以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両制御システムについて説明する。まず、図1を参照して、車両制御システムの構成について説明する。図1は、車両制御システムの構成図である。
本実施形態の車両制御システム100は、車両1(図2等参照)に対して複数の運転支援モードにより、それぞれ異なる運転支援制御を提供するように構成されている。運転者は、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択可能である。
図1に示すように、車両制御システム100は、車両1に搭載されており、車両制御装置(ECU)10と、複数のセンサ及びスイッチと、複数の制御システムと、運転支援モードについてのユーザ入力を行うための運転者操作部35を備えている。複数のセンサ及びスイッチには、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車両の挙動を検出する複数の挙動センサ(車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25)及び複数の挙動スイッチ(操舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28),測位システム29,ナビゲーションシステム30が含まれる。また、複数の制御システムには、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33が含まれる。
運転者操作部35は、運転者が操作可能なように車両1の車室内に設けられており、複数の運転支援モードから所望の運転支援モードを選択するためのモード選択スイッチ36と、選択された運転支援モードに応じて設定車速を入力するための設定車速入力部37とを備えている。運転者がモード選択スイッチ36を操作することにより、選択された運転支援モードに応じた運転支援モード選択信号が出力される。また、運転者が設定車速入力部37を操作することにより、設定車速信号が出力される。
ECU10は、CPU,各種プログラムを記憶するメモリ,入出力装置等を備えたコンピュータにより構成される。ECU10は、運転者操作部35から受け取った運転支援モード選択信号や設定車速信号、及び、複数のセンサ及びスイッチから受け取った信号に基づき、エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33に対して、それぞれエンジンシステム,ブレーキシステム,ステアリングシステムを適宜に作動させるための要求信号を出力可能に構成されている。
車載カメラ21は、車両1の周囲を撮像し、撮像した画像データを出力する。ECU10は、画像データに基づいて対象物(例えば、車両、歩行者、道路、区画線(車線境界線、白線、黄線)、交通信号、交通標識、停止線、交差点、障害物等)を特定する。なお、ECU10は、交通インフラや車々間通信等によって、車載通信機器を介して外部から対象物の情報を取得してもよい。
ミリ波レーダ22は、対象物(特に、先行車、駐車車両、歩行者、障害物等)の位置及び速度を測定する測定装置であり、車両1の前方へ向けて電波(送信波)を送信し、対象物により送信波が反射されて生じた反射波を受信する。そして、ミリ波レーダ22は、送信波と受信波に基づいて、車両1と対象物との間の距離(例えば、車間距離)や車両1に対する対象物の相対速度を測定する。なお、本実施形態において、ミリ波レーダ22に代えて、レーザレーダや超音波センサ等を用いて対象物との距離や相対速度を測定するように構成してもよい。また、複数のセンサを用いて、位置及び速度測定装置を構成してもよい。
車速センサ23は、車両1の絶対速度を検出する。
加速度センサ24は、車両1の加速度(前後方向の縦加速度、横方向の横加速度)を検出する。なお、加速度は、増速側(正)及び減速側(負)を含む。
ヨーレートセンサ25は、車両1のヨーレートを検出する。
操舵角センサ26は、車両1のステアリングホイールの回転角度(操舵角)を検出する。
アクセルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。
ブレーキセンサ28は、ブレーキペダルの踏み込み量を検出する。
測位システム29は、GPSシステム及び/又はジャイロシステムであり、車両1の位置(現在車両位置情報)を検出する。
ナビゲーションシステム30は、内部に地図情報を格納しており、ECU10へ地図情報を提供することができる。ECU10は、地図情報及び現在車両位置情報に基づいて、車両1の周囲(特に、進行方向前方)に存在する道路、交差点、交通信号、建造物等を特定する。地図情報は、ECU10内に格納されていてもよい。
エンジン制御システム31は、車両1のエンジンを制御するコントローラである。ECU10は、車両1を加速又は減速させる必要がある場合に、エンジン制御システム31に対して、エンジン出力の変更を要求するエンジン出力変更要求信号を出力する。
ブレーキ制御システム32は、車両1のブレーキ装置を制御するためのコントローラである。ECU10は、車両1を減速させる必要がある場合に、ブレーキ制御システム32に対して、車両1への制動力の発生を要求するブレーキ要求信号を出力する。
ステアリング制御システム33は、車両1のステアリング装置を制御するコントローラである。ECU10は、車両1の進行方向を変更する必要がある場合に、ステアリング制御システム33に対して、操舵方向の変更を要求する操舵方向変更要求信号を出力する。
次に、本実施形態による車両制御システム100が備える運転支援モードについて説明する。本実施形態では、運転支援モードとして、5つのモード(先行車追従モード、レーンキープ制御モード、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)が備えられている。
<先行車追従モード>
先行車追従モードは、基本的に、車両1と先行車との間に車速に応じた所定の車間距離を維持しつつ、車両1を先行車に追従走行させるモードであり、車両制御システム100による自動的なステアリング制御,速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御),障害物回避制御(速度制御及びステアリング制御)を伴う。
