以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムについて説明する。先ず、図1を参照して、車両制御システムの構成について説明する。図1は、車両制御システムの構成図である。
図1に示すように、車両制御システム100は、車両1(図2参照)に搭載されており、車両制御装置(ECU)10と、複数のセンサと、複数の制御システムとを備えている。複数のセンサには、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23,測位システム24,ナビゲーションシステム25が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
ECU10は、CPU,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、複数のセンサから受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。このため、ECU10は、機能的に、データ取得部と、対象物検知部と、位置及び相対速度算出部と、速度分布領域設定部と、経路算出部と、走行制御実行部とを備えている。
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両、歩行者、構造物)を特定する。また、ECU10は、画像データに基づいて対象物の大きさ(幅、即ち、横方向長さ)を算出する。車載カメラ21は、単眼カメラであってもよいし、ステレオカメラであってもよい。ECU10は、例えば、画像データ内の対象物の輪郭の位置を特定し、画像データ内の基準物の基準長さから対象物の大きさを算出することができる。この計算において、ミリ波レーダ22による測定で得られる車両1と対象物との間の距離を用いてもよい。なお、ECU10は、画像データから対象物の進行方向又は前後方向を特定することができる。
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車、駐車車両、歩行者、障害物、道路構造物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離),車両1に対する対象物の相対速度を測定する。
なお、本実施形態において、ミリ波レーダ22により、対象物の存在範囲又は大きさ(幅、即ち、横方向長さ)を測定するように構成してもよい。更に、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダ,超音波センサ,車載カメラ等を用いて対象物との距離及び相対速度,対象物の存在範囲又は大きさを測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、対象物の位置,速度及び存在範囲のための測定装置を構成してもよい。
車速センサ23は、車両1の絶対速度を算出する。
測位システム24は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を算出する。
ナビゲーションシステム25は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
次に、図2〜図5を参照して、本実施形態による車両制御システム100において実行される目標走行経路計算処理について説明する。図2は障害物回避制御の説明図、図3は障害物回避制御における障害物と車両との間のすれ違い速度の許容上限値とクリアランスとの関係を示す説明図、図4は走行経路補正処理の説明図、図5は車両モデルの説明図である。
図2では、車両1は走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている。
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者、構造物等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1のドライバは、進行方向に対して直交する横方向において、車両1と障害物との間に所定のクリアランス又は間隔(横方向距離)を保ち、且つ、車両1のドライバが安全と感じる速度に減速する。具体的には、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、クリアランスが小さいほど、障害物に対する相対速度は小さくされる。
また、一般に、後方から先行車に近づいているとき、車両1のドライバは、進行方向に沿った車間距離(縦方向距離)に応じて速度(相対速度)を調整する。具体的には、車間距離が大きいときは、接近速度(相対速度)が大きく維持されるが、車間距離が小さくなると、接近速度は低速にされる。そして、所定の車間距離で両車両の間の相対速度はゼロとなる。これは、先行車が駐車車両であっても同様である。
このように、ドライバは、障害物と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険を回避するように車両1を運転している。
そこで、本実施形態では、図2に示すように、車両1は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(速度分布領域40)を設定するように構成されている。速度分布領域40では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。本実施形態では、自動運転支援制御において、障害物に対する車両1の相対速度が速度分布領域40内の許容上限値Vlimを超えることを防止するための障害物回避制御が実施される。
