JP6527986B2 - 繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法 - Google Patents

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本発明は、少なくとも表面部分が繊維強化プラスチックにより形成された貯液槽に適用され、腐食した表面部分を補修する方法に関する。
従来、熱硬化性樹脂などの樹脂とガラス繊維や炭素繊維などの繊維との複合材料である繊維強化プラスチック(Fiber - Reinforced Plastics 、以下、FRP)が周知である。
また、塩酸などの強酸や苛性ソーダなどの強塩基といった薬液を貯留するための貯液槽がある。こうした貯液槽は、通常、耐食性のFRPによって形成されている。
図5に示すように、耐食性のFRPは、強化層10と、強化層10の内面に固定されて接液面を構成する耐食層20と、強化層10の外面に固定された最外層30とを有している。強化層10は、外層とも称されるものであり、貯液槽に適正な構造強度を付与するための層である。耐食層20は、貯液槽に適正な耐食性を付与するための層であって、接液面を構成する表層21及び表層21と強化層10との間に介設される中間層22を有している。
ところで、FRPにおいては、経年により、紫外線による劣化や薬液による腐食が進行する。また、耐食性のFRPにおいても、耐食層20を有しているとはいえ、薬液による耐食層20の腐食が経年により徐々に進行する。
こうしたFRPの補修方法としては、例えば特許文献1に記載の技術がある。特許文献1に記載の補修方法では、FRP成形物の表面を研磨布により研磨することにより、0.1mm〜0.3mmの範囲内の厚さの外表面、すなわち劣化している部分を除去し、外表面が除去されたFRP成形物の表面にプライマーの層を形成する。そして、プライマーの層の上にFRP層を形成する。
特開2015−68096号公報
ところで、特許文献1に記載の補修方法を、耐食性のFRPにより形成された貯液槽に適用すると、以下の不都合が生じる。すなわち、腐食した耐食層を研磨すると、耐食層に浸透していた塩酸などの薬液に由来する浸透液が研磨面に次々と浮き出してくる。そのため、こうした浸透液によって、プライマーの層とその層の上に接着されるFRPの層との間の接着力が弱められる。その結果、FRPの層がプライマーの層との界面において剥離するという問題がある。
なお、こうした問題は、耐食性のFRPにより形成された貯液槽の補修方法に限定されるものではなく、耐食層を有していない一般のFRPにより形成された貯液槽の補修方法においても生じるものである。
本発明の目的は、接着力の向上を図ることのできる繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法を提供することにある。
上記目的を達成するための繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法は、少なくとも表面部分が繊維強化プラスチックにより形成された貯液槽に適用され、腐食または劣化した前記表面部分を補修する方法であって、前記表面部分に対して研磨を行う研磨工程と、前記表面部分に対してジクロロメタンを主成分とする溶媒を塗布することにより前記表面部分の樹脂を溶かす溶媒塗布工程と、治具を用いて前記表面部分を引っ掻くことにより、前記表面部分の繊維を浮き上がらせる引っ掻き工程と、前記表面部分を洗浄することにより前記ジクロロメタン及び溶けた樹脂を含む残留物を除去する洗浄工程と、前記表面部分に対して繊維強化プラスチックにより形成された被接着物を接着剤により接着する接着工程と、を備える。
同方法によれば、溶媒塗布工程において、研磨された表面部分に対してジクロロメタンを主成分とする溶媒を塗布することにより、腐食した表面部分の樹脂が溶かされる。このとき、研磨により表面が粗くなっている部分に対して溶媒が塗布されるため、溶媒による化学反応が進行しやすくなり、樹脂を早期に溶かすことができる。
また、引っ掻き工程において、治具を用いて表面部分を引っ掻くことにより、表面部分の繊維が浮き上がる。これにより、浮き上がった繊維に対してプライマーを含侵させることができ、高いアンカー効果が発揮されるようになる。