先行車追従モードでは、車線両端部の検出の可否、及び、先行車の有無に応じて、異なるステアリング制御及び速度制御が行われる。ここで、車線両端部とは、車両1が走行する車線の両端部(白線等の区画線,道路端,縁石,中央分離帯,ガードレール等)であり、隣接する車線や歩道等との境界である。走行路端部検出部としてのECU10は、この車線両端部を車載カメラ21により撮像された画像データから検出する。また、ナビゲーションシステム30の地図情報から車線両端部を検出してもよい。しかしながら、例えば、車両1が整備された道路ではなく、車線が存在しない平原を走行する場合や、車載カメラ21からの画像データの読取り不良等の場合に車線両端部が検出できない場合が生じ得る。
なお、上記実施形態では、ECU10を走行路端部検出部としているが、これに限らず、走行路端部検出部としての車載カメラ21が車線両端部を検出してもよいし、走行路端部検出部としての車載カメラ21とECU10が協働して車線両端部を検出してもよい。
また、本実施形態では、先行車検出部としてのECU10は、車載カメラ21による画像データ及びミリ波レーダ22による測定データにより、先行車を検出する。具体的には、車載カメラ21による画像データにより前方を走行する他車両を走行車として検出する。更に、本実施形態では、ミリ波レーダ22による測定データにより、車両1と他車両との車間距離が所定距離(例えば、400〜500m)以下である場合に、当該他車両が先行車として検出される。
なお、上記実施形態では、ECU10を先行車検出部としているが、これに限らず、先行車検出部としての車載カメラ21が前方を走行する他車両を検出してもよく、ECU10に加えて車載カメラ21及びミリ波レーダ22が先行車両検出部の一部を構成してもよい。
(先行車追従モード:車線検出可能)
まず、車線両端部が検出される場合、車両1は、車線の中央付近を走行するようにステアリング制御され、設定車速入力部37を用いて運転者によって又は所定の処理に基づいてシステム100によって予め設定された設定車速(一定速度)を維持するように速度制御される。なお、設定車速が制限車速(速度標識やカーブの曲率に応じて規定される制限速度)よりも大きい場合は制限車速が優先され、車両1の車速は制限車速に制限される。カーブの曲率に応じて規定される制限速度は、所定の計算式により計算され、カーブの曲率が大きい(曲率半径が小さい)ほど低速度に設定される。
なお、車両1の設定車速が先行車の車速よりも大きい場合は、車両1は、車速に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従するように速度制御される。また、追従していた先行車が車線変更等により、車両1の前方に存在しなくなると、車両1は、再び設定車速を維持するように速度制御される。
(先行車追従モード:車線検出不可、先行車有り)
また、車線両端部が検出されない場合であって、且つ、先行車が存在する場合、車両1は、先行車の走行軌跡を追従するようにステアリング制御され、且つ、先行車の走行軌跡上の速度に追従するように速度制御される。
(先行車追従モード:車線検出不可、先行車無し)
また、車線両端部が検出されない場合であって、且つ、先行車も存在しない場合、走行路上での走行位置を特定できない(区画線等検出不可、先行車追従不可)。この場合、現在の走行挙動(操舵角、ヨーレート、車速、加速度等)を運転者の意思により維持又は変更するように、運転者がステアリングホイール,アクセルペダル,ブレーキペダルを操作することにより、ステアリング制御及び速度制御を実行する。
なお、先行車追従モードでは、先行車の有無、車線両端部の検出の可否にかかわらず、後述する障害物回避制御(速度制御及びステアリング制御)が更に自動的に実行される。
<レーンキープ制御モード>
レーンキープ制御モードは、車両1が車線の中央付近を走行するようにステアリング制御する自動操舵制御モードであり、車両制御システム100による自動的なステアリング制御を伴うが、速度制御は行われない。したがって、車線両端部が検出される場合に機能する。また、運転者は、アクセルペダルの踏み込み量に応じて車速を制御することができる。即ち、レーンキープ制御モードは、先行車追従モードにおいて車線検出可能な場合に、運転者自らが速度制御を実行するモードに相当する。
<自動速度制御モード>
また、自動速度制御モードは、運転者によって又はシステム100によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)を維持するように速度制御するモードであり、車両制御システム100による自動的な速度制御(エンジン制御,ブレーキ制御),障害物回避制御(速度制御)を伴うが、ステアリング制御は行われない。この自動速度制御モードでは、車両1は、設定車速を維持するように走行するが、運転者によるアクセルペダルの踏み込みにより設定車速を超えて増速され得る。また、運転者がブレーキ操作を行った場合には、運転者の意思が優先され、設定車速から減速される。また、先行車に追いついた場合には、車速に応じた車間距離を維持しながら先行車に追従するように速度制御され、先行車が存在しなくなると、再び設定車速に復帰するように速度制御される。
<速度制限モード>
また、速度制限モードは、車両1の車速が速度標識による制限速度又は運転者によって設定された設定速度を超えないように、速度制御するモードであり、車両制御システム100による自動的な速度制御(エンジン制御)を伴う。制限速度は、車載カメラ21により撮像された速度標識や路面上の速度表示の画像データをECU10が画像認識処理することにより特定してもよいし、外部からの無線通信により受信してもよい。速度制限モードでは、運転者が制限速度を超えるようにアクセルペダルを踏み込んだ場合であっても、車両1は制限速度までしか増速されない。
<基本制御モード>