図2から分かるように、速度分布領域40は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。また、図2では、理解の容易のため、同じ許容上限値を有する点を連結した等相対速度線が示されている。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hに相当する。本例では、各等相対速度領域は、略矩形に設定されている。また、等相対速度線aと障害物との間には、進入禁止領域42が設定されている。
なお、速度分布領域40は、必ずしも障害物の全周にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(図2では、車両3の右側領域)に設定されればよい。
図3に示すように、車両1がある絶対速度で走行するときにおいて、障害物の横方向に設定される許容上限値Vlimは、クリアランスXがD0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、D0以上で2次関数的に増加する(Vlim=k(X−D0)2。ただし、X≧D0)。即ち、安全確保のため、クリアランスXがD0以下では車両1は相対速度がゼロとなる。一方、クリアランスXがD0以上では、クリアランスが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度ですれ違うことが可能となる。
図3の例では、障害物の横方向における許容上限値は、Vlim=f(X)=k(X−D0)2で定義されている。なお、kは、Xに対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数(定数)である。また、D0も定数である。しかしながら、k,D0を障害物の種別等に依存して設定するように構成してもよい。
なお、本実施形態では、VlimがXの2次関数となるように定義されているが、これに限らず、他の関数(例えば、一次関数等)で定義されてもよい。また、図3を参照して、障害物の横方向の許容上限値Vlimについて説明したが、障害物の縦方向を含むすべての径方向について同様に設定することができる。その際、係数k、安全距離D0は、障害物からの方向に応じて設定することができる。
なお、速度分布領域40は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数k及び安全距離D0を選択することができる。また、障害物の種別を考慮してもよい。
また、本実施形態において、障害物は、車両,歩行者,自転車,崖,溝,穴,落下物等を含む。更に、車両は、自動車,トラック,自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人,子供,集団で区別可能である。本実施形態では、特に、障害物は、車両、歩行者(自転車含む)、道路上で移動しない構造物(ガードレール,電柱,縁石,壁等)の少なくとも3つの種別に分類される。
図2に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10は、車載カメラ21からの画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種別(この場合は、車両)が特定される。
また、ECU10は、ミリ波レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度(並びに絶対速度)、障害物の大きさを算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったy方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったx向位置(横方向距離)が含まれる。
ECU10は、検知したすべての障害物(図2の場合、車両3)について、それぞれ速度分布領域40を設定する。そして、ECU10は、車両1の速度が速度分布領域40の許容上限値Vlimを超えないように障害物回避制御を行う。このため、ECU10は、障害物回避制御に伴い、目標走行経路を補正する。目標走行経路(目標位置及び目標速度を含む)は、ECU10により、所定の繰返し時間毎(例えば、0.1〜0.3秒毎)に計算される。例えば、目標走行経路は、車両1が走行路7の幅方向の中央位置を所定速度(ユーザ設定速度、標識速度等)で走行するように設定される。
即ち、目標走行経路を車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が速度分布領域40によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(図2の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(図2の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(図2の経路Rc2)。
例えば、図2は、計算されていた目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。この場合、前方に駐車車両3が障害物として存在するが、上述のように、目標走行経路Rの計算段階においては、計算負荷の低減のため、この障害物は考慮されていない。
