以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムについて説明する。先ず、図1を参照して、車両制御システムの構成について説明する。図1は、車両制御システムの構成図である。
図1に示すように、車両制御システム100は、車両1(図2参照)に搭載されており、車両制御装置(ECU)10と、複数のセンサと、複数の制御システムとを備えている。複数のセンサには、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23,測位システム24,ナビゲーションシステム25が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
ECU10は、CPU,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、複数のセンサから受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。このため、ECU10は、機能的に、データ取得部と、対象物検知部と、位置及び相対速度算出部と、速度分布領域設定部と、経路算出部と、走行制御実行部とを備えている。
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両、歩行者、構造物)を特定する。なお、ECU10は、画像データから対象物の進行方向又は前後方向を特定することができる。
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車、駐車車両、歩行者、障害物、道路構造物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離),車両1に対する対象物の相対速度,対象物の存在範囲又は大きさ(幅)を測定する。なお、本実施形態において、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダ,超音波センサ,車載カメラ等を用いて対象物との距離及び相対速度,対象物の存在範囲又は大きさを測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、対象物の位置,速度及び存在範囲のための測定装置を構成してもよい。
車速センサ23は、車両1の絶対速度を算出する。
測位システム24は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を算出する。
ナビゲーションシステム25は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
次に、図2〜図5を参照して、本実施形態による車両制御システム100において実行される目標走行経路計算処理について説明する。図2は障害物回避制御の説明図、図3は障害物回避制御における障害物と車両との間のすれ違い速度の許容上限値とクリアランスとの関係を示す説明図、図4は走行経路補正処理の説明図、図5は車両モデルの説明図である。
図2では、車両1は走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている。
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者、構造物等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1のドライバは、進行方向に対して直交する横方向において、車両1と障害物との間に所定のクリアランス又は間隔(横方向距離)を保ち、且つ、車両1のドライバが安全と感じる速度に減速する。具体的には、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、クリアランスが小さいほど、障害物に対する相対速度は小さくされる。
また、一般に、後方から先行車に近づいているとき、車両1のドライバは、進行方向に沿った車間距離(縦方向距離)に応じて速度(相対速度)を調整する。具体的には、車間距離が大きいときは、接近速度(相対速度)が大きく維持されるが、車間距離が小さくなると、接近速度は低速にされる。そして、所定の車間距離で両車両の間の相対速度はゼロとなる。これは、先行車が駐車車両であっても同様である。
このように、ドライバは、障害物と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険を回避するように車両1を運転している。
そこで、本実施形態では、図2に示すように、車両1は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(速度分布領域40)を設定するように構成されている。速度分布領域40では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。本実施形態では、自動運転支援制御において、障害物に対する車両1の相対速度が速度分布領域40内の許容上限値Vlimを超えることを防止するための障害物回避制御が実施される。
図2から分かるように、速度分布領域40は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。また、図2では、理解の容易のため、同じ許容上限値を有する点を連結した等相対速度線が示されている。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hに相当する。本例では、各等相対速度領域は、略矩形に設定されている。また、等相対速度線aと障害物との間には、進入禁止領域42が設定されている。