また、基本制御モードは、運転者操作部35により、運転支援モードが選択されていないときのモード(オフモード)であり、車両制御システム100による自動的なステアリング制御及び速度制御は行われない。ただし、自動衝突防止制御は実行されるように構成されており、この制御において、車両1が先行車等に衝突する可能性がある場合には自動的にブレーキ制御が実行され、衝突が回避される。また、自動衝突防止制御は、先行車追従モード,レーンキープ制御モード,自動速度制御,速度制限モードにおいても同様に実行される。
また、レーンキープ制御モード、自動速度制御モード、速度制限モード、及び基本制御モードにおいても、後述する障害物回避制御(速度制御のみ、ステアリング制御のみ、又は、速度制御及びステアリング制御)が更に実行される。
次に、図2〜図4を参照して、本実施形態による車両制御システム100において計算される複数の走行経路について説明する。図2〜図4は、それぞれ第1走行経路〜第3走行経路の説明図である。本実施形態では、ECU10が、以下の第1走行経路R1〜第3走行経路R3を時間的に繰返し計算するように構成されている(例えば、0.1秒毎)。本実施形態では、ECU10は、センサ等の情報に基づいて、現時点から所定期間(例えば、3秒)が経過するまでの間の走行経路を計算する。走行経路Rx(x=1,2,3)は、走行経路上の車両1の目標位置(Px_k)及び目標速度(Vx_k)により特定される(k=0,1,2,・・・,n)。更に、各目標位置において、目標速度以外に複数の変数(加速度、加速度変化量、ヨーレート、操舵角、車両角度等)について目標値が特定される。
なお、図2〜図4における走行経路(第1走行経路〜第3走行経路)は、車両1が走行する走行路上又は走行路周辺の障害物(駐車車両、歩行者等を含む)に関する障害物情報を考慮せずに、走行路の形状,先行車の走行軌跡,車両1の走行挙動,及び設定車速に基づいて計算される。このように、本実施形態では、障害物情報が計算に考慮されないので、これら複数の走行経路の全体的な計算負荷を低く抑えることができる。
以下では、理解の容易のため、車両1が直線区間5a,カーブ区間5b,直線区間5cからなる道路5を走行する場合において計算される各走行経路について説明する。道路5は、左右の車線5L,5Rからなる。現時点において、車両1は、直線区間5aの車線5L上を走行しているものとする。
(第1走行経路)
図2に示すように、第1走行経路R1は、道路5の形状に即して車両1に走行路である車線5L内の走行を維持させるように所定期間分だけ設定される。詳しくは、第1走行経路R1は、直線区間5a,5cでは車両1が車線5Lの中央付近の走行を維持するように設定され、カーブ区間5bでは車両1が車線5Lの幅方向中央よりも内側又はイン側(カーブ区間の曲率半径Lの中心O側)を走行するように設定される。
ECU10は、車載カメラ21により撮像された車両1の周囲の画像データの画像認識処理を実行し、車線両端部6L,6Rを検出する。車線両端部は、上述のように、区画線(白線等)や路肩等である。更に、ECU10は、検出した車線両端部6L,6Rに基づいて、車線5Lの車線幅W及びカーブ区間5bの曲率半径Lを算出する。また、ナビゲーションシステム30の地図情報から車線幅W及び曲率半径Lを取得してもよい。更に、ECU10は、画像データから速度標識Sや路面上に表示された制限速度を読み取る。なお、上述のように、制限速度を外部からの無線通信により取得してもよい。
ECU10は、直線区間5a,5cでは、車線両端部6L,6Rの幅方向の中央部を車両1の幅方向中央部(例えば、重心位置)が通過するように、第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。
一方、ECU10は、カーブ区間5bでは、カーブ区間5bの長手方向の中央位置P1_cにおいて、車線5Lの幅方向中央位置からイン側への変位量Wsを最大に設定する。この変位量Wsは、曲率半径L,車線幅W,車両1の幅寸法D(ECU10のメモリに格納された規定値)に基づいて計算される。そして、ECU10は、カーブ区間5bの中央位置P1_cと直線区間5a,5cの幅方向中央位置とを滑らかにつなぐように第1走行経路R1の複数の目標位置P1_kを設定する。なお、カーブ区間5bへの進入前後においても、直線区間5a,5cのイン側に第1走行経路R1を設定してもよい。
第1走行経路R1の各目標位置P1_kにおける目標速度V1_kは、原則的に、運転者が運転者操作部35の設定車速入力部37によって又はシステム100によって予め設定された所定の設定車速(一定速度)に設定される。しかしながら、この設定車速が、速度標識S等から取得された制限速度、又は、カーブ区間5bの曲率半径Lに応じて規定される制限速度を超える場合、走行経路上の各目標位置P1_kの目標速度V1_kは、2つの制限速度のうち、より低速な制限速度に制限される。さらに、ECU10は、車両1の現在の挙動状態(即ち、車速,加速度,ヨーレート,操舵角,横加速度等)に応じて、目標位置P1_k,目標車速V1_kを適宜に補正する。例えば、現車速が設定車速から大きく異なっている場合は、車速を設定車速に近づけるように目標車速が補正される。
(第2走行経路)
また、図3に示すように、第2走行経路R2は、先行車3の走行軌跡を追従するように所定期間分だけ設定される。ECU10は、車載カメラ21による画像データ,ミリ波レーダ22による測定データ,車速センサ23による車両1の車速に基づいて、車両1の走行する車線5L上の先行車3の位置及び速度を継続的に計算して、これらを先行車軌跡情報として記憶し、この先行車軌跡情報に基づいて、先行車3の走行軌跡を第2走行経路R2(目標位置P2_k、目標速度V2_k)として設定する。
(第3走行経路)
また、図4に示すように、第3走行経路R3は、運転者による車両1の現在の運転状態に基づいて所定期間分だけ設定される。即ち、第3走行経路R3は、車両1の現在の走行挙動から推定される位置及び速度に基づいて設定される。
ECU10は、車両1の操舵角,ヨーレート,横加速度に基づいて、所定期間分の第3走行経路R3の目標位置P3_kを計算する。ただし、ECU10は、車線両端部が検出される場合、計算された第3走行経路R3が車線端部に近接又は交差しないように、目標位置P3_kを補正する。