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、速度分布領域40の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、ECU10は、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、補正後の目標走行経路Rc1を生成する。即ち、補正後の目標走行経路Rc1では、各目標位置において目標車速が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
また、目標走行経路Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。ECU10は、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、目標走行経路Rc3を生成する。したがって、目標走行経路Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
また、目標走行経路Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。目標走行経路Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
図4に示すように、ECU10は、目標走行経路計算部(経路算出部)10aとして機能し、上述のセンサ情報等に基づいて、目標走行経路Rを計算する。そして、障害物検出時には、ECU10(目標走行経路計算部10a)は、走行経路補正処理により、補正走行経路(例えば、R1〜R3)を計算する。本実施形態では、この走行経路補正処理は、評価関数Jを用いた最適化処理である。
ECU10は、評価関数J、制約条件及び車両モデルをメモリ内に記憶している。ECU10は、走行経路補正処理において、制約条件及び車両モデルを満たす範囲で、評価関数Jが最小になる補正走行経路を算出する(最適化処理)。
評価関数Jは、複数の評価ファクタを有する。本例の評価ファクタは、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角、その他ソフト制約について、目標走行経路と補正走行経路との差を評価するための関数である。
評価ファクタには、車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタ(縦方向評価ファクタ:縦方向の速度、加速度、加速度変化量等)と、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタ(横方向評価ファクタ:横方向の速度、加速度、加速度変化量、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角等)が含まれる。
式中、Wk(Xk−Xrefk)2は評価ファクタ、Xkは補正走行経路の評価ファクタに関する物理量、Xrefkは目標走行経路(補正前)の評価ファクタに関する物理量、Wkは評価ファクタの重み値(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1〜n)。したがって、本実施形態の評価関数Jは、n個の評価ファクタの物理量について、障害物が存在しないと仮定して計算された目標走行経路(補正前)の物理量に対する補正走行経路の物理量の差の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。
制約条件は、車両1の挙動を制限する少なくとも1つの制約ファクタを含む。各制約ファクタは、いずれかの評価ファクタと直接的又は間接的に関連している。したがって、制約条件により車両1の挙動(即ち、評価ファクタの物理量)が制限されることにより、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることが可能となり、計算時間を短縮することができる。なお、制約条件は、運転支援制御に応じて異なって設定される。
本例の制約ファクタには、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、車速時間偏差、中心位置に対する横位置、車間距離時間偏差、操舵角、操舵角速度、操舵トルク、操舵トルクレート、ヨーレート、車両角度が含まれる。これら制約ファクタには、許容される数値範囲がそれぞれ設定されている(例えば、−4m/s2≦縦加速度≦3m/s2、−5m/s2≦横加速度≦5m/s2)。例えば、乗り心地に大きな影響を及ぼす縦方向及び横方向の加速度が制約条件によって制限されることにより、補正走行経路での縦G及び横Gの最大値を制限することができる。
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図5に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定されることにより、走行時の違和感が低減された補正走行経路を算出することができると共に、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることができる。