また、洗浄工程において、表面部分を洗浄することにより、ジクロロメタン及び溶けた樹脂を含む残留物が除去される。このため、上記残留物によって接着力が弱められることを適切に抑制できる。
したがって、接着力の向上を図ることができる。
上記繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法において、当該補修方法は、強化層と、強化層の内面に固定されて接液面を構成する耐食層とを有する耐食性の前記繊維強化プラスチックに対して適用されることが好ましい。
本発明によれば、接着力の向上を図ることができる。
FRP製貯液槽の補修方法の一実施形態について、(a)〜(d)は、補修作業の様子を順に示す写真。 (a)〜(d)は、補修作業の様子を順に示す写真。 (a)、(b)は、補修作業の様子を順に示す図、(c)は、洗浄及び乾燥後の写真、(d)は、プライマーを塗布している様子を示す図。 接着剤を塗布している様子を示す図。 耐食性のFRPの断面構造を示す断面図。
以下、図1〜図5を参照して、繊維強化プラスチック(以下、FRP)製貯液槽の補修方法の一実施形態について説明する。
本実施形態の補修対象とされる貯液槽は、例えば塩酸などの薬液を貯留するものであり、耐食性のFRP(図5参照)により形成されている。また、このFRPの耐食層20は、熱硬化性樹脂とガラス繊維とにより構成されている。
次に、図1〜図4を参照して、本実施形態の補修方法の手順について説明する。当該補修方法は、耐食性のFRPを構成する耐食層20が薬液により腐食されているものや、最外層30が紫外線により劣化しているものを対象としている。また、耐食層20のみならず、強化層10まで腐食が進行しているものや、最外層30のみならず、強化層10まで劣化が進行しているものに対しても当該補修方法は有効である。
なお、腐食や劣化の進行度合については、FRPの内面及び外面の目視検査や、厚さ検査、硬度検査などの周知の検査により判定することができる。
まず、図1(a)に示すように、貯液槽の耐食層20に対して研磨を行う(研磨工程)。研磨工程では、例えば市販のサンディングマシーン51を用いて腐食した耐食層20の表面部分を研磨することにより、表面を粗くする。
続いて、図1(b)に示すように、耐食層20の研磨面に対してジクロロメタンを主成分とする溶媒(ナトコ株式会社製、商品名:スケルトン M−201)を市販の刷毛52を用いて塗布することにより、耐食層20を構成する樹脂を溶かす(溶媒塗布工程)。このとき、腐食が強化層10まで進行している場合には、耐食層20を構成する樹脂及び強化層10を構成する樹脂を溶かす。
ここで、図1(c)に示すように、上記溶媒が塗布された部分を市販のドライヤー53を用いて加熱することにより、上記溶媒による化学反応を促進させる。
続いて、図1(d)に示すように、再度、上記溶媒を塗布する。
続いて、上記溶媒が泡立ち始めたら、図2(a)及び図2(b)に示すように、治具54を用いて耐食層20(腐食が強化層10まで進行している場合には強化層10)を引っ掻くことにより、耐食層20(強化層10)を構成する繊維を浮き上がらせる(引っ掻き工程)。治具54としては、例えば鉄ブラシや剣山のような尖った形状のものが好ましい。
続いて、図2(c)に示すように、再度、上記溶媒を塗布する。なお、本実施形態では、上記溶媒を都合3回塗布しているが、必要に応じて塗布回数を変更することができる。
続いて、図2(d)に示すように、ジクロロメタン、薬液に由来する浸透液、及び溶けた樹脂を含む残留物を市販のウエス55を用いて拭き取る。
続いて、図3(a)に示すように、耐食層20(強化層10)を水洗いにて洗浄することにより、ジクロロメタン、薬液に由来する浸透液、及び溶けた樹脂を含む残留物を除去する(洗浄工程)。このとき、たわし56などを用いて耐食層20(強化層10)を擦ることが残留物を除去する上で好ましい。
続いて、図3(b)に示すように、上記残留物が除去された耐食層20(強化層10)を、ドライヤー53を用いて加熱することにより、耐食層20(強化層10)を乾燥させる。
図3(c)に示すように、乾燥後の耐食層20(強化層10)においては、耐食層20(強化層10)を構成するガラス繊維が浮き上がっている。
続いて、図3(d)に示すように、耐食層20(強化層10)に対してプライマー41を塗布する(プライマー塗布工程)。