また、ECU10は、車両1の現在の車速,加速度に基づいて、所定期間分の第3走行経路R3の目標速度V3_kを計算する。なお、目標速度V3_kが速度標識S等から取得された制限速度を超えてしまう場合は、制限速度を超えないように目標速度V3_kを補正してもよい。
次に、本実施形態による車両制御システム100における運転支援モードと走行経路との関係について説明する。本実施形態では、運転者がモード選択スイッチ36を操作して1つの運転支援モードを選択すると、ECU10が、センサ等による測定データに応じて、第1走行経路R1〜第3走行経路R3のうち、いずれか1つを選択するように構成されている。
先行車追従モードの選択時には、車線両端部が検出されていると、先行車の有無にかかわらず、第1走行経路が適用される。この場合、設定車速入力部37によって設定された設定車速が目標速度となる。
一方、先行車追従モードの選択時において、車線両端部が検出されず、先行車が検出された場合、第2走行経路が適用される。この場合、目標速度は、先行車の車速に応じて設定される。また、先行車追従モードの選択時において、車線両端部が検出されず、先行車も検出されない場合、第3走行経路が適用される。
また、レーンキープ制御モードの選択時において、車両両端部が検出されていると、第1走行経路が適用される。しかしながら、目標速度については、車両1の現在の走行挙動から推定される速度に基づいて設定される。また、レーンキープ制御モードの選択時において、車両両端部が検出されていないと、第3走行経路が適用される。
また、自動速度制御モードの選択時には、第3走行経路が適用される。自動速度制御モードは、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、設定車速入力部37によって設定された設定車速が目標速度となる。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
また、速度制限モードの選択時にも第3走行経路が適用される。速度制限モードも、上述のように速度制御を自動的に実行するモードであり、目標速度は、制限速度以下の範囲で、運転者によるアクセルペダルの踏み込み量に応じて設定される。また、運転者によるステアリングホイールの操作に基づいてステアリング制御が実行される。
また、基本制御モード(オフモード)の選択時には、第3走行経路が適用される。基本制御モードは、基本的に、速度制限モードにおいて制限速度が設定されない状態と同様である。
次に、図5〜図8を参照して、本実施形態による車両制御システム100において実行される障害物回避制御及びこれに伴う走行経路補正処理について説明する。図5は障害物回避制御の説明図、図6は障害物回避制御における障害物と車両との間のすれ違い速度の許容上限値とクリアランスとの関係を示す説明図、図7は走行経路補正処理の説明図、図8は車両モデルの説明図である。
図5では、車両1は走行路(車線)7上を走行しており、走行中又は停車中の車両3とすれ違って、車両3を追い抜こうとしている。
一般に、道路上又は道路付近の障害物(例えば、先行車、駐車車両、歩行者等)とすれ違うとき(又は追い抜くとき)、車両1の運転者は、進行方向に対して直交する横方向において、車両1と障害物との間に所定のクリアランス又は間隔(横方向距離)を保ち、且つ、車両1の運転者が安全と感じる速度に減速する。具体的には、先行車が急に進路変更したり、障害物の死角から歩行者が出てきたり、駐車車両のドアが開いたりするといった危険を回避するため、クリアランスが小さいほど、障害物に対する相対速度は小さくされる。
また、一般に、後方から先行車に近づいているとき、車両1の運転者は、進行方向に沿った車間距離(縦方向距離)に応じて速度(相対速度)を調整する。具体的には、車間距離が大きいときは、接近速度(相対速度)が大きく維持されるが、車間距離が小さくなると、接近速度は低速にされる。そして、所定の車間距離で両車両の間の相対速度はゼロとなる。これは、先行車が駐車車両であっても同様である。
このように、運転者は、障害物と車両1との間の距離(横方向距離及び縦方向距離を含む)と相対速度との関係を考慮しながら、危険を回避するように車両1を運転している。
そこで、本実施形態では、図5に示すように、車両1は、車両1から検知される障害物(例えば、駐車車両3)に対して、障害物の周囲に(横方向領域、後方領域、及び前方領域にわたって)又は少なくとも障害物と車両1との間に、車両1の進行方向における相対速度についての許容上限値を規定する2次元分布(速度分布領域40)を設定するように構成されている。速度分布領域40では、障害物の周囲の各点において、相対速度の許容上限値Vlimが設定されている。本実施形態では、すべての運転支援モードにおいて、障害物に対する車両1の相対速度が速度分布領域40内の許容上限値Vlimを超えることを防止するための障害物回避制御が実施される。
図5から分かるように、速度分布領域40は、原則的に、障害物からの横方向距離及び縦方向距離が小さくなるほど(障害物に近づくほど)、相対速度の許容上限値が小さくなるように設定される。また、図5では、理解の容易のため、同じ許容上限値を有する点を連結した等相対速度線が示されている。等相対速度線a,b,c,dは、それぞれ許容上限値Vlimが0km/h,20km/h,40km/h,60km/hに相当する。本例では、各等相対速度領域は、略矩形に設定されている。
なお、速度分布領域40は、必ずしも障害物の全周にわたって設定されなくてもよく、少なくとも障害物の後方、及び、車両1が存在する障害物の横方向の一方側(図5では、車両3の右側領域)に設定されればよい。
図6に示すように、車両1がある絶対速度で走行するときにおいて、障害物の横方向に設定される許容上限値Vlimは、クリアランスXがD0(安全距離)までは0(ゼロ)km/hであり、D0以上で2次関数的に増加する(Vlim=k(X−D0)2。ただし、X≧D0)。即ち、安全確保のため、クリアランスXがD0以下では車両1は相対速度がゼロとなる。一方、クリアランスXがD0以上では、クリアランスが大きくなるほど、車両1は大きな相対速度ですれ違うことが可能となる。