図5及び式中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
ECU10は、目標走行経路、制約条件、車両モデル、障害物情報等に基づいて、多数の補正走行経路の中から、評価関数Jが最小になる補正走行経路を算出する。即ち、走行経路補正処理において、ECU10は、最適化問題の解を出力するソルバーとして機能する。したがって、最適解として算出される補正走行経路は、障害物に対して適度な距離と相対速度を確保しつつ、補正前の目標走行経路に最も沿う(近い)ものが選択される。
次に、図6を参照して、本実施形態の速度分布領域内に設定される進入禁止領域(パーソナルゾーン)について説明する。図6は進入禁止領域の説明図である。なお、図6における寸法は必ずしも正確ではない。
図6に示すように、速度分布領域40において、等相対速度線a(Vlim=0km/h;ゼロ境界線)の内側領域には、近接領域(相対速度ゼロ領域)44が設定されている。自動運転支援制御の実行中において、車両1は近接領域44内へ進入しないように制御される。しかしながら、対象物が急激な挙動(例えば、急制動、割り込み等)をしたときに、車両1が近接領域44内へ進入することは許容されている。車両1が近接領域44内に進入した場合、ECU10は、車両1が近接領域44から外部へ向けて離れるように走行経路を計算し、これに基づいて速度制御及び/又は操舵制御を実行する。
例えば、車両1が後方から先行車両3(走行車両)の近接領域44内へ進入した場合には、車両1は、相対速度が負になるように(即ち、先行車両3よりも車両1の車速が低速)、速度制御(例えば、制動制御)される。この制御により、車両1は近接領域44の後方に位置することになる。
また、近接領域44内には、先行車両3の外側には等相対速度線aから離間して、進入禁止領域42が設定されている。近接領域44とは異なり、進入禁止領域42内への車両1の進入は許容されない。よって、ECU10は、対象物の急激な挙動に起因して車両1が等相対速度線aを超えて近接領域44内(進入禁止領域42と等相対速度線aとの間の安全バッファ領域内)に進入した場合であっても、車両1が進入禁止領域42内に進入しないように自動運転支援制御を実行する。このため、上述の評価関数Jを用いた走行経路補正処理において、進入禁止領域は、最も厳しい制約条件(制約ファクタ)の1つに設定される。これにより、対象物が急激な挙動をした場合に、速度制御及び/又は操舵制御により、車両1が進入禁止領域内へ進入することが回避される。
本実施形態において、進入禁止領域42は、単に車両1が先行車両3に衝突することを回避するための距離として設定されているのではなく、車両1が先行車両3に近づいたときに、車両1の乗員が危険と感じることなく、安全に運転していると感じることができる距離として設定されている。
以下において、進入禁止領域42及び近接領域44について詳しく説明する。
図6に示すように、進入禁止領域42は、先行車両3の周囲(全周)に設定された領域である。即ち、進入禁止領域42は、先行車両3の前方位置,後方位置,側方位置にそれぞれ設定された、前方境界線42A(前方端),後方境界線42B(後方端),側方境界線42C(側方端)によって囲まれた矩形領域である。
なお、以下の式において、Lcは車両1の全長(縦長さ)(m)、Wcは車両1の全幅(横方向の長さ)(m)である。
前方境界線42Aは、先行車両3の前方端から所定の前方距離Daだけ離れた位置に設定されている。所定の前方距離Daは、以下の式1で求められる。
Da=Lc/2+Ma ・・・(式1)
Ma=k1Vp+k2
なお、Maは安全マージン(m)、Vpは先行車両3の走行速度(m/s)(車両1の進行方向の絶対速度)、k1は速度係数、k2は距離係数である。安全マージンMaは速度要素項(k1Vp)と距離要素項(k2)を含む。速度係数k1は定数(例えば、k1=0.5)であり、距離係数k2は対象物の種別に応じて設定される(例えば、車両の場合、k2=5(m))。
また、後方境界線42Bは、先行車両3の後方端から所定の後方距離Dbだけ離れた位置に設定されている。所定の後方距離Dbは、以下の式2で求められる。
Db=Lc/2+Mb ・・・(式2)
Mb=k3
なお、Mbは安全マージン(m)であり、k3は距離係数である。安全マージンMbは、距離要素項(k3)のみを含む。距離係数k3は、対象物の種別に応じて設定される(例えば、車両の場合、k3=2(m))。なお、Mbが速度要素項を含んでもよい。
また、側方境界線42Cは、先行車両3の側方端から所定の側方距離Dcだけ離れた位置に設定されている。所定の側方距離Dcは、以下の式3で求められる。
Dc=Wc/2+Mc ・・・(式3)
Mc=k4Vp+k5
なお、Mcは安全マージン、k4は速度係数、k5は距離係数である。安全マージンMcは速度要素項(k4Vp)と距離要素項(k5)を含む。また、速度係数k4は定数(例えば、k4=0.1)であり、距離係数k5は対象物の種別に応じて設定される(例えば、車両の場合、k5=0.5(m))。
また、図6に示すように、先行車両3の前方端及び後方端から距離(Lc/2)だけ離間した位置に示された一点鎖線と、先行車両の3の側方端から距離(Wc/2)だけ離間した位置に示された一点鎖線とにより囲まれた矩形領域が、接触領域Tとして設定される。
本実施形態において、車両1は、車両1の中心位置C(縦方向及び横方向の中点)に位置するものとして、種々の計算が行われる。したがって、車両1の中心位置Cが接触領域Tに進入しなければ、車両1と先行車両3とが接触又は衝突することはない。