なお、速度分布領域40は、必ずしも障害物の全周にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(図2では、車両3の右側領域)に設定されればよい。
図3に示すように、車両1がある絶対速度で走行するときにおいて、障害物の横方向に設定される許容上限値Vlimは、クリアランスXがD0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、D0以上で2次関数的に増加する(Vlim=k(X−D0)2。ただし、X≧D0)。即ち、安全確保のため、クリアランスXがD0以下では車両1は相対速度がゼロとなる。一方、クリアランスXがD0以上では、クリアランスが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度ですれ違うことが可能となる。
図3の例では、障害物の横方向における許容上限値は、Vlim=f(X)=k(X−D0)2で定義されている。なお、kは、Xに対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数(定数)である。また、D0も定数である。しかしながら、k,D0を障害物の種別等に依存して設定するように構成してもよい。
なお、本実施形態では、VlimがXの2次関数となるように定義されているが、これに限らず、他の関数(例えば、一次関数等)で定義されてもよい。また、図3を参照して、障害物の横方向の許容上限値Vlimについて説明したが、障害物の縦方向を含むすべての径方向について同様に設定することができる。その際、係数k、安全距離D0は、障害物からの方向に応じて設定することができる。
なお、速度分布領域40は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数k及び安全距離D0を選択することができる。また、障害物の種別を考慮してもよい。
また、本実施形態において、障害物は、車両,歩行者,自転車,崖,溝,穴,落下物等を含む。更に、車両は、自動車,トラック,自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人,子供,集団で区別可能である。本実施形態では、特に、障害物は、車両、歩行者(自転車含む)、道路上で移動しない構造物(ガードレール,電柱,縁石,壁等)の少なくとも3つの種別に分類される。
図2に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10は、車載カメラ21からの画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種別(この場合は、車両)が特定される。
また、ECU10は、ミリ波レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度(並びに絶対速度)、障害物の大きさを算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったx方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったy方向位置(横方向距離)が含まれる。
ECU10は、検知したすべての障害物(図2の場合、車両3)について、それぞれ速度分布領域40を設定する。そして、ECU10は、車両1の速度が速度分布領域40の許容上限値Vlimを超えないように障害物回避制御を行う。このため、ECU10は、障害物回避制御に伴い、目標走行経路を補正する。目標走行経路(目標位置及び目標速度を含む)は、ECU10により、所定の繰返し時間毎(例えば、0.1〜0.3秒毎)に計算される。例えば、目標走行経路は、車両1が走行路7の幅方向の中央位置を所定速度(ユーザ設定速度、標識速度等)で走行するように設定される。
即ち、目標走行経路を車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が速度分布領域40によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(図2の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(図2の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(図2の経路Rc2)。
例えば、図2は、計算されていた目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。この場合、前方に駐車車両3が障害物として存在するが、上述のように、目標走行経路Rの計算段階においては、計算負荷の低減のため、この障害物は考慮されていない。
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、速度分布領域40の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、ECU10は、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、補正後の目標走行経路Rc1を生成する。即ち、補正後の目標走行経路Rc1では、各目標位置において目標車速が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