図6の例では、障害物の横方向における許容上限値は、Vlim=f(X)=k(X−D0)2で定義されている。なお、kは、Xに対するVlimの変化度合いに関連するゲイン係数であり、障害物の種類等に依存して設定される。また、D0も障害物の種類等に依存して設定される。
なお、本実施形態では、VlimがXの2次関数となるように定義されているが、これに限らず、他の関数(例えば、一次関数等)で定義されてもよい。また、図6を参照して、障害物の横方向の許容上限値Vlimについて説明したが、障害物の縦方向を含むすべての径方向について同様に設定することができる。その際、係数k、安全距離D0は、障害物からの方向に応じて設定することができる。
なお、速度分布領域40は、種々のパラメータに基づいて設定することが可能である。パラメータとして、例えば、車両1と障害物の相対速度、障害物の種類、車両1の進行方向、障害物の移動方向及び移動速度、障害物の長さ、車両1の絶対速度等を考慮することができる。即ち、これらのパラメータに基づいて、係数k及び安全距離D0を選択することができる。
また、本実施形態において、障害物は、車両,歩行者,自転車,崖,溝,穴,落下物等を含む。更に、車両は、自動車,トラック,自動二輪で区別可能である。歩行者は、大人,子供,集団で区別可能である。
図5に示すように、車両1が走行路7上を走行しているとき、車両1のECU10は、車載カメラ21から画像データに基づいて障害物(車両3)を検出する。このとき、障害物の種類(この場合は、車両、歩行者)が特定される。
また、ECU10は、ミリ波レーダ22の測定データ及び車速センサ23の車速データに基づいて、車両1に対する障害物(車両3)の位置及び相対速度並びに絶対速度を算出する。なお、障害物の位置は、車両1の進行方向に沿ったx方向位置(縦方向距離)と、進行方向と直交する横方向に沿ったy方向位置(横方向距離)が含まれる。
ECU10は、検知したすべての障害物(図5の場合、車両3)について、それぞれ速度分布領域40を設定する。そして、ECU10は、車両1の速度が速度分布領域40の許容上限値Vlimを超えないように障害物回避制御を行う。このため、ECU10は、障害物回避制御に伴い、運転者の選択した運転支援モードに応じて適用された目標走行経路を補正する。
即ち、目標走行経路を車両1が走行すると、ある目標位置において目標速度が速度分布領域40によって規定された許容上限値を超えてしまう場合には、目標位置を変更することなく目標速度を低下させるか(図5の経路Rc1)、目標速度を変更することなく目標速度が許容上限値を超えないように迂回経路上に目標位置を変更するか(図5の経路Rc3)、目標位置及び目標速度の両方が変更される(図5の経路Rc2)。
例えば、図5は、計算されていた目標走行経路Rが、走行路7の幅方向の中央位置(目標位置)を60km/h(目標速度)で走行する経路であった場合を示している。この場合、前方に駐車車両3が障害物として存在するが、上述のように、目標走行経路Rの計算段階においては、計算負荷の低減のため、この障害物は考慮されていない。
目標走行経路Rを走行すると、車両1は、速度分布領域40の等相対速度線d,c,c,dを順に横切ることになる。即ち、60km/hで走行する車両1が等相対速度線d(許容上限値Vlim=60km/h)の内側の領域に進入することになる。したがって、ECU10は、目標走行経路Rの各目標位置における目標速度を許容上限値Vlim以下に制限するように目標走行経路Rを補正して、補正後の目標走行経路Rc1を生成する。即ち、補正後の目標走行経路Rc1では、各目標位置において目標車速が許容上限値Vlim以下となるように、車両3に接近するに連れて目標速度が徐々に40km/h未満に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて目標速度が元の60km/hまで徐々に増加される。
また、目標走行経路Rc3は、目標走行経路Rの目標速度(60km/h)を変更せず、このため等相対速度線d(相対速度60km/hに相当)の外側を走行するように設定された経路である。ECU10は、目標走行経路Rの目標速度を維持するため、目標位置が等相対速度線d上又はその外側に位置するように目標位置を変更するように目標走行経路Rを補正して、目標走行経路Rc3を生成する。したがって、目標走行経路Rc3の目標速度は、目標走行経路Rの目標速度であった60km/hに維持される。
また、目標走行経路Rc2は、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度の両方が変更された経路である。目標走行経路Rc2では、目標速度は、60km/hには維持されず、車両3に接近するに連れて徐々に低下し、その後、車両3から遠ざかるに連れて元の60km/hまで徐々に増加される。
目標走行経路Rc1のように、目標走行経路Rの目標位置を変更せず、目標速度のみを変更する補正は、速度制御を伴うが、ステアリング制御を伴わない運転支援モードに適用することができる(例えば、自動速度制御モード、速度制限モード、基本制御モード)。
また、目標走行経路Rc3のように、目標走行経路Rの目標速度を変更せず、目標位置のみを変更する補正は、ステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード、レーンキープ制御モード)。
また、目標走行経路Rc2のように、目標走行経路Rの目標位置及び目標速度を共に変更する補正は、速度制御及びステアリング制御を伴う運転支援モードに適用することができる(例えば、先行車追従モード)。
次に、図7に示すように、ECU10は、目標走行経路計算部10aとして機能し、上述のセンサ情報等に基づいて、目標走行経路Rを計算する。そして、障害物検出時には、ECU10(目標走行経路計算部10a)は、走行経路補正処理により、運転支援モード等に応じて、補正走行経路R1〜R3を計算する。本実施形態では、この走行経路補正処理は、評価関数Jを用いた最適化処理である。
ECU10は、評価関数J、制約条件及び車両モデルをメモリ内に記憶している。ECU10は、走行経路補正処理において、制約条件及び車両モデルを満たす範囲で、評価関数Jが最小になる補正走行経路を算出する(最適化処理)。