本実施形態では、式1,式2から分かるように、接触領域T内に設定された距離(Lc/2)に加えて、速度変化に対応するための縦方向の安全マージンMa,Mbが設定されている。また、式3から分かるように、接触領域T内に設定された距離(Wc/2)に加えて、急な横方向移動,車両ドアの開扉等に対応するための横方向の安全マージンMcが設定されている。
なお、本実施形態では、速度係数k1,k4は定数であるが、車両1及び/又は先行車両3の車速(絶対速度)等に応じて変化するように設定されていてもよい。
また、図6に示すように、近接領域(相対速度ゼロ領域)44は、略五角形に形成されている。相対速度ゼロ領域44は、先行車両3の前方位置,後方位置,側方位置にそれぞれ設定された、前方境界線44A(前方端),後方境界線44B(後方端),側方境界線44C(側方端)によって囲まれた領域である。また、後方境界線44Bの両端部と、側方境界線44Cの後方端部とが平面視で斜めの線である後方傾斜線44Dによってつなげられている。
前方境界線44Aは、前方境界線42Aから前方に所定の前方距離Kaだけ離れた位置に設定されている。所定の前方距離Kaは、以下の式4で求められる。
Ka=k6×(Vp−Vc)+k7(但し、Ka≧0)・・・(式4)
なお、Vcは、車両1の走行速度(絶対速度)である。係数k6,k7は定数(例えば、k6=1、k7=20(m))である。また、Vc>VpかつKa<0の場合には、Ka=0に設定される。
後方境界線44Bは、後方境界線42Bから後方に所定の後方距離Kbだけ離れた位置に設定されている。所定の後方距離Kbは、以下の式5で求められる。
Kb=(THW or TTC)×Vc+k8 ・・・(式5)
なお、THWは車頭時間である。また、TTCは衝突余裕時間であり、車両1と先行車両3の車間距離を相対速度で除した値である。本実施形態では(THW or TTC)の項は、車頭時間または衝突余裕時間の大きい方が採用される。また、係数k8は定数(例えば、k8=2(m))である。
側方境界線44Cは、側方境界線42Cから側方に所定の側方距離Kcだけ離れた位置に設定されている。所定の側方距離Kcは、以下の式6で求められる。
なお、(Dc−Wc/2)は、進入禁止領域42と接触領域Tの横方向の離間距離であり、式3を考慮すると、所定の側方距離Kcは、以下の式7で求められる。
なお、係数k
9は定数(例えば、k
9=3.29)である。
後方傾斜線44Dは、側方境界線44Cと後方境界線42Bとの仮想交点と、後方境界線44Bと接触領域Tの側方境界線との仮想交点と、を結んだ線である。
本実施形態では、ECU10は、メモリに上述の係数k(k1〜k9),その他の数値Lc,Wc等を記憶しており、対象物の種別に応じた係数を用いて速度分布領域40を設定する。
なお、速度分布領域40は、上記の算出方法に限らず、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と対象物の相対速度、車両1の進行方向、対象物の移動方向及び移動速度、対象物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。対象物の種別を考慮してもよい。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数kや算出式を選択することができる。
次に、図7及び図8を参照して、本実施形態におけるセンサデータ精度(センサデータの信頼度)に応じた速度分布領域の設定について説明する。図7はセンサデータ精度が良好なときの速度分布領域の設定についての説明図、図8はセンサデータ精度が不良なときの速度分布領域の設定についての説明図である。なお、図7A,図8Aにおいて、速度分布領域は理解の容易のため簡易な形状で示されている。
本実施形態におけるセンサは、車載カメラ21である。車載カメラ21により撮像された画像データに基づいて、対象物の大きさが測定される。車載カメラ21により撮像される画像データの精度(例えば、鮮明度)は、外部環境(明るさ等)に応じて異なる。このため、画像データから特定される対象物の大きさの精度も異なり得る。
本実施形態では、センサデータ精度が良好であるとは、画像データの鮮明度(よって、信頼度)が高いことを意味する。例えば、昼間且つ晴天時のような明るく、大気が澄んだ状態において対象物が撮像されると、得られた画像データの信頼度は高くなる。一方、本実施形態において、センサデータ精度が不良であるとは、画像データの鮮明度(よって、信頼度)が低いことを意味する。例えば、降雨時,霧時,所定の明るさに満たない夕方/夜間において対象物が撮像されると、得られた画像データの信頼度は低くなる。
本実施形態において、画像データの信頼度は、画像データのコントラストにより推定される。ECU10は、取得した画像データ毎に、対象物の撮像領域と背景領域との間のコントラスト比を算出し、このコントラスト比に基づいて信頼度を決定する。コントラスト比が大きいほど、画像データの信頼度が高いと判断される。
本実施形態では、コントラスト比は、例えば、背景領域における輝度値の平均値に対する対象物の撮像領域における輝度値の平均値の比である。
また、車載カメラ21が上述のような信頼度を算出して、画像データと信頼度をECU10へ出力してもよい。