続いて、図4に示すように、プライマー41が塗布された耐食層20(強化層10)に対して熱硬化性樹脂からなる接着剤42を塗布する。そして、耐食層(強化層)を構成するガラスチョップストランドマット及びサーフェイシングマットからなる被接着物を積層するとともに、接着剤42の硬化後にトップコートを施工することにより補修作業が完了する(接着工程)。
次に、表1を参照して、実施例1〜3及び比較例1〜4について説明する。
(実施例1)
表1に示すように、実施例1では、塩酸により腐食した耐食層20について、腐食により緑色に変色した部分を研磨により部分的に除去するとともに、上記溶媒を塗布するジクロロメタン処理を施している。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、3.66(kN)、接着強さは、11.7(Mpa)であった。
ちなみに、劣化及び腐食していない状態の耐食層20は通常、半透明である。こうした耐食層20においては、塩酸腐食が進行すると、表面が緑に変色する。そして、最終的には黒褐色に変色する。
(比較例1)
表1に示すように、比較例1では、塩酸により腐食した耐食層20について、腐食により緑色に変色した部分を研磨により部分的に除去する一方、ジクロロメタン処理は施していない。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、1.04(kN)、接着強さは、3.3(Mpa)であった。
(実施例2)
表1に示すように、実施例2では、塩酸により腐食した耐食層20について、腐食により緑色に変色した部分全部を研磨により除去するとともに、上記溶媒を塗布するジクロロメタン処理を施している。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、4.06(kN)、接着強さは、13.0(Mpa)であった。
(比較例2)
表1に示すように、比較例2では、塩酸により腐食した耐食層20について、腐食により緑色に変色した部分全部を研磨により除去する一方、ジクロロメタン処理は施していない。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、1.54(kN)、接着強さは、4.9(Mpa)であった。
(実施例3)
表1に示すように、実施例3では、紫外線により劣化した最外層30及び強化層10について、劣化によりアメ色に変色した部分を研磨により部分的に除去するとともに、上記溶媒を塗布するジクロロメタン処理を施している。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、3.33(kN)、接着強さは、10.7(Mpa)であった。
(比較例3)
表1に示すように、比較例3では、紫外線により劣化した最外層30及び強化層10について、劣化によりアメ色に変色した部分を研磨により部分的に除去する一方、ジクロロメタン処理は施していない。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、1.52(kN)、接着強さは、4.9(Mpa)であった。
(比較例4)
表1に示すように、比較例4では、新品の耐食層20について、上記実施例1と同程度の厚さを研磨により部分的に除去する一方、ジクロロメタン処理は施していない。この場合、補修による接着部の引張せん断の最大荷重の平均値は、5.03(kN)、接着強さは、16.1(Mpa)であった。
実施例1と比較例1との比較結果から、ジクロロメタン処理を施した場合には、同処理を施さない場合に比べて、接着強さが約3.6倍となった。
実施例2と比較例2との比較結果から、ジクロロメタン処理を施した場合には、同処理を施さない場合に比べて、接着強さが約2.7倍となった。
実施例3と比較例3との比較結果から、ジクロロメタン処理を施した場合には、同処理を施さない場合に比べて、接着強さが約2.2倍となった。
また、実施例1〜3と比較例4との比較結果から、ジクロロメタン処理を施した場合には、新品の場合の0.66倍〜0.81倍の接着強さとなった。
一方、比較例1〜3と比較例4との比較結果から、ジクロロメタン処理を施さない場合には、新品の場合の0.20倍〜0.30倍の接着強さとなった。
次に、本実施形態の作用について説明する。