評価関数Jは、複数の評価ファクタを有する。本例の評価ファクタは、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角、その他ソフト制約について、目標走行経路と補正走行経路との差を評価するための関数である。
評価ファクタには、車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタ(縦方向評価ファクタ:縦方向の速度、加速度、加速度変化量等)と、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタ(横方向評価ファクタ:横方向の速度、加速度、加速度変化量、ヨーレート、車線中心に対する横位置、車両角度、操舵角等)が含まれる。
式中、Wk(Xk−Xrefk)2は評価ファクタ、Xkは補正走行経路の評価ファクタに関する物理量、Xrefkは目標走行経路(補正前)の評価ファクタに関する物理量、Wkは評価ファクタの重み値(例えば、0≦Wk≦1)である(但し、k=1〜n)。したがって、本実施形態の評価関数Jは、n個の評価ファクタの物理量について、障害物が存在しないと仮定して計算された目標走行経路(補正前)の物理量に対する補正走行経路の物理量の差の2乗の和を重み付けして、所定期間(例えば、N=3秒)の走行経路長にわたって合計した値に相当する。
制約条件は、車両1の挙動を制限する少なくとも1つの制約ファクタを含む。各制約ファクタは、いずれかの評価ファクタと直接的又は間接的に関連している。したがって、制約条件により車両1の挙動(即ち、評価ファクタの物理量)が制限されることにより、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることが可能となり、計算時間を短縮することができる。なお、制約条件は、運転支援モードに応じて異なって設定される。
本例の制約ファクタには、例えば、速度(縦方向及び横方向)、加速度(縦方向及び横方向)、加速度変化量(縦方向及び横方向)、車速時間偏差、中心位置に対する横位置、車間距離時間偏差、操舵角、操舵角速度、操舵トルク、操舵トルクレート、ヨーレート、車両角度が含まれる。これら制約ファクタには、許容される数値範囲がそれぞれ設定されている(例えば、−4m/s2≦縦加速度≦3m/s2、−5m/s2≦横加速度≦5m/s2)。例えば、乗り心地に大きな影響を及ぼす縦方向及び横方向の加速度が制約条件によって制限されることにより、補正走行経路での縦G及び横Gの最大値を制限することができる。
車両モデルは、車両1の物理的な運動を規定するものであり、以下の運動方程式で記述される。この車両モデルは、本例では図8に示す2輪モデルである。車両モデルにより車両1の物理的な運動が規定されることにより、走行時の違和感が低減された補正走行経路を算出することができると共に、評価関数Jによる最適化処理を早期に収束させることができる。
図8及び式中、mは車両1の質量、Iは車両1のヨーイング慣性モーメント、lはホイールベース、lfは車両重心点と前車軸間の距離、lrは車両重心点と後車軸間の距離、Kfは前輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Krは後輪1輪あたりのタイヤコーナリングパワー、Vは車両1の車速、δは前輪の実舵角、βは車両重心点の横すべり角、rは車両1のヨー角速度、θは車両1のヨー角、yは絶対空間に対する車両1の横変位、tは時間である。
ECU10は、目標走行経路、制約条件、車両モデル、障害物情報等に基づいて、多数の補正走行経路の中から、評価関数Jが最小になる補正走行経路を算出する。即ち、走行経路補正処理において、ECU10は、最適化問題の解を出力するソルバーとして機能する。したがって、最適解として算出される補正走行経路は、障害物に対して適度な距離と相対速度を確保しつつ、補正前の目標走行経路に最も沿う(近い)ものが選択される。
また、本実施形態では、運転支援モードに応じて、評価関数の評価ファクタが設定される。即ち、ECU10内のメモリには、各運転支援モードに対して、対応する評価ファクタの重み値Wk(k=1〜n)のセットが記憶されている。したがって、ECU10は、運転支援モード選択信号に応じて評価ファクタの重み値のセットを読み込むことにより、異なる評価関数Jを用いる。
自動速度制御モードでは、運転者は、速度制御を車両1に依存するが、ステアリング操作を自ら実行する意思がある。即ち、運転者は、ステアリング操作への自動介入を要望していない。このため、縦方向評価ファクタに対して、横方向評価ファクタの重み値が小さい値に設定されている(例えば、ゼロ)。即ち、評価関数Jに対する横方向評価ファクタの寄与率が低く設定されている。これにより、ECU10による車両制御は、速度制御に重点が置かれ、ステアリング制御は運転者に依存する。
レーンキープ制御モード(自動操舵制御モード)では、運転者は、操舵制御を車両1に依存するが、速度操作(アクセル、ブレーキ)を自ら実行する意思がある。即ち、運転者は、速度操作への自動介入を要望していない。このため、横方向評価ファクタに対して、縦方向評価ファクタの重み値が小さい値に設定されている(例えば、ゼロ)。即ち、評価関数Jに対する縦方向評価ファクタの寄与率が低く設定されている。これにより、ECU10による車両制御は、ステアリング制御に重点が置かれ、速度制御は運転者に依存する。
先行車追従モードは、自動速度・操舵制御モードであり、運転者は、速度制御及びステアリング制御を車両1に依存する意思がある。このため、先行車追従モードでは、縦方向評価ファクタ及び横方向評価ファクタの重み値が適度な値に設定されている。即ち、横方向評価ファクタの重み値は、自動速度制御モードよりも大きく設定され、且つ、車両縦方向の挙動に関する重み値は、自動操舵制御モードよりも大きく設定されている。これにより、ECU10による車両制御は、速度制御とステアリング制御の両方に重点が置かれる。