また、目標走行経路Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。ECU10は、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、目標走行経路Rc3を生成する。したがって、目標走行経路Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
また、目標走行経路Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。目標走行経路Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
図4に示すように、ECU10は、目標走行経路計算部(経路算出部)10aとして機能し、上述のセンサ情報等に基づいて、目標走行経路Rを計算する。そして、障害物検出時には、ECU10(目標走行経路計算部10a)は、走行経路補正処理により、補正走行経路(例えば、R1〜R3)を計算する。本実施形態では、この走行経路補正処理は、評価関数Jを用いた最適化処理である。
ECU10は、評価関数J、制約条件及び車両モデルをメモリ内に記憶している。ECU10は、走行経路補正処理において、制約条件及び車両モデルを満たす範囲で、評価関数Jが最小になる補正走行経路を算出する(最適化処理)。
評価関数Jは、複数の評価ファクタを有する。本例の評価ファクタは、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角、その他ソフト制約について、目標走行経路と補正走行経路との差を評価するための関数である。
評価ファクタには、車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタ(縦方向評価ファクタ:縦方向の速度、加速度、加速度変化量等)と、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタ(横方向評価ファクタ:横方向の速度、加速度、加速度変化量、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角等)が含まれる。
式中、Wk(Xk−Xrefk)2は評価ファクタ、Xkは補正走行経路の評価ファクタに関する物理量、Xrefkは目標走行経路(補正前)の評価ファクタに関する物理量、Wkは評価ファクタの重み値(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1〜n)。したがって、本実施形態の評価関数Jは、n個の評価ファクタの物理量について、障害物が存在しないと仮定して計算された目標走行経路(補正前)の物理量に対する補正走行経路の物理量の差の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。
制約条件は、車両1の挙動を制限する少なくとも1つの制約ファクタを含む。各制約ファクタは、いずれかの評価ファクタと直接的又は間接的に関連している。したがって、制約条件により車両1の挙動(即ち、評価ファクタの物理量)が制限されることにより、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることが可能となり、計算時間を短縮することができる。なお、制約条件は、運転支援制御に応じて異なって設定される。
本例の制約ファクタには、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、車速時間偏差、中心位置に対する横位置、車間距離時間偏差、操舵角、操舵角速度、操舵トルク、操舵トルクレート、ヨーレート、車両角度が含まれる。これら制約ファクタには、許容される数値範囲がそれぞれ設定されている(例えば、−4m/s2≦縦加速度≦3m/s2、−5m/s2≦横加速度≦5m/s2)。例えば、乗り心地に大きな影響を及ぼす縦方向及び横方向の加速度が制約条件によって制限されることにより、補正走行経路での縦G及び横Gの最大値を制限することができる。
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図5に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定されることにより、走行時の違和感が低減された補正走行経路を算出することができると共に、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることができる。
図5及び式中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
ECU10は、目標走行経路、制約条件、車両モデル、障害物情報等に基づいて、多数の補正走行経路の中から、評価関数Jが最小になる補正走行経路を算出する。即ち、走行経路補正処理において、ECU10は、最適化問題の解を出力するソルバーとして機能する。したがって、最適解として算出される補正走行経路は、障害物に対して適度な距離と相対速度を確保しつつ、補正前の目標走行経路に最も沿う(近い)ものが選択される。