画像データの鮮明度(信頼度)が高い場合、画像データを画像処理することにより特定される対象物とその周囲の背景との境界位置(対象物の輪郭)が高い精度で得られる。一方、画像データの鮮明度(信頼度)が低い場合、対象物の輪郭があいまいとなる。このため、鮮明度が低いほど、対象物の大きさが実際よりも大きく見積もられる傾向がある。このような対象物の寸法の推定値の誤差に起因して、設定される速度分布領域も誤差を含み得る。
具体的には、対象物の大きさが実際よりも大きく推定されると、車両1は対象物を追い越す際に、より対象物から離れた横方向位置を通過することになる。車両1のドライバは、この横方向間隔が必要以上に大きいと感じ得る。本実施形態では、このような画像データの鮮明度に起因した対象物の大きさの推定値の誤差を間接的に補償して、ドライバに違和感を感じさせないようにするものである。
図7Aでは、センサデータ精度(画像データの鮮明度)が良好な状況において、車両1が走行路7を走行している。車両1の周囲には、駐車車両3,歩行者5が存在している。ECU10は、これら対象物に対して、それぞれ速度分布領域40a1,40b1を設定している。また、図7Aには、同じ速度(例えば、20km/h,40km/h,60km/h,80km/h)を維持する場合の目安となる走行経路が示されている。
図7Aでは、各対象物の横方向位置において、図7Bに示す関係(Vlim=k(X−D0)2)に基づいて、速度分布領域が設定されている。ゲイン係数kは、10に設定されている(k=10)。なお、図6を参照すると、横方向の安全距離D0は「Mc+Kc」に相当する。また、横方向距離Xから安全距離D0を差し引いた横方向許容距離(X−D0)は、等相対速度線aから車両1の側部までの距離に相当する。
したがって、センサデータ精度が良好な場合(図7)、横方向許容距離1m(X−D0=1)において相対速度の許容上限値は10km/h(Vlim=10)となり、横方向許容距離2m(X−D0=2)において相対速度の許容上限値は40km/h(Vlim=40)となる。
一方、図8Aでは、センサデータ精度(画像データの鮮明度)が不良な状況において、車両1が走行路7を走行している。ECU10は、同様に、車両1の周囲に存在する駐車車両3,歩行者5に対して、各対象物の横方向位置において、図8Bに示す関係に基づいて、それぞれ速度分布領域40a2,40b2を設定している。この場合、ゲイン係数kは、12に設定されている(k=12)。ゲイン係数kが大きな値に設定されることにより、速度分布領域は横方向に縮小される。なお、図8Bにおいて、破線はk=10に相当する。
したがって、センサデータ精度が不良な場合(図8)、横方向許容距離1m(X−D0=1)において相対速度の許容上限値は12km/h(Vlim=12)となり、横方向許容距離2m(X−D0=2)において相対速度の許容上限値は48km/h(Vlim=48)となる。相対速度の許容上限値が40km/h(Vlim=40)となる横方向許容距離は約1.81m(X−D0=1.81)である。
このように、例えば、相対速度40km/hで対象物を追い越す場合、センサデータ精度が良好な状況(図7)では、横方向許容距離2mの位置を通過するように走行経路が設定される。一方、センサデータ精度が不良な状況(図8)では、画像データから対象物の大きさ(幅)が実際よりも大きく推定される傾向があるため、車両1は対象物から横方向により近い位置を走行可能なように速度分布領域が設定される。即ち、見かけ上、横方向許容距離約1.18mの位置を通過するように走行経路が設定される。しかしながら、実際は、車両1は、センサデータの精度が良好な場合と同程度の横方向距離を通過することになる。
次に、図9及び図10を参照して、本実施形態の車両制御システムの処理の流れについて説明する。図9は車両制御装置の処理フロー、図10は速度分布領域の設定条件変更の処理フローである。
図9に示すように、車両1が走行路上を走行しているとき(図2参照)、車両1のECU10(データ取得部)は、複数のセンサから種々のデータを取得する(S10)。具体的には、ECU10は、車載カメラ21から車両1の前方を撮像した画像データを受け取り、且つ、ミリ波レーダ22から測定データを受け取る。
ECU10(対象物検知部)は、少なくとも車載カメラ21を含む外部センサから取得したデータを処理して対象物を検知する(S11)。具体的には、ECU10は、画像データの画像処理を実行して、先行車両3を対象物として検知する。このとき、対象物の種別(この場合は、車両)が特定される。また、ECU10は、地図情報から特定の障害物の存在を検知することができる。
また、ECU10(位置及び相対速度算出部)は、画像データ及び測定データに基づいて、車両1に対する検知された対象物(先行車両3)の位置及び相対速度並びに大きさを算出する。なお、対象物の位置は、車両1の進行方向に沿った縦方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿った横方向位置(横方向距離)が含まれる。相対速度は、測定データに含まれる相対速度をそのまま用いてもよいし、測定データから進行方向に沿った速度成分を算出してもよい。また、進行方向に直交する速度成分は、必ずしも算出しなくてもよいが、必要であれば、複数の測定データ及び/又は複数の画像データから推定してもよい。また、ECU10は、画像データから対象物の大きさを算出する。