基本制御モードは、速度制御及びステアリング制御を自動的に実行しないモードであり、運転者は、速度制御及びステアリング制御を自ら実行する意思がある。基本制御モードでは、先行車や障害物との衝突に備えて(例えば、緊急時に車両1が操作をオーバーライドするために)、目標走行経路が計算される。このため、基本制御モードでは、横方向評価ファクタに対して、縦方向評価ファクタの重み値が大きい値に設定されている。即ち、評価関数Jに対する縦方向評価ファクタの寄与率が高く設定されている。これにより、ECU10による車両制御は、ステアリング制御よりも速度制御に重点が置かれる。また、評価関数Jが縦方向の加速と減速で異なる評価ファクタを有するように設定される場合は、縦方向の減速側評価ファクタの重み値を大きく設定して、縦方向の減速側評価ファクタの寄与率を高く設定することが好ましい。
次に、図9〜図11を参照して、本実施形態の車両制御システム100における運転支援制御の処理フローを説明する。図9は運転支援制御の処理フローであり、図10は走行経路計算処理の処理フロー、図11は走行経路補正処理の処理フローである。
ECU10は、図9の処理フローを所定時間(例えば、0.1秒)ごとに繰り返して実行している。まず、ECU10は、情報取得処理を実行する(S11)。情報取得処理において、ECU10は、測位システム29及びナビゲーションシステム30から、現在車両位置情報及び地図情報を取得し(S11a)、車載カメラ21,ミリ波レーダ22,車速センサ23,加速度センサ24,ヨーレートセンサ25,運転者操作部35等からセンサ情報を取得し(S11b)、操舵角センサ26,アクセルセンサ27,ブレーキセンサ28等からスイッチ情報を取得する(S11c)。
次に、ECU10は、情報取得処理(S11)において取得した各種の情報を用いて所定の情報検出処理を実行する(S12)。情報検出処理において、ECU10は、現在車両位置情報及び地図情報並びにセンサ情報から、車両1の周囲及び前方エリアにおける走行路形状に関する走行路情報(直線区間及びカーブ区間の有無,各区間長さ,カーブ区間の曲率半径,車線幅,車線両端部位置,車線数,交差点の有無,カーブ曲率で規定される制限速度等)、走行規制情報(制限速度、赤信号等)、先行車軌跡情報(先行車の位置及び速度)を検出する(S12a)。
また、ECU10は、スイッチ情報から、運転者による車両操作に関する車両操作情報(操舵角,アクセルペダル踏み込み量,ブレーキペダル踏み込み量等)を検出し(S12b)、更に、スイッチ情報及びセンサ情報から、車両1の挙動に関する走行挙動情報(車速、縦加速度、横加速度、ヨーレート等)を検出する(S12c)。
次に、ECU10は、計算により得られた情報に基づいて、走行経路計算処理を実行する(S13)。走行経路計算処理では、上述のように、第1走行経路,第2走行経路,又は第3走行経路が計算される。
更に、ECU10は、目標走行経路の補正処理を実行する(S14)。この走行経路補正処理では、ECU10は、障害物情報(例えば、図5に示した駐車車両3)に基づいて、目標走行経路を補正する。走行経路補正処理では、原則的に選択されている運転支援モードに応じて、速度制御及び/又はステアリング制御により、車両1に障害物を回避させるように、走行経路が補正される。
次に、ECU10は、選択されている運転支援モードに応じて、車両1が最終的に算出された走行経路上を走行するように、該当する制御システム(エンジン制御システム31,ブレーキ制御システム32,ステアリング制御システム33)へ要求信号を出力する(S15)。具体的には、ECU10は、走行挙動制御部として、算出された目標走行経路(補正走行経路)によって特定されるエンジン,ブレーキ,操舵の目標制御量に応じて、要求信号を生成して出力する。
次に、図10を参照して、図9の走行経路計算処理(S13)の詳細な処理フローを説明する。
まず、ECU10は、モード選択スイッチ36から受け取っている運転支援モード選択信号に基づいて、運転者が先行車追従モードを選択しているか否かを判定する(S21)。
先行車追従モードが選択されている場合(S21;Yes)、ECU10は、センサ情報等に基づいて、車線両端部位置が検出されているか否かを判定する(S22)。車線両端部位置が検出されている場合(S22;Yes)、第1走行経路を目標走行経路として計算する(S23)。なお、先行車が検出されている場合は、先行車車速が目標車速として用いられ、先行車が検出されていない場合は、設定車速が目標車速として用いられる。
第1走行経路の計算処理では、ECU10は、設定車速,車線両端部,車線幅,制限速度,車速,縦加速度,ヨーレート,操舵角,横加速度等に基づいて、所定期間分(例えば、3秒)の走行経路R1を計算する。走行経路R1の目標位置は、直線区間では車線中央付近を走行するように、カーブ区間では旋回半径が大きくなるようにカーブのイン側を走行するように設定される。また、走行経路R1の目標速度は、設定車速,交通標識による制限車速,及びカーブ曲率により規定される制限車速のうち最も低速な速度を上限速度とするように設定される。
また、車線両端部位置が検出されていない場合(S22;No)、ECU10は、センサ情報等に基づいて、先行車が検出されているか否かを判定する(S24)。
車線両端部位置は検出されていないが、先行車が検出されている場合(S24;Yes)、ECU10は、第2走行経路を目標走行経路として計算する(S25)。第2走行経路の計算処理では、ECU10は、センサ情報等から取得した先行車の先行車軌跡情報(位置及び速度)から、先行車と車両1との間に所定の車間距離を維持しつつ、車間距離を走行する時間分だけ遅れて先行車の挙動(位置及び速度)に追従するように、所定期間分の走行経路R2を計算する。
また、先行車追従モードが選択されていない場合(S21;No)、ECU10は、レーンキープ制御モードが選択されているか否かを判定する(S26)。レーンキープ制御モードが選択されている場合(S26;Yes)、ECU10は、センサ情報等に基づいて、車線両端部位置が検出されているか否かを判定する(S28)。車線両端部位置が検出されている場合(S28;Yes)、ECU10は、第1走行経路を目標走行経路として計算する(S29)。ただし、この場合の目標速度は、車両1の現在の走行挙動から推定される速度に基づいて設定される。