次に、図6を参照して、本実施形態の車両制御システムの処理の流れについて説明する。図6は車両制御装置の処理フローである。
図2に示すように、車両1が走行路上を走行しているとき、車両1のECU10(データ取得部)は、複数のセンサから種々のデータを取得する(S10)。具体的には、ECU10は、車載カメラ21から車両1の前方を撮像した画像データを受け取り、且つ、ミリ波レーダ22から測定データを受け取る。
ECU10(対象物検知部)は、少なくとも車載カメラ21を含む外部センサから取得したデータを処理して対象物を検知する(S11)。具体的には、ECU10は、画像データの画像処理を実行して、先行車両3を対象物として検知する。このとき、対象物の種別(この場合は、車両)が特定される。また、ECU10は、地図情報から特定の障害物の存在を検知することができる。
また、ECU10(位置及び相対速度算出部)は、測定データに基づいて、車両1に対する検知された対象物(先行車両3)の位置及び相対速度並びに大きさを算出する。なお、対象物の位置は、車両1の進行方向に沿った縦方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿った横方向位置(横方向距離)が含まれる。相対速度は、測定データに含まれる相対速度をそのまま用いてもよいし、測定データから進行方向に沿った速度成分を算出してもよい。また、進行方向に直交する速度成分は、必ずしも算出しなくてもよいが、必要であれば、複数の測定データ及び/又は複数の画像データから推定してもよい。
ECU10(速度分布領域設定部)は、検知した対象物(即ち、先行車両3)について、速度分布領域40を設定する(S12)。ECU10(経路算出部)は、設定された速度分布領域40に基づいて、車両1の走行可能な経路及びこの経路上の各位置における設定車速又は目標速度を算出する(S13)。そして、車両1が算出された経路を走行するため、ECU10(走行制御実行部)は、走行制御を実行する(S14)。
なお、図6の処理フローは、所定時間(例えば、0.1秒)毎に繰り返し実行されるため、算出される経路(位置及び速度)は、時間経過と共に変化する。
次に、図7及び図8を参照して、本実施形態の速度分布領域内に設定される進入禁止領域(パーソナルゾーン)について説明する。図7は進入禁止領域の説明図、図8は種別に応じた進入禁止領域の説明図である。なお、図7及び図8における寸法は必ずしも正確ではない。
図7に示すように、速度分布領域40において、等相対速度線a(Vlim=0km/h;ゼロ境界線)の内側領域には、近接領域(相対速度ゼロ領域)44が設定されている。自動運転支援制御の実行中において、車両1は近接領域44内へ進入しないように制御される。しかしながら、対象物が急激な挙動(例えば、急制動、割り込み等)をしたときに、車両1が近接領域44内へ進入することは許容されている。車両1が近接領域44内に進入した場合、ECU10は、車両1が近接領域44から外部へ向けて離れるように走行経路を計算し、これに基づいて速度制御及び/又は操舵制御を実行する。
例えば、車両1が後方から先行車両3(走行車両)の近接領域44内へ進入した場合には、車両1は、相対速度が負になるように(即ち、先行車両3よりも車両1の車速が低速)、速度制御(例えば、制動制御)される。この制御により、車両1は近接領域44の後方に位置することになる。
また、近接領域44内には、先行車両3の外側には等相対速度線aから離間して、進入禁止領域42が設定されている。近接領域44とは異なり、進入禁止領域42内への車両1の進入は許容されない。よって、ECU10は、対象物の急激な挙動に起因して車両1が等相対速度線aを超えて近接領域44内(進入禁止領域42と等相対速度線aとの間の安全バッファ領域内)に進入した場合であっても、車両1が進入禁止領域42内に進入しないように自動運転支援制御を実行する。このため、上述の評価関数Jを用いた走行経路補正処理において、進入禁止領域は、最も厳しい制約条件(制約ファクタ)の1つに設定される。これにより、対象物が急激な挙動をした場合に、速度制御及び/又は操舵制御により、車両1が進入禁止領域内へ進入することが回避される。
本実施形態において、進入禁止領域42は、単に車両1が先行車両3に衝突することを回避するための距離として設定されているのではなく、車両1が先行車両3に近づいたときに、車両1の乗員が危険と感じることなく、安全に運転していると感じることができる距離として設定されている。
以下において、進入禁止領域42及び近接領域44について詳しく説明する。
図7に示すように、進入禁止領域42は、先行車両3の周囲(全周)に設定された領域である。即ち、進入禁止領域42は、先行車両3の前方位置,後方位置,側方位置にそれぞれ設定された、前方境界線42A(前方端),後方境界線42B(後方端),側方境界線42C(側方端)によって囲まれた矩形領域である。
なお、以下の式において、Lcは車両1の全長(縦長さ)(m)、Wcは車両1の全幅(横方向の長さ)(m)である。
前方境界線42Aは、先行車両3の前方端から所定の前方距離Daだけ離れた位置に設定されている。所定の前方距離Daは、以下の式1で求められる。
Da=Lc/2+Ma ・・・(式1)
Ma=k1Vp+k2