ECU10(速度分布領域設定部)は、検知した対象物(即ち、先行車両3)について、速度分布領域40を設定する(S12)。ECU10(経路算出部)は、設定された速度分布領域40に基づいて、車両1の走行可能な経路及びこの経路上の各位置における設定車速又は目標速度を算出する(S13)。そして、車両1が算出された経路を走行するため、ECU10(走行制御実行部)は、走行制御を実行する(S14)。
なお、図9の処理フローは、所定時間(例えば、0.1秒)毎に繰り返し実行されるため、算出される経路(位置及び速度)は、時間経過と共に変化する。
また、図10に示すように、ECU10は、速度分布領域40を設定する処理(S12)に関連して、センサデータ精度(画像データの信頼度)に基づいて、ゲイン係数kを設定する処理を実行する。この処理では、センサデータ精度又は信頼度が推定され、推定した信頼度の程度に応じて、ゲイン係数kの大きさが設定される。
この処理において、ECU10は、先ずセンサデータ(車載カメラ21により撮像された画像データ)の信頼度を計算する(S20)。具体的には、ECU10は、上述のように画像データにおける対象物の撮像領域と背景領域との間のコントラスト比を算出し、得られたコントラスト比の値を信頼度として読み込む。なお、車載カメラ21が信頼度を計算する場合は、ECU10は、車載カメラ21から受け取った信頼度を読み込む。
次に、ECU10は、算出した信頼度が所定の閾値より小さいか否かを判定する(S21)。信頼度が閾値以上である場合(S21;No)、ECU10は信頼度が良好であると判定し、ゲイン係数を「10」(k=10)に設定し(S24)、処理を終了する。
一方、信頼度が閾値より小さい場合(S21;Yes)、ECU10は信頼度が不良であると判定する。この場合、ECU10は、画像データから特定された対象物が道路構造物(例えば、ガードレール,電柱,縁石,壁等の道路上で移動しない構造物)であるか否かを判定する(S22)。
対象物が道路構造物である場合(S22;Yes)、ECU10はゲイン係数を「12」(k=12)に設定し(S23)、処理を終了する。一方、対象物が道路構造物ではない場合(S22;No)、ECU10はゲイン係数を「10」(k=10)に設定し(S24)、処理を終了する。この場合(S22;No)、対象物が歩行者や車両であるので、ゲイン係数は10(k=10)に維持される。即ち、ゲイン係数を12に設定すると、車両1の走行経路が対象物により近い位置に設定され得る。このため、本実施形態では、安全を考慮して、対象物が道路構造物である場合にのみゲイン係数を12に設定するように構成されている。
このように、本実施形態では、センサデータ精度(画像データの信頼度)が低いほど、ゲイン係数kが大きな値に設定される。これにより、本実施形態では、同じ相対速度の許容上限値で比較すると、信頼度が低下するほど対象物に対する許容上限値の横方向距離が小さく設定される。これにより、本実施形態では、信頼度低下によって生じ得る対象物の大きさの推定値の誤差(実際よりも大きく見積もられる)が間接的に補償される。このようにして、本実施形態では、センサデータ精度の良否によらず、車両1のドライバが安全及び安心と感じるように車両1が対象物とすれ違うことを実現することができる。
なお、上記実施形態では、画像データの信頼度が良好/不良で判断され、ゲイン係数が2つの設定値のいずれかに設定されるが、これに限らず、信頼度の大きさに応じてゲイン係数の大きさをより多段階又は線形的に設定してもよい。
また、上記実施形態では、画像データの信頼度として、直接的に画像のコントラスト比を用いているが、これに限らず、外部状況から間接的に画像データの信頼度を推定してもよい。即ち、対象物までの視界を妨げる天候(雨,雪,霧等)や、対象物を照らす光の量が少なくなる状況(曇り,夕方,夜間等)が発生した場合に、信頼度を低く推定することができる。これら天候や光の量に関する情報は、外部情報センタから無線通信器を介して無線信号により取得することができる。また、ワイパー作動状況をモニタして、作動時には、天候が雨,雪,霧等であると判定することができる。
次に、図11を参照して、上記実施形態の変形例について説明する。図11は、センサデータ精度が良好/不良なときの速度分布領域の設定についての説明図である。
この例では、対象物の大きさを測定するセンサとして、車載カメラ21の代わりに、ミリ波レーダ22が用いられる。この場合、ミリ波レーダ22は、送信波を車両1の周囲方向に走査するように送信し、対象物により反射される反射波(受信波)を受信する。ECU10は、ミリ波レーダ22から取得した受信波の強度の角度分布に基づいて、対象物の大きさを測定することができる。
ECU10は、センサデータ精度(受信波の信頼度)を対象物検出のタイミングの速さに基づいて判定する。具体的には、ECU10は、対象物の大きさと、対象物が検出されるタイミング(検出タイミング)の基準値(車両1と対象物との間の距離に相当)との関係をマップとしてメモリに記憶している。そして、検出した対象物の大きさに対して、検出タイミングが基準値よりも遅い場合(即ち、車両1と対象物との距離が、検出タイミングの基準値に対応する基準距離よりも小さくなったときに、対象物が検出された場合)、ECU10は、センサデータ精度が低いと判定する。例えば、電波障害が生じるような外部環境では、センサデータ精度が低下する。