溶媒塗布工程において、研磨された表面部分(耐食層20)に対してジクロロメタンを主成分とする溶媒を塗布することにより、腐食した表面部分の樹脂が溶かされる。このとき、研磨により表面が粗くなっている部分に対して溶媒が塗布されるため、溶媒による化学反応が進行しやすくなり、樹脂を早期に溶かすことができる。
また、引っ掻き工程において、治具54を用いて上記表面部分を引っ掻くことにより、上記表面部分の繊維が浮き上がる。これにより、浮き上がったガラス繊維に対してプライマー41を含侵させることができ、高いアンカー効果が発揮されるようになる。
また、洗浄工程において、上記表面部分を水洗いにて洗浄することにより、ジクロロメタン、薬液、及び溶けた樹脂を含む残留物が除去される。このため、上記薬液を含む残留物によって接着力が弱められることを適切に抑制できる。
以上説明した本実施形態に係る繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法によれば、以下に示す作用効果が得られるようになる。
(1)繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法は、FRPの腐食または劣化した表面部分を補修する方法であり、上記表面部分に対して研磨を行う研磨工程と、上記表面部分に対してジクロロメタンを主成分とする溶媒を塗布することにより上記表面部分の樹脂を溶かす溶媒塗布工程とを備える。また、当該補修方法は、治具54を用いて上記表面部分を引っ掻くことにより、上記表面部分の繊維を浮き上がらせる引っ掻き工程を備える。また、当該補修方法は、上記表面部分を水洗いにて洗浄することによりジクロロメタン、薬液に由来する浸透液、及び溶けた樹脂を含む残留物を除去する洗浄工程と、耐食層20に対してプライマーを塗布するプライマー塗布工程と、プライマー41が塗布された上記表面部分に対して被接着物を接着剤42により接着する接着工程とを備える。
こうした方法によれば、前述した作用を奏することから、接着力の向上を図ることができる。
(2)洗浄工程に先立ち、ジクロロメタン及び溶けた樹脂を含む残留物を、ウエスを用いて拭き取る工程を含む。
こうした方法によれば、ウエスを用いて、ジクロロメタン、薬液、及び樹脂を含む残留物が拭き取られた後に、上記表面部分が洗浄される。これにより、洗浄に要する水の使用量を低減できる。
<変形例>
なお、上記実施形態は、例えば以下のように変更することもできる。
・上記実施形態において、ウエス55を用いて残留物を拭き取る工程を省略することもできる。この場合、たわし56などを用いての水洗いのみによって残留物を除去すればよい。
・耐食層20を有していないFRPや、最外層30を有していないFRPに対して本発明を適用することもできる。
・本発明に係る補修方法は、少なくとも表面部分がFRPにより形成された貯液槽に適用されるものであればよく、例えばステンレス鋼やコンクリートなどにより形成された母材の表面がFRPにより覆われた貯液槽に対して適用することもできる。
10…強化層、20…耐食層、21…表層、22…中間層、30…最外層、41…プライマー、42…接着剤、51…サンディングマシーン、52…刷毛、53…ドライヤー、54…治具、55…ウエス、56…たわし。

Claims (2)

  1. 少なくとも表面部分が繊維強化プラスチックにより形成された貯液槽に適用され、腐食または劣化した前記表面部分を補修する方法であって、
    前記表面部分に対して研磨を行う研磨工程と、
    前記表面部分に対してジクロロメタンを主成分とする溶媒を塗布することにより前記表面部分の樹脂を溶かす溶媒塗布工程と、
    治具を用いて前記表面部分を引っ掻くことにより、前記表面部分の繊維を浮き上がらせる引っ掻き工程と、
    前記表面部分を洗浄することにより前記ジクロロメタン及び溶けた樹脂を含む残留物を除去する洗浄工程と、
    前記表面部分に対して被接着物を接着剤により接着する接着工程と、を備える、
    繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法。
  2. 当該補修方法は、強化層と、強化層の内面に固定されて接液面を構成する耐食層とを有する耐食性の前記繊維強化プラスチックに対して適用される、
    請求項1に記載の繊維強化プラスチック製貯液槽の補修方法。
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