なお、Maは安全マージン(m)、Vpは先行車両3の走行速度(m/s)(車両1の進行方向の絶対速度)、k1は速度係数、k2は距離係数である。安全マージンMaは速度要素項(k1Vp)と距離要素項(k2)を含む。速度係数k1は定数(例えば、k1=0.5)であり、距離係数k2は対象物の種別に応じて設定される(例えば、車両の場合、k2=5(m))。
また、後方境界線42Bは、先行車両3の後方端から所定の後方距離Dbだけ離れた位置に設定されている。所定の後方距離Dbは、以下の式2で求められる。
Db=Lc/2+Mb ・・・(式2)
Mb=k3
なお、Mbは安全マージン(m)であり、k3は距離係数である。安全マージンMbは、距離要素項(k3)のみを含む。距離係数k3は、対象物の種別に応じて設定される(例えば、車両の場合、k3=2(m))。なお、Mbが速度要素項を含んでもよい。
また、側方境界線42Cは、先行車両3の側方端から所定の側方距離Dcだけ離れた位置に設定されている。所定の側方距離Dcは、以下の式3で求められる。
Dc=Wc/2+Mc ・・・(式3)
Mc=k4Vp+k5
なお、Mcは安全マージン、k4は速度係数、k5は距離係数である。安全マージンMcは速度要素項(k4Vp)と距離要素項(k5)を含む。また、速度係数k4は定数(例えば、k4=0.1)であり、距離係数k5は対象物の種別に応じて設定される(例えば、車両の場合、k5=0.5(m))。
また、図7に示すように、先行車両3の前方端及び後方端から距離(Lc/2)だけ離間した位置に示された一点鎖線と、先行車両の3の側方端から距離(Wc/2)だけ離間した位置に示された一点鎖線とにより囲まれた矩形領域が、接触領域Tとして設定される。
本実施形態において、車両1は、車両1の中心位置C(縦方向及び横方向の中点)に位置するものとして、種々の計算が行われる。したがって、車両1の中心位置Cが接触領域Tに進入しなければ、車両1と先行車両3とが接触又は衝突することはない。
本実施形態では、式1,式2から分かるように、接触領域T内に設定された距離(Lc/2)に加えて、速度変化に対応するための縦方向の安全マージンMa,Mbが設定されている。また、式3から分かるように、接触領域T内に設定された距離(Wc/2)に加えて、急な横方向移動,車両ドアの開扉等に対応するための横方向の安全マージンMcが設定されている。
なお、本実施形態では、速度係数k1,k4は定数であるが、車両1及び/又は先行車両3の車速(絶対速度)等に応じて変化するように設定されていてもよい。
また、図7に示すように、近接領域(相対速度ゼロ領域)44は、略五角形に形成されている。相対速度ゼロ領域44は、先行車両3の前方位置,後方位置,側方位置にそれぞれ設定された、前方境界線44A(前方端),後方境界線44B(後方端),側方境界線44C(側方端)によって囲まれた領域である。また、後方境界線44Bの両端部と、側方境界線44Cの後方端部とが平面視で斜めの線である後方傾斜線44Dによってつなげられている。
前方境界線44Aは、前方境界線42Aから前方に所定の前方距離Kaだけ離れた位置に設定されている。所定の前方距離Kaは、以下の式4で求められる。
Ka=k6×(Vp−Vc)+k7(但し、Ka≧0)・・・(式4)
なお、Vcは、車両1の走行速度(絶対速度)である。係数k6,k7は定数(例えば、k6=1、k7=20(m))である。また、Vc>VpかつKa<0の場合には、Ka=0に設定される。
後方境界線44Bは、後方境界線42Bから後方に所定の後方距離Kbだけ離れた位置に設定されている。所定の後方距離Kbは、以下の式5で求められる。
Kb=(THW or TTC)×Vc+k8 ・・・(式5)
なお、THWは車頭時間である。また、TTCは衝突余裕時間であり、車両1と先行車両3の車間距離を相対速度で除した値である。本実施形態では(THW or TTC)の項は、車頭時間または衝突余裕時間の大きい方が採用される。また、係数k8は定数(例えば、k8=2(m))である。
側方境界線44Cは、側方境界線42Cから側方に所定の側方距離Kcだけ離れた位置に設定されている。所定の側方距離Kcは、以下の式6で求められる。
なお、(Dc−Wc/2)は、進入禁止領域42と接触領域Tの横方向の離間距離であり、式3を考慮すると、所定の側方距離Kcは、以下の式7で求められる。
なお、係数k
9は定数(例えば、k
9=3.29)である。
後方傾斜線44Dは、側方境界線44Cと後方境界線42Bとの仮想交点と、後方境界線44Bと接触領域Tの側方境界線との仮想交点と、を結んだ線である。
本実施形態では、ECU10は、メモリに上述の係数k(k1〜k9),その他の数値Lc,Wc等を記憶しており、対象物の種別に応じた係数を用いて速度分布領域40を設定する。
なお、速度分布領域40は、上記の算出方法に限らず、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と対象物の相対速度、車両1の進行方向、対象物の移動方向及び移動速度、対象物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。対象物の種別を考慮してもよい。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数kや算出式を選択することができる。
また、本実施形態では、原則的に、速度分布領域40は対象物の種別によらず同じアルゴリズムにより計算される。しかしながら、進入禁止領域42は、図8に示すように、対象物の種別に応じて異なるように設定される。なお、図8では、対象物が静止している場合(Vp=0)を示している。