一方、先行車追従モード及びレーンキープ制御モードが選択されていない場合(S26;No)、先行車追従モード選択時において車線両端部位置及び先行車が共に検出されていない場合(S24;No)、及び、レーンキープ制御モード選択時において車線両端部位置が検出されていない場合(S28;No)、ECU10は、第3走行経路を目標走行経路として計算する(S27)。第3走行経路の計算処理では、ECU10は、車両操作情報,走行挙動情報等に基づいて、現在の車両1の挙動から推定される所定期間分の走行経路R3を計算する。
次に、図11を参照して、図9の走行経路補正処理(S14)の詳細な処理フローを説明する。
まず、ECU10は、情報取得処理(S11)において取得した各種の情報を用いて障害物情報(先行車や障害物の有無,位置,速度等)を取得する(S31)。
そして、ECU10は、障害物情報に基づいて、障害物が検出されていないと判定すると(S32;No)、処理を終了するが、障害物が検出されていると判定すると(S32;Yes)、障害物情報や車両1の走行挙動情報等から速度分布領域(図5参照)を設定する(S33)。
次に、ECU10は、センサ/スイッチ情報(例えば、運転支援モード選択信号)に応じて、評価関数J,制約条件,車両モデルを読み込む(S34)。そして、ECU10は、走行経路計算処理(S13)にて算出した目標走行経路,速度分布領域(S33),評価関数J,制約条件,車両モデル,センサ/スイッチ情報等に基づき、評価関数Jを用いて補正走行経路の最適化処理を実行する(S35)。この最適化処理では、最適化された補正走行経路が算出されるまで繰り返し複数の補正走行経路候補について評価関数Jの評価値が計算される。この評価値が最小となる補正走行経路が出力される。
次に、本実施形態の車両制御装置の作用について説明する。
本実施形態は、複数の運転支援モードから選択された運転支援モードに応じて、車両1の目標走行経路Rを計算する目標走行経路計算部10aを備えた車両制御装置(ECU)10である。目標走行経路計算部10aは、障害物(例えば、車両3)が検出された場合に、この障害物を回避するように目標走行経路Rを補正する走行経路補正処理(S14;S31−S35)を実行する。目標走行経路計算部10aは、走行経路補正処理において、少なくとも障害物から車両1に向けて、障害物に対する車両1の相対速度の許容上限値Vlimの分布を規定する速度分布領域40を設定し、速度分布領域40内において障害物に対する車両1の相対速度が許容上限値Vlimを超えないように、目標走行経路Rを補正して複数の補正走行経路を算出し、目標走行経路Rに対して複数の補正走行経路を、複数の評価ファクタを含む評価関数Jによって評価し、その評価に応じて1つの補正走行経路を算出する、ように構成されている。目標走行経路計算部10aは、選択された運転支援モードに応じて、評価関数Jの評価ファクタを修正するように構成されている。
このように本実施形態のECU10は、障害物と車両1との間に速度分布領域40を規定し、この速度分布領域40によって規定される相対速度の許容上限値Vlimを超えない範囲で、目標走行経路を補正して、補正走行経路を算出することができる。そして、この走行経路補正処理では、運転支援モードに応じて修正された評価関数Jを用いて走行経路候補を評価することにより、1つの補正走行経路が算出される。したがって、本実施形態では、障害物検出時における走行経路補正処理を運転支援モードに依らずに単一の評価関数に基づいて計算することができる。これにより、本実施形態では、走行経路補正処理を簡単化し、計算処理負荷を抑制することができる。
また、本実施形態では、評価関数Jの修正は、複数の評価ファクタの重み付けを変更することである。これにより、本実施形態では、評価関数Jの修正を簡単且つ効果的に実行することができる。
また、本実施形態では、運転支援モードは、車速を自動的に制御する自動速度制御モードを含み、自動速度制御モードでは、車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタよりも、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタの重み付けが小さく設定されている。これにより、本実施形態では、自動速度制御モードにおいて、ステアリング制御へのECU10の関与が小さくなり、運転者は自らの運転意思に沿って運転することができる。
また、本実施形態では、運転支援モードは、操舵を自動的に制御する自動操舵制御モード(レーンキープ制御モード)を含み、自動操舵制御モードでは、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタよりも、車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタの重み付けが小さく設定されている。これにより、本実施形態では、自動操舵制御モードにおいて、速度制御へのECU10の関与が小さくなり、運転者は自らの運転意思に沿って運転することができる。
また、本実施形態では、運転支援モードは、車速及び操舵を自動的に制御する自動速度・操舵制御モード(先行車追従モード)を含み、自動速度・操舵制御モードでは、車速を自動的に制御する自動速度制御モードと比較して、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタの重み付けが大きく設定されている。これにより、本実施形態では、自動速度・操舵制御モードにおいて、運転者の意思に沿って速度制御及びステアリング制御へのECU10の関与が許容される。具体的には、このモードでは、自動速度制御モードよりもステアリング制御への関与を大きくすることができる。
また、本実施形態では、運転支援モードは、車速及び操舵を自動的に制御しない基本制御モードを含み、基本制御モードでは、車両1の横方向の挙動に関する評価ファクタの重み付けよりも車両1の縦方向の挙動に関する評価ファクタの重み付けの方が大きく設定されている。これにより、本実施形態では、基本制御モードにおいて、速度制御へのECU10の関与が大きくなり、先行車との衝突を回避し易くなる。