受信波の信頼度が低い場合、受信波の強度が小さいことが多く、対象物の大きさは実際よりも小さく推定される傾向がある。この傾向は、画像データの信頼度の場合と逆である。よって、この例では、ECU10は、信頼度が所定の閾値よりも低いほど、ゲイン係数を小さな値に設定する。例えば、図11に示すように、センサデータ精度が高い場合には、ゲイン係数は「10」(k=10;実線)に設定されるが、センサデータ精度が低い場合には、ゲイン係数は「8」(k=8;破線)に設定される。
したがって、センサデータ精度が不良な場合(k=8)、横方向許容距離1m(X−D0=1)において相対速度の許容上限値は8km/h(Vlim=8)となり、横方向許容距離2m(X−D0=2)において相対速度の許容上限値は32km/h(Vlim=32)となる。相対速度の許容上限値が40km/h(Vlim=40)となる横方向許容距離は約2.24m(X−D0=2.24)である。
このように、例えば、相対速度40km/hで対象物を追い越す場合、センサデータ精度が良好な状況(k=10)では、横方向許容距離2mの位置を通過するように走行経路が設定される。一方、センサデータ精度が不良な状況(k=8)では、受信波に基づいて対象物の大きさ(幅)が実際よりも小さく推定される傾向があるため、車両1は対象物から横方向により遠い位置を走行するように速度分布領域が設定される。即ち、見かけ上、横方向許容距離約2.24mの位置を通過するように走行経路が設定される。しかしながら、実際は、車両1は、センサデータの精度が良好な場合と同程度の横方向距離を通過することになる。このようにして、本例においても、センサデータ精度の良否によらず、車両1のドライバが安全及び安心と感じるように車両1が対象物とすれ違うことを実現することができる。
なお、低い信頼度に応じてゲイン係数が小さな値に設定されると、同じ相対速度の許容上限値で比較すると、対象物に対する許容上限値の横方向距離が大きく設定される。即ち、上記実施形態(センサが車載カメラである)とは逆であり、車両1は対象物からより離れた横方向位置を走行することになる。このため、この例では、対象物の種別(例えば、種別が歩行者)によらず、信頼度に応じてゲイン係数を変更すればよい。
以下に、本実施形態による車両制御システムの作用について記載する。
本実施形態において、所定の対象物(例えば、車両3,歩行者5)の周囲において少なくとも車両1と対象物との間に対象物に対する複数の相対速度の許容上限値Vlim(例えば、0,20,40,60km/h等)の分布を規定する速度分布領域40(40a1,40b1,40a2,40b2)を設定し、この速度分布領域40に規定された複数の相対速度の許容上限値Vlimを超えないように車両1の速度制御及び/又は操舵制御を実行する車両制御装置(ECU)10であって、車両制御装置10は、少なくとも対象物の大きさを検出するセンサ(車載カメラ21,ミリ波レーダ22)により取得された対象物に関する検出データ(画像データ,受信波)の信頼度を判定し、この信頼度に応じて速度分布領域40における複数の相対速度の許容上限値Vlimの分布を変更するように構成されている。
対象物の大きさを検出するセンサのセンサデータ精度は、外部状況(天候,明るさ,電波状況等)に応じて変動し得る。そして、一般に、センサデータ精度が低下すると、検出された対象物の大きさ(推定値)の誤差が大きくなる。このため、本実施形態では、センサデータ精度の程度に応じて、速度分布領域40における相対速度の許容上限値Vlimの分布を変更することにより、センサデータ精度の良否に依存せずに、車両1のドライバが安心及び安全と感じるように車両1が対象物とすれ違うことを実現することができる。
また、本実施形態において、センサは、車載カメラ21であり、車両制御装置10は、速度分布領域40において、対象物からの同距離における相対速度の許容上限値Vlimを、信頼度が低いほど大きく設定する。センサが車載カメラ21である場合、センサデータ精度(信頼度)が低いときには、対象物の大きさが実際よりも大きく推定される傾向がある。この場合、車両1と対象物との横方向距離が、必要以上に大きく設定されてしまう。本実施形態では、適正な横方向距離を補償するため、信頼度が低いときに、横方向距離が必要以上に大きく設定されないように、相対速度の許容上限値Vlimを設定することができる。
また、本実施形態において、車両制御装置10は、対象物が道路構造物である場合には相対速度の許容上限値Vlimを変更するが、対象物が歩行者である場合には相対速度の許容上限値Vlimを変更しない。対象物が道路構造物である場合、信頼度の判定に誤りがあって、車両1が対象物により近い位置を通過可能なように相対速度の許容上限値Vlimが変更されても、道路構造物は不動であるため接触のおそれは極めて低い。これに対して、対象物が歩行者である場合、歩行者は不意に移動する可能性があるため、本実施形態では、安全性を重視して相対速度の許容上限値Vlimは変更されない。
また、本実施形態において、センサは、ミリ波レーダ22であり、車両制御装置10は、速度分布領域40において、対象物からの同距離における相対速度の許容上限値Vlimを、信頼度が低いほど小さく設定する。センサがミリ波レーダ22である場合、センサデータ精度(信頼度)が低いときには、対象物の大きさが実際よりも小さく推定される傾向がある。この場合、車両1と対象物との横方向距離が、必要以上に小さく設定されてしまう。本実施形態では、適正な横方向距離を補償するため、信頼度が低いときに、横方向距離が必要以上に小さく設定されないように、相対速度の許容上限値Vlimを設定することができる。