、例えば、0.2cM/L,0.4cM/L,0.6cM/L,0.8cM/L,1.0cM/Lで溶解させた溶液を加えて、各々の液において、炭化ケイ素の分散状態を検証した。グリシン溶液のみ1日経っても炭化ケイ素が沈降することなく、良好な分散状態を保つことができた。また、各溶液にて濃度による差は見られなかった。グリシンには、アミン(アミノ基)が含まれており、炭化ケイ素を分散させるのに有効に働いていると考えられた。
安定剤を決定するために硝酸ビスマスの使用を検討し、図10に示す成分において、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブのない無電解めっき液、炭化ケイ素のみ添加の無電解めっき液、カーボンナノチューブのみ添加の無電解めっき液、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブを複合添加した無電解めっき液の4種のめっき液を作成し、各めっき液において、夫々、硝酸ビスマスの添加量を0.25mg/L,0.5mg/L、1.0mg/L、1.5mg/Lにした4種類の無電解めっき液を作成し、各々のめっき液に上記のサンプルを浸漬して、めっき処理(温度80℃、pH5.5、処理時間60分)を行なった。そして、各めっき液の安定性を確認した。確認方法としてICP発光分光分析装置(日立ハイテクサイエンス社製SPECTRO:ARCOS SOP)を使用し、めっき後の浴中のNi量を測定することにより浴の安定性を確認した。この結果から、硝酸ビスマス添加量0.25mg/Lの条件下ではめっき後の浴中Ni量が低下しているのが確認された。これは浴の安定性が悪いために、異常析出が発生してビーカ等にもめっきが析出してしまうためと考えられる。0.5mg/L以上の添加量が必要であることが確認できた。
図6に示す成分の溶液に炭化ケイ素2.0g/L添加した無電解めっき液おいて、80℃〜92℃の範囲で2℃ずつ温度を変化させ、各温度ごとの炭化ケイ素の析出量を見た。その結果80℃〜90℃、望ましくは、80℃〜84℃の範囲が最適な温度であることが確認できた。
図6に示す成分の溶液に炭化ケイ素2.0g/L添加した無電解めっき液おいて、温度80℃、pH5.5、処理時間60分の条件で、膜厚を、1μm、3μm、5μm、10μm、20μmのものを作成し、炭化ケイ素の共析状態を見た。その結果、1μmでは共析が見られなかった。よって、膜厚は、3μm以上必要であると考えられる。
また、膜厚3μmの試料について、表5点、裏5点計10点について膜厚を測定した。各点ともに3μm±0.5μmの範囲に入り、安定的に3μm±0.5μmの均一な膜厚を得る事が確認できた。更に、3D測定レーザー顕微鏡(OLYMPUS:LEXT OLS4000)にて、本試料の表5点、裏5点計10点について表面粗さを測定した。表面及び裏面の算術平均表面粗さは、0.123μmであった。
即ち、炭化ケイ素の添加量が同じである実施例試料1,2と比較例試料2とを比較すると、カーボンナノチューブの少量,大量添加にかかわらず、実施例試料1,2の耐摩耗性が向上していることが分かる。また、炭化ケイ素の添加量が同じである実施例試料4と比較例試料3とを比較しても、実施例試料4の耐摩耗性が向上していることが分かる。尚、実施例試料1は比較例試料3より数値が多いが、これは、炭化ケイ素の添加量の多さに起因していると考えられる。
従って、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブの相乗作用によって耐摩耗性が向上するといえる。
そして、上記と同様に、これら実施例5〜7を用いて上記と同様にめっき処理した実施例試料5,6,7を作成した。先ず、走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製SU6600)により、実施例試料7の表面状態を観察した。結果を図17に示す。炭化ケイ素微粒子の間にマルチウォール型カーボンナノチューブが共析していることが分かる。