図8(A)に示すように、対象物が車両(車両3)である場合、前方安全マージンMaは5m(k2=5)、後方安全マージンMbは2m(k3=2)、側方安全マージンMcは0.5m(k5=0.5)に設定される。
また、図8(B)に示すように、対象物が歩行者(歩行者4)である場合、前方安全マージンMaは10m(k2=10)、後方安全マージンMbは4m(k3=4)、側方安全マージンMcは1m(k5=1)に設定される。本実施形態では、対象物が歩行者の場合には、より安全性を担保して、歩行者及び車両1のドライバに不安を感じさせないようにするため、歩行者のための安全マージンは、車両のための安全マージンよりも大きく設定される。
また、図8(C)に示すように、対象物が構造物(ガードレール5)である場合、前方安全マージンMaは2.5m(k2=2.5)、後方安全マージンMbは1m(k3=1)、側方安全マージンMcは0.25m(k5=0.25)に設定される。本実施形態では、構造物は移動しないため(位置の不確定性が小さい)、車両1のドライバが対象物の近くを通過しても不安を感じにくいため、構造物のための安全マージンは、車両のための安全マージンよりも小さく設定される。
以下に、本実施形態による車両制御システムの作用について記載する。
本実施形態において、車両1に搭載される車両制御装置(ECU)10は、少なくとも車両1の周囲に存在する対象物(例えば、車両3)と車両1との間に、車両1の進行方向における対象物に対する複数の相対速度の許容上限値Vlim(例えば、0,20,40,60km/h等)を規定する速度分布領域40を設定し、速度分布領域40に規定された複数の相対速度の許容上限値Vlimに基づいて車両1の速度制御及び/又は操舵制御を実行するように構成されており、速度分布領域40は、相対速度の許容上限値Vlimがゼロであるゼロ境界線(等相対速度線a)を有し、車両制御装置(ECU)10は、ゼロ境界線と対象物との間の近接領域44内に進入禁止領域42を設定し、速度分布領域40内において車両1の相対速度が相対速度の許容上限値Vlimを超える場合であっても、車両1が進入禁止領域42内へ進入することを禁止するように車両1を制御し、更に、車両制御装置(ECU)10は、近接領域44内において、進入禁止領域42の広さを対象物の種別に応じて変更する。
このように本実施形態では、対象物に対する車両1の相対速度の許容上限値Vlimがゼロとなるゼロ境界線よりも内側(対象物側)の領域に、車両1の進入が許容されない進入禁止領域42が設定される。車両1における速度制御及び/又は操舵制御では、例えば、先行車両の急制動の場合に、車両1における所定の急激な回避操作(急制動,急ハンドル)を回避するために、ゼロ境界線を越えて先行車両に接近することは許容される。しかしながら、本実施形態では、ゼロ境界線と進入禁止領域42との間に制動距離及び/又は操舵回避距離(安全バッファ)を確保することにより、車両1がゼロ境界線を越えて近接領域44内に進入したとしても、進入禁止領域42内へは進入しないように車両制御が実行される。
更に、本実施形態では、このように設定される進入禁止領域42の広さを対象物の種別(例えば、車両,歩行者,地上構造物)に応じて変更することができる。これにより、車両1のドライバ(及び対象物)が対象物の種別に応じて安全と感じる感覚に合致するように、進入禁止領域42の広さを設定することが可能となる。
また、本実施形態において、進入禁止領域42は、近接領域44内において、ゼロ境界線(等相対速度線a)から離間して設定される。これにより、本実施形態では、ゼロ境界線と近接領域44との間に安全バッファを確保することができる。
また、本実施形態において、進入禁止領域42は、対象物の種別が車両である場合(図8(A))よりも、対象物の種別が歩行者である場合(図8(B))の方が、対象物からより遠い範囲まで設定される。このように、本実施形態では、車両と比較して歩行者の方が、より大きな間隔を空けるように進入禁止領域42が設定されるので、車両1のドライバ(及び歩行者)が安全と感じる感覚に合致するように車両1を制御することができる。
また、本実施形態において、進入禁止領域42は、対象物の種別が道路構造物である場合(図8(C))よりも、対象物の種別が車両である場合(図8(A))の方が、対象物からより遠い範囲まで設定される。このように、本実施形態では、道路構造物と比較して車両の方が、より大きな間隔を空けるように進入禁止領域42が設定されるので、車両1のドライバが安全と感じる感覚に合致するように車両1を制御することができる。
また、本実施形態において、進入禁止領域42は、対象物の絶対速度Vpが大きいほど、対象物からより遠い範囲まで設定される。具体的には、相対速度が同じであっても、車両1のドライバは、例えば、先行車両の絶対速度が小さい場合(例えば、30km/h)よりも、大きい場合(例えば100km/h)の方が、より大きな車間距離を確保したいと感じる。よって、本実施形態では、進入禁止領域42の広さの設定において、対象物の絶対速度(速度要素項k1Vp,k4Vp)を考慮している。
また、本実施形態において、速度分布領域40は、対象物から離れるにしたがって、許容上限値Vlimが大きくなるように設定される。このように、本実施形態では、人間の感覚に合致するように、対象物から離れるほど、相対速度の許容上限値Vlimが大きくなるように設定される。