そして、実施例試料1,比較例試料1,2,4に係る未処理のものと、400℃に熱処理したものとについて、硬度(ビッカース硬度)を測定した。試料は各々20個作成して測定し、その平均値を求めた。結果を図18に示す。実施例試料1の硬度に関して、未処理のものは比較例試料1,2,4と比べ同等の硬度が得られ、硬度は従来のめっきと同程度であることが分かった。また、400℃に熱処理したものについては、やや硬度が高くなり有意であることが分かった。
結果を図19に示す。何れの実施例試料も各比較例試料に比較して耐摩耗性が向上していることが分かる。熱処理によっても、炭化ケイ素及びカーボンナノチューブの相乗作用によって耐摩耗性が向上するといえる。また、実施例試料において、カーボンナノチューブを多く添加した方が重量減少量が少なく、耐磨耗性が向上する。しかし、多量に添加しても重量減少量には変化が見られないことが分かった。
W 被めっき物
1 めっき槽
2 底壁
3 側壁
4 谷部
8 出口
10 循環部
10A 第1循環部
10B 第2循環部
11 ポンプ
14 吸引側管路
15 吐出側管路
16 給液口
17 フィルター
20 空気吹込み部
21 ブロワー
23 噴出管路
24 噴出口部
30 加温部
31 ヒータ
Claims (11)
- めっき金属の金属イオン源,還元剤及び錯化剤を含み、被めっき物の表面に無電解めっきによりめっき金属を被覆するための無電解めっき液において、
炭化ケイ素とカーボンナノチューブとを添加し、
上記炭化ケイ素として、平均粒径が0.5μm〜2.0μmのものを選択し、
上記カーボンナノチューブとして、カップスタック型のものを選択し、
該カーボンナノチューブとして、平均直径が50nm〜150nm,最大長さが10μm以下のものを選択し、
上記炭化ケイ素を、1.5g/L〜2.5g/L、上記カーボンナノチューブを、50ppm〜1000ppm添加したことを特徴とする無電解めっき液。 - pH調整剤を添加し、pHを、5.0〜6.0にしたことを特徴とする請求項1記載の無電解めっき液。
- 上記めっき金属はニッケルであり、上記金属イオン源として硫酸ニッケル六水和物を用い、上記還元剤として次亜リン酸ナトリウムを用い、上記錯化剤としてグリシンを用いたことを特徴とする請求項1または2記載の無電解めっき液。
- 硝酸鉛及び/または硝酸ビスマスからなる安定剤を添加したことを特徴とする請求項3記載の無電解めっき液。
- 上記硫酸ニッケル六水和物を、0.05mol/L〜0.2mol/L用い、上記次亜リン酸ナトリウムを、0.1mol/L〜0.4mol/L用い、上記グリシンを0.1mol/L〜0.6mol/L用い、上記安定剤を、0.1ppm〜3.0ppm添加したことを特徴とする請求項4記載の無電解めっき液。
- めっき金属の金属イオン源,還元剤及び錯化剤を含む無電解めっき液をめっき槽に入れ、該めっき槽内の無電解めっき液に被めっき物を浸漬して該被めっき物の表面にめっき金属を被覆する無電解めっき方法において、
無電解めっき液として上記請求項1乃至5何れかに記載の無電解めっき液を用いたことを特徴とする無電解めっき方法。 - 上記無電解めっき液の温度を、80℃〜90℃にしたことを特徴とする請求項6記載の無電解めっき方法。
- 上記めっき槽内の無電解めっき液を撹拌することを特徴とする請求項6または7記載の無電解めっき方法。
- 上記撹拌は、めっき槽内の無電解めっき液を循環させることにより行なうことを特徴とする請求項8記載の無電解めっき方法。
- 上記撹拌は、めっき槽内の無電解めっき液に空気を噴出させることにより行なうことを特徴とする請求項8または9記載の無電解めっき方法。
- 上記空気を、めっき槽内の被めっき物に直接当接しないように噴出させることを特徴とする請求項10記載の無電解めっき方法